【実施例1】
【0013】
図1は本実施例で対象とするモータ11(PMSM)の内部構造の断面図である。モータ11は、モータ内部から3相巻線111の端子が外部に引き出されている。尚、本実施例では、モータ11は3相モータで説明するが、多相モータでも本願の意図するところは実現できる。
【0014】
ロータ11bはステータ11aの内側にあり、ロータ表面または内部に永久磁石11cが均等に配置されている。
図1では、一例として、永久磁石11cを周方向に4個均等配置している。モータ11の三相巻線111を直流励磁することでロータ11bはトルクを発生し、安定停止点で停止する。モータ11はインバータで駆動される。尚、本実施例では、ロータ11bがステータ11aの内側にある内転型のモータで説明するが、外側にある外転型(アウターロータ型)の場合、または回転軸方向にロータとステータが対向しているアキシャルギャップ型の場合のPMSMでも、トルクの式(後述の式1または式4)は同じであるので、本願の意図するところが実現できるのは言うまでもない。
【0015】
図2は本実施例のモータの励磁装置011、およびそれが接続されているモータ11の全体図である。
図2において、
図1と同じ番号のものは同じものを表す。
【0016】
図2において、エンコーダ12はモータ11の磁極位置を検出するためのもので、モータ11の回転軸に接続されている。位置合わせ励磁電流指令部100は、モータ11の3相巻線に、励磁電流指令を与える。211は三相巻線111の励磁装置で、三相巻線111に電流を供給する。励磁装置211は、電流制御部(ACR)221と、PWM制御部231と、インバータ241と、電流検出器251を備えている。
【0017】
位置合わせ励磁電流指令部100により与えられた直流励磁電流指令iu*、iv*、iw*は、励磁装置211内の電流制御部(ACR)221に入力される。電流制御部(ACR)221は、出力される実電流を検出する電流検出器251との偏差に応じた各相の信号を出す。PWM制御部231は電流制御部(ACR)221の出力に応じて働き、インバータ241をPWM制御し、インバータ241から三相巻線111に直流励磁電流が供給される。こうして、三相巻線111に流れる直流励磁電流は、位置合わせ励磁電流指令部100の指令信号に応じた値に制御される。
【0018】
三相巻線111に直流励磁電流を与えると、モータ11はトルクを発生して、ロータ11bは回転する。そしてロータ11bは安定停止点で静止する。
【0019】
次に、モータ11(PMSM)のトルク方程式と、直流電流を流したときの安定停止点について述べる。
【0020】
図3は、d軸巻線電流ベクトルIdおよびq軸巻線電流ベクトルIqと、電流位相角βの関係を表す図である。
図3において、d軸の向きをロータ(回転子)N極の主磁束の向き、q軸の向きをd軸より電気角でπ/2位相が進んだ向きとする。また、IdとIqの合成電流ベクトルIaの向きと、q軸との位相角をβ(電流位相角)とする。なお、q軸は無負荷誘導起電力のベクトルの向きと等しい。また、
図3のd軸とq軸は、ロータと同期して回転する回転座標軸であり、d軸、q軸の正回転方向は、左回転(数学的正方向)とする。従って、逆回転は右回転である。
【0021】
PMSMのトルク方程式について述べる。PMSMの等価回路定数において、直軸インダクタンスをLd、横軸インダクタンスをLq、誘導起電力定数をke、極対数をp、
図3の電流ベクトルIa(大きさは電流実効値と等しい)の、d軸方向の電流成分をId(=id/√3)、q軸方向の電流成分をIq(=iq/√3)とすると、一般に次式のPMSMのトルク式が知られている。
τ=p[ke×iq+(Ld−Lq)×id×iq] …(1)
Id=id/√3=―Ia×sinβ …(2)
Iq=iq/√3= Ia×cosβ …(3)
式(1)、(2)、(3)より、モータ発生トルクτは、下記、式(4)で表すことができる。
τ=p[ke×iq+(Ld−Lq)×id×iq]
=p[ke×Ia×cosβ×√3−(3/2) ×(Ld−Lq)×Ia
