特許第6180213号(P6180213)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6180213光モジュール及び光モジュールの制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6180213
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】光モジュール及び光モジュールの制御方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/015 20060101AFI20170807BHJP
   H01S 5/024 20060101ALI20170807BHJP
   H01S 5/026 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   G02F1/015 502
   H01S5/024
   H01S5/026
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-150265(P2013-150265)
(22)【出願日】2013年7月19日
(65)【公開番号】特開2014-78690(P2014-78690A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2016年4月5日
(31)【優先権主張番号】特願2012-205729(P2012-205729)
(32)【優先日】2012年9月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301005371
【氏名又は名称】日本オクラロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水関 作智子
(72)【発明者】
【氏名】西田 有佑
(72)【発明者】
【氏名】安田 元気
【審査官】 百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−202992(JP,A)
【文献】 特開2007−279406(JP,A)
【文献】 特開2010−239056(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0159141(US,A1)
【文献】 特開2008−135491(JP,A)
【文献】 特開平11−233869(JP,A)
【文献】 特開2012−168410(JP,A)
【文献】 特開2001−257386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00−1/125
G02F 1/21−7/00
H01S 5/00−5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1温度から第2温度までの温度範囲である環境温度を検出する温度センサと、
温度制御の対象となる半導体素子と、
前記温度センサで検出された温度に基づいて、予め定められている第3温度から第4温度までの温度範囲である駆動温度範囲のなかから目標温度を決定する目標温度決定手段と、
前記半導体素子の温度が前記目標温度となるよう制御する温度制御手段と、を備え、
前記第1温度は、前記第3温度より低く、
前記第2温度は、前記第4温度より高
前記第1温度は、前記第2温度より低く、
前記第3温度は、前記第4温度より低く、
前記目標温度決定手段は、検出された前記環境温度が前記第2温度である場合の前記目標温度が、検出された前記環境温度が前記第1温度である場合の前記目標温度よりも高くなるよう、前記目標温度を決定し、
前記目標温度決定手段は、環境温度xの増加に対して目標温度yが前記環境温度の温度範囲内の一部の範囲で単調減少する関数である、環境温度xと目標温度yとの関係を表す関数y=f(x)に基づいて、前記目標温度を決定し、
前記半導体素子は、EA素子である、
ことを特徴とする光モジュール。
【請求項2】
請求項に記載の光モジュールであって、
前記温度制御手段は、前記光モジュールが動作する期間にわたって、動作を停止させることなく前記半導体素子の温度を制御する、
ことを特徴とする光モジュール。
【請求項3】
第1温度から第2温度までの温度範囲である環境温度を検出する温度センサと、温度制御の対象となる半導体素子と、を含む光モジュールの制御方法であって、
前記温度センサで検出された温度に基づいて、予め定められている第3温度から第4温度までの温度範囲である駆動温度範囲のなかから目標温度を決定する目標温度決定ステップと、
前記半導体素子の温度が前記目標温度となるよう制御する温度制御ステップと、を含み、
