特許第6180410号(P6180410)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6180410点滴灌漑用ドリッパおよびこれを備えた点滴灌漑装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6180410
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】点滴灌漑用ドリッパおよびこれを備えた点滴灌漑装置
(51)【国際特許分類】
   A01G 25/02 20060101AFI20170807BHJP
【FI】
   A01G25/02 601F
【請求項の数】11
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-516681(P2014-516681)
(86)(22)【出願日】2013年5月24日
(86)【国際出願番号】JP2013003305
(87)【国際公開番号】WO2013175802
(87)【国際公開日】20131128
【審査請求日】2016年4月6日
(31)【優先権主張番号】特願2012-118551(P2012-118551)
(32)【優先日】2012年5月24日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-118552(P2012-118552)
(32)【優先日】2012年5月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000208765
【氏名又は名称】株式会社エンプラス
(74)【代理人】
【識別番号】100105050
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲田 公一
(72)【発明者】
【氏名】木立 昌宏
【審査官】 木村 隆一
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05203503(US,A)
【文献】 米国特許第05586727(US,A)
【文献】 特開2010−046094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 25/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
灌漑用液体を流通させる長尺な流通管の内周面上であって前記流通管の管壁を貫通する前記灌漑用液体の吐出口に対応する位置に配置された状態で、前記流通管内の前記灌漑用液体を前記吐出口まで流通させる流路を含み、前記吐出口からの前記灌漑用液体の吐出量を制御するための点滴灌漑用ドリッパであって、
前記流通管内の前記灌漑用液体を前記流路内に流入させる流入部と、
前記流路における前記流入部よりも下流側に配置され、前記流入部から流入した前記灌漑用液体を前記吐出口側に向けて減圧させつつ流通させる減圧流路を構成するための減圧流路部と、
前記流通管の内周面に接合される第1の平面部と、
前記第1の平面部よりも前記流通管の中心軸側に配置される第2の平面部と、を有し、
前記流入部は、前記第2の平面部に配置され、疎水性を有し、所定の液圧未満の前記灌漑用液体を前記流路内に流入させない流入部であって、基板部と、前記基板部を貫通する複数の、毛細管現象を呈する細孔である流入口と、を有し、
前記基板部は、前記第2の平面部に含まれる表面および前記流路に面する裏面を有し、
少なくとも前記表面は、疎水性を有する、点滴灌漑用ドリッパ。
【請求項2】
前記流入口の内周面は、疎水性を有する、請求項に記載の点滴灌漑用ドリッパ。
【請求項3】
前記流入部は、疎水性材料で構成されている、請求項またはに記載の点滴灌漑用ドリッパ。
【請求項4】
前記流入部は、疎水性コートが施されている、請求項またはに記載の点滴灌漑用ドリッパ。
【請求項5】
前記流入部は、前記疎水性を有する面に凹凸形状を有する、請求項またはに記載の点滴灌漑用ドリッパ。
【請求項6】
前記流路における前記流入部よりも下流側に配置され、前記流通管内の前記灌漑用液体の液圧に応じて変形することによって、前記流路の断面の大きさを制御するダイヤフラム部をさらに有する、請求項1〜のいずれか1項に記載の点滴灌漑用ドリッパ。
【請求項7】
前記第2の平面部に開口し、前記流路と外部を連通する開口部をさらに有し、
前記減圧流路部は、前記流通管の内周面との間で前記減圧流路を構成する、前記第1の平面部から凹む溝を含み、
前記ダイヤフラム部は、前記開口部に、前記外部に部分的に露出するとともに、前記減圧流路を構成する前記流通管の内周面に向けて変形するように配置され、
前記流入部、前記減圧流路部および前記ダイヤフラム部は、樹脂材料で一体的に形成されている、請求項に記載の点滴灌漑用ドリッパ。
【請求項8】
灌漑用液体を流通させる長尺な流通管の内周面上であって前記流通管の管壁を貫通する前記灌漑用液体の吐出口に対応する位置に配置された状態で、前記流通管内の前記灌漑用液体を前記吐出口まで流通させる流路を含み、前記吐出口からの前記灌漑用液体の吐出量を制御するための点滴灌漑用ドリッパであって、
前記流通管内の前記灌漑用液体を前記流路内に流入させる流入部と、
前記流路における前記流入部よりも下流側に配置され、前記流入部から流入した前記灌漑用液体を前記吐出口側に向けて減圧させつつ流通させる減圧流路を、前記流通管の内周面との間で構成するための減圧流路部と、
前記流路上における前記流入部よりも下流側に、前記流通管内に部分的に露出し、前記流通管内の前記灌漑用液体の液圧に晒されて、前記流通管の内周面に向けて変形するように配置されるダイヤフラム部と、
前記流通管の内周面に接合される第1の平面部と、
前記第1の平面部よりも前記流通管の中心軸側に配置される第2の平面部と、を有し、
前記流入部は、前記第2の平面部に配置され、
前記ダイヤフラム部は、前記減圧流路を構成する前記流通管の内周面から離れる方向に向かって突出するように湾曲する薄肉の中央壁部と、前記中央壁部の外周縁に接続されて前記中央壁部を包囲し、前記方向に漸次拡大する形状を有する薄肉の周辺壁部と、を有し、前記液圧に応じて前記流通管の内周面に向けて変形することによって、前記流路の高さを、前記液圧が大きいほど前記流路の高さが低くなるように規制し、
前記流入部、前記減圧流路部および前記ダイヤフラム部は、樹脂材料で一体的に形成されている、点滴灌漑用ドリッパ。
【請求項9】
