【課題を解決するための手段】
【0005】
1つの態様において、本発明は、ビットストリームを復号化して、ビットストリームからオーディオ出力信号を生成するオーディオ復号器を提供し、そのビットストリームは少なくとも1つの不活性期へと続く少なくとも1つの活性期を含み、そのビットストリームは、その中に背景ノイズのスペクトルを記述する少なくとも1つの符号化された無音挿入記述子フレームを有する。前記オーディオ復号器は、以下の構成を含む。
無音挿入記述子フレームを復号化して、背景ノイズのスペクトルを再構成するよう構成された無音挿入記述子復号器;
活性期間中にビットストリームからオーディオ出力信号を再構成するよう構成された復号化装置;
オーディオ出力信号のスペクトルを決定するよう構成されたスペクトル変換器;
スペクトル変換器によって提供されたオーディオ出力信号のスペクトルに基づいて、オーディオ出力信号のノイズの第1スペクトルを決定するよう構成されたノイズ推定装置であって、オーディオ出力信号のノイズの第1スペクトルは無音挿入記述子復号器によって提供された背景ノイズのスペクトルよりも高いスペクトル分解能を持つ、ノイズ推定装置;
オーディオ出力信号のノイズの第1スペクトルに基づいて、オーディオ出力信号のノイズの第2スペクトルを確定するよう構成された分解能変換器であって、オーディオ出力信号のノイズの第2スペクトルは無音挿入記述子復号器によって提供された背景ノイズのスペクトルと同じスペクトル分解能を持つ、分解能変換器;
無音挿入記述子復号器によって提供された背景ノイズのスペクトルと、分解能変換器によって提供されたオーディオ出力信号のノイズの第2スペクトルとに基づいて、コンフォートノイズのスペクトルのスケーリングファクタを計算するよう構成されたスケーリングファクタ演算装置と、前記スケーリングファクタに基づいてコンフォートノイズのスペクトルを計算するよう構成されたコンフォートノイズ・スペクトル生成器と、を含むコンフォートノイズ・スペクトル推定装置;
コンフォートノイズのスペクトルに基づいて不活性期間中にコンフォートノイズを生成するよう構成されたコンフォートノイズ発生器。
【0006】
ビットストリームは活性期と不活性期とを含み、活性期はスピーチや音楽などのオーディオ情報の所望の成分を含む期間であり、一方、不活性期はオーディオ情報の如何なる所望の成分を含まない期間である。不活性期は通常は休止中に発生し、そこでは音楽やスピーチなどの所望の成分は存在しない。したがって、不活性期は通常は背景ノイズだけを含む。符号化されたオーディオ信号を含むビットストリーム内の情報は、所謂フレーム内に埋め込まれ、これらフレームの各々は、ある時間を参照するオーディオ情報を含む。活性期間中、所望の信号に関するオーディオ情報を含む活性フレームは、ビットストリーム内で伝送されてもよい。これとは対照的に、不活性期間中、ノイズ情報を含む無音挿入記述子フレームは、活性期の平均ビットレートに比べて低い平均ビットレートでビットストリーム内で伝送されてもよい。
【0007】
無音挿入記述子復号器は、無音挿入記述子フレームを復号化して、背景ノイズのスペクトルを再構成するよう構成されている。しかしながら、背景ノイズのこのスペクトルでは、無音挿入記述子フレーム内で伝送されるパラメータの個数が制限されているため、背景ノイズの微細なスペクトル構造を捕捉することができない。
【0008】
本復号化装置は、オーディオ情報を含むデジタルデータストリームである、オーディオビットストリームを活性期間中に復号化できる装置またはコンピュータプログラムであってもよい。この復号化プロセスは、デジタル復号化済みオーディオ出力信号をもたらしてもよく、この信号はD/A変換器へ供給されてアナログオーディオ信号を生成してもよく、次に可聴信号を生成するためにラウドスピーカに供給されてもよい。
【0009】
スペクトル変換器は、無音挿入記述子復号器によって提供される背景ノイズのスペクトルよりも有意に高いスペクトル分解能を持つオーディオ出力信号のスペクトルを取得してもよい。
【0010】
したがって、ノイズ推定器は、スペクトル変換器によって提供されたオーディオ出力信号のスペクトルに基づいて、オーディオ出力信号のノイズの第1スペクトルを決定してもよく、ここでオーディオ出力信号のノイズの第1スペクトルは無音挿入記述子復号器によって提供される背景ノイズのスペクトルよりも高いスペクトル分解能を持つ。