前記第1温度は、前記第3温度より低く、
前記第2温度は、前記第4温度より高い、
前記第1温度は、前記第2温度より低く、
前記第3温度は、前記第4温度より低く、
前記目標温度決定ステップでは、検出された前記環境温度が前記第2温度である場合の前記目標温度が、検出された前記環境温度が前記第1温度である場合の前記目標温度よりも高くなるよう、前記目標温度を決定し、
前記目標温度決定ステップでは、環境温度xの増加に対して目標温度yが前記環境温度の温度範囲内の一部の範囲で単調減少する関数である、環境温度xと目標温度yとの関係を表す関数y=f(x)に基づいて、前記目標温度を決定し、
前記半導体素子は、EA素子である、
ことを特徴とする光モジュールの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光モジュール及び光モジュールの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザと、光変調器として動作するEA(Electro−Absorption)素子と、が集積されたレーザモジュールを備えた光モジュールが存在する。このような光モジュールに含まれるEA素子の一例として、EA素子の近傍の温度(環境温度)によらず駆動温度が一定となるよう制御されて使用されるクールドEA(Cooled EA)素子が存在する。クールドEA素子の駆動温度は比較的高い。そのため、環境温度が低くなった際には、熱電冷却素子(TEC:Thermo−Electric Cooler)によってクールドEA素子を加熱する必要があり、そのために多くの電力を要することとなる。
【0003】
また、光モジュールに含まれるEA素子の別の一例として、アンクールドEA(Uncooled EA)素子が存在する。アンクールドEA素子に関する技術の一例として、特許文献1には、高速で長距離伝送が可能な、アンクールドタイプの電界吸収型変調器集積分布帰還型レーザが記載されている。アンクールドEA素子の駆動温度範囲はある程度広いため、光モジュールに含まれるEA素子としてアンクールドEA素子を用いた場合は、光モジュールに含まれるEA素子としてクールドEA素子を用いた場合と比較して、低い消費電力で光モジュールを動作させることができることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−239056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光モジュールは、例えば−40℃以上85℃以下などの広い環境温度範囲での動作が要求されている。光モジュールの光源としてクールドEA素子を用いた場合は、クールドEA素子の動作温度(一定)と環境温度の温度差の最大値が非常に大きくなるため、クールドEA素子を冷却又は加熱するための消費電力が非常に大きいという問題がある。ここで光源にアンクールドEA素子を用いた場合、アンクールドEA素子はクールドEA素子と比べてより広い温度範囲で動作可能であるが、その動作可能温度範囲は例えば0℃以上70℃以下程度であり、要求されている環境温度範囲と比べると、動作可能温度範囲は狭い。そのため、アンクールドEA素子の動作可能温度範囲外においても冷却又は加熱をする必要がある。
【0006】
本発明に先だって、発明者等はアンクールドEA素子を用いた光モジュールにおいて、アンクールドEA素子の動作可能温度範囲を超えた場合のみ、冷却又は加熱するような制御を検討した。この制御方法によればアンクールドEA素子の動作可能温度範囲においてはアンクールドEA素子の温度制御を行わないために、低消費電力を得ることができる。しかし、アンクールドEA素子の動作可能温度範囲を超えた時に温度制御を開始しようとした場合に、温度制御をするTECへ流れる電流の変動量が大きくなり、光モジュールの動作が不安定になった。このように従来は低消費電力と光モジュールの安定動作の両立を実現できなかった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、環境温度が、温度制御の対象となる半導体素子の駆動温度範囲外であるか駆動温度範囲内であるかに関わらず、半導体素子の温度を所望の駆動温度範囲内となるよう制御し、かつ低消費電力で安定して動作する光モジュールを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記課題を解決するために、本発明に係る光モジュールは、第1温度から第2温度までの温度範囲である環境温度を検出する温度センサと、温度制御の対象となる半導体素子と、前記温度センサで検出された温度に基づいて、予め定められている第3温度から第4温度までの温度範囲である駆動温度範囲のなかから目標温度を決定する目標温度決定手段と、前記半導体素子の温度が前記目標温度となるよう制御する温度制御手段と、を備え、前記第1温度は、前記第3温度より低く、前記第2温度は、前記第4温度より高い、ことを特徴とする。