2×sin 2β]
=K1×Ia×[cosβ+K2×Ia×sin2β] (−π≦β≦π)…(4)
ここで、K1、K2:定数、Ia:電流ベクトルの大きさ(電流実効値)、Ia>0、K1>0である。
【0022】
式(4)の大括弧内の第1項は、磁石の磁束と電流の積によるトルク(一般にマグネットトルクと呼ぶ)で、大括弧内の第2項は、リラクタンストルク効果によるリラクタンストルクを表す。
【0023】
式(4)で表されるトルクにおいて、K2×Iaの値によって、次の3つの場合に分けられる。
【0024】
(1)−1/2≦K2×Ia≦1/2の場合
これは、リラクタンストルクの割合が小さい、通常のPMSMの場合である。横軸に電流位相角β、縦軸にトルクτをとったとき、式(4)で表されるグラフは、「K2×Ia=0.4」の場合を一例として挙げると、
図4のようになる。
図4のβ−トルク特性は、2πの周期性があり、図の点(−π/2,0)、点(π/2,0)でトルクは0となる。ここで、直流励磁した際のモータのロータの挙動を、電流位相角βの範囲が、以下の4つの場合について示す。
【0025】
(a)−π≦β<−π/2の範囲内のとき
トルクは負なので、ロータは右回転のトルクを発生する。すると、
図3の電流ベクトルの向きは不変の状態でd、q軸が右回転するので、電流位相角βは増加する。やがては、β=−π/2となり、この点でトルク0となり安定停止する。
【0026】
(b)β=−π/2またはβ=π/2のとき
トルクは0なので、停止したままである。ただし、後述のように点(π/2,0)は非常に不安定な停止点である。
【0027】
(c)−π/2<β<π/2の範囲内のとき
トルクは正なので、ロータは左回転のトルクを発生する。すると、
図3の電流ベクトルの向きは不変の状態でd、q軸が左回転するので、電流位相角βは減少する。やがては、点(−π/2,0)の点で左回転が止まり安定停止する。
【0028】
(d)π/2<β≦πの範囲内のとき
トルクは負なので、(a)と同様に、点(−π/2,0)となる点で安定停止する。
【0029】
以上の(a)〜(d)より、直流励磁した瞬間の電流位相角βが、β≠π/2ならば、β=−π/2となるようにロータが移動して、この点で安定停止することがわかる。また、点(π/2,0)のときにはトルク0となり停止するが、わずかに起磁力の向きが変化しただけで、点(−π/2,0)に向かうようにロータが移動する。よって、非常に不安定であり、実用上はこの点(π/2,0)に止まることはほぼないと考えてよい。
【0030】
すなわち、安定停止点とは、電流位相角βが増加したとき、安定停止点を境に、トルクが負から正に転じる点と言うことができる。また、不安定停止点とは、電流位相角βが増加したとき、トルクが正から負に転じる点と言うことができる。
【0031】
以上は、−1/2≦K2×Ia≦1/2の場合、モータ11を直流励磁したとき、安定停止点はモータ定数によらず、ただ1つの点(−π/2,0)だけ存在し、この安定点となるように電流ベクトルの向きにロータのN極位置が引き寄せられることを示している。
【0032】
(2)K2×Ia>1/2の場合
このときは、リラクタンストルクの割合が大きいモータであり、先に述べたPRMは、これに含まれる。式(4)で表されるグラフは、「K2×Ia=0.8」の場合を一例として挙げると、
図5のようになる。
図5より、−π≦β≦πで安定停止点は2つ存在する。すなわち、
図5のA点:β=β01とB点:β=β02であり、この安定停止点は、モータ定数の影響を受け、一意に定まらない。また、モータを直流励磁したとき、どちらの電流位相角βで安定するかは、そのときのモータがどの位相で停止していたかによって決まる。
【0033】
このように、安定停止点が2点あるので、どちらの点か特定できず、停止点からはd軸位相(β=−π/2)を特定することができず、このままでは、磁極位置が定まらない。しかも、この安定停止点は、モータ定数の影響を受け、一意に定まらない。
【0034】
