特許第6180870号(P6180870)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6180870
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】回転陽極型X線管
(51)【国際特許分類】
   H01J 35/10 20060101AFI20170807BHJP
   H01J 35/16 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   H01J35/10 N
   H01J35/16
   H01J35/10 Z
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-199658(P2013-199658)
(22)【出願日】2013年9月26日
(65)【公開番号】特開2015-65125(P2015-65125A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2016年8月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】東芝電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 光央
【審査官】 鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−332203(JP,A)
【文献】 特開2001−236908(JP,A)
【文献】 特開2004−171868(JP,A)
【文献】 米国特許第5446778(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/00−35/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状に形成された第1軸部と、円柱状に形成され一端が前記第1軸部側に位置し他端に形成された第1接触面を有した第2軸部と、円柱状に形成され前記第2軸部の外径より小さい外径を具備し一端が前記第2軸部の他端側に位置し外周面に形成された第1接合面と第1ねじ部とを有し前記第1軸部及び第2軸部とともに同軸的に一体に形成された第3軸部と、を有した固定軸であって、前記第1接合面は前記第3軸部の一端側に位置し、前記第1ねじ部は前記第3軸部の他端側に位置し、前記第1接触面は前記第3軸部の外側に位置した、前記固定軸と、
電子が衝突することによりX線を放出する陽極ターゲットを有し、前記第1軸部の周囲で軸受により回転自在に支持される回転体と、
前記固定軸の硬度より低い硬度を具備し、前記固定軸の中心軸に沿って延在した貫通孔と、前記中心軸に沿った一端部に形成された突起部と、前記中心軸に沿った他端部に形成された第2接触面と、を有し、前記貫通孔により前記第3軸部に隙間を置いて嵌め合わされ、前記固定軸を支持する支持部材であって、前記突起部は前記第1接触面に突き当てられる、前記支持部材と、
前記第3軸部の第1ねじ部に螺合される第2ねじ部と、第3接触面と、を有し、前記支持部材を圧縮する力を発生させる締め具と、を備え、
前記支持部材を圧縮する力を発生させることにより、
前記突起部は、塑性変形を起こし、前記第1接触面に圧接される第4接触面と、前記第1接合面に合った形状の第2接合面と、を形成し、
前記支持部材は、前記固定軸にかしめ止めされ、
前記第3接触面は、前記第2接触面に圧接される回転陽極型X線管。
【請求項2】
前記第3軸部の外周面のうち、前記第1接合面を含む一部はテーパ面であり、
前記第3軸部の外径のうち、前記第3軸部の一端の外径が最も大きい請求項1に記載の回転陽極型X線管。
【請求項3】
前記固定軸と前記支持部材との嵌め合い隙間のうち、前記第1接合面と前記突起部との隙間が最も小さくなるように予め設定されている請求項1に記載の回転陽極型X線管。
【請求項4】
前記締め具は、前記第2ねじ部と前記第2ねじ部の周りに位置した複数のねじ孔とを有したナットと、前記複数のねじ孔に螺合される複数のジャックボルトと、を備え、
前記複数のジャックボルトは、それぞれ前記第3接触面を有し、前記ナットとともに前記支持部材を圧縮する力を発生させる請求項1に記載の回転陽極型X線管。
【請求項5】
