特許第6180231号(P6180231)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6180231拡張動作用パワーリザーブを有する時計用ムーブメント
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6180231
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】拡張動作用パワーリザーブを有する時計用ムーブメント
(51)【国際特許分類】
   G04B 13/02 20060101AFI20170807BHJP
   G04B 19/02 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   G04B13/02 Z
   G04B19/02 A
【請求項の数】10
【外国語出願】
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-171910(P2013-171910)
(22)【出願日】2013年8月22日
(65)【公開番号】特開2014-41127(P2014-41127A)
(43)【公開日】2014年3月6日
【審査請求日】2016年3月29日
(31)【優先権主張番号】12181455.2
(32)【優先日】2012年8月23日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513212453
【氏名又は名称】オーデマ ピゲ(ルノー エ パピ)エスアー
【氏名又は名称原語表記】Audemars Piguet(Renaud etPapi)SA
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】シルヴァン コルニベ
(72)【発明者】
【氏名】エディ ヴァラドン
【審査官】 深田 高義
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第03177975(US,A)
【文献】 特表2010−507086(JP,A)
【文献】 特開2000−147153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 13/02
G04B 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械式時計用のムーブメントであって、エネルギー源として香箱内に収容されたゼンマイバネを含み、香箱が、調速用機構としてのテンプを含むオシレータに対して歯車列を介してバネのエネルギーを伝達しているムーブメントであって、第1の動作モードと第2の動作モードの間を切換える為の切換え機構を含み、第2の動作モードにおける香箱と歯車列の車との間のギア比が、第1の動作モードとの関係において変化し、該切換え機構がパワーリザーブに有利に作用するように香箱から与えられるトルクを削減できるようにすることを特徴とする、時計用ムーブメント。
【請求項2】
香箱と歯車列の間に遊星歯車列を含み、香箱から与えられるトルクを変更するために、歯車装置の減速比が、その歯車の一方または他方をブロックすることによって、与えられるトルクを削減するように修正されることを特徴とする、請求項1に記載の時計用ムーブメント。
【請求項3】
香箱がその二つの平行な面上に、異なる直径の二つの香箱車を担持していること、および、香箱車の一方または他方に適応した直径を有する二つの従動車は、香箱車の一方または他方に選択的に係合することができ、平行に配置されて、香箱により生成されるトルクの二つのレベルの供給が得られるようになっていることを特徴とする、請求項1に記載の時計用ムーブメント。
【請求項4】
太陽歯車(58)と連動する歯を有する、香箱(52)に後に続く遊星歯車列(54、56、58)を含み、香箱(52)の丸穴車(54)が香箱(52)と連動し、遊星歯車(56)は、香箱の連動軸上で枢動できること、および、低エネルギー供給動作モードにおいて、丸穴車(54)はもはや香箱に連動しておらず、ムーブメントの連動点に固定され、丸穴車を不動状態にしていることを特徴とする、請求項1に記載の時計用ムーブメント。
【請求項5】
香箱(52)の丸穴車(54)が一つ以上の爪(68)と共働することができる三角形の外歯を有し、一つまたは複数の爪(68)のならびに遊星歯車(56)の回転軸は香箱(52)と連動していること、および、低エネルギー供給動作モードにおいて、制御フィンガ(66、72)が、香箱の丸穴車を不動状態にできるような形で配置されていることを特徴とする、請求項4に記載の時計用ムーブメント。
