特許第6181028号(P6181028)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6181028
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】加熱ヘッド
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/335 20060101AFI20170807BHJP
【FI】
   B41J2/335 101F
   B41J2/335 101B
   B41J2/335 101J
   B41J2/335 101G
   B41J2/335 101H
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-221915(P2014-221915)
(22)【出願日】2014年10月30日
(65)【公開番号】特開2016-87838(P2016-87838A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2016年6月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】514277570
【氏名又は名称】株式会社ヒットデバイス
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】砂田 重政
【審査官】 小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−005356(JP,A)
【文献】 特開平11−273836(JP,A)
【文献】 特開2010−208159(JP,A)
【文献】 特開2004−001565(JP,A)
【文献】 実開昭53−112432(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/335
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状のヘッド基板と、該ヘッド基板の一面に設けられる少なくとも一つの帯状の発熱抵抗体と、該発熱抵抗体に電圧を印加できるように設けられる一対の電極とを有し、前記ヘッド基板の前記発熱抵抗体が設けられていない一面が媒体との圧接面とされ、該一面に被覆層が被着され、前記被覆層が、前記ヘッド基板の前記一面の前記媒体の移動方向の長さより長く形成され、前記一面の端部で前記被覆層の端部が前記ヘッド基板の側に折り曲げられてなる加熱ヘッド。
【請求項2】
板状のヘッド基板と、該ヘッド基板の一面に設けられる少なくとも一つの帯状の発熱抵抗体と、該発熱抵抗体に電圧を印加できるように設けられる一対の電極と、前記発熱抵抗体上に設けられるサブ基板とを有し、前記サブ基板の前記発熱抵抗体と面する面とは異なる一面が媒体との圧接面とされ、該一面に被覆層が被着されてなる加熱ヘッド。
【請求項3】
板状のヘッド基板と、該ヘッド基板の一面に設けられる少なくとも一つの帯状の発熱抵抗体と、該発熱抵抗体に電圧を印加できるように設けられる一対の電極とを有し、前記ヘッド基板の前記発熱抵抗体が設けられていない一面が媒体との圧接面とされ、該一面に被覆層が被着され、前記被覆層が前記媒体の侵入方向と直角方向の長さで2以上の領域に分けられて異なる材料で形成されてなる加熱ヘッド。
【請求項4】
板状のヘッド基板と、該ヘッド基板の一面に設けられる少なくとも一つの帯状の発熱抵抗体と、該発熱抵抗体に電圧を印加できるように設けられる一対の電極とを有し、前記ヘッド基板の前記発熱抵抗体が設けられていない一面が媒体との圧接面とされ、該一面に被覆層が被着され、前記被覆層が、フッ素系樹脂被膜と金属シートを含む複数層で形成されてなる加熱ヘッド。
【請求項5】
前記被覆層の下側の前記ヘッド基板または前記サブ基板の前記一面に下地処理が施されている前記請求項1〜4のいずれか1項に記載の加熱ヘッド。
【請求項6】
前記被覆層が、前記ヘッド基板または前記サブ基板の前記一面の前記媒体の移動方向の長さより長く形成され、前記一面の端部で前記被覆層の端部が前記ヘッド基板または前記サブ基板の側に折り曲げられてなる請求項のいずれか1項に記載の加熱ヘッド。
【請求項7】
前記被覆層が、前記ヘッド基板または前記サブ基板の前記一面の前記媒体の移動方向の長さより短く形成され、前記被覆層の前記媒体の侵入側の端部がR面またはC面に形成されてなる請求項1〜のいずれか1項に記載の加熱ヘッド。
【請求項8】
前記被覆層が前記媒体の侵入方向と直角方向の長さで2以上の領域に分けられて異なる材料で形成されてなる請求項1、2または4記載の加熱ヘッド。
【請求項9】
前記被覆層が、ガラス粉末のコート層である請求項1〜のいずれか1項に記載の加熱ヘッド。
【請求項10】
前記被覆層が、フッ素系樹脂被膜と金属シートを含む複数層で形成されてなる請求項1〜3および5〜9のいずれか1項に記載の加熱ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感熱リライタブル媒体などへの記録の消去や書込み、媒体への転写や再転写、トナーの定着、加熱による接着、融着、変形加工、オーバーコート、書類のラミネート加工、シートの接着、インプリント加工(プラスティックなどの凹凸熱加工)などを行うために、媒体を加熱するための帯状の発熱抵抗体を有する加熱ヘッドに関する。さらに詳しくは、ヘッド基板上に形成した発熱抵抗体の形成面を直接圧接しないでその表面を保護しながら加熱できる加熱ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、たとえば紙、不織布、織布、塩化ビニール、ポリエチレンテレフタレートなどの合成樹脂、金属、ガラスなどからなるフィルム状、シート状、カード状などの支持体上に加熱により発色と消色を可逆的に繰り返し行える可逆性感熱記録層からなる記録部を設けた可逆性感熱記録媒体(リライタブルカード・リライタブルシート)など各種カードやオーバーコート、アンダーコート、ビニール袋の密閉加工など、幅広い分野で加熱ヘッドが使用されるようになってきている。
【0003】
このような媒体などを加熱する加熱ヘッドとしては、たとえば矩形状のアルミナなどのセラミックスからなるヘッド基板の一面に発熱抵抗体が帯状に設けられ、その両端に電圧を印加して発熱抵抗体を発熱させ、その上に前述の媒体を圧接しながら加熱することにより、記録や消去などが行われている。
【0004】
