【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)2013年7月20日に一般社団法人日本建築学会から発行された「2013年度大会(北海道)学術講演梗概集・建築デザイン発表梗概集」に収録 (2)2013年8月31日に一般社団法人日本建築学会が開催した「2013年度日本建築学会大会(北海道)」にて発表 (3)2013年12月1日に大成建設株式会社技術センターから発行された「大成建設技術センター報2013年 第46号」に収録 (4)2014年1月に一般社団法人日本建築学会から発行された「日本建築学会構造系論文集 第79巻 第695号」に収録
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
高強度コンクリートは、結合材に対する水の重量比(水結合材比)を低くして、硬化後のコンクリート組織を緻密にすることで圧縮強度を高めたものである。
【0003】
水結合材比が低い高強度コンクリートは、一般的に硬化時の自己収縮が大きくなる傾向にある。自己収縮が大きいと、ひびわれ発生の原因になるため、自己収縮の低減化を図る高強度コンクリートが開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、設計基準強度が100N/mm
2を超える高強度コンクリートの配合において、粗骨材の30容積%以下を人工軽量粗骨材に置換し、コンクリート1m
3当たり30kg以下の膨張材を添加してなる高強度コンクリートが開示されている。
なお、人工軽量粗骨材には、吸水率が5〜20%、圧壊荷重1000〜2000N、絶乾密度が1.4〜2.0g/cm
3のものが使用されている。
【0005】
また、特許文献2には、400〜600kg/m
3のセメントを含む結合材と、10wt%以上の水を含有させた280〜400L/m
3の人工軽量粗骨材と、150〜185kg/m
3の水とを含有するコンクリートが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および特許文献2に記載のコンクリートは、粗骨材の一部に人工軽量粗骨材を採用することで、人工軽量粗骨材が保有する水分によりコンクリートの自己収縮や乾燥収縮の低減化を図っている。
【0008】
ところが、人工軽量粗骨材を使用すると、人工軽量粗骨材を使用しない通常のコンクリートに比べて、圧縮強度が大きく低下する虞がある。
特許文献1では硬質な石炭灰系の人工軽量粗骨材を使用することで所望の圧縮強度を確保しているが、このような人工軽量粗骨材は入手が難しく、高価であった。
【0009】
本発明は、圧縮強度が120N/mm
2以上でありながら硬化時の自己収縮が小さいコンクリート組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明のコンクリート組成物は、少なくともセメントとシリカフュームとを含む結合材と、前記結合材に対する重量比が10〜20%となるように添加された145〜155kg/m
3の水と、絶対容積が270〜330L/m
3の粗骨材と、絶対容積が88〜168L/m
3の人工軽量細骨材とを含有することを特徴としている。
【0011】
かかるコンクリート組成物によれば、自己収縮の低減化を図りながらも優れた強度発現性を有したコンクリート製品を提供することが可能となる。
なお、単位水量が155kg/m
3を上回ると、強度を維持するために単位セメント量を増やす必要があり、自己収縮を増大させるおそれがある。一方、単位水量が145kg/m
3を下回るとフレッシュコンクリートの流動性が悪化し、施工性が低下する。また、単位粗骨材量が絶対容積で330L/m
3を上回るとフレッシュコンクリートの鉄筋間隙通過性が悪化し、施工性が低下する。一方、単位粗骨材量が絶対容積で270L/m
3を下回ると、単位水量および単位結合材量を増やすことになり、自己収縮を増大させるおそれがある。
【0012】
なお、前記粗骨材の絶対容積が290〜310L/m
3であれば、結合材量の増加(自己収縮量の増加)を抑えつつ良好な施工性を確保することができる。
さらに、細骨材の絶対容積が270〜290L/m
3である場合には、前記細骨材のうちの130〜150L/m