【請求項6】
遊星歯車列が、さらに、太陽歯車(58)と係合しているが丸穴車(54)の内歯とは係合していない一方向ピニオン(74)を含み、遊星歯車(56)のおよび一方向ピニオン(74)の回転軸は香箱(52)と連動していること、および、低エネルギー供給動作モードにおいて、丸穴車(54)の三角形の外歯と共に働く制御フィンガ(66)がこの歯の中に挿入され、丸穴車(54)は不動状態にされ、そして遊星歯車(56)は香箱(52)の回転速度よりも高い回転速度で太陽歯車(58)を回転駆動できることを特徴とする、請求項4に記載の時計用ムーブメント
【請求項7】
トルク変更用装置は、このムーブメントを有する時計の外部からアクセス可能であり、手動操作が可能であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一つに記載の時計用ムーブメント。
【請求項8】
トルク変更用装置は、自動操作されるように設計されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つに記載の時計用ムーブメント。
【請求項9】
時計用ムーブメントの状態、すなわち通常動作および延長パワーリザーブ動作が、このムーブメントを有する時計の外部から可視の針などによって標示されることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一つに記載の時計用ムーブメント
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一つに記載の機械式時計用ムーブメントを含む、機械式時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば機械式時計に取付けられた拡張動作用のパワーリザーブを有する時計用ムーブメントに関する。詳細には、本発明は、動作パワーリザーブの持続時間を倍増するあるいはさらに一層拡張することのできるシステムを、好ましくは高水準のものである例えば腕時計、クロノグラフその他の、自動巻きまたは手巻き式時計の機械式時計に具備することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
機械式時計において、日付表示を含めた歯車列および針を駆動するためのエネルギー源は、香箱内の巻上げられたゼンマイバネである。
【0003】
機械式時計が定期的に巻上げられない場合、あるいは、自動巻き時計が数時間にわたり着用されなかった場合、時計のバネは完全に弛緩し、時計は止まってしまう。こうして、時刻表示が止まるだけでなくカレンダー用の一つまたは複数の歯車による日付標示も止まることから、なお一層不都合を感じる。時計が充分に巻上げられているときの通常の時計の平均的な動作パワーリザーブは、約40〜60時間で完全に使い尽される。
【0004】
時計が完全に停止するまでそのエネルギーを放出してしまう理由は、いくつかある。主な理由は、一方では時計を使用しないこと(ケース内に放置される、週末に着用されない、など)、あるいは非自動巻き時計の場合には単に巻上げるのを失念することにある。したがって、公知の時計の動作パワーリザーブを超えて拡張した、動作パワーリザーブを時計に具備することがきわめて望ましい。
【0005】
過去に、機械式時計のこの欠点に対する取組みがすでに行われてきており、解決法が追求されてきた。例えば、スイス国特許第693155号明細書は、最初の24時間または48時間の動作中の駆動トルクの損失を可能なかぎり削減することによって、時計用ムーブメントのパワーリザーブを増長させることを目的としたものを言及している。この目的は二つの香箱を提供することによって達成され、それらは、同等の特性を有し、時計用ムーブメントを交互に駆動し、二つの香箱間のブロックスイッチにより交替で働く。
【0006】
欧州特許出願第11188982.0号明細書(欧州特許出願公開第2455820号明細書は、二つの重ね合わされた同軸のバネが内部に組立てられている香箱を含む、駆動機構の使用を提案している。
【0007】
以上で引用したこれら二つの文書は、単に、二つの香箱または二つのバネを有する時計の例にすぎず、なぜならこれらの提案について数多くの刊行物が存在するからである。
【0008】
動作の増長という問題を解決するためのこのような提案は、これらの解決法が、大まかには、エネルギー貯蔵を可能にする香箱を、所望されるパワーリザーブと同じ数量だけ導入することを提案するものであることから、あまり有利ではない。こうして、パワーリザーブは、利用可能な空間を犠牲にして増長させられる。