前記締め具は、前記第2ねじ部と前記第2ねじ部の周りに位置した複数のねじ孔とを有したナットと、前記複数のねじ孔に螺合される複数のジャックボルトと、前記複数のジャックボルトと前記支持部材との間に挟み込まれた座金と、を備え、
前記座金は、前記第3接触面を有し、
前記複数のジャックボルトは、前記ナットとともに前記支持部材を圧縮する力を発生させる請求項1に記載の回転陽極型X線管。
【請求項6】
前記第2接触面と前記第3接触面とが圧接される総面積は、前記第1接触面と前記第4接触面とが圧接される総面積より小さい請求項1に記載の回転陽極型X線管。
【請求項7】
前記締め具は、前記第2ねじ部と前記第3接触面とを有したナットを備えている請求項1に記載の回転陽極型X線管。
【請求項8】
前記締め具は、前記第2ねじ部を有したナットと、前記ナットと前記支持部材との間に挟み込まれ前記第3接触面を有した座金と、を備えている請求項1に記載の回転陽極型X線管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、回転陽極型X線管に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、X線管装置として、回転陽極型のX線管装置が使用されている。回転陽極型のX線管装置は、X線を放射する回転陽極型X線管と、ステータコイルと、これら回転陽極型X線管及びステータコイルを収容した筐体と、を備えている。回転陽極型X線管は、陽極ターゲットを有する回転体と、回転体を回転自在に支持する固定軸と、陰極と、真空外囲器と、を備えている。固定軸は、支持部材により支持されている。固定軸及び支持部材は、例えば、通常のねじ締結により結合されている。支持部材は、真空外囲器又は筐体に固定されている。
【0003】
また、回転陽極型X線管は、多種の医療用装置で使用されている。この中で、回転陽極型X線管をX線CT(コンピュータ断層撮影)装置に使用する場合は、CT架台の回転による遠心力により、固定軸に、固定軸の中心軸に垂直な方向に大きな力が作用する。このため、固定軸と支持部材との接触面には非常に大きな曲げモーメントが作用する。特に、CT架台の高性能化にともない、CT架台の回転速度を上げたり、回転体の重量を増大させて陽極ターゲットの熱容量を上げたりした場合は、通常のねじ締結では保持できないほどの曲げモーメントが上記接触面に作用する。
【0004】
これにより、上記接触面でずれが発生し、固定軸及び回転体の集合体にがたつきが発生し、回転陽極型X線管の性能を大きく損なう結果となる。そこで、回転体の安定した回転動作を得ることを目的とした技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−78918号公報
【特許文献2】特開2004−171868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記回転体の安定した回転動作を得ることを目的とした技術としては、例えば上記特許文献2に開示されている。しかしながら、CT架台の回転による遠心力は何度も固定軸及び回転体の集合体に作用することになる。すると、上記特許文献2のように回転陽極型X線管を形成しても、接触面(固定シャフト18と支持機構26との接触面と、支持機構26とナット19との接触面)での遊びが次第に大きくなる恐れがあり、固定軸の変位も次第に大きくなる恐れがある。固定軸の変位が大きくなると、回転陽極型X線管に生じる振動の増大を招くことになる。上記のように、回転陽極型X線管が両持ち軸受構造を採用しても、固定軸を固定した状態に維持することは困難である。
【0007】
そこで、回転体の回転動作を安定させることができ、回転陽極型X線管に生じる振動の増大を防止することができる技術、すなわち、固定軸を固定した状態に維持することのできる技術が求められている。
この発明は以上の点に鑑みなされたもので、その目的は、固定軸を固定した状態に維持することのできる回転陽極型X線管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態に係る回転陽極型X線管は、
円柱状に形成された第1軸部と、円柱状に形成され一端が前記第1軸部側に位置し他端に形成された第1接触面を有した第2軸部と、円柱状に形成され前記第2軸部の外径より小さい外径を具備し一端が前記第2軸部の他端側に位置し外周面に形成された第1接合面と第1ねじ部とを有し前記第1軸部及び第2軸部とともに同軸的に一体に形成された第3軸部と、を有した固定軸であって、前記第1接合面は前記第3軸部の一端側に位置し、前記第1ねじ部は前記第3軸部の他端側に位置し、前記第1接触面は前記第3軸部の外側に位置した、前記固定軸と、
