(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内周に2つの軌道面を有する外方部材と、この外方部材の内側に配置され、外周に2つの軌道面を有する内方部材と、前記外方部材の軌道面と内方部材の軌道面との間に組み込まれた2列の転動体と、転動体を保持する保持器とからなり、前記内方部材を一対の軌道輪で形成し、両軌道輪が固定用ボルトにより締結され、前記外方部材および前記内方部材に使用機器の相手部材に締め付け固定される孔が設けられた複列転がり軸受において、
前記一対の軌道輪の互いに当接する端面を平坦面とし、
前記一対の軌道輪に位置決め孔を設け、この位置決め孔に位置決め部材を嵌挿することにより、前記一対の軌道輪の径方向の芯ずれを抑制するものであって、
前記位置決め孔をリーマ孔とし、かつ、その数を2以上とすると共に、前記位置決め部材をリーマボルトとしたことを特徴とする複列転がり軸受。
前記リーマボルトの本数をN、負荷せん断荷重をW、ボルトの許容引張応力σ、ボルトの断面積Aとしたとき、N≧W/〔σ×(0.6〜0.7)×A〕の関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の複列転がり軸受。
【背景技術】
【0002】
図5に、医療機器の一種であるCTスキャナ装置100の一例を示す。CTスキャナ装置100は、X線などを照射して病理症状を診断解析する装置である。CTスキャナ装置100は、開口部101Aが設けられた検査部101と、人体等の被検査体110が載せられ、検査部101の開口部101A内を移動可能な寝台部102とを備えている。検査部101には、X線照射装置103と検出部104とが直径方向で対向して配置されたリング状の回転体105(ガントリ)が設けられている。回転体105は、軸受51を介して、円筒状をなす固定部106に回転自在に支持されている。
【0003】
このCTスキャナ装置100は、X線照射装置103からX線を照射した状態で、回転体105を寝台部102の周囲で回転させて、被検査体110を透過したX線を検出部104で検出することにより、被検査体110の断面画像が得られるようになっている。
【0004】
CTスキャナ装置100においては、検査部101の開口部101Aを、被検査体110が通過できる程度の寸法(概ね直径1m程度)に形成し、かつ、CTスキャナ装置100自体の小型化を実現するために、軸受51を配置する回転支持部107のスペースを小さくする必要がある。そのため、軸受51には、ボールのピッチ円直径に対するボール直径が著しく小さい、いわゆる超薄肉型の複列転がり軸受が使用される。ここで、超薄肉型転がり軸受とは、内径650mm以上で、転動体の直径Dbと転動体のピッチ円直径PCDとの比Db/PCDの値が0.03以下の超薄肉の大型転がり軸受をいう。
【0005】
特許文献1に、内方部材が一対の軌道輪からなり、これら軌道輪をインローによって同心状態を保った状態で締結する構造の超薄肉型複列転がり軸受が記載されている。この複列転がり軸受を
図9に示す。複列転がり軸受51は、外方部材52、内方部材53、転動体54、および保持器55を主な構成とする。転動体としてのボール54を2列に配置した複列アンギュラ玉軸受で、外方部材52の2列の軌道面56、56と内方部材53の2列の軌道面57、57間に組み込まれたボール54、54は接触角をもって接触し、モーメント荷重を支持するのに適した背面配列となっている。
【0006】
内方部材53は一対の軌道輪53a、53bで構成され、軌道輪53aはねじ孔58aを有し、軌道輪53bは嵌挿孔58bを有している。軌道輪53a、53bはボルト59によって締結される。その際、軌道輪53aに形成された凸部60a、軌道輪53bに形成された凹部60bによるインロー構造によって軌道輪53a、53b間の芯ずれが防止される。ボルト59を締め込んで軌道輪53bを軌道輪53a側へ加圧して軸受内部に予圧(マイナスすきま)が付与される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、特許文献1に記載の複列転がり軸受51のインロー構造は次のような問題があることが分かった。すなわち、軌道輪53aに形成された凸部60a、軌道輪53bに形成された凹部60bからなるインロー構造では、凸部60aおよび凹部60bを微小な嵌め合いすきまで高精度に加工する必要がある。しかし、凸部60aおよび凹部60bは、薄肉でかつ大径の軌道輪53a、53bに形成されているので、高精度に加工することが困難である。また、高精度な加工を施そうとすると製造コストが大幅に高騰するという問題を抱えている。
