【文献】
Journal oc Chemical Information and Modeling,2009年,Vol.49,pp.2774-2785
【文献】
Bush, Erik W.; McKinsey, Timothy A.,Protein Acetylation in the Cardiorenal Axis: The Promise of Histone Deacetylase Inhibitors,Circulation Research,2010年,106(2),272-284
【文献】
Zhang, Bin; West, Eric J.; Van, Ken C.; Gurkoff, Gene G.; Zhou, Jia; Zhang, Xiu-Mei; Kozikowski, Alan P.; Lyeth, Bruce G.,HDAC inhibitor increases histone H3 acetylation and reduces microglia inflammatory response following traumatic brain injury in rats,Brain Research,2008年,1226,181-191
【文献】
Chuang, De-Maw; Leng, Yan; Marinova, Zoya; Kim, Hyeon-Ju; Chiu, Chi-Tso,Multiple roles of HDAC inhibition in neurodegenerative conditions,Trends in Neurosciences,2009年,32(11),591-601
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記心不全は、心臓線維症、高血圧症、心筋梗塞、心筋虚血、拡張型心筋症、肥大型心筋症、拘束型心筋症、たこつぼ型心筋症、糖尿病性心筋症、または、特発性心筋症によって起きる、請求項1に記載の化合物の使用。
【発明を実施するための形態】
【0017】
添付の図面に関連付けて以下に記載する詳細な説明は、本願の例を示すものであり、本願の例が構成されるあるいは用いられる形態のみを示すことは意図していない。本願明細書は、特定の例の機能、および、特定の例を構成しかつ実行するための一連のステップを記載する。しかしながら、異なる例によって同じまたは等価な機能およびステップが実現されてもよい。
【0018】
本開示は、式(I)によって表される化合物が、心臓組織における適切な血液循環を再び確立するか、または、ニューロン保護効果を被験体にもたらすという予期しない発見に少なくとも一部基づく。
【0019】
【化3】
Bは、R、C(O)R、CH
2R、SO
2R、SO
3R、またはSO
2NRR’であり;Cは、R、C(O)R、CH
2R、SO
2R、または、CH=CHC(O)NHOHであり;X
a、X
b、X
cおよびX
dは、それぞれ独立して、R、ハロゲン、ニトロ基、ニトロソ基、OR、または、CH=CHC(O)NHOHであり;RおよびR’は、それぞれ独立して水素、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または、ヘテロアリール基である。
一実施例では、C、X
a、X
cおよびX
dは、それぞれ独立して水素であり;Bは、SO
2Rであり;X
bは、CH=CHC(O)NHOHである。
【0020】
したがって、式(I)によって表される化合物は、心不全またはニューロン損傷の治療薬として用いられる潜在的なリード化合物である。心不全は、心臓線維症、高血圧症、心筋梗塞、心筋虚血、拡張型心筋症、肥大型心筋症、拘束型心筋症、たこつぼ型心筋症、糖尿病性心筋症、または、突発性心筋症によって起きる。さらに、式(I)によって表される化合物は、被験体にニューロン保護効果ももたらすので、これらの活性化合物は、外傷性脳損傷(TBI)または虚血性脳梗塞などのニューロン損傷の治療薬として用いられる潜在的なリード化合物である。
【0021】
したがって、本開示は、式(I)によって表される化合物を必要とする被験体に有効量で投与することにより、外傷性脳損傷(TBI)または虚血性脳梗塞などのようなニューロン損傷を治療する方法を提供する。
【0022】
TBIは、相当数の死および永久的な身体障害をもたらす。特に、転落、自動車事故、および、暴力が原因として挙げられる。TBIは、頭部をぶつける、殴打される、または、激しく揺さぶられる、あるいは、脳の正常機能を破壊するような貫通性の頭部損傷により起きる。頭を殴打されたり激しくゆすぶられたからといって必ずしもTBIが起きるわけではない。TBIは、肉体、認知、感情、および、行動に影響を及ぼし、その結果、完全に回復する人もいるが永久的な身体障害または死に至ることもある。神経行動学上の欠陥、特に、認知機能の障害は、TBI後の重度の身体障害の原因となることが多い。したがって、神経行動学上の欠陥を改善するのに有効である化合物は、TBIを治療する薬剤または医薬組成物を製造するための潜在的な候補化合物である。
【0023】
虚血性脳梗塞は、脳の一部への血液の供給が減少することにより起き、それによって脳のその部分の組織が機能不全に陥ってしまう。虚血性脳梗塞を発症する主な理由は4つあり、血栓症(局所的に凝血が生じて血管を閉塞する);塞栓症(身体のどこかの塞栓により閉塞が起きる);全身性灌流低下(例えば、ショックなどで血液の供給が全体的に減少する);および、静脈血栓症である。脳虚血が、cAMP応答配列結合タンパク質(CREB)の激しいリン酸化、および、ニューロンの神経保護分子をコード化する、CREBを介した遺伝子発現のきっかけとなることは周知である(Kitagawa K.、FEBS J. 2007 274(13):3210−7)。よって、CREBのリン酸化を活性化させる際に有効な化合物は、虚血発作を抑制しうる潜在的なリード化合物である。
【0024】
本開示は、また、式(I)によって表される化合物を必要とする被験体に有効量で投与することにより、心不全を治療する方法を提供する。心不全は、心臓線維症、高血圧症、心筋梗塞、心筋虚血、拡張型心筋症、肥大型心筋症、拘束型心筋症、たこつぼ型心筋症、糖尿病性心筋症、または、突発性心筋症によって起こりうる。
