特許第6180895号(P6180895)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6180895二次電池用電極、二次電池用電極の製造方法および二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6180895
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】二次電池用電極、二次電池用電極の製造方法および二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20170807BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20170807BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20170807BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20170807BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20170807BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20170807BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20170807BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20170807BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   H01M4/13
   H01M4/131
   H01M4/139
   H01M4/66 A
   H01M10/0566
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M4/02 Z
   H01M4/04 A
【請求項の数】15
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-236805(P2013-236805)
(22)【出願日】2013年11月15日
(65)【公開番号】特開2015-97159(P2015-97159A)
(43)【公開日】2015年5月21日
【審査請求日】2016年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(72)【発明者】
【氏名】小峰 重樹
(72)【発明者】
【氏名】加美 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 勝弥
(72)【発明者】
【氏名】是津 信行
【審査官】 前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−211824(JP,A)
【文献】 特開2013−232403(JP,A)
【文献】 特開2013−109881(JP,A)
【文献】 特開2011−076836(JP,A)
【文献】 特開2011−124220(JP,A)
【文献】 特開2009−38016(JP,A)
【文献】 特開2011−243351(JP,A)
【文献】 特開2008−103310(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/067080(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/116533(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
H01M 4/66
H01M 10/0566
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体(13,113,213)と、
前記集電体の所定面に所定の充填率で設けられる活物質(12,112,212)と、
厚さが1μm以下の絶縁性材料を用いて成形され、前記活物質を収容する凹状部位(11b)と、前記活物質が前記集電体以外の物質との接触を抑制するように前記集電体の所定面に固定された端部(11a)とからなる薄膜(11,111,211)と
を有することを特徴とする二次電池用電極(10,110,210)。
【請求項2】
前記集電体は、白金、アルミニウム、ステンレスのうちで一以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の二次電池用電極。
【請求項3】
前記活物質は、アルカリ金属を基準電位として、4.0V以上の電位差でアルカリ金属イオンの吸蔵と放出が行える無機化合物を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の二次電池用電極。
【請求項4】
前記活物質は、少なくともアルカリ金属を含むスピネル構造を有するアルカリ金属含有複合金属酸化物であることを特徴とする請求項3に記載の二次電池用電極。
【請求項5】
前記アルカリ金属含有複合金属酸化物は、LiMn2-xNix4(ただし0<x≦1)を含むことを特徴とする請求項4に記載の二次電池用電極。
【請求項6】
前記所定の充填率は、95%以上100%以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の二次電池用電極。
【請求項7】
X線光電子分光で前記薄膜の結合エネルギーを測定したときに、得られた結合エネルギーの最も大きなピーク値を含むピークの積算強度をAとし、X線光電子分光で前記活物質の結合エネルギーを測定したときに、得られた結合エネルギーの最も大きなピーク値を含むピークの積算強度をBとするとき、積算強度の比を示すA/Bが0<A/B≦15であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の二次電池用電極。
【請求項8】
前記薄膜は、第5族元素の無機酸化物で成形されることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の二次電池用電極。
【請求項9】
前記無機酸化物は、ニオブ、タンタルのうちで一以上を含むことを特徴とする請求項に記載の二次電池用電極。
