(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6180722
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】トリテルペンまたはその配糖体の呈味改善剤
(51)【国際特許分類】
A23L 2/00 20060101AFI20170807BHJP
【FI】
A23L2/00 B
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-241310(P2012-241310)
(22)【出願日】2012年10月31日
(65)【公開番号】特開2014-90676(P2014-90676A)
(43)【公開日】2014年5月19日
【審査請求日】2015年6月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】391058381
【氏名又は名称】キリンビバレッジ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505144588
【氏名又は名称】MCフードスペシャリティーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】木 下 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】若 林 英 行
(72)【発明者】
【氏名】松 島 厳
【審査官】
鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−187404(JP,A)
【文献】
特開平09−132517(JP,A)
【文献】
特開2001−064136(JP,A)
【文献】
特公昭49−007227(JP,B1)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0094942(US,A1)
【文献】
国際公開第2012/029913(WO,A1)
【文献】
国際公開第2011/108643(WO,A1)
【文献】
特開2005−187360(JP,A)
【文献】
特開2002−012557(JP,A)
【文献】
国際公開第02/049607(WO,A1)
【文献】
特開昭61−247352(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0162483(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0263826(US,A1)
【文献】
米国特許第05891801(US,A)
【文献】
特開2010−148425(JP,A)
【文献】
香りの本, 日本香料協会発行, 平成13年, 季刊, No.209, pp.84-94
【文献】
J. Agric. Food Chem., 1979, Vol.27, No.2, pp.246-257
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00−2/84
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
WPIDS/WPIX(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シトラールと、トリテルペンまたはその配糖体とを含有する、トリテルペンまたはその配糖体の苦臭みのマスキングされた飲料であって、
前記トリテルペンまたはその配糖体が、グリチルリチン、グリチルリチン酸またはそれらの塩であり、
前記シトラールの濃度が1〜40ppmであり、
前記シトラールの濃度と、前記トリテルペンまたはその配糖体の濃度との比が、1:50〜1:500であり、
pHが3.0〜5である、飲料。
【請求項2】
前記シトラールの濃度が10〜40ppmである、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
シトラールと、トリテルペンまたはその配糖体とを飲料中に含有させる工程を含んでなる、請求項1または2に記載の飲料の製造方法。
【請求項4】
シトラールと、トリテルペンまたはその配糖体とを飲料中に含有させる工程を含んでなる、飲料におけるトリテルペンまたはその配糖体の苦臭みのマスキング方法であり、前記工程において得られた飲料が、請求項1または2に記載の飲料である、マスキング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリテルペンまたはその配糖体の呈味改善剤、それを含有させてなる呈味改善された経口組成物、およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲食品、歯磨剤等の口腔組成物および医薬品等には、その保存安定性、起泡性、甘味等の嗜好性を向上させるために、サポニンやグリチルリチン等のマメ科植物に含まれるトリテルペンまたはその配糖体が抽出、精製されて添加されることがある。なかでもグリチルリチンは砂糖の30〜50倍の甘味度を有する高甘味度甘味料であり、砂糖とは異なる独特の後甘味を有することから、低カロリーを目的とする食品や、糖類の利用に適さない医薬品、歯磨剤には有効な味質改善剤である。また熱にも安定であり、天然物由来であること等から利用価値も高い。
