(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6180431
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】均質なHIPIMS被覆方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20170807BHJP
H01J 37/34 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
C23C14/34 S
H01J37/34
【請求項の数】4
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2014-547731(P2014-547731)
(86)(22)【出願日】2012年11月23日
(65)【公表番号】特表2015-508448(P2015-508448A)
(43)【公表日】2015年3月19日
(86)【国際出願番号】EP2012004847
(87)【国際公開番号】WO2013091761
(87)【国際公開日】20130627
【審査請求日】2015年10月29日
(31)【優先権主張番号】102011121770.7
(32)【優先日】2011年12月21日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】598051691
【氏名又は名称】エリコン・サーフェス・ソリューションズ・アクチェンゲゼルシャフト,トリュープバッハ
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クラスニッツァー,ジークフリート
(72)【発明者】
【氏名】ルディジェル,ヘルムート
【審査官】
山田 頼通
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−116578(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0103620(US,A1)
【文献】
特開平02−213467(JP,A)
【文献】
特開2006−124753(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0181417(US,A1)
【文献】
特開昭61−041766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
H01J 37/34
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空被覆チャンバ中でスパッタリングを用いて、気相から物理的被覆を行う方法であって、以下の工程、すなわち、
a)少なくともスイッチを入れた後および電力立ち上げ間隔の経過後に、所定の一定の電力を出力する発電機を提供する工程と、
b)前記発電機のスイッチを入れる工程と、
c)第1部分カソードを前記発電機と接続する工程であって、その結果、前記第1部分カソードに前記発電機からの電力が印加される工程と、
d)前記第1部分カソードに対応する所定の第1電力パルス間隔の経過後に、前記発電機を前記第1部分カソードから切り離す工程と、
e)第2部分カソードを前記発電機と接続する工程であって、その結果、前記第2部分カソードに前記発電機からの電力が印加される工程と、
f)前記第2部分カソードに対応する所定の第2電力パルス間隔の経過後に、前記発電機を前記第2部分カソードから切り離す工程と
を含む方法において、
前記1つの電力パルス間隔の長さは、前記別の電力パルス間隔の長さに適合され、これにより、前記被覆から結果として生じる層は、前記被覆チャンバの高さに沿って配置された加工品の表面において、前記被覆チャンバの高さに渡って所定の層厚分布を有し、
前記第1電力パルス間隔が前記第2電力パルス間隔より時間的に前に開始し、前記第1電力パルス間隔が前記第2電力パルス間隔の終了より時間的に前に終了し、
第1電力パルス間隔と第2電力パルス間隔とが時間的に重複し、全ての電力パルス間隔が共になって第1群を形成し、その結果、前記発電機からの電力出力が中断なしに前記第1電力パルス間隔の開始から、前記第2電力パルス間隔の終了まで一貫して存在し続け、かつ、前記発電機を前記第2部分カソードに接続してから前記発電機を前記第1部分カソードから切り離すまでの間隔である第2電力立ち上げ間隔は生じないように前記工程d)と前記工程e)とが実施され、
前記方法は、HIPIMSを用いて、気相から物理的被覆を行う方法であることを特徴とする方法。
【請求項2】
所定の層厚分布として均質な層厚分布が選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
3つ以上の部分カソードを用い、前記3つ以上の部分カソードに対して、前記工程c)〜f)が同様に適用されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも前記電力パルス間隔の相対的な長さは、前記被覆に先行する較正被覆を用いて導出されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆チャンバの高さに渡って均質な層を析出させることができるHIPIMS方法に関する。
【背景技術】
【0002】
HIPIMS方法は、気相からの物理的被覆方法である。より正確にいうと、これは、マグネトロンにより支援されたスパッタ方法であり、スパッタリング材料を供給するターゲットには、非常に高い放電密度がかけられ、その結果プラズマ中に高い電子密度が生じ、スパッタされた粒子のほとんどがイオン化される。この場合に、250W/cm2と2000W/cm2との間の電力密度が採用され、したがって、電力を供給する発電機には、非常に高い要件が存在する。とりわけ、この種の電力をターゲットに継続的に作用させることは不可能であるが、これは、この場合にはターゲットが過熱し、したがって、損傷が生じるだろうからである。したがって、電力はパルス状でなければならない。電力パルス内では、所望の非常に高い放電密度が生じ、ターゲットは加熱される。パルス休止期間の間にこのターゲットは再び冷却されうる。ターゲットにもたらされる平均電力が閾値を上回らないように、パルス幅とパルス休止期間とは互いに調整されねばならない。したがって、HIPIMS用に非常に高いパルス状の電力を出力することができる発電機が必要とされる。