【0009】
一方、製造コストを抑えるために、凸部60aおよび凹部60bの嵌め合いすきまの許容寸法範囲を緩和すると、次のような問題が生じることも分かった。例えば、
図5に示すCTスキャナ装置100では、前述したように、検査部101には、X線照射装置103と検出部104とが直径方向で対向して配置されたリング状の回転体105(ガントリ)が設けられている。この回転体105は、軸受51を介して、円筒状をなす固定部106に片持ちに近い状態で回転自在に支持されているので、軸受51には大きなモーメント荷重が負荷され、このような荷重状態において120rpm以上で高速回転する厳しい使用環境にある。
【0010】
しかも、医療機器では、検査を受ける患者に対して不安感や恐怖感を与えないような配慮が必要とされ、特にCTスキャナ装置の場合、患者自身がガントリと呼ばれるトンネルの入口のような部分に入るため、機械的な運転音や電気的な励磁音が嫌われる。その結果、軸受に対しては低騒音、低振動、高剛性が要求され、また、CTスキャナ装置は高価な医療機器であることから、優れた耐久性が望まれ、軸受に対して長寿命が要求される。
【0011】
上記のような軸受使用状態であるので、凸部60aおよび凹部60bの嵌め合いすきまの許容寸法範囲を拡げると、一対の軌道輪53a、53bの芯ずれを十分に抑制することができず、軸受内部の適切な予圧(マイナスすきま)、あるいは、極力小さなすきまを左右2列の軌道輪で均一に設定することが困難で、特にモーメント荷重作用時に予圧抜け等の問題が懸念され、低騒音、低振動、高剛性に対して問題があることが分かった。
【0012】
上記のような問題に鑑み、本発明は、外方部材又は内方部材を形成する一対の軌道輪の芯ずれを抑制でき、低騒音、低振動、高剛性であり、製造が容易で低コストな複列転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の目的を達成するために種々検討した結果、一対の軌道輪の固定用ボルトとは別に、位置決め部材によって一対の軌道輪の芯ずれを抑制するという新たな着想によって、本発明に至った。
【0014】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、内周に2つの軌道面を有する外方部材と、この外方部材の内側に配置され、外周に2つの軌道面を有する内方部材と、前記外方部材の軌道面と内方部材の軌道面との間に組み込まれた2列の転動体と、転動体を保持する保持器とからなり、前記内方部材を一対の軌道輪で形成し、両軌道輪が固定用ボルトにより締結され、前記外方部材および前記内方部材に使用機器の相手部材に締め付け固定される孔が設けられた複列転がり軸受において、前記一対の軌道輪の互いに当接する端面を平坦面とし、前記一対の軌道輪に位置決め孔を設け、この位置決め孔に位置決め部材を嵌挿することにより、前記一対の軌道輪の径方向の芯ずれを抑制
するものであって、前記位置決め孔をリーマ孔とし、かつ、その数を2以上とすると共に、前記位置決め部材をリーマボルトとしたことを特徴とする。
【0015】
上記の構成により、一対の軌道輪の径方向の芯ずれを抑制でき、低騒音、低振動、高剛性であり、製造が容易で低コストな複列転がり軸受を実現することができる。一対の軌道輪の互いに当接する端面を平坦面にしたことにより、インロー構造を廃止できるので、製造が一層容易で低コスト化を図ることができる。また、内方部材を一対の軌道輪で形成したので、複列転がり軸受をモーメント荷重に有利な背面配列とし、一対の軌道輪の端面を突き合わせることにより、軸受すきまを容易に設定することができる。
位置決め孔をリーマ孔とし、かつ、その数を2以上とすると共に、前記位置決め部材をリーマボルトとしたことにより、上下左右方向、回転方向の位置を決めることができ、リーマボルトは、市販品が適宜採用でき、品質面、コスト面で好ましい。
【0019】
上記のリーマ孔間のピッチ角度を転動体間のピッチ角度の倍数にならない角度にすることが好ましい。その理由は、
