(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記原料粉末を用意する工程及び/又は前記酸化物焼結体を合成する工程において添加元素としてAlが添加され、それにより酸化物焼結体がAlを添加元素として含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
前記原料粉末を用意する工程及び/又は前記酸化物焼結体を合成する工程において添加元素としてMgが添加され、それにより前記酸化物焼結体が、Mgを添加元素として更に含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータ、携帯電話等のポータブル機器、更にはハイブリッド車、電気自動車等の低公害車(エコカー)等の開発に伴い、それらの電源としての二次電池の需要が急速に拡大している。このような用途に用いられる二次電池においては、液状電解質(電解液)が広く用いられているが、安全性向上の観点から、液状電解質の代わりに固体電解質を用いて全ての電池要素を固体で構成した全固体二次電池等の開発が現在進められている。このような全固体二次電池は、電解質がセラミックス焼結体で構成されるため、発火や漏液の恐れが無い上、腐食による電池性能の劣化等の問題も生じにくいといった利点がある。特に、リチウム金属を電極に用いた全固体リチウム二次電池は、高エネルギー密度を実現しやすい二次電池として期待されている。
【0003】
二次電池の電池特性の向上には、正負極材料間の電位差拡大と、正負極に用いる各材料の容量密度の向上が重要となる。特に負極材料については、リチウム金属やリチウム合金類の使用が特性向上に大きく寄与することが知られている。しかしながら、リチウム金属を負極に用いると、充放電に伴い負極にデンドライト(樹枝状結晶)が析出して、最悪の場合はセパレータを突き破り、正負極間の短絡を引き起こす。その結果、短絡部に電流集中が起こり発熱することで電池の熱暴走の引き金になるため、安全性の問題が懸念されている。この点、電解質部分が固体電解質で形成される全固体電池は、析出物が固体電解質を突き破ることができないため、安全性がより高いものとして期待されている。
【0004】
一方で、電気自動車向けなど高容量電池への期待も高く、そのような候補の一つとしてリチウム空気電池が挙げられる。リチウム空気電池は、正極活物質として大気中の酸素を用い、負極活物質をリチウム金属とした、理論上最大容量が期待できる電池である。しかしながら、このような空気電池においても上記デンドライトの問題があり、上記同様、その解決が強く望まれている。
【0005】
固体電解質として、ガーネット型のセラミックス材料が注目されている。例えば、非特許文献1(Ramaswamy Murugan et al., Angew. Chem. Int. Ed.2007, 46, 1-5)には、Li
7La
3Zr
2O
12(以下、LLZという)が耐リチウム性に優れており、全固体リチウム二次電池の固体電解質として利用できる可能性が報告されている。
【0006】
また、特許文献1(特表2007−528108号公報)には、L
5+xA
yG
zM
2O
12の組成を有するガーネット型の固体イオン伝導体が開示されている。特許文献2(特開2011−051800号公報)には、LLZの基本元素であるLi,La及びZrに加えてAlを加えることで、緻密性やリチウムイオン伝導率を向上できることが開示されている。特許文献3(特開2011−073962号公報)には、LLZの基本元素であるLi,La及びZrに加えてNb及び/又はTaを加えることで、リチウムイオン伝導率を更に向上できることが開示されている。特許文献4(特開2011−073963号公報)には、Li、La、Zr及びAlを含み、Laに対するLiのモル比を2.0〜2.5とすることで、緻密性を更に向上できることが開示されている。特許文献5(特開2012−031025号公報)には、Li
xLn
3(M
1yM
2z)O
t(式中、Lnは、La,Pr,Nd,Sm,Lu,Y,K,Mg,Ba,Ca,Srからなる群より選ばれた1種以上の元素、M
1は、Si,Sc,Ti,V,Ga,Ge,Y,Zr,Nb,In,Sb,Te,Hf,Ta,W,Biからなる群より選ばれた1種以上の元素、M
2は、M
1とは異なる元素であって、Sc,Ti,V,Y,Nb,Hf,Ta,Si,Ga及びGeからなる群より選ばれた1種以上の元素)で表される骨格中にAlを含有するガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物が開示されている。非特許文献2(Materials Science and Engineering B 143 (2007) 14-20)にはLi
5La
3Bi
2O
12が開示されており、粒内のイオン伝導率に関して0.04mS/cmという値が報告されている。しかしながら、これらの固体電解質は伝導率が十分に高いとはいえず、更なる高伝導率化が望まれている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
