(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
潤滑剤が塗布された固定接点に圧接させた可動接点を移動させて、前記可動接点と前記固定接点とが、前記可動接点の位置に応じて接離するように構成されたスイッチにおいて、
前記可動接点における前記固定接点との当接部に、前記可動接点の移動方向に沿う複数の溝を設け、
前記当接部は、前記可動接点の移動方向の直交方向から見て弧状の外周を有しており、
前記溝は、前記弧状の外周を前記移動方向に横断して形成されており、前記固定接点側から見た前記溝の形状が、紡錘形状であることを特徴とするスイッチ。
前記突部の間隔と稜線角度は、前記可動接点が移動する際に、前記突部が掻き分けたグリースの前記凹部への流入が可能となる間隔および稜線角度に、それぞれ設定されていることを特徴とする請求項2に記載のスイッチ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係るスイッチの実施の形態として、車両に搭載されてシフトレバーの選択レンジの検出に用いられるインヒビタスイッチ1を例に挙げて説明する。
図1は、実施の形態にかかるインヒビタスイッチ1を説明する図であり、(A)は、斜視図、(B)は、(A)における面Aでインヒビタスイッチ1を切断した断面図である。
なお、以下の説明においては、
図7に示した従来例にかかるインヒビタスイッチ10と共通の部品については、同一の符号を用いて説明をする。さらに、説明の便宜上、
図1の(B)におけるカバー3側を上方、極盤2側を下方として表記する。
【0015】
図1の(A)および(B)に示すように、インヒビタスイッチ1の本体ケース4は、極盤2の固定接点8が設けられた領域を囲む周壁24に、カバー3を組み付けて形成されており、この本体ケース4の内部では、可動接点7を有する可動盤5が、軸線X周りに回動可能に設けられている。
【0016】
可動盤5は、円筒形状の軸部51と、軸部51の長手方向における途中位置から軸線Xの径方向に直線状に延びる接点保持部52とを有しており、軸部51は、図示しない連結部材を介して、シフトレバー側の部材に連結されている。
そのため、実施の形態にかかるインヒビタスイッチ1では、可動盤5が、シフトレバーに操作に連動して軸線X周りに回動するようになっており、この際に、可動盤5の接点保持部52に設けた可動接点7の位置が、軸線X周りの周方向に変化するようになっている。
【0017】
接点保持部52には、可動接点7の収容穴53が、極盤2側の下方に開口して形成されており、可動接点7は、この収容穴53内にスプリングSpと共に収容されている。
収容穴53内には、円筒形状のスプリング保持部54が設けられており、スプリングSpの長手方向の一端側が、このスプリング保持部54で支持されている。
スプリングSpの他端は、可動接点7に当接しており、可動接点7を、極盤2側の下方に付勢している。そのため、可動接点7は、接点保持部52の下面52aから極盤2側の下方に突出しており、スプリングSpから作用する付勢力で、極盤2の上面に露出する固定接点8に圧接している。
この状態において可動接点7は、スプリングSpにより、軸線Xに対して平行な軸線Xa方向に進退移動可能とされている。
【0018】
ここで、実施の形態にかかる可動盤5には、合計3つの可動接点7が設けられており、可動接点7の各々は、上記した構成と同一の構成で対応する収容穴53内に設けられている。
【0019】
図2は、極盤2を説明する図であり、(A)は、極盤2をカバー3側の上方から見た平面図であり、固定接点8に圧接する可動接点7を仮想線で示した図である。
図2の(B)は、(A)における領域Aの拡大図であり、(C)は、(B)におけるB−B断面図であり、(D)は、(B)におけるC−C断面図である。
なお、
図2の(A)および(B)では、極盤2の上面に露出する固定接点8(8a〜8d)、突出部9(9a〜9c)、そしてパッキン40の位置を明確にするために、これらにハッチングを付して示している。
