(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6180324
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】温度ヒューズおよび当該温度ヒューズに用いられる摺動電極
(51)【国際特許分類】
H01H 37/76 20060101AFI20170807BHJP
【FI】
H01H37/76 C
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-545913(P2013-545913)
(86)(22)【出願日】2012年11月19日
(86)【国際出願番号】JP2012079939
(87)【国際公開番号】WO2013077286
(87)【国際公開日】20130530
【審査請求日】2015年9月30日
(31)【優先権主張番号】特願2011-254687(P2011-254687)
(32)【優先日】2011年11月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】300078431
【氏名又は名称】エヌイーシー ショット コンポーネンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 時弘
【審査官】
関 信之
(56)【参考文献】
【文献】
実開平2−005844(JP,U)
【文献】
登録実用新案第3161636(JP,U)
【文献】
国際公開第2005/007907(WO,A1)
【文献】
特開平5−047252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 37/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の金属ケースと、前記金属ケースの内面を摺動可能な摺動電極と、前記摺動電極が接触した状態で前記金属ケースと電気的に接続される端子とを備え、
作動時には、前記摺動電極が前記端子から離隔して、前記金属ケースと前記端子との電気的な接続が遮断される温度ヒューズであって、
前記摺動電極は、金属薄板を加工して形成されたものであり、銅または銅合金からなる基材層と、銀合金からなる第1表面層とを少なくとも備え、前記端子との接触部位が厚さ5μm以上50μm以下の前記第1表面層である、温度ヒューズ。
【請求項2】
前記第1表面層は、銅、ニッケル、錫、インジウム、カドミウム、亜鉛からなる群より選択された一以上の元素を含む銀合金からなる、請求項1に記載の温度ヒューズ。
【請求項3】
前記第1表面層は、銀合金の酸化物からなる、請求項1または2に記載の温度ヒューズ。
【請求項4】
前記第1表面層は、前記基材層の表面にクラッド接合されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の温度ヒューズ。
【請求項5】
前記基材層は、導電率が30%IACS以上である銅または銅合金からなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の温度ヒューズ。
【請求項6】
前記基材層は、引張強度が500N/mm2以上である銅または銅合金からなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の温度ヒューズ。
【請求項7】
前記摺動電極は、前記基材層と前記第1表面との間に、ニッケル層を有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の温度ヒューズ。
【請求項8】
前記摺動電極は、前記基材層の前記第1表面層側とは反対側に積層されている、銀または銀合金からなる第2表面層を有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の温度ヒューズ。
【請求項9】
筒状の金属ケースと、前記金属ケースの内面を摺動可能な摺動電極と、前記摺動電極が接触した状態で前記金属ケースと電気的に接続される端子とを備え、