前記ダイヤフラム部は、前記流路における前記減圧流路部と前記吐出口との間に配置されている、請求項に記載の点滴灌漑用ドリッパ。
【請求項10】
前記第2の平面部に開口し、前記流路と外部を連通する開口部をさらに有し、
前記ダイヤフラム部は、前記開口部内に配置され、前記外部に部分的に露出する、請求項に記載の点滴灌漑用ドリッパ。
【請求項11】
管壁を貫通する吐出口を有し、灌漑用液体を流通させる長尺な流通管と、
前記流通管の内周面上であって前記吐出口に対応する位置に配置され、前記吐出口からの前記灌漑用液体の吐出量を制御するための請求項1〜10のいずれか1項に記載の点滴灌漑用ドリッパと、を有する、点滴灌漑装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点滴灌漑用ドリッパおよびこれを備えた点滴灌漑装置に係り、特に、植物の育成に好適な点滴灌漑用ドリッパおよびこれを備えた点滴灌漑装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、農地や植え込み等の土壌に育成される植物に対して水や液肥等の灌漑用液体を供給する手段として、点滴灌漑システムが用いられている。
【0003】
この点滴灌漑システムは、例えば、水源から水を汲み上げるポンプの下流側に、濾過器、液肥混入装置(必要に応じて化学薬品添加装置)、逆流防止装置、主配管等を順次接続した上で、流路末端に長尺な点滴灌水チューブを接続することによって構成される。また、点滴灌水チューブは、植物が育成される土壌の上に敷設される。
【0004】
ここで、点滴灌水チューブは、長尺なチューブ本体に長手方向に沿って所定の間隔ごとに穿設された複数の吐出口から、チューブ本体内の灌漑用液体を単位時間あたり所定の吐出量(換言すれば、吐出速度)で吐出する。これにより、点滴灌水チューブの外部の土壌に灌漑用液体をゆっくりと供給(すなわち、点滴灌漑)する。
【0005】
このような点滴灌水チューブによれば、水や肥料を節約することができる。また、緩やかな供給速度での給水を行うことによって、植物の根に必要な酸素を土壌中に確保することができる。その結果、植物の育成状態を良好に管理することができる。
【0006】
このような点滴灌水チューブには、各吐出口からの単位時間あたりの灌漑用液体の吐出量を制御するための点滴灌漑用ドリッパが、各吐出口に内蔵されている。
【0007】
この点滴灌漑用ドリッパは、チューブ本体内を流通する灌漑用液体を、流入口を通して点滴灌漑用ドリッパの内部に流入させ、ラビリンスと称される点滴灌漑用ドリッパの内部の減圧流路を流通させて減圧し、減圧流路の下流側に連通された吐出口から吐出するように構成されている。
【0008】
また、点滴灌漑用ドリッパの中には、いわゆる差圧制御機構(圧力補正機能)が搭載されたものがある。この種の点滴灌漑用ドリッパは、例えば、特許文献1に記載の点滴灌漑用ドリッパ(エミッターユニット)のように、ダイヤフラムのような弾性を有する膜(例えば、シリコーンゴム膜)を、流入側の部材と吐出側の部材とで挟み込む3体構造で構成される。
【0009】
ここで、特許文献1に記載の点滴灌漑用ドリッパは、点滴灌漑用ドリッパの外部のチューブ本体内の液圧に応じたダイヤフラム(膜)の動作によって、点滴灌漑用ドリッパの入口の開閉および点滴灌漑用ドリッパの出口からの流水量の制御を行うように構成されている。
【0010】
具体的には、特許文献1に記載の点滴灌漑用ドリッパでは、点滴灌漑用ドリッパの外部の前記液圧がある程度高くなると、前記入口を遮蔽するように配置されている前記ダイヤフラムが前記液圧によって前記出口側に向かって撓む。その結果、前記入口が開放される。そして、前記液圧が更に高い場合には、前記ダイヤフラムの前記出口側への撓み量が増加し、これにともなって、前記出口における流路断面の大きさが減少する。その結果、流出量が規制される。
【0011】
前記点滴灌漑用ドリッパは、特許文献1の段落0004に記載されているように、点滴灌漑用ドリッパ(エミッター)からの灌漑用液体の排出速度が点滴灌漑用ドリッパへ供給される灌漑用液体の圧力の変動に実質的に無関係であるように設計されている。
【0012】
したがって、前記点滴灌漑用ドリッパは、チューブ本体内の上流側(高圧側)に設置された点滴灌漑用ドリッパと下流側(低圧側)に設置された点滴灌漑用ドリッパとの間で灌漑用液体の吐出量のばらつきを抑え、それにより、土壌全体での植物の育成状態の均一化を図るのに好適とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2010−46094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1に記載の点滴灌漑用ドリッパは、前記ダイヤフラムを弾性変形させて前記入口を開放させるために、ある程度高い前記液圧を要する。このため、高圧ポンプを用いて比較的高い液圧で使用する場合には、本来の機能を問題なく発揮できるであろう。しかしながら、低い液圧で使用する場合には、前記ダイヤフラムを適切に弾性変形させることができず、本来の機能を十分に発揮できないことが懸念される。
【0015】
さらに、特許文献1に記載の点滴灌漑用ドリッパには、次の4つの問題点がある。
【0016】
(第1の問題点)
特許文献1に記載の点滴灌漑用ドリッパは、より多くの部品点数を要する構成上、当該点滴灌漑用ドリッパのサイズの大型化(特に、高さ方向への大型化)を余儀なくされる。そして、このような点滴灌漑用ドリッパをチューブ本体内に配置する場合には、チューブ本体内の流路断面に対する点滴灌漑用ドリッパの面積占有率は自ずと大きくなる。
【0017】
これにより、チューブ本体内を流れる灌漑用液体について、上流側の点滴灌漑用ドリッパは、下流側の点滴灌漑用ドリッパに対して、流路上に横たわる大きな障害物となる。このため、前記点滴灌漑用ドリッパは、灌漑用液体の流通の妨げとなってしまい、チューブ本体内における圧力損失が大きくなってしまう。
【0018】
したがって、特許文献1に記載の点滴灌漑用ドリッパを、高圧ポンプを用いない限り、十分に長い点滴灌水チューブを利用した長距離灌水に用いることは困難である。また、当該長距離灌水に用いた場合でも、灌漑用液体の吐出量が不安定であるといった問題がある。
【0019】
(第2の問題点)
また、特許文献1に記載の点滴灌漑用ドリッパは、前述した3部品の組み立てに誤差が生じる場合もある。この場合には、ダイヤフラム(膜)の作動にばらつきが発生し、この結果、灌漑用液体の吐出量が不安定になってしまうといった問題がある。
