特許第6180438号(P6180438)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6180438
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】変速制御システム
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20170807BHJP
   F16H 61/08 20060101ALI20170807BHJP
   F16H 59/36 20060101ALI20170807BHJP
   F16H 63/46 20060101ALI20170807BHJP
   F16H 61/684 20060101ALI20170807BHJP
   F16H 3/083 20060101ALI20170807BHJP
   F16H 3/089 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   F16H61/02
   F16H61/08
   F16H59/36
   F16H63/46
   F16H61/684
   F16H3/083
   F16H3/089
【請求項の数】3
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-553875(P2014-553875)
(86)(22)【出願日】2012年12月25日
(86)【国際出願番号】JP2012008265
(87)【国際公開番号】WO2014102855
(87)【国際公開日】20140703
【審査請求日】2015年10月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】597021598
【氏名又は名称】株式会社イケヤフォ−ミュラ
(74)【代理人】
【識別番号】100110629
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100166615
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】池谷 信二
【審査官】 西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−127471(JP,A)
【文献】 特開2004−084912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/02
F16H 61/04
F16H 61/08
F16H 59/36
F16H 63/46
F16H 61/684
F16H 3/083
F16H 3/089
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力を伝達しながら噛合いクラッチの切り替えにより変速する変速制御システムであって、
エンジンからのトルクを締結調整により伝達出力する発進クラッチと、
駆動力伝達軸に相対回転自在に支持された複数段の変速ギヤの各噛合いクラッチが駆動力伝達状態下で選択的に切り替えられて前記発進クラッチからの伝達出力を変速出力するトランス・ミションと、
前記発進クラッチを締結調整するクラッチ・アクチュエータと、
前記噛合いクラッチをシフト指示信号により切り替えるシフト・アクチュエータと、
前記発進クラッチの入力回転速度を検出するイン・プット回転速度センサ及び出力回転速度を検出するアウト・プット回転速度センサと、
前記シフト指示信号の入力により前記クラッチ・アクチュエータを制御して前記発進クラッチの締結力を低下させ前記検出される発進クラッチの入出力回転速度に差が生じた時点で前記シフト・アクチュエータにより前記噛合いクラッチの選択的な切り替えを行わせる制御部と、
を備え、
前記噛合いクラッチは、前記駆動力伝達軸に軸方向移動可能に複数備えられ軸方向の両サイドに2速以上はなれて前記変速ギヤがそれぞれ配置され各両サイドの何れかの変速ギヤと選択的に噛み合って前記駆動出力軸に結合させるクラッチ・リングを備え、
前記シフト・アクチュエータは、前記クラッチ・リングの前記変速ギヤに対する選択的な噛み合いを切り替え、
前記複数段の変速ギヤの下段と上段との変速ギヤに前記何れか一対のクラッチ・リングが各別に同時噛合いしたとき前記下段と上段との変速ギヤに対し噛合い方向と噛合い解除方向との異なる方向の軸力を前記一対のクラッチ・リングに各別に生じさせるガイド部を前記各クラッチ・リングと前記駆動力伝達軸との間に設け、
前記発進クラッチの入出力回転速度に差が生じた時点で、シフト・アップによる前記同時噛合いにより内部循環トルクが発生し前記下段のクラッチ・リングはコースティング方向トルクにより前記ガイド部を作用させると共に前記上段のクラッチ・リングはドライブ方向のトルクにより前記ガイド部を作用させる、
ことを特徴とする変速制御システム。
【請求項2】
請求項1記載の変速制御システムであって、
前記制御部は、前記クラッチ・アクチュエータによる発進クラッチの締結力を低下開始から前記シフト・アクチュエータによる噛合いクラッチの切り替え開始までの間を0秒を上回る1秒未満で行う、
ことを特徴とする変速制御システム。
【請求項3】
請求項1又は2記載の変速制御システムであって、
前記制御部は、前記発進クラッチの入出力回転速度に差が生じた時点で前記クラッチ・アクチュエータの制御を前記切り替えが完了するまで固定する、
ことを特徴とする変速制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の変速を自動又は手動により行わせ、特に駆動力伝達状態で噛合いクラッチを選択的に切り替え結合させて発進クラッチからの伝達出力を変速出力する変速制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、シングル・クラッチを使用した車両用のトランス・ミションは、変速時に駆動力が途切れ、変速ショックや加速遅れ等が避けられなかった。また大きな走行抵抗を有し速度エネルギ小さい、建機、農機等にあっては変速時、駆動力が途切れると即停止してしまい変速が困難な場合も生じる。
【0003】
これに対し、ツイン・クラッチのトランス・ミションは、駆動力が途切れず、変速ショックや加速遅れを抑制できるものとして知られている。
