(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6180716
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】放電ランプ
(51)【国際特許分類】
H01J 61/073 20060101AFI20170807BHJP
【FI】
H01J61/073 B
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-211104(P2012-211104)
(22)【出願日】2012年9月25日
(65)【公開番号】特開2014-67540(P2014-67540A)
(43)【公開日】2014年4月17日
【審査請求日】2015年6月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128496
【氏名又は名称】株式会社オーク製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】早川 壮則
(72)【発明者】
【氏名】栗山 晴男
【審査官】
鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−259644(JP,A)
【文献】
特開2002−117806(JP,A)
【文献】
特開2009−135054(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 61/00−65/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電管と、
前記放電管内に配置される一対の電極とを備え、
少なくとも一方の電極が、電極内部に形成された密閉空間に封入される伝熱体を有し、
前記伝熱体は、点灯時に液体状態となり、消灯後に凝固して、前記密閉空間の側面と接する両端部が最も高い位置にある凹部であって、中央部が電極先端側とは逆の電極支持棒側に向けて窪んだ凹部を形成し、そして、前記凹部の内側が空間で占められることを特徴とする放電ランプ。
【請求項2】
放電管と、
前記放電管内に配置される一対の電極とを備え、
少なくとも一方の電極が、電極内部に形成された密閉空間に封入される伝熱体を有し、
前記伝熱体は、点灯時に液体状態となり、消灯後に凝固して、電極先端側とは逆の電極支持棒側に向けて凹部を形成し、
前記伝熱体が、以下の(1)式を満たすように凹部を形成することを特徴とする放電ランプ。
1/4≦a/b≦3/4
ただし、aは、伝熱体凹端部から凹部底までの距離を表し、bは、伝熱体凹部端部から前記密閉空間の底面までの距離を表す。
【請求項3】
放電管と、
前記放電管内に配置される一対の電極とを備え、
少なくとも一方の電極が、電極内部に形成された密閉空間に封入される伝熱体を有し、
前記伝熱体は、点灯時に液体状態となり、消灯後に凝固して、電極先端側とは逆の電極支持棒側に向けて凹部を形成し、
前記伝熱体が、以下の(2)式を満たすように凹部を形成することを特徴とする放電ランプ。
1/10≦e/f≦1/4
ただし、eは、前記凹部の体積を表し、fは、前記伝熱体の体積を表す。
【請求項4】
凝固して前記凹部を形成した前記伝熱体が、前記密閉空間の上限となる端面と接する密閉蓋に対し、接していないことを特徴とする請求項1に記載の放電ランプ。
【請求項5】
前記少なくとも一方の電極が、電極表面に放熱部を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の放電ランプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、露光装置等に利用される放電ランプに関し、特に、電極内部に伝熱体を封入した電極に関する。
【背景技術】
【0002】
放電ランプでは、高出力化に伴い、電極内部に形成された密閉空間に冷却機能をもつ金属を封入した電極が知られている(特許文献1参照)。そこでは、銀など熱伝導率が高く、比較的融点の低い金属から成る伝熱体が陽極内部に密封されている。ランプ点灯によって電極温度が上昇すると、金属が溶融し、液化する。これによって内部空間で熱対流が生じ、電極先端部の熱が反対側の電極支持棒方向へ輸送される。
