特許第6180849号(P6180849)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6180849
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】整流子
(51)【国際特許分類】
   H02K 13/00 20060101AFI20170807BHJP
【FI】
   H02K13/00 E
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-179492(P2013-179492)
(22)【出願日】2013年8月30日
(65)【公開番号】特開2014-79153(P2014-79153A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2015年12月21日
(31)【優先権主張番号】特願2012-208070(P2012-208070)
(32)【優先日】2012年9月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101352
【氏名又は名称】アスモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大澤 寿之
(72)【発明者】
【氏名】兵藤 孝司
(72)【発明者】
【氏名】影山 良平
【審査官】 小林 紀和
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭60−011657(JP,U)
【文献】 特開2008−072874(JP,A)
【文献】 実開昭57−141674(JP,U)
【文献】 特開2000−152566(JP,A)
【文献】 特開平08−308182(JP,A)
【文献】 実開昭61−202163(JP,U)
【文献】 特開平05−003645(JP,A)
【文献】 特開2001−245456(JP,A)
【文献】 実開昭58−022071(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の絶縁体と、導電性を有する板材からなり前記絶縁体の外周面において周方向に並設された複数の整流子片と、を備え、前記整流子片は、前記絶縁体の径方向外側に向かって延びて電機子巻線が電気的に接続される結線爪と、前記絶縁体の径方向内側に向かって延びて前記絶縁体を係止する係止爪とを備える整流子において、
前記整流子片の前記絶縁体の径方向内側の面には、アンダーカットを有する溝を備え、
前記溝は、絶縁体の軸方向に沿う断面視において、前記整流子片の前記径方向内側の面から軸方向一方側に向かって斜めに凹む溝であって且つ該溝の内面が連続する3つの面を有する溝を含んでおり、
前記3つの面のうち溝の軸方向両側の面を側面とし、該両側面の間であって且つ溝の奥に位置する面を底面としたとき、前記両側面は共に、前記底面側から軸方向他方側に傾斜しており、
前記両側面のうち軸方向一方側の側面がアンダーカット面であり、
前記各側面と前記底面が交わる各頂部からそれぞれ軸方向と平行に延びる仮想線を基準にしたとき、前記アンダーカット面におけるその前記頂部から延びる仮想線からの傾斜角度が、軸方向他方側の側面におけるその前記頂部から延びる仮想線からの傾斜角度よりも大きいことを特徴とする整流子。
【請求項2】
円筒状の絶縁体と、導電性を有する板材からなり前記絶縁体の外周面において周方向に並設された複数の整流子片と、を備え、前記整流子片は、前記絶縁体の径方向外側に向かって延びて電機子巻線が電気的に接続される結線爪と、前記絶縁体の径方向内側に向かって延びて前記絶縁体を係止する係止爪とを備える整流子において、
前記整流子片の前記絶縁体の径方向内側の面には、アンダーカットを有する溝を備え、
前記結線爪に対向する部位の溝は、他の部位に設けられる溝よりも溝の深さが深いことを特徴とする整流子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の整流子において、
前記係止爪は、前記整流子片の前記絶縁体の軸方向における両端部に設けられ、
前記溝は、前記2つの係止爪の間に設けられることを特徴とする整流子。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の整流子において、
前記溝は、複数設けられ、
前記アンダーカットは、少なくとも2以上の溝に設けられるものであって、
前記2以上のアンダーカットのうち少なくとも1つは、傾斜方向が異なることを特徴とする整流子。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか一項に記載の整流子において、
前記係止爪は、前記整流子片における前記絶縁体側の面を切り起こして形成され、
前記溝は、前記係止爪が切り起こされることによって設けられる加工跡溝を含むことを特徴とする整流子。
【請求項6】
請求項5に記載の整流子において、
前記係止爪は、前記複数の整流子片のそれぞれに前記絶縁体の周方向に間隔をおいて複数個設けられるものであって、前記絶縁体の周方向における前記整流子片の縁部を含まずに切り起こして形成されることを特徴とする整流子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、整流子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