【0004】
しかし、ツイン・クラッチのトランス・ミションは、構造が複雑で重量が大きいという問題がある。
【0005】
一方、駆動力を伝達しながら噛合いクラッチの切り替えにより変速する、所謂シームレス・シフト・トランス・ミションは、重量増を抑制できるものとして注目されている。
【0006】
このシームレス・シフト・トランス・ミションの構造として、特許文献1に記載のものが提案されている。
【0007】
このシームレス・シフト・トランス・ミションでは、上下段の変速ギヤ間に入力軸に係合した3個の第1ビュレット、3個の第2ビュレットを備え、シフト操作に応じて移動する構成となっている。上下段の変速ギヤには、噛合い歯が形成され、第1ビュレット及び第2ビュレットの両端部には、回転方向前後で異なった複雑なフェースが形成されている。
【0008】
第1ビュレット及び第2ビュレットは、セレクトフォークの動作に対しスプリングを介して上段又は下段の変速ギヤ側へ移動する構成である。
【0009】
このような構成により、例えば下段への変速時は、3個の第1ビュレットが下段の変速ギヤの噛合い歯に噛み合ってから残りの3個の第2ビュレットが噛合い歯に噛み合う。
【0010】
上段への変速時は、3個の第2ビュレットが2速ギヤの噛合い歯に噛み合ってから残りの3個の第1ビュレットが噛合い歯に噛み合う。
【0011】
そして、このような第1ビュレット及び第2ビュレットとスプリングを介したセレクト動作とにより、駆動力が途切れず、変速ショックや加速の遅れを抑制し、且つ重量軽減を図ることができる。
【0012】
しかし、かかるマニュアル・トランス・ミションをベースとしたシームレス・シフト・トランス・ミションにおいても、変速時、エンジン回転数と車速との不整合によるショックを吸収するためには、いわゆる発進クラッチ(以下クラッチと称する)の結合力を適切に制御する必要がある。
【0013】
このようなクラッチ結合力を得るために、変速直前のエンジン回転数、アクセル開度を検出して、その時のクラッチ伝達トルクを予測し、クラッチの締結力を調節するクラッチ・アクチェータを制御することになる。
【0014】
しかし、クラッチの摩擦係数は絶えず変化するため、エンジン回転数と車速との不整合によるクラッチの必要以上の滑り、或いはショックを吸収しきれないという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】June 2005 Racecar Engineering(www. racecar・engineering.com)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
解決しようとする問題点は、駆動力を伝達しながら噛合いクラッチの切り替えにより変速することができても、エンジン回転数と車速との不整合によるクラッチの必要以上の滑り、或いはショックを吸収しきれないという点である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、駆動力を伝達しながら噛合いクラッチの切り替えにより変速することができながら、クラッチの必要以上の滑り、ショックを抑制することを可能とするため、駆動力を伝達しながら噛合いクラッチの切り替えにより変速する変速制御システムであって、エンジンからのトルクを締結調整により伝達出力する発進クラッチと、駆動力伝達軸に相対回転自在に支持された複数段の変速ギヤの各噛合いクラッチが駆動力伝達状態下で選択的に切り替えられて前記発進クラッチからの伝達出力を変速出力するトランス・ミションと、前記発進クラッチを締結調整するクラッチ・アクチュエータと、前記噛合いクラッチをシフト指示信号により切り替えるシフト・アクチュエータと、前記発進クラッチの入力回転速度を検出するイン・プット回転速度センサ及び出力回転速度を検出するアウト・プット回転速度センサと、前記シフト指示信号の入力により前記クラッチ・アクチュエータを制御して前記発進クラッチの締結力を低下させ前記検出される発進クラッチの入出力回転速度に差が生じた時点で前記シフト・アクチュエータにより前記噛合いクラッチの選択的な切り替えを行わせる制御部とを備え、前記噛合いクラッチは、前記駆動力伝達軸に軸方向移動可能に複数備えられ軸方向の両サイドに2速以上はなれて前記変速ギヤがそれぞれ配置され各両サイドの何れかの変速ギヤと選択的に噛み合って前記駆動出力軸に結合させるクラッチ・リングを備え、前記シフト・アクチュエータは、前記クラッチ・リングの前記変速ギヤに対する選択的な噛み合いを切り替え、前記複数段の変速ギヤの下段と上段との変速ギヤに前記何れか一対のクラッチ・リングが各別に同時噛合いしたとき前記下段と上段との変速ギヤに対し噛合い方向と噛合い解除方向との異なる方向の軸力を前記一対のクラッチ・リングに各別に生じさせるガイド部を前記各クラッチ・リングと前記駆動力伝達軸との間に設け、前記発進クラッチの入出力回転速度に差が生じた時点で、シフト・アップによる前記同時噛合いにより内部循環トルクが発生し前記下段のクラッチ・リングはコースティング方向トルクにより前記ガイド部を作用させると共に前記上段のクラッチ・リングはドライブ方向のトルクにより前記ガイド部を作用させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、上記手段としたため、駆動力を伝達しながら噛合いクラッチの切り替えにより変速する変速制御システムにより、駆動力が途切れず、変速ショックや加速の遅れを抑制しながら、エンジン回転数と車速との不整合によるクラッチの必要以上の滑り、或いはショックを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】変速制御システムのブロック図である。(実施例1)
図2】変速制御システムの構成図である。(実施例1)
図3】変速制御システムのフローチャートである。(実施例1)
図4】トランス・ミションの要部拡大断面図である。(実施例1)
図5】カム溝及びカム突起を示す展開図である。(実施例1)
図6】カム溝及びカム突起を示す展開図である。(実施例1)
図7】クラッチ・カム・リング及びクラッチ・リングの関係を示す斜視図である。(実施例1)
図8】クラッチ・カム・リング及びクラッチ・リングの関係を示す斜視図である(実施例1)
