(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1〜10を参照して、本発明による旋回式作業機械の旋回角度検出装置の一実施の形態を説明する。
図1は、本発明による旋回角度検出装置を搭載した作業機械の一例であるクローラクレーンの外観側面図である。このクローラクレーン(以下、単にクレーンと呼ぶ)10は、無限軌道式の下部走行体1上に、旋回輪11を介して上部旋回体2が旋回自由に装架されている。
【0009】
上部旋回体2は、構造体をなす旋回フレーム3、旋回フレーム3の前部右側には運転室8が、旋回フレーム3の前部中央には回動可能に軸支されたブーム4が、旋回フレーム3の後部側には、カウンタウエイト9が設置されている。旋回フレーム3上の運転室8とカウンタウエイト9との間には、機械室を画成した建屋カバー7が設置されている。機械室には巻き上げ用のウインチドラムである巻上ドラム5や、起伏用のウインチドラムである起伏ドラム6、不図示のエンジン、エンジンによって駆動される不図示の油圧ポンプ(メインポンプ)などが設置されている。
【0010】
巻上ドラム5には巻上ロープ5aが巻回され、巻上ドラム5の駆動により巻上ロープ5aが巻き取りまたは繰り出され、フック装置(フック)12が昇降する。起伏ドラム6には起伏ロープ6aが巻回され、起伏ドラム6の駆動により起伏ロープ6aが巻き取りまたは繰り出され、ブーム4が起伏する。巻上ドラム5は巻上用油圧モータにより駆動され、起伏ドラム6は起伏用油圧モータにより駆動される。これら油圧モータの回転は不図示のブレーキ装置によって制動可能である。
【0011】
図2は、上部旋回体2の旋回中心の近傍をクレーン10の側面から見た模式的な断面図であり、本実施の形態の旋回角度検出装置100の構成を模式的に示している。
図2および後述する各図において、上部旋回体2の旋回中心に符号Zを付す。上部旋回体2の旋回中心Zには、センタジョイント15が設けられている。上部旋回体2の旋回中心Zの周囲には、上述した旋回輪11が設けられている。旋回フレーム3には、旋回モータ25が設けられている。
【0012】
旋回輪11は、旋回フレーム3に固定される旋回輪アウタレース11aと、トラックフレーム1aに固定される旋回輪インナレース11bと、旋回輪アウタレース11aと旋回輪インナレース11bとの間に介在する複数のボール11cとを有する。旋回輪インナレース11bの内面にはギヤが刻設されている。このギヤと、旋回モータ25の出力軸に設けられたギヤとが噛合しており、旋回モータ25が駆動されることで、旋回輪11を介したトラックフレーム1aと旋回フレーム3とが旋回中心Zを中心として相対的に回転する。
【0013】
図3(a)は、センタジョイント15の近傍をクレーン10の側面から見た図であり、
図3(b)は、センタジョイント15の近傍の平面図であり、
図3(c)は、
図3(a)のA矢視断面図である。
図4(a)は、旋回角度検出装置100の側面図であり、
図4(b)は、
図4(a)のA矢視平面図であり、
図4(c)は、
図4(a)のB矢視断面である。
図5〜
図10は、センタジョイント15の近傍の斜視図である。
【0014】
センタジョイント15は、下部走行体1の油圧回路および電気回路と、上部旋回体2の油圧回路および電気回路とを接続する装置である。センタジョイント15は、旋回フレーム3側に固定されるセンタジョイントスピンドル15aと、下部走行体1のトラックフレーム1a側に固定されるセンタジョイントハウジング15bとを有する。センタジョイントスピンドル15aには、上部旋回体2側の油圧回路および電気回路が接続される旋回体側接続部14aが設けられ、センタジョイントハウジング15bには、下部走行体1側の油圧回路および電気回路が接続される走行体側接続部14bが設けられている。
【0015】
センタジョイントスピンドル15aは、回り止め板32および回り止め支持板33によって旋回フレーム3側に支持される。すなわち、センタジョイントスピンドル15aには、センタジョイントスピンドル15aの回り止めのための回り止め板32の一端が取り付けられている。回り止め板32は、旋回中心Zを中心とする半径方向外側に向かって延在し、その他端が、旋回フレーム3に取り付けられた回り止め支持板33によって支持されて、上部旋回体2の旋回方向への移動が規制されている。これにより、センタジョイントスピンドル15aは、旋回フレーム3とともに上部旋回体2の旋回方向へ回動する。なお、回り止め板32および回り止め支持板33は、従来からセンタジョイントスピンドル15aの回り止めのために設けられている部材である。
【0016】
