特許第6180865号(P6180865)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6180865
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】車高調整装置、車高調整方法
(51)【国際特許分類】
   B62K 25/04 20060101AFI20170807BHJP
   B60G 17/015 20060101ALI20170807BHJP
   B60G 17/016 20060101ALI20170807BHJP
   B60G 17/044 20060101ALI20170807BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20170807BHJP
   F16F 15/027 20060101ALI20170807BHJP
   F16F 9/50 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   B62K25/04
   B60G17/015 B
   B60G17/016
   B60G17/044
   F16F15/02 B
   F16F15/027
   F16F9/50
【請求項の数】8
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2013-194565(P2013-194565)
(22)【出願日】2013年9月19日
(65)【公開番号】特開2015-58845(P2015-58845A)
(43)【公開日】2015年3月30日
【審査請求日】2016年7月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000146010
【氏名又は名称】株式会社ショーワ
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118201
【弁理士】
【氏名又は名称】千田 武
(72)【発明者】
【氏名】春日 高寛
(72)【発明者】
【氏名】石川 文明
【審査官】 結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭64−078911(JP,A)
【文献】 特開平04−059415(JP,A)
【文献】 特開昭62−283011(JP,A)
【文献】 特開平03−070618(JP,A)
【文献】 特開2014−162395(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62K 25/04
B60G 17/015
B60G 17/016
B60G 17/044
F16F 15/02
F16F 15/027
F16F 9/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変位することで自動二輪車の車両本体と車輪との相対的な位置を変更可能な複数の変更手段と、
前記複数の変更手段の変位量を変更することで前記車両本体の高さである車高を調整する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記複数の変更手段内のいずれかの変更手段に変位量が最大とならない故障が生じた場合には、故障していない変更手段の変位量が、前記自動二輪車の姿勢を予め定められた姿勢にするように故障した変更手段の変位量に応じて予め定められた変位量となるように当該故障していない変更手段の変位量を制御することを特徴とする車高調整装置。
【請求項2】
前記複数の変更手段は、変位量が大きくなるに従って前記車高を高め、
前記制御手段は、前記複数の変更手段内の少なくとも2つ以上の変更手段が故障した場合には、前記故障していない変更手段の変位量が、故障した2つ以上の変更手段の変位量の内、前記車高に寄与する成分が最も小さい変更手段の変位量に応じて予め定められた変位量となるように当該故障していない変更手段を制御する
ことを特徴とする請求項1に記載の車高調整装置。
【請求項3】
変位することで自動二輪車の車両本体と車輪との相対的な位置を変更可能な複数の変更手段と、
前記複数の変更手段の変位量を変更することで前記車両本体の高さである車高を調整する制御手段と、
を備え、
前記複数の変更手段は、前記車両本体と前輪との相対的な位置である前輪側相対位置を変更可能な複数の前輪側変更手段と、当該車両本体と後輪との相対的な位置である後輪側相対位置を変更可能な複数の後輪側変更手段と、を有し、
前記制御手段は、前記複数の前輪側変更手段の内のいずれかの前輪側変更手段に変位量が目標変位量とならない故障が生じた場合には、前記前輪側相対位置を把握し、前記自動二輪車の姿勢を予め定められた姿勢にするように把握した当該前輪側相対位置に応じて予め定められた後輪側相対位置となるように、前記複数の後輪側変更手段の変位量を制御する
ことを特徴とする車高調整装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記複数の前輪側変更手段の内のいずれかの前輪側変更手段が故障した後に前記複数の後輪側変更手段の内のいずれかの後輪側変更手段が故障した場合には、前記前輪側相対位置および前記後輪側相対位置の内、車高に寄与する成分が大きい方の相対位置が、車高に寄与する成分が小さい方の相対位置に応じて予め定められた相対位置となるように故障していない変更手段を制御する
ことを特徴とする請求項に記載の車高調整装置。
【請求項5】
変位することで自動二輪車の車両本体と車輪との相対的な位置を変更可能な複数の変更手段と、
前記複数の変更手段の変位量を変更することで前記車両本体の高さである車高を調整する制御手段と、
を備え、
前記複数の変更手段は、前記車両本体と前輪との相対的な位置である前輪側相対位置を変更可能な複数の前輪側変更手段と、当該車両本体と後輪との相対的な位置である後輪側相対位置を変更可能な複数の後輪側変更手段と、を有し、
前記制御手段は、前記複数の後輪側変更手段の内のいずれかの後輪側変更手段に変位量が目標変位量とならない故障が生じた場合には、前記後輪側相対位置を把握し、前記自動二輪車の姿勢を予め定められた姿勢にするように把握した当該後輪側相対位置に応じて予め定められた前輪側相対位置となるように、前記複数の前輪側変更手段の変位量を制御する
ことを特徴とする車高調整装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記複数の後輪側変更手段の内のいずれかの後輪側変更手段が故障した後に前記複数の前輪側変更手段の内のいずれかの前輪側変更手段が故障した場合には、前記前輪側相対位置および前記後輪側相対位置の内、車高に寄与する成分が大きい方の相対位置が、車高に寄与する成分が小さい方の相対位置に応じて予め定められた相対位置となるように故障していない変更手段を制御する
ことを特徴とする請求項に記載の車高調整装置。
【請求項7】
前記複数の変更手段は、流体の流通経路上に設けられて、供給される電力に応じた開度に調整される電磁弁を有し、当該電磁弁の開度に応じて当該流体の圧力が変化することで変位し、
前記制御手段は、前記電磁弁の開度が任意の開度となるように当該電磁弁に印加する電圧をPWM制御する
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の車高調整装置。
【請求項8】
変位することで自動二輪車の車両本体と車輪との相対的な位置を変更可能な複数の変更手段の変位量を変更することで当該車両本体の高さである車高を調整する車高調整方法であって、
前記複数の変更手段内のいずれかの変更手段に変位量が最大とならない故障が生じた場合には、故障していない変更手段の変位量が、前記自動二輪車の姿勢を予め定められた姿勢にするように故障した変更手段の変位量に応じて予め定められた変位量となるように当該故障していない変更手段の変位量を制御する
ことを特徴とする車高調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車の車高を調整する車高調整装置、車高調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動二輪車の走行中は車高を高くし、停車中は乗り降りを楽にするために車高を低くする装置が提案されている。
そして、例えば、特許文献1に記載の車高調整装置は、自動二輪車の車速に応答して自動的に車高を変え、車速が設定速度になったら自動的に車高を高くし、車速が設定速度以下になると自動的に車高を低くする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平8−22680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の車両本体と車輪との相対的な位置を変更可能な複数の変更手段を用いて車両本体の高さである車高を調整する機構が考えられる。この機構の場合、車高を高くして走行しているときに、複数の変更手段のいずれかに故障が生じた場合には、車両の姿勢が変化し、操縦安定性へ悪影響を及ぼすおそれがある。
本発明は、複数の変更手段のいずれかに故障が生じた場合でも、車両の姿勢を整えることができる車高調整装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的のもと、本発明は、変位することで自動二輪車の車両本体と車輪との相対的な位置を変更可能な複数の変更手段と、前記複数の変更手段の変位量を変更することで前記車両本体の高さである車高を調整する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記複数の変更手段内のいずれかの変更手段に変位量が最大とならない故障が生じた場合には、故障していない変更手段の変位量が、前記自動二輪車の姿勢を予め定められた姿勢にするように故障した変更手段の変位量に応じて予め定められた変位量となるように当該故障していない変更手段の変位量を制御することを特徴とする車高調整装置である。
【0006】
ここで、前記複数の変更手段は、変位量が大きくなるに従って前記車高を高め、前記制御手段は、前記複数の変更手段内の少なくとも2つ以上の変更手段が故障した場合には、前記故障していない変更手段の変位量が、故障した2つ以上の変更手段の変位量の内、前記車高に寄与する成分が最も小さい変更手段の変位量に応じて予め定められた変位量となるように当該故障していない変更手段を制御してもよい。
【0007】
また、他の観点から捉えると、本発明は、変位することで自動二輪車の車両本体と車輪との相対的な位置を変更可能な複数の変更手段と、前記複数の変更手段の変位量を変更することで前記車両本体の高さである車高を調整する制御手段と、を備え、前記複数の変更手段は、前記車両本体と前輪との相対的な位置である前輪側相対位置を変更可能な複数の前輪側変更手段と、当該車両本体と後輪との相対的な位置である後輪側相対位置を変更可能な複数の後輪側変更手段と、を有し、前記制御手段は、前記複数の前輪側変更手段の内のいずれかの前輪側変更手段に変位量が目標変位量とならない故障が生じた場合には、前記前輪側相対位置を把握し、前記自動二輪車の姿勢を予め定められた姿勢にするように把握した当該前輪側相対位置に応じて予め定められた後輪側相対位置となるように、前記複数の後輪側変更手段の変位量を制御することを特徴とする車高調整装置である。
ここで、前記制御手段は、前記複数の前輪側変更手段の内のいずれかの前輪側変更手段が故障した後に前記複数の後輪側変更手段の内のいずれかの後輪側変更手段が故障した場合には、前記前輪側相対位置および前記後輪側相対位置の内、車高に寄与する成分が大きい方の相対位置が、車高に寄与する成分が小さい方の相対位置に応じて予め定められた相対位置となるように故障していない変更手段を制御してもよい。
【0008】