作動時には、前記摺動電極が前記端子から離隔して、前記金属ケースと前記端子との電気的な接続が遮断される温度ヒューズに用いられる前記摺動電極であって、
金属薄板を加工して形成されたものであり、銅または銅合金からなる基材層と、銀合金からなる第1表面層とを少なくとも備え、前記端子との接触部位が厚さ5μm以上50μm以下の前記第1表面層である、摺動電極。
【請求項10】
請求項1に記載の温度ヒューズの製造方法であって、
前記基材層へ前記第1表面層をクラッド加工により積層する工程を備える、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度ヒューズおよび当該温度ヒューズに用いられる摺動電極に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、家庭用あるいは産業用電子、電気機器の過熱損傷を保護するために温度ヒューズが使用されている。温度ヒューズは、機器の温度を正確に感知し、異常過熱時に速やかに回路を遮断する保護部品として、各種家電製品、携帯機器、通信機器、事務機器、車載機器、ACアダプタ、充電器、モータ、電池、その他電子部品に使用されている。一般に温度ヒューズは概ね0.5A〜15Aの幅広い公称定格電流を有するが、特に6A以上の高電流用には、接点を有し異常温度を感知して該接点を開離動作させる感温ペレット型温度ヒューズが好適に利用される。
【0003】
感温ペレット型温度ヒューズは、細部に関して種々の形態があるが、例えば、WO2003/009323号公報(特許文献1)または特開平08−045404号公報(特許文献2)に記載された感温ペレット型温度ヒューズには、金属ケース、一対のリード線、絶縁材、強弱2つの圧縮バネ、摺動電極および感温材を主要構成要素とし、摺動電極は導電性の金属ケースの内面に接触しながら移動し得る形態である。摺動電極と絶縁材の間には弱圧縮バネ、また摺動電極と感温材の間には強圧縮バネがある。平常時には両圧縮バネはそれぞれ圧縮状態にあり、弱圧縮バネより強圧縮バネの方が強いため、摺動電極は絶縁材側に付勢され、一方のリード線と接触した状態にあり摺動電極は導通可能である。したがって、このリード線を電子機器などの配線に接続すると、電流はリード線から摺動電極を経由して金属ケースからもう一方のリード線へと通電する。
【0004】
感温材は有機物質や熱可塑性樹脂などの熱可溶性物質または熱可塑性物質を使用することができ、所定の作動温度に達すると感温材は溶融または軟化し、圧縮バネからの負荷により変形する。このため温度ヒューズを接続する電子機器などが過熱し所定の作動温度に達すると感温材は変形し、強圧縮バネを除荷し、強圧縮バネの伸張に応動して弱圧縮バネが圧縮状態が解放されて伸張することにより摺動電極が金属ケースの内面に接触しながら移動してリード線から離隔して通電が遮断される。このような機能を有する感温ペレット型温度ヒューズを電子機器などの配線に接続することにより、機器の異常過熱による機器本体の破損や火災などを事前に防止することができる。
【0005】
感温ペレット型温度ヒューズに用いられている摺動電極としては、たとえば金属材を薄板状に圧延し、これをプレス成形により加工したものが一般的である。従来の感温ペレット型温度ヒューズに用いられている摺動電極は、リード線からの離隔動作時に発生するアークにより接点が溶着することを防止する必要から、専ら銀または銀合金のみからなる単一材が用いられていた。しかしながら、貴金属である銀を比較的多量に消費することから経済的ではなかった。
【0006】
実用新案登録第3161636号公報(特許文献3)には、銅材からなる摺動電極に極薄の銀めっき皮膜を施した構成が提案されている。しかしながら、極薄の銀めっき皮膜は、離隔動作時に発生するアーク等によって破壊されやすく、この場合、銅材表面が露出して接点溶着を惹起してしまうため、接点の溶着を充分に防ぐことができなかった。接点が溶着すると、電流が切断されず温度ヒューズとして機能しないことになる。また、めっきでは母材との密着性が悪く、剥離する等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2003/009323号公報
