(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6180938
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】プロピオン酸および/またはその塩を含有する果実醗酵物およびその使用
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20170807BHJP
A23C 11/10 20060101ALI20170807BHJP
A23L 2/44 20060101ALI20170807BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20170807BHJP
A23L 3/3454 20060101ALI20170807BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20170807BHJP
A23L 23/00 20160101ALI20170807BHJP
【FI】
A23L5/00 J
A23C11/10
A23L2/00 P
A23L19/00 A
A23L3/3454
A23L33/10
A23L23/00
【請求項の数】17
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-542531(P2013-542531)
(86)(22)【出願日】2011年12月7日
(65)【公表番号】特表2013-544528(P2013-544528A)
(43)【公表日】2013年12月19日
(86)【国際出願番号】EP2011072126
(87)【国際公開番号】WO2012076621
(87)【国際公開日】20120614
【審査請求日】2014年12月3日
(31)【優先権主張番号】10194044.3
(32)【優先日】2010年12月7日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504421730
【氏名又は名称】ピュラック バイオケム ビー. ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(72)【発明者】
【氏名】スリーカース,アルネ オラヴ
(72)【発明者】
【氏名】ハインツ,エールコ アンソニウス ヨハネス
【審査官】
野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第05096718(US,A)
【文献】
米国特許第02261926(US,A)
【文献】
国際公開第2010/097364(WO,A1)
【文献】
米国特許第04794080(US,A)
【文献】
特開平07−051038(JP,A)
【文献】
特開平07−203942(JP,A)
【文献】
米国特許第06953574(US,B1)
【文献】
米国特許第06132786(US,A)
【文献】
米国特許第05989612(US,A)
【文献】
特表2005−526480(JP,A)
【文献】
特表2005−529960(JP,A)
【文献】
米国特許第05137736(US,A)
【文献】
"National Nutrient Database for Standard Reference Release 28",[online],United States Department of Agriculture Agricultural Research Service,Basic Report: 09206, Orange juice, raw,URL,https://ndb.nal.usda.gov/ndb/foods/show/2289?fgcd=&manu=&lfacet=&format=&count=&max=35&offset=&sort=&qlookup=09206
【文献】
BABUCHOWSKI, A. et al.,"PROPIONIBACTERIA IN FERMENTED VEGETABLES.",DAIRY SCIENCE AND TECHNOLOGY,EDP SCIENCES,1999年 1月 1日,Vol.79,P.113-124
【文献】
WALKER, M. et al.,"The growth of Propionibacterium cyclohexanicum in fruit juices and its survival following elevated temperature treatments.",FOOD MICROBIOLOGY,2007年 6月,Vol.24, No.4,P.313-318
【文献】