【0003】
HIPIMS方法が加工品の被覆のために採用される場合、加工品は、しばしば利用可能な全被覆高さに渡って分配されている。加工品とは、工具もこれ以外の部品も意図している。多くの場合、加工品が上方に配置されていようが、中央に配置されていようが、下方に配置されていようが、加工品上に、同じ層厚でかつ同じ層で被覆することが重要である。とりわけ、HIPIMS方法の場合のように、プラズマとその密度とが、被覆率に実質的な影響を与える場合は、この目標の達成は非常に困難である。これは、とりわけプラズマ自体がプラズマの周囲の環境から影響をうけるためであり、これにより、被覆チャンバの高さに渡って様々な被覆率が生じうる。通常、DCスパッタリングでは、磁場を高さに渡って合わせることにより、これを相殺するよう試みられる。しかし、磁石システムへ干渉すると、プラズマ条件が局所的に変化する可能性があり、これによっても層特性が異なりうる。層厚分布に高い要件があることにより、利用領域が制限される(したがって経済性が低減する)が、この理由は、上述の方法の有効性は、層厚の均質性の改善を制限するからである。層厚分布の補正のさらなる方法は、マスクを使用することであるが、しかしながら、これは、負荷または加工品の形状が変更された際には、あまり実用的ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
被覆率を被覆チャンバの高さに渡って設定することができ、したがって、プラズマ密度に不利な影響を与えることなく、層特性に不利な作用がなされることなく、とりわけ均質な被覆をチャンバの全高さに渡って容易に達成することができるHIPIMS方法が利用可能であることが望まれる。
【0005】
本発明の課題はこの点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
別の特許出願の枠組み内で保護される新規の電力パルスを提供する方法によれば、以下のように行われる。すなわち、第1部分カソードと第2部分カソードとを有するPVDスパッタリングカソードが駆動され、これらの部分カソード用の最大平均電力負荷は予め決められていて、電力パルス間隔の長さは予め決められていて、この方法は、以下の工程、すなわち、
a)好ましくは少なくともスイッチを入れた後および電力立ち上げ間隔の経過後に、所定の一定の電力を出力する発電機を提供する工程と、
b)発電機のスイッチを入れる工程と、
c)第1部分カソードを発電機と接続する工程であって、その結果、第1部分カソードに発電機からの電力が印加される工程と、
d)第1部分カソードに対応する所定の第1電力パルス間隔の経過後に、発電機を第1部分カソードから切り離す工程と、
e)第2部分カソードを発電機と接続する工程であって、その結果、第2部分カソードに発電機からの電力が印加される工程と、
f)第2部分カソードに対応する所定の第2電力パルス間隔の経過後に、発電機を第2部分カソードから切り離す工程と
を含み、第1電力パルス間隔が第2電力パルス間隔より時間的に前に開始し、第1電力パルス間隔が第2電力パルス間隔より時間的に前に終了し、第1電力パルス間隔と第2電力パルス間隔とが時間的に重複し、全ての電力パルス間隔が共になって第1群を形成し、その結果、発電機からの電力出力が中断なしに第1電力パルス間隔の開始から、第2電力パルス間隔の終了まで一貫して存在し続け、かつ第2電力立ち上げ間隔は生じないように工程d)と工程e)とが実施される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、被覆チャンバの高さに渡って分布している様々な部分カソード1〜6用の電力パルスの時間的な推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
被覆チャンバの高さに渡って3つ以上の部分カソードが設けられている場合は、1つの群が、3つ以上の電力パルス間隔から組み立てられうる。この方法では、その後、個々の部分カソードに対して加熱に関して要求をすることができるように、多くの群が順次接続される。その後、1つの休止期間が続く。
図1は、6つの部分カソードと3つの群とを備えた相応の状況を示す図である。
【0009】
本発明による課題の達成は、個々の電力パルス間隔の長さを個別に選択して、このようにして、被覆チャンバの高さに渡って所望の被覆厚の輪郭を達成することにより行われる。すなわち、本発明によれば、これ以外の場合では通常であるように、被覆チャンバの高さに渡って磁場を適合させるのではなく、電力パルス間隔の長さを適合させる。これに相当することを
図1中で図示する。第1部分カソードと関連する電力パルス間隔は、明らかに部分カソード5と関連する電力パルス間隔よりも長い点は明白である。電力パルス間隔がより長いがゆえに、部分カソード1に由来する平均的な被覆率は、部分カソード5に由来する平均的な被覆率よりも長い。
【0010】
実地では、例えば、まずは全部分カソードの電力パルス間隔が同じ長さになるように選択され、第1被覆は較正のために行われる。続いて、被覆厚を被覆チャンバの高さに渡って測定する。厚さに違いがあれば、この場合、平均的な厚さに比して層厚が薄い場合には、電力パルス間隔が少し長くされる。平均的な厚さに比して層厚がより厚い場合には、電力パルス間隔は少し短くされる。この措置により相殺がなされるが、当業者には、均質化をさらに改善するために複数回反復工程を行いうることは明らかである。
【0011】
本発明を、被覆チャンバの高さに渡って層厚を均質化する方策に基づいて説明した。しかし、層厚輪郭をとりわけ均質ではないようにすべき場合にも、本発明による方策を、変更すべき箇所を変更して応用することができると理解されるべきである。