特許第6180934号(P6180934)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6180934
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】ウレタン系光学部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/04 20060101AFI20170807BHJP
   C08G 18/79 20060101ALI20170807BHJP
   C08G 18/38 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   G02B1/04
   C08G18/79
   C08G18/38
【請求項の数】1
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-530015(P2013-530015)
(86)(22)【出願日】2012年8月20日
(86)【国際出願番号】JP2012071015
(87)【国際公開番号】WO2013027707
(87)【国際公開日】20130228
【審査請求日】2015年4月17日
(31)【優先権主張番号】特願2011-179902(P2011-179902)
(32)【優先日】2011年8月19日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(72)【発明者】
【氏名】上坂 昌久
(72)【発明者】
【氏名】岡本 恭尚
【審査官】 藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−083773(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/032365(WO,A1)
【文献】 特開平9−12556(JP,A)
【文献】 特公平6−37475(JP,B2)
【文献】 特公平3−49903(JP,B2)
【文献】 特開平7−330859(JP,A)
【文献】 特表2008−540817(JP,A)
【文献】 特表2005−509703(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/123731(WO,A1)
【文献】 特開昭48−85697(JP,A)
【文献】 特開平8−208794(JP,A)
【文献】 特開平11−349658(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/04
C08G 18/79
G02C 7/00
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートダイマー、及び/又は、(ii)トリレンジイソシアネート及びトリレンジイソシアネートダイマーと、ポリチオール化合物とを含むモノマー組成物を重合するウレタン系光学部材の製造方法であって、
前記(i)4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートダイマーにおける4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートダイマーの含有割合が0.1質量%以上であり、前記(ii)トリレンジイソシアネート及びトリレンジイソシアネートダイマーにおけるトリレンジイソシアネートダイマーの含有割合が0.1質量%以上であり、
4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートダイマー及び/又はトリレンジイソシアネートダイマーとポリチオール化合物とを反応させ、
反応前に、前記4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートダイマー及び/又は前記トリレンジイソシアネートダイマーを、ポリイソシアネート化合物中で、混合、加熱、撹拌することにより、溶解させる工程を有する、ウレタン系光学部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウレタン系光学部材及びその製造方法に関する。詳しくは、濁りやクモリがなく透明性に優れ、かつ高屈折率を有するウレタン系光学部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウレタン系光学部材の原料として、ポリチオール化合物やポリイソシアネート化合物が汎用されているが、ポリイソシアネート化合物のなかでも芳香族ポリイソシアネート化合物は、安価かつ大量に製造されており、また屈折率の向上に寄与することができるため、特に高屈折率が要求されるウレタン系光学部材の原料として好ましい。とりわけ、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDIと略す)及び2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート(TDIと略す)は、工業的にも入手しやくまた屈折率向上が容易であるとの観点から、高屈折率を有する光学部材の原料モノマーとして有用である。
例えば、特許文献1では、高屈折率を付与することができる光学用樹脂に用いる重合性組成物として、特定構造を有するチオール化合物と共に芳香族ポリイソシアネート化合物を原料とする開示がされており、実施例及び比較例において2,4−トリレンジイソシアネート及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−83773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、MDI、TDIは反応性に富む化合物であり、経時と共にダイマー等のオリゴマーを形成しやすいといった性質を有している。そのため、光学部材の所望する屈折率が、1.65程度を超えるような高屈折率なるに従ってMDI、TDIの使用量を増やす場合、得られた光学部材に、MDIダイマーやTDIダイマーが析出したと考えられる濁りやクモリが発現しやすくなり、透明性に劣るといった問題が生じていた。