【請求項10】
前記無機酸化物が前記ニオブを含む場合はNbOy(ただし2.4≦y≦3.0)であり、前記無機酸化物が前記タンタルを含む場合はTaOz(ただし2.4≦z≦3.0)であることを特徴とする請求項に記載の二次電池用電極。
【請求項11】
前記薄膜は、厚さが20nm以下で成形されることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の二次電池用電極。
【請求項12】
集電体(13,113,213)を備える二次電池用電極(10,110,210)を製造する二次電池用電極の製造方法において、
前記集電体の所定面に所定の充填率で活物質(12,112,212)を設ける活物質設置工程と、
さが1μm以下の絶縁性材料を用いて成形された端部(11a)と凹状部位(11b)とからなる薄膜(11,111,211)により、前記凹状部位に前記活物質を収容するとともに、前記活物質が前記集電体以外の物質との接触を抑制するように前記端部を前記集電体の所定面に固定する薄膜被覆工程と、
を有することを特徴とする二次電池用電極の製造方法。
【請求項13】
集電体(13,113,213)を備える二次電池用電極(10,110,210)を製造する二次電池用電極の製造方法において、
厚さが1μm以下の絶縁性材料を用いて端部(11a)と凹状部位(11b)とからなる薄膜(11,111,211)成形される薄膜成形工程と、
前記凹状部位に活物質(12,112,212)を収容する活物質収容工程と、
前記活物質が前記集電体以外の物質との接触を抑制するように、前記活物質が収容された前記薄膜の前記端部を前記集電体の所定面に固定する薄膜固定工程と、
を有することを特徴とする二次電池用電極の製造方法。
【請求項14】
X線光電子分光で前記薄膜の結合エネルギーを測定したときに、得られた結合エネルギーの最も大きなピーク値を含むピークの積算強度をAとし、X線光電子分光で前記活物質の結合エネルギーを測定したときに、得られた結合エネルギーの最も大きなピーク値を含むピークの積算強度をBとするとき、積算強度の比を示すA/Bが0<A/B≦15であることを特徴とする請求項12または13に記載の二次電池用電極の製造方法。
【請求項15】
請求項1から11のいずれか一項に記載の二次電池用電極を用いる第1電極(110,210)と、
前記第1電極とは反対の極性である第2電極(130,230)と、
前記第1電極と前記第2電極との間に備える絶縁性のセパレータ(120,220)と、
電解液(140,240)と、
を有することを特徴とする二次電池(100,200)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用電極と、二次電池用電極の製造方法と、二次電池用電極を用いる二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来では、高電圧で充放電を行っても優れた信頼性を有する非水電解質二次電池に関する技術の一例が開示されている(例えば特許文献1を参照)。この非水電解質二次電池は、正極と樹脂層(セパレータ)との間に配置され、主成分としてフッ化アルミニウムを含有し、10nm以上1μm以下の厚さを有する絶縁層を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−127983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の技術では、正極や樹脂層だけでなく絶縁層も電解液と接触するように構成されている。また、絶縁層は正極表面とセパレータ表面とが接触しない程度の大きさの微細孔があけられている。この構成では正極と電解液と間で電子授受が行われるので、系外に漏れて流れる電流(いわゆる漏洩電流)が生じる。そのため、電池電位を4.5V以上に高電位化するのが困難である。漏洩電流は、電解液を分解して二次電池の性能を低下させる一因にもなる点で本稿においては「分解電流」とも呼ぶ。
【0005】
本発明はこのような点に鑑みてなしたものであり、漏洩電流を抑制することによって、従来よりも電池電位を高電位化し、電解液の分解を低減することができる二次電池用電極、二次電池用電極の製造方法および二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた第1の発明は、二次電池用電極(10,110,210)において、集電体(13,113,213)と、前記集電体の所定面に所定の充填率で設けられる活物質(12,112,212)と、厚さが1μm以下の絶縁性材料を用いて成形され、前記活物質を収容する凹状部位(11b)と、前記活物質が前記集電体以外の物質との接触を抑制するように前記集電体の所定面に固定された端部(11a)とからなる薄膜(11,111,211)とを有することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、活物質は集電体の所定面に設けられ、しかも活物質は薄膜によって集電体以外の物質(例えば電解液など)との接触を抑制するように設けられる。したがって、系外に漏れて流れる漏洩電流が抑制されるので、従来よりも電池電位を高電位化でき、電解液の分解を低減することができる。
【0008】
第2の発明は、集電体(13,113,213)を備える二次電池用電極(10,110,210)を製造する二次電池用電極の製造方法において、前記集電体の所定面に所定の充填率で活物質(12,112,212)を設ける活物質設置工程と、厚さが1μm以下の絶縁性材料を用いて成形された端部(11a)と凹状部位(11b)とからなる薄膜(11,111,211)により、前記凹状部位に前記活物質を収容するとともに、前記活物質が前記集電体以外の物質との接触を抑制するように前記端部を前記集電体の所定面に固定する薄膜被覆工程とを有することを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、活物質設置工程によって活物質は集電体の所定面に設けられ、さらに薄膜被覆工程によって集電体以外の物質(例えば電解液など)との接触を抑制するように薄膜で覆われる。活物質と集電体の間以外で電子授受を抑制することで漏洩電流が抑制されるので、従来よりも電池電位を高電位化でき、電解液の分解を低減することができる。
【0010】