【0025】
心不全とは総括的な用語であり、様々な状態の合併症として発症しうる。心不全を引き起こす状態は、心臓のポンプとしての機能に影響を及ぼす。心不全を引き起こす状態の例を以下に示す。
【0026】
(I)心臓線維症:心臓線維症とは、心臓線維芽細胞の不適切な増殖によって心臓弁が異常に肥大することを指す。心臓線維芽細胞が肥大するにともない柔軟性を欠くようにもなるため、結果的に心不全が起きうる。
【0027】
(II)高血圧症:高血圧症とは、全身動脈血圧が上昇した慢性的な心血管疾患を指す。高血圧症になると、動脈の圧力が上昇するので、心臓にとって血液を送り出すのがより困難になり、そのうち心不全になる。
【0028】
(III)心筋梗塞:心筋梗塞(MI)または急性心筋梗塞(AMI)とは、一般的には心臓麻痺として知られ、冠状動脈が突然閉塞することによって心筋が機能停止することを指す。
重度な心筋梗塞は、心不全につながる可能性がある。
【0029】
(IV)心筋虚血:心筋虚血、または、虚血性心疾患(IHD)とは、通常、冠状動脈が細くなることが原因で心筋への血液の供給が減少することを特徴とする疾患である。
【0030】
(V)心筋症:心筋症とは、心筋の疾患であり、心不全の原因となる不適切な心臓ポンプ機能としばしば関連付けられる。心筋症は、その原因によって分類される。心筋症の例としては、拡張型心筋症、肥大型心筋症、拘束型心筋症、たこつぼ型心筋症、糖尿病性心筋症、および、特発性心筋症が挙げられるがこれらに制限されない。拡張型心筋症では、心筋の一部が拡張するので、心臓が広がって弱くなり、血液を効率よく送り出すことができなくなる。肥大型心筋症では、心室(下室)の心筋が拡大・肥大することにより、心室が小さくなる。病的な肥大は心不全につながるが、そうでない精神的なものによるときは心不全にならないこともある。拘束型心筋症では、壁が硬くなることにより心臓が収縮できなくなり、血液が適切に心臓に送り込まれなくなる。拘束型心筋症の患者は、そのうちに心臓拡張機能障害を発症し、最終的に心不全になる。たこつぼ型心筋症、すなわち、ストレス誘発性の心筋症は、心筋が突然一時的に弱まる非虚血性タイプの心筋症であり、急性心不全の原因となることで知られている。糖尿病性心筋症は、糖尿病を患っている人の心筋の疾患であり、心不全の1つの状態として知られるように、体内で血液をうまく循環させることができなくなる。他の心筋症も心不全の原因となりうる。
【0031】
以下に、本発明の1〜10の例示的な化合物を示す。
【0042】
本発明の化合物、特に、式(I)によって表される化合物は、参照として本願に組み込まれる米国特許出願番号第13/074、312号(Chen等、2011年3月29日出願)に記載の方法によって合成されうる。例えば、本発明の化合物1の3−(1−ベンゼンスルホニル−1H−インドール−5−イル)−N−ヒドロキシ−アクリルアミドは、Chenらによるスキーム2に従って合成されうる。
【0043】
心不全またはニューロン損傷を治療する方法は、上記の式(I)によって表される化合物を必要とする被験体に有効量で投与するステップを含む。好ましい実施例では、化合物は、3−(1−ベンゼンスルホニル−1H−インドール−5−イル)−N−ヒドロキシ−アクリルアミドである。
【0044】
被験体は、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ、サル、チンパンジー、および、人間を含む哺乳類でありうるが、これらに制限されない。好ましくは、被験体は人間である。心不全は、心臓線維症、高血圧症、心筋梗塞、心筋虚血、拡張型心筋症、肥大型心筋症、拘束型心筋症、たこつぼ型心筋症、糖尿病性心筋症、または、特発性心筋症によって起きる。
【0045】
いくつかの実施例では、式(I)で表される化合物の被験体に投与される有効量は、約1〜100mg/被験体の体重(kg)であり、静脈または筋肉注射により投与する。被験体に静脈注射によって投与される量は、約10、20、30、40、50、60、70、80、90または100mg/被験体の体重(kg)であり、好ましくは、例えば、30、40、50、60、70など、約30〜70mg/被験体の体重(kg)である。一回で投与してもよく、複数回に分けて投与してもよい。
【0046】
いくつかの実施例では、上記方法は、上記式によって表される化合物を投与する前に、同時に、および/または、後に、心臓機能を改善させる薬剤、または、ニューロン損傷の症状を改善する薬剤を、被験体に投与することをさらに含む。心臓機能を改善または回復させる薬剤の例としては、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、利尿薬、ジギタリス配糖体、ベータ遮断薬、および、直接血管に作用する血管拡張薬などが挙げられるが、これらに制限されない。ACE阻害薬の例としては、カプトプリル、エナラプリル、リシノプリル、ラミプリルなどが挙げられるが、これらに制限されない。ARBの例としては、バルサルタン、テルミサルタン、ロサルタン、イルベサルタン、アジルサルタン、オルメサルタンなどが挙げられるがこれらに制限されない。利尿薬の例としては、フロセミド、ブメタニド、トラセミド、ヒドロクロロチアジド、メトラゾン、スピロノラクトンなどが挙げられるがこれらに制限されない。ジギタリス配糖体の例としては、ジギトキシン、ジゴキシン、ラノキシンなどが挙げられるがこれらに制限されない。ベータブロッカーの例としては、アセブトロール、ビソプロロール、エスモロール、プロプラノロール、アテノロール、ラベタロール、カルベジロール、メトプロロール、ネビボロール、ブシンドロールなどが挙げられるがこれらに制限されない。直接血管に作用する血管拡張薬の例としては、ヒドララジン、硝酸イソソルビドなどが挙げられるがこれらに制限されない。ニューロン損傷の症状を改善することができる薬剤の例としては、活性酸素スカベンジャー(ROS)、抗凝血剤などが挙げられるがこれらに制限されない。活性酸素スカベンジャーの例としては、カタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、α‐フェニル‐N‐tert‐ブチルニトロン(PBN)、ビタミンE、ビタミンC、ポリフェノール化合物、カロチノイドなどが挙げられるがこれらに制限されない。抗凝血剤の例としては、ビタミンK、ワルファリン、アセノクマロール、ヘパリン、アスピリン、クロピドグレル、ジピリダモールなどが挙げられるがこれらに制限されない。