3を前記人工軽量細骨材に置換するとよい。すなわち、前記人工軽量細骨材の絶対容積が130〜150L/m
3であり、前記人工軽量細骨材の絶対容積と前記人工軽量細骨材以外の細骨材の絶対容積の合計が270〜290L/m
3であれば、材齢200日におけるひずみが膨張側となるか、あるいは、収縮側となった場合でもゼロに近い値となる。
【0013】
前記結合材が、スラグせっこう系混和材を含んでおり、前記セメントが普通ポルトランドセメントである場合には、前記普通ポルトランドセメント、前記スラグせっこう系混和材および前記シリカフュームの合計重量を100としたとき、前記普通ポルトランドセメントの重量を68〜72、前記スラグせっこう系混和材の重量を18〜22、前記シリカフュームの重量を8〜12とするとよい。このような結合材は、強度の発現が早いという長所がある一方、自己収縮が大きいという短所を有しているが、本発明で規定した粗骨材と人工軽量細骨材を採用すれば、当該短所を改善することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のコンクリート組成物によれば、圧縮強度が120N/mm
2以上でありながら硬化時の自己収縮が小さい高品質なコンクリート製品を製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施形態のコンクリート組成物は、結合材と、水と、粗骨材と、細骨材と、を含むものであり、細骨材の一部が人工軽量細骨材に置換されている。収縮低減剤および膨張剤は含まれていない。
本実施形態では、コンクリート組成物を封緘養生する。
【0017】
結合材は、ポルトランドセメントとスラグせっこう系混和材とシリカフュームとを含んでいる。結合材は、予め所定の配合で混合されたプレミックス品を使用してもよいし、コンクリート製造時に混合してもよい。
なお、結合材は、少なくともセメントとシリカフュームとを含む超高強度コンクリート用セメントであれば限定されるものではない。
【0018】
本実施形態では、結合材として、普通ポルトランドセメントとスラグせっこう系混和材とシリカフュームを含む超高強度コンクリート用セメントであって、密度が2.99g/cm
3で、普通ポルトランドセメントとスラグせっこう系混和材とシリカフュームが重量比で概ね70:20:10となるように配合された超高強度コンクリート用セメント(例えば、株式会社デイ・シイ社製VKC100SF)を使用する。なお、普通ポルトランドセメントの混合比率は、前記3成分の合計重量を100としたときに、70±2(68〜72)であればよく、同様に、スラグせっこう系混和材の混合比率は20±2(18〜22)、シリカフュームの混合比率は10±2(8〜12)であればよい。
このような組成の超高強度コンクリート用セメントは、超高強度用(又は高強度用)コンクリートとして通常使用されるセメント(例えば、低熱ポルトランドセメント又は中庸熱ポルトランドセメントにシリカフュームを添過したセメント)と比較すると、強度の発現が早いという長所がある一方、自己収縮が大きいという短所を有している。また、粗骨材が多くなると、収縮は小さくなるが強度は低下する傾向がある。本実施形態では、粗骨材と人工軽量細骨材を後述の配合量としているが、かかる配合量を採用すれば、普通ポルトランドセメントとスラグせっこう系混和材とシリカフュームとを含む超高強度コンクリート用セメントの短所を改善することができる。
【0019】
水は、結合材に対する重量比が10〜20%、より好ましくは15〜20%となるように添加する。
なお、水結合材比が20%を超えると圧縮強度120N/mm
2以上を得るのは困難になり、10%を下回ると練り混ぜが困難になる。
【0020】
また、コンクリート組成物の単位水量が155kg/m
3を超えると、強度を維持するために結合材量を増加させる必要が生じる。結合材の量を増加させると、自己収縮が増大するおそれがある。
【0021】
一方、単位水量が145kg/m
3を下回ると、フレッシュコンクリートの流動性が悪化し、施工性が低下してしまう。
したがって、コンクリート組成物に添加する水の量は、145〜155kg/m
3とする。
【0022】
粗骨材には、天然の砂利または砕石を使用する。なお、粗骨材を構成する材料は限定されない。本実施形態では、コンクリート組成物に対して、安山岩系砕石(表乾密度2.60g/cm