第3の発明は、集電体(13,113,213)を備える二次電池用電極(10,110,210)を製造する二次電池用電極の製造方法において、厚さが1μm以下の絶縁性材料を用いて端部(11a)と凹状部位(11b)とからなる薄膜(11,111,211)成形される薄膜成形工程と、前記凹状部位に活物質(12,112,212)を収容する活物質収容工程と、前記活物質が前記集電体以外の物質との接触を抑制するように、前記活物質が収容された前記薄膜の前記端部を前記集電体の所定面に固定する薄膜固定工程とを有することを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、薄膜固定工程によって活物質は集電体の所定面に接して設けられ、しかも活物質は薄膜によって集電体以外の物質(例えば電解液など)との接触を抑制するように設けられる。活物質と集電体の間以外で電子授受を抑制することで漏洩電流が抑制されるので、従来よりも電池電位を高電位化でき、電解液の分解を低減することができる。
【0012】
第4の発明は、二次電池(100)において、請求項1から11のいずれか一項に記載の二次電池用電極(10)を用いる第1電極(110,210)と、前記第1電極とは反対の極性である第2電極(130,230)と、前記第1電極と前記第2電極との間に備える絶縁性のセパレータ(120,220)と、電解液(140,240)とを有することを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、活物質は集電体の所定面に設けられ、しかも活物質は薄膜によって集電体以外の物質(例えば電解液など)との接触を抑制するように設けられる二次電池用電極を第1電極(正極または負極)として用いる。したがって、活物質と集電体の間以外で電子授受を抑制することで漏洩電流が抑制されるので、従来よりも電池電位を高電位化でき、電解液の分解を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】二次電池用電極の構成例を模式的に示す断面図である。
図2】二次電池用電極の第1製造方法例を模式的に示す断面図である。
図3】二次電池用電極の第2製造方法例を模式的に示す斜視図である。
図4】二次電池の第1構成例を模式的に示す断面図である。
図5】二次電池の第2構成例を模式的に示す断面図である。
図6】二次電池用電極にかかるX線光電子分光の結果例を示すグラフ図である。
図7】二次電池用電極にかかるX線光電子分光の結果例を示すグラフ図である。
図8】コイン型二次電池の構成例を模式的に示す断面図である。
図9】分解電流の経時的な変化例を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。なお、各図は本発明を説明するために必要な要素を図示し、実際の全要素を図示しているとは限らない。上下左右等の方向を言う場合には、図面の記載を基準とする。アルカリ金属はリチウム(Li),ナトリウム(Na),カリウム(K)などのように周期表における第1族元素の金属であるが、一例としてリチウム(Li)を適用する例について説明する。アルカリ金属イオンについても同様である。
【0016】
〔実施の形態1〕
実施の形態1は、二次電池用電極の構成例と製造方法例について、図1図3を参照しながら説明する。まず、二次電池用電極の構成例について説明する。
【0017】
(二次電池用電極の構成例)
図1に示す二次電池用電極10は、薄膜11,活物質12,集電体13などを有する。電極に必要な他の要素(例えばリード等)は省略する。二次電池用電極10は、正極として用いる例を説明するが、負極として用いることも可能である。
【0018】
薄膜11は、絶縁性材料で成形(成膜)され、集電体13以外の物質との接触を抑制するように活物質12を覆って成形される。絶縁性材料は、周期表における第5族元素(バナジウム族元素)の無機化合物が望ましい。無機化合物は、例えばニオブの無機酸化物(NbOy;ただし2.4≦y≦3.0)や、タンタルの無機酸化物(TaOz;ただし2.4≦z≦3.0)、五酸化ニオブ(Nb25)や五酸化タンタル(Ta25)のうちで一以上を含むとよい。薄膜11の成形方法は問われず、例えば蒸着法(CVD法を含む),スパッタリング法,ゾルゲル法,溶射法など任意である。
【0019】
ただし、アルカリ金属イオンであるリチウムイオン(Li+)の透過性を確保して、電池の充放電機能を低下させないため、厚さが1μm以下となるナノシートで成形してもよい。100nm以下の厚さとするのが好ましく、20nm以下の厚さとするのが望ましい。厚さの下限は問わず、許容範囲の誤差で成形でき、かつ、集電体13以外の物質との接触を抑制するように活物質12を覆うことができればよい。なお、リチウムイオンが透過し、電解質を構成する物質が透過しないような孔が多数ある多孔質体で成形してもよい。
【0020】
活物質12は、極性(正極または負極)に応じた物質で構成され、集電体13の所定面(図1図4を参照)に所定割合で層状に設けられる。所定割合は、活物質12と集電体13の間以外で電子授受を抑制するため、集電体13の所定面に対して充填率が95%以上100%以下となるように設けるとよい。充填率が95%未満になると、系外に漏れて流れる漏洩電流が増加するためである。活物質12の厚さに制限はなく、任意に設定してよい。例えば、1μm以上100μm以下の厚さで設定するとよい。なお、活物質12中における電子の移動距離は短いほどよいので、厚さも薄いほどよい。
【0021】
正極として用いる場合の活物質12には、アルカリ金属を基準電位として、4.0V以上の電位差でアルカリ金属イオンの吸蔵と放出が行える無機化合物を含むとよい。具体的には、少なくともリチウムを含むスピネル構造を有するリチウム含有複合金属酸化物を含むとよい。リチウム含有複合金属酸化物には、例えばリチウム含有マンガンニッケル酸化物(LiMn2-xNix4;ただし0<x≦1)、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO2)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO2)、Co−Ni−Mnのリチウム複合酸化物、Ni−Mn−Alのリチウム複合酸化物、Ni−Co−Alのリチウム複合酸化物など該当する。
【0022】