【0009】
その上、現状技術では、時計用ムーブメント内のトルクの分配についての検討に関しては言及していない。すなわち、ムーブメント内のどこに異なるエネルギー需要があるかを未だ発見するに至っていない。対照的に、出願人は、香箱から針までのトルクの分析を追加の目的とした。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の主要な目的は、著しく拡張された動作パワーリザーブを有する機械式時計のための時計用ムーブメント、ならびに、動作パワーリザーブの増長を達成するための方法である。さらに、本発明は、このようなムーブメントを内蔵した機械式時計に関する。
【0011】
本発明は、さらに、時計のユーザーが通常動作と延長パワーリザーブ動作とで動作状態を手動式に変更できるようにすることを目的としている。同様に、現在の状態(通常パワーリザーブ−延長パワーリザーブ)を時計が標示することも考案されている。さらに、延長パワーリザーブ動作が時間基準を混乱させることがあってはならない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、言及された目的の達成を可能にする。拡張されたパワーリザーブを有するムーブメントは、クレーム1で定義されており、一方このような動作パワーリザーブの増長を達成するための方法は、独立クレーム11の対象となっている。機械式時計の定義は第三の独立クレーム16に記載されている。
【0013】
時計の時間測定の性能は、オシレータが大量のエネルギーを貯蔵している場合に改善される。すなわち、こうして混乱に対する時計の感度を低くする。時計が着用されていない場合、テンプに与えられるエネルギーを、パワーリザーブに有利な形で削減することを考案することができる。
【0014】
出願人は、まず最初に、時計用ムーブメント内のトルクの分配を判定することを目的とした詳細な研究に着手した。歯車列の異なる構成要素ならびに時間表示および日付表示の駆動を詳細に検査して、最大のエネルギー消費の場所が判定された。日付用歯車装置を除いて、テンプが最も多くのエネルギーを必要とすることがわかった。これは、テンプが停止位置からゼンマイバネの力に対抗して加速されなければならず、その後テンプは(加えられた力がバネの力により無効にされた時点で)停止されなくてはならず、その後、初期位置に戻って、その位置で、脱進機が作動するようにテンプは再び停止させられるということから、当然理解できることである。
【0015】
時計用ムーブメントのエネルギー需要の減少は、本発明によると、テンプの振れ角(振幅角度)の減少によって得られる。この減少は、本発明の特有の実施形態によると、速度比を中心香箱歯車装置のレベルまで変更することによって得ることができる。この速度比を増大させることにより、ガンギ車上のトルクは削減され、テンプの振幅は、パワーリザーブに有利な形で低下させられる。
【0016】
現在のところ好まれていない、時計の動作パワーリザーブを延長させる別の可能性として、時計のバネを修正することが考えられ、このバネの一部分は通常動作時に使用され、非係合状態にとどまる別個のもう一方の部分は、「休止」状態が起動された時点で係合される。
【0017】
香箱と中心車(中心)との間の歯車装置の比のそれぞれのおよび可逆的な変更は、複数の方法で達成可能である。これらの方法については、図面に関連づけた本発明の明細書の記述の中で説明される。
【0018】
ただし、動作中の歯車の速度比変更の時点では、表示の混乱を防止し、時計の既存の機能との相容性を保証することが重要である。こうして、トルクの削減は、例えば日付表示の動作またはバネ力の克服などの複雑な機能を駆動するために必要な最小トルクによる制限を受ける。その上、通常動作モードでは、時間測定という側面が変更されてはならない。
【0019】
出願人は同様に、テンプに伝達されるトルクの削減が、カレンダーの動作に対し何ら影響を及ぼさないことも指摘した。日付は常に正しく標示される。本発明に係るシステムのこの特徴は公知の時計の重大なデメリットを取り除くものであり、公知の時計では、パワーリザーブの枯渇に続く時計の停止後、日付の表示がもはや後続しないため、正しい日付をリセットしなければならず、これは時間のかかる面倒な作業である。
【0020】
一方、低振幅のテンプを有する脱進機の働きにより、分針の遅延が或る程度発生し得るが、時間の設定調節は迅速かつ容易である。
【0021】