GERDNER, N. et al.,"Production of Propionibacterium shermanii biomass and vitamin B12 on spent media.",J. APPL. MICROBIOL.,2005年,Vol.99, No.5,P.1236-1245
【文献】
「果実」,岩波生物学事典,1996年 3月21日,第4版,P.214
【文献】
「果実」,生物学事典,2010年12月10日,P.218
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00−35/00
A23B 4/00− 9/00
A23C 1/00−23/00
C12P 1/00−41/00
C12N 1/00− 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピオン酸および/またはその塩を含有する果実醗酵物を製造する方法において、
i)食用の、種を伴った構造の果実を用意し、該果実から液体の果実調製物を得ること、ここで、該調製物は、1.5〜10重量%の糖レベルおよび4.5〜7のpHを有する、
ii)上記液体の果実調製物をプロピオン酸産生菌株によって醗酵させること、ここで、該発酵中に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アンモニウム、炭酸カルシウムおよび炭酸アンモニウムから選択される塩基の添加により、4.5〜7のpHを維持する、そして
iii)該果実醗酵物を得ること、
を含む、上記方法、ここで、
上記方法において使用される果実は、ナッツおよび穀物を包含せず、
上記液体の果実調製物の発酵において、乳酸産生菌の1以上の株が補足的に使用され、
上記方法は、上記プロピオン酸産生菌株および上記1以上の乳酸産生菌株以外の微生物を実質的に有さず、かつ
上記発酵は、20〜120時間行われる。
【請求項2】
液体の果実調製物が果実ジュース、果実エキスまたは果実ピューレである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
液体の果実調製物が、発酵中に、水をおよび/または、細菌醗酵を支持および/または改善するために必要な追加の成分を補足される、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
プロピオン酸産生菌株が、Propionibacterium属由来である、および/またはClostridium propionicum種、Selenomonas ruminantum種および/またはBacteroides ruminicola種由来である、および/またはVeillonella属由来である、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
プロピオン酸産生菌株が、Propionibacterium freudenreichii種、Propionibacterium shermanii種および/またはPropionibacterium acidi-propionici種由来である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
上記液体の果実調製物がプロピオン酸産生菌株によっておよび乳酸産生菌の1以上の株によって同時に発酵される、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
乳酸産生菌が、Lactobacillus casei、Lactobacillus paracasei、Lactobacillus helveticus、Lactococcus lactis、Lactobacillus acidophilus、Bacillus coagulans、Bacillus smithii、Bacillus thermoamylovoransの1以上である、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
液体の果実調製物を醗酵させることが5〜7のpHで行われる、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
工程ii)の発酵生成物が更なる処理に付されて該果実醗酵物を得る、ここで、該更なる処理が、固体/液体分離工程、濃縮工程、低温殺菌または滅菌工程、および標準化工程の1以上を含む、請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
液体の果実調製物をプロピオン酸産生菌株を用いて請求項1〜9のいずれか1項記載の方法にしたがって醗酵させることにより得られる果実醗酵物において、該果実醗酵物が1〜60重量%の範囲の濃度のプロピオン酸および/またはその塩を含む、上記果実醗酵物。