前述のように発熱抵抗体の表面上で媒体を圧接しながら搬送すると、発熱抵抗体と直接接触しているため熱伝導が速く、熱の無駄もないため好ましい。しかし、媒体が圧接されながらその表面を滑るため、発熱抵抗体の損傷が激しい。そのため、発熱抵抗体の表面にガラスコートなどをして発熱抵抗体を保護する保護膜が形成されている。しかしガラスコートも摩耗が激しく損傷が激しい。そのため、ヘッド基板の発熱抵抗体が設けられる面と反対面など、発熱抵抗体が設けられていない面を媒体との圧接面として加熱する加熱ヘッドが提案されている(たとえば特許文献1、2参照)。
【0005】
すなわち、図8に示されるように、ヘッド基板1の一面に発熱抵抗体2が形成され、断熱スペーサ6c、断熱板6および配線基板5を介してベース4に固定されることにより形成された加熱ヘッド10が形成されている。そして、そのヘッド基板1の発熱抵抗体2が形成されていない面、たとえば裏面側がプラテン32と対向して圧接されるようにセットされ、その間に媒体31が挿入され、プラテン32の回転により媒体31が加熱ヘッド10に圧接されながら搬送される。なお、プラテン32は、たとえばフッ素ゴムなどの耐熱性ゴムからなる表層32aと、その内側にシリコーンゴムやフッ素ゴムなどの断熱ゴムからなる内装32bと回転軸32cとで構成され、弾力性を有するように形成されている場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−208159号公報
【特許文献2】特開2011−016334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、加熱ヘッドを用いて媒体を加熱する場合、発熱抵抗体が設けられていない面を圧接面として用いることにより、発熱抵抗体は全く擦られることがないため、損傷することがなく、また、ヘッド基板として普通用いられるアルミナなどのセラミックスは硬度が大きく、媒体を圧接して媒体と擦られても、殆ど損傷することがなく、非常にヘッド基板の耐久性が向上する。しかしながら、媒体には、プラスティック製のカードや、紙や、ビニール袋を形成する樹脂フィルムなど種々の媒体があり、また、加熱目的も種々ある。たとえば、プラスティックや厚紙表面にワックス処理をしたカードなどの媒体表面に、ヘッド基板1の裏面を圧接しながら媒体を搬送させると、媒体に縦傷が入り、商品価値を低下させるという問題がある。また、媒体を部分的に加熱したい場合や、1つの媒体で領域毎に異なる加熱条件を適用したい場合など多様な媒体の加熱に適用することができないという問題がある。
【0008】
このように、多様な媒体の登場により、より適した加熱条件も様々であり、これら加熱条件に応じた加熱ヘッドの開発が急がれる。つまり、媒体の材質、媒体の幅方向において、部分的に加熱条件を異ならせて加熱したい場合、プラテンの材質、媒体の移動速度(加熱速度)、接触加熱時の圧力、非接触加熱する場合など、媒体や周辺部材の仕様、加熱条件によって、加熱ヘッドの加熱特性も多様化させる必要が生じてきており、個々の媒体や加熱装置により適した加熱ヘッドが望まれるようになってきている。しかしながら、従来の加熱ヘッドでは、多様な加熱条件に合うように調整することはできず、発熱抵抗体等をその条件に応じて作り替える必要があり、不効率で高コスト化を招くことになる。
【0009】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたもので、媒体と接触させて加熱する加熱ヘッドの媒体との圧接面を発熱抵抗体が形成されていない面として、その圧接面に、媒体および周辺部材の材質、仕様などとの関係で、加熱する媒体により適した加熱条件となるように被覆材が設けられた加熱ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、媒体の種類やプラテンの種類、加熱の仕方などによって加熱条件が異なるところ、これら多様な加熱条件により適した加熱ヘッドを効率よく実現するべく、鋭意研究を重ねた結果、発熱抵抗体を形成していないヘッド基板の一面を媒体の加熱のための加熱面(圧接面)とし、この一面に表面加工(以下、研磨により鏡面や粗面にしたり、切削したりする表面加工、薬品洗浄やオーバーコートなどの表面処理などを含めて「表面加工」という。)を施すことで、加熱特性を多様に調整、変更することができ、多様な加熱条件に適した加熱ヘッドを効率的に提供することができることを見出した。
【0011】
すなわち、ヘッド基板の発熱抵抗体を形成している面を媒体への加熱面とする場合には、発熱抵抗体の存在により加工または処理条件が大きく制限されるが、本発明のように、発熱抵抗体が形成されていないヘッド基板面に対して被覆層が形成されているときは、たとえば、被覆層の形成加工が容易で、しかも有機材料、無機材料、絶縁材料、導電材料を問わず様々なオーバーコート材を用いることもでき、加熱特性を多様にコントロールすることができる。より具体的には、たとえば前述の傷のつきやすい媒体を加熱する場合には、セラミックスのヘッド基板は硬くその裏面などではアルミナ粒子の凹凸があり、圧接されると傷つきやすい。そこで圧接面である一面に弾力性のある樹脂層と、低摩擦性の金属シートなどでオーバーコートすることで、媒体が傷つくことを軽減することができる。このように、オーバーコートの物性を異ならせたり、その厚みや表面状態を異ならせたりすることで、熱伝導性、保温性、離形性(剥離性)、摩擦性、弾力性、平滑性、潤滑性、熱応答性、温度反応性、熱容量特性、異物付着防止性、低摩擦性、耐摩耗性、密着性、熱容量、耐熱性などの様々な特性をコントロールすることができるようになる。
【0012】
すなわち、本発明の加熱ヘッドは、板状のヘッド基板と、該ヘッド基板の一面に設けられる少なくとも一つの帯状の発熱抵抗体と、該発熱抵抗体に電圧を印加できるように設けられる一対の電極とを有し、前記ヘッド基板の前記発熱抵抗体が設けられていない一面が媒体との圧接面とされ、該一面に被覆層が被着され、前記被覆層が、前記ヘッド基板の前記一面の前記媒体の移動方向の長さより長く形成され、前記一面の端部で前記被覆層の端部が前記ヘッド基板の側に折り曲げられている。
【0013】
本発明において、被着とは、めっきや蒸着などにより被膜が形成されること、コート剤の塗布乾燥などにより表面に被膜が形成されること、板状体やシートが接着剤などにより接着されること、ヘッド基板などの一面に密着して被覆層が形成されることを意味する。また、表面加工処理とは、たとえばヘッド基板がセラミックス基板である場合、圧接面であるセラミックス面を、各種研磨、ラッピング、サンドブラスター、切削などにより鏡面あるいは粗面に加工したり、凹凸を形成したり、セラミックス基板のエッジにおいてはエッジをより立てたり、C面、アール面に面取りしたりするなどの下地処理、およびセラミックス面に有機材料、無機材料、絶縁材料、導電材料などの各種材料をコーティングしたり、各種薬剤で洗浄するなどの表面処理を包含する広義のものである。本発明においては、これら下地処理と表面処理を組み合わせて実施するようにしてもよい。