【0020】
(第3の問題点)
さらに、特許文献1に記載の点滴灌漑用ドリッパは、ダイヤフラムにシリコーンゴムを用いる場合に材料コストが上昇してしまうといった問題がある。
【0021】
(第4の問題点)
さらにまた、特許文献1に記載の点滴灌漑用ドリッパは、3部品を個々に製造した後に、更に、これらを組み立てるといった製造工数を要するため、製造コストが上昇してしまうといった問題がある。
【0022】
そこで、本発明は、上記の点に鑑みなされたものである。本発明は、流通管内の灌漑用液体の液圧が低圧の場合においても点滴灌漑を適切に行うことができる点滴灌漑用ドリッパおよびこれを備えた点滴灌漑装置を提供することを第一の目的とする。
【0023】
また、本発明は、灌漑用液体の液圧が低圧の場合においても長距離灌漑を適切に行うことができ、また、灌漑用液体の吐出量を安定化することができ、さらに、製造原価、部品点数および製造工数を削減することによるコストの低廉化を実現することができる点滴灌漑用ドリッパおよびこれを備えた点滴灌漑装置を提供することを第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
前述した第一の目的を達成するため、本発明は、以下の点滴灌漑用ドリッパを提供する。
【0025】
[1]灌漑用液体を流通させる長尺な流通管の内周面上であって前記流通管の管壁を貫通する前記灌漑用液体の吐出口に対応する位置に配置された状態で、前記流通管内の前記灌漑用液体を前記吐出口まで流通させる流路を含み、前記吐出口からの前記灌漑用液体の吐出量を制御するための点滴灌漑用ドリッパであって、前記流通管内の前記灌漑用液体を前記流路内に流入させる流入部と、前記流路における前記流入部よりも下流側に配置され、前記流入部から流入した前記灌漑用液体を前記吐出口側に向けて減圧させつつ流通させる減圧流路を構成するための減圧流路部と、前記流通管の内周面に接合される第1の平面部と、前記第1の平面部よりも前記流通管の中心軸側に配置される第2の平面部と、を有し、前記流入部は、前記第2の平面部に配置され、疎水性を有し、所定の液圧未満の前記灌漑用液体を前記流路内に流入させない、点滴灌漑用ドリッパ。
【0026】
[2]前記流入部は、基板部と、前記基板部を貫通する複数の流入口と、を有し、前記基板部は、前記第2の平面部に含まれる表面および前記流路に面する裏面を有し、少なくとも前記表面は、疎水性を有する、[1]に記載の点滴灌漑用ドリッパ。
【0027】
[3]前記流入口の内周面は、疎水性を有する、[2]に記載の点滴灌漑用ドリッパ。
【0028】
[4]前記流入部は、疎水性材料で構成されている、[2]または[3]に記載の点滴灌漑用ドリッパ。
【0029】
[5]前記流入部は、疎水性コートが施されている、[2]または[3]に記載の点滴灌漑用ドリッパ。
【0030】
[6]前記流入部は、前記疎水性を有する面に凹凸形状を有する、[4]または[5]に記載の点滴灌漑用ドリッパ。
【0031】
[7]前記流路における前記流入部よりも下流側に配置され、前記流通管内の前記灌漑用液体の液圧に応じて変形することによって、前記流路の断面の大きさを制御するダイヤフラム部をさらに有する、[1]〜[6]のいずれか1項に記載の点滴灌漑用ドリッパ。
【0032】
[8]前記第2の平面部に開口し、前記流路と外部を連通する開口部をさらに有し、前記減圧流路部は、前記流通管の内周面との間で前記減圧流路を構成する、前記第1の平面部から凹む溝を含み、前記ダイヤフラム部は、前記開口部に、前記外部に部分的に露出するとともに、前記減圧流路を構成する前記流通管の内周面に向けて変形するように配置され、前記流入部、前記減圧流路部および前記ダイヤフラム部は、樹脂材料で一体的に形成されている、[7]に記載の点滴灌漑用ドリッパ。
【0033】
また、前述した第二の目的を達成するため、本発明は、以下の点滴灌漑用ドリッパを提供する。
【0034】
[9]灌漑用液体を流通させる長尺な流通管の内周面上であって前記流通管の管壁を貫通する前記灌漑用液体の吐出口に対応する位置に配置された状態で、前記流通管内の前記灌漑用液体を前記吐出口まで流通させる流路を含み、前記吐出口からの前記灌漑用液体の吐出量を制御するための点滴灌漑用ドリッパであって、前記流通管内の前記灌漑用液体を前記流路内に流入させる流入部と、前記流路における前記流入部よりも下流側に配置され、前記流入部から流入した前記灌漑用液体を前記吐出口側に向けて減圧させつつ流通させる減圧流路を、前記流通管の内周面との間で構成するための減圧流路部と、前記流路上における前記流入部よりも下流側に、前記流通管内に部分的に露出し、前記流通管内の前記灌漑用液体の液圧に晒されて、前記流通管の内周面に向けて変形するように配置されるダイヤフラム部と、前記流通管の内周面に接合される第1の平面部と、前記第1の平面部よりも前記流通管の中心軸側に配置される第2の平面部と、を有し、前記流入部は、前記第2の平面部に配置され、前記ダイヤフラム部は、前記液圧に応じて前記流通管の内周面に向けて変形することによって、前記流路の高さを、前記液圧が大きいほど前記流路の高さが低くなるように規制し、前記流入部、前記減圧流路部および前記ダイヤフラム部は、樹脂材料で一体的に形成されている、点滴灌漑用ドリッパ。
【0035】
[10]前記ダイヤフラム部は、前記流路における前記減圧流路部と前記吐出口との間に配置されている、[9]に記載の点滴灌漑用ドリッパ。
【0036】
[11]前記ダイヤフラム部は、前記減圧流路を構成する前記流通管の内周面から離れる方向に向かって突出するように湾曲する薄肉の中央壁部と、前記中央壁部の外周縁に接続されて前記中央壁部を包囲し、前記方向に漸次拡大する形状を有する薄肉の周辺壁部と、を有する、[9]または[10]に記載の点滴灌漑用ドリッパ。
【0037】
[12]前記第2の平面部に開口し、前記流路と外部を連通する開口部をさらに有し、前記ダイヤフラム部は、前記開口部内に配置され、前記外部に部分的に露出する、[11]に記載の点滴灌漑用ドリッパ。
【0038】
また、前述した第一の目的または第二の目的を達成するため、本発明は、以下の点滴灌漑装置を提供する。
【0039】
[13]管壁を貫通する吐出口を有し、灌漑用液体を流通させる長尺な流通管と、前記流通管の内周面上であって前記吐出口に対応する位置に配置され、前記吐出口からの前記灌漑用液体の吐出量を制御するための[1]〜[12]のいずれか1項に記載の点滴灌漑用ドリッパと、を有する、点滴灌漑装置。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、流通管内の灌漑用液体の液圧が低圧の場合においても点滴灌漑を適切に行うことができる。