本発明は、添付の図面を参考にした、特有のまたは好ましい実施形態の記述により、より良く説明される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】時計用ムーブメントの動作時間数との関係におけるテンプの振幅およびトルクを示すダイアグラムである。
図2A】香箱のまわりの時計用ムーブメントの通常動作モードの原理を示す図である。
図2B図2Aの時計用ムーブメントの出力トルクが削減された動作モードの原理を示す図である。
図3】通常動作モードと出力トルクが削減された動作モードとの変更の、別の原理を示す図である。
図4A】香箱のまわりの時計用ムーブメントの通常動作モードの第三の原理を示す図である。
図4B図4Aの時計用ムーブメントの出力トルクが削減された動作モードの原理を示す図である。
図5A図4Aに係る装置の第一の実用的実現態様を概略的に示す図である。
図5B図4Bに係る装置の第一の実用的実現態様を概略的に示す図である。
図6A図4Aに係る装置の第二の実用的実現態様を概略的に示す図である。
図6AA】歯車装置の挙動の詳細を示す図である。
図6AB】歯車装置の挙動の詳細を示す図である。
図6B図4Bに係る装置の第二の実用的実現態様を概略的に示す図である。
図7図4Aおよび図4Bに係る通常モードと削減モードとの切換えの実用的実現態様の概略的表示を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、香箱から与えられる、二番車上のg・mm単位のトルクと、時計のバネの巻上げ後の時計用ムーブメントの動作時間数との関係を示すダイアグラムである。同様にして、ダイアグラムの縦座標は、度単位でテンプの振れ角を示す。
【0024】
出願人は、そのキャリバーの一つについて必要な測定を行なった。
【0025】
通常動作中、与えられたトルクはそのとき112g・mm(曲線CPL ini)で、テンプの振幅は240°(曲線A ini)であり、時計は90時間の動作後に停止する。香箱と二番車(GM)との間に、例えば1.5倍のギヤ比で、増大した速度比が導入される場合には、トルクは75g・mmまで降下し、テンプの振幅は205°まで降下して、これで既に、動作は135時間持続する。この条件は、曲線CPL1.5(トルクについて)およびA1.5(時計用ムーブメントの振動振幅について)により表されている。
【0026】
最後に、2.5倍のギヤ比を適用すると、45g・mmの初期トルクおよび165°のテンプの振幅が測定される。このムーブメントはこのとき、ムーブメントの完全停止まで、およそ225時間の動作パワーリザーブを有すると測定されるが、使用可能リザーブは200時間である。トルクについては曲線CPL2.5を、そしてテンプの振幅については、曲線A2.5を参照のこと。
【0027】
この試験の条件を徹底的に分析すると、以下のデータが得られる。すなわち、パーペチュアルカレンダー(QP)を駆動するのに必要なトルクは3.05g・mmである。しかしながら、考案された全ての構成について、動作リザーブ全体に利用可能なトルクは、10g・mm超である。
【0028】
ギヤ比を有する構成については、メカニズムの効率を考慮に入れることが必要である。この上なく悲観的な40%という効率(測定および計算された効率は約80%であった)をその基準にしても、パーペチュアルカレンダー(QP)を駆動するための充分なトルクが常に得られる。
【0029】
動作の全行程にわたって考えられる時計用ムーブメントの遅延を考慮することにより、250°から120°までのテンプ振幅の移行の影響として一日あたりおよそ20秒の損失がもたらされると考えられ、180°から85°までの移行ではおよそ26秒の損失を生成することが指摘されている。
【0030】
トルクの測定は、CSA Instruments S.A.,Peseux,SwitzerlandのVariocouple機を用いて実施された。
【0031】
したがって、考案されている機構が、一週間さらにはそれ以上の時計動作用のリザーブを有する場合には、最大でも数分の損失が結果としてもたらされると考えられる。ユーザーは、時計が動作状態にありカレンダー標示が更新されていることを発見したら、数分間の時間の補正を行なうだけでよく、これは、パーペチュアルカレンダーの日付をリセットすることよりもはるかに簡単な手順である。
【0032】
以下では、本発明に係る時計用ムーブメントの構造を実現するための三つの実施形態を提示する。これら三つの実施形態に関与していることは、香箱と中心車との間の速度比の変更を実施することである。
【0033】