【請求項11】
0.1〜60重量%の範囲の濃度の酢酸および/またはその塩をさらに含み、プロピオン酸および/またはその塩と酢酸および/またはその塩との重量比が0.5〜10の範囲である、請求項10記載の果実醗酵物。
【請求項12】
0.002〜1重量%の範囲の濃度のコハク酸および/またはその塩をさらに含み、プロピオン酸および/またはその塩とコハク酸および/またはその塩との重量比が200〜15の範囲である、請求項10または11記載の果実醗酵物。
【請求項13】
醗酵過程のプロピオン酸産生菌細胞の一部または全部を含む、請求項10〜12のいずれか1項記載の果実醗酵物。
【請求項14】
醗酵過程のプロピオン酸産生菌細胞の一部または全部および乳酸産生菌細胞の一部または全部を含む、請求項10〜12のいずれか1項記載の果実醗酵物。
【請求項15】
請求項10〜14のいずれか1項記載の果実醗酵物および、食品および/または飲料のための追加の添加剤成分を含む組成物。
【請求項16】
請求項10〜14のいずれか1項記載の果実醗酵物または請求項15記載の組成物を、食品および/または飲料において使用する、あるいはそのまま食品または飲料として使用する方法。
【請求項17】
果実に基づく食品および/または飲料に、請求項10〜14のいずれか1項記載の果実醗酵物、請求項15記載の組成物または請求項1〜9のいずれか1項記載の方法によって製造された果実醗酵物を補足することにより、上記食品および/または飲料の官能特性および/または貯蔵安定性を改善する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
プロピオン酸および/またはその塩(プロピオネート
という場合がある)を含有する、
果実に基づく醗酵生成物およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
酵母菌および酢酸菌は、
果実の自然醗酵に関与する最も一般的な微生物であり、炭水化物をアルコールおよび/または酢酸に転化させる。また、これらの微生物は、
果実に基づく生成物、例えばジュース、の腐敗生物として作用し得る。他方、プロピオン酸菌は、乳製品、最も一般的にはチーズ、の醗酵に関与し、炭水化物および乳酸を主にプロピオン酸に転化させるが、いくらかの酢酸、二酸化炭素およびコハク酸にも転化させる。プロピオン酸は特に、酵母菌およびカビを抑制するが、他の細菌をも抑制する。
【0003】
Babuchowskiら(Lait (1999), 79,113-124)は、醗酵された植物を製造するためのプロピオン酸菌の使用を開示している。Propionibacterium freudenreichiiおよびPropionibacterium thoeniiで醗酵された赤カブジュースのプロピオン酸含量はそれぞれ、14日間の醗酵後に、1.56%および2.18%の値に達した。そのような醗酵期間は、工業的用途のためにはあまりにも長すぎる(高コストおよび汚染のための高リスク)。醗酵がプロピオン酸菌および乳酸菌を一緒に用いて行われたとき、醗酵された赤カブジュースのプロピオン酸含量は、1日の醗酵後に、ほんの0.12%の最大値に達し、一方、10〜14日の長い醗酵では、より低いプロピオン酸含量(約0.04%)であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Babuchowskiら、Lait (1999),79,113-124
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
今驚いたことに、液体の
果実調製物、例えばジュース、エキス、ピューレなどがプロピオン酸菌属のメンバーによって目的をもって醗酵されたとき、追加の栄養素の添加がなくても、醗酵が1〜4日間行われたときには、高いプロピオネート含量を有する醗酵物が得られ得る。上記醗酵物は、例えば
果実に基づく生成物に適用されるとき、酵母菌およびカビを抑制するが、有利なことに、高濃度で適用されても、上記
果実に基づく生成物の味および風味にはほとんど影響がない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、第一の局面では、本発明は、液体の果実調製物をプロピオン酸産生菌株による醗酵に付すことにより、プロピオン酸および/またはその塩を含有する果実醗酵物を製造する方法を開示する。上記方法は特に、
i)食用の、種を伴った構造の果実を用意し、
該果実から液体の果実調製物を得ること、ここで、該調製物は、1.5〜10重量%の糖レベルおよび4.5〜7のpHを有する、