【0011】
さらに、分解能変換器は、オーディオ出力信号のノイズの第1スペクトルに基づいて、オーディオ出力信号のノイズの第2スペクトルを確定してもよく、ここでオーディオ出力信号のノイズの第2スペクトルは無音挿入記述子復号器によって提供される背景ノイズのスペクトルと同じスペクトル分解能を持つ。
【0012】
無音挿入記述子復号器によって提供される背景ノイズのスペクトルと、分解能変換器によって提供されるオーディオ出力信号のノイズの第2スペクトルとが同じスペクトル分解能を有するので、スケーリングファクタ演算装置は、無音挿入記述子復号器によって提供される背景ノイズのスペクトルと、分解能変換器によって提供されるオーディオ出力信号のノイズの第2スペクトルとに基づいて、コンフォートノイズのスペクトルのスケーリングファクタを容易に計算することができる。
【0013】
コンフォートノイズ・スペクトル生成器は、前記スケーリングファクタと、前記ノイズ推定装置によって提供されたオーディオ出力信号のノイズの第1スペクトルとに基づいて、コンフォートノイズのスペクトルを確定してもよい。
【0014】
さらに、コンフォートノイズ発生器は、前記コンフォートノイズのスペクトルに基づいて、不活性期間中に前記コンフォートノイズを生成してもよい。
【0015】
復号器で取得されたノイズ推定は、背景ノイズのスペクトル構造についての情報を含み、この情報はSIDフレームに含まれた背景ノイズの平滑なスペクトル包絡についての情報に比べて高精度である。しかしながら、ノイズ推定は活性期間中に復号化されたオーディオ出力信号について実行されるので、これら推定は、不活性期間中、更新され得ない。これとは対照的に、SIDフレームは、不活性期間中、スペクトル包絡に関する新たな情報を供給する。本発明にかかる復号器は、情報のこれら2つの資源を結合する。スケーリングファクタは、復号器側でのノイズ推定に依存して活性期間中に更新されてもよく、SIDフレームに含まれたノイズ推定に依存して不活性期間中に更新されてもよい。スケーリングファクタの連続的な更新は、生成されたコンフォートノイズ特性の突発的な変化が生じないことを確実にする。
【0016】
SIDフレーム内に含まれた背景ノイズのスペクトルとオーディオ出力信号のノイズの第2スペクトルとが同じスペクトル分解能を有するので、スケーリングファクタの更新、及びコンフォートノイズの更新は、容易な方法で達成できる。なぜなら、SIDフレームに含まれた背景ノイズのスペクトルの各周波数帯域グループについて、正に1つの周波数帯域グループだけがオーディオ出力信号のノイズの第2スペクトルに存在しているからである。好ましい実施形態では、SIDフレームに含まれた背景ノイズのスペクトルの周波数帯域グループと、オーディオ出力信号のノイズの第2スペクトルの周波数帯域グループとは互いに対応している。
【0017】
さらに、SIDフレームに含まれた背景ノイズのスペクトルとオーディオ出力信号のノイズの第2スペクトルとは同じ周波数分解能を有するので、スケーリングファクタの更新は可聴アーチファクトを全く生じないか、又はごく僅かしか生じない。
【0018】
本発明の好ましい実施形態によれば、スペクトル
変換器は高速フーリエ変換装置を含む。高速フーリエ変換(FFT)は離散フーリエ変換(DFT)とその逆とを計算するアルゴリズムであり、非常に低い演算労力しか必要としない。したがって、高速フーリエ変換装置は、オーディオ出力信号のスペクトルを容易な方法で計算できる。
【0019】
本発明の好ましい実施形態によれば、復号器におけるノイズ推定装置は、オーディオ出力信号のスペクトルを一般にかなり低いスペクトル分解能を有するオーディオ出力信号の変換済みスペクトルへと変換するよう構成された変換装置を含む。オーディオ出力信号の変換済みスペクトルを提供することによって、後続の演算ステップの複雑さを低減できる。
【0020】
本発明の好ましい実施形態によれば、ノイズ推定装置は、前記変換装置によって提供されたオーディオ出力信号の変換済みスペクトルに基づいて、オーディオ出力信号のノイズの第1スペクトルを決定するよう構成されたノイズ推定器を含む。オーディオ出力信号の変換済みスペクトルが復号器でのノイズ推定の基礎として用いられた場合には、ノイズ推定の品質を低下させずに演算労力を削減できる。