リーマボルトを打ち込み後、
リーマボルトと
リーマ孔の嵌め合いが締まりばめになる場合があるので、軌道面に
リーマ孔の個数分の歪が生じる可能性がある。この歪は転動体個数と関係して周期的な振動を誘発、増幅させる可能性があるので、
リーマ孔間のピッチ角度を転動体間のピッチ角度の倍数にならない角度にすることによって、問題を解消することができる。
【0020】
上記のリーマボルトの本数をN、負荷せん断荷重をW、ボルトの許容引張応力σ、ボルトの断面積Aとしたとき、N≧W/〔σ×(0.6〜0.7)×A〕の関係を満たすように設定する。これにより、せん断荷重に対して十分な強度を確保することができる。
【0021】
上記の
リーマボルトと
リーマ孔との嵌め合いすきまを固定用ボルトとこの嵌挿孔との嵌め合いすきまより小さくすることにより、一対の軌道輪の芯ずれを効果的に抑制することができる。
【0022】
上記の複列転がり軸受がアンギュラ玉軸受の背面配列とすることにより、高速回転で、低騒音、低振動、高剛性を可能にできる。また、この複列転がり軸受はCTスキャナ装置用に好適である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、一対の軌道輪の芯ずれを抑制でき、低騒音、低振動、高剛性であり、製造が容易で低コストな複列転がり軸受を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
本発明の第1の実施形態に係る複列転がり軸受を
図1〜5に基づいて説明する。
【0027】
図1〜3は本実施形態の複列転がり軸受の縦断面図であり、
図4は一部横断面を含む正面図である。
図1〜3は断面する周方向の位置が異なり、
図1は
図4のE−E線における縦断面、
図2は
図4のF−F線における縦断面、
図3は
図4のG−G線における縦断面をそれぞれ示す。これらの縦断面の概要として、
図4において、複列転がり軸受1を使用機器に取り付けるための取付孔を設けた位置をE−E断面で示し周方向に8箇所であり、内方部材3の一対の軌道輪の芯ずれ抑制のための位置決め孔を設けた位置をF−F断面で示し周方向に3箇所であり、そして、一対の軌道輪を締結するボルト嵌挿孔を設けた位置がG−G断面で示し周方向に8箇所である。詳細は後述する。
【0028】
図1に示すように、複列転がり軸受1は、外方部材2、内方部材3、転動体としてのボール4および保持器5を主な構成とする。外方部材2と内方部材3は共にリング状で、同芯状に配置されている。内方部材3は、一対の軌道輪3a、3bからなり、軌道輪3a、3bの互いに当接する端面10a、10bは平坦面で形成され、インロー構造とはなっていない。外方部材2には、内周に2列の軌道面6、6が形成され、内方部材2を形成する一対の軌道輪3a、3bのそれぞれの外周には、外方部材2の軌道面6、6に対向する軌道面7、7が形成されている。外方部材2の軌道面6、6と内方部材3の軌道面7、7との間に2列のボール4が組み込まれている。保持器5は、外方部材2と内方部材3との間に配置され、各列のボール4が周方向に所定間隔で保持されている。
【0029】
本実施形態の複列転がり軸受1は、ボール4を2列に配置した複列アンギュラ玉軸受である。両列の軸受部分は背面配列となっており、転動体荷重の作用線の交点は、ボール4のピッチ円の外側にある。ボール4と軌道面6、7は接触角αをもって接触しており、接触角αは、例えば30°程度とされる。一対の軌道輪3a、3bを内方部材3とすることにより、複列転がり軸受1をモーメント荷重に有利な背面配列とし、一対の軌道輪3a、3bの端面10a、10bを突き合わせることにより、軸受すきま(予圧、あるいは微小なすきま)を容易に設定することができる。この複列転がり軸受1は、ボール4の直径Dbとピッチ円直径PCDとの比Db/PCDを0.03以下とした超薄肉型の複列転がり軸受である。
【0030】
軌道輪3a、3bは、外側の外周を小径にして肩落とし部12が形成されている。この肩落とし部12は外方部材2の内周に装着したシール部材11の内径端部と協働してラビリンスを形成する。肩落とし部12の外径を等しくすることにより、両側で共通のシール部材11を使用することが可能となる。
【0031】
外方部材2には、ボルト(図示省略)を通すための貫通孔の形態の取付孔8が設けられ、使用機器の相手部材にボルトにより締め付け固定される。本実施形態では、