【0003】
しかしながら、上述したような機能性を有する反面、トリテルペンまたはその配糖体自身や、これを含有するマメ科植物の抽出物は強い苦味と薬用臭(以下、苦臭み)と表現される独特な風味を有しているため、用途や使用量が限定されることがある。そのため、その風味の改善は重要な課題となっており、種々の呈味改善手段が従前検討されている。
【0004】
例えば、特開2011−106号(特許文献1)には、苦味のなどの不快感が低減された甘味組成物の提供を目的として、カンゾウ抽出物と、高甘味度甘味料ネオテームとを特定量で配合したことが報告されている。
【0005】
しかしながら、トリテルペンまたはその配糖体等の呈味改善において、特定のモノテルペンを適用することは何ら報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−106号
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、今般、トリテルペンまたはその配糖体の呈味改善を目指して鋭意検討した結果、特定のモノテルペンが、トリテルペンまたはその配糖体特有の苦臭さを抑制ないしマスキングし、呈味改善効果を奏することを見出した。本発明は、かかる知見に基づくものである。
【0008】
したがって、本発明は、トリテルペンまたはその配糖体の呈味改善剤、それを含有させてなる呈味改善された経口組成物、およびそれらの製造方法の提供をその目的としている。
【0009】
本発明によれば以下の発明が提供される。
(1)シトラールおよびα−テルピネオールから選択される少なくとも一つのモノテルペンを有効成分として含んでなる、トリテルペンまたはその配糖体の呈味改善剤。
(2)トリテルペンまたはその配糖体が、グリチルリチン、グリチルリチン酸、もしくはそれらの塩、または大豆サポニンである、(1)に記載の呈味改善剤。
(3)シトラールおよびα−テルピネオールから選択される少なくとも一つのモノテルペンと、トリテルペンまたはその配糖体とを含有する、経口組成物。
(4)トリテルペンまたはその配糖体が、グリチルリチン、グリチルリチン酸、もしくはその塩、または大豆サポニンである、(3)に記載の組成物。
(5)飲食品組成物、口腔用組成物または医薬組成物である、(3)または(4)に記載の組成物。
(6)シトラールおよびα−テルピネオールから選択される少なくとも一つのモノテルペンと、トリテルペンまたはその配糖体とを経口組成物中に含有させる工程を含んでなる、呈味改善されたトリテルペンまたはその配糖体を含有する経口組成物の製造方法。
(7)上記モノテルペンを、柑橘類植物、スパイス類植物またはそれらの抽出物の形態で経口組成物中に含有させる、(6)に記載の方法。
(8)上記経口組成物における、モノテルペン/トリテルペンまたはその配糖体の重量比が1/500以上である、(6)または(7)に記載の方法。
(9)シトラールおよびα−テルピネオールから選択される少なくとも一つのモノテルペンと、トリテルペンまたはその配糖体を経口組成物中に含有させる工程を含んでなる、経口組成物におけるトリテルペンまたはその配糖体の呈味改善方法。
【0010】
本発明によれば、飲食品組成物、口腔組成物、医薬品をはじめとするトリテルペンまたはその配糖体を含有する経口組成物の呈味改善を効果的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】試験例1で用いた柑橘類植物抽出物を固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ質量分析法(SPME−GC−MS法)で分析した図である。
【
図2】試験例2で用いた柑橘類植物の抽出物を固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ質量分析法(SPME−GC−MS法)で分析した図である。
【0012】
本発明の呈味改善剤は、シトラールおよびα−テルピネオールから選択される少なくとも一つのモノテルペンを有効成分とすることを一つの特徴としている。したがって、本発明の一つの態様によれば、トリテルペンまたはその配糖体の呈味改善剤の製造における、シトラールおよびα−テルピネオールから選択される少なくとも一つのモノテルペンの使用が提供される。また、さらに別の態様によれば、トリテルペンまたはその配糖体の呈味改善剤としての、トラールおよびα−テルピネオールから選択される少なくとも一つのモノテルペンの使用が提供される。
