特許第6180614号(P6180614)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6180614パームトランクの処理方法およびパームトランクの処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6180614
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】パームトランクの処理方法およびパームトランクの処理装置
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/00 20060101AFI20170807BHJP
   B02C 21/00 20060101ALI20170807BHJP
   C10L 5/44 20060101ALN20170807BHJP
【FI】
   B09B3/00 ZZAB
   B09B3/00 301Z
   B02C21/00 A
   !C10L5/44
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-249473(P2016-249473)
(22)【出願日】2016年12月22日
【審査請求日】2017年1月10日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】新日鉄住金エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】幸 良之
(72)【発明者】
【氏名】若村 修
(72)【発明者】
【氏名】西 猛
【審査官】 増田 健司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−73953(JP,A)
【文献】 特開2004−352962(JP,A)
【文献】 特開2016−125030(JP,A)
【文献】 特開2012−153790(JP,A)
【文献】 特表2006−504527(JP,A)
【文献】 特開2010−24076(JP,A)
【文献】 特開2016−47513(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/056353(WO,A1)
【文献】 特開2012−228683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/00
B02C 21/00
C10L 5/44
C10L 1/00
C05F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パームトランクを、粉砕機を用いて柔組織と維管束とに解繊して粉砕する粉砕工程と、
前記粉砕工程で粉砕されたパームトランクにその吸水可能な水分量の上限値以下の範囲で加水する加水工程と、
前記加水工程で加水された粉状のパームトランクを圧搾する圧搾工程と、を有することを特徴とするパームトランクの処理方法。
【請求項2】
前記粉砕工程で粉砕されたパームトランクを乾燥後に篩にかけた際の重量基準の積算篩下が、粒径0.3mmにおいて5.4%以下であることを特徴とする請求項1に記載のパームトランクの処理方法。
【請求項3】
前記加水工程において、粉砕されたパームトランクに散水または噴霧して加水することを特徴とする請求項1または2に記載のパームトランクの処理方法。
【請求項4】
前記加水工程におけるパームトランクへの加水量は、パームトランクの質量に対して1.7倍以下であることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のパームトランクの処理方法。
【請求項5】
前記加水工程におけるパームトランクへの加水量を、前記圧搾工程で得られた搾汁残渣が含有するカリウム濃度に基づいて制御することを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のパームトランクの処理方法。
【請求項6】
請求項1からのいずれか1項に記載のパームトランクの処理方法を実施するパームトランクの処理装置であって、
パームトランクを柔組織と維管束とに解繊して粉砕する粉砕機と、
前記粉砕機によって粉砕されたパームトランクに加水する加水機と、
前記加水機により加水されたパームトランクを圧搾する搾汁機と、を備えることを特徴とするパームトランクの処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルパーム幹(以下、パームトランクという)から液体燃料、固体燃料、肥料などを生成するための、パームトランクの処理方法およびパームトランクの処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インドネシアやマレーシアではオイルパームの栽培が盛んであるが、オイルパームは油脂生産性を維持するために20年〜25年ごとに伐採して再植される。伐採されたパームトランクは、水分が多く含まれるため木材としての価値に乏しく、大部分はプランテーション内で焼畑用として焼却処理されていた。ところが近年、環境保護の観点から野焼きが禁止されつつあるため、パームトランクを焼却処理せず、例えばパームトランクから液体燃料や固体燃料を得る技術が注目されている。
一方、パームトランクから得られた固体燃料にはカリウムなどのアルカリ金属(以下、単に「カリウムなど」という)が含有されており、この固体燃料をボイラーなどで燃焼させると、カリウムなどを由来とする灰が発生してボイラー内に付着し、いわゆるスラッギングなどが発生する場合があった。
そこで、例えば下記特許文献1では、パームトランクを破砕後に、水分量が35%以下となるまでパームトランクを圧搾してカリウムなどのアルカリ分を除去する技術が開示されている。
また、例えば下記特許文献2では、パームトランクを一度搾汁した後に加水し、再度搾汁することによって、カリウムなどのアルカリ分除去をより効果的に行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−73953号公報
【特許文献2】特開2012−153790号公報
【特許文献3】特開2004−352962号公報
