【課題を解決するための手段】
【0004】
これらの課題は請求項1に記載のカートリッジ、請求項11に記載の装置、並びに請求項14及び15に記載の使用によって対処される。好適な実施形態は従属請求項に開示される。
【0005】
第一の態様によれば、上記課題は、生物試料を調製するための、例えば顕微鏡検査のために組織若しくは細胞の試料を染色するための、カートリッジによって対処される。カートリッジは以下の構成要素とともにカートリッジ本体を有する:
a)(反応チャンバに面する側に)試料を保持する基板によって閉じられることができる開口部を持つ反応チャンバ;
b)前述の反応チャンバに少なくとも一つの試薬流体を供給するための流体入口システム;
c)反応チャンバから流体を受けるための流体出口システム。
【0006】
上述の構成要素は、流体入口システム、基板がその開口部を閉じる反応チャンバ、及び流体出口システムが(流体力学的に)相互接続され、環境との液体の交換に関して実質的に閉じられるように、設計されるものとする。言い換えれば、流体入口システム、反応チャンバ、及び流体出口システムは、基板が反応チャンバを閉じるときに(液体に関して)環境に対して閉じられる流体システムを共同で構成する。
【0007】
"カートリッジ"という語は、中に媒体が保存、輸送、及び/又は処理のために収容されることができる内部空洞を持つ要素若しくはユニットを示すものとする。これは通常、単一試料のために一度だけ使用される交換可能な使い捨て部品である。好適には、カートリッジはワンピース部品であるか、及び/又は(実質的に)一体(モノリシック)材料から成る。これは例えば相互に永久的に取り付けられる一つ若しくは複数の射出成形部品から(実質的に)成り得る。概念的に、カートリッジは基板を有しても有さなくてもよい。後者の場合、"カートリッジ本体"は典型的には"カートリッジ"と同一である。
【0008】
"反応チャンバ"という語はカートリッジ内の空洞を示すものとし、この空洞に隣接するカートリッジの壁は概念的に反応チャンバに属するものとする。
【0009】
"流体システム"とは一般に、媒体(特に流体)が輸送され経由することができる任意の空洞システム(チャネル、チャンバ、弁若しくは同様のものなど)を示すものとする。
【0010】
流体出口システムによって受けられる流体は特に、事前に流体入口システムによって反応チャンバに導入されている試薬流体を有し得る。従って流体出口システムは、使用試薬及び/又は他の廃棄化学物質が保存され得る廃棄物貯蔵部であり得るか、若しくはそれを有し得る。
【0011】
流体入口システム、反応チャンバ、及び流体出口システムは随意に、基板が反応チャンバを閉じるときに環境に対して完全に閉じられ得る、すなわち流体(液体若しくは気体)の交換に関して閉じられ得る。好適には、しかしながら一部の気体媒体の交換は、例えば環境への通気接続を介して可能であり、これは設計を単純化し背圧上昇を回避する。
【0012】
上記カートリッジは閉じたシステムの中で、すなわちカートリッジとその上に試料が供される基板のみを有するシステム内で、生物試料の調製を可能にするという利点を持つ。環境に対するこのシステムの閉鎖は、環境による試料の汚染だけでなく試料による環境の汚染のいかなる危険も回避する。これは試料の扱いを著しく容易にする。さらなる利点は、試薬消費量の削減、マイクロチャネル内の増大した対流に起因する高速反応、及び重要試薬を含むカートリッジの工業生産による再現性改善であり得る。
【0013】
一般に、基板は調製される生物試料を保持するのに適した材料の任意の(固体)物体であり得る。最も好適には、基板は例えば顕微鏡スライドである場合は板状形状を持つ。このような板状基板の使用を可能にするために、カートリッジの反応チャンバの開口部は好適には(基板の)平面によって閉じられるように設計される。
【0014】
基板がカートリッジ本体に取り付けられることができる(若しくは取り付けられる)方法には複数の可能性があり、取り付けは反応チャンバを通る流体フロー中に生じる力を抑えるために十分に強くなければならない。
【0015】
一実施形態において、基板は接着及び/又は粘着によって、すなわち材料ボンディングによってカートリッジ本体に取り付けられ得る。
【0016】
別の実施形態において、中間真空チャンバが基板とカートリッジ本体の間に設けられ、その中に過小圧力(underpressure)、すなわち周囲圧力(通常1 bar)を下回る圧力が確立され得る。従って周囲圧力は基板をカートリッジ本体に押し付ける。過小圧力は例えば機器に真空チャンバを接続するダクトを介して印加され得る。真空チャンバは通常、反応チャンバとは異なり、反応チャンバに流体力学的に接続されない。
【0017】
さらに別の実施形態において、基板は例えば機械的ばねを介してクランプによって、及び/又は例えば(電)磁石によって生成される電磁力によって、カートリッジ本体に取り付けられ得る。
【0018】
