特許第6180540号(P6180540)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6180540
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/54 20060101AFI20170807BHJP
   B60T 11/08 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   B60T8/54
   B60T11/08
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-544931(P2015-544931)
(86)(22)【出願日】2014年10月20日
(86)【国際出願番号】JP2014077787
(87)【国際公開番号】WO2015064404
(87)【国際公開日】20150507
【審査請求日】2016年2月29日
(31)【優先権主張番号】特願2013-225197(P2013-225197)
(32)【優先日】2013年10月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003333
【氏名又は名称】ボッシュ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】武藤 和彦
【審査官】 村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−257356(JP,A)
【文献】 特開平08−099618(JP,A)
【文献】 特開2000−142343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12−8/96
F16D 49/00−71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を回転駆動する駆動源と、
前記回転軸に固定されたカム部材と、
前記回転軸に揺動可能に軸支され、車両に対するブレーキ操作に連動して前記回転軸周りに揺動する第1のリンク部材と、
前記第1のリンク部材に接続され、前記車両に対するブレーキ操作に連動して動く第1の部材と、
前記第1のリンク部材に連結され、前記第1のリンク部材の揺動に連動して揺動することによって前記車両に対するブレーキ力を制御する第2のリンク部材と、
前記第2のリンク部材に接続され、前記車両に対するブレーキ力を制御するための第2の部材と、を備え、
前記第2のリンク部材は、前記カム部材と当接する当接部を有し、前記車両に対するブレーキ操作が行われた状態において、前記カム部材の回転に応じて揺動することによって前記車両に対するブレーキ力を変化させ、
前記第1のリンク部材は、前記第1の部材が接続される第1の接続部、該第1の接続部から延伸し前記回転軸に揺動可能に軸支された第1の延伸部、該第1の延伸部の前記第1の接続部から前記回転軸を越えて延伸する部分において連結軸が設けられる第1の連結部、を有し、
前記第2のリンク部材は、前記連結軸を介して前記第1の連結部と連結される第2の連結部、該第2の連結部から延伸し前記当接部を有する第2の延伸部、及び該第2の延伸部の前記第2の連結部から前記当接部を越えて延伸する部分において前記第2の部材が接続される第2の接続部、を有する、
ことを特徴とするブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1のブレーキ装置において、
前記第1の部材は、前記車両に対するブレーキ操作に連動して往復動するワイヤ又はロッドであり、
前記第2の部材は、前記第2のリンク部材に接続されるとともに前記車両のドラムブレーキに接続され前記第2のリンク部材の揺動に連動して往復動するワイヤ又はロッドである、
ことを特徴とするブレーキ装置。
【請求項3】
請求項2のブレーキ装置において、
前記第2の部材は、前記ドラムブレーキ側へ付勢されており、
前記第2のリンク部材は、前記カム部材の回転に応じて前記回転軸から前記当接部までの距離が変化することによって前記連結軸周りに揺動し、該揺動によって前記車両に対するブレーキ力の強弱を変化させる、
ことを特徴とするブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項のブレーキ装置において、
前記カム部材は、偏心カムである、
ことを特徴とするブレーキ装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項のブレーキ装置において、
前記車両の車輪がロックしそうな状態が検出されたら、前記駆動源を介して前記カム部材を回転させることにより、前記車両に対するブレーキ力の強弱を変化させるABS制御部、をさらに備える、