負極として用いる場合の活物質12は、リチウムイオンを吸蔵・放出する材料を用いる。具体的には、金属リチウム,リチウム合金,金属酸化物,金属硫化物,金属窒化物,炭素材料,シリコン材料などが望ましい。炭素材料は、例えば黒鉛,コークス,炭素繊維,球状炭素,粒状炭素などの黒鉛系材料もしくは炭素系材料が該当する。熱硬化性樹脂,等方性ピッチ,メソフェーズピッチ,メソフェーズピッチ系炭素繊維,気相成長系炭素繊維,メソフェーズ小球体などに対して、熱処理を行って得られる黒鉛系材料もしくは炭素系材料でもよい。シリコン材料には、例えば非晶質(アモルファス)シリコン,微結晶シリコン,多結晶シリコン、これらのうちで二以上の組み合わせなどが該当する。一般的に結晶性が高くなるにつれて電気伝導度も高くなる。活物質12には、導電剤や結着材を含めてもよい。導電剤には例えばアセチレンブラック(AB)などが該当し、結着材には例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)などが該当する。活物質12にリチウム(リチウムイオンを含む)をプレドープしてもよい。
【0023】
なお、活物質12に合金材料や炭素材料を用いる場合は、活物質12と結着材、導電剤等を水やNMP等の溶媒中で混合した後、集電体13上に塗布され形成することができる。結着材は、高分子材料から形成されることが望ましく、二次電池内の雰囲気において化学的・物理的に安定な材料であることが望ましい。当該高分子材料は、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、フッ素ゴムなどが該当する。導電助剤は、例えばケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、非晶質炭素などが該当する。その他、導電性高分子ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアセンなどの導電性プラスチックを用いてもよい。
【0024】
薄膜11のX線光電子分光に関する積算強度をAとし、活物質12のX線光電子分光に関する積算強度をBとする。積算強度「A」は、第1結合エネルギー(例えば207.5eV付近)をピーク値として山状(三角形状や台形状などを含む。以下同じである。)に形成される山状ピークを含む強度を積算した値(すなわち領域面積)である。積算強度「B」は、第2結合エネルギー(例えば642eV付近)をピーク値として山状に形成される山状ピークを含む強度を積算した値(すなわち領域面積)と、リチウム含有マンガンニッケル酸化物(LiMn2-xNix4)の係数xとを用いて、所定の計算式によって求める。薄膜11と活物質12は、積算強度の比(A/B)が0<A/B≦15の範囲に収まるように、材料や分量等を調整するとよい。積算強度の比(A/B)が15を超えると、薄膜11の膜厚が厚くなり過ぎるため電気化学的な活性が著しく低下するからである。すなわち電池反応しなくなる。
【0025】
積算強度すなわち領域面積)の算出方法は積算が行えれば任意であり、例えば測定範囲内で積分を行う積分法や、山状ピークにかかる幅(結合エネルギーBEの幅)とピーク値(最も大きな強度)に基づいて所定の演算を行う演算法などが該当する。所定の演算を行うための演算式は、面積を算出する任意の計算式(例えば三角形の面積を求める式など)が該当する。測定範囲は、薄膜11の成分に応じた範囲を設定する。活物質12の測定範囲は、少なくとも626〜665eVの範囲を含むように設定するのが望ましい。2つある山状ピークは、化合物に応じてピーク値の比率(大小比)が決まる。積算強度(すなわち領域面積)の算出には、大きなピーク値を含んで結合エネルギーが小さい山状ピークを採用する。なお、結合エネルギーが大きい山状ピークを採用してもよく、両方の山状ピークを採用してもよい。
【0026】
集電体13は、金属元素や合金を問わず、任意の導電性材料で成形してよく、任意の形状で成形してよい。金属箔を含めてもよく、電気抵抗率が低い金属元素や合金でもよい。白金(Pt)、アルミニウム(Al)、ステンレスのうちで一以上を含むとよい。これらに代えて(あるいは加えて)、銅(Cu)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、リチウム(Li)、鉄(Fe)、鉛(Pb)、チタン(Ti)などを含めてもよい。ステンレスは、オーステナイト系,オーステナイト・フェライト系,マルテンサイト系,フェライト系,マルテンサイト系析出硬化型などの種類を問わない。原則として集電体13の厚さに制限はなく、任意に設定してよい。例えば、1μm以上100μm以下の厚さで設定するとよい。電池容量には影響しないので、集電体13の厚さは薄いほどよい。
【0027】
(二次電池用電極の製造方法例)
次に、上述した二次電池用電極10の製造方法の一例について説明する。図2に示す製造方法の一例は、活物質設置工程,薄膜被覆工程などを有する。図3に示す製造方法の一例は、薄膜成形工程,活物質収容工程,薄膜固定工程などを有する。以下では、各工程について簡単に説明する。
【0028】
(活物質設置工程)
活物質設置工程は、板状に成形された集電体13の所定面に所定割合で活物質12を設ける。型くずれしないように圧縮成形して設けるとよい。所定面は、図2では集電体13の上面(片面)を指すが、集電体13の両面(上面および下面)でもよい。
【0029】
(薄膜被覆工程)
薄膜被覆工程は、活物質12が集電体13以外の物質(例えば電解液)との接触を抑制するようにするため、活物質12を薄膜11で覆う。図2には薄膜11を矢印D1方向に移動させて覆う例を示すが、相対的に接近させて結果として活物質12を薄膜11で覆えばよい。薄膜11は、上述したように任意の成形方法で成形してよく、厚さが1μm以下(好ましくは100nm以下、望ましくは20nm以下)となるように成形すればよい。活物質設置工程で圧縮成形する活物質12の形状に合わせたナノシート状の薄膜11を用いて、活物質12を覆って薄膜11の端部11aを集電体13に固定してもよい。固定方法は、活物質12が集電体13以外の物質との接触を抑制するように端部11aを固定できれば任意である。例えば、接合,溶着,接着などが該当する。
【0030】
(薄膜成形工程)
薄膜成形工程は、上述した絶縁性材料を用いて、端部11aと凹状部位11bとからなる薄膜11を成形する。例えば、成形型に縁性材料を蒸着,スパッタリング,ゾルゲル,溶射などで成形すればよい。端部11aは集電体13への固定に用いられる。凹状部位11bは任意の形状で形成してよく、必ずしも図3に示す直方体形状に限られない。
【0031】
(活物質収容工程)
