特許第6180389号(P6180389)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6180389記録ヘッドの回復システム及びそれを備えたインクジェット記録装置、並びに記録ヘッドの回復方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6180389
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】記録ヘッドの回復システム及びそれを備えたインクジェット記録装置、並びに記録ヘッドの回復方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/165 20060101AFI20170807BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20170807BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   B41J2/165 401
   B41J2/165 303
   B41J2/14 501
   B41J2/01 401
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-181896(P2014-181896)
(22)【出願日】2014年9月8日
(65)【公開番号】特開2016-55467(P2016-55467A)
(43)【公開日】2016年4月21日
【審査請求日】2016年9月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】特許業務法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 創
【審査官】 道祖土 新吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−245765(JP,A)
【文献】 特開2013−049205(JP,A)
【文献】 特開2011−025476(JP,A)
【文献】 特開2010−105310(JP,A)
【文献】 特開平08−039817(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体上にインクを吐出する吐出ノズルが開口するノズル領域が設けられた記録ヘッドの回復システムであって、
前記吐出ノズルから強制的に押出されたパージインクを拭き取るワイパーと、
該ワイパーを、前記ノズル領域を含むインク吐出面に沿って往復移動させる駆動機構と、
前記吐出ノズルからのインクの押し出し及び吐出、並びに前記駆動機構の動作を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記吐出ノズルからインクを強制的に押出して前記ノズル領域に前記パージインクを付着させるインク押出動作と、
前記ノズル領域の外側の第1位置に前記ワイパーを圧接させた後、前記ワイパーを前記インク吐出面に沿って前記ノズル領域側に向かう第1方向に移動させることにより、前記ワイパーの先端の残留インクを前記第1位置に付着させるとともに、前記パージインクを拭き取り、前記ノズル領域に対して前記第1位置とは反対側の第2位置で前記ワイパーを停止させる第1拭き取り動作と、
前記第1拭き取り動作の実行後、前記第2位置において、前記第1方向と交差する方向に前記ワイパーを移動させることにより、前記第2位置に付着しているインクを塗り広げる塗り広げ動作と、
前記塗り広げ動作の実行後、前記ワイパーを前記インク吐出面から離間させる離間動作と、
前記離間動作の実行後、前記第2位置に対して前記ノズル領域とは反対側の位置から、前記ワイパーを前記インク吐出面に沿って前記第1方向とは反対の第2方向に移動させることにより、前記第2位置のインクと前記残留インクとを拭き取る第2拭き取り動作と、
を含む前記記録ヘッドの回復動作を実行可能であることを特徴とする記録ヘッドの回復システム。
【請求項2】
前記第2位置は、前記ノズル領域に比べて親水性が高くなるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の記録ヘッドの回復システム。
【請求項3】
前記インク吐出面の前記第2位置を含む所定領域には、前記ノズル領域に比べて親水性の高い親水性部材が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の記録ヘッドの回復システム。
【請求項4】
前記塗り広げ動作において、前記ワイパーは、前記第1方向と交差する方向に複数回往復移動されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の記録ヘッドの回復システム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の記録ヘッドの回復システムを備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項6】
記録媒体上にインクを吐出する吐出ノズルが開口するノズル領域が設けられた記録ヘッドの回復方法であって、
前記吐出ノズルからインクを強制的に押出して前記ノズル領域にパージインクを付着させるインク押出動作と、
前記ノズル領域の外側の第1位置にワイパーを圧接させた後、前記ワイパーを前記ノズル領域を含むインク吐出面に沿って前記ノズル領域側に向かう第1方向に移動させることにより、前記ワイパーの先端の残留インクを前記第1位置に付着させるとともに、前記パージインクを拭き取る第1拭き取り動作と、
前記第1拭き取り動作の実行後、前記ノズル領域に対して前記第1位置とは反対側の第2位置において、前記第1方向と交差する方向に前記ワイパーを移動させることにより、前記インクを塗り広げる塗り広げ動作と、
前記塗り広げ動作の実行後、前記ワイパーを前記インク吐出面から離間させる離間動作と、
前記離間動作の実行後、前記第2位置に対して前記ノズル領域とは反対側の位置から、前記ワイパーを前記インク吐出面に沿って前記第1方向とは反対の第2方向に移動させることにより、前記第2位置のインクと前記残留インクとを拭き取る第2拭き取り動作と、
