特許第6180894号(P6180894)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6180894-水素貯蔵装置 図000002
  • 特許6180894-水素貯蔵装置 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6180894
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】水素貯蔵装置
(51)【国際特許分類】
   F17C 11/00 20060101AFI20170807BHJP
   C01B 3/00 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   F17C11/00 C
   C01B3/00 A
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-236475(P2013-236475)
(22)【出願日】2013年11月15日
(65)【公開番号】特開2015-96745(P2015-96745A)
(43)【公開日】2015年5月21日
【審査請求日】2016年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075513
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 政喜
(74)【代理人】
【識別番号】100120260
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅昭
(74)【代理人】
【識別番号】100137604
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 淳
(72)【発明者】
【氏名】竹内 亨
(72)【発明者】
【氏名】中村 善也
【審査官】 秋山 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−303956(JP,A)
【文献】 特開平09−242995(JP,A)
【文献】 特開平01−188402(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 11/00
C01B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガスを貯蔵する水素貯蔵装置であって、
水素ガスを貯蔵可能な水素貯蔵物質と、
外部から水素ガスが給排され、前記水素貯蔵物質を収容する水素貯蔵物質収容室と、
前記水素貯蔵物質収容室に収容され、外部から給排される熱媒が流れる熱交換チューブと、
前記水素貯蔵物質収容室に前記熱交換チューブに沿って延びるように収容され、前記水素貯蔵物質より熱伝導率が高い材料によって形成される熱伝導体と、を備えることを特徴とする水素貯蔵装置。
【請求項2】
前記水素貯蔵物質収容室を画成し、両端部のそれぞれに開口部を有する中空状のタンクと、
前記タンクの各開口部を塞ぐ第1蓋体及び第2蓋体と、をさらに備え、
前記熱伝導体は、前記第1蓋体と第2蓋体とを連結するロッド部を有することを特徴とする請求項1に記載の水素貯蔵装置。
【請求項3】
前記熱伝導体は、前記ロッド部から突出する放熱フィンを有することを特徴とする請求項2に記載の水素貯蔵装置。
【請求項4】
前記熱伝導体は、前記タンクの中心軸と同軸上に延び、複数の前記熱交換チューブに等しい距離をもつように配置されることを特徴とする請求項2または3に記載の水素貯蔵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスを貯蔵する水素貯蔵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池自動車等には、燃料となる水素ガスの供給源として、水素貯蔵装置が搭載されている。
【0003】
