特許第6180891号(P6180891)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6180891Si含有リン酸系廃液からSiを除去又は低減する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6180891
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】Si含有リン酸系廃液からSiを除去又は低減する方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/60 20060101AFI20170807BHJP
   H01L 21/306 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   C02F1/60
   H01L21/306 Z
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-233650(P2013-233650)
(22)【出願日】2013年11月12日
(65)【公開番号】特開2015-93235(P2015-93235A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年9月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】513284782
【氏名又は名称】株式会社旭製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(72)【発明者】
【氏名】山本 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】池田 靖之
(72)【発明者】
【氏名】龍 博満
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−282869(JP,A)
【文献】 特表2010−526016(JP,A)
【文献】 特開2009−071296(JP,A)
【文献】 特開2013−021066(JP,A)
【文献】 特開2005−349346(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0231359(US,A1)
【文献】 国際公開第2010/113792(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/075636(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58 − 1/64
H01L 21/306
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸及びSiを含む廃液に、リン酸塩を添加した後、該リン酸塩の添加により生じる沈殿物を除去することにより、Siが除去された又はSi含有率が低減されたリン酸含有液を得る沈殿物除去工程を含むことを特徴とするSi含有リン酸系廃液からSiを除去又は低減する方法。
【請求項2】
前記リン酸塩として、リン酸カルシウム、リン酸カリウム、リン酸水素マグネシウム、リン酸水素ナトリウム及びリン酸アルミニウムからなる群より選ばれる1種又は2種以上のリン酸塩を用いる請求項1に記載のSi含有リン酸系廃液からSiを除去又は低減する方法。
【請求項3】
前記リン酸塩としてリン酸カルシウムを用いる請求項1に記載のSi含有リン酸系廃液からSiを除去又は低減する方法。
【請求項4】
前記廃液にリン酸塩を添加してなる液におけるリン酸塩の含有割合が0.1質量%〜10質量%である請求項1〜3のいずれか1項に記載のSi含有リン酸系廃液からSiを除去又は低減する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、窒化シリコン膜のエッチング処理液等、半導体のエッチング処理液等として使用された後のSi含有リン酸系廃液からSiを除去又は低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、半導体工場等でリン酸系水溶液がエッチング処理液として使用されている。例えば、窒化シリコン膜のエッチング処理液としてリン酸系水溶液が使用されている。エッチング処理を繰り返し行うことで、エッチング機能が低下してしまうので、このような半導体工場からは大量のリン酸系廃液が排出されている。エッチング処理後のリン酸系廃液には、Siが多く混在しているので再利用することができず、このリン酸系廃液は、中和処理を施して排水されているのが現状である(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−160292号公報(段落0002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記中和処理によって排水中に微量のリン酸が含まれることになるので、少なからず環境汚染の原因となることは避けられず、環境保全の観点からするとこの中和処理を施して排水する方法は決して望ましい手段とは言えない。