【0009】
(2)上記(1)に記載の光モジュールであって、前記目標温度決定手段は、検出された前記環境温度が高いほど、前記目標温度が高くなるよう、前記目標温度を決定してもよい。
【0010】
(3)上記(2)に記載の光モジュールであって、前記温度制御手段は、前記光モジュールが動作する期間にわたって、動作を停止させることなく前記半導体素子の温度を制御してもよい。
【0011】
(4)上記(1)に記載の光モジュールであって、前記目標温度決定手段は、環境温度xの増加に対して目標温度yが単調増加する関数である、環境温度xと目標温度yとの関係を表す関数y=f(x)に基づいて、前記目標温度を決定してもよい。
【0012】
(5)上記(4)に記載の光モジュールであって、関数y=f(x)が、第1温度から第2温度までの環境温度xの範囲内に変曲点が存在する、奇数次多項式関数又は三角関数であってもよい。
【0013】
(6)上記(2)に記載の光モジュールであって、前記目標温度決定手段は、環境温度xの増加に対して目標温度yが前記環境温度範囲内の少なくとも一部の範囲で単調減少する関数である、環境温度xと目標温度yとの関係を表す関数y=f(x)に基づいて、前記目標温度を決定してもよい。
【0014】
(7)上記(1)から(6)のいずれかに記載の光モジュールであって、前記半導体素子は、EA素子であってもよい。
【0015】
(8)本発明に係る光モジュールの制御方法は、第1温度から第2温度までの温度範囲である環境温度を検出する温度センサと、温度制御の対象となる半導体素子と、を含む光モジュールの制御方法であって、前記温度センサで検出された温度に基づいて、予め定められている第3温度から第4温度までの温度範囲である駆動温度範囲のなかから目標温度を決定する目標温度決定ステップと、前記半導体素子の温度が前記目標温度となるよう制御する温度制御ステップと、を含み、前記第1温度は、前記第3温度より低く、前記第2温度は、前記第4温度より高いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、環境温度が、温度制御の対象となる半導体素子の駆動温度範囲外であるか駆動温度範囲内であるかに関わらず、半導体素子の温度を所望の駆動温度範囲内となるよう制御し、かつ低消費電力で安定して動作する光モジュールが実現されることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る光送信機の構成の一例を模式的に示す図である。
図2】環境温度と目標温度又はLM温度との関係の一例を示す図である。
図3】環境温度と目標温度又はLM温度との関係の別の一例を示す図である。
図4】本実施形態に係る光送信機における消費電力の低減の効果の一例を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について図面に基づき詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係る光モジュールの一例である光送信機1の構成の一例を模式的に示す図である。図1に示すように、本実施形態に係る光送信機1は、例えば、光通信部(本実施形態では、例えば、光送信サブアセンブリ(TOSA:Transmitter Optical Sub−Assembly)10)、TEC制御IC12、マイクロコンピュータ14、などを備えている。
【0020】
TOSA10は、例えば、レーザモジュール20、サーミスタ22、及び、TEC24、を含んでいる。レーザモジュール20は、例えば、分布帰還型(DFB:Distributed Feedback)半導体レーザと、アンクールドEA素子とが集積されたデバイスである。
【0021】
本実施形態に係るマイクロコンピュータ14は、例えば、制御部30(例えば、CPU等)、記憶部32(例えば、メモリ等)、などを含んで構成されている。また、本実施形態に係るマイクロコンピュータ14は、例えば、その内部に、ATC(Automatic Temperature Control)回路34、温度センサ36、なども備えている。
【0022】
本実施形態に係るサーミスタ22は、レーザモジュール20の温度(以下、LM温度と呼ぶ。)を監視して、LM温度に応じた信号電圧をATC回路34に出力する。本実施形態に係るTEC24は、レーザモジュール20を冷却又は加熱してLM温度を変化させる。
【0023】
本実施形態に係る温度センサ36は、その近傍の温度(環境温度)を検出し、検出した温度を表す信号を制御部30に出力する。
【0024】