(3)K2×Ia<−1/2の場合
上記(2)のK2×Ia>1/2の場合と同じく、このときも、リラクタンストルクの割合が大きいモータである。式(4)で表されるグラフは、「K2×Ia=―0.8」の場合を一例として挙げると、
図6のようになる。
図6より、−π≦β≦πで安定停止点βは2つだけ存在するが、K2×Ia>1/2の場合と異なるのは、その値はモータ定数によらず、安定停止点β=−π/2またはπ/2であることであるが、K2×Ia>1/2の場合と同様に、モータを直流励磁したとき、どちらの電流位相角βで安定するかは、そのときのモータがどの位相で停止していたかによって決まる。このように、安定停止点が2点あるので、どちらの点か特定できず、停止点からはd軸位相(β=−π/2)を特定することができず、このままでは、磁極位置が定まらない。
【0035】
以上のように、上記(2)、(3)の、K2×Ia>1/2やK2×Ia<−1/2の場合、すなわち、|K2×Ia|>1/2の場合には、モータを直流励磁したときに、安定停止点が2点あるので、どちらの点か特定できず、停止点からはd軸位相を特定することができず、磁極位置が定まらないという課題がある。なお、本実施例では、この|K2×Ia|>1/2の条件を有するモータを、リラクタンストルクの割合が大きいモータと定義する。
【0036】
この課題は、以下に示すように、三相巻線に流すUVW各相の電流指令iu*、iv*、iw*において、計3回の直流励磁電流指令を行い、かつ各3回の直流励磁時の3相電流の位相φをずらすことで解決できる。
【0037】
まず、K2×Ia>1/2の場合で説明する。
手順として、まず、第1回の直流励磁において、下記式(5),(6),(7)で励磁して安定停止させる。
iu*=√2×Ia×sin(φ) …(5)
iv*=√2×Ia×sin(φ−2π/3) …(6)
iw*=√2×Ia×sin(φ+2π/3) …(7)
なお、φは位相で、自身の励磁方法として決めた0〜2πの任意の一定値である。
【0038】
ここで、まず、式(5),(6),(7)で各巻線を励磁して安定停止したとき、
図5のB点の電流位相角β(β=β02)で静止したとする。この状態で静止した後、第2回の直流励磁を下記式(8),(9),(10)で行う。
iu*=√2×Ia×sin(φ+π/2) …(8)
iv*=√2×Ia×sin(φ+π/2−2π/3) …(9)
iw*=√2×Ia×sin(φ+π/2+2π/3) …(10)
すなわち、第2回の直流励磁では、第1回目の直流励磁時の3相電流の位相に対して+π/2となるように各巻線を励磁する。すると、
図5より、第2回目の直流励磁の瞬間は、+π/2となるように各巻線を励磁するので、電流位相角βは−π/2<β<0の範囲になる。よって、ロータは正回転または逆回転して、最終的に安定停止点であるA点の電流位相角β(β=β01)で静止する。このときのモータ11の電流ベクトルI2とロータの位置関係を
図7に示す。
【0039】
また、第1回の直流励磁において、
図5のA点の電流位相角β(β=β01)で静止していたとすると、
図5より、第2回の直流励磁の瞬間は、+π/2となるように各巻線を励磁するので、電流位相βは0<β<π/2の範囲となる。よって、正のトルクを発生し、ロータ11bは正回転し、最終的に安定停止点であるA点の電流位相角β(β=β01)で静止する。
【0040】
したがって、第1回の直流励磁でA点とB点いずれの点に安定停止していたとしても、第2回の直流励磁で必ず、A点の電流位相角(β=β01)で安定停止することになる。これを第1の安定停止点と呼ぶ。このときモータが安定停止した角度を、エンコーダ12自体の原点からの回転位置、すなわち初期位置C1として、
図2の位置記憶部101で記憶する。ここで、C1はエンコーダのカウント値である。
【0041】
次に第3回の直流励磁を行う。第3回の直流励磁では、式(5),(6),(7)で表すように各巻線を励磁する。すなわち、第2回の直流励磁時の3相電流の位相に対して−π/2となるように各巻線を励磁する。
