特許第6180833号(P6180833)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6180833
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】熱処理設備
(51)【国際特許分類】
   C21D 1/18 20060101AFI20170807BHJP
   C21D 1/63 20060101ALI20170807BHJP
   C21D 1/667 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   C21D1/18 J
   C21D1/18 F
   C21D1/63
   C21D1/667
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-147517(P2013-147517)
(22)【出願日】2013年7月16日
(65)【公開番号】特開2015-21139(P2015-21139A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2016年4月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000211123
【氏名又は名称】中外炉工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100100170
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 厚司
(72)【発明者】
【氏名】大下 修
(72)【発明者】
【氏名】橘 忠実
【審査官】 田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭61−098849(JP,U)
【文献】 特開平10−017925(JP,A)
【文献】 特開昭62−247021(JP,A)
【文献】 実開平07−015764(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/00− 1/84
F27B 9/00− 9/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱処理物を処理する熱処理炉と、
前記熱処理物を油焼入する油焼入部を有し、前記熱処理炉から搬入された前記熱処理物を前記油焼入部に通す油焼入実行ルートと、前記油焼入部に通さない油焼入不実行ルートとを構成可能な焼入油槽と、
前記熱処理物を水焼入する水焼入部を有し、前記熱処理炉から搬入された前記熱処理物を前記水焼入部に通す水焼入実行ルートと、前記水焼入部に通さない水焼入不実行ルートとを構成可能な焼入水槽と
を備え、
前記熱処理炉から搬入される熱処理物を前記油焼入実行ルートと、前記水焼入不実行ルートを通して搬出する油冷搬送モードと、
前記熱処理炉から搬入される熱処理物を前記水焼入実行ルートと、前記油焼入不実行ルートを通して搬出する水冷搬送モードと
を設け、
前記油冷搬送モードと前記水冷搬送モードとを切り替える制御手段を設け、
前記焼入油槽は、油槽下側搬送部、および油槽上側搬送部を有する昇降可能な油槽搬送部を備え、
前記焼入水槽は、水槽下側搬送部、および水槽上側搬送部を有する昇降可能な水槽搬送部を備え、
前記油冷搬送モードは、
前記熱処理炉からの前記熱処理物を、前記油槽下側搬送部に搬入し、
前記油槽搬送部を下降させ、前記油槽下側搬送部の前記熱処理物を前記油焼入部で油焼入した後、外部に搬出するモードであり、
前記水冷搬送モードは、
前記熱処理炉からの前記熱処理物を、前記水槽下側搬送部に搬入し、
前記水槽下側搬送部の前記熱処理物を前記水焼入部で水焼入した後、外部に搬出するモードであることを特徴とする熱処理設備。
【請求項2】
前記水焼入部は、水貯留部、または所定位置の前記熱処理物に水を噴霧して該熱処理物を冷却可能な噴霧水冷装置、およびこれらの組み合わせのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の熱処理設備。
【請求項3】
前記焼入油槽の下流に前記焼入水槽が配置され、
前記油冷搬送モード中の前記熱処理物は、前記油槽下側搬送部から前記水槽上側搬送部へ搬送され、