【0005】
また、近年は、資源の枯渇が叫ばれており、このようなリン酸資源についても再利用することが求められている。
【0006】
しかるに、上述したとおり、半導体工場から排出されたリン酸系廃液には、Siが多く混在しているので再利用することができなかった。
【0007】
本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、リン酸系廃液に含まれるSiを効率良く除去又は低減することができる、Si含有リン酸系廃液からSiを除去又は低減する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0009】
[1]リン酸及びSiを含む廃液に、リン酸塩を添加した後、該リン酸塩の添加により生じる沈殿物を除去することにより、Siが除去された又はSi含有率が低減されたリン酸含有液を得る沈殿物除去工程を含むことを特徴とするSi含有リン酸系廃液からSiを除去又は低減する方法。
【0010】
[2]前記リン酸塩として、リン酸カルシウム、リン酸カリウム、リン酸水素マグネシウム、リン酸水素ナトリウム及びリン酸アルミニウムからなる群より選ばれる1種又は2種以上のリン酸塩を用いる前項1に記載のSi含有リン酸系廃液からSiを除去又は低減する方法。
【0011】
[3]前記リン酸塩としてリン酸カルシウムを用いる前項1に記載のSi含有リン酸系廃液からSiを除去又は低減する方法。
【0012】
[4]前記廃液にリン酸塩を添加してなる液におけるリン酸塩の含有割合が0.1質量%〜10質量%である前項1〜3のいずれか1項に記載のSi含有リン酸系廃液からSiを除去又は低減する方法。
【発明の効果】
【0013】
[1]の発明では、リン酸及びSiを含む廃液にリン酸塩を添加することにより、Si含有沈殿物を生じさせることができ、従ってこの沈殿物を除去することにより、Siが除去された又はSi含有率が低減されたリン酸含有液を得ることができる。得られたリン酸含有液は、Siが除去され又はSi含有量が低減されているので、再利用に供することが可能になる。
【0014】
[2]の発明では、リン酸塩として、リン酸カルシウム、リン酸カリウム、リン酸水素マグネシウム、リン酸水素ナトリウム及びリン酸アルミニウムからなる群より選ばれる1種又は2種以上のリン酸塩を用いるから、Siが除去された又はSi含有率が十分に低減されたリン酸含有液を得ることができる。
【0015】
[3]の発明では、リン酸塩としてリン酸カルシウムを用いるから、Siが除去された又はSi含有率がより十分に低減されたリン酸含有液を得ることができる。
【0016】
[4]の発明では、廃液にリン酸塩を添加してなる液におけるリン酸塩の含有割合が0.1質量%〜10質量%であるから、Si含有沈殿物を効率良く生じさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る方法の一例を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る、Si含有リン酸系廃液からSiを除去又は低減する方法は、リン酸及びSiを含む廃液に、リン酸塩を添加した後、該リン酸塩の添加により生じる沈殿物を除去することにより、Siが除去された又はSi含有率が低減されたリン酸含有液を得る沈殿物除去工程を含むことを特徴とする。
【0019】
上記方法によれば、リン酸及びSiを含む廃液にリン酸塩を添加することにより、Si含有沈殿物を生じさせることができ、従ってこの沈殿物を除去することにより、Siが除去された又はSi含有率が低減されたリン酸含有液を得ることができる。得られたリン酸含有液は、Siが除去されている又はSi含有量が低減されているので、再利用に供することが可能になる。
【0020】
上記方法を適用する対象の廃液としては、例えば、
・リン酸及びSiを含む廃液
・リン酸、硫酸及びSiを含む混酸廃液