【0042】
図5より、第3回目の直流励磁の瞬間は、−π/2となるように各巻線を励磁するので、電流位相角βは−π<β<−π/2の範囲となる。よって、ロータは正回転または逆回転して、最終的に安定停止点であるB点の電流位相角β(β=β02)で静止する。これを第2の安定停止点と呼ぶ。このときモータが安定停止した角度を、エンコーダ12自体の原点からの回転位置、すなわち初期位置C2として、
図2の位置記憶部101で記憶する。ここで、C2はエンコーダのカウント値である。また、回転移動量θを移動前後のエンコーダカウント値の差で計測し、エンコーダ回転量Cθ(=C2−C1)として、
図2の位置記憶部101で記憶する。
【0043】
さて、エンコーダ12のカウント値は、エンコーダ12自体の原点からの回転位置という以上の意味はなく、モータ11の物理量(電流の大きさIa、電流位相角β…等)と何ら関係があるものではない。逆にいえば人為的に如何様にも関連付けることができるといえる。ここでは、第3回の直流励磁時の電流ベクトルI3の方向として関連付けることとする。このときのモータ11の電流ベクトルI3とロータの位置関係を
図8に示す。
【0044】
ここで、
図8にも示すように、第2回目の直流励磁時の電流ベクトルI2は、電流ベクトルI3に対してπ/2進んだ方向にある。また、第2回の直流励磁時の安定停止点(A点、β=β01)から、第3回の直流励磁時の安定停止点(B点、β=β02)に移る際に、ロータ11bは電気角でθ回転したとする。
【0045】
ここで、第3回の直流励磁時の安定停止点(B点、β=β02)で静止した状態で、次式に示すように、
iu*=√2×Ia×sin(φ+π/2+θ) …(11)
iv*=√2×Ia×sin(φ+π/2+θ−2π/3) …(12)
iw*=√2×Ia×sin(φ+π/2+θ+2π/3) …(13)
と励磁しても、ロータ11bは第3回の直流励磁で安定停止した位置のまま、静止状態を維持するのは
図8より明らかである。これは、式(11)、(12)、(13)で与えられる直流励磁は、第2回目の直流励磁で安定停止したときの電流ベクトルI2とd軸(磁石主磁束方向)との相対的位置関係と等しくなるように、回転移動量θの分を補正して直流励磁していることになるからである。仮に、上記の式(11)、(12)、(13)の直流励磁を行った場合、
図5のA点(β=β01)に安定停止していることに他ならない。このときの電流ベクトルは、
図8の破線に示すI2’となる。
【0046】
次に、電流ベクトルI2’の位置を、エンコーダ12自体の原点からの回転位置C1’で表す。C1’は、電気角π/2をエンコーダ回転量換算したC90、θをエンコーダ回転量換算したCθ、第3回の直流励磁時のエンコーダカウント値C2を用いて、次式(14)で演算できる。
C1’ = C2 + C90 + Cθ …(14)
この演算したC1’を、
図2の位置記憶部101で記憶する。
【0047】
以上より、直流励磁時の電流ベクトルI2’、I3に対応したエンコーダカウント値C1’、C2が求まる。
図8より、直流励磁時の電流ベクトルI2’、I3は、電流位相角β01、β02と対応しており、すなわち、電流位相角β01、β02に対応したエンコーダカウント値C1’、C2が求まることになる。
【0048】
ここで、K2×Ia>1/2の場合、
図5を用いて、β=β01、β02の中点が、d軸位相(直流励磁時の電流ベクトルの方向が、磁石N極の主磁束の方向となる電流位相角。β=−π/2)であることを以下の式(15)〜式(21)に示す。
【0049】
2点の安定停止点(トルクが0)の電流位相角βを次式(15)で表す。
β=β01、β02 (−π<β02<−π/2<β01<0とする) …(15)
β=β01を式(4)に代入すると、トルク=0より、次式(16)が成り立つ。
0=A×Ia[cosβ01+K2×Ia×sin2β01] …(16)
式(16)を変形すると、次式(17)となる。
0=A×Ia[cos(−β01−π)+B×Ia×sin2(−β01−π)] …(17)
