(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6180762
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】脂肪酸回収装置および脂肪酸回収方法
(51)【国際特許分類】
C11B 13/00 20060101AFI20170807BHJP
【FI】
C11B13/00
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-51972(P2013-51972)
(22)【出願日】2013年3月14日
(65)【公開番号】特開2014-177542(P2014-177542A)
(43)【公開日】2014年9月25日
【審査請求日】2015年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】507214083
【氏名又は名称】メタウォーター株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 統一郎
(72)【発明者】
【氏名】後藤 寛和
(72)【発明者】
【氏名】小林 信介
(72)【発明者】
【氏名】守田 晋介
【審査官】
吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−077399(JP,A)
【文献】
特開昭55−110200(JP,A)
【文献】
特開2013−075943(JP,A)
【文献】
特開2007−229563(JP,A)
【文献】
特開2008−272596(JP,A)
【文献】
特開昭52−012754(JP,A)
【文献】
特開2011−190350(JP,A)
【文献】
特開2007−119740(JP,A)
【文献】
特開2007−075740(JP,A)
【文献】
FETT WISSENSCHAFT TECHNOLOGIE,1989年,Vol.91,p.600-602
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B
C11C
C02F 11/
B09B
F23G
F23J
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有酸素雰囲気下において汚泥を加熱可能に構成された有酸素加熱手段と、
前記汚泥から発生するガスを冷却可能に構成された冷却手段と、
前記冷却手段により冷却されたガスから得られた、脂肪酸を含むタールを貯留する貯留手段と、
を備え、
前記有酸素加熱手段による前記汚泥の加熱時における、前記汚泥における理論酸素量に対する供給酸素量の比が、0より大きく0.28未満であることを特徴とする脂肪酸回収装置。
【請求項2】
前記有酸素加熱手段による前記汚泥の加熱時における、理論酸素量に対する供給酸素量の比が、0.1以上0.2以下であることを特徴とする請求項1に記載の脂肪酸回収装置。
【請求項3】
前記有酸素加熱手段による前記汚泥の加熱温度が、400℃以上800℃以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の脂肪酸回収装置。
【請求項4】
前記有酸素加熱手段による前記汚泥の加熱温度が、500℃以上750℃以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の脂肪酸回収装置。
【請求項5】
前記脂肪酸が、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、およびミリスチン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種類の酸であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の脂肪酸回収装置。
【請求項6】
有酸素雰囲気下において汚泥を加熱する有酸素加熱工程と、
前記汚泥から発生するガスを冷却してタールを生成し回収する冷却回収工程と、
を含み、
前記有酸素加熱工程における前記汚泥の加熱時の、前記汚泥における理論酸素量に対する供給酸素量の比を、0より大きく0.28未満とすることを特徴とする脂肪酸回収方法。
【請求項7】
前記有酸素加熱手段における前記汚泥の加熱時の、前記汚泥における理論酸素量に対する供給酸素量の比を、0.1以上0.2以下とすることを特徴とする請求項6に記載の脂肪酸回収方法。
【請求項8】
前記有酸素加熱工程における前記汚泥の加熱温度を、400℃以上800℃以下とすることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の脂肪酸回収方法。
