特許第6180860号(P6180860)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6180860
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】スクロール圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20170807BHJP
   F04C 29/12 20060101ALI20170807BHJP
   F04C 28/26 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   F04C18/02 311V
   F04C29/12 E
   F04C28/26 F
【請求項の数】13
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-188214(P2013-188214)
(22)【出願日】2013年9月11日
(65)【公開番号】特開2015-55173(P2015-55173A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2016年4月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 創
(72)【発明者】
【氏名】水野 尚夫
(72)【発明者】
【氏名】後藤 利行
【審査官】 新井 浩士
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−061294(JP,A)
【文献】 特開2004−143951(JP,A)
【文献】 特開2008−095637(JP,A)
【文献】 特開2011−102579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/02
F04C 28/26
F04C 29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定スクロールおよび旋回スクロールの渦巻き状ラップの歯先面および歯底面の渦巻き方向に沿う位置に各々段部が設けられ、その段部を境に前記渦巻き状ラップの外周側のラップ高さが内周側のラップ高さよりも高くされているスクロール圧縮機において、
前記固定スクロールの歯底面側に、少なくとも前記段部が噛み合いを開始する位置(θs)から噛み合いを終了する位置(θs+π)までの範囲にて開口され、圧縮室の圧力が設定圧以上に過圧縮されたときに開放されるバイパスポートが少なくとも1つ以上設けられ、
前記バイパスポートに加え、前記段部が噛み合いを終了した位置(θs+π)から前記圧縮室が吐出ポートに連通される位置(θp)までの範囲にて開口され、前記圧縮室の圧力が設定圧以上に過圧縮されたときに開放される第3バイパスポートが少なくとも1つ以上設けられていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
前記バイパスポートに加え、前記圧縮室の吸入締切り位置(θd)から前記段部が噛み合いを開始する位置(θs)までの範囲にて開口され、前記圧縮室の圧力が設定圧以上に過圧縮されたときに開放される第2バイパスポートが少なくとも1つ以上設けられていることを特徴とする請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
前記段部が噛み合いを開始する位置(θs)から噛み合いを終了する位置(θs+π)までの範囲にて開口される前記バイパスポートの合計開口面積が、他の範囲にて開口される前記第3バイパスポートの開口面積よりも大きくされていることを特徴とする請求項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
前記段部が噛み合いを開始する位置(θs)から噛み合いを終了する位置(θs+π)までの範囲にて開口される前記バイパスポートの合計開口面積が、他の範囲にて開口される前記第2バイパスポートまたは前記第3バイパスポートの開口面積よりも大きくされていることを特徴とする請求項2に記載のスクロール圧縮機。
【請求項5】
前記バイパスポートのポート数が、前記第3バイパスポートのポート数よりも多くされることにより、合計開口面積が大きくされていることを特徴とする請求項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項6】
前記バイパスポートのポート数が、前記第2バイパスポートまたは前記第3バイパスポートのポート数よりも多くされることにより、合計開口面積が大きくされていることを特徴とする請求項4に記載のスクロール圧縮機。
【請求項7】
前記バイパスポートの1個当たりのポート面積が、前記第3バイパスポートの1個当たりのポート面積よりも大きくされることにより、合計開口面積が大きくされていることを特徴とする請求項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項8】
前記バイパスポートの1個当たりのポート面積が、前記第2バイパスポートまたは前記第3バイパスポートの1個当たりのポート面積よりも大きくされることにより、合計開口面積が大きくされていることを特徴とする請求項4に記載のスクロール圧縮機。
【請求項9】
前記バイパスポートおよび前記第3バイパスポートには、各々設定圧以上で開放されるリード弁が設けられていることを特徴とする請求項1、請求項3、請求項5または請求項7のいずれかに記載のスクロール圧縮機。
【請求項10】
前記バイパスポート、前記第2バイパスポートおよび前記第3バイパスポートには、各々設定圧以上で開放されるリード弁が設けられていることを特徴とする請求項2、請求項4、請求項6または請求項8のいずれかに記載のスクロール圧縮機。
【請求項11】
前記リード弁は、前記バイパスポートおよび前記第3バイパスポートのいずれかが各々2個以上複数個設けられる場合、その複数のポートを互いに近接して設置することにより、1個の共用リード弁により開閉可能とされていることを特徴とする請求項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項12】
前記リード弁は、前記バイパスポート、前記第2バイパスポートおよび前記第3バイパスポートのいずれかが各々2個以上複数個設けられる場合、その複数のポートを互いに近接して設置することにより、1個の共用リード弁により開閉可能とされていることを特徴とする請求項10に記載のスクロール圧縮機。
【請求項13】