活物質収容工程は、薄膜成形工程で成形された凹状部位11bに対して、活物質12を収容する。活物質12は上述した通りである。収容後の状態を図3に示す。収容後から薄膜固定工程を行う前に、集電体13と接する部位の活物質12を均すとよい。
【0032】
(薄膜固定工程)
薄膜固定工程は、図3に示すように活物質12が収容された薄膜11を集電体13の所定面(図3では下面)に固定する。より具体的には、薄膜11の端部11aを集電体13に固定する。当該固定は、固定後に活物質12が集電体13以外の物質との接触を抑制するように行う。図3には集電体13を矢印D2方向に移動させて固定する例を示すが、相対的に接近させて結果として端部11aを集電体13に固定できればよい。
【0033】
〔実施の形態2〕
実施の形態2は、実施の形態1に示す二次電池用電極を一方側の電極として用いる二次電池の構成例について、図4を参照しながら説明する。なお図示および説明を簡単にするため、特に明示しない限り、実施の形態1で用いた要素と同一の要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0034】
図4に示す二次電池100は、第1電極110,セパレータ120,第2電極130,電解液140などを有する。本形態では、第1電極110を正極として用い、第2電極130を負極として用いる。なお、二次電池100を構成する他の部品や部材(例えば端子やケース等)については、図示および説明を省略する。
【0035】
正極としての第1電極110は、実施の形態1(図1)に示す二次電池用電極10を用いる。本形態では、活物質12に相当する活物質112として、例えばリチウム含有マンガンニッケル酸化物(LiMn2-xNix4)などのようなリチウム含有複合金属酸化物を含める。薄膜111は薄膜11に相当し、集電体113は集電体13に相当する。
【0036】
セパレータ120は、第1電極110と第2電極130との間に介在して設けられる。第1電極110と第2電極130が接触しないように絶縁することを条件として、任意の材料(材質)で形成してよい。例えば、一般的な多孔質樹脂や、酸化ケイ素,窒化ケイ素などが該当する。リチウムイオンが透過可能な多孔質体で成形するとよい。絶縁を確実に確保するために、第1電極110や第2電極130よりも大きな形状で成形するとよい。原則としてセパレータ120の厚さに制限はなく、任意に設定してよい。例えば、1μm以上30μm以下の厚さで設定するとよい。1μmよりも薄く成形すると絶縁が不十分になり、30μmよりも厚く成形すると同一体格の二次電池で比較すると電池容量が小さくなるためである。
【0037】
負極である第2電極130は、活物質131や集電体132などを有する。活物質131にはリチウムイオンを吸蔵・放出する材料を用いて成形する。具体的には、金属リチウム,リチウム合金,金属酸化物,金属硫化物,金属窒化物,炭素材料,シリコン材料などが望ましい。導電剤や結着材を含めてもよく、この場合の重量比も任意に設定してよい。さらにはフィラー,分散剤,イオン伝導体,圧力増強剤やその他の各種添加剤を添加してもよい。リチウムやリチウムイオンをプレドープしてもよい。本形態では、炭素材料としての黒鉛を用い、導電剤としてアセチレンブラック(AB)を用い、結着材としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いて合剤とする。集電体132は、集電体113と同様に、任意の導電性材料で成形してよい。集電体113と同じ材料で成形してもよく、異なる材料で成形してもよい。
【0038】
電解液140(電解質)は、正極と負極の間でイオンなどの荷電担体の輸送を行う媒体であり、特に限定しない。二次電池100が使用される雰囲気下で物理的、化学的、電気的に安定して存在でき、二次電池100として一般的に用いられる液体でよい。その一例としては、有機溶媒に支持塩を溶解させた非水電解質が該当する。
【0039】
有機溶媒は、アルカリ金属に溶媒和する一般的な溶媒を用いてよい。例えば、環状炭酸エステル,環状エステル,鎖状エステル,環状エーテル,鎖状エーテル,ニトリル類などが該当する。
【0040】
環状炭酸エステルの例としては、プロピレンカーボネート(PC),エチレンカーボネート(EC),ジメチルスルホキシド(DMSO)などが該当する。環状エステルの例としては、γ−ブチロラクトン,γ−バレロラクトン,γ−カプロラクトン,δ−ヘキサノラクトン,δ−オクタノラクトンなどが該当する。鎖状エステルの例としては、ジメチルカーボネート(DMC),ジエチルカーボネート(DEC),エチルメチルカーボネート(EMC)などが該当する。環状エーテルの例としては、オキセタン,テトラヒドロフラン(THF),テトラヒドロピラン(THP)などが該当する。鎖状エーテルの例としては、ジメトキシエタン(DME),エトキシメトキシエタン(EME),ジエトキシエタン(DEE)などが該当する。ニトリル類の例としては、アセトニトリル,プロピオニトリル,グルタロニトリル,メトキシアセトニトリル,3−メトキシプロピオニトリルなどが該当する。その他、ヘキサメチルスルホルトリアミド(HMPA),アセトン(AC),N−メチル−2−ピロリドン(NMP),ジメチルアセトアミド(DMA),ピリジン,ジメチルホルムアミド(DMF),エタノール,ホルムアミド(FA),メタノール,水なども該当する。
【0041】
中でもカーボネート系溶媒を含む電解液を用いると、高温での安定性が高くなる。ポリエチレンオキサイドなどの固体高分子に上記の電解質を含んだ固体高分子電解質やリチウムイオン伝導性を有するセラミック、ガラス等の固体電解質も使用可能である。
【0042】
上述した2種以上の有機溶媒を混合した混合溶媒を用いてもよい。例えば、誘電率の高い環状エステルと、粘度低減を目的とする鎖状エステルとの混合液などが該当する。サイクル特性の向上を目的として、ビニレンカーボネート(VC),フルオロエチレンカーボネート(FEC)などのような不飽和結合を有する不飽和化合物を添加してもよい。
【0043】