【請求項9】
前記有酸素加熱工程における前記汚泥の加熱温度を、500℃以上750℃以下とすることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の脂肪酸回収方法。
【請求項10】
前記脂肪酸が、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、およびミリスチン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種類の酸であることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の脂肪酸回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚泥から高級脂肪酸などの脂肪酸を回収する脂肪酸回収装置および脂肪酸回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バイオマスを原料としたさまざまなエネルギー変換プロセスが開発されている。特に木質バイオマスを原料としたエネルギー変換技術についての研究開発が多く進められている。しかしながら、木質バイオマスのエネルギー変換技術は、原料となる木質バイオマスのコストなどの問題から、商用化には至っていない。
【0003】
そこで、近年、収集技術が確立されている汚泥を原料としたエネルギー変換技術が注目され、炭化やガス化などのエネルギー変換技術について研究開発が推進されつつある。
【0004】
このような汚泥を原料としたエネルギー変換技術としては、特許文献1に記載された技術が知られている。特許文献1には、有機性廃棄物を流動床式のガス化炉に投入して、空気比1以下の低酸素雰囲気下で熱分解ガス、タール、炭素分を含む熱分解残査に熱分解し、ガス化炉の後段に設けたサイクロン装置で熱分解残渣を回収するとともに、タールおよび熱分解ガスを、サイクロン装置の後段に設けた改質炉に供給して改質ガスを生成し、その改質ガスを発電機のエネルギー源として利用する技術が開示されている。特許文献1に記載された技術によれば、必要分の所内電力を発電しつつ、炭化物を含む熱分解残渣を回収することが可能となる。また、ガス化炉におけるガス化によって生じたタールに対しては、触媒によって低分子化して燃料とする方法も知られている。
【0005】
さらに、同様のエネルギー変換技術としては、特許文献2に記載された技術も知られている。特許文献2には、都市ごみやバイオマスをガス化炉で熱分解して、得られた熱分解ガスを改質炉で改質して改質ガスを生成し、この改質ガスを有害成分除去装置によって精製した後、得られた精製ガスを燃料として発電装置で発電する技術が開示されている。
【0006】
さらに、このようなエネルギー変換技術の進展に伴って、汚泥から有価物を回収する技術の開発も進められている。特許文献3には、下水汚泥焼却灰とアルカリ性反応液とを反応槽内で混合して下水汚泥焼却灰に含まれるリンを液中に抽出したうえで、リン抽出液と処理灰とに固液分離し、このリン抽出液にカルシウム成分を加えてリン酸カルシウム結晶を取り出す技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−229563号公報
【特許文献2】特開2009−228958号公報
【特許文献3】特開2008−230940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、汚泥から有価物を回収することを考慮すると、本発明者の検討によれば、汚泥には、可燃性ガスやリン以外にも有益な有価物が種々含まれていると考えられる。ところが、汚泥においては、ペプチドグリカンをその構成とする微生物や家庭から排出される油脂などのさまざまな成分が含まれている。そのため、熱分解時における汚泥の熱分解挙動やタールの生成挙動の特定が困難であり、これらの熱分解挙動や生成挙動はほとんど明らかにされていない。
【0009】
そこで、汚泥に含まれている有価物のうちで、従来回収されていない有価物の回収技術の開発が求められていた。特に、高級脂肪酸は、バイオディーゼル原料として有効活用が期待されている物質である。そのため、汚泥から高級脂肪酸などの炭素数の多い脂肪酸を回収することができれば従来の化石燃料を代替することができるため、その回収技術の開発が望まれていた。