電子が衝突することによりX線を放出する陽極ターゲットを有し、前記第1軸部の周囲で軸受により回転自在に支持される回転体と、
前記固定軸の硬度より低い硬度を具備し、前記固定軸の中心軸に沿って延在した貫通孔と、前記中心軸に沿った一端部に形成された突起部と、前記中心軸に沿った他端部に形成された第2接触面と、を有し、前記貫通孔により前記第3軸部に隙間を置いて嵌め合わされ、前記固定軸を支持する支持部材であって、前記突起部は前記第1接触面に突き当てられる、前記支持部材と、
前記第3軸部の第1ねじ部に螺合される第2ねじ部と、第3接触面と、を有し、前記支持部材を圧縮する力を発生させる締め具と、を備え、
前記支持部材を圧縮する力を発生させることにより、
前記突起部は、塑性変形を起こし、前記第1接触面に圧接される第4接触面と、前記第1接合面に合った形状の第2接合面と、を形成し、
前記支持部材は、前記固定軸にかしめ止めされ、
前記第3接触面は、前記第2接触面に圧接される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、一実施形態に係る回転陽極型X線管を示す断面図である。
図2図2は、図1に示した回転陽極型X線管の一部を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら一実施形態に係る回転陽極型X線管について詳細に説明する。図示しないが、回転陽極型X線管は、磁界を発生させるコイルとしてのステータコイルと、回転陽極型X線管及びステータコイルを収容した筐体と、筐体と回転陽極型X線管との間の空間に充填された冷却液と、ともに回転陽極型X線管装置を形成することができる。回転陽極型X線管装置は、X線CT(computerized tomography)装置に使用することができる。
【0011】
図1に示すように、回転陽極型X線管1は、陽極ターゲット50と、陰極60と、真空外囲器70と、支持部材80と、締め具90と、を備えている。さらに、回転陽極型X線管1は、固定軸10と、回転体20と、潤滑剤としての液体金属LMとを備え、すべり軸受を使っている。なお、回転陽極型X線管1は、すべり軸受の替わりにころがり軸受を使ってもよい。
【0012】
ここでは、回転陽極型X線管1には非常に高い遠心力荷重(高負荷)がかかることを想定し、真空外囲器70を金属製の強固な部材で形成している。このため、真空外囲器70に固定軸10を完全固定する設計が可能となる。なお、真空外囲器70は、上記筐体により強固に支持され、非常に高い遠心力荷重に十分耐えられる構造としている。
【0013】
図1及び図2に示すように、固定軸10は、第1軸部11と、第2軸部12と、第3軸部13と、を有している。第1軸部11、第2軸部12及び第3軸部13は、同軸的に一体に形成されている。固定軸10は、中実部材であり、炭素鋼等の硬度の高い金属で形成されている。炭素鋼としては、例えばJIS規格においてSKD11と記される硬度及び強度の高い材料を利用することができる。また、固定軸10は、炭素鋼以外の材料で形成されていてもよく、例えばモリブデンやモリブデン合金で形成されていてもよい。
【0014】
第1軸部11は、円柱状に形成されている。この実施形態において、第1軸部11は、外周面に形成された第1ラジアル軸受面と、一端に形成された第1スラスト軸受面と、他端に形成された第2スラスト軸受面と、を有している。固定軸10の中心軸aに沿った方向において、第1軸部11の外径は均一である。
【0015】
第2軸部12は円柱状に形成されている。第2軸部12の一端は、第1軸部11の他端側に位置している。第2軸部12は、他端に形成された第1接触面12sを有している。第1接触面12sは、第3軸部13の外側に位置している。この実施形態において、中心軸aに沿った方向において、第2軸部12の外径は均一である。第2軸部12の外径は、第1軸部11の外径より小さい。
【0016】