【0003】
内部空間に伝熱体を封入するとき、その伝熱体の占める割合、すなわち体積率は、熱輸送効率および電極強度に影響する。伝熱体の割合が少なすぎると、熱対流が不十分となって熱輸送効率が悪化する。一方、伝熱体の割合が多すぎると、密閉空間内部の蒸気圧が上昇し、密閉空間の壁に圧力が過度にかかり、電極破損の恐れがある。
【0004】
そのため、伝熱体と内部密閉空間との適切な体積比を定め、伝熱体の封入量を調整する(特許文献2参照)。あるいは、密閉空間に延びる突起部材の体積比を調整する(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−15007号公報
【特許文献2】特開2010−003594号公報
【特許文献3】特開2004−259644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ランプ点灯時に伝熱体は液状になっているが、ランプ消灯によって電極温度が低下すると、伝熱体は熱収縮しながら凝固する。このとき、内部空間の底面、側壁に対して応力がかかる。また、再びランプを点灯すると、伝熱体は熱膨張しながら溶融し、液体となる。このとき、内部空間側壁に対して応力がかかる。
【0007】
このような伝熱体の相変化時に生じる応力は電極内壁、すなわち電極内部空間の側壁、底面に負担となり、ランプの点灯、消灯が繰り返されることによって電極内壁に亀裂を生じさせる恐れがある。しかしながら、単に点灯時の伝熱体量を考慮するだけでは、長期間に渡った電極強度の維持を図ることができない。
【0008】
したがって、ランプ消灯/点灯を切り替えるとき、応力が低減するように伝熱体が相遷移しなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の放電ランプ用電極は、放電管と、前記放電管内に配置される一対の電極とを備え、少なくとも一方の電極が、電極内部に形成された密閉空間に封入される伝熱体を有し、前記伝熱体は、点灯時に液体状態となり、消灯後に凝固して、電極先端側とは逆の電極支持棒側に向けて凹部を形成することを特徴とする。凹部が形成されることにより、応力が低減される。
【0010】
例えば、伝熱体は、以下の式を満たすように凹部を形成する。
1/4≦a/b≦3/4
ただし、aは、伝熱体凹端部から凹部底までの距離を表し、bは、伝熱体凹部端部から前記密閉空間の底面までの距離を表す。
【0011】
また、伝熱体は、以下の式を満たすように凹部を形成する。
1/10≦e/f≦1/4
ただし、eは、前記凹部の体積を表し、fは、前記伝熱体の体積を表す。
【0012】
凹部の形状は任意であり、上記式を満たすようにすればよい。この場合、伝熱体の凝固収縮率、粘度、熱伝導率の少なくともいずれか1つを、前記伝熱体の凹部形状を定めるように調整すればよい。また、少なくとも一方の電極に、電極表面に放熱部を設けることが可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電極強度を維持しながら、冷却機能の優れた電極を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1の実施形態である放電ランプを模式的に示した平面図である。
【
図4】凹部高さが過度に小さく、条件式を満たさない陽極の概略的断面図である。
【
図5】凹部高さが過度に大きく、条件式を満たさない陽極の概略的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0016】
図1は、第1の実施形態である放電ランプを模式的に示した平面図である。
【0017】
ショートアーク型放電ランプ10は、パターン形成する露光装置(図示せず)の光源などに使用可能な放電ランプであり、透明な石英ガラス製の放電管(発光管)12を備える。放電管12には、陰極20、陽極30が所定間隔をもって対向配置される。
【0018】
放電管12の両側には、対向するように石英ガラス製の封止管13A、13Bが放電管12と一体的に設けられており、封止管13A、13Bの両端は、口金19A、19Bによって塞がれている。
【0019】