【0021】
本発明の好ましい実施形態によれば、スケーリングファクタ演算装置は次式に従ってスケーリングファクタを計算するよう構成されており、
ここで、
はコンフォートノイズの周波数帯域グループiについてのスケーリングファクタを示し、
はSIDフレームに含まれた背景ノイズのスペクトルの周波数帯域グループiのレベルを示し、
はオーディオ出力信号のノイズの第2スペクトルの周波数帯域グループiのレベルを示し、i=0,...,L
LR−1であり、L
LRはSIDフレームに含まれた背景ノイズのスペクトルの周波数帯域グループ及びオーディオ出力信号のノイズの第2スペクトルの周波数帯域グループの数である。これら特徴によって、スケーリングファクタは容易な方法で計算され得る。
【0022】
本発明の好ましい実施形態によれば、コンフォートノイズ・スペクトル生成器は、前記スケーリングファクタと、ノイズ推定装置によって提供されたオーディオ出力信号のノイズの第1スペクトルとに基づいて、コンフォートノイズのスペクトルを計算するよう構成されている。これら特徴によって、コンフォートノイズ・スペクトルは、オーディオ出力信号のノイズの第1スペクトルのスペクトル分解能を持つように計算されてもよく、そのスペクトル分解能はSIDフレームから取得されたスペクトル分解能より一般にずっと高い。
【0023】
本発明の好ましい実施形態によれば、コンフォートノイズ・スペクトル生成器は、次式に従ってコンフォートノイズのスペクトルを計算するよう構成されており、
ここで、
はコンフォートノイズのスペクトルの周波数帯域kのレベルを示し、
はSIDフレームに含まれた背景ノイズのスペクトルとオーディオ出力信号のノイズの第2スペクトルとの周波数帯域グループiのスケーリングファクタを示し、
はオーディオ出力信号のノイズの第1スペクトルの周波数帯域kのレベルを示し、k=b
LR(i),...,b
LR(i+1)−1であり、b
LR(i)は前記周波数帯域グループの1つの第1周波数帯域であり、i=0,...,L
LR−1であり、L
LRはSIDフレームに含まれた背景ノイズのスペクトルの周波数帯域グループ及びオーディオ出力信号のノイズの第2スペクトルの周波数帯域グループの数である。これら特徴によって、コンフォートノイズのスペクトルは高い分解能で容易に計算され得る。
【0024】
本発明の好ましい実施形態によれば、分解能変換器は、前記オーディオ出力信号のノイズの第1スペクトルに基づいて前記オーディオ出力信号のノイズの第3スペクトルを確定するよう構成された第1変換器ステージを含み、オーディオ出力信号のノイズの第3スペクトルのスペクトル分解能はオーディオ出力信号のノイズの第1スペクトルのスペクトル分解能より高いか又は同じであり、前記分解能変換器はオーディオ出力信号のノイズの第2スペクトルを確定するよう構成された第2変換器ステージを含む。
【0025】
本発明の好ましい実施形態によれば、コンフォートノイズ・スペクトル生成器は、前記スケーリングファクタと前記分解能変換器の第1変換器ステージによって提供されたオーディオ出力信号のノイズの第3スペクトルとに基づいて、コンフォートノイズのスペクトルを計算するよう構成されている。これら特徴により、活性期間中のオーディオ出力信号のノイズの第1スペクトルよりも高いスペクトル分解能を持つコンフォートノイズ・スペクトルが不活性期間中に取得されてもよい。
【0026】
本発明の好ましい実施形態によれば、コンフォートノイズ・スペクトル生成器は、次式に従ってコンフォートノイズのスペクトルを計算するよう構成され、
ここで、
はコンフォートノイズのスペクトルの周波数帯域kのレベルを示し、
はSIDフレームに含まれた背景ノイズのスペクトルとオーディオ出力信号のノイズの第2スペクトルとの周波数帯域グループiのスケーリングファクタを示し、
はオーディオ出力信号のノイズの第3スペクトルの周波数帯域kのレベルを示し、k=b
LR(i),...,b
LR(i+1)−1であり、b
LR(i)は周波数帯域グループの第1周波数帯域であり、i=0,...,L
LR−1であり、L