式(17)より、β=−β01−πも式(4)でトルク=0の解である。さて、
図5のグラフより、トルク=0となる電流位相角βの値は、β=β01、β02、π/2の3つのみである。ここで、β01の範囲は次式(18)、
―π/2<β01<0 …(18)
であるので、−β01−πの範囲は式(18)より、次式(19)となる。
−π<−β01―π<−π/2 …(19)
よって、式(15)、式(19)より次式(20)が得られる。
β02=−β01−π …(20)
式(20)を変形すると、次式(21)が導出できる。
(β01+β02)/2 = −π/2 …(21)
式(21)より、2点の安定停止点A(β-=β01)、B(β=β02)の中点がd軸位相(磁石N極の主磁束の方向、β=−π/2)であることが証明された。
【0050】
よって、電流位相角β01、β02に対応したエンコーダカウント値C1’、C2を用いて、次式(22)よりエンコーダ自体の原点からのモータのd軸位相(磁石N極の主磁束の方向)のカウント値Cdを得る。
Cd=(C1’+C2)/2 …(22)
式(22)のカウント値Cdを原点にリセットする補正を行い、磁極位置合わせを完了する。このようにして最初の磁極位置合わせを行えば、以後は通常の運転を行うことができる。以上は、K2×Ia>1/2の場合のd軸位相を求める必要最小限の手順となる。
【0051】
次に、K2×Ia<−1/2の場合について説明する。
【0052】
この場合にも、上記と、まったく同じ手順でd軸位相(β=−π/2)のエンコーダカウント値Cdを求めることが出来る。すなわち、第1回目の直流励磁において、式(5)、(6)、(7)で表すように3相巻線111の各巻線を励磁する。
【0053】
このとき、
図6のC点の電流位相角β(β=π/2)で静止したとする。この状態で、式(8)、(9)、(10)に示すように3相巻線111の各巻線を励磁する第2回目の直流励磁を行うと、
図6より、第2回の直流励磁の瞬間は、+π/2となるように各巻線を励磁するので、電流位相角β=−π(またはπ)となり、負のトルクを発生し、ロータ11bは逆回転し、最終的に安定停止点であるD点の電流位相角β(β=−π/2)で静止する。
【0054】
また、第1回の直流励磁において、
図6のD点で静止していた場合には、
図6より、第2回の直流励磁の瞬間は、+π/2となるように各巻線を励磁するので、電流位相角β=0となり、ロータ11bは正回転するが、最終的に安定停止点であるD点の電流位相角β(β=−π/2)で静止する。
【0055】
よって、第1回の直流励磁で
図6のC点とD点いずれの点に安定停止していたとしても、第2回の直流励磁で必ず、D点の電流位相角で安定停止する。これを第1の安定停止点と呼ぶ。このときのモータ11の電流ベクトルI2とロータの位置関係を
図9に示す。このときモータが安定停止した角度を、エンコーダ12自体の原点からの回転位置、すなわち初期位置C1として、
図2の位置記憶部101で記憶する。
【0056】
次に第3回の直流励磁を行う。第3回の直流励磁では、式(5)、(6)、(7)で表すように各巻線を励磁する。すなわち、第2回の直流励磁時の位相に対して−π/2となるように各巻線を励磁する。
図6より、第3回の直流励磁の瞬間は、電流位相角β=−π(またはπ)となるので、負のトルクを発生し、最終的に安定停止点であるD点(β=−π/2)に静止する。これを第2の安定停止点と呼ぶ。このときモータが安定停止した角度を、エンコーダ12自体の原点からの回転位置、すなわち初期位置C2として、
図2の位置記憶部101で記憶する。このときのモータ11の電流ベクトルI3とロータの位置関係を
図10に示す。このとき、
図10に示すように、第2回目の直流励磁時の電流ベクトルI2は、電流ベクトルI3に対してπ/2進んだ方向にある。また、第2回の直流励磁時の安定停止点(D点、β=−π/2)から、第3回の直流励磁時の安定停止点(D点、β=−π/2)に移る際に、ロータ11bは電気角でθ(=−π/2)回転する。