【0041】
すなわち、[1]に係る発明によれば、点滴灌漑用ドリッパ本体の流路内に流入する灌漑用液体の液圧の下限を、流入部の疎水性によって従来よりも低く制御することができる。このため、流通管内(換言すれば、点滴灌漑用ドリッパ本体の流路外)の灌漑用液体の液圧が低い場合においても、その灌漑用液体を点滴灌漑に適切に使用することができる。
【0042】
[2]に係る発明によれば、流入部のうち、点滴灌漑用ドリッパ本体の流路外の灌漑用液体に晒される部位が疎水性を有する。このため、点滴灌漑用ドリッパ本体の流路内への灌漑用液体の流入を適切に規制することができる。
【0043】
[3]に係る発明によれば、流入口における毛細管現象を確実に抑制して、灌漑用液体の流入をさらに適切に規制することができる。
【0044】
[4]に係る発明によれば、流入部の疎水性を少ない部品点数によって実現することができる。
【0045】
[5]に係る発明によれば、流入部の疎水性が流入部の材質に依存しないため、流入部の材料の選択の自由度を向上させることができる。
【0046】
[6]に係る発明によれば、点滴灌漑用ドリッパ本体の流路内に流入する灌漑用液体の液圧の下限を若干高めに調整することもできる。このため、点滴灌漑用ドリッパの低圧下での使用における前記液圧の選択の自由度を向上させることができる。
【0047】
[7]に係る発明によれば、高圧下で点滴灌漑用ドリッパを使用する場合においても、点滴灌漑用ドリッパ内の流路内の、吐出口に向かう灌漑用液体の流量をダイヤフラム部によって規制することができる。このため、高圧下で点滴灌漑用ドリッパを使用する場合においても、灌漑用液体の吐出量を適切に制御することができる。
【0048】
[8]に係る発明によれば、吐出量の制御に優れた点滴灌漑用ドリッパを、樹脂材料を用いた一体的な成形によって、小型、安価かつ少工数で精度良く製造することができる。このため、水源側から流通管内に供給される灌漑用液体の液圧が低い場合においても、長距離灌水を適切に行うことができる。また、灌漑用液体の吐出量を安定化することができる。さらに、製造原価、部品点数および製造工数を削減することによるコストの低廉化を実現することができる。
【0049】
また、本発明によれば、灌漑用液体の液圧が低圧の場合においても長距離灌水を適切に行うことができ、また、灌漑用液体の吐出量を安定化することができ、さらに、製造原価、部品点数および製造工数を削減することによる製造コストの低廉化を実現することができる。
【0050】
すなわち、[9]に係る発明によれば、点滴灌漑用ドリッパが板状に形成される。このため、減圧流路による減圧とダイヤフラム部による流路の高さ規制とを行うことができ、かつ吐出量の制御に優れた点滴灌漑用ドリッパを、樹脂材料を用いた一体的な成形によって、小型、安価かつ少工数で精度よく製造することができる。したがって、灌漑用液体の液圧(換言すれば、流圧)が低い場合においても長距離灌水を適切に行うことができる。また、灌漑用液体の吐出量を安定化することができる。さらに、製造原価、部品点数および製造工数を削減することによるコストの低廉化を実現することができる。
【0051】
[10]に係る発明によれば、減圧流路部の下流側に配置されたダイヤフラム部が、減圧流路による減圧後の流路内の灌漑用液体と、ダイヤフラム部が晒されている流路外の灌漑用液体との圧力差を利用して、前記流路の高さの規制を適切かつ効率的に行うことができる。また、ダイヤフラム部が吐出口の直上から水平方向に離れて配置される。よって、吐出口から植物の根、細かい石や粒あるいは虫などが侵入した場合においても、ダイヤフラム部の動作に与える影響を防止することができる。
【0052】
[11]に係る発明によれば、ダイヤフラム部を、前記流路外の灌漑用液体の液圧を効率的に受けて流通管の内周面に向けて変形するのに好適な形状に形成することができる。このため、前記流路の高さをさらに適切に規制することができる。
【0053】
[12]に係る発明によれば、ダイヤフラム部を、前記流路外の灌漑用液体の液圧を適切に受けることができる状態で、流通管の内周面に近い位置に容易に配置することができる。このため、流路の高さの規制に要するダイヤフラム部の変形量を抑えることができ、その結果、薄肉のダイヤフラム部の耐久性が確保され、点滴灌漑用ドリッパの寿命をより長くすることができる。
【0054】
[13]に係る発明によれば、流通管内の灌漑用液体の液圧が低い場合においても、点滴灌漑を適切に行うことができる。または、[13]に係る発明によれば、灌漑用液体の液圧が低い場合においても長距離灌水を適切に行うことができ、また、灌漑用液体の吐出量を安定化することができ、さらに、製造コストの低廉化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1図1は、本発明に係る一実施形態の点滴灌漑用ドリッパの、上面側からの斜視図である。
図2図2は、図1に示す点滴灌漑用ドリッパの、下面側からの斜視図である。
図3図3は、図1に示す点滴灌漑用ドリッパの平面図である。
図4図4は、図1に示す点滴灌漑用ドリッパを図3中のA−A線で切断した断面を示す図である。
図5図5は、図1に示す点滴灌漑用ドリッパの下面図である。
図6図6は、本発明に係る一実施形態の点滴灌漑装置の断面を概略的に示す図である。
図7図7は、低圧停止フィルタ部(図4のB枠部)の断面を拡大して示す図である。
図8図8は、低圧停止フィルタ部の第1の変形例の断面を拡大して示す図である。
図9図9は、低圧停止フィルタ部の第2の変形例の断面を拡大して示す図である。
図10図10は、低圧停止フィルタ部の動作の一例を模式的に示す図である。
図11図11は、ダイヤフラム部(図4のD枠部)の断面を拡大して示す図である。
図12図12は、ダイヤフラム部の動作の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下、本発明に係る点滴灌漑用ドリッパおよびこれを備えた点滴灌漑装置の実施形態について、図1図12を参照して説明する。
【0057】
図1は、本実施形態における点滴灌漑用ドリッパ1を、その上面側から見たときの点滴灌漑用ドリッパ1の斜視図である。また、図2は、点滴灌漑用ドリッパ1を、その下面側から見たときの点滴灌漑用ドリッパ1の斜視図である。さらに、図3は、点滴灌漑用ドリッパ1の平面図である。さらにまた、図4は、図3のA−A線で点滴灌漑用ドリッパ1を切断したときの切断面を示す図である。また、図5は、点滴灌漑用ドリッパ1の下面図である。さらに、図6は、本実施形態における点滴灌漑装置としての点滴灌水チューブ2の断面を概略的に示す図である。