かかるモノテルペンが、トリテルペンまたはその配糖体の苦臭さを抑制ないしマスキングしうるのは意外な事実である。
【0013】
本発明のモノテルペンのうち「シトラール」は、ひと組みのシス−トランス異性体のネラール(シス体)およびゲラニアール(トランス体)の総称であり、好ましくはネラール(シス体)および/またはゲラニアール(トランス体)であり、より好ましくはネラールおよびゲラニアールである。
【0014】
本発明のモノテルペンは、人工合成物であってもよく、柑橘類植物等の天然物から取得するものであってもよい。本発明の一つの態様によれば、呈味改善剤は、上記モノテルペンからなる。
【0015】
また、本発明のモノテルペンは、柑橘類植物抽出物およびスパイス類植物抽出物の形態で提供してもよい。柑橘類及びスパイス類としては、特に限定されず、レモン、ライム、スイートオレンジ、ビターオレンジ、マンダリン、ベルガモット、温州ミカン、ハッサク、イヨカン、グレープフルーツ、ユズ、スダチ、カボス、スウィーティー、レモングラス、リセア・キュベバ、バックホウシャ(レモンマートル)、テレビン等が挙げられるが、好ましくは、レモン、ライム、レモングラス、バックホウシャである。
【0016】
本発明で用いる柑橘類植物及びスパイス類の抽出物は、精油の製造に用いられる圧搾法、水蒸気蒸留法、有機溶剤抽出法といった常法に従って取得できる。また、香料メーカー、販売業者から精油、エッセンス、香料、フレーバーとして製造販売されている物を入手し用いる事ができる。
【0017】
本発明の呈味改善の対象となるトリテルペンまたはその配糖体は、トリテルペン骨格を有する物質であれば特に限定されないが、例えば、グリチルリチン、グリチルリチン酸、またはそれらの塩があげられる。
また、本発明の呈味改善の対象となるトリテルペンまたはその配糖体は、例えば、マメ科植物由来物、例えば、カンゾウの抽出物、大豆サポニン等に含まれていてもよい。
カンゾウの抽出物は、甘草根(Licorice root)から抽出・製造され、グリチルリチン、グリチルリチン酸、またはそれらの塩等を含むものが好ましい。その市販品としては、純グリチミンY(グリチルリチン(精製物)100%)、グリチミンW(グリチルリチン:17.5%、クエン酸3Na:35%、デキストリン:47.5%)、グリチミンC(カンゾウ抽出物:45%、クエン酸3Na:55%)(以上、丸善製薬株式会社)等が挙げられる。
【0018】
本発明の呈味改善剤の形態は、特に限定されず、液体、個体、粉末のいずれであってもよいが、液体状が好ましい。
【0019】
また、本発明の呈味改善剤には、上記モノテルペンまたは柑橘類植物抽出物あるいはスパイス類植物抽出物の他、さらに食品衛生上または薬学上許容可能な添加剤、例えば、甘味料、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤、苦味料、酸味料、乳化剤、強化剤、製造用剤および香料等を適宜添加してもよい。
【0020】
また、本発明の別の態様によれば、シトラールおよびα−テルピネオールから選択される少なくとも一つのモノテルペンと、トリテルペンまたはその配糖体とを含有する呈味の改善された、経口組成物が提供される。本発明の好ましい態様によれば、上記モノテルペンは、トリテルペンまたはその配糖体の呈味改善上の有効量で経口組成物中に添加されてなる。
【0021】
上記モノテルペンとトリテルペンまたはその配糖体とを含有する経口組成物は、特に限定されないが、例えば、上記モノテルペン、トリテルペンまたはその配糖体、あるいはそれらを含有する植物またはその抽出物が添加、混合された飲食品組成物、口腔用組成物、あるいは医薬品であってもよい。かかる組成物のより具体的な例としては、アルコール飲料、非アルコール飲料あるいは歯磨剤等が挙げられる。
【0022】
また、トリテルペンまたはその配糖体を含有する組成物には、上記の他、飲食品原料、食品衛生上または薬学上許容可能な添加剤を適宜添加していてもよい。
【0023】
本発明の経口組成物は、シトラールおよびα−テルピネオールから選択される少なくとも一つのモノテルペンを含んでなる呈味改善剤と、トリテルペンまたはその配糖体とを当該組成物に含有させることにより製造することができる。したがって、別の態様によれば、シトラールおよびα−テルピネオールから選択される少なくとも一つのモノテルペンと、トリテルペンまたはその配糖体とを経口組成物中に含有させる工程を含んでなる、呈味改善されたトリテルペンまたはその配糖体を含有する経口組成物の製造方法が提供される。また、さらに別の態様によれば、呈味改善されたトリテルペンまたはその配糖体を含有する組成物の製造における、トラールおよびα−テルピネオールから選択される少なくとも一つのモノテルペンの使用が提供される。