ii)上記液体の果実調製物をプロピオン酸産生菌株によって醗酵させること、ここで、該発酵中に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アンモニウム、炭酸カルシウムおよび炭酸アンモニウムから選択される塩基の添加により、4.5〜7のpHを維持する、そして
iii)該果実醗酵物を得ること、
を含む。ここで、上記方法において使用される果実は、ナッツおよび穀物を包含
せず、上記液体の果実調製物の発酵において、乳酸産生菌の1以上の株が補足的に使用され、上記方法は、上記プロピオン酸産生菌株および上記1以上の乳酸産生菌株以外の微生物を実質的に有さず、かつ上記発酵は、20〜120時間行われる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書に記載の方法および
果実調製物における使用のための
果実は、食用の新鮮で種を伴った構造の特定の植物である。そのような新鮮な構造は典型的に、少なくとも65%(w/w)、さらには少なくとも70%(w/w)または少なくとも75%(w/w)の自然水含量を有する。そのような
果実は、甘い
果実、例えばリンゴ、ナシ、オレンジ、グレープフルーツ、ブドウ、イチゴ、メロン、バナナ、パイナップル、パッションフルーツ、モモ、マンゴー、グアバなど、甘くない
果実、例えばレモン、アボカドなど、および植物様
果実、例えばトマト、キュウリ、アマトウガラシ、カボチャなど、を包含する。この局面の方法における使用に好ましい
果実は、甘い
果実および/またはトマトである。特に好ましい
果実は、リンゴ、ナシ、オレンジ、ブドウ、パイナップル、メロンまたはトマト、あるいはそれらの任意の混合物である。本明細書に記載の方法および
果実醗酵物における使用のための
果実は、ナッツおよび穀物を包含しない。
【0008】
選択された
果実が、液体の
果実調製物を得るために処理される。適する液体の
果実調製物は例えば、ジュース、エキスまたはピューレ(マッシュされた
果実)である。
果実の処理は、当業者に一般に知られている技術を使用して行われる。液体の
果実調製物は、濃縮物から得られ得る。単独の
果実種または2以上の
果実種の混合物が使用され得る。
【0009】
液体の
果実調製物は、任意的に、水をおよび/または、細菌醗酵を支持および/または改善するために必要な追加の成分を補足され得る。この補足は、醗酵の前および/または醗酵中に行われ得る。
【0010】
液体の
果実調製物の水による希釈は、醗酵に使用される菌株のための適切な糖レベルを得るためにおよび醗酵プロセスを有利に促進するために、適切に行われ得る。液体の
果実調製物の適する糖レベルは1.5〜10%(w/w)であり得る。
【0011】
任意的に希釈された液体の
果実調製物は、細菌醗酵を支持および/または改善するために必要な追加の成分をさらに補足され得る。例えば、追加の成分は、追加の炭素源、例えばグルコースまたはスクロース、追加の窒素源、例えば酵母エキス、および/または追加のミネラルおよび/またはビタミンであり得る。有利には、追加の成分の量が一般に低く、その結果、得られる醗酵物の官能特性が好ましくない影響を受けない。液体の
果実調製物に全く補足しないのが好ましい。
【0012】
醗酵は、プロピオン酸産生菌株を使用して行われる。好ましいプロピオン酸産生菌株は、Propionibacterium 属の菌株である。適する種は、Propionibacterium freudenreichii、Propionibacterium shermanii、Propionibacterium acidi-propionici、Propionibacterium thoeniiおよび/またはPropionibacterium jenseniiを包含する。他のプロピオン酸産生菌種の例は、Clostridium propionicum、Selenomonas ruminantumおよび/またはBacteroides ruminicolaおよび/またはVeillonella属の種である。好ましいPropionibacterium種は、Propionibacterium freudenreichii、Propionibacterium shermaniiおよび/またはPropionibacterium acidi-propioniciである。単独株または2以上の株もしくは種の混合物が使用され得る。
【0013】