まず最初に、図2Aは、時計用ムーブメントの従来の歯車装置の通常モードの原理を示している。香箱12を横断する香箱真19を伴う角穴車10が識別できる。香箱の出力の軸14は、丸穴車11、中心ピニオン(太陽歯車)18および複数の遊星歯車17で構成された遊星歯車列20の遊星歯車17を支持するが、これらのうち一つのみが表示されている。この構成において、中心ピニオンの軸は、固定要素15によりムーブメントとの関係において固定されており、歯車装置の出力16は丸穴車11により構成されている。
【0034】
低エネルギー供給の実施形態は、図2Bに表されている。部品は図2Aのものと同じであり、それらの符号には、100が加えられている。例えば図2A中の角穴車10は、図2B中では角穴車110である。一方、この構成では、丸穴車120は固定要素115によりブロックされており、遊星歯車117は、出力116を形成する軸を有する中心車118に直接、その力を伝達する。歯車装置の機能におけるこの変更を通して、係合される車の歯の数に応じて、1.25〜5に含まれる、香箱と二番車との間の比率の削減が、かなり簡単に得られる。この比率の変更は、出力速度の増倍、ひいてはテンプに伝達されるトルクの削減という効果をもたらす。
【0035】
しかしながら、低エネルギー供給動作のこの実施形態の欠点は、遊星歯車列20の出力が、動作モードに応じて異なるという点にある。当然のことながら、同じ軸上に遊星歯車列の出力をもってくるための技術的解決法は利用可能であるが、これは部品数、ひいては装置のコストならびに嵩高性を増大させる。
【0036】
時計バネから与えられるトルクを変更するための第二の主要な実施形態が、図3に表されている。香箱30は二つの車、すなわち、その上部面上の比較的小さい車32とその下部面上の比較的大きい車34とを担持し、二つの車の面は平行である。車32および34は、それぞれ二つの中心可動車36または40に交互に係合可能で、これらは、共通軸38に固定された二つであり、その垂直方向間隔は香箱の二つの歯車32および34の垂直方向距離よりもわずかに大きい。この軸38は、矢印42によって標示されるとおりに、垂直方向に変位できる。
【0037】
通常モードでは、小車32は、中心の大車36と係合される。中心可動車のアセンブリ36、38、40が矢印42によって標示されるとおりに持ち上げられた場合、中心の大車36は係合解除された状態となり、中心の小車40は香箱の大車34と係合する。当然のことながら、ギヤ比32/36はこのとき、より高いものであるギヤ比34/40となり、動作パワーリザーブの持続時間が長くなるという効果をもたらす。
【0038】
図3は、概略的なものにすぎない。関係する四つの車間には、他の任意の比が可能であると考えられる。
【0039】
図4Aおよび4Bは、時計のバネから与えられるトルクを変更するための第三の主要な実施形態を示す。使用される歯車は全て、概略的に示されている。
【0040】
まず最初に、図4Aを参照する。香箱52はその上部部分に、軸62と連動している車61を介して動きを中心可動車(図示せず)に伝達することのできる歯50を有する。丸穴車54、遊星歯車56(そのうち一つのみが図示されている)および太陽歯車58で構成される遊星歯車装置が、香箱52と歯50との間に挿入されている。
【0041】
通常モードにおける動作を表す図4Aの配置において、香箱の歯50と太陽歯車58は連動していて、香箱の丸穴車54は香箱52と連動し、遊星歯車56は香箱52と連動している軸64で枢動する。この構成では、香箱自身がほどける時に、遊星歯車56は遊星歯車の回転軸を中心にして回転できない。したがって、全ては、あたかも要素54、56および58が連動しいるかのように起こり、こうしてこれらは全て香箱52と同じ速度で回転する。このとき、遊星歯車列は完全に見えなくなっている。こうして、香箱52の歯50も同様に、香箱と同じ速度で回転する。
【0042】
図4Bは、低エネルギー供給モードでの動作のダイアグラムを示し、図4Aに基づくものである。丸穴車54はブロックされ、これはスタッド55により表されている。この構成において、香箱52の丸穴車54はもはや香箱52と連動しているのではなく、(受または地板に)固定されている。香箱自身がほどかれた時点で、それは遊星歯車56を強制的に香箱の丸穴車54上で回す。その動きの中で、遊星歯車56は、遊星歯車列の寸法決定にしたがって、香箱52の回転速度より大きい回転速度で太陽歯車58を回転駆動する。こうして、遊星歯車列の速度比乗数はパワーリザーブを増長させ、相応して中心可動車に伝達されるトルクを削減する。
【0043】
図5Aおよび5Bは、時計のバネから与えられるトルクを変更するための、第三の主要な実施形態の実用的実現態様を示す。使用される歯車は、概略的にのみ示されている。