【0014】
オーバーコートに用いる有機材料としては、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系樹脂、ナイロンなどのポリアミド系樹脂、ポリエチレン(PE)などのオレフィン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルサルフォン(PES)などのエンジニアリングプラスチック、シリコーンなど、公知の樹脂材料を広く挙げることができ、これら有機材料の一種または二種以上を組み合わせて用いることができ、フィラーなど各種添加物や不純物を加えて用いることもできる。また、これら樹脂材料は、金属粒子や金属粉などの導電材料を含有させることによって、より多様な加熱特性をもった加熱ヘッドを提供することができる。
【0015】
樹脂材料をセラミックス面にオーバーコートする方法としては、たとえば、塗布や吹き付けにより付着させ、乾燥し、必要に応じて焼付することで行うことができる。より具体的には、フッ素系樹脂をオーバーコートする場合には、たとえば、セラミックス面に下地材としてPEEKを吹付け、乾燥し、焼付けた後に、PTFEを同様に吹付け、乾燥し、焼付けることでフッ素系樹脂のオーバーコートを行うことができる。オーバーコートの膜厚としては、所望の加熱条件に応じて適宜決定すればよく、たとえば、数μm〜数十μm、場合によってはそれ以上とすることができる。また、樹脂フィルム、樹脂シート、樹脂板を、必要に応じて適当な接着材を用いて、被着してオーバーコート層を形成するようにしてもよい。
【0016】
樹脂などの有機材料をオーバーコート材として用いたときには、全般的に低摩擦性、低密着性、高離形性、高弾力性などにコントロールすることができる。
【0017】
無機材料としては、たとえば、ガラス、グラファイト系炭素、二硫化モリブデン、チタン酸バリウム、酸化ルテニウム、アルマイトなどの金属酸化物、アルミニウム、アルミニウム系合金、銅、銅系合金、ステンレス(SUS)、銀、ニッケル、クロムなどの金属類、合金類など公知のものを挙げることができ、これらの一種または二種以上を用いることができる。これら無機材料は、有機材料と組み合わせて用いることもできる。金属類などの導電材料は、樹脂材料やガラスなどの絶縁材料とは異なる物性を有するものが多くあり、このような導電材料を用いてオーバーコート層を設けることによって、加熱ヘッドの加熱特性をより多様に変化させることができる。
【0018】
ガラス類は、たとえば、塗布、焼成してオーバーコートを行うことができ、金属類、合金類は、たとえば、板状、シート状、フィルム状のものを適当な粘着材、接着材、導電性接着材などを介して被着したり、蒸着したり、無電解メッキ、電気メッキしたり、またはペースト状にしたものを印刷、乾燥、焼成するようにしてオーバーコートを形成することができる。また、ガラス粉末、金属粉末などのオーバーコート材の粉末をセラミックス面に擦り付けるようにコーティングして、セラミックス面の凹凸を平坦にするようにしてもよい。この場合のオーバーコートの膜厚も、所望の加熱条件に応じて適宜決定すればよく、たとえば、数μm〜数百μm、場合によってはそれ以上とすることができる。
【0019】
本発明において、圧接面(セラミックス面)にオーバーコートを設ける場合には、下地処理を行い、セラミックス表面を鏡面または粗面にした後にオーバーコート層を形成するようにしてもよく、こうすることでオーバーコート層の密着性を向上することができる。また、圧接面の端部のエッジをより急峻に立てたり、面取りをしたりした後にオーバーコート層を形成してもよく、面取りした場合には、たとえば媒体をプラテンとの間にスムースに導入でき、良好に媒体を圧接して移動させることができる。さらに、金属、合金などの薄板をオーバーコートとしてセラミックス面に被着する場合には、セラミックス面のエッジから下方へ突出するように延在させておくことで、媒体をプラテンとの間にスムースに導入することができる。
【0020】
また、たとえば、樹脂層と金属の薄板(それぞれ100μm程度の厚さ)との積層加工により表面加工することもできる。
【0021】
これら無機材料をオーバーコート材として用いたときには、全般的に高平滑性、低摩擦性、高熱伝導性などにコントロールすることができる。
【0022】
さらに、本発明において、圧接面の媒体の進行方向と直角方向に部分的に異なる物性のオーバーコートを施しても構わない。例えば、右側に樹脂層からなるオーバーコートを形成し、左側に金属層からなるオーバーコートを形成し、あるいは中央部に樹脂層からなるオーバーコートを形成し、両端部に金属層からなるオーバーコートを形成することで、加熱ヘッドの領域毎で異なる加熱条件とでき、様々なパターンの加熱条件を1つの加熱ヘッドで実現することができる。
【0023】
本発明は、セラミックス基板(ヘッド基板)の発熱抵抗体が形成された面に、セラミックスの薄板(サブ基板)をガラスまたは樹脂の粘着材で貼着し、このサブ基板の被着した面以外の面を圧接面とし、このサブ基板に表面加工を施した加熱ヘッドをも包含する。
【0024】
サブ基板の厚さとしては、特に限定されることなく、たとえば、ヘッド基板と同程度、もしくはそれ以下とするのが好ましい。
【0025】
この場合、表面加工により予め各種加熱条件に調整したサブ基板を用意しておけば、発熱抵抗体を形成した共通のヘッド基板に貼着するだけで、製造を容易に効率的に行うことができる。
【0026】
以下、本発明の一具体例についてより詳細に説明する。媒体によっては、脂質や粘着物、ゴミ、埃などの異物が加熱ヘッド側に転写することがある。このような異物が加熱ヘッドに付着すると、つぎに清浄な媒体が挿入された場合に、その清浄な媒体に異物が再転写したり、異物が付着した部分の温度が所望の温度からズレて正常な加熱が行えなくなったりする場合がある。そのため、そのような媒体を加熱する加熱ヘッドには、できるだけ異物が付着しないことが好ましい。このような観点からは、加熱ヘッドの加熱面にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系樹脂などの樹脂フィルムを貼り付けるか、コートして被膜にすることが好ましい。また、樹脂のオーバーコートをすることで、加熱面の表面をセラミックス面に比して柔らかくするとともに潤滑性を向上でき、媒体表面に傷がつくことを軽減することができる。すなわち、従来は、加熱面は耐摩耗性が必要で、硬度の大きいものという考えであったが、本発明者らの研究の結果、媒体によってはこのような樹脂オーバーコートを被覆するのが好ましい場合もある。
【0027】