1実施態様では、プロピオン酸産生菌株による醗酵が、乳酸産生菌の1以上の株を補足される。適する乳酸産生菌株は、Lactobacillales目に属する乳酸菌内に、または適度に好熱性のBacillus種内に見出される。乳酸菌の例は、Lactobacillus casei、Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus delbrueckii、Lactobacillus paracasei、Lactobacillus helveticus、Lactococcus lactisおよび/またはLactococcus plantarumである。適度に好熱性のBacillus種の例は、Bacillus coagulans、Bacillus smithiiおよび/またはBacillus thermoamylovoransである。適度に好熱性のBacillus種は、30〜65℃の温度で増殖し得るBacillus種として定義される。
【0014】
乳酸産生菌は、液体の
果実調製物中の糖を乳酸に転化するために有利に使用される。上記乳酸は、プロピオン酸産生菌株のための炭素源として特に適する。醗酵に乳酸産生菌の1以上の株を補足することは、種々の方法で行われ得る。それは、最初に液体食品調製物を乳酸産生菌の1以上の株で醗酵し、次いで得られた、乳酸を含有する醗酵ブロスまたは醗酵液(すなわち、乳酸産生菌を有するまたは有しない)をプロピオン酸産生菌株で醗酵させることにより行われ得る。それはまた、液体食品調製物を乳酸産生菌の1以上の株およびプロピオン酸産生菌の1以上の株で同時に醗酵させることによって行われ得る。後者の場合には、乳酸産生菌が、醗酵プロセスの終わりに、醗酵プロセスで使用された菌の総重量の10%〜90%を構成し得る。
【0015】
醗酵プロセスは、さらに好ましくは、汚染性微生物、すなわち、上述したもの以外の微生物、を実質的に有しない。例えば、醗酵の終わりに、汚染性微生物の割合が、製造されたバイオマスの総量の高々5%(w/w)である。
【0016】
醗酵条件は、典型的に、醗酵プロセスで使用されるべき微生物菌の成長要件に従うように選択される。
【0017】
醗酵の初期および醗酵中の液体の
果実調製物のpHを4.5〜7、好ましくは5〜7の値で保持することが重要である。これは、適切な塩基、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、水酸化アンモニウム、炭酸アンモニウムおよび/またはこれらのアルカリ物質を含有する天然源、例えば石灰、石灰岩、チョーク、の添加により行われ得る。
【0018】
醗酵プロセスは、典型的に、利用できる糖の大部分、好ましくは糖の全部を消費し、および好ましくは、存在するならばラクテートの大部分または全部をも消費するのに適する時間にわたって行われる。しかし、利用できる糖の一部のみを醗酵させることも可能である。利用できる糖は典型的に、
果実に天然に存在する糖および追加の炭素源として添加された任意の糖である。醗酵の終わりに、醗酵
果実のプロピオネートレベル(すなわち、微生物バイオマスの分離後に測定される)は、0.25〜10%(w/w)であり得る。
【0019】
典型的に、醗酵は、20〜120時間、好ましくは20〜100時間、より好ましくは30〜90時間行われる。
【0020】
醗酵プロセスは一般に、10〜70℃の範囲、特に25〜55℃の範囲、より特に25〜35℃の範囲の温度で行われる。
【0021】
醗酵が終わった後、醗酵生成物は任意的に、所望に応じて、例えばその意図される用途に応じて、さらに処理され得る。有利には、一般に、官能特性を改善するための更なる処理工程を適用する必要はない。
【0022】
例えば、バイオマスを含む固体が醗酵生成物から分離されて醗酵液が得られ得る。この固体除去のために当業者に公知の任意の方法、例えば限外濾過、マイクロ濾過、静的デカンテーションまたは遠心分離が使用され得る。また、醗酵生成物から固体の一部のみを除去することが可能である。
【0023】
固体を含む醗酵生成物または固体が分離された醗酵液はまた、濃縮され得る。濃縮は、従来公知の任意の方法によって行われ得る。それは、例えば約20倍まで、例えば8〜16倍まで濃縮することによって、濃縮溶液を形成するために行われ得る。適する方法は、例えば、(減圧)蒸留および膜技術に基づく方法、例えば逆浸透、を包含する。また、例えば押出または噴霧乾燥によって、固体顆粒生成物を製造することが可能である。
【0024】
固体を含む醗酵生成物、固体が分離された醗酵液、または濃縮された生成物はまた、低温殺菌または滅菌され得る。
【0025】
一貫した組成を有する
果実醗酵物を達成するために、標準化が必要であり得る。
【0026】
第二の局面では、本発明は、プロピオネートを含有する
果実醗酵物に関する。
【0027】
この局面の
果実醗酵物は、第一の局面に記載された液体の
果実調製物を、第一の局面に記載されたプロピオン酸産生菌株を任意的に乳酸産生菌株と一緒に使用する醗酵に付すことにより得られ得る。
【0028】