前記各段部は、それぞれ複数の段で構成され、前記バイパスポートは、その複数の段の最初の段が噛み合いを開始する位置(θs)から最終の段が噛み合いを終了する位置(θs+π)までの範囲において開口されるように設けられていることを特徴とする請求項1ないし12のいずれかに記載のスクロール圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定スクロールおよび旋回スクロールの渦巻き方向に沿う位置に段部が設けられている、いわゆる段付きスクロール圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固定スクロールおよび旋回スクロールの渦巻き状ラップの歯先面および歯底面の渦巻き方向に沿う位置に各々段部が設けられ、該段部を境に渦巻き状ラップの外周側のラップ高さが内周側のラップ高さよりも高くされている段付きスクロール圧縮機は、渦巻き状ラップの周方向だけでなく、ラップ高さ方向にも圧縮(三次元圧縮)されるため、段部を備えていない一般的なスクロール圧縮機(二次元圧縮)に比べ、押しのけ量を大きくし、圧縮機容量を増加することができる。従って、圧縮機の外径を大型化することなく、圧縮比を高め、性能向上を図ることにより、小型化、軽量化を達成することができる。
【0003】
かかる段付きスクロール圧縮機において、運転状態により圧縮室の圧力が上昇し、その圧力が吐出ポートと連通する前に設定圧以上となったとき、圧縮ガスをバイパスポートおよびバイパス弁を経て吐出室に逃がす過圧縮防止機構を備えた段付きスクロール圧縮機が特許文献1に開示されている。また、特許文献2には、段部において渦巻き状ラップ同士が噛み合い、歯先側でラップ同士が接触することによる歯先面側の段部の根元への応力集中で、該段部の根元が破損する事態を解消するため、歯先面側または歯底面側の段部の一方または双方のラップの少なくとも噛み合い開始位置から所定の噛み合い範囲に、ラップ同士の接触を回避する減肉部を設けたものが開示されている。
【0004】
一方、段部を備えていないスクロール圧縮機において、圧縮室の運転圧力比が設定圧力比の0.5〜0.75となる位置に、圧縮室側から吐出室側への圧縮ガスの吐出を許容するバイパス弁を備えたバイパスポートを設け、過圧縮による動力損失を低減するようにしたものが特許文献3に開示されている。また、特許文献4には、両スクロールにより形成される圧縮室と吐出室との間に、少なくとも4個のリリーフポートと1個の吐出ポートとを設けるとともに、各ポートにリリーフ弁を設け、リリーフポートまたは吐出ポートの1つが常に圧縮室と連通するようにし、圧縮行程の全域において液圧縮、過圧縮を防止できるようにしたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−287512号公報
【特許文献2】特開2013−36366号公報
【特許文献3】特開昭63−140884号公報
【特許文献4】特開2000−345976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1ないし4のいずれにも、段付きスクロール圧縮機における渦巻き状ラップの歯底面側の段部に着目し、少なくともその段部が噛み合いを開始する位置(θs)から噛み合いを終了する位置(θs+π)までの範囲において、過圧縮や液圧縮の発生を確実に防止し、渦巻き状ラップの歯先面側の段部が過圧縮や液圧縮による過大な差圧を受け、その差圧による段部の根元部への応力集中によって、該段部の根元が破損に至る事態を解消しようとする技術は記載されていない。
【0007】
以上のように、現状では、段付きスクロール圧縮機の固定スクロールおよび旋回スクロールの渦巻き状ラップ同士が段部において噛み合い、その状態で過圧縮や液圧縮による過大な差圧を受けた場合において、渦巻き状ラップにおける歯先面側の段部の根元部への応力集中に対する対応策が十分に採られているとは云えず、その耐久性、信頼性が確保されていないのが実情であった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、いわゆる段付きスクロール圧縮機の固定および旋回スクロールの渦巻き状ラップの歯先面側段部の根元部に対する過圧縮や液圧縮による応力集中を回避し、該段部の根元が破損に至る事態を確実に解消して耐久性、信頼性を高めたスクロール圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決するために、本発明のスクロール圧縮機は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかるスクロール圧縮機は、固定スクロールおよび旋回スクロールの渦巻き状ラップの歯先面および歯底面の渦巻き方向に沿う位置に各々段部が設けられ、その段部を境に前記渦巻き状ラップの外周側のラップ高さが内周側のラップ高さよりも高くされているスクロール圧縮機において、前記固定スクロールの歯底面側に、少なくとも段部が噛み合いを開始する位置(θs)から噛み合いを終了する位置(θs+π)までの範囲にて開口され、圧縮室の圧力が設定圧以上に過圧縮されたときに開放されるバイパスポートが少なくとも1つ以上設けられていることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、固定スクロールおよび旋回スクロールの渦巻き状ラップの歯先面および歯底面の渦巻き方向に沿う位置に各々段部が設けられている、いわゆる段付きスクロール圧縮機にあって、固定スクロールの歯底面側に、少なくとも段部が噛み合いを開始する位置(θs)から噛み合いを終了する位置(θs+π)までの範囲にて開口され、圧縮室の圧力が設定圧以上に過圧縮されたときに開放されるバイパスポートが少なくとも1つ以上設けられているため、渦巻き状ラップの歯先面および歯底面に設けられている段部が噛み合いを開始する位置(θs)から噛み合いを終了する位置(θs+π)までの範囲において、過圧縮や液圧縮により圧縮室内の圧力が上昇し、設定圧以上になったとき、バイパスポートを開放することによって、圧縮室内の圧縮ガスを吐出室にリリーフすることができる。従って、渦巻き状ラップの歯先面側の段部の根元部に過圧縮や液圧縮による過大な応力が負荷され、その根元が破損に至る事態を確実に解消し、段付きスクロール圧縮機の耐久性、信頼性を向上することができるとともに、過圧縮による動力損失をも低減することができる。
【0011】