【特許文献2】特開平08−045404号公報
【特許文献3】実用新案登録第3161636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、銀の使用量を抑えつつ、母材との密着性が高く、さらに接点の溶着が生じにくい摺動電極を備えた温度ヒューズ、および摺動電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、筒状の金属ケースと、金属ケースの内面を摺動可能な摺動電極と、摺動電極が接触した状態で金属ケースと電気的に接続される端子とを備え、作動時には、摺動電極が端子から離隔して、金属ケースと端子との電気的な接続が遮断される温度ヒューズであって、摺動電極は、金属薄板を加工して形成されたものであり、銅または銅合金からなる基材層と、銀または銀合金からなる第1表面層とを少なくとも備え、端子との接触部位が厚さ5μm以上の第1表面層である、温度ヒューズに関する。
【0010】
上記第1表面層は、たとえば、銅、ニッケル、錫、インジウム、カドミウム、亜鉛からなる群より選択された一以上の元素を含む銀合金により形成することができる。また、上記第1表面層は、銀または銀合金の酸化物から形成することができる。上記第1表面層は、めっきまたはクラッド加工により基材層の表面に積層することができる。
【0011】
上記基材層は、導電率が30%IACS以上である銅または銅合金により形成されていることが好ましい。なお、IACSとは、銅材の導電率をみるときに、電気抵抗の基準として国際的に採用されている国際焼鈍軟銅標準(International Annealed Copper Standerd)のことで、国際焼鈍軟銅標準の体積抵抗率1.7241×10
−2μΩmの銅の導電率を100%IACSと規定している。また、上記基材層は、引張強度が500N/mm
2以上である銅または銅合金により形成されていることが好ましい。
【0012】
上記摺動電極は、上記基材層と上記第1表面との間に、ニッケル層を有していてもよい。また、上記摺動電極は、上記基材層の上記第1表面層側とは反対側に積層されている、銀または銀合金からなる第2表面層を有していてもよい。
【0013】
また、本発明は、筒状の金属ケースと、金属ケースの内面を摺動可能な摺動電極と、摺動電極が接触した状態で金属ケースと電気的に接続される端子とを備え、作動時には、前記摺動電極が前記端子から離隔して、金属ケースと端子との電気的な接続が遮断される温度ヒューズに用いられる摺動電極であって、金属薄板を加工して形成されたものであり、銅または銅合金からなる基材層と、銀または銀合金からなる第1表面層とを少なくとも備え、端子との接触部位が厚さ5μm以上の第1表面層である、摺動電極に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の温度ヒューズによると、摺動電極が端子から離隔する際に接点でアークが発生しても、溶着が生じにくく、特性の優れた温度ヒューズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態の温度ヒューズの概略構成を示す断面図である。
【
図2】本発明の他の一実施形態の温度ヒューズの概略構成を示す断面図である。
【
図3】第1の実施形態の摺動電極を示す上面図(a)と、側面図(b)である。
【
図4】第1の実施形態の摺動電極の積層構成を示す図である。
【
図5】第2の実施形態の摺動電極の積層構成を示す図である。
【
図6】第3の実施形態の摺動電極の積層構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、筒状の金属ケースと、当該金属ケースの内面を摺動可能な摺動電極と、当該摺動電極が接触した状態で金属ケースと電気的に接続される端子とを備え、作動時には、摺動電極が端子から離隔して、前記金属ケースと前記端子との電気的な接続が遮断される温度ヒューズである。以下、図面を用いて、本発明の温度ヒューズについて説明する。
【0017】
[温度ヒューズ]
図1は、本発明の一実施形態の温度ヒューズ70の概略構成を示す断面図である。