果実醗酵物は、プロピオネートを0.25〜80%(w/w)、好ましくは0.5〜70%(w/w)、より好ましくは1〜60%(w/w)の範囲の濃度で含む。プロピオネート含量は、
果実醗酵物の水分量および細菌バイオマスの有無に依存する。典型的に、
果実醗酵物は、醗酵後の醗酵生成物の更なる処理(濃縮および/または乾燥)に依存して、0〜99.5%(w/w)の水分量を有し得る。
【0029】
好ましくは、
果実醗酵物は0.1〜60%(w/w)の範囲の濃度の
酢酸および/またはその塩(アセテート
という場合がある)をさらに含む。そのような醗酵物におけるプロピオネートとアセテートとの重量比は、0.5〜10、好ましくは1.5〜5の範囲である。
【0030】
また好ましくは、
果実醗酵物が、0.002〜1%(w/w)の範囲の濃度の
酢酸および/またはその塩(サクシネート
という場合がある)をさらに含む。そのような醗酵物におけるプロピオネートとサクシネートとの重量比は、200〜15、好ましくは150〜25の範囲である。
【0031】
本明細書で使用されるプロピオネート、アセテートおよびサクシネートの用語は、酸および塩の形を包含することが意味される。それに関して、典型的な塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、カルシウム塩およびマグネシウム塩、またはそれらの組合せである。
【0032】
果実醗酵物はさらに、醗酵プロセスのプロピオン酸産生菌細胞の一部または全部および、使用されるとき、乳酸産生菌細胞の一部または全部を含み得る。
【0033】
醗酵の結果、
果実醗酵物はさらに、出発時の液体の
果実調製物と比較して低下された糖含量を有する。出発時の液体の
果実調製物に存在する糖の量の少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%が醗酵によって転化される。この文脈における糖は、ヘキソースモノおよび/またはジサッカリドを意味し、これは、フルクトース、グルコースおよび/またはスクロースを包含する。
【0034】
1実施態様では、この局面の
果実醗酵物が、第一の局面に記載された方法によって得られ得る。
【0035】
この局面の
果実醗酵物は、そのまま食品または飲料であり得、および/または食品および/または飲料のための添加物またはそれらの成分として使用され得る。
【0036】
本発明のさらなる局面は、先の局面の
果実醗酵物を含む組成物に関する。
【0037】
そのような組成物は、
果実醗酵物の他に追加の成分を含む食品および/または飲料のための添加剤組成物であり得る。そのような追加の成分の例は、乳酸および/またはその塩、酢酸および/またはその塩、ビネガー、桂皮酸および/またはその塩、バニリン、ナイシン、ソルビン酸および/またはその塩、ならびに乳酸および/またはその塩、酢酸および/またはその塩、プロピオン酸および/またはその塩、安息香酸および/またはその塩、および/または下記成分の1以上、すなわちナイシン、ナタマイシン、ポリリシンおよびバクテリオシンの1以上、を含有する醗酵生成物である。
【0038】
本明細書に記載された
果実醗酵物または
果実醗酵物を含む添加剤組成物は、食品および/または飲料において、例えば食品または飲料における酵母菌および/またはカビの増殖を抑制するために、有利に使用され得る。
果実醗酵物の中性的なまたは繊細な味および風味故に、高濃度で適用されても、食品または飲料の味および/または風味を実質的に損なわない。典型的に、
果実醗酵物は、0.005〜1%(w/w)、好ましくは0.02〜0.5%(w/w)、より好ましくは0.05〜2%(w/w)の範囲の、食品または飲料中のプロピオネート量を与えるために、食品または飲料に添加され得る。
【0039】
1実施態様では、
果実醗酵物が、
果実に基づく食品および/または飲料に、特に
果実醗酵物を製造するために使用される
果実と同じ種類の
果実を含む、
果実に基づく食品および/または飲料に有利に添加される。こうして、上記
果実に基づく食品または飲料は、新しい特性、例えば味、風味、色、貯蔵安定性に関する新しい特性を得る。
果実醗酵物の味、風味および色などの特性は有利には、
果実に基づく食品および/または飲料の特性と一致する。
果実に基づく食品および/または飲料は典型的に、約3%(w/w)(ソフトドリンクの場合など)〜100%(w/w)(希釈されていない
果実ジュース、
果実ピューレまたは
果実濃縮物の場合など)の
果実含量を有し得る。
【0040】
すなわち、更なる局面では、
果実に基づく食品および/または飲料の官能特性および貯蔵安定性を、上記食品および/または飲料に本明細書に記載された
果実醗酵物を補足することにより改善する方法が提供される。
果実醗酵物は好ましくは、