支持塩は支持に適した任意の塩を用いてよい。例えばアルカリ金属がリチウムの場合は、LiPF6,LiBF4,LiAsF6,LiCF3SO3,LiN(CF3SO22,LiC(CF3SO23,LiSbF6,LiSCN,LiClO4,LiAlCl4,NaClO4,NaBF4,NaIや、これらの誘導体等の塩化合物などが該当する。電気特性を向上させる観点から、LiPF6,LiBF4,LiClO4,LiAsF6,LiCF3SO3,LiN(CF3SO22,LiC(CF3SO23,LiN(FSO22,LiN(CF3SO2)(C49SO2),LiCF3SO3の誘導体,LiN(CF3SO22の誘導体,LiC(CF3SO23の誘導体からなる群から選ばれる1種以上の塩を用いるとよい。高負荷放電特性を得る観点から、エチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート(PC)などのような比誘電率の大きな物質を含めるとよい。
【0044】
また支持塩には、上述した支持塩に代えて(あるいは加えて)、オキサラト錯体やオキサラト誘導体錯体を用いてもよい。オキサラト錯体やオキサラト誘導体錯体の例として、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(LiFOB)、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート、リチウムビス(オキサラト)シランなどが該当する。なお、リチウム以外のアルカリ金属(例えばナトリウムやカリウムなど)についても同様の支持塩を用いてよい。
【0045】
上述した有機溶媒や支持塩に代えて(あるいは加えて)、非水電解質二次電池に用いることができるイオン液体を用いてもよい。イオン液体のカチオン成分としては、N−メチル−N−プロピルピペリジニウムや、ジメチルエチルメトキシアンモニウムカチオンなどが該当する。アニオン成分としては、BF4-やN(SO2CF32-などが該当する。また、非水電解質はゲル化剤を含有させることによりゲル状としてもよい。
【0046】
〔他の実施の形態〕
以上では本発明を実施するための形態について実施の形態1,2に従って説明したが、本発明は当該形態に何ら限定されるものではない。言い換えれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施することもできる。例えば、次に示す各形態を実現してもよい。
【0047】
上述した実施の形態1の二次電池用電極10は、アルカリ金属としてリチウムを適用する構成とした。この形態に代えて(あるいは加えて)、リチウム以外のアルカリ金属(例えばナトリウムやカリウムなど)を適用する構成としてもよい。すなわち、本発明はリチウムイオン二次電池に限らず、アルカリ金属イオン二次電池に適用することができる。この構成でも、活物質12と集電体13の間以外で電子授受を抑制することで、系外に漏れて流れる漏洩電流を抑制でき、電解液の分解を低減することができる。
【0048】
上述した実施の形態2の二次電池100は、二次電池用電極10を第1電極110(すなわち正極)として用いる構成とした(図4を参照)。この形態に代えて、二次電池用電極10を負極(図4では第2電極130)として用いる構成としてもよい。正極に用いるか負極に用いるかの相違に過ぎないので、実施の形態2と同様の作用効果が得られる。
【0049】
上述した実施の形態の二次電池100は、活物質112を覆うように薄膜111を設ける構成とした(図4を参照)。言い換えると、活物質112や集電体113と、セパレータ120との間に介在させる構成とした。この形態に代えて、図5に示すように、活物質131や集電体132と、セパレータ120との間に薄膜133を介在させる構成としてもよい。図示しないが、薄膜111と同様の形態としてもよい。すなわち、活物質131を覆うように薄膜133を集電体132に固定してもよい。これらの構成であっても、活物質131と集電体132の間以外で電子授受を抑制することで、系外に漏れて流れる漏洩電流を抑制でき、電解液140の分解を低減することができる。
【実施例】
【0050】
本発明をリチウムイオン二次電池に適用した実施例について説明する。
【0051】
〔実施例1〕
(リチウム複合酸化物構造体の製造)
実施例1は、活物質212(活物質112に相当)のMn原料として硝酸マンガンを用い、Ni原料として硝酸ニッケルを用い、フラックスとして塩化リチウムと塩化カリウムの混合物を用いた。これらをMn:Li:Kのモル比が1:20:14となるように準備し、アルミナ製のるつぼに投入した後、その上に白金箔を配置した。生成されるリチウム複合酸化物構造体は、LiMn2-xNix4(係数x=0.5)を含む。活物質212の充填率は99%であった。
【0052】
白金箔を配置したるつぼを電気炉内に入れ、加熱速度:15℃/分,保持時間:10時間,保持温度:900℃,冷却速度:200℃/時間,停止温度:500℃の条件で加熱処理を施した。加熱処理後に白金箔を取り外し、温水に浸漬してフラックスを除去した。こうして集電体213(集電体113に相当)と活物質212の複合体を製造できた。
【0053】
(二次電池用電極の作製)
薄膜211(薄膜111に相当)の原料にはニオブ酸カリウム(KNb38)粉末を用い、この原料を1規定塩酸中で1昼夜攪拌することでプロトン交換を行って塩酸を除去した。次いで、ターシャリーブチルアルコール水溶液中で1昼夜攪拌した後、2000rpmで30分の遠心分離を行って上澄みを抽出した。抽出した上澄みを集電体13と活物質212の複合体である活物質層表面にスピンコータを用いて塗布(スピンコート)と乾燥を2回繰り返して、集電体213、活物質212および薄膜211からなる正極210(第1電極110に相当)を得た。薄膜211は五酸化ニオブ(Nb25;NbOyにおけるy=2.5)のナノシートである。
【0054】
(二次電池用電極のX線光電子分光に関する積算強度の比
X線光電子分光は、X線源としてMgKα(軟X線)を用い、出力を10kV,10mAとした。また、Shirleyの方法を用いてバックグラウンドを除去した。Shirleyの方法は、D. BriggsおよびM. P. Seah共著の「Practical Surface Analysis」(John Wiley & Sons出版, New York, 1983年) p.466に記載されている。バックグラウンドを除去した後、計測対象(薄膜211や活物質212等)のIntensity(強度)を積分することにより、積算強度(すなわち領域面積)を得る。精度を向上させるため、同じ測定範囲で複数回(本例では5回)繰り返しスキャンして強度を積算した。
【0055】