また、熱伝導性の低下を軽減し、表面の平滑性、耐摩耗性などが要求される場合には、金属または合金をオーバーコートに用いるのが好ましい。なお、金属層の膜厚をヘッド基板の厚みに対して薄くしておけば、ヘッド基板との熱膨張の差があっても、殆ど影響を受けない。
【0028】
なお、本発明の加熱ヘッドを適用できる媒体としては、たとえば、紙(厚紙を含む)、不織布、織布、塩化ビニール、ポリエチレンテレフタレートなどの合成樹脂、金属、ガラスなどからなるフィルム状、シート状、カード状、板状などの材料、その材料からなる支持体上に加熱により発色と消色を可逆的に繰り返し行える可逆性感熱記録層からなる記録部が設けられた可逆性感熱記録媒体(リライタブルカード・リライタブルシート)や、転写、再転写、トナー定着などに用いる記録紙、ベースフィルムや、加熱による接着、融着、変形加工、オーバーコート、アンダーコート、ラミネート加工、インプリント加工などを行う上記材料などを挙げることができる。また、本発明の加熱ヘッドの加熱面は、記録媒体などの媒体を加熱するための面であって、媒体に接触(圧接)させて加熱したり、非接触により加熱したりできる。
【0029】
本発明において、ヘッド基板の発熱抵抗体が設けられない面に表面加工処理を施す場合、ヘッド基板の発熱抵抗体が設けられた面上に、該発熱抵抗体を覆うようにセラミックス基板を、たとえばガラスペーストなどの貼着材で貼着するようにしてもよい。このようにすることで、発熱抵抗体を保護でき、電気配線などを取り付けたり、加熱装置に組み込んだりするときの取り扱いを容易にすることができるとともに、熱容量を大きくすることができる。
【0030】
本発明において、前記表面加工処理は、絶縁材料および導電材料、あるいは有機材料および無機材料の1種または2種以上のオーバーコート層を形成するようにされる。このとき、オーバーコート層が、該オーバーコート層が形成される面から突出するように延在するように設けてもよいし、オーバーコート層が形成される面に隣接する面にまで延在するように形成してもよい。
【0031】
また、本発明において、ヘッド基板の発熱抵抗体が設けられない面、またはサブ基板の外面にオーバーコート層を設ける場合、ヘッド基板の発熱抵抗体が設けられない面、またはサブ基板の外面とオーバーコート層との間に、空気、各種ガスなどの気体層、各種水溶液、各種油などの液体層を介在させるようにしてもよい。
【0032】
本発明において、表面加工処理は、ヘッド基板またはサブ基板の一面に被覆層を被着することおよびその被覆層の下面のヘッド基板またはサブ基板の一面に加工処理を行う下地処理を含む。この表面加工は、加熱する媒体、加熱装置などの仕様などに応じ、熱伝導性、保温性、離形性、摩擦性、弾力性、平滑性、潤滑性、熱応答性、温度反応性、熱容量特性、異物付着防止性、低摩擦性、耐摩耗性、密着性、熱容量、耐熱性などを考慮し、所望の加熱条件となるように、オーバーコート材の種類、その組み合わせ、厚み、形成箇所、形成領域(範囲)を選択して行うことができる。
【0033】
前記表面加工処理として、たとえば前記ヘッド基板またはサブ基板の表面(加熱面)の凹凸を平坦にして平滑性を向上させるために金属粉末またはガラス粉末をコーティングしてもよい。
【0034】
前記表面加工処理として、たとえば前記ヘッド基板またはサブ基板の表面に、ガラスコート層を被着してもよい。
【0035】
前記表面加工処理として、たとえば前記ヘッド基板またはサブ基板の表面に、フッ素系樹脂被膜を形成するようにしてもよい。
【0036】
前記表面加工処理として、たとえば前記ヘッド基板またはサブ基板の表面に、金属シートを被着してもよい。
【0037】
前記表面加工処理として、たとえば前記ヘッド基板またはサブ基板の表面に、金属シートとフッ素系樹脂被膜がこの順または逆に被着、形成するようにしてもよい。
【0038】
前記被覆層が、前記ヘッド基板または前記サブ基板の前記一面の前記媒体の移動方向の長さより長く形成され、前記一面の端部で前記被覆層の端部が前記ヘッド基板または前記サブ基板の側に折り曲げられていることが好ましい。媒体を加熱ヘッドとプラテンの間にスムースに移動しやすい。
【0039】
前記被覆層が、前記ヘッド基板または前記サブ基板の前記一面の前記媒体の移動方向の長さより短く形成され、前記被覆層の前記媒体の侵入側の端部がR面またはC面に形成されていることが好ましい。媒体の挿入が容易になるからである。
【0040】
前記ヘッド基板またはサブ基板の前記一面に施される下地処理が、前記一面の前記媒体の侵入側の端部に形成されるR面またはC面に形成されてもよい。
【0041】
前記被覆層が前記媒体の侵入方向と直角方向の長さで2以上の領域に分けられて異なる材料で形成されていてもよい。媒体の領域に応じて異なる加熱をすることができ、多様の加熱をすることができる。
【0042】
前記被覆層の下の下地処理として、たとえば、鏡面、粗面、凹凸形成、面取りなどの下地処理を施すようにしてもよい。
【0043】
前記被覆層が、異なる2種類以上のオーバーコート層の領域を形成するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0044】
本発明による加熱ヘッドによれば、媒体との圧接面を発熱抵抗体が設けられていない面とし、その面に被覆層が形成されているので、表面加工処理の仕方を変えることで、多様な加熱特性の加熱ヘッドを生み出すことができ、媒体の仕様(種類)、または加熱装置の仕様に応じて要求される加熱特性により適合した加熱ヘッドを提供することができる。すなわち、従来の加熱ヘッドとして、ヘッド基板上に形成された発熱抵抗体の表面に保護膜が形成され、この面を圧接面に用いるものがあるが、保護膜として用いられる材料が限られており、加熱ヘッドの加熱特性を媒体や加熱装置の仕様に合わせて変える場合には、発熱抵抗体の種類(成分)や厚みなどを変え、抵抗値を調整するしかなく、熱伝導性、保温性、離形性、摩擦性、弾力性、平滑性、潤滑性、熱応答性、温度反応性、熱容量特性、異物付着防止性、低摩擦性、耐摩耗性、密着性、熱容量、耐熱性などを十分にコントロールすることはできなかった。本発明によれば、発熱抵抗体が設けられていないヘッド基板の面またはサブ基板の面に表面加工処理を施すようにしているので、多様な下地処理やオーバーコート材を適用することができ、表面加工処理の仕方を変えるだけで、多様な加熱特性、加熱条件を作り出すことができ、媒体や加熱装置により適した加熱ヘッドを提供することができ、より効率的な加熱処理を実現できたり、多様なユーザーの要求に応えたりすることができる。
【0045】
