(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明で使用する部や%は特に規定のない限り質量基準である。
【0012】
本発明で使用するセメントとは、特に限定されるものではなく、普通、早強、超早強、低熱、及び中庸熱のポルトランドセメントや、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、又はシリカを混合した各種混合セメント、エコセメント、白色セメント、超速硬セメント、石灰石微粉末等を混合したフィラーセメントなどが挙げられる。
【0013】
本発明で使用するポリマーとは、例えば、JIS A 6203で規定されているセメント混和用のポリマーであり、水の中にポリマーの微粒子が分散しているポリマーディスパージョンや、ゴムラテックス及び樹脂エマルションに安定剤などを加えたものを乾燥して得られる再乳化形粉末樹脂などを称するものであり、中性化、塩害、凍害等の耐久性を向上させ、モルタルの付着強度、曲げ強度、引張強度等の強度特性を改善する目的で使用する。
例えば、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、及び天然ゴム等のゴムラテックス、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリアクリル酸エステル、酢酸ビニルビニルバーサテート系共重合体、及びスチレン・アクリル酸エステル共重合体やアクリロニトリル・アクリル酸エステルに代表されるアクリル酸エステル系共重合体、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂に代表される液状ポリマー等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用できる。
【0014】
本発明のポリマーの使用量は、セメントと超速硬クリンカーと石膏からなる結合材100部に対して、固形分換算で1〜20部が好ましく、3〜10部がより好ましい。1部未満では耐久性の向上効果が小さく、20部を超えると強度発現性に影響する場合がある。
【0015】
本発明の超速硬性クリンカーは、基材としてカルシウムアルミネートを使用し、炭酸ガスと反応させて合成する。クリンカーは、通常、5〜30mm位の大きさの塊であり、粉砕して使用されるが、本発明の云うクリンカーとは、塊状、粉状などを総称するものである。
基材に用いるカルシウムアルミネートとは、カルシアを含む原料と、アルミナを含む原料とを混合して、キルンでの焼成や、電気炉での溶融等の熱処理をして得られる、CaOとAl
2O
3とを主たる成分とし、水和活性を有する物質の総称であり、CaO及び/又はAl
2O
3の一部が、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化鉄、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、アルカリ金属硫酸塩、及びアルカリ土類金属硫酸塩等と置換した化合物、あるいは、CaOとAl
2O
3とを主成分とするものに、これらが少量固溶した物質である。鉱物形態としては結晶質、非晶質いずれであってもよい。
なお、本発明の効果を阻害しない範囲でCaO、Al
2O
3、CO
2以外のその他の成分を含有しても構わない。その他の成分としては、SiO
2、Fe
2O
3、MgO、TiO
2、ZrO
2、MnO、P
2O
5、Na
2O、K
2O、Li
2O、硫黄、フッ素、塩素や水分等の強熱減量成分等が挙げられる。その他の成分の含有量は、通常、0〜10%の範囲である。
本発明の超速硬クリンカーの化学成分は、CaOが29.9〜65%、Al
2O
3が29.9〜70%、炭酸成分がCO
2換算で0.1〜5%であることが好ましい。この成分範囲にないと、貯蔵した際に充分な可使時間を確保することが難しい場合がある。。
【0016】
超速硬性クリンカーを急硬ポリマーセメントモルタル組成物に使用する場合、ブレーン比表面積で4000〜9000cm
2/gに調製することが好ましい。カルシウムアルミネートの粉末度が、ブレーン比表面積で4000cm
2/g以下では、十分な超速硬性が得られない場合や、低温での強度発現性が十分でない場合がある。また、9000cm