さらに、本発明のスクロール圧縮機は、上記のスクロール圧縮機において、前記バイパスポートに加え、前記圧縮室の吸入締切り位置(θd)から前記段部が噛み合いを開始する位置(θs)までの範囲にて開口され、前記圧縮室の圧力が設定圧以上に過圧縮されたときに開放される第2バイパスポートが少なくとも1つ以上設けられていることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、バイパスポートに加え、圧縮室の吸入締切り位置(θd)から段部が噛み合いを開始する位置(θs)までの範囲にて開口され、圧縮室の圧力が設定圧以上に過圧縮されたときに開放される第2バイパスポートが少なくとも1つ以上設けられているため、渦巻き状ラップの高さが高くされている段部よりも外周側での噛み合い、すなわち圧縮室の吸入締切り位置(θd)から段部が噛み合いを開始する位置(θs)までの範囲の噛み合いにおいて、過圧縮や液圧縮により圧縮室内の圧力が上昇し、設定圧以上になったとき、第2バイパスポートを開放することにより、圧縮室内の圧縮ガスを吐出室にリリーフすることができる。従って、ラップ高さが高くされることで強度が弱くなる段部よりも外周側においても、渦巻き状ラップの強度を十分確保し、耐久性、信頼性を確保することができるとともに、動力損失を低減することができる。
【0013】
さらに、本発明のスクロール圧縮機は、上述のいずれかのスクロール圧縮機において、前記バイパスポートに加え、前記段部が噛み合いを終了した位置(θs+π)から前記圧縮室が吐出ポートに連通される位置(θp)までの範囲にて開口され、前記圧縮室の圧力が設定圧以上に過圧縮されたときに開放される第3バイパスポートが少なくとも1つ以上設けられていることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、バイパスポートに加え、段部が噛み合いを終了した位置(θs+π)から圧縮室が吐出ポートに連通される位置(θp)までの範囲にて開口され、圧縮室の圧力が設定圧以上に過圧縮されたときに開放される第3バイパスポートが少なくとも1つ以上設けられているため、段部での噛み合いが終了した位置(θs+π)から圧縮室が吐出ポートに連通される位置(θp)までの範囲の噛み合いにおいても、過圧縮や液圧縮により圧縮室内の圧力が上昇し、設定圧以上になったとき、第3バイパスポートを開放することにより、圧縮室内の圧縮ガスを吐出室にリリーフすることができる。従って、過圧縮や液圧縮により圧縮室内の圧力が最も上昇する範囲を含む圧縮行程の全域において、圧力が異常上昇された圧縮ガスを確実に吐出室にリリーフして過圧縮および液圧縮を防止し、耐久性、信頼性を確保することができるとともに、動力損失を低減することができる。
【0015】
さらに、本発明のスクロール圧縮機は、上述のいずれかのスクロール圧縮機において、前記段部が噛み合いを開始する位置(θs)から噛み合いを終了する位置(θs+π)までの範囲にて開口される前記バイパスポートの合計開口面積が、他の範囲にて開口される前記第2バイパスポートまたは第3バイパスポートの開口面積よりも大きくされていることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、段部が噛み合いを開始する位置(θs)から噛み合いを終了する位置(θs+π)までの範囲にて開口されるバイパスポートの合計開口面積が、他の範囲にて開口される第2バイパスポートまたは第3バイパスポートの開口面積よりも大きくされているため、段部が噛み合う範囲において開口されるバイパスポートの合計開口面積をより大きくし、過圧縮あるいは液圧縮が発生した場合、圧力が異常上昇した圧縮室内の冷媒ガスを速やかに吐出室にリリーフし、段部が噛み合う区間での過圧縮あるいは液圧縮の発生をより確実に防止することができる。従って、渦巻き状ラップの歯先面側段部の根元部に対する過圧縮や液圧縮による応力の集中をより確実に回避し、段付きスクロール圧縮機の耐久性、信頼性を一段と向上することができる。
【0017】
さらに、本発明のスクロール圧縮機は、上記のスクロール圧縮機において、前記バイパスポートのポート数が、前記第2または第3バイパスポートのポート数よりも多くされることにより、合計開口面積が大きくされていることを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、バイパスポートのポート数が、第2または第3バイパスポートのポート数よりも多くされることにより、合計開口面積が大きくされているため、一般にこの種ポートの径は所定径以下に制限されるが、バイパスポートのポート数を多くすることにより簡易にその合計開口面積を大きくすることができる。従って、段部が噛み合う区間に設けるバイパスポートのポート数を多くし、合計開口面積を大きくすることにより、段部が噛み合う区間での過圧縮および液圧縮をより確実に防止することが可能となる。
【0019】
さらに、本発明のスクロール圧縮機は、上記のスクロール圧縮機において、前記バイパスポートの1個当たりのポート面積が、前記第2または第3バイパスポートの1個当たりのポート面積よりも大きくされることにより、合計開口面積が大きくされていることを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、バイパスポートの1個当たりのポート面積が、第2または第3バイパスポートの1個当たりのポート面積よりも大きくされることにより、合計開口面積が大きくされているため、ポートの径が所定径以下に制限される中において、1個当たりのポート面積を変えることにより、同じ数のポートを設ける際にも簡易にバイパスポートの合計開口面積を大きくすることができる。従って、段部が噛み合う区間に設けるバイパスポートの1個当たりのポート面積を大きくし、合計開口面積を大きくすることにより、段部が噛み合う区間での過圧縮および液圧縮をより確実に防止することが可能となる。
【0021】
さらに、本発明のスクロール圧縮機は、上述のいずれかのスクロール圧縮機において、前記バイパスポート、前記第2バイパスポートおよび前記第3バイパスポートには、各々設定圧以上で開放されるリード弁が設けられていることを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、バイパスポート、第2バイパスポートおよび第3バイパスポートに各々設定圧以上で開放されるリード弁が設けられているため、各バイパスポートが設けられている位置で過圧縮や液圧縮により圧縮室内の圧力が上昇し、その圧力が各バイパスポートに設けられているリード弁の設定圧以上となると、該リード弁が開き、各バイパスポートを吐出室に対して開放することができる。従って、各々のリード弁により各バイパスポートを設定圧以上で簡易に開放し、圧縮ガスを吐出室へとリリーフすることができる。
【0023】