図9】クラッチ・カム・リングを示す斜視図である。(実施例1)
図10】クラッチ・リングを示す斜視図である。(実施例1)
図11】シフト・フォーク、チェック部、及び噛み合いクラッチとの関係を示す概略図である。(実施例1)
図12】シフト・フォーク、チェック部、及び噛み合いクラッチとの関係を示す概略図である。(実施例1)
図13】クラッチ・リングの要部展開図である。(実施例1)
図14】ドグ・クラッチの噛み合いを示し、(a)は、コースト噛み合い位置、(b)は、待機噛み合い位置を示す要部展開図である。(実施例1)
図15】シフト・アップ時トランス・ミションの4速ギヤ噛み合いを示す概略図である。(実施例1)
図16】シフト・アップ時トランス・ミションの4速クラッチ・リングの離脱待機の位置を示す概略図である。(実施例1)
図17】5速に変速終了時の概略図である。
図18】シフト・ダウン時、4速5速がニュートラルであることを示す概略図である。(実施例1)
図19】シフト・アップ、シフト・ダウンのときのドラム溝の作動説明である。(実施例1)
【発明を実施するための形態】
【0020】
駆動力伝達状態下で噛合いクラッチの切り替えにより変速することができながら、クラッチの必要以上の滑り、ショックを抑制することを可能にするという目的を、エンジン1013からのトルクを締結調整により伝達出力する発進クラッチ1005と、駆動力伝達軸3、5に相対回転自在に支持された複数段の変速ギヤ19、21、23、25、27、29の各噛合いクラッチ47、49、51が駆動力伝達状態下で選択的に切り替えられて発進クラッチ1005からの伝達出力を変速出力するトランス・ミション1003と、発進クラッチ1005を締結調整するクラッチ・アクチュエータ1011と、噛合いクラッチ47、49、51をシフト指示信号により切り替えるシフト・アクチュエータ1009と、発進クラッチ1005の入力回転速度を検出するイン・プット回転速度センサ1025及び出力回転速度を検出するアウト・プット回転速度センサ1027と、シフト指示信号の入力によりクラッチ・アクチュエータ1011を制御して発進クラッチ1005の締
結力を低下させ検出される発進クラッチ1005の入出力回転速度に差が生じた時点でシフト・アクチュエータ1009により噛合いクラッチ47、49、51の選択的な切り替えを行わせる制御部1007とを備えることにより実現した。
【実施例1】
【0021】
[変速制御システム]
図1は、変速制御システムのブロック図、図2は、変速制御システムの構成図である。
【0022】
本発明を実現する図1図2の実施例の変速制御システム1001は、駆動力を伝達しながら噛合いクラッチの切り替えにより変速する、いわゆるシームレス・シフトのトランス・ミション1003及び発進クラッチ1005を制御部としてのコントローラ1007によって変速制御するものである。
【0023】
トランス・ミション1003は、噛合いクラッチ47、49、51を備え、シフト・アクチュエータ1009により切り替えられるようになっている。シフト・アクチュエータ1009は、例えば、電動モータによって構成され、シフト・ドラム119の入力軸119aに取り付けられ、コントローラ1007の出力ポート側に図示しない駆動回路を介して接続されている。
【0024】
発進クラッチ1005は、クラッチ・アクチュエータ1011により締結調整されるようになっている。発進クラッチ1005は、エンジン1013のクランク・シャフト1015とトランス・ミション1003のメイン・シャフト3との間に設けられ、エンジン1013の出力をトランス・ミション1003へ断続可能に伝達する。
【0025】
この発進クラッチ1005は、一対の摩擦部材1019a、1019bをスプリング1021により締結調整することでエンジン1013からの出力を調整することができる。スプリング1021は、内径側に可動スリーブ1023aが結合され、可動スリーブ1023aが固定スリーブ1023bに対して軸方向移動調整される構成となっている。
【0026】
固定スリーブ1023b側には、ソレノイドで構成されたクラッチ・アクチュエータ1011が設けられ、クラッチ・アクチュエータ1011への通電制御により可動スリーブ1023aをスプリング1021の付勢力に抗して軸方向移動させようになっている。クラッチ・アクチュエータ1011は、コントローラ1007の出力ポート側に図示しない駆動回路を介して接続されている。
【0027】
なお、図示上、クラッチ・アクチュエータ1011は、固定スリーブ1023bから離れているが、クラッチ・アクチュエータ1011及び固定スリーブ1023bは、一体的に形成されているものである。
【0028】
また、発進クラッチ1005は、電気的に制御する油圧アクチュエータ等により締結制御する構成にすることもできる。
【0029】
コントローラ1007は、例えばマイクロ・コンピュータにより構成され、CPU、ROM、RAMなどを備えている。コントローラ1007の入力ポートには、イン・プット回転速度センサ1025、アウト・プット回転速度センサ1027が接続され、シフト指示検出センサ1029、エンジン回転数センサ1031、アクセル開度センサ1033、車速センサ1035が接続されている。
【0030】
イン・プット回転速度センサ1025は、発進クラッチ1005の入力回転速度を検出して制御部に入力するものであり、クランク・シャフト1015の回転速度を検出する。アウト・プット回転速度センサ1027は、発進クラッチ1005の出力回転速度を検出してコントローラ1007に入力するものであり、メイン・シャフト3の回転速度を検出する。
【0031】
シフト指示検出センサ1029は、手動又は自動によるシフト指示の信号を検出してコントローラ1007に入力するものである。
【0032】
シフト指示検出センサ1029は、例えば、シフト・レバーのマニュアルモードでの操作によりシフト・アップ又はシフト・ダウンが行われたとき、その操作信号を検出してシフト・レバーの操作信号としてコントローラ1007に入力する。
【0033】
自動によるシフト指示信号は、コントローラ1007に入力されるエンジン回転数、アクセル開度、車速に基づくものであり、エンジン回転数センサ1031、アクセル開度センサ1033、車速センサ1035からのエンジン回転数検出信号、アクセル開度検出信号、車速検出信号の入力に基づき適切な変速段が算出されることになる。