【0058】
図6に示すように、点滴灌水チューブ2は、灌漑用液体を流通させる流通管としての長尺な略円筒形状のチューブ本体3と、このチューブ本体3に内蔵された点滴灌漑用ドリッパ1とによって構成されている。
【0059】
また、図6に示すように、点滴灌漑用ドリッパ1は、チューブ本体3の内周面3a上であって、この内周面3aとチューブ本体3の外周面3bとを貫通する(すなわち管壁を貫通する)灌漑用液体のための吐出口4に対応する位置に、この吐出口4を覆うように配置されている。そして、点滴灌漑用ドリッパ1は、対応する吐出口4からの単位時間あたりの灌漑用液体の吐出量を制御するように構成されている。
【0060】
なお、図6には、便宜上、点滴灌漑用ドリッパ1および吐出口4が1つずつ示されているが、実際は、複数の点滴灌漑用ドリッパ1および吐出口4が、チューブ本体3の長手方向に沿って所定の間隔ごとに配置されている。
【0061】
また、図6においては、チューブ本体3内の流路における紙面に対して左側が上流(水源)側であり、右側が下流側である。
【0062】
さらに、本実施形態においては、点滴灌漑用ドリッパ1が、金型を用いた樹脂成形によって一体的に形成されている。樹脂成形に用いる樹脂材料の例には、ポリプロピレンなどの安価な材料が含まれる。また、成形法の例には、射出成形が含まれる。
【0063】
さらにまた、図1図6に示すように、点滴灌漑用ドリッパ(点滴灌漑用ドリッパ本体)1は、外観が略直方体形状の板状に形成されている。
【0064】
すなわち、図1図6に示すように、点滴灌漑用ドリッパ1は、第1の平面部としての下端面1a、第2の平面部としての上面1b、左側面1c、右側面1d、前側面1eおよび後側面1fの各平面によって大まかに囲まれた外形を有する。なお、各面についての前後左右の位置関係については、図3の十字矢印を参照のこと。図1図6に示すように、上面1bと下端面1a、左右の側面1c、1dおよび前後の側面1e、1fは、互いに平行である。また、上面1bおよび下端面1aと前後左右の側面1c〜1fとは、互いに垂直である。さらに、上面1bおよび下端面1aは、左右に長尺に形成されている。
【0065】
点滴灌漑用ドリッパ1は、下端面1aを介してチューブ本体3の内周面3aに接合されている。上面1bは、下端面1aの反対側、すなわち下端面1aよりもチューブ本体3の中心軸側、に配置される。前記接合は、チューブ本体3を点滴灌漑用ドリッパ1よりも低融点の樹脂材料(例えば、ポリエチレン等)を用いた押し出し成形によって形成する場合には、硬化前のチューブ本体3の内周面3a上に、既製の点滴灌漑用ドリッパ1を配置して、チューブ本体3の硬化と同時に完了させられてもよい。
【0066】
<流入部の具体的構成>
図3および図4に示すように、点滴灌漑用ドリッパ1は、上面1bにおける左端部近傍位置に、チューブ本体3内の灌漑用液体を点滴灌漑用ドリッパ1の流路内に流入させる流入部としての低圧停止フィルタ部5を有している。
【0067】
図7に示すように、低圧停止フィルタ部5は、水平なフィルタ基板部51と、表面51aと裏面51bとを垂直に貫通、すなわちフィルタ基板部51を貫通、する円形の細孔である複数の流入口52とによって構成されている。フィルタ基板部51は、上面1bと同一平面上の表面51aおよびこれと反対側の裏面51bを有する。表面51aは、上面1bに含まれ、裏面51bは後述する空洞部7に面する。各流入口52内の空間は、点滴灌漑用ドリッパ1の流路の始端を構成している。
【0068】
ここで、図3図7に示すように、各流入口52は、前後(図3図5における上下)に等間隔に整列し、当該列の複数が左右に等間隔に並列している。このように、流入口52は、格子状に配置されている。
【0069】
また、図3図4および図7に示すように、フィルタ基板部51の表面51aを含めた上面1b上には、上方に向けて垂直に突出し、前後に長尺な複数の板状の凸部6が、上面1bの長手方向(左右)に等間隔で整列されている。複数の凸部6は、点滴灌漑用ドリッパ1の流路内への比較的大きな異物の流入を防止するフィルタとして機能する。
【0070】
<低圧停止フィルタ>
低圧停止フィルタ部5は、所定の圧力(「液圧」とも言う。例えば、0.005MPa)未満の灌漑用液体を点滴灌漑用ドリッパ1の流路内に流入させない機能(低圧停止フィルタ機能)を有する。
【0071】
低圧停止フィルタ機能を具現化する手段は、何通りか考えられる。
【0072】
たとえば、点滴灌漑用ドリッパ1の材料が前述したポリプロピレンである場合には、ポリプロピレン自体が、低い表面エネルギを有する高疎水性素材(すなわち疎水性材料)である。このため、低圧停止フィルタ部5の全面に低圧停止フィルタ機能を簡単に付与することができる。
【0073】
この他にも、例えば、図8に示すように、フィルタ基板部51の表面51aおよび必要に応じて流入口52の内周面52aに、フッ素コート剤によるフッ素コートなどの疎水性コートCを施して表面エネルギを低減させる。それにより、低圧停止フィルタ部5に局所的に低圧停止フィルタ機能を付与することができる。
【0074】
また、前記疎水性材料の場合および前記疎水性コートの場合のいずれの場合においても、必要に応じて、疎水性を有する面に凹凸形状を形成することによって疎水性を強化してもよい。「疎水性を有する面」とは、例えば、疎水性材料で構成されている表面や、疎水性コートの表面である。前記凹凸形状は、図9に示すように、流入口52の上部開口縁に形成されたバリ52bであってもよいし、金型に形成された凹凸形状を反映して形成された凹凸形状であってもよい。
【0075】
さらに、前述の手段に加えて、流入口52の内径、ピッチ、個数、開口形状、肉厚などを調節することによって、低圧停止フィルタ機能の最適化を図ることも可能である。
【0076】
低圧停止フィルタ部5は、チューブ本体3内の灌漑用液体の液圧が所定の圧力(破壊水圧)に高まった場合に、灌漑用液体を、流入口52を通して点滴灌漑用ドリッパ1の流路内に流入させる。ここで、所定の圧力は、点滴灌漑用ドリッパ1を低圧下での使用において良好に機能させる観点からは、先に例示した0.005MPa程度の十分に低い圧力を選択することが望ましい。ただし、所定の圧力は、低圧停止フィルタ部5の疎水性の程度によって決まる。したがって、低圧停止フィルタ部5に疎水性を付与するにあたっては、実験結果などに基づいて、設定すべき所定の圧力との関係から必要な疎水性の発生要素(前述した低圧停止フィルタ部5の材料、疎水性コートの種類および膜厚、疎水性を有する面の面形状など)を選択してもよい。