センタジョイントハウジング15bは、センタジョイント固定部材16によってトラックフレーム1aに固定されている。これによりセンタジョイントハウジング15bは、上部旋回体2が旋回しても、トラックフレーム1aに対して不動である。
【0017】
本実施の形態の旋回角度検出装置100は、下部走行体1側に設けられた下部走行体側部材110と、上部旋回体2側に設けられた可動ブラケット140、回転部材120および角度センサ130とを備えている。下部走行体側部材110は、下部走行体1側に固定するためのブラケット111と、ブラケット111に取り付けられて、後述する回転部材120であるスプロケットと噛合するチェーン112とを有する。
【0018】
ブラケット111は、たとえば、方形の平板にセンタジョイント15の逃げとなる穴が開けられ、穴の周囲に円筒状の部材が立設された部材である。ブラケット111は、円筒部分で円筒の中心軸に沿って2分割されている。2分割されたブラケット111のそれぞれは、センタジョイント固定部材16に固定されることで、一体のブラケット111としてトラックフレーム1a側に固定されている。なお、センタジョイント固定部材16は、トラックフレーム1aに取り付けられる第1固定部材16aと、センタジョイントハウジング15bに取り付けられる第2固定部材16bとを有する。
【0019】
ブラケット111の円筒部分の外周にはチェーン112が巻き付けられている。チェーン112は、2列のローラチェーンであり、下段のチェーンが、たとえばボルト113によってブラケット111の円筒部分の外周に固定されていて、上段のチェーンが後述する回転部材120と噛み合う。
【0020】
可動ブラケット140は、回転部材120および角度センサ130を保持するブラケットであり、回り止め板32に対して回動可能に取り付けられている。すなわち、可動ブラケット140は、回り止め板32に設けられた上部旋回体2の旋回中心軸と平行な支持軸32aによって軸支されている。可動ブラケット140は、たとえば
図3(b)、
図4(b)の平面図や、
図6、
図7の斜視図に示すように、バネ17の一端が取り付けられている。バネ17の他端は、回り止め板32に取り付けられている。バネ17の付勢力によって、可動ブラケット140は、
図3(b)、
図4(b)の平面図において支持軸32aを中心に図示時計方向に付勢されていて、回転部材120をチェーン112へ押し当てる。
【0021】
回転部材120は、上述したように、チェーン112と噛み合うスプロケットであり、可動ブラケット140に回動可能に軸支されている。回転部材120は、下部走行体1側で旋回中心Zを中心とする円周上に固定されたチェーン112の周りを上部旋回体2の旋回とともに
図3(c)で矢印REVで示すように公転する際に、矢印ROTで示すように自転する。
【0022】
回転部材120のピッチ円は、ブラケット111の円筒部分に巻き付けられたチェーン112が形成するピッチ円と略同じ径である。すなわち、回転部材120の歯数とチェーン112のリンク数とが等しい。このため、回転部材120が旋回中心Zを中心に360度回転すると、すなわち、上部旋回体2が360度旋回すると、回転部材120は360度自転する。したがって、本実施の形態では、上部旋回体2の旋回角度θと、回転部材120の自転角度θrotとが一致する。
【0023】
回転部材120の自転角度(回転角度)θrotは、可動ブラケット140に取り付けられた角度センサ130で検出される。角度センサ130は、たとえばポテンショメータであり、角度センサ本体131と、角度検出のための回転軸132とを備えている。本実施の形態では、角度センサ130として、電気的有効回転角度が360度であるポテンショメータが用いられる。回転軸132は、ユニバーサルジョイント135を介して回転部材120と接続されている。
【0024】
角度センサ130から出力される角度検出信号は、旋回角度算出装置191へ入力される。旋回角度算出装置191は、角度センサ130から出力された角度検出信号に基づいて、回転軸132の自転角度θrotを算出する。そして、算出した回転軸132の自転角度θrotに基づいて、上部旋回体2の旋回角度θを算出する。なお、本実施の形態では、上述したように上部旋回体2の旋回角度θと、回転部材120の自転角度θrotとが一致する。したがって、旋回角度算出装置191は、回転部材120の自転角度θrotを上部旋回体2の旋回角度θとして算出する。旋回角度算出装置191は、算出した上部旋回体2の旋回角度の信号(旋回角度信号)をモーメント演算装置192へ出力する。
【0025】