第3軸部13は円柱状に形成されている。第3軸部13は、第2軸部12の外径より小さい外径を具備している。第3軸部13の一端は、第2軸部12の他端側に位置している。第3軸部13をねじの軸と捉えると、第3軸部13は、いわゆる円筒部14(外周面にねじが刻まれていない部分)と、ねじ先を有したいわゆるねじ部(外周面にねじが刻まれている部分)としての第1ねじ部15とを有している。第3軸部13(円筒部14)は、外周面に形成された第1接合面14sを有している。このため、第1接合面14sは第3軸部13の一端側に位置し、第1ねじ部15は第3軸部13の他端側に位置している。この実施形態において、第1ねじ部15は雄ねじである。
【0017】
また、この実施形態において、第3軸部13の外周面のうち、第1接合面14sを含む一部はテーパ面である。ここでは、円筒部14の外周面が全体的にテーパ面である。第3軸部13(円筒部14)は、第3軸部13の外径のうち、第3軸部13の一端の外径が最も大きくなるように形成されている。
なお、第3軸部13(円筒部14)は、テーパ面を有していなくともよい。この場合、中心軸aに沿った方向において、円筒部14の外径は均一であってもよい。
【0018】
図1に示すように、回転体20は、第1軸部11(固定軸10)の周囲ですべり軸受(軸受)により回転自在に支持されている。回転体20は、回転部30と、接続部40と、陽極ターゲット50とを有している。
【0019】
回転部30は、一端部が閉塞され他端部が円形枠状に窪められた筒状に形成され、固定軸10と同軸的に設けられている。回転部30は、中心軸aに沿った方向に延出している。詳しくは、回転部30は、一端部が閉塞された筒状の本体31と、本体31の他端部に取り外し可能にネジ留めされた蓋部32とで形成されている。回転部30は、Fe合金やMo合金等の金属で形成されている。固定軸10は回転部30の内部に隙間を置いて嵌合されている。回転部30は、固定軸10を中心に回転可能である。
【0020】
本体31は、第1軸部11の第1ラジアル軸受面に隙間を置いて対向した第2ラジアル軸受面と、第1軸部11の第1スラスト軸受面に隙間を置いて対向した第3スラスト軸受面とを有している。蓋部32は、第1軸部11の第2スラスト軸受面に隙間を置いて対向した第4スラスト軸受面を有している。
【0021】
固定軸10及び回転部30は、全対向領域で、互いに隙間を置いて設けられている。各軸受面間の隙間は、例えば20μm程度である。第1軸部11は回転部30で覆われている。第2軸部12は回転部30の外側に突出している。固定軸10は回転体20を回転可能に支持している。
【0022】
陽極ターゲット50は、陽極本体51と、陽極本体51の外面の一部に設けられたターゲット層52とを有している。陽極ターゲット50は、回転体20とともに回転可能である。陽極ターゲット50は、ターゲット層52に電子が衝突することによりX線を放出するものである。
【0023】
この実施形態において、陽極ターゲット50は、円環状に形成され、固定軸10及び回転部30と同軸的に設けられている。陽極ターゲット50は、接続部40を介して回転部30の一端部に固定されている。
【0024】
液体金属LMは、固定軸10と回転部30との隙間に充填されている。詳しくは、液体金属LMは、第1軸部11と、回転部30との間の隙間に充填されている。液体金属LMは、GaIn(ガリウム・インジウム)合金又はGaInSn(ガリウム・インジウム・錫)合金等の材料を利用することができる。
【0025】
液体金属LMは、第1軸部11の第1ラジアル軸受面と回転部30の第2ラジアル軸受面とともにラジアルすべり軸受B1を形成している。液体金属LMは、第1軸部11の第1スラスト軸受面と回転部30の第3スラスト軸受面とともに第1スラストすべり軸受B2を形成している。液体金属LMは、第1軸部11の第2スラスト軸受面と回転部30の第4スラスト軸受面とともに第2スラストすべり軸受B3を形成している。
【0026】
図1及び図2に示すように、支持部材80は、固定軸10を支持するものである。支持部材80は、中実部材であり、固定軸10の硬度より低い硬度を具備している。支持部材80を形成する材料としては、例えばJIS規格においてSUS304と記される材料を利用することができる。また、支持部材80は、コバール等、SUS304以外の材料で形成されていてもよく、支持部材80の硬度が固定軸10の硬度より低くなり、支持部材80が塑性変形を起こすことのできる材料で形成されていればよい。
【0027】