本実施形態に係る記憶部32には、例えば、環境温度と、レーザモジュール20の制御目標の温度である目標温度との関係を示す目標温度決定データが記憶されている。図2は、環境温度と目標温度又はLM温度との関係の一例を示す図である。図3は、環境温度と目標温度又はLM温度との関係の別の一例を示す図である。目標温度決定データは、例えば、環境温度の値と目標温度の値とを対応付けるテーブルや、環境温度の値に基づいて目標温度の値を算出する数式を表すデータなどによって実装される。
【0025】
また、本実施形態に係る記憶部32には、例えば、目標温度と出力される信号電圧との関係を示す出力電圧決定データが記憶されている。出力電圧決定データは、例えば、目標温度の値と出力される信号電圧とを対応付けるテーブルや、目標温度の値に基づいて出力される信号電圧の値を算出する数式を表すデータなどによって実装される。
【0026】
本実施形態に係る制御部30は、温度センサ36から入力される信号が表す温度と、記憶部32に記憶されている目標温度設定データと、に基づいて、目標温度を決定する。そして、制御部30は、決定された目標温度と、記憶部32に記憶されている出力電圧決定データと、に基づいて、出力される信号電圧を決定する。そして、制御部30は、決定された信号電圧を、ATC回路34に出力する。
【0027】
本実施形態に係るATC回路34は、制御部30が出力する信号電圧と、サーミスタ22が出力する信号電圧と、の差分である信号電圧(例えば、制御部30が出力する信号電圧からサーミスタ22が出力する信号電圧を引いた信号電圧)をTEC制御IC12に出力する。
【0028】
本実施形態に係るTEC制御IC12は、ATC回路34が出力する信号電圧に応じた量のTEC電流がTEC24に流れるよう制御する。このようにして、TEC制御IC12とTEC24との間を流れる電流が制御される。この電力制御により、TEC24の加熱又は冷却が行われ、LM温度が目標温度に近づくよう制御される。
【0029】
本実施形態では、温度と、制御部30やサーミスタ22から出力される信号電圧と、の関係が一対一で対応付けられるよう、例えば、出力電圧決定データなどにおいて予め設定されている。そのため、ATC回路34から出力される信号電圧は、目標温度と、LM温度と、の温度差に対応付けられるものとなる。また、本実施形態では、TEC制御IC12は、ATC回路34から出力される信号電圧の値が正である場合と負である場合とで逆向きのTEC電流がTEC24に流れるよう制御する。そして、本実施形態では、TEC制御IC12は、目標温度よりもLM温度が高い場合は、TEC24を冷却し、目標温度よりもLM温度が低い場合は、TEC24を加熱するよう制御する。
【0030】
本実施形態では、例えば、制御部30が、温度センサ36で検出された温度に基づいて、予め定められている駆動温度範囲のなかから目標温度を決定する目標温度決定手段としての役割を担っている。そして、本実施形態では、例えば、制御部30、ATC回路34、TEC制御IC12、及び、TEC24が、レーザモジュール20等の半導体素子の温度が目標温度となるよう制御する温度制御手段としての役割を担っている。
【0031】
このようにして、本実施形態では、環境温度が、レーザモジュール20の駆動温度範囲外であるか駆動温度範囲内であるかに関わらず、LM温度が駆動温度範囲内となるよう制御できることとなる。
【0032】
また、本実施形態では、制御部30は、光送信機1が動作する期間にわたって、動作を停止させることなくLM温度を制御する。
【0033】
例えば、LM温度が駆動温度範囲を超えた場合にのみ、TEC24にTEC電流を流し、TEC24によるレーザモジュール20の温度制御を行うようにすると、TEC24を駆動する際に、TEC24とレーザモジュール20との間の熱抵抗が急峻に変化するため、TEC制御IC12とTEC24との間に流れる電流の変動量が大きくなり、光送信機1の動作が不安定になる。本実施形態では、制御部30は、光送信機1が動作する期間にわたって、動作を停止させることなくLM温度を制御するので、そうしない場合と比較して、光送信機1の動作を安定させることができることとなる。
【0034】
本実施形態では、アンクールドEA素子が搭載されたレーザモジュール20が、温度制御の対象となる。そして、本実施形態では、TEC24を加熱したり冷却したりすることにより、LM温度が制御される。本実施形態では、レーザモジュール20が駆動可能である温度の範囲(駆動温度範囲)は、0°C以上70°C以下であることとする。
【0035】