LRはSIDフレームに含まれた背景ノイズのスペクトルとオーディオ出力信号のノイズの第2スペクトルとの周波数帯域グループの数である。これら特徴によって、コンフォートノイズのスペクトルは高い分解能で容易に計算され得る。
【0027】
本発明の好ましい実施形態によれば、コンフォートノイズ発生器は、高速フーリエ変換ドメインにおいてコンフォートノイズの周波数帯域のレベルを調整する第1高速フーリエ変換器と、第1高速フーリエ変換器の出力に基づいてコンフォートノイズの少なくとも一部を生成する第2高速フーリエ変換器とを備える。これら特徴により、背景ノイズは容易な方法で生成され得る。
【0028】
本発明の好ましい実施形態によれば、復号化装置は活性期間中にオーディオ出力信号を生成するよう構成されたコア復号器を備える。これら特徴により、狭帯域(NB)及び広帯域(WB)のアプリケーションに好適な簡素な構造の復号器を実現できる。
【0029】
本発明の好ましい実施形態によれば、復号化装置は、オーディオ信号を生成するよう構成されたコア復号器と、コア復号器によって生成されたオーディオ信号に基づいてオーディオ出力信号を生成するよう構成された帯域幅拡張モジュールとを備える。これら特徴により、超広帯域(SWB)アプリケーションに好適な簡素な構造の復号器を実現できる。
【0030】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記帯域幅拡張モジュールは、スペクトル帯域複製復号器、直交ミラーフィルタ分析器、及び/又は直交ミラーフィルタ合成器を備える。
【0031】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記高速フーリエ変換器によって生成されたコンフォートノイズは前記帯域幅拡張モジュールへと供給される。この特徴により、高速フーリエ変換器によって生成されたコンフォートノイズはより
広い帯域幅を持つコンフォートノイズへと変換されてもよい。
【0032】
本発明の好ましい実施形態によれば、コンフォートノイズ発生器は、直交ミラーフィルタドメインにおいてコンフォートノイズの周波数帯域のレベルを調整する直交ミラーフィルタ調整装置を備え、前記直交ミラーフィルタ
調整装置の出力は帯域幅拡張モジュールへと供給される。これら特徴により、無音挿入記述子フレームによって伝送され、コア復号器の帯域幅を超えるノイズ周波数に関連したノイズ情報が、コンフォートノイズのさらなる改善のために用いられても良い。
【0033】
さらなる特徴において、本発明は復号器と符号器とを含むシステムに関係し、復号器は本発明に従って設計されたものである。
【0034】
他の態様において、本発明はオーディオビットストリームを復号化して、そこからオーディオ出力信号を生成する方法に関係しており、そのビットストリームは少なくとも1つの不活性期へと続く少なくとも1つの活性期を含み、そのビットストリームは、その中に背景ノイズのスペクトルを記述する少なくとも1つの符号化された無音挿入記述子フレームを有しており、前記方法は、以下のステップを含む。
無音挿入記述子フレームを復号化して、背景ノイズのスペクトルを再構成するステップ;
活性期間中にビットストリームからオーディオ出力信号を再構成するステップ;
オーディオ出力信号のスペクトルを決定するステップ;
前記オーディオ出力信号のスペクトルに基づいて、オーディオ出力信号のノイズの第1スペクトルを決定するステップであって、オーディオ出力信号のノイズの第1スペクトルは背景ノイズのスペクトルよりも高いスペクトル分解能を持つ、ステップ;
オーディオ出力信号のノイズの第1スペクトルに基づいて、オーディオ出力信号のノイズの第2スペクトルを確定するステップであって、オーディオ出力信号のノイズの第2スペクトルは背景ノイズのスペクトルと同じスペクトル分解能を持つ、ステップ;
背景ノイズのスペクトルと、オーディオ出力信号のノイズの第2スペクトルとに基づいて、コンフォートノイズのスペクトルのスケーリングファクタを計算するステップ;
コンフォートノイズのスペクトルに基づいて不活性期間中にコンフォートノイズを生成するステップ。
【0035】
さらなる態様において、本発明はコンピュータ又はプロセッサ上で実行されたとき、前記方法を実行するためのコンピュータプログラムに関係している。
【0036】
本発明の好ましい実施形態を、添付の図面を参照しながら以下に説明する。