また、加熱ヘッドの発熱抵抗体の表面にヘッド基板と同じ材料のセラミックスからなるサブ基板が貼り付けられ、そのサブ基板の貼り付けられた面以外の面を媒体との圧接面として、その圧接面に表面加工処理が施される構造にすることによっても、予めサブ基板の状態で表面加工処理が行えるので、種々の目的に応じた表面加工処理のサブ基板を形成しておけば、加熱ヘッドが形成された時点で、ヘッド基板の発熱抵抗体の表面にサブ基板をガラスペーストなどで貼り付けることにより、媒体の処理に追応じた加熱ヘッドを簡単に随時形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】本発明の加熱ヘッドの一実施形態を示す断面説明図である。
図2】本発明の加熱ヘッドの他の実施形態を示す断面説明図である。
図3】本発明の加熱ヘッドのまた別の実施形態を示す断面説明図である。
図4】発熱抵抗体を用いて、ヘッド基板の温度を測定する回路の説明図である。
図5】本発明の加熱ヘッドの変形例を示す断面説明図である。
図6】本発明の加熱ヘッドの他の変形例を示す断面説明図である。
図7】本発明の加熱ヘッドのまた別の変形例を示す説明図である。
図8】従来の加熱ヘッドを用いて媒体を加熱する場合の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
つぎに、図面を参照しながら本発明の加熱ヘッドおよび加熱方法について説明をする。図1には、本発明による加熱ヘッドの長手方向と垂直な断面説明図が示されている。平面図が示されていないが、図3(a)に別の実施形態の平面図が示されているように、平面形状は矩形状でその長手方向に沿って発熱抵抗体2が形成され、その両端部に一対の電極が形成され、通電できるようになっている。図1に示される例では、発熱抵抗体2が4個形成され、図3(a)では1個だけで示されているが、この発熱抵抗体2の本数は限定されない。このうちの1本が温度測定用として用いられてもよい。
【0048】
図1に示される本実施形態の加熱ヘッド10は、板状のヘッド基板1の一面に少なくとも一つの帯状の発熱抵抗体2が設けられ、その発熱抵抗体2の両端部に電圧を印加できるように、図示しない一対の電極が電気的に接続されている。このヘッド基板1の発熱抵抗体が設けられていない面のいずれかの一面が媒体と圧接される面1aとして外面に露出するように形成され、その媒体と圧接される一面1aに被覆層(オーバーコート層)8が形成されている。なお、図1において、4はベースで、5は前述の一対の電極と接続され、電源が印加されるように形成された配線基板で、その表面に断熱板6および断熱スペーサ6cを介してヘッド基板1が固定されている。この断熱スペーサ6cが介在されることにより、発熱抵抗体2の周囲が空間に晒されることになり、熱伝導による熱の流れは、専らヘッド基板1側になり、ヘッド基板1の一面1aは充分に温度が上がり、しかもヘッド基板1には数mm程度の厚さがあるため、ある程度の熱容量を有する。そのため、媒体がこのヘッド基板1と接触しても、急激に温度が低下するということは無く、安定した加熱をすることができる。本実施形態では、この媒体と圧接されるヘッド基板1の一面1aに被覆層8が形成されていることに特徴がある。この被覆層8については後述する。なお、配線基板5に代えて、一対の電極に電線を接続し、配線を引き出すようにしてもよいし、また、断熱スペーサ6cに代えて、ヘッド基板1の発熱抵抗体2形成面を、たとえばガラスペースト、樹脂接着材などの接着材で断熱板6に貼着するようにしてもよい。
【0049】
図2には、本発明の他の実施形態の図1と同様の断面説明図が示されている。すなわち、この実施形態は、ヘッド基板1の発熱抵抗体2が設けられる面と反対面が配線基板5に固定され、発熱抵抗体2の表面にヘッド基板1と同様のアルミナなどのセラミックスからなるサブ基板11が接着され、その接着面と反対面である一面11aが媒体との圧接面とされ、その表面に被覆層8が形成されている。このサブ基板11は、ヘッド基板と同じ材料のものを用いることができるし、厚さも同じでもよいが、厚さはヘッド基板1よりも薄くしてもよい。また、ヘッド基板1と配線基板5との貼着は、断熱性接着剤が用いられることが望ましい。熱の無駄をなくするためである。
【0050】
また、図3に示される実施形態は、発熱抵抗体2が一面に設けられたヘッド基板1が第1断熱板6aを介してベース4上に設けられ、押え板9aとビス9bとにより第2断熱板6bを挟んでベース4に取り付けられている。図3(a)には図示されていないが、その側面に被覆層8が側面から突出し下方へ延在するように形成されている(図3(b)、(c)参照)。この加熱ヘッド10は、図3(c)に示されるように、ヘッド基板1の側面1bの被覆層8上を媒体31が通過しながらプラテン32により圧接される構成になっている。このような加熱装置においても、被覆層8の特徴を利用して、媒体31をスムースに搬送しながら加熱することができる。なお、図1と同じ部分には同じ符合を付してその説明を省略する。また、この図3に示される例では、配線基板5が可撓性フィルムにより形成されており、押え板9aの下に設けられている。しかし、前述の図1に示される構造にすることもできる。さらに、(ローラ)プラテン32に代えて、別途媒体31を搬送するローラなどの搬送機構を用いることでフラットプラテンを用いることもできる。
【0051】
このヘッド基板1の側面1bを圧接面とする構造では、発熱抵抗体2をヘッド基板1の一面のみに設けなくても、図3(b)のヘッド基板1の下側にも設けて、両面に設けることもできる。このような構造にすることにより、1本の発熱抵抗体2の発熱量を減らしてもヘッド基板1の温度を上昇させることができ、安定した加熱をすることができる。
【0052】
図1〜3に示される実施形態は、媒体と圧接する面が異なる例が示されているが、要は発熱抵抗体2が形成されない面であればヘッド基板1の裏面でも側面でもよく、またサブ基板11が接着される場合には、その接着面と反対面またはその側面など、接着面以外のいずれかの面も圧接面とされ得る。
【0053】
被覆層8は、種々の形態に形成され得る。すなわち、前述のように、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、媒体の種類や加熱の目的に応じて、加熱ヘッドの圧接面が最適化されていることが好ましいことが見出された。その各種の態様について以下に説明されるが、いずれの場合も、加熱ヘッドの発熱抵抗体2が設けられている面以外の面が圧接面とされ、その圧接面の表面に加工処理が行われ、被覆層8が形成されていることに特徴がある。
【0054】
なお、これらの被覆層が設けられる場合、被覆層8の厚みは、厚くなるほど熱の伝導に時間がかかり、被覆層8の種類によってヘッド基板などとの密着性が低下する虞があるので、貼り付けられる層は、複層で形成される場合も含めて、適当な厚さの範囲内にすることが好ましい。
【0055】
