特許第6180854号(P6180854)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6180854
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】既存杭の撤去方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 9/00 20060101AFI20170807BHJP
【FI】
   E02D9/00
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-182158(P2013-182158)
(22)【出願日】2013年9月3日
(65)【公開番号】特開2015-48665(P2015-48665A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2016年6月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100064414
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 道造
(74)【代理人】
【識別番号】100111545
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 悦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100129067
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 能章
(73)【特許権者】
【識別番号】510299064
【氏名又は名称】基礎エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064414
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 道造
(74)【代理人】
【識別番号】100111545
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 悦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100129067
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 能章
(72)【発明者】
【氏名】志田 智之
(72)【発明者】
【氏名】村田 浩毅
(72)【発明者】
【氏名】藤川 長敏
【審査官】 荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−122197(JP,A)
【文献】 特開2012−241329(JP,A)
【文献】 特開2002−242185(JP,A)
【文献】 特開2004−131923(JP,A)
【文献】 特開2006−057258(JP,A)
【文献】 実開平07−002538(JP,U)
【文献】 特開2004−162370(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/054094(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 7/00−13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存杭の自重と該既存杭に作用する浮力とを考慮した空洞を形成する芯抜き削孔を行い、前記既存杭を有底筒状に成形する芯抜き工程と、
前記既存杭の外周囲を掘削して前記既存杭と周辺地盤とを縁切りする縁切工程と、
前記既存杭を上昇させて、当該既存杭の一部分を地上に突出させる杭上昇工程と、
前記既存杭の地上に突出した突出部分を切断する切断工程と、を備えることを特徴とする、既存杭の撤去方法。
【請求項2】
前記縁切工程において、前記既存杭の外周囲にケーシングを配置し、
前記杭上昇工程において、前記ケーシングの内側に液体を注入することを特徴とする、請求項1に記載の既存杭の撤去方法。
【請求項3】
前記空洞に液体を注入することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の既存杭の撤去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存杭の撤去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既存構造物を解体して新たな構造物を構築する場合には、一般的に、既存構造物の地上部分を解体するとともに基礎を含む地下部分を解体した後、新たな地下部分(基礎)および地上部分を構築する。
【0003】
基礎を解体する際の既存杭の撤去は、地上から杭の周囲をケーシングにより切削し、ケーシングの内部を破砕して撤去するのが一般的である。
また、既存杭の杭径が比較的小さい場合には、杭外周を切削し、地盤と縁切りした後、既存杭を直接引き抜くことも行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、既存杭の外周を囲うようにケーシングを挿入して既存杭と地盤とを縁切りした後、ケーシングの下端からケーシング内にモルタルを注入することで、既存杭を上昇させながら(押し上げながら)既存杭を引き抜く既存杭の撤去方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、既存杭の芯部分を所定長削孔する削孔作業と、削孔作業により残った円筒状の外周部分の下端部を削孔内から切断する切断作業と、切断された円筒状の外周部分を地中から引き上げる引上げ作業とを繰り返すことにより既存杭を撤去する既存杭の撤去方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06−207412号公報