作製された正極210についてX線光電子分光を測定してみたところ、図6図7に示すような測定結果が得られた。図6は薄膜211に含まれるニオブ(Nb3d)の測定結果例を示し、図7は活物質212に含まれるマンガン(Mn2p)の測定結果例を示す。図6図7は、いずれも横軸を結合エネルギーBEとし、縦軸をIntensity(強度)とするとともに、上記Shirleyの方法によるバックグラウンドBG(横線)を併せて示す。薄膜211(ナノシート)に由来する積算強度「A」は、破線で示すように結合エネルギーBEが207.5eV付近をピーク値とする積分値(斜線ハッチで示す領域面積)である。活物質212に由来する積算強度「B」は、破線で示すように結合エネルギーBEが642eV付近をピーク値とする強度の積分値(斜線ハッチで示す領域面積)を「Ba」とし、リチウム含有マンガンニッケル酸化物(LiMn2-xNix4)の係数xを用いて、計算式「B=Ba×(2/(2−x))」によって求める。実施例1の積算強度の比「A/B」は2.14であった。なお、結合エネルギーBE(例えば破線で示すように図6の薄膜211は210eV付近,図7の活物質212は654eV付近)が大きい山状ピークの積算強度(すなわち領域面積)を採用してもよく、2つある山状ピークの両方の積算強度(すなわち領域面積)を採用してもよい。
【0056】
(コイン型二次電池の製造)
上述した正極210を用いて、図8に断面図で示すコイン型のリチウムイオン二次電池200を製造した。負極230(第2電極130に相当)は、リチウム金属よりなる活物質231(活物質131に相当)が集電体232(集電体132に相当)の表面に一体形成されている。非水溶媒電解液240(電解液140に相当)には、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを質量比で7:3になるように混合した有機溶媒に、LiPF6を1.0mol/Lの濃度となるように添加した。
【0057】
正負極間にセパレータ220(セパレータ120に相当;ポリエチレン製の多孔質膜)を挟持するとともに、上述の非水電解液と共にステンレス製のケース(正極ケース260と負極ケース250から構成される)中に収納した。正極ケース260は正極端子を兼ね、負極ケース250とは負極端子を兼ねる。正極ケース260と負極ケース250との間には、ポリプロピレン製のガスケット270を介装することで、密閉性と正極ケース260と負極ケース250との間の絶縁性とを担保した。以上により、本実施例のコイン型のリチウムイオン二次電池200が製造された。
【0058】
(電解液分解量評価)
上述のように製造されたリチウムイオン二次電池200を満充電した後、0.1mAの電流を流して電池電圧を5.3Vまで上昇させた。その後、電池電圧を5.3Vのまま5時間(300分)保持した際の電流値を「分解電流」として評価する試験を行った。分解電流は「系外に漏れて流れる漏洩電流」に相当し、大きくなるにつれて非水溶媒電解液240を分解し易い。実施例1における分解電流は29μAであった。
【0059】
また、分解電流にかかる時系列変化の一例について、縦軸を分解電流とし、横軸を時間として図9に示す。なお、横軸に示す時間は、リチウムイオン二次電池200を満充電した後に0.1mAの電流を流し始めた時点を0とする。二次電池用電極10を有する本発明の正極210は実線で示し、活物質を薄膜で覆わない従来技術の正極(後述する比較例1に相当)を二点鎖線で示す。電池電圧を5.3Vのまま5時間(300分)保持した時点の分解電流を比較すると、本発明の正極210は従来技術の正極と比べて約半分に減っている。図示しないが、後述する実施例2〜4についても同様の結果が得られた。
【0060】
〔実施例2〕
実施例2は実施例1と同様にリチウムイオン二次電池200を製造して評価するが、次の三点が相違する。第1に、薄膜211の原料としてタンタル塊(Ta)を用いる。第2に、薄膜211を形成する方法に前記のタンタルをターゲットに用いたスパッタリングを用いる。スパッタリング装置には日本電子株式会社(JEOL)製の商品名「オートファインコータ・JFC−1600」を用い、Ar雰囲気、15Pa、印加電流30mAで10分間のスパッタを行った。第3に、薄膜211が五酸化タンタル(Ta25;TaOzにおけるz=2.5)である。実施例2において、積算強度の比「A/B」は0.75であり、分解電流は60μAであった。
【0061】
〔実施例3〕
実施例3は実施例1と同様にリチウムイオン二次電池200を製造して評価するが、スピンコータを用いて塗布と乾燥を1回繰り返す点が相違する。実施例3において、積算強度の比「A/B」は0.54であり、分解電流は52μAであった。
【0062】
〔実施例4〕
実施例4は実施例1と同様にリチウムイオン二次電池200を製造して評価するが、スピンコータを用いて塗布と乾燥を3回繰り返す点、および薄膜211(ナノシート)に由来する積算強度「A」は結合エネルギーBEが28eV付近をピーク値とする積分値である点が相違する。実施例4において、積算強度の比「A/B」は12.6であり、分解電流は11μAであった。実施例1,3,4の結果から、スピンコータを用いて塗布と乾燥を繰り返す回数が増えるにつれて、分解電流が減る傾向がある。
【0063】
〔比較例1〕
比較例1は実施例1と同様にリチウムイオン二次電池200を製造して評価するが、スピンコータを用いて塗布と乾燥を行わない点が相違する。すなわち、活物質212を薄膜211で覆わない。比較例1において、積算強度の比「A/B」は薄膜211が無いので0であり、分解電流は122μAであった。
【0064】
〔比較例2〕
比較例2は実施例1と同様にリチウムイオン二次電池200を製造して評価するが、スピンコータを用いて塗布と乾燥を10回繰り返す点が相違する。比較例2において、積算強度の比「A/B」は強度がB=0となるために測定不能であり、分解電流は10μAであった。
【0065】
上述した実施例1〜4および比較例1,2をまとめると、次の表1のようになる。表1では、各例における電池容量を併せて示す。表1に示す実施例1〜4以外であって、実施の形態1,2で示す構成のリチウムイオン二次電池200でも同様の結果が得られる。
【0066】
【表1】
上述した実施の形態および実施例によれば、以下に示す各効果を得ることができる。
【0067】