2/gを超えても更なる効果の増進が期待できない。
【0017】
超速硬性クリンカーの基材であるカルシウムアルミネートの炭酸ガスでの処理方法は特に限定されるものではなく、カルシウムアルミネートを炭酸ガスに接触させることで合成できるが、特に200〜800℃の高温雰囲気で炭酸ガスと接触させることが、貯蔵安定性の観点から好ましい。また、カルシウムアルミネートの炭酸化は、クリンカーを粉砕してから行うことが好ましい。
本発明で使用する炭酸化処理容器は、特に限定されるものではなく、クリンカーと炭酸ガスを接触させ反応させることが出来ればよく、電気炉でも良いし、流動層式加熱炉でも良いし、超速硬クリンカーを粉砕するミルでも良い。
【0018】
本発明の超速硬性クリンカーに含まれる炭酸成分(CO
2)は、無機炭素分析法によって測定することができる。超速硬クリンカーに塩酸をかけ、発生するCO
2を吸収液に吸収させ、滴定法によって定量することができる。具体的な装置としては、日本アンス株式会社製「クーロメーター」などを用いることができる。
【0019】
本発明で使用する石膏は、いずれの石膏も使用できる。これらの中では、強度発現性の点で、無水石膏が好ましく、II型無水石膏が好ましい。
石膏の粒度は、ブレーン比表面積で4000cm
2/g以上が好ましく、5000〜7000cm
2/gがより好ましい。4000cm
2/g未満では初期強度発現性が低下する場合がある。
石膏の使用量は、超速硬性クリンカー100部に対して25〜200部が好ましく、50〜150部がより好ましく、75〜125部が最も好ましい。これらの範囲外では強度発現性が低下する場合がある。
【0020】
超速硬性クリンカーと石膏からなる急硬成分の使用量は、セメント、超速硬性クリンカー及び石膏の合計100部中、10〜35部が好ましく、15〜25部がより好ましい。10部未満では初期強度発現性が小さい場合があり、35部を超えると大きな効果がなく、長期強度が低下する場合がある。
【0021】
本発明の凝結調整剤は、施工時の作業時間を確保することを可能とするものであり、通常は粉末状で使用する。凝結調整剤の種類としては、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、リンゴ酸等のオキシカルボン酸類とこれらの金属塩類、トリポリリン酸塩、第一リン酸ナトリウム等のリン酸塩、ショ糖、果糖等の糖類、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩、ケイフッ化マグネシウム等のケイフッ化物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上の併用も可能である。また、これらの凝結調整剤に炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩等を組み合わせたものを使用することも可能である。
凝結調整剤の使用量は、用途と施工の作業時間、凝結調整剤の組成等により幅があり、一義的には決定することは難しい。本発明では、30〜90分の作業時間にあわせて急硬ポリマーセメントモルタル組成物が硬化するように使用量を調整する。
本発明の凝結調整剤の使用量は、セメントと急硬成分からなる結合材100 部に対して0 .05〜2部が好ましく、0.1〜1部がより好ましい。0.05部未満では、凝結を遅延させることが難しく、2部を超えると強度発現性を阻害する場合がある。
【0022】
本発明で使用する収縮低減剤は、未反応の水分の逸散を防止しセメント水和物の乾燥収縮を抑制するもので、具体的には、アルコール系、低級アルコールアルキレンオキシド誘導体系、グリコール系、グリコールエーテル・アミノアルコール誘導体系、及びポリエーテル系等の界面活性作用を有する有機系化合物を使用することができる。
収縮低減剤の使用量は、セメントと急硬成分からなる結合材100部に対して、1〜8部が好ましい。1部未満では収縮低減効果が充分でない場合があり、8部を超えるとコストアップになるばかりかフレッシュ時の流動性が低下したり、凝結遅延や強度低下を生じる場合がある。
【0023】
本発明で使用する繊維類は、ひび割れ抵抗性や曲げ耐力を向上させるものである。
繊維類としては、ビニロン繊維やプロピレン繊維、ナイロン繊維等の高分子繊維類、鋼繊維、ガラス繊維、及び炭素繊維に代表される無機繊維類が挙げられ、特に限定されるものではない。
