(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6180400
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】遠心送風機用羽根車および遠心送風機
(51)【国際特許分類】
F04D 29/28 20060101AFI20170807BHJP
【FI】
F04D29/28 M
F04D29/28 N
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-233618(P2014-233618)
(22)【出願日】2014年11月18日
(65)【公開番号】特開2016-98658(P2016-98658A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2016年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】渕辺 学
【審査官】
松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−223645(JP,A)
【文献】
実開昭55−039302(JP,U)
【文献】
特開2001−298925(JP,A)
【文献】
特開2014−088787(JP,A)
【文献】
特開2010−025087(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/28
F04D 29/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主板と、
軸方向一方側が前記主板に結合された複数の羽根と、
前記複数の羽根の軸方向他方側を連結する連結リングと、を備えた遠心送風機の羽根車であって、
前記主板の外周部の軸方向一方側の面に、バランスウエイトを取り付けるための第1の周溝が全周にわたって形成され、
前記連結リングに、バランスウエイトを取り付けるための第2の周溝が全周にわたって形成され、
前記主板の軸方向他方側の面であって前記第1の周溝に対応する部分に環状の盛り上がり部が形成されており、
前記主板の前記第1の周溝および前記連結リングの前記第2の周溝の少なくとも一方は、内周側と外周側の壁部を有し、半径方向に対する該内周側の壁部の傾斜角度をα、半径方向に対する該外周側の壁部の傾斜角度をβとした場合、角度αが角度βよりも小さいことを特徴とする遠心送風機用羽根車。
【請求項2】
前記主板は軸方向他方側に突出するカップ状のハブ部を有し、該ハブ部にシャフトが固定されていることを特徴とする請求項1に記載の遠心送風機用羽根車。
【請求項3】
前記連結リングは前記複数の羽根の半径方向外側に配置され、該複数の羽根の半径方向外側の面を連結していることを特徴とする請求項1または2に記載の遠心送風機用羽根車。
【請求項4】
前記第2の周溝は前記連結リングの軸方向他方側の面に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の遠心送風機用羽根車。
【請求項5】
前記第2の周溝は前記連結リングの半径方向外側に形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の遠心送風機用羽根車。
【請求項6】
前記連結リングの内径寸法は前記主板の外径寸法よりも大きいことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の遠心送風機用羽根車。
【請求項7】
前記主板の前記盛り上がり部の肉厚寸法は該主板の肉厚寸法以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の遠心送風機用羽根車。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の羽根車を備えることを特徴とする遠心送風機
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心送風機用羽根車および遠心送風機に係り、特に、羽根どうしが連結リングで連結された構造を有する遠心送風機用羽根車および遠心送風機に関する。
【背景技術】
【0002】
家電機器、OA機器、産業機器の冷却、換気、空調や、車両用の送風機などに、遠心送風機が広く用いられている。この種の遠心送風機としては、軸心に駆動シャフトが固定される円盤状の主板における片面に、複数の湾曲する羽根が固定された羽根車を備えている。そして、羽根の外周側の先端部に、各羽根を連結する連結リングが固定された形式のものが特許文献1等で知られている。
【0003】