ことを特徴とするブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車両のブレーキ制御には、ABS(Antilock Brake System)が採用されている。ABSは、車輪がロックしそうになると、これを感知して、ブレーキを弱めることによって車輪のロックを抑制するシステムである。
【0003】
一般的なABSは、例えば車両の速度など車両の状態を示すパラメータをモニターし、モニターしたパラメータに基づいて車輪がロックしそうな状態を検出したら、ブレーキ液圧回路の増圧弁を閉じ減圧弁を開くことによってブレーキ液圧を下げる。また、ABSは、ブレーキ液圧を下げることによって車輪がロックしそうな状態から復帰したら、減圧弁を閉じ増圧弁を開くことによってブレーキ液圧を上げる。ABSは、このようにブレーキ液圧を上げ下げすることによってポンピングブレーキと同じ効果を発揮して、車輪のロックに起因するスリップの発生を抑制する。
【0004】
また、このABSに類似した従来技術として、自転車のブレーキワイヤに圧接するプーリと、プーリを支持するアームと、アームの他端に係止するカムとを備えた制動装置が知られている。この制動装置は、カムを回転させることによってアーム及びプーリをブレーキワイヤに対して往復動させ、これによりブレーキワイヤの張力を増減させ、その結果、自転車の急ブレーキ時のスリップを防止するものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−255558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術は、ブレーキ液圧を用いない簡素な構成のABSを実現することについては考慮されていない。
【0007】
すなわち、近年、前後輪ともにドラムブレーキ、又は前後輪のいずれか一方がドラムブレーキの車両(例えば小排気量の2輪車など)が製造されている。このような車両に対して一般的なブレーキ液圧を用いたABSを導入するためには、前後輪ともにブレーキ液圧を用いたブレーキ装置に変更する必要があるので、現実的ではない。
【0008】
一方、上記のようにブレーキ液圧を用いない構成の従来技術もあるが、この従来技術は、ブレーキワイヤに圧接したプーリをカムの回転によって往復動させ、これによってブレーキワイヤの張力を増減させるものである。このため、ブレーキワイヤの張力の増減がドライバにそのまま伝達され、ブレーキフィーリングに影響を与える場合がある。一方、従来技術においてブレーキフィーリングの影響を軽減させるためには、ABSの構成が複雑化するおそれがある。
【0009】
そこで本願発明は、ブレーキ液圧を用いない簡素な構成のABSを実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明のブレーキ装置の一形態は、上記課題に鑑みなされたもので、回転軸を回転駆動する駆動源と、前記回転軸に固定されたカム部材と、前記回転軸に揺動可能に軸支され、車両に対するブレーキ操作に連動して前記回転軸周りに揺動する第1のリンク部材と、前記第1のリンク部材に連結され、前記第1のリンク部材の揺動に連動して揺動することによって前記車両に対するブレーキ力を制御する第2のリンク部材と、を備え、前記第2のリンク部材は、前記カム部材と当接する当接部を有し、前記車両に対するブレーキ操作が行われた状態において、前記カム部材の回転に応じて揺動することによって前記車両に対するブレーキ力を変化させる、ことを特徴とする。
【0011】
また、前記第1のリンク部材に接続され、前記車両に対するブレーキ操作に連動して動く第1の部材、及び前記第2のリンク部材に接続され、前記車両に対するブレーキ力を制御するための第2の部材、をさらに備えた場合、前記第1のリンク部材は、前記第1の部材が接続される第1の接続部、該第1の接続部から延伸し前記回転軸に揺動可能に軸支された第1の延伸部、該第1の延伸部の前記第1の接続部から前記回転軸を越えて延伸する部分において連結軸が設けられる第1の連結部、を有し、前記第2のリンク部材は、前記連結軸を介して前記第1の連結部と連結される第2の連結部、該第2の連結部から延伸し前記当接部を有する第2の延伸部、及び該第2の延伸部の前記第2の連結部から前記当接部を越えて延伸する部分において前記第2の部材が接続される第2の接続部、を有する、ことができる。
【0012】
また、前記第1の部材を、前記車両に対するブレーキ操作に連動して往復動するワイヤ又はロッドとし、前記第2の部材は、前記第2のリンク部材に接続されるとともに前記車両のドラムブレーキに接続され前記第2のリンク部材の揺動に連動して往復動するワイヤ又はロッドとすることができる。
【0013】
また、前記第2の部材は、前記ドラムブレーキ側へ付勢されており、前記第2のリンク部材は、前記カム部材の回転に応じて前記回転軸から前記当接部までの距離が変化することによって前記連結軸周りに揺動し、該揺動によって前記車両に対するブレーキ力の強弱を変化させる、ことができる。