また、他の観点から捉えると、本発明は、変位することで自動二輪車の車両本体と車輪との相対的な位置を変更可能な複数の変更手段と、前記複数の変更手段の変位量を変更することで前記車両本体の高さである車高を調整する制御手段と、を備え、前記複数の変更手段は、前記車両本体と前輪との相対的な位置である前輪側相対位置を変更可能な複数の前輪側変更手段と、当該車両本体と後輪との相対的な位置である後輪側相対位置を変更可能な複数の後輪側変更手段と、を有し、前記制御手段は、前記複数の後輪側変更手段の内のいずれかの後輪側変更手段に変位量が目標変位量とならない故障が生じた場合には、前記後輪側相対位置を把握し、前記自動二輪車の姿勢を予め定められた姿勢にするように把握した当該後輪側相対位置に応じて予め定められた前輪側相対位置となるように、前記複数の前輪側変更手段の変位量を制御することを特徴とする車高調整装置である。
ここで、前記制御手段は、前記複数の後輪側変更手段の内のいずれかの後輪側変更手段が故障した後に前記複数の前輪側変更手段の内のいずれかの前輪側変更手段が故障した場合には、前記前輪側相対位置および前記後輪側相対位置の内、車高に寄与する成分が大きい方の相対位置が、車高に寄与する成分が小さい方の相対位置に応じて予め定められた相対位置となるように故障していない変更手段を制御してもよい。
また、前記複数の変更手段は、流体の流通経路上に設けられて、供給される電力に応じた開度に調整される電磁弁を有し、当該電磁弁の開度に応じて当該流体の圧力が変化することで変位し、前記制御手段は、前記電磁弁の開度が任意の開度となるように当該電磁弁に印加する電圧をPWM制御してもよい。
【0009】
また、他の観点から捉えると、本発明は、変位することで自動二輪車の車両本体と車輪との相対的な位置を変更可能な複数の変更手段の変位量を変更することで当該車両本体の高さである車高を調整する車高調整方法であって、前記複数の変更手段内のいずれかの変更手段に変位量が最大とならない故障が生じた場合には、故障していない変更手段の変位量が、前記自動二輪車の姿勢を予め定められた姿勢にするように故障した変更手段の変位量に応じて予め定められた変位量となるように当該故障していない変更手段の変位量を制御することを特徴とする車高調整方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複数の変更手段のいずれかに故障が生じた場合でも、車両の姿勢を整えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施形態に係る自動二輪車の概略構成を示す図である。
図2】リヤサスペンションの断面図である。
図3】(a)および(b)は、後輪側液体供給装置の作用を説明するための図である。
図4】(a)および(b)は、後輪側相対位置変更装置による車高調整を説明するための図である。
図5】車高が維持されるメカニズムを示す図である。
図6】フロントフォークの断面図である。
図7】(a)および(b)は、前輪側液体供給装置の作用を説明するための図である。
図8】(a)および(b)は、前輪側相対位置変更装置による車高調整を説明するための図である。
図9】車高が維持されるメカニズムを示す図である。
図10】(a)は、前輪側電磁弁の概略構成を示す図であり、(b)は、後輪側電磁弁の概略構成を示す図である。
図11】制御装置のブロック図である。
図12】電磁弁制御部のブロック図である。
図13】車高調整スイッチの外観図である。
図14】(a)は、車速と前輪側目標移動量との相関関係を示す図である。(b)は、車速と後輪側目標移動量との相関関係を示す図である。
図15】(a)〜(d)は、前輪側故障時移動量あるいは後輪側故障時移動量と、故障していない装置の移動量との相関関係を示す図である。
図16】第1の実施形態に係る制御装置の電磁弁制御部が行う故障時処理の手順を示すフローチャートである。
図17-1】第2の実施形態に係る制御装置の電磁弁制御部が行う故障時処理の手順を示すフローチャートである。
図17-2】第2の実施形態に係る制御装置の電磁弁制御部が行う故障時処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<第1の実施形態>
図1は、第1の実施形態に係る自動二輪車1の概略構成を示す図である。
自動二輪車1は、図1に示すように、車体フレーム11と、この車体フレーム11の前端部に取り付けられているヘッドパイプ12と、このヘッドパイプ12に設けられた2つのフロントフォーク13と、この2つのフロントフォーク13の下端に取り付けられた前輪14と、を有している。2つのフロントフォーク13は、前輪14の左側と右側にそれぞれ1つずつ配置されている。図1では、右側に配置されたフロントフォーク13のみを示している。このフロントフォーク13の具体的構成については後で詳述する。
また、自動二輪車1は、フロントフォーク13の上部に取り付けられたハンドル15と、車体フレーム11の前上部に取り付けられた燃料タンク16と、この燃料タンク16の下方に配置されたエンジン17および変速機18と、を有している。
【0013】
また、自動二輪車1は、車体フレーム11の後上部に取り付けられたシート19と、車体フレーム11の下部にスイング自在に取り付けられたスイングアーム20と、このスイングアーム20の後端に取り付けられた後輪21と、スイングアーム20の後部(後輪21)と車体フレーム11の後部との間に取り付けられた2つのリヤサスペンション22と、を有している。2つのリヤサスペンション22は、後輪21の左側と右側にそれぞれ1つずつ配置されている。図1では、右側に配置されたリヤサスペンション22のみを示している。このリヤサスペンション22の具体的構成については後で詳述する。
【0014】
また、自動二輪車1は、ヘッドパイプ12の前方に配置されたヘッドランプ23と、前輪14の上部を覆うようにフロントフォーク13に取り付けられたフロントフェンダ24と、シート19の後方に配置されたテールランプ25と、このテールランプ25の下方に後輪21の上部を覆うように取り付けられたリヤフェンダ26と、を有している。また、自動二輪車1は、前輪14の回転を停止するブレーキ27を有している。
【0015】
また、自動二輪車1は、前輪14の回転角度を検出する前輪回転検出センサ31と、後輪21の回転角度を検出する後輪回転検出センサ32と、を有している。また、自動二輪車1は、シート19などに乗員が乗車したり荷物が載せられたりすることに起因して車体フレーム11から前輪14および後輪21に生じる荷重を検出する荷重検出センサ33を有している。
また、自動二輪車1は、フロントフォーク13の後述する前輪側電磁弁270およびリヤサスペンション22の後述する後輪側電磁弁170の開閉を制御することで自動二輪車1の車高を制御する制御手段の一例としての制御装置50を備えている。制御装置50には、上述した前輪回転検出センサ31、後輪回転検出センサ32、荷重検出センサ33などからの出力信号が入力される。
【0016】
次に、リヤサスペンション22について詳述する。
図2は、リヤサスペンション22の断面図である。
リヤサスペンション22は、自動二輪車1の車両本体の一例としての車体フレーム11と後輪21との間に取り付けられている。そして、リヤサスペンション22は、自動二輪車1の車重を支えて衝撃を吸収する後輪側懸架スプリング110と、後輪側懸架スプリング110の振動を減衰する後輪側ダンパ120と、を備えている。また、リヤサスペンション22は、後輪側懸架スプリング110のバネ力を調整することで車体フレーム11と後輪21との相対的な位置である後輪側相対位置を変更可能な後輪側相対位置変更装置140と、この後輪側相対位置変更装置140に液体を供給する後輪側液体供給装置160と、を備えている。また、リヤサスペンション22は、このリヤサスペンション22を車体フレーム11に取り付けるための車体側取付部材184と、リヤサスペンション22を後輪21に取り付けるための車軸側取付部材185と、車軸側取付部材185に取り付けられて後輪側懸架スプリング110における中心線方向の一方の端部(図2においては下部)を支持するばね受け190と、を備えている。リヤサスペンション22は、車体フレーム11と後輪21との相対的な位置を変更する変更手段の一例として機能する。
【0017】
後輪側ダンパ120は、図2に示すように、薄肉円筒状の外シリンダ121と、外シリンダ121内に収容される薄肉円筒状の内シリンダ122と、円筒状の外シリンダ121の円筒の中心線方向(図2では上下方向)の一方の端部(図2では下部)を塞ぐ底蓋123と、内シリンダ122の中心線方向の他方の端部(図2では上部)を塞ぐ上蓋124と、を有するシリンダ125を備えている。以下では、外シリンダ121の円筒の中心線方向を、単に「中心線方向」と称す。
【0018】
また、後輪側ダンパ120は、中心線方向に移動可能に内シリンダ122内に挿入されたピストン126と、中心線方向に延びるとともに中心線方向の他方の端部(図2では上端部)でピストン126を支持するピストンロッド127と、を備えている。ピストン126は、内シリンダ122の内周面に接触し、シリンダ125内の液体(本実施の形態においてはオイル)が封入された空間を、ピストン126よりも中心線方向の一方の端部側の第1油室131と、ピストン126よりも中心線方向の他方の端部側の第2油室132とに区分する。ピストンロッド127は、円筒状の部材であり、その内部に後述するパイプ161が挿入されている。
【0019】
また、後輪側ダンパ120は、ピストンロッド127における中心線方向の他方の端部側に配置された第1減衰力発生装置128と、内シリンダ122における中心線方向の他方の端部側に配置された第2減衰力発生装置129とを備えている。第1減衰力発生装置128および第2減衰力発生装置129は、後輪側懸架スプリング110による路面からの衝撃力の吸収に伴うシリンダ125とピストンロッド127との伸縮振動を減衰する。第1減衰力発生装置128は、第1油室131と第2油室132との間の連絡路として機能するように配置されており、第2減衰力発生装置129は、第2油室132と後輪側相対位置変更装置140の後述するジャッキ室142との間の連絡路として機能するように配置されている。
【0020】
後輪側液体供給装置160は、シリンダ125に対するピストンロッド127の伸縮動によりポンピング動作して後輪側相対位置変更装置140の後述するジャッキ室142内に液体を供給する装置である。
後輪側液体供給装置160は、後輪側ダンパ120の上蓋124に中心線方向に延びるように固定された円筒状のパイプ161を有している。パイプ161は、円筒状のピストンロッド127の内部であるポンプ室162内に同軸的に挿入されている。
【0021】
また、後輪側液体供給装置160は、シリンダ125およびパイプ161に進入する方向のピストンロッド127の移動により加圧されたポンプ室162内の液体を後述するジャッキ室142側へ吐出させる吐出用チェック弁163と、シリンダ125およびパイプ161から退出する方向のピストンロッド127の移動により負圧になるポンプ室162にシリンダ125内の液体を吸い込む吸込用チェック弁164とを有する。
【0022】
図3(a)および図3(b)は、後輪側液体供給装置160の作用を説明するための図である。
以上のように構成された後輪側液体供給装置160は、自動二輪車1が走行してリヤサスペンション22が路面の凹凸により力を受けると、ピストンロッド127がシリンダ125およびパイプ161に進退する伸縮動によりポンピング動作する。このポンピング動作により、ポンプ室162が加圧されると、ポンプ室162内の液体が吐出用チェック弁163を開いて後輪側相対位置変更装置140のジャッキ室142側へ吐出され(図3(a)参照)、ポンプ室162が負圧になると、シリンダ125の第2油室132内の液体が吸込用チェック弁164を開いてポンプ室162に吸い込まれる(図3(b)参照)。
【0023】
後輪側相対位置変更装置140は、後輪側ダンパ120のシリンダ125の外周を覆うように配置されて後輪側懸架スプリング110における中心線方向の他方の端部(図2では上部)を支持する支持部材141と、シリンダ125における中心線方向の他方の端部側(図2では上側)の外周を覆うように配置されて支持部材141とともにジャッキ室142を形成する油圧ジャッキ143とを有している。ジャッキ室142内にシリンダ125内の液体が充填されたり、ジャッキ室142内から液体が排出されたりすることで、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して中心線方向に移動する。そして、油圧ジャッキ143には、上部に車体側取付部材184が取り付けられており、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して中心線方向に移動することで後輪側懸架スプリング110のバネ力が変わり、その結果、後輪21に対するシート19の相対的な位置が変わる。
