(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シリコーンゴムからなる発泡弾性層の外層に、ソリッド層が接着層を介さず、一体成形により形成されるとともに、該ソリッド層上にフッ素樹脂からなるコーティング層が形成された定着用加圧ロールにおいて、
該定着用加圧ロールのロール硬度と該発泡弾性層の硬度との硬度差がアスカーCで10度以内であるとともに、
該ソリッド層の厚さが50μm〜2000μm、
該コーティング層の厚さが0.1μm以上15.0μm未満、
該ソリッド層の表面粗さRaが1.0μm〜15.0μm、
ロール表面粗さRaが1.0μm〜8.0μm
であることを特徴とする定着用加圧ロール。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係る定着用加圧ロールに離型層としてフッ素樹脂からなるコーティング層を施した一例を示す長手方向(軸方向)の断面図である。
【
図2】
図1の径方向の断面図である。なお、
図1及び
図2において、1は定着用加圧ロール(以下加圧ロールとする)、2は芯金、3は芯金2上に被覆された発泡弾性層、4は発泡弾性層3と一体成形されたソリッド層、5は離型層であるフッ素樹脂からなるコーティング層である。
【0009】
本発明の加圧ロール1は、発泡弾性層3の外層に、ソリッド層4が接着層を介さず、一体成形により形成されるとともに、ソリッド層4上にフッ素樹脂からなるコーティング層5が形成された加圧ロール1において、加圧ロール1のロール硬度と発泡弾性層3の硬度との硬度差が10度以内であるとともに、ソリッド層4の厚さが50μm〜2000μm、発泡弾性層がシリコーンゴムからなる場合は、コーティング層5の厚さが0.1μm以上15.0μm未満
であることを特徴としている。
こうすることにより、加圧ロール1全体での硬度と発泡弾性層3との硬度差が10度以内と硬度差が少なく、ロール硬度がアスカーC25〜C40の低硬度化が実現できるとともに、定着性、及び、耐久性にも優れた加圧ロール1が得られる。
さらに、本発明では、加圧ロール1のロール硬度と発泡弾性層3の硬度との硬度差が10度以内であるとともに、ソリッド層4の厚さが50μm〜2000μm、コーティング層5の厚さが0.1μm以上15.0μm未満
で、さらに、ソリッド層4の表面粗度Raが1.0μm〜15.0μm、ロール表面粗さRaが1.0μm〜8.0μmであることを特徴としている。
こうすることにより、加圧ロール1全体での硬度と発泡弾性層3との硬度差が10度以内と少なく、ロール硬度がアスカーC25〜C40の低硬度化が実現できるとともに、排紙性、定着性、離型性、並びに、耐久性にも優れた加圧ロール1が得られる。
さらに、本発明では、従来のように、ソリッド層4の表面を平滑に研磨することなく、ディスパージョンをコーティング層(離型層)5として利用可能としたので、ソリッド層4の切削加工工程の省略や離型層樹脂の使用量の削減が可能となり、生産性やコストにも優れた加圧ロール1が得られる。
先ず、本発明では、低硬度化を目指すため、加圧ロール1の全体でのロール硬度と発泡弾性層3の硬度との硬度差がアスカーCで10度以内としている。
これを実現するためには、ソリッド層4あるいはコーティング層5の厚さが厚過ぎるとロール全体での硬度(ロール硬度)が上がってしまい、逆に薄すぎると、ソリッド層4とコーティング層5間の剥離強度が得られなかったりするので、ソリッド層4の厚さは50μm〜3000μm、コーティング層5の厚さは以上15.0μm未満
であることが好ましい。
なお、本発明では発泡弾性層3の外層にソリッド層4が施された2層構造としたので、ソリッド層4、或は、コーティング層5のいずれか一方の厚さを調整することでも、ロール全体での硬度調整が可能となるので、硬度調整範囲の自由度が増す。
なお、低硬度化したコーティング層5のロール硬度はアスカーC25〜C40に調整されていることが好ましい。
次に、本発明のもう一つの特徴である排紙性については、ソリッド層4の表面粗度とロール表面粗さが特に関連していることが実験で確認できた。
つまり、ソリッド層4の表面粗度が大きすぎる(粗い)とコーティング層5の表面粗さが、外層のコーティング層5に反映され、即ち、ロール表面粗さも粗くなりすぎ、画像の定着性に影響が出たり、排紙性が悪化し、耐久性も劣化する。
逆に、ソリッド層4の表面粗度が小さ過ぎる(滑らか過ぎる)とコーティング層5の表面、即ち、ロール表面の粗さが小さくなり過ぎて、逆に排紙性が悪化するので、ソリッド層4の表面粗度Raは1.0μm〜15.0μm、ロール表面粗さRaが1.0μm〜8.0μmとなることが好ましい。