特許文献1には、水素ガスが給排される容器と、容器に収容される水素吸蔵体と、を備える水素貯蔵装置が開示されている。水素吸蔵体は、水素を吸蔵する水素吸蔵合金と、水素吸蔵合金を担持した多孔質炭素材料と、を備える。
【0004】
上記多孔質炭素材料は、水素吸蔵合金と比較して高い熱伝導率を有する。水素吸蔵合金が水素を吸蔵する際には、水素吸蔵合金に生ずる熱の放出が多孔質炭素材料によって促される。水素吸蔵合金が水素を放出する際には、水素吸蔵合金が失う熱の吸収が多孔質炭素材料によって促される。
【0005】
特許文献2には、水素ガスが導かれる一対の開口部を有する中空状のライナと、ライナの内側に配置されて水素貯蔵合金を収容する水素吸蔵ユニットと、水素吸蔵ユニットの内部に設けられる熱媒管と、を備える圧力容器が開示されている。
【0006】
上記圧力容器への水素ガス充填時には、ライナ内に高圧の水素ガスが供給されるとともに、熱媒管に低温の熱媒(冷却媒体)が供給される。これにより、水素貯蔵合金が冷却され、水素貯蔵合金に水素ガスが貯蔵される。一方、ライナ内から水素ガスが取り出されるときには、熱媒管に高温の熱媒が供給される。これにより、水素貯蔵合金が加熱され、水素貯蔵合金から水素ガスが放出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−172499号公報
【特許文献2】特開2004−270861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の水素貯蔵装置にあっては、容器内を冷却し、加熱する熱交換器が設けられていないため、水素ガスの充填、取り出しに時間がかかるという問題点がある。
【0009】
また、特許文献2に記載の圧力容器にあっては、ライナ内に水素貯蔵合金を冷却、加熱する熱媒管が設けられている。しかしながら、熱媒管内を循環する熱媒と水素貯蔵合金との間で熱交換が行われることによって、熱媒管内を流れる熱媒の温度が次第に上昇または下降する。このため、熱媒管に沿って水素貯蔵合金の温度分布が不均一になり、水素貯蔵合金と熱媒との熱交換効率を十分に高められないという問題があった。
【0010】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、水素貯蔵装置において、水素貯蔵物質と熱媒との熱交換効率を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、水素ガスを貯蔵する水素貯蔵装置であって、水素ガスを貯蔵可能な水素貯蔵物質と、外部から水素ガスが給排され、前記水素貯蔵物質を収容する水素貯蔵物質収容室と、水素貯蔵物質収容室に収容され、外部から給排される熱媒が流れる熱交換チューブと、水素貯蔵物質収容室に熱交換チューブに沿って延びるように収容され、水素貯蔵物質より熱伝導率が高い材料によって形成される熱伝導体と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、熱伝導体は、水素貯蔵物質と比較して高い熱伝導率を有することにより、熱伝導体の熱伝導によって水素貯蔵物質どうしで行われる熱交換が促される。熱伝導体が熱交換チューブに沿って延びるため、熱交換チューブに沿って生じる水素貯蔵物質の温度差が熱伝導体の熱伝導によって有効に解消される。これにより、水素貯蔵物質の温度分布が熱交換チューブに沿って均一化され、水素貯蔵物質と熱媒との熱交換効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る水素貯蔵装置の断面図である。
図2図1のA−A線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0015】
図1に示す水素貯蔵装置1は、例えば水素ガスを燃料とする車両に搭載されるものであり、高圧の水素ガスを貯蔵する水素貯蔵室2を有する。
【0016】
水素貯蔵装置1は、水素貯蔵室2を画成する圧力容器として、中空状のライナ(メインタンク)10と、ライナ10の後端部に取り付けられるエンドフランジ70と、ライナ10の前端部に取り付けられるベースフランジ30と、を備える。
