(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
例えばチェーンソーブレード、ドライブリンク、ルーブルリンク、チェーンソーガイドバーなどのチェーンソー部品には、耐摩耗性および疲労特性などが求められるため、オーステンパやマルテンパあるいは焼入焼戻しなどの調質熱処理が施された鋼板が用いられている。
【0003】
チェーンソーは、チェーンソーブレード、ドライブリンクおよびルーブルリンクをピンと組み合わせて構成され、周速数十m/sにて回転して、チェーンソーブレードにて木材を切断する。
【0004】
このチェーンソーブレードは、打抜き、曲げ加工後にグラインダなどで刃先角度を数十度とした刃であり、木材と刃先との衝撃時の折損を防止するために、強度レベルを低下させ耐摩耗性および疲労特性などの耐久性を犠牲にしているのが現状である。
【0005】
そして、使用とともに摩耗したチェーンソーブレードは、リューター(登録商標)ややすりなどの工具を用いて目立てを行い、刃の切れ味を再生させている。
【0006】
したがって、チェーンソーブレードには、目立てなどのメンテナンス面を考慮して、切れ味が持続する永切れ性が求められている。
【0007】
また、チェーンソーブレードに比べると摩耗量が少ないものの、ドライブリンク、ルーブルリンクおよびチェーンソーガイドバーなどの他のチェーンソー部品についても、使用とともに木材などとの擦れによって摩耗する。
【0008】
チェーンソー部品の耐久性に関して、特許文献1には、Ni含有量を適正範囲にすることで、低温靭性を向上させた鋼組成物およびその製造方法が示されている。そして、低温靭性が良好であるため、華氏0度以下の寒冷地での熱処理や打抜きなどでも適用可能である。
【0009】
また、特許文献2ないし特許文献4には、ベニヤレースナイフ、シャー刃、鋸刃およびカンナ刃などに用いられる木工用工具の使用の際に想定されるチッピングの抑制や靭性の向上に関する技術が示されている。
【0010】
さらに、特許文献5には、ベニヤレースナイフに用いる耐衝撃工具鋼に関して、成分バランスを規定することにより、耐摩耗性および耐衝撃性を向上するとともに、研削の際の刃表面の研磨割れを抑制する技術が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施の形態の構成について詳細に説明する。なお、各元素の含有量は、特に記載しない限り質量%とする。
【0025】
チェーンソー部品用素材鋼板は、0.50%以上0.90%以下のC(炭素)、0.70%以下のSi(ケイ素)、0.30%以上1.20%以下のMn(マンガン)、0.02%以下のP(リン)、0.02%以下のS(硫黄)、1.00%以下のCr(クロム)、0.10%以上0.50%以下のNb(ニオブ)を含有し、残部がFe(鉄)および不可避的不純物からなる。
【0026】
また、必要に応じて、0.01%以上0.50%以下のTi(チタン)、0.2%以上2.0%以下のNi(ニッケル)、0%以上0.005%以下のB(ホウ素)、0%以上0.50%以下のMo(モリブデン)、0%以上0.50%以下のV(バナジウム)を含有することが好ましい。
【0027】
Cは、鋼板の強度の向上に必要な元素であり、チェーンソー部品に必要な強度と耐摩耗性を得るには含有量を0.50%以上とする必要がある。しかし、Cの含有量が0.90%を超えると、粗大な未溶解炭化物が多くなり、靭性の劣化要因となってしまう。したがって、Cの含有量は、0.50%以上0.90%以下とした。
【0028】
Siは、製鋼段階で脱酸剤として添加されるが、無添加でも脱酸不良は生じない。また、Siの含有量が0.70%を超えると、調質後の靭性や素材での加工性が劣化してしまい好ましくない。したがって、Siの含有量は、0.70%以下(無添加を含む。)とし、好ましくは0.50%以下である。
【0029】
Mnは、焼入性向上に有効な元素であり、含有量が0.30%未満では焼入性を十分に向上できない。しかし、Mnの含有量が1.20%を超えると、硬質化を招き、製造性や靭性を損なう原因となる。したがって、Mnの含有量は、0.30%以上1.20%以下とした。
【0030】
PおよびSは、どちらも靭性や疲労特性に悪影響を及ぼすので、できるだけ含有量が少ないほうが好ましい。したがって、Pの含有量およびSの含有量は、いずれも0.02%以下(無添加を含む。)とした。
【0031】