なお、コーティング層5の表面粗さは、ソリッド層4の表面粗さに依存するものの、コーティング層5の厚さにも依存する。即ち、コーティング層5の厚さが厚くなるに従い、コーティング層5の表面粗さ、即ち、ロール表面粗さはコーティング液の粘度にも依るが、ソリッド層4の角が鈍り小さくなるので、ソリッド層4の表面粗さのみでなく、コーティング層5の厚さをも、加味した上で、ロール表面粗さRaが1.0μm〜8.0μmとなるよう調整する必要がある。
また、ソリッド層4の表面を粗す方法については、サンドブラスト、ケミカル処理等、従来の方法で対応すれば良い。
なお、ソリッド層4の厚さは50μm〜2000μm、コーティング層5の厚さは0.1μm以上15.0μm未満
となることが好ましい。
次に、発泡弾性層3を構成する材料としては通常のシリコーンゴム、フ
ッ素ゴム、プロピレンゴム等のゴム材
が挙げられるが、特に好ましくはシリコーンゴムである。発泡弾性層3の硬度は、アスカーC20〜C35であることが好ましい。
【0010】
次に、本発明の定着用加圧ロールの製造方法について述べる。
まずシリコーンゴムに加硫剤および発泡剤を添加した原材料を準備する。このとき、加硫剤および発泡剤の配合比率は要求されるロールの硬度に応じて適宜選択すればよい。本発明では、ソリッド層4を形成するための特別な材料、例えば気化性固体粉末、あるいは、各層の界面への接着剤等は不要である。
まず始めに、原材料であるシリコーンゴムを、例えば押出機にてチューブ状に成形する。
次に、チューブ状成形体を加熱炉に入れて、所定の温度条件にて加熱して加硫・発泡させながら発泡弾性層3とソリッド層4の2層を同時に得る。この際、加熱炉としては熱風循環機、ビーズ加硫炉が用いられる。
ソリッド層4の厚さは、温度条件を変えることにより、調整が可能である。
最後に、上記の中空円筒状のソリッド層4を有する発泡弾性層3を芯金2上に、接着剤などを介して被覆・固着させることにより、芯金2とソリッド層4を有する発泡弾性層3が一体化される。
本発明において、芯金2の材料としては鉄、SUS,アルミニウムが適している。芯金自体のサイズは、軸方向の長さが205mm〜400mm、外径が6mm〜30mm程度のものが用いられる。この芯金2の外周に、予めサンドブラスト等の粗面化処理を行っておくと、後工程で芯金上に被覆するシリコーンゴム発泡体との接着強度が向上する。また、接着剤については特に制約はなく、通常のシリコーンゴム系の接着剤が代表的に採用され、併せて接着剤の厚さについても特に制約はなく、ロールの要求特性に応じて適宜選択すればよい。
なお、ソリッド層4の表面粗さは、サンドブラストにて所定の表面粗さになるよう調整すれば良い。
【0011】
さらに、この後、ソリッド層4上に、離型層としてのフッ素樹脂からなるコーティング層5を形成すれば、本発明の定着用加圧ロール1が完成する。
コーティングするフッ素樹脂材質は特に指定しないが、離型性が優れるPFA等のフッ素樹脂が望ましい。
また、PFA樹脂からなるディスパージョンをコーティング層5として利用することで、プライマーを塗布する工程が省けるとともに、離型層樹脂の使用量の削減が可能となり、生産効率の向上やコスト削減が可能となる。
【0012】
以下は、
図1及び
図2に示した定着用加圧ロールの製造例である。
「実施例」
未加硫のシリコーンゴム(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、商品名「XE−B3761」)100部に加硫剤(信越化学工業(株)製、商品名「C−23」)1.2部、加硫剤(信越化学工業(株)製、商品名「C−3」)3.5部、発泡剤(信越化学工業(株)、商品名「KE−P−13」)を3.5部添加したシリコーンゴム材料を押出し成形機にて押出し成形する。
その後、最適条件にて加熱・加硫して、外表面にソリッド層4が形成された発泡弾性層3を作成する。
このソリッド層4が形成された発泡弾性層3を、接着剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製、商品名「TSE322」が塗布された外径10mm、長さ300mmのアルミニウム芯金2上に被覆する。
その後、ソリッド層4の表面粗さは、サンドブラストにて所定の表面粗さになるよう調整した。
最後に、ソリッド層4上にコーティング層5としてPFA樹脂ディスパージョンを所定の厚さとなるよう塗布して、コーティング層5を有する定着用加圧ロール1を得た。
【0013】