上記のとおりMDI、TDIはダイマーを形成しやすいため、得られる光学部材の透明性の観点からは、ダイマーが混在したTDI、MDIの使用量を少なくすることが好ましいが、その反面、高屈折率の観点からは、特定量以上のMDI、TDIを使用することが必要であり、MDI、TDIを使用することにより高屈折率と透明性との両立を図ることは困難であった。特に、高いレベルの透明性が要求されるプラスチックレンズでは、高屈折率、かつ優れた透明性を有するものが望まれており、上記問題からMDI、TDIの使用に制限があった。
【0005】
本発明は、上述の問題に鑑み、MDIダイマーが混在したMDI又はTDIダイマーが混在したTDIを原料として用いても、濁りやクモリがなく透明性に優れ、かつ高屈折率を有するウレタン系光学部材及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討を進めた結果、MDI又はTDIと混在するそれぞれのダイマーを、原料のポリイソシアネート化合物中で溶解状態とした上でポリチオール化合物と反応させ、光学部材を形成する構造中に取り込むことにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、下記のウレタン系光学部材及びその製造方法を提供する。
【0007】
1. 光学部材を形成する構造中に、下記の式(1)又は(2)で表される構造を少なくとも1種有することを特徴とするウレタン系光学部材。
【0008】
【化1】
【0009】
2. (i)4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートダイマー、及び/又は、(ii)トリレジンイソシアネート及びトリレンジイソシアネートダイマーと、ポリチオール化合物とを含むモノマー組成物を重合して得られるウレタン系光学部材であって、上記4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートダイマー及び/又は上記トリレンジイソシアネートダイマーの含有量が、上記モノマー組成物中0.05質量%以上であることを特徴とする、前記1に記載のウレタン系光学部材。
【0010】
3. (i)4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートダイマー、及び/又は、(ii)トリレジンイソシアネート及びトリレンジイソシアネートダイマーと、ポリチオール化合物とを含むモノマー組成物を重合するウレタン系光学部材の製造方法であって、
4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートダイマー及び/又はトリレンジイソシアネートダイマーとポリチオール化合物とを反応させることを特徴とする、ウレタン系光学部材の製造方法。
4. 前記(i)4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートダイマーにおける4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートダイマーの含有割合が0.1質量%以上であり、前記(ii)トリレジンイソシアネート及びトリレンジイソシアネートダイマーにおけるトリレンジイソシアネートダイマーの含有割合が0.1質量%以上である、前記3に記載のウレタン系光学部材の製造方法。
5. さらに、前記4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートダイマー及び/又は前記トリレンジイソシアネートダイマーを溶解させる工程を有する、前記3又は4に記載のウレタン系光学部材の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のウレタン系光学部材は、MDIダイマー及びTDIダイマーを、光学部材を形成する構造中に共有結合を介して含むため、濁りやクモリがなく透明性に優れ、かつ高屈折率を有するウレタン系光学部材を提供することができ、特に、高いレベルの透明性が要求されるプラスチックレンズであっても満足できる透明性及び高屈折率とすることができる。
また、本発明の製造方法によれば、MDIダイマー及びTDIダイマーを、原料モノマーとして用いるポリチオール化合物と反応させるので、それぞれのダイマーが混在したMDI及びTDIを原料モノマーとして使用しても、高屈折率及び優れた透明性を有するウレタン系光学部材を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[ウレタン系光学部材]
本発明のウレタン系光学部材は、光学部材を形成する構造中に、下記の式(1)又は(2)で表される構造を少なくとも1種有することを特徴とする。
【0013】
【化2】
【0014】
上記の式で表される構造は、MDI中に形成されたMDIダイマー又はTDI中に形成されたTDIダイマー(以下ダイマーと略すことがある)由来の構造であり、製造方法の説明で後述するとおりダイマーとポリチオール化合物との反応により形成される。
なお、(i)4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートダイマーとは、MDIとMDIダイマーとが混在したものを意味し、本明細書において上記(i)におけるMDIダイマーを、MDI中のMDIダイマーと記載することがある。同様に(ii)トリレジンイソシアネート及びトリレンジイソシアネートダイマーとは、TDIとTDIダイマーとが混在したものを意味し、本明細書において上記(ii)におけるTDIダイマーを、TDI中のTDIダイマーと記載することがある。