直流モータの整流子は、電機子の回転軸に固着される円筒形状の絶縁体と、その絶縁体の外周面に取着された導電性を有する複数のセグメントとを有している。各セグメントには、電機子のコアに巻回されたコイルの端部が結線されるライザが設けられている。そして、セグメントの外周面には給電ブラシが摺接される。給電ブラシから印加される直流電源がセグメントを介して電機子のコイルへ供給される。
【0003】
このような整流子は、次のようにして製造される。すなわち、金型に配置された導電性を有する円筒素材の内側に樹脂材料を封入することにより先の絶縁体が成形され、その後、円筒素材が軸方向に沿って切断されることで先の複数のセグメントが成形される。
【0004】
ところで、このような整流子としては、例えば特許文献1に開示されるものが知られている。特許文献1では、絶縁体と各セグメントとの係止力を確保するため、セグメントの絶縁体と接触する面は、粗化液に浸されるとによって、微小な凹凸で構成された粗化面とされている。粗化面とされたことより、凹凸のない滑らかな平滑面とされている場合よりも、セグメントと絶縁体との係止面積が増えるので、これら両者の係止力が増す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−51506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のセグメントでは、粗化面を形成した後、当該面の粗化液を除去する等の後処理を施す必要がある。この後処理を施さない場合、粗化面の粗化が進み、凹凸が変化する等して、セグメントと絶縁体との係止力が低下するためである。すなわち、整流子の製造工数が多い。
【0007】
本発明は、こうした実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、セグメントと絶縁体との係止力が高く、且つ製造工数が少ない整流子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、整流子は、円筒状の絶縁体と、導電性を有する板材からなり前記絶縁体の外周面において周方向に並設された複数の整流子片と、を備え、前記整流子片は、前記絶縁体の径方向外側に向かって延びて電機子巻線が電気的に接続される結線爪と、前記絶縁体の径方向内側に向かって延びて前記絶縁体を係止する係止爪とを備える整流子において、前記整流子片の前記絶縁体の径方向内側の面には、アンダーカットを有する溝を備え、前記溝は、絶縁体の軸方向に沿う断面視において、前記整流子片の前記径方向内側の面から軸方向一方側に向かって斜めに凹む溝であって且つ該溝の内面が連続する3つの面を有する溝を含んでおり、前記3つの面のうち溝の軸方向両側の面を側面とし、該両側面の間であって且つ溝の奥に位置する面を底面としたとき、前記両側面は共に、前記底面側から軸方向他方側に傾斜しており、前記両側面のうち軸方向一方側の側面がアンダーカット面であり、前記各側面と前記底面が交わる各頂部からそれぞれ軸方向と平行に延びる仮想線を基準にしたとき、前記アンダーカット面におけるその前記頂部から延びる仮想線からの傾斜角度が、軸方向他方側の側面におけるその前記頂部から延びる仮想線からの傾斜角度よりも大きいことを要旨とする。
【0009】
この構成によれば、アンダーカットを有する溝は、例えばプレス成形などの容易な成形方法により形成することができる。また、溝と絶縁体との係合により、アンカー効果が得られる。このため、同構成によれば、製造工数の少ない整流子を提供することができる。また、整流子が高速で回転しても、整流子片は、絶縁体から離間しにくい。
上記課題を解決するために、整流子は、円筒状の絶縁体と、導電性を有する板材からなり前記絶縁体の外周面において周方向に並設された複数の整流子片と、を備え、前記整流子片は、前記絶縁体の径方向外側に向かって延びて電機子巻線が電気的に接続される結線爪と、前記絶縁体の径方向内側に向かって延びて前記絶縁体を係止する係止爪とを備える整流子において、前記整流子片の前記絶縁体の径方向内側の面には、アンダーカットを有する溝を備え、前記結線爪に対向する部位の溝は、他の部位に設けられる溝よりも溝の深さが深いことを要旨とする。
この構成によれば、アンダーカットを有する溝は、例えばプレス成形などの容易な成形方法により形成することができる。また、溝と絶縁体との係合により、アンカー効果が得られる。このため、同構成によれば、製造工数の少ない整流子を提供することができる。また、整流子が高速で回転しても、整流子片は、絶縁体から離間しにくい。
ところで、整流子片は、ブラシと摺接するものであるが、結線爪と対向する部位は、結線爪が電機子巻線に結線されるため、ブラシと摺接しない。このため、この部位は、摩耗しない。すなわち、板厚が薄くならない。この構成によれば、この板厚が薄くならない部位の溝は、他の部位の溝よりも深い。このため、板厚が薄くならない部位の溝を他の部位の溝と同等の深さとした場合に比べて、整流子片は、絶縁体から離間しにくい。また、整流子の寿命は短くならない。
【0010】
上記構成において、前記係止爪は、前記整流子片の前記絶縁体の軸方向における両端部に設けられ、前記溝は、前記2つの係止爪の間に設けられることが好ましい。
この構成によれば、2つの係止爪の間の距離が長い場合であっても、2つの係止爪の間に設けられる溝によって、整流子片と絶縁体との係止面積が増えるとともに、アンカー効果が得られるので、整流子片は、絶縁体から離間しにくい。
【0011】
上記構成において、前記溝は、複数設けられ、前記アンダーカットは、少なくとも2以上の溝に設けられるものであって、前記2以上のアンダーカットのうち少なくとも1つは、傾斜方向が異なることが好ましい。