さらに、本発明のスクロール圧縮機は、上記のスクロール圧縮機において、前記リード弁は、前記バイパスポート、前記第2バイパスポートおよび前記第3バイパスポートのいずれかが各々2個以上複数個設けられる場合、その複数のポートを互いに近接して設置することにより、1個の共用リード弁により開閉可能とされていることを特徴とする。
【0024】
本発明によれば、リード弁が、バイパスポート、第2バイパスポートおよび第3バイパスポートのいずれかが各々2個以上複数個設けられる場合、その複数のポートを互いに近接して設置することにより、1個の共用リード弁により開閉可能とされているため、バイパスポートの数を増やすと、それに伴ってリード弁の数を増やす必要があるが、複数のポートを互いに近接して設置し、1個の共用リード弁で開閉可能とすることにより、リード弁の数をバイパスポート数に対して低減することができる。従って、狭いスペースに対するリード弁の設置を容易化することができるとともに、バイパスポートの数を増やすことによって、過圧縮や液圧縮の防止機能を向上することができる。
【0025】
さらに、本発明のスクロール圧縮機は、上述のいずれかのスクロール圧縮機において、前記各段部は、それぞれ複数の段で構成され、前記バイパスポートは、その複数の段の最初の段が噛み合いを開始する位置(θs)から最終の段が噛み合いを終了する位置(θs+π)までの範囲において開口されるように設けられていることを特徴とする。
【0026】
本発明によれば、各段部が、それぞれ複数の段で構成され、バイパスポートが、その複数の段の最初の段が噛み合いを開始する位置(θs)から最終の段が噛み合いを終了する位置(θs+π)までの範囲において開口されるように設けられているため、固定スクロールおよび旋回スクロールの渦巻き状ラップの歯先面および歯底面に設けられる各段部をそれぞれ複数の段で構成(例えば、各段部を2段で構成)したものにおいても、渦巻き状ラップの歯先面および歯底面に設けられている各段部の複数の段の最初の段が噛み合いを開始する位置(θs)から最終の段が噛み合いを終了する位置(θs+π)までの範囲において、過圧縮や液圧縮により圧縮室内の圧力が上昇し、設定圧以上になったとき、バイパスポートを開放することによって、圧縮室内の圧縮ガスを吐出室にリリーフすることができる。この場合、各段部を複数の段で構成したことによるラップ強度の向上効果との相乗効果により、過圧縮および液圧縮に対する段付きスクロール圧縮機の耐久性、信頼性を一段と向上することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によると、固定および旋回スクロールの渦巻き状ラップの歯先面および歯底面に設けられている段部が噛み合いを開始する位置(θs)から噛み合いを終了する位置(θs+π)までの範囲において、過圧縮や液圧縮により圧縮室内の圧力が上昇し、設定圧以上になったとき、バイパスポートを開放することによって、圧縮室内の圧縮ガスを吐出室にリリーフすることができるため、渦巻き状ラップの歯先面側の段部の根元部に過圧縮や液圧縮による過大な応力が負荷され、その根元が破損に至る事態を確実に解消し、段付きスクロール圧縮機の耐久性、信頼性を向上することができるとともに、過圧縮による動力損失をも低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の第1実施形態に係るスクロール圧縮機の縦断面図である。
図2図1のA−A断面相当図である。
図3】上記スクロール圧縮機の固定および旋回スクロールの噛み合い状態の変移を示す圧縮動作説明図である。
図4】上記スクロール圧縮機におけるバイパスポートの開口範囲を示す展開図である。
図5】上記スクロール圧縮機における渦巻き状ラップの歯先面側の段部の応力計測結果を示すグラフ(A)とその応力の作用状態説明図(B)である。
図6】本発明の第2実施形態に係るスクロール圧縮機の図1におけるA−A断面相当図である。
図7】本発明の第2実施形態に係るスクロール圧縮機の図1におけるA−A断面相当図である。
図8図6図7に示すスクロール圧縮機のバイパスポートに設けられるリード弁の構造説明図である。
図9図6図7に示すスクロール圧縮機におけるバイパスポートの開口範囲を示す展開図(A)ないし(D)である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明にかかる実施形態について、図面を参照して説明する。
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について、図1ないし図5を用いて説明する。
図1には、本発明の第1実施形態に係るスクロール圧縮機の縦断面図が示され、図2には、そのA−A断面相当図、図3には、その圧縮動作説明図が示されている。
スクロール圧縮機1は、その外殻を構成するハウジング2を有している。このハウジング2は、一端が封鎖されている有底のカップ状ハウジング3と、その開口端側に嵌合装着されるフロントハウジング4とからなり、両者をボルト等により一体に締め付け固定することにより構成されている。
【0030】
フロントハウジング4の内部には、クランク軸5がメイン軸受6およびサブ軸受7を介してその軸線回りに回転自在に支持されている。クランク軸の一端側(図1において左端側)は小径軸部5Aとされ、該小径軸部5Aはフロントハウジング4を貫通して図1の左側に突出されている。小径軸部5Aの突出部には、公知の如く動力を受ける図示省略の電磁クラッチ、プーリー等が設けられ、エンジン等の駆動源からベルト等を介して動力が伝達されるようになっている。メイン軸受6とサブ軸受7との間には、リップシール8が設置され、ハウジング2内と大気間をシールしている。
【0031】
クランク軸5の他端側(図1において右端側)には、大径軸部5Bが設けられ、該大径軸部5Bには、クランク軸5の軸線より所定寸法だけ偏心したクランクピン5Cが一体に設けられている。クランク軸5は、大径軸部5Bおよび小径軸部5Aがメイン軸受6およびサブ軸受7を介して支持されることにより、フロントハウジング4に回転自在に支持されている。クランクピン5Cには、ドライブブッシュ9および旋回軸受10を介して後述の旋回スクロール14が連結され、クランク軸5が回転されることによって、旋回スクロール14が旋回駆動されるように構成されている。
【0032】
ドライブブッシュ9には、クランクピン5Cが嵌合するピン穴9Aが設けられ、クランクピン5Cに嵌合されたドライブブッシュ9の外周に旋回軸受10を介して旋回スクロール14のボス部14 を嵌合することにより、クランクピン5Cと旋回スクロール14が連結されている。このドライブブッシュ9とクランクピン5Cとの間に、旋回スクロール14の旋回半径を可変とする公知の従動クランク機構を設けることができる。また、ドライブブッシュ9には、旋回スクロール14が旋回されることにより発生するアンバランス荷重を除去するためのバランスウェイト11が設けられ、旋回スクロール14と共に旋回駆動されるようになっている。