【0024】
また、後輪側相対位置変更装置140は、ジャッキ室142と油圧ジャッキ143に形成された液体溜室143aとの間の流体の流通経路上に設けられて、ジャッキ室142に供給された液体をジャッキ室142に溜めるように閉弁するとともに、ジャッキ室142に供給された液体を、油圧ジャッキ143に形成された液体溜室143aに排出するように開弁する電磁弁(ソレノイドバルブ)である後輪側電磁弁170を有している。後輪側電磁弁170については後で詳述する。なお、液体溜室143aに排出された液体は、シリンダ125内に戻される。
【0025】
図4(a)および図4(b)は、後輪側相対位置変更装置140による車高調整を説明するための図である。
後輪側電磁弁170が全開状態から少しでも閉じた状態のときに、後輪側液体供給装置160によりジャッキ室142内に液体が供給されるとジャッキ室142内に液体が充填され、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して中心線方向の一方の端部側(図4(a)では下側)に移動し、後輪側懸架スプリング110のバネ長が短くなる(図4(a)参照)。他方、後輪側電磁弁170が全開になるとジャッキ室142内の液体は液体溜室143aに排出され、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して中心線方向の他方の端部側(図4(b)では上側)に移動し、後輪側懸架スプリング110のバネ長が長くなる(図4(b)参照)。
【0026】
支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動することで後輪側懸架スプリング110のバネ長が短くなると、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動する前と比べて後輪側懸架スプリング110が支持部材141を押すバネ力が大きくなる。その結果、車体フレーム11から後輪21側へ力が作用したとしても両者の相対位置を変化させない初期セット荷重が切り替わる。かかる場合、車体フレーム11(シート19)側から中心線方向の一方の端部側(図4(a)および図4(b)では下側)に同じ力が作用した場合には、リヤサスペンション22の沈み込み量(車体側取付部材184と車軸側取付部材185との間の距離の変化)が小さくなる。それゆえ、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動することで後輪側懸架スプリング110のバネ長が短くなると、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動する前と比べて、シート19の高さが上昇する(車高が高くなる)。つまり、後輪側電磁弁170の開度が小さくなることで車高が高くなる。
【0027】
他方、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動することで後輪側懸架スプリング110のバネ長が長くなると、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動する前と比べて後輪側懸架スプリング110が支持部材141を押すバネ力が小さくなる。かかる場合、車体フレーム11(シート19)側から中心線方向の一方の端部側(図4(a)および(b)では下側)に同じ力が作用した場合には、リヤサスペンション22の沈み込み量(車体側取付部材184と車軸側取付部材185との間の距離の変化)が大きくなる。それゆえ、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動することで後輪側懸架スプリング110のバネ長が長くなると、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動する前と比べて、シート19の高さが下降する(車高が低くなる)。つまり、後輪側電磁弁170の開度が大きくなるに応じて車高が低くなる。
なお、後輪側電磁弁170は、制御装置50によりその開閉が制御される。
また、後輪側電磁弁170が開いたときに、ジャッキ室142に供給された液体を排出する先は、シリンダ125内の第1油室131および/または第2油室132であってもよい。
【0028】
また、図2に示すように、シリンダ125の外シリンダ121には、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して中心線方向の一方の端部側(図2では下側)に予め定められた限界位置まで移動したときに、ジャッキ室142内の液体をシリンダ125内まで戻す戻し路121aが形成されている。
図5は、車高が維持されるメカニズムを示す図である。
戻し路121aにより、後輪側電磁弁170が全閉しているときにジャッキ室142内に液体が供給され続けても、供給された液体がシリンダ125内に戻されるので油圧ジャッキ143に対する支持部材141の位置、ひいてはシート19の高さ(車高)が維持される。
【0029】
なお、以下では、後輪側電磁弁170が全開となり、支持部材141の油圧ジャッキ143に対する移動量が最小(零)であるときのリヤサスペンション22の状態を最小状態、後輪側電磁弁170が全閉となり、支持部材141の油圧ジャッキ143に対する移動量が最大となったときのリヤサスペンション22の状態を最大状態と称す。
【0030】
また、リヤサスペンション22は、後輪側相対位置検出部195(図11参照)を有している。後輪側相対位置検出部195としては、油圧ジャッキ143に対する支持部材141の中心線方向への移動量、言い換えれば車体側取付部材184に対する支持部材141の中心線方向への移動量を検出する物であることを例示することができる。具体的には、支持部材141の外周面にコイルを巻くとともに、油圧ジャッキ143を磁性体とし、油圧ジャッキ143に対する支持部材141の中心線方向への移動に応じて変化するコイルのインピーダンスに基づいて支持部材141の移動量を検出する物であることを例示することができる。
【0031】
次に、フロントフォーク13について詳述する。
図6は、フロントフォーク13の断面図である。
フロントフォーク13は、車体フレーム11と前輪14との間に取り付けられている。そして、フロントフォーク13は、自動二輪車1の車重を支えて衝撃を吸収する前輪側懸架スプリング210と、前輪側懸架スプリング210の振動を減衰する前輪側ダンパ220と、を備えている。また、フロントフォーク13は、前輪側懸架スプリング210のバネ力を調整することで車体フレーム11と前輪14との相対的な位置である前輪側相対位置を変更可能な前輪側相対位置変更装置240と、この前輪側相対位置変更装置240に液体を供給する前輪側液体供給装置260と、を備えている。また、フロントフォーク13は、このフロントフォーク13を前輪14に取り付けるための車軸側取付部285と、フロントフォーク13をヘッドパイプ12に取り付けるためのヘッドパイプ側取付部(不図示)と、を備えている。フロントフォーク13は、車体フレーム11と前輪14との相対的な位置を変更する変更手段の一例として機能する。
【0032】
前輪側ダンパ220は、図6に示すように、薄肉円筒状の外シリンダ221と、円筒状の外シリンダ221の中心線方向(図6では上下方向)の他方の端部(図6では上部)から一方の端部が挿入された薄肉円筒状の内シリンダ222と、外シリンダ221の中心線方向の一方の端部(図6では下部)を塞ぐ底蓋223と、内シリンダ222の中心線方向の他方の端部(図6では上部)を塞ぐ上蓋224と、を有するシリンダ225を備えている。内シリンダ222は、外シリンダ221に対して摺動可能に挿入されている。
【0033】
また、前輪側ダンパ220は、中心線方向に延びるように底蓋223に取り付けられたピストンロッド227を備えている。ピストンロッド227は、中心線方向に延びる円筒状の円筒状部227aと、円筒状部227aにおける中心線方向の他方の端部(図6では上部)に設けられた円板状のフランジ部227bとを有する。
また、前輪側ダンパ220は、内シリンダ222における中心線方向の一方の端部側(図6では下部側)に固定されるとともに、ピストンロッド227の円筒状部227aの外周に対して摺動可能なピストン226を備えている。ピストン226は、ピストンロッド227の円筒状部227aの外周面に接触し、シリンダ225内の液体(本実施の形態においてはオイル)が封入された空間を、ピストン226よりも中心線方向の一方の端部側の第1油室231と、ピストン226よりも中心線方向の他方の端部側の第2油室232とに区分する。
【0034】
また、前輪側ダンパ220は、ピストンロッド227の上方に設けられてピストンロッド227の円筒状部227aの開口を覆う覆い部材230を備えている。覆い部材230は、前輪側懸架スプリング210における中心線方向の一方の端部(図6では下端部)を支持する。そして、前輪側ダンパ220は、内シリンダ222内における覆い部材230よりも中心線方向の他方の端部側の空間およびピストンロッド227の円筒状部227aの内部の空間に形成された油溜室233を有している。油溜室233は、常に第1油室231および第2油室232と連通している。
【0035】
また、前輪側ダンパ220は、ピストン226に設けられた第1減衰力発生部228と、ピストンロッド227に形成された第2減衰力発生部229とを備えている。第1減衰力発生部228および第2減衰力発生部229は、前輪側懸架スプリング210による路面からの衝撃力の吸収に伴う内シリンダ222とピストンロッド227との伸縮振動を減衰する。第1減衰力発生部228は、第1油室231と第2油室232との間の連絡路として機能するように配置されており、第2減衰力発生部229は、第1油室231、第2油室232と油溜室233との間の連絡路として機能するように形成されている。
【0036】
前輪側液体供給装置260は、内シリンダ222に対するピストンロッド227の伸縮動によりポンピング動作して前輪側相対位置変更装置240の後述するジャッキ室242内に液体を供給する装置である。
前輪側液体供給装置260は、前輪側ダンパ220の覆い部材230に中心線方向に延びるように固定された円筒状のパイプ261を有している。パイプ261は、後述する前輪側相対位置変更装置240の支持部材241の下側円筒状部241aの内部であるポンプ室262内に同軸的に挿入されている。
【0037】
また、前輪側液体供給装置260は、内シリンダ222に進入する方向のピストンロッド227の移動により加圧されたポンプ室262内の液体を後述するジャッキ室242側へ吐出させる吐出用チェック弁263と、内シリンダ222から退出する方向のピストンロッド227の移動により負圧になるポンプ室262に油溜室233内の液体を吸い込む吸込用チェック弁264とを有する。
【0038】
図7(a)および図7(b)は、前輪側液体供給装置260の作用を説明するための図である。
以上のように構成された前輪側液体供給装置260は、自動二輪車1が走行してフロントフォーク13が路面の凹凸により力を受けて、ピストンロッド227が内シリンダ222に進退すると、パイプ261が前輪側相対位置変更装置240の支持部材241に進退することによりポンピング動作する。このポンピング動作により、ポンプ室262が加圧されると、ポンプ室262内の液体が吐出用チェック弁263を開いて前輪側相対位置変更装置240のジャッキ室242側へ吐出され(図7(a)参照)、ポンプ室262が負圧になると、油溜室233内の液体が吸込用チェック弁264を開いてポンプ室262に吸い込まれる(図7(b)参照)。
【0039】
前輪側相対位置変更装置240は、前輪側ダンパ220の内シリンダ222内に配置されるとともに、円板状のスプリング受け244を介して前輪側懸架スプリング210における中心線方向の他方の端部(図6では上部)を支持する支持部材241を備えている。支持部材241は、中心線方向の一方の端部側(図6では下側)において円筒状に形成された下側円筒状部241aと、中心線方向の他方の端部側(図6では上側)において円筒状に形成された上側円筒状部241bとを有している。下側円筒状部241aには、パイプ261が挿入される。