Crは、鋼の焼入性を向上させる作用や鋼板の強度を向上させる作用などを併せ持つ元素である。しかし、Crは、1.00%を超えて多量に含有させると、焼入処理の加熱保持においてセメンタイトの溶体化を妨げるという悪影響を及ぼす場合があり、焼入処理の際の未溶解セメンタイト量を増大させる要因となりうる。したがって、Crの含有量は1.00%以下とした。
【0032】
Nbは、鋳造後の冷却過程にて鋼中に非常に硬質な炭化物であるNb含有炭化物を形成し、耐摩耗性、特に耐アブレシブ摩耗性の向上に寄与する。また、Nbは、焼入の際の結晶粒を微細化させて、靭性の向上に寄与する。Nbによるこれら各作用を奏するには、Nbの含有量を0.10%以上とする必要がある。しかし、Nbは、0.50%を超えて多量に含有させると、Nb含有炭化物が過剰に生成し、このNb含有炭化物が破壊の起点および亀裂伝播経路となり、靭性劣化や疲労特性への悪影響が懸念される。したがって、Nbの含有量は0.10%以上0.50%以下とした。
【0033】
Tiは、Nbと同様に鋳造後の鋼中に非常に硬質な炭化物であるTi含有炭化物を形成し、耐摩耗性に寄与する。また、熱間圧延の際などに再固溶し、熱間圧延中または冷却中に析出したTiCは焼入の際に結晶粒を微細化し、靭性の向上に寄与する。さらに、TiとNとの結合力が強いため、Bを添加した場合にBNの生成を防止し、Bの焼入性向上作用を引き出すうえで有効である。そのため、必要に応じてTiを添加することが好ましく、Tiによる上記各作用を奏するには、Tiの含有量を0.01%以上とすると効果的である。しかし、Tiの含有量が0.50%を超えると、Ti含有炭化物が鋼板中に多量に存在して靭性劣化を招きやすい。したがって、Tiを含有させる場合には、Tiの含有量を0.01%以上0.50%以下とすることが好ましい。
【0034】
Niは、焼入性および低温靭性の向上に有効な元素であり、必要に応じて添加することが好ましい。Niによる焼入性向上作用および低温靭性向上作用を奏するには、Niの含有量を0.2%以上にすると効果的である。しかし、Niの過剰添加は経済性を損ねる要因となるため、経済性を考慮すると含有量を2.0%以下とすることが好ましい。したがって、Niを含有させる場合には、Niの含有量は、0.2%以上2.0%以下とすることが好ましい。
【0035】
Bは、焼入性の向上に有効な元素であり、必要に応じて添加することが好ましい。Bによる焼入性向上作用を十分に奏するには、Bの含有量を0.0003%以上にすると効果的である。なお、Bによる焼入性向上作用は、Bの含有量が0.005%にて飽和する。したがって、Bを含有させる場合には、Bの含有量を0.0003%以上0.005%以下とすることが好ましい。
【0036】
MoおよびVは、いずれも靭性向上に有効な元素であり、必要に応じて添加することが好ましい。Moによる靭性向上作用を奏するにはMoの含有量を0.10%以上とすると効果的であり、Vによる靭性向上作用を奏するにはVの含有量を0.10%以上とすると効果的である。しかし、MoおよびVは、比較的高価な元素であり、過剰な添加はコストの増大を招くため、MoおよびVの少なくとも1種を含有させる場合には、Moの含有量およびVの含有量をそれぞれ0.5%以下とすることが好ましい。したがって、Moを含有させる場合には、Moの含有量を0.10%以上0.50%以下とすることが好ましく、Vを含有させる場合には、Vの含有量を0.10%以上0.50
%以下とすることが好ましい。
【0037】
ここで、チェーンソー部品用素材鋼板の耐久性においては、耐摩耗性が最も重要な因子である。しかしながら、摩耗は非常に複雑な機構であり、摩耗の相手材の材質、潤滑、速度および負荷荷重などの使用する環境に沿った摩耗形態を把握する必要がある。
【0038】
例えば、草刈刃や芝刈刃などの園芸機械刃物では、鋼材は、草との接触が摩耗の主要因ではなく、高速回転中の土砂との接触により鋼材が激しく削られる、いわゆるガウジング摩耗が生じている。また、産業機械や運搬機械などの建設、土木および鉱山の分野で使用される、パワーショベルやブルドーザの建設車両のアタッチメントの摩耗も同様に土砂との接触が原因である。
【0039】
チェーンソー部品の摩耗は、木材との接触による摩耗であり、上記園芸機械刃物や建設車両のアタッチメントの摩耗とは摩耗形態が大きく異なる。
【0040】