また、本発明においてTDIダイマーとは、2,4−体及び2,6−体から形成される6種のダイマーから選ばれる少なくとも1種である。
【0015】
TDI中又はMDI中にそれぞれ形成されたダイマーを、上記構造として共有結合を介し光学部材を形成する構造中に含むことにより、得られる光学部材においてダイマーの析出を防ぎ、透明性に優れたものとすることができる。加えて、ダイマーはそれぞれのモノマーよりも分子量が大きいことから、上記構造が光学部材中に含まれることにより、屈折率のさらなる向上も期待することができる。
【0016】
[ウレタン系光学部材の製造方法]
上記構造が含まれる本発明のウレタン系光学部材の製造方法は、(i)4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートダイマー、及び/又は、(ii)トリレジンイソシアネート及びトリレンジイソシアネートダイマーと、ポリチオール化合物とを含むモノマー組成物を重合する製造方法であって、MDIダイマー及び/又はTDIダイマーとポリチオール化合物とを反応させることを特徴とする。本発明の製造方法によれば、上記反応によりダイマーは前記構造となって光学部材に共有結合を介し含まれ、得られた光学部材は透明性を有することができる。
またダイマーは、単離せずにMDI中又はTDI中に混在したままの状態でポリチオール化合物と反応させることができる。
【0017】
(MDI中又はTDI中に含まれるダイマー含有量)
前述のようにダイマーは、例えば経時と共にモノマー中に形成されやすいため、MDI及びTDIを原料モノマーとして使用する場合には、その保存状態により一定量のダイマーが混在していることがある。しかしながら、本発明の製造方法によれば、MDI中のMDIダイマーの含有割合が0.1質量%以上、さらには0.6質量%以上、またTDI中のTDIダイマーの含有割合が0.1質量%以上、さらには0.6質量%以上である、MDI又はTDIであっても、原料モノマーとして使用することができる。
一方でそれぞれのモノマー中に含まれるダイマーの含有量は、MDI又はTDIの保管状況等にもより一概にはいえないが、通常0.05〜2.0質量%程度であり、またダイマー含有量が多すぎる場合は、ダイマー以外のオリゴマーが形成され得ることやMDI及びTDI自体の劣化等の理由が考えられ、この様なMDI及びTDIを原料として使用することは好ましくない。そのため、本発明において、原料モノマーとして使用するMDI中又はTDI中に含まれるそれぞれのダイマー含有量の上限値は、好ましくは3.0質量%であり、より好ましくは2.5質量%であり、さらに好ましくは0.7質量%である。
【0018】
(モノマー組成物に含まれるダイマー含有量)
本発明の光学部材は、原料モノマーとしてMDIダイマーを含有するMDI及び/又はTDIダイマーを含有するTDIと、ポリチオール化合物とを少なくとも用い、上記MDIダイマー及び/又は上記TDIダイマー含有量が0.05質量%以上であるモノマー組成物を重合して得ることができる。たとえ組成物中のダイマーが0.05質量%以上、さらには0.3質量%以上であっても、本発明の製造方法によれば優れた透明性を有する光学部材とすることが可能である。
なお、MDIとTDIを併用した場合、上記ダイマー含有量はこれらダイマーの合計含有量とする。
【0019】
上記ダイマー含有量の上限値は、モノマー組成物全量に対し、好ましくは1.5質量%であり、より好ましくは1.25質量%、さらに好ましくは0.35質量%である。上限値が1.5質量%であれば、ダイマー以外のオリゴマー析出等の要因により透明性が低下するおそれがなく、高屈折率と透明性とを両立することができる。
なお、モノマー組成物全量に対するダイマーの割合は、使用するMDI中又はTDI中に含まれるダイマー量と、そのMDI又はTDIの使用量によって算出した値である。また、MDI中又はTDI中のダイマー含有量は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定することができる。
【0020】
(ダイマーとポリチオール化合物との反応)
ダイマーとポリチオール化合物との反応において、ダイマーは固体のままではポリチオール化合物との反応性に乏しいため、原料のポリイソシアネート化合物中で溶解状態とした上で、ポリチオール化合物と反応させる必要がある。したがって、本発明の製造方法において、ダイマーを溶解状態としてポリチオールと反応させるためには、あらかじめMDIダイマー及び/又はTDIダイマーを溶解させる工程を行うことが好ましい。
【0021】
ダイマーを溶解させる工程としては、ダイマーを溶解状態とすることができればその方法には制限はないが、複雑な操作を必要としない点から、MDI又はTDIに含有されるダイマーを他のポリイソシアネート化合物に溶解させる方法、あるいはMDI又はTDIに含有されるダイマーを加熱溶解させる方法が挙げられる。
【0022】
ダイマーを他のポリイソシアネート化合物に溶解させる方法としては、ダイマーを含むMDI又はTDIと他のポリイソシアネート化合物とを混合、撹拌することにより、ダイマーを溶解すればよいが、より確実にダイマーを溶解させるには、加熱することが好ましい。
【0023】
加熱する場合の温度は、上記混合物中のダイマーの含有量によって異なり一概にはいえないが、熱劣化するおそれがない点から、不活性ガス雰囲気下で、好ましくは50〜120℃、より好ましくは70〜100℃であり、加熱時間としては、好ましくは5〜30分、より好ましくは5〜10分である。
【0024】