固体電解質セラミックス材料
本発明の方法により製造されるセラミックス材料は、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質セラミックス材料である。このセラミックス材料は、Li、La、Zr及びOである主要構成元素と、少なくともBiを含む置換元素とを含んでなるガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する酸化物焼結体からなる。置換元素はTa又はNbを更に含むのが好ましい。典型的には、この結晶構造は、少なくともLi、La、Zr及びOで構成されるガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造(以下、LLZ結晶構造という)において、Zrのサイトの一部がBi及び所望によりTa又はNbを含む置換元素で置換されたものである。このような置換により、LLZ結晶構造におけるZrのサイトが複数の所定の元素で構成されることになる。本発明者らの今般の知見によれば、Zrのサイトが複数の所定の元素で構成されることで、イオン伝導率を向上させることができる。置換元素によるZrの一部置換量は、Zrサイトを構成する元素の総モル数に対して、5〜30mol%であるのが好ましく、より好ましくは20〜30mol%であり、更に好ましくは21〜27mol%である。このような本発明のセラミックス材料はガーネット型又はガーネット型類似のLLZ系固体電解質セラミックス材料であるということができるが、Li、La、Zr、Bi、Ta、Nb及びO以外の他の元素(例えばAl)を結晶格子又はそれ以外の部分(例えば粒界)に含むものであってよい。なお、所望により存在しうるTa及びNbは、同じ5価の元素としてZrサイトに置換するが、イオン半径が同等であるため、結晶構造の変化、ひいてはイオン伝導率の変化において同等の効果をもたらす。したがって、Bi及びTaの組合せ、Bi及びNbの組合せ、あるいはBi、Ta及びNbの組合せのいずれでZrサイトを置換しても同等の効果を奏する。
【0014】
本発明のセラミックス材料は、ガーネット型又はガーネット型類似のLLZ系固体電解質セラミックス材料である。LLZ結晶構造の特徴としては、同じガーネット型結晶構造を有する材料の一例として、CSD(Cambridge Structural Database)のX線回折ファイルNo.422259(Li
7La
3Zr
2O
12)に類似のXRDパターンを有する点が挙げられる。なお、No.422259と比較すると構成元素が異なり、またセラミックス中のLi濃度などが異なる可能性があるため、回折角度や回折強度比が異なる場合もある。
【0015】
主要構成元素及び置換元素の各含有量は、LLZ結晶構造が得られている限り特に限定されない。本発明のセラミックス材料におけるLi:La:(Zr+Bi+Ta+Nb)の各モル比は、非特許文献1に記載のLi
7La
3Zr
2O
12における各元素のモル比であるLi:La:Zr=7:3:2とは必ずしも一致せず、むしろそれよりもずれる傾向がある。
【0016】
本発明のセラミックス材料におけるガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造は、一般式:
Li
7−x−yLa
3(Zr
2−x−y,M
x,Bi
y)O
12−δ
(式中、0≦x<0.60、0.03≦y≦0.60、0.10≦x+y≦0.60であり、MはTa又はNbを含み、δは酸素欠損量を示すが0でありうる)
で表される組成を含むのが好ましく、より好ましくは0<x<0.60、0.04≦y≦0.60、0.20≦x+y≦0.60であり、更に好ましくは0.05≦x<0.55、0.04≦y≦0.55、0.30≦x+y≦0.55であり、最も好ましくは0.05≦x<0.40、0.15≦y≦0.55、0.35≦x+y≦0.55である。このような範囲であるとイオン伝導率が特に向上する。なお、最新の装置を用いても酸素欠損量(δ)を定量分析できない実情に照らして、上記一般式は慣習上Li
7−x−yLa
3(Zr
2−x−y,M
x,Bi
y)O
12と略記されてもよいものである。いずれにせよ0≦δ<1であれば問題無いものと考えられる。また、上記一般式は主要構成元素及び置換元素の組成比を規定するものであって、それ以外の他の元素(例えばAlやMg)の結晶格子又はそれ以外の部分(例えば粒界)での含有の可能性を何ら排除するものではない。
【0017】