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、汚泥から有価物としての脂肪酸を効率よく回収することができる脂肪酸回収装置および脂肪酸回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、上記目的を達成するために、本発明に係る脂肪酸回収装置は、有酸素雰囲気下において汚泥を加熱可能に構成された有酸素加熱手段と、汚泥から発生するガスを冷却可能に構成された冷却手段と、冷却手段により冷却されたガスから得られた、脂肪酸を含むタールを貯留する貯留手段と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る脂肪酸回収装置は、上記の発明において、有酸素加熱手段による汚泥の加熱時における、汚泥における理論酸素量に対する供給酸素量の比(酸素比)が、典型的には、0より大きく0.28未満、好適には、0.1以上0.2以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る脂肪酸回収装置は、上記の発明において、有酸素加熱手段による汚泥の加熱温度が、典型的には、400℃以上800℃以下、好適には、500℃以上750℃以下であることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る脂肪酸回収装置は、上記の発明において、脂肪酸が、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、およびミリスチン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種類の酸であることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る脂肪酸回収方法は、有酸素雰囲気下において汚泥を加熱する有酸素加熱工程と、汚泥から発生するガスを冷却してタールを生成し回収する冷却回収工程と、を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明に係る脂肪酸回収方法は、上記の発明において、有酸素加熱工程における汚泥の加熱時の、汚泥における理論酸素量に対する供給酸素量の比を、典型的には、0より大きく0.28未満、好適には、0.1以上0.2以下とすることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る脂肪酸回収方法は、上記の発明において、有酸素加熱工程における汚泥の加熱温度を、典型的には、400℃以上800℃以下、好適には、500℃以上750℃以下とすることを特徴とする。
【0018】
本発明に係る脂肪酸回収方法は、上記の発明において、脂肪酸が、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、およびミリスチン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種類の酸であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明による脂肪酸回収装置および脂肪酸回収方法によれば、汚泥から有価物である脂肪酸を効率よく回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態による脂肪酸回収装置の構成を示す略線図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態による回収方法で得られたタール成分に含まれる主要成分の加熱温度依存性を示すグラフである。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態による回収方法で得られたタール成分に含まれる脂肪酸の酸素比依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は以下に説明する一実施形態によって限定されるものではない。
【0022】
まず、本発明者は、上述した課題を解決して上記目的を達成するために、種々実験を行い、これに伴って鋭意検討を行った。以下にその概要を説明する。
【0023】
すなわち、本発明者はまず、種々実験を行うことによって汚泥を加熱することにより放出されるガスを冷却して得られるタールに、有価物で高級脂肪酸の一種であるパルミチン酸が含まれることを知見した。このパルミチン酸は、化粧品、界面活性剤またはバイオディーゼルなどに用いられる非常に有用な有価物であるが、従来汚泥から回収可能であるとの知見は存在しなかった。
【0024】
そして、本発明者は、無酸素雰囲気において汚泥を焼却し、タールを生成すると、そのタールにパルミチン酸が含まれ、タールからパルミチン酸を回収可能になるという知見を得るに至った。そのため、本発明者は当初、無酸素雰囲気下において汚泥を熱分解してタールを生成し、パルミチン酸を回収する技術について検討を行っていた。ところが、本発明者がさらに検討を行ったところ、パルミチン酸に限定することなく高級脂肪酸全体として回収することを想起し、汚泥から得られるタールに、高級脂肪酸としてパルミチン酸以外にも、オレイン酸、ステアリン酸、およびミリスチン酸も合わせて回収する方法について改めて検討を行った。