【0077】
図10は、低圧停止フィルタ部5の動作の一具体例を示す。
【0078】
まず、点滴灌漑用ドリッパ1の流路外の液圧が0MPa、すなわち点滴灌水チューブ2内に灌漑用液体が存在しない場合には、図10Aに示すように、低圧停止フィルタ部5による灌漑用液体の流入規制は当然行われない。
【0079】
次に、点滴灌漑用ドリッパ1の流路外の液圧が0.005MPa(前述した破壊水圧)未満の場合には、図10Bに示すように、低圧停止フィルタ部5の疎水性に基づく低圧停止フィルタ機能が働く。このため、チューブ本体3内の灌漑用液体100が、フィルタ基板部51の表面51aおよび流入口52の上端の開口において堰き止められる。こうして、点滴灌漑用ドリッパ1の流路内への灌漑用液体100の流入が規制(防止)される。
【0080】
次に、点滴灌漑用ドリッパ1の流路外の液圧が0.005MPa以上の場合には、図10Cに示すように、流路外の液圧が低圧停止フィルタ部5の疎水性に打ち勝つ。こうして、点滴灌漑用ドリッパ1の流路外の灌漑用液体100が流入口52から点滴灌漑用ドリッパ1の流路内に流入する。
【0081】
あるいは、前記破壊水圧は、0.01MPaであってもよい。前記所定の圧力は、点滴灌漑用ドリッパ1を低圧下での長距離灌水において良好に機能させる観点からは、徒に大きくしない方が望ましく、先に例示した0.01MPa程度で十分である。
【0082】
<空洞部>
図4図6および図7示すように、フィルタ基板部51の裏面51bは、下端面1aよりも上方に配置されている。このため、下端面1a上(下端面1aと上面1bとの間)には、下端面1aとフィルタ基板部51の裏面51bとの高低差が形成する空洞部7が形成されている。
【0083】
空洞部7は、各流入口52の下流端で各流入口52と連結している。空洞部7と空洞部7の下端の開口を塞ぐチューブ本体3の内周面3aとによって囲まれた空間は、点滴灌漑用ドリッパ1の流路の一部を構成している。すなわち、流入口52から流入した灌漑用液体は、流入直後に空洞部7とチューブ本体3の内周面3aとの間の空間(流路)を流通する。
【0084】
<減圧流路部の具体的構成>
また、図6に示すように、低圧停止フィルタ部5に対して点滴灌漑用ドリッパ1の流路上における下流側には、点滴灌漑用ドリッパ1の流路の一部である減圧流路8を構成するための減圧流路部9が配置されている。
【0085】
図2図5および図6に示すように、減圧流路部9は、下端面1a上に低圧停止フィルタ部5側(左側)から吐出口4側(右側)に向かって形成された、左右方向に蛇行する蛇行形状(換言すれば、ストリームライン形状)の長溝からなる。当該長溝は、下端面1aから凹む凹み(凹条)で構成されている。
【0086】
減圧流路8は、減圧流路部9と、減圧流路部9(長溝)の蛇行形状の開口9aを遮蔽するチューブ本体3の内周面3aとによって囲まれた空間によって構成されている。
【0087】
図5および図6に示すように、減圧流路部9の上流端は、空洞部7の右内側面7aの中央部に接続している。このように、減圧流路8は、空洞部7に、空洞部7の下流側で連結している。
【0088】
減圧流路8には、低圧停止フィルタ部5から流入した灌漑用液体が、空洞部7内の流路を通過した後に、減圧流路8の上流端から流入する。
【0089】
そして、減圧流路8は、流入した灌漑用液体を、吐出口4側(下流端側)に向けて流通させる。減圧流路8が蛇行形状を有するため、減圧流路8を流れる灌漑用液体の圧力損失が大きくなる。このため、灌漑用液体を効率的に減圧させながら流通させることができる。
【0090】
<ダイヤフラム部の具体的構成>
図4図6に示すように、減圧流路部9の下流端には、ダイヤフラム部10が配置されている。
【0091】
ダイヤフラム部10は、チューブ本体3の内周面3aに対して図4および図6における上方(チューブ本体3の中心軸側)から臨むように、すなわち内周面3aに向けて変形するように、配置されている。また、ダイヤフラム部10は、内周面3aと反対側(チューブ本体3の中心軸側)からの、点滴灌漑用ドリッパ1の流路外の灌漑用液体による液圧に晒されるように、点滴灌漑用ドリッパ1の流路外に向けて部分的に露出している。「部分的に露出」とは、ダイヤフラム部10の一部が点滴灌漑用ドリッパ1の外部と連通していることを言う。
【0092】
また、図6に示すように、ダイヤフラム部10は、吐出口4に上方から臨む位置(吐出口4の直上)に対して、前記流路の上流側(左側)にずれた位置に配置されている。たとえば、ダイヤフラム部10は、前記流路における減圧流路部9と吐出口4との間に配置されている。
【0093】
さらに、図4図6および図11に示すように、ダイヤフラム部10は、薄肉のドーム形状の中央壁部10aと、中央壁部10aの外側に周設された薄肉の周辺壁部10bとによって構成されている。中央壁部10aの形状は、平面図および下面図において円形状である。また、図4および図6に示すように、中央壁部10aの形状は、縦断面図において、チューブ本体3の内周面3aと反対側(同図の上方、あるいは、内周面3aから離れる方向)に向かって突出するアーチ状(湾曲形状)である。より具体的には、中央壁部10aの外周端部は、上面1bおよび下端面1aに平行な同一平面上に配置されており、また、中央壁部10aの中心は、チューブ本体3の内周面3aと反対側に最も大きく突出している。一方、周辺壁部10bの形状は、平面図および下面図において円環形状である。また、周辺壁部10bは、図4図6に示すように、周辺壁部10bは、中央壁部10aを包囲するようにして中央壁部10aの外周端に接続されている。そして、周辺壁部10bは、中央壁部10aから外側に向かうにしたがって、チューブ本体3の内周面3aと反対側に向かって傾斜するテーパ筒形状に形成されている。すなわち、周辺壁部10bは、中央壁部10aを包囲し、かつ内周面3aから離れる方向へ漸次拡大する形状を有する。なお、中央壁部10aおよび周辺壁部10bの肉厚は、ともに0.1mmであってもよい。
【0094】
さらにまた、図3図4および図6に示すように、上面1b上におけるダイヤフラム部10に対応する直上位置には、円筒形状の内周面を有する開口部12が、上面1bからダイヤフラム部10の上面に亘って凹設されている。開口部12は、上面1bに開口し、外部と前記通路とを連通する。ダイヤフラム部10は、周辺壁部10bの先端縁が開口部12の周壁に密着することによって固定されている。上記の連通は、ダイヤフラム部10によって遮断されている。