【特許文献4】特開2016−125030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パームトランクはバイオマス原料であり、伐採箇所などの違いにより原料中におけるカリウムなどのアルカリ成分の組成は大きく変動するので、原料であるパームトランク中の組成に余裕をみて高いアルカリ組成値を前提に設計せざるを得なかった。しかしながら特許文献1の方法で、搾汁残渣に含まれる高濃度のカリウムを所望の含有量まで低下させるためには高い圧搾の圧力が必要になり、搾汁機の動力の増加につながっていた。
同様の草本系アルカリの除去方法として特許文献2が提示されている。しかし、この方法はカリウムを加水により溶出しやすくするために、細胞壁を破壊させる必要があることから、加水の前に搾汁を行う必要があり、2回搾汁を行うことになり、これも多大な動力が必要であった。
また、特許文献3及び4のように、搾汁前にパームトランクを水に溶出させてカリウムを溶出させる方法も提示されているが、パームトランク中のカリウム濃度があまり高くない場合においても、一旦、パームトランクの最大含水率まで吸水させた後に、溶出液中のカリウム濃度をパームトランク内における液中カリウム濃度以下になるようにしてカリウムを溶出させるので、大量の水分添加を必要とするだけでなく、必然的に大量の廃液が発生するという問題があった。このため、カリウム溶出のための溶出槽や加温装置が必要となるだけでなく、給水設備や廃液処理装置も必要となり設備全体が大掛かりなものとなっていた。
【0005】
本発明はこのような事情を考慮してなされたものであり、パームトランク中のカリウム濃度が変動して高濃度になる場合においても、固体燃料として許容される木質ペレット並みのカリウム濃度以下にすることができ、しかも大量の給水や廃液を必要とせず、簡易でかつ動力の増加を抑えたパームトランクの処理装置と処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するにあたり本発明者らは鋭意研究の結果、パームトランク中のカリウムの殆どがパームトランク中の水分中に存在しており、原料パームトランクの含水率は概ね60〜75[%]の範囲内にあって、加水により含水率を最大で85[%]まで高めることができることを突き止めた。そして、本発明者らは事前処理として、パームトランクが飽和する範囲内まで水分を添加しパームトランク内の液中カリウム濃度を低下させてから、圧搾を行うことで、搾汁残渣中のカリウム濃度を低減させるプロセスを着想するに至った。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のパームトランクの処理方法は、パームトランクを、粉砕機を用いて柔組織と維管束とに解繊して粉砕する粉砕工程と、前記粉砕工程で粉砕されたパームトランクにその吸水可能な水分量の上限値以下の範囲で加水する加水工程と、前記加水工程で加水された粉状のパームトランクを圧搾する圧搾工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
本発明のパームトランクの処理方法によれば、粉砕機によりパームトランク原木を維管束と粒径の細かい柔組織とに解繊してから、パームトランクが吸水できる範囲内での水分を添加させて、パームトランク内の液中カリウム濃度を低い状態にした後に、圧搾することで搾汁残渣中のカリウム濃度を低く抑えることができる。
パームトランクへの加水はパームトランクが吸水できる範囲内での水分の添加であるので、加水量を最小限に抑えられるだけでなく余分な廃液も発生しない。さらに、この加水は粒径の細かな柔組織に加水できるので吸水性と吸水速度が向上し、短時間での加水工程を奏功させることができる。
また、加水後に搾汁を行う本方法は、加水せずに搾汁するプロセスと同じ搾汁残渣含水率まで搾汁を行う場合においても、搾汁における圧搾動力が圧搾されるパームトランクの含水率が低くなった段階での圧搾領域で最も大きくなることから、搾汁機に供給されるパームトランク含水率の加水による増加は搾汁機の動力の上昇をもたらさない。
【0009】
また、前記粉砕工程で粉砕されたパームトランクを乾燥後に篩にかけた際の重量基準の積算篩下が、粒径0.3[mm]において5.4[%]以下であってもよい。
【0010】
この場合、パームトランクを粉砕する際に、水分を吸収しやすく細かい柔組織を壊されていない状態とすることができるため、粉砕されたパームトランクの吸水性を低下させることがなく、加水工程を確実に奏功させることができる。
【0011】
また、前記加水工程において、粉砕されたパームトランクに散水または噴霧して加水してもよい。
【0012】
この場合、例えばベルトコンベアなどによる搬送中に、パームトランクに加水することができるため、加水工程の効率化を確実に奏功させることができる。
【0013】
また、加水工程でパームトランクに吸収されなかった水分の有無または水分量を検出し、該検出結果に基づいて、パームトランクへの加水量を制御してもよい。
【0014】
この場合、パームトランクに過剰に加水することを防止し、加水工程の効率化を確実に奏功させることができる。
【0015】
また、前記加水工程におけるパームトランクへの加水量は、パームトランクの質量に対して1.7倍以下であってもよい。
【0016】
この場合、パームトランクへの加水量を、パームトランクが吸水可能な水分量の上限値以下とすることにより、パームトランクに過剰に加水することを防止し、加水工程の効率化を確実に奏功させることができる。
【0017】
また、前記加水工程におけるパームトランクへの加水量を、前記圧搾工程で得られた搾汁残渣が含有するカリウムの含有率または該搾汁残渣のアルカリ濃度に基づいて制御してもよい。
【0018】
この場合、搾汁残渣に含有されるカリウムの含有率などに基づいて加水量を制御するため、パームトランクに過不足なく加水して、加水工程の効率化を確実に奏功させることができる。
【0019】
また、本発明のパームトランクの処理装置は、上記パームトランクの処理方法を実施するパームトランクの処理装置であって、パームトランクを柔組織と維管束とに解繊して粉砕する粉砕機と、前記粉砕機によって粉砕されたパームトランクに加水する加水機と、前記加水機により加水されたパームトランクを圧搾する搾汁機と、を備えることを特徴とする。