ところで、この種の送風機では、羽根車に発生する回転アンバランスを抑える手段が設けられ、特許文献1では、連結リングに設ける肉盗み部によって羽根車の回転バランスを取ることができる旨の記載がなされている(段落0105)。羽根車の回転バランス調整は、周方向において回転アンバランスが発生している位置の軸対称位置に回転アンバランスを相殺するバランスウエイトを取り付けるといった手段が一般的であり、特許文献2には、上記連結リングに相当するベルマウスの外周縁にクリップ状のバランスウエイトを挟み付けて取り付ける構成のターボ送風機が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−088787号公報
【特許文献2】特開平11−210690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の送風機における回転バランスの調整手段では、容易に、かつ短時間で回転バランスの調整を行うことができるかという点で量産性に問題があった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、回転バランスの調整を容易に、かつ短時間で行うことができ、量産性に優れた遠心送風機用羽根車と、そのような羽根車を用いた遠心送風機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の遠心送風機用羽根車は、主板と、軸方向一方側が前記主板に結合された複数の羽根と、前記複数の羽根の軸方向他方側を連結する連結リングと、を備えた遠心送風機の羽根車であって、前記主板の外周部の軸方向一方側の面に、バランスウエイトを取り付けるための第1の周溝が全周にわたって形成され、前記連結リングに、バランスウエイトを取り付けるための第2の周溝が全周にわたって形成され、前記主板の軸方向他方側の面であって前記第1の周溝に対応する部分に環状の盛り上がり部が形成されて
おり、前記主板の前記第1の周溝および前記連結リングの前記第2の周溝の少なくとも一方は、内周側と外周側の壁部を有し、半径方向に対する該内周側の壁部の傾斜角度をα、半径方向に対する該外周側の壁部の傾斜角度をβとした場合、角度αが角度βよりも小さいことを特徴とする(請求項1)。
【0008】
本発明の羽根車によれば、主板の第1の周溝と連結リングの第2の周溝の双方にバランスウエイトを入れて取り付けることで回転バランスを調整することができる。主板の第1の周溝は主板の外周部に形成されているため、内周側にバランスウエイトを取り付ける場合に比べると少ない量のバランスウエイトで効果的に回転バランスの調整が達成される。また、第1の周溝は主板の外周部の軸方向一方側の面に形成され、第2の周溝は羽根の軸方向他方側を連結する連結リングに形成されており、いずれも軸方向外方に開放しているため、バランスウエイトを取り付ける作業がしやすい。これらの結果、本発明の羽根車は、容易に、かつ短時間で回転バランスの調整を行うことができるとともに、優れた量産性を有する。また、主板においては第1の周溝に対応する部分に環状の盛り上がり部が形成されているため、当該部分の肉厚が薄くならず強度が確保される。
【0009】
本発明は、前記主板は軸方向他方側に突出するカップ状のハブ部を有し、該ハブ部にシャフトが固定されている形態を含む(請求項2)。
【0010】
また、本発明は、前記連結リングは前記複数の羽根の半径方向外側に配置され、該複数の羽根の半径方向外側の面を連結している形態を含む(請求項3)。この形態では連結リングが複数の羽根の半径方向外側に配置されることにより、該連結リングに形成した第2の周溝に取り付けるバランスウエイトの量を少なくすることができる。本発明では、この第2の周溝が、前記連結リングの軸方向他方側の面に形成されている形態を含む(請求項4)。また、この第2の周溝が、前記
連結リングの半径方向外側に形成されている形態も含む(請求項5)。
【0011】
また、本発明は、前記主板の前記第1の周溝および前記連結リングの前記第2の周溝の少なくとも一方が、内周側と外周側の壁部を有し、半径方向に対する該内周側の壁部の傾斜角度をα、半径方向に対する該外周側の壁部の傾斜角度をβとした場合、角度αが角度βよりも小さい
。このような形態の周溝では周溝の幅が大きくなり、このためバランスウエイトが可塑性を有する粘土状物の場合、そのバランスウエイトをへらなどで当該周溝の外周側の壁部に付着させて埋め込む作業が容易になり、また、遠心力によってバランスウエイトが外周側の壁部に押し付けられるので、当該周溝からバランスウエイトが剥離することが抑えられる。
【0012】
また、本発明は、前記連結リングの内径寸法は前記主板の外径寸法よりも大きい形態を含む(請求項