【0017】
ライナ10の内部には、水素貯蔵物質9を収容する水素貯蔵物質収容室8を画成する容器として、中空状のタンク(サブタンク)60が設けられる。なお、図1にはタンク60に収容される水素貯蔵物質9の一部が示されており、水素貯蔵物質9はタンク60内の全域に収容される。
【0018】
水素貯蔵物質9は、例えば粉末状の水素吸蔵合金が用いられる。水素吸蔵合金は、水素を吸蔵または吸着する性質のあるものを合金化したものである。水素貯蔵物質9には、大気中に比べて数100倍以上の水素ガスが貯蔵される。なお、水素貯蔵物質9は、水素吸蔵合金に限らず、水素を取り込む性質のある他の物質を用いてもよい。
【0019】
エンドフランジ70には、水素ガスを給排する水素ガス給排通路71が設けられる。水素ガス給排通路71は、エンドフランジ70に接続される配管(図示省略)を介して水素ガスの供給源(図示省略)と、水素ガスの供給先(図示省略)に連通される。
【0020】
タンク60の内部には、水素貯蔵物質9を冷却または加熱する3本の熱交換チューブ80が設けられる。熱交換チューブ80の外面は、水素貯蔵物質9に包囲される。
【0021】
3本の熱交換チューブ80は、それぞれの前端部がチューブフランジ65を介してベースフランジ30に支持される。チューブフランジ65は、複数のボルト84を介してベースフランジ30に締結される。
【0022】
熱交換チューブ80は、ベースフランジ30から中心軸O方向に延びる入口側の管部81と、同じくベースフランジ30から中心軸O方向に延びる出口側の管部83と、管部81と管部83の後端どうしを結んでU字状に延びる管部82と、が互いに一体形成される。なお、熱交換チューブ80は、上述した構成に限らず、中心軸O方向に延びる一対の管部と、これらの管部の後端どうしを結ぶ管部と、が互いに別体で形成される構成としてもよい。
【0023】
熱交換チューブ80の内部には、熱媒(熱交換媒体)を循環させる熱媒循環通路5が設けられる。
【0024】
ベースフランジ30の内部には、各熱媒循環通路5に熱媒を給排する熱媒給排通路4が設けられる。熱媒給排通路4は、ベースフランジ30の各ポート56、57に接続される2本の配管(図示省略)を介して熱媒の供給源(図示省略)に連通される。
【0025】
各熱媒循環通路5を循環する熱媒は、熱交換チューブ80を介して水素貯蔵物質9との間で熱交換を行う。熱媒は、例えば水またはオイルが用いられる。なお、熱媒は、これに限らず、他の液体または気体を用いてもよい。
【0026】
水素貯蔵室2への水素ガス充填時には、外部の供給源から高圧の水素ガスがエンドフランジ70の水素ガス給排通路71を通じてライナ10内の水素貯蔵室2に供給される。そして、外部の供給源からベースフランジ30の熱媒給排通路4を通じて各熱媒循環通路5に低温の熱媒(冷却媒体)が供給される。熱媒循環通路5を循環する熱媒によって水素貯蔵物質9が冷却されることにより、水素ガスが水素貯蔵物質9に貯蔵される。
【0027】
一方、水素貯蔵室2から水素ガスが取り出されるときには、外部の供給源からベースフランジ30の熱媒給排通路4を通じて各熱媒循環通路5に高温の熱媒が供給される。熱媒循環通路5を循環する熱媒によって水素貯蔵物質9が加熱されることにより、水素貯蔵物質9から放出される水素ガスがエンドフランジ70の水素ガス給排通路71を通じて取り出される。
【0028】
次に、水素貯蔵装置1の具体的な構造を説明する。なお、図1上において中心軸Oが略水平前後方向に延びるものとして説明する。また、水素貯蔵装置1は図1に示す姿勢に限らず、中心軸Oが鉛直方向に延びる姿勢、または他の姿勢をとってもよい。
【0029】
ライナ10は、中心軸O方向に延びる円筒状のライナ胴部11と、ライナ胴部11の前端に開口するライナ開口部12と、ライナ胴部11の後端部をドーム状に絞るライナ底部13と、ライナ底部13の後端に開口するライナ開口部14と、を有する。
【0030】