【0034】
なお、実施例としては、変速を手動又は自動に切り換えて行わせることができるものであるが、手動又は自動での何れかのみによる変速の切り換えを行える態様にすることもできる。
【0035】
そして、コントローラ1007にシフト指示信号が入力されると、コントローラ1007は、クラッチ・アクチュエータ1011の制御により発信クラッチ1005の締結力を徐々に低下させる。この低下によりイン・プット回転速度センサ1025、アウト・プット回転速度センサ1027により入力されている発進クラッチ1005の入出力回転速度に差が生じた時点でシフト・アクチュエータ1009により噛合いクラッチ47、49、51の選択的な切り替えを行わせる。
【0036】
噛合いクラッチ47、49、51の選択的な切り替えが完了すると、クラッチ・アクチュエータ1011により発進クラッチ1005が100%の締結結合が行われる。
[変速制御及び発進クラッチ制御]
図3は、変速制御システムのフローチャートである。
【0037】
図3のフローチャートは、例えば前記エンジン1013の始動により実行される。
【0038】
ステップS1(以下、ステップSを端に「S」と略称する。)では、「シフト指示の読み込み」の処理により、シフト指示信号が読み込まれる。この読み込みでは、手動又は自動によるシフト指示の信号が読み込まれS2へ移行する。
【0039】
S2では、「シフト指示有り?」の判断処理により、読み込まれた信号からシフト指示信号が有るか否かが判断される。シフト指示有りであれば(YES)、S3に移行し、シフト指示なしであれば(NO)、S1へ戻る。
【0040】
S3では、「発進クラッチ締結力の低下」の処理により、コントローラ1007がクラッチ・アクチュエータ1011への通電を制御して可動スリーブ1023aを固定スリーブ1023b側へ軸方向移動調整し、発進クラッチ1005の締結力を徐々に低下させ、S4に移行する。
【0041】
S4では、「アウト・プット、イン・プット回転数読み込み」の処理により、イン・プット回転速度センサ1025、アウト・プット回転速度センサ1027により入力されている発進クラッチ1005の入出力回転速度が読み込まれ、S5へ移行する。
【0042】
S5では、「アウト・プット<イン・プット?」の判断処理が実行され、発進クラッチ1005の入出力回転速度に差が生じた時点(YES)、つまり、アウト・プット回転速度がイン・プット回転速度に対して遅れ始めた時に、S6に移行し、差が生じていない時は(NO)、S3へ戻り、S3、S4、S5が繰り返される。
【0043】
S6では、「加圧力固定」の処理により、発進クラッチ締結力の低下の処理が停止され、クラッチ・アクチュエータ1011の制御を切り替えが完了するまで固定し、S7へ移行する。
【0044】
S7では、「変速」の処理により、コントローラ1007がシフト・アクチュエータ1009を通電制御し、シフト指示信号に応じて噛合いクラッチ47、49、51の選択的な切り替えを行わせ、S8に移行する。
【0045】
この場合、本実施例では、クラッチ・アクチュエータ1011による発進クラッチ1005の締結力低下開始からシフト・アクチュエータ1009による噛合いクラッチ47、49、51の切り替え開始までの間を0秒を上回る1秒未満で行う。
【0046】
このため、クラッチ・アクチュエータ1011による制御は、変速制御にほとんど影響しないようにすることができる。
【0047】
S8では、「クラッチ100%結合」の処理により、コントローラ1007がクラッチ・アクチュエータ1011の通電制御を停止するとスプリング1021が自らの付勢力でリターンし、摩擦部材1019a、1019bを締結してクラッチ100%結合の状態とし、処理を戻す。
【0048】
以上のように、駆動力を伝達しながら噛合いクラッチ47、49、51の切り替えにより変速する変速制御システムにより、駆動力が途切れず、変速ショックや加速の遅れを抑制しながら、エンジン回転数と車速との不整合によるクラッチの必要以上の滑り、或いはショックを抑制することができる。
[シームレス・シフト]
ここで、トランス・ミション1003のシームレス・シフトの構造及び作用を説明する。
【0049】
トランス・ミション1003は、駆動力伝達軸であるメイン・シャフト3及びカウンタ・シャフト5に相対回転自在に支持された複数段の変速ギヤの各噛合いクラッチが駆動力伝達状態下で選択的に切り替えられて前記発進クラッチからの伝達出力を変速出力するものである。
【0050】
このトランス・ミション1003の噛合いクラッチ47、49、51は、メイン・シャフト3に軸方向移動可能に複数備えられ軸方向の両サイドに2速以上はなれて変速ギヤとして2速ギヤ21と5速ギヤ27、4速ギヤ25と6速ギヤ29が配置され、カウンタ・シャフト5に同1速ギヤ19と3速ギヤ23が配置され、各両サイドの何れかの変速ギヤと選択的に噛み合って駆動出力軸に結合させるクラッチ・リング59、61、63を備えている。
【0051】
シフト・アクチュエータ1009は、クラッチ・リング59、61、63の変速ギヤに対する選択的な噛み合いを切り替えている。
【0052】
下段と上段との変速ギヤに何れか一対のクラッチ・リング59、61、63が各別に同時噛合いしたとき下段と上段との変速ギヤに噛合い方向と噛合い解除方向との異なる方向の軸力を各別に生じさせるガイド部Gを各クラッチ・リング59、61、63と駆動力伝達軸との間に設けている。
【0053】
以下、具体的に説明する。
【0054】
図4は、トランス・ミションの要部拡大断面図である。
【0055】
図2図4のように、トランス・ミション1003は、駆動力伝達軸としてメイン・シャフト3及びカウンタ・シャフト5、アイドラ・シャフト7を備えている。これらメイン・シャフト3及びカウンタ・シャフト5は、軸受9、11、13、15等によりミッション・ケース17に回転自在に支持されている。アイドラ・シャフト7は、ミッション・ケース17側に固定されている。
【0056】
メイン・シャフト3とカウンタ・シャフト5とには、複数段の変速ギヤとして1速ギヤ19、2速ギヤ21、3速ギヤ23、4速ギヤ25、5速ギヤ27、6速ギヤ29が固定または相対回転自在に支持されている。
【0057】