支持部材80は、貫通孔80hと、突起部80pと、第2接触面80s1と、を有している。貫通孔80hは、中心軸aに沿って延在している。この実施形態において、貫通孔80hは、円筒部14の外周面に対応した形状を有している。貫通孔80hの輪郭は、円形である。支持部材80は円環状に形成されている。突起部80pは、支持部材80の中心軸aに沿った一端部に形成されている。第2接触面80s1は、支持部材80の中心軸aに沿った一他端部(他端)に形成されている。
【0028】
支持部材80は、貫通孔80hにより第3軸部13(円筒部14)に隙間を置いて嵌め合わされている。円筒部14と支持部材80との嵌め合い隙間は、直径で10μm以下のごく小さい寸法を採用している。第3軸部13(円筒部14)と、支持部材80との嵌め合い隙間のうち、上記第1接合面14sと突起部80pとの隙間が最も小さくなるように予め設定されている。
【0029】
また、突起部80pは円環状に形成されている。中心軸aに沿った方向において、突起部80p(支持部材80)の内径は同一である。突起部80pの外周面はテーパ面である。突起部80pの外径のうち、第1接触面12s近傍の突起部80pの一端の外径が最も小さい。突起部80pは第1接触面12sに突き当てられている。第2接触面80s1は第1接触面12sと平行である。
【0030】
締め具90は、支持部材80を圧縮する力を発生させるものである。締め具90は、第2ねじ部91h1と、第3接触面92sと、を有している。第2ねじ部91h1は、第3軸部13の第1ねじ部15に螺合される。この実施形態において、第2ねじ部91h1は、ねじ孔であり、雌ねじである。
【0031】
ここで、締め具90により、支持部材80を圧縮する力を発生させることにより生じる事象について説明する。
(1)突起部80pは、塑性変形を起こし、第1接触面12sに圧接される第4接触面80s2と、第1接合面14sに合った形状の第2接合面80s3と、を形成する。これにより、支持部材80は、固定軸10にかしめ止めされる。
【0032】
すなわち、突起部80pは、第1接合面14sの近傍において中心軸aに沿った方向に僅かに短くなる。また、突起部80pは、第1接合面14sの近傍において径(内径)が僅かに小さくなる。突起部80p(支持部材80)の塑性変形により第1接合面14sと第2接合面80s3との隙間が完全になくなるため、支持部材80は固定軸10に極めて強くかしめ止めされる。これにより、支持部材80は、第1接合面14s近傍において固定軸10を完全に拘束することができる。なお、固定軸10は、SKD11のような硬度の高い材料を利用して形成され、支持部材80の硬度より高い硬度を有しているため、固定軸10自体が塑性変形することは無い。
【0033】
(2)第3接触面92sは、第2接触面80s1に圧接される。
【0034】
上記(1)及び(2)の事象から、(i)第1接触面12sと第4接触面80s2の接触面と、(ii)第2接触面80s1と第3接触面92sとの接触面と、の2点が支持点として機能し、支持部材80は固定軸10にかしめ止めされるため、支持部材80は固定軸10を固定した状態に維持する。
【0035】
上記のように、締め具90は、突起部80pを変形させるため、十分な締結軸力を発生させる必要がある。そこで、本実施形態において、回転陽極型X線管1は、スーパーボルト(登録商標)を利用している。
【0036】
詳しくは、締め具90は、ナット91と、座金(平座金)92と、複数のジャックボルト93と、を有している。ナット91は、上記第2ねじ部91h1と、第2ねじ部91h1の周りに位置した複数のねじ孔91h2とを有している。複数のねじ孔91h2は、第2ねじ部91h1の周りに等間隔に設けられている。
【0037】
ジャックボルト93は、ねじ孔91h2に螺合される。この実施形態において、ジャックボルト93は六角ボルトである。ジャックボルト93の頭部は、支持部材80とナット91との間に位置している。ジャックボルト93には、内側を駆動する用途に応じたいろいろな溝や穴がねじ先に開口するように設けられている。例えば、ジャックボルト93には、ねじ先に開口するように六角穴が設けられている。六角ドライバや六角棒スパナ等を用いることにより、ジャックボルト93を回すことができる。なお、大きなトルクが必要な場合は、例えば六角棒スパナを使用することにより対応することができる。
【0038】
座金92は、複数のジャックボルト93と支持部材80との間に挟み込まれている。この実施形態において、座金92は、上記第3接触面92sを有している。
【0039】