ライナ10は、例えばアルミニウム合金を材質として形成される。これにより、ライナ10は、その内面が水素ガスに晒されても脆化することが防止され、耐食性が確保される。
【0031】
水素貯蔵装置1には、ライナ10の外面を包囲する補強チューブ20が設けられる。補強チューブ20は、ライナ10より引っ張り強度が高く、熱膨張率が小さい金属として、例えば高張力鋼を材質とする。
【0032】
補強チューブ20は、ライナ胴部11の外周面に嵌合する円筒状のチューブ胴部21と、ライナ開口部12より前方(図1において右方向)に突出するチューブ胴部21に開口するチューブ開口部22と、チューブ胴部21の後端部を絞るチューブ屈曲端部(肩部)23と、チューブ屈曲端部23の後端に開口するチューブ開口部24と、を有する。
【0033】
ライナ10のライナ開口部12はベースフランジ30によって塞がれる。チューブ胴部21のライナ開口部12より前方に突出する部位の内周には、内周ネジ部25が形成される。ベースフランジ30の外周ネジ部39が補強チューブ20の内周ネジ部25に螺合することにより、補強チューブ20のチューブ屈曲端部23とベースフランジ30との間にライナ10が挟持される。
【0034】
水素ガス充填時には、水素貯蔵室2の圧力が高まってライナ10が膨張するが、ライナ10を囲む補強チューブ20によってライナ10の膨張が抑えられ、ライナ10に生じる内部応力が低減される。
【0035】
ベースフランジ30の前端に開口する凹部32には、第1プレート40及び第2プレート50が積層して固定される。第1プレート40と第2プレート50は、複数本のボルト97を介してベースフランジ30に締結される。ボルト97は、第1プレート40の孔及び第2プレート50の孔を貫通し、ベースフランジ30のネジ穴に螺合する。
【0036】
円筒状のタンク60は、その前端に開口するタンク開口部(開口部)62と、その後端に開口するタンク開口部(開口部)63と、を有する。タンク60のタンク開口部62を塞ぐ第1蓋体として、ベースフランジ30が設けられる。タンク60のタンク開口部63を塞ぐ第2蓋体として、インナプレート75が設けられる。タンク60、ベースフランジ30、及びインナプレート75によって水素貯蔵物質収容室8が画成される。
【0037】
ベースフランジ30は、タンク60の前端のタンク開口部62に嵌合する第1嵌合部36と、ライナ10のライナ開口部12に嵌合する第2嵌合部35と、補強チューブ20の内周ネジ部25に螺合する外周ネジ部39と、を有する。第1嵌合部36とタンク60の間には、シールリング92が介装される。第2嵌合部35とライナ10の間には、シールリング91が介装される。水素貯蔵室2は、外部に対してシールリング91によって密封される。
【0038】
タンク60の後端のタンク開口部63には円盤状のインナプレート75が取り付けられる。インナプレート75は、タンク60の内周に嵌合する嵌合部76を有する。嵌合部76とタンク60の間には、シールリング89が介装される。
【0039】
インナプレート75には、複数の通孔67が開口され、通孔67の開口部を覆うメッシュ66が介装される。粉末状の水素貯蔵物質9は、メッシュ66によってタンク60の内部に閉じ込められる。
【0040】
水素貯蔵物質収容室8には、水素貯蔵物質9と共に熱伝導体90が収容される。熱伝導体90は、水素貯蔵物質9より熱伝導率が高い材料として、アルミニウム合金によって形成される。水素貯蔵物質9の熱伝導率は1W/(m・K)であり、アルミニウム合金の熱伝導率は236W/(m・K)である。熱伝導体90は、アルミニウム合金によって形成されることにより、水素ガスに晒されても脆化することが防止され、耐食性が確保される。なお、熱伝導体90は、これに限らず、耐食性が確保されるステンレス鋼や他の金属によって形成してもよい。
【0041】
図2に示すように、熱伝導体90は、中心軸Oと同軸上に延び、3本の熱交換チューブ80に囲まれるように配置される。熱伝導体90は、各熱交換チューブ80入口側の管部81及び出口側の管部83に等しい距離をもって近接するように配置される。