放電ランプ10は、陽極30が上側、陰極20が下側となるように鉛直方向に沿って配置されている。封止管13A、13Bの内部には、金属性の陰極20、陽極30を支持する導電性の電極支持棒17A、17Bが配設され、金属リング(図示せず)、モリブデンなどの金属箔16A、16Bを介して導電性のリード棒15A、15Bにそれぞれ接続される。
【0020】
封止管13A、13Bは、封止管13A、13B内に設けられるガラス管(図示せず)と溶着しており、これによって、水銀、および希ガスが封入された放電空間DSが封止される。
【0021】
リード棒15A、15Bは外部の電源部(図示せず)に接続されており、リード棒15A、15B、金属箔16A、16B、そして電極支持棒17A、17Bを介して陰極20、陽極30の間に電圧が印加される。放電ランプ10に電力が供給されると、電極間でアーク放電が発生し、水銀による輝線(紫外光)が放射される。
【0022】
図2は、陽極30の消灯時における概略的断面図である。
図3は、陽極30の点灯時における概略的断面図である。
【0023】
陽極30は、柱状胴体部32と、陽極先端面34Sを有する円錐台状先端部34から構成される。胴体部32は、電極支持棒17Bが取り付けられている密閉蓋45を接合させた構造であり、密閉蓋45を除いた胴体部32と先端部34は同一金属材料から成形されている。
【0024】
胴体部32には、内部中央に円柱状の密閉空間50が電極軸に対し同軸的に形成されている。密閉空間50は、その上限が密閉蓋45と接する端面45Sであり、下限が電極先端部側端面50Dである。密閉空間50の側面50Sの長さcは、密閉空間50の径dよりも長い。
【0025】
密閉空間50内部には、伝熱体40が封入されている。伝熱体40は、胴体部32、密閉蓋45よりも融点の低い金属(例えば、銀)から成る。
図3に示すように、ランプ点灯中は溶融して液体状態になり、熱対流によって先端部34の温度上昇を抑える。
【0026】
ランプ消灯に切り替わると、伝熱体40は収縮しながら凝固し、固体となる。陽極30の胴体部表面32近くで温度が早く低下するため、伝熱体40は、密閉空間50の側面50S付近から凝固し始める。時間経過とともに、収縮しながら伝熱体の凝固が中心部へ進む。
【0027】
そして、伝熱体40は、密閉空間50の底面50D中央部付近で最後に固体になり、最終的に伝熱体40は、中央部が窪んだ凹状になって凝固する。底面50Dの中央部付近では、収縮による応力が多方向から働くことにより、孔70が存在する。また、伝熱体40の一部は、後述するように密閉蓋45の端面45Sに付着している。
【0028】
このような伝熱体40の密閉蓋45に向けて開放された凹部形状は、点灯時に生じる応力低減の役割を果たす。すなわち、点灯時に伝熱体40が熱膨張することによって発生する応力を中心部に逃すことによって、密閉空間50の底面50D、側面50Sに係る応力を低減することができる。点灯/消灯を繰り返す度に、伝熱体40は、
図2、3に示すように凹部形状の固相化、液化を繰り返す。
【0029】
消灯によって密閉蓋45に付着した伝熱体は、凹部形状の伝熱体40と隔離しているため、点灯に切り替わると早期に溶融し、凹部表面に流れ落ちることで伝熱体40の液化を早める。
【0030】
さらに陽極30の胴体部側面32Sには、放熱機能をもつレーザー溝60が陽極先端部34近くに周方向に沿って形成されている。ランプ点灯の間、陽極先端部32が過度に高温になるのを防ぎ、また、密閉空間50内部の伝熱体40の凝固を早める。
【0031】
図2に示す伝熱体40の凹部の形状は、陽極30の放熱特性、伝熱体40の特性、伝熱体40の密閉空間50に対する体積比、密閉空間50のサイズなどによって定められる。特に、凹部の窪み深さは、陽極30のレーザー溝60による放熱特性、伝熱体40の特性によって変化する。ここで、伝熱体40の特性とは、凝固収縮率、粘度、熱伝導率を表す。
【0032】
本実施形態では、凹部形状の特徴となる凹部高さが所定条件を満たすように伝熱体40の封入量および特性、レーザー溝60の位置等が定められている。ただし、凹部の高さは、密閉空間50の側面50Sと接し、最も高い位置にある伝熱体40の凹部両端40Tから凹部底40Dまでの距離として定義される。
【0033】
好ましくは、凹部高さaは、以下の条件式を満たす。