ダイマーを溶解させる他のポリイソシアネート化合物としては、使用する原料モノマーであれば特に制限はないが、ダイマーとの相溶性が良好であるポリイソシアネート化合物であることが好ましい。
ダイマーとの相溶性が良好であるポリイソシアネート化合物としては、例えば、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、o−キシリレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、ビス(イソシアネートメチル)ジシクロへプタン等が挙げられる。これらのなかでもさらに相溶性が良好な点から、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、o−キシリレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネートが好ましい。
【0025】
また、MDI又はTDIに含有されるダイマーを加熱溶解させる方法としては、ダイマーを含むMDI又はTDIを温浴等の方法で十分に加熱すればよい。
加熱する温度は、ダイマーの含有量によって異なり一概にはいえないが、熱劣化するおそれがない点から、不活性ガス雰囲気下で、好ましくは50〜120℃、より好ましくは70〜100℃であり、加熱時間としては、好ましくは5〜30分、より好ましくは5〜10分である。
【0026】
MDIダイマー又はTDIダイマーとポリチオール化合物との反応は、モノマー組成物の重合工程において主に反応が進行する。
ウレタン系光学部材がプラスチックレンズである場合、注型重合法であることが好ましく、例えば、上記ダイマーを含むMDI又はTDI、もしくはこれら両方及びポリチオール化合物、さらにその他の原料モノマー、並びに必要に応じ添加物を混合した混合物を、ガラス又は金属製のモールドと樹脂製のガスケットとを組み合わせたモールド型に注入して重合を行う。その際の重合温度及び重合時間は使用する原料の種類にもよるが、40〜90℃で重合を開始し、その後、5〜10時間かけて110〜130℃まで昇温し、10〜30時間加熱して硬化成形する。
【0027】
(原料モノマー)
本発明のウレタン系光学部材の製造方法に使用する原料としては、MDI及びTDIを含むポリイソシアネート化合物並びにポリチオール化合物の他に、一般的に光学部材の原料モノマーとして使用される重合性モノマーを使用してもよい。
【0028】
ポリイソシアネート化合物としては、芳香環を含むポリイソシアネート化合物、脂肪族ポリイソシアネート化合物及び脂環式ポリイソシアネート化合物等が挙げられる。
MDI及びTDI以外の芳香環を含むポリイソシアネート化合物としては、例えば、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、o−キシリレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、エチルフェニレンジイソシアネート、イソプロピルフェニレンジイソシアネート、ジエチルフェニレンジイソシアネート、ジイソプロピルフェニレンジイソシアネート、トリメチルベンゼントリイソシアネート、ベンゼントリイソシアネート、メチシレントリイソシアネート等を用いることができる。これらの芳香環を含むポリイソシアネート化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0029】
脂肪族ポリイソシアネート化合物としては、例えば、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート等を用いることができ、脂環式ポリイソシアネート化合物としては、例えば、イソホロンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタン4,4’−ジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,2−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,3,5−トリス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ビシクロヘプタントリイソシアネートビス(イソシアネートメチル)ジシクロへプタン等を用いることができる。これらの脂肪族及び脂環式ポリイソシアネート化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0030】
ポリチオール化合物としては、例えば、エチレングリコールビス(2−メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(2−メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールエタントリス(2−メルカプトアセテート)、トリメチロールエタントリス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(2−メルカプトアセテート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、ジクロロネオペンチルグリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、ジブロモネオペンチルグリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、2,5−ビスメルカプトメチル−1,4−ジチアン、4,5−ビスメルカプトメチル−1,3−ジチアン、ビス[(2−メルカプトエチル)チオ]−3−メルカプトプロパン、ビス(メルカプトメチル)−3,6,9−トリチアウンデカン−1,11−ジチオール
【0031】