【0042】
熱伝導体90は、円柱状のロッド部94と、ロッド部94の外周から突出する複数の放熱フィン95と、を有する。
【0043】
放熱フィン95は、中心軸Oを中心とする放射状に突出し、中心軸Oと平行に延びる板状に形成される。
【0044】
ロッド部94は、その前後端部に外周ネジ部94A、94Bが形成される。ロッド部94の前端部に形成される外周ネジ部94Aは、ベースフランジ30のネジ穴37に螺合される。ロッド部94の後端部に形成される外周ネジ部94Bは、インナプレート75の孔77を貫通し、ナット86が螺合される。ナット86の締結力により、インナプレート75がタンク60のタンク開口部63に押圧される。
【0045】
これにより、ロッド部94は、ベースフランジ30とインナプレート75とを連結する構造部材として機能する。タンク60は、ロッド部94によってインナプレート75とベースフランジ30との間で挟持され、その前端がベースフランジ30に片持ち支持される。水素貯蔵装置1の製造時には、水素貯蔵物質9及び熱交換チューブ80がタンク60、ベースフランジ30、インナプレート75、及びロッド部94を介して一体に組み付けられたサブアッシが設けられる。
【0046】
エンドフランジ70、ライナ10、補強チューブ20、タンク60、インナプレート75、熱伝導体90、及びベースフランジ30等は、中心軸Oと同軸上に配置される。タンク60及びインナプレート75は、ライナ10の内面との間に間隙を持って配置される。
【0047】
ライナ10の後端部には、内周ネジ部19が形成される。エンドフランジ70は、ライナ10の内周ネジ部19に螺合して取り付けられ、ライナ開口部14を閉塞する。エンドフランジ70とライナ10の間には、シールリング88が介装される。水素貯蔵室2は、外部に対してシールリング88によって密封される。
【0048】
エンドフランジ70の前端部には、中心軸O方向に延びる円柱状のガイド凸部79が水素貯蔵室2内に突出するように形成される。一方、インナプレート75の中央部には、ガイド凸部79を摺動自在に挿入させるガイド凹部78が形成される。
【0049】
インナプレート75のガイド凹部78がエンドフランジ70のガイド凸部79に嵌合することにより、タンク60の後端部が中心軸Oに直交する方向に変位することが規制される。
【0050】
インナプレート75のガイド凹部78がエンドフランジ70のガイド凸部79に対して中心軸O方向に摺動することにより、タンク60とライナ10の間に生じる中心軸O方向の熱膨張差が吸収される。
【0051】
エンドフランジ70に設けられる水素ガス給排通路71は、図1に矢印で示すように水素ガスを給排する配管(図示省略)が接続されるポート72と、ポート72から中心軸O方向に延びる通孔73と、通孔73と交差して延びる通孔74と、を備える。
【0052】
水素ガス給排通路71を通じて水素貯蔵室2内に充填された水素ガスは、インナプレート75に開口した複数の通孔67を通じてタンク60内に流入し、水素貯蔵物質9に貯蔵される。一方、水素貯蔵室2から水素ガスが取り出されるときには、水素貯蔵物質9から放出される水素ガスがインナプレート75の通孔67を通じてライナ10内に流出し、ライナ10内から水素ガス給排通路71を通じて取り出される。
【0053】
ベースフランジ30と第1プレート40の間には、供給源から供給される熱媒を各熱媒循環通路5に分配する分配室59が層状に画成される。第1プレート40と第2プレート50の間には、各熱媒循環通路5を循環した熱媒を集める集合室58が層状に画成される。第2プレート50は、供給源から供給される熱媒を導く配管(図示省略)が接続される供給ポート57と、供給源に熱媒を戻す配管(図示省略)が接続される排出ポート56と、を有する。熱媒給排通路4は、供給ポート57、分配室59、集合室58、及び排出ポート56等によって構成される。
【0054】
供給源から供給される熱媒は、配管(図示省略)、供給ポート57を通じて分配室59に流入し、分配室59から3つの熱媒循環通路5の入口に分配される。