チェーンソー部品の摩耗形態が複雑であることから、摩耗する部位の摩耗原因が明らかにされないため、十分な耐摩耗性を確保できていないのが現状である。
【0041】
そこで、チェーンソー部品の材質、各部品との隙間、および部品の動きなどの構造を考慮して、摩耗損傷した部位や摩耗テストした対象物を多数観察し、ミクロ的な観点から調査した。
【0042】
その結果、摩耗した部位には、幅が1μm以下で、深さが0.2μm以下の研削されたような直線的な摩耗痕が観察され、相手材である木材中の夾雑物(主にSiO
2)との擦れによるアブレシブ摩耗が主要因であることが分かった。
【0043】
そして、上記組成のチェーンソー部品用素材鋼板にて、耐摩耗性を向上させてSiO
2によるアブレシブ摩耗を抑制するためには、鋼材中の硬質炭化物が有効である。
【0044】
硬質炭化物は、Nbを含有する硬質炭化物、あるいは、NbおよびTiの少なくとも一方を含有する硬質炭化物である。なお、Nbを含有する硬質炭化物は、例えばNbCなどを主成分とし、Tiを含有する硬質炭化物は、TiCなどを主成分とする。
【0045】
また、靭性を確保するには、硬質炭化物の粒子径および個数も重要である。具体的には、調質圧延後の部品形状に成形可能な最終的な鋼板であるチェーンソー部品用素材鋼板は、通常の金属組織観察を行う方法で湿式研磨した任意の断面上において、粒子径0.5μm以上の硬質炭化物が、3000個/mm
2以上9000個/mm
2以下の密度でマトリックス中に分散した金属組織であると、耐摩耗性が向上するとともに、靭性を損なう弊害を回避できる。
【0046】
鋼中に含有される析出粒子が硬質炭化物に該当するか否かは、EDXなどによる微視的分析によって確認できる。また、このように確認した硬質炭化物について、それぞれの面積を測定して同じ面積を有する真円の直径を算出し、この直径を硬質炭化物の粒子径とする。
【0047】
鋼中の硬質炭化物は、粒子径0.5μm以上のものが3000個/mm
2未満であると、硬質炭化物による耐摩耗性向上作用が不十分で、チェーンソー部品用素材鋼板として十分な耐摩耗性を確保できない可能性がある。また、粒子径0.5μm以上の硬質炭化物が9000個/mm
2より多いと、これら硬質炭化物が破壊の起点および亀裂伝播経路となって靭性劣化の原因となってしまう。したがって、チェーンソー部品用素材鋼板は、粒子径0.5μm以上の硬質炭化物が、3000個/mm
2以上9000個/mm
2以下の密度でマトリックス中に存在するものとした。
【0048】
上記チェーンソー部品用素材鋼板は、鋳造工程、熱間圧延および調質熱処理工程を経て製造される。
【0049】
鋳造工程では、冷却過程において鋼中に硬質炭化物を析出させる。したがって、C、NbおよびTiの含有量や、冷却速度を調整することにより、硬質炭化物の粒子径および密度を調整する。
【0050】
熱間圧延工程は、従来の一般的な方法が適用される。例えば、熱間圧延は、加熱抽出温度1200℃以上1300℃以下、仕上圧延温度800℃以上900℃以下、巻取温度550℃以上630℃以下の条件を適用できる。
【0051】
熱延板の焼鈍は、600℃以上Ac
1点(オーステナイトの存在下限である平衡温度)未満の温度域にて例えば10時間以上50時間以下の時間で加熱保持する条件を適用できる。
【0052】
さらに、必要に応じて、冷間圧延し、600℃以上Ac
1点未満の温度域にて例えば10時間以上50時間以下の時間で加熱保持する仕上焼鈍に供すると好ましい。
【0053】
このようにして、焼入焼戻しあるいはマルテンパやオーステンパなどの調質熱処理に供するための鋼板が得られる。
【0054】
なお、チェーンソー部品用素材鋼板の焼鈍組織におけるマトリックスはフェライト相である。調質熱処理後の部品のマトリックスは、焼入・焼戻しおよびマルテンパを施した場合にはマルテンサイト相であり、オーステンパを施した場合にはベイナイト相である。
【0055】
次に、上記実施の形態の効果を説明する。
【0056】
上記チェーンソー部品用素材鋼板によれば、0.50%以上0.90%以下のC、0.70%以下のSi、0.30%以上1.20%以下のMn、0.02%以下のP、0.02%以下のS、1.00%以下のCr、0.10%以上0.50%以下のNbを含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるため、耐久性が良好である。
【0057】
特に、マトリックス中に、Nbを含有する粒子径0.5μm以上の硬質炭化物が3000個/mm