図1に示すように、温度ヒューズ70は、筒状の金属ケース76と、摺動電極10と、第1リード線(端子)71と、第2リード線77と、絶縁材72と、強圧縮バネ74と、弱圧縮バネ73と、感温材75とを主要構成要素としてなる。摺動電極10は、導電性の金属ケース76の内面を摺動可能に設けられている。摺動電極10と絶縁材72との間には弱圧縮バネ73が設けられており、摺動電極10と感温材75との間には強圧縮バネ74が設けられている。
【0018】
平常時には、弱圧縮バネ73と強圧縮バネ74はそれぞれ圧縮状態にある。強圧縮バネ74の方が弱圧縮バネ73よりも伸張する方向に作用する力が強いため、摺動電極10は絶縁材72側に付勢され、第1リード線71に圧接されている。このため、第1リード線71と第2リード線77を電子機器などの配線に接続すると、電流は、第1リード線71、摺動電極10、金属ケース76、第2リード線77の順に流れる。
【0019】
感温材75には、たとえば150℃の融点を有するアジピン酸などの有機物質を使用することができる。所定の作動温度に達すると感温材75は軟化または溶融し、強圧縮バネ74からの負荷により変形する。このため温度ヒューズを接続する電子機器などが過熱し所定の作動温度に達すると感温材75は変形し、強圧縮バネ74を除荷し、強圧縮バネ74の伸張に応動して弱圧縮バネ73の圧縮状態が解放され、弱圧縮バネ73が伸張することにより摺動電極10と第1リード線71とが離隔し通電が遮断される。このような機能を有する温度ヒューズを電子機器などの配線に接続することにより、機器の異常過熱による機器本体の破損や火災などを事前に防止することができる。
【0020】
温度ヒューズは接続する機器の温度が急速に上昇する場合には、感温材75が急速に軟化溶融し変形するため、第1リード線71と摺動電極10との離隔は急速に行なわれる。一方、温度が緩慢に上昇する場合には、感温材75は緩慢に軟化溶融し変形するため、第1リード線71と摺動電極10との離隔も緩慢に進む。この結果、第1リード線71と摺動電極10との間に局部的に微小なアークが発生しやすくなる。本発明の温度ヒューズにおいては、後段で詳述する摺動電極10を用いることにより、アークが発生した場合であっても、第1リード線71と摺動電極10との間で溶着の発生を抑制することができる。
【0021】
図2は、本発明の他の一実施形態の温度ヒューズ80の概略構成を示す断面図である。
図2に示す温度ヒューズ80は、
図1に示す温度ヒューズ70とは、第1リード線71の端部に中継電極(端子)78が接続され、中継電極78に摺動電極10が接触するように構成されている点のみ異なる。その他の構成および動作機構は
図1に示す温度ヒューズ70と共通するので、説明を省略する。
【0022】
[摺動電極]
(第1の実施形態)
図3(a)は、第1の実施形態の摺動電極10を示す上面図であり、
図3(b)はその側面図である。摺動電極10は、円形の中心領域11と、中心領域11から外方に延在する複数の爪部12とを有し、爪部12はその表面12aを内側にして湾曲した形状である。摺動電極10は、温度ヒューズにおいて、爪部12の外側の表面12bが金属ケースの内面に接触し、中心領域91の内側の表面11aが端子に接触するように配置される。
【0023】
摺動電極10は、金属薄板を加工して形成されたものである。摺動電極10は、銅または銅合金からなる基材層と、銀または銀合金からなる第1表面層とを備え、端子との接触部位、すなわち中心領域11の内側の表面11aは、第1表面層となっている。金属薄板の加工方法は特に限定されないが、たとえば切削加工、プレス加工、絞り加工などを適宜組み合わせて行うことができる。摺動電極10は、基材層と第1表面層とが積層された金属薄板を加工して摺動電極10を形成してもよいし、基材層からなる金属薄板を加工して、その後に第1表面層を積層し摺動電極10を形成してもよい。基材層への第1表面層の積層方法は限定されないが、めっき法、クラッド加工による方法、またはこれらを組み合わせる方法などが例示される。この場合、銀の薄膜層と銀合金のテープ材からなる層とを合わせて第1表面層とする。
【0024】