【特許文献2】特開2012−102559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の既存杭の撤去方法は、既存杭の原形を維持したまま引き抜くため、既存杭の引き抜きに使用する装置や設備が大掛かりとなり、施工費が高価になる場合があった。
また、作業箇所の上空に他の構造物が存在する等、既存杭を引き抜くために必要なスペースを確保することができない場合には採用することができなかった。
【0008】
特許文献2の既存杭の撤去方法は、切断作業において削孔内に挿入可能な切断装置や、引上げ作業において地中から円筒状の外周部分を掴んで引き上げる引上げ装置等の特殊な機械を使用する必要があった。
また、削孔作業、切断作業および引上げ作業を繰り返し実施するため、作業毎に装置を交換する必要があり、作業に手間がかかる場合があった。
【0009】
本発明は、前記問題点を解決するものであって、施工個所上空の高さに制限がある場合であっても簡易に既存杭を撤去することができる既存杭の撤去方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決する本発明の既存杭の撤去方法は、既存杭の自重と該既存杭に作用する浮力とを考慮した空洞を形成する芯抜き削孔を行い、前記既存杭を有底筒状に成形する芯抜き工程と、前記既存杭の外周囲を掘削して前記既存杭と周辺地盤とを縁切りする縁切工程と、前記既存杭を上昇させて、当該既存杭の一部分を地上に突出させる杭上昇工程と、前記既存杭の地上に突出した突出部分を切断する切断工程とを備えることを特徴としている。
【0011】
かかる既存杭の撤去方法によれば、所定の大きさの空洞を形成する芯抜き削孔を行い、既存杭を軽量化させたうえで浮力を利用して上昇させるため、既存杭を上昇させる際に使用する装置(揚重機)等の小規模化が可能となる。また、既存杭を所定長毎に切断するため、上空に制限がある場合であっても作業を行うことが可能である。
【0012】
また、芯抜き削孔後の既存杭が有底であるため、地下水等による浮力は既存杭の全長にわたって芯抜きを行う場合よりも大きくなり、したがって、既存杭を支持する装置(揚重機)等への負荷を低減することが可能となる。
なお、芯抜き工程と縁切工程の順序は限定されない。
【0013】
前記縁切工程において前記既存杭の外周囲にケーシングを配置し、前記杭上昇工程において前記ケーシングの内側に水や泥水等の液体を注入(注水)すれば、地下水が存在しない場合でも既存杭に浮力が作用するようになるので、より効率的に既存杭の撤去作業を行うことが可能となる。また、地下水が存在する場合においても、水よりも密度が大きい泥水を注水することで既存杭の浮力を増加させてもよい。
【0014】
また、前記杭上昇工程において、前記空洞に水や泥水等の液体を注入(注水)することで、既存杭の上昇量や上昇速度を調整してもよい。こうすることで、浮力に比べて既存杭の杭質量が小さい場合であっても、既存杭が必要以上に突出することを防止でき、また、施工時の安全性を確保することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の既存杭の撤去方法によれば、施工個所上空の高さに制限がある場合であっても簡易に既存杭を撤去することが可能となる。
また、従来の既存杭の撤去方法に比べて地上からの作業が多いため、作業性に優れている。
さらに、ハンマーグラブ等で既存杭を破砕する場合に比べて工期を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(a)〜(c)は、本実施形態に係る既存杭撤去方法の各工程を示す断面図である。
図2】(a)〜(c)は、図1の(c)に続く既存杭撤去方法の各工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態では、杭径2.0m、杭長50mの鉄筋コンクリート製の既存杭1を撤去する場合について説明する。なお、既存杭1の形状寸法は限定されない。
【0018】
本実施形態の既存杭の撤去方法は、芯抜き工程と、縁切工程と、杭上昇工程と、切断工程とを備えている。
【0019】
芯抜き工程は、図1の(a)に示すように、既存杭1に対して芯抜き削孔を行い、既存杭を有底筒状に成形する工程である。
【0020】
既存杭1の芯抜き削孔は、既存杭1の鉄筋(鉄筋籠)2を切断しないように、既存杭1の中央部を軸方向に沿って削孔する。
【0021】
本実施形態では、鉄筋籠の内径が1.8mの既存杭1に対して、直径1.6mの空洞3を形成する。空洞3は、既存杭1に底部を残した状態で、46mの深さに形成する。なお、空洞3の形状寸法は、既存杭の自重と該既存杭に作用する浮力とを考慮して設定する。
【0022】
既存杭1の削孔方法は限定されるものではないが、例えば、オールケーシング掘削機(図示せず)を利用して行えばよい。
なお、空洞3は、削孔に使用した泥水等の安定液で満たしておく。また、削孔に伴い発生したコンクリート片等は、空洞3内から取り除く。
【0023】
縁切工程は、図1の(b)に示すように、既存杭1の外周囲を掘削して既存杭1と周辺地盤Gとを縁切りする工程である。
【0024】
本実施形態では、既存杭1の外周囲にケーシング4を配置することにより、既存杭1と周辺地盤Gとを縁切りする。
【0025】
縁切り(ケーシング4の配置)は、既存杭1の外周に清水や泥水(安定液)等を循環させながら、オールケーシング掘削機(図示せず)等を用いて行う。
本実施形態では、ケーシング4として、その内径が既存杭1の外径よりも大きく、その長さが既存杭1の長さよりも長いものを使用する。
【0026】
杭上昇工程は、図1の(c)に示すように、既存杭1を上昇させて、既存杭1の一部分を地上に突出させる工程である。なお、杭上昇工程において、地上に突出させる既存杭1の高さ(突出長)は限定されない。
【0027】