1,2−ビス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,3−ビス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,4−ビス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,2−ビス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,3−ビス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,4−ビス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,2,4−トリス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,3,5−トリス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,2,4−トリス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,3,5−トリス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,2,3,4−テトラキス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,2,3,5−テトラキス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,2,4,5−テトラキス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,2,3,4−テトラキス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,2,3,5−テトラキス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,2,4,5−テトラキス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、ビス(メルカプトメチル)スルフィド、ビス(メルカプトエチル)スルフィド、ビス(メルカプトプロピル)スルフィド、ビス(メルカプトメチルチオ)メタン、ビス(2−メルカプトエチルチオ)メタン、ビス(3−メルカプトプロピルチオ)メタン、1,2−ビス(メルカプトメチルチオ)エタン、1,2−ビス(2−メルカプトエチルチオ)エタン、1,2−ビス(3−メルカプトプロピルチオ)エタン、1,3−ビス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1,3−ビス(2−メルカプトエチルチオ)プロパン、1,3−ビス(3−メルカプトプロピルチオ)プロパン、1,2−ビス(2−メルカプトエチルチオ)−3−メルカプトプロパン、3,4−チオフェンジチオール、テトラヒドロチオフェン−2,5−ビスメルカプトメチル、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ジメルカプト−1,4−ジチアン等が挙げられる。これらのポリチオール化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0032】
(配合割合)
上記MDI及びMDIダイマー並びにTDI及びTDIダイマーを含むポリイソシアネート化合物、及びポリチオール化合物の配合割合は、NCO基/SH基のモル比が通常0.5〜2.0となる割合であればよく、好ましくは0.95〜1.05である。NCO基/SH基のモル比が0.95以上であれば未反応のNCO基がほぼ残らず、1.05以下であれば未反応のSH基がほぼ残らずに反応する。この範囲であれば未反応基の少ない理想的なポリマーを得ることができる。
【0033】
また、上記原料モノマーの他に、必要に応じて光学部材に使用される、重合触媒、離型剤、抗酸化剤、紫外線安定化剤、着色防止剤等の各種添加剤を使用してもよい。
【0034】
上述のように製造することができる本発明のウレタン系光学部材としては、例えば、眼鏡やカメラ等のプラスチックレンズ、プリズム、光ファイバー、光ディスク及び磁気ディスク等に用いられる記録媒体用基板、ワードプロセッサー等のディスプレイに付設する光学フィルターが挙げられる。
特に好適な光学部材としては、濁りやクモリのない透明性に優れたものであることから、プラスチックレンズ、とりわけ高屈折率が要求されている眼鏡用プラスチックレンズである。
【実施例】
【0035】
実施例により本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
実施例及び比較例において、下記の方法により物性評価を行った。
(1)外観
原料を混合した混合物の重合直前外観を目視により観察し、また重合後の得られたレンズを暗室内、蛍光灯下で目視により観察し、重合前外観及び重合後外観の色及び透明性を評価した。
<評価基準>
◎:重合直前、直後共に白濁は確認できず無色透明である
○:重合直前、直後共に白濁はほとんど確認できず略無色透明である
×:重合直前、直後共に白濁していて不透明である
(2)透過率
分光光度計「U3410」(日立製作所社製)を用いて、波長380−780nmにおける可視光線視感透過率を測定した。なお、作製したレンズの肉厚は2.00mmである。
(3)屈折率
得られたレンズの屈折率を、島津デバイス社製造製の精密屈折計(KPR−2000)を用いて、25℃、e線にて測定した。
【0036】
[実施例1]
ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC−104:昭和電工社製)にてオリゴマー成分を定量した結果、MDIダイマーの含有量が2.0質量%であるMDIを100mlナスフラスコに13.77g投入し、85℃窒素パージ下で5分攪拌し、これらを完全に溶解した。