酸化物焼結体は、焼結助剤用の添加元素としてAlを含むのが好ましい。Alは、LLZ結晶構造を有するセラミックス材料をハンドリング可能な緻密性の高い焼結体ペレットとして得る上で有効な元素であり、リチウムイオン伝導率も向上させる。Alの存在形態は特に限定されず、LLZ結晶構造を確認できるかぎり、Alは結晶格子に存在してもよいし、結晶格子以外に存在してもよい。Alの存在は、例えば、ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析やEPMA(電子線マイクロアナライザ)等により検出することができ、また、その含有量を決定することができる。Alの添加量は、LLZ系固体電解質セラミックス材料の基本特性を損なうことなく密度及びリチウムイオン伝導率を改善できる量とすればよく特に限定されるものではないが、最終的に得られるLLZ−Al系セラミックス粉末や焼結体ペレットの全重量に対して、0.01〜1質量%とするのが好ましく、より好ましくは0.05質量%以上である。このような量でアルミニウムが含有されているとき、改善された密度及びリチウムイオン伝導率が得られる。また、Al含有量は2質量%を大きく超えると粒成長が著しくなり気孔が残留して密度が低下し、結果的にリチウムイオン伝導率が低下する傾向にあり、好ましくは1.2質量%以下である。
【0018】
酸化物焼結体は、添加元素としてMgを更に含んでもよい。Mgは、好ましくはAlと共に添加されることで、焼成ムラ、クラック、空孔等の欠陥、異常粒成長等の発生を抑制又は回避して、密度及び強度を向上させる元素である。Mgの存在形態は特に限定されず、LLZ結晶構造を確認できるかぎり、Mgは結晶格子に存在してもよいし、結晶格子以外に存在してもよい。Mgの存在は、例えば、ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析やEPMA(電子線マイクロアナライザ)等により検出することができ、また、その含有量を決定することができる。Mgの添加量は、LLZ系固体電解質セラミックス材料の基本特性を損なうことなく密度及び強度を改善できる量とすればよく特に限定されるものではないが、酸化物焼結体の総重量に対して、0.01質量%以上マグネシウムが含有されているとき、改善された密度及びリチウムイオン伝導率が得られる。また、置換元素以外の添加元素としてのMg含有量は1質量%を大きく超えるとリチウムイオン伝導率が低下する傾向にあり、好ましくは0.50質量%以下である。より好ましいMg含有量は0.05〜0.30質量%である。
【0019】
本発明の特に好ましい態様によれば、この酸化物焼結体は、添加元素としてAl及びMgの両方を含んでなる。このようにAl及びMgを複合添加することにより、焼成ムラ、クラック、空孔等の欠陥、異常粒成長等の発生を抑制又は回避して、高密度及び高強度を実現することができる。その意味で、Al及びMgは焼結助剤及び/又は粒子成長抑制剤として添加されているといえる。ガーネット型又はガーネット型類似のLLZ系固体電解質セラミックス材料を実用化に向けて大型化しようすると、焼成ムラ、クラック、空孔等の欠陥、異常粒成長等が発生して、緻密性や強度が低下しやすくなるとの問題があったが、Al及びMgの複合添加によってこのような問題が解消される。したがって、本発明のセラミックス材料は、実験室レベルの小型のものに留まらず、実用化ないし量産化に適した大型のものであっても、焼成ムラ、クラック、空孔等の欠陥、異常粒成長等を低減又は回避して、高密度及び高強度を実現することができる。本発明のセラミックス材料は、焼結体サイズとして20mm×20mmを超える大きさを有するものが好ましく、より好ましくは25mm×25mmを超える大きさであり、更に好ましくは50mm×50mmを超える大きさである。また、本発明のセラミックス材料の厚さは電池適用時の内部抵抗低減の観点から、1mm以下が好ましく、より好ましくは0.5mm以下であり、更に好ましくは0.2mm以下である。
【0020】
本発明のセラミックス材料は、4.8g/cm
3以上の密度を有するのが好ましく、より好ましくは5.0g/cm
3以上であり、更に好ましくは5.1g/cm
3以上である。特に5.0g/cm
3以上の密度であると、ハンドリング性が良好でかつ良好なリチウムイオン伝導率を得ることができる上に、薄板化した場合でも空孔等の欠陥に起因する貫通孔の生成が抑制でき、リチウムデンドライト短絡の抑制に効果的である。セラミックス材料の密度は、例えば、ペレットの重量と体積を測定し算出することができる。例えば円柱状のペレットの場合、重量を測定した後、マイクロメーターにてペレットの直径を数箇所測定して平均値とし、厚みも同様にマイクロメーターにて複数箇所測定して平均値として、これらの数値から体積を算出して、それぞれの値から密度を測定する方法又はそれと同等又はそれ以上の精度と正確性が得られる方法で測定することが好ましい。また、本発明のセラミックス材料は、JIS R1601(2008)に準拠して測定される4点曲げ強度が70MPa以上であるのが好ましく、より好ましくは100MPa以上である。
【0021】
本発明のセラミックス材料のリチウムイオン伝導率は、0.70mS/cm以上であることが好ましく、より好ましくは0.80mS/cm以上、さらに好ましくは0.90mS/cm以上、特に好ましくは1.00mS/cm以上である。リチウムイオン伝導率は、例えば、交流インピーダンス法又はそれと同等の精度と正確性が得られる方法で測定することが好ましい。
【0022】