モーメント演算装置192は、クレーン10を転倒させないように作用する安定モーメントや、クレーン10を転倒させるように作用する転倒モーメントを算出し、算出した各モーメントに基づいてクレーン10の転倒防止のために不図示の警報装置等を作動させる装置である。モーメント演算装置192は、旋回角度算出装置191で算出された旋回角度θを用いて、安定モーメントや転倒モーメントを算出する。なお、モーメント演算装置192における安定モーメントおよび転倒モーメントの算出方法や、算出した各モーメントに基づいて不図示の警報装置等を作動させる動作については公知であるので、その説明を省略する。
【0026】
上述した本実施の形態の旋回角度検出装置100では、次の作用効果を奏する。
(1) 上部旋回体2が旋回することで旋回中心Zに対して公転する回転部材120と、下部走行体1側に取り付けられて、回転部材120と直接噛合する噛合部材としてのチェーン112とを備え、上部旋回体2が旋回することで回転部材120が旋回中心Zに対して公転しながら自転するように構成した。そして、回転部材120の自転角度θrotを角度センサ130で検出し、検出した自転角度θrotに基づいて上部旋回体2の旋回角度θを算出するように構成した。これにより、センタジョイントスピンドル15aの上部に旋回角度θの検出のためのセンサ等を配設しなくてもよいので、旋回角度検出装置100の配設が容易となる。したがって、クレーン10の設計コストや製造コストを抑制できる。さらに、旋回角度検出装置100の各部の構成が単純となるので、旋回角度検出装置100の信頼性や耐久性を向上できる。
【0027】
(2) 回転部材120のピッチ円の径と、ブラケット111の円筒部分に巻き付けられたチェーン112が形成するピッチ円の径とが等しくなるように構成した。これにより、上部旋回体2の旋回角度θと、回転部材120の自転角度θrotとが一致するので、上部旋回体2の旋回角度θと、角度センサ130の回転軸132の回転角度も一致する。したがって、上部旋回体2の旋回角度θを算出する際に、角度センサ130の回転軸132の回転角度を算出するだけでよいので、角度センサ130の回転軸132の回転角度から上部旋回体2の旋回角度θを算出するための変換式や変換マップなどが不要となる。これにより、旋回角度算出装置191の演算負荷を抑制でき、旋回角度算出装置191のコストアップを抑制できる。
【0028】
(3) チェーン112とスプロケットである回転部材120とが直接噛合するように構成した。これにより、旋回中心Zと回転部材120の中心との距離が最も短くなるので、旋回角度検出装置100を小型化できるので、クレーン10への旋回角度検出装置100の搭載が容易となるので、クレーン10の設計コストや製造コストを抑制できる。また、旋回角度検出装置100を無理なく搭載できるので、旋回角度検出装置100の信頼性や耐久性を向上できる。
【0029】
(4) 2分割されたブラケット111のそれぞれをセンタジョイント固定部材16に固定することで、一体のブラケット111としてトラックフレーム1a側に固定するように構成した。これにより、センタジョイント15に接続した油圧配管等を外さなくてもブラケット111を容易に後付け可能であり、施工性が向上する。また、チェーン112もブラケット111の取り付け後にブラケットへ固定して環状に接続すればよいので、ブラケット111と同様に容易に後付け可能であり、施工性が向上する。
【0030】
(5) チェーン112に2列のローラチェーンを用い、下段のチェーンがボルト113によってブラケット111の円筒部分の外周に固定され、上段のチェーンが回転部材120と噛み合うように構成した。これにより、チェーン112をブラケット111に容易に固定できるので、施工性が向上する。
【0031】
(6) バネ17の付勢力によって、可動ブラケット140に取り付けられた回転部材120をチェーン112へ押し当てるように構成した。これにより、たとえば旋回輪11のガタなどによって下部走行体1と上部旋回体2とで旋回中心Zに対する位置ずれが生じたとしても、旋回角度検出装置100への影響を抑制できる。したがって、旋回角度検出装置100の信頼性や耐久性を向上できる。
【0032】
−−−変形例−−−
(1) 上述の説明では、バネ17の付勢力によって、可動ブラケット140に取り付けられた回転部材120をチェーン112へ押し当てるように構成したが、本発明はこれに限定されない。たとえば、回転部材120および角度センサ130を旋回フレーム3に直接固定されたブラケットに取り付けるように構成してもよい。
【0033】