基板が反応チャンバの開口部を閉じるとき、反応チャンバの空洞の内部形状が完全に決定される。好適な実施形態において、この形状は基板より上のこの反応チャンバ空洞の高さが約200μm未満、好適には100μm未満、若しくは最も好適には約50μm未満であるようになっている。平面が反応チャンバの開口部を閉じる基板の場合、結果として得られる空洞は立方体の形状を持ち、ここで高さは定義により基板と立方体の反対側との間の距離である。反応チャンバ空洞のより一般的な形状について(例えば明確に定義されたフローパターンが得られるように入口及び出口ゾーンが設計されるとき)、高さは上記空洞に完全に収まる最大球の直径として定義され得る。
【0019】
約200μm若しくはさらに100μm未満の反応チャンバの比較的低い高さは、チャンバを通って流れる試薬流体がフロー中の対流によって基板上の試料と密接に接触し、その結果少量の試薬のみを要しながら染色のような所望の反応の速度を増すという利点を持つ。
【0020】
基板とカートリッジ本体の間に、これらの構成要素間の所望の距離を保証するために、少なくとも一つのスペーサ素子が随意に配置され得る。スペーサ素子は例えば、例えば接着剤若しくは粘着剤などの軟接続材料に埋め込まれる、明確に定義された直径のビーズを有し得る。
【0021】
(基板上の)反応チャンバによってカバーされる面積は最大約1cm
2まで、好適には5cm
2までであり得、従ってこのサイズの試料の収容を可能にする。
【0022】
カートリッジは好適には流体ルーティング及び/又は駆動を可能にする少なくとも一つの制御素子(例えば弁)を有し得る。付加的に又は代替的に、これは流体入口システムから反応チャンバを通って流体出口システムへ流体の圧力駆動フローを誘導するための少なくとも一つのポンプ素子を有し得る。この文脈において、"圧力駆動"という語は、明確に定義された圧力が制御可能に生成されることができるカートリッジ内の少なくとも一つの素子若しくは位置(例えばポンプ素子)があることを示すものとし、この圧力が流体フローを誘導する。従って、圧力を制御する能力は流体フローを特に反応チャンバ内で制御する能力を示唆する。この制御可能性は他のフローメカニズム(例えば重力駆動フロー)に対する利点である。さらに、圧力駆動フローは試料に作用する高いせん断力を誘導し、従って流れる試薬と試料との間の密接な接触を可能にするという利点を持つ。
【0023】
上述のポンプ素子は例えば、流体フローを誘導するように動かされる及び/又は変形されることができる素子として実現され得、上記ポンプ素子は好適には流体入口システム、反応チャンバ、及び/又は流体出口システムに隣接して位置付けられる。このようなポンプ素子は例えば流体フローを誘導することができる変形可能若しくは可動膜であり得るか、若しくはそれを有し得る。この膜は流体入口及び/又は流体出口システム内の壁を構成し、当該膜に作用する力はたわみを、従って隣接する流体システム内の流体のフローを生じる。可動及び/又は変形可能ポンプ素子は上記流体に直接接する必要なくカートリッジ内の流体フローを制御するための単純な手段を提供する。同様の柔軟膜は、フローを異なる方向にルーティングする及び/又は流体システムの所定部分を閉鎖するための弁としても組み込まれることができる。好適には、上記類の二つ以上のポンプ素子(若しくは弁)が存在し得る。さらに、ポンプ素子及び/又はポンプ素子を有するシステムは、他の構成要素、特に(適切に制御される)弁によって一方向流体フローへ変換される振動圧力を誘導する蠕動ポンプとして動作し得る。
【0024】
カートリッジは随意に、基板が試料とともに取り付けられるときに後の使用のために乾燥状態若しくは湿潤状態の試薬が中に供給される、少なくとも一つの試薬貯蔵部を有し得る。カートリッジはこのようにすぐに使えるように製造され、ユーザが(繊細及び/又は有毒である可能性のある)試薬を扱う若しくは触れる必要から解放し得る。試薬貯蔵部は好適には、それが中に配置される空洞(例えば反応チャンバ)に対して密封されるか、若しくは密封可能である。
【0025】
好適な実施形態において、上述の試薬貯蔵部は生物試料を調製するための少なくとも一つの染色剤及び/又は固定剤を有する。そしてカートリッジは顕微鏡検査のために生物試料を調製するために使用されることができる。
【0026】
基板は概念的にはカートリッジに属するか、若しくはカートリッジから分離した要素と考えられ得る。典型的には、基板なしのカートリッジは、別々に製造される、他の目的のためにも使用されることができる(例えば基板が顕微鏡スライドである場合)基板と組み合わされることができる、その独自の構成要素である。いずれにしても、基板は反応チャンバ内の若しくは以後の試料の目視検査を可能にするために透明であり得る。好適には、このような透明基板は約0.2mm未満の低い厚さを持ち、従って高分解能で顕微鏡での直接目視検査を容易にする。
【0027】
別の実施形態において、基板は少なくとも一つのマーカ、例えばその表面上にプリント若しくはエッチングされる(十字のような)サインを有し、上記マーカは任意の外部検出器によって位置特定されることができる。これはカートリッジ若しくは別の装置に対して基板上に供される試料の正確な位置特定及び/又はアライメントを可能にする。閉鎖時に反応チャンバの高さを制御するのに役立つ特徴が基板上に存在し得る。