本発明のセラミックス材料は、その伝導率や緻密性を利用して各種用途の固体電解質材料として用いられるものである。例えば、リチウム二次電池等のリチウム電池や、SOx、NOx、炭酸ガス及び酸素等の各種ガスセンサ材料に用いることができるが、全固体リチウム二次電池の固体電解質として用いるのが特に好ましい。例えば、電解液を用いる通常のリチウムイオン二次電池のセパレータ部分に本発明によるセラミックス材料を重ねる又は置換することで、正極側と負極側の電解液を完全に分離することができる。また、正極に硫黄を用いる電池(例えば負極リチウムとの組合せによるLiS電池)においても、セパレータの少なくとも一部を本発明によるセラミックス材料で置換して正負極の電解液を完全に分離することで、正極多硫化物の電解液への溶出に起因する電池容量低下を回避又は抑制することができる。さらに、リチウム空気電池等の空気二次電池においても、液状電解質の少なくとも一部を本発明によるセラミックス材料で置換することで、有機電解液の使用を回避又は抑制でき、電池構造を簡素化すると同時に有機電解液に起因する副反応を抑制することが可能となる。
【0023】
このように、本発明で対象とするセラミックス材料の適用が想定される電池には、リチウム金属を負極に用いることを想定したリチウム空気電池やリチウム硫黄電池をはじめ、全固体電池や現状のリチウムイオン電池に至るまで様々な電池が挙げられる。これらの電池のいずれにおいても、デンドライト短絡を本質的に防止する手段として、セラミックス製の緻密な固体電解質を正負極間の隔壁として用いる方法が有効と考えられる。この点、過去において、リチウム金属を負極に用いた二次電池では、デンドライト(樹脂状結晶)析出物による正負極の短絡事故が多発していた。デンドライト短絡が起こると、その短絡部に電流集中して過剰発熱を起こし電池の熱暴走を誘発して発熱・発火する事故に発展したため、現在ではリチウム金属を負極に用いた電池は一次電池用以外では使われていない。このような現状において、本発明で対象とするセラミックス材料には、このデンドライト短絡を本質的に防止して、上記各種の電池を二次電池として利用可能にできるとの利点がある。従って、本発明の好ましい態様によれば、正極と、負極と、正極及び負極の間に設けられるセラミックス材料からなる固体電解質とを備えたリチウム電池、特に好ましくはリチウム二次電池が提供され、負極は好ましくはリチウム金属又はリチウム合金からなる。
【0024】
製造方法
上述したような本発明による固体電解質セラミックス材料は、次のような手順で製造することができる。まず、ガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を与えることが可能な配合比でLi、La及びZrである主要構成元素と、Bi及び所望によりTa又はNbを含む置換元素と含む原料粉末を用意する。次いで、原料粉末を一段階又は多段階で焼成して、置換元素で部分置換された主要構成元素で構成されるガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する酸化物焼結体をセラミックス材料として合成する。原料粉末を用意する工程及び/又は合成工程において所望により添加元素としてAl及び/又はMgを添加してもよい。そして、焼成が一段階で行われる場合にはその一段階の焼成が酸化雰囲気中で行われ、焼成が多段階で行われる場合にはその最終段階の焼成が酸化雰囲気中で行われる。以下、これらの工程について具体的に説明する。
【0025】
(1)原料粉末の用意
まず、ガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を与えることが可能な配合比で主要構成元素Li,La及びZr、置換元素Bi及び所望によりTa又はNb、並びに所望により添加元素としてのAl及び/又はMgを含む原料粉末、すなわち焼成用原料の粉砕粉を用意する。これらの構成金属元素は、Li成分、La成分、Zr成分、Bi成分、所望によりTa成分又はNb成分、並びに所望によりAl成分及び/又はMg成分として焼成用原料に含有されていればよい。本発明のセラミックス材料はOを含有するが、Oはこれらの構成金属元素の化合物中に構成元素として含まれるものであってよい。これらの各種原料成分は、それぞれの金属元素を含む金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩等の各種金属塩等の任意の形態であることができ、特に限定されない。例えば、Li成分としてはLi
2CO
3又はLiOHを用い、La成分としてはLa(OH)
3又はLa
2O
3を用い、Zr成分としてはZrO
2を用い、Bi成分としてはBi
2O
3を用い、Ta成分としてはTa
2O
5を用い、Nb成分としてはNb
2O
5を用いることができる。
【0026】
原料粉末は、固相反応等によりLLZ結晶構造が得られる程度に、主要構成元素Li,La、Zr及び置換元素を含むことができる。Li成分、La成分、及びZr成分+置換元素成分(すなわちBi成分及び所望によりTa成分又はNb成分)は、LLZの化学量論組成に従えば、7:3:2あるいは組成比に近似した組成で用いることができる。熱処理時におけるLiの揮発等によるLi成分の消失を考慮する場合には、Li成分は、LLZにおけるLiの化学量論に基づくモル比相当量よりも若干(例えば約10%)増量した量を含み、La成分及びZr成分は、それぞれLLZモル比に相当する量となるように含有することができる。例えば、Li:La:(Zr+Bi+Ta+Nb)のモル比が7.7:3:2となるように配合することができる。