摺動電極10の形状は、温度ヒューズにおいて金属ケース内を摺動可能であり、端子に接触した状態で端子と金属ケースとを電気的に接続可能な形状であれば、
図3に示す形状に限定されない。たとえば、爪部12の数は
図3に示す8個に限定されることはなく、また爪部12が複数に分離されておらず一体である形状であってもよい。
【0025】
図4は、
図3(a)に示す摺動電極10の中心領域11の積層構成20(D−D断面図)を示す。積層構成20において、中心領域11の内側の表面11aは第1表面層22からなり、第1表面層22の外側に基材層21が積層されている。なお、図示しないが、爪部12も中心領域11と同様の積層構成となっている。
【0026】
基材層21は、銅または銅合金からなる。基材層21には、導電率がIACS30%以上の銅または銅合金を用いることが好ましい。このような導電率を有する材料を用いることにより、摺動電極10における電力損失を少なくすることができる。また、基材層21には、引張強度が500N/mm
2以上の銅または銅合金を用いることが好ましい。このような弾発性を有する銅合金を用いることにより、摺動電極に適度なバネ性を持たせて、金属ケースとの接触面の電気接続を確実にでき、摺動電極と金属ケースとの接触圧を高めて接触抵抗を低減し、温度ヒューズの内部抵抗を低減して電力損失を少なくすることができる。銅合金は、例えば、チタン銅、ベリリウム銅、ニッケルやシリコン等を含有した析出強化型銅合金のコルソン系銅合金などを好適に使用できる。具体例としては、DOWAメタルテック社製のOLIN C7035(登録商標)(Cu−Ni−Co−Siコルソン系銅合金、導電率:45%IACS、引張強度が800N/mm
2)が挙げられる。
【0027】
第1表面層22は、銀または銀合金からなる。第1表面層22は、中心領域11、すなわち摺動電極10における端子との接触部位においてその厚さが5μm以上であり、好ましくは10μm以上である。第1表面層22の厚さが5μm未満であると、アークが発生した場合に摺動電極10が十分に保護されず、たとえば基材層21が露出し溶出する場合がある。また、第1表面層22は、中心領域11において、その厚さが50μm以下であることが好ましい。第1表面層22の厚さが50μmを超える場合、銀または銀合金の使用量が多くなるので好ましくない。摺動電極全体の厚みは100μm以下が好ましく、60〜90μmがさらに好ましい。各層の厚みは圧延により目的の厚みに調整することができる。
【0028】
なお、第1表面層22は、単層からなる構成であっても多層からなる構成であってもよい。多層とすることにより、第1表面層22による摺動電極10の保護性能をさらに向上させることができる。第1表面層22に用いられる銀合金は、銅、ニッケル、インジウム、錫、カドミニウム、亜鉛からなる群より選択される一以上の元素を含む銀合金を選択することができ、さらに好ましくは、保護性能を上げるために金属酸化物としてもよい。
【0029】
(第2の実施形態)
第2の実施形態の摺動電極は、第1の実施形態の摺動電極とは積層構成が異なる点以外は同様の構成である。
図5は、第2の実施形態の摺動電極の中心領域の断面図を示す。
図5に示す積層構成30は、第1の実施形態と同様に基材層21と第1表面層22とを有し、さらに、基材層21の第1表面層22とは反対側に積層されている第2表面層31を有する。第2表面層31は、銀または銀合金からなる層であることが好ましい。第2表面層31は、第1表面層22と同様に摺動電極の保護性能を有する。銀または銀合金としては、第1表面層22で例示したものと同様の材料を用いることができるが、第1表面層22の材料と同じである必要はない。
【0030】
また、第2表面層31は、第1表面層22のように端子と接触する層ではないので、第1表面層22より薄く形成しても保護性能を十分に発揮することができる。
【0031】
(第3の実施形態)
第3の実施形態の摺動電極は、第2の実施形態の摺動電極とは積層構成が異なる点以外は同様の構成である。
図6は、第3の実施形態の摺動電極の中心領域の断面図を示す。
