(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6180315
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】ペダルアーム
(51)【国際特許分類】
G05G 1/30 20080401AFI20170807BHJP
G05G 1/50 20080401ALI20170807BHJP
【FI】
G05G1/30 Z
G05G1/50
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-263550(P2013-263550)
(22)【出願日】2013年12月20日
(65)【公開番号】特開2015-118670(P2015-118670A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2016年12月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000112082
【氏名又は名称】ヒルタ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114535
【弁理士】
【氏名又は名称】森 寿夫
(74)【代理人】
【識別番号】100075960
【弁理士】
【氏名又は名称】森 廣三郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155103
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 厚
(74)【代理人】
【識別番号】100187838
【弁理士】
【氏名又は名称】黒住 智彦
(72)【発明者】
【氏名】石井 淳二
(72)【発明者】
【氏名】野田 佳孝
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 憲二
(72)【発明者】
【氏名】田林 稔弘
【審査官】
塚原 一久
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−011511(JP,A)
【文献】
特開2011−227738(JP,A)
【文献】
特開平10−089883(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05G 1/00−25/04
B60T 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板金製の中空部材であるアーム本体の下端に足踏パッドを取り付けるペダルアームにおいて、
アーム本体は、左右の側面それぞれから対向関係で突出する一対の膨出部を、曲げ加工する範囲で設けてなり、
一対の膨出部は、前記曲げ加工により当接し、前記曲げ加工が終われば一方又は双方の膨出部を囲む側面のスプリングバックにより離れる大きさの隙間を空けて対向させることを特徴とするペダルアーム。
【請求項2】
アーム本体は、側面と平行な平面を有する断面角形の膨出部を半径方向外側に、前記平面の法線方向に沿って膨出する断面半円弧形の膨出部を半径方向内側に割り当てて、前記膨出部を設けた側面を左右方向に曲げ加工する請求項1記載のペダルアーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のブレーキペダルやクラッチペダルに使用されるペダルアームに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のブレーキペダルやクラッチペダルに使用されるペダルアームは、運転手の足で踏み込むことにより得られる回動運動を制動装置やクラッチ装置に伝達する操作部材である。旧来のペダルアームは、1本の金属棒や1枚の金属板を適宜前後方向又は左右方向に折り曲げたアーム本体の下端に足踏パッドを取り付けて構成されることが多かった。しかし、近年では、自動車を構成する部材の一つとして軽量化が求められるようになり、板金製の中空部材であるアーム本体の下端に足踏パッドを取り付けてペダルアームが構成されるようになってきている(特許文献1)。
【0003】