(2) 上述の説明では、回転部材120の歯数とチェーン112のリンク数とが等しくなるように構成したが、本発明はこれに限定されない。たとえば、回転部材120の歯数とチェーン112のリンク数とが等しくなくてもよい。なお、この場合には、旋回角度算出装置191で回転部材120の自転角度θrotに基づいて上部旋回体2の旋回角度θを算出するように構成すればよい。
【0034】
(3) 上述の説明では、下部走行体側部材110にチェーン112が含まれ、回転部材120がスプロケットであるが、本発明はこれに限定されず、チェーンとスプロケットとを入れ替えてもよい。すなわち、下部走行体側部材110にスプロケットが含まれ、回転部材120にチェーンが含まれるように構成してもよい。この場合には、スプロケットを回転軸を含む断面で2分割し、2分割したそれぞれのスプロケットをブラケット111に取り付けるように構成すれば、チェーン112の場合と同様に、後付けが容易となる。また、プーリの外周面にチェーンを取り付けることで回転部材120を構成してもよい。
【0035】
(4) 上述の説明では、チェーン112がローラチェーンであるが、本発明はこれに限定されない。たとえば、チェーン112にローラチェーンではなくサイレントチェーンを用いてもよい。なお、この場合には、回転部材120としてサイレントチェーン用のスプロケットを用いればよい。
【0036】
(5) 上述の説明では、ブラケット111を分割構造としたが、本発明はこれに限定されず、ブラケット111を一体構造としてもよい。この場合、新しいクレーン10の製造の際に、センタジョイント15へ油圧配管等を接続する前にブラケット111を取り付ければよい。なお、この場合であっても、チェーン112自体が任意の位置で切断可能であるので、チェーン112の交換時にセンタジョイント15に接続した油圧配管等を外す必要はない。
【0037】
(6) 上述の説明では、旋回中心Zと、回転部材120の自転中心軸とを近づけて、チェーン112と回転部材120とが直接噛合するように構成しているが、本発明はこれに限定されない。たとえば、旋回中心Zと、回転部材120の自転中心軸とを遠ざけてもよい。この場合には、下部走行体側部材110のチェーン112に代えてスプロケットを用い、このスプロケットと、回転部材120のスプロケットとの間にチェーンを掛け回して、チェーン伝動によって回転部材120を回転させるように構成すればよい。また、この場合には、下部走行体側部材110のスプロケットと回転部材120のスプロケットとで歯数を等しくすれば、上部旋回体2の旋回角度θと、回転部材120の自転角度θrotとが一致する。これにより、上述した場合と同様に、上部旋回体2の旋回角度θと、角度センサ130の回転軸132の回転角度も一致し、上述した作用効果と同様の作用効果を奏する。
【0038】
また、チェーン伝動ではなく、ベルト伝動でもよい。この場合、歯付きベルトを用いてもよく、Vベルトを用いてもよく、平ベルトを用いてもよい。そして、用いるベルトに対応するプーリの1つをブラケット111に固定し、もう一つのプーリを回転部材120として、2つのプーリにベルトを掛け回せばよい。
【0039】
(7) 上述の説明では、下部走行体側部材110にチェーン112が含まれ、回転部材120がスプロケットであるが、本発明はこれに限定されず、チェーンとスプロケット以外で互いに接触する伝達要素を用いてもよい。たとえば、チェーン112を歯付きベルトに代え、回転部材120のスプロケットを歯付きベルトに噛合する歯付きのギヤに代えてもよい。また、たとえば、回転部材120のスプロケットをゴムローラ等の摩擦車に代え、ブラケット111の円筒部分に当接するように構成してもよい。また、たとえば、チェーン112および回転部材120のスプロケットをスパーギヤ等の歯車に代えてもよい。
【0040】
(8) 上述の説明では、作業機械の一例としてクローラクレーン10を挙げたが、本発明はこれに限定されず、作業現場に固定されたクレーンや、クレーン以外のたとえば油圧ショベルなど、旋回中心を中心に上部旋回体を旋回させる各作業機械に本発明を適用してもよい。
【0041】
(9) 上述の説明では、トラックフレーム1aに固定される旋回輪インナレース11bの内面にギヤが刻設されていて、このギヤと、旋回モータ25の出力軸に設けられたギヤとが噛合するように構成しているが、本発明はこれに限定されない。たとえば、旋回フレーム3に旋回輪インナレース11bを固定し、トラックフレーム1aに旋回輪アウタレース11aを固定するように構成してもよい。そして、旋回輪アウタレース11aの外周にギヤを刻設し、このギヤと、旋回モータ25の出力軸に設けられたギヤとが噛合するように構成してもよい。このように構成しても、上述した作用効果と同様の作用効果を奏する。
(10) 上述した各実施の形態および変形例は、それぞれ組み合わせてもよい。