・リン酸、硝酸及びSiを含む混酸廃液
などが挙げられる。即ち、前記廃液は、リン酸を除く他の酸をさらに含有したものであってもよい。
【0021】
前記廃液としては、例えば、水系のものが挙げられる。即ち、前記廃液としては、リン酸及びSiを含む廃水などが挙げられる。
【0022】
前記リン酸塩としては、特に限定されるものではないが、リン酸カルシウム、リン酸カリウム、リン酸水素マグネシウム、リン酸水素ナトリウム及びリン酸アルミニウムからなる群より選ばれる1種又は2種以上のリン酸塩を用いるのが好ましい。中でも、リン酸カルシウムを用いるのが特に好ましく、この場合には、Siが除去された又はSi含有率がより十分に低減されたリン酸含有液を得ることができる。
【0023】
前記廃液(リン酸及びSiを含む廃液)にリン酸塩を添加する際の添加量については、前記廃液にリン酸塩を添加してなる「リン酸塩添加廃液」におけるリン酸塩の含有割合(濃度)が0.1質量%〜10質量%の範囲になるように設定するのが好ましい。0.1質量%以上に設定されていることでSi含有沈殿物を効率良く生じさせることができる。また、10質量%を超えてもこれ以上の効果の向上は望めず徒にコストを増大させるだけであるので10質量%以下に設定するのが好ましい。中でも、前記リン酸塩添加廃液におけるリン酸塩の含有割合は0.6質量%〜6質量%の範囲であるのがより好ましい。
【0024】
前記廃液(リン酸及びSiを含む廃液)に、本発明の方法を2回適用することにより、得られるリン酸含有液(回収液)におけるSi含有率をさらに低減することができる又はSiを除去することができる。また、前記廃液(リン酸及びSiを含む廃液)に、本発明の方法を3回以上繰り返し適用することにより、得られるリン酸含有液(回収液)におけるSi含有率をより一層低減することができる又はSiを除去することができる。
【0025】
本発明に係る方法(Siを除去又は低減する方法)において用いられる除去装置の一例を図1に示す。図1において、2が混合槽、3が固液分離機である。
【0026】
前記混合槽2は、撹拌翼を備えている。前記混合槽2に、前記廃液(リン酸及びSiを含む廃液)と、リン酸塩とを投入した後、前記撹拌翼で撹拌混合して混合液を得る。この混合液中には、リン酸塩の存在により、沈殿物(Siを含む沈殿物)が生じている。前記撹拌混合する際の温度は、特に限定されず、通常は、常温で行えばよい。
【0027】
次に、前記混合液を固液分離機3に投入してこの固液分離機3において沈殿物と液体(リン酸含有液;沈殿物を含まない)とに分離する。本実施形態では、前記固液分離機3として遠心分離機を用いており、遠心分離法により沈殿物を下に沈降させて固液分離を行う。前記固液分離機3内の濾液(上澄み液)は、沈殿物が除去されているので、Si含有率が低減されている又はSiが除去されている。
【0028】
しかして、前記固液分離機3内の濾液(上澄み液)を回収することにより、Si含有率が低減された又はSiが除去されたリン酸含有液を回収することができる。
【0029】
上記除去装置は、一例を示したものに過ぎず、本発明に係る方法は、特にこのような除去装置で行うものに限定されるものではない。
【実施例】
【0030】
次に、本発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
【0031】
<実施例1>
半導体製造工場から排出されたリン酸系廃液(リン酸及びSiを含む廃水;液の密度とSi含有率は表1に示す)100gおよびリン酸カルシウム(Ca3(PO42)5.0gを混合槽2に投入した後、撹拌翼で撹拌混合を24時間行うことによって、混合液を得た(図1参照)。混合槽中の液全体に対してリン酸カルシウム含有率(濃度)は4.8質量%であった。
【0032】
次に、前記混合液を遠心分離機(固液分離機)3に投入して遠心分離を行い、混合液を沈殿物(Si含有)と上澄み液(Si低減化リン酸含有液;沈殿物を含まない)とに分離した。沈殿物を除去することによって、リン酸系廃液からSi含有率が低減されたリン酸含有液を回収することができた。
【0033】
なお、XRD(X線分光分析)による分析結果から、沈殿物の主成分は、Ca(H2PO42・H2Oであることが確認できた。
【0034】
<実施例2>
リン酸カルシウムに代えて、リン酸カリウム(K3PO4)を用いた以外は、実施例1と同様にして、リン酸系廃液からSi含有率が低減されたリン酸含有液を回収した。
【0035】
<実施例3>
リン酸カルシウムに代えて、リン酸水素マグネシウム(MgHPO4)を用いた以外は、実施例1と同様にして、リン酸系廃液からSi含有率が低減されたリン酸含有液を回収した。