【0027】
Bi成分、Ta成分及びNb成分は、それぞれの金属成分を含む、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩等の任意の形態であることができ、特に限定されない。Bi成分の例としては、酸化ビスマス(Bi
2O
3)、次硝酸ビスマス(Bi
5O(OH)
9(NO
3)
4)、炭酸酸化ビスマス(Bi
2(CO
3)O
2)、水酸化ビスマス(Bi(OH)
3)等が挙げられる。Nb成分の例としては、Nb
2O
5、NbCl
5、Nb、プロポキシニオブ等を含んだニオブアルコキシド等が挙げられる。Ta成分の例としては、Ta
2O
5、TaCl
5、Ta、タンタルエトキシド等を含んだタンタルアルコキシド等が挙げられる。
【0028】
Alの添加を原料粉末の用意の際に行ってもよい。すなわち、原料粉末にAl含有粉末を含有させることができる。Al成分は、Alを含む金属酸化物、金属水酸化物、金属硝酸塩、金属有機物、金属単体等の任意の形態であることができ、特に限定されない。Al成分の例としては、Al
2O
3、Al(NO
3)
3・9H
2O、Al(OH)
3、Al、アルミニウムアセチルアセトナート、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムブトキシド、アルミニウムプロポキシド、アルミニウムメトキシド、塩化アルミニウム、塩化アルウミニウム六水和物、塩化ジエチルアルミニウム、オレイン酸アルミニウム、酢酸アルミニウムn水和物、シュウ酸アルミニウム、臭化アルミニウム六水和物、ステアリン酸アルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリメチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、硫酸アルミニウム、ヨウ化アルミニウムなどが挙げられる。Alの添加は、酸化物焼結体がAlを0.01〜1質量%の量で含むように行われるのが好ましく、より好ましくは0.05〜1.2質量%である。この場合、酸化物焼結体におけるAl/Laのモル比が0.008以上0.12以下であるのが好ましく、より好ましくは0.10以下である。
【0029】
Mgの添加を原料粉末の用意の際に行ってもよい。すなわち、原料粉末にはMg含有粉末を含有させることができる。Mg成分は、Mgを含む金属酸化物、金属水酸化物、金属硝酸塩、金属有機物、金属単体等の任意の形態であることができ、特に限定されない。Mg成分の例としては、MgO、MgO
2、Mg(OH)
2、MgCl
2、MgBr
2、MgI
2、MgH
2、MgB
2、Mg
3N
2、MgCO
3、Mg(NO
3)
2、MgClO
4、Mg(CH
3COO)
2、C
14H
10MgO
4、Mg(CH
3(CH
2)
16COO)
2などが挙げられる。Mgの添加は、酸化物焼結体がMgを0.01〜1質量%の量で含むように行われるのが好ましく、より好ましくは0.05〜0.30質量%である。
【0030】
上記各成分は、工業的に生産されて入手可能なものであれば特に限定されることなく使用可能であるが、好ましくは純度95%以上のものであり、より好ましくは純度98%以上のものである。また、各成分における水分は1%以下であることが好ましく、必要に応じて乾燥を行ってもよい。
【0031】
焼成用原料の調製においては、公知のセラミックス粉末合成における原料粉末調製方法を適宜採用することができる。例えば、ライカイ機等や適当なボールミル等に投入して焼成用原料を均一に混合することができる。このような焼成用原料の調製条件は、後続の合成工程に応じて適宜決定されるものである。すなわち、本発明のセラミックス材料に必要な全ての原料成分を含んだ焼成用原料を一度に調製してもよいし、あるいは、原料成分の一部(例えば、Li成分、La成分、Zr成分、Bi成分、Ta成分、Nb成分、Al成分及びMg成分のうちの一部の成分又は部分量)を含む焼成用原料をまず調製しておき、合成工程の直前でこの焼成用原料の焼成粉末(仮焼粉末)に、残余の成分や残余の量(例えばAl成分及び/又はMg成分の全量又はその一部等)を添加して最終的な焼成用原料を得てもよい。
【0032】
(2)合成工程
原料粉末は一段階又は多段階で焼成されて、少なくともLi、La、Zr、Bi及びOで構成されるガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する酸化物焼結体がセラミックス材料として合成される。そして、この合成工程においてAl及び/又はMgが添加されてもよい。
【0033】