カウンタ・シャフト5上の1速ギヤ19、3速ギヤ23は、メイン・シャフト3の出力ギヤ31、33に噛合い、メイン・シャフト3上の2速ギヤ21、4速ギヤ25、5速ギヤ27、6速ギヤ29は、カウンタ・シャフト5の入力ギヤ35、37、39、41にそれぞれ噛合っている。
【0058】
アイドラ・シャフト7上のリバース・アイドラ43は、軸方向移動によりメイン・シャフト3上の出力ギヤ44及びカウンタ・シャフト5上の入力ギヤ45に噛合い可能に配置されている。
【0059】
1速ギヤ19、2速ギヤ21、3速ギヤ23、4速ギヤ25、5速ギヤ27、6速ギヤ29は、複数の第1〜第3の噛合いクラッチ47、49、51によりメイン・シャフト3又はカウンタ・シャフト5に結合されてメイン・シャフト3からカウンタ・シャフト5へ変速出力可能となっている。
【0060】
第1〜第3の噛合いクラッチ47、49、51は、複数段の変速ギヤの上段への変速を、複数の第1〜第3の噛合いクラッチ47、49、51を変更して行なうようになっている。 すなわち、複数段の変速ギヤである1速ギヤ19、2速ギヤ21、3速ギヤ23、4速ギヤ25、5速ギヤ27、6速ギヤ29は、第1〜第3の噛合いクラッチ47、49、51を変更して変速を行うように配列されている。
【0061】
例えば1速ギヤ19から2速ギヤ21への変速は、複数の第1、第2の噛合いクラッチ47、49を変更して行なう。
【0062】
第1〜第3の噛合いクラッチ47、49、51は、基本的には同一構造であり、クラッチ・カム・リング53、55、57、クラッチ・リング59、61、63、クラッチ・リング59、61、63及び1速ギヤ19〜6速ギヤ29の各対向面に形成されたクラッチ歯47a、47b、49a、49b、51a、51b、19a、21a、23a、25a、27a、29aを備えている。
【0063】
したがって、クラッチ・リング59、61、63は、メイン・シャフト3、カウンタ・シャフト5の軸方向へ噛合い移動してクラッチ歯47a、47b、49a、49b、51a、51b、19a、21a、23a、25a、27a、29aの選択的な噛合いにより変速出力のための結合を行わせる。
【0064】
第1〜第3の噛合いクラッチ47、49、51のクラッチ・カム・リング53、55、57には、への字状のカム溝65、67、69が形成されている。第1の噛合いクラッチ47のクラッチ・カム・リング53は、カウンタ・シャフト5に結合され、一体回転可能となっている。第2、第3の噛合いクラッチ49、51のクラッチ・カム・リング55、57は、メイン・シャフト3に結合され、一体回転可能となっている。
【0065】
第1〜第3の噛合いクラッチ47、49、51のクラッチ・リング59、61、63は、クラッチ・カム・リング53、55、57の外周に嵌合配置され、軸方向へ移動可能となっている。クラッチ・リング59、61、63の内周には、カム突起71、73、75が形成され、カム溝65、67、69に嵌合しガイドされるようになっている。
【0066】
クラッチ・リング59及びリバース・アイドラ43には、後述するシフト・フォーク77、79が嵌合する周凹条81、83が形成されている。クラッチ・リング59の外周には、さらに前記入力ギヤ45が形成されている。クラッチ・リング61、63には、後述するシフト・フォーク85、87が嵌合する周凸条89、91が形成されている。
【0067】
第1〜第3の噛合いクラッチ47、49、51は、変速操作部93により選択的に操作されるようになっている。リバース・アイドラ43も、変速操作部93により操作されるようになっている。
【0068】
変速操作部93は、ミッション・ケース17内に備えられ、複数のシフト・フォーク77、79、85、87と複数のシフト・ロッド103、105、107、109とシフト・アーム111、113、115、117とシフト・ドラム119とを備えている。
【0069】
シフト・フォーク77、79、85、87は、第1〜第3の各噛合いクラッチ47、49、51毎及びリバース・アイドラ43に備えられ、各噛合いクラッチ47、49、51、リバース・アイドラ43を連動させるものである。
【0070】
シフト・ロッド103、105、107、109は、各シフト・フォーク77、79、85、87を支持している。
【0071】
シフト・アーム111、113、115、117は、各シフト・ロッド103、105、107、109に結合されている。
【0072】
シフト・ドラム119は、シフト溝120、121、123、125を備え、このシフト溝120、121、123、125に各シフト・アーム111、113、115、117の先端突部を係合させている。
【0073】
シフト・フォーク85、87側とミッション・ケース17側との間には、凹凸部127、129及びチェック部131、133が設けられている。シフト・フォーク99側とミッション・ケース17側との間にも、同一構造の、凹凸部及びチェック部が設けられているが、図示は省略する。
【0074】
凹凸部127、129は、シフト・フォーク95、97に形成され、山形の位置決め凹部127a、127b、127c、129a、129b、129cを備えている。位置決め凹部127a、129aは、ニュートラル位置に対応し、位置決め凹部127b、127c、129b、129cは、コースト噛み合い位置に対応している。
【0075】
チェック部131、133は、ミッション・ケース17側に支持され、チェック・ボール131a、133aをチェック・スプリング131b、133bにより付勢し、凹凸部127、129に弾性力を持って係合させている。この係合により第1〜第3の噛合いクラッチ47、49、51をニュートラル位置とコースト噛合い位置とへ位置決めることができる。
【0076】
トランス・ミション1003の出力は、カウンタ・シャフト5の出力ギヤ135に噛合うフロント・デファレンシャル装置137から行う。
【0077】
すなわち、シフト・レバーのマニュアル操作信号に基づき、或いはアクセル・ペダルの操作によるアクセル開度及び車速信号等に基づき、シフト・モータ(図示せず)によりシフト・ドラム119が回転駆動されると、シフト溝120、121、123、125のガイドにより何れかのシフト・アーム111、113、115、117を介してシフト・ロッド103、105、107、109が軸方向へ選択駆動される。
【0078】