を備えることを特徴とする記録ヘッドの回復方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、用紙等の記録媒体にインクを吐出することによって記録を行うインクジェット記録装置に関し、特に、記録ヘッドの吐出ノズルからインクを強制的に押出した後、インク吐出面に付着したパージインクをワイパーで拭き取る記録ヘッドの回復システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ファクシミリ、複写機、プリンター等の記録装置は、紙、OHP用シート等の記録媒体に画像を記録するように構成されているが、記録を行う方式により、インクジェット式、ワイヤードット式、サーマル式等に分類することができる。また、インクジェット記録方式は、記録ヘッドが記録媒体上を走査しながら記録を行うシリアル型と、装置本体に固定された記録ヘッドにより記録を行うラインヘッド型に分類することができる。
【0003】
例えばラインヘッド型のインクジェット記録装置は、記録媒体の搬送方向に対し直交する印字領域幅全域に亘って吐出ノズルが所定の間隔で並んでいるラインヘッド型のインクジェットヘッド(記録ヘッド)を色毎に備えている。そして、記録媒体の搬送に合わせて印字位置に対応した吐出ノズルからインクを吐出することにより、記録媒体全体の印字を可能としたものである。
【0004】
このようなインクジェット記録装置では、インクの直進性の悪化(飛翔曲がり)や不吐出等が発生して記録ヘッドの印字性能が低下することがある。この原因としては、用紙の搬送時に発生する紙粉や埃、塵等の異物や、画像記録のためのインク滴と共に吐出される微小なインク滴(以下、ミストと称する)や、インク滴が記録媒体に付着した際に発生する跳ね返りミストが、記録ヘッドのインク吐出面に付着することによるメニスカス異常の発生が考えられる。また、キャップ装着箇所へミストが付着して乾燥することによるキャップ装着時の密閉性の低下、及びそれに伴うノズル内のインクの粘度上昇の発生も考えられる。
【0005】
そこで、記録ヘッドのインク吐出面に開口が設けられたインク吐出ノズル内のインクの乾燥や、インク吐出ノズル内のインクの増粘によるノズルの目詰まりを防止するために、ノズルからインクを強制的に押出(パージ)した後、インク吐出面(ノズル面)に付着したパージインクをブレード状のワイパーで拭き取って記録ヘッドの回復処理を行う構成が用いられている。
【0006】
例えば、記録ヘッドのインク吐出面のノズルのない部分にワイパーを所定の接触圧で接触させてインク吐出面を拭き取る方法が知られている。具体的には、図31Aのように、記録ヘッド101のインク吐出面101aの、インク吐出ノズルの配置されたノズル領域102の外側の領域(拭き取り開始位置)にワイパー103を略垂直に押し当てる。次に、図31B図31Cのようにワイパー103をインク吐出面101aに沿って矢印A方向に水平移動させることでノズル領域102のインク104を拭き取り、図31Dのようにワイパー103をインク吐出面101aから離間させた後、矢印A′方向に水平移動させることで拭き取り開始位置まで戻す。
【0007】
しかし、図31A図31Dに示す方法では、図32Aに示すように、2回目の拭き取り時にはワイパー103の側面および先端にインク104a、104bが付着している。ワイパー103の側面および先端に付着したインク104a、104bは空気に触れて増粘しているので、図32Bおよび図32Cのように、インク吐出面101aに付着する。
【0008】
上記のように拭き取り動作を繰り返すことで、拭き取り開始位置近傍に徐々にインク104bが溜まり、大きなインク溜まりとなる。このインク溜まりがインク吐出面101aの下方を通過する記録媒体上に落下したり、接触したりして印字面を汚してしまうという不都合があった。
【0009】
この不都合を改善するために、特許文献1には、記録ヘッドのインク吐出面に順次接触可能な2枚のワイパーを有し、先行するワイパーによってパージインクを拭き取り、後続のワイパーによって先行するワイパーの拭き取り開始位置近傍に残るインクを拭き取るようにしたインクジェット記録装置のワイピング機構が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2013−49205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1の構造では、後続のワイパーが拭き取ったインクが、次回の拭き取り時に、後続のワイパーの拭き取り開始位置に付着する。そして、拭き取り動作を繰り返すことによって、大きなインク溜まりが形成されるという問題点がある。また、このワイピング機構では、ワイパーの数が多くなるので構造が複雑になるという問題点もある。
【0012】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、簡易な構成で、インク吐出面におけるインク溜まりの発生を抑制することが可能な記録ヘッドの回復システム及びそれを備えたインクジェット記録装置、並びに記録ヘッドの回復方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の記録ヘッドの回復システムは、記録媒体上にインクを吐出する吐出ノズルが開口するノズル領域が設けられた記録ヘッドの回復システムであって、吐出ノズルから強制的に押出されたパージインクを拭き取るワイパーと、ワイパーを、ノズル領域を含むインク吐出面に沿って往復移動させる駆動機構と、を備え、吐出ノズルからインクを強制的に押出してノズル領域にパージインクを付着させるインク押出動作と、ノズル領域の外側の第1位置にワイパーを圧接させた後、ワイパーをインク吐出面に沿ってノズル領域側に向かう第1方向に移動させることにより、ワイパーの先端の残留インクを第1位置に付着させるとともに、パージインクを拭き取り、ノズル領域に対して第1位置とは反対側の第2位置でワイパーを停止させる第1拭き取り動作と、第1拭き取り動作の実行後、第2位置において、第1方向と交差する方向にワイパーを移動させることにより、第2位置に付着しているインクを塗り広げる塗り広げ動作と、塗り広げ動作の実行後、ワイパーをインク吐出面から離間させる離間動作と、離間動作の実行後、第2位置に対してノズル領域とは反対側の位置から、ワイパーをインク吐出面に沿って第1方向とは反対の第2方向に移動させることにより、第2位置のインクと残留インクとを拭き取る第2拭き取り動作と、を含む記録ヘッドの回復動作を実行可能である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ワイパーの先端の残留インクを第1位置に付着させるとともに、パージインクを拭き取る第1拭き取り動作の実行後、パージインクを塗り広げた第2位置に対してノズル領域とは反対側の位置から、ワイパーをインク吐出面に沿って第2方向に移動させる第2拭き取り動作を実行することによって、ワイパーにより第2位置のインク(パージインク)と残留インクとを拭き取ることができる。これにより、インク吐出面に残留インクが溜まるのを抑制することができるので、大きなインク溜まりが発生するのを抑制することができる。また、インク吐出面に順次接触する2枚のワイパーを設ける場合(上記特許文献1の構成)と異なり、ワイパーの数が多くなるのを抑制することができるので、記録ヘッドの回復システムの構造が複雑になるのを抑制することができる。