また、
図2の(B)から(D)では、固定接点8の各々を区別するために符号8a〜8dを用いて示すと共に、突出部9の各々を区別するために符号9a〜9cを用いて示している。さらに、
図2の(B)では、固定接点8(8b、8c、8d)に当接させた可動接点7がどのように移動するのかを説明するために、移動前の可動接点7を実線で、移動後の可動接点7を仮想線でそれぞれ示すと共に、固定接点8との当接部723に設けた溝74の位置を示すために、溝74を模式的に示している。
【0020】
極盤2は、耐熱性に優れた非導電性の樹脂材料から一体に形成されており、その内部には、コネクタ部26のコネクタ端子27と各固定接点8とを接続する配線部材29(
図1の(B)参照)が、インサート成形により設けられている。
【0021】
図2の(A)に示すように、極盤2のカバー3側の上面に露出する固定接点8の各々は、軸線Xから径方向外側に所定距離離間した位置を、軸線X周りの周方向に沿ってそれぞれ異なる長さで延びており、平面視において弧状を成している。
【0022】
例えば、
図2の(B)に示すように、固定接点8aと、固定接点8bと、固定接点8c、8dは、それぞれ軸線Xを中心とした半径が異なる仮想円Im1、Im2、Im3に沿って、弧状に設けられている。
なお、以下の説明においては、これら固定接点8a〜8dを特に区別しない場合には、単純に固定接点8と表記する。
【0023】
軸線Xの径方向における固定接点8の間には、固定接点8よりも紙面手前側に突出した突出部9が複数設けられており、突出部9の各々は、固定接点8と同様に、軸線Xから径方向外側に所定距離離間した位置を、軸線X周りの周方向に沿ってそれぞれ異なる長さで設けられている。
【0024】
実施の形態にかかるインヒビタスイッチ1では、可動盤5が、シフトレバーの操作に連動して、軸線X周りに回動するようになっており、この際に、接点保持部52に設けた可動接点7が、当該可動接点7が圧接した固定接点8上を摺動しながら移動して、軸線X周りの周方向における可動接点7の角度位置が、変化するようになっている。
そのため、固定接点8の上面には、可動接点7が移動する際の摺動抵抗を低減させるために、潤滑剤(例えば、鉱物系のグリース)が塗布されている。
【0025】
そして、このインヒビタスイッチ1では、可動接点7の軸線X周りの角度位置が変化する際に、可動接点7の後記する乗上部722が突出部9に乗り上げることで、可動接点7が、固定接点8から上方に所定距離離間させた位置に配置されて、可動接点7と固定接点8との接触状態が解消されるようになっている。
【0026】
図2の(A)に示すように、極盤2における固定接点8が設けられた領域は、平面視において略扇形状を成しており、この領域を囲むように周壁24が設けられている。
周壁24の上端には、全周に亘ってリング溝24a(
図1の(B)参照)が形成されており、このリング溝24aにはパッキン40が取り付けられている。
実施の形態にかかるインヒビタスイッチ1では、極盤2とカバー3とが組み付けられた際に、周壁24に取り付けたパッキン40がカバー3の下面に圧接して、周壁24の内側の空間が封止されるようになっている。
【0027】
周壁24の外側には、周壁24を全周亘って囲む嵌合溝25が形成されている。嵌合溝25には、極盤2とカバー3とが組み付けられた際に、カバー3側に設けた環状の嵌合壁35が嵌入されるようになっており、この際に、嵌合壁35の外周と嵌合溝25のとの当接部が、例えば超音波溶着により互いに接合されて、本体ケース4が形成されるようになっている。なお、カバー3もまた、極盤2と同様に、耐熱性に優れた非導電性の樹脂材料から形成されている。
【0028】
極盤2における周壁24の内側の略扇形状の領域では、その扇頂に相当する部分に、極盤2を厚み方向に貫通して貫通孔21が設けられており、極盤2に組み付けられたカバー3にも、この貫通孔21と整合する位置に、当該カバー3を厚み方向に貫通して貫通孔31が形成されている(