この合成工程の少なくとも一つの段階において、原料粉末が充填されたMg含有材料製の焼成用容器(以下、焼成サヤという)中で焼成を行って、この容器からMgを拡散させることによりMgの添加が行われるのが特に好ましい。これにより組成ムラの発生を効果的に抑制して、焼成ムラ、クラック、空孔等の欠陥、異常粒成長等をより効果的に防止することができる。Mg含有材料は焼成に伴いMgを焼結体中に拡散可能に含有する材料であれば特に限定されないが、MgOであるのが好ましい。もっとも、前述したように原料粉末にMg含有粉末を添加させた場合においてはMg含有材料製の焼成サヤの使用は必須ではなく、その場合は、アルミナ製等の他の材質の焼成サヤを使用してもよい。また、焼成サヤからMgを拡散させる態様においても、原料粉末へのMg含有粉末の添加を併せて行ってもよい。いずれにしても、置換元素以外の添加元素としてのMgの添加は、酸化物焼結体がMgを0.01〜1質量%の量で含むように行われるのが好ましく、より好ましくは0.05〜0.30質量%である。
【0034】
この合成工程にあっては、焼成が一段階で行われる場合にはその一段階の焼成が酸化雰囲気中で行われ、焼成が多段階で行われる場合にはその最終段階の焼成が酸化雰囲気中で行われる。したがって、後述する第一の焼成工程と第二の焼成工程とでは、第二の焼成工程を酸化雰囲気中で行うことが好ましい。酸化雰囲気中で焼成を完了させることで、高い密度を確保しながら、改善したイオン伝導率を実現することができる。これは、高伝導率化に寄与するBiが添加されたLLZ系組成物を安定して焼結できるためではないかと考えられる。酸化雰囲気は典型的には酸素を含む雰囲気であり、その例としては大気雰囲気、酸素雰囲気等が挙げられる。中でも酸素雰囲気が好ましく、より好ましくは酸素約100%の酸素雰囲気である。合成のための焼成温度は、特に限定されないが、800℃以上であることが好ましく、より好ましくは850℃以上1250℃以下である。
【0035】
なお、焼成が多段階で行われる場合、最終段階以外の焼成工程(例えば二段階焼成の場合における第一の焼成工程)における焼成雰囲気は、上述したような酸化雰囲気であってもよいし、Arなどの不活性ガスからなる不活性雰囲気であってもよく、特に限定されない。
【0036】
本発明の好ましい態様によれば、合成工程は、上述した原料粉末を焼成して前駆粉末を得る第一の焼成工程と、得られた前駆粉末を粉砕及び酸化雰囲気中で焼成して酸化物焼結体を得る第二の焼成工程とを含んでなる。このような焼成工程の組み合わせにより、LLZ結晶構造が得られやすくなる。この態様において前述したMgの拡散による添加を行う場合には、第二の焼成工程において行われるのが好ましく、この場合、前駆粉末が充填されたMg含有材料製の焼成用容器(焼成サヤ)中で焼成を行って、この容器からMgを拡散させることによりMgの添加を行えばよい。
【0037】
第一の焼成工程は、少なくともLi成分、La成分、Zr成分及びBi成分等の熱分解を行うことで第二の焼成工程でLLZ結晶構造を形成しやくするための前駆粉末を得る工程である。前駆粉末は、LLZ結晶構造を既に有している場合もある。焼成温度は、好ましくは、850℃以上1150℃以下の温度である。第一の焼成工程は、上記温度範囲内において、より低い加熱温度で加熱するステップとより高い加熱温度で加熱するステップとを備えていてもよい。こうした加熱ステップを備えることで、より均一な状態なセラミックス粉末を得ることができ、第二の焼成工程によって良質な焼結体を得ることができる。このような複数ステップで第一の焼成工程を実施するときには、各焼成ステップ終了後、ライカイ機、ボールミル、及び振動ミルなどを用いて混練・粉砕することが好ましい。また粉砕手法は乾式で行うことが望ましい。こうすることで、第二の焼成工程により一層均一なLLZ相を得ることができる。そして、Mgの添加が、粉砕時又はその前後に前駆粉末にMg含有粉末を添加することにより行われてもよい。
【0038】
第一の焼成工程は、大気等の酸化性の雰囲気で行ってもよいし、不活性雰囲気で行ってもよく、原料に応じた雰囲気が適宜選択されるのが好ましい。熱分解を考慮すると、酸化雰囲気が好ましい。また、第一の焼成工程は、850℃以上1150℃以下の熱処理を1回から2回で構成されるのが好ましく、900℃以上1000℃以下(更に好ましくは約950℃)の熱処理ステップ2回から構成されるのがより好ましい。この場合、第一の焼成工程は、全体で加熱温度として設定した最高温度での加熱時間の合計として15時間以上25時間以下程度することが好ましい。
【0039】
第一の焼成工程で用いる焼成用原料は、Al成分及び/又はMg成分を含んでいないものであってよい。この場合には、必要に応じて、第二の焼成工程において、Al成分及び/又はMg成分を添加して焼成すればよい。このAl成分及び/又はMg成分の添加は、Al含有粉末及び/又はMg含有粉末の添加により行われてもよいし、焼成サヤやセッターからのAl及び/又はMgの拡散によって行われてもよい。
【0040】