前記水冷搬送モード中の前記熱処理物は、前記油槽上側搬送部から前記水槽下側搬送部へ搬送されることを特徴とする請求項1または2に記載の熱処理設備。
【請求項4】
前記焼入水槽の下流に前記焼入油槽が配置され、
前記油冷搬送モード中の前記熱処理物は、前記水槽上側搬送部から前記油槽下側搬送部へ搬送され、
前記水冷搬送モード中の前記熱処理物は、前記水槽下側搬送部から前記油槽上側搬送部へ搬送されることを特徴とする請求項1または2に記載の熱処理設備。
【請求項5】
前記熱処理炉は、上下方向に設けられ前記熱処理物を処理する複数段の熱処理室、および前記熱処理物を前記熱処理室に搬入し、前記熱処理室から搬出する運搬部を備えていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の熱処理設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高温度加熱炉と中温度加熱炉とが連続するように配置された連続熱処理炉が開示されている。この連続熱処理炉では、高温度加熱炉に装入口が設けられ、中温度加熱炉に抽出口が設けられている。高温度加熱炉と中温度加熱炉との間には、焼入装置が介設されている。中温度加熱炉の下流には冷却装置が設けられている。高温度加熱炉および中温度加熱炉には、それぞれ、被熱物を搬送する上下2段の水平搬送手段が設けられている。高温度加熱炉の装入口には、被熱物を上段または下段の水平搬送手段に振り分けする昇降テーブルが設けられている。焼入装置および冷却装置の内部の下方には、それぞれ、油槽および水槽が設けられ、内部にそれぞれ設けられたエレベータに載置された被熱物を下降させ油または水に浸漬させて油焼入または水焼入を実行するようになっている。
【0003】
この連続熱処理炉では、被熱物に油焼入および水焼入の両方を実行するようになっており、いずれか一方のみを選択して実行するようになっていない。また、被熱物に油焼入および水焼入のいずれかのみを選択的に実行するためには、油焼入用の専用装置および水焼入用の専用装置の2つの装置が必要となり、設置コストが増大するとともに設置面積が大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−17925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、単一の装置で油焼入および水焼入を選択的に実行可能にし、設置コストを低減するとともに設置面積を小さくすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段として、本発明の熱処理設備は、熱処理物を処理する熱処理炉と、前記熱処理物を油焼入する油焼入部を有し、前記熱処理炉から搬入された前記熱処理物を前記油焼入部に通す油焼入実行ルートと、前記油焼入部に通さない油焼入不実行ルートとを構成可能な焼入油槽と、前記熱処理物を水焼入する水焼入部を有し、前記熱処理炉から搬入された前記熱処理物を前記水焼入部に通す水焼入実行ルートと、前記水焼入部に通さない水焼入不実行ルートとを構成可能な焼入水槽とを備え、前記熱処理炉から搬入される熱処理物を前記油焼入実行ルートと、前記水焼入不実行ルートを通して搬出する油冷搬送モードと、前記熱処理炉から搬入される熱処理物を前記水焼入実行ルートと、前記油焼入不実行ルートを通して搬出する水冷搬送モードとを設け、前記油冷搬送モードと前記水冷搬送モードとを切り替える制御手段を設けるようにした。
【0007】
この構成によれば、油冷搬送モードおよび水冷搬送モードが設けられているので、熱処理炉から搬入された熱処理物に対して、油焼入および水焼入を選択的に単一の装置で実行できる。また、単一の装置の設置で済むので設置コストを低減できるとともに設置面積を小さくすることができる。
【0008】