【0095】
そして、ダイヤフラム部10は、開口部12を以て、点滴灌漑用ドリッパ1の流路外に向けて部分的に(ダイヤフラム部10の上面だけ)露出されている。
【0096】
また、ダイヤフラム部10は、開口部12の厚み(換言すれば、深さ)を以て、上面1bよりもチューブ本体3の内周面3a側(下側)に凹入された位置に配置されている。
【0097】
そして、ダイヤフラム部10は、開口部12に流入した点滴灌漑用ドリッパ1の流路外の灌漑用液体の液圧に応じて、チューブ本体3の内周面3a側へ変形する。それによって、ダイヤフラム部10の配置位置における点滴灌漑用ドリッパ1の流路の高さ(換言すれば、断面の大きさ)を、当該液圧が大きいほど低く(小さく)なるように規制する。
【0098】
<その他の構成>
さらにまた、図6に示すように、ダイヤフラム部10の下流側には、下端面1aに対して上方に凹入された空間からなる流出口14が配置されており、流出口14の直下には、吐出口4が配置されている。
【0099】
流出口14は、ダイヤフラム部10による流路の高さ(断面積)規制によって流量が制限された灌漑用液体を、吐出口4に導く流路として機能する。灌漑用液体は、吐出口4から点滴灌水チューブ2の外部に吐出される。
【0100】
また、図5に示すように、流出口14の凹入底面におけるダイヤフラム部10の近傍位置には、複数の防御突起17が配置されている。防御突起17は、吐出口4から侵入した植物の根、細かい石や砂あるいは虫など(以下、異物と称する)が減圧流路8側に更に侵入することを防止するように構成されている。
【0101】
さらに、図5に示すように、減圧流路部9の前後(減圧流路8の延出方向における両側)には、防御溝15が配置されている。防御溝15は、流出口14から侵入した異物を減圧流路8の前後に逃がすことによって、減圧流路8内への異物の更なる侵入を防止するように構成されている。
【0102】
<本実施形態の作用効果>
本実施形態においては、所定の液圧に達したチューブ本体3内の灌漑用液体のみが、低圧停止フィルタ部5の流入口52を通って点滴灌漑用ドリッパ1の流路内に流入する。そして、当該灌漑用液体は、空洞部7を通過した後に、減圧流路8の流路形状による圧力損失によって減圧される。
【0103】
そして、減圧流路8による減圧後の灌漑用液体は、ダイヤフラム部10を通過する。このとき、ダイヤフラム部10は、開口部12に流入した点滴灌漑用ドリッパ1の流路外の灌漑用液体による液圧によって、チューブ本体3の内周面3a側に変形されている。このため、当該変形の量に応じた分だけ、流路の高さが減少する。こうして流路の高さが規制されている。
【0104】
したがって、ダイヤフラム部10を通過して吐出口4側に一度に向かう灌漑用液体の流量は、ダイヤフラム部10による流路の高さ規制の影響によって規制される。
【0105】
ここで、相対的に上流側および下流側に配置されている2つの点滴灌漑用ドリッパ1について考える。
【0106】
まず、相対的に上流側の点滴灌漑用ドリッパ1は、流路外の灌漑用液体の液圧が相対的に高い。よって、点滴灌漑用ドリッパ1の流路内への灌漑用液体の流入量が相対的に多くなる。同時に、ダイヤフラム部10の変形量が相対的に大きくなり、ダイヤフラム部10による規制流量も相対的に多くなる。このため、吐出口4からの灌漑用液体の吐出量が過多となることはない。
【0107】
一方、相対的に下流側の点滴灌漑用ドリッパ1は、流路外の灌漑用液体の液圧が相対的に低い。よって、点滴灌漑用ドリッパ1の流路内への灌漑用液体の流入量が相対的に少なくなる。同時に、ダイヤフラム部10の変形量が相対的に小さくなり、ダイヤフラム部10による規制流量も相対的に少なくなる。このため、吐出口4からの灌漑用液体の吐出量が過少となることはない。
【0108】
このようにして、上流側および下流側の吐出口4間における灌漑用液体の吐出量のばらつきが少なくなる(5〜10%に抑える)ように、吐出口4からの灌漑用液体の吐出量が好適に制御される。
【0109】
次に、本実施の形態におけるダイヤフラム部10の動作を説明する。図12は、ダイヤフラム部10の動作の一具体例を示す。当該例では、ダイヤフラム部10の破壊水圧は、0.01MPaとする。
【0110】
図12の具体例においては、まず、液圧が0MPa、すなわち点滴灌水チューブ2内に灌漑用液体が存在しない場合には、図12Aに示すように、ダイヤフラム部10による流路の高さ規制は当然行われない。この場合における流路の高さは、例えば0.25mmとなっている。なお、図12Aに示すように、流路の高さは、ダイヤフラム部10の下端部である中央壁部10aと周辺壁部10bとの接続点と、チューブ本体3の内周面3aとの最短距離として定義されている。
【0111】
次に、液圧が0.01MPa(前述した破壊水圧)以上かつ0.05MPa未満の場合には、図12Bに示すように、ダイヤフラム部10が、流路外の灌漑用液体100の液圧によって下方に変形する。このため、中央壁部10aと周辺壁部10bとの接続点が降下し、これにより、流路の高さが0.15mmに規制される。
【0112】
次に、液圧が0.05MPa以上かつ0.1MPa以下の場合には、図12Cに示すように、ダイヤフラム部10が、図12Bの場合よりも更に下方に変形する。このため中央壁部10aと周辺壁部10bとの接続点が更に降下し、これにより、流路の高さが0.1mmに規制される。
【0113】
本実施形態によれば、点滴灌漑用ドリッパ1の流路内に流入する灌漑用液体の液圧の下限を、低圧停止フィルタ部5の疎水性によって、従来の場合(すなわち、ダイヤフラムの弾性によって機械的に制御する場合)よりも低圧に制御することができる。このため、点滴灌漑用ドリッパ1の流路外の灌漑用液体の液圧が低い場合においても、灌漑用液体を点滴灌漑に適切に使用することができる。
【0114】
また、少なくとも低圧停止フィルタ部5のフィルタ基板部51の表面51aが疎水性を有することによって、低圧停止フィルタ部5における点滴灌漑用ドリッパ1の流路外の灌漑用液体に晒される部位が疎水性を有する。このため、点滴灌漑用ドリッパ1の流路内への灌漑用液体の流入を適切に制御することができる。
【0115】
さらに、流入口52の内周面52aが疎水性を有すれば、流入口52における毛細管現象を確実に抑制して、灌漑用液体の流入をさらに適切に制御することができる。
【0116】