次に、離型剤としてブトキシエチルアシッドフォスフェート0.015g、重合触媒としてジメチル錫ジクロライド0.012gを添加し、2,5−ビスメルカプトメチル−1,4−ジチアン〔DMMD〕7.44g、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)〔PETMA〕4.07gを配合し、0.13kPa(1.0torr)で2分減圧攪拌を行い混合物とした。これを24時間かけて初期温度80℃から最終温度120℃の温度プログラムにて重合しレンズを得た。本実施例における上記物性評価の結果を表1に示す。
【0037】
[実施例2]
ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC−104:昭和電工社製)にてオリゴマー成分を定量した結果、MDIダイマーの含有量が0.64質量%であるMDIを100mlナスフラスコに13.58g投入し、50℃窒素パージ下で5分攪拌して、これらを完全に溶解した。
次に、離型剤としてブトキシエチルアシッドフォスフェート0.015g、重合触媒としてジメチル錫ジクロライド0.012gを添加し、2,5−ビスメルカプトメチル−1,4−ジチアン〔DMMD〕7.44g、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)〔PETMA〕4.07gを配合し、0.13kPa(1.0torr)で2分減圧攪拌を行い混合物とした。これを24時間かけて初期温度50℃から最終温度120℃の温度プログラムにて重合しレンズを得た。本実施例における上記物性評価の結果を表1に示す。
【0038】
[実施例3]
ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC−104:昭和電工社製)にてオリゴマー成分を定量した結果、MDIダイマーの含有量が0.44質量%であるMDIを100mlナスフラスコに13.56g投入し、50℃窒素パージ下で5分攪拌して、これらを完全に溶解した。
次に、離型剤としてブトキシエチルアシッドフォスフェート0.015g、重合触媒としてジメチル錫ジクロライド0.012gを添加し、2,5−ビスメルカプトメチル−1,4−ジチアン〔DMMD〕7.44g、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)〔PETMA〕4.07gを配合し、0.13kPa(1.0torr)で2分減圧攪拌を行い混合物とした。これを24時間かけて初期温度50℃から最終温度120℃の温度プログラムにて重合しレンズを得た。本実施例における上記物性評価の結果を表1に示す。
【0039】
[実施例4]
ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC−104:昭和電工社製)にてオリゴマー成分を定量した結果、MDIダイマーの含有量が2.15質量%であるMDIを100mlナスフラスコに13.79g投入し、90℃窒素パージ下で5分攪拌して、これらを完全に溶解した。
次に、離型剤としてブトキシエチルアシッドフォスフェート0.015g、重合触媒としてジメチル錫ジクロライド0.012gを添加し、2,5−ビスメルカプトメチル−1,4−ジチアン〔DMMD〕7.44g、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)〔PETMA〕4.07gを配合し、0.13kPa(1.0torr)で2分減圧攪拌を行い混合物とした。これを24時間かけて初期温度80℃から最終温度120℃の温度プログラムにて重合しレンズを得た。本実施例における上記物性評価の結果を表1に示す。
【0040】
[実施例5]
ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC−104:昭和電工社製)にてオリゴマー成分を定量した結果、MDIダイマーの含有量が2.54質量%であるMDIを100mlナスフラスコに13.84g投入し、90℃窒素パージ下で5分攪拌して、これらを完全に溶解した。
次に、離型剤としてブトキシエチルアシッドフォスフェート0.015g、重合触媒としてジメチル錫ジクロライド0.012gを添加し、2,5−ビスメルカプトメチル−1,4−ジチアン〔DMMD〕7.44g、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)〔PETMA〕4.07gを配合し、0.13kPa(1.0torr)で2分減圧攪拌を行い混合物とした。これを24時間かけて初期温度90℃から最終温度120℃の温度プログラムにて重合しレンズを得た。本実施例における上記物性評価の結果を表1に示す。
【0041】
[比較例1]
ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC−104:昭和電工社製)にてオリゴマー成分を定量した結果、MDIダイマーの含有量が3.0質量%であるMDIを100mlナスフラスコに13.91g投入した。
上記MDIについてダイマーを溶解させる工程を行わず、MDIは紛体のままの状態で、離型剤としてブトキシエチルアシッドフォスフェート0.015g、重合触媒としてジメチル錫ジクロライド0.012gを添加し、50℃窒素パージ下5分攪拌して、2,5−ビスメルカプトメチル−1,4−ジチアン〔DMMD〕7.44g、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)〔PETMA〕4.07を配合し、0.13kPa(1.0torr)で2分減圧攪拌を行い混合物とした。