図1の(B)参照)。
【0029】
極盤2のカバー3側の上面と、カバー3の極盤2側の下面には、それぞれ貫通孔21、31を所定間隔で囲むリング状の収容部22、32が形成されており、これら収容部22、32には、シールリング41が内嵌して取り付けられている。
実施の形態のインヒビタスイッチ1では、可動盤5の軸部51の一端51aおよび他端51bが、これら貫通孔21、31で、軸線X周りに回動可能に支持されるようになっており、この際に、収容部22、32に設けたシールリング41が、軸部51の外周に圧接することで、本体ケース4内の気密が確保されるようになっている。
【0030】
図3は、可動接点7を説明する図であり、(A)は、可動接点7を極盤2側の斜め下方から見た斜視図であり、(B)は、可動接点7を長手方向における一方から見た正面図であり、(C)は、可動接点7を極盤2側の下方から見た平面図であり、(D)は、可動接点7を幅方向における一側から見た側面図である。
図4は、可動接点7に設けた溝74を説明する図であり、(A)は、
図3の(C)における領域Aの拡大図であり、(B)は、
図3の(D)における領域Bの拡大図であり、(C)は、
図4の(A)におけるA−A断面図であり、(D)は、
図4の(A)におけるB−B断面図であり、(E)は、変形例にかかる可動接点7の突部741Aを説明する図である。なお、
図4の(B)〜(D)では、可動接点7が接触する固定接点8と、固定接点8の上面に塗布されたグリースGもまた、図示している。
【0031】
図3の(A)、(B)に示すように、可動接点7は、一枚の金属板をU字形状に折り曲げて形成されており、互いに平行に配置された側壁部71、71と、側壁部71、71の下端部同士を接続する接続部72とを有している。
可動接点7の長手方向における一方側から見て、接続部72の外周は、幅方向における中心点(下端72a)を、最も極盤2側の下方に位置させた弧状を成しており、この下端72aが、固定接点8との接触点となっている。
【0032】
図3の(C)に示すように、極盤2側の下方から見て、接続部72は、略矩形形状を有しており、この接続部72の極盤2側の下面には、接続部72の長手方向(図中左右方向)に間隔を空けて、ふたつの切欠き721、721が設けられている。
切欠き721、721は、接続部72の長手方向の中央を通ると共に、当該接続部72の幅方向に延びる直線Yaを挟んで対称となる位置に設けられており、これら切欠き7221、721の間の部分が、前記した突出部9に乗り上げる乗上部722となっている。
そして、切欠き721を挟んで乗上部722とは反対側の側部(接続部72の長手方向における両側部)が、固定接点8との当接部723、723となっている。
【0033】
当接部723、723もまた、直線Yaを挟んで対称に設けられており、直線Yaを挟んで一方側の当接部723と他方側の当接部723は、それぞれ長手方向において同じ長さL1を有している。
当接部723、723の各々には、直線Yaに対して平行な直線Ya1に沿って、接続部72の幅方向に延びる溝74が設けられている。溝74は、接続部72の長手方向(
図3の(C)における左右方向)に複数、互いに平行となるように設けられており、溝74の各々は、尖状の突部741と尖状の凹部742とを、接続部72の長手方向に交互に並べて形成されている(
図4の(B)参照)。
【0034】
実施の形態では、可動接点7の各々は、可動盤5の接点保持部52において、可動盤5の回動軸(軸線X)の径方向に沿わせた向きで設けられており、可動接点7の当接部723に設けた複数の溝74は、当該当接部723の弧状の外周を、可動接点7の移動方向(当接部723の幅方向)に横断して形成されている。
【0035】
図3の(C)に示すように、溝74の各々は、接続部72の幅W方向における中央(W/2)を通ると共に、直線Yaに直交する直線Ybを跨いで設けられている。極盤2側の下方向から見た溝74の幅方向の長さは、略同じ長さL2に揃えられており、各溝74は、その長手方向の中央部を、直線Yb上に位置させている。