【0033】
ハウジング2内には、一対の固定スクロール13および旋回スクロール14により構成されるスクロール圧縮機構(圧縮機構)12が組み込まれている。この固定スクロール13は、端板13Aと該端板13Aから立設されている渦巻き状ラップ13Bとから構成されており、また、旋回スクロール14は、端板14Aと該端板14Aから立設されている渦巻き状ラップ14Bとから構成されている。
【0034】
本実施形態の固定スクロール13および旋回スクロール14は、それぞれ渦巻き状ラップ13B,14Bの歯先面および歯底面の渦巻き方向に沿う所定位置に、それぞれ段部13D,13Eおよび14D,14E(図2参照)を備えている。この段部13D,13Eおよび14D,14Eを境に、渦巻き状ラップ13B,14Bの歯先面は、旋回軸線方向に外周側の歯先面が高く、内周側の歯先面が低くされる一方、歯底面は、旋回軸線方向に外周側の歯底面が低く、内周側の歯底面が高くされている。これによって、渦巻き状ラップ13B,14Bは、その外周側におけるラップ高さが内周側のラップ高さよりも高くされている。
【0035】
固定スクロール13と旋回スクロール14は、その中心を旋回半径分だけ離し、渦巻き状ラップ13B,14Bの位相を180度ずらして噛み合わされ、両スクロールの渦巻き状ラップ13B,14Bの歯先面と歯底面間に常温で僅かなラップ高さ方向のクリアランスを有するように組み付けられている。これによって、図1に示されるように、両スクロール13,14間に、その端板13A,14Aと渦巻き状ラップ13B,14Bとにより限界される一対の圧縮室15がスクロール中心に対して対称に形成されるとともに、旋回スクロール14が固定スクロール13の周りをスムーズに旋回される構成とされている。
【0036】
圧縮室15は、旋回軸線方向の高さが渦巻き状ラップ13B,14Bの外周側において内周側の高さよりも高くされることにより、ガスを渦巻き状ラップ13B,14Bの周方向だけでなく、ラップ高さ方向にも圧縮できる三次元圧縮可能なスクロール圧縮機構12を構成している。なお、渦巻き状ラップ13B,14Bの歯先面には、相手方スクロールの歯底面との間に形成されるチップシール面をシールするチップシール16が、それぞれ歯先面に設けられている溝内に嵌合設置されている。このような構成の段付きスクロール圧縮機1は、公知のものである。
【0037】
固定スクロール13は、カップ状ハウジング3の内底面に複数本のボルト17を介して固定設置されている。また、旋回スクロール14は、端板14Aの背面に設けられているボス部14Cに対して、上述のとおり、クランク軸5の一端側に設けられているクランクピン5Cがドライブブッシュ9および旋回軸受10を介して結合され、旋回駆動されるように構成されている。
【0038】
さらに、旋回スクロール14は、フロントハウジング4のスラスト軸受け面に端板14Aの背面が支持され、該スラスト軸受け面と端板14Aの背面との間に設けられているオルダムリング等の自転阻止機構18を介して、自転が阻止されながら固定スクロール13の周りを公転旋回駆動されるように構成されている。なお、自転阻止機構18は、オルダムリングに限らず、公知のピンリング式の自転阻止機構としてもよい。
【0039】
固定スクロール13には、端板13Aの中央部位に圧縮された冷媒ガスを吐出する吐出ポート13Cが開口されており、該吐出ポート13Cには、リテーナを介して吐出リード弁19が設置されている。また、固定スクロール13の端板13Aの背面側には、カップ状ハウジング3の内面と密接されるようにOリング等のシール材20が介装され、カップ状ハウジング3の内面との間にハウジング2の内部空間から区画された吐出室21が形成されている。これによって、吐出室21を除くハウジング2の内部空間が、吸入チャンバー22として機能する構成とされている。
【0040】
上記の段付きスクロール圧縮機1においては、運転状態により過圧縮や液圧縮が発生した場合、固定スクロール13および旋回スクロール14の渦巻き状ラップ13B,14Bの歯先面側の段部13D,14Dの根元部に、過圧縮や液圧縮による過大な応力が負荷されることがあり、その応力集中により段部13D,14Dの根元にクラックが生じ、渦巻き状ラップ13B,14Bが破損に至る虞がある。
【0041】
そこで、本実施形態においては、少なくとも固定スクロール13側の段部13D,13Eと旋回スクロール14側の段部14D,14Eとが噛み合い、その噛み合いにより区画される前後の圧縮室15の差圧が歯先面側の段部13D,14Dに作用する範囲、すなわち少なくとも段部13Dと14E、13Eと14Dとが噛み合いを開始する位置(θs)から噛み合いを終了する位置(θs+π)までの範囲において、一対の圧縮室15に対して全開となる一対のバイパスポート23A,23Bを固定スクロール13側の端板13Aに穿設し、圧縮ガスを吐出室21にリリーフできる構成としている。
【0042】
一対のバイパスポート23A,23Bは、固定スクロール13の渦巻き状ラップ13Bの腹側面と背側面とに沿うように、180度位相をずらして少なくとも各1個以上ずつ設けられている。このバイパスポート23A,23Bの吐出室21側への開口部には、図8に示されているように、圧縮室15内の圧力が設定圧以上になったとき、バイパスポート23A,23Bを吐出室21に開放するリード弁24が設けられている。
【0043】
図3の(A)ないし(D)は、上記段付スクロール圧縮機1の固定スクロール13および旋回スクロール14の噛み合い状態の変移を示す圧縮動作説明図である。
この図3(A)ないし(D)において、図(A)は、旋回スクロール14の旋回角θが0度(360度)の状態、図(B)は、旋回角θが270度の状態、図(C)は、旋回角θが180度の状態、図(D)は、旋回角θが90度の状態を示している。
【0044】
ここで、上記図3の図(B)は、圧縮室15の吸入締切り位置(θd)、図(D)は、段部13D,13E,14D,14Eが噛み合いを開始する位置(θs)、また、図(B)より10度進んだ旋回角θが280度の位置が、段部13D,13Eおよび14D,14Eが噛み合いを終了する位置(θs+π)、更に図(B)より40度手前の旋回角θが230度の位置が、一対の圧縮室15が合流し吐出ポート13Cに連通される位置(θp)とされている。
【0045】