繊維類の使用量は、急硬ポリマーセメントモルタル組成物100部に対して0.05〜0.7部が好ましく、0.08〜0.5部がより好ましい。0.05部未満では曲げ耐力を向上させる効果が発揮されない場合があり、0.7部を超えるとモルタルの流動性に悪影響を与える場合がある。繊維の長さはコテ仕上げ面の美観の点で15mm以下が好ましい。
【0024】
本発明では減水剤を使用することができる。その種類は特に限定させるものでなく、セメントに対する分散作用や空気連行作用を有し、流動性改善や強度増進するものの総称であり、具体的には、ナフタレンスルホン酸系減水剤、メラミンスルホン酸系減水剤、リグニンスルホン酸系減水剤、及びポリカルボン酸系減水剤が使用でき、減水剤の使用形態は、液体、粉体のいずれも使用可能であるが、プレミックス製品として使用する際には粉体が好ましい。
減水剤の使用量は、特に限定されるものではない。減水剤の種類により減水率に差があり適正量はそれぞれ異なるが、通常、セメントと急硬成分からなる結合材100部に対して、固形分換算で0.05〜1.0部が好ましい。0.1部未満では流動性が充分でなくなる場合があり、1.0部を超えると左官施工時にダレを起こす場合がある。
【0025】
本発明では更に消泡剤を使用することができる。消泡剤とは、適度な空気連行性を調整する目的で使用することができる。消泡剤の種類としては、高級脂肪酸のアルキレンオキサイド付加物、グリコールのエチレンオキサイド付加物等のポリエーテル系消泡剤、ジメチルシリコーン等のシリコーン系消泡剤、トリブチルホスフェート等のトリアルキルホスフェート系消泡剤等がある。
消泡剤の使用量は、セメントと急硬成分からなる結合材100部に対して、0.001〜0.5部が好ましく、0.003〜0.1部がより好ましい。0.001部未満では消泡効果は少なく、0.5部を超えても消泡効果が頭打ちとなり不経済となる場合がある。
【0026】
本発明で使用する細骨材は、通常使われている川砂、海砂、砕砂、珪砂、軽量骨材などが挙げられ、それらのうち1種又は2種以上を混合して使用することが可能であり、プレミックス製品として使用する際にはそれらの乾燥砂が好ましい。
細骨材の最大粒度は、2mm以下が好ましい。それ以上では、コテ仕上げ時の作業性が損なわれたり、仕上げ面が荒々しい感じとなる場合がある。
細骨材の使用量は、セメントと急硬成分からなる結合材100部に対して、50〜250部が好ましく、250部を超えると強度不足が発生したり、作業性が損なわれたりする場合がある。
【0027】
本発明で使用する練混ぜ水量は特に限定されるものではないが、通常、水/結合材比で25〜50%が好ましく、30〜45%がより好ましい。この範囲外では、練混ぜが困難であったり、材料分離や強度低下を起こしたりする場合がある。
【0028】
さらに、添加材(剤)として、増粘剤、防錆剤、防凍剤、気泡剤、ベントナイト等の粘土鉱物、ゼオライト等のイオン交換体、シリカ質微粉末、炭酸カルシウム、水酸化カルシウムのうち1種又は2種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することが可能である。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0030】
「実験例1」
表1に示した各種の超速硬クリンカーを使用し、セメント80部、超速硬クリンカー10部及び無水石膏10部からなる結合材100部に対して、凝結調整剤0.3部、骨材200部、ポリマー7部をV型ブレンダーにて均一に混合して急硬ポリマーセメントモルタル組成物を調製した。その後、20℃の室内で、結合材100部に対して水を42部加えモルタルミキサーで練混ぜてモルタルとし、流動性、可使時間、圧縮強度の測定を行った。結果を表1に示す。
さらに、促進貯蔵試験した急硬ポリマーセメントモルタル組成物についても同様な実験を行った。
【0031】
(使用材料)
セメント:普通ポルトランドセメント、市販品
超速硬クリンカーA:CaO63.6%、Al
2O
334.4%、CO
20%、その他2.0%。1450℃焼成後粉砕してブレーン比表面積5000cm
2/gとした。
超速硬クリンカーB:超速硬クリンカーA(粉砕品)を600℃雰囲気で炭酸ガス処理したもの。CaO62.7%、Al
2O
333.8%、CO
21.5%、その他2.0%。ブレーン比表面積5000cm