図2の線L1には、本実施形態における温度制御が行われない状態における、環境温度とLM温度との関係が示されている。線L1は、y=ax+b(ここで、yはLM温度、xは環境温度、a、bは予め定められた定数)との関係を示している。この場合、LM温度が0°C以上70°C以下となるようにするには、環境温度が0°C以上70°C以下である必要がある。そこで、図2の線L2で示されているような、y=(a×a’)x+(b+b’)(ここで、yは目標温度、xは環境温度、a、bは予め定められた定数、a’、b’は設定されるパラメータ)との関係を表すデータとなるよう目標温度設定データが設定されているようにすると、目標温度が0°C以上70°C以下となる環境温度の範囲が−40°C以上85°C以下にまで広がることとなる。このように、本実施形態では、環境温度の下限である温度を第1温度、上限である温度を第2温度、目標温度の下限である温度を第3温度、上限である温度を第4温度とすると、第1温度(例えば、−40°C)は、第3温度(例えば、0°C)よりも低く、第2温度(例えば、85°C)は、第4温度(例えば、70°C)よりも高いこととなる。さらに、図2の線L3で示されているように、低温度域や高温度域における線の傾きが緩やかであり、それ以外の温度範囲における線の傾きがaに近くなるような三次関数y=cx^3+dx^2+ex+f(ここで、yは目標温度、xは環境温度、c、d、e、fは設定されるパラメータ)を表すデータとなるよう目標温度設定データが設定されている場合も、目標温度が0°C以上70°C以下となる環境温度の範囲が−40°C以上85°C以下にまで広がることとなる。また、環境温度xと目標温度yとの関係を表す関数y=f(x)は、一次関数や三次関数に限定されない。例えば、関数y=f(x)の傾きと上述の線L1の傾きaとの差が所定の範囲内に収まる環境温度xの範囲が、なるべく広くなるような関数を関数y=f(x)として採用するようにしてもよい。例えば、−40°C以上85°C以下である環境温度xの範囲内に変曲点が存在する、奇数次多項式関数(例えば、五次関数、七次関数等)や、三角関数を、環境温度xと目標温度yとの関係を表す関数y=f(x)として採用しても構わない。
【0036】
目標温度設定データにおける、環境温度と目標温度との関係をうまく設定することによって、光送信機1に要求される様々な仕様に対応することができることとなる。例えば、図3の線L2(図2の線L2と同様の線である)と線L5では、環境温度の範囲を−40°C以上85°Cとした場合の目標温度の範囲が0°C以上70°C以下となる。一方、図3の線L4では、環境温度の範囲を−40°C以上85°C以下とした場合の目標温度の範囲が40°C以上50°C以下となる。例えば、消費電力の低減を重視する場合は、環境温度の範囲に対応付けられる目標温度の範囲が比較的広くなるよう(例えば、環境温度と目標温度との関係が図3の線L2で表されるようなデータとなるよう)目標温度設定データを設定することが好適である。一方、パワーや消光比特性などといった光学的仕様を重視する場合は、環境温度の範囲に対応付けられる目標温度の範囲が比較的狭くなるよう(例えば、環境温度と目標温度との関係が図3の線L4で表されるようなデータとなるよう)目標温度設定データを設定することが好適である。さらに、ある環境温度の範囲に対応付けられる目標温度範囲内で単調増加するだけではなく、ある環境温度の範囲に対応付けられる目標温度範囲内の少なくとも一部の範囲で単調減少するよう(例えば、環境温度と目標温度との関係が図3の線L5で表されるようなデータとなるよう)目標温度設定データを設定してもよい。これはEA素子の光学特性の温度依存性によっては、上記のような制御をしたほうが、特性が良い場合があり、より光学特性を重視する場合には単調減少するような制御を行ってもかまわない。
【0037】
図4は、本実施形態に係る光送信機1における消費電力の低減の効果の一例を説明する説明図である。図4の左上には、目標温度が環境温度によらず一定(例えば、40°C)となる温度制御が行われた際における環境温度と目標温度又はLM温度との対応関係の一例が示されている。また、図4の左上では、温度制御が行われない状態における、環境温度とLM温度との関係が線L1で示されており、温度制御が行われる際における、環境温度と目標温度との関係が線L2で示されている。図4の左下には、目標温度が環境温度によらず一定(例えば、40°C)となる温度制御が行われた際における環境温度と消費電力との対応関係の一例が示されている。
【0038】
図4の右上には、本実施形態に係る制御が行われた際における環境温度と目標温度又はLM温度との対応関係の一例が示されている。また、図4の右上では、温度制御が行われない状態における、環境温度とLM温度との関係が線L1で示されており、温度制御が行われる際における、環境温度と目標温度との関係が線L2で示されている。図4の右下には、本実施形態に係る制御が行われた際における環境温度と消費電力との対応関係の一例が示されている。
【0039】