【0044】
まず最初に、通常モードでの時計用ムーブメントの動作を示す図5Aが参照される。香箱52(図4参照)およびその歯50など、当業者にとっては周知である一部の要素は表されていない。
【0045】
香箱の丸穴車54は、その最大直径上に三角形の歯を有する。この歯は爪68と共働する。爪68の回転軸ならびに遊星歯車56の回転軸は、香箱と連動している。
【0046】
香箱の丸穴車54は、香箱と枢動連結状態にある。図示されていない中心可動車は、一時間で一回転する。以下の説明を理解するために、それを不動状態にあるとみなすものとする。
【0047】
この構成では、香箱は、矢印70が示す回転方向に自身がほどかれる(解放される)時、香箱の歯50を介して、中心可動車と係合されているために不動である太陽歯車58上で遊星歯車を強制的に回転させる。図4Aを参照のこと。遊星歯車56は自身を香箱の丸穴車54と係合する。すなわち、遊星歯車列の寸法決定の結果として、丸穴車54の回転速度は、香箱52の回転速度よりも大きくなる。したがって、丸穴車54の三角形の歯は、爪68の片端部でブロックされる。
【0048】
この状態に基づくと、爪68、香箱の丸穴車54ならびに遊星歯車56は、香箱52との関係において不動状態にある。遊星歯車列は見えなくなり、丸穴車54も同様に、香箱52と同じ角速度で回る。
【0049】
爪を介した香箱上の丸穴車54のブロッキング時間は、非常に短時間であることに言及しておくべきである。すなわちそれは、三角形の歯の角度ピッチの3分の1に相当する、香箱との関係における丸穴車の一回の相対的変位に対応する。
【0050】
ここで低エネルギー供給モードでの動作を示す図5Bが参照される。
【0051】
この構成では、制御フィンガ72は香箱52の丸穴車54を不動状態にする。香箱は、自身がほどける時に、遊星歯車56を強制的に香箱の丸穴車54上で回す。この動きの中で、遊星歯車56は、(遊星歯車列の寸法決定に応じて、)香箱52の回転速度よりも大きい回転速度で太陽歯車58を回転駆動する。爪68は、丸穴車54の三角形の歯上でわずかに振動するが、いかなる作用も有していない。
【0052】
図5Aおよび5Bは、3個の遊星歯車を示しているが、必要であるのは1個か2個だけである。
【0053】
この実施形態は、第一の実施形態に比べ、厄介度も嵩高性も低い。したがって、香箱の丸穴車の三角形の外歯は、二つの別個の要素、すなわち丸穴車を不動状態にするための制御フィンガ72、および丸穴車54を香箱52と連動させるための爪68と協働する。
【0054】
図6A、6AA、6ABおよび6Bは、図4Aおよび4Bに基づいた本発明を実施するための第三の実施形態の、第二の実用的実現態様を示す。
【0055】
まず最初に、時計用ムーブメントの通常動作モードを示す図6Aが参照される。歯車装置は、香箱丸穴車54、遊星歯車56、太陽歯車58、制御フィンガ66および香箱52を含む。さらに、一方向ピニオン74が具備されており、これは太陽歯車58と係合されている。
【0056】
香箱の丸穴車54は、図5Aおよび5Bに係る実施形態の場合と同様に、香箱52との関係において枢動連結状態にある。遊星歯車56の軸および一方向ピニオン74の軸は、香箱52と連動している。太陽歯車58は、機構の理解を簡略化するため、不動状態とみなすことができる。
【0057】
香箱は、自身がほどける時に、一方向ピニオン74を強制的に太陽歯車58上で回転させる。このピニオンの幾何形状は、歯車装置の一方向の回転しか許容しない。これらの条件は、図6AAおよび6AB中に簡単に表されている。太陽歯車58が矢印Xに沿って時計回りに回転し、一方向ピニオン74の歯によりブロックされていることは、図6AAを見ればわかる。この構成では一つのブロッキング方向が存在する。すなわち、その状態に基づくと、一方向ピニオン74、丸穴車54および遊星歯車56は、香箱52との関係において不動状態にある。遊星歯車列は見えなくなり、丸穴車54は同様に、香箱52と同じ角速度で回転する。
【0058】
一方、図6ABでは、太陽歯車58が、図6AAとの関係においてもう一方の方向に回転していることを示しており、この構成では、一方向ピニオン74が駆動されることが可能なため、遊星歯車列の一回転が可能であり、この回転が遊星歯車56を介して丸穴車54に伝達されて、そして丸穴車54は香箱52よりも低速で回転する。
【0059】