【0020】
本発明のパームトランクの処理装置によれば、粉砕機によりパームトランク原木を維管束と粒径の細かい柔組織とに解繊してから、パームトランクが吸水できる範囲内での水分を添加させて、パームトランク内の液中カリウム濃度を低い状態にした後に、圧搾することで搾汁残渣中のカリウム濃度を低く抑えることができる。
パームトランクへの加水はパームトランクが吸水できる範囲内での水分の添加であるので、加水量を最小限に抑えられるだけでなく余分の廃液も発生しない。さらに、この加水は粒径の細かな柔組織に加水できるので吸水性と吸水速度が向上し、短時間での加水工程を奏功させることができる。
また、加水後に搾汁を行う本方法は、加水せずに搾汁するプロセスと同じ搾汁残渣含水率まで搾汁を行う場合においても、搾汁における圧搾動力が圧搾されるパームトランクの含水率が低くなった段階での圧搾領域で最も大きくなることから、搾汁機に供給されるパームトランク含水率の加水による増加は搾汁機の動力の上昇をもたらさない。
【発明の効果】
【0021】
本発明において、請求項1に記載のパームトランクの処理方法によれば、パームトランクとして吸水できる範囲内で加水させるので、加水量を抑えられるだけでなく、余分な廃液も発生しない。さらに、パームトランクへの吸水によってパームトランク内の液中カリウム濃度を低い状態にした後に圧搾し、搾汁残渣中のカリウム濃度を低く抑えることができるので、パームトランクに加水せずに圧搾して所定濃度までカリウムを低減する場合と比較して、搾汁機の動力の増加を防ぐことができる。
バイオマス原料であるパームトランク中のカリウムなどのアルカリ濃度は大きく変動するので、たとえばパームトランク原料中のカリウムなどのアルカリ濃度が1.5[%-dry]と高濃度になった場合においても、パームトランクに加水してから圧搾することにより搾汁機の動力の増加を防ぎつつ、搾汁残渣のカリウム濃度を低く抑えることができる簡易なパームトランクの処理方法を提供することができる。
請求項2に記載のパームトランクの処理方法によれば、パームトランクを粉砕する際に、水分を吸収しやすく細かい柔組織を壊さず、かつ柔組織と維管束とに解繊した状態とすることができるため、粉砕されたパームトランクの吸水性と吸水速度を向上させることが可能となり、加水工程の効率化を確実に奏功させることができる。
請求項3に記載のパームトランクの処理方法によれば、例えばベルトコンベアなどによる搬送中に、パームトランクに加水することができるため、加水工程の効率化を確実に奏功させることができる。
請求項4に記載のパームトランクの処理方法によれば、パームトランクに過剰に加水することを防止し、加水工程の効率化を確実に奏功させることができる。
請求項5に記載のパームトランクの処理方法によれば、パームトランクへの加水量を、パームトランクが吸水可能な水分量の上限値以下とすることにより、パームトランクに過剰に加水することを防止し、加水工程の効率化を確実に奏功させることができる。
請求項6に記載のパームトランクの処理方法によれば、搾汁残渣に含有されるカリウムなどの含有率などに基づいて加水量を制御するため、パームトランクに過不足なく加水することができる、これにより、例えばパームトランク中のカリウムなどのアルカリ濃度が低下した場合に、前処理で必要以上にカリウム濃度を低減させることなく、所定の搾汁残渣カリウム濃度にすることができる。
請求項7に記載のパームトランクの処理装置によれば、カリウムが吸水できる範囲内で加水させるので余分な廃液を発生させることがなく、さらに、パームトランクへの吸水によってパームトランク内の液中カリウム濃度を低い状態にした後に圧搾するから、搾汁残渣中のカリウム濃度を低く抑えることができる。また、パームトランクに加水せずに圧搾して所定濃度までカリウムを低減する場合と比較して、搾汁機の摩耗や動力の増加を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】処理装置10の概要を示す説明図である。
図2】処理装置10の構成例を示す説明図である。
図3】搾汁機2の一例を示す図である。
図4】各パラメータの関係を説明する図であり、(a)は模式図であり、(b)は各パラメータの相関を示す表である。
図5】溶出液中K濃度とパームトランク破砕片内の液分中のK濃度の関係を示すグラフである。
図6】パームトランクに吸水させずに圧搾する場合の具体例を説明する図であり、(a)は模式図を示し、(b)は各パラメータの数値を示す。
図7】パームトランクに吸水させてから圧搾する場合の具体例を説明する図であり、(a)は模式図を示し、(b)は各パラメータの数値を示す。
図8】搾汁残渣含水率φ=0.35[-]の場合における、残渣中K濃度Dの原料中K濃度Dに対する比D/Dと、吸水後含水率φf’と、の関係を示すグラフである。
図9】加水プロセスのターンダウン時の特長を説明する図である。
図10】破砕片残渣を浸漬させた場合の含水率の経時変化のグラフである。
図11】パームトランクに含まれる柔組織および維管束の割合を、粒径ごとに示すグラフである。
図12】パームトランク破砕片全体の粒径ごとの積算篩下を示すグラフである。
図13】柔組織および維管束の粒径ごとの積算篩下を示すグラフである。
図14】パームトランク破砕片全体および柔組織の粒径ごとの積算篩下を示すグラフである。
図15】柔組織および維管束の粒径ごとの積算篩下を示すグラフである。
図16】単位時間あたり加水量Qの制御方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
まず、本実施形態に係るパームトランクの処理方法を実施する、パームトランクの処理装置10について説明する。
図1に示すように、処理装置10は、粉砕機1と、加水機3と、検出部5と、制御部4と、搾汁機2と、分析器6と、液体燃料生成部7と、固体燃料生成部8と、を有する。
【0024】
粉砕機1は、パームトランクを乾燥後における篩い分け分級による粒径基準で0.1〜6.0[mm]の粉末状に粉砕する。加水機3は、粉末状に粉砕されたパームトランク(以下、パームトランク破砕片と記す)に対して散水または噴霧により加水して、パームトランク破砕片に水分を吸収させる。なお、以降の説明ではパームトランク破砕片に水を添加することを「加水」といい、加水された水分をパームトランク破砕片が吸収することを「吸水」と記す。