【0040】
また、前輪側相対位置変更装置240は、支持部材241の上側円筒状部241b内に嵌め込まれて支持部材241とともにジャッキ室242を形成する油圧ジャッキ243を有している。ジャッキ室242内にシリンダ225内の液体が充填されたり、ジャッキ室242内から液体が排出されたりすることで、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して中心線方向に移動する。そして、油圧ジャッキ243には、上部にヘッドパイプ側取付部(不図示)が取り付けられており、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して中心線方向に移動することで前輪側懸架スプリング210のバネ力が変わり、その結果、前輪14に対するシート19の相対的な位置が変わる。
【0041】
また、前輪側相対位置変更装置240は、ジャッキ室242と油溜室233との間の流体の流通経路上に設けられて、ジャッキ室242に供給された液体をジャッキ室242に溜めるように閉弁するとともに、ジャッキ室242に供給された液体を油溜室233に排出するように開弁する電磁弁(ソレノイドバルブ)である前輪側電磁弁270を有している。前輪側電磁弁270については後で詳述する。
【0042】
図8(a)および図8(b)は、前輪側相対位置変更装置240による車高調整を説明するための図である。
前輪側電磁弁270が全開状態から少しでも閉じた状態のときに、前輪側液体供給装置260によりジャッキ室242内に液体が供給されるとジャッキ室242内に液体が充填され、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して中心線方向の一方の端部側(図8(a)では下側)に移動し、前輪側懸架スプリング210のバネ長が短くなる(図8(a)参照)。他方、前輪側電磁弁270が全開になるとジャッキ室242内の液体は油溜室233に排出され、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して中心線方向の他方の端部側(図8(b)では上側)に移動し、前輪側懸架スプリング210のバネ長が長くなる(図8(b)参照)。
【0043】
支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動することで前輪側懸架スプリング210のバネ長が短くなると、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動する前と比べて前輪側懸架スプリング210が支持部材241を押すバネ力が大きくなる。その結果、車体フレーム11から前輪14側へ力が作用したとしても両者の相対位置を変化させない初期セット荷重が切り替わる。かかる場合、車体フレーム11(シート19)側から中心線方向の一方の端部側(図8(a)および図8(b)では下側)に同じ力が作用した場合には、フロントフォーク13の沈み込み量(ヘッドパイプ側取付部(不図示)と車軸側取付部285との間の距離の変化)が小さくなる。それゆえ、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動することで前輪側懸架スプリング210のバネ長が短くなると、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動する前と比べて、シート19の高さが上昇する(車高が高くなる)。つまり、前輪側電磁弁270の開度が小さくなることで車高が高くなる。
【0044】
他方、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動することで前輪側懸架スプリング210のバネ長が長くなると、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動する前と比べて前輪側懸架スプリング210が支持部材241を押すバネ力が小さくなる。かかる場合、車体フレーム11(シート19)側から中心線方向の一方の端部側(図8(a)および図8(b)では下側)に同じ力が作用した場合には、フロントフォーク13の沈み込み量(ヘッドパイプ側取付部(不図示)と車軸側取付部285との間の距離の変化)が大きくなる。それゆえ、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動することで前輪側懸架スプリング210のバネ長が長くなると、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動する前と比べて、シート19の高さが下降する(車高が低くなる)。つまり、前輪側電磁弁270の開度が大きくなるに応じて車高が低くなる。
なお、前輪側電磁弁270は、制御装置50によりその開閉が制御される。
また、前輪側電磁弁270が開いたときに、ジャッキ室242に供給された液体を排出する先は、第1油室231および/または第2油室232であってもよい。
【0045】
図9は、車高が維持されるメカニズムを示す図である。
油圧ジャッキ243の外周面には、図9に示すように、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して中心線方向の一方の端部側(図8(a)および図8(b)では下側)に予め定められた限界位置まで移動したときに、ジャッキ室242内の液体を油溜室233内まで戻す戻し路(不図示)が形成されている。
戻し路により、前輪側電磁弁270が閉弁しているときにジャッキ室242内に液体が供給され続けても、供給された液体が油溜室233内に戻されるので油圧ジャッキ243に対する支持部材241の位置、ひいてはシート19の高さ(車高)が維持される。
【0046】
なお、以下では、前輪側電磁弁270が全開となり、支持部材241の油圧ジャッキ243に対する移動量が最小(零)であるときのフロントフォーク13の状態を最小状態、前輪側電磁弁270が全閉となり、支持部材241の油圧ジャッキ243に対する移動量が最大となったときのフロントフォーク13の状態を最大状態と称す。
【0047】
また、フロントフォーク13は、前輪側相対位置検出部295(図11参照)を有している。前輪側相対位置検出部295としては、油圧ジャッキ243に対する支持部材241の中心線方向への移動量、言い換えればヘッドパイプ側取付部に対する支持部材241の中心線方向への移動量を検出する物であることを例示することができる。具体的には、半径方向の位置では内シリンダ222の外周面であって、中心線方向の位置では支持部材241に対応する位置にコイルを巻くとともに、支持部材241を磁性体とし、油圧ジャッキ243に対する支持部材241の中心線方向への移動に応じて変化するコイルのインピーダンスに基づいて支持部材241の移動量を検出する物であることを例示することができる。
【0048】
次に、前輪側相対位置変更装置240の前輪側電磁弁270および後輪側相対位置変更装置140の後輪側電磁弁170の概略構成について説明する。
図10(a)は、前輪側電磁弁270の概略構成を示す図であり、図10(b)は、後輪側電磁弁170の概略構成を示す図である。
前輪側電磁弁270は、いわゆるノーマルオープンタイプの電磁弁であり、図10(a)に示すように、コイル271を巻いたボビン272と、ボビン272の中空部272aに固定された棒状の固定鉄心273と、コイル271とボビン272と固定鉄心273を支持するホルダ274と、固定鉄心273の先端(端面)に対応して配置され、固定鉄心273に吸引される略円板状の可動鉄心275と、を備えている。また、前輪側電磁弁270は、可動鉄心275の先端中央に固定された弁体276と、ホルダ274と組み合わされるボディ277と、ボディ277に形成され、弁体276が配置される弁室278と、ボディ277に形成された開口部を覆うとともにボディ277と協働して弁室278を形成する覆い部材279と、弁体276と覆い部材279との間に配置されたコイルスプリング280と、を備えている。また、前輪側電磁弁270は、ボディ277に形成され、弁体276に対応して弁室278に配置された弁座281と、ボディ277に形成され、ジャッキ室242(図9参照)から弁室278に流体を導入する導入流路282と、ボディ277に形成され、弁室278から弁座281を経由して油溜室233の方へ流体を導出する導出流路283と、を備えている。
【0049】
後輪側電磁弁170は、いわゆるノーマルオープンタイプの電磁弁であり、図10(b)に示すように、コイル171を巻いたボビン172と、ボビン172の中空部172aに固定された棒状の固定鉄心173と、コイル171とボビン172と固定鉄心173を支持するホルダ174と、固定鉄心173の先端(端面)に対応して配置され、固定鉄心173に吸引される略円板状の可動鉄心175と、を備えている。また、後輪側電磁弁170は、可動鉄心175の先端中央に固定された弁体176と、ホルダ174と組み合わされるボディ177と、ボディ177に形成され、弁体176が配置される弁室178と、ボディ177に形成された開口部を覆うとともにボディ177と協働して弁室178を形成する覆い部材179と、弁体176と覆い部材179との間に配置されたコイルスプリング180と、を備えている。また、後輪側電磁弁170は、ボディ177に形成され、弁体176に対応して弁室178に配置された弁座181と、ボディ177に形成され、ジャッキ室142(図5参照)から弁室178に流体を導入する導入流路182と、ボディ177に形成され、弁室178から弁座181を経由して液体溜室143aの方へ流体を導出する導出流路183と、を備えている。
【0050】
このように構成された前輪側電磁弁270,後輪側電磁弁170は、コイル271,171に通電されない非通電時には、コイルスプリング280,180によって可動鉄心275,175が図中下方へ付勢されるので、可動鉄心275,175の先端(端面)に固定されている弁体276,176が弁座281,181に当接しない。このため、前輪側電磁弁270および後輪側電磁弁170は、導入流路282,182と導出流路283,183との間が連通され、弁開状態となる。一方、前輪側電磁弁270,後輪側電磁弁170は、コイル271,171に通電される通電時には、コイル271,171が通電により励磁されるときの固定鉄心273,173の吸引力とコイルスプリング280,180の付勢力との釣り合いにより可動鉄心275,175が変位する。前輪側電磁弁270および後輪側電磁弁170は、弁座281,181に対する弁体276,176の位置、すなわち弁の開度が調整されるようになっている。この弁の開度は、コイル271,171に供給される電力(電流・電圧)を変えることにより調整される。
【0051】
次に、制御装置50について説明する。
図11は、制御装置50のブロック図である。
制御装置50は、CPUと、CPUにて実行されるプログラムや各種データ等が記憶されたROMと、CPUの作業用メモリ等として用いられるRAMと、を備えている。制御装置50には、上述した前輪回転検出センサ31、後輪回転検出センサ32、前輪側相対位置検出部295および後輪側相対位置検出部195などからの出力信号が入力される。
【0052】
制御装置50は、前輪回転検出センサ31からの出力信号を基に前輪14の回転速度を演算する前輪回転速度演算部51と、後輪回転検出センサ32からの出力信号を基に後輪21の回転速度を演算する後輪回転速度演算部52と、を備えている。これら前輪回転速度演算部51、後輪回転速度演算部52は、それぞれ、センサからの出力信号であるパルス信号を基に回転角度を把握し、それを経過時間で微分することで回転速度を演算する。
【0053】
