(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された分光エリプソメータでは、検光子を機械的に回転させ、それぞれの角度で光を検出する必要があるため、測定に時間を要する。
【0006】
また、特許文献2に開示されたストークスメータでは、分光測定を行う場合に、測定波長毎に光弾性変調器の印加電圧を変化させ、それぞれの段階で光を検出する必要があるため、測定に時間を要する。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、サンプルの偏光特性を迅速に測定することが可能な偏光解析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の偏光解析装置は、所定の波長領域を有する光を出射する光源と、前記光源から出射された光が透過する偏光子であって、前記偏光子を透過した光がサンプルに照射される、偏光子と、前記サンプルからの光が透過する空間位相変調器であって、複屈折材料からなり、光軸と直交する面内の第1の方向の各位置で位相差が互いに異なる、空間位相変調器と、前記空間位相変調器を透過した光が透過する検光子と、前記検光子を透過した光を受光するイメージ分光器であって、前記光軸と直交する面内の前記第1の方向とは異なる第2の方向に分光する、イメージ分光器と、を備える。
【0009】
また、本発明の一態様では、前記空間位相変調器の位相差は、前記第1の方向に沿って連続的に変化してもよい。
【0010】
また、本発明の一態様では、前記空間位相変調器の複屈折率差は、前記第1の方向に沿って連続的に変化してもよい。
【0011】
また、本発明の一態様では、前記サンプルからの光のビーム径を拡大して前記空間位相変調器に照射するビーム拡大器をさらに備えてもよい。
【0012】
また、本発明の一態様では、前記空間位相変調器は、進相軸または遅相軸の方向が互いに異なる、前記第1の方向に隣り合う2つの領域を含んでもよい。
【0013】
また、本発明の一態様では、前記検光子は、前記空間位相変調器の前記2つの領域にそれぞれ対応する、偏光方向が互いに異なる、前記第1の方向に隣り合う2つの領域を含んでもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、位相差に応じた分光の情報をワンショットで取得することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0017】
[偏光解析装置の第1の例]
図1は、第1の例に係る偏光解析装置1の概略を示す図である。本第1の例に係る偏光解析装置1は、分光エリプソメータである。
【0018】
偏光解析装置1は、サンプルSに照射する光を生成する光源2と、光源2で生成された光をサンプルSに照射する投光ユニット3と、サンプルSで反射した光を受光する受光ユニット4と、を備えている。
【0019】
光源2としては、広い波長領域において出力特性が平坦な白色光源が好適であり、重水素ランプやタングステンランプなどを採用してよい。光源2が出射する光は、例えば、少なくとも100nm幅の波長領域を有し、特には、少なくとも200nm幅の波長領域を有することが好ましい。波長領域は、近紫外領域(200〜400nm程度)、可視領域(400〜800nm)及び近赤外領域(800〜1000nm程度)を含む領域内で任意に定められる。例えば、波長領域は、可視領域を全て含んでもよいし、近紫外領域と可視領域に跨がってもよいし、可視領域と近赤外領域に跨がってもよい。
【0020】
投光ユニット3は、光の入射角度を変えられるように、サンプルSを中心とする円周方向に移動可能に支持されている。投光ユニット3は、偏光子32を備えており、偏光子32を透過する光は、直線偏光に偏光される。
【0021】
受光ユニット4は、光の検出角度を変えられるように、サンプルSを中心とする円周方向に移動可能に支持されている。受光ユニット4は、空間位相変調器5と、検光子42と、イメージ分光器6と、を備えている。
【0022】
図2は、受光ユニット4の一例の概略を示す図である。受光ユニット4では、空間位相変調器5、検光子42及びイメージ分光器6が、光の上流から下流へこの順番で配列している。
【0023】