【0057】
ここで、第3回の直流励磁時の安定停止点(D点、β=−π/2)で静止した状態で、式(11)、(12)、(13)で、θ=−π/2として各巻線を励磁しても、ロータ11bは第3回の直流励磁で安定停止した位置のまま、静止状態を維持するのは
図10から明らかである。これは、
図6のD点(β=−π/2)に安定停止していることに他ならず、電流ベクトルは、
図10に示すI2’(=I3)となる。
【0058】
ここで、電流ベクトルI2‘の位置を、エンコーダ12自体の原点からの回転位置C1’で表す。C1’は、電気角π/2をエンコーダ回転量換算したC90、θ(=−π/2)をエンコーダ回転量換算した−C90、第3回の直流励磁時のエンコーダカウント値C2を用いて、次式(23)で演算できる。
C1’=C2+C90−C90=C2 …(23)
この演算したC1’を、
図2の位置記憶部101で記憶する。
【0059】
よって、d軸位相のエンコーダカウント値C1’(=C2)を用いて、式(22)よりエンコーダ自体の原点からのモータのd軸位相(磁石N極の主磁束の方向)のカウント値Cdを得る。上記は、K2×Ia>1/2の場合とまったく同じ手順でd軸位相を求めていることを強調しておく。
【0060】
さらに、−1/2≦K2×Ia≦1/2の場合も、K2×Ia>1/2とまったく同じ手順でd軸位相(β=−π/2)のエンコーダカウント値Cdを求めることが出来る。すなわち、−1/2≦K2×Ia≦1/2の場合は、
図4より、ただひとつの安定停止点(β=−π/2)しかないので、先に述べたような計3回の直流励磁を行っても、どの場合も必ずβ=−π/2に静止する。これは、先に述べたK2×Ia<−1/2の場合の、第2回の直流励磁時と同じ状況なので、d軸位相(β=−π/2)を同じ手順で求めることができるのは言うまでもない。
【0061】
以上より、K2×Iaの値がいずれの場合でも、同じ手順でd軸位相(β=−π/2)のエンコーダカウント値Cdを求め、Cdを原点にリセットする補正を行い、磁極位置合わせを完了することができる。このようにして最初の磁極位置合わせを行えば、以後は通常の運転を行うことができる。
【0062】
なお、以上のことはモータ11の回路定数が未知の場合でも、同じ手順で磁極位置あわせができる優れた方法であるが、回路定数がわかっている場合は過程を省略することもできる。
【0063】
すなわち、K2×Ia<−1/2とわかっている場合は、第2回の直流励磁でd軸位相(β=−π/2)が求まるので、このときのエンコーダカウント値C2をもって、d軸位相のカウント値Cdとし、以降の過程を省略してもよい。また、−1/2≦K2×Ia≦1/2とわかっている場合は、第1回の直流励磁でd軸位相(β=−π/2)が求まるので、このときのエンコーダカウント値C1をもって、d軸位相のカウント値Cdとし、以降の過程を省略してもよい。
【0064】
また、本実施例の基本ポイントは、複数回の直流励磁を行い、電流ベクトルとロータの位置関係を変えることでd軸位相を見出すことであるから、異なる安定停止点に移るのであれば直流励磁時の3相電流の位相は式(5)〜式(10)で表す値でなく、異なってもよい。すなわち、第2回の直流励磁時の3相電流の位相を、第1回の直流励磁時の位相に対して+π/2としなくてもよく、また第3回の直流励磁時の3相電流の位相を、第2回の直流励磁時の位相に対して−π/2としなくてもよい。その際は、式(14)のC90の値を、変更した位相に対応する値に適宜変更させればよいのは言うまでもない。ただし、本実施例記載のように、第2回の直流励磁時の3相電流の位相を、第1回の直流励磁時の位相に対して+π/2、また第3回の直流励磁時の3相電流の位相を、第2回の直流励磁時の位相に対して−π/2とした場合は、直流励磁時のロータ11bの回転移動量が必要以上に大きくなることがないという効果がある。
【0065】