検出部5は、パームトランク破砕片に加水された水分のうち、吸水されなかった水分を検出する。制御部4は、加水機3がパームトランク破砕片に加水する水分量を制御する。搾汁機2は、吸水したパームトランク破砕片を圧搾して、搾汁液と搾汁残渣とに分離する。分析器6は、搾汁残渣が含有するカリウムの含有率または搾汁残渣のアルカリ濃度を検出する。液体燃料生成部7は、搾汁液からエタノールなどの液体燃料を生成する。固体燃料生成部8は、搾汁残渣から燃料ペレットなどの固体燃料を生成する。なお、搾汁液にはカリウムなどの養分が含まれるため、搾汁液から肥料などを生成してもよい。
【0025】
次に、液体燃料生成部7について説明する。液体燃料生成部7は、搾汁液タンク7aと、発酵槽7bと、蒸留器7cと、製品タンク7dと、を有する。
搾汁液タンク7aは、搾汁液を貯蔵して、硝酸を添加・混合する。搾汁液は硝酸を添加・混合されることにより、pHが調整されて発酵の効率が高まる。搾汁液タンク7a内の搾汁液の温度は、例えば50[℃]以上に管理され、これにより搾汁液に含まれる雑菌が死滅してさらに発酵効率が高まる。
【0026】
発酵槽7bは、pH調整された搾汁液に所定の微生物を添加し、搾汁液を発酵させる。搾汁液が発酵することにより、エタノールが生成される。蒸留器7cは、発酵槽で生成されたエタノールを含む発酵液を蒸留して、エタノールを精製する。製品タンク7dは、蒸留器7cで精製されたエタノールを貯蔵する。
【0027】
次に、固体燃料生成部8について説明する。固体燃料生成部8は、乾燥機8aと、破砕機8bと、成型機8cと、冷却器8dと、を有する。
乾燥機8aは、例えば乾燥空気を吹き付けて、搾汁残渣を乾燥させる。乾燥機8aにより、搾汁残渣に含まれる水分は、例えば質量基準で10[%]以下まで低減される。破砕機8bは、乾燥した搾汁残渣を所定の大きさに破砕する。成型機8cは、破砕された搾汁残渣を所定の形状に成形して燃料ペレットを得る。燃料ペレットは冷却器8dに移され、所定温度以下になるまで冷却される。
【0028】
次に、図2を用いて処理装置10の具体的な構成例を説明する。粉砕機1は、ハンマーミルなどを用いてパームトランクを粉末状に粉砕する。粉砕されたパームトランク破砕片はショベルカーなどにより、粉砕機1からベルトコンベア9に運ばれる。ベルトコンベア9の上方には、例えば噴霧ノズルなどの加水機3が配設されている。ベルトコンベア9によってパームトランク破砕片が運ばれている間に、加水機3から散水または噴霧された水分がパームトランク破砕片に吸水される。ベルトコンベア9は、運搬方向に対して上方に傾斜して配設されている。このため、加水機3からパームトランク破砕片に加水された水分のうち、パームトランク破砕片に吸収されなかった水分は下方に流れ出る。ベルトコンベア9の下方には検出部5が配設されている。検出部5は、パームトランク破砕片に吸水されずに流れ出た流出水分の流出量(以降、単に流出量と記す)を検出する。検出部5は制御部4に電気的に接続されており、流出量の検出結果を制御部4に出力する。
【0029】
加水機3により加水されたパームトランク破砕片は、ベルトコンベア9の進行方向の末端に配設された搾汁機2に投入される。搾汁機2は、加水されたパームトランク破砕片を圧搾して固体分と液体分とに分離する。ここで、分離された液体分が搾汁液であり、分離された固体分が搾汁残渣である。
図3は、搾汁機2の一例を示す構成図である。搾汁機2は内接ロール型の搾汁機である。搾汁機2は、リングロール21と、内接ロール22と、投入口23と、排出口24と、シリンダ25と、押圧ロール26と、を有する。
【0030】
リングロール21は、上下動可能かつ回転可能に支持されている。内接ロール22は、上下動不能かつ回転可能に支持されている。リングロール21と内接ロール22とは、図示せぬ駆動手段によって同一方向に回転させられる。シリンダ25は、押圧ロール26を上方に押圧する。この押圧力は調整可能である。押圧ロール26は、シリンダ25から受けた押圧力をリングロール21に伝える。以上の構成により、シリンダ25の押圧力を調整することで、パームトランク破砕片がリングロール21と内接ロール22との間に挟まれる際の圧力を調整することができる。
パームトランク破砕片は、投入口23から投入され、リングロール21と内接ロール22との間で圧搾され、搾汁液と搾汁残渣とに分離される。分離された搾汁液は不図示の吐出口から外部へ吐出され、液体燃料生成部7に投入される。分離された搾汁残渣は排出口24から排出され、固体燃料生成部8に投入される。
【0031】
図2に示すように、分離された搾汁残渣の一部は、分析器6に投入される。分析器6は、例えば原子吸光分析計であり、単位質量あたりの搾汁残渣に含有されるカリウムの質量を分析することができる。搾汁残渣にカリウムが多く含まれると、固体燃料生成部8により生成された燃料ペレットにもカリウムが多く含まれることになり、燃料ペレットをボイラーなどで燃焼させる際にカリウムを由来とする灰が多く発生する。この灰がボイラーの内部に付着すると、いわゆるスラッギングなどにつながる場合がある。このため、搾汁残渣に含まれるカリウムの質量を所定量以下にする必要がある。
【0032】
なお、分析器6はカリウム以外のアルカリ金属の濃度を分析しても良い。パームトランクに含まれるアルカリ成分のうち、大部分はカリウムであるが、カリウム以外のアルカリ金属の分析値を考慮することで固体燃料としての灰付着性の予測精度を向上させることができる。分析器6として原子吸光分析計を用いることができる。
分析器6は制御部4と電気的に接続されており、単位質量あたりの搾汁残渣に含まれるカリウムの質量(以降、単に残渣中K濃度Dと記す)を制御部4に出力する。なお、分析器が搾汁残渣のアルカリ濃度を分析する場合には、制御部4は搾汁残渣のアルカリ濃度を制御部4に出力する。
制御部4は、不図示のCPUなどの処理部と、不図示のRAMなどの記憶部と、を有する。
【0033】
次に、パームトランク破砕片が吸水する水分の量と、残渣中K濃度Dと、の関係について説明する。
【0034】