制御装置50は、前輪側相対位置検出部295からの出力信号を基に前輪側相対位置変更装置240(図8(a)および図8(b)参照)の支持部材241の油圧ジャッキ243に対する移動量である前輪側移動量Lfを把握する前輪側移動量把握部53を備えている。また、制御装置50は、後輪側相対位置検出部195からの出力信号を基に後輪側相対位置変更装置140の支持部材141の油圧ジャッキ143に対する移動量である後輪側移動量Lrを把握する後輪側移動量把握部54を備えている。前輪側移動量把握部53および後輪側移動量把握部54は、予めROMに記憶された、コイルのインピーダンスと、前輪側移動量Lfまたは後輪側移動量Lrとの相関関係に基づいて、それぞれ前輪側移動量Lf、後輪側移動量Lrを把握する。
【0054】
なお、前輪側移動量把握部53は、前輪14の左側に配置されたフロントフォーク13の前輪側相対位置変更装置240(図8(a)および図8(b)参照)の支持部材241の油圧ジャッキ243に対する移動量(以下では、「左前輪側移動量Llf」と称す。)と、前輪14の右側に配置されたフロントフォーク13の前輪側相対位置変更装置240(図8(a)および図8(b)参照)の支持部材241の油圧ジャッキ243に対する移動量(以下では、「右前輪側移動量Lrf」と称す。)と、を把握する。
また、後輪側移動量把握部54は、後輪21の左側に配置されたリヤサスペンション22の後輪側相対位置変更装置140の支持部材141の油圧ジャッキ143に対する移動量(以下では、「左後輪側移動量Llr」と称す。)と、後輪21の右側に配置されたリヤサスペンション22の後輪側相対位置変更装置140の支持部材141の油圧ジャッキ143に対する移動量(以下では、「右後輪側移動量Lrr」と称す。)と、を把握する。
【0055】
また、制御装置50は、前輪回転速度演算部51が演算した前輪14の回転速度および/または後輪回転速度演算部52が演算した後輪21の回転速度を基に自動二輪車1の移動速度である車速Vcを把握する車速把握部56を備えている。車速把握部56は、前輪回転速度Rfまたは後輪回転速度Rrを用いて前輪14または後輪21の移動速度を演算することにより車速Vcを把握する。前輪14の移動速度は、前輪回転速度Rfと前輪14のタイヤの外径とを用いて演算することができ、後輪21の移動速度は、後輪回転速度Rrと後輪21のタイヤの外径とを用いて演算することができる。そして、自動二輪車1が通常の状態で走行している場合には、車速Vcは、前輪14の移動速度および/または後輪21の移動速度と等しいと解することができる。また、車速把握部56は、前輪回転速度Rfと後輪回転速度Rrとの平均値を用いて前輪14と後輪21の平均の移動速度を演算することにより車速Vcを把握してもよい。
【0056】
また、制御装置50は、車速把握部56が把握した車速Vcに基づいて、前輪側相対位置変更装置240の前輪側電磁弁270の開閉および後輪側相対位置変更装置140の後輪側電磁弁170の開閉を制御する電磁弁制御部57を有している。この電磁弁制御部57については、後で詳述する。
これら前輪回転速度演算部51、後輪回転速度演算部52、前輪側移動量把握部53、後輪側移動量把握部54、車速把握部56および電磁弁制御部57は、CPUがROMなどの記憶領域に記憶されたソフトウェアを実行することにより実現される。
【0057】
次に、制御装置50の電磁弁制御部57について詳しく説明する。
図12は、電磁弁制御部57のブロック図である。
電磁弁制御部57は、前輪側移動量Lfの目標移動量である前輪側目標移動量を決定する前輪側目標移動量決定部571と、後輪側移動量Lrの目標移動量である後輪側目標移動量を決定する後輪側目標移動量決定部572と、を有する目標移動量決定部570を有している。また、電磁弁制御部57は、前輪側相対位置変更装置240の前輪側電磁弁270および後輪側相対位置変更装置140の後輪側電磁弁170に供給する目標電流を決定する目標電流決定部510と、目標電流決定部510が決定した目標電流に基づいてフィードバック制御などを行う制御部520とを有している。
【0058】
目標移動量決定部570は、車速把握部56が把握した車速Vcおよび自動二輪車1に設けられた後述する車高調整スイッチ34がどの位置に操作されているかに基づいて目標移動量を決定する。
図13は、車高調整スイッチ34の外観図である。
車高調整スイッチ34は、図13に示すように、所謂ダイヤル式のスイッチであり、ユーザがつまみを回転させることにより、「低」と、「中」と、「高」とを選択できるように構成されている。そして、車高調整スイッチ34は、例えばスピードメータの近傍に設けられている。
【0059】
図14(a)は、車速Vcと前輪側目標移動量との相関関係を示す図である。図14(b)は、車速Vcと後輪側目標移動量との相関関係を示す図である。
目標移動量決定部570は、自動二輪車1が走行開始後、車速把握部56が把握した車速Vcが予め定められた上昇車速Vuよりも小さいときには目標移動量を零に決定し、車速Vcが上昇車速Vuより小さい状態から上昇車速Vu以上となった場合には、目標移動量を、車高調整スイッチ34の操作位置に応じて予め定められた値に決定する。より具体的には、前輪側目標移動量決定部571は、図14(a)に示すように、車速Vcが上昇車速Vuより小さい状態から上昇車速Vu以上となった場合には、前輪側目標移動量を、車高調整スイッチ34の操作位置に応じて予め定められた所定前輪側目標移動量Lf0に決定する。他方、後輪側目標移動量決定部572は、図14(b)に示すように、車速Vcが上昇車速Vuより小さい状態から上昇車速Vu以上となった場合には、後輪側目標移動量を、車高調整スイッチ34の操作位置に応じて予め定められた所定後輪側目標移動量Lr0に決定する。以降、車速把握部56が把握した車速Vcが上昇車速Vu以上である間は、前輪側目標移動量決定部571,後輪側目標移動量決定部572は、前輪側目標移動量,後輪側目標移動量を、所定前輪側目標移動量Lf0,所定後輪側目標移動量Lr0に決定する。車高調整スイッチ34の操作位置と、この操作位置に応じた所定前輪側目標移動量Lf0,所定後輪側目標移動量Lr0との関係は、予めROMに記憶しておく。前輪側移動量Lfと後輪側移動量Lrとに応じて自動二輪車1の車高が定まることから、車高調整スイッチ34の操作位置に応じて自動二輪車1の車高の目標値である目標車高を定め、この目標車高に応じた所定前輪側目標移動量Lf0,所定後輪側目標移動量Lr0を予め定め、ROMに記憶しておくことを例示することができる。なお、車高調整スイッチ34が「高」の位置であるときに、所定前輪側目標移動量Lf0,所定後輪側目標移動量Lr0は、フロントフォーク13,リヤサスペンション22が最大状態となる移動量に設定されることを例示することができる。
【0060】
他方、目標移動量決定部570は、自動二輪車1が上昇車速Vu以上で走行している状態から予め定められた下降車速Vd以下となった場合には目標移動量を零に決定する。つまり、前輪側目標移動量決定部571,後輪側目標移動量決定部572は、前輪側目標移動量,後輪側目標移動量を零に決定する。なお、上昇車速Vuは10km/h、下降車速Vdは8km/hであることを例示することができる。
また、目標移動量決定部570は、車速把握部56が把握した車速Vcが下降車速Vdよりも大きい場合であっても、急ブレーキなどで自動二輪車1が急減速した場合には、目標移動量を零に決定する。つまり、前輪側目標移動量決定部571,後輪側目標移動量決定部572は、前輪側目標移動量,後輪側目標移動量を零に決定する。自動二輪車1が急減速したかどうかは、車速把握部56が把握した車速Vcの単位時間当たりの減少量が予め定められた値以下であるか否かで把握することができる。
【0061】
目標電流決定部510は、前輪側目標移動量決定部571が決定した前輪側目標移動量に基づいて前輪側電磁弁270の目標電流である前輪側目標電流を決定する前輪側目標電流決定部511と、後輪側目標移動量決定部572が決定した後輪側目標移動量に基づいて後輪側電磁弁170の目標電流である後輪側目標電流を決定する後輪側目標電流決定部512と、を有している。
前輪側目標電流決定部511は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、前輪側目標移動量と前輪側目標電流との対応を示すマップに、前輪側目標移動量決定部571が決定した前輪側目標移動量を代入することにより前輪側目標電流を決定する。
後輪側目標電流決定部512は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、後輪側目標移動量と後輪側目標電流との対応を示すマップに、後輪側目標移動量決定部572が決定した後輪側目標移動量を代入することにより後輪側目標電流を決定する。
【0062】
なお、前輪側目標電流決定部511,後輪側目標電流決定部512は、前輪側目標移動量,後輪側目標移動量が零の場合には、前輪側目標電流,後輪側目標電流を零に決定する。また、前輪側目標電流決定部511,後輪側目標電流決定部512は、前輪側目標移動量,後輪側目標移動量が零であり、前輪側目標電流,後輪側目標電流を零に決定している状態から、前輪側目標移動量決定部571,後輪側目標移動量決定部572が決定した前輪側目標移動量,後輪側目標移動量が零以外の値に変わった場合には、言い換えれば、車高を高めていない状態から高め始める場合には、一定時間、前輪側目標電流,後輪側目標電流を予め定められた最大電流に決定する。そして、前輪側目標電流決定部511,後輪側目標電流決定部512は、一定時間経過後に、前輪側目標移動量決定部571,後輪側目標移動量決定部572が決定した前輪側目標移動量,後輪側目標移動量に応じた、前輪側目標電流,後輪側目標電流に決定する。
【0063】
また、前輪側目標電流決定部511は、前輪側目標移動量決定部571が決定した前輪側目標移動量に基づいて前輪側目標電流を決定する際、一定期間経過後は、前輪側目標移動量決定部571が決定した前輪側目標移動量と、前輪側移動量把握部53が把握した実際の前輪側移動量Lfとの偏差に基づいてフィードバック制御を行い、前輪側目標電流を決定してもよい。同様に、後輪側目標電流決定部512は、後輪側目標移動量決定部572が決定した後輪側目標移動量に基づいて後輪側目標電流を決定する際、一定期間経過後は、後輪側目標移動量決定部572が決定した後輪側目標移動量と、後輪側移動量把握部54が把握した実際の後輪側移動量Lrとの偏差に基づいてフィードバック制御を行い、後輪側目標電流を決定してもよい。
【0064】
制御部520は、前輪側電磁弁270の作動を制御する前輪側作動制御部530と、前輪側電磁弁270を駆動させる前輪側電磁弁駆動部533と、前輪側電磁弁270に実際に流れる実電流を検出する前輪側検出部534とを有している。また、制御部520は、後輪側電磁弁170の作動を制御する後輪側作動制御部540と、後輪側電磁弁170を駆動させる後輪側電磁弁駆動部543と、後輪側電磁弁170に実際に流れる実電流を検出する後輪側検出部544とを有している。
【0065】
前輪側作動制御部530は、前輪側目標電流決定部511が決定した前輪側目標電流と、前輪側検出部534が検出した実際の電流(前輪側実電流)との偏差に基づいてフィードバック制御を行う前輪側フィードバック(F/B)制御部531と、前輪側電磁弁270をPWM制御する前輪側PWM制御部532とを有している。
後輪側作動制御部540は、後輪側目標電流決定部512が決定した後輪側目標電流と、後輪側検出部544が検出した実際の電流(後輪側実電流)との偏差に基づいてフィードバック制御を行う後輪側フィードバック(F/B)制御部541と、後輪側電磁弁170をPWM制御する後輪側PWM制御部542とを有している。
【0066】
前輪側フィードバック制御部531は、前輪側目標電流と、前輪側検出部534が検出した前輪側実電流との偏差を求め、その偏差がゼロとなるようにフィードバック処理を行う。後輪側フィードバック制御部541は、後輪側目標電流と、後輪側検出部544が検出した後輪側実電流との偏差を求め、その偏差がゼロとなるようにフィードバック処理を行う。前輪側フィードバック制御部531,後輪側フィードバック制御部541は、例えば、前輪側目標電流と前輪側実電流との偏差,後輪側目標電流と後輪側実電流との偏差に対して、比例要素で比例処理し、積分要素で積分処理し、加算演算部でこれらの値を加算するものであることを例示することができる。あるいは、前輪側フィードバック制御部531,後輪側フィードバック制御部541は、例えば、目標電流と実電流との偏差に対して、比例要素で比例処理し、積分要素で積分処理し、微分要素で微分処理し、加算演算部でこれらの値を加算するものであることを例示することができる。