前述のように、ヘッド基板1またはサブ基板11は、アルミナなどのセラミックスにより形成されている。そのため硬度は大きく、堅固であるが、その表面は微細な凹凸が多い。そのため、媒体を加熱ヘッドとプラテンの間で圧接搬送しながら加熱すると、そのスピードを上げられなかったり、媒体の表面に傷が入ったりすることが発生しやすい。そのため、圧接面の表面は平滑で、また低摩擦であることが望まれる場合がある。
【0056】
このような平滑化の加工処理としては、ヘッド基板1やサブ基板11の圧接面となるところを研磨して平滑にできればよいが、前述のように、アルミナはその硬度が大きく、研磨により平滑化しようとすると、非常にコストアップになる。そこで本発明の平滑化のための表面加工処理が行われる。
【0057】
まず、第1の方法としては、セラミックスの表面の微細な凹凸の凹部内に、ガラスまたは金属を埋め込むことである。その方法としては、まず、ガラス粉の場合、ガラスペーストを数十μm程度塗布して塗り込み、焼結してガラス層を形成すればよい。ガラス層の表面はセラミックスの表面よりも平滑性に富んでおり、硬度もセラミックスに比して低いため、圧接方式で媒体を加熱したとしても、媒体の表面に傷が入ることを軽減できる。また、一般的な媒体に対して、低摩擦性を発揮することができることからも、媒体の表面に傷が入りにくくなる。使用を繰り返すことでガラス層が摩耗してしまったとしても、セラミックス表面の微細な凹凸の凹部内にガラスが入り込んだ状態で平滑性を維持することができる。
【0058】
また、金属で微細凹凸の凹部内を埋め込む場合には、たとえばその圧接面とするセラミックスの面に、真空蒸着、スパッタリング、または無電解めっきと電気めっきなどにより、数十μm程度の金属薄膜(金属層)を形成することができる。必要に応じて、形成した金属層の表面を研磨仕上げするようにしてもよい。金属層の表面はセラミックスの表面よりも平滑性に富んでおり、圧接方式で媒体を加熱したとしても、媒体の表面に傷が入ることを軽減できる。なお、本発明者らの鋭意検討の結果、セラミックスと、たとえば金属膜などのように、熱膨張率が異なっているものを接着しても、金属層の厚さがヘッド基板1またはサブ基板11の厚さよりも小さければ、熱膨張率差の影響で剥れが生じたり、クラックが入ったりすることがなく、何ら問題がないことが確かめられた。その結果、この場合も、ガラス層と同様に、セラミックスの上に金属被膜層が形成されていても、何ら問題は無く、その金属層が摩耗しても、その下に現れるセラミック層の表面は凹凸が平坦化されているため、何ら問題は生じない。
【0059】
第2の方法として、セラミックス表面の下地処理(平坦化加工)を行うことなく、直接200μm程度以下の薄い金属薄板を適当な接着材(たとえば、ガラス、樹脂)により貼り付けてオーバーコート層(被覆層8)を設けることもできる。前述のように、金属薄板の厚さがヘッド基板1またはサブ基板11の厚さ以下であれば、セラミックスとの熱膨張率が異なっていても、それ程剥離とか反りなどの問題が生じないことが確認されている。従って、このような薄い金属薄板であれば、直接被着されても何ら問題がなく、金属の物性などに応じた加熱特性を発揮させることができる。金属薄板としては、たとえばアルミニウム、アルミニウム系合金、銅、銅系合金、表面加工された金属薄板、たとえばアルミニウム系合金のアルマイト、黒アルマイト、銅、銅系合金の表面にNi、Crのめっき処理した薄板などが使用できる。これらの金属薄板は、平滑性の他、熱伝導性、低摩擦性に優れており、媒体の移動がスムースで媒体に効率的に熱を伝えることができる。
【0060】
媒体の種類やプラテンの仕様によって、潤滑性、高離形性、弾力性などの他の特性(条件)を良くしたい場合には、ポリテトロフルオロエチレン(PTFE)のようなフッ素系樹脂被膜を被着するとよい。このフッ素系樹脂被膜を圧接面に形成するには、たとえば、前述のようにセラミックス面にPEEKなどのプライマー(下地材)を焼き付けた後に、同様に焼き付けることにより得られる。または、このような樹脂フィルムを適当な接着材により貼り付けるようにしてもよい。この被膜は、所望の加熱特性となるよう適宜決定すればよく、たとえば10〜30μm程度の厚さに形成することができる。
【0061】
このフッ素系樹脂のような樹脂被膜は、ゴミ、油分、脂質、粘着物などの異物の付着を防止するのに適している。
【0062】
媒体の種類やプラテンの仕様によって、温度保持性、熱容量なども含め複数種類の特性を制御したい場合には、前述のフッ素系樹脂のような樹脂層と金属層とを重ねて設けるようにしてもよい。たとえばセラミックスの表面に100μm厚のPTFEと、100μm厚のSUS18−8薄膜とを重ねて貼り付けると、熱伝導率は0.25W/(m・K)となり、セラミックスの場合の1/100程度に低下するが、弾力性および温度保持性が向上しながら、耐摩耗性も優れた加熱ヘッドが得られる。
【0063】
媒体を非接触で加熱したい場合や、媒体を非接触で予備加熱するような場合には、圧接して加熱して熱を伝導するよりは、空間を介して熱を伝える音、光になるので、輻射率、放射率の良い材料とか、特に赤外線を放射しやすい材料を用いて被覆層8を形成することが好ましい。このような材料として、たとえば、黒アルマイト処理されたアルミニウム、酸化ルテニウムなどの金属酸化物などを被覆層8として媒体との対向面に形成される。
【0064】
加熱ヘッドとして用いられるヘッド基板1は、加熱する媒体の大きさによって異なり、たとえば長さ約40〜350mm、幅約5〜25mm、厚さ約0.635〜1.0mm程度の略矩形状板からなり、その材質としては熱伝導性ができるだけ良好なもの、すなわち熱伝導率が1(たとえばソーダガラス)〜200W/(m・K)程度のもので、使用時の発熱温度条件において耐熱性を有し、発熱抵抗体2を設ける面が絶縁性を有するもの、たとえばアルミナなどのセラミックス、窒化アルミニウムなどを用いることができる。ステンレス鋼などの金属板の表面に絶縁膜を5〜20μm程度の厚さに、たとえば絶縁用の厚膜ペーストを印刷、焼成により形成したものでもよい。
【0065】
本発明では、このヘッド基板1の他面1a(発熱抵抗体2が設けられた面と反対面)を圧接面または加熱面として、媒体と対向する面に被覆層8を介在させているため、ヘッド基板1として表面が粗いアルミナ基板が用いられても、加熱される媒体31(図3参照)は、直接アルミナに圧接されることなく、被覆層8と接触しながらあるいは非接触で搬送される。この媒体31は、一般的にPET(ポリエチレンテレフタレート)や、紙の表面にワックスを塗布したものが多く用いられるが、今後様々な種類の媒体や領域によって特性を異ならせた複合的な媒体の登場が予想され、また、加熱装置においても接触加熱、非接触加熱の他、多様な構造、材質のプラテンが使用されることが予想され、このような多様な仕様に適合する加熱ヘッドが要望されるようになってきている。なお、アルミナの硬度は、ビッカース硬度Hv:約1000である。