図4(a)及び図4(b)に示すように、パームトランク破砕片原料、吸水後破砕片原料、及び破砕片搾汁残渣は、添え字f、f’及びrを用いて示し、f、f’及びrを代表させて示す際は添え字iを用いる。パームトランク破砕片原料、吸水後破砕片原料、及び破砕片搾汁残渣の各総質量をF[kg]、その中に含まれる成分のうち固体分の質量をS[kg]、液体分の質量をL[kg]とする。パームトランク破砕片に含まれるカリウムの質量についても同様にw[kg](以降、単に原料K質量wと記す)とする。
このとき、パームトランク破砕片原料、吸水後破砕片原料、及び破砕片搾汁残渣中の含水率φ(以降、含水率φと記す)は、以下の数式(1)により表される。
φ=L/(S+L) …(1)
また、パームトランク破砕片原料、吸水後破砕片原料、及び破砕片搾汁残渣における固体分S[kg]あたりのカリウムの質量である原料中のK濃度D(以降、単にK濃度Dと記す)は、以下の数式(2)により表される。
=w/S …(2)
【0035】
また、パームトランク破砕片原料、吸水後破砕片原料、及び破砕片搾汁残渣おける液体分L[kg]中のカリウムの質量である原料中のK濃度C(以降、単に液中K濃度Cと記す)は、以下の数式(3)により表される。
=w/L …(3)
【0036】
図5は、パームトランク破砕片を水量比を変化させて水中に浸漬させた場合におけるパームトランク破砕片内の液分中のK濃度と溶出液側のK濃度の関係を示すものである。横軸の溶出側のK濃度と縦軸のパームトランク破砕片内の液分中のK濃度の傾きが1であることから、パームトランク内におけるKはパームトランク内の液中に溶解して存在していることがわかる。
搾汁機2が吸水したパームトランク破砕片を圧搾して、パームトランク破砕片に含まれる水分の質量をL[kg]からL[kg]に減少させる。このとき、搾汁残渣の水分中に存在しているカリウムの濃度と、搾汁液に溶出しているカリウムの濃度とは、パームトランク液中カリウム濃度Cで等しいので、破砕片原料又は吸水後破砕片原料おける液中濃度CfまたはCf’と搾汁残渣中における液中濃度Cは次式(4a)又は(4b)で示される。
f’=C(加水時)…(4a)
f =C(非加水時)…(4b)
したがって、搾汁残渣に含まれる液体分L[kg]中のカリウムの質量w[kg](以降、単に搾汁残渣K質量wと記す)は、式(3)と(4a)又は(4b)から、以下の数式(5a)又は(5b)により表される。
=Cf’× (加水時)…(5a)
=C× (非加水時)…(5b)
【0037】
また、搾汁残渣固体分S[g]あたりのカリウムの質量である残渣中K濃度Dは(2)式より次式で表現される。
=w/S …(2a)
搾汁残渣に含まれるカリウムは、搾汁残渣中の水分に存在していると考えられるが、燃料ペレットを生成する際に、水分は乾燥機8aにより蒸発してカリウムが搾汁残渣の固体分に残留する。従って、この残渣中K濃度Dは燃料ペレットに含有されるカリウムの量を間接的に表している。
【0038】
パームトランク破砕片を圧搾すると、パームトランク破砕片の固体分の一部も搾汁液に混ざって流出する。原料の固体分Sのうち、搾汁残渣に残って回収される割合をη(以降、単に固体分回収率ηと記す)とすると、搾汁残渣に含まれる固体分の質量S[kg](以降、単に搾汁残渣固体分Sと記す)は、以下の数式(6)により表される。
=η×S …(6)
【0039】
また、吸水後破砕片原料中K濃度Df’及び原料中K濃度Dに対する残渣中K濃度Dの比/Df’及び/Dは、数式(1)、(2)に基づき、以下の数式(7a)または(7b)により表される。
/D={(1−φf’)φ}/{φf’(1−φ)} 加水時 …(7a)
/D={(1−φ)φ}/{φ(1−φ)} 非加水時…(7b)
上記の数式(7a)及び(7a)は、搾汁残渣含水率φが同じであっても、吸水後含水率φf’を大きくすることができれば、原料中K濃度Dに対する残渣中K濃度Dの比D/Dを小さくできることを示している。すなわち、搾汁圧力を上げることで搾汁残渣含水率を下げなくても、加水により適切な吸水後含水率まで大きくすることができれば、原料と残渣におけるK除去の効果を得ることができることを示している。
【0040】
次に、加水機3が加水することによってパームトランク破砕片が吸水する質量を、La[kg](以降、単に吸水量Laと記す)とすると、吸水後のパームトランク破砕片に含まれる水分の質量Lf’以降、単に吸水後水分量Lf’と記す)は、以下の数式(8)により表される。
f’=L+La …(8)
【0041】
ここで、数式(1)から、以下の数式(9)に示すように、原材料の単位質量あたりの吸水量La/F(以降、単に単位吸水量La/Fと記す)が求められる。
a/F=(φf’−φ)/(1−φf’) …(9)
【0042】
以上の関係式(1)から(9)の関係を図4(b)に示した。
【0043】
以上の関係を、具体例に当てはめて説明する。
図6(a)及び図6(b)に示すように、総質量F=448[kg]のパームトランク破砕片に、固体分S=148[kg]および液体分L=300[kg]が含まれており、液体分Lには原料K質量w=1[kg]のカリウムが存在しているとする。このとき、原料含水率φは数式(1)よりφ=0.67[-]である。また、液中カリウム濃度Cは、数式(3)よりC=0.00333[kg-K/kg-Liquid]であり、対固形分原料中K濃度Dは数式(2)よりD=0.00677[kg-K/kg-solid]である。
このパームトランク破砕片を搾汁機2が圧搾する際、固体分回収率η=0.75[-]であったとすると、搾汁残渣固体分Sは数式(6)より搾汁残渣固体分S=111[kg]となる。そして、搾汁残渣水分率がφ=0.35[-]で搾汁される場合の搾汁残渣に含まれる水分の質量はL=60[kg]なので、パームトランク破砕片に含まれていたw=1[kg]のカリウムのうち、搾汁残渣に残留する搾汁残渣K質量wは数式(5b)より、w=0.2[kg]となる。このとき、残渣中K濃度DはD=0.0018[kg-K/kg-solid]となる。
【0044】
一方、パームトランク破砕片に加水して圧搾した場合について、図7を用いて説明する。
図7(a)及び図7(b)に示すように、総質量F=448[kg]、固体分S=148[kg]、液体分L=300[kg]で加水する場合と同じであるが、液体分Lには原料K分が加水しない場合の2倍量すなわち原料K質量w=2[kg]のカリウムが存在しているとする。