図6に示す積層構成40は、第2の実施形態と同様に基材層21の両面に第1表面層22と、第2表面層31とがそれぞれ積層された構成を有し、基材層21と第1表面層22の間、および基材層21と第2表面層31との間に、さらにニッケル層41、42が設けられている構成である。ニッケル層41,42により、基材層31から銅が拡散することを防止することができる。ニッケル層41,42は、電解めっき、無電解めっき、クラッド加工などの方法により形成することができる。ニッケル層の厚さは、たとえば、0.1〜0.5μmとすることができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
[実施例1]
第3の実施形態と同様の温度ヒューズを作製した。まず、摺動電極を次のように作製した。コルソン銅合金からなる厚さ58μmの基材の両側の表面に厚さ0.1μmのニッケル層を電解めっきにより形成し、両方のニッケル層の表面に厚さ1μmの銀層をめっきにより形成し、一方の銀層の表面(端子と接触する側の面)に銀合金酸化物であるAgCu0を85質量%含む材料からなる厚さ20μmの銀合金層をクラッド加工により形成して金属薄板を作製した。金属薄板の総厚は80.2μmであった。続いて、かかる金属薄板をプレス加工して
図3に示す形状の摺動電極を作製した。摺動電極における各層の厚さは、金属薄板における各層の厚さと同じであった。厚さ20μmの銀合金層と、厚さ1μmの銀層とからなる積層構造が
図6の第1表面層22に相当し、厚さ1μmの銀層が
図6の第2表面層31に相当する。
【0034】
そして、
図1に示す構造を有する温度ヒューズに、150℃の融点を有するアジピン酸からなる感温材および上記にて作成した摺動電極を実装して実施例1の温度ヒューズとした。
【0035】
[実施例2]
第2の実施形態と同様の温度ヒューズを作製した。まず、摺動電極を次のように作製した。銅からなる厚さ59μmの基材の一方の表面(端子と接触する側の面)に予め作った銀合金酸化物であるAgCu0を85質量%含む材料からなる厚さ20μmの銀合金層をクラッド加工により形成し、他方の表面に厚さ1μmの銀層をめっきにより形成して金属薄板を作製した。金属薄板の総厚は80μmであった。続いて、かかる金属薄板をプレス加工して
図3に示す形状の摺動電極を作製した。摺動電極における各層の厚さは、金属薄板における各層の厚さと同じであった。厚さ20μmの銀合金層が
図5の第1表面層22に相当し、厚さ1μmの銀層が
図5の第2表面層31に相当する。
【0036】
そして、
図1に示す構造を有する温度ヒューズに、150℃の融点を有するアジピン酸からなる感温材および上記にて作成した摺動電極を実装して実施例2の温度ヒューズとした。
【0037】
[実施例3]
第2の実施形態と同様の温度ヒューズを作製した。まず、摺動電極を次のように作製した。銅からなる厚さ50μmの基材の両方の表面(端子と接触する側の面)に予め作った銀合金酸化物であるAgCu0を85質量%含む材料からなる厚さ10μmの銀合金層をクラッド加工により形成して金属薄板を作製した。金属薄板の総厚は70μmであった。続いて、かかる金属薄板をプレス加工して
図3に示す形状の摺動電極を作製した。摺動電極における各層の厚さは、金属薄板における各層の厚さと同じであった。厚さ10μmの銀合金層が
図5の第1表面層22に相当し、厚さ10μmの銀合金層が
図5の第2表面層31に相当する。
【0038】
そして、
図1に示す構造を有する温度ヒューズに、150℃の融点を有するアジピン酸からなる感温材および上記にて作成した摺動電極を実装して実施例3の温度ヒューズとした。
【0039】
[実施例4]
第2の実施形態と同様の温度ヒューズを作製した。まず、摺動電極を次のように作製した。銅からなる厚さ64μmの基材の一方の表面(端子と接触する側の面)に予め作った銀合金酸化物であるAgCu0を85質量%含む材料からなる厚さ5μmの銀合金層をクラッド加工により形成し、他方の表面に厚さ1μmの銀層をめっきにより形成して金属薄板を作製した。金属薄板の総厚は70μmであった。続いて、かかる金属薄板をプレス加工して
図3に示す形状の摺動電極を作製した。摺動電極における各層の厚さは、金属薄板における各層の厚さと同じであった。厚さ5μmの銀合金層が