図4に示すように取付孔8は周方向に等間隔で8箇所に設けられている。内方部材3の軌道輪3aには、ボルト(図示省略)と螺合するねじ孔9が設けられ、使用機器の相手部材にボルトにより締め付け固定される。外方部材2と同様に、
図4に示すように、ねじ孔9は周方向に等間隔で8箇所に設けられている。しかし、上記の取付孔8やねじ孔9は8箇所に限られるものではなく、適宜数の箇所に設けてよいことはいうまでもない。また、等間隔に限られず、適宜の不等間隔で設けてもよい。
【0032】
軸受の内径、外径が軸もしくはハウジングに嵌め合される通常の使用状態では、内方部材3を形成する一対の軌道輪3a、3bが軸と嵌まり合うことで径方向の芯ずれは規制されるが、前述したように、本実施形態の複列転がり軸受1は、使用機器の相手部材に軸受幅面でボルトにより締め付け固定されるので、2列の軌道輪3a、3bが相対的に径方向にずれ、特にモーメント荷重作用時にはその影響が大きく、予圧抜け等の問題が懸念される使用状態である。
【0033】
本実施形態の複列転がり軸受は、上記のような状態で使用されるが、その特徴である内方部材3を形成する一対の軌道輪3a、3bの芯ずれ抑制のための構成を
図2に基づいて説明する。前述したように、内方部材3は、一対の軌道輪3a、3bからなり、軌道輪3a、3bの互いに当接する端面10a、10bは平坦面で形成されている。軌道輪3a、3bには、位置決め部材としてのリーマボルト14を嵌挿するための貫通孔の形態で、位置決め孔としてのリーマ孔13a、13bが設けられている。本実施形態では、
図4に示すように、リーマ孔13a、13bは、周方向に等間隔で3箇所に設けられている。しかし、リーマ孔13a、13bは3箇所また等間隔に限られるものではなく、適宜数、適宜間隔で設定することができる。
【0034】
詳細には、リーマ孔13a、13bおよびリーマボルト14の嵌め合い部は最低2箇所あれば、上下左右方向、回転方向の位置を決めることができるが、せん断荷重を受けるので、負荷されるせん断荷重を考慮して決めることが望ましい。一般に、ボルトのせん断応力は引張応力の60〜70%であるので、リーマボルト14の本数をN、負荷せん断荷重をW、ボルト14の許容引張応力をσ、ボルト14の断面積をAとしたとき、リーマボルト14の本数は次式で求められる。
N≧W/〔σ×(0.6〜0.7)×A〕
したがって、本実施形態の複列転がり軸受1では、N≧W/〔σ×(0.6〜0.7)×A〕の関係を満たすように設定されている。これにより、せん断荷重に対して十分な強度を確保することができる。
【0035】
リーマボルト41は、外径部分を高精度に仕上げたものであり、嵌め合い時、軌道輪3a、3bのリーマ孔13a、13bとの間のすきまを規制することが可能である。このときの嵌め合いは、固定用ボルト16(
図3参照)の外径と嵌挿孔17bの内径との間のすきまをBとし、リーマボルト14の外径とリーマ孔13a、13bの内径との間のすきまをCとしたとき、すきまB>すきまCの関係にする必要がある。リーマボルト14とリーマ孔13a、13bとは、可能であれば、現合(現物合せ)が理想である。
【0036】
また、リーマ孔13a、13bにリーマボルト14を嵌挿すると、締まりばめになる場合があるので、このときは、軌道面7にリーマボルト14の本数分の歪が生じる可能性がある。この歪は転動体個数と関係して周期的な振動を誘発、増幅させる可能性があるので、これを避けるために、リーマ孔13a、13a間および13b、13b間のピッチ角度を転動体間のピッチ角度の倍数にならない角度に設定することが望ましい。この関係を明確にするために、複列転がり軸受1の正面図である
図4に、転動体4の配置状態を示すために一部横断面図を加えている。
【0037】
ここで、位置決め孔間のピッチ角度とは、
図4に示すように、周方向に隣り合う、位置決め孔としてのリーマ孔13a、13aおよび13b、13bの各中心と転がり軸受1の軸心Oとを結んだ2つの直線H、Iがなす角度βをいう。また、転動体間のピッチ角度とは、周方向に隣り合う転動体4、4の各中心と転がり軸受1の軸心Oとを結んだ2つの直線J、Kがなす角度θをいう。すなわち、位置決め孔としてのリーマ孔間のピッチ角度βを転動体間のピッチ角度θの倍数にならない角度に設定することが望ましい。残りのリーマ孔13a、13a間および13b、13b間のピッチ角度も同様である。本明細書および特許請求の範囲において同じ意味とする。