【0015】
また、第2拭き取り動作において、ワイパーを、第2位置に対してノズル領域とは反対側の位置から、第1位置側に向かう第2方向に移動させることによって、ワイパーは第2位置のインク(パージインク)を拭き取った後で残留インクを拭き取ることになる。これにより、ワイパーが残留インクを拭き取る際に、増粘していないパージインクが、長時間大気にさらされて増粘した残留インクに接触するので、残留インクがパージインクに再溶解して増粘が緩和される。このため、第2拭き取り動作において、インク吐出面に付着した残留インクをワイパーにより、拭き取り易くすることができる。
【0016】
また、第1拭き取り動作の実行後、第2位置において第1方向と交差する方向にワイパーを移動させることにより、第2位置に付着しているインクを塗り広げる塗り広げ動作を実行する。これにより、第2位置において第1方向と交差する方向にパージインクを塗り広げることができるので、第2拭き取り動作において第2位置から第2方向側で拭き残しが生じるのを抑制することができる。なお、第2位置において第1方向と交差する方向にパージインクが十分に濡れ広がっていない状態で第2拭き取り動作を実行すると、パージインクが不足している領域ではインク吐出面に拭き残しが生じてしまう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置の構造を示す側面図
図2図1に示すインクジェット記録装置の第1搬送ユニット及び記録部を上方から見た平面図
図3】記録部を斜め上方から見た斜視図
図4】記録部のラインヘッドを構成する記録ヘッドの側面図
図5】記録ヘッドをインク吐出面F側から見た平面図
図6】記録ヘッドのインク吐出ノズル周辺の構成を示す断面拡大図
図7図1に示すインクジェット記録装置のインクタンクから記録ヘッドまでのインク流路を示す図
図8】メンテナンスユニットに搭載されるワイピング機構を斜め上方から見た斜視図
図9】ワイピング機構を構成するキャリッジを斜め上方から見た斜視図
図10】ワイピング機構を構成する支持フレームを斜め上方から見た斜視図
図11】メンテナンスユニットのユニット筐体からワイピング機構を取り外した状態を示す外観斜視図
図12】ユニット筐体に配置される昇降機構の斜視図であり、リフト部材が水平状態にある状態を示す図
図13】ユニット筐体に配置される昇降機構の斜視図であり、図12の状態からリフト部材が起立した状態を示す図
図14】昇降機構を構成するリフト部材の斜視図
図15】メンテナンスユニットを記録部の下方に配置した状態を示す側面図
図16図15の状態におけるメンテナンスユニット内のキャリッジ、ワイパー、支持フレーム、昇降機構を示す側面図
図17図16の状態から昇降機構により支持フレーム及びキャリッジが上昇し、ワイパーがインク吐出面に当接して配置された状態を示す側面図
図18】ワイパーを第1位置の下方に配置した状態を示す記録ヘッドの側面図
図19図18の状態のインク吐出面を下側から見た記録ヘッドの平面図
図20】ワイパーをインク吐出面に圧接させた状態で矢印A方向に移動させた状態を示す記録ヘッドの側面図
図21図20の状態からワイパーを第2位置まで移動させた状態を示す記録ヘッドの側面図
図22】パージインクがインク吐出面の幅方向に十分に広がっていない状態を下側から見た記録ヘッドの平面図
図23図22の状態からワイパーをインク吐出面の幅方向に移動させることにより、パージインクがインク吐出面の幅方向に十分に塗り広がった状態を下側から見た記録ヘッドの平面図
図24】第2位置においてワイパーをインク吐出面から離間させた状態を示す記録ヘッドの側面図
図25図24の状態からワイパーをさらに矢印A方向に移動させた状態を示す記録ヘッドの側面図
図26図25の状態からワイパーを上昇させた状態を示す記録ヘッドの側面図
図27図26の状態からワイパーを矢印A′方向に移動させた状態を示す記録ヘッドの側面図
図28図27の状態からワイパーをさらに矢印A′方向に移動させ、パージインクが残留インクに接触した状態を示す記録ヘッドの側面図
図29図28の状態からワイパーを矢印A′方向の下流側端縁まで移動させた状態を示す記録ヘッドの側面図
図30】昇降機構により支持フレーム及びキャリッジが下降し、ワイパーがインク吐出面から離間した状態を示す側面図
図31A】ワイパーをインク吐出面に対し略垂直方向から所定の接触圧で接触させて記録ヘッドのインク吐出面を拭き取る従来のワイピング機構を示す側面図であり、ワイパーを拭き取り開始位置の下方に配置した状態を示す図
図31B図31Aの状態からワイパーをインク吐出面に接触させながらノズル領域の方向に移動させた状態を示す記録ヘッドの側面図
図31C図31Bの状態からワイパーをさらに移動させてノズル領域を通過させた状態を示す記録ヘッドの側面図
図31D図31Cの状態からワイパーをインク吐出面から離間させた状態を示す記録ヘッドの側面図
図32A図31Aに示す従来のワイピング機構を用いて2回目の拭き取りを行うためにワイパーを拭き取り開始位置の下方に配置した状態を示す記録ヘッドの側面図
図32B図32Aの状態からワイパーをインク吐出面に接触させた状態を示す記録ヘッドの側面図
図32C図32Bの状態からワイパーをインク吐出面に接触させながらノズル領域の方向に移動させた状態を示す記録ヘッドの側面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0019】
図1に示すように、本発明の一実施形態のインクジェット記録装置100の左側部には用紙S(記録媒体)を収容する給紙トレイ2が設けられており、この給紙トレイ2の一端部には収容された用紙Sを、最上位の用紙Sから順に一枚ずつ後述する第1搬送ユニット5へと搬送給紙するための給紙ローラー3と、給紙ローラー3に圧接され従動回転する従動ローラー4とが設けられている。