【0036】
前記したように、接続部72の外周は側面視において円弧状を成しており、この接続部72に設けられた溝74の各々は、極盤2側の下方から見て、紡錘形状を成している(
図3の(C)、
図4の(A)参照)
実施の形態では、各凹部742の接続部72の下端72aからの深さが同じ深さDとなるように、隣接する突部741の間隔Pと、突部741の稜線角度θとが設定されている(
図4の(B)参照)。
【0037】
図3の(D)に示すように、可動接点7の側壁部71、71には、長手方向における中央部に切欠部710が形成されており、この切欠部710は、スプリングSpの幅W2よりも大きい幅に形成されている。可動盤5においてスプリングSpは、軸線Xaに沿って配置されるようになっており、スプリングSpの端部が、一方の側壁部71の切欠部710の下辺710aと、他方の側壁部71の切欠部710の下辺710aとに跨って当接することで、可動接点7が極盤2側の下方に付勢されるようになっている(
図3の(B)参照)。
【0038】
実施の形態にかかる可動接点7の作用を説明する。
可動接点7が、
図2の(B)において実線で示す位置にあるときには、可動接点7の乗上部722の下方には突出部9が位置していないので、可動接点7は、長手方向の一方の当接部723と他方の当接部723を、スプリングSpの付勢力で、それぞれ異なる固定接点8(8b、8d)に圧接させている(
図2の(D)参照)。
【0039】
この状態から、可動盤5が軸線X周りの反時計回り方向に回動すると、可動接点7は、
図2の(B)において矢印Mで示す方向に移動することになる。そうすると、この際に可動接点7の当接部723、723は、対応する固定接点8(8b、8d)上を、軸線X周りの周方向に摺動しながら移動することになる。
【0040】
ここで、可動接点7の当接部723には、可動接点7の移動方向に沿う溝74が複数設けられており、溝74の各々は、尖状の突部741と尖状の凹部742とを、接続部72(当接部723の長手方向)に交互に並べて形成されている(
図4の(B)参照)。
そのため、スプリングSpの付勢力は、尖状の突部741に集中しており、突部741の極盤2側の下方への押圧力が大きくなっている。
【0041】
よって、実施の形態にかかる可動接点7は、溝74が設けられていない従来の可動接点7よりも、大きな力で固定接点8に押圧された状態となる。
そうすると、固定接点8の上面に塗布されたグリースGの流動性が低い場合であっても、溝74の尖状の突部741が、グリースGを掻き分けて、対応する固定接点8に当接できるようになるので、可動接点7(突部741)を固定接点8に確実に接触させることができる。
ここで、実施の形態にかかる尖状の突部741の固定接点8側の先端部は、R形状を成している(
図4の(B)参照)が、グリースGをより確実に掻き分けることができるようにするために、先端が尖った角形状に形成されていても良い。
【0042】
さらに、実施の形態にかかる可動接点7では、尖状の突部741の両側に、尖状の凹部742が位置しており、可動接点7(当接部723)と固定接点8との間に、突部741で掻き分けたグリースGを収容可能な空間Sが確保されている(
図4の(B)参照)。
かかる空間が確保されていない場合には、グリースGの逃げ場がないので、可動接点7の固定接点8への圧接力を単純に大きくしただけでは、可動接点7を固定接点8に対して確実に接触させることができないことがある。
実施の形態にかかる可動接点7では、突部741の両側に、突部741が掻き分けたグリースGの逃げ場となる凹部742が位置しているので、固定接点8の表面に塗布されたグリースGを掻き分けて、可動接点7の当接部723(突部741)を、固定接点8に確実に接触させることができる(
図4の(B)、(C)参照)。
【0043】
シフトレバーの操作により、可動接点7が、