このシフト・ロッド103、105、107、109の選択駆動によりシフト・フォーク77、79、85、87の何れかを介して第1〜第3の噛合いクラッチ47、49、51、或いはリバース・アイドラ43が選択操作される。この選択操作により、1速ギヤ19〜6速ギヤ29、リバース・アイドラ43が選択的に動作し、シフト・アップ、シフト・ダウン、リバースのチェンジを行わせることができる。
【0079】
前記変速操作部93及び第1〜第3の噛合いクラッチ47、49、51に、前記変速操作部93の動作により下段と上段の噛合いクラッチが2重噛合いした時、エンジンの出力トルクに係らず、機構上必然的に発生する内部循環トルクにより上段はドライブ方向のトルクが働きより深く噛み合う方向へ、下段はコースティング・トルクによりクラッチをニュートラル方向へ移動させて噛合いを解除する作用を有するガイド部Gを各段に設けている。
【0080】
ガイド部Gは、前記のようにカム溝65、67、69及びカム突起71、73、75を第1〜第3の噛合いクラッチ47、49、51に備えている。カム溝65、67、69及びカム突起71、73、75により、第1〜第3の噛合いクラッチ47、49、51のコースト噛合い位置で駆動トルク及びコースティング・トルクを前記1速ギヤ19、2速ギヤ21、3速ギヤ23、4速ギヤ25、5速ギヤ27、6速ギヤ29に伝達し、コースト噛合い位置よりも噛合い離脱側へ移動した離脱待機の位置でのみコースティング方向トルクにより前記噛合いをニュートラル方向へガイドすることができる。
【0081】
また、ガイド部Gは、移動力伝達機構Mを変速操作部93に備え、後述する駆動斜面Fを第1〜第3の噛合いクラッチ47、49、51の正の駆動トルク伝達側のみに備えている。
【0082】
駆動斜面Fは、ドライブ・トルクにより第1〜第3の噛合いクラッチ47、49、51のクラッチ・リング59、61、63を離脱待機の位置へ移動させる移動力を発生させることができる。尚斜面Fは歯車側のクラッチ歯に設けても良く同様の機能を得ることが出来る。
【0083】
図5図6は、カム溝及びカム突起を示す展開図、図7図8は、クラッチ・カム・リング及びクラッチ・リングの関係を示す斜視図、図9は、クラッチ・カム・リングを示す斜視図、図10は、クラッチ・リングを示す斜視図である。
【0084】
図5図10のように、カム溝65、67、69は、クラッチ・カム・リング53、55、57の外周面に周方向等間隔で複数形成されている。このカム溝65、67、69は、ニュートラルに対応する部分を含めて軸方向の中央部にV形状部65a、67a、69aが形成され、その両側に平坦部65b、67b、69bが形成されたものである。
【0085】
このため、噛み合いクラッチ47、49、51が非待機位置に位置する場合、該平坦部65b、67b、69bにカム突起71、73、75が位置するため、コースティング・トルクが作用しても、ニュートラル方向へのスラストは生ぜず、噛み合いを保つ。
【0086】
カム突起71、73、75は、クラッチ・リング59、61、63の内周に周方向一定間隔で径方向に突設され、前記カム溝65、67、69にそれぞれ嵌入し、ガイドされるようになっている。
【0087】
したがって、第1〜第3の噛合いクラッチ47、49、51のコースト噛合い位置では、カム突起71、73、75が平坦部65b、67b、69bに位置して駆動トルク及びコースティング・トルクを前記1速ギヤ19、2速ギヤ21、3速ギヤ23、4速ギヤ25、5速ギヤ27、6速ギヤ29に伝達することができる。
【0088】
第1〜第3の噛合いクラッチ47、49、51の離脱待機の位置では、カム突起71、73、75がV形状部65a、67a、69aに位置するから、図6のようにコースティング方向トルクにより噛合いをニュートラル方向へガイドすることができる。
【0089】
図11図12は、シフト・フォーク、チェック部、及び噛合いクラッチとの関係を示す概略図、図13は、クラッチ・リングの要部展開図、図14は、ドグ・クラッチの噛合いを示し、(a)は、コースト噛合い位置、(b)は、待機噛合い位置を示す要部展開図である。図11図14は、第3の噛合いクラッチについて説明する。第1、第2の噛合いクラッチについても同様であり、重複説明は省略する。
【0090】
図11図14のように、第3の噛合いクラッチ51は、クラッチ・リング63のクラッチ歯51a、51bと4速ギヤ25、6速ギヤ29のクラッチ歯25a、29aとが、周方向の配置において、歯幅よりも大きな相互間隔を有している。各クラッチ歯51a、51b、25a、29aの周方向噛合い面は、歯の根元が若干細くなるように傾斜形成されている。
【0091】
クラッチ・リング63のクラッチ歯51a、51bの根元には、駆動トルクを受ける噛合い面に前記駆動斜面Fがそれぞれ形成されている。
【0092】
したがって、第3の噛合いクラッチ51を、例えば6速ギヤ29に噛合い結合させ、駆動トルクが働くと、図14(b)のように駆動斜面Fによってクラッチ・リング63が移動する。このとき図12に示す、シフト・フォーク87の凹部129bがボール133aを押しのけ、スプリング133bは加圧されエネルギを蓄える。
【0093】
この移動を許すのはシフト・アーム117のガイドに対しシフト溝125に適宜軸方向の遊びを設けているからである。この移動によりクラッチ・リング63は、図11図14(a)のコースト噛合い位置よりも噛合い離脱側へ移動した離脱待機の位置となる。
【0094】
次に駆動トルクがコースト方向に変化すると、歯は反対側に押し付けられ、図14に示す斜面Fから離脱する。このため上記スプリング133bのエネルギにより凹部129b、ボール133aの作用で図14(a)に示す深い噛み合い状態となる。この状態においては、図2図4に示すカム突起75がカム溝69の軸方向端部側の平坦部69bに位置するため、クラッチ・リング63にスラストは発生しない。
【0095】
一方上段への変速が開始された場合、図2に示すシフト・ドラム119が回転しているので下段のシフト溝125の形状によりシフト・アーム117のガイドに対する上記遊びをなくしコースト・トルクが作用しも離脱位置を保持する。このとき突起75はカム溝69の平坦部69bから斜面部へ移動しているため上段ギヤの噛合いにより、下段ギヤにコースティング・トルクが負荷されると、カム溝69の斜面によりニュートラル方向へ移動するスラスト分力を得ることができる。具体的な変速アクションについては後記する。