【0028】
さらなる実施形態によれば、カートリッジは外部検出器によって識別されることができる少なくとも一つの識別子を有する。この文脈において"識別子"という語は、基板及び/又は基板によって保持される試料の識別及び/又は特性についての情報を含むシンボル若しくはコードをあらわす要素を示すものとする。識別子は例えばカートリッジと試薬、試料のタイプ(組織のタイプ、患者の名前など)についてのデータを含むRFIDタグ若しくは2Dバーコードであり得る。
【0029】
別のオプションの実施形態において、カートリッジは流体入口システム、反応チャンバ、及び/又は流体出口システム内の試薬及び/又は反応の状態を示すための少なくとも一つのインジケータを有し得る。インジケータは例えば温度若しくはpH値のようなパラメータに依存してその色を変化させる染料若しくはセンサであり得る。同様にカートリッジを使用する機器も、例えば試薬貯蔵部若しくは反応チャンバ内の光の透過若しくは反射をモニタリングすることによってカートリッジ内部の反応の進行をモニタリングする手段を含むことができる。
【0030】
本発明の別の態様によれば、従来技術に関する課題は、以下の構成要素を有する処理装置によって対処される:
a)上記類のカートリッジが結合されることができるインターフェース(すなわち基板によって閉じられることができる反応チャンバ、流体入口システム、及び流体出口システムを持つカートリッジ、基板を伴う当該チャンバと当該システムは、環境との液体の交換に関して閉じられる);
b)上述のインターフェースに結合されるときにカートリッジ内の試料の処理を制御するための少なくとも一つのアクチュエータ。
【0031】
本発明のこの実施形態にかかるカートリッジは、試料を調製するための必要試薬と試料全体のまわりに閉じたシステムを提供する。試料の調製がそれを適切な試薬にさらすだけではなくそれ以上の操作を要する場合、これらのステップは上記処理装置の(複数の)アクチュエータの助けによって実行され得る。
【0032】
カートリッジと処理装置は、カートリッジの流体システム(反応チャンバ、流体入口システム、及び流体出口システムを伴う)が装置内の流体システムに可逆的に接続されることができるように設計され得る。そしてこれら可逆的相互接続を介して所定試薬が装置によってカートリッジへ供給され得る。
【0033】
カートリッジと装置は、同じ発明概念、すなわち試料を保持する基板の取り付けによって閉じられるシステムにおける試料の調製、の異なる実施例である。従ってこれら実施例の一方について提供される説明と定義は他方の実施例にも当てはまる。
【0034】
処理装置の(複数の)アクチュエータは例えば、カートリッジがインターフェースに取り付けられるときにカートリッジの反応チャンバ内の温度を制御するための少なくとも一つの温度コントローラを有し得る。温度の制御は(生)化学反応を可能にする及び/又は試料を損傷から保護する若しくは試料を安定化させるために役立ち、又は必要ですらあることが多い。温度制御はプリセット温度の素子への接触を介して及び/又は放射による伝熱を介して達成され得る。
【0035】
付加的に若しくは代替的に、(複数の)アクチュエータは装置のインターフェースに取り付けられるカートリッジ内の流体フローを制御するための少なくとも一つの圧力コントローラを有し得る。圧力コントローラは例えば上記の通りカートリッジの可動及び/又は変形可能ポンプ素子に作用する素子を有し得る。最も好適には、流体入口システム及び流体出口システムにおいて圧力を協調的に制御する一つ以上のこうしたアクチュエータが存在し、従って中間反応チャンバ内の明確に定義されたフロー条件を可能にする。
【0036】
別の実施形態によれば、処理装置は、カートリッジ内の試料を特徴付けるための、及び/又は装置のインターフェースに結合されるカートリッジの反応チャンバの検査を可能にするための、一つ以上の光学検査手段、例えば光学窓を有し得る。従ってカートリッジ内で起こる反応がリアルタイムにモニタリングされ得る。加えてこうした窓はカートリッジから試料を除去することなく染色反応後の試料の検査を可能にする。
【0037】
本発明はさらに、特にがん細胞における分子変化の識別に基づく患者層別化のためのオンコロジーアプリケーションのための、組織病理学、細胞病理学、免疫組織化学、及びin‐situハイブリダイゼーションにおける試料調製及び/又は特異的染色のための上記類のカートリッジ若しくは装置の使用に関する。調製は特に試料の脱ろう、再水和、抗原回復、変性、染色及び/又は固定を有し得る。試料は組織切片(新鮮凍結、ホルマリン固定、ホルマリン固定‐パラフィン包埋)及び/又は細胞凝集(スピンダウン、スタンプ、若しくは他の方法で固定化及び定着)を有し得る。
【0038】
本発明はさらに、組織病理学、細胞病理学、免疫組織化学、及びin‐situハイブリダイゼーションにおける生物試料の複合試料調製及び顕微鏡分析のための上記類のカートリッジ若しくは装置の使用に関する。
【0039】
本発明のこれらの及び他の態様は以降に記載の実施形態から明らかとなり、それを参照して説明される。