【0012】
アンダーカットが設けられている場合、絶縁体に対して整流子片をアンダーカットの傾斜方向に変位させることによって、これら絶縁体と整流子片とが離間する。その点、同構成によれば、アンダーカットの傾斜方向が異なるので、絶縁体に対して整流子片を一つのアンダーカットの傾斜方向に変位させようとしても、他方のアンダーカットによって、整流子片には、絶縁体に近接する方向への力が作用する。すなわち、絶縁体と整流子片とが離間する方向への力が近接する方向への力によって打ち消される。このため、整流子は、絶縁体から離間しにくい。
【0014】
上記構成において、前記係止爪は、前記整流子片における前記絶縁体側の面を切り起こして形成され、前記溝は、前記係止爪が切り起こされることによって設けられる加工跡溝を含むことが好ましい。
【0015】
この構成によれば、加工跡溝にはアンダーカットが設けられているので、アンカー効果が得られる。このため、アンダーカットが設けられない場合と比較して、整流子が高速で回転しても、整流子片が絶縁体から離間しにくい。
【0016】
上記構成において、前記係止爪は、前記複数の整流子片のそれぞれに前記絶縁体の周方向に間隔をおいて複数個設けられるものであって、前記絶縁体の周方向における前記整流子片の縁部を含まずに切り起こして形成されることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、加工跡溝の開口部は絶縁体の周方向における整流子片の縁部に連続しない。従って、絶縁体の周方向における加工跡溝の開口部両側にアンダーカットを設けることができる。このため、アンダーカットが加工跡溝の開口部の片側にしか設けられない場合と比較して、整流子が高速で回転しても、整流子片が絶縁体から離間しにくい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の整流子は、製造工数が少なく、且つセグメントと絶縁体との係止力が高いという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1の実施形態における整流子を示す斜視図。
図2】第1の実施形態におけるセグメントの素材を示す斜視図。
図3】(a)〜(c)は、第1の実施形態における第1〜第3の溝を示す断面図。
図4】(a)〜(c)は、第1の実施形態における溝の形成過程を示す断面図。
図5】第1の実施形態におけるセグメントの素材を示す斜視図。
図6】第1の実施形態における円筒素材を示す斜視図。
図7】第1の実施形態における円筒素材のライザ及び中爪を折り曲げた状態を示す斜視図。
図8】(a)〜(d)は、他の溝の形成過程を示す断面図。
図9】(a)〜(c)は、他の溝の形成過程を示す断面図。
図10】第2の実施形態における整流子を示す斜視図。
図11】第2の実施形態におけるセグメントの素材を示す斜視図。
図12】第2の実施形態における切り起こしパンチを示す斜視図。
図13】第2の実施形態におけるこすりパンチを示す斜視図。
図14】第2の実施形態におけるセグメントの素材を示す斜視図。
図15】第2の実施形態における円筒素材を示す斜視図。
図16】第2の実施形態における円筒素材のライザ及び第2中爪を折り曲げた状態を示す斜視図。
図17】(a)は切り起こしパンチを挿入した後の円筒素材を示す斜視図、(b)は切り起こしパンチが挿入されている状態の円筒素材を示す断面図。
図18】(a)はこすりパンチを挿入した後の円筒素材を示す斜視図、(b)はこすりパンチが挿入されている状態の円筒素材を示す断面図。
図19】切り起こしパンチを挿入した後の円筒素材を軸方向から見た上面図。
図20】こすりパンチを挿入した後の円筒素材を軸方向から見た上面図。
図21】こすりパンチを挿入した後の円筒素材を軸方向から見た断面図。
図22】(a)〜(c)は、他の溝の形成過程を示す断面図。
図23】(a)〜(d)は、他の溝の形成過程を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1の実施形態>
以下、本発明の整流子を具体化した第1の実施形態を図1図7に基づいて説明する。
図1に示すように、整流子10は、熱硬化性樹脂よりなる円筒状の絶縁体11と、当該絶縁体11の外周面に固定された10個のセグメント12とから構成されている。絶縁体11の径方向の中央部には、軸方向に貫通する圧入孔11aが設けられている。圧入孔11aには、図示しない電機子の回転軸が圧入される。これにより、整流子10は、電機子の回転軸と一体回転する。
【0021】
各セグメント12は、導電性の金属板材(例えば銅板)により形成される。10個のセグメント12は、絶縁体11の周方向において等角度間隔に並設されるとともに、絶縁体11の軸方向に延びる短冊状とされている。隣り合うセグメント12間には、絶縁体11の軸方向に延びる分断溝13がそれぞれ設けられている。分断溝13によって隣り合うセグメント12同士が、互いに離間している。すなわち、10個のセグメント12は、互いに電気的に絶縁の関係にある。なお、各分断溝13は、各セグメント12の厚さ(絶縁体11の径方向の厚さ)よりも径方向内側に向かって深く形成されている。すなわち、各分断溝13は、絶縁体11にまで形成されている。
【0022】
各セグメント12の軸方向一端部(図1において上端部)には、ライザ14が設けられている。ライザ14は、その基端部から絶縁体11の径方向外側に折り曲げられている。ライザ14は、セグメント12の径方向外側の面と対向する。なお、このライザ14は、図示しない電機子を構成する電機子コイルと結線される。すなわち、ライザ14は結線爪に相当する。