1/4≦a/b≦3/4 ・・・・・(1)
ただし、aは、伝熱体凹端部40Tから凹部底40Dまでの距離を表し、bは、伝熱体凹部端部40Tから前記密閉空間の底面50Dまでの距離を表す。
【0034】
さらに好ましくは、以下の条件式を満たす。
1/10≦e/f≦1/4 ・・・・・(2)
ただし、eは、伝熱体40の凹部の体積を表し、fは、伝熱体40の体積を表す。
【0035】
凹部の高さが過度に小さいと、消灯時に生じる応力が電極強度を低下させる。具体的に説明すると、ランプ点灯状態から消灯になると、伝熱体40の凝固は、相対的に温度の低い密閉蓋45付近の上方から始まる。そのため、陽極先端部32に近い下方で温度低下を早めることによって、相変化時の収縮による液面低下を早める必要がある。
【0036】
凹部高さを十分なものにするためには、溝60による放熱作用が有効となる。また、それに加えて伝熱体40の特性を考慮しなければならない。凝固収縮率が低いと、体積減少の割合が小さいため、液面の低下が抑えられる。また、粘度が小さいと、粘性によって密閉空間側面30S上方付近に残る部分が少なくなり、凹部高さが小さくなる。さらに、熱伝導率が高いと、中心部と側面付近との温度差が小さいため、凝固開始するときの液面高さの差がなく、凹部高さが小さくなる。
【0037】
また、消灯から点灯に切り替わることよって伝熱体40が再び溶融するとき、凹部高さが小さいと、密閉空間底面50D付近に生じる最も大きな応力を逃すことができず、応力軽減を図れない。
【0038】
逆に、凹部の高さが過度に大きいと、過度な応力が陽極内壁、すなわち密閉空間50の底面50D、側面50Sにかかる。伝熱体40の凝固縮小率が高く、粘度が大きく、熱伝導率が高いと、凹部の高さは大きくなる。しかしながら、凹部が高くなりすぎると、凹部底40Dが密閉空間底面50Dに近くなり、強い応力を伴う凝固が底面50Dに作用し、陽極内壁に亀裂が発生する恐れがある。
【0039】
図4は、凹部高さが過度に小さく、条件式を満たさない陽極の概略的断面図である。この場合、再点灯時に、底面50D付近の応力が十分に凹部へ逃げることができないので、陽極内壁に亀裂が発生する恐れがある。
【0040】
図5は、凹部高さが過度に大きく、条件式を満たさない陽極の概略的断面図である。液相40Bが最後に凝固する部分には、複雑な方向に強い応力が発生するため、孔70が生じる。つまり、
図5の場合、この応力が底面50D付近で発生し、底面50Dに亀裂が生じる恐れがある。
【0041】
また、再度点灯させた場合、伝熱体40の溶融が上方へ進むのに時間がかかる。そのため、熱対流が開始するまでに時間がかかり、電極先端部34が過熱する。
【0042】
さらに、溝60の形成位置は凹部高さに影響する。溝60を密閉蓋45付近にまで形成すると、上方での凝固が早くなり、凝固しない液相部分が残ったまま凹部が形成される。一方、溝60を下方付近だけに形成すると、下方付近の凝固が促進されるので、凹部高さが過度に大きくなってしまう。
【0043】
このように極端な凹部高さをもつことがないように伝熱体を凝固させる必要があり、本実施形態では、条件式(1)を満たすように、溝60が形成され、また、伝熱体40の特性が定められている。
【0044】
このように本実施形態によれば、陽極30の内部に密閉空間50が形成されており、その中に銀などの金属から成る伝熱体40が凹部形状で封入されている。このとき、条件式(1)、(2)を満たすように電極サイズ、放熱用の溝60の形成位置、伝熱体40の特性等が定められている。ランプ点灯に切り替わると、伝熱体40は液化する。
【0045】
なお、放熱機構としては、溝の形成以外にも、他の電極表面部分と放熱特性が異なる放熱部として、微粒子の吹き付け、アルミナ加工するなどの構成を適用しても良い。また、陰極を同様の構成にしてもよい。
【0046】
さらに、(1)、(2)式を満たさない場合においても、密閉空間一杯に伝熱体が液状で満たされるような状態、あるいは、凝固したときに伝熱体凹部底が密閉空間底面付近まで到達するような状態を回避する、すなわち、凹部が形成されないような極端な状態にならないようにすることで、電極強度を向上させることが可能である。
【符号の説明】
【0047】
10 放電ランプ
30 陽極
40 伝熱体
a 凹部高さ