前記焼入油槽は、油槽下側搬送部、および油槽上側搬送部を有する昇降可能な油槽搬送部を備え、前記焼入水槽は、水槽下側搬送部、および水槽上側搬送部を有する昇降可能な水槽搬送部を備え、前記油冷搬送モードは、前記熱処理炉からの前記熱処理物を、前記油槽下側搬送部に搬入し、前記油槽搬送部を下降させ、前記油槽下側搬送部の前記熱処理物を前記油焼入部で油焼入した後、外部に搬出するモードであり、前記水冷搬送モードは、前記熱処理炉からの前記熱処理物を、前記水槽下側搬送部に搬入し、前記水槽下側搬送部の前記熱処理物を前記水焼入部で水焼入した後、外部に搬出するモードであることが好ましい。この構成によれば、油槽搬送部が油槽下側搬送部および油槽上側搬送部を有するとともに昇降可能であるので、熱処理炉から搬入された熱処理物に対して油焼入を実行でき、内部で2つの搬送経路を形成できる。また、水槽搬送部が水槽下側搬送部および水槽上側搬送部を有するとともに昇降可能であるので、熱処理炉から搬入された熱処理物に対して水焼入を実行でき、内部で2つの搬送経路を形成できる。これらにより、油焼入が実行される熱処理物、および水焼入が実行される熱処理物の搬送経路を分離でき分離した経路に油冷搬送モードおよび水冷搬送モードを割り当てることができる。すなわち、単一の装置で油焼入および水焼入を選択的に実行可能な装置を構成できる。また、単一の装置の設置で済むので設置コストを低減できるとともに設置面積を小さくすることができる。
【0009】
前記水焼入部は、水貯留部、または所定位置の前記熱処理物に水を噴霧して該熱処理物を冷却可能な噴霧水冷装置、およびこれらの組み合わせのいずれかであることが好ましい。この構成によれば、ディップ水冷のみ、噴霧水冷のみ、またはその両方の実行に対応可能な装置を構成できる。
【0010】
前記焼入油槽の下流に前記焼入水槽が配置され、前記油冷搬送モード中の前記熱処理物は、前記油槽下側搬送部から前記水槽上側搬送部へ搬送され、前記水冷搬送モード中の前記熱処理物は、前記油槽上側搬送部から前記水槽下側搬送部へ搬送されることが好ましい。この構成によれば、油焼入が実行される熱処理物、および水焼入が実行される熱処理物の搬送経路の分離を実現できる。
【0011】
前記焼入水槽の下流に前記焼入油槽が配置され、前記油冷搬送モード中の前記熱処理物は、前記水槽上側搬送部から前記油槽下側搬送部へ搬送され、前記水冷搬送モード中の前記熱処理物は、前記水槽下側搬送部から前記油槽上側搬送部へ搬送されることが好ましい。この構成によれば、油焼入が実行される熱処理物、および水焼入が実行される熱処理物の搬送経路の分離を実現できる。
【0012】
前記熱処理炉は、上下方向に設けられ前記熱処理物を処理する複数段の熱処理室、および前記熱処理物を前記熱処理室に搬入し、前記熱処理室から搬出する運搬部を備えていることが好ましい。この構成によれば、熱処理設備の搬送方向に対して少ないスペースで複数の熱処理室を有する熱処理炉を設置できる。したがって、熱処理炉、ひいては熱処理設備の設置コストを低減できるとともに設置面積を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、油冷搬送モードおよび水冷搬送モードが設けられているので、熱処理炉から搬入された熱処理物に対して、油焼入および水焼入を選択的に単一の装置で実行できる。また、単一の装置の設置で済むので設置コストを低減できるとともに設置面積を小さくすることができる。
また、油焼入と水焼入の搬送経路が完全に分離されているので、経路を共通化させた場合のように、水焼入の熱処理物に油が付着したり、油焼入の熱処理物に水が付着したりして悪影響を与える恐れも無い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態にかかる熱処理設備を示す側断面図。
図2】本発明の第1実施形態にかかる熱処理設備の油冷搬送の手順を示す図。
図3】本発明の第1実施形態にかかる熱処理設備のディップ水冷搬送の手順を示す図。
図4】本発明の第1実施形態にかかる熱処理設備の噴霧水冷搬送の手順を示す図。
図5】各モードの経路を示す図。
図6】本発明の第2実施形態にかかる熱処理設備を示す側断面図。
図7】本発明の第2実施形態にかかる熱処理設備の油冷搬送の手順を示す図。
図8】本発明の第2実施形態にかかる熱処理設備のディップ水冷搬送の手順を示す図。
図9】本発明の第2実施形態にかかる熱処理設備の噴霧水冷搬送の手順を示す図。
図10】各モードの経路を示す図。
図11】本発明の第3実施形態にかかる熱処理設備を示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
なお、説明で用いる「焼入油槽」及び「油槽」は、油焼入を行う機構全体を示し、「焼入水槽」及び「水槽」は、水焼入を行う機構全体を示している。そして、油及び水を貯めた容器は、それぞれ、「油貯留部」、「水貯留部」として示している。