【0023】
各セグメント12のライザ14側の端部には、2つの第1中爪15が設けられている。2つの第1中爪15は、ライザ14を挟むように設けられている。一方、各セグメント12のライザ14が設けられる端部とは反対側の端部には、2つの第2中爪16が設けられている。2つの第2中爪16は、セグメント12の長手方向において、2つの第1中爪15と対となる位置に設けられている。これら第1及び第2中爪15,16は、その基端部からライザ14とは反対側、すなわち、絶縁体11の径方向内側に折り曲げられている。第1及び第2中爪15,16の先端部は、セグメント12の径方向内側の面と対向する。第1及び第2中爪15,16の先端部は、絶縁体11内に埋設されている。これにより、各セグメント12は絶縁体11に対して連結されている。すなわち、第1及び第2中爪15,16は、係止爪に相当する。なお、図7に示すように、第1及び第2中爪15,16の側部には、隣り合うセグメント12側に開口する切欠17が設けられている。
【0024】
図2に示すように、セグメント12の絶縁体11側の面には、溝部30が設けられている。溝部30は、セグメント12の長手方向に沿って設けられた2つの溝列31により構成される。2つの溝列31は、それぞれ8つの第1の溝32、5つの第2の溝33、及び3つの第3の溝34により構成される。これら第1〜第3の溝32〜34は、セグメント12のライザ14と反対側の端部からこの順番で設けられている。図3(a)〜図3(c)に示すように、第1〜第3の溝32〜34は、絶縁体11との接触面から離間するに従って先鋭となる三角溝とされている。
【0025】
図3(a)に示すように、三角溝の谷部を頂点とし、この頂点を通るようにセグメント12の長手方向ライザ側に延びる線を基準線(0°)とすると、第1の溝32は、30°〜80°に亘って形成されている。第1の溝32の80°に沿う面は、アンダーカット32aとされている。アンダーカットは、溝の底部の上方に開口部が張り出しているような形状をいう。第1の溝32の谷部と絶縁体11との接触面との距離、いわゆる第1の溝32の深さは、板厚tの30%(0.3t)とされている。
【0026】
図3(b)に示すように、第2の溝33は、100°〜150°に亘って形成されている。第2の溝33の100°に沿う面は、アンダーカット33aとされている。第2の溝33の谷部と絶縁体11との接触面との距離は、板厚tの30%(0.3t)とされている。
【0027】
図3(c)に示すように、第3の溝34は、100°〜150°に亘って形成されている。第3の溝34の100°に沿う面は、アンダーカット34aとされている。第3の溝34の谷部と絶縁体11との接触面との距離は、板厚tの50%(0.5t)とされている。
【0028】
次に、整流子10の製造工程について説明する。
図4(a)及び図4(b)に示すように、まず、先端部の角度が50°とされたくさび形のパンチ9を板面との角度を30°とした状態で、金属板材20に対してプレスする。その後、図4(c)に示すように、パンチ9を引き抜く。これにより、第1の溝32が形成される。なお、図示は省略するが、第2及び第3の溝33,34は、パンチ9を板面との角度を150°に変更するだけで、第1の溝32と同様の方法で形成される。これが繰り返されることにより、金属板材20には、図5に示す溝部30が形成された金属板材20となる。
【0029】
次に、図5に示すように、金属板材20から、打ち抜き素材21を打ち抜く。打ち抜き素材21は略矩形状に成形されている。各打ち抜き素材21の短手方向(長手方向と直交する方向)の一端面には、それぞれ10個のライザ14と20個の第1中爪15が、他端面には20個の第2中爪16が、それぞれ形成される。ライザ14は、打ち抜き素材21の長手方向に等間隔に形成される。第1中爪15は、ライザ14の両側に形成される。第2中爪16は、第1中爪15と対向する位置に形成される。また、第1及び第2中爪15,16には、切欠17が形成される。
【0030】
次に、溝部30が内側を向くように打ち抜き素材21を丸めて、図6に示す円筒素材22を成形する。このとき、ライザ14と第1及び第2中爪15,16は、円筒素材22の軸線と平行な直線状をなしている。
【0031】
その後、図7に示すように、各ライザ14を径方向外側に折り曲げて、その先端部が円筒素材22の軸方向中央部を向くように成形する。また、第1及び第2中爪15,16を径方向内側に折り曲げて、その先端部が円筒素材22の軸方向中央部を向くように成形する。
【0032】
その後、図示しない金型を用いて、円筒素材22の内部に熱硬化性樹脂を充填する。充填後、化学反応により、樹脂が硬化し図1に示す絶縁体11が形成される。
その後、絶縁体11と一体をなす円筒素材22の外周面の複数箇所に分断溝13(図1参照)を軸方向に沿って成形して円筒素材22を切断する。これにより、互いに電気的に絶縁された10個のセグメント12が成形され、図1に示す整流子10が完成する。
【0033】
次に、整流子10の作用について説明する。
図2に示すように、セグメント12の絶縁体11との接触面に、溝部30を設けた。図4(a)〜図4(c)に示すように、溝部30は、プレス成形により形成される。すなわち、溝部30の形成にかかる製造工数は少ない。この溝部30を形成したことより、溝部30を設けない場合と比べて、セグメント12と絶縁体11との係止面積が増加する。このため、これら両者の係止力(引っかかり)が増加する。
【0034】