【0014】
また、前記カム部材を、偏心カムとすることができる。
【0015】
また、前記車両の車輪がロックしそうな状態が検出されたら、前記駆動源を介して前記カム部材を回転させることにより、前記車両に対するブレーキ力の強弱を変化させるABS制御部、をさらに備えることができる。
【発明の効果】
【0016】
かかる本願発明によれば、ブレーキ液圧を用いない簡素な構成のABSを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本実施形態のメカABSを含むブレーキシステムの構成を示す図である。
図2図2は、メカABSの斜視図である。
図3A図3Aは、ブレーキ操作が行われていない状態におけるメカABSの正面図である。
図3B図3Bは、ブレーキ操作が行われた状態におけるメカABSの正面図である。
図3C図3Cは、ブレーキ操作が行われ、かつ、カム部材の回転によってブレーキ力が緩められた状態におけるメカABSの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本願発明のブレーキ装置の実施形態について説明する。図1は、本実施形態のメカABSを含むブレーキシステムの構成を示す図である。なお、本実施形態では、車両の一例として2輪車を挙げ、2輪車におけるブレーキ装置について説明するが、これには限られない。
【0019】
図1に示すように、ブレーキシステム500は、車両に対するブレーキ力を制御するためのメカABS100と、メカABSを制御するためのABSECU(Electronic Control Unit)200とを備える。また、ブレーキシステム500は、メカABS100と第2のブレーキワイヤ(第2の部材)104によって接続されたドラムブレーキ300と、メカABS100と第1のブレーキワイヤ(第1の部材)102によって接続されたブレーキレバー400とを備える。
【0020】
ブレーキレバー400は、車両のドライバがブレーキ操作を行うためのレバーである。ドラムブレーキ300は、車両の車輪に対してブレーキ力を付与するための制動装置である。第1のブレーキワイヤ102は、ブレーキレバー400に対するブレーキ操作に連動して往復動する。第2のブレーキワイヤ104は、ドラムブレーキ300側へ付勢されており、ABSが作動していない通常時には、第1のブレーキワイヤ102の往復動に連動して往復動する。ドラムブレーキ300は、第2のブレーキワイヤ104の往復動に連動して車輪に対してブレーキ力を付与する。なお、制動装置はドラムブレーキ300に限られない。
【0021】
続いて、メカABS100の詳細を説明する。図2は、メカABSの斜視図である。図3Aは、ブレーキ操作が行われていない状態におけるメカABSの正面図である。図3Bは、ブレーキ操作が行われた状態におけるメカABSの正面図である。図3Cは、ブレーキ操作が行われ、かつ、カム部材の回転によってブレーキ力が緩められた状態におけるメカABSの正面図である。
【0022】
図2に示すように、メカABS100は、第1のリンク部材120及び第2のリンク部材130等を内部に収容する筐体110と、筐体110の外面に遊星ギア160を介して設けられたモータ(駆動源)170とを備える。モータ170は、遊星ギア160を介して図2においては不図示の回転軸を回転駆動する。筐体110には、第1のブレーキワイヤ102が挿入される穴112、及び第2のブレーキワイヤ104が挿入される不図示の穴が形成されている。
【0023】
また、メカABS100は、モータ170によって回転駆動される回転軸172と、回転軸172に固定されたカム部材(偏心カム)150と、を備える。また、メカABS100は、回転軸172に揺動可能に軸支され、車両に対するブレーキ操作に連動して回転軸172周りに揺動する第1のリンク部材120を備える。また、メカABS100は、第1のリンク部材120に連結され、第1のリンク部材120の揺動に連動して揺動することによって車両に対するブレーキ力を制御する第2のリンク部材130を備える。なお、カム部材150は、偏心カムに限られない。
【0024】
また、図3に示すように、メカABS100は、第1のリンク部材第1のリンク部材120に接続され、ブレーキレバー400に対するブレーキ操作に連動して往復動する第1のブレーキワイヤ102と、第2のリンク部材130に接続され、車両に対するブレーキ力を制御するための第2のブレーキワイヤ104とを備える。
【0025】
なお、本実施形態では、第1のブレーキワイヤ102を例に挙げて説明するが、車両に対するブレーキ操作に連動して往復動するものであればワイヤでなくてもよく、例えばロッドなどであってもよい。また、本実施形態では、第2のブレーキワイヤ104を例に挙げて説明するが、第2のリンク部材130の揺動に連動して往復動するものであればワイヤでなくてもよく、例えばロッドなどであってもよい。