なお、第2回の直流励磁時の3相電流の位相を、第1回の直流励磁時の位相に対して+π/2でなく−π/2とし、かつ第3回の直流励磁時の3相電流の位相を、第2回の直流励磁時の位相に対して−π/2でなく+π/2としても、直流励磁時のロータ11bの回転移動量が必要以上に大きくなることがないという上記と同様の効果が得られる。このことについては、
図4または
図5または
図6より前述と同様の手順で導くことができるので、ここでは割愛する。
【0066】
また、電流の大きさIaも計3回の直流励磁で異なってもよい。ただし、同一の大きさにした場合は以下の利点がある。直流励磁でロータ11bが回転移動する際、モータ11に静止摩擦トルクの影響がある場合、本来静止する位置からわずかにずれた位置で静止する。モータ構造が対称ならば直流励磁時の電流ベクトルがd軸位相(回転子N極の主磁束の方向)に対して進んでいるか遅れているかで静止摩擦トルクの方向が磁極位置を境に正負逆となり、ここで第2回と第3回の直流励磁で同じ大きさの電流Iaとすれば、静止摩擦トルクの影響を正負相殺、もしくは小さくできる。
【0067】
また、本実施例では3回以下の、必要最小限の回数の直流励磁を行う例を示したが、より複数回の直流励磁を実施してもよい。たとえば、第2回目の直流励磁の後に、複数回の常に直前の直流励磁時の3相電流の位相に対して+π/2の位相の直流励磁を与え、最後に、直前の直流励磁時の位相に対して−π/2とした場合でも、同様にd軸位相(β=−π/2)のエンコーダカウント値Cdを求めることができるのは言うまでもない。この場合は、第2回目の直流励磁の後の複数回の直流励磁では、同一方向に回転することになるので、モータの軸端に取り付けている軸受の潤滑油がよく馴染み、機械的摩擦が小さくなる効果が得られる。
【0068】
また、本実施例の適用対象である永久磁石同期モータは、モータ定数が電流に依存して変化し、またモータの巻線鎖交磁束の空間分布に高調波が重畳しているようなモータでも適用可能である。すなわち、本来、式(4)のトルク式は、モータ定数に電流依存性がないことを前提とした理論により導出された式であるが、電流に依存してモータ定数が変化していても、直流励磁時の静的な一定トルクを与えているときは、そのときのモータ定数は一定となるので、式(4)のトルク式でトルク特性を十分表現でき、本実施例の複数回の直流励磁によるd軸位相の決定方法をそのまま適用することができるのは言うまでもない。
【0069】
また、位置記憶部101での位置の値はEEPROMのような不揮発性メモリに記憶させれば制御電源をオフにしても値が保持され、製品製造後の磁極位置合わせは、エンコーダを交換したときなど、モータ軸とエンコーダの相対位置が変更された最初だけ行えばよい。
【0070】
以上述べた磁極位置合わせの手順を、エンコーダ12を交換したときを例にとって
図11の制御フローで説明する。
【0071】
図11において、ステップ101(S101)でエンコーダ12を交換すると磁極位置合わせが必要となるので、装置を磁極位置合わせモードにする(S102)。このとき、必要ならばモータのブレーキ開放などを行い、無負荷に近い状態にする。
【0072】
磁極位置合わせモードでは、まず、三相巻線111に第1回の直流励磁を行い、位置合わせ運転を行う(S103)。所定の電流指令は式(5)、(6)、(7)で示した値とする。このようにして位相φが一定の直流電流を流して、各巻線を直流励磁すると、モータは安定停止点まで動き、停止する。
【0073】
次に、第2回の直流励磁を行い、位置合わせ運転を行う(S104)。所定の電流指令は(8)、(9)、(10)で示した値とする。そして、この回転停止位置をエンコーダ12自体の原点からの回転位置すなわち、初期位置として位置記憶部101で記憶する(S105)。
【0074】
次に、第3回の直流励磁を行い、位置合わせ運転を行う(S106)。所定の電流指令は、式(5)、(6)、(7)で示した値とする。
【0075】