空間位相変調器5は、複屈折材料からなり、光軸と直交する面内の位相変調方向PMの各位置で位相差が互いに異なるように構成されている。位相変調方向PMは、イメージ分光器6のスリット6aの長手方向に対応している。空間位相変調器5は、光源2が生成する所定の波長領域を有する光、すなわち白色光を透過させる。空間位相変調器5の進相軸及び遅相軸の方向は、特に限定されない。例えば、進相軸及び遅相軸は、位相変調方向PMと平行及び垂直にそれぞれ設定される。空間位相変調器5の詳細は後述する。
【0024】
空間位相変調器5を透過した光は、検光子42を透過し、その後、イメージ分光器6に到達する。空間位相変調器5の進相軸及び遅相軸の方向と検光子42の偏光方向との角度差は、例えば45度であることが好ましい。偏光子32の偏光方向と検光子42の偏光方向との角度差は、例えば0度であることが好ましい。
【0025】
イメージ分光器6は、スリット6aから入射する光を分光するグレーティング(回折格子)と、CCD等の撮像素子が2次元に配列したイメージセンサと、を備えている。検光子42を透過した光は、スリット6aによりライン状に成形されて、イメージ分光器6の内部に入射する。グレーティングは、スリット6aから入射する光を、光軸と直交する面内の分光方向SPに分光する。分光方向SPは、スリット6aの幅方向に対応しており、位相変調方向PMと直交している。イメージセンサは、位相変調方向PMの各位置で位相差が互いに異なり、かつ分光方向SPの各位置で波長が互いに異なる光を受光する。これにより、位相差に応じた分光の情報をワンショットで取得することが可能である。
【0026】
不図示の演算装置は、イメージ分光器6が取得した位相差に応じた分光の情報に基づいて、データ解析により波長ごとの位相差Δや振幅比の角度Ψなどを算出し、最終的に膜厚や光学定数などを算出する。
【0027】
イメージ分光器6は、例えば
図3に示されるように、波長可変フィルタ67と、イメージセンサ69と、を備えてもよい。波長可変フィルタ67は、光軸と直交する面内の波長変調方向WMの各位置で波長が互いに異なるように、自身を透過する光の波長を変調させる。波長変調方向WMは、位相変調方向PMと直交している。
【0028】
受光ユニット4は、例えば
図4に示されるように、ビーム拡大器7をさらに備えてもよい。ビーム拡大器7は、サンプルSで反射した光のビーム径を拡大して空間位相変調器5に照射する。このようなビーム拡大器7を備える態様は、投光ユニット3からサンプルSに照射される光のスポット径が小さい場合に好適である。
【0029】
図5は、空間位相変調器5の一例の概略を示す図である。空間位相変調器5は、複屈折材料からなる位相差フィルム52と、位相差フィルム52の両側に取り付けられた一対の延伸器54と、一対の延伸器54に接続されたコントローラ56と、を備えている。
【0030】
一対の延伸器54は、位相差フィルム52の幅方向(図中の上下方向)の一方の側で延伸量が比較的小さく、他方の側で延伸量が比較的大きくなるように、位相差フィルム52を扇状に延伸させる。このとき、位相差フィルム52の複屈折率差は、幅方向の一方の側で比較的小さく、他方の側で比較的大きくなり、幅方向に沿って一方の側から他方の側へ連続的に増加している。これに伴って、位相差フィルム52の位相差も、幅方向に沿って一方の側から他方の側へ連続的に増加している。すなわち、位相差フィルム52の幅方向が、位相変調方向PMとなる。位相差フィルム52は、位相変調方向PMに沿って位相差が0から1波長(360度)まで変化する範囲を含むことが好ましい。
【0031】
コントローラ56は、位相差フィルム52の特性の温度依存性を補償するために、位相差フィルム52の延伸量を調整する。または、コントローラ56は、位相差フィルム52の特性の温度依存性を補償するために、位相差フィルム52の温度を調整してもよい。
【0032】
なお、空間位相変調器5は、上述の態様に限定されない。空間位相変調器5は、上述のように一方向に位相差が変化するような構造の光学部品などであってもよい。
【0033】
[偏光解析装置の第2の例]
図6は、第2の例に係る偏光解析装置10の概略を示す図である。上述の第1の例と重複する構成については、同番号を付すことで詳細な説明を省略する。本第2の例では、投光ユニット3と受光ユニット4とが対向して配置されており、受光ユニット4は、サンプルSを透過した光を受光する。