この混合物は白濁しており、24時間かけて初期温度50℃から最終温度120℃の温度プログラムにて重合しレンズを得た。本比較例における上記物性評価の結果を表1に示す。なお、白濁のため、透過率の測定はせず、また屈折率は測定不能であった。
【0042】
[実施例6]
ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC−104:昭和電工社製)にてオリゴマー成分を定量した結果、MDIダイマーの含有量が1.2質量%であるMDIを100mlナスフラスコに13.66g投入し、70℃窒素パージ下で5分攪拌して、これらを完全に溶解した。
次に、離型剤としてブトキシエチルアシッドフォスフェート0.015g、重合触媒としてジメチル錫ジクロライド0.012gを添加し、2,5−ビスメルカプトメチル−1,4−ジチアン〔DMMD〕7.44g、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)〔PETMA〕4.07gを配合し、0.13kPa(1.0torr)で2分減圧攪拌を行い混合物とした。これを24時間かけて初期温度70℃から最終温度120℃の温度プログラムにて重合しレンズを得た。本実施例における上記物性評価の結果を表1に示す。
【0043】
[比較例2]
ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC−104:昭和電工社製)にてオリゴマー成分を定量した結果、MDIダイマーの含有量が1.2質量%であるMDIを100mlナスフラスコに13.66g投入した。
上記MDIについてダイマーを溶解させる工程を行わず、MDIは紛体のままの状態で、離型剤としてブトキシエチルアシッドフォスフェート0.015g、重合触媒としてジメチル錫ジクロライド0.012gを添加し、30℃窒素パージ下5分間混合した。ついで、2,5−ビスメルカプトメチル−1,4−ジチアン〔DMMD〕7.44g、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)〔PETMA〕4.07gを配合した。
この混合物はMDIの紛体が溶けずに固体として存在し、液も白濁していた。これを24時間かけて初期温度50℃から最終温度120℃の温度プログラムにて重合しレンズを得た。本比較例における上記物性評価の結果を表1に示す。なお、白濁のため、透過率の測定はせず、また屈折率は測定不能であった。
【0044】
[実施例7]
ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC−104:昭和電工社製)にてオリゴマー成分を定量した結果、MDIダイマーの含有量が2.0質量%であるMDIを100mlナスフラスコに6.71g投入し、次いで1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート〔HDI〕4.56gを投入し、70℃窒素パージ下で5分攪拌して、これらを完全に溶解した。
次に、離型剤としてブトキシエチルアシッドフォスフェート0.015g、重合触媒としてジメチル錫ジクロライド0.012gを添加し、2,5−ビスメルカプトメチル−1,4−ジチアン〔DMMD〕7.44g、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)〔PETMA〕4.07gを配合し、0.13kPa(1.0torr)で2分減圧攪拌を行い混合物とした。これを24時間かけて初期温度60℃から最終温度120℃の温度プログラムにて重合しレンズを得た。本実施例における上記物性評価の結果を表1に示す。
【0045】
[比較例3]
ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC−104:昭和電工社製)にてオリゴマー成分を定量した結果、MDIダイマーの含有量が2.0質量%であるMDIを100mlナスフラスコに6.71g投入し、次いで1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート〔HDI〕4.56gを投入した。この時ダイマーを溶解させないまま直ちに離型剤としてブトキシエチルアシッドフォスフェート0.015g、重合触媒としてジメチル錫ジクロライド0.012gを添加し、30℃窒素パージ下3分攪拌して、次いで2,5−ビスメルカプトメチル−1,4−ジチアン〔DMMD〕7.44g、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)〔PETMA〕4.07gを配合した。
この混合物は比較例2同様にMDIが固体として存在し、液も白濁している状態であった。この混合物を24時間かけて初期温度70℃から最終温度120℃の温度プログラムにて重合し樹脂を得た。本比較例における上記物性評価の結果を表1に示す。なお、白濁のため、透過率の測定はせず、また屈折率は測定不能であった。
【0046】
【表1】
【0047】
表1から、実施例1〜7では無色透明のレンズが得られたため、ダイマーがポリチオール化合物と反応し、特定の構造を形成してレンズを形成する構造中に取り込まれたことがわかる。一方、比較例1〜3では、得られたレンズが不透明となったため、ダイマーがポリチオール化合物と反応せず、不純物として析出したことがわかる。
さらに、実施例6と比較例2、また実施例7と比較例3から、ダイマー含有量が同じであっても、ダイマーを溶解しポリイソシアネート化合物と反応させることにより、透明性に優れかつ高屈折率を有するレンズが得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のウレタン系光学部材及びその製造方法は、濁りやクモリがなく透明性に優れ、かつ高屈折率を有した光学部材を提供できるため、プラスチックレンズの分野、特に眼鏡用プラスチックレンズに有用である。