2/g。
超速硬クリンカーC:CaO49.5%、Al
2O
347.5%、CO
20%、その他3.0%、1450℃焼成後粉砕してブレーン比表面積5000cm
2/gとした。
超速硬クリンカーD:超速硬クリンカーC(粉砕品)を600℃雰囲気で炭酸ガス処理したもの。CaO49.0%、Al
2O
347.2%、CO
20.8%、その他3.0%、ブレーン比表面積5000cm
2/g。
超速硬クリンカーE:CaO36.0%、Al
2O
360.1%、CO
20%、その他3.9%、1450℃焼成後粉砕してブレーン比表面積5000cm
2/gとした。
超速硬クリンカーF:超速硬クリンカーE(粉砕品)を600℃雰囲気で炭酸ガス処理したもの。CaO36.3%、Al
2O
3が60.5%、CO
20.2%、その他3.0%。ブレーン比表面積5000cm
2/g。
超速硬クリンカーG:超速硬クリンカーC(粉砕品)を200℃雰囲気で炭酸ガス処理したもの。CaO49.4%、Al
2O
347.4%、CO
20.2%、その他3.0%、ブレーン比表面積5000cm
2/g。
超速硬クリンカーH:超速硬クリンカーC(粉砕品)を400℃雰囲気で炭酸ガス処理したもの。CaO49.2%、Al
2O
347.2%、CO
20.6%、その他3.0%、ブレーン比表面積5000cm
2/g。
超速硬クリンカーI:超速硬クリンカーC(粉砕品)を800℃雰囲気で炭酸ガス処理したもの。CaO49.0%、Al
2O
347.0%、CO
21.0%、その他3.0%、ブレーン比表面積5000cm
2/g。
凝結調整剤:試薬1級のクエン酸
無水石膏:II型無水セッコウ、ブレーン比表面積5000cm
2/g
細骨材:石灰石砕砂、最大粒径1.2mm
ポリマー:アクリル−酢酸ビニル−バーサチック酸ビニル系共重合体、市販品
【0032】
(測定方法)
流動性:JIS R5201のフロー試験に準じて測定した。
可使時間:可使時間は練り上がり温度から1℃上昇した時点とした。
圧縮強度:JIS A1171に準じ4時間の圧縮強度を測定した。
促進貯蔵試験:急硬ポリマーセメントモルタル組成物25kgを3重クラフト紙の内装に20μm厚の高密度ポリエチレンシートを貼り付けた梱包材内に25kg梱包、シールして35℃、90%RH室内で1ヶ月間存置した。
【0033】
【表1】
【0034】
表1によれば、本発明の急硬ポリマーセメントモルタル組成物を使用することにより、貯蔵後もブレンド直後と同様に、良好な流動性、作業時間を確保していることが分かる。
【0035】
「実験例2」
超速硬クリンカーDを用い、表2に示す収縮低減剤の量を結合材100部に対して配合したこと以外は実験例1と同様に行い、長さ変化率と付着強度を測定した。結果を表2に示す。
【0036】
(使用材料)
収縮低減剤:ポリオキシアルキレン誘導体、市販品
【0037】
(試験方法)
長さ変化率:JIS A 1171 ポリマーセメントモルタルの試験方法に準じ材齢28日までの長さ変化率を測定した。
付着強度:横30×縦30×厚さ6cmのサンドブラストしたコンクリート板にプライマー(エチレン−酢酸ビニル系エマルジョン)を150g/m
2となるように刷毛で塗り、補修モルタルを2cm厚みとなるように塗り付け、表面のコテ仕上げを行い試験体とした。材齢28日後にコアリングにより高速カッターで下地のコンクリート部まで切断し削孔し、専用の引抜き治具を取り付け建研式付着力試験機で測定した。
【0038】
【表2】
【0039】
表2によれば、収縮低減剤を用いることにより、長さ変化率が小さくなり、収縮低減効果を奏するのが分かる。さらに、付着強度も十分で、躯体と一体化していることが分かる。
【0040】
「実験例3」
クリンカーDを用い表2に示す繊維類の量を実験No.1-7の急硬ポリマーセメントモルタル組成物100部に対して配合したこと以外は実験例1と同様に行い、モルタルの曲げタフネスと、実験例2と同様に付着強度を測定した。結果を表6に示す。
【0041】
(使用材料)
繊維類:ビニロン繊維、繊維長さ6mm、繊維径0.027mm、収束タイプ、市販品
曲げタフネス:JSCE G552に準拠した。養生方法は温度20℃、湿度60%の部屋で気中養生した。測定材齢は28日とした。
【0042】
【表3】
【0043】
表3によれば、繊維類を加えることにより、曲げタフネスが向上しているのが分かる。