特許文献1が開示するペダルアームは、板状部材を曲げて形成された筒状のアーム本体(アーム本体部)に足踏パッド(踏部)及び揺動軸孔(回動部)を設けて構成され、前記アーム本体を曲げる板状部材の部分に、対向して当接する一対の膨出部(第1の陥壁部及び第2の陥壁部)が形成されている。膨出部は、アーム本体の加工、特に曲げ加工に際して互いに当接することにより板状部材の不要な変形を抑制し、アーム本体の強度を必要十分に確保しながら設計自由度を高め、アーム本体の形状制度を安定的に高く維持する効果があるとしている(特許文献1・[0019])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-227738公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
中空部材であるアームペダルに対向して設けられる一対の膨出部は、曲げ加工後も互いに当接することにより、アーム本体の強度を高める働きがあるとされる。確かに、一対の膨出部が結合されているのであれば、アーム本体の強度を高める働きを常に発揮する。しかし、実際の膨出部は、互いに押し付けられて当接しているのみで、ペダル操作の負荷がかかるとペダルアームが弾性変形して一対の膨出部がずれて、擦れ合う事態が生ずる。これによる膨出部の損傷はないが、金属製の膨出部が擦れ合う場合は異音を発生させ、運転手にペダルアームの不調を想起させることが少なくない。
【0006】
膨出部による異音は、別段ペダルアームの不調ではなく、そのまま利用を続けても問題がないが、運転手にペダルアームの不調を想起させる現象は、好ましくなく、前記異音の発生を抑えることが望まれている。しかし、膨出部は、中空状のペダルアームの曲げ加工に際する保形性を確保したり、前記ペダルアームの強度を向上させるため、なくすことができない。そこで、膨出部を設けて曲げ加工時の保形性とペダルアームの強度の向上を図りながら、異音の発生を抑えた中空状のペダルアームを開発するため、検討した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
検討の結果、開発したものが、板金製の中空部材であるアーム本体の下端に足踏パッドを取り付けるペダルアームにおいて、アーム本体は、左右の側面それぞれから対向関係で突出する一対の膨出部を、曲げ加工する範囲で設けてなり、一対の膨出部は、前記曲げ加工により当接し、前記曲げ加工が終われば一方又は双方の膨出部を囲む側面のスプリングバックにより離れる大きさの隙間を空けて対向させることを特徴とするペダルアームである。
【0008】
本発明のペダルアームは、曲げ加工の時だけ当接する一対の膨出部をアーム本体に形成し、曲げ加工後に前記膨出部が隙間を空けて対向するようにして、膨出部に起因する異音の発生を抑制又は防止する。膨出部間の隙間は、一方又は双方の膨出部を囲む側面の弾性変形が復元することによるスプリングバックを利用して、膨出部が互いに離れることにより形成される。このため、アーム本体は、膨出部を設けた左右の側面を並べて有する1つの板金部材を二つ折りする構成や、膨出部を設けた左右の側面を有する別の板金部材を最中合わせする構成のいずれでもよい。
【0009】
スプリングバックは、膨出部を囲む側面の弾性変形によるため、膨出部それぞれの大きさ、特に深さは関係がないが、前記側面の弾性変形のみによりスプリングバックを制御する観点から、膨出部自体ができるだけ弾性変形しないことが望ましい。これから、アーム本体は、側面と平行な平面を有する断面角形の膨出部を半径方向外側に、前記平面の法線方向に沿って膨出する断面半円弧形の膨出部を半径方向内側に割り当てて、前記膨出部を設けた側面を左右方向に曲げ加工するとよい。
【0010】
半径方向外側に割り当てた断面角形の膨出部は、曲げ加工による伸長に対応して、側面と平行な平面や前記側面及び平面を結ぶ縦面を塑性変形させ、対向する後記断面半円弧形の膨出部との距離を変化させない。半径方向内側に割り当てた断面半円弧形の膨出部は、全体が塑性変形及び弾性変形せず、あくまで周囲の側面を弾性変形させて、前記断面角形の膨出部に接近し、当接する。これにより、曲げ加工後、断面半円弧形の膨出部が周囲の側面が復元するスプリングバックにより、断面角形の膨出部から遠ざかって膨出部間に隙間が形成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明による中空状のペダルアームは、膨出部を設けて曲げ加工時の保形性とペダルアームの強度の向上を図りながら、異音の発生を抑制又は防止できる効果を有する。本発明の膨出部は、曲げ加工に際して当接するので、前記曲げ加工に際する保形性の働きが果たされる。また、本発明の膨出部は、使用に際して離れたままであるが、側面の断面係数が高められているため、アーム本体としての強度の向上に寄与している。