【0047】
本開示は、また、心不全またはニューロン損傷を患う被験体を治療する医薬組成物も提供する。この医薬組成物は、治療効果のある量の上記式(I)によって表される化合物と、治療上許容できる賦形剤とを含む。一実施例では、医薬組成物は、心不全またはニューロン損傷を患う人間でない哺乳類を治療する動物用医薬品であってよい。
【0048】
一般的に、本発明による式(I)によって表される化合物は、医薬組成物の総重量の約0.1重量%〜99重量%を占める。いくつかの実施例では、本発明による式(I)によって表される化合物は、医薬組成物の総重量の少なくとも1重量%を占める。特定の実施例では、本発明の化合物は、医薬組成物の総重量の少なくとも5重量%を占める。さらなる他の実施例では、本発明による式(I)によって表される化合物は、医薬組成物の総重量の少なくとも10重量%を占める。さらなる他の実施例では、本発明による式(I)によって表される化合物は、医薬組成物の総重量の少なくとも25重量%を占める。
【0049】
いくつかの実施例では、本発明の薬剤または医薬組成物は、心臓の機能またはニューロン損傷の症状を改善することで知られる薬剤をさらに含む。心臓機能を改善させることで知られる薬剤の例としては、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、利尿薬、ジギタリス配糖体、ベータ遮断薬、および、直接血管に作用する血管拡張薬などが挙げられるがこれらに制限されない。ACE阻害薬の例としては、カプトプリル、エナラプリル、リシノプリル、ラミプリルなどが挙げられるがこれらに制限されない。ARBの例としては、バルサルタン、テルミサルタン、ロサルタン、イルベサルタン、アジルサルタン、オルメサルタンなどが挙げられるがこれらに制限されない。
利尿薬の例としては、フロセミド、ブメタニド、トラセミド、ヒドロクロロチアジド、メトラゾン、スピロノラクトンなどが挙げられるがこれらに制限されない。ジギタリス配糖体の例としては、ジギトキシン、ジゴキシン、ラノキシンなどが挙げられるがこれらに制限されない。ベータブロッカーの例としては、アセブトロール、ビソプロロール、エスモロール、プロプラノロール、アテノロール、ラベタロール、カルベジロール、メトプロロール、ネビボロール、ブシンドロールなどが挙げられるがこれらに制限されない。直接血管に作用する血管拡張薬の例としては、ヒドララジン、硝酸イソソルビドなどが挙げられるがこれらに制限されない。ニューロン損傷の症状を改善することができる薬剤の例としては、活性酸素スカベンジャー(ROS)、抗凝血剤などが挙げられるがこれらに制限されない。活性酸素スカベンジャーの例としては、カタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、α‐フェニル‐N‐tert‐ブチルニトロン(PBN)、ビタミンE、ビタミンC、ポリフェノール化合物、カロチノイドなどが挙げられるがこれらに制限されない。抗凝血剤の例としては、ビタミンK、ワルファリン、アセノクマロール、ヘパリン、アスピリン、クロピドグレル、ジピリダモールなどが挙げられるがこれらに制限されない。
【0050】
薬剤または上記医薬組成物は、例えば、レミントンの薬学(Remington’s Pharmaceutical Science)、第17版、Mack Publishing、ペンシルバニア州イーストン(1985)に記載されているような条件を満たした調剤手順によって調製される。薬学的に許容できる賦形剤は、製剤の他の成分と親和性があり、生物学的に許容可能であるものである。
【0051】
本発明の化合物(例えば、上記式(I)によって表される化合物)は、経口、経皮、直腸、または、吸入投与されてよく、単独で、または、従来の薬学的に許容できる賦形剤と共に投与されてよい。好適な実施例では、本発明の化合物は、被験体に経皮投与されうる。
【0052】
本発明の化合物は、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、皮下注射、若しくは、腹腔内注射によって投与されうる滅菌溶液、または、懸濁液である液状医薬組成物に調製されてよい。無菌注射可能な溶液または懸濁液を製造するための適切な希釈剤または溶媒としては、1、3−ブタンジオール、マンニトール、水、リンゲル液、および、生理食塩水が挙げられるがこれらに制限されない。オレイン酸などの脂肪酸およびそのグリセリド誘導体は、オリーブ油またはひまし油などの天然の薬学的に許容できる油であり、注射可能薬物を調製するのに役立つ。これらの油剤または油懸濁液は、アルコール希釈剤、あるいは、カルボキシメチルセルロースまたは同様の分散剤を含んでよい。ツイン(商品名)またはスパン(商品名)などの他の一般的に用いられる界面活性剤、または、薬学的に許容できる剤形を製造するのに一般的に用いられる、他の同様の乳化剤若しくは生物有用性を高める物質も剤形の目的で使用されることができる。経口投与は、液状および固形のいずれの剤形であってもよい。経口投与のための固形剤形は、カプセル、錠剤、丸薬、粉末、顆粒、ゲル、および、ペーストを含む。このような固形剤形では、活性化合物は、セルロース、シリカ、ショ糖、ラクトース、デンプンまたは化工デンプンなどの少なくとも1つの従来の不活性希釈剤と混ぜられる。このような剤形は、例えば、ステアリン酸マグネシウムなどの従来の平滑剤、あるいは、従来の緩衝剤のような不活性希釈剤以外の、標準的な粒径の追加の物質を含みうる。さらに、錠剤および丸薬は、従来の腸溶性コーティングで調製されてよい。
【0053】