【0036】
<実施例4>
リン酸カルシウムに代えて、リン酸水素ナトリウム(Na2HPO4)を用いた以外は、実施例1と同様にして、リン酸系廃液からSi含有率が低減されたリン酸含有液を回収した。
【0037】
<実施例5>
リン酸カルシウムに代えて、リン酸アルミニウム(AlPO4)を用いた以外は、実施例1と同様にして、リン酸系廃液からSi含有率が低減されたリン酸含有液を回収した。
【0038】
【表1】
【0039】
実施例1〜5で回収した回収液(Si含有率が低減されたリン酸含有液)におけるSi含有率を表1に示す。表1から明らかなように、得られた回収液(リン酸含有液)は、リン酸系廃液と比較して、Si含有率(Si含有量)が低減されていた。特に、リン酸塩としてリン酸カルシウムを用いた実施例1の回収液では、リン酸系廃液と比較して、Si含有率が顕著に低減されていた。即ち、本発明の方法を適用する前のリン酸系廃液のSi含有率は60mg/Lであるのに対し、本発明の方法を適用した実施例1の回収液(リン酸含有液)のSi含有率は12.5mg/Lであった。
【0040】
<実施例6>
半導体製造工場から排出されたリン酸系廃液(リン酸及びSiを含む廃水;Si含有率は表2に示す)100gおよびリン酸カルシウム(Ca3(PO42)0.30gを混合槽2に投入した後、撹拌翼で撹拌混合を24時間行うことによって、混合液を得た(図1参照)。なお、混合槽中の液全体に対してリン酸カルシウム含有率(濃度)は0.30質量%であった。
【0041】
次に、前記混合液を遠心分離機(固液分離機)3に投入して遠心分離を行い、混合液を沈殿物(Si含有)と上澄み液(Si低減化リン酸含有液;沈殿物を含まない)とに分離した。沈殿物を除去することによって、リン酸系廃液からSi含有率が低減されたリン酸含有液を回収することができた。
【0042】
<実施例7>
リン酸カルシウム(Ca3(PO42)の混合槽2への投入量を0.50gに設定した(混合槽中の液全体に対してリン酸カルシウム含有率を0.50質量%とした)以外は、実施例6と同様にして、リン酸系廃液からSi含有率が低減されたリン酸含有液を回収した。
【0043】
<実施例8>
リン酸カルシウム(Ca3(PO42)の混合槽2への投入量を0.70gに設定した(混合槽中の液全体に対してリン酸カルシウム含有率を0.70質量%とした)以外は、実施例6と同様にして、リン酸系廃液からSi含有率が低減されたリン酸含有液を回収した。
【0044】
<実施例9>
リン酸カルシウム(Ca3(PO42)の混合槽2への投入量を1.0gに設定した(混合槽中の液全体に対してリン酸カルシウム含有率を1.0質量%とした)以外は、実施例6と同様にして、リン酸系廃液からSi含有率が低減されたリン酸含有液を回収した。
【0045】
<実施例10>
リン酸カルシウム(Ca3(PO42)の混合槽2への投入量を3.0gに設定した(混合槽中の液全体に対してリン酸カルシウム含有率を2.9質量%とした)以外は、実施例6と同様にして、リン酸系廃液からSi含有率が低減されたリン酸含有液を回収した。
【0046】
【表2】
【0047】
実施例6〜10で回収した回収液(Si含有率が低減されたリン酸含有液)におけるSi含有率を表2に示す。表2から明らかなように、得られた回収液(リン酸含有液)は、リン酸系廃液と比較して、Si含有率(Si含有量)が低減されていた。中でも、混合槽中の液全体に対するリン酸カルシウムの含有率を0.6質量%〜6質量%の範囲に設定した実施例8〜10、1では、実施例6、7と比較して、Si含有率が顕著に低減されていた。
【0048】
なお、上記実施例において、各液中におけるリン酸の濃度(含有率)は、イオンクロマトグラフ(日本ダイオネクス社製「ICS−1000」)を用いて測定した。
【0049】
また、Siイオンの定性・定量分析は、ICP発光分析装置(島津製作所製「ICPS−7510」)を用いて行った。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係る、Si含有リン酸系廃液からSiを除去又は低減する方法は、半導体のエッチング処理液(例えば窒化シリコン膜のエッチング処理液)として使用された後のSi含有リン酸系廃液に対して好適に適用できるものであるが、特にこのような半導体工場から排出されるSi含有リン酸系廃液への適用に限定されるものではなく、リン酸及びSiを含む廃液であれば、どのような廃液にも適用できる。
【符号の説明】
【0051】
2…混合槽
3…固液分離機
図1