【0026】
第1のリンク部材120、及び第2のリンク部材130について具体的に説明する。第1のリンク部材120は、第1のブレーキワイヤ102が接続される第1の接続部122、第1の接続部122から延伸し回転軸172に揺動可能に軸支された第1の延伸部124、及び第1の延伸部124の第1の接続部122から回転軸172を越えて延伸する部分において連結軸140が設けられる第1の連結部126、を有する。
【0027】
第2のリンク部材130は、連結軸140を介して第1の連結部126と連結される第2の連結部132、及び第2の連結部132から延伸する第2の延伸部134を有する。第1のリンク部材120と第2のリンク部材130は、連結軸140を介して相互に回転可能になっている。
【0028】
ここで、第2の延伸部134は、カム部材150と当接する当接部136を有する。また、第2のリンク部材130は、第2の延伸部134の第2の連結部132から当接部136を越えて延伸する部分において第2のブレーキワイヤ104が接続される第2の接続部138を有する。第2のリンク部材130は、当接部136を有しており、車両に対するブレーキ操作が行われた状態において、カム部材150の回転に応じて揺動することによって車両に対するブレーキ力の強弱を変化させることができる。この点について、以下、説明する。
【0029】
まず、図3Aのようにブレーキ操作が行われていない状態から、ブレーキレバー400が操作されて第1のブレーキワイヤ102がブレーキレバー400側へ引っ張られると、図3Bのようにブレーキ操作が行われた状態になる。すなわち、第1のブレーキワイヤ102がブレーキレバー400側へ引っ張られると、第1のリンク部材120は、回転軸172周りに反時計周りに揺動(回転)する。これに伴って、連結軸140は反時計周りに揺動する。一方、第2のリンク部材130は、連結軸140によって第1のリンク部材120と連結されており、かつ、当接部136がカム部材150と当接しているので、連結軸140の揺動に連動して反時計回りに揺動する。その結果、第2のブレーキワイヤ104は、第2のリンク部材130によってメカABS100側へ引っ張られ、これによってドラムブレーキ300から車輪へブレーキ力が付与される。
【0030】
また、図3Bのようにブレーキ操作が行われた状態において、ABSECU200は、車両の車輪がロックしそうな状態が検出されたら、モータ170を介してカム部材150を回転させることにより、車両に対するブレーキ力の強弱を変化させる。すなわち、ABSECU200は、図3Bのようにブレーキ操作が行われた状態において、車両の車輪がロックしそうな状態が検出されたら、モータ170によって回転軸172を回転駆動する。これによって、カム部材150は、回転軸172周りに偏心回転する。第2のブレーキワイヤ104はドラムブレーキ300側へ付勢されているので、例えばカム部材150が図3Cに示すように約半周回転した状態では、第2のリンク部材130は、連結軸140周りに時計周りに揺動する。その結果、第2のブレーキワイヤ104は、ドラムブレーキ300側へ戻されるので、車輪へのブレーキ力が緩められる。
【0031】
また、ABSECU200は、車両の車輪がロックしそうな状態が検出されたら、所定の周期で回転軸172を回転駆動することができる。この場合、第2のリンク部材130は、カム部材150の回転に応じて回転軸172から当接部136までの距離が変化することによって連結軸140周りに揺動し、この揺動によって車両に対するブレーキ力の強弱を周期的に変化させることができる。なお、ABSECU200は、カム部材150を一方向に回転させてブレーキ力の強弱を変化させるだけではなく、カム部材150を正逆回転させることによってブレーキ力の強弱を変化させることもできる。したがって、ABSECU200によって回転駆動するカム部材150の回転方向は一方向に限定されない。
【0032】
以上のように、本実施形態によれば、2つのリンク部材とカム部材とを用いることによって、ブレーキ液圧を用いない簡素な構成のABSを実現することができる。また、本実施形態によれば、簡素な構成でブレーキフィーリングに影響を与え難いABSを実現することができる。なお、本実施形態では、メカABS100とABSECU200を別体として説明したが、これに限らず、ABSECU200をメカABS100に搭載して一体のユニットとすることもできる。また、本実施形態では、カム部材150が固定される回転軸172に、第1のリンク部材120が軸支される例を示したが、これに限らず、カム部材150用の軸(回転軸)と第1のリンク部材120用の軸(揺動軸)を別々に設けることもできる。
図1
図2
図3A
図3B
図3C