本開示のいくつかの実施例によれば、固形剤形は、家畜に用いるためにボーラスに調製されうる。動物用医薬品の分野では、ボーラスとは、一般的に、経口投与されうる巨丸剤(≧5g)または固形の飲み下せる薬剤を意味する。好適な実施例では、ボーラスは、式(I)によって表される十分な量の化合物、または、薬学的に許容できるその塩を含む。したがって、ボーラスは、式(I)によって表される化合物を、好ましくは少なくとも100mg、より好ましくは少なくとも1,000mg、さらに好ましくは少なくとも1,500mg含む。実用的な観点では、家畜用の医薬組成物は、式(I)によって表される化合物を、例えば1,000mg〜5,000mg含んでよい。
【0054】
薬剤または上記本発明による医薬組成物は、局所適用のためのさまざまな剤形で調製されてよい。この分野ではよく知られている多種多様な皮膚病学的に許容される不活性賦形剤が用いられてよい。局所適用される組成としては、液体、クリーム、ローション、軟膏、ジェル、スプレー、エアロゾル、皮膚用パッチ剤などが挙げられる。典型的な不活性賦形剤は、例えば、水、エチルアルコール、ポリビニルピロリドン、プロピレングリコール、鉱油、ステアリルアルコール、および、ゲル生成物であってよい。上記剤形および賦形剤はすべて、製薬の技術分野ではよく知られている。剤形の選択は、本願明細書に記載された組成の効能にとって重要ではない。
【0055】
薬剤または上記本発明による医薬組成物は、腔粘膜を介したドラッグデリバリのための頬側および/または舌下薬剤投与単位などの、粘膜投与のためのさまざまな剤形で調製されてもよい。薬学的に許容でき、適切な付着度および所望の薬剤放出のいずれをも実現し、調製される活性薬剤、および、頬側および/または舌下薬剤投与単位に存在しうる他の成分と相溶する多種多様な生分解性高分子賦形剤が用いられうる。一般的に、高分子賦形剤は、口腔粘膜の濡れた表面に付着する親水性ポリマーを含む。高分子賦形剤の例としては、アクリル酸ポリマーおよびコポリマー、加水分解ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリアクリレート、ビニルポリマーおよびコポリマー、ポリビニルピロリドン、デキストラン、グアーガム、ペクチン、デンプン、および、セルロースポリマーが挙げられるが、これらに制限されない。
【0056】
本発明は、哺乳類、好ましくは人間の心不全またはニューロン損傷を治療する方法も提供する。上記方法は、薬剤、または、上記式によって表された化合物を含む本発明による上記医薬組成物を投与することを含む。このような薬剤または組成物は、当該組成物の有効成分を適切または所望の作用部位に運搬するいかなるルートを介して、例えば、経口、経鼻、経肺、パッシブまたはイオン導入デリバリーなどの経皮、または、例えば、直腸、デポ、皮下、静脈、筋肉、鼻腔内、小脳内、点眼剤、若しくは、軟膏などの非経口によって哺乳類、好ましくは人間に投与される。さらに、本発明の化合物の投与は、他の有効成分と並行してすなわち同時に投与されてよい。
【0057】
本発明の化合物の投与量は、選択された特定の化合物または組成、投与経路、および、患体の所望の反応を導くための(単独あるいは他の薬剤との組合せにおける)化合物の能力に対してだけでなく、病状、または、緩和されるべき状態の深刻度、患者の年齢、性別、体重、患者としての状態、及び治療されている病的状態の深刻度、併用投薬若しくはその後患者が従う特別食などの要因、並びに、当業者なら理解するであろう他の要因に対しても、患者ごとに異なり、適切な投与量は、最終的には担当医の裁量に委ねられる。投薬計画は、治療反応を向上させるように調整されてよい。治療効果のある量とは、治療に有益な作用が化合物または組成の毒性または有害作用に勝る量である。本発明による化合物または組成物は、症状の数および/または深刻さが低下するような量および時間で投与されることが好ましい。
【0058】
便宜上、本開示において用いられている特定の用語を以下に説明しておく。特に定義しない限り、本願明細書中で用いているすべての技術および科学用語は、本発明の属する技術分野の当業者が共通して理解しているものと同じ意味を有する。
【0059】
本願明細書中で用いられる単数形の“a”、“and”、および、“the”は、特に明確な記載がない限り、複数形も含むものとする。
【0060】
「アルキル基」という用語は、1〜20炭素元素(例えば、C1〜C10)を含む直鎖または分岐鎖の一価の炭化水素を意味する。アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、およびt−ブチル基が挙げられるがこれらに制限されない。「アルケニル基」という用語は、2〜20炭素元素(例えば、C2〜C10)および1以上の二重結合を含む直鎖または分岐鎖の一価の炭化水素を意味する。アルケニル基の例としては、エテニル基、プロペニル基、アリル基、及び1,4−ブタジエニルが挙げられるがこれらに制限されない。「アルキニル基」という用語は、2〜20炭素元素(例えば、C2〜C10)および1以上の三重結合を含む直鎖または分岐鎖の一価の炭化水素を意味する。アルキニル基の例としては、エチニル基、1−プロピニル基、1−および2−ブチニル基、ならびに1−メチル−2−ブチニル基が挙げられるがこれらに制限されない。「アルコキシル基」という用語は、O−アルキルラジカルを意味する。アルコキシル基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、および、t−ブトキシ基が挙げられるがこれらに制限されない。
【0061】
「アリール基」という用語は、一価の6炭素単環芳香族環系、10炭素2環芳香族環系、14炭素3環芳香族環系を意味する。アリール基の例としては、フェニル基、ナフチル基、およびアントラセニル基が挙げられるがこれらに制限されない。「ヘテロアリール基」という用語は、1以上のヘテロ原子(例えば、O、N、SまたはSe)を有する一価の芳香族5〜8員単環系、8〜12員2環系、または11〜14員3環系を意味する。ヘテロアリール基の例としては、ピリジル基、フリル基、イミダゾリル基、ベンズイミダゾリル基、ピリミジニル基、チエニル基、キノリニル基、インドリル基、テトラゾール基、および、チアゾリル基が挙げられるがこれらに制限されない。