【0066】
このような要望に応えるために、この被覆層8は、前述のように、媒体31の種類、媒体31の加熱方法などに応じて種々の加工面に形成される。また、この被覆層8は、前述のように、発熱抵抗体が設けられない面で、媒体と圧接させる面に形成される。そのため、例えばヘッド基板1の一面に発熱抵抗体を形成する前に、予め、その裏面または側面に表面加工層を形成しておくことが好ましい。または、前述のように、図2に示されるようなサブ基板11が設けられる構成にし、そのサブ基板11の一面が圧接面とされる場合には、予め、そのサブ基板11の一面に被覆層8を形成しておくことができる。このような構成にすることにより、加熱ヘッド10の本体部分はまとめて作製しておき、サブ基板11を種々加工形成しておくことにより、目的に応じてサブ基板11を発熱抵抗体の表面上に貼り付けることにより、目的に応じた加熱ヘッドを効率的に容易に作製することができる。
【0067】
発熱抵抗体2は、一対の電極3(図3参照)の一部にかかるように、長手方向に延びる帯状に設けられている。図1に示される例では、同じ長さ(同じ特性)の発熱抵抗体2が4本並列に形成されているが、加熱する媒体に応じて加熱ヘッドの大きさも変り、1〜6本程度の発熱抵抗体2を形成することができる。また、これらとは別に基板温度測定用の発熱抵抗体を設けることもできるし、前述の加熱用の発熱抵抗体2の1本を基板温度測定用として用いることもできるし、任意の本数で発熱する部分の長さを異ならせて、加熱する長さ(媒体の幅)を異ならせることもできる。発熱抵抗体2は、たとえばAg+Pd+ガラスまたは銀とガラスなどのペーストを塗布して、焼成することにより形成されている。これにさらにRuO2などを加えたものを使用することもできる。焼成により形成されるAg−Pd合金からなる場合、シート抵抗として100mΩ/Sq〜500mΩ/Sqが得られ(配合、固形絶縁粉末の量、印刷する厚さ、焼成条件などによって異なる)、両者の比率により抵抗値や温度係数を変えることができる。たとえば、シート抵抗値が約200mΩ抵抗で、幅が5mm、長さが100mm、厚さが10μm程度、(全抵抗3.6Ω程度)、抵抗温度係数が約1500ppm/℃(温度が100℃変化すると抵抗値が15%変化する)に形成されている。この発熱抵抗体2は、ヘッド基板1の長手方向の両端部に設けられる一対の電極3に重なるように印刷形成されている。
【0068】
この発熱抵抗体2のシート抵抗などは、加熱する媒体の大きさや、媒体の処理速度(記録を消去するスピード、すなわち加熱ヘッド上を通過する速さ)などに応じて設定される。たとえばヘッド基板1が、幅×長さ×厚さが前述の例の7mm×104mm×0.8mmの大きさで、アルミナからなる場合に、ヘッド基板1を1℃上げるのに必要な熱量は1.76Jで、150℃上昇させるためには、150×1.76=264J必要となる。たとえば発熱抵抗体2の両端間の抵抗が3.6Ωになるように形成されていると、24Vの電圧を印加することにより、160Wの熱量を発生するので、264J/160W=1.65秒で、必要な熱量を供給することができる。すなわち、起動時に基板温度が所定の温度170℃程度まで上昇するのに、1.65秒程度待つ必要があるが、その後は、高速で媒体を通過させても、ヘッド基板1の熱容量が従来の細い発熱用抵抗体2だけとは桁違いに大きいため、殆ど温度ムラなく連続的に媒体を加熱することができる。
【0069】
発熱抵抗体2の幅は、たとえばヘッド基板1の端部から2mm程度の幅を除いたヘッド基板1のほぼ全面に1本または複数本並列して形成される。図1に示される例では、3mm程度の幅のものが4本並列して形成されている。なお、この発熱抵抗体2と並列に、ヘッド基板の温度測定用の抵抗体を設けることもできるし、発熱抵抗体2を用いて温度測定をすることもできる。この発熱抵抗体2は、図1に示されるように、ヘッド基板1の長手方向のほぼ全長に亘って形成されるが、一対の電極3の一方は複数本の発熱抵抗体2に共通に形成することができるし、また、中間部に電極を形成することもできる。とくに、温度測定用の発熱抵抗体の場合には、ヘッド基板1の全長に亘って設ける必要はなく、中心部などだけに設けることもできるし、ヘッド基板1の長手方向に長く形成して、その途中に複数の電極を形成し、ヘッド基板1の部分的な温度を測定することもできる。このような途中での電極は、電線、フレキシブルケーブルなどを接着、圧着、高温ハンダなどにより接続することもできる。
【0070】
発熱用抵抗体2の発熱特性は、前述の例に限定されず、自由に設計することができるが、温度測定用抵抗体または温度測定をする発熱抵抗体2としては、抵抗温度係数の大きい抵抗材料を用いることが好ましく、とくに1000〜3500ppm/℃の材料を用いることが、後述する発熱抵抗体2を用いてその温度を検出して制御したり、熱暴走による過熱を防止したりするのに好ましい。しかし、本発明では、発熱抵抗体2により直接加熱する構造ではなく、ヘッド基板1の裏面1aまたは側面面1b(図3参照)側から、表面加工層8を介して媒体の加熱を行うため、熱暴走の問題は生じにくく、温度係数が負の抵抗材料でも、使用することができる。温度係数の大きい材料であれば、ヘッド基板1の温度を正確に測定しやすく、温度制御をしやすい。
【0071】
発熱抵抗体2または温度測定用抵抗体(加熱を目的としないため、温度により抵抗値が大きく変る細い抵抗体膜を形成すればよい)を用いて、ヘッド基板1の温度を測定するには、たとえば図4に示されるように、直流電源21の両端に発熱抵抗体22と基準抵抗23を直列に接続しておき、その基準抵抗23の両端電圧Vを測定すれば、温度検出手段24により、その電圧の変化量と、予め分っている発熱抵抗体22の温度係数(材料により定まる)とから温度を検出することができる。その検出温度に応じて、制御手段25により発熱抵抗体22の両端に印加する電圧を制御することにより、ヘッド基板1の温度を所定の温度に維持することができる。この制御手段25による発熱抵抗体22の温度制御は、直流電圧を印加してその印加電圧を変えることもできるし、デューティ駆動をして、そのデューティを変えることにより調整することもできる。なお、基準抵抗23は温度係数の小さいものが望ましい。また、温度測定用の抵抗体、または温度測定に用いる発熱抵抗体22は、好ましくはできるだけ温度係数の絶対値(%)が大きい方(正でも負でもよい)が好ましい。また、温度測定のみに用いる場合には、たとえば0.3〜0.5mm幅程度で、ヘッド基板1の適当な位置(媒体を圧接する部分の近傍で圧接に支障のない部分)に取り付けることが好ましく、基板温度測定用の抵抗体22自身は発熱しないよう印加電圧が低く抑えられて5V程度の印加が好ましい。これにより、ヘッド基板1の媒体を圧接する部分の温度を推測することができる。