第一の焼成工程中で用いる焼成用原料は、Al成分及び/又はMg成分を含むものであってもよい。この場合には、Al及び/又はMgを含む前駆粉末を得ることができることから、後続の第二の焼成工程において、別途Al成分及び/又はMg成分を前駆粉末に添加しなくてもよい。すなわち、前駆粉末中にAl及び/又はMgが内在するため、第二の焼成工程がAl及び/又はMgの存在下で行われることになる。なお、第一の焼成工程で用いる焼成用原料がAl成分及び/又はMg成分の必要量の一部を含むようにし、第二の焼成工程において前駆粉末に残余のAl成分及び/又はMg成分を追加するようにしてもよい。このAl成分及び/又はMg成分の添加は、Al含有粉末及び/又はMg含有粉末の添加により行われてもよいし、焼成サヤからのAl及び/又はMgの拡散によって行われてもよい。
【0041】
第二の焼成工程は、第一の焼成工程で得られた前駆粉末を950℃以上1250℃以下の温度で加熱する工程とするのが好ましい。第二の焼成工程によれば、第一の焼成工程で得た前駆粉末を焼成して、最終的に複合酸化物であるLLZ結晶構造を有するセラミックス材料を得ることができる。第二の焼成工程における上記加熱温度での加熱時間は18時間以上50時間以下程度であることが好ましい。時間が18時間よりも短い場合、LLZ系セラミックスの形成が十分ではなく、50時間よりも長い場合、埋め粉を介してセッターと反応しやすくなるほか、結晶成長が著しくサンプルとして強度を保てなくなるからである。好ましくは、30時間以上である。第二の焼成工程は、前述のとおり、酸化雰囲気中で行われる。
【0042】
第二の焼成工程は、前駆粉末を含む成形体とした上で行われるのが好ましい。例えば、前駆粉末又は前駆粉末にAl成分やMg成分等を追加した粉末を周知のプレス手法を用いて加圧成形して所望の三次元形状(例えば、二次電池の固体電解質やセパレータとして使用可能な形状及びサイズ)を付与した成形体とした上で実施することが好ましい。成形体とすることで固相反応が促進されるほか、容易に焼結体を得ることができる。なお、第二の焼成工程後に、第二の焼成工程で得られたセラミックス粉末を成形体として、第二の焼成工程における加熱温度と同様の温度で焼結工程を別途実施してもよい。第二の焼成工程で前駆粉末の成形体を焼成して焼結させる場合、成形体を同じ粉末内に埋没させるようにして実施することが好ましい。こうすることでLiの損失を抑制して第二の焼成工程前後における組成の変化を抑制できる。また、必要に応じて成形体を埋め粉の上下からセッターで押さえ込むことにより、焼結体の焼成時の反りを防止することができる。一方、第二の焼成工程においてLi原料としてLiOHを用いるなどして低温化した場合、前駆粉末の成形体を同じ粉末内に埋没させなくても焼結させることができる。これは、第二の焼成工程が低温化したことで、Liの損失が比較的抑制されるからである。
【0043】
第二の焼成工程をAl及び/又はMgの存在下で実施するには、既に説明したように、Al成分及び/又はMg成分を含む焼成用原料を用いて第一の焼成工程を実施して得られた前駆粉末をそのまま第二の焼成工程で用いる形態のほか、Al成分及び/又はMg成分を含まない焼成用原料を用いて第一の焼成工程を実施し、得られた前駆粉末にAl成分及び/又はMg成分を追加し混合して第二の焼成工程を実施する形態、更にはAl及び/又はMgを含有する焼成サヤを用いて第二の焼成工程を実施する形態が挙げられる。Al及び/又はMgの存在下に第二の焼成工程を実施するには、これらの形態のいずれかであってもよいし、これらの形態を適宜組み合わせてもよい。
【0044】
上述したような合成工程を経て、本発明のセラミックス材料を酸化物焼結体として得ることができる。
【実施例】
【0045】
本発明を以下の例によって更に具体的に説明する。
【0046】
例1
焼成用原料調製のための各原料成分として、水酸化リチウム(関東化学株式会社)、水酸化ランタン(信越化学工業株式会社)、酸化ジルコニウム(東ソー株式会社)、酸化タンタル、酸化ニオブ及び酸化ビスマスを用意した。これらの粉末を表1に示される組成となるように秤量及び配合し、さらに、γ−Al
2O
3をガーネット組成式に対するAlのモル比率で0.1(試料1〜6、8〜12及び14〜18)、0.05(試料7、13、19及び20)又は0.025(試料21及び22)となる量添加して、ライカイ機にて混合して焼成用原料を得た。なお、表1に示される組成は仕込み組成であって、焼成時にLiが損失することを考慮して狙いの組成よりも多めに含有させている。従って、仕込み組成はガーネット型結晶構造の電荷補償を満たしていない組成ではあるが、Liの損失及び/又は酸素欠損が生じることで焼成後には電荷補償を満たした組成になるものと解される。なお、Li以外の元素については焼成時における損失は実質的に無く、表1に示される組成比で焼成後も基本的に保持される。
【0047】
第一の焼成工程として、上記焼成用原料をマグネシア坩堝に入れて大気雰囲気で600℃/時間にて昇温し950℃にて保持する条件で合計20時間焼成を行った。
【0048】