図3(a)〜図3(c)に示すように、溝部30を構成する第1〜第3の溝32〜34は、アンダーカット32a〜34aを備えている。アンダーカット32aは、80°に沿って設けられている。アンダーカット33a,34aは、100°に沿って設けられている。すなわち、アンダーカット32aとアンダーカット33a,34aとにおけるセグメント12と絶縁体11との接触面の角度が異なる。整流子10が回転するとき、セグメント12には、絶縁体11の径方向外側(90°)に向かう遠心力が作用する。セグメント12は、絶縁体11から離間しようとするとき、アンダーカット32a〜34aに沿って変位しようとする。すなわち、アンダーカット32aとの接触部位は、ライザ14が形成される側に変位しようとし、アンダーカット33a,34aとの接触部位は、ライザ14が形成される側とは反対側に変位しようとする。このように、セグメント12は、遠心力が作用しても、アンダーカット32a〜34aによって、長手方向の異なる方向へ移動しようとする。このため、長手方向の異なる方向へ作用する力同士が相殺される。その結果、セグメント12と絶縁体11との係止力が増す。
【0035】
また、図3(a)〜図3(c)に示すように、第3の溝34の溝の深さは、第1及び第2の溝32,33よりも深い。このため、第3の溝34は、第1及び第2の溝32,33と比較してセグメント12と絶縁体11との係止量が多い。言い換えれば、アンダーカット34aに係止される絶縁体11の樹脂量が多い。このため、第3の溝34が設けられる部位におけるセグメント12と絶縁体11との係止力が増加する。一方で、第1及び第2の溝32,33が形成される部位は、整流子10の回転に伴い図示しないブラシと摺接する。第1及び第2の溝32,33が浅くされている分、板厚が確保されているので、当該部位が、多少摩耗しても、絶縁体11が露出しない。このため、整流子10としての機能を長期にわたって発揮することができる。このように、本例の整流子10は、摩耗しない部位の溝(第3の溝34)を摩耗する部位の溝(第1及び第2の溝32,33)と同等の深さとした場合に比べて、セグメント12が絶縁体11から離間しにくい。また整流子10の寿命が確保される。
【0036】
以上詳述したように、本実施形態によれば、以下に示す効果が得られる。
(1)セグメント12に、プレス成形という容易な形成方法により形成されるアンダーカット32a〜34aを有する溝部30を設けた。これにより、溝を設けない場合と比較して、セグメント12と絶縁体11との係止力が強くなる。従って、整流子10が高速で回転しても、セグメント12は、絶縁体11から離間しにくい。
【0037】
(2)溝部30を構成する第1〜第3の溝32〜34にアンダーカット32a〜34aを設けた。これにより、整流子10が回転するとき、各セグメント12に作用する遠心力は、アンダーカット32a〜34aに沿う方向と、アンダーカット32a〜34aに直交する方向とに分解される。セグメント12と絶縁体11とを離間させようとする力であるアンダーカット32a〜34aに沿う方向の力は、遠心力が分解されたものである。すなわち、遠心力よりも小さい。従って、第1〜第3の溝32〜34にアンダーカット32a〜34aが設けられない場合と比べて、セグメント12は、絶縁体11から離間しにくい。
【0038】
(3)溝部30を第1及び第2中爪15,16の間に設けた。これにより、セグメント12の長手方向中央部におけるセグメント12と絶縁体11との係止面積が多くなるので、セグメント12は、絶縁体11から離間しにくい。
【0039】
(4)アンダーカット32aの傾斜方向と、アンダーカット33a,34aの傾斜方向とが異なるように設けた。これにより、整流子10が回転するとき、セグメント12におけるアンダーカット32aとの接触部位は、アンダーカット32aの傾斜方向に変位しようとし、アンダーカット33a,34aとの接触部位は、アンダーカット33a,34aの傾斜方向に変位しようとする。このため、異なる方向へ変位しようとする力同士が相殺される。その結果、セグメント12と絶縁体11との係止力が増加するので、セグメント12は、絶縁体11から離間しにくい。
【0040】
(5)ライザ14に対向する部位に設けられる第3の溝34の溝の深さを、他の部位に設けられる第1及び第2の溝32,33よりも深くした。これにより、セグメント12と絶縁体11との係止面積が溝の深さを一様にした場合と比較して増加する。このため、セグメント12は、絶縁体11から離間しにくい。このライザ14に対向する部位は、ライザ14が電機子コイルと結線されるので、ブラシと摺接しない。従って、当該部位は、摩耗しない。すなわち、板厚が薄くならない。このため、当該部位の第3の溝34の溝の深さを他の部位の第1及び第2の溝32,33よりも深くしても整流子10の寿命は短くならない。
【0041】
<第2の実施形態>
次に、整流子の第2の実施形態について説明する。なお、第2の実施形態と第1の実施形態との主たる相違点は、第1中爪にある。このため、第1の実施形態と同様の構成については、同じ符号を付すものとし、その詳細な説明を割愛する。
【0042】
図10に示すように、整流子101は、円筒状の絶縁体11と、当該絶縁体11の外周面に固定された18個のセグメント120とから構成されている。18個のセグメント120は周方向において等角度間隔で設けられている。なお、セグメント120は、1個あたり角度θ1を占有するものとする。また、18個のセグメント120は、ライザ14、第2中爪16、及び後述する第1中爪121を除いた状態における全体としての内径が径φ1、外径が径φ2であるものとする。
【0043】