【0034】
[受光ユニットの変形例]
図7は、変形例に係る受光ユニット40の概略を示す図である。同図では、受光ユニット40に含まれる空間位相変調器5と検光子42のみを示しており、イメージ分光器6の図示を省略している。本変形例は、上述の第1の例にも第2の例にも適用可能である。
【0035】
本変形例では、空間位相変調器5は、位相変調方向PMに隣り合う2つの領域52a,52bを含んでいる。第1の領域52aの進相軸及び遅相軸の方向と、第2の領域52bの進相軸及び遅相軸の方向と、は互いに異なっており、その角度差は例えば45度であることが好ましい。図中の2つの領域52a,52bの内側に示された両矢印は、進相軸の方向を示している。
【0036】
同様に、検光子42も、位相変調方向PMに隣り合う2つの領域42a,42bを含んでいる。第1の領域42aの偏光方向と、第2の領域42bの偏光方向と、は互いに異なっており、その角度差は例えば45度であることが好ましい。図中の2つの領域42a,42bの内側に示された両矢印は、偏光方向を示している。
【0037】
空間位相変調器5の第1の領域52aと、検光子42の第1の領域42aとは対向しており、空間位相変調器5の第1の領域52aを透過した光は、検光子42の第1の領域42aを透過し、その後、イメージ分光器6に到達する。空間位相変調器5の第1の領域52aの進相軸及び遅相軸の方向と、検光子42の第1の領域42aの偏光方向との角度差は、例えば45度であることが好ましい。
【0038】
空間位相変調器5の第2の領域52bと、検光子42の第2の領域42bとは対向しており、空間位相変調器5の第2の領域52bを透過した光は、検光子42の第2の領域42bを透過し、その後、イメージ分光器6に到達する。空間位相変調器5の第2の領域52bの進相軸及び遅相軸の方向と、検光子42の第2の領域42bの偏光方向との角度差は、例えば45度であることが好ましい。
【0039】
空間位相変調器5の2つの領域52a,52bのそれぞれは、位相変調方向PMに沿って位相差が0から1波長(360度)まで変化する範囲を含むことが好ましい。このような2つの領域52a,52bは、例えば、上述の
図5に示される位相差フィルム52、一対の延伸器54及びコントローラ56の組を2つ設けること等によって実現される。
【0040】
以上に説明した変形例に係る受光ユニット40を用いた場合、ストークスパラメーターS1,S2,S3の全てを算出することが可能である。以下、変形例に係る受光ユニット40を上述の第1の例と第2の例のそれぞれに適用した場合について説明する。
【0041】
なお、以下の説明において、偏光子32の偏光方向の角度は、空間位相変調器5の第1の領域52aの進相軸(
図7を参照)を基準に表される。
【0042】
[第1の例への適用]
図8は、変形例に係る受光ユニット40を、第1の例に係る偏光解析装置1(
図1を参照)に適用した場合の測定を示すフローチャートである。
【0043】
S11では、入射角・検出角θを90度、偏光子32の偏光方向を45度に設定して、サンプルSなしで測定する。すなわち、入射角・検出角θを90度にすることで、投光ユニット3と受光ユニット4とを対向させ、両者の間の空気だけを透過した光の強度をイメージ分光器6で測定する。
【0044】
S12では、空間位相変調器5の第1の領域52a(進相軸:0度)について、イメージ分光器6が測定した波長ごとの強度の変化から、後述する数式(2)により位相差分布δ(0〜2π)を計算する。
【0045】
S13では、入射角・検出角θを90度、偏光子32の偏光方向を90度に設定して、サンプルSなしで測定する。すなわち、入射角・検出角θを90度にすることで、投光ユニット3と受光ユニット4とを対向させ、両者の間の空気だけを透過した光の強度をイメージ分光器6で測定する。
【0046】
S14では、空間位相変調器5の第2の領域52b(進相軸:45度)について、イメージ分光器6が測定した波長ごとの強度の変化から、後述する数式(2)により位相差分布δ(0〜2π)を計算する。
【0047】
S15では、入射角・検出角θを0度以上90度未満、偏光子32の偏光方向を45度に設定して、サンプルSで反射した光の強度をイメージ分光器6で測定する。