2以上9000個/mm
2以下の密度で存在することにより、硬質炭化物による耐摩耗性向上作用を確保でき、硬質炭化物の過剰生成による靭性の劣化を防止できるとともに、疲労特性を向上できる。そのため、素材の加工性、調質後の耐摩耗性、耐衝撃性および疲労特性に優れ、チェーンソー部品用として耐久性が良好である。
【0058】
また、チェーンソー部品用素材鋼板は、必要に応じて0.01%以上0.50%以下のTiを含有させ、マトリックス中に、Tiを含有する粒子径0.5μm以上の硬質炭化物が3000個/mm
2以上9000個/mm
2以下の密度で存在することにより、耐摩耗性を向上できるとともに、チェーンソー部品としての十分な靭性を確保できる。
【0059】
さらに、チェーンソー部品用素材鋼板は、必要に応じてBを含有させることにより、焼入性を向上できる。なお、Bを含有させる場合には、BとNとの結合によるBNの生成をTiによって防止でき、Bによる焼入性向上作用を奏しやすい。
【0060】
また、チェーンソー部品用素材鋼板は、必要に応じてMo、VおよびNiの少なくとも1種を含有させることにより、靭性や焼入性や低温靭性を向上できる。
【0061】
そして、上記チェーンソー部品用素材鋼板にて製造されたチェーンソー部品は、耐摩耗性が良好であるためチェーンソー部品における摩耗の原因であるSiO
2によるアブレシブ摩耗が発生しにくいだけでなく、靭性も良好であり、また、耐衝撃性および疲労特性が良好であるため、各チェーンソー部品を組み付けて構成したチェーンソーの耐久性が良好である。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の実施例および比較例について説明する。
【0063】
表1には、チェーンソー部品の母材となる鋼板の化学成分を示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示す化学組成の30kg鋼塊(120mm角、長さ310mm)を溶製した。得られた鋳片を1250℃×1時間の加熱に供し、熱間鍛造にて30mmの厚みとし、この鍛造材を摩耗試験片とした。
【0066】
また、その他の試験片については、鍛造材を1250℃×1時間の加熱に供し、仕上圧延温度850℃、巻取温度590℃の条件にて熱間圧延を行い、板厚3.0mmの熱延鋼板を得た。
【0067】
次いで、熱延鋼板を710℃で18時間の軟化焼鈍を施し、冷間圧延にて板厚1.5mmの素材鋼板を得た。さらに、690℃で15時間の軟化焼鈍を行い、硬さを200〜240HVに調質した。
【0068】
得られた素材鋼板は、曲げ試験を実施するとともに、硬質炭化物の粒径を測定した。
【0069】
また、素材鋼板を調質した後の各供試材について、摩耗試験、引張疲労試験および衝撃試験を行った。各試験の試験方法は、以下の通りである。
【0070】
曲げ試験では、素材の曲げ加工性に関するもので、圧延方向と直角方向に幅30mm×長さ180mmの試験片を用いて、JIS Z 2248の規定に準拠し、
図1に示すように90°Vブロック曲げ試験を行った。試験片を規定の形状に曲げ、先端曲げ半径を測定し、曲げ試験後の試験片表面を目視で観察した。また、曲げ試験後の本実施例の各試験片において、n数3枚にて割れが発生しない先端の限界曲げ半径を求めた。
【0071】
そして、曲げ加工性は、曲げ試験後に割れが発生せず、限界曲げ半径が1mm以下のものを合格と評価した。
【0072】
硬質炭化物の粒径の測定は、焼入処理に供する前の素材鋼板において行った。焼入処理前の素材鋼板について、圧延方向および板厚方向に平行なL断面を鏡面研磨した後、村上試薬(赤血塩のアルカリ溶液)にてエッチングした表面を、共焦点レーザー顕微鏡にて観察した。また、観察して得られた画像を処理して、視野面積中に存在するNbおよびTiを含有する炭化物数量を測定し、その存在密度(個/mm
2)を算出した。なお、硬質炭化物は、観察面積90μm×60μmを1視野として、20視野中に存在する粒子径0.5μm以上の粒子をカウントし、このカウント数に基づいて1mm
2あたりの数に換算した。また、粒径は、粒子面積の円相当径の値であり、粒径0.5μm以上の粒子を画像処理にてピックアップした。
【0073】