【0025】
そこで、本発明者は、汚泥から高級脂肪酸を回収する方法について検討を行って、汚泥から高級脂肪酸を得るためにどのような条件を要するかについて種々実験および検討を行った。その結果、有酸素雰囲気において汚泥を加熱することで放出されるガスを冷却してタールにすると、このタールに高級脂肪酸が多く含まれ、タールから高級脂肪酸を効率良く回収できる可能性について知見を得るに至った。本発明は、以上の検討に基づいて案出されたものである。
【0026】
(脂肪酸回収装置)
まず、本発明の一実施形態による脂肪酸回収装置について説明する。
図1に、この一実施形態による脂肪酸回収装置を示す。
【0027】
図1に示すように、この一実施形態による脂肪酸回収装置は、反応管1、ステンレス管2、電気ヒータ3、断熱部材4、サンプルホルダー5、熱電対6、サンプルホッパー7、ボールバルブ8、ガス流入配管9、バイパス配管10、冷却手段としてのガス冷却部11、およびチューブ12を有して構成されている。
【0028】
反応管1は、円筒形状の例えば石英からなる石英管であり、その内径は例えば14mm、長さは例えば670mmである。反応管1の内部のサンプルホルダー5は、例えばガラス綿からなり、反応管1の下端から例えば270mmの高さに設けられている。このサンプルホルダー5上に汚泥13が投下されて、載置できるようになっている。
【0029】
ステンレス管2は、円筒形状であり、反応管1の側面を取り囲むように設けられている。さらに、電気ヒータ3が、このステンレス管2の側面を取り囲むように設けられている。これらのステンレス管2と電気ヒータ3とによって、有酸素加熱手段としてのステンレス管状炉が構成され、反応管1を所定の温度、例えば850℃まで均一に加熱することができる。さらに、断熱部材4が、電気ヒータ3を取り囲むように設けられている。また、熱電対6は、反応管1とステンレス管2との間およびステンレス管2と電気ヒータ3との間に設けられ、反応管1の温度を計測可能に構成されている。
【0030】
サンプルホッパー7は、反応管1の上部にボールバルブ8を介して連結されている。また、サンプルホッパー7の上部にガス流入配管9が連結され、例えば窒素(N
2)ガスと酸素(O
2)ガスとの混合ガスを供給するガス供給装置(図示せず)からのキャリアガスを、サンプルホッパー7の内部に供給する配管である。これにより、サンプルホッパー7の内部を、酸素を含む有酸素雰囲気とすることができる。なお、サンプルホッパー7の内部の汚泥13が常温に維持されるように構成されている。
【0031】
ボールバルブ8は、反応管1とサンプルホッパー7との間において、これらを連通させたり遮断したりするように開閉動作可能に設けられている。ボールバルブ8が開状態の場合には、反応管1とサンプルホッパー7とが連通して、キャリアガスは、ガス流入配管9およびサンプルホッパー7を通じて直接反応管1に供給される。一方、ボールバルブ8が閉状態の場合には、キャリアガスは、ガス流入配管9およびサンプルホッパー7を通じ、バイパス配管10によってボールバルブ8がバイパスされて反応管1に供給される。
【0032】
冷却手段としてのガス冷却部11は、反応管1の下方に設けられている。このガス冷却部11は、例えば氷および水などの冷却材が溜められた冷却容器11aと、タールを回収して貯留する貯留手段としての回収管11bと、冷却容器11aの内部の気体を排気する排気管11cとを備えている。そして、反応管1の内部と連通したチューブ12が、回収管11bの内部に挿入されている。このように構成されたガス冷却部11において、反応管1の内部の気体は、まずチューブ12を通じて回収管11bに供給されて、冷却容器11aの氷および水によって冷却され、回収管11bから冷却容器11aおよび排気管11cを順次通じて、外部に排気される。
【0033】
(脂肪酸回収方法)
次に、以上のようにして構成された脂肪酸回収装置を用いた、本発明の一実施形態による脂肪酸回収方法について説明する。
【0034】
まず、この一実施形態においては、汚泥13として、例えば4.6gの乾燥汚泥をペレット状にしたものを用いる。ここで、この乾燥汚泥からなる汚泥13は、炭素の含有量が約50%、灰の含有量が約15%、窒素の含有量が約6%である。なお、この汚泥13の灰や窒素の含有量については、木質バイオマスにおける灰の含有量が約0.7%、窒素の含有量が0.1%以下であるのに比して多くなっている。
【0035】