既存杭1は、既存杭1の内部に残存する安定液を排水することにより既存杭1の見掛け上の比重を小さくすることにより浮力を利用して上昇させる。このとき、必要に応じて揚重機等により既存杭1を吊り上げる。
【0028】
ここで、鉄筋コンクリートの単位体積重量が25kN/mとして、既存杭1の空洞3内に安定液が満水だとすると、既存杭1の重量は2724kN(式1参照)である。なお、安定液の密度は12kN/mとする
【0029】
1614kN+1110kN=2724kN ・・・ 式1
ここで、
削孔前の既存杭の重量:3927kN=157.1m既存杭の体積)×25kN/m
既存杭撤去部分の重量:2313kN=92.5m(撤去部分の体積)×25kN/m
削孔後の既存杭の重量:1614kN=3927kN−2313kN
満水時の安定液の重量:1110kN=92.5 m(空洞の容積)×12kN/m
【0030】
一方、既存杭1の周囲の安定液等により既存杭1に作用する浮力は、1885kN(式2参照)である。
157.1m×12kN/m=1885kN ・・・ 式2
【0031】
したがって、既存杭1の空洞3内から安定液をすべて排水すれば、浮力が既存杭1の重量よりも大きくなる(式3参照)。つまり、空洞3から安定液を排水する過程で既存杭1が浮き上がるようになる。
2724kN−1110kN=1614kN<1885kN ・・・ 式3
【0032】
また、本実施形態では、大きな浮力が得られるように、ケーシング4の内側(既存杭1の周囲)に密度の高い泥水を注水する。
なお、浮力だけでは既存杭1が浮き上がらないようにした場合には、揚重機やジャッキ等を利用して既存杭を引き上げる(上昇させる)。また、浮力に比べて、既存杭1の杭質量が小さい場合には、既存杭1の空洞3内に清水等を注水し、浮力とのバランスを取ることで、既存杭の上昇量や上昇速度を調整する。
【0033】
切断工程は、図2の(a)および(b)に示すように、既存杭1の地上に突出した突出部分を切断する工程である。
【0034】
切断工程では、まず、図2の(a)に示すように、既存杭1の突出部分に仮受け部材5を設置し、地上部において仮受けする。
既存杭1が所定の高さだけ地上に突出したら、それ以上の浮き上がりを止めるべく、空洞3に安定液や清水等の液体を注入する。
次に、仮受け部材5の上方において、既存杭1の突出部分を切断する。このとき、突出部分には、吊部材6を設置しておく。なお、既存杭1の切断に使用する装置は限定されない。
【0035】
既存杭1の突出部分を切断したら、図2の(b)に示すように、吊部材6にワイヤー等を取り付けて揚重機等を利用して、切断した筒状体7を撤去する。なお、筒状体7の撤去方法は限定されない。また、吊部材6は必要に応じて設置すればよく、必ずしも設置する必要はない。
【0036】
筒状体7を撤去したら、図2の(c)に示すように、空洞3から安定液を排出して既存杭1を浮上させるか、あるいは、揚重機等を利用して既存杭1をさらに引き上げ、既存杭1の残部の上部を地上に突出させる(杭上昇工程)。そして、図2の(a)および(b)に示すように、既存杭1の突出部分を切断し、撤去する(切断工程)。
このように、杭上昇工程および切断工程を繰り返すことにより、既存杭1の全体を撤去する。
【0037】
本実施形態の既存杭の撤去方法によれば、既存杭1に対して芯抜き削孔を行うため、軽量化させた状態で既存杭1を上昇させることができ、揚重機等の引上げ手段の負担の軽減化が可能となる。
【0038】
既存杭1の芯抜き削孔は、既存杭1が有底の筒状体になるように行うため、底を残さない場合に比べて既存杭1には大きな浮力が作用する。
そのため、既存杭1を上昇させる際の引上げ手段への負荷を軽減すること、あるいは、浮力のみで既存杭1を浮上(上昇)させることが可能となる。
【0039】
また、既存杭1は、ケーシング4が周設されていることで周面地盤とは縁切りされており、既存杭1に作用する周面摩擦力が取り除かれているか、あるいは、低減されているため、既存杭1を上昇させる際の引上げ手段への負荷がさらに軽減されている。
【0040】
既存杭1に形成された空洞3内への安定液等の注水あるいは排水により、既存杭1の重量と浮力とのバランスを図り、施工時の安全性を確保することを可能としている。
【0041】
杭上昇工程および切断工程は、地上から作業することを可能としているため、各工程における作業は、既存の機械工具と簡易な設備を組み合わせて行うことができるため、特殊な機械を使用する必要がなく、比較的安価に既存杭1を撤去することができる。
【0042】
既存杭1の撤去後、鉄筋(鉄筋籠)を建て込み、コンクリートを打設することで、場所打ち杭を形成することができるため、既存杭1の撤去から新設杭の施工までのプロセスを一括して実施することができ、施工性に優れている。
【0043】
既存杭1の軽量化を図るとともに既存杭1に作用する浮力を利用して既存杭1を撤去するため、大規模な揚重機等を使用することなく、既存杭1の撤去を行うことができる。そのため、空頭制限下での施工や、比較的施工スペースが小さい場合であっても、施工が可能である。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、芯抜き工程後に縁切工程を行う場合について説明したが、芯抜き工程と縁切工程の順序は限定されるものではなく、縁切工程を実施した後に芯抜き工程を実施してもよい。
【0045】
前記実施形態では、縁切工程においてケーシング4を既存杭1の周囲に配置する場合について説明したが、ケーシング4は必ずしも配置する必要はない。
【0046】
既存杭1に形成された空洞3の底部に貫通孔を形成し、この貫通孔から既存杭1の下端と地山との間にグラウトを注入することで、既存杭1を押し上げてもよい。
【0047】
既存杭1は無筋コンクリートであってもよく、必ずしも鉄筋コンクリートである必要はない。また、既存杭1の断面形状は、限定されない。
【符号の説明】
【0048】
既存杭
2 鉄筋
3 空洞
4 ケーシング
5 仮受け部材
6 吊部材
7 筒状体
図1
図2