【0067】
前輪側PWM制御部532は、一定周期(T)のパルス幅(t)のデューティ比(=t/T×100(%))を変え、前輪側電磁弁270の開度(前輪側電磁弁270のコイルに印加される電圧)をPWM制御する。PWM制御が行われると、前輪側電磁弁270のコイルに印加される電圧が、デューティ比に応じたパルス状に印加される。このとき、前輪側電磁弁270のコイル271に流れる電流は、コイル271のインピーダンスにより、パルス状に印加される電圧に追従して変化することができずになまって出力され、前輪側電磁弁270のコイルを流れる電流は、デューティ比に比例して増減される。そして、前輪側PWM制御部532は、例えば、前輪側目標電流が零である場合にはデューティ比を零に設定し、前輪側目標電流が上述した最大電流である場合にはデューティ比を100%に設定することを例示することができる。
【0068】
同様に、後輪側PWM制御部542は、デューティ比を変え、後輪側電磁弁170の開度(後輪側電磁弁170のコイルに印加される電圧)をPWM制御する。PWM制御が行われると、後輪側電磁弁170のコイル171に印加される電圧がデューティ比に応じたパルス状に印加され、後輪側電磁弁170のコイル171を流れる電流がデューティ比に比例して増減する。そして、後輪側PWM制御部542は、例えば、後輪側目標電流が零である場合にはデューティ比を零に設定し、後輪側目標電流が上述した最大電流である場合にはデューティ比を100%に設定することを例示することができる。
【0069】
前輪側電磁弁駆動部533は、例えば、電源の正極側ラインと前輪側電磁弁270のコイルとの間に接続された、スイッチング素子としてのトランジスタ(FET)を備えている。そして、このトランジスタのゲートを駆動してこのトランジスタをスイッチング動作させることにより、前輪側電磁弁270の駆動を制御する。後輪側電磁弁駆動部543は、例えば、電源の正極側ラインと後輪側電磁弁170のコイルとの間に接続されたトランジスタを備えている。そして、このトランジスタのゲートを駆動してこのトランジスタをスイッチング動作させることにより、後輪側電磁弁170の駆動を制御する。
前輪側検出部534は、前輪側電磁弁駆動部533に接続されたシャント抵抗の両端に生じる電圧から前輪側電磁弁270に流れる実電流の値を検出する。後輪側検出部544は、後輪側電磁弁駆動部543に接続されたシャント抵抗の両端に生じる電圧から後輪側電磁弁170に流れる実電流の値を検出する。
【0070】
以上のように構成された自動二輪車1においては、制御装置50の電磁弁制御部57が、車高調整スイッチ34の操作位置に応じた目標車高に基づいて目標電流を決定し、前輪側電磁弁270および後輪側電磁弁170に供給される実際の電流が決定した目標電流となるようにPWM制御を行う。つまり、電磁弁制御部57の前輪側PWM制御部532,後輪側PWM制御部542は、デューティ比を変更することにより前輪側電磁弁270,後輪側電磁弁170のコイル271,171に供給される電力を制御し、前輪側電磁弁270,後輪側電磁弁170を任意の開度に制御する。これにより、制御装置50は、車高調整スイッチ34の操作位置に応じて車高を任意の高さに変更することができるので、車高を多段階に変更することができる。
【0071】
<故障が生じた場合の制御>
次に、2つのフロントフォーク13および2つのリヤサスペンション22の内のいずれかに故障が生じた場合の、制御装置50の電磁弁制御部57が行う後輪側電磁弁170および前輪側電磁弁270の開閉制御処理について詳しく説明する。
2つのフロントフォーク13および2つのリヤサスペンション22の内のいずれかに、前輪側電磁弁270,後輪側電磁弁170を全閉にしたとしても最大状態とはならない故障(以下、「最大化不能故障」と称す。)が生じることが考えられる。フロントフォーク13の最大化不能故障の原因としては、例えば、油圧ジャッキ243の外周面あるいは支持部材241の上側円筒状部241bにジャッキ室242内の液体を油溜室233に戻してしまう孔が、最大状態に維持する戻し路よりも下方の位置に形成されたことを例示することができる。一方、リヤサスペンション22の最大化不能故障の原因としては、例えば、外シリンダ121にジャッキ室142内の液体をシリンダ125内まで戻してしまう孔が戻し路121aよりも上方の位置に形成されたことを例示することができる。この最大化不能故障が生じた場合には、前輪側電磁弁270,後輪側電磁弁170を全閉にしたとしても液体がこの孔から油溜室233,シリンダ125内まで戻されることから最大状態とはならずにその孔の位置で移動量が維持される。以下では、最大化不能故障時に前輪側電磁弁270,後輪側電磁弁170を全閉にした場合に維持される移動量をそれぞれ「前輪側故障時移動量」、「後輪側故障時移動量」と称し、「前輪側故障時移動量」、「後輪側故障時移動量」となる前輪側電磁弁270,後輪側電磁弁170の開度をそれぞれ「前輪側故障開度」、「後輪側故障開度」と称す。
【0072】
そして、2つのフロントフォーク13の内、片方だけに最大化不能故障が生じた場合には、故障した方のフロントフォーク13の前輪側電磁弁270を前輪側故障開度以下に閉じたとしても前輪側故障時移動量が維持される。他方、故障していない方のフロントフォーク13はデューティ比に応じた移動量となる。そして、中心線方向に生じる荷重を2つのフロントフォーク13で略均等に受けるため、前輪側相対位置は、2つのフロントフォーク13がともに故障していない方のフロントフォーク13のデューティ比であった場合の前輪側相対位置と、2つのフロントフォーク13がともに前輪側故障時移動量で維持される場合の前輪側相対位置との間の中間位置となる。例えば、故障していない方のフロントフォーク13が最大状態である場合には、前輪側相対位置は、2つのフロントフォーク13がともに最大状態であるときの前輪側相対位置と2つのフロントフォーク13がともに前輪側故障時移動量であるときの前輪側相対位置との間の中間位置となる。
【0073】
かかる場合、2つのリヤサスペンション22がともに正常である場合には、2つのフロントフォーク13の片方に最大化不能故障が生じる前の姿勢(自動二輪車1の姿勢として好ましいと予め定められた姿勢(理想姿勢))と比べると、前輪側相対位置が小さくなった分、自動二輪車1が前傾姿勢となる。その結果、車両の姿勢が所望の姿勢とはならず、操縦安定性やヘッドランプ23の光軸へ悪影響が発生するおそれがある。
【0074】
一方、2つのリヤサスペンション22の内、片方だけに最大化不能故障が生じた場合には、故障した方のリヤサスペンション22の後輪側電磁弁170を後輪側故障開度以下に閉じたとしても後輪側故障時移動量が維持される。他方、故障していない方のリヤサスペンション22はデューティ比に応じた移動量となる。そして、中心線方向に生じる荷重を2つのリヤサスペンション22で略均等に受けるため、後輪側相対位置は、2つのリヤサスペンション22がともに故障していない方のリヤサスペンション22のデューティ比であった場合の後輪側相対位置と、2つのリヤサスペンション22がともに後輪側故障時移動量で維持される場合の後輪側相対位置との間の中間位置となる。例えば、故障していない方のリヤサスペンション22が最大状態である場合には、後輪側相対位置は、2つのリヤサスペンション22がともに最大状態であるときの後輪側相対位置と2つのリヤサスペンション22がともに後輪側故障位置であるときの後輪側相対位置との間の中間位置となる。
【0075】
かかる場合、2つのフロントフォーク13がともに正常である場合には、2つのリヤサスペンション22の片方に最大化不能故障が生じる前の理想姿勢と比べると、後輪側相対位置が小さくなった分、自動二輪車1が後傾姿勢となる。その結果、車両の姿勢が所望の姿勢とはならず、操縦安定性やヘッドランプ23の光軸へ悪影響が発生するおそれがある。また、ブレーキ27は前輪14の回転を停止するため、後傾姿勢になると制動能力が低下するおそれがある。
【0076】
かかる事項に鑑み、本実施の形態に係る制御装置50は、2つのフロントフォーク13および2つのリヤサスペンション22の内のいずれかに故障が生じた場合には、故障していない装置を、故障が生じた装置の前輪側故障時移動量,後輪側故障時移動量に基づいて制御することを特徴とする。例えば、制御装置50は、故障が生じた装置の前輪側故障時移動量,後輪側故障時移動量に応じて予め定められた移動量に故障していない装置の移動量を制御する。そして、2つのフロントフォーク13および2つのリヤサスペンション22の内のいずれかに故障が生じた場合でも、自動二輪車1の姿勢を理想姿勢にすることができるように故障していない装置の移動量を制御する。
【0077】
より具体的には、制御装置50の目標移動量決定部570は、故障が生じた装置の車速Vcに応じた目標移動量が前輪側故障時移動量(故障が生じた装置がフロントフォーク13の場合)あるいは後輪側故障時移動量(故障が生じた装置がリヤサスペンション22の場合)より大きいときに故障が生じた場合には、故障していない装置の目標移動量を車速Vcに応じて決定するのではなく、故障が生じた装置の前輪側故障時移動量,後輪側故障時移動量に応じて予め定められた移動量を目標移動量に決定する。そして、制御装置50の目標移動量決定部570は、故障が生じた装置の車速Vcに応じた目標移動量が前輪側故障時移動量(故障が生じた装置がフロントフォーク13の場合)あるいは後輪側故障時移動量(故障が生じた装置がリヤサスペンション22の場合)以下となった場合には、故障していない装置の目標移動量を通常通り車速Vcに応じて決定する。
【0078】
図15(a)〜(d)は、前輪側故障時移動量あるいは後輪側故障時移動量と、故障していない装置の移動量との相関関係を示す図である。図15(a)は、一方のフロントフォーク13に故障が生じて前輪側故障時移動量で維持される場合の他方のフロントフォーク13の移動量を示した図である。図15(b)は、一方のフロントフォーク13に故障が生じて前輪側故障時移動量で維持される場合の2つのリヤサスペンション22の移動量を示した図である。図15(c)は、一方のリヤサスペンション22に故障が生じて後輪側故障時移動量で維持される場合の他方のリヤサスペンション22の移動量を示した図である。図15(d)は、一方のリヤサスペンション22に故障が生じて後輪側故障時移動量で維持される場合の2つのフロントフォーク13の移動量を示した図である。
【0079】
本実施の形態に係る制御装置50は、一方のフロントフォーク13に故障が生じて前輪側故障時移動量で維持されている場合には、他方のフロントフォーク13も前輪側故障時移動量となるように目標移動量を決定し、前輪側電磁弁270の開度を制御する(図15(a)参照)。また、一方のフロントフォーク13に故障が生じて前輪側故障時移動量で維持されている場合には、2つのリヤサスペンション22の移動量を、リヤサスペンション22の移動量に基づく車高に寄与する成分(地面に垂直な方向の成分(図1においては上下方向の成分))が、フロントフォーク13が前輪側故障時移動量である場合に車高に寄与する成分と同じとなる移動量を目標移動量に決定し、後輪側電磁弁170の開度を制御する(図15(b)参照)。要は、一方のフロントフォーク13に故障が生じて前輪側故障時移動量で維持される場合には、その前輪側故障時移動量の車高に寄与する成分と、車高に寄与する成分が同じになる移動量となるように目標移動量を決定し、後輪側電磁弁170の開度を制御する。また、一方のリヤサスペンション22に故障が生じて後輪側故障時移動量で維持されている場合には、他方のリヤサスペンション22も後輪側故障時移動量となるように目標移動量を決定し、後輪側電磁弁170の開度を制御する(図15(c)参照)。また、一方のリヤサスペンション22に故障が生じて後輪側故障時移動量で維持されている場合には、2つのフロントフォーク13の移動量を、フロントフォーク13の移動量に基づく車高に寄与する成分が、リヤサスペンション22が後輪側故障時移動量である場合に車高に寄与する成分と同じとなる移動量を目標移動量に決定し、前輪側電磁弁270の開度を制御する(図15(d)参照)。
【0080】