【0016】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態にかかる熱処理設備10を示す。本発明の熱処理設備10は、熱処理炉11、焼入油槽12、および焼入水槽13を備えている。熱処理設備10では、熱処理炉11、焼入油槽12、および焼入水槽13がこの順で接続され、焼入油槽12および焼入水槽13の内部で複数の搬送経路を構成でき、熱処理炉11で処理された熱処理物に対して、油焼入および水焼入を単一の装置で選択的に実行できる。
【0017】
熱処理炉11は、図示しない加熱手段と、略水平面である第1搬送基準面P上に位置する搬送手段であるローラ15とを備えるローラーハース式連続炉である。熱処理炉11には、第1搬送基準面P上の熱処理物16を搬出する炉搬出口17が設けられている。炉搬出口17と油槽搬入口18の間には、第1搬送基準面P上に、熱処理物16を搬送するコンベア(炉搬送部)19が設けられている。
【0018】
焼入油槽12は、閉塞された容器である。焼入油槽12には、油槽搬入口18が、熱処理炉11の炉搬出口17に対向するように設けられている。また、焼入油槽12には、油槽搬入口18と対向し第1搬送基準面P上の熱処理物16を搬出する油槽搬出口20が設けられている。焼入油槽12には、第1搬送基準面Pの下方に、熱処理炉11から搬入された熱処理物16を浸漬して油焼入する油が貯留された油貯留部(油焼入部)22が設けられている。
【0019】
焼入油槽12の内部には、上下2段のコンベア(油槽上側搬送部、油槽下側搬送部)23,24を有する油槽搬送部25が設けられている。油槽搬送部25は、図示しない上下方向のレール上で上位置と下位置との間で昇降可能である。図2に示すように、油槽搬送部25の上位置では、下側コンベア24が第1搬送基準面P上に位置する。油槽搬送部25の下位置では、上側コンベア23が第1搬送基準面P上に位置するとともに下側コンベア24が油貯留部22の内部に位置する。上側コンベア23には、その底面に近接するように、上側コンベア23からの落下物を受けるトレイ26が設けられている。焼入油槽12において、油槽搬送部25の下位置への移動を含むルートが油焼入実行ルートであり、含まないルートが油焼入不実行ルートである。
【0020】
焼入水槽13は、上面開口の容器である。焼入水槽13は第1搬送基準面Pの下方に配置されている。焼入水槽13には、第1搬送基準面Pより下方に位置する略水平面である第2搬送基準面Q上の熱処理物16を搬出する水槽搬出口28が設けられている。焼入水槽13には、第2搬送基準面Qの下方に焼入油槽12から搬入された熱処理物16を浸漬して水焼入する水が貯留された水貯留部(水焼入部)29が設けられている。
【0021】
焼入水槽13の内部には、上下2段のコンベア(水槽上側搬送部、水槽下側搬送部)31,32を有する水槽搬送部33が設けられている。水槽搬送部33は、図示しないレールに沿って内部上位置と下位置との間、および内部上位置と内部上位置の直上の外部に設けられた外部位置との間で昇降可能である。水槽搬送部33の内部上位置では、上側コンベア31が第1搬送基準面P上に位置するとともに、下側コンベア32が第2搬送基準面Q上に位置する。水槽搬送部33の内部下位置では、上側コンベア31が第2搬送基準面Q上に位置するとともに、下側コンベア32が水貯留部29の内部に位置する。水槽搬送部33の外部位置では、下側コンベア32が第1搬送基準面P上に位置する。上側コンベア31には、その底面に近接するように、上側コンベア31から落下する油を受け取るオイルパン34が設けられている。焼入水槽13の下流側には、油焼入された熱処理物16を抽出する油側抽出テーブル35が第1搬送基準面P上に位置するように設けられている。また、焼入水槽13の下流側には、水焼入された熱処理物16を抽出する水側抽出テーブル36が第2搬送基準面Q上に位置するように設けられている。図4に示すように、焼入水槽13には、内部上位置における下側コンベア32の熱処理物16に水を噴霧して熱処理物16を冷却可能な噴霧水冷装置(水焼入部)38が設けられている。焼入水槽13において、水槽搬送部33の内部上位置または下位置への移動を含むルートが水焼入実行ルートであり、含まないルートが水焼入不実行ルートである。
【0022】