複数のジャックボルト93に発生する力の合力は、固定軸10にはナット91を介して軸力として作用し、支持部材80には座金92を介して締め付け力として作用する。このため、複数のジャックボルト93は、ナット91とともに支持部材80を圧縮する力を発生させる。
【0040】
また、この実施形態において、第2接触面80s1と第3接触面92sとが圧接される総面積は、第1接触面12sと第4接触面80s2とが圧接される総面積より小さい。
【0041】
陰極60は、陽極ターゲット50のターゲット層52に間隔を置いて対向配置されている。陰極60は、真空外囲器70の内壁に取付けられている。陰極60は、ターゲット層52に照射する電子を放出する電子放出源としてのフィラメント61を有している。
【0042】
真空外囲器70は、外囲器本体71と、封止部材72とを有している。外囲器本体71は、円筒状に形成され、開口部を有している。外囲器本体71は、金属で形成されている。外囲器本体71において、陽極ターゲット50と対向した個所の径は、回転部30と対向した個所の径より大きい。外囲器本体71の開口部は封止部材72により気密に閉塞され、真空外囲器70の内部は真空状態に維持されている。真空外囲器70は、固定軸10、回転体20、陽極ターゲット50、陰極60、支持部材80及び締め具90等を収容している。
【0043】
支持部材80は、真空外囲器70に固定されている。支持部材80は、ろう付けや溶接等、一般に知られている固定手段により真空外囲器70に固定されている。この実施の形態において、回転陽極型X線管1は、片端支持軸受構造を採用している。真空外囲器70は、支持部材80を固定し、第3軸部13を間接的に固定している。すなわち、第3軸部13軸受の片持ち支持部として機能している。
上記のようにX線管装置に利用される回転陽極型X線管1が形成されている。
【0044】
上記X線管装置の動作状態において、上述したステータコイルは回転部30に与える磁界を発生するため、回転体20(陽極ターゲット50等)は回転する。また、陰極60に相対的に負の電圧が印加され、陽極ターゲット50に相対的に正の電圧が印加される。
【0045】
これにより、陰極60及び陽極ターゲット50間に電位差が生じる。このため、フィラメント61は、電子を放出すると、この電子は、加速され、ターゲット層52に衝突する。これにより、ターゲット層52は、電子と衝突するときにX線を放出し、放出されたX線は真空外囲器70を透過する。上記X線は、さらに上述した筐体のX線透過窓を透過して筐体の外部に放出される。
【0046】
上記のように構成された第1の実施の形態に係る回転陽極型X線管1によれば、回転陽極型X線管1は、固定軸10と、陽極ターゲット50を有した回転体20と、固定軸10を支持する支持部材80と、締め具90と、を備えている。支持部材80は、固定軸10の硬度より低い硬度を具備している。締め具90は、第1ねじ部15に螺合される第2ねじ部91h1を有し、支持部材80を圧縮する力を発生させる。
【0047】
これにより、突起部80pは、塑性変形を起こし、第1接触面12sに圧接される第4接触面80s2と、第1接合面14sに合った形状の第2接合面80s3と、を形成する。支持部材80は、固定軸10にかしめ止めされる。第3接触面92sは、第2接触面80s1に圧接される。そして、(i)第1接触面12sと第4接触面80s2の接触面と、(ii)第2接触面80s1と第3接触面92sとの接触面と、の2点が支持点として機能し、支持部材80は固定軸10にかしめ止めされるため、支持部材80は固定軸10を固定した状態に維持することができる。
【0048】
このため、CT架台の回転による遠心力が何度も固定軸10及び回転体20の集合体に作用しても、支持部材80は固定軸10にかしめ止めされるため、上記(i)の接触面と、上記(ii)の接触面とに遊びが生じる事態(固定軸10と支持部材80との間にがたつきが生じる事態)を防止することができる。また、上記遊びが次第に大きくなる事態を招くことを防止することができ、すなわち固定軸10の変位が次第に大きくなる事態を招くことを防止することができる。これにより、回転体20の回転動作を安定させることができ、回転陽極型X線管1に生じる振動の増大を防止することができる。
【0049】
また、ナット91だけではなく、ナット91と複数のジャックボルト93との集合体で支持部材80を圧縮する力を発生させることができる。このため、ナット91だけで支持部材80を圧縮する力を発生させる場合(複数のジャックボルト93無しに締め具90を形成する場合)に比べて、ナット91(締め具90)のサイズの大型化を防止することができる小さいサイズのナット91を使用することができる。