調質熱処理は、素材鋼板について、ソルトバス炉を用いてオーステンパあるいはマルテンパを行った。比較である鋼種O以外は、いずれも調質硬さを55HRCに相当する各調質材を得た。各調質材の硬さは、ロックウェル硬さ計にて±0.5HRCの範囲内であった。なお、熱処理条件は、850℃で10分加熱し、T℃で60分加熱した後、空冷する条件とした。
【0074】
摩耗試験は、小型木工用旋盤機を用いた。各供試材の鍛造材から、厚さ8mm、幅10mm、長さ55mmの短冊状の試験片を切り出し、
図2(a)に示すように、長手方向先端部に先端角度が45°の刃部12を設けた切削バイト11を作製した。また、摩耗試験条件は、
図2(b)にて矢印で示す方向を切削バイト11の移動方向とし、木材13の回転数を500rpm、切削深さを0.2mm、切削バイト11の移動速度を600mm/分とし、切削回数を1万回とした。その後、
図2(c)に示す部位にて刃部12の先端後退量を測定した。
【0075】
そして、耐摩耗性は、刃部12の先端後退量が10μm未満のものを合格と評価した。なお、被削材が木材の場合の摩耗においては、一般的に被削材のシリカ含有率が高いほど摩耗しやすいと言われている。そこで、この摩耗試験では、被削材として、気乾比重が1.0以下で、含水率が12%以上16%以下で、シリカ(SiO
2)含有率が0.50%±0.1%であるシリカ含有率の高いマンガシノロ(東南アジア産)を用いた。
【0076】
引張疲労試験は、各供試材から
図3に示す形状の疲労試験片(板厚1.5mm、長手方向が圧延方向に一致。)を作製し、油圧サーボ型疲労試験機を用いた。また、応力比がσmin/σmax=0.1で、周波数が23Hzにて付与応力400N/mm
2から900N/mm
2までの50N/mm
2ピッチで疲労試験を行った。疲労限近傍では、各応力段階で10本ずつの試験片を用い、繰り返し数10
7回までに破壊しない試験片が6本以上となった最大の付与応力を、その供試材の疲労限とした。また、引張疲労試験環境は、26℃±5℃にて相対湿度50%以下とした。なお、チェーンソーの破損は、人体への重大災害に繋がることから、所定の応力での疲労特性を確保する必要があるため、疲労限を測定した。
【0077】
そして、疲労特性は、疲労限が600MPa以上のものを合格と評価した。
【0078】
衝撃試験では、
図4に示すように、長手方向が圧延方向と直角になるように鋼を採取し、長手方向の長さが55mmで、幅が10mmで、板厚が1.5mmの試験片21を用いた。また、この試験片21には、長手方向中心部に2mmのUノッチ22を設けた。このような試験片21について、シャルピー衝撃試験を常温にて実施し、矢印にて示す衝撃方向による衝撃値を求めた。また、延性−靭性遷移温度(DBTT)も求めた。
【0079】
そして、耐衝撃性は、衝撃値が50J/cm
2以上のものを合格と評価した。
【0080】
表2には、各鋼板について上記各試験の結果を示す。
【0081】
【表2】
【0082】
本発明例である鋼種A〜Fは、55HRC調質後の耐摩耗性において、いずれも刃部12の先端後退量が10μm未満である。また、いずれも疲労特性における疲労限が600MPa以上であり、衝撃値が50J/cm
2以上を維持しているとともに、延性−靭性遷移温度が−50℃以下であり、例えば寒冷地での使用も可能である。さらに、素材の90°Vブロック曲げ試験での限界曲げ半径が1mm以下であり、チェーンソー部品としての加工性が十分に確保されていた。
【0083】
一方、比較例である鋼種G,I,J,L,M,N,Pは、素材の曲げ加工において先端の先端曲げ半径を1mm以下にすると割れが発生していた。
【0084】
比較例である鋼種G,H,I,J,K,N,Pは、刃部12の先端後退量が10μm以上と大きく、刃先の摩耗が顕著である。
【0085】
比較例である鋼種G,H,I,J,K,L,M,N,Pは、疲労特性における疲労限が500〜550MPaで、衝撃値が40J/cm
2以下であるとともに、延性−靭性遷移温度が室温以上となっており、チェーンソー部品としての耐久性および安全性が懸念される。
【0086】
比較例である鋼種H,K,Oは、素材での曲げ加工性を確保しているものの、調質後の耐摩耗性、疲労特性および靭性が本実施例に比べて劣っている。
【0087】
なお、比較例である鋼種Oは、C含有量が0.42%と低く、Si、MnおよびCrも少量であるため、所望の熱処理では調質後の硬さが55HRCを確保できなかった。素材の曲げ加工性については良好であるが、摩耗試験、衝撃試験および疲労試験に供することができなかった。