第二の焼成工程として、第一の焼成工程で得られた粉末と玉石を混合し振動ミルを用いて3時間粉砕して、表1の試料1〜22に対応する粉砕粉を得た。この粉砕粉を篩通しした後、得られた粉末を、金型を用いて約100MPaにてプレス成形し、所望の形状の成形体を得た。得られた成形体をマグネシア製のセッター上に乗せ、セッターごとマグネシア製のサヤ内に入れて、酸素約100%の酸素雰囲気にて、200℃/時間で昇温し、1030℃で36時間保持することにより焼結体を得て、そこから10mm平方×厚さ1mm又は直径12mm×厚さ1mmの試料1〜22を得た。酸素雰囲気の使用に際し、事前に容量約3Lの炉内を真空引きした後、純度99.99%以上の酸素ガスを電気炉に1L/分で流した。
【0049】
【表1】
【0050】
試料1〜22の上下面を研磨した後、以下に示される各種の評価ないし測定を行った。
【0051】
結晶構造解析
X線回折装置(Bruker AXS社製、D8 ADVANCE)を用いて試料1〜22のX線回折測定を行ったところ、CSD(Cambridge Structural Database)のX線回折ファイルNo.422259(Li
7La
3Zr
2O
12)類似の結晶構造が得られた。このことから、得られた全ての試料がLLZ結晶構造の特徴を有することが確認された。試料2のX線回折プロファイルを
図1に示す。
図1においてO
2と表示されるX線回折プロファイルが試料2に対応しており、異相ピークは観察されなかった。すなわち、試料2は、図中▽印で示されるCSD‐No.422259から同定されるとおり、LLZ系結晶の単相からなることが判明した。
【0052】
リチウムイオン伝導率の測定
試料の両面にAuスパッタで電極を形成した後、Ar雰囲気のグローブボックス内に導入し、CR2032コインセルに組み込んだ。本コインセルを大気中に取り出し、ソーラトロン社製電気化学測定システム(ポテンショ/ガルバノスタッド,周波数応答アナライザ)を用い、周波数0.1Hz〜1MHz、電圧10mVにて交流インピーダンス測定を行い、リチウムイオン伝導率を算出した。その結果、各試料のリチウムイオン伝導率は表1に示されるとおりであった。本発明による試料1〜20及び22は比較試料21よりも高い伝導率を示した。
【0053】
密度の測定
試料1〜22の重量を測定した後、マイクロメーターを用いて試料1〜22の各辺の長さ若しくは直径及び厚さを数箇所測定して平均値を算出した後、試料1〜22の体積を算出し、密度を算出した。その結果、各試料の密度は表1に示されるとおりであった。本発明による試料1〜20及び22は比較試料21よりも高い焼結体密度を示した。
【0054】
表面微構造とBi分布の評価
試料2を研磨して表面の微構造をSEMで観察するとともに、EDX装置(日本電子製、JSM−6610LV)によりBiの分布を調べた。その結果、
図2Aに示される微構造SEM画像と、
図2B示されるBi分布像が得られた。
図2A及び
図2Bから分かるように酸素雰囲気での焼成を経て得られた試料2にあっては、Biが偏析することなく均一に分布しており、BiがLLZ系粒子内に十分に固溶しているものと解される。
【0055】
例2
酸素雰囲気の代わりに大気雰囲気を用いて第二の焼成工程を行ったこと以外は試料2と同様にして、酸化物焼結体試料23の作製及び評価を行った。結果は表2に示されるとおりであり、試料23についても、試料2よりは若干劣るものの、所望の高い密度及びリチウムイオン伝導率が得られた。試料23のX線回折プロファイルを
図1に示す。
図1においてAirと表示されるX線回折プロファイルが試料23に対応しており、異相ピークは殆ど観察されなかった。すなわち、試料23は、図中▽印で示されるCSD‐No.422259から同定されるとおり、LLZ系結晶の単相から実質的になることが判明した。また、
図3Aの微構造SEM画像及び
図3BのBi分布像から分かるように酸素雰囲気での焼成を経て得られた試料23にあっては、Biが殆ど偏析することなく概ね均一に分布しており、BiがLLZ系粒子内に十分に固溶しているものと解される。
【0056】
例3(比較)
酸素雰囲気の代わりにAr雰囲気を用いて第二の焼成工程を行ったこと以外は試料2と同様にして、酸化物焼結体試料24の作製及び評価を行った。なお、Ar雰囲気を用いる場合、事前に容量約3Lの炉内を真空引きした後、純度99.99%以上のArガスを電気炉に1L/分で流した。その結果は表2、
図1、
図4A及び
図4Bに示されるとおりであり、試料24では試料2(酸素雰囲気)及び試料23(大気雰囲気)よりも低い密度及びリチウムイオン伝導率しか得られなかった。試料24のX線回折プロファイルを
図1に示す。
図1においてArと表示されるX線回折プロファイルが試料24に対応しており、図中矢印で表示される異相ピークが明確に観察された。すなわち、試料24はある程度異相を含むことが判明した。また、
図4Aの微構造SEM画像及び
図4BのBi分布像から分かるようにAr雰囲気での焼成を経て得られた試料24にあっては、Biが均一に分布しておらず、BiがLLZ系粒子内に十分に固溶されることなく、おそらく異相部分に偏析しているものと推測される。
【0057】
【表2】
【0058】
例1の試料2、例2の試料23及び例3の試料24について得られた各種結果の比較から、焼成の最終工程を酸素雰囲気や大気雰囲気といった酸化雰囲気中で行うことで更なる高伝導率化を実現できることが分かる。