さらにまた、低圧停止フィルタ部5を疎水性材料によって構成すれば、低圧停止フィルタ部5の疎水性を少ない部品点数によって実現することができる。
【0117】
また、低圧停止フィルタ部5の疎水性を疎水性コートによって実現すれば、低圧停止フィルタ部5の材質に関わらず、低圧停止フィルタ部5の疎水性が得られる。このため、低圧停止フィルタ部5の材料の選択の自由度を向上させることができる。
【0118】
さらに、低圧停止フィルタ部5の疎水性を有する面に凹凸形状を形成すれば、点滴灌漑用ドリッパ1の流路内に流入する灌漑用液体の液圧の下限を若干高めに調整することもできる。このため、低圧下での点滴灌漑用ドリッパ1の使用における、流入する灌漑用液体の液圧の選択の自由度を向上させることができる。
【0119】
さらにまた、ダイヤフラム部10を設けることによって、点滴灌漑用ドリッパ1を高圧下で使用する場合においても、灌漑用液体の吐出量を適切に制御することができる。
【0120】
また、吐出量の制御に優れた点滴灌漑用ドリッパ1を、樹脂材料を用いた一体的な形成によって、小型、安価かつ少工数で精度良く製造することができる。これにより、点滴灌漑用ドリッパ1のチューブ本体3内における体積占有率を低減することができる。よって、チューブ本体3内において灌漑用液体の過剰な圧力損失の発生を防止することができる。その結果、水源側から点滴灌水チューブ2に供給される灌漑用液体の液圧が低い場合においても、チューブ本体3の下流側に至るまで、低圧停止フィルタ部5を通過できる程度の液圧を確保することができる。よって、長距離灌水を安定した吐出量にて適切に行うことができる。また、一体成形品であるが故に、組み立て誤差に起因するダイヤフラム部10の動作不良が生じない。このため、灌漑用液体の吐出量を更に安定化させることができる。さらに、ダイヤフラム部10のためにシリコーンゴムのような高価な材料を要することはなく、基本的に単一の安価な樹脂材料を用いることができる。よって、製造原価を削減することができる。また、特許文献1のような3部品を組み立てる場合に比べて、部品点数および製造工数も確実に削減することができるので、製造コストの低廉化を実現することができる。
【0121】
さらに、減圧流路部9の下流側に配置されたダイヤフラム部10は、減圧流路8による減圧後の流路内の灌漑用液体と、ダイヤフラム部10が晒されている流路外の灌漑用液体との圧力差を利用して、流路の高さ規制を適切かつ効率的に規制することができる。つまり、減圧された流路内の灌漑用液体の液圧は、十分に低いため、流路内の灌漑用液体の液圧が、相対的に高い圧力の流路外の灌漑用液体によるダイヤフラム部10の変形動作の妨げにならない。
【0122】
さらにまた、ダイヤフラム部10が吐出口4の直上から、前記流路の流れ方向に沿って離れて配置されていることによって、吐出口4から異物が侵入した場合においても、ダイヤフラム部10の動作に与える影響を防止することができる。
【0123】
また、ダイヤフラム部10は、中央壁部10aが上方から液圧を受けることによって、樹脂材料の素材の弾性を利用して、上方への湾曲を解消するように撓んで径方向の外方に拡開する。同時に、周辺壁部10bは、開口部12との接点(円環状の接続部)を回動軸として下方に回動する。このため、流路の高さを規定する中央壁部10aと周辺壁部10bとの接点を、下方にスムーズに変位させることができる。このように、ダイヤフラム部10は、流路外の灌漑用液体の液圧を効率的に受けてチューブ本体3の内周面3a側(下方)に変形するのに好適な形状に形成されている。よって、流路の高さをさらに適切に規制することができる。
【0124】
さらに、ダイヤフラム部10を、流路外の灌漑用液体の液圧を適切に受けることができる状態で、チューブ本体3の内周面3aに近い位置に、設計上、製造上無理なく配置することができる。このため、流路の高さ規制に要するダイヤフラム部10の変形量を抑えることができる。その結果、薄肉のダイヤフラム部10の耐久性を確保して製品寿命を長くすることができる。
【0125】
さらにまた、複数の点滴灌漑用ドリッパ1が複数の吐出口4にそれぞれ配置された場合、前述したダイヤフラム部10の作動によって、上流側および下流側の吐出口4間における灌漑用液体の吐出量のばらつきが少なくなる(5〜10%に抑える)ように、吐出口4からの灌漑用液体の吐出量を好適に制御することができる。このような効果は、前述のように、チューブ本体3内での圧力損失が緩和されるように、ダイヤフラム部10に係る点滴灌漑用ドリッパ1の構造が工夫されていることから、低液圧の灌漑用液体を用いた長距離灌水を行う場合においても、確実に奏することができる。
【0126】
なお、本発明は、前述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の特徴を損なわない限度において種々変更してもよい。たとえば、点滴灌漑用ドリッパ1は、低圧停止フィルタ部5を有し、ダイヤフラム部10を有しないか、または、他のダイヤフラム部を有していてもよい。この場合、点滴灌漑用ドリッパ1は、前述した効果のうち、少なくとも低圧停止フィルタ部5による効果以外の効果を奏する。また、点滴灌漑用ドリッパ1は、ダイヤフラム部10を有し、低圧停止フィルタ部5を有さないか、他の流入部を有していてもよい。この場合、点滴灌漑用ドリッパ1は、前述した効果のうち、少なくともダイヤフラム部10による効果以外の効果を奏する。
【0127】
例えば、本発明は、特許文献1に記載の3体構造の点滴灌漑用ドリッパにも有効に適用できるものである。
【0128】
本出願は、2012年5月24日出願の特願2012−118551号および特願2012−118552号に基づく優先権を主張する。当該出願明細書および図面に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明によれば、滴下すべき灌漑用液体の圧力によって当該灌漑用液体の適切な滴下が可能な点滴灌漑用ドリッパを簡易に提供することが可能である。したがって、点滴灌漑や耐久試験などの、長期の滴下を要する技術分野への前記ドリッパの普及が期待され、そして当該技術分野のさらなる発展が期待される。
【符号の説明】
【0130】
1 点滴灌漑用ドリッパ
2 点滴灌水チューブ
3 チューブ本体
3a 内周面
4 吐出口
5 低圧停止フィルタ部
8 減圧流路
9 減圧流路部
9a 開口
10 ダイヤフラム部
図1
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図12