【0020】
用紙搬送方向(矢印X方向)に対し給紙ローラー3及び従動ローラー4の下流側(図1の右側)には、第1搬送ユニット5及び記録部9が配置されている。第1搬送ユニット5は、用紙搬送方向に対し下流側に配置された第1駆動ローラー6と、上流側に配置された第1従動ローラー7と、第1駆動ローラー6及び第1従動ローラー7に掛け渡された第1搬送ベルト8とを含む構成であり、インクジェット記録装置100の制御部110からの制御信号により第1駆動ローラー6が時計回り方向に回転駆動されることにより、第1搬送ベルト8に保持された用紙Sが矢印X方向に搬送される。
【0021】
ここで、用紙搬送方向の下流側に第1駆動ローラー6を配置したことにより、第1搬送ベルト8の搬送面(図1の上側面)は第1駆動ローラー6に引っ張られるようになるため、第1搬送ベルト8の搬送面のテンションを高めることができ、安定した用紙Sの搬送が可能となる。
【0022】
記録部9は、ヘッドハウジング10と、ヘッドハウジング10に保持されたラインヘッド11C、11M、11Y、及び11Kを備えている。これらのラインヘッド11C〜11Kは、第1搬送ベルト8の搬送面に対して所定の間隔(例えば1mm)が形成されるような高さに支持され、図2に示すように、用紙搬送方向と直交する用紙幅方向(図2の上下方向)に沿って複数(ここでは3個)の記録ヘッド17a〜17cが千鳥状に配列されている。ラインヘッド11C〜11Kは、搬送される用紙Sの最大幅以上の記録領域を有しており、第1搬送ベルト8上を搬送される用紙Sに対して、印字位置に対応したインク吐出ノズル18(吐出ノズル)からインクを吐出できるようになっている。
【0023】
図4及び図5に示すように、記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面Fにはインク吐出ノズル18が多数配列されたノズル領域Rが設けられている。また、図2及び図3に示すように、同一のラインヘッド11C〜11Kを構成する3個の記録ヘッド17a〜17cは、各記録ヘッド17a〜17cに設けられたインク吐出ノズル18の一部が用紙搬送方向に重複するように端部をオーバーラップさせて配置されている。なお、図3は記録部9を図1の奥側(図2の上側)から見た状態を示しており、ラインヘッド11C〜11Kの並びは図1及び図2とは逆になっている。また、記録ヘッド17a〜17cは同一の形状及び構成であるため、図4図6では記録ヘッド17a〜17cを一つの図で示している。
【0024】
図6に示すように、記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面Fには、インク吐出ノズル18の開口部である微小径を有する吐出口18aが、インク吐出面Fの長手方向(主走査方向)において少なくとも印字領域の最大幅に亘って複数設けられている。
【0025】
また、記録ヘッド17a〜17cは、インク吐出面Fの吐出口18a以外の部分を覆う撥水膜73と、吐出口18aに対して1つずつ設けられた加圧室75と、加圧室75とインク吐出ノズル18を連通するノズル流路76と、インクを貯留するインクタンク20(図7参照)から複数の加圧室75にインクを供給する共通流路77とを備える。加圧室75と共通流路77とは供給孔79で連通されており、この供給孔79を介して共通流路77から加圧室75にインクが供給される。インク吐出ノズル18は加圧室75内から吐出口18aまで連続している。加圧室75の壁のうちインク吐出面Fと逆側の壁は振動板80で構成されている。振動板80は複数の加圧室75に亘って連続して形成されており、振動板80には同様に複数の加圧室75に亘って連続して形成された共通電極81が積層されている。共通電極81上には、加圧室75毎に別個の圧電素子71が設けられており、共通電極81と共に圧電素子71を挟むように、加圧室75毎に別個の個別電極83が設けられる。
【0026】
ヘッド駆動部の駆動パルス発生部(図示せず)で生成された駆動パルスが個別電極83に印加されることで、各圧電素子71は個別に駆動される。この駆動による圧電素子71の変形が振動板80に伝達され、振動板80の変形によって加圧室75が圧縮される。その結果、加圧室75内のインクに圧力が加わり、ノズル流路76及びインク吐出ノズル18を通過したインクが吐出口18aからインク滴となって用紙上に吐出される。なお、インク滴が吐出されない間も、インク吐出ノズル18内にはインクが入っており、インク吐出ノズル18内でインクはメニスカス面Mを形成している。
【0027】
各ラインヘッド11C〜11Kを構成する記録ヘッド17a〜17cには、それぞれインクタンク20(図7参照)に貯留されている4色(シアン、マゼンタ、イエロー及びブラック)のインクがラインヘッド11C〜11Kの色毎に供給される。
【0028】
各記録ヘッド17a〜17cは、制御部110(図1参照)からの制御信号により外部コンピューター等から受信した画像データに応じて、第1搬送ベルト8の搬送面に吸着保持されて搬送される用紙Sに向かってインク吐出ノズル18からインクを吐出する。これにより、第1搬送ベルト8上の用紙Sにはシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色のインクが重ね合わされたカラー画像が形成される。
【0029】
また、記録ヘッド17a〜17cの乾燥や目詰まりによるインクの吐出不良を防止するために、長期間停止後の印字開始時は全ての記録ヘッド17a〜17cのインク吐出ノズル18から、また印字動作の合間にはインク吐出量が規定値以下の記録ヘッド17a〜17cのインク吐出ノズル18から、ノズル内の粘度が高くなったインクを押し出すパージを実行して、次の印字動作に備える。
【0030】
なお、記録ヘッド17a〜17cからのインクの吐出方式としては、例えば、図示しないピエゾ素子を用いてインクを押し出すピエゾ方式や、発熱体によって気泡を発生させ、圧力をかけてインクを吐出するサーマルインクジェット方式など、各種方式を適用することができる。
【0031】
また、記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面Fの一方端部には、ノズル領域Rに比べて親水性の高い親水性部材60(図18参照)が貼り付けられている。親水性部材60は、例えば50〜100μm厚のSUS板により形成されており、親水性部材60の接触角(約90度以下)は、ノズル領域Rの接触角(約110度)よりも約20度以上小さい。また、親水性部材60の一部はインク吐出面Fから外側に突出しており、その突出した部分は上側に折り曲げられて傾斜面60aを形成している。なお、傾斜面60aは、インク吐出面Fに対して例えば約60度折り曲げられている。