このとき、原料含水率φは数式(1)よりφ=0.67[-]である。また、液中カリウム濃度は数式(3)よりC=0.00667[kg-K/kg-Liquid]であり、対固形分原料中K濃度Dは数式(2)よりD=0.0135[kg-K/kg-solid]である。
【0045】
このパームトランク破砕片に加水機3が加水することにより、La=291[kg]の水分がパームトランク破砕片に吸水されたとする。このとき、吸水後水分量Lは数式(8)よりLf’=591[kg]となる。また、液中カリウム濃度は、加水前に比べて1.97倍に薄まる。また、吸水後含有率φf’は数式(1)よりφf’=0.8[-]となる。
【0046】
この吸水したパームトランク破砕片を搾汁機2が圧搾する際、固体分回収率η=0.75[-]であったとすると、搾汁残渣固体分Sは数式(6)よりS=111[kg]となる。そして、搾汁残渣水分率がφ=0.35[-]で搾汁される場合に、搾汁残渣に含まれる水分の質量はL=60[kg]なので、パームトランク破砕片に含まれていたw=2[kg]のカリウムのうち、搾汁残渣に残留する搾汁残渣K質量wは、数式(5a)より、w=0.20[kg]となる。
そして、残渣中K濃度Dは数式(2)より、D=0.0018[kg-K/kg-solid]となる。
【0047】
図6及び図7に示した結果を比較すると、加水する場合は原料となる破砕片中の対固形分カリウム濃度Drが2倍高くても、加水して搾汁した場合の残渣中K濃度Dは、加水せずに搾汁した場合と同じ0.0018[kg-K/kg-solid]まで低減される。残渣中K濃度Dは、搾汁残渣から固体燃料を生成した際に、固体燃料に含まれるカリウムの質量を表している。従って、パームトランク破砕片に加水してから圧搾することで残渣中K濃度Dを所定の数値以下とすることにより、固体燃料に含まれるカリウムの量を木質ペレットと同定にまで低減することができ、この固体燃料を燃焼させた際に生じるスラッギングなどの現象を防止することができる。
【0048】
次に、原料中K濃度Dと残渣中K濃度Dの関係について、図8を用いて説明する。図8に示すグラフは、原料破砕片の含水率φをパラメータとして、縦軸に残渣中K濃度Dの原料中K濃度Dに対する比D/Dをとり、横軸に吸水後含水率φf’をとったものである。数式(7a)、(7b)に示されるように、D/Dは原料含水率φf’および搾汁残渣含水率φの関数であり、図8に示すグラフは、原料含水率φは、パームトランク破砕片のパームトランクの生育条件や伐採位置、保管方法などによって0.6〜0.75の範囲で変動するので、この範囲での加水を前提に搾汁残渣含水率φ=0.35[%]に搾汁した場合を示している。
図8に示すように、吸水後含水率φf’の値が大きくなるほど、D/Dの値が小さくなる。すなわち、パームトランク破砕片に吸水させる水分量を多くするほど、原料中K濃度Dに対する残渣中K濃度Dの低減量を大きくすることができる。
例えば、図8に示すように原料破砕片含水率φが0.6[-]の場合であれば、吸水後含水率φf’を0.8[-]まで加水すれば、D/D=0.38となり元のカリウム濃度の38%迄濃度を低減することができる。逆に、原料破砕片含水率φが0.6[-]の場合に、残渣中のカリウム濃度を元の原料が破砕片濃度から50%に低減するだけであれば、吸水後含水率φf’が0.75[-]になる分だけの加水を行えばよいことを示している。図9に加水プロセスのターンダウン時の特長を示す概念を示す。
【0049】
次に、パームトランク破砕片の単位質量あたりの加水量の上限値について説明する。パームトランクの原料含水率及び吸水後含水率の性質的制約から、原料に最も加水しなければいけなくなるのは、原料含水率φ=0.6[-]の場合に吸水後含水率がφf’=0.85[-]となる場合である。この場合の、パームトランク破砕片の単位吸水量 La/Fは、数式(9)に示した関係に基づいて計算すれば、La/F=約1.7となる。
【0050】
これは、気候や、パームトランク破砕片に含まれる柔組織と維管束との割合などの条件が変動することを考慮しても、パームトランク破砕片が吸水しうる水分量は、パームトランク破砕片の質量の1.7倍以下であることを意味する。換言すると、パームトランク破砕片の質量の1.7倍以上の水分を加水機3が加水すると、パームトランク破砕片が吸水しきれないことを意味する。従って、加水機3が加水する量はLa/F=1.7以下とすることが好ましく、これによってパームトランク破砕片に過剰に加水して水資源を徒費することを防ぐことができる。
【0051】
次に、パームトランク破砕片の性質について説明する。
【0052】
図11は、粉砕機1により粉砕されたパームトランク破砕片を、106[℃]で2時間乾燥した後、篩分けにより分級したものを、柔組織を主とするもの(以下、単に柔組織と記す)と維管束を主とするもの(以下、単に維管束と記す)とに目視にて分離した際の、各々の分級範囲における重量割合を示したものである。
図11より柔組織は粒径が0.1〜1.7[mm]の間に多く分布し、維管束は粒径が0.425〜3.35[mm]の範囲に広く分布することが判る。
図12図11をもとに、パームトランク破砕片全体についての粒度分布を示したものである。なお、図12の縦軸は、対象物を篩にかけて分級した際に、横軸に示す粒径以下の対象物の全体に占める重量基準の割合(以下、単に積算篩下という)をパーセント表示したものである。同様に、図13は柔組織および維管束についての粒度分布を、積算篩下により示したものである。
図13における柔組織および維管束のグラフを比較すると、その粒度分布のプロフィールは大きく異なっている。この点について、以下に考察する。もし、同じメカニズムによって粉砕されているのであれば、同じ粒径分布になるはずである。それにも関わらず、この二つの粒子のグループが異なる粒径分布をもっているということは、各々異なる破砕メカニズムによって生成したものである。すなわち、粒径が大きな方のグループが破砕により直接的に生じたものであるのに対して、粒径が小さな方のグループは、元々小さな粒子が弱く結合していたものが破砕時のエネルギーによって元の粒径状態に解きほぐされて生じる、いわゆる解繊と呼ばれるものである。したがって、図13は、パームトランクの破砕において、粒径が小さな方のグループである柔組織は元々ある粒度分布を持っており、破砕により維管束から剥がれて解繊された状態になっていることを示すものである。