【0024】
本発明のモノテルペンおよびトリテルペンまたはその配糖体とを経口組成物中に含有させる工程では、モノテルペンおよびトリテルペンまたはその配糖体を経口組成物の製造最終工程で公知の混合手法により添加してもよく、製造工程中に加えてもよい。また、モノテルペンおよびトリテルペンまたはその配糖体は、摂食時直前に経口組成物に添加してもよい。さらに、モノテルペンおよびトリテルペンまたはその配糖体は2回以上に分けて、経口組成物中に添加してもよい。
【0025】
また、モノテルペン、トリテルペンまたはその配糖体およびその他の添加剤は、別々に経口組成物中に添加してもよいし、同時に添加してもよいし、混合して用いてもよい。
【0026】
また、本発明の呈味改善剤を添加する場合、対象となるトリテルペンまたはその配糖体の量や必要とする効果の程度に応じて任意に設定できるが、トリテルペンまたはその配糖体を含有する経口組成物における、モノテルペンと、トリテルペンまたはその配糖体との重量比は、好ましくは1:2500〜1:1であり、より好ましくは1:50〜1:500である。
【0027】
また、上記添加工程において、本発明の呈味改善剤(モノテルペン)およびトリテルペンまたはその配糖体を含有する経口組成物が液体である場合、それらのpHは、モノテルペンおよびトリテルペンまたはその配糖体に応じて任意に設定してよいが、好ましくはpH1.0〜8.0であり、より好ましくは2.0〜5.0である。pHの調整は、無水クエン酸等の緩衝剤を呈味改善剤およびトリテルペンまたはその配糖体を含有する組成物に適宜添加することにより行うことができる。
【0028】
また、上記製造方法によれば、トリテルペンまたはその配糖体を含有する経口組成物の呈味改善を効果的に行うことができる。したがって、本発明の別の態様によれば、シトラールおよびα−テルピネオールから選択される少なくとも一つのモノテルペンと、トリテルペンまたはその配糖体とを経口組成物中に含有させる工程を含んでなる、経口組成物におけるトリテルペンまたはその配糖体の呈味改善方法が提供される。
【実施例】
【0029】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
試験例1:カンゾウ抽出物に対する呈味改善効果の確認1
1−1:評価試料の調製
イオン交換水にカンゾウ抽出物(丸善製薬株式会社、商品名:純グリチミンY)を500ppm添加し、無水クエン酸を用いてpH3.0に調整し比較例1(対照)を作成した。また、イオン交換水にカンゾウ抽出物(同上、500ppm)、および香料として市販される柑橘類植物抽出物A、BおよびC (全て柑橘由来、500ppm)をそれぞれ添加し、無水クエン酸を用いてpH3.0に調整し、実施例1、2および3(pH3.0)を作成した。
【0031】
1−2:官能評価
比較例1、実施例1〜3を訓練されたパネラー4名が試飲して、カンゾウ抽出物由来の苦臭みの程度を以下の4段階で評価した。
+++:苦臭みは全く感じない
++:苦臭みをほぼ感じない
+:苦臭みが感じられるが、対照より明らかに低減されている
±:薬のような特有の苦臭みを感じる
【0032】
結果を表1に示す。
【表1】
【0033】
表1に示したとおり、実施例1〜3でカンゾウ抽出物が有する苦臭みを低減する呈味改善効果が認められた。効果の程度は用いた柑橘類植物抽出物により異なり、その成分組成が大きく影響する可能性を示唆した。
なお、pH未調整評価試料を用いて同様の評価を行ったところ、苦臭み軽減効果は認められたが、pH3.0に調製した試験試料の方が、苦臭み軽減効果は強かった。
【0034】
1−3:柑橘類植物の抽出物A〜Cの固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ質量分析(SPME−GC−MS)
柑橘類植物抽出物A〜Cの成分を調査するためSPME−GC−MS分析を行った。SPME−GC−MS分析条件は、以下の通りである。なお、内部標準としてシクロヘキサノールを用い、各抽出物毎の成分含量の違いをピーク高を相対比較することで比較した。
手順
ヘッドスペースバイアルに、内部標準として0.1% 濃度のシクロヘキサノール水溶液を1 mL、及び、柑橘類植物の抽出物10 mLを収容して、気化した成分の吸着処理を行った。得られた試料をGC/MSで測定した。
【0035】
前処理条件 ヘッドスペース SPME
容器;ヘッドスペースバイアル、20ml、22.5×75.5mm(パーキンエルマー適合)
試料量;11 mL
吸着相;液相付 フューズドシリカファイバー
50/30μm,DVB/CAR/PDMS(SUPELCO社製)
抽出条件;
50℃×
5分
脱着条件;
240℃で
3分(GC注入口)
GC/MS 測定条件
装置:
分離カラム;ZB-WAX(60m×0.25mm ID、Df=0.25μm)
カラム温度;50℃で3分間保持したのち、3℃/minの昇温速度で200℃まで加熱し、 2分間保持。注入口240℃