そして、2つのフロントフォーク13および2つのリヤサスペンション22の内の複数の装置に故障が生じた場合には、故障した複数の装置の内、移動量が車高に寄与する成分が最も小さい装置の移動量に応じて予め定められた移動量となるように故障していない装置を制御する。つまり、2つのフロントフォーク13および2つのリヤサスペンション22の内の複数の装置に故障が生じた場合にも、自動二輪車1の姿勢を理想姿勢にすることができるように故障していない装置の移動量を制御する。ただし、2つのフロントフォーク13がともに故障した場合や2つのリヤサスペンション22がともに故障した場合には、後輪側電磁弁170および前輪側電磁弁270を全開にして車高調整を停止してもよい。
【0081】
次に、フローチャートを用いて、第1の実施形態に係る制御装置50の電磁弁制御部57が行う故障時処理の手順について説明する。
図16は、第1の実施形態に係る制御装置50の電磁弁制御部57が行う故障時処理の手順を示すフローチャートである。電磁弁制御部57は、この故障時処理を予め定めた期間毎に繰り返し実行する。
先ず、2つのフロントフォーク13および2つのリヤサスペンション22の内のいずれかに故障が生じているか否かを判断する(S1501)。これは、RAMに記憶された、左前輪側移動量Llf、右前輪側移動量Lrf、左後輪側移動量Llrおよび右後輪側移動量Lrrを読み込み、これらの値が目標移動量(目標移動量に所定の幅を持たせた範囲でもよい)になっていない期間が予め定められた期間を経過した場合に故障が生じていると判断する処理である。
【0082】
そして、いずれかに故障が生じている場合(S1501でYES)、その故障は、2つのフロントフォーク13および2つのリヤサスペンション22の4つの装置の内の1つの装置の故障であるか否かを判別する(S1502)。そして、1つの故障である場合(S1502でYES)、その故障した装置の移動量(前輪側故障時移動量あるいは後輪側故障時移動量)に応じて予め定められた移動量を故障していない装置の目標移動量として決定する(S1503)。これにより、故障していない装置の移動量が目標移動量となるように前輪側電磁弁270あるいは後輪側電磁弁170の開度が調整され、故障していない装置の移動量が調整される。そして、インストルメント・パネルに警告表示を行う(S1504)。
【0083】
他方、1つの故障ではない場合(S1502でNO)、全ての装置の故障であるか否かを判別する(S1505)。そして、全ての装置の故障ではない場合(S1505でNO)、2つまたは3つの装置の故障と考えられるので、故障と判断された装置の故障時の移動量(前輪側故障時移動量あるいは後輪側故障時移動量)の内、車高に寄与する成分が最も小さい移動量に応じて予め定められた移動量を故障していない装置の目標移動量として決定する(S1506)。これにより、故障していない装置の移動量が目標移動量となるように前輪側電磁弁270あるいは後輪側電磁弁170の開度が調整され、故障していない装置の移動量が調整される。そして、インストルメント・パネルに警告表示を行う(S1504)。他方、全ての装置の故障である場合(S1505でYES)、全ての前輪側電磁弁270および後輪側電磁弁170を開いて、フロントフォーク13およびリヤサスペンション22で行う車高調整を停止し(S1507)、インストルメント・パネルに警告表示を行う(S1504)。
【0084】
なお、前輪側移動量把握部53および後輪側移動量把握部54は、それぞれ電磁弁制御部57がこの故障時処理を実行する周期以下の周期で左前輪側移動量Llf、右前輪側移動量Lrf、左後輪側移動量Llrおよび右後輪側移動量Lrrを演算し、RAMに記憶する。
【0085】
制御装置50の電磁弁制御部57がこのように制御することで、2つのフロントフォーク13および2つのリヤサスペンション22の内のいずれかに故障が生じたとしても前傾姿勢または後傾姿勢となることを抑制することができる。その結果、自動二輪車1の操縦安定性が悪くなることや、ヘッドランプ23の光軸へ悪影響が発生することや、制動能力が低下することを抑制することができる。
また、本実施の形態に係る制御装置50の電磁弁制御部57は、実際の移動量が、決定した目標移動量となるようにPWM制御を行うため、左前輪側移動量Llf、右前輪側移動量Lrf、左後輪側移動量Llrおよび右後輪側移動量Lrrを無段階に変更することができる。そのため、故障した装置の前輪側故障時移動量,後輪側故障時移動量に応じた移動量に故障していない装置の移動量を調整することができる。ゆえに、2つのフロントフォーク13および2つのリヤサスペンション22の内のいずれかに故障が生じたとしても、自動二輪車1の高さを可能な範囲で高く維持することができる。つまり、もし、前輪側電磁弁270,後輪側電磁弁170を開く(OFFにする)か、閉じる(ONにする)かを切り替えるだけであるならば、いずれかの装置が故障した場合には、故障していない装置の電磁弁を開く(OFFにする)ことでしか調整できないため、限られた範囲でしか車高調整をすることができず、車高調整の自由度が低い。これに対して、本実施形態に係る制御装置50の電磁弁制御部57によれば、2つのフロントフォーク13および2つのリヤサスペンション22の内のいずれかに故障が生じたとしても自動二輪車1の高さを高くしつつ、姿勢を安定させることができる。
【0086】
<第2の実施形態>
第2の実施形態に係る自動二輪車1においては、2つのフロントフォーク13および2つのリヤサスペンション22の内のいずれかに故障が生じた場合に、故障が生じていない装置の移動量をどのように定めるかが第1の実施形態に係る自動二輪車1とは異なる。以下では、第1の実施形態に係る制御装置50と異なる事項についてのみ説明し、同じ事項についての説明は省略する。
【0087】
第2の実施形態に係る制御装置50は、2つのフロントフォーク13および2つのリヤサスペンション22の内のいずれかに故障が生じた場合には、前輪側相対位置および後輪側相対位置の内、故障が生じた装置が寄与する位置に基づいて、故障が生じていない装置が寄与する位置を定める。例えば、2つのフロントフォーク13の一方が故障した場合には、その故障が前輪側相対位置に寄与するので前輪側相対位置を把握し、自動二輪車1の姿勢を理想姿勢にするのに、その前輪側相対位置に対応する位置として予め定められた後輪側相対位置となるように、2つのリヤサスペンション22の移動量を調整する。他方、2つのリヤサスペンション22の一方が故障した場合には、その故障が後輪側相対位置に寄与するので後輪側相対位置を把握し、自動二輪車1の姿勢を理想姿勢にするのに、その後輪側相対位置に対応する位置として予め定められた前輪側相対位置となるように、2つのフロントフォーク13の移動量を調整する。
【0088】
前輪側相対位置を把握する手法としては、予め作成しROMに記憶しておいた2つのフロントフォーク13それぞれの移動量と前輪側相対位置との対応関係を示すマップに、前輪側移動量把握部53が把握した左前輪側移動量Llfおよび右前輪側移動量Lrfを代入することにより把握することを例示することができる。
例えば、2つのフロントフォーク13の一方が、前輪側電磁弁270を閉じたとしても移動量が零となる故障(以下、「移動不能故障」と称す。)が生じた場合には、故障したフロントフォーク13は最小状態となる。他方、故障していない方のフロントフォーク13の液圧は維持されるためデューティ比に応じた移動量となる。そして、中心線方向に生じる荷重を2つのフロントフォーク13で略均等に受けるため、前輪側相対位置は、2つのフロントフォーク13がともに最小状態であるときの前輪側相対位置と、2つのフロントフォーク13がともに、故障していない方のフロントフォーク13のデューティ比であった場合の移動量であるときの前輪側相対位置との間の中間位置となる。例えば、故障していない方のフロントフォーク13が最大状態である場合には、前輪側相対位置は、2つのフロントフォーク13がともに最小状態であるときの前輪側相対位置と2つのフロントフォーク13がともに最大状態であるときの前輪側相対位置との間の中間位置となる。
このように、2つのフロントフォーク13それぞれの移動量と前輪側相対位置との間には相関関係がある。この相関関係を予め経験則に基づいて作成してマップ化しておき、このマップに、センサにて検出した2つのフロントフォーク13それぞれの移動量を代入することにより前輪側相対位置を把握することが可能となる。
【0089】
後輪側相対位置を予め定められた位置にするために2つのリヤサスペンション22の移動量を調整する手法としては、2つのリヤサスペンション22それぞれの移動量が同じとなるように調整してもよいし、一方のリヤサスペンション22のみの移動量を変えてもよい。一方のリヤサスペンション22のみの移動量を変えることで予め定められた後輪側相対位置にする手法としては、予め作成しROMに記憶しておいた後輪側相対位置と1つのリヤサスペンション22の移動量との対応関係を示すマップに、後輪側相対位置を代入することにより1つのリヤサスペンション22の移動量を把握し、把握した移動量となるように後輪側電磁弁170の開度を制御することを例示することができる。
【0090】
同様に、2つのリヤサスペンション22の一方が故障した場合には後輪側相対位置を把握し、その高さに対応するように、2つのフロントフォーク13の移動量を調整する。後輪側相対位置を把握する手法としては、予め作成しROMに記憶しておいた2つのリヤサスペンション22それぞれの移動量と後輪側相対位置との対応関係を示すマップに、後輪側移動量把握部54が把握した左後輪側移動量Llrおよび右後輪側移動量Lrrを代入することにより把握することを例示することができる。
同様に、2つのフロントフォーク13の移動量を調整する手法としては、2つのフロントフォーク13それぞれの移動量が同じになるように調整してもよいし、一方のフロントフォーク13のみの移動量を変えてもよい。一方のフロントフォーク13のみの移動量を変えることで予め定められた前輪側相対位置にする手法としては、予め作成しROMに記憶しておいた前輪側相対位置と1つのフロントフォーク13の移動量との対応関係を示すマップに、前輪側相対位置を代入することにより1つのフロントフォーク13の移動量を把握し、把握した移動量となるように前輪側電磁弁270の開度を制御することを例示することができる。
【0091】
そして、第2の実施形態に係る制御装置50は、2つのフロントフォーク13および2つのリヤサスペンション22の内の複数の装置に故障が生じた場合には、以下のように制御する。
例えば、2つのフロントフォーク13が共に故障した場合には、前輪側相対位置を把握し、その高さに対応するように、2つのリヤサスペンション22の移動量を調整する。前輪側相対位置を把握する手法および2つのリヤサスペンション22の移動量を調整する手法は上述した手法と同じであることを例示することができる。ただし、2つのフロントフォーク13に移動不能故障が生じた場合には、車高調整を終了する。移動不能故障の原因としては、フロントフォーク13のジャッキ室142内から外部へ液体(本実施の形態においてはオイル)が漏れることが考えられる。液体が外部へ漏れる場合には、前輪側電磁弁270を閉じていたとしてもジャッキ室142内の液圧が高くならないことから移動量が零になる。移動不能故障であるか否かは、前輪側電磁弁270を閉じたとしても前輪側移動量把握部53が左前輪側移動量Llf、右前輪側移動量Lrfを零と把握することを例示することができる。
【0092】
他方、2つのリヤサスペンション22が共に故障した場合には、後輪側相対位置を把握し、その高さに対応するように、2つのフロントフォーク13の移動量を調整する。後輪側相対位置を把握する手法および2つのフロントフォーク13の移動量を調整する手法は上述した手法と同じであることを例示することができる。ただし、2つのリヤサスペンション22に移動不能故障が生じた場合には、車高調整を終了する。移動不能故障の原因としては、リヤサスペンション22のジャッキ室242内から外部へ液体(本実施の形態においてはオイル)が漏れることが考えられる。液体が外部へ漏れる場合には、後輪側電磁弁170を閉じていたとしてもジャッキ室242内の液圧が高くならないことから移動量が零になる。移動不能故障であるか否かは、後輪側電磁弁170を閉じたとしても後輪側移動量把握部54が左後輪側移動量Llr、右後輪側移動量Lrrを零と把握することを例示することができる。