熱処理設備10には、制御装置(制御手段)40が設けられている。制御装置40は、油槽搬送部25、および水槽搬送部33を含む熱処理設備10(全体)の動作を制御する。
【0023】
本発明の第1実施形態にかかる熱処理設備10の油冷搬送について説明する。図2および図5に示すように、制御装置40により油冷搬送モードに切り換えると、熱処理炉11のローラ15により搬送され熱処理された熱処理物16は、コンベア19により焼入油槽12の油槽搬入口18から搬入され、上位置の油槽搬送部25の下側コンベア24に搬入され載置される。次に、下側コンベア24に載置された熱処理物16は、油槽搬送部25の下位置への降下により、油貯留部22の油に浸漬される。この位置で、油焼入される。一定時間経過後、油槽搬送部25は上位置に上昇し、下側コンベア24に載置された熱処理物16は、油槽搬出口20が開いた後、焼入水槽13の水槽搬送部33の内部上位置における上側コンベア31を通過して油側抽出テーブル35に搬送される。
【0024】
次に、第1実施形態にかかる熱処理設備10のディップ水冷搬送について説明する。図3および図5に示すように、制御装置40によりディップ水冷搬送モードに切り換えると、焼入油槽12の油槽搬入口18から搬入された熱処理物16は、焼入油槽12の油槽搬送部25の下位置における上側コンベア23を通過して焼入水槽13の水槽搬送部33の外部位置における下側コンベア32に搬入され載置される。次に、下側コンベア32に載置された熱処理物16は、水槽搬送部33の内部下位置への降下により、水貯留部29の水に浸漬される。この位置で、水焼入される。一定時間経過後、水槽搬送部33は内部上位置に上昇し、下側コンベア32に載置された熱処理物16は、水槽搬出口28が開いた後、水側抽出テーブル36に搬送される。
【0025】
次に、第1実施形態にかかる熱処理設備10の噴霧水冷搬送について説明する。図4および図5に示すように、制御装置40により噴霧水冷搬送モードに切り換えると、焼入油槽12の油槽搬入口18から搬入された熱処理物16は、焼入油槽12の油槽搬送部25の下位置における上側コンベア23を通過して焼入水槽13の水槽搬送部33の外部位置における下側コンベア32に搬入され載置される。次に、下側コンベア32に載置された熱処理物16は、水槽搬送部33の内部上位置への降下し、その後、噴霧水冷装置38の作動により、熱処理物16に水が噴霧される。この状態で、水焼入される。一定時間経過後、下側コンベア32に載置された熱処理物16は、水槽搬出口28が開いた後、水側抽出テーブル36に搬送される。
【0026】
本発明によれば、油冷搬送モード、ディップ水冷搬送モード、および噴霧水冷モードが設けられているので、熱処理炉11から搬入された熱処理物16に対して、油焼入および水焼入を選択的に単一の装置で実行できる。また、単一の装置の設置で済むので設置コストを低減できるとともに設置面積を小さくすることができる。
【0027】
また、油槽搬送部25が上下2段のコンベア23,24を有するとともに上位置と下位置との間を昇降可能であり、水槽搬送部33が上下2段のコンベア31,32を有するとともに外部位置と内部上位置、および内部上位置と内部下位置との間を昇降可能であり、焼入油槽12および焼入水槽13の下方に油貯留部22および水貯留部29がそれぞれ設けられているので、熱処理炉11から搬入された熱処理物16に対して、油焼入または水焼入を実行できる。また、焼入油槽12および焼入水槽13では、それぞれ上側コンベア23,31上または下側コンベア24,32上で熱処理物16を搬送することができる。そして、第1搬送基準面P上のみの水平方向の搬送、または第1搬送基準面P上と第2搬送基準面Q上とを組み合わせた水平方向の搬送を実行できる。これらにより、油焼入が実行される熱処理物16、および水焼入が実行される熱処理物16の搬送経路を分離できる。すなわち、単一の装置で油焼入および水焼入を選択的に実行可能な装置を構成できる。また、単一の装置の設置で済むので設置コストを低減できるとともに設置面積を小さくすることができる。なお、油槽搬送部25の上側コンベア23の底面に近接するように、トレイ26を設けているので、水焼入処理される熱処理物16が上側コンベア23上を移動する際に落下する埃等の落下物が下側コンベア24や油貯留部22に落下するのを防止できる。また、水槽搬送部33の上側コンベア31の底面に近接するように、オイルパン34を設けているので、油焼入処理された熱処理物16が上側コンベア31上を移動する際に落下する油等の落下物が下側コンベア32や水貯留部29に落下するのを防止できる。