【0062】
上記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基およびヘテロアリール基は、置換および非置換部分双方を包含する。アリール基およびヘテロアリール基に存在しうる置換基としては、C1−C10アルキル基、C2−C10アルケニル基、C2−C10アルキニル基が挙げられるがこれらに制限されない。
【0063】
本願明細書中で使用されている「治療」という言葉は、予防手段(例えば予防薬)、予防療法または対症療法を含み、「治療する」という言葉も、予防手段(例えば予防薬)、予防療法または対症療法を含む。
【0064】
本願明細書中で使用されている「治療効果のある量」という用語は、心不全またはニューロン損傷の治療に関して所望の治療結果を達成するのに必要な投薬量、時間での有効量を意味する。
【0065】
「薬学的に許容できる」という表現は、例えば、人間に投与されたときに、生理的に耐えられ、アレルギー、または、急性胃蠕動、めまいなどの同様の有害反応を一般的に生じない「おおむね安全とみなされる」分子実体および組成物を意味する。好ましくは、本願明細書中で使用されるように、「薬学的に許容できる」という表現は、連邦または州政府の監督官庁により認可されているか、あるいは、動物、および、特に人間に用いるために米国薬局方または他の一般的に認知された薬局方に載っていることを意味する。
【0066】
「化合物」、「組成物」、「活性化合物」、「薬品」、または、「薬剤」という用語は、本願明細書中では置き換え可能に用いられ、被験体(人間または動物)に投与されたとき、局所および/または全身作用によって所望の薬理的および/または生理的効果を誘発する化合物を意味する。
【0067】
本願明細書中で用いられる「投与された」、「投与する」、「投与」という用語は、本発明の化合物または組成物を直接投与するか、または、体内で等量の活性化合物となるプロドラッグ、誘導体、または、類似体を投与することを意味する。
【0068】
「被験体」または「患者」という用語は、本発明の組成物および/または方法によって治療可能な、ヒトを含む動物を意味する。「被験体」または「患者」という用語は、特別に示されていない限り、雄および雌のどちらも含むものとする。したがって、「被験体」または「患者」という用語は、ニューロン損傷の治療から恩恵を得るいずれの哺乳類をも含む。
【0069】
「心臓機能を改善する」という表現は、組成物が投与されないかまたは方法を用いない被験者よりも心臓機能が高まるのに有効な期間で、組成物が被験体に投与されること、または、方法が被験体に用いられることを意味する。さらに、「改善」という言葉は、心不全の症状を改善させる意味も含むものとする。
【0070】
「回復」という用語は、組成物を投与されないかまたは方法を用いない被験体よりも心臓機能が長期的に(数週間または数ヶ月間の測定で)良くなっていくことを意味する。
【0071】
以下の実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、例示目的であって、限定する意図はない。
[実施例]
[実施例1 心不全を患う被験体の心臓線維症発症率を低下させる化合物1]
【0072】
本発明の化合物が心臓機能を改善させることができるかどうかを検証すべく、動物にイソプロテレノールを皮下注射して心不全を誘発した後、試験化合物(例えば化合物1)で治療し、または賦形剤を投与し、心臓機能への試験化合物の効果を心エコー検査法にて観察した。
【0073】
[1.1 心不全の動物モデルの準備]
大人のオスのウィスターラット(それぞれの体重は約240〜270g、台湾バイオラスコ社(BioLASCO Taiwan)より入手)が本研究に用いられた。これらの動物を「HF+賦形剤」または「HF+化合物1」のグループに無作為に割り当てた。心不全(HF)のラットに100mg/kgのイソプロテレノールを1回皮下注射した。温度制御され(24℃〜25℃)、明暗サイクルを12時間ずつとした動物飼育室にラットを収容した。標準的なラボのラットに与える固形試料および水道水は、随意に入手可能である。すべての動物実験は、台北医学大学(台北、台湾、R.O.C.)の動物使用管理委員会によって規定された規則に従って実行された。
【0074】
[1.2 薬剤の調製および投与]
化合物1は、0.4%のカルボキシメチルセルロース中に最終濃度100mg/mlとなるよう溶解された。
【0075】
イソプロテレノールを投与してから一週間後、心不全のラットを無作為に選んで化合物1(100mg/kg)または賦形剤(0.4%のカルボキシメチルセルロース)を1日1回7日間にわたり強制経口投与した。その後、ラットをペントバルビタールナトリウム(100mg/kg、Sigma社製)で腹腔内注射により麻酔した。その後、さらなる分析のために各ラットの正中線に沿って開胸し、心臓を取り出して重さを計り、解剖した。
【0076】
[1.3 心エコー検査法]
動物を安楽死させる前に、15−6Lプローブを取り付けたHP SONOS5500システム(6〜15MHz、SONOS5500、カリフォルニア州パロアルトのアジレントテクノロジー社製)、または、Vivid I超音波心臓血管システム(イスラエル、ハイファのGEヘルスケア社製)を用いて心エコーを行った。左室拡張末期径(LVEDD)、左室収縮末期径(LVESD)、および、壁厚をMモードトレーシングにより測定した。左室短縮率は、([LVEDD−LVESD]/LVEDD)×100として計算した。
左室駆出分画は、Techholz法で計算した。
【0077】
結果を表1にまとめた。すべての定量的データは、標準誤差として表し、グループ間の差を比較するために独立t検定を用いた。値は標準誤差として表し、
*P<0.05は、同じグループを治療の前後で比較し、
#P<0.05は、同じ治療の賦形剤グループと化合物1グループとを比較した。
【0079】