従って、本実施形態においては、一対のバイパスポート23A,23Bが、少なくとも段部13D,13Eおよび14D,14Eが噛み合いを開始する旋回角θが90度の位置(θs)から段部13D,13Eおよび14D,14Eが噛み合いを終了する旋回角θが280度の位置(θs+π)までの区間において、各圧縮室15に対して全開とされ、該圧縮室15内の圧力がリード弁24の設定圧以上になったとき、圧縮室15内の過圧縮されたガスを一対のバイパスポート23A,23Bを介して吐出室21にリリーフできる構成とされている。
【0046】
図4は、上記バイパスポート23A,23Bが、圧縮室15に対して開口されている範囲を示す展開図であり、横軸が旋回角θ、縦軸がバイパスポート23A,23Bの開口面積を示すものである。
本実施形態の場合、上述の如く、少なくとも段部13D,13Eおよび14D,14Eが噛み合いを開始する位置(θs)から段部13D,13Eおよび14D,14Eが噛み合いを終了する位置(θs+π)までの範囲(区間)Wにおいて、一対のバイパスポート23A,23Bが全開とされるようになっている。ただし、バイパスポート23A,23Bは、噛み合いを開始する位置(θs)の所定角度手前側で全開とされ、噛み合い終了位置(θs+π)を過ぎた位置から徐々に閉じられるようになっている。
【0047】
以上に説明の構成により、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
上記段付きスクロール圧縮機1において、吸入ポート(図示省略)からハウジング2内の吸入チャンバー22内に吸込まれた低圧の冷媒ガスは、旋回スクロール14の旋回駆動により、一対の圧縮室15内に吸込まれる。この冷媒ガスは、圧縮室15が外周側から中心側へと渦巻き状ラップ13B,14Bの周方向およびラップ高さ方向に容積を減少しながら移動される間に三次元圧縮され、一対の圧縮室15が合流して吐出ポート13Cと連通されることにより、吐出リード弁19を開いて吐出室21内に吐き出される。この高圧ガスは、ハウジング2に設けられている吐出ポートを経て外部に送出される。
【0048】
この圧縮過程において、運転状況により圧縮室15内の圧力が異常上昇して過圧縮状態となったり、あるいは液冷媒を吸込み、液圧縮することにより圧力が異常上昇したりすることがある。この場合、図5(B)に示されているように、固定スクロール13および旋回スクロール14の渦巻き状ラップ13B,14Bの歯先面側の段部13D,14Dの根元部に対して、過圧縮や液圧縮による過大な応力が負荷されることになり、その応力の集中により段部13D,14Dの根元にクラックが生じ、渦巻き状ラップ13B,14Bが破損に至る虞が生じる。
【0049】
しかるに、本実施形態によれば、固定スクロール13の歯底面側に、少なくとも両スクロール13,14の渦巻き状ラップ13B,14Bの段部13D,13E,14D,14Eが噛み合いを開始する位置(θs)から噛み合いを終了する位置(θs+π)までの範囲にて開口され、一対の圧縮室15の圧力が設定圧以上に過圧縮されたとき、リード弁24(図8参照)を介して開放されるすバイパスポート23A,23Bが、各圧縮室15に対して少なくとも1個以上設けられた構成とされている。
【0050】
このため、渦巻き状ラップ13B,14Bの歯先面および歯底面に設けられている段部13D,13E,14D,14Eが噛み合いを開始する位置(θs)から噛み合いを終了する位置(θs+π)までの範囲、すなわち図4に示す段部の噛み合い範囲(区間)Wにおいて、過圧縮あるいは液圧縮により圧縮室15内の圧力が異常上昇し、設定圧以上に上昇したとき、バイパスポート23A,23Bを開放することによって、バイパスポート23A,23Bを介して圧縮室15内の圧縮ガスを吐出室21にリリーフする。
【0051】
これによって、渦巻き状ラップ13B,14Bの歯先面側の段部13D,14Dの根元部に過圧縮や液圧縮による過大な応力が負荷され、その根元が破損に至る事態を確実に解消し、段付きスクロール圧縮機1の耐久性、信頼性を向上することができる。また、過圧縮による動力損失をも低減することができる。図5(A)は、上記段部13D,14Dに作用する過圧縮、液圧縮による応力の計測結果を示したものであり、太い実線がバイパスポート無しの場合、細い実線がバイパスポート23A,23Bを設けた本実施形態の場合のものである。この図5(A)から、上記の噛み合い開始位置(θs:90度)から噛み合い終了位置(θs+π:270度)までの段部の噛み合い範囲(ステップ噛み合い)Wにおいて、過圧縮、液圧縮による応力が大幅に低減されていることが解る。
【0052】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について、図6ないし図9を用いて説明する。
本実施形態は、上記した第1実施形態に対して、段部の噛み合い範囲W以外の噛み合い範囲にも第2バイパスポート25A,25Bおよび第3バイパスポート26A,26Bを設けた構成としている点が異なる。その他の点については、第1実施形態と同様であるので説明は省略する。
【0053】
本実施形態においては、図6に示されるように、上記のバイパスポート23A,23Bに加え、固定および旋回スクロール13,14の渦巻き状ラップ13B,14Bの噛み合いが、圧縮室15の吸入締切り位置(θd)から段部が噛み合いを開始する位置(θs)までの範囲において圧縮室15に開口され、その圧縮室15の圧力が設定圧以上に過圧縮されたときに開放される一対の第2バイパスポート25A,25Bが少なくとも1つ以上設けられた構成とされており、この第2バイパスポート25A,25Bにも、図8に示されるように、圧縮室15内の圧力が設定圧以上になったときに開放されるリード弁27が設けられている。
【0054】
更に、上記第2バイパスポート25A,25Bに加えて、上記段部13D,13E,14D,14Eが噛み合いを終了した位置(θs+π)から各圧縮室15が合流し吐出ポート13Cに連通される位置(θp)までの範囲において圧縮室15に開口され、その圧縮室15の圧力が設定圧以上に過圧縮されたときに開放される一対の第3バイパスポート26A,26Bが少なくとも1つ以上設けられた構成としてもよく、この場合、第3バイパスポート26A,26Bにも、図8に示されるように、圧縮室15内の圧力が設定圧以上になったときに開放されるリード弁28が設けられる。
【0055】
また、上記のように、バイパスポート23A,23Bに加えて、第2バイパスポート25A,25Bあるいは第3バイパスポート26A,26Bを設け、圧縮行程全域において過圧縮あるいは液圧縮を防止できるようにした場合、段部13D,13E,14D,14Eが噛み合いを開始する位置(θs)から噛み合いを終了する位置(θs+π)までの範囲(区間)Wにおいて開口されるバイパスポート23A,23Bの合計開口面積を、他の範囲(区間)において開口される第2バイパスポート25A,25Bあるいは第3バイパスポート26A,26Bの合計開口面積よりも大きくし、段部が噛み合う区間Wでの過圧縮あるいは液圧縮をより確実に防止できる構成とすることができる。
