【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、媒体の種類やプラテンの種類、加熱の仕方などによって加熱条件が異なるところ、これら多様な加熱条件により適した加熱ヘッドを効率よく実現するべく、鋭意研究を重ねた結果、発熱抵抗体を形成していないヘッド基板の一面を媒体の加熱のための加熱面(圧接面)とし、この一面に表面加工(以下、研磨により鏡面や粗面にしたり、切削したりする表面加工、薬品洗浄やオーバーコートなどの表面処理などを含めて「表面加工」という。)を施すことで、加熱特性を多様に調整、変更することができ、多様な加熱条件に適した加熱ヘッドを効率的に提供することができることを見出した。
【0011】
すなわち、ヘッド基板の発熱抵抗体を形成している面を媒体への加熱面とする場合には、発熱抵抗体の存在により加工または処理条件が大きく制限されるが、本発明のように、発熱抵抗体が形成されていないヘッド基板面に対して被覆層が形成されているときは、たとえば、被覆層の形成加工が容易で、しかも有機材料、無機材料、絶縁材料、導電材料を問わず様々なオーバーコート材を用いることもでき、加熱特性を多様にコントロールすることができる。より具体的には、たとえば前述の傷のつきやすい媒体を加熱する場合には、セラミックスのヘッド基板は硬くその裏面などではアルミナ粒子の凹凸があり、圧接されると傷つきやすい。そこで圧接面である一面に弾力性のある樹脂層と、低摩擦性の金属シートなどでオーバーコートすることで、媒体が傷つくことを軽減することができる。このように、オーバーコートの物性を異ならせたり、その厚みや表面状態を異ならせたりすることで、熱伝導性、保温性、離形性(剥離性)、摩擦性、弾力性、平滑性、潤滑性、熱応答性、温度反応性、熱容量特性、異物付着防止性、低摩擦性、耐摩耗性、密着性、熱容量、耐熱性などの様々な特性をコントロールすることができるようになる。
【0012】
すなわち、本発明の加熱ヘッドは、板状のヘッド基板と、該ヘッド基板の一面に設けられる少なくとも一つの帯状の発熱抵抗体と、該発熱抵抗体に電圧を印加できるように設けられる一対の電極とを有し、前記ヘッド基板の前記発熱抵抗体が設けられていない一面が媒体との圧接面とされ、該一面に被覆層が被着され
、前記被覆層が、前記ヘッド基板の前記一面の前記媒体の移動方向の長さより長く形成され、前記一面の端部で前記被覆層の端部が前記ヘッド基板の側に折り曲げられている。
【0013】
本発明において、被着とは、めっきや蒸着などにより被膜が形成されること、コート剤の塗布乾燥などにより表面に被膜が形成されること、板状体やシートが接着剤などにより接着されること、ヘッド基板などの一面に密着して被覆層が形成されることを意味する。また、表面加工処理とは、たとえばヘッド基板がセラミックス基板である場合、圧接面であるセラミックス面を、各種研磨、ラッピング、サンドブラスター、切削などにより鏡面あるいは粗面に加工したり、凹凸を形成したり、セラミックス基板のエッジにおいてはエッジをより立てたり、C面、アール面に面取りしたりするなどの下地処理、およびセラミックス面に有機材料、無機材料、絶縁材料、導電材料などの各種材料をコーティングしたり、各種薬剤で洗浄するなどの表面処理を包含する広義のものである。本発明においては、これら下地処理と表面処理を組み合わせて実施するようにしてもよい。
【0014】
オーバーコートに用いる有機材料としては、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系樹脂、ナイロンなどのポリアミド系樹脂、ポリエチレン(PE)などのオレフィン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルサルフォン(PES)などのエンジニアリングプラスチック、シリコーンなど、公知の樹脂材料を広く挙げることができ、これら有機材料の一種または二種以上を組み合わせて用いることができ、フィラーなど各種添加物や不純物を加えて用いることもできる。また、これら樹脂材料は、金属粒子や金属粉などの導電材料を含有させることによって、より多様な加熱特性をもった加熱ヘッドを提供することができる。
【0015】
樹脂材料をセラミックス面にオーバーコートする方法としては、たとえば、塗布や吹き付けにより付着させ、乾燥し、必要に応じて焼付することで行うことができる。より具体的には、フッ素系樹脂をオーバーコートする場合には、たとえば、セラミックス面に下地材としてPEEKを吹付け、乾燥し、焼付けた後に、PTFEを同様に吹付け、乾燥し、焼付けることでフッ素系樹脂のオーバーコートを行うことができる。オーバーコートの膜厚としては、所望の加熱条件に応じて適宜決定すればよく、たとえば、数μm〜数十μm、場合によってはそれ以上とすることができる。また、樹脂フィルム、樹脂シート、樹脂板を、必要に応じて適当な接着材を用いて、被着してオーバーコート層を形成するようにしてもよい。
【0016】