【0012】
本発明のペダルアームは、曲げ加工における半径方向外側に断面角形の膨出部を、半径方向内側に断面半円弧形の膨出部を割り当てることにより、曲げ加工に際して断面角形の膨出部に対して断面半円弧形の膨出部を接近離反させることができるようにし、曲げ加工時に膨出部を当接させ、曲げ加工後に前記膨出部を遠ざけて隙間を確実に形成させる。断面半円弧形の膨出部は、断面頂点を結ぶ稜線のみが当接するため、曲げ加工後に前記稜線のみを断面角形の膨出部の平面から遠ざければ隙間が確実に形成できる利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明を適用したペダルアームの一例を表す斜視図である。
【
図2】本例のペダルアームを構成するアーム本体となる中間加工品の曲げ加工前の状態を表す左側面図である。
【
図5】
図4中の膨出部付近を表す部分拡大断面図である。
【
図7】曲げ加工中の中間加工品を表す正面図である。
【
図8】曲げ加工中の中間加工品における
図4相当断面図である。
【
図9】曲げ加工中の膨出部付近を表す
図5相当部分拡大断面図である。
【
図10】曲げ加工中の膨出部付近を表す
図6相当端面図である。
【
図11】曲げ加工後の中間加工品を表す正面図である。
【
図12】曲げ加工後の膨出部付近を表す
図5相当部分拡大断面図である。
【
図13】曲げ加工後の膨出部付近を表す
図6相当端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について図を参照しながら説明する。本発明は、例えば
図1に見られるように、膨出部13,14を設けた左右の側面111,112を並べて有する1つの板金部材を二つ折りする構成のアーム本体11の下端に足踏パッド12を溶接して取り付けたペダルアーム1に適用される。アーム本体11は、左右の側面111,112の上端寄りに左右一対の揺動軸孔118を設け、揺動軸(図示略)により車体に支持され、前記揺動軸孔118と左右の膨出部13,14との間に設けられたロッド接続部119にマスターシリンダのロッド(図示略)が接続される。
【0015】
本例のアーム本体11は、
図2及び
図3に見られるように、二つ折りされた板金部材の左右の側面111,112から断面円弧状に後方へ折り曲げた先にある端縁を後面114側で突き合わせて溶接し、前面113は前記左右の側面111,112に連続する断面円弧状に形成した中間加工品4を右方向及び前方向に曲げ加工して製造する。これにより、曲げ加工に際して左右の側面111,112と後面114との境界にある断面円弧状の角部や全体が断面円弧状に湾曲する前面113が弾性変形し、曲げ加工後の前記左右の側面111,112にスプリングバックを発生させる。
【0016】
中間加工品4(曲げ加工前のアーム本体11)に設けられた一対の膨出部13,14は、
図4〜
図6に見られるように、上下方向の長さがほぼ同一でありながら、断面形状が左右非対称な形状及び深さ(
図5及び
図6中、後面114の左右中心に形成される端縁の突き合わせ線と比較参照)である。本例の中間加工品4は、膨出部13,14を中心にして右方向及び前方向に曲げ加工して、加工済みの中間加工品5、すなわちアーム本体11とする。ここで、膨出部13,14が半径の内外に分かれる曲げ加工は右方向への曲げ加工であるため、前記右方向の曲げ加工の半径外側となる左の側面111に断面角形の膨出部13を、曲げ加工の半径内側となる右の側面112に断面半円弧形の膨出部14を割り当てている。
【0017】
中間加工品4(曲げ加工前のアーム本体11)の左の側面111に設けられた膨出部13は、前記左の側面111に平行な平面131と前記左の側面111及び平面131を結ぶ傾斜した縦面132,132とから構成される断面角形(正確には断面台形)で、左の側面111の表面から平面131の表面までの深さが他方の膨出部14に比べて相対的に浅い。断面角形の膨出部13は、縦面132の伸びのみに頼って形成されるため、深く形成しにくい。このため、全体が塑性変形する断面円弧形の膨出部14に比べて浅く形成する。加えて、本発明によれば、相手方となる断面半円弧形の膨出部14との間に隙間Δ0を形成する必要から、断面角形の膨出部13を従来より浅く形成でき、前記断面角形の膨出部13の加工が容易になる。