【0055】
各熱媒循環通路5に流入した熱媒は、各熱交換チューブ80にて入口側の管部81、U字状の管部82、出口側の管部83を通じて各熱媒循環通路5を流れ、水素貯蔵物質9との間で熱交換を行う。
【0056】
各熱交換チューブ80にて熱交換を行った熱媒は、集合室58に流入する。集合室58に集められた熱媒は、排出ポート56、配管(図示省略)を通じて供給源へと戻される。
【0057】
水素貯蔵室2への水素ガス充填時には、熱交換チューブ80内に低温の熱媒(冷却媒体)が流れる。水素貯蔵物質9が水素を貯蔵する際に生ずる熱は、熱交換チューブ80内を流れる熱媒によって持ち去られる。こうして水素貯蔵物質9が冷却されることにより、水素ガスが水素貯蔵物質9に貯蔵されることが促される。
【0058】
熱交換チューブ80内を流れる熱媒は水素貯蔵物質9の熱を吸収するのに伴ってその温度が次第に上昇し、水素貯蔵物質9を冷却する効果が次第に低下する。このため、水素貯蔵物質9では熱交換チューブ80に沿って上昇する温度分布となる。これ対処して、熱交換チューブ80に沿って延びる熱伝導体90が熱交換チューブ80と平行に設けられているため、熱伝導体90の熱伝導によって水素貯蔵物質9の温度分布が熱交換チューブ80に沿って均一化され、水素貯蔵物質9の急激な温度変化を抑える保温効果が得られる。
【0059】
上記水素ガス充填時に、熱交換チューブ80において、入口側の管部81の温度は後方(図1において左方向に)に向けて次第に上昇し、続く出口側の管部83の温度は前方(図1において右方向に)に向けて次第に上昇する。熱伝導体90は、低温となる入口側の管部81と高温となる出口側の管部83とに対して等しい距離をもって近接しているため、入口側の管部81と出口側の管部83の近傍に介在する水素貯蔵物質9に生じる温度差を有効に解消することができる。
【0060】
これにより、水素貯蔵物質9が効率よく冷却され、水素貯蔵物質9に水素ガスを速やかに貯蔵することができ、水素貯蔵物質9を冷却する熱制御性を高められる。さらに、水素貯蔵物質9の局部的な温度上昇が抑えられ、水素貯蔵物質9の劣化を防止できる。
【0061】
一方、水素貯蔵室2から水素ガスが取り出されるときには、熱交換チューブ80内に高温の熱媒が供給される。水素貯蔵物質9が水素を放出する際に失う熱は、熱交換チューブ80内を流れる熱媒によって持ち込まれる。こうして熱媒循環通路5を循環する熱媒によって水素貯蔵物質9が加熱されることにより、水素貯蔵物質9から水素ガスが放出されることが促される。
【0062】
熱交換チューブ80内を流れる熱媒は水素貯蔵物質9に熱を与えるのに伴ってその温度が次第に下降し、水素貯蔵物質9を加熱する効果が次第に低下する。このため、水素貯蔵物質9では熱交換チューブ80に沿って下降する温度分布となる。これに対処して、熱交換チューブ80に沿って延びる熱伝導体90が熱交換チューブ80と平行に設けられているため、熱伝導体90の熱伝導によって水素貯蔵物質9の温度分布が熱交換チューブ80に沿って均一化され、水素貯蔵物質9の急激な温度変化を抑える保温効果が得られる。
【0063】
上記水素ガスが取り出し時に、熱交換チューブ80において、入口側の管部81の温度は後方(図1において左方向に)に向けて次第に低下し、続く出口側の管部83の温度は前方(図1において右方向に)に向けて次第に低下する。熱伝導体90は、高温となる入口側の管部81と低温となる出口側の管部83とに等しい距離をもって近接しているため、入口側の管部81と出口側の管部83の近傍に介在する水素貯蔵物質9に生じる温度差を有効に解消することができる。
【0064】
これにより、水素貯蔵物質9が効率よく加熱され、水素貯蔵物質9から水素ガスを速やかに放出することができ、水素貯蔵物質9を加熱する熱制御性を高められる。
【0065】
以上の実施形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0066】