樹脂などの有機材料をオーバーコート材として用いたときには、全般的に低摩擦性、低密着性、高離形性、高弾力性などにコントロールすることができる。
【0017】
無機材料としては、たとえば、ガラス、グラファイト系炭素、二硫化モリブデン、チタン酸バリウム、酸化ルテニウム、アルマイトなどの金属酸化物、アルミニウム、アルミニウム系合金、銅、銅系合金、ステンレス(SUS)、銀、ニッケル、クロムなどの金属類、合金類など公知のものを挙げることができ、これらの一種または二種以上を用いることができる。これら無機材料は、有機材料と組み合わせて用いることもできる。金属類などの導電材料は、樹脂材料やガラスなどの絶縁材料とは異なる物性を有するものが多くあり、このような導電材料を用いてオーバーコート層を設けることによって、加熱ヘッドの加熱特性をより多様に変化させることができる。
【0018】
ガラス類は、たとえば、塗布、焼成してオーバーコートを行うことができ、金属類、合金類は、たとえば、板状、シート状、フィルム状のものを適当な粘着材、接着材、導電性接着材などを介して被着したり、蒸着したり、無電解メッキ、電気メッキしたり、またはペースト状にしたものを印刷、乾燥、焼成するようにしてオーバーコートを形成することができる。また、ガラス粉末、金属粉末などのオーバーコート材の粉末をセラミックス面に擦り付けるようにコーティングして、セラミックス面の凹凸を平坦にするようにしてもよい。この場合のオーバーコートの膜厚も、所望の加熱条件に応じて適宜決定すればよく、たとえば、数μm〜数百μm、場合によってはそれ以上とすることができる。
【0019】
本発明において、圧接面(セラミックス面)にオーバーコートを設ける場合には、下地処理を行い、セラミックス表面を鏡面または粗面にした後にオーバーコート層を形成するようにしてもよく、こうすることでオーバーコート層の密着性を向上することができる。また、圧接面の端部のエッジをより急峻に立てたり、面取りをしたりした後にオーバーコート層を形成してもよく、面取りした場合には、たとえば媒体をプラテンとの間にスムースに導入でき、良好に媒体を圧接して移動させることができる。さらに、金属、合金などの薄板をオーバーコートとしてセラミックス面に被着する場合には、セラミックス面のエッジから下方へ突出するように延在させておくことで、媒体をプラテンとの間にスムースに導入することができる。
【0020】
また、たとえば、樹脂層と金属の薄板(それぞれ100μm程度の厚さ)との積層加工により表面加工することもできる。
【0021】
これら無機材料をオーバーコート材として用いたときには、全般的に高平滑性、低摩擦性、高熱伝導性などにコントロールすることができる。
【0022】
さらに、本発明において、圧接面の媒体の進行方向と直角方向に部分的に異なる物性のオーバーコートを施しても構わない。例えば、右側に樹脂層からなるオーバーコートを形成し、左側に金属層からなるオーバーコートを形成し、あるいは中央部に樹脂層からなるオーバーコートを形成し、両端部に金属層からなるオーバーコートを形成することで、加熱ヘッドの領域毎で異なる加熱条件とでき、様々なパターンの加熱条件を1つの加熱ヘッドで実現することができる。
【0023】
本発明は、セラミックス基板(ヘッド基板)の発熱抵抗体が形成された面に、セラミックスの薄板(サブ基板)をガラスまたは樹脂の粘着材で貼着し、このサブ基板の被着した面以外の面を圧接面とし、このサブ基板に表面加工を施した加熱ヘッドをも包含する。
【0024】
サブ基板の厚さとしては、特に限定されることなく、たとえば、ヘッド基板と同程度、もしくはそれ以下とするのが好ましい。
【0025】
この場合、表面加工により予め各種加熱条件に調整したサブ基板を用意しておけば、発熱抵抗体を形成した共通のヘッド基板に貼着するだけで、製造を容易に効率的に行うことができる。
【0026】
以下、本発明の一具体例についてより詳細に説明する。媒体によっては、脂質や粘着物、ゴミ、埃などの異物が加熱ヘッド側に転写することがある。このような異物が加熱ヘッドに付着すると、つぎに清浄な媒体が挿入された場合に、その清浄な媒体に異物が再転写したり、異物が付着した部分の温度が所望の温度からズレて正常な加熱が行えなくなったりする場合がある。そのため、そのような媒体を加熱する加熱ヘッドには、できるだけ異物が付着しないことが好ましい。このような観点からは、加熱ヘッドの加熱面にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系樹脂などの樹脂フィルムを貼り付けるか、コートして被膜にすることが好ましい。また、樹脂のオーバーコートをすることで、加熱面の表面をセラミックス面に比して柔らかくするとともに潤滑性を向上でき、媒体表面に傷がつくことを軽減することができる。すなわち、従来は、加熱面は耐摩耗性が必要で、硬度の大きいものという考えであったが、本発明者らの研究の結果、媒体によってはこのような樹脂オーバーコートを被覆するのが好ましい場合もある。
【0027】