果実に基づく食品および/または飲料のプロファイルから実質的に外れない味、風味および/または色のプロファイルを有する。例えば、メロン醗酵物は、リンゴに基づく食品および/または飲料に添加され得るが、トマト醗酵物は添加され得ない。より好ましくは、
果実醗酵物が、
果実に基づく食品および/または飲料に含まれる
果実と同じ
果実から製造される。
【0041】
微生物細胞をなおも含有する
果実醗酵物はさらに、プロバイオティクスとして有利に使用され得る。
【実施例】
【0042】
実施例1
種々の果実醗酵物の製造
P. freudenreichiiを、6.5の出発pHで、15g/リットルのDifco公認酵母エキスおよび30ml/リットルの50%乳酸ナトリウム溶液を含む培地上で予備培養した。培養物が、それが完全に増殖されるまで、30℃でインキュベートされた。Lactobacillus paracaseiが、Oxoidから購入したMRS培地(deManら、1960, J Appl Bact
23 (130-135), “A Mediumfor the Cultivation of Lactobacilli”)上で5.8の出発pHで予備培養された。
【0043】
種々の培地組成を有するいくつかのケースが試験された。各ケースを下記表1に示す。ここで、醗酵培地1リットル当たりのピューレまたはジュースの量は、以下に示される。
【0044】
【表1】
【0045】
表1のジュースは、標準ジュース抽出器、この場合にはPhilips HR1858ジューサー、によって調製された。ジュースを得た後、直ちに、更なる濾過無しに醗酵反応器に入れられた。
【0046】
醗酵反応器は、121℃で20分間滅菌された。反応器のpHは、2.5MのNaOH(100g/リットル)によってpH6.5に維持された。培地の攪拌が250rpmで行われた。
【0047】
醗酵の開始時に、乳酸菌の培養物の10%v/vおよびプロピオン酸菌の培養物の10%v/vが、希釈されたジュースに添加された。
【0048】
醗酵(48〜96時間)の後、バイオマスを含む固体が、遠心分離を使用して7000xgで20分間除去された。
【0049】
【表2】
【0050】
固体除去の後、醗酵物が、回転減圧蒸発(80ミリバールで操作)により8〜16倍に濃縮された。濃縮された醗酵物の有機酸組成が測定された(表2)。
【0051】
【表3】
【0052】
上記と同様にして、4つの醗酵物(ケース9、10、11および12)が調製されたが、ここでは、水1リットル当たり、25g/リットルのDifco酵母エキスおよび70g/リットルのスクロースを含有する醗酵培地を使用した。バイオマス除去および濃縮の後、ケース9は22%(w/w)のプロピオン酸を含み、ケース10は20.4%(w/w)のプロピオン酸を含んでいた(他の酸は測定されなかった)。ケース11では、醗酵物が、減圧(60〜100ミリバール)で回転蒸発器を使用して蒸発乾固された。ケース12では、ケース9の醗酵物が採られ、醗酵物が25%(w/w)の乳酸を含むまで乳酸ナトリウムが添加された。乳酸の添加後、醗酵物は13.7%(w/w)のプロピオン酸を含んでいた。
【0053】
実施例2
トマトソースにおける酵母菌に対するトマト醗酵物の効果
トマト醗酵物の効力が、トマトソースにおいて試験された。表3に従う組成を有するトマトソースが調製された。
【0054】
【表4】
【0055】
22%のプロピオン酸を含有するプロピオネート含有スクロース醗酵物が、スクロースおよび酵母エキスに基づいて調製された(実施例1のケース9)。さらに、15%のプロピオン酸を含有する濃縮されたトマト醗酵物が調製された(実施例1のケース1)。これらの醗酵物が、表4に従ってトマトソースのバッチに添加された。
【0056】
下記の酵母菌株が、GPYブロス(5g/リットルの酵母エキス、4g/リットルのグルコース、5g/リットルのペプトン、5〜5.5のpH)上で培養され、そして、表4に従って、Pichia membranae faciens MUCL 27794、Candida tropicalis MUCLb28180、Zygosaccharomyces rouxii MUCL 30008の1gにつき約1000細胞の最終濃度でトマトソースに添加された。トマトソースは、示された酵母菌株および示された醗酵物とともに20℃でインキュベートされた(表4)。定期的に、コロニー形成単位(cfu)が、MEAプレート(20g/リットルの麦芽エキス、20g/リットルのグルコース、1g/リットルのペプトン、1g/リットルのアガー)を使用して、20℃でインキュベートされて、測定された。
【0057】
【表5】
【0058】