図5の第1表面層22に相当し、厚さ1μmの銀層が
図5の第2表面層31に相当する。
【0040】
そして、
図1に示す構造を有する温度ヒューズに、150℃の融点を有するアジピン酸からなる感温材および上記にて作成した摺動電極を実装して実施例4の温度ヒューズとした。
【0041】
[比較例1]
第1表面層の厚さが異なる点以外は、第2の実施形態と同様の温度ヒューズを作製した。まず、摺動電極を次のように作製した。銅からなる厚さ80μmの基材の両側の表面に厚さ0.1μmの銀層をめっきにより形成して金属薄板を作製した。金属薄板の総厚は80.2μmであった。続いて、かかる金属薄板をプレス加工して
図3に示す形状の摺動電極を作製した。摺動電極における各層の厚さは、金属薄板における各層の厚さと同じであった。
【0042】
そして、
図1に示す構造を有する温度ヒューズに、150℃の融点を有するアジピン酸からなる感温材および上記にて作製した摺動電極を実装して比較例1の温度ヒューズとした。
【0043】
[比較例2]
比較例2においては、銀からなる厚さ80μmの金属薄板を、プレス加工して
図3に示す形状の摺動電極を作製した。そして、
図1に示す構造を有する温度ヒューズに、150℃の融点を有するアジピン酸からなる感温材および上記にて作製した摺動電極を実装して比較例2の温度ヒューズとした。
【0044】
[比較例3]
比較例3においては、銀合金酸化物であるAgCu0を85質量%含む材料からなる厚さ80μmの金属薄板を、プレス加工して
図3に示す形状の摺動電極を作製した。そして、
図1に示す構造を有する温度ヒューズに、150℃の融点を有するアジピン酸からなる感温材および上記にて作製した摺動電極を実装して比較例3の温度ヒューズとした。
【0045】
[抵抗値測定]
実施例1
〜4、比較例1〜3の温度ヒューズをそれぞれ100個用意し、抵抗値を測定し、100個の温度ヒューズの測定値の平均値を抵抗値とした。表1に結果を示す。
【0046】
[オーバーロード試験]
実施例1〜4、比較例1〜3の温度ヒューズを、恒温槽内に載置し、電圧をAC300V、電流を15Aとして通電し、恒温槽内を一定速度で昇温させて(1℃/分)強制的に温度ヒューズを動作させたときに、正常動作するかどうかを確認した(オーバーロード試験)。温度ヒューズの本体表面温度が157℃以下でヒューズが作動した場合(通電が遮断された場合)を正常動作とし、温度ヒューズの本体温度が157℃を超えてもヒューズが作動しない場合を異常動作とした。実施例1〜4、比較例1〜3の温度ヒューズそれぞれ10個について正常動作するかどうかを確認した。表1に正常動作した温度ヒューズの個数を示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1からわかるように、実施例1〜4の温度ヒューズは、比較例2,3の温度ヒューズと比較して銀の使用量を大幅に削減しながら、比較例2,3の温度ヒューズと比較して同程度の十分に低い内部抵抗値が得られ、また全ての温度ヒューズが正常動作をし、特性の優れた温度ヒューズが得られた。一方、比較例1の温度ヒューズは、オーバーロード試験において試験数10個のうち3個は正常動作をしなかった。試験後、正常動作しなかった温度ヒューズを分解して調査すると、これら全てに接点溶着が確認された。比較例1の温度ヒューズは、銀層の厚さが0.1μmであり、第1表面層の厚さの条件である5μm以上を満たさないものである。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、摺動電極を有し異常温度を感知して接点を開離動作させる高電流用の接点開離型温度ヒューズに利用でき、特に感温ペレット型温度ヒューズに好適に利用できる。
【符号の説明】
【0050】
10 摺動電極、11 中心領域、12 爪部、20,30,40 積層構成、21 基材層、22 第1表面層、31 第2表面層、41,42 ニッケル層、70,80 温度ヒューズ、71 リード線(端子)、72 絶縁材、73 弱圧縮バネ、74 強圧縮バネ、75 感温材、76 金属ケース、77 リード線、78 中継電極(端子)。