目標温度が環境温度によらず一定(例えば、40°C)となる温度制御が行われた際には、環境温度が目標温度から大きくはずれた場合に、TEC24の加熱や冷却に必要な電力が増大する。本実施形態では、温度センサ36で検出された温度に基づいて、予め定められている駆動温度範囲のなかから目標温度を決定して、決定された目標温度となるようLM温度を制御する。また、本実施形態では、温度センサ36で検出された温度が高いほど目標温度が高くなるよう目標温度が決定される。このようにして、本実施形態では、光送信機1の消費電力を低減することができる。
【0040】
ここで、目標温度が環境温度によらず一定となる温度制御を行った場合と比較した、本実施形態に係る制御が行われた場合の、消費電力の低減の効果の数値例を示す。例えば、環境温度とLM温度との関係が、LM温度[°C]=0.56×環境温度+22.4[°C]であることとする。そして、SFP+(Small Form−Factor Pluggable Plus)で要求されている環境温度の範囲が−40°C以上85°C以下であるとする。この場合、目標温度が環境温度によらず40°Cで一定となるように制御した場合、環境温度が−40°Cである際に、光送信機1の消費電力は最大となる。ここで、本実施形態に係る制御を行うことで、光送信機1の最大消費電力は63%に低減する。また、目標温度が環境温度によらず60°Cで一定となるように制御した場合も、環境温度−40°Cにおいて、光送信機1の消費電力は最大となる。ここで、本実施形態に係る制御を行うことで、光送信機1の最大消費電力は56%に低減する。このように、本実施形態によれば、光送信機1の消費電力の大幅な低減を図ることができる。
【0041】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。光モジュールとしての消費電力は、環境温度と目標温度との温度差が最大の場合に最大となる。従って、ある環境温度に対する目標温度を決定すれば、光モジュールとしての消費電力の最大値が決定する。多くの場合は、環境温度が最小、もしくは最大の場合に環境温度と目標温度の温度差が最大となるために、環境温度が最小、もしくは最大の場合に消費電力も最大となる。従って、例えば環境温度が最小値の場合に目標温度との温度差が最大であった場合に、目標温度の最小値と最大値の間を結ぶ関数は、その全範囲において上記の最大の温度差以内であればどのような関数で結んでも最大消費電力に影響を与えない。これは環境温度が最大の場合であっても同様であり、仮に環境温度が最小、もしくは最大ではない温度において目標温度との温度差が最大の場合でも同様である。従って、目標温度の最小値と最大値の間を結ぶ関数は上述した奇数次関数に限定されず、偶数次関数であっても、ログ関数であっても構わない。なお、上述したように環境温度と目標温度の温度差は、環境温度が最小、もしくは最大の場合に最大となることが多い。このような場合に最大消費電力ではなく、実使用時の平均的な消費電力を低減するには、上述したL3のような関数が好適である。
【0042】
例えば、温度センサ36で検出される温度とレーザモジュール20の実際の温度との差を予め測定しておき、測定された温度差に応じて補正された信号電圧が、制御部30からATC回路34に出力されるようにしても構わない。また、ATC回路34が、マイクロコンピュータ14の外部に配置されていてもよい。また、温度センサ36が、マイクロコンピュータ14の外部に配置されていてもよい。また、例えば、本実施形態における、マイクロコンピュータ14、ATC回路34、及び、TEC制御IC12で実現される機能は、ハードウェアによって実現されても、ソフトウェアによって実現されても、ハードウェア及びソフトウェアの組合せによって実現されても構わない。例えば、マイクロコンピュータ14、ATC回路34、及び、TEC制御IC12で実現される機能が、マイクロコンピュータ14にインストールされたプログラムを、制御部30で実行することにより実現されるようにしてもよい。
【0043】
また、本発明の適用範囲はレーザモジュール20やレーザモジュール20に含まれるアンクールドEA素子に限定されない。本実施形態を、例えば、レーザモジュール20やレーザモジュール20に含まれるアンクールドEA素子以外の、温度制御の対象となる半導体素子であって駆動温度範囲が予め定められているもの(例えば、直接変調型DFBレーザ素子など)に応用しても構わない。また、本実施形態を、光受信機に含まれる半導体素子に応用しても構わない。
【符号の説明】
【0044】
1 光送信機、10 TOSA、12 TEC制御IC、14 マイクロコンピュータ、20 レーザモジュール、22 サーミスタ、24 TEC、30 制御部、32 記憶部、34 ATC回路、36 温度センサ。
図1
図2
図3
図4