【0056】
この場合、バイパスポート23A,23Bの合計開口面積を、以下によって第2バイパスポート25A,25Bあるいは第3バイパスポート26A,26Bの合計開口面積よりも大きくすればよい。
(1)段部13D,13E,14D,14Eが噛み合いを開始する位置(θs)から噛み合いを終了する位置(θs+π)までの範囲Wに設けるバイパスポート23A,23Bの数を増やす。図6には、バイパスポート23A,23Bを近接してそれぞれ2個設けた例が示されている。
【0057】
(2)上記の範囲Wに設けるバイパスポート23A,23Bを、図7に示されるように長穴とし、1個当たりの開口面積を大きくする。これは、1個のポート直径を、渦巻き状ラップ13B,14Bの厚さよりも小さくしなければならないとの制約がある中で、ポート1個当たりの開口面積を大きくすることができる。
なお、各バイパスポート23A,23B、25A,25B、26A,26Bの開口面積を大きくすることにより、圧縮ガスをリリーフする際の流路抵抗を小さくし、圧縮室15から吐出室21へとスムーズに圧縮ガスを逃すことができるようになる。
【0058】
また、上記に如く、渦巻き状ラップ13B,14Bの噛み合い範囲(区間)毎にバイパスポート23A,23B、25A,25B、26A,26Bを複数個ずつ設ける場合、複数個のポートを近接して設置(図6に示すバイパスポート23A,23Bのように)することが望ましい。このように、複数個のポートを近接して設置することにより、図8に示されるように、複数のポートを開閉するリード弁24,27,28を1個の共用リード弁24,27,28により共用化することができるため、リード弁の数を半減することが可能となる。
【0059】
なお、図8には、各バイパスポート23A,23B、25A,25B、26A,26Bを複数個ずつ設けられ、各々のリード弁24,27,28を共用リード弁とした例が図示されている。
【0060】
図9は、上記した各実施形態での各バイパスポートが、圧縮室15に対して開口されている範囲を示す展開図(A)ないし(D)であり、横軸が旋回角θ、縦軸が各バイパスポートの開口面積を示すものである。
(A)は、段部13D,13E,14D,14Eが噛み合いを開始する位置(θs)から噛み合いを終了する位置(θs+π)までの範囲Wにおいて全開されるバイパスポート23A,23Bに加え、一対の圧縮室15の吸入締切り位置(θd)から段部13D,13E,14D,14が噛み合いを開始する位置(θs)までの範囲W2にて全開される第2バイパスポート25A,25Bを設けた場合のものである。
【0061】
上記W2の範囲は、渦巻き状ラップ13B,14Bのラップ高さが高くされている段部13D,13E,14D,14Eよりも外周側の渦巻き状ラップ13B,14B同士が噛み合う範囲であり、ラップ高さが高くされることによってラップ強度が弱くなる部分であるため、第2バイパスポート25A,25Bを設けることにより、過圧縮、液圧縮を防止できるようにすることは有益である。
【0062】
(B)は、バイパスポート23A,23Bおよび第2バイパスポート25A,25Bに加え、段部13D,13E,14D,14Eが噛み合いを終了した位置(θs+π)から一対の圧縮室15が合流し吐出ポート13Cに連通される位置(θp)までの範囲W3において全開される第3バイパスポート26A,26Bを設けた場合のものである。
【0063】
(C)は、バイパスポート23A,23Bをそれぞれ2個ずつ近接して設置し、各々のポートが噛み合い開始位置(θs)から噛み合い終了位置(θs+π)までの範囲Wにおいて全開されるようにした場合のものである。
(D)は、段部13D,13E,14D,14Eの噛み合い開始位置(θs)から噛み合い終了位置(θs+π)までの範囲Wにおいて全開されるバイパスポート23A,23Bの数または1個当たりの開口面積を増やして合計開口面積を、他の範囲W2,W3に設けられる第2バイパスポート25A,25Bおよび第3バイパスポート26A,26Bの合計開口面積の略2倍として場合のものである。
【0064】
上記実施形態のいずれの場合においても、上記した第1実施形態と同様の効果を期待することができる。
また、図6および図9(A)に示すように、バイパスポート23A,23Bに加え、圧縮室15の吸入締切り位置(θd)から段部13D,13E,14D,14Eが噛み合いを開始する位置(θs)までの範囲W2にて開口され、圧縮室15の圧力が設定圧以上に過圧縮されたときに開放される第2バイパスポート25A,25Bを少なくとも1つ以上設けた構成とすることにより、渦巻き状ラップ13B,14Bの高さが高くされている段部13D,13E,14D,14Eよりも外周側での噛み合い、すなわち圧縮室15の吸入締切り位置(θd)から段部13D,13E,14D,14Eが噛み合いを開始する位置(θs)までの範囲W2の噛み合いにおいて、過圧縮あるいは液圧縮により圧縮室15内の圧力が上昇し、設定圧以上になったとき、第2バイパスポート25A,25Bを開放することにより、圧縮室15内の圧縮ガスを吐出室21にリリーフすることができる。
【0065】
これによって、渦巻き状ラップ13B,14Bのラップ高さが高くされることで強度が弱くなる段部13D,13E,14D,14Eよりも外周側においても、渦巻き状ラップ13B,14Bの強度を十分確保し、耐久性、信頼性を確保することができる。同時に過圧縮による動力損失を低減することができる。
【0066】
また、図6および図9(B)に示すように、バイパスポート23A,23Bおよび第2バイパスポート25A,25Bに加えて、段部13D,13E,14D,14Eが噛み合いを終了した位置(θs+π)から一対の圧縮室15が合流し吐出ポート13Cに連通される位置(θp)までの範囲W3にて開口され、圧縮室15の圧力が設定圧以上に過圧縮されたときに開放される第3バイパスポート26A,26Bを少なくとも1つ以上設けた構成とすることにより、段部13D,13E,14D,14Eでの噛み合いが終了した位置(θs+π)から圧縮室15が吐出ポート13Cに連通される位置(θp)までの範囲W3の噛み合いにおいても、過圧縮や液圧縮により圧縮室15内の圧力が上昇し、設定圧以上になったとき、第3バイパスポート26A,26Bを開放することによって、圧縮室15内の圧縮ガスを吐出室21にリリーフすることができる。
【0067】
このため、過圧縮や液圧縮により圧縮室15内の圧力が最も上昇する範囲を含む圧縮行程の全域において、圧力が異常上昇された圧縮ガスを確実に吐出室21にリリーフして過圧縮および液圧縮を防止し、耐久性、信頼性を確保することができるとともに、過圧縮による動力損失を低減することができる。