図3の(C)において実線で示す位置から、仮想線で示す位置に向けて移動すると(図中、矢印M参照)、可動接点7の当接部723は、固定接点8の表面に塗布されたグリースGを掻き分けながら、移動することになる。
溝74が設けられていない可動接点の場合には、固定接点8の表面に塗布されたグリースGを、可動接点7の移動方向における上流側から下流側に容易に移動させることができないので、グリースGの流動性が低い場合には、可動接点7の当接部723がグリースGに乗り上げることがある。かかる場合、本来接触状態である筈の可動接点7と固定接点8との接触状態が解消されることや、チャタリング現象が発生することがある。
【0044】
ここで、実施の形態にかかる可動接点7では、可動接点7の移動方向に沿う溝74が、当接部723に設けられており、固定接点8の表面に塗布されたグリースGが、この溝74を通って、可動接点7の移動方向における一方側から他方側(
図4の(D)における左側から右側)に移動できるようになっている。
そのため、溝が設けられていない可動接点の場合に生ずる上記のような現象の発生を好適に抑えることができる。
【0045】
さらに、
図3の(C)に示すように、固定接点8側の下方から見て溝74の各々は、紡錘形状を成しており、可動接点7の移動方向における溝74の一方側(図中上側)と他方側(図中、下側)の幅が狭くなっており、この幅は、溝74の長手方向(図中上下方向)における中央に向かうに連れて広くなっている。
そのため、可動接点7が移動する際に、可動接点7の一方側または他方側から溝74内に流入するグリースGに対して、いわゆるオリフィス効果が発揮されて、グリースGの流動が促されることが期待される。
【0046】
そして、可動接点7が、
図2の(B)において仮想線で示す位置まで到達すると、この位置では、可動接点7の乗上部722の下方に突出部9bが位置しているので、可動接点7の乗上部722が、突出部9bに乗り上げることになる(
図2の(C)参照)。そうすると、可動接点7の当接部723が、固定接点8からカバー3側の上方に移動して、可動接点7と固定接点との接触状態が解消する。
【0047】
また、この仮想線で示す位置から、可動接点7が時計回り方向に移動すると、乗上部722が突出部9bの直上から外れた角度位置に達した時点で、可動接点7がスプリングSpの付勢力で、固定接点8側の下方に移動する。
この際に、スプリングSpの付勢力は、尖状の突部741に集中しており、突部741の極盤2側の下方への押圧力が大きくなっているので、尖り状の突部741は、グリースを左右に押し分けながら、極盤2側の下方に移動して、対応する固定接点8bに接触することになる。
【0048】
以下、可動接点7の突部741の間隔(ピッチP)および稜線角度θと、チャタリング発生率との関係を説明する。
図5は、可動接点7の突部741の間隔(ピッチP)と、チャタリング発生率との関係を示す図である。
図6は、可動接点7の尖状の突部741の稜線角度θと、チャタリング発生率との関係を示す図である。
なお、
図5、
図6には、グリースの流動性が低下する低温環境下(−10℃、−20℃、−30℃)における実験結果が示されている。
【0049】
図5に示すように、隣接する突部741の頂点間の間隔(ピッチP:
図4の(B)参照)が異なる可動接点7を用意し、チャタリングの発生率を検証する環境の温度を変えて確認した。
その結果、−20℃以下では、ピッチPが、0.15mmである時にチャタリングの発生率が最も低くなり、ピッチPが、0.15mmから0.25mmの範囲で、溝74が設けられていない可動接点(ピッチP=0mm)よりも、良好な結果が得られた。
そのため、実施の形態に係る可動接点7では、突部741のピッチPは、0.15mm以上0.25mm以下に設定することが好ましい。
【0050】
図6に示すように、突部741の稜線角度θ(突部741の一方の斜面と他方の斜面との交差角:
図4の(B)参照)が異なる可動接点7を用意し、チャタリングの発生率を検証する環境の温度を変えて確認した。