イオン室温度;200℃
GC/MS インターフェース温度;240℃
キャリアガス;He 15psi
イオン化モード;EI 70eV
スキャン範囲;質量数 m/z=33〜450
注入方式;スプリットレス
【0036】
結果を、
図1に示す。
シトラール(ネラールおよびゲラニアールの混合物)およびα−テルピネオールのピーク高さはA>B>Cであり、表1の官能評価結果と正の相関を示した。
すなわち、シトラールおよびα−テルピネオールのピーク高、すなわち含有量が高い抽出物ほど、官能評価結果が良好であった。
【0037】
試験例2:カンゾウ抽出物に対する呈味改善効果の確認2
2−1:評価試料の調製
試験例1−1と同じ方法により、香料として市販される柑橘類植物抽出物D〜H(全て柑橘由来)を用いて、実施例4〜9を作成した。1−2と同様の手法により官能評価を行った。
【0038】
2−2:官能評価
1−1と同じ比較例1および新たに作成した実施例4〜9について、試験例1−2と同様の手法により官能評価を行った。
【0039】
結果を、表2に示す。
【表2】
表2に示したとおり、柑橘類植物抽出物D〜Hのいずれもカンゾウ抽出物が有する苦臭みを低減する呈味改善効果が認められた。
【0040】
2−3:柑橘類植物抽出物D〜Hの固相マイクロ抽出−ガスクロマトグラフ質量分析(SPME−GC−MS)
柑橘類植物抽出物D〜HのSPME−GC−MS分析を試験例1−3と同様の手法により行った。
1−3で得られた柑橘類植物抽出物AおよびCの結果も併せて示すと、柑橘類植物抽出物A〜Hの測定結果は、
図2に示される通りであった。
【0041】
次に、
図2に示される各データについて、内部標準のピーク面積(a)と、シトラールおよびα−テルピネオールのピークの合計面積(b)との比(b/a)を算出した。
上記b/a値と、官能評価の関係を、表3に示す。
【0042】
【表3】
【0043】
内部標準のピーク面積(a)と、シトラールおよびα−テルピネオールのピークの合計面積(b)との比(b/a)の値が高いものほど高い呈味改善効果を有し、
0.7を越えるとカンゾウ抽出物の苦臭味は完全にマスキングされることが示された。このことより、シトラールおよびα−テルピネオールは、カンゾウ抽出物の呈味改善に寄与することが明らかである。
【0044】
試験例3:カンゾウ抽出物に対する呈味改善効果の確認3
試験例1−1と同様に、イオン交換水にカンゾウ抽出物を500ppm添加した水溶液に、シトラールを10、1、0.5、0.2ppm添加し、無水クエン酸でpHを3.0に調整して、それぞれ実施例10、実施例11、実施例12、実施例13とした。実施例10〜13について、試験例1−2と同様にそれらの呈味改善効果を評価した。対照は、1−1の評価試料1とした。
【0045】
結果を、表4に示す。
【表4】
表4に示したとおり、シトラール濃度1ppm以上であれば、500ppmのカンゾウ抽出物の苦臭みをほぼマスキングできることが確認された。すなわち、カンゾウ抽出物に対し1/500量のシトラールを添加することにより苦臭みをほぼマスキングできることが示された。
【0046】
試験例4:サポニン含有大豆抽出物に対する呈味改善効果の確認
4−1:評価試料の調製
評価試料
イオン交換水に、1−1と同様の方法により、柑橘類植物抽出物A(1000ppm)およびカンゾウ抽出物(1000ppm)を添加し、実施例14を作成した。
また、イオン交換水に、1−1と同様の方法により、柑橘類植物抽出物A(1000ppm)と、サポニン含有大豆抽出物(不二製油株式会社、商品名:ソイヘルスSA)を1000ppmまたは5000ppmとなるよう添加し、それぞれ実施例15および16とした。評価試料はいずれも無水クエン酸を添加してpH3.0に調整した。
【0047】
次に、得られた比較例2、実施例14および実施例15について、1−2と同様の手法により、官能評価を行った。
結果を表5に示す。
【表5】
表5に示したとおり、柑橘類植物抽出物Aは、カンゾウ抽出物のみでなくサポニンを含有し苦臭みを有する大豆抽出物についても、呈味改善効果を示した。
【0048】
試験例5:飲料中での呈味改善効果の確認
市販紅茶葉を90〜100℃の湯で数分間抽出して得た紅茶抽出液に2000ppmとなるようカンゾウ抽出物を添加した。本抽出液に、各々2、4、5、6.7、10、20、40ppmとなるようにシトラールを添加し、それぞれ実施例16〜22とした。また、シトラールを添加しないものを比較例2(対照)として、試験例1−2と同様にして苦臭みの程度を官能した。
【0049】
結果を表6に示す。
【表6】
表6に示すとおり、シトラール濃度:カンゾウ抽出物濃度=1:500までは、苦臭みはほぼ完全にマスキングされた。このことから、紅茶飲料中においても、シトラールがカンゾウ抽出物の苦臭みを同レベルでマスキングできることが明である。