【0050】
第3軸部13の外周面のうち、第1接合面14sを含む一部はテーパ面である。この実施形態において、円筒部14の外周面が全体的にテーパ面である。第3軸部13(円筒部14)は、第3軸部13の外径のうち、第3軸部13の一端の外径が最も大きくなるように形成されている。このため、固定軸10と支持部材80との嵌め合いを円滑に行うことができる効果をさらに得ることができる。
【0051】
第3軸部13(円筒部14)と、支持部材80との嵌め合い隙間のうち、第1接合面14sと突起部80pとの隙間が最も小さくなるように予め設定されている。このため、突起部80pを僅かに塑性変形させることにより、支持部材80を固定軸10にかしめ止めすることができる。
【0052】
第2接触面80s1と第3接触面92sとが圧接される総面積は、第1接触面12sと第4接触面80s2とが圧接される総面積より小さい。このため、支持部材80のうち、第2接触面80s1側ではなく突起部80pを良好に塑性変形させることができる。
【0053】
さらに、第2接触面80s1は第1接触面12sと平行である。このため、突起部80pを効率的に塑性変形させることができる。
上述したことから、固定軸10を固定した状態に維持することのできる回転陽極型X線管1を得ることができる。
【0054】
本発明の一実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0055】
例えば、締め具90は、必要に応じて座金92を備えていればよい。座金92無しに締め具90を形成した場合、複数のジャックボルト93が、座金92の替わりに、それぞれ上記第3接触面を有している。この場合も、第2接触面80s1と第3接触面(ジャックボルト93の頭部の接触面)とが圧接される総面積は、第1接触面12sと第4接触面80s2とが圧接される総面積より小さい方が望ましい。
【0056】
また、回転陽極型X線管1がスーパーボルトを利用していなくともよい。ナット91(締め具90)のサイズの大型化を招く恐れがあるものの、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0057】
例えば、締め具90は、第2ねじ部91h1と、第2接触面80s1に圧接される第3接触面とを有したナットを備えていてもよい。または、締め具90は、第2ねじ部91h1を有したナットと、上記ナットと支持部材80との間に挟み込まれ第2接触面80s1に圧接される第3接触面92sを有した座金92と、を備えていてもよい。
【0058】
上記実施形態では、回転陽極型X線管1が片端支持軸受構造を採用した場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、回転陽極型X線管1は両端支持軸受構造を採用するものであっても本発明の実施形態を適用することができ、上述した実施形態と同様の効果を得ることができ得る。
【0059】
固定軸10の内部には各種の穴又は孔が形成されていてもよい。例えば、固定軸10の内部に、冷却液が流れる冷却穴や突き抜けた冷却孔が形成されていてもよい。
また、固定軸10は、内部に液体金属LMのシェルタやリザーバを有していてもよい。上記シェルタやリザーバは、固定軸10の外周面に連通していればよい。
【0060】
上述した実施形態では、支持部材80が真空外囲器70に固定される場合について説明したが、これに限定されるものではなく、種々変形可能で有る。例えば、固定軸10が真空外囲器70の外側に位置している場合、支持部材80は、筐体に固定されてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1…回転陽極型X線管、10…固定軸、11…第1軸部、12…第2軸部、12s…第1接触面、13…第3軸部、14…円筒部、14s…第1接合面、15…第1ねじ部、20…回転体、30…回転部、50…陽極ターゲット、60…陰極、70…真空外囲器、80…支持部材、80h…貫通孔、80p…突起部、80s1…第2接触面、80s2…第4接触面、80s3…第2接合面、90…締め具、91…ナット、91h1…第2ねじ部、91h2…ねじ孔、92s…第3接触面、92…座金、93…ジャックボルト、a…中心軸。
図1
図2