【0032】
図1に戻って、用紙搬送方向に対し第1搬送ユニット5の下流側(図1の右側)には第2搬送ユニット12が配置されている。第2搬送ユニット12は、用紙搬送方向に対し下流側に配置された第2駆動ローラー13と、上流側に配置された第2従動ローラー14と、第2駆動ローラー13及び第2従動ローラー14に掛け渡された第2搬送ベルト15とを含む構成であり、第2駆動ローラー13が時計回り方向に回転駆動されることにより、第2搬送ベルト15に保持された用紙Sが矢印X方向に搬送される。
【0033】
記録部9にてインク画像が記録された用紙Sは第2搬送ユニット12へと送られ、第2搬送ユニット12を通過する間に用紙S表面に吐出されたインクが乾燥される。また、第2搬送ユニット12の下方にはメンテナンスユニット19及びキャップユニット90が配置されている。メンテナンスユニット19は、上述したパージを実行する際に記録部9の下方に移動し、記録ヘッド17a〜17cのインク吐出ノズル18から押し出されたインクを拭き取り、拭き取られたインクを回収する。キャップユニット90は、記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面F(図4参照)をキャッピングする際に記録部9の下方に水平移動し、さらに上方に移動して記録ヘッド17a〜17cの下面に装着される。なお、メンテナンスユニット19の詳細な構成については後述する。
【0034】
また、用紙搬送方向に対し第2搬送ユニット12の下流側には、画像が記録された用紙Sを装置本体外へと排出する排出ローラー対16が設けられており、排出ローラー対16の下流側には、装置本体外へと排出された用紙Sが積載される排出トレイ(図示せず)が設けられている。
【0035】
続いて、印字時におけるインクタンク20から記録ヘッド17a〜17cへのインクの供給、及びパージ時における記録ヘッド17a〜17cからのインクの吐出について説明する。なお、各色のインクタンク20(図7参照)と記録ヘッド17a〜17cとの間に、それぞれ図7に示すインク流路が設けられているが、ここでは任意の1色におけるインク流路について説明する。
【0036】
図7に示すように、インクタンク20と記録ヘッド17a〜17cとの間には、シリンジポンプ21が配置されている。インクタンク20とシリンジポンプ21とはチューブ部材から成る第1供給路23によって連結され、シリンジポンプ21と記録ヘッド17a〜17c内の共通流路77(図6参照)とはチューブ部材から成る第2供給路25によって連結されている。
【0037】
第1供給路23には流入側弁27が設けられており、第2供給路25には流出側弁29が設けられている。流入側弁27を開閉することにより第1供給路23内のインクの移動が許容または規制され、流出側弁29を開閉することにより第2供給路25内のインクの移動が許容または規制される。
【0038】
シリンジポンプ21は、シリンダー21aとピストン21bとを備えている。シリンダー21aは、第1供給路23及び第2供給路25と接続されており、第1供給路23を通じてインクタンク20内のインク22がシリンダー21aに流入するようになっている。また、シリンダー21aから第2供給路25を通じてインクが排出され、排出されたインクは記録ヘッド17a〜17cに供給され、インク吐出ノズル18からインク吐出面Fのノズル領域Rに吐出されるようになっている。
【0039】
ピストン21bは、駆動装置(図示せず)によって上下に移動可能となっている。ピストン21bの外周には、Oリング等のパッキン(不図示)が装着されており、シリンダー21aからのインクの漏れを防ぐと共に、ピストン21bがシリンダー21aの内周面に沿って滑らかに摺動できるようになっている。
【0040】
通常時(印字時)は、図7に示すように、流入側弁27及び流出側弁29は共に開放状態であり、ピストン21bを予め設定された位置で停止させておくことにより、シリンダー21a内には略一定量のインクが充填されている。そして、シリンダー21aと記録ヘッド17a〜17cとの間の表面張力(メニスカス)によって、インク22がシリンダー21aから記録ヘッド17a〜17cへと供給される。
【0041】
メンテナンスユニット19には、図8に示すワイピング機構30が搭載されている。ワイピング機構30は、複数のワイパー35a〜35c(図9参照)が固定された略矩形状のキャリッジ31と、キャリッジ31を支持する支持フレーム40とで構成されている。支持フレーム40の上面の対向する端縁にはレール部41a、41bが形成されており、キャリッジ31の四隅に設けられた摺動コロ36がレール部41a、41bに当接することで、キャリッジ31は支持フレーム40に対し矢印AA′方向に摺動可能に支持される。
【0042】
図9に示すように、キャリッジ31は、支持フレーム40のレール部41a、41bに摺動コロ36を介して摺動可能に係合する第1ステー32a、32bと、第1ステー32a、32bの間に橋渡し状に固定された第2ステー33a、33b、33cとで枠体状に形成されている。
【0043】
第1ステー32aには、支持フレーム40に保持された入力ギア43(図8参照)に噛み合うラック歯38が形成されている。入力ギア43が正逆方向に回転すると、キャリッジ31は支持フレーム40に沿って水平方向(図8の矢印AA′方向)に往復移動する。なお、ラック歯38、入力ギア43および後述する昇降機構50によって、本発明の駆動機構が構成されている。
【0044】
ワイパー35a〜35cは、各記録ヘッド17a〜17cのインク吐出ノズル18から押し出されたインクを拭き取るための部材である。ワイパー35a〜35cは、インク吐出ノズル18のノズル面が露出するノズル領域R(図5参照)の外側の位置に略垂直方向から圧接され、キャリッジ31の移動によりノズル領域Rを含むインク吐出面Fを所定方向(図8の矢印AA′方向)に拭き取る。
【0045】
第2ステー33aには4枚のワイパー35aが略等間隔で固定されており、同様に、第2ステー33bには4枚のワイパー35bが、第2ステー33cには4枚のワイパー35cが略等間隔で固定されている。ワイパー35a、35cは、それぞれ各ラインヘッド11C〜11Kを構成する左右の記録ヘッド17a、17c(図3参照)に対応する位置に配置されている。また、ワイパー35bは、各ラインヘッド11C〜11Kを構成する中央の記録ヘッド17b(図3参照)に対応する位置に配置されており、ワイパー35a、35cに対しキャリッジ31の移動方向(図8の矢印AA′方向)と直交する方向に所定距離だけずらして固定されている。