【0028】
(第2実施形態)
図6は、本発明の第2実施形態にかかる熱処理設備10を示す。熱処理設備10では、熱処理炉11、焼入水槽13、および焼入油槽12がこの順で接続されている。
【0029】
炉搬出口17と水槽搬入口61の間には、第1搬送基準面P上に、熱処理物16を搬送するコンベア(炉搬送部)19が設けられている。
【0030】
焼入水槽13は、閉塞された容器である。焼入水槽13には、水槽搬入口61が、熱処理炉11の炉搬出口17に対向するように設けられている。また、焼入水槽13には、水槽搬入口61と対向し第1搬送基準面P上の熱処理物16を搬出する水槽搬出口28が設けられている。焼入水槽13には、第1搬送基準面Pの下方に、熱処理炉11から搬入された熱処理物16を浸漬して水焼入する水が貯留された水貯留部(水焼入部)29が設けられている。
【0031】
水槽搬送部33は、図示しない上下方向のレール上で上位置と下位置との間で昇降可能である。図8および9に示すように、水槽搬送部33の上位置では、下側コンベア32が第1搬送基準面P上に位置する。水槽搬送部33の下位置では、上側コンベア31が第1搬送基準面P上に位置するとともに下側コンベア32が水貯留部29の内部に位置する。上側コンベア31には、その底面に近接するように、上側コンベア31からの落下物を受けるトレイ26が設けられている。
【0032】
図6に示すように、焼入水槽13には、上位置における下側コンベア32の熱処理物16に水を噴霧して熱処理物16を冷却可能な噴霧水冷装置(水焼入部)38が設けられている。焼入水槽13において、水槽搬送部33の下位置への移動を含むルート、または上位置での噴霧水冷装置38による処理を含むルートが水焼入実行ルートであり、含まないルートが水焼入不実行ルートである。
【0033】
焼入油槽12は、上面開口の容器である。焼入油槽12は第1搬送基準面Pの下方に配置されている。焼入油槽12には、第1搬送基準面Pより下方に位置する略水平面である第2搬送基準面Q上の熱処理物16を搬出する油槽搬出口20が設けられている。焼入油槽12には、第2搬送基準面Qの下方に焼入水槽13から搬入された熱処理物16を浸漬して油焼入する油が貯留された油貯留部(油焼入部)22が設けられている。
【0034】
油槽搬送部25は、図示しないレールに沿って内部上位置と内部下位置との間、および内部上位置と内部上位置の直上の外部に設けられた外部位置との間で昇降可能である。油槽搬送部25の内部上位置では、上側コンベア23が第1搬送基準面P上に位置するとともに、下側コンベア24が第2搬送基準面Q上に位置する。油槽搬送部25の内部下位置では、上側コンベア23が第2搬送基準面Q上に位置するとともに、下側コンベア24が油貯留部22の内部に位置する。油槽搬送部25の外部位置では、下側コンベア24が第1搬送基準面P上に位置する。上側コンベア23には、その底面に近接するように、上側コンベア23からの落下物を受けるトレイ62が設けられている。焼入油槽12の下流側には、水焼入された熱処理物16を抽出する水側抽出テーブル36が第1搬送基準面P上に位置するように設けられている。また、焼入油槽12の下流側には、油焼入された熱処理物16を抽出する油側抽出テーブル35が第2搬送基準面Q上に位置するように設けられている。焼入油槽12において、油槽搬送部25の内部下位置への移動を含むルートが油焼入実行ルートであり、含まないルートが油焼入不実行ルートである。
【0035】
本発明の第2実施形態にかかる熱処理設備10の油冷搬送について説明する。図7および図10に示すように、制御装置40により油冷搬送モードに切り換えると、熱処理炉11のローラ15により搬送され熱処理された熱処理物16は、コンベア19により焼入水槽13の水槽搬入口61から搬入され、下位置の水槽搬送部33の上側コンベア31を通って油槽搬送部25の下側コンベア24に搬入され載置される。次に、下側コンベア24に載置された熱処理物16は、油槽搬送部25の内部下位置への降下により、油貯留部22の油に浸漬される。この位置で、油焼入される。一定時間経過後、油槽搬送部25は内部上位置に上昇し、下側コンベア24に載置された熱処理物16は、油槽搬出口20が開いた後、油側抽出テーブル35に搬送される。