3、吸水率2.78%、最大粒径20mm)からなり絶対容積が270〜330L/m
3の天然粗骨材(普通粗骨材)を添加する。
【0023】
ここで、粗骨材の絶対容積が330L/m
3を超えるとフレッシュコンクリートの鉄筋間隙通過性を悪化させて、施工性が低下するおそれがある。
一方、粗骨材の絶対容積が270L/m
3を下回ると結合材および水の量を増加させる必要が生じる。結合材量を増加させると自己収縮が増大するおそれがある。
なお、粗骨材の絶対容積が290〜310L/m
3であれば、結合材量および水の増加を抑えつつ良好な施工性を確保することができる。
【0024】
本実施形態では、細骨材として安山岩系砕砂(表乾密度2.62g/cm
3、吸水率2.88%、粗粒率2.72、微粒分量5.4%)を使用する。細骨材を構成する材料は、例えば、川砂、山砂等の天然細骨材(普通細骨材)のほか、高炉スラグ細骨材等も採用可能である。
【0025】
人工軽量細骨材には、JIS A 5002(構造用軽量コンクリート骨材)に規定される「人工軽量細骨材MA−417」を使用する。本実施形態で用いた人工軽量細骨材は、膨張性頁岩を粉砕・焼成して製造する汎用品で、表乾密度1.88g/cm
3、吸水率14.0%、粗粒率2.76、微粒分量6.7%であり、表層に溶融ガラス質のシェルを有する全空隙率30vol%程度の多孔質材料である。
【0026】
細骨材の量が多いと、強度が低下し、コンクリートの自己収縮が大きくなる傾向にある。そのため、本実施形態では、細骨材の一部を人工軽量細骨材に置換することで、人工軽量細骨材が含有する水分によりコンクリートの自己収縮の抑制を図っている。なお、置換前の細骨材の絶対容積(すなわち、人工軽量細骨材の絶対容積と人工軽量細骨材以外の細骨材の絶対容積の合計)は、336L/m
3とする。
【0027】
なお、
図3は、人工軽量細骨材の使用量と自己収縮ひずみの関係を示すグラフである。図中のプロットは、後記する表1のコンクリート組成物の硬化体(材齢28日、91日、182日)で実測した自己収縮ひずみである。図中に記載した回帰式によれば、コンクリート組成物に対する人工軽量細骨材の単位数量は、自己収縮又は膨張による長さの変化を±200×10
−6に収める場合には165〜315kg/m
3(絶対容積に換算すると88〜168L/m
3)とし、自己収縮又は膨張による長さの変化を±100×10
−6に収める場合には200〜270kg/m
3(絶対容積に換算すると106〜143L/m
3)とする。
【0028】
本実施形態のコンクリート組成物によれば、自己収縮の低減化を図りながらも優れた強度発現性を有したコンクリート製品を提供することが可能となる。
つまり、硬化時の自己収縮が小さく、かつ、圧縮強度が120N/mm
2以上(設計基準強度100N/mm
2)のコンクリート組成物を提供することができる。これは、細骨材の一部として人工軽量細骨材を採用することで、人工軽量細骨材が有する細孔に含有されている水分がコンクリートの硬化時の自己収縮の軽減に寄与するためである。このように、人工軽量細骨材を採用すると、水結合材比が小さい場合であっても、自己収縮を小さくすることができる。
【0029】
また、水、結合材、粗骨材および人工軽量細骨材の単位量を適切に配合することにより、細骨材を人工軽量細骨材に置き換えることによる強度低下を最小限に抑制している。人工軽量細骨材が有する細孔に含有されている水分は、セメントペースト部分の水和反応にも寄与する。
【0030】
細骨材の全てを人工軽量細骨材に置換すると、人工軽量細骨材からの水の供給によってセメントペースト部分の強度は増大するが、人工軽量細骨材による空隙量(欠陥)の増加が大きいため、コンクリートとしての強度が低下する。一方、細骨材の半分を人工軽量細骨材に置換すると、セメントペースト部分の強度の増大と、空隙量の増加が相殺し、コンクリートとしての強度低下を抑えることができる。人工軽量粗骨材の場合は、コンクリート中に分散して配置される人工軽量細骨材に比べて、空隙欠陥の集中と水分供給の非効率さによって、強度低下が大きくなると考えられる。
【0031】