心臓血管生理学では、駆出分画は、左右の心室から心拍ごとに送り出される血液の割合を意味する。心筋梗塞や心筋症の間に心筋が損傷してしまうと、心臓の血液を駆出する能力が損なわれるので、駆出分画は低下する。したがって、心不全を患う被験体には駆出分画の低下がよくみられる。化合物1(100mg/kg)を与えた心不全のラット(駆出分画:EF=81%)は、賦形剤で治療した心不全のラット(EF=59%)に比べ、駆出分画が著しく上昇した。臨床的に利用可能な心不全の治療薬であるヒドララジンを現在の動物モデルで用いてもよい。イソプロテレノール(150mg/kg)を一回注射して心不全を誘発させてから一週間後に、ヒドララジン(10mg/kg)を1日1回7日間腹腔内投与した。データは示さないが、結果は、ヒドララジンが駆出分画を59±4%から76±10%に上昇させたことを示した。
【0080】
これらの結果は、本発明の化合物1が心臓機能を改善するのに有効であることを示している。
【0081】
[1.4 形態学的・組織学的分析]
図1は、対照用ラット、および、賦形剤を投与、または化合物1で治療した心不全のラットから取り出した心臓形態を示す。上段の写真は、心臓の正面像を示す。白く変化しているのは、心臓線維症を発症していることを示している。賦形剤を投与された心不全のラットは、対照用ラットまたは化合物1で治療されたラットより心臓線維症がひどくなっていることに注目されたい。下段の写真は、心室中隔から心腔を切り離して撮影したものである。賦形剤を与えた心不全のラットの左心室心尖部が著しく白くなっているのが見られる一方で、対照用ラット、または化合物1を与えた心不全のラットはそうなっていない。
【0082】
化合物1を用いてまたは用いずに治療した心不全のラットから取り出した左心室心尖部は、ホルマリン固定後パラフィン包埋した。間質コラーゲンの沈着を可視化するため、組織をマッソントリクロームによって染色した。
図2は、賦形剤を投与、または化合物1で治療した心不全のラットのコラーゲン沈着を示し、青色部分が心筋線維症であることを示す。組織の形態を試験することによって、化合物1で治療した心不全のラットは、賦形剤を投与した心不全のラットより心臓線維症率が低いことが明らかになった。
【0083】
したがって、本発明の化合物1は、心不全の動物モデルの心臓機能を著しく改善する。
特に、本発明の化合物1は、心臓の駆出分画を増加させ、心臓線維症の発症率を低下させるのに有効である。このような発見は、心不全を患う被験体の心臓機能を化合物1によって改善するかまたは回復することができる、という我々の提案の裏付けとなる。
【0084】
[実施例2 心臓のANPの発現を減少させる化合物1]
本実施例では、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の発現を調べることにより、その発現に対する本発明の化合物の効果を解明する。
【0085】
薬剤の調製および投与は上記のとおりに実行した。TRIzol(登録商標)試薬を用いて、組織から全RNAを抽出した。全RNAは、メーカー(米国カールスバッドのインビトロジェン社製)からの使用説明書に従い、ランダムプライマー(インビトロジェン社製)およびsuperscript(登録商標)III cDNA合成キット(インビトロジェン社製)を用い、逆転写された。ANPおよびGAPDH(グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素)のRNA発現は、ABI PRISM7300システム(米国フォスターシティのアプライドバイオシステムズ社製)を用いたSYBR(登録商標)グリーンベースの定量PCRによって行われた。プライマーおよびプローブは、Primer Express(登録商標)2.0(アプライドバイオシステムズ社製)によって設計された。すべての遺伝子の閾値サイクル(C
t)値は、2
(−ΔΔCt)法を用いてGAPDH RNA発現に対するそれぞれのC
t値で正規化された。結果を
図3に示す。
【0086】
ANPは、心筋細胞により分泌されるポリペプチドホルモンである。ANPは、血圧が上昇すると、心房筋細胞から放出される。したがって、ANPは、心不全の臨床および機能的パラメータである。
図3に示された結果は、化合物1(100mg/kg)を一週間経口摂取すると、賦形剤の場合と比べて心不全のラットの心臓からのANP mRNAが著しく減少したことを示している。よって、本発明の化合物1は、心不全の動物モデルにおける心臓機能を著しく改善する。
【0087】
[実施例3 脳損傷を患う被験体にニューロン保護効果をもたらす化合物1]
[3.1 外傷性脳損傷(TBI)動物モデルの準備]
本発明の化合物がニューロン保護効果を有するか否かを検証すべく、動物にTBIを人工的に発症させた後、化合物(例えば、化合物1若しくはバルプロ酸)、または、賦形剤を投与し、脳挫傷の領域に対する試験化合物の効果をTTC染色によって測定し、また、行動機能の欠損を行動試験(例えば、前脚を伸ばして餌をうまくつかんで食べること)によって測定した。
【0088】
大人のオスのSDラット(それぞれの体重は約250〜300g、台湾バイオラスコ社(BioLASCO Taiwan)より入手)を本研究に用いた。ラットを(i)TBI+試験化合物(例えば、化合物1またはバルプロ酸(VPA))、(ii)TBI+VEH(すなわち、賦形剤を投与された外傷性脳損傷のラット)、および、(iii)擬似(擬似手術対照群)の3つのグループに割り当てた。温度制御され(24℃〜25℃)、明暗サイクルを12時間ずつとした動物飼育室にラットを収容した。標準的なラボのラットに与える固形試料および水道水は、随意に入手可能である。すべての動物実験は、台北医学大学(台北、台湾、R.O.C.)の動物使用管理委員会によって規定された規則に従って実行された。
【0089】