図11に示すように、各セグメント120の絶縁体11側の面には、2つの第1中爪121及び溝部130がセグメント120の長手方向に並設されている。2つの第1中爪121はライザ14側に、溝部130は、第2中爪16側に、それぞれ設けられている。なお、2つの第1中爪121は、周方向に並設されている。
【0044】
2つの第1中爪121は、セグメント120の径方向内側の面から切り起こされるとともに、その基端部から第2中爪16側に折り曲げられることにより形成される。このため、2つの第1中爪121の先端部は、セグメント120の径方向内側の面、正確には、溝部130と対向する。
【0045】
従って、2つの第1中爪121は、2つの第2中爪16の先端部とともに、絶縁体11内に埋設する。これにより、各セグメント120は絶縁体11に対して連結される。すなわち、第1中爪121は、係止爪に相当する。
【0046】
なお、各セグメント120の径方向内側の面には、2つの第1中爪121が切り起こされることに伴ってセグメント120の長手方向に延びる2つの加工跡溝122が形成される。2つの加工跡溝122は、周方向に並設されている。
【0047】
図20及び図21に示すように、2つの加工跡溝122の開口部123の両側には、対向するように張り出すアンダーカット124が形成されている。各アンダーカット124の張り出す方向は、絶縁体11の周方向とされている。
【0048】
図11に示すように、溝部130は、5つの第1の溝131と、5つの第2の溝132とにより構成される。5つの第1の溝131は第2中爪16側に、5つの第2の溝132はライザ14側に、それぞれ設けられている。なお、図3(a)及び図3(b)に示すように、第1及び第2の溝131,132は、上記第1の実施形態における第1及び第2の溝32,33と同様の構成とされるので、その詳細な説明を割愛する。
【0049】
次に、整流子101の製造工程について説明する。
なお、整流子101の製造には、切り起こしパンチ140、及びこすりパンチ150を使用する。まず、切り起こしパンチ140、及びこすりパンチ150の構成について説明する。
【0050】
図12に示すように、切り起こしパンチ140は、円筒部141と、円筒部141の外周面に設けられて円筒部141と同軸方向に延びる36本の切り起こし刃142と、を備えている。
【0051】
円筒部141の外径は、18個のセグメント120の全体としての内径φ1よりも小さい径φ6(φ6<φ1)とされている。
36本の切り起こし刃142は、2本1組とされている。18組の切り起こし刃142は、円環状に等間隔で並設されている。これら36個の切り起こし刃142の外径は18個のセグメント120の全体としての内径φ1よりも大きく外径φ2よりも小さい径φ3(φ1<φ3<φ2)とされている。
【0052】
切り起こしパンチ140において、後述する円筒素材161に挿入する側の端部(図12における上方向の端部、図17(b)における下方向の端部)は、外径側を先鋭とするすり鉢状とされている。
【0053】
なお、組とされた2本の切り起こし刃142は、周方向における対向する面同士が離間するとともに、対向しない面同士がセグメント120の占有する角度θ1よりも小さい角度θ2(θ2<θ1)となるように設けられている。
【0054】
図13に示すように、こすりパンチ150は、円柱状のこすり部151と、こすり部151と同軸に設けられる円柱状の押し曲げ部152と、こすり部151と押し曲げ部152との間を接続する接続部153と、を備えている。
【0055】
こすり部151の外径は、18個のセグメント120の全体としての内径φ1よりも大きく切り起こしパンチ140の外径φ3よりも小さい径φ5とされている(φ1<φ5<φ3)。なお、こすり部151には、軸方向に延びる18個の逃がし溝154が等角度間隔で設けられている。
【0056】
押し曲げ部152の外径は、18個のセグメント120の全体としての内径φ1よりも小さい径φ4(φ4<φ1)とされている。
接続部153は、こすり部151の外面と押し曲げ部152の外面とが滑らかに連続するように、押し曲げ部152側に向かうにつれて徐々に外径が小さくなるテーパ状とされている。
【0057】
では、改めて整流子101の製造工程について説明する。なお、溝部130については、第1の実施形態の溝部30の製造工程と同様であるため、その説明を割愛する。
図14に示すように、金属板材20から、打ち抜き素材160を打ち抜く。打ち抜き素材160は略矩形状に成形されている。各打ち抜き素材160の短手方向(長手方向と直交する方向)の一端面には18個のライザ14が、他端面には36個の第2中爪16が、それぞれ形成される。
【0058】
ライザ14は、打ち抜き素材160の長手方向に等間隔に形成される。第2中爪16は、ライザ14と対向する位置を挟むように形成される。また、第2中爪16には、切欠17が形成される。
【0059】
次に、溝部130が内側を向くように打ち抜き素材160を丸めて、図15に示す円筒素材161を成形する。なお、ライザ14と第2中爪16は、円筒素材161の軸線と平行な直線状をなしている。
【0060】
次に、図16に示すように、各ライザ14を径方向外側に折り曲げる。また、第2中爪16を径方向内側に折り曲げて、その先端部が円筒素材22の軸方向中央部を向くようにする。
【0061】
次に、図17(b)に示すように、切り起こしパンチ140をライザ14側から円筒素材161の内部に挿入する。なお、円筒素材161の中心から見た場合に、組とされた切り起こし刃142がライザ14を挟むように切り起こしパンチ140を挿入する。
【0062】