【0068】
また、図6図7および図9(D)に示すように、段部13D,13E,14D,14Eが噛み合いを開始する位置(θs)から噛み合いを終了する位置(θs+π)までの範囲Wにおいて開口されるバイパスポート23A,23Bの数を増やしあるいは面積を大きくしてその合計開口面積を、他の範囲W2,W3において開口される第2バイパスポート25A,25Bまたは第3バイパスポート26A,26Bの開口面積よりも大きくすることにより、段部13D,13E,14D,14Eが噛み合う範囲Wにおいて開口されるバイパスポート23A,23Bの合計開口面積をより大きし、過圧縮あるいは液圧縮が発生した場合、圧力が異常上昇した圧縮室15内の冷媒ガスを速やかに吐出室21へとリリーフし、段部13D,13E,14D,14Eが噛み合う区間Wでの過圧縮および液圧縮の発生をより確実に防止することができる。
【0069】
これによって、渦巻き状ラップ13B,14Bの歯先面側段部13D,14Dの根元部に対する過圧縮や液圧縮による応力の集中をより確実に回避し、段付きスクロール圧縮機1の耐久性、信頼性を一段と向上することができる。更に、この種バイパスポートの径が所定径以下に制限される中において、バイパスポート23A,23Bの数を増やしあるいは1個当たり面積を大きくすることにより、簡易にその合計開口面積を大きくすることができる。このため、段部13D,13E,14D,14Eが噛み合う区間Wに設けるバイパスポート23A,23Bの合計開口面積を大きくし、段部13D,13E,14D,14Eが噛み合う区間Wでの過圧縮、液圧縮をより確実に防止することができる。
【0070】
さらに、バイパスポート23A,23B、第2バイパスポート25A,25Bおよび第3バイパスポート26A,26Bには、各々設定圧以上で開放されるリード弁24,27および28が設けられている。このため、各バイパスポート23A,23B,25A,25B,26A,26Bが設けられている位置で過圧縮や液圧縮により圧縮室15内の圧力が上昇し、その圧力が各バイパスポート23A,23B,25A,25B,26A,26Bに設けられているリード弁24,27,28の設定圧以上となると、各々のリード弁24,27,28が開き、各バイパスポート23A,23B,25A,25B,26A,26Bを吐出室21に対して開放することができ、従って、各々のリード弁24,27,28により各バイパスポート23A,23B,25A,25B,26A,26Bを設定圧以上で簡易に開放し、圧縮ガスを吐出室21へとリリーフすることができる。
【0071】
また、バイパスポート23A,23B、第2バイパスポート25A,25Bおよび第3バイパスポート26A,26Bのいずれかが各々2個以上複数個設けられる場合、その複数のポートを互いに近接して設置し、1個の共用リード弁24,27,28により開閉可能に構成としているため、通常、バイパスポートの数を増やすと、それに伴ってリード弁の数を増やす必要があるが、複数のポートを互いに近接して設置し、1個の共用リード弁24,27,28で開閉可能とすることにより、リード弁24,27,28の数をバイパスポートの数に対して半減することができる。従って、狭いスペースにおいてのリード弁24,27,28の設置を容易化することができるとともに、バイパスポートの数を増やすことにより、過圧縮や液圧縮の防止機能を向上することができる。
【0072】
なお、本発明は、上記実施形態にかかる発明に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、適宜変形が可能である。例えば、上記実施形態では、渦巻き状ラップ13B,14Bの歯先面および歯底面の渦巻き方向に沿う所定位置に、各々段部13D,13Eおよび14D,14Eを設けた段付きスクロール圧縮機1としているが、この段部13D,13Eおよび14D,14Eを、それぞれ複数の段で構成(例えば、各段部を2段で構成)したものとしてもよい(図2図6図7には、各段部がそれぞれ2段とされたものが示されている)。
【0073】
このように、各段部13D,13Eおよび14D,14Eを複数の段で構成することにより、歯先面側の段部13D,14Dの根元に作用する応力を分散できるため、渦巻き状ラップ13B,14Bの強度を向上することができ、段部13D,13E,14D,14Eが噛み合いを開始する位置(θs)から噛み合いを終了する位置(θs+π)までの範囲Wにおいて開口するように設けられるバイパスポート23A,23Bによる過圧縮や液圧縮の防止効果との相乗効果により、過圧縮および液圧縮に対する段付きスクロール圧縮機1の耐久性、信頼性を一段と向上することができる。
【0074】
また、この場合、バイパスポート23A,23Bは、それぞれ複数の段で構成される段部13D,13Eおよび14D,14Eの複数の段の最初の段が噛み合いを開始する位置(θs)から最終の段が噛み合いを終了する位置(θs+π)までの範囲において開口されるように設けられ、各段部13D,13E,14D,14Eの複数の段の最初の段が噛み合いを開始する位置(θs)から最終の段が噛み合いを終了する位置(θs+π)までの範囲において、過圧縮や液圧縮により圧縮室15内の圧力が上昇し、設定圧以上になったとき、リリーフ弁24を介してバイパスポート23A,23Bが開放され、圧縮室15内の圧縮ガスが吐出室21にリリーフされることになる。
【0075】
さらに、上記実施形態においては、クランク軸5の一端部をハウジング2の外方に突出させ、外部から動力を受けて駆動されるタイプのスクロール圧縮機1に適用した例について説明したが、ハウジング2の内部に電動モータを一体に内蔵し、該電動モータで駆動される密閉型の電動スクロール圧縮機にも同様に適用できることは云うまでもない。
また、リード弁24,28は、図8に示されるように、二又状に構成した1個のリード弁により構成してもよく、これにより、リード弁の数を更に低減し、構成の簡素化、組み立ての容易化を図ることができる。
【符号の説明】
【0076】
1 スクロール圧縮機
13 固定スクロール
13B,14B 渦巻き状ラップ
13C 吐出ポート
13D,13E,14D,14E 段部
14 旋回スクロール
15 圧縮室
23A,23B バイパスポート
24,27,28 リード弁
25A,25B 第2バイパスポート
26A,26B 第3バイパスポート
θs 段部が噛み合いを開始する位置
θs+π 段部が噛み合いを終了する位置
θd 圧縮室の吸入締切り位置
θp 圧縮室が吐出ポートに連通される位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9