図6Bは、低エネルギー供給モードでの時計用ムーブメントの動作を示す。制御フィンガ66は、香箱丸穴車54を不動状態にする。香箱52は、自身がほどける際に、遊星歯車56を強制的に香箱の丸穴車54上で回す。この動きの中で、遊星歯車56は、太陽歯車58を、(遊星歯車列の寸法決定に応じて)香箱52の回転速度よりも大きい回転速度で回転駆動する。
【0060】
一方向ピニオン74は空転し、いかなる作用も有していない。それは駆動されるものの、効果はない。
【0061】
この構成は、この解決法に必要な構成要素が比較的少なく、かつ一方のモードから他方のモードに移行するための全ての動作が遊星歯車列のレベルで達成されるということから、第一の実施形態(図5Aおよび5B)に比べて有利である。図5Bの場合においては、フィンガ6は爪66の上を通過し、二つのレベルを必要とする。したがって、この解決法は、含まれる要素が比較的少なく、嵩高性が低い。
【0062】
図4Aと4Bにしたがった通常モードと低エネルギー供給モードとの切換えの別の実用的実現態様が、図7に表されている。地板上または受上に枢動可能な形で組立てられるのは、爪15A、115Aと連動する二重歯スイッチ80である。爪は、選択された位置に保持されている板バネ88に取付けられている。爪はポインタ90を含み、該ポインタは、外部から可視で、かつ、選択された爪の位置、すなわち通常動作(「通常」)または延長パワーリザーブ動作(「延長」)を示す。この位置は、レバー86により、最終停止条件までもっていくことができ、該レバーは、時計の外部からアクセス可能であり、地板82上を並進運動するように案内される。レバー86により回転式に案内されるフィンガ87は、切換え要素80の面80Aおよび80Bと協働することによって、状態の変更を実施する。フィンガ87の回転は、地板82上に固定されたフレーム84により制限される。
【0063】
以上のことから明らかになるように、本発明は、機械式時計の動作パワーリザーブを実質的に延長させるための単純で有効なシステムを提供する。本発明は、特に、単純な機械式時計に応用可能であるだけでなく、カレンダー標示、クロノグラフ、クロノメータなどの複雑な機能を伴う機械式時計にも同様に応用できる。
【0064】
上述の時計製品全てに内蔵可能であるこの非常に薄く可視的でかつ識別が容易なシステムは、短時間または長時間にわたるパワーリザーブの制御を可能にし、時計は、目に見える損害無く、かつ休止期間全体を通してカレンダーが変わってしまうことなく、例えば、週末を過ごすことができる。ユーザーは所望するモードを選択でき、選択されたモードを時計から知ることができる。通常モードと拡張パワーリザーブモードとのこの変更は、手動式または自動式であり得る。
【0065】
以上の記載に続いて、いくつかの考慮事項を追加しておかなければならない。
【0066】
実際、香箱のバネの寸法を決定する場合には、バネの特徴(嵩高性、トルクの変動、巻上げ回数)とパワーリザーブの値との間の妥協点が必要である。出願人は、この装置を用いて、このパワーリザーブの値を有意に増長させることが可能であるということを示した。したがって、この基準はもはや、香箱のバネの寸法を決定する際に考慮すべき制約条件ではない。香箱のバネの寸法は、ムーブメントの所望の性能を達成するために最適化可能である。
【0067】
本発明は、以上で記載され図中に表された、延長パワーリザーブを有する時計用ムーブメントの実施形態に限定されない。本発明の原理をひとたび認識した時点で、当業者であれば、好適な実施形態を発見することができる。このようなアプローチは、本特許により付与される保護範囲からの逸脱を構成するものではなく、本発明の適用分野は、請求項の内容によってのみ限定される。
【符号の説明】
【0068】
10 角穴車
11 丸穴車
12 香箱
14 出力軸
15 固定要素
17 遊星歯車
18 中心ピニオン
19 香箱真
20 遊星歯車列
30 香箱
32 車
34 車
36、40 中心可動車
38 共通軸
50 歯
52 香箱
54 丸穴車
55 スタッド
56 遊星歯車
58 太陽歯車
61 車
62 軸
64 軸
68 爪
72 制御フィンガ
74 一方向ピニオン
80 二重歯スイッチ
82 地板
84 フレーム
86 レバー
87 フィンガ
88 板バネ
90 ポインタ
15A、115A 爪
110 角穴車
115 固定要素
117 遊星歯車
【先行技術文献】
【特許文献】
【0069】
【特許文献1】スイス国特許第693155号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第2455820号明細書
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6AA
図6AB
図6B
図7