【0036】
次に、第2実施形態にかかる熱処理設備10のディップ水冷搬送について説明する。図8および図10に示すように、制御装置40によりディップ水冷搬送モードに切り換えると、熱処理炉11のローラ15により搬送され熱処理された熱処理物16は、焼入水槽13の水槽搬送部33の上位置における下側コンベア32に搬入され載置される。次に、下側コンベア32に載置された熱処理物16は、水槽搬送部33の下位置への降下により、水貯留部29の水に浸漬される。この位置で、水焼入される。一定時間経過後、水槽搬送部33は上位置に上昇し、下側コンベア32に載置された熱処理物16は、油槽搬送部25の上側コンベア23を通って水側抽出テーブル36に搬送される。
【0037】
次に、第2実施形態にかかる熱処理設備10の噴霧水冷搬送について説明する。図9および図10に示すように、制御装置40により噴霧水冷搬送モードに切り換えると、熱処理炉11のローラ15により搬送され熱処理された熱処理物16は、焼入水槽13の水槽搬送部33の上位置における下側コンベア32に搬入され載置される。その後、噴霧水冷装置38の作動により、熱処理物16に水が噴霧される。この状態で、水焼入される。一定時間経過後、下側コンベア32に載置された熱処理物16は、油槽搬送部25の上側コンベア23を通って水側抽出テーブル36に搬送される。
【0038】
本実施形態においても、第1実施形態における効果と同様の効果を得ることができる。
【0039】
(第3実施形態)
図11および12は、本発明の第3実施形態にかかる熱処理設備10を示す。本実施形態において、第1実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付して説明を省略する。
【0040】
熱処理設備10の熱処理炉11は、熱処理物16を処理する複数の熱処理室51を備えている。熱処理室51は、直方体状に形成されている。熱処理室51は、開口部を備え、該開口部には、開閉可能な扉52が設けられている。扉52の閉塞により、熱処理室51の気密性が確保される。熱処理室51は、図示しない加熱手段を備えている。熱処理室51a〜c,51d〜fは、上下3段に配置され、それらは積層部53を構成している。2つの積層部53,53を、熱処理炉11の内部に、扉52,52側を対向させるように配置している。熱処理炉11は、積層部53,53が対向する方向と略直交する方向に互いに対向する開口部を備え、該開口部には、開閉可能な扉54,55が設けられている。熱処理炉11の焼入油槽12側の開口部は、熱処理設備10の第1搬送基準面P上で熱処理物16を搬出可能な位置に配置されている。熱処理炉11の開口部は、焼入油槽12の油槽搬入口18と扉55を介して接続されている。扉54,55の閉塞により、熱処理炉11の気密性が確保される。また、扉55、および油槽搬出口20の閉塞により焼入油槽12の気密性が確保される。
【0041】
なお、本発明の熱処理設備10は、前記実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。例えば、熱処理炉11は、ローラーハース式連続炉以外の連続炉であってもよいし、バッチ炉であってもよい。また、熱処理室51の上下方向の段数は、2段でもよいし、4段以上でもよい。
【符号の説明】
【0042】
10 熱処理設備
11 熱処理炉
12 焼入油槽
13 焼入水槽
15 ローラ
16 熱処理物
17 炉搬出口
18 油槽搬入口
19 コンベア(炉搬送部)
20 油槽搬出口
22 油貯留部(油焼入部)
23 上側コンベア(油槽上側搬送部)
24 下側コンベア(油槽下側搬送部)
25 油槽搬送部
26 トレイ
28 水槽搬出口
29 水貯留部(水焼入部)
31 上側コンベア(水槽上側搬送部)
32 下側コンベア(水槽下側搬送部)
33 水槽搬送部
34 オイルパン
35 油側抽出テーブル
36 水側抽出テーブル
38 噴霧水冷装置(水焼入部)
40 制御装置(制御手段)
51,51a〜c,51d〜f 熱処理室
52 扉
53 積層部
54 扉
55 扉
56 搬入室
57 扉
61 水槽搬入口
62 トレイ
P 第1搬送基準面
Q 第2搬送基準面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11