次に、
図1に示すように、まず、ボールバルブ8を閉状態にして、汚泥13をサンプルホッパー7に封入する。続いて、外部のガス供給装置(図示せず)からガス流入配管9を通じて、例えばN
2ガスなどの不活性ガスとO
2ガスとの混合ガスなどの、酸素を含むキャリアガスを所定の流量でサンプルホッパー7の内部に供給する。ここで、キャリアガスの所定の流量は、例えば35ml/minとする。一方、キャリアガスはバイパス配管10を通じて反応管1の内部にも供給され、反応管1の内部は有酸素状態となる。
【0036】
次に、反応管1の内部にキャリアガスを流しつつ、電気ヒータ3によって反応管1を400〜800℃、好適には500〜750℃の範囲内の所定温度になるまで加熱する。なお、このときの温度は熱電対6により計測される。反応管1の内部がこの所定温度まで加熱された後、ボールバルブ8を操作して開状態とする。これにより、重力によって汚泥13が反応管1の内部に投下され、サンプルホルダー5上に載置される。
【0037】
反応管1のサンプルホルダー5上に載置された汚泥13は、有酸素のキャリアガス雰囲気において急速に所定温度まで昇温され、加熱される。この加熱によって、汚泥13からは揮発成分および熱分解成分がガスとして発生する。なお、汚泥13に対する加熱は、所定時間、具体的には例えば40分間行う。汚泥の加熱を所定時間行ったことにより生じたガスは、キャリアガスの流れに従ってチューブ12を通じてガス冷却部11に供給される。
【0038】
発生したガスがガス冷却部11の回収管11bに供給されると、この回収管11bの内部のガスは、冷却容器11a内の例えば氷および水などの冷却材によって冷却される。冷却されたガスのうちの凝縮成分はタールとなって、回収管11bの内部に捕集される。なお、回収管11bの外部に漏れ出たガスが冷却容器11aの内壁やチューブ12の内側に付着して生じたタールについては、アセトンやヘキサンといった溶剤を用いた洗浄により回収される。一方、非凝縮成分(ガス成分)は、回収管11bから冷却容器11aの空間および排気管11cを通じて外部に排気される。
【0039】
回収管11bに捕集されたタール(凝縮成分)には、高級脂肪酸が含まれており、従来公知の方法により、このタールから脂肪酸を抽出して、回収する。
【0040】
次に、以上のように構成された脂肪酸回収装置を用いた脂肪酸の回収方法に基づき、反応管1における汚泥13を加熱する際の所定温度を種々の温度として、タールに含まれる各種成分の含有量の温度依存性を分析した。なお、この一実施形態においては、汚泥13を加熱する際の所定温度として、400℃、500℃、700℃、および800℃を採用した。さらに、汚泥を加熱する際の酸素比を0.14とした。なお、本明細書において酸素比とは、汚泥における理論酸素量に対する供給酸素量の比を示し、以下の(1)式で定義される。これらの測定結果を
図2に示す。
【0042】
図2に示すように、タールに含まれる各種成分の含有量の温度依存性から、タール成分には、高級脂肪酸として、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、およびミリスチン酸の少なくとも一種類が主に含まれる。
図2には、これらの高級脂肪酸の合計も合わせて記載している。そして、これらの各種含有成分において、加熱する際の所定温度が400〜800℃の範囲では、少なくとも高級脂肪酸の一種としてのパルミチン酸が検出されており、400℃以上800℃未満の例えば750℃以下、好適には700℃以下とすれば、すべての高級脂肪酸が検出され、回収可能であることが分かる。すなわち、汚泥13を反応管1の内部において、有酸素雰囲気で加熱する際の所定温度を400〜800℃とすることにより、高級脂肪酸を回収することができる。
【0043】
また、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、およびミリスチン酸を詳細に検討する。パルミチン酸については、加熱温度が700℃前後の場合に含有量(脂肪酸重量)がピークになっていることが分かる。また、オレイン酸についても、加熱温度が700℃前後において含有量がピークになっていることが分かる。一方、ステアリン酸においては、加熱温度が500℃前後の場合に含有量がピークになっていることが分かる。また、ミリスチン酸においては、400℃以上700℃以下の範囲においては、含有量がほとんど変化しないことが分かる。
【0044】
これらの点から、加熱温度としては、ステアリン酸が最も回収できる加熱温度である500℃以上とするのが望ましく、この加熱温度が500℃の場合における高級脂肪酸の合計量以上の高級脂肪酸を回収することを考慮すると、加熱温度を750℃以下にするのが望ましい。すなわち、加熱温度としては、500〜750℃が好ましい。