【0093】
また、2つのフロントフォーク13の内の一方と、2つのリヤサスペンション22の内の一方とに故障が生じた場合には、前輪側相対位置と後輪側相対位置とを把握し、前輪側相対位置と後輪側相対位置との内、車高に寄与する成分が大きい方の移動量を、車高に寄与する成分が小さい方の移動量に合わせるように調整する。
また、2つのフロントフォーク13および2つのリヤサスペンション22の内の3つの装置が故障した場合も上述したのと同じ手法で、故障が生じていない装置の移動量を調整する。
【0094】
次に、フローチャートを用いて、第2の実施形態に係る制御装置50の電磁弁制御部57が行う故障時処理の手順について説明する。
図17−1および図17−2は、第2の実施形態に係る制御装置50の電磁弁制御部57が行う故障時処理の手順を示すフローチャートである。電磁弁制御部57は、この故障時処理を予め定めた期間毎に繰り返し実行する。
先ず、電磁弁制御部57は、2つのフロントフォーク13および2つのリヤサスペンション22の内のいずれかに故障が生じているか否かを判断する(S1601)。これは、RAMに記憶された、左前輪側移動量Llf、右前輪側移動量Lrf、左後輪側移動量Llrおよび右後輪側移動量Lrrを読み込み、これらの値が目標移動量(目標移動量に所定の幅を持たせた範囲でもよい)になっていない期間が予め定められた期間を経過した場合に故障が生じていると判断する処理である。
【0095】
そして、いずれかに故障が生じている場合(S1601でYES)、その故障が、2つのフロントフォーク13および2つのリヤサスペンション22の4つの装置の内の1つの装置の故障であるか否かを判別する(S1602)。そして、1つの故障である場合(S1602でYES)、1つの故障が前輪側の故障であるのか否かを判別する(S1603)。そして、1つの故障が前輪側である場合(S1603でYES)、前輪側相対位置を把握するとともに、その前輪側相対位置に対応する位置として予め定められた後輪側相対位置となるように、2つのリヤサスペンション22の目標移動量を決定する(S1604)。これにより、2つのリヤサスペンション22の移動量が目標移動量となるように後輪側電磁弁170の開度が調整され、移動量が調整される。そして、インストルメント・パネルに警告表示を行う(S1605)。他方、1つの故障が後輪側である場合(S1603でNO)、後輪側相対位置を把握するとともに、その後輪側相対位置に対応する位置として予め定められた前輪側相対位置となるように、2つのフロントフォーク13の目標移動量を決定する(S1606)。これにより、2つのフロントフォーク13の移動量が目標移動量となるように前輪側電磁弁270の開度が調整され、移動量が調整される。そして、警告表示を行う(S1605)。
【0096】
他方、1つの故障ではない場合(S1602でNO)、2つの装置の故障であるか否かを判別する(S1607)。そして、2つの装置の故障である場合(S1607でYES)、2つの装置の故障がともに前輪側の故障であるのか否かを判別する(S1608)。そして、2つの装置の故障がともに前輪側である場合(S1608でYES)、2つのフロントフォーク13に移動不能故障が生じているか否かを判別する(S1609)。これは、2つのフロントフォーク13がともに最小状態であるかを判別することにより判別する処理である。そして、2つのフロントフォーク13に移動不能故障が生じている場合(S1609でYES)、2つの前輪側電磁弁270および正常に作動している2つのリヤサスペンション22の後輪側電磁弁170を開いて、フロントフォーク13およびリヤサスペンション22で行う車高調整を停止する(S1610)。そして、インストルメント・パネルに警告表示を行う(S1605)。他方、2つのフロントフォーク13に移動不能故障が生じていない場合(S1609でNO)、前輪側相対位置を把握するとともに、その前輪側相対位置に対応する位置として予め定められた後輪側相対位置となるように、2つのリヤサスペンション22の目標移動量を決定する(S1611)。これにより、2つのリヤサスペンション22の移動量が目標移動量となるように後輪側電磁弁170の開度が調整され、移動量が調整される。そして、インストルメント・パネルに警告表示を行う(S1605)。
【0097】
他方、2つの装置の故障がともに前輪側の故障ではない場合(S1608でNO)、2つの装置の故障がともに後輪側の故障であるのか否かを判別する(S1612)。そして、2つの装置の故障がともに後輪側である場合(S1612でYES)、2つのリヤサスペンション22に移動不能故障が生じているか否かを判別する(S1613)。これは、2つのリヤサスペンション22がともに最小状態であるかを判別することにより判別する処理である。そして、2つのリヤサスペンション22に移動不能故障が生じている場合(S1613でYES)、2つの後輪側電磁弁170および正常に作動している2つのフロントフォーク13の前輪側電磁弁270を開いて、フロントフォーク13およびリヤサスペンション22で行う車高調整を停止する(S1614)。そして、インストルメント・パネルに警告表示を行う(S1605)。他方、2つのリヤサスペンション22に移動不能故障が生じていない場合(S1613でNO)、後輪側相対位置を把握するとともに、その後輪側相対位置に対応する位置として予め定められた前輪側相対位置となるように、2つのフロントフォーク13の目標移動量を決定する(S1615)。これにより、2つのフロントフォーク13の移動量が目標移動量となるように前輪側電磁弁270の開度が調整され、移動量が調整される。そして、インストルメント・パネルに警告表示を行う(S1605)。
【0098】
一方、2つ目の装置の故障がともに後輪側ではない場合(S1612でNO)、2つのフロントフォーク13の内の一方と、2つのリヤサスペンション22の内の一方とに故障が生じていることから、前輪側相対位置と後輪側相対位置とを把握し、前輪側相対位置と後輪側相対位置との内、車高に寄与する成分が大きい方の相対位置を、車高に寄与する成分が小さい方の相対位置に合わせるように調整する(S1616)。
【0099】
一方、2つの装置の故障ではない場合(S1607でNO)、3つの装置の故障であるか否かを判別する(S1617)。そして、3つの装置の故障である場合(S1617でYES)、2つのフロントフォーク13および2つのリヤサスペンション22の内、2つとも故障している方の装置に移動不能故障が生じているか否かを判別する(S1618)。そして、前輪側あるいは後輪側の2つの装置にともに移動不能故障が生じている場合(S1618でYES)、全ての前輪側電磁弁270および後輪側電磁弁170を開いて、フロントフォーク13およびリヤサスペンション22で行う車高調整を停止する(S1619)。そして、インストルメント・パネルに警告表示を行う(S1605)。他方、故障した前輪側あるいは後輪側の2つの装置がともに移動不能故障ではない場合(S1618でNO)、前輪側相対位置と後輪側相対位置とを把握し、前輪側相対位置と後輪側相対位置との内、車高に寄与する成分が大きい方の相対位置を、車高に寄与する成分が小さい方の相対位置に合わせるように目標移動量を決定する(S1620)。そして、インストルメント・パネルに警告表示を行う(S1605)。
【0100】
一方、3つの故障ではない場合(S1617でNO)、2つのフロントフォーク13および2つのリヤサスペンション22の全てが故障しているので、故障している2つのフロントフォーク13、あるいは故障している2つのリヤサスペンション22に、移動不能故障が生じているか否かを判別する(S1621)。そして、2つのフロントフォーク13あるいは2つのリヤサスペンション22がともに移動不能故障である場合(S1621でYES)、全ての前輪側電磁弁270および後輪側電磁弁170を開いて車高調整を停止する(S1622)。そして、インストルメント・パネルに警告表示を行う(S1605)。他方、2つのフロントフォーク13あるいは2つのリヤサスペンション22がともに移動不能故障ではない場合(S1621でNO)、前輪側相対位置と後輪側相対位置とを把握し、前輪側相対位置と後輪側相対位置との内、車高に寄与する成分が大きい方の相対位置を、車高に寄与する成分が小さい方の相対位置に合わせるように目標移動量を決定する(S1623)。そして、インストルメント・パネルに警告表示を行う(S1605)。
【0101】
なお、前輪側移動量把握部53および後輪側移動量把握部54は、それぞれ電磁弁制御部57がこの故障時処理を実行する周期以下の周期で左前輪側移動量Llf、右前輪側移動量Lrf、左後輪側移動量Llrおよび右後輪側移動量Lrrを演算し、RAMに記憶する。
【0102】
上述したように本実施形態に係る制御装置50によれば、2つのフロントフォーク13および2つのリヤサスペンション22の内のいずれかに故障が生じた場合には、前輪側相対位置および後輪側相対位置の内、故障が生じた装置が寄与する位置に基づいて、故障が生じていない装置が寄与する位置を定めるので、その故障が移動不能故障であったとしても、自動二輪車1の高さを高くしつつ、姿勢を安定させることができる。つまり、故障した装置が最小状態にしかならない場合でも、2つある他の装置が故障していなければ、その故障していない装置を最大限に活用して自動二輪車1の高さを高くしつつ、姿勢を安定させることができる。
【0103】
<第3の実施形態>
第3の実施形態に係る自動二輪車1においては、前輪側相対位置変更装置240の前輪側電磁弁270および後輪側相対位置変更装置140の後輪側電磁弁170が、いわゆるノーマルクローズタイプの電磁弁である点が第1の実施形態および第2の実施形態に係る自動二輪車1と異なる。そして、この前輪側電磁弁270,後輪側電磁弁170のタイプの相違に応じて、第3の実施形態に係る電磁弁制御部57がコイルに印加するデューティ比が、第1の実施形態および第2の実施形態に係る電磁弁制御部57がコイルに印加するデューティ比と反比例する。
【0104】
ノーマルクローズタイプの電磁弁である場合、前輪側電磁弁270,後輪側電磁弁170は、コイルに通電されない非通電時には、弁体が弁座に当接し、導入流路と導出流路との間が遮断され、弁閉状態となる。一方、前輪側電磁弁270,後輪側電磁弁170は、コイルに通電される通電時には、コイルが通電により励磁されるときの固定鉄心の吸引力とスプリングの付勢力との釣り合いにより可動鉄心が変位し、弁座に対する弁体の位置、すなわち弁の開度が調整されるようになっている。つまり、ノーマルクローズタイプの電磁弁である第3の実施形態に係る前輪側電磁弁270,後輪側電磁弁170の開度は、コイルに供給される電力(電流・電圧)に比例して大きくなり、ノーマルオープンタイプの電磁弁である第1の実施形態および第2の実施形態に係る前輪側電磁弁270,後輪側電磁弁170の開度がコイルに供給される電力(電流・電圧)に反比例して大きくなるのとは異なる。
【0105】
このように構成された、ノーマルクローズタイプの前輪側電磁弁270,後輪側電磁弁170を有する第3の実施形態に係る自動二輪車1においても、制御装置50の電磁弁制御部57が、実際の移動量が決定した目標移動量となるようにPWM制御を行うことで、左前輪側移動量Llf、右前輪側移動量Lrf、左後輪側移動量Llrおよび右後輪側移動量Lrrを無段階に変更することができる。そのため、2つのフロントフォーク13および2つのリヤサスペンション22の内のいずれかに故障が生じたとしても、自動二輪車1の高さを高くしつつ、姿勢を安定させることができる。
【符号の説明】
【0106】
1…自動二輪車、11…車体フレーム、13…フロントフォーク、14…前輪、21…後輪、22…リヤサスペンション、50…制御装置、57…電磁弁制御部、140…後輪側相対位置変更装置、160…後輪側液体供給装置、170…後輪側電磁弁、240…前輪側相対位置変更装置、260…前輪側液体供給装置、270…前輪側電磁弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
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図10
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図17-1】
図17-2】