その結果、−20℃以下では、稜線角度θが、60°である時にチャタリングの発生率が最も低くなり、稜線角度θが、60°から90°の範囲で、溝74が設けられていない可動接点(稜線角度θ=0°)よりも、良好な結果が得られた。
そのため、実施の形態に係る可動接点7では、突部741の稜線角度θは、60°以上90°以下に設定することが好ましい。
【0051】
以上の通り、実施の形態では、グリースG(潤滑剤)が塗布された固定接点8を有する極盤2にカバー3を接合して形成された本体ケース4(ケース)の内部に、可動接点7を有する可動盤5が軸線X周りに回動可能に設けられており、
スプリングSpの付勢力で固定接点8に圧接させた可動接点7を、可動盤5の回動により軸線X周りの周方向に移動させて、可動接点7と固定接点8とが、可動接点7の軸線X周りの角度位置に応じて接離するように構成されたインヒビタスイッチ1(スイッチ)において、
可動接点7における固定接点8との当接部723に、可動接点7の移動方向に沿う複数の溝74を設けると共に、複数の溝74を、尖状の突部741と尖状の凹部742とを軸線Xの径方向に交互に並べて形成し、可動接点7の移動時に、固定接点8に塗布されたグリースGが、溝74(尖状の凹部742)内に流入するように構成した。
【0052】
このように構成すると、可動接点7における固定接点8との当接部723に、可動接点7の移動方向に沿う複数の溝74が設けられており、この複数の溝74を、尖状の突部741と尖状の凹部742とを軸線Xの径方向に交互に並べて形成したので、溝74と溝74との間の尖状の突部741に、可動接点7を固定接点8に圧接させる応力(スプリングSpの付勢力)が集中する。そのため、可動接点7の当接部723における突部741は、溝74が設けられていない従来の可動接点よりも大きい力で、固定接点8側に押し付けられることになる。
よって、例えば低温環境下のようにグリースGの流動性が低い場合であっても、可動接点7の当接部723における突部741が、グリースGを掻き分けて固定接点8に接触することができるので、本来互いに接触すべき可動接点7と固定接点8とが非接触状態になることを好適に防止できる。
【0053】
さらに、溝が設けられていない従来の可動接点の場合、掻き分けられたグリースGの逃げ場がないと、可動接点の固定接点との接触がグリースにより阻害される場合があるが、可動接点7における固定接点8との当接部723には、掻き分けられたグリースGが流入できる尖状の凹部742が設けられており、この凹部742が、突部741が掻き分けたグリースGの逃げ場となって、突部741によるグリースGの掻き分けが阻害されない。
よって、可動接点7の当接部723に設けた突部741は、固定接点8上のグリースGを掻き分けて、固定接点8に確実に接触できるので、可動接点7と固定接点8との接触不良や、接触不良に起因するチャタリングの発生を好適に抑えることができる。
【0054】
ここで、可動接点7を固定接点8に確実に接触させるために、スプリングSpの付勢力を大きくすることが考えられるが、この場合には、可動接点7の接圧が大きくなるので、インヒビタスイッチ1の使用により可動接点7と固定接点8との摺動が繰り返されると、可動接点7と固定接点8との互いの接触部分の摩耗が大きくなると共に、摩耗粉も発生する。
摩耗が大きくなると、可動接点7と固定接点8との接触位置のズレが生じる虞があり、摩耗粉が発生すると、可動接点7が摩耗粉に乗り上げることに起因する接触不良が生じる虞がある。前記したように、尖状の突部741と尖状の凹部742とを軸線Xの径方向に交互に並べて複数の溝74を形成することで、スプリングの付勢力を大きくする必要がないので、実施の形態にかかるインヒビタスイッチ1の場合には、スプリングSpの付勢力を大きくした場合に生じる問題の発生を抑えることができる。
【0055】
さらに、低温環境下で流動性が低下する鉱物系のグリースを採用しても、可動接点7と固定接点8とを確実に接触させることができる。低温環境下で流動性が低下しない潤滑剤として、例えばフッ素系のグリースが知られているが、フッ素系のグリースは、鉱物系のグリースに比べて高価である。実施の形態にかかるインヒビタスイッチ1では、より安価な鉱物系のグリースを使用できるので、インヒビタスイッチ1全体として作製コストの低減が可能となる。