〔1〕水素貯蔵装置1は、水素ガスを貯蔵可能な水素貯蔵物質9と、外部から水素ガスが給排され、水素貯蔵物質9を収容する水素貯蔵物質収容室8と、水素貯蔵物質収容室8に収容され、外部から給排される熱媒が流れる熱交換チューブ80と、水素貯蔵物質収容室8に熱交換チューブ80に沿って延びるように収容され、水素貯蔵物質9より熱伝導率が高い材料によって形成される熱伝導体90と、を備える構成とした。
【0067】
上記構成に基づき、熱伝導体90は、水素貯蔵物質9と比較して高い熱伝導率を有することにより、熱伝導体90の熱伝導によって水素貯蔵物質9どうしで行われる熱交換が促される。熱伝導体90が熱交換チューブ80に沿って延びるため、熱交換チューブ80に沿って生じる水素貯蔵物質9の温度差が熱伝導体90の熱伝導によって有効に解消される。これにより、水素貯蔵物質9の温度分布が熱交換チューブ80に沿って均一化され、水素貯蔵物質9と熱媒との熱交換効率を高めることができる。さらに、水素貯蔵物質9の局部的な温度上昇が抑えられ、水素貯蔵物質9の劣化を防止できる。
【0068】
〔2〕水素貯蔵装置1は、水素貯蔵物質収容室8を画成し、両端部のそれぞれにタンク開口部62、63を有する中空状のタンク60と、タンク60の各タンク開口部62、63を塞ぐベースフランジ30(第1蓋体)及びインナプレート75(第2蓋体)と、をさらに備える。そして、熱伝導体90は、ベースフランジ30とインナプレート75とを連結するロッド部94を有する構成とした。
【0069】
上記構成に基づき、熱伝導体90は、水素貯蔵物質9どうしで行われる熱交換を促す機能と、ベースフランジ30とインナプレート75をタンク60の各タンク開口部62、63に連結する構造体の機能と、の両方を果たす。熱伝導体90を設けることによって、ベースフランジ30とインナプレート75を連結する部材をタンク60内に設ける必要がない。このため、熱伝導体90の介装スペースによって水素貯蔵物質9の収容量が削減されることを抑えられる。
【0070】
〔3〕熱伝導体90は、ロッド部94から突出する放熱フィン95を有する構成とした。
【0071】
上記構成に基づき、熱伝導体90は放熱フィン95によって水素貯蔵物質9との接触面積が十分に確保される。放熱フィン95の熱伝導によって水素貯蔵物質9どうしで行われる熱交換が促される。これにより、水素貯蔵物質9の温度分布が均一化され、水素貯蔵物質9と熱媒との熱交換効率を高めることができる。
【0072】
〔4〕熱伝導体90は、タンク60の中心軸Oと同軸上に延び、3本の熱交換チューブ80に等しい距離をもつように配置される構成とした。
【0073】
上記構成に基づき、熱伝導体90は放熱フィン95の熱伝導によって熱交換チューブ80まわりに設けられる水素貯蔵物質9どうしで行われる熱交換が促される。これにより、水素貯蔵物質9の温度分布が均一化され、水素貯蔵物質9と熱媒との熱交換効率を高めることができる。
【0074】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0075】
例えば、上記実施形態では、熱伝導体90は、ベースフランジ30とインナプレート75とを連結するものであった。熱伝導体は、この機能を有さずに、ベースフランジ30及びインナプレート75と離して設けられる構成としてもよい。
【0076】
さらに、上記実施形態では、水素貯蔵装置1は、1本の熱伝導体90が複数本の熱交換チューブ80に囲まれるように設けられていた。水素貯蔵装置は、これに限らず、複数本の熱伝導体が熱交換チューブ80を囲むように設けられる構成としてもよい。
【0077】
さらに、上記実施形態では、熱伝導体90は、放熱フィン95を有するものであった。熱伝導体は、これに限らず、その表面に形成される凹凸部を有し、水素貯蔵物質9との接触面積が確保される構成としてもよい。
【符号の説明】
【0078】
1 水素貯蔵装置
8 水素貯蔵物質収容室
9 水素貯蔵物質
30 ベースフランジ(第1蓋体)
60 タンク
62、63 開口部
75 インナプレート(第2蓋体)
80 熱交換チューブ
90 熱伝導体
94 ロッド部
95 放熱フィン
図1
図2