【0046】
第2ステー33a、33cの上面の4箇所にはギャップコロ37が設けられている。ギャップコロ37は、ワイパー35a〜35cによる記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面Fの拭き取り動作を行うためにワイピング機構30を記録部9側に上昇させたとき、記録部9のヘッドハウジング10に当接することでワイパー35a〜35cとインク吐出面Fとの接触状態を一定に保持する。
【0047】
図10に示すように、支持フレーム40の上面には、ワイパー35a〜35cによってインク吐出面Fから拭き取られた廃インクを回収するためのインク回収トレイ44が配置されている。インク回収トレイ44の略中央部には、第2ステー33a〜33cの延在方向に沿って溝部44aが形成されており、溝部44aを挟んで両側のトレイ面44b、44cは、溝部44aに向かって下り勾配となっている。溝部44a内にはインク排出孔44dが設けられており、溝部44aの底面はインク排出孔44dに向かって下り勾配となっている。
【0048】
ワイパー35a〜35cによってインク吐出面Fから拭き取られ、トレイ面44b、44cに落下した廃インクは溝部44aに集められ、さらに溝部44a内をインク排出孔44dに向かって流れる。その後、インク排出孔44dに連結されたインク回収路(図示せず)を通って廃インク回収タンク(図示せず)に回収される。
【0049】
次に、本実施形態のワイピング機構30を昇降させるための昇降機構50について説明する。メンテナンスユニット19は、図11に示すユニット筐体45と、ユニット筐体45に取り付けられるワイピング機構30(図8参照)と、ユニット筐体45に配置される昇降機構50と、を含んでいる。ユニット筐体45の底面45aには図11および図12に示すように、2個のリフト部材50aがシャフト50bの両端に固定された昇降機構50が、キャリッジ31の移動方向(図8の矢印AA′方向)に対向する側面45b、45cに沿って一対配置されている。即ち、昇降機構50は、記録部9のヘッドハウジング10の幅方向両端(図2の上下両端部)に対向する位置に配置される。なお、図11では側面45c側の昇降機構50の記載を省略している。また、ユニット筐体45の側面45b、45cに隣接する側面45dには、モーター47と、モーター47の回転駆動力をシャフト50bに伝達する駆動伝達軸48とが付設されている。
【0050】
図14に示すように、リフト部材50aの下端部はシャフト50bに固定されており、シャフト50bの回転に伴いリフト部材50aは揺動する。リフト部材50aの上端部には押し上げコロ53が回転自在に付設されている。押し上げコロ53は支持フレーム40の下端部に形成された係合部41c(図8参照)に係合しており、係合部41cに沿って回転移動可能となっている。従って、昇降機構50を作動させる際の支持フレーム40とリフト部材50aとの摩擦が押し上げコロ53の回転により低減されるため、円滑な昇降動作が可能となる。また、押し上げコロ53は、コイルバネ55によってシャフト50bから離間する方向(図14では上方向)に付勢されている。
【0051】
図12の状態から、右側の昇降機構50のシャフト50bを時計回り方向に、左側の昇降機構50のシャフト50bを反時計回り方向に回転すると、ユニット筐体45の内側に倒れ込んだリフト部材50aが外側方向(矢印B方向)に立ち上がり、押し上げコロ53が係合部41cの外側端部まで移動する。これにより、リフト部材50aは水平状態から起立状態(図13の状態)に切り替えられ、支持フレーム40と共にキャリッジ31を上昇させる。
【0052】
一方、図13の状態から、右側の昇降機構50のシャフト50bを反時計回り方向に、左側の昇降機構50のシャフト50bを時計回り方向に回転すると、リフト部材50aがユニット筐体45の内側方向(矢印B′方向)に倒れ込み、押し上げコロ53が係合部41cの内側端部まで移動する。これにより、リフト部材50aは起立状態から水平状態(図12の状態)に切り替えられ、支持フレーム40と共にキャリッジ31を下降させる。
【0053】
次に、本実施形態のインクジェット記録装置100における、ワイピング機構30を用いた記録ヘッド17a〜17cの回復動作について説明する。なお、図16図17および図30では、記録部9及びメンテナンスユニット19を用紙搬送方向下流側(図15の左側)から見た状態を示している。また、支持フレーム40は簡略化して板状に記載しており、ユニット筐体45は底面45aのみを記載している。また、以下で説明する記録ヘッド17a〜17cの回復動作およびキャップユニット装着動作は、制御部110(図1参照)からの制御信号に基づいて記録ヘッド17a〜17c、ワイピング機構30、昇降機構50等の動作を制御することによって実行される。
【0054】
記録ヘッド17a〜17cの回復動作を行う場合、先ず、図15に示すように、記録部9の下方に位置する第1搬送ユニット5を下降させる。そして、第2搬送ユニット12の下方に配置されたメンテナンスユニット19を水平移動させて記録部9と第1搬送ユニット5との間に配置する。この状態では、図16に示すように、昇降機構50のリフト部材50aは水平状態にあり、キャリッジ31に固定されたワイパー35a〜35cは記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面Fから離間している。
【0055】
(インク押出動作)
ワイピング動作(後述の第1拭き取り動作)に先立って、流入側弁27(図7参照)を閉じ、シリンジポンプ21(図7参照)を加圧することにより、シリンダー21a内のインク22が第2供給路25を通って記録ヘッド17a〜17cに供給される。図18に示すように、供給されたインク22はインク吐出ノズル18から強制的に押出(パージ)される。このパージ動作により、インク吐出ノズル18内の増粘インク、異物や気泡が排出され、記録ヘッド17a〜17cを回復することができる。このとき、図19に示すように、パージインク22bはインク吐出ノズル18の存在するノズル領域Rの形状に沿ってインク吐出面Fに押出される。
【0056】
(第1拭き取り動作)