[シフト・アップ]
図15は、シフト・アップ時トランス・ミションの4速ギヤ噛み合いを示す概略図、図16は、シフト・アップ時トランス・ミションの4速クラッチ・リングの離脱待機の位置を示す概略図、図17は、5速に変速終了時の概略図、図18は、シフト・ダウン時、4速5速がニュートラルであることを示す概略図である。
【0096】
ここでは、説明を簡単にするため、4速(下段)から5速(上段)へのシフト・アップを主に説明する。他の段のシフト・アップも同様である。図中、ドライブ方向の矢印は、メイン・シャフト3を図上右から見て反時計回りに回転することを示す。
【0097】
(4速→5速)
図15図18にシフト・アップ時の動きを示す。図15の4速のクラッチ歯25aにはドライブ・トルクが付加されているため前記したようにクラッチ・リング63は斜面Fの作用により図16のように離脱待機位置となる。つまり4速位置にあるクラッチ・リング63の突起75はカム溝69の斜面に位置することとなる。このときシフト・ドラム119の回転により5速へのシフト・アップ操作が行われると、シフト溝123が働き、シフト・アーム115、シフト・ロッド107、シフト・フォーク85を介してクラッチ・リング61が操作される。この操作によりクラッチ・リング61が5速ギヤ27に噛み合い、4速ギヤ25及び5速ギヤ27が同時噛合いとなる。
【0098】
このときエンジン出力トルクの如何に係らず同時噛み合いによる機構的必然による内部循環トルクにより4速側にはコースティング・トルク、5速側にはドライブ・トルクが発生する。このトルクがカム溝69、67の斜面の作用で4速位置にあるクラッチ・リング63には図右側ニュートラル方向、5速位置のクラッチ・リング61には図右側噛み合いを深める方向のスラストが発生し、それぞれのクラッチ・リング63、61を所定の位置に移動し、図17に示すように5速へのシフト・アップを終了させる。
【0099】
本発明実施例の特徴は、クラッチ・リング59、61、63が軸方向へ移動するとき、カム溝65、67、69の斜面の作用で、メイン・シャフト3またはカウンタ・シャフト5と同回転するカム・リング53、55、57に対して相対的に下段側のクラッチ・リング59、61、63は回転が遅れ、上段側のクラッチ・リング59、61、63は回転が先行する。このような状況で回転する下段と上段との歯車のクラッチ歯19a、21a、23a、25a、27a、29aの相対速度をなくしダブル噛み合いを許容すると共に、シンクロ作用を発生し変速ショックを緩和する。
[エンジンブレーキが働いているときのシフト・アップ]
エンジンブレーキが作用しているときシフト・アップすると、4速位置にあるクラッチ・リング63は待機位置に位置しない状態で変速が行われる。このときシフト・アップ操作によりクラッチ・リング61が5速ギヤ27に噛み合い、4速に更なるコースティング・トルクが働くが、4速位置のクラッチ・リング63は離脱待機位置に無いため、ニュートラル方向へのスラスト分力は発生しない。
【0100】
しかし、(1)エンジンブレーキ時のコースティング・トルクは加速時のトルクに比べ絶対値が小さく、噛み合いクラッチに働く摩擦力は小さい。(2)5速位置のクラッチ・リング61はカム溝67の斜面作用で強力なスラスト分力が発生する。
【0101】
このスラストが5速位置のシフト・フォーク85、シフト・ロッド107、シフト・ドラム119を経て、4速位置のシフト・ロッド109、シフト・フォーク87へと伝達され、4速位置のクラッチ・リング63を図右側のニュートラル方向へ駆動する。従って、このような場合でもシフト・アップへの支障は生じない。
【0102】
またドライブ・トルクが働いている場合であっても、斜面Fがない場合、クラッチ・リング63は離脱待機位置に位置しない。しかし、この場合であっても、上記5速位置のシフト機構からの力の伝達により、強制的にニュートラル方向へクラッチ・リング63を移動できる。
【0103】
このため斜面Fは本発明に必須のものではなく、変速をよりスムースにするためのものである。
【0104】
また、本実施例はシフト・ドラム119のシフト溝120、121、123、125(円筒カム)によりシフト操作するが、平面カム、または各シフト・ロッドを制御された油圧や電動モータ、空気圧等で駆動しても本発明は成立する。
[シフト・ダウン 5速→4速]
減速時は加速時のような、シームレス・シフトの必要性は無い。減速は主にブレーキにより受け持たれ、エンジンからの出力は基本的に関係しないから、エンジンからの駆動トルクやエンジンブレーキトルクが途切れても問題ないためである。このため通常のマニアルトランス・ミションと同じように、まず上段の5速位置にあるクラッチ・リング61を図18に示すニュートラルに移動させ動力を遮断し、次にクラッチ・リング63を4速ギヤ25を噛み合わせることでシフト・ダウンする。
【0105】
以上で、図15の噛み合い状態となる。
【0106】
このように本実施例はシフト・アップとシフト・ダウンで、噛み合い移行の形態が異なることを特徴とする。これは、上段と下段のクラッチ・リング61、63が独立しているためと円筒カム119のシフト溝125、123の連携形状による。
【0107】
[シフト・アップ 4速→5速]
以下このようにシフト・アップとシフト・ダウンとで変速形態を異ならせる機構について図19により説明する。図19は、シフト・アップ、シフト・ダウンのときのドラム溝の作動説明である。
【0108】
図15に示す4速時、シフト・アーム117及びシフト・アーム115は、図19に示す位置115aおよび位置117aにある。シフト・ドラム119がシフト・アップのため図手前側へ上から下へ回転すると、シフト溝123の斜面123aによりシフト・アーム115が位置115b1から、115b2、115cへと移動する。このときダブル噛み合いが生じシフト・アーム117は、位置117b1位置からカム・リング57のカム溝69の斜面の働きで、位置1172に自動的に移動しニュートラルとなる。更にシフト・ドラム119の回転で位置117Cに移行する。以上で4速から5速へのシフト・アップは終了する。
[シフト・ダウン 5速→4速]
5速でクラッチが噛み合っているとき、シフト・フォーク117はチェック部133により図2に示すようにニュートラル位置に保持されている。シフト・ドラム119が回転し、シフト溝125がシフト・アーム117に対し、図19の位置117b2にあって軸方向の遊びがあっても、上記チェック部133によりシフト・アーム117は位置117b2においてニュートラルに保持される。