【0038】
具体的には、本実施形態の複列転がり軸受1では、各列に組み込まれているボール4の個数が110個であるので、上記の転動体間のピッチ角度θは、3.27°となる。これに対して、リーマ孔13a、13bは周方向の等間隔で3箇所に配置されているので、リーマ孔間のピッチ角度βは120°である。したがって、位置決め孔間のピッチ角度βは、転動体間のピッチ角度θの倍数にならない角度に設定されているので、転動体個数と関係した周期的な振動を誘発、増幅することを防止できる。
【0039】
上記のように、リーマ孔13a、13bおよびリーマボルト14が設定されている。リーマ孔13a、13bにリーマボルト14を嵌挿し、内方部材3を形成する一対の軌道輪3a、3bをナット15で締め付け固定する。これにより、軌道輪3a、3bの径方向の芯ずれを抑制することができる。リーマボルト14は、市販品が適宜採用でき、品質面、コスト面で好ましい。
【0040】
次に、一対の軌道輪3a、3bを固定用ボルトで締結する。この状態を
図3に基づいて説明する。内方部材3を形成する一対の軌道輪3a、3bのうち、軌道輪3aにはねじ孔17aが設けられ、軌道輪3bにはボルト嵌挿孔17bが設けられている。固定用ボルト16の外径と嵌挿孔17bの内径との間のすきまBは、前述したように、リーマ孔13a、13bの内径との間のすきまCより大きく設定されている。
【0041】
図4に示すように、ねじ孔17a、嵌挿孔17bは、周方向に等間隔で8箇所に設けられている。ただし、ねじ孔17a、嵌挿孔17bは8箇所、等間隔に限られるものではなく、適宜数、適宜間隔で設定することができる。
【0042】
図3に示すように、固定用ボルト16を嵌挿孔17bに通してねじ孔17aに螺合させて、軌道輪3a、3bの端面10a、10bが当接するまでねじ込んで締結する。前述したように、本実施形態の複列転がり軸受1では、リーマ孔13a、13b、リーマボルト14を設けたので、一対の軌道輪3a、3bの芯ずれが抑制されているので、上記のように端面10a、10bが当接するまでねじ込んで締結すると、定位置予圧による適切な予圧(例えば、−20〜0μm程度)、又は微小なすきま(例えば、0〜20μm程度)が左右2列の軌道輪3a、3bで均一に得られ、安定した軸受性能を得ることができる。また、本実施形態の複列転がり軸受1は、インロー構造をとっていないので、製造が容易で低コストを実現できる。
【0043】
本実施形態の複列転がり軸受1をCTスキャナ装置100に用いた状態を
図5に示す。複列転がり軸受1をCTスキャナ装置100の固定部106と回転体105間に組込み、
図1に示す外方部材2の取付孔8にボルト(図示省略)を通して固定部106に締め付け固定すると共に内方部材3のねじ孔9にボルト(図示省略)をねじ込んで回転体105に締め付け固定する。これにより、回転体105は、複列転がり軸受1を介して固定部106に回転自在に支持される。回転体105にはX線照射装置103と検出部104などの撮影機器が取り付けられているので、転がり軸受1には大きなモーメント荷重が負荷され、このような荷重状態で120rpm以上の高速回転で使用される。
【0044】
上記のような厳しい使用環境ではあるが、本実施形態の複列転がり軸受1は、一対の軌道輪3a、3bの芯ずれが抑制され、適切な予圧、又は微小なすきまが左右2列の軌道輪で均一に得られるので、高速回転で低騒音、低振動、高剛性であり、安定した軸受性能を得ることができる。このため、CTスキャナ装置1としては、撮影時間の短縮による患者の負担軽減、撮影による被爆量の低減や低騒音による患者の不安感や恐怖感を和らげるなどの顕著な効果が得られる。
【0045】
次に、本発明の第2の実施形態に係る複列転がり軸受を
図6に基づいて説明する。この複列転がり軸受1では、リーマボルト14を軌道輪3aに直接ねじ込む構成が第1の実施形態と異なっており、その他の構成については、第1の実施形態と同じである。具体的には、本実施形態では、内方部材の軌道輪間の芯ずれ抑制のためのリーマ孔を設けた断面のみを
図6に示すが、軸受を使用機器に取り付けるための取付孔を設けた断面、左右の両軌道輪を締結する嵌挿孔を設けた断面および軸受の正面については、第1の実施形態の