ワイパー35a〜35cを、記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面Fの、ノズル領域Rの外側の第1位置P1に所定の圧力で接触させる。具体的には、図17および図18に示すように、昇降機構50のシャフト50bを回転させてリフト部材50aを矢印B方向に起立させることにより、支持フレーム40及びキャリッジ31を持ち上げる。このとき、リフト部材50aのコイルバネ55(図14参照)の付勢力によってキャリッジ31に設けられたギャップコロ37がヘッドハウジング10の下面に押し当てられるため、ワイパー35a〜35cをインク吐出面Fに対し常に一定の圧力で圧接させることができる。
【0057】
ワイパー35a〜35cの先端がインク吐出面Fに圧接した状態から、入力ギア43(図8参照)を正回転させてキャリッジ31を図17の矢印A方向に移動させることにより、キャリッジ31に支持されたワイパー35a〜35cも図20に示すようにインク吐出面Fに沿ってノズル領域Rの方向(左方向、第1方向)に移動する。支持フレーム40には昇降機構50によって上方向の力が作用しているため、キャリッジ31はギャップコロ37がヘッドハウジング10に押し当てられた状態を維持しながら矢印A方向に移動する。
【0058】
このとき、図20に示すように、前回の記録ヘッド回復動作時にワイパー35a〜35cの先端(上端)に残留し、長時間空気に触れて増粘した残留インク22aは、インク吐出面Fの第1位置P1に付着し、ワイパー35a〜35cの先端から離間する。
【0059】
そして、図21に示すように、ワイパー35a〜35cは、インク吐出面Fのパージインク22bを拭き取りながら左方向(矢印A方向)に移動し、ノズル領域Rに対して第1位置P1とは反対側の位置(第2位置P2)に到達すると、左方向への移動が停止される。このため、第2位置P2にはワイパー35a〜35cに沿ったインク吐出面Fにパージインク22bが付着していることになる。なお、ワイパー35a〜35cによって拭き取られた廃インクの大部分は、インク回収トレイ44(図10参照)に回収される。
【0060】
(塗り広げ動作)
第1拭き取り動作の実行後、第2位置P2(親水性部材60が設けられた位置)において、矢印A方向と直交する方向(図21の紙面に対して垂直方向、インク吐出面Fの幅方向)にワイパー35a〜35cを複数回往復移動させる。これにより、図22に示すようにパージインク22bがインク吐出面Fの幅方向に十分に濡れ広がっていない場合であっても、図23に示すようにパージインク22bをインク吐出面Fの幅方向に十分に塗り広げることができる。なお、ワイパー35a〜35cを矢印A方向と直交する方向に移動させる機構としては、メンテナンスユニット19を第2搬送ユニット12の下方から記録部9の下方に移動させる機構(図示せず)を用いることができる。
【0061】
(離間動作)
塗り広げ動作の実行後、図24に示すように、ワイパー35a〜35cをインク吐出面Fから離間させる。具体的には、昇降機構50のシャフト50b(図17参照)を逆回転させてリフト部材50aを矢印B方向と反対方向に揺動させて水平状態にすることにより、支持フレーム40及びキャリッジ31を下降させる。なお、ワイパー35a〜35cをインク吐出面Fから離間させる際に、図24に示すようにワイパー35a〜35cの先端にパージインク22bの一部が残る。
【0062】
(移動動作)
その後、図25に示すように、ワイパー35a〜35cを水平移動させる。具体的には、図24の状態から入力ギア43(図8参照)を正回転させてキャリッジ31を矢印A方向に移動させることにより、図25に示すように、キャリッジ31に支持されたワイパー35a〜35cが、第2位置P2に対してノズル領域Rとは反対方向(左方向)に移動する。
【0063】
(第2拭き取り動作)
その後、インク吐出面Fのパージインク22bおよび残留インク22aを拭き取るワイピング動作を行う。具体的には、昇降機構50のシャフト50bを回転させてリフト部材50aを矢印B方向に起立させることにより、支持フレーム40及びキャリッジ31を持ち上げる。これにより、図26に示すように、ワイパー35a〜35cをインク吐出面Fに接触できる高さまで上昇させる。そして、図26の状態から入力ギア43(図8参照)を逆回転させてキャリッジ31を矢印A方向と反対方向(右方向、第2方向)に移動させることにより、図27に示すように、ワイパー35a〜35cがインク吐出面Fに沿ってノズル領域Rの方向(右方向)に移動する。このとき、ワイパー35a〜35cの先端に少しだけ付着していたインクは、親水性部材60の傾斜面60aに掻き取られる。なお、親水性部材60の傾斜面60aにインクが溜まった場合であっても、インク吐出面Fにインクが溜まる場合と異なり、溜まったインクが紙面に接触して汚してしまうのを抑制することができる。
【0064】
そして、第2位置P2のパージインク22bおよび第1位置P1の残留インク22aが拭き取られる。このとき、図28に示すようにワイパー35a〜35cに拭き取られたパージインク22bが残留インク22aに接触した際に、残留インク22aがパージインク22bに再溶解して増粘が緩和される。
【0065】
その後、ワイパー35a〜35cが、それぞれ記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面Fの端縁(図29の右端縁)まで移動し、ワイパー35a〜35cによって拭き取られた廃インクはインク回収トレイ44(図10参照)に回収される。そして、図30に示すように、昇降機構50のシャフト50bを回転させてリフト部材50aを矢印B′方向に倒伏させることにより、ワイパー35a〜35cを、記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面Fから下方に退避させてメンテナンスユニット19を図16の状態に戻す。最後に、記録部9と第1搬送ユニット5との間に配置されたメンテナンスユニット19を水平移動させて第2搬送ユニット12の下方に配置し、第1搬送ユニット5を所定の位置まで上昇させて記録ヘッド17a〜17cの回復動作を終了する。
【0066】
記録ヘッド17a〜17cにキャップユニット90を装着する場合は、先ず、図15に示すように、記録部9の下面に対向配置されている第1ベルト搬送部5を下降させる。そして、第2ベルト搬送部12の下方に配置されたキャップユニット90を記録部9と第1ベルト搬送部5との間に水平移動させて記録部9に対向する位置に配置する。
【0067】