【0056】
可動接点7の当接部723は、可動盤5の回動軸(軸線X)の径方向から見て弧状の外周を有しており、溝74は、当接部723の弧状の外周を、可動接点7の移動方向に横断して形成されており、固定接点8側から見た溝74(凹部742)の形状が、紡錘形状である構成とした。
【0057】
このように構成すると、可動接点7の移動方向における溝74の一方側と他方側の幅が狭くなっており、この幅は、溝74の長手方向における中央に向かうに連れて広くなっているので、可動接点7が移動する際に、可動接点7の一方側または他方側から溝74内に流入するグリースGに対して、いわゆるオリフィス効果が発揮されて、グリースGの流動が促されることが期待される。
【0058】
ここで、当接部723に設けた溝74では、軸線Xの径方向で隣接する突部741同士の間隔(ピッチP)が、0.15mm以上0.25mm以下であることが好ましく、突部741の稜線角度が、60°以上90°以下であることが好ましい。
【0059】
このように構成すると、流動性の低いグリースが潤滑剤として用いられている場合であっても、低温環境下におけるチャタリングの発生率を、好適に抑えることができる。
特に、突部741同士の間隔(ピッチP)の要件と、稜線角度θの要件の両方を満たす突部741とすると、低温環境下におけるチャタリングの発生率を、いっそう抑えることができる。
【0060】
ここで、突部741は、固定接点8側にその先端部を向けた尖状の突起であり、その先端部は、R形状または、先端が尖った角形状に形成されていることが好ましい。
突部741の先端部をR形状に形成したときには、可動接点7が固定接点8上を摺動する際の摺動抵抗の低減が可能となる。また、突部741の先端部を先端が尖った角形状に形成したときには、固定接点8上に塗布されたグリースGを確実に掻き分けることができるので、グリースGの流動性が低い場合であっても、可動接点7をより確実に固定接点8に接触させることができるようになる。
【0061】
なお、突部741の先端部の形状は、固定接点8上に塗布されたグリースGを掻き分けることができる形状であれば、種々のものが採用可能である。
例えば、
図4の(E)に示すように、その先端に狭幅Waの平坦部741aを有する突部741Aを採用し、この突部741Aと凹部741とを、軸線Xの径方向に交互に並べて、複数の溝74を形成するようにしても良い。
このようにすることによっても、突部741Aの先端にスプリングSpの付勢力が集中して、突部741Aが、溝74が設けられていない従来の可動接点よりも大きい力で、固定接点8側に押し付けられることになる。
よって、例えば低温環境下のようにグリースGの流動性が低い場合であっても、可動接点7の当接部723における突部741Aが、グリースGを掻き分けて固定接点8に接触することができるので、本来互いに接触すべき可動接点7と固定接点8とが非接触状態になることを好適に防止できる。
【0062】
実施の形態では、固定接点8に塗布される潤滑剤として、鉱物系のグリースの場合を例示したが、フッ素系のグリースを採用しても良い、かかる場合にも、可動接点7の移動時に、フッ素系のグリースが溝74を構成する尖状の凹部742に流入することで、可動接点7と固定接点8との接触が確実に行われることになる。
【0063】
前記した実施の形態では、可動接点が、軸線X周りに回動する可動盤5に設けられて、軸線X周りの周方向に弧状を成すように設けられた固定接点上を摺動するように構成されたスイッチの場合を例示したが、可動接点が、固定接点上をその長手方向または幅方向に摺動するように構成されたスイッチであっても良い。
かかる場合にも、可動接点に、当該
可動接点の移動方向に沿う溝を設けることで、上記した実施の形態の場合と同じ効果が奏されることになる。