また、熱伝導性の低下を軽減し、表面の平滑性、耐摩耗性などが要求される場合には、金属または合金をオーバーコートに用いるのが好ましい。なお、金属層の膜厚をヘッド基板の厚みに対して薄くしておけば、ヘッド基板との熱膨張の差があっても、殆ど影響を受けない。
【0028】
なお、本発明の加熱ヘッドを適用できる媒体としては、たとえば、紙(厚紙を含む)、不織布、織布、塩化ビニール、ポリエチレンテレフタレートなどの合成樹脂、金属、ガラスなどからなるフィルム状、シート状、カード状、板状などの材料、その材料からなる支持体上に加熱により発色と消色を可逆的に繰り返し行える可逆性感熱記録層からなる記録部が設けられた可逆性感熱記録媒体(リライタブルカード・リライタブルシート)や、転写、再転写、トナー定着などに用いる記録紙、ベースフィルムや、加熱による接着、融着、変形加工、オーバーコート、アンダーコート、ラミネート加工、インプリント加工などを行う上記材料などを挙げることができる。また、本発明の加熱ヘッドの加熱面は、記録媒体などの媒体を加熱するための面であって、媒体に接触(圧接)させて加熱したり、非接触により加熱したりできる。
【0029】
本発明において、ヘッド基板の発熱抵抗体が設けられない面に表面加工処理を施す場合、ヘッド基板の発熱抵抗体が設けられた面上に、該発熱抵抗体を覆うようにセラミックス基板を、たとえばガラスペーストなどの貼着材で貼着するようにしてもよい。このようにすることで、発熱抵抗体を保護でき、電気配線などを取り付けたり、加熱装置に組み込んだりするときの取り扱いを容易にすることができるとともに、熱容量を大きくすることができる。
【0030】
本発明において、前記表面加工処理は、絶縁材料および導電材料、あるいは有機材料および無機材料の1種または2種以上のオーバーコート層を形成するようにされる。このとき、オーバーコート層が、該オーバーコート層が形成される面から突出するように延在するように設けてもよいし、オーバーコート層が形成される面に隣接する面にまで延在するように形成してもよい。
【0031】
また、本発明において、ヘッド基板の発熱抵抗体が設けられない面、またはサブ基板の外面にオーバーコート層を設ける場合、ヘッド基板の発熱抵抗体が設けられない面、またはサブ基板の外面とオーバーコート層との間に、空気、各種ガスなどの気体層、各種水溶液、各種油などの液体層を介在させるようにしてもよい。
【0032】
本発明において、表面加工処理は、ヘッド基板またはサブ基板の一面に被覆層を被着することおよびその被覆層の下面のヘッド基板またはサブ基板の一面に加工処理を行う下地処理を含む。この表面加工は、加熱する媒体、加熱装置などの仕様などに応じ、熱伝導性、保温性、離形性、摩擦性、弾力性、平滑性、潤滑性、熱応答性、温度反応性、熱容量特性、異物付着防止性、低摩擦性、耐摩耗性、密着性、熱容量、耐熱性などを考慮し、所望の加熱条件となるように、オーバーコート材の種類、その組み合わせ、厚み、形成箇所、形成領域(範囲)を選択して行うことができる。
【0033】
前記表面加工処理として、たとえば前記ヘッド基板またはサブ基板の表面(加熱面)の凹凸を平坦にして平滑性を向上させるために金属粉末またはガラス粉末をコーティングしてもよい。
【0034】
前記表面加工処理として、たとえば前記ヘッド基板またはサブ基板の表面に、ガラスコート層を被着してもよい。
【0035】
前記表面加工処理として、たとえば前記ヘッド基板またはサブ基板の表面に、フッ素系樹脂被膜を形成するようにしてもよい。
【0036】
前記表面加工処理として、たとえば前記ヘッド基板またはサブ基板の表面に、金属シートを被着してもよい。
【0037】
前記表面加工処理として、たとえば前記ヘッド基板またはサブ基板の表面に、金属シートとフッ素系樹脂被膜がこの順または逆に被着、形成するようにしてもよい。
【0038】
前記被覆層が、前記ヘッド基板または前記サブ基板の前記一面の前記媒体の移動方向の長さより長く形成され、前記一面の端部で前記被覆層の端部が前記ヘッド基板または前記サブ基板の側に折り曲げられていることが好ましい。媒体を加熱ヘッドとプラテンの間にスムースに移動しやすい。
【0039】
前記被覆層が、前記ヘッド基板または前記サブ基板の前記一面の前記媒体の移動方向の長さより短く形成され、前記被覆層の前記媒体の侵入側の端部がR面またはC面に形成されていることが好ましい。媒体の挿入が容易になるからである。
【0040】
前記ヘッド基板またはサブ基板の前記一面に施される下地処理が、前記一面の前記媒体の侵入側の端部に形成されるR面またはC面に形成されてもよい。
【0041】
前記被覆層が前記媒体の侵入方向と直角方向の長さで2以上の領域に分けられて異なる材料で形成されていてもよい。媒体の領域に応じて異なる加熱をすることができ、多様の加熱をすることができる。
【0042】
前記被覆層の下の下地処理として、たとえば、鏡面、粗面、凹凸形成、面取りなどの下地処理を施すようにしてもよい。
【0043】
前記被覆層が、異なる2種類以上のオーバーコート層の領