実施例の定着用加圧ロールにおいて、発泡層3の硬度、ソリッド層4の厚さ、コーティング層5の厚さ、ロール硬度に対する、定着用加圧ロールとして低硬度化、定着性、並びに、耐久性の評価結果を表1に示す。
また、ソリッド層4の厚さ、ソリッド層4の粗さ、コーティング層5の厚さ、ロール表面粗さに対する、排紙性、離型性、及び、耐久性の評価結果についても表2に示す。
さらに、発泡層3の硬度、ソリッド層4の厚さ、ソリッド層4の粗さ、コーティング層5の厚さ、ロール表面粗さ、ロール硬度に対する、定着性、排紙性、離型性、及び、耐久性の評価結果についても表3に示す。
【表1】
【0014】
表1の評価結果について、以下に述べる。
ソリッド層の厚さ、或は、コーティング層の厚さが厚くなるに従い、ロール全体でのロール硬度は大きくなる。
取り分け、コーティング層のフッ素樹脂は硬度アスカーC55〜60と高いので、硬度がフッ素樹脂より、はるかに低いシリコーンゴムからなるソリッド層よりも硬度を高める要因となる。それゆえ、ソリッド層の厚さが2000μmの実施例3と4の場合でも、ロール硬度はそれほど上昇しない。
一方、比較例1〜3のチューブ被覆では離型層の厚さの下限値が、コーティング層と比較し大きく、ロール全体でのローラ硬度と発泡層硬度との硬度差が11以上と大きくなってしまう。この傾向は発泡層の硬度を変えても余り変化しない。
また、比較例1では発泡層の硬度が低くなると圧縮永久歪が大きくなり耐久性に問題を生じてくる。
これに対して、実施例1〜7に示す実施例では、全ての実施例に渡って、ロール全体でのロール硬度と発泡層硬度との硬度差が5〜9と10以下が実現できている。
従って、実施例では、ロール全体でのロール硬度と発泡層硬度との硬度差がチューブ被覆と比べ低くできるので、低硬度が実現できるのは勿論のこと、ソリッド層の厚さ、とコーティング層の厚さを互いに調整することで自由にロール硬度設定が可能となり発泡層の硬度の選択枝も広がり、設計の自由度が増す。
以上より、実施例1〜7からソリッド層の厚さが50μm〜2000μm、コーティング層の厚さが0.1μm
以上15.0μm
未満で低硬度化ができるとともに
、定着性、耐久性にも優れていることが分かる。
【0015】
次に、ソリッド層4の厚さ、ソリッド層4の粗さ、コーティング層5の厚さ、ロール表面粗さに対する、排紙性、離型性、及び、耐久性の評価結果について表2に示す。
【表2】
【0016】
表2の評価結果について、以下に述べる。
比較例4〜5では、コーティング層の厚さが薄いため、ソリッド層の小さい粗さが、そのままロール表面粗さとなって現われる。このため、ロール表面の粗さが小さく、排紙性、或いは、離型性に問題を生じている。
一方、比較例6〜7では、ソリッド層の粗さが大き過ぎ、これに伴い、ロール表面粗さも大きくなり過ぎ、排紙性、離型性、或いは、耐久性に問題を生じている。
これに対して、実施例8〜12では、発泡層の硬度が20〜35と変化しても、ソリッド層の粗さが適度であり、ロール表面粗さも、コーティング層の厚さで調整できるので、全ての実施例で、排紙性、離型性、耐久性が実現できている。
以上より、実施例8〜12から、ソリッド層の表面粗さRaが1.0μm〜15.0μm、ロール表面粗さRaが1.0μm〜8.0μmで、排紙性、離型性、耐久性にも優れていることが分かる。
【0017】
最後に、表1の発泡層3の硬度、ソリッド層4の厚さ、コーティング層5の厚さ、ロール硬度に対する、低硬度化、定着性、及び、耐久性の評価の結果と、表2のソリッド層4の粗さ、ロール表面粗さに対する、排紙性、離型性、耐久性の評価結果を考慮した、発泡層3の硬度、ソリッド層4の厚さ、ソリッド層4の粗さ、コーティング層5の厚さ、並びに、ロール表面粗さに対する、低硬度化、定着性、排紙性、離型性、並びに、耐久性の評価結果を表3に示す。
【表3】
【0018】
表3の評価結果について、以下に述べる。
実施例13〜19の全ての実施例で、ロール硬度と発泡層の硬度差が10以内で、且つ、アスカーC40度以下の低硬度化、定着性、排紙性、離型性 並びに、耐久性に優れているので、実施例13〜19が最も好ましい態様であることが確認できた。
【0019】
なお、各特性の測定方法については、以下の通りである。
硬度アスカーCはJIS K 6253E、表面粗度の大きさはJIS B 0601に記載の測定方法による。
また、定着性、離型性、耐久性に関しては、上記の方法にて作成した加圧ロールを定着装置に組込み、実機(コピー機)に使用し、通紙試験を行ない、印刷画質、オフセツトの有無、しわの発生等を確認した。
なお、通紙試験に使用した紙は低級紙(名称:COPY POWER、重量:80g/m
2、インド製)とした。