【0109】
一方、シフト・アーム115は位置115cから、位置115b1に移行し4速、5速とも図18に示すようにニュートラルとなる。
【0110】
更にシフト・ドラム119が回転するとシフト・フォーク117は、位置117b2から位置117aに移行しクラッチ・リング63が4速ギヤ25のクラッチ歯25aと噛み合い、図15のようにシフト・ダウンが完了する。
[変速ショック緩和メカニズム]
かかるトランス・ミッション1003の変速制御及び前記発進クラッチ制御による変速ショック緩和のメカニズムをさらに具体的に説明する。この場合、説明を簡単にするため、4速→5速へのシフト・アップ時について説明する。
【0111】
4速側にシフトされているとき、4速ギヤ25とメイン・シャフト3とは等速で回転している。また、5速ギヤ27はメイン・シャフト3より遅く回転している。
【0112】
通常の変速機の場合、この状態で、急激に5速にシフト・アップすると、5速ギヤ27はメイン・シャフト3と瞬時に同一回転となり、巨大な角加速度が生じ、衝撃トルクが発生する。
【0113】
一方、本願発明実施例が前提とするシームレス・シフトのトランス・ミッション1003では、かかる衝撃トルクは発生しない。
【0114】
すなわち、シフト・アップのためにシフト・フォーク85を介してクラッチ・リング61が、図中右方向に操作され、同時にクラッチ・リング63がシフト・フォーク87により右方向に操作される。このため4速側の突起75の移動速度とカム溝69の屈曲形状の斜面効果とにより、メイン・シャフト3と結合しているカム溝69側をより速く回転させる。このため4速ギヤ25の回転は、メイン・シャフト3の回転よりも相対的に遅くなり、5速ギヤ27の回転により近づくことになる。
【0115】
一方、5速側の突起73の回転数はカム溝67により増速し、突起73と同一回転する5速ギヤ27の回転速度は、4速ギヤ25の回転により近づくことになる。以上の作用によりシンクロ効果が発生することは、上記した通りである。
【0116】
さらに、速側のクラッチ・リング61が移動し続けると、クラッチ・リング61の突起73はカム溝67の平坦部に移動するとともに4速のかみ合いが外れ、5速側のクラッチ・リング61が完全に噛合い、5速ギヤ27の回転はメイン・シャフト3の回転と同一となり変速は終了する。
【0117】
以上のように突起73、75と屈曲形状のカム溝67、69の斜面とによるシンクロ作用、及び突起73、75とカム溝67、69との摺動摩擦により、変速ショックを吸収しスムーズな変速が可能となる。
【0118】
しかし、このような、いわゆるシームレス・シフトのトランス・ミッション1003においても、変速初期に変速ショックは多少残存する。特にエンジン回転数が高く変速前後のエンジン回転数差が大きいと、カム溝65、67、69と突起71、73、75とのシンクロ機能においても、変速ショックが大きくなる可能性が有る。
【0119】
すなわち、4速ギヤ25でドライブしているときには、ギヤ比により5速ギヤ27は、メイン・シャフト3よりも早く回転している。この状態から変速により5速ギヤ27側の変速動作が始まると、ドライブ・トルクにより5速側の突起73がカム溝67の凹曲面側に押し付けられ、5速ギヤ27とクラッチ・リング61とは、図14(a)と同様な関係から図14(b)と同様な関係へ瞬時に移行する。
【0120】
このため、5速側の突起73がカム溝67の凹曲面側に押し付けられるときに衝突力が発生し、変速ショックとなる。この衝突によるショックは、カム溝67による突起73の滑らかなガイド及び摩擦力により概ね直ちに吸収されるが、カム溝67及び突起73によるシンクロ機能への遷移時に瞬時のショックとしては残存する。
【0121】
そこで、上記変速制御及び発進クラッチ制御を行う構成とした。
【0122】
ここで、メイン・シャフト3の駆動力を瞬間的に抜くと突起73がカム溝67の凹面側に衝突してもメイン・シャフト3に駆動力が存在しないことからショックの発生は殆ど無く、大きく抑制されることになる。
【0123】
しかし、単に駆動力を抜いてしまうとカム溝67の凹面側に対する突起73の押し付け力がなくなり、カム溝67の凹面側による突起73の摩擦力を伴ったガイドの開始タイミングが瞬間的に遅れ、トルクの途切れを招くことになる。
【0124】
そこで、変速直前の4速時に、発進クラッチ1005が滑り始めるまでクラッチ加圧力を緩めると、それ以上のトルクは伝達できなくなるため、シンクロ作用が、多少不足していても、ショックトルクは発生せず、よりスムーズな変速が可能となる。
【0125】
そして、変速完了後にメイン・シャフト3を発進クラッチ1005の100%結合によりクランク・シャフト1015に結合すれば、一連の変速操作は終了する。
【0126】
また、変速段に応じた発進クラッチ1015の滑り速度差の極めて小さい状況で発進クラッチ1005の結合を完了させることができ、ショックの小さな、トルクの途切れが殆ど無い、円滑な変速を行わせることができる。
【0127】
このような、作用は、他の段1速→2速、2速→3速、3速→4速、5速→6速のシフト・アップにおいても同様であり、変速段に応じてカム溝及び突起によるシンクロ機能を適正に働かせるように発進クラッチの滑り速度を制御できる。
【符号の説明】
【0128】
1001 変速制御システム
1003 トランス・ミション
1005 発進クラッチ
1007 コントローラ(制御部)
1009 シフト・アクチュエータ
1011 クラッチ・アクチュエータ
1025 イン・プット回転速度センサ
1027 アウト・プット回転速度センサ
3 メイン・シャフト(駆動力伝達軸)
5 カウンタ・シャフト(駆動力伝達軸)
19 1速ギヤ(変速ギヤ)
21 2速ギヤ(変速ギヤ)
23 3速ギヤ(変速ギヤ)
25 4速ギヤ(変速ギヤ)
27 5速ギヤ(変速ギヤ)
29 6速ギヤ(変速ギヤ)
47 第1の噛合いクラッチ
49 第2の噛合いクラッチ
51 第3の噛合いクラッチ
59、61、63 クラッチ・リング
G ガイド部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19