【0053】
図14は、パームトランク破砕片全体の粒径分布と、組織分の破砕片全体を基準とした粒径分布をあわせて示した図である。例えば、粒径1.0[mm]以下の維管束を含めた全体の積算篩下は41.2[%]なのに対して、柔組織分の積算篩下は35.6[%]であるので、残りの維管束が5.6[%]を占めることを示している。
【0054】
粉砕機により解繊された破砕片中に、どの程度、柔組織が維管束から剥がれた状態にあるかということを考える。パームトランク中における柔組織の割合は5割程度なので、たとえば、図11に示すような破砕では、破砕片中の柔組織の割合は43.5[%]であるから、パームトランクは解繊された状態にあると考えられる。
【0055】
【表1】
【0056】
表1は、柔組織および維管束の、パームトランク破砕片に含まれている割合と、吸水率と、を示す。ここで、吸水率とは柔組織または維管束の単位質量あたりの吸水可能な水分の質量を表す。吸水率は、柔組織または維管束について、最大吸水時の重量と乾燥時重量との差分を、乾燥時重量によって除算することにより求められる。
【0057】
【表2】
【0058】
表2は篩分けにより分級された各粒径範囲のパームトランク破砕片の吸水量が、パームトランク全体の吸水量に占める割合を示したものである。例えば、粒径が1.0[mm]以下のパームトランク破砕片による吸水量が、全体の吸水量のうちの70.3[%]を占めている。また、図13の粒度分布から、柔組織全体のうち81.8%が粒径1.0[mm]以下である一方、粒径が1.0[mm]以下の維管束は維管束全体の9.9[%]を占めるにすぎないことから、粒径が1.0[mm]以下のパームトランク破砕片における吸水量が主として柔組織によるものであることがわかる。
また、表1に示すように、柔組織の平均吸水率は7.0倍であり、パームトランク破砕片に含まれている割合は0.435(43.5[%])である。この2つの数値を掛けると、7.0×0.435≒3.0となる。同様にして、維管束の吸水率とパームトランク破砕片に含まれている割合の数値を掛けると、1.6×0.565≒0.90となる。したがって、パームトランク破砕片の全体量を1としたときの吸水量は3.0+0.90=3.90となる。3.0÷(3.0+0.90)≒0.77であるから、パームトランク破砕片全体における吸水量のうち、約77[%]を柔組織の吸水量が占める。このことからも、パームトランク破砕片の吸水量については柔組織が支配的であることが判る。
【0059】
表2から、粒径が0.10.3[mm]の区間における、全体に対する吸水量の割合は11.4[%]であるので、上述したように柔組織と維管束の全体量を1とした時の吸水量が3.9であるという計算結果を用いれば、この区間における吸水量は、3.9×0.114=0.446と計算される。一方、図11より、粒径が0.1〜0.3[mm]の区間には柔組織のみが存在し、その全体に対する割合は5.4[%]であるので、粒径が0.1〜0.3[mm]の区間における柔組織の吸水率は、0.446/0.054=8.3となる。この吸水率8.3は、柔組織全体の平均吸水率7.0より大きく、粉砕によっても柔組織の細胞壁が粉砕されずに吸水性が維持されていることを示している。
次に、図13及び図14より、パームトランク破砕片全体の粒径1.0[mm]における積算篩下が35.6[%]以上となるように粉砕されていれば、パームトランクの粉砕により柔組織が解繊された状態になった結果、パームトランク破砕片のうち43.5[%]を占める柔組織の吸水性を利用できることを示している。
したがって、図13に示すようなパームトランク破砕片の粒径0.3[mm]における積算篩下が5.4[%]以下となり、かつ、パームトランク破砕片の粒径1.0[mm]における積算篩下が35.6[%]以上となるような粉砕であればパームトランク破砕片中の柔組織の吸水性の特長を失うことはなく、柔組織と維管束が解繊された状態となり、柔組織の吸水性を利用して効率良く吸水することができる。
【0060】
図15は、図13の維管束と柔組織の粒度分布をもとに、積算篩下が50[%]となる粒径をグラフから読み取って書き込んだものである。具体的には、柔組織の積算篩下が50[%]となる粒径が0.58[mm]であるのに対し、維管束の積算篩下が50[%]となる粒径は1.47[mm]である。0.58÷1.47≒0.39であるから、積算篩下が50[%]となる粒径同士を比較すると、柔組織は維管束の39[%](0.39倍)の粒径である。固体内における物質移動が拡散によるものであり、その移動に要する時間が粒径の2乗に比例することを考慮すると、0.39×0.39≒0.15により、柔組織における吸水時間は維管束における吸水時間の約15[%]となる。すなわち、柔組織は維管束と比較してわずか15[%]の時間で吸水が完了することを意味している。
図10は、パームトランク破砕片を20倍量の温度25[℃]の水中に浸漬させて、浸漬後のパームトランク含水率の経時変化を示したものである。浸漬開始後5秒で含水率は平衡に到達する。この試験は浸漬時のデータであるが、パームトランク内におけるカリウムの物質移動は加水時と同じである。
以上より、パームトランクを柔組織と維管束とに解繊された状態にまで粉砕しておいてから加水すると、吸水量の面から支配的である柔組織に対して、水分を速やかに柔組織の内部まで浸透させることができる。この場合では、パームトランク破砕片に加水したときに、ごく短時間のうちに吸水を完了させることができる。
【0061】
次に、パームトランクの処理装置10の作用について説明する。
【0062】
粉砕機1は、前述のようにハンマーミルなどによって、パームトランクを柔組織と維管束とを含む粉状のパームトランク破砕片に粉砕する。粉砕して得られたパームトランク破砕片は、加水機3に運搬される。加水機3によりパームトランク破砕片に加水される、パームトランク破砕片の単位時間あたりの加水量Q(以降、単に単位時間あたり加水量Qと記す)は、制御部4によって制御される。
【0063】