6)。この形態では、連結リングの周溝に取り付けるバランスウエイトをより外周側に取り付けることができ、バランスウエイトの少量化に寄与する。
【0013】
また、本発明は、前記主板の前記盛り上がり部の肉厚寸法は該主板の肉厚寸法以下である形態を含む(請求項
7)。この形態では、盛り上がり部による強度確保を可能としながら盛り上がり部の過剰な突出を抑えることができる。
【0014】
次に、本発明の遠心送風機は、請求項1〜
7のいずれかに記載の羽根車を備えることを特徴とする(請求項
8)。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、回転バランスの調整を容易に、かつ短時間で行うことができ、量産性に優れた遠心送風機用羽根車と、そのような羽根車を用いた遠心送風機が提供されるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る遠心送風機の縦断面図である。
【
図2】同遠心送風機が備える羽根車の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
[1]遠心送風機の基本構成
図1は、一実施形態に係る羽根車3を備えた遠心送風機1の縦断面図、
図2は羽根車3の平面図、
図3、
図4は羽根車3の上側斜視図、下側斜視図である。この遠心送風機1は、板状のベース2と、羽根車3と、羽根車3を回転させるモータ4とを備えている。
【0018】
ベース2は水平に設置され、このベース2の上に、軸受23を介して羽根車3が回転可能に支持されている。羽根車3は、ベース2と平行に配設される円盤状の主板31と、主板31の上面に形成された複数の羽根32と、複数の羽根32の外周に配置された連結リング33とを有している。羽根車3は、主板31、複数の羽根32、連結リング33が例えば合成樹脂の一体成形によって製造される。
【0019】
図1に示すように、羽根車3は上面が流体吸い込み口301、側周面が流体吹き出し口302となり、モータ4によって
図2の矢印R方向に回転させられる。羽根車3が回転すると流体吸い込み口301から空気(流体)を吸い込み、その空気を、流体吹き出し口302から排出する。空気は、羽根車3の中心に固定されたシャフト34から離れる方向に排出される。
【0020】
図1に示すように、主板31の中央部には、円筒部312および蓋部313を有するカップ状のハブ部311が形成されている。ハブ部311は、周囲の主板31の平坦部から上方に突出しており、その内部にモータ4が収容されている。ハブ部311の蓋部313の中心に、モータ4を貫通して上下方向に延びるシャフト34の上端部が固定されている。シャフト34は、例えばハブ部311にインサート成型により同軸的に固定される。上記ベース2の中心にはボス21が形成され、このボス21内に上下方向に延びるスリーブ22が立設して固定されている。そしてこのスリーブ22内に、上下一対の軸受23を介してシャフト34が回転可能に支持されている。軸受23は転がり軸受に限定されるものではなく、含油軸受などの滑り軸受を用いてもよい。
【0021】
図2に示すように、各羽根32は、外周側から内周側に向かうにつれて回転方向に沿うよう湾曲して形成され、全体として渦巻き状を呈しており、内周側の端部とハブ部311の円筒部312との間には隙間が空いている。羽根32は、主板31上に周方向に等間隔をおいて突設され、高さはハブ部311よりも高く形成されている。各羽根32は、連結リング33によって互いに連結されている。羽根32の高さはハブ部311より低く設定される場合もある。
【0022】
連結リング33は、各羽根32の外周側の端部であってその上端部を連結し、かつ、各羽根32から外周側に突出する状態に環状に形成されている。
図1に示すように、連結リング33は接続部331を介して各羽根32に接続され、その内径寸法は、主板31の外径寸法と同じかそれよりも大きく設定されている。連結リング33の内径寸法と主板31の外径寸法をこのような関係に設定することで、羽根車3を成形するための金型を、可動側と固定側の2分割構造とすることができ、その結果、低コスト化が図られ、量産性も向上する。
【0023】
図1に示すように、羽根車3を回転駆動するモータ4は、上記スリーブ22の外周面に固定されたステータ41と、上記ハブ部311の円筒部312の内周面にステータ41に対し隙間を空けて対向して固定されたロータマグネット42とから構成される。ロータマグネット42の外周側にはヨーク421が固定されている。ステータ41は、ロータマグネット42に向かって放射状に延びるステータコア411と、ステータコア411に装着されたインシュレータ412と、インシュレータ412に巻かれたコイル413とから構成される。ステータ41の下側には、羽根車3の回転駆動を制御する回路基板414が配置されている。