【0048】
S16では、後述する数式(3),(4),(5)により、波長ごとの位相差Δや振幅比の角度Ψ、ストークスパラメーターS1〜S3などを計算する。
【0049】
S17では、波長ごとの位相差Δや振幅比の角度Ψなどにより、サンプルSの膜厚及び光学定数などを算出する。
【0050】
[第2の例への適用]
図9は、変形例に係る受光ユニット40を、第2の例に係る偏光解析装置10(
図6を参照)に適用した場合の測定を示すフローチャートである。
【0051】
S21では、偏光子32の偏光方向を45度に設定して、サンプルSなしで測定する。すなわち、投光ユニット3と受光ユニット4の間の空気だけを透過した光の強度をイメージ分光器6で測定する。
【0052】
S22では、空間位相変調器5の第1の領域52a(進相軸:0度)について、イメージ分光器6が測定した波長ごとの強度の変化から、後述する数式(2)により位相差分布δ(0〜2π)を計算する。
【0053】
S23では、偏光子32の偏光方向を90度に設定して、サンプルSなしで測定する。すなわち、投光ユニット3と受光ユニット4の間の空気だけを透過した光の強度をイメージ分光器6で測定する。
【0054】
S24では、空間位相変調器5の第2の領域52b(進相軸:45度)について、イメージ分光器6が測定した波長ごとの強度の変化から、後述する数式(2)により位相差分布δ(0〜2π)を計算する。
【0055】
S25では、偏光子32の偏光方向を45度に設定して、サンプルSを透過した光の強度をイメージ分光器6で測定する。
【0056】
S26では、後述する数式(3),(4),(5)により、波長ごとのストークスパラメーターS1〜S3などを計算する。
【0057】
S27では、波長ごとのストークスパラメーターS1〜S3などにより、サンプルSの複屈折位相差などを計算する。
【0058】
[ストークスパラメーターの導出]
ストークスパラメーターS1〜S3の導出について、数式を参照しながら説明する。
【0059】
偏光子32の偏光方向を45度に設定し、空間位相変調器5の進相軸及び遅相軸の方向と検光子42の偏光方向との角度差を45度に設定し、イメージ分光器6で測定したδ=0〜2πの光強度I(δ)は下記数式(1)で与えられる。δは、空間位相変調器5の位相差を表す。
【0061】
サンプルSなしの場合、上記数式(1)は簡素化されて、下記数式(2)が得られる。
【0063】
偏光子32の偏光方向を90度に設定し、空間位相変調器5の進相軸及び遅相軸の方向と検光子42の偏光方向との角度差を45度に設定し、イメージ分光器6で測定したδ=0〜2πの光強度I(δ)も上記数式(1)で与えられ、サンプルSなしの場合には上記数式(2)が得られる。
【0064】
上記数式(2)から位相差分布を求めて、下記数式(3),(4)で利用する。サンプルSの位相差Δや振幅比の角度Ψは、これら数式(3),(4)から得られる。
【0065】
空間位相変調器5の第1の領域52a(進相軸:0度)に関して、上記数式(1)は下記数式(3)になり、サンプルSの位相差Δや振幅比の角度Ψは、複数のδで測定した光強度を利用して、数式(3)を最小二乗法などで解くことによって得られる。
【0067】
空間位相変調器5の第2の領域52b(進相軸:45度)に関して、上記数式(1)は下記数式(4)になり、サンプルSの位相差Δや振幅比の角度Ψは、複数のδで測定した光強度を利用して、数式(4)を最小二乗法などで解くことによって得られる。
【0069】
ストークスパラメーターS1,S2,S3は、サンプルSの位相差Δや振幅比の角度Ψを利用して、下記数式(5)から得られる。
【0071】
サンプルSの位相差Δや振幅比の角度Ψを得る際に、波長ごとかつ位相ごとに測定した光強度を利用するため、一度に複数の波長の位相差Δや振幅比の角度Ψを得ることができる。これによると、測定精度の向上を図ることが可能である。
【0072】
従来の回転検光子法や位相変調法では、算出が可能なストークスパラメーターに限りがあるが、以上に説明した方法によれば、ストークスパラメーターS1,S2,S3の全てを算出することが可能である。
【0073】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が当業者にとって可能であるのはもちろんである。