図16は、制御部4による単位時間あたり加水量Qの制御方法の説明図である。図16に示すように、まずフェーズ1では、加水量の制御の前提となる初期条件を設定する。具体的には、加水する対象となるパームトランク破砕片の条件として、パームトランク破砕片の単位時間当たりの処理量P[kg/h]と、原料含水率φと、原料中K濃度Dと、を設定する。また、搾汁残渣の条件として、搾汁残渣含水率φと、目標とする残渣中K濃度Drset(以降、単に目標K濃度Drsetと記す)と、を設定する。これらの初期設定値は、制御部4が備える記憶部に記憶される。
【0064】
次に、制御部4はフェーズ2において、フェーズ1で設定された初期条件に基づいて加水機3による初期単位時間あたり加水量Q[kg/h]を設定する。Qは、以下の数式(10)により算出される。
=P(φf0’−φ)/(1−φf0’) …(10)
なお、数式(10)においてφ’f0は初期条件下での加水後含水率であり、以下の数式(11)により算出される。
φ f0’=1/{Drset(1−φ)/(Dφ)+1) …(11)
【0065】
次に、制御部4はフェーズ3において、加水機3による単位時間あたり加水量Qの再設定を行う。具体的には、以下の数式(12)に従って単位時間あたり加水量Qを増加させる。数式(12)において、Qは直前の単位時間あたり加水量であり、Qi+1は再設定後の単位時間あたり加水量であり、ΔQは単位時間あたり加水量の調整量である。
i+1=Q+ΔQ …(12)
なお、初期状態ではQ=QかつΔQ=0と設定されており、この場合Qi+1はQのまま変化しない。
【0066】
次に、制御部4はフェーズ4において、Qi+1の単位時間あたり加水量で加水機3から散水または噴霧させる。
そして、制御部4はフェーズ5Aにおいて、検出部5から出力された流出量を読み取る。そして、制御部4はフェーズ6Aにおいて、流出量が0より大きいか否かを判断し、流出量が0よりも大きい場合には、ΔQの値を減少させて負の値とする。そしてフェーズ3に戻り、単位時間あたり加水量の再設定を行う。このようにすると、流出量が0より大きい場合には単位時間あたり加水量Qが徐々に減少するため、水資源の徒費を防止することができる。
なお、制御部4は、流出量が所定の量より大きい場合にΔQの値を減少させてもよい。あるいは、検出部5はパームトランク破砕片に吸収されなかった水分の有無を検出し、制御部4は、検出部5により水分が検出された場合にΔQの値を減少させてもよい。
【0067】
一方、制御部4はフェーズ5Aと並行してフェーズ5Bの処理を行う。具体的には、分析器6が測定して出力した残渣中K濃度Dの値を読み取る。そして、制御部4はフェーズ6Bにおいて残渣中K濃度Dの値と目標K濃度Drsetの値とを比較する。残渣中K濃度Dの値が目標K濃度Drsetよりも大きい場合には、ΔQの値が正となるように単位時間あたり加水量Qを再設定する。残渣中K濃度Dの値が目標K濃度Drsetの値よりも小さい場合には、ΔQの値が負となるように単位時間あたり加水量Qを再設定する。残渣中K濃度Dの値と目標K濃度Drsetの値とが等しい場合には、ΔQの値を0に設定する。そしてフェーズ3に戻り、単位時間あたり加水量Qの再設定を行う。このようにすると、残渣中K濃度Dの値が目標K濃度Drsetの値に近づくように単位時間あたり加水量Qが調節されるため、加水機3からの単位時間あたり加水量Qを過不足のない値に設定することができる。
【0068】
なお、フェーズ3において単位時間あたり加水量を再設定する際、フェーズ6Aの処理結果がフェーズ6Bの処理結果よりも優先される。例えば、フェーズ6Aにおいて流出量>0であった場合には、フェーズ6Bにおいて残渣中K濃度D>目標K濃度Drsetであったとしても、制御部4はΔQの値が負となるように単位時間あたり加水量Qを再設定する。これは、フェーズ6Aで流出量>0であった場合には、パームトランク破砕片が加水された水分を全て吸収しきれていないため、さらに加水量を増加させても残渣K濃度Dを低下させることができないためである。
【0069】
本実施形態のパームトランク処理方法によれば、残渣中K濃度Dの値が目標K濃度Drsetとなるように加水機3による単位時間あたり加水量がフィードバック制御され、過不足のない加水を行うことができる。これにより、加水量が不足して残渣中K濃度Dが目標K濃度Drsetを上回るのを防ぎつつ、過剰な加水によって水資源を徒費することを防ぐことができる。このようにして、加水工程を効率化することができるとともに、例えば水資源が豊富でない地域においてパームトランクを処理する場合に、限られた資源を有効活用させることが可能になる。
【0070】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した各実施形態において示した処理装置10の構成および作用等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した各実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、上記した実施形態やその変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1…粉砕機 2…搾汁機 3…加水機 4…制御部 5…検出部 6…分析器 7…液体燃料生成部 7a…搾汁液タンク 7b…発酵槽 7c…蒸留器 7d…製品タンク 8…固体燃料生成部 8a…乾燥機 8b…破砕機 8c…成型機 8d…冷却器 9…ベルトコンベア 10…処理装置 21…リングロール 22…内接ロール 23…投入口 24…排出口 25…シリンダ 26…押圧ロール
【要約】
【課題】パームトランク中のカリウム濃度が変動して高濃度になる場合においても、固体燃料として許容される木質ペレット並みのカリウム濃度以下にすることができ、しかも大量の給水や廃液を必要とせず、簡易でかつ動力の増加を抑えたパームトランクの処理装置と処理方法を提供する。
【解決手段】パームトランクを、粉砕機を用いて柔組織と維管束とに解繊して粉砕する粉砕工程と、前記粉砕工程で粉砕されたパームトランクに加水する加水工程と、前記加水工程で加水された粉状のパームトランクを圧搾する圧搾工程と、を有することを特徴とするパームトランクの処理方法。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16