【0018】
中間加工品4(曲げ加工前のアーム本体11)の右の側面112に設けられた膨出部14は、全体が連続して曲率を変化させる湾曲面で囲まれた断面円弧形で、右の側面112の表面から最底部の稜線141までの深さが一方の膨出部13に比べて相対的に深い。断面半円弧形の膨出部14は、全体が一様に塑性変形できるため、比較的深く作りやすい。このため、断面角形の膨出部13と対に形成する場合、前記断面角形の膨出部13を相対的に浅く、断面半円弧形の膨出部14を相対的に深く形成する。本発明によれば、相手方となる断面角形の膨出部13との間に隙間Δ0を形成する必要から、断面半円弧形の膨出部14も従来より浅く形成でき、前記断面半円弧形の膨出部14の加工も容易にする。
【0019】
中間加工品4は、
図7に見られるように、例えば適当な治具又は型(図示略)に挟み、膨出部13,14を含む上下方向中間付近を左方向(
図7中左方向)に押し、前記中間付近を上下方向に挟む上方及び下方を右方向(
図7中右方向)に押すことにより、下半分を右方向に曲げていく。詳述を省略するが、本例のアーム本体11は、前方向(
図6中紙面手前方向)に曲げられており、前記適当な治具又は型(図示略)により、中間加工品4に対して、右方向の曲げ加工と同時に前方向の曲げ加工も実施される。
【0020】
中間加工品4の右方向への曲げ加工に際して、
図8及び
図9に見られるように、左側面111に設けられた断面角形の膨出部13は、平面131及び縦面132を塑性変形させて伸長し、右側面112に設けられた断面半円弧形の膨出部14は、周囲の側面112を弾性変形させて前記断面角形の膨出部13に接近し、最底部の稜線141を断面角形の膨出部13の平面131に圧接させる。こうした膨出部13,14相互の当接により、特に半径内側となる右の側面112の座屈が防止され、中空形状を保持したまま中間加工品4を曲げていくことができる(膨出部13,14による保形性)。
【0021】
断面半円弧形の膨出部14は、上下方向に長尺であるため、上下方向で若干塑性変形しながら、周囲の側面112の弾性変形により断面角形の膨出部13に向けて接近する。更に本例の場合、側面112と前記前面113又は後面114とを結ぶ断面円弧状の境界部分が曲率を変化させて弾性変形する。これから、断面半円弧形の膨出部14は、
図9及び
図10(説明の便宜上、図示は誇張している)に見られるように、側面112や前記側面112と前面113又は後面114とを結ぶ断面円弧状の境界部分を弾性変形させて、上下方向の中間付近を膨出部13の平面131に最も強く押し付ける。
【0022】
曲げ加工が終了し、治具又は型による押し付けがなくなると、
図11に見られるように、湾曲形状に成形された中間加工品5は、全体形状をそのままに維持する。しかし、断面半円弧形の膨出部14は、側面112や前記側面112と前面113又は後面114とを結ぶ断面円弧状の境界部分を復元によるスプリングバックを受けて、
図12及び
図13(説明の便宜上、図示は誇張している)に見られるように、断面角形の膨出部13から遠ざかり、隙間Δ1を形成する。曲げ加工後の中間加工品5は、そのままアーム本体11となり、下端に足踏パッド12(
図1参照)が取り付けられてペダルアーム1を構成するから、隙間Δ1は、製品であるペダルアーム1においても維持される。
【0023】
隙間Δ1は、曲げ加工前の中間加工品4で形成された隙間Δ0より狭い。これは、断面半円弧形の膨出部14自体が上下方向に塑性変形して中間部分を突出させた形状になっていることや、側面112や前記側面112と前面113又は後面114とを結ぶ断面円弧状の境界部分の復元が完全ではないことによる。これから、隙間Δ1を目標値として、中間加工品4における隙間Δ0は、目標値より大きくなるようにしておくとよい。こうして、アーム本体に設けられる一対の膨出部13,14間に隙間Δ1を形成したペダルアーム1は、膨出部13,14の衝突や擦れ合いをなくし、異音の発生を抑制又は防止する。
【符号の説明】
【0024】
1 ペダルアーム
11 アーム本体
12 足踏パッド
13 断面角形の膨出部
14 断面半円弧形の膨出部
4 曲げ加工前中間加工品
5 曲げ加工後中間加工品
Δ0 曲げ加工前の隙間
Δ1 曲げ加工後の隙間