すると、図17(a)及び図17(b)に示すように、切り起こしパンチ140によって円筒素材161の内面が切り起こされて36個の第1中爪121が形成される。なお、36個の第1中爪121が形成されることにより、円筒素材161の内面には、36個の加工跡溝122が形成される。なお、面が切り起こされるため、図19に示すように、これら20個の加工跡溝122の開口部123両側は盛り上がる。
【0063】
次に、円筒素材161から切り起こしパンチ140を引き抜き、図18(b)に示すように、こすりパンチ150をライザ14側から円筒素材161の内部に挿入する。なお、円筒素材161から見た場合に、逃がし溝154(図13参照)が加工跡溝122に重ならないようにこすりパンチ150を挿入する。逃がし溝154では、こすりパンチ150の外周面と円筒素材161の内周面とが摺動しない、すなわち、こすりパンチ150の挿入にかかる摺動抵抗がないので、当該挿入を行い易い。
【0064】
すると、図18(a)及び図18(b)に示すように、押し曲げ部152及び接続部153によって第1中爪121が径方向内側に折り曲げられる。また、こすり部151の外径φ5は、円筒素材161の内径φ1よりも大きく切り起こし刃142の全体の外径φ3よりも小さい。従って、図20に示すように、こすり部151の挿入に伴い加工跡溝122の開口部123、特に切り起こしパンチ140によって盛り上がっていた部分が、開口面積が狭まるように、すなわち、円周方向に対向する開口部123の両側が近づくように倒れてアンダーカット124が形成される。
【0065】
次に、こすりパンチ150を引き抜き、図示しない金型を用いて、円筒素材161の内部に熱硬化性樹脂を充填する。これにより、図21に示すように、加工跡溝122をはじめとする各溝に熱硬化性樹脂が流れ込む。充填後、化学反応により、樹脂が硬化し図10に示す絶縁体11が形成される。
【0066】
その後、絶縁体11と一体をなす円筒素材161の外周面の加工跡溝122を避ける複数箇所に分断溝13(図10参照)を軸方向に沿って成形して円筒素材161を切断する。これにより、互いに電気的に絶縁された18個のセグメント120が成形され、図10に示す整流子101が完成する。
【0067】
次に、整流子10の作用について説明する。
図20及び図21に示すように、加工跡溝122の開口部123にアンダーカット124を設けた。加工跡溝122には、硬化した熱硬化性樹脂である絶縁体11が進入しているので、アンダーカット124によりアンカー効果が得られる。その結果、セグメント120と絶縁体11との係止力が増す。
【0068】
また、円筒素材161を切断してセグメント120を形成する際、分断溝13が加工跡溝122に重ならないようにした。従って、図21に示すように、絶縁体11の周方向において、加工跡溝122の開口部がセグメント120の縁部と連続しない。これにより、絶縁体11の周方向における加工跡溝122の両開口部123にアンダーカット124を設けることができる。その結果、セグメント120と絶縁体11との係止力が増す。
【0069】
以上詳述したように、本実施形態によれば、上述の第1の実施形態の効果に加えて以下に示す効果が得られる。
(6)セグメント120の絶縁体11側の面を切り起こして第1中爪121を形成した。そして、絶縁体11側の面を切り起こした加工跡溝122の開口部123にアンダーカット124を設けた。加工跡溝122には、硬化した熱硬化性樹脂である絶縁体11が進入する。これにより、アンカー効果が得られるので、セグメント120と絶縁体11との係止力が増す。
【0070】
(7)円筒素材161を切断してセグメント120を形成する際、分断溝13が加工跡溝122に重ならないようにした。従って、絶縁体11の周方向において、加工跡溝122の開口部がセグメント120の縁部と連続しない。これにより、絶縁体11の周方向における加工跡溝122の両開口部123にアンダーカット124を設けることができるので、両開口部にアンダーカットが設けられない場合と比較して、セグメント120と絶縁体11との係止力が増す。
【0071】
なお、上記各実施形態は、以下のように変更してもよい。
・上記各実施形態において、次のようにアンダーカットを形成してもよい。すなわち、図8(a)に示すように、くさび形のパンチ9を板面との角度を40°とした状態で、金属板材20に対してプレスする。くさび形のパンチ9を引き抜くと、図8(b)に示すように、溝80が形成されるとともに、溝80の周囲が盛り上がっている。次に、図8(c)に示すように、溝80の幅よりも大きなダイス形のパンチ85を金属板材20に対して板厚方向からプレスする。これにより、図8(d)に示すように、溝80の周囲の盛り上がった部分が倒れて、この倒れた部位がアンダーカット81となる。
【0072】
また、次のようにアンダーカットを形成してもよい。すなわち、図9(a)に示すように、くさび形のパンチ95を板面との角度を直角とした状態で、金属板材20に対してプレスする。くさび形のパンチ95を引き抜くと、図9(b)に示すように、垂直面92を有する溝90が形成される。次に、図9(c)に示すように、形成した溝90の垂直面92側に隣接する部位をパンチ95でプレスする。すると、同図9(c)に示すように、溝90の垂直面92が倒れて、この垂直面92であった部位がアンダーカット91となる。このように、図8(a)〜(d)及び図9(a)〜(c)で示す工程を経てアンダーカットを形成した場合でも、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0073】