【0045】
また、以上のように構成された脂肪酸回収装置を用いた脂肪酸の回収方法に基づき、有酸素雰囲気における酸素が汚泥に与える影響を測定するために、反応管1における汚泥13を加熱する際の(1)式で定義される酸素比を種々の酸素比として、タールに含まれる各種成分の含有量の酸素比依存性を分析した。ここで、汚泥13を加熱する際の加熱温度を700℃とし、酸素比として、0、0.14、0.28、0.5を採用した。この汚泥13の焼却条件を表1に示し、この測定結果を
図3に示す。
【0047】
図3から、加熱温度を700℃とした状態で酸素比を種々変化させた場合、酸素比が0の場合においても高級脂肪酸は回収可能であることが分かる。さらに、少なくとも酸素比を0より大きく、0.14と増加させると、タールに含まれる高級脂肪酸の含有量(脂肪酸重量)が急激に増加することが分かる。また、酸素比を0.28とすると、タールに含まれる高級脂肪酸の含有量が急激に減少することが分かる。そして、高級脂肪酸としてのパルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、およびミリスチン酸においていずれも、同様の傾向を示すことが分かる。なお、
図3には、これらの高級脂肪酸の合計も合わせて記載している。そして、これらの各種含有成分において、加熱する際の酸素比が0より大きく0.28より小さい場合に高級脂肪酸が検出され、高級脂肪酸を回収可能であることが分かる。
【0048】
また、所望の高級脂肪酸の合計量を得るためには、加熱時における酸素比として0より大きく例えば0.1以上とするのが望ましい。また、酸素比が0.1の場合における高級脂肪酸の合計量と同量以上の高級脂肪酸を回収することを考慮すると、酸素比を0.2以下にするのが望ましい。逆に、酸素比が例えば0.1以上0.2以下の場合においては、すべての高級脂肪酸が検出されており、これらの高級脂肪酸を回収可能であることが分かる。すなわち、汚泥13を反応管1の内部において、有酸素雰囲気で加熱する際の酸素比を0.1以上0.2以下とすることにより、高級脂肪酸を確実に効率良く回収できる。
【0049】
以上説明した本発明の一実施形態によれば、汚泥を有酸素雰囲気下において、加熱時の温度を400〜800℃、好適には500〜750℃の温度とし、酸素比を0より大きく0.28未満、好適には0.1以上0.2以下にして加熱することによって、汚泥から生じるガスを冷却してタール成分を捕集した場合に、汚泥から高級脂肪酸を含むタールを容易に精製することができ、高級脂肪酸という有価物を容易に回収可能となる。
【0050】
なお、上述の一実施形態においては、ボールバルブ8が閉状態でサンプルホッパー7から反応管1に酸素を含まないキャリアガスを供給する際に、バイパス配管10を通じて供給しているが、必ずしもこの方法に限定されるものではなく、ガス供給装置(図示せず)から反応管1の内部に酸素を含まないキャリアガスを直接供給するようにしても良い。
【0051】
また、上述の一実施形態においては、反応管1の上方にサンプルホッパー7を設け、下方にガス冷却部11を設けているが、反応管1とサンプルホッパー7およびガス冷却部11の位置関係は必ずしもこれに限定されない。すなわち、サンプルホッパー7やガス冷却部11を反応管1の左右に設けるようにしてもよく、サンプルホッパー7を反応管1の下方に設け、ガス冷却部11を反応管1の上方に設けるようにしてもよい。さらに、サンプルホッパー7を設けることなく、汚泥13を直接サンプルホルダー5に載置するように構成することも可能である。
【0052】
さらに、上述の一実施形態においては、ガス冷却部11における冷却容器11aの内部のガスを、排気管11cを通じて外部に排気するようにしているが、この排気管11cから排気されるガスを、例えばガスサンプリングバックなどの捕集タンクなどに捕集するように構成することも可能である。また、冷却容器11aの内部の冷却材として、氷と水とのいわゆる氷水を用いているが、その他の冷却材を用いることも可能であり、例えばドライアイスなどを利用することも可能である。
【0053】
また、上述の一実施形態においては、脂肪酸回収装置の各構成要素は、例えばPCなどからなるコンピュータによってそれぞれ制御することが可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 反応管
2 ステンレス管
3 電気ヒータ
4 断熱部材
5 サンプルホルダー
6 熱電対
7 サンプルホッパー
8 ボールバルブ
9 ガス流入配管
10 バイパス配管
11 ガス冷却部
11a 冷却容器
11b 回収管
11c 排気管
12 チューブ
13 汚泥