【0072】
一対の電極3は、ヘッド基板1の長手方向に対向する両端部に、発熱抵抗体2と接続するように、たとえば発熱抵抗体2の材料よりもパラジウムの比率を小さくした銀・パラジウム合金やAg−Pt合金などの良導体により、発熱抵抗体2と同様に印刷により形成されている。この一対の電極3は、後述する配線基板5の配線と接続されるが、本発明では、後述するように、この一対の電極3が設けられた側がベース4の側に向くように取り付けられるため、電極3からヘッド基板1の裏面側に接続用配線を設ける必要はない。この一対の電極3も、発熱抵抗体2が設けられた面を直接圧接面にする訳ではないので、表面の凹凸が問題になることはなく、中央部に纏めて外部との接続用端子を形成することもできるし、前述のように、直接接着、圧着、高温ハンダなどにより接続するような構成にすることもできる。なお、図1に示される例では設けられていないが、基板温度測定用発熱体が設けられる場合には、その一対の電極も全く同様に同時に形成することができる。
【0073】
ベース4は、たとえばアルミニウム板(熱伝導率:221W/(m・K))、鉄板(熱伝導率:83W/(m・K))などの金属板、または窒化アルミニウムや酸化アルミニウムなどのセラミックスなどを用いることができ、ヘッド基板1を保持するために用いられている。このベース4は、前述のヘッド基板1に対応する大きさに形成され、厚さは、たとえば7mm程度に形成されている。
【0074】
配線基板5は、前述のように、ヘッド基板1上の一対の電極3に電圧を印加し得るように、一対の電極3と接続して、電源に接続すると共に、前述のヘッド基板1の温度を検出するための部品などが設けられるもので、たとえばプリント基板などにより形成されるが、後述する例のように、可撓性フィルムにより形成することもできる。なお、この配線基板5には、別途ヘッド基板1に設けられたサーミスタ(図示せず)とも接続され、ヘッド基板1の過熱防止二重安全用として管理される場合もある。さらに、温度ヒューズなどを設けて、ヘッド基板1の温度が上昇しすぎた場合などに、一対の電極3への電圧印加を切断させることもできる。
【0075】
このベース4の一面側に、前述のヘッド基板1が裏向けて(発熱抵抗体2が設けられる一面(表面)をベース4側にして)断熱板6を介して配線基板5に、接着剤7により取り付けられている。この断熱板6と配線基板5とベース4もそれぞれ図示しない耐熱性接着剤(たとえばシリコーン系樹脂やエポキシ系樹脂)7により固定されているが、後述するように、ねじなどによりこれらを固定することもできる。この断熱板6は、たとえばヘッド基板1と同じ材料で同程度の厚さのものを用いることができる。しかし、たとえばダム(土手)を周囲に形成して、上記耐熱性接着剤をディスペンサなどにより注入して硬化させることにより、断熱板6の形成と共にベース4にヘッド基板1を簡単に固定することができる。すなわち、このシリコーン系樹脂の熱伝導率は、約0.15W/(m・K)で、アルミナの熱伝導率は、20W/(m・K)であり、この耐熱性接着剤の熱抵抗は約130倍になるため、殆ど熱の逃げはない。その結果、ヘッド基板1の他面1a(図1の上面で、スペーサ8との接触面)の温度も、発熱抵抗体2の通電による発熱により温度が上昇し、この面にスペーサ8を介して媒体をゴムロールなどで圧接することにより、記録の書込みや消去などをするための加熱を充分に行うことができる。
【0076】
図5(a)〜(d)に、本発明のヘッド基板1と被覆層8の変形例を示す。いずれの変形例も、ヘッド基板1の上面に被覆層8が設けられ、図示しないが、ヘッド基板1の図の下面には発熱抵抗体層2が設けられている。図5(a)は、被覆層8がヘッド基板の幅全体には設けられないで、すなわち図5(a)では、図の右側から図示しない媒体が挿入される例であるが、媒体の進行方向のヘッド基板1の長さの全体には設けられないで、短く形成されると共に、ヘッド基板1の媒体挿入側の端部の一面のエッジがC面処理されている例である。この被覆層8の端面も丸くされている。また、図5(b)は、被覆層8は図5(a)と同様の構造で、ヘッド基板1の倍他の挿入側の一面のエッジがアール面処理されている例である。図5(c)は、被覆層8の長さが、ヘッド基板の媒体の進行方向の長さ(ヘッド基板1の幅)よりも長く形成され、その端部の余った部分がヘッド基板1の上面から側面にわたって延在して設けられている、すなわちヘッド基板1側に曲げられて、その側面と接着されている例である。図5(d)は、被覆層8は、図5(c)と同様に長く形成され、その端部がヘッド基板1側に曲げられているが、ヘッド基板1の側面には接着されていない例である。これらいずれの変形例も、加熱ヘッドの圧接面に媒体31をスムースに導入することができる。
【0077】
図6に、本発明の加熱ヘッド10の他の変形例の断面説明図を示す。すなわち、この変形例では、ヘッド基板1の発熱抵抗体2が設けられる面と反対面に被覆層8が、ヘッド基板1の両側面から下方へ突出するように延出して設けられ、ヘッド基板1の発熱抵抗体2が設けられた面は、他のセラミックス基板(保護基板)12に接着材13を介して接着されている。このようにしてなる加熱ヘッド10は、樹脂ケース14(取付ベース)の上部の凹部に、被覆層8が突出するように嵌め込まれて固定されている。なお、発熱抵抗体2の両端部に接続されて設けられた一対の電極(図示しない)には、電気コード(電線)が接続されて、樹脂ケース14の側面または端面から引き出されている。すなわち、この例は、被覆層8の両端部がヘッド基板1の幅方向両側から突出しており、その突出部がヘッド基板1側に折り曲げられている例である。
【0078】
図7は、本発明の加熱ヘッド10の別の変形例であって、ヘッド基板1の被覆層8が設けられた上面を上から見た説明図を示す。すなわち、図7に示される図は、図の左右方向がヘッド基板1の長手方向で、図の上下方向がヘッド基板1の幅方向、換言すると、媒体の進行方向になる。従って、媒体の進行方向と直角方向に被覆体8が3つの領域に分けられ、その両端部には、金属の被覆層8aが設けられ、中央部には樹脂の被覆8bが設けられている。このように、ヘッド基板1の長手方向に異なる複数種類の被覆層8a、8bを設けることにより、媒体の中央部と端部とで加熱条件を異ならせて加熱することができ、媒体の多様性、自由度を向上することができる。
【符号の説明】
【0079】
1 ヘッド基板
2 発熱抵抗体
3 電極
4 ベース
5 配線基板
6 断熱板
8 被覆層
10 加熱ヘッド
31 媒体
32 プラテン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8