トマトジュースに基づく醗酵物は、少なくとも80日の間、スクロースに基づく醗酵物と同様に有効であった。それは、Candidatropicalisが、最初の7日間で対照実験においてコロニー形成単位が下がったように、トマトソース上で増殖できなかったという結果から明らかであった。
【0059】
実施例3
他のプロピオネート醗酵物と比較されたメロン醗酵物の味
この実験は、これらの醗酵物の適用における味の記載および他のプロピオネート醗酵物を用いた場合の味に関する比較を与える。比較は、ISO 8587:2006官能分析ランク付け試験に基づく。醗酵物の味は、モデル飲料において評価される。このモデル飲料のレシピを表5に示す。
【0060】
【表6】
【0061】
このモデル飲料において、下記の醗酵物が互いに比較される。
PSP9液体(実施例1のケース10を参照):20.4%(w/w)のプロピオン酸含量を有する、スクロースおよび酵母エキスに基づく濃縮された液体プロピオン酸醗酵物、
PSP9粉末(実施例1のケース11を参照):41%(w/w)のプロピオン酸含量を有する、上述した醗酵物の粉末、
酵母エキスを有するメロン醗酵物:スイカジュース+10g/リットルの酵母エキスに基づくプロピオン酸醗酵物、濃縮物、
酵母エキスを有しないメロン醗酵物:スイカジュースに基づくプロピオン酸醗酵物、濃縮物、
PQ(実施例1のケース12を参照):合計25%まで乳酸と混合された、スクロースおよび酵母エキスに基づくプロピオン酸醗酵物。
【0062】
醗酵物が、0.05%のプロピオネート量で比較された。表6は、各醗酵物のプロピオネート量および、0.05%の量に達するためにモデル飲料に添加されるべき量を示す。
【0063】
【表7】
【0064】
全てのサンプルが、8人の訓練されたパネリストによって試飲された。パネリストたちは、上記サンプルを、参照サンプルとの違いが最も小さいものから最も大きいものまでにランク付けすることを求められた。参照サンプルは、純粋なモデル飲料である。表7は、サンプルのpHおよび味の記載を示す。
【0065】
【表8】
【0066】
ランク付け
サンプルが、参照との違いが最も小さいものから最も大きいものまでランク付けされた。表8は、ランク付けの結果を示す。
【0067】
【表9】
【0068】
ランク付けのための8人のパネリストおよび5種類の生成物のパネルサイズに関して、有意な相違を示すために、総得点が17未満であるか31超であることが必要である(片側検定)。メロン醗酵物を有しかつ酵母エキスを有するまたは有しないサンプルは共に、他のサンプルと比較して味への影響が有意に少ないことが分かる。PSP9液体を有するサンプルは、他のサンプルよりも味への影響が有意に大きい。結果として、メロン醗酵物は、他のプロピオネート醗酵物よりもリンゴジュースモデル飲料の味に対する影響がより小さい。メロン醗酵物はまた、種々の味プロファイルを有する。それらは、他の醗酵物よりも甘い。
【0069】
実施例4
Propionibacteriumによるハニーメロンおよびリンゴジュースの醗酵
予備醗酵物の調製
Propionibacterium freudenreichiiss. shermaniiの−80℃グリセロールストックを有する1のバイアル(1ml)が、20g/リットルのグルコースおよび15g/リットルの酵母エキスを含有する培地を含む100mlのフラスコに接種され、そして30℃で2日間インキュベートされた。100mlの培地が、900mlの同じ培地(20g/リットルのグルコースおよび15g/リットルの酵母エキス)を含む1リットルのびんに移された。このびんが30℃で1日間インキュベートされた。
【0070】
果実ジュースの醗酵
1リットルの醗酵菌が、希釈された市販のメロンジュース濃縮物によって調製された。濃縮物が、約45g/リットルの糖濃度に希釈され、1%の酵母エキスペースト(Biospringerからの50%ペースト)が添加され、次いで、培地を含む反応器がオートクレーブに入れられた。100mlのPropionibacterium予備醗酵物の100mlを添加することにより醗酵が開始された。同様の反応器が、希釈された市販のリンゴジュース濃縮物で満たされた。また、最終の糖濃度は45g/リットルであった。両方の反応器が30℃で保持され、150rpmで攪拌され、pHが、ADI1020コントローラーおよびpH較正のための塩基としての5MのNaOHを用いて6.5のpHで制御された。2つの反応器が定期的にサンプリングされ、糖濃度およびプロピオン酸濃度が測定された。これらの醗酵の結果を表8および9に示す。プロピオン酸の形成は比較的低かったが、グルコースはプロピオン酸に急激に転化された(<48時間)。これは、高いグルコース含量を有する
果実が、これらの種類の醗酵において最適であることを示唆する。
【0071】
【表10】
【0072】
【表11】