ケタミン(90mg/kg(体重))およびキシラジン(10mg/kg(体重))を腹腔内投与することにより外科麻酔を施した。麻酔の後、動物を定位フレームに固定し、機械的に酸素を補給した。制御された衝撃装置であるTBI−0200 TBIモデルシステム(Precision Systems and Instrumentation社製)を用いて、露出した皮質に皮質挫傷を作った。中央矢状縫合の側方(望ましい肢の反対側)に位置する頭皮および帽状腱膜を陥没させ、バリドリルを用い、ブレグマから前後方向(AP)に+1mm;左右方向(ML)に±2.5mmの座標で直径3mmの円形に頭部を切開した。つまり、衝撃を加えているシャフトを延長し、衝撃先端を中心に置き、開頭部位の硬膜に触れるまで下げた。その後、ロッドを後退させ、衝撃先端をさらに進めることより、ラットをそれほどひどくない脳損傷に至らしめた(先端径3mm;皮質挫傷の深さ2mm;衝撃速度4m/sec)。衝撃を与えた後は、その都度衝撃先端を消毒用アルコールで拭き、さらに、手術後は、サイデックス(CIDEX(登録商標))にて洗浄/消毒した。手術中、核心温は、加温パッドにより37±0.5℃に維持した。損傷直後に、皮膚切開をナイロン縫合糸で閉じた。
【0090】
[3.2 薬剤の調製および投与]
化合物1をエタノール5%、ポリエチレングリコール35%、および、生理食塩水60%からなる溶媒中に濃度が15mg/mlになるように溶解した。すべての試験動物は、TBI発症後の0〜7日目に、化合物1(30mg/kg)、バルプロ酸(VPA、30mg/kg)、または、賦形剤(エタノール5%、ポリエチレングリコール35%、および、生理食塩水60%)の静脈注射を受けた。
【0091】
[3.3 試料調製]
動物を抱水クロラール(400mg/kg)により深麻酔し、生理食塩水および4%のパラホルムアルデヒドで潅流した。取り出した脳と共に、吻側から尾側までにわたる生検(厚さ2mm)を、以下に示す皮質組織損失の測定のために区分した。脳切片と並べた画像は、スキャナ(HP photosmart B110a、600 dpi)によって撮影した。
【0092】
[3.4 挫傷容積の測定]
切除および固定により起こりうる収縮差を考慮して、皮質損傷量を、総皮質容積の一部として推定した。この研究では、「挫傷の割合」は、挫傷容積と同側脳との相関として定義される。各切片についての挫傷の割合を計算すべく、挫傷の容積(c
area)および同側脳(b
area)の範囲は、手で輪郭を描き、含まれるピクセルの数で特徴づけた。
図4は、挫傷容積の推定を示す概略図である。簡単に説明すると、さらなる分析のための全体の挫傷容積を表すために、挫傷容積の領域を特別に分析したものである。厚さ2mmの一切片における挫傷容積は、0.5×(Area
front+Area
back)×2として定義されるので、全体の挫傷容積は、0.5×(A
1+A
2)×2+0.5×(A
2+A
3)×2+…+0.5×(A
N−1+A
N)×2で表される。この表現は、以下の式に書き直すことができる。
【0094】
[3.5 2,3,5-塩化トリフェニルテトラゾリウム(TTC)染色]
神経繊維間で異なる生存度を比較することによって損傷の大きさを評価するためにTTC染色を用いた。切除された脳を2mmの厚さにスライスし、1%のTTC溶液において温度37℃で30分間培養した。生存可能な神経組織では、TTCは、デヒドロゲナーゼ酵素によって、組織を暗赤色に染める赤いホルマザン色素に変換された。損傷した繊維は、TTCに反応するデヒドロゲナーゼ酵素が欠落しているので、淡白色に染まった。
【0095】
図5は、化合物1またはVPAなどの試験化合物による、TBIによって生じた挫傷領域を縮小させる効果を示す。
図5から明らかなように、本発明の化合物1は、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤として知られる化学物質であり、発作を抑制するために用いられているバルプロ酸(VPA)と比べて、損傷した脳組織の領域を縮小するのにより効果的である。
【0096】
[3.6 訓練/行動試験]
すべての試験動物は、前脚を伸ばして餌をうまくつかんで食べるという基準に達するよう訓練された。その後、動物は、上記のような異なる実験グループに割り当てられた後、TBIの手術を受けた。手術後1日目、3日目、および、7日目、その後週一回6週間、各動物に対して前脚を伸ばして餌をうまくつかんで食べることに関するテストを行った。試験化合物(例えば化合物1またはVPA)、または、賦形剤が投与された日(すなわち、1日目、3日目、および、7日目)には、薬物注射の前にすべての行動試験が行われた。前肢を伸ばして餌をうまくつかんで食べるテストは、上記のように行った。簡単に説明すると、動物は、透明なプレキシグラス(登録商標)チャンバ(30cm×36cm×30cm)内に入れられ、プラットフォームから1cm離して載置されたショ糖ペレット(45mg、ニュージャージー州フレンチタウンのBilaney Consultants社製)を窓(1.5cm×3cm)から肢を伸ばして取るよう訓練された。訓練の最初の何日かの間に、得意な方の前肢が決められ、ペレットは、その得意な前肢を使用するような位置に置かれた。手術前に、術前テストの最後3テストセッションの平均として定義された基本能力を確定しておいた。動物が1回目でペレットをつかんで口に入れられれば合格とした(すなわち、一回で成功)。各テストセッションでは、得意な方の前肢を伸ばす機会を20回とした。得意でない方の前肢を用いた場合は、分析には含まれない。手術前の判断基準は、20回トライして少なくとも16回成功することが3日間連続することとした。1テストセッションにつき、時間制限は最長5分とした。
【0097】
[3.7 結果]
実施例3.2に記載されたステップに従い、実施例3.1に記載された3つのグループのTBIの動物に薬剤を与えた。その後、これらの動物は、上記のような前肢を伸ばして餌をうまくつかんで食べるテストを受け、その結果を
図6に示した。この場合もやはり、本発明の化合物1は、VPAと同様に、TBIによって損なわれた行動機能を著しく改善させており、このような発見は、化合物1が、脳損傷を患う被験体にニューロン保護効果をもたらすことができるという我々の提案の裏付けとなる。
【0098】
[実施例4 虚血性脳卒中の被験体にニューロン保護効果をもたらす化合物1]
本実施例では、本発明の化合物の効果を虚血性脳卒中の動物モデルを用いて検証した。実施例3に記載された手順と同様に、動物にTBIを人工的に発症させた後、化合物(例えば、化合物1若しくはバルプロ酸)で治療し、または、賦形剤を投与し、梗塞形成領域に対する試験化合物の効果、及び、cAMP応答配列結合タンパク質(CREB)の上方調節は、TTC染色及びウェスタンブロット解析によって測定した。