図1、3および
図4と同じである。第1の実施形態と同じ機能を有する部位には同じ符号を付して、要点を説明する。
【0046】
本実施形態の複列転がり軸受1では、軌道輪3aには、リーマ孔13aと、これと同芯にねじ孔13cが設けられ、軌道輪3bには、第1の実施形態と同じリーマ孔13bが設けられている。リーマボルト14をリーマ孔13a、13bに挿入し、ねじ孔13cに螺合させて軌道輪3a、3bを締め付け固定する。これにより、内方部材3を形成する一対の軌道輪3a、3bの芯ずれが抑制される。本実施形態では、リーマボルト14のナットや、そのための座ぐり加工が省略できるので部品点数、加工を削減することができる。その他の点については、前述した第1の実施形態について説明した内容を全て準用し、説明を省略する。
【0047】
本発明の第3の実施形態に係る複列転がり軸受を
図7に基づいて説明する。この複列転がり軸受1では、位置決め部材を位置決めピンとした構成が第1の実施形態と異なっており、その他の構成については、第1の実施形態と同じである。本実施形態においても、内方部材の軌道輪間の芯ずれ抑制のためのリーマ孔を設けた断面のみを
図7に示すが、軸受を使用機器に取り付けるための取付孔を設けた断面、左右の両軌道輪を締結する嵌挿孔を設けた断面および軸受の正面については、第1の実施形態の
図1、3および
図4と同様である。第1の実施形態と同じ機能を有する部位には同じ符号を付して、要点を説明する。
【0048】
本実施形態の複列転がり軸受1では、軌道輪3a、3bのリーマ孔13a、13bに位置決めピン14’を嵌挿し、軌道輪3a、3bの芯ずれを抑える。位置決めピン14’とリーマ孔13a、13bとの嵌め合いを適度の締まりばめにしておけば、位置決めピンの固定手段は不要である。本実施形態では位置決めピン14’を使用しているので、軌道輪3a、3bの座ぐり部の加工が省略でき、また、位置決めピン14’は、市販品が適宜採用でき、品質面、コスト面で好ましい。その他の点については、前述した第1の実施形態おけるリーマボルトを位置決めピンと読み替えて、第1の実施形態について説明した内容を全て準用し、説明を省略する。
【0049】
本発明の
参考例に係る複列転がり軸受を
図8に基づいて説明する。この複列転がり軸受では、リーマボルトをインロー構造の軌道輪に適用したものである。本
参考例でも、内方部材の軌道輪間の芯ずれ抑制のためのリーマ孔を設けた断面のみを
図8に示すが、軸受を使用機器に取り付けるための取付孔を設けた構成、左右の両軌道輪を締結する嵌挿孔を設けた構成、および軸受の正面については、第1の実施形態の
図1、3および
図4と要点は同じである。
【0050】
図8に示す本
参考例では、軌道輪3a、3bのインロー構造の凸部18aおよび凹部18bの加工コストを抑制するために嵌め合いすきまの許容寸法範囲を緩和した場合にも、リーマボルト14、リーマ孔13a、13bの付加により、軌道輪3a、3bの芯ずれを高精度に抑制することができる。第1の実施形態と細部で異なる点として、外方部材2がフランジ部を有し、また、潤滑剤の補給通路19を有する。第1の実施形態と同じ機能を有する部位には同じ符号を付して、説明を省略する。
【0051】
以上説明した各実施形態は、要約すると、一対の軌道輪を固定用ボルトとは別に、径方向の位置決めのための位置決め部材(例えば、リーマボルト、位置決めピン)を設置することで、軌道輪間の径方向の芯ずれを規制した複列転がり軸受である。一対の軌道輪の芯ずれが抑制されているので、軌道輪の端面が当接するまでねじ込んで締結すると、適切な予圧、又は微小なすきまが2列の軌道輪で均一に得られるので、高速回転でも低騒音、低振動、高剛性で安定した軸受性能を得ることができる。
【0052】
各実施形態では、内方部材3を一対の軌道輪3a、3bで形成したものを例示したが、これに限られず、外方部材2を一対の軌道輪で形成してもよい。
【0053】
各実施形態では、転動体としてボール4を例示したが、これに限られず、円すいころや円筒ころを使用することができる。
【0054】
また、本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々の形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。