次いで、第1ベルト搬送部5を上昇させることにより、キャップユニット90が押し上げられる。そして、キャップユニット90が記録ヘッド17a〜17cに密着した時点で第1ベルト搬送部5の上昇を停止させることにより、キャップユニット90の装着を完了する。
【0068】
本実施形態では、上記のように、ワイパー35a〜35cの先端の残留インク22aを第1位置P1に付着させるとともに、パージインク22bを拭き取る第1拭き取り動作の実行後、パージインク22bを塗り広げた第2位置P2に対してノズル領域Rとは反対側の位置から、ワイパー35a〜35cをインク吐出面Fに沿って矢印A′方向(右方向)に移動させる第2拭き取り動作を実行することによって、ワイパー35a〜35cにより第2位置P2のパージインク22bと第1位置P1の残留インク22aとを拭き取ることができる。これにより、インク吐出面Fに残留インク22aが溜まるのを抑制することができるので、大きなインク溜まりが発生するのを抑制することができる。また、インク吐出面Fに順次接触する2枚のワイパー35a〜35cを設ける場合(上記特許文献1の構成)と異なり、ワイパー35a〜35cの数が多くなるのを抑制することができるので、記録ヘッド17a〜17cの回復システムの構造が複雑になるのを抑制することができる。
【0069】
また、第2拭き取り動作において、ワイパー35a〜35cを、第2位置P2に対してノズル領域Rとは反対側の位置から、矢印A′方向(右方向)に移動させることによって、ワイパー35a〜35cは第2位置P2のパージインク22bを拭き取った後で第1位置P1の残留インク22aを拭き取ることになる。これにより、ワイパー35a〜35cが残留インク22aを拭き取る際に、増粘していないパージインク22bが、長時間大気にさらされて増粘した残留インク22aに接触するので、残留インク22aが再溶解して増粘が緩和される。このため、第2拭き取り動作において、インク吐出面Fに付着した残留インク22aをワイパー35a〜35cにより、拭き取り易くすることができる。
【0070】
また、第1拭き取り動作の実行後、第2位置P2において矢印A方向と直交する方向(インク吐出面Fの幅方向)にワイパー35a〜35cを移動させる塗り広げ動作を実行する。これにより、第2位置P2においてインク吐出面Fの幅方向にパージインク22bを塗り広げることができるので、第2拭き取り動作において第2位置P2から矢印A′方向(右方向)側で拭き残しが生じるのを抑制することができる。なお、第2位置P2においてインク吐出面Fの幅方向にパージインク22bが十分に濡れ広がっていない状態で第2拭き取り動作を実行すると、パージインク22bが不足している領域(図22の上側の領域)ではインク吐出面Fに拭き残しが生じてしまう。
【0071】
また、上記のように、インク吐出面Fの第2位置P2を含む所定領域には、ノズル領域Rに比べて親水性の高い親水性部材60が設けられている。これにより、塗り広げ動作において、インク吐出面Fの幅方向に容易にパージインク22bを塗り広げることができる。
【0072】
また、上記のように、塗り広げ動作において、ワイパー35a〜35cは、インク吐出面Fの幅方向に複数回往復移動される。これにより、塗り広げ動作において、インク吐出面Fの幅方向に十分にパージインク22bを塗り広げることができる。
【0073】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0074】
例えば、上記実施形態では、インク押出動作を、第1拭き取り動作の前に実行したが、ワイパー35a〜35cがノズル領域Rに進入する前であれば、第1拭き取り動作と同時に実行してもよい。
【0075】
また、上記実施形態では、親水性部材60をSUS板により形成した例について示したが、本発明はこれに限らない。親水性部材60を樹脂部材やフィルムにより形成してもよい。また、第2位置P2を含む所定領域のみ、撥水膜73を設けないことによって、ノズル領域Rに比べて親水性を高くしてもよい。この場合、インク吐出面Fの段差を略ゼロにすることができる。
【0076】
また、上記実施形態では、親水性部材60の一部をインク吐出面Fから外側に突出させ、その部分を折り曲げることにより傾斜面60aを形成した例について示したが、本発明はこれに限らない。離間動作においてワイパー35a〜35cの先端に残るパージインク22bが十分に少ない場合は、親水性部材60をインク吐出面Fから外側に突出させなくてよく、傾斜面60aも形成しなくてよい。
【0077】
また、ラック歯38と入力ギア43、及び昇降機構50で構成されるキャリッジ31の駆動機構についても、従来公知の他の駆動機構を用いることができる。記録ヘッド17a〜17cのインク吐出ノズル18の個数やノズル間隔等もインクジェット記録装置100の仕様に応じて適宜設定することができる。また、記録ヘッドの数も特に限定されるものではなく、例えば各ラインヘッド11C〜11Kにつき記録ヘッド17を1個、2個、或いは4個以上配置することもできる。
【0078】
また、本発明は、ラインヘッド11C〜11Kのうちいずれか1つのみを備えた単色印刷用のインクジェット記録装置にも適用できる。その場合、記録ヘッド17a〜17cは1つずつ設けられるため、記録ヘッド17a〜17cに対応するワイパー35a〜35cもキャリッジ31に1枚ずつ固定すれば良い。
【符号の説明】
【0079】
17a〜17c 記録ヘッド
18 インク吐出ノズル(吐出ノズル)
22 インク
22a 残留インク
22b パージインク
35a〜35c ワイパー
38 ラック歯(駆動機構)
43 入力ギア(駆動機構)
50 昇降機構(駆動機構)
60 親水性部材
100 インクジェット記録装置
110 制御部
F インク吐出面
P1 第1位置
P2 第2位置
R ノズル領域
S 用紙(記録媒体)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図15
図16
図17
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図19
図20
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図28
図29
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図31B
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図31D
図32A
図32B
図32C