【0099】
[4.1 中大脳動脈閉塞(MCAO)動物モデル(または虚血性脳卒中ラットモデル)の準備]
この動物モデルでは、実験に用いるラットの下大脳静脈の末端を結紮することにより、虚血性脳卒中の状態をシミュレートすることによって中大脳動脈(MCA)閉塞を実現した。簡単に説明すると、側頭部を切開して右中大脳動脈にアプローチし、右中大脳動脈を下大脳静脈の位置まで露出させた。両側の総頸動脈を頸部切開により切り離し、動脈瘤クリップにより閉塞した。下大脳静脈の丁度端部で10−0ナイロンにより結紮することによって中大脳動脈を閉塞した。60分後、ラットに再び麻酔をかけ、頸動脈のクリップをはずし、切開した頸部を閉じた。麻酔から完全に覚めてからラットをケージに戻した。擬似手術は、中大脳動脈閉塞手術と同様に、硬膜を切開するステップは含むが、中大脳動脈および頸動脈管を切り離すステップ、クリップで留めるステップまたは固定するステップは含まない。
【0100】
[4.2 薬剤の調製および投与]
化合物1をエタノール5%、ポリエチレングリコール35%、および、生理食塩水60%からなる溶媒中に濃度が15mg/mlになるように溶解した。すべての試験動物は、MCAO発症後の0〜7日目に、化合物1(30mg/kg)、バルプロ酸(VPA、30mg/kg)、または、賦形剤(エタノール5%、ポリエチレングリコール35%、および、生理食塩水60%)の静脈注射を受けた。
【0101】
[4.3 CREBのウェスタンブロット分析]
収集したタンパク質試料にレムリサンプルバッファを混ぜた。サンプルバッファをSDSポリアクリルアミドゲルにおいて分解し、ニトロセルロース膜に転写した。膜は、5%のミルク、0.05%のTween20(登録商標)を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)でブロッキングし、その後、抗原に対応する一次抗体および緩衝液と共に一晩培養した。PBS/Tween20(登録商標)およびPBSで洗浄した後、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤1(HDAC1)、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤2(HDAC2)、アセチル化ヒストンH2A(Ac−H2A)、アセチル化ヒストンH2B(Ac−H2B)、リン酸化cAMP応答配列結合タンパク質(p−CREB)、並びに、右前大脳(RA)、右後大脳(RP)、左前大脳(LA)、および、左後大脳(LP)で発現する全てのcAMP応答配列結合タンパク質(t−CREB)を含む免疫標識化タンパク質バンドを、ケミルミネセンスシステム(ECL 英国バッキンガムシャー州のGEヘルスケアバイオサイエンス社製)と、Hyperfilm(登録商標)ECL(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)に露光させるオートラジオグラフィーとを用いて、抗ウサギ、抗マウスまたは抗ヤギ抗体HRP複合体(サンタクルスバイオテクノロジー社製、1:5,000に希釈)により、それぞれ検出した。免疫ブロットの定量化は、クォンティティーワン(登録商標)ソフトウェア(Quantity One software)(Bio−Rad社製)によって行った。
【0102】
[4.4 結果]
実施例4.2に記載されたステップに従い調製された薬剤を、実施例4.1に記載された3つのグループのMCAOのラット(例えば、各グループ5匹)に投与し、これらの動物の梗塞形成領域を実施例3.4および3.5に記載のステップと同様に染色して推定し、その結果を
図7Aおよび7Bに示した。発作後の3つの治療時間帯、すなわち、30分後、2時間後、および、4時間後における梗塞容積をそれぞれ測定した。3日後の治療時間帯において、化合物1および/またはVPAで治療したMCAOのラットの梗塞容積が著しく減少したことがわかった(
図7A)。他の例では、MACOを誘発後、ラットに化合物1を30分後、2時間後、4時間後、および、24時間後にそれぞれ与え、MACO後3日目に梗塞容積を計算した。化合物1による治療は、発作後24時間経過していても梗塞容積を著しく減少させることができるという結果を確認した(
図7B)。
【0103】
前述のとおり、脳虚血が、cAMP応答配列結合タンパク質(CREB)の激しいリン酸化、および、ニューロンの神経保護分子をコード化する、CREBを介した遺伝子発現を引き起こすことは周知である(Kitagawa K.、FEBS J. 2007 274(13):3210−7)。よって、CREBのリン酸化を活性化させるのに有効な化合物は、虚血発作を抑制できる潜在的なリード化合物でありうる。CREBのリン酸化のレベルは、上記実施例4.3に記載のステップに従い、ウェスタンブロット分析法により測定した。
結果を
図8に示した。
図8から明らかなように、リン酸化CREB(p−CREB)および総CREB(t−CREB)を含むCREBの上方調節は、化合物1による治療を受けたラットの左右前大脳(LA、RA)および左右後大脳(LP、RP)のどちらでも観察された。
【0104】
本発明の広範囲で示す数値的範囲およびパラメータは近似値であるが、具体例に記載の数値は可能な限り正確に報告する。しかしながら、全ての数値には、それぞれの試験測定に見られる標準偏差により必然的に生じた特定の誤差が本質的に含まれている。
【0105】
上記実施例の記載は、例に過ぎず、当業者によってさまざまな変更がなされてよいことを理解されたい。明細書、実施例、および、データにより、本発明の完全な構造および実施例の使用法を示している。本発明のさまざまな実施例を1つ以上の実施例を参照して詳細に説明したが、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、これらの実施形態に多くの変更がなされてもよいことを当業者には理解できよう。