本実施形態では、細骨材の一部を人工軽量細骨材に置換しているが、天然細骨材と人工軽量細骨材の粗粒率および微粒分量をほぼ等しくしたので、フレッシュコンクリートの性状(スランプフローなど)は、人工軽量細骨材を使用しない場合と大きな違いはない。なお、細骨材の全部を人工軽量細骨材に置換した場合でも、天然細骨材と人工軽量細骨材の粗粒率および微粒分量をほぼ等しくしておけば、フレッシュコンクリートの性状(スランプフローなど)への影響を小さくすることができる。
【0032】
次に、本実施形態のコンクリート組成物について、圧縮強度試験を行った結果を示す。
本試験では、水結合材比が20%と15%のコンクリート組成物について、細骨材の絶対容積の0%、50%、100%を人工軽量細骨材量に置き換えて、圧縮強度試験を行った。
【0033】
コンクリート組成物の調合を表1に示す。
表1に示す調合のコンクリート組成物について、水中養生と封緘養生を行い、それぞれ圧縮強度試験を行った。圧縮強度試験の結果を
図1に示す。なお、粗骨材の表乾密度は2.60g/cm
3であるので、粗骨材の単位量780kg/m
3を絶対容積に換算すると、300L/m
3(=780/2.60)となる。また、人工軽量細骨材の表乾密度は1.88g/cm
3であるので、例えば人工軽量細骨材の単位量262kg/m
3を絶対容積に換算すると、139L/m
3(=262/1.88)となる。
【0035】
図1に示すように、本実施形態のコンクリート組成物によれば、水結合材比を20%として細骨材の絶対容積の50%を人工軽量細骨材に置き換えた場合には、圧縮強度が130N/mm
2以上となった。特に、封緘養生であれば、人工軽量細骨材を採用することによる圧縮強度の低下を3%以下とすることができる。
【0036】
また、水結合材比を15%として細骨材の50%を人工軽量細骨材に置き換えた場合には、水中養生と封緘養生とがいずれも人工軽量細骨材を使用しない場合と同等の強度が発現された。
【0037】
また、細骨材の全てを人工軽量細骨材に置き換えた場合であっても、水結合材比を15%であれば圧縮強度が130N/mm
2以上となり、特に、封緘養生を採用すれば圧縮強度が140N/mm
2以上となる。
【0038】
さらに、水結合材比を20%として、細骨材の全てを人工軽量細骨材に置き換えた場合であっても、水中養生であれば圧縮強度が120N/mm
2程度、封緘養生であれば130N/mm
2を超える強度となった。
【0039】
次に、本実施形態のコンクリート組成物について、自己収縮量の確認を行った結果を示す。
図2の(a)および(b)に示すように、人工軽量細骨材を用いていない水結合材比20%および15%のコンクリートの自己収縮は、材齢200日において各々−830×10
−6、−890×10
−6と大きな収縮ひずみを示した。
【0040】
また、細骨材の100%を人工軽量細骨材に置換した水結合材比20%および15%のコンクリートでは、材齢200日において各々+510×10
−6、+300×10
−6の膨張ひずみを示した。
【0041】
一方、細骨材の50%を人工軽量細骨材で置換した水結合材比20%のコンクリート(すなわち、278L/m
3の細骨材のうちの半分(=139L/m
3)を人工軽量細骨材に置換したコンクリート)では、材齢200日において+50×10
−6のやや膨張側のひずみを示した。なお、この結果を考慮すれば、細骨材の絶対容積が270〜290L/m
3である場合において、そのうちの130〜150L/m
3を人工軽量細骨材に置換したときは、材齢200日におけるひずみが膨張側となるか、あるいは、収縮側となった場合でもゼロに近い値になると解される。また、細骨材の50%を人工軽量細骨材で置換した水結合材比の15%については、材齢200日において−200×10
−6程度の収縮ひずみに抑制された。
【0042】
したがって、本実施形態のコンクリート組成物によれば、人工軽量細骨材を採用することによりコンクリートの自己収縮を低減させるとともに、高強度コンクリートとして十分な強度を発現することが可能である。
【0043】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、細骨材を使用するものとしたが、人工軽量細骨材の量を増加することで細骨材を省略してもよい。
【0044】
また、コンクリート組成物の養生方法は封緘養生に限定されるものではなく、例えば水中養生であってもよい。