そして、この回転停止位置をエンコーダ12自体の原点からの回転位置、すなわち、初期位置として位置記憶部101で記憶する(S107)。また、第2回の直流励磁時の安定停止した位置から、第3回の直流励磁時の安定した位置に移るまでの回転移動量を移動前後のエンコーダカウント値の差で計測し、エンコーダ回転量として位置記憶部101で記憶する(108)。これら初期位置および回転移動量と、電気角π/2をエンコーダ回転量換算した値をもって、モータの磁極位置を演算する(S109)。こうして、モータの磁極位置が確定できるので、この磁極位置を利用しながら通常の運転に入る(S110)。
【0076】
図12は、通常運転時のモータの制御装置012、およびそれが接続されているモータ11の制御ブロック図である。
図12において番号が
図2と同じものは同一の機能を有する。モータ11は制御装置311で駆動されるが、駆動方式そのものは永久磁石同期モータのベクトル制御として周知の方法である。
【0077】
図12において、エンコーダ12からの回転位置信号は、位置記憶部101に記憶されている値を用いて演算した磁極位置のカウント値Cdを用いて、補正部102で原点リセット補正され、磁極位置からの回転位置信号として補正部102から出力される。それは速度演算部103により速度信号に変換されて速度制御部104に入力される。速度制御部104は速度指令信号と速度信号との偏差に応じて働き、トルク指令信号として、d、q軸の電流成分を指令するId*、Iq*演算部105に入力される。Id*、Iq*演算部105では、トルク指令に応じたd、q軸の電流成分を指令する演算を行う。例えば、トルク指令に応じた電流で、同一電流でもモータ11のトルクが最大となるような電流成分を指令する最大トルク制御演算を行い、それぞれの成分の電流を指令する。
【0078】
制御装置311の、Id/Iq電流制御部321(Id/IqACR)は、電流指令に従い、電流検出器251の電流検出値を座標変換部371により座標変換した電流検出値との偏差に応じて働き、電圧指令を出力する。この信号は座標変換部361で各相の電圧指令に変換され、PWM制御部231に入力される。こうしてインバータ241によりPWM制御が実行され、電流はId*、Iq*演算部321に応じて制御される。よって、リラクタンストルクの割合の大きいモータにおいても、安定停止点を求めた後、磁極位置を補正演算することで、通常のリラクタンストルクの割合の小さいモータと同様に、モータの制御を行うことが可能となる。
【0079】
以上説明したように、本実施例は、永久磁石同期モータの多相巻線を励磁してエンコーダとモータの磁極位置合わせを行うモータの励磁装置であって、励磁電流指令を発生する位置合わせ励磁電流指令部と、前記励磁電流指令を受けて前記多相巻線に直流の励磁電流を供給する励磁装置と、エンコーダの値を記憶する記憶部を備え、前記励磁装置は、前記励磁電流指令に基いて、多相巻線を複数回直流励磁し、各回の直流励磁時の多相電流の位相は、直前の位相に対して異なる値に設定し、前記記憶部は各直流励磁によりモータが安定停止したときのエンコーダの値と、各直流励磁時の回転移動量を記憶して、これら記憶した値よりモータのd軸位相を演算するようにした。
【0080】
また、モータの励磁装置によって記憶部に記憶された、安定停止したときのエンコーダの値と各直流励磁時の回転移動量とに基づきモータのd軸位相を演算しエンコーダの回転位置を補正する補正部を有し、該補正部から出力される回転位置信号によりモータの制御を行う永久磁石同期モータの制御装置とした。
【0081】
また、永久磁石同期モータの多相巻線を励磁してエンコーダとモータの磁極位置合わせを行うモータの励磁方法として、前記多相巻線を複数回直流励磁し、各回の直流励磁時の多相電流の位相を直前の位相に対して異なる値に設定し、各直流励磁によりモータが安定停止したときのエンコーダの値と、各直流励磁時の回転移動量とに基づきモータのd軸位相を演算するようにした。
【0082】
これにより、リラクタンストルクの割合が大きな永久磁石同期モータであっても、磁極位置検出器の磁極位置合わせを、簡単な構成で行うことができる永久磁石同期モータの励磁装置、及び制御装置を提供することができる。