(1)二次電池用電極10(110,210)は、集電体13(113,213)と集電体13の所定面に所定の充填率(95%〜100%;実施例1〜4では99%)で設けられる活物質12(112,212)と、厚さが1μm以下の絶縁性材料を用いて成形され、活物質12を収容する凹状部位11bと、活物質12集電体13以外の物質との接触を抑制するように集電体13の所定面に固定された端部11aとからなる薄膜(11,111,211)とを有する構成とした(図1図4図5図8を参照)。この構成によれば、活物質12は薄膜11によって集電体13以外の物質(例えば電解液140など)との接触が抑制されるので、活物質12と集電体13の間以外で電子授受を抑制できる。したがって、系外に漏れて流れる漏洩電流が抑制されるので、従来よりも電池電位を高電位化でき、電解液140の分解を低減することができる。
【0068】
(2)集電体13は、白金、アルミニウム、ステンレスのうちで一以上を含む構成とした。この構成によれば、導電率が高いので、電子授受を効率よく行える。
【0069】
(3)活物質12は、リチウム(アルカリ金属)を基準電位として、4.0V以上の電位差でリチウムイオン(アルカリ金属イオン)の吸蔵と放出が行える無機化合物を含む構成とした。この構成によれば、4.0V以上の電位差を確保することができ、従来よりも電池電位を高電位化することができる。
【0070】
(4)活物質12は、少なくともアルカリ金属を含むスピネル構造を有するアルカリ金属含有複合金属酸化物である構成とした。この構成によれば、アルカリ金属含有複合金属酸化物の合成が容易に行え、従来よりも電池電位を高電位化することができる。
【0071】
(5)アルカリ金属含有複合金属酸化物は、LiMn2-xNix4を含む構成とした。この構成によれば、従来よりもさらに電池電位を高電位化することができる。
【0072】
(6)所定の充填率は、95%以上100%以下である構成とした。この構成によれば、系外に漏れて流れる漏洩電流が確実に抑制されるので、従来よりもさらに電池電位を高電位化でき、電解液140の分解をさらに低減することができる。
【0073】
(7)薄膜11のX線光電子分光に関する積算強度をAとし、活物質12のX線光電子分光に関する積算強度をBとするとき、積算強度の比を示すA/Bが0<A/B≦15である構成とした(図6図7を参照)。この構成によれば、活物質12を所定範囲内の積算強度の比からなる薄膜11で被覆することで、リチウムイオン(アルカリ金属イオン)の透過性を確保して、電池の機能(充放電)を維持しながらも、電解液の分解を抑制することができる。
【0074】
(8)薄膜11は、第5族元素の無機酸化物で成形される構成とした。この構成によれば、ニオブやタンタルなどの第5族元素は資源的に豊富であるために安価であり、第5族元素の無機酸化物もまた安価で合成できる。よって安価で薄膜11を成形できる。
【0075】
(9)無機酸化物は、ニオブ、タンタルのうちで一以上を含む構成とした。この構成によれば、資源的が豊富であり、無機酸化物の合成も容易であるので、二次電池用電極10や二次電池100(200)の製造コストを抑制することができる。
【0076】
(10)ニオブの無機酸化物はNbOy(y=2.5)であり、タンタルの無機酸化物はTaOz(z=2.5)である構成とした)。この構成によれば、ニオブやタンタルの無機酸化物は安価かつ合成容易であるので、二次電池用電極10や二次電池100(200)の製造コストを抑制することができる。
【0077】
(11)薄膜11は、厚さが20nm以下で成形される構成とした(図1図4図5図8を参照)。この構成によれば、リチウムイオン(アルカリ金属イオン)の透過性を確保して、電池の機能(充放電)を維持しながらも、電解液の分解を抑制することができる。
【0078】
(12)二次電池用電極10の製造方法において、集電体13(113,213)の所定面に所定の充填率で活物質12(112,212)を設ける活物質設置工程と、厚さが1μm以下の絶縁性材料を用いて成形された端部11aと凹状部位11bとからなる薄膜11により、凹状部位11bに活物質12を収容するとともに、活物質12が集電体13以外の物質との接触を抑制するように端部11bを集電体13の所定面に固定する薄膜被覆工程とを有する構成とした(図2を参照)。この構成によれば、活物質12は薄膜被覆工程によって集電体13以外の物質(例えば電解液140など)との接触が抑制されるように薄膜11で覆われる。活物質12と集電体13の間以外で電子授受を抑制することで漏洩電流を抑制でき、電解液140の分解を低減することができる。
【0079】
(13)二次電池用電極10の製造方法において、厚さが1μm以下の絶縁性材料を用いて端部11aと凹状部位11bとからなる薄膜11(111,211)成形される薄膜成形工程と、凹状部位11bに活物質12(112,212)を収容する活物質収容工程と、活物質12が集電体13(113,213)以外の物質との接触を抑制するように、活物質12が収容された薄膜11の端部11aを集電体13の所定面に固定する薄膜固定工程とを有する構成とした(図3を参照)。この構成によれば、活物質12は薄膜11によって集電体13以外の物質(例えば電解液140など)との接触が抑制するように設けられる。活物質12と集電体13の間以外で電子授受を抑制することで漏洩電流を抑制でき、電解液140の分解を低減することができる。
【0080】
(14)二次電池100(200)において、二次電池用電極10を正極に用いる第1電極110(210)と、第1電極110とは反対の極性である第2電極130(230)と、第1電極110と第2電極130との間に備える絶縁性のセパレータ120(220)と、電解液140(240)とを有する構成とした(図4図5図8を参照)。この構成によれば、第1電極110に正極として用いる二次電池用電極10は、活物質12は薄膜11によって集電体13以外の物質(例えば電解液140など)との接触が抑制されるので、活物質12と集電体13の間以外で電子授受を抑制する。したがって、従来よりも電池電位を高電位化するとともに、漏洩電流を抑制でき、電解液140の分解を低減することができる。二次電池用電極10を負極として第2電極130に用いる場合でも同様の作用効果が得られる。
【符号の説明】
【0081】
10(110,210) 二次電池用電極
11 薄膜
11a 端部
11b 凹状部位
12 活物質
13 集電体
100(200) 二次電池
110(210) 第1電極
120(220) セパレータ
130(230) 第2電極
140(240) 電解液
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9