また、次のようにアンダーカットを形成してもよい。すなわち、先のくさび型のパンチ95を使用して、図22(a)に示すように、垂直面92が隣接するように、2つの溝90を形成する。次に、図22(b)に示すように、2つの溝90の間、すなわち、2つの垂直面92の間を、くさび形のパンチ96でプレスする。このとき、パンチ96の基端側が先端側よりも2つの垂直面92に近接するようプレスする。すると、同図22(c)に示すように、2つの溝90の垂直面92が倒れて、この垂直面92であった部位がアンダーカット91となる。このような過程を経た場合、一度の作業で複数のアンダーカットを形成することができる。
【0074】
また、次のパンチ180を使用して、アンダーカットを形成してもよい。すなわち、図23(a)に示すように、パンチ180は、第1加工面181、第1加工面181に連続する第2加工面182、及び第2加工面182に連続する第3加工面183を備える。第2加工面182と第3加工面183との間の頂部を加工先端部184とする。パンチ180は、全体として加工先端部184に向かうに従って先鋭とされている。
【0075】
まず、図23(a)に示すように、金属板材20の板面に対し第1加工面181が垂直となるようにパンチ180の加工先端部184を金属板材20に対してプレスする。
すると、図23(b)に示すように、金属板材20には、溝190が形成される。溝190は、第1加工面181によって加工された第1被加工面191と、第2加工面182によって加工された第2被加工面192と、第3加工面183によって加工された第3被加工面193と、を有する。なお、第1被加工面191は、板面に対して垂直面とされている。また、溝190は、第1被加工面191と第2被加工面192との間の頂部である第1被加工頂部194と、第2被加工面192と第3被加工面193との間の頂部である第2被加工頂部195と、を有する。
【0076】
次に、図23(c)に示すように、形成した溝190の第1被加工面191側に隣接する部位をパンチ95でプレスする。このとき、パンチ95の先端部と金属板材20の板面との間の距離が、第1被加工頂部194と金属板材20の板面との間の距離と等しくなるようにパンチ95をプレスする。
【0077】
すると、図23(d)に示すように、第1被加工面191が第1被加工頂部194を基点に倒れて、垂直面でもあった第1被加工面191がアンダーカット196となる。このような過程を経た場合、図8(a)〜図8(c)で示す工程を経て形成するアンダーカットよりも。垂直面を倒す板材の量が少なくて済むので、加工が容易である。
【0078】
・上記第1の実施形態において、溝部30は、2つの溝列31によって構成されたが、上記第2の実施形態に示すように、1つの溝列とされてもよい。また、3列以上とされてもよい。このように構成した場合でも、上記第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0079】
・上記第1の実施形態において、2つの溝列31は、セグメント12の長手方向に沿って設けられたが、必ずしも長手方向の沿って設けなくてもよい。
・上記第1の実施形態において、第3の溝34の溝の深さは、第1及び第2の溝32,33よりも深くされたが、同じ深さとされてもよい。このように構成した場合、上記第1の実施形態の(1)〜(4)の効果と同様の効果を得ることができる。
【0080】
・上記第1の実施形態において、アンダーカット32a〜34aの傾斜方向を同一方向としてもよい。このように構成した場合、上記実施形態の(1)〜(3),(5)の効果と同様の効果を得ることができる。なお、上記第2の実施形態において、溝部130におけるアンダーカットの傾斜方向も同一方向としてもよい。
【0081】
・上記第1及び第2の実施形態において、溝部30,130は、複数の溝から構成されたが、溝の数は1以上あればよい。
・上記第1の実施形態において、第1及び第2中爪15,16は、それぞれ2つ設けられたがそれぞれ1つであってもよい。また、第1及び第2中爪15,16は、セグメント12の長手方向において、必ずしも対とならなくてもよい。また、第1及び第2中爪15,16のどちらかを省略してもよい。さらに、上記第2の実施形態において、第1中爪121は1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。
【0082】
・上記第1の実施形態において、第1〜第3の溝32〜34の全てに、アンダーカットが設けられたが、アンダーカットが設けられる溝は1以上あればよい。
・上記第1及び第2の実施形態において、セグメント12の数はそれぞれ10,18としたが、この数に限定されるものではなく、構成に応じて適宜変更可能である。
【0083】
・上記第1の実施形態では、金属板材20から打ち抜いた打ち抜き素材21を丸めて円筒素材22を成形し、その後、切断することによってセグメント12を成形したが、セグメント12を、金属板材20から直接打ち抜いてもよい。
【0084】
・上記第2の実施形態において、こすりパンチ150の逃がし溝154を省略してもよい。
【符号の説明】
【0085】
10…整流子、11…絶縁体、11a…圧入孔、12,120…セグメント(整流子片)、13…分断溝、14…ライザ(結線爪)、15,121…第1中爪(係止爪)、16…第2中爪(係止爪)、17…切欠、20…金属板材、21,160…打ち抜き素材、22,161…円筒素材、30,130…溝部、31…溝列、32〜34,80,90,131,132…溝、32a〜34a,81,91,124,196…アンダーカット、122…加工跡溝(溝)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23