【0024】
モータ4によれば、上記回路基板414を介してコイル413に電流が流され、その電流が回路基板414の駆動回路によって制御されることによりステータコア411が順次励磁される。これによってロータマグネット42が固定された羽根車3が、シャフト34を中心に
図2において矢印R方向に回転する。羽根車3が回転すると、一体に回転する羽根32により上方の流体吸い込み口301から空気が吸い込まれ、その空気が側方の流体吹き出し口302から吹き出されるといった送風作用が発生する。
【0025】
[2]回転バランスの調整手段
続いて、上記羽根車3の回転バランスの調整手段について説明する。羽根車3の主板31の下面側(軸方向一方側)における外周縁には、
図5に示すように下方に開口する周溝(第1の周溝)314が全周にわたって形成されている。一方、連結リング33の上面側(軸方向他方側)には、
図6に示すように上方に開口する周溝(第2の周溝)334が全周にわたって形成されている。
【0026】
図5に示すように、主板31の周溝314の上側(軸方向他方側)には、周溝314に沿った環状の盛り上がり部315が形成されている。盛り上がり部315の肉厚寸法315tは、主板31の肉厚寸法31tと同等か、もしくはそれよりも薄く設定されている。
【0027】
本実施形態の羽根車3によれば、
図5および
図6に示すように、主板31の周溝314と連結リング33の周溝334の双方に適宜重量のバランスウエイトWを入れて取り付けることで、回転バランスを調整することができる。バランスウエイトWとしては、取り付け時には可塑性と粘着性とを有し、取り付け後に硬化して付着する特性を有するパテ等の粘土状物が好適に用いられる。その場合には、周溝314,334内にへら等の道具を使用して適量のパテを埋め込むことで、周溝314,334からはみ出さずに取り付けることができる。
【0028】
本実施形態では、バランスウエイトWが取り付けられる各周溝314,334は羽根車3の外周部に配置されているため、内周側にバランスウエイトを取り付ける場合に比べると少ない量のバランスウエイトWで効果的に羽根車3の回転バランスの調整が達成される。また、各周溝314,334は羽根車3の外周部に配置され周囲が開放しているため、バランスウエイトWを取り付ける作業がしやすい。これらの結果、羽根車3の回転バランスの調整を、容易に、かつ短時間で行うことができ、その結果、優れた量産性を有する。また、主板31においては周溝314に対応する部分に盛り上がり部315が形成されているため、当該部分の肉厚が薄くならず強度が確保される。
【0029】
また、連結リング33の内径寸法が主板31の外径寸法よりも大きいことにより、連結リング33の周溝334に取り付けるバランスウエイトWをより外周側に取り付けることができ、このため、バランスウエイトWのさらなる少量化が可能となる。また、主板31の周溝314の上方に形成した盛り上がり部315の肉厚寸法315tを主板31の肉厚寸法31t以下としたため、盛り上がり部315による強度確保を可能としながら盛り上がり部315の過剰な突出を抑えることができる。
【0030】
また、主板31の周溝314においては、
図5に示すように、周溝314を形成する内周側の壁部314aと外周側の壁部314bは、内周側の壁部314aの半径方向に対する傾斜角度をα、外周側の壁部314bの半径方向に対する傾斜角度をβとした場合、角度βは90°(直角)程度あり、角度αは90°よりも小さく、例えば40〜50°程度に設定されている。このような設定により周溝314の幅が大きくなり、パテのようなバランスウエイトWを周溝314に埋め込みやすく、また、遠心力によって周溝314からバランスウエイトWが剥離することが抑えられる。
【0031】
なお、連結リング33の周溝334も同様に外周側の壁部の傾斜角度が内周側の壁部よりも大きくなるように形成されていてもよい。また。各周溝314,334には、周方向に仕切り壁を設けることによってポケットを形成し、仕切り壁間にバランスウエイトWを取り付けることでバランスウエイトWの周方向への移動を抑える構成であってもよい。また、連結リング33に形成する周溝は、複数の羽根32の半径方向外側に形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0032】
1…遠心送風機
3…羽根車
31…主板
31t…主板の肉厚寸法
311…ハブ部
314…主板の周溝(第1の周溝)
315…盛り上がり部
315t…盛り上がり部の肉厚寸法
32…羽根
33…連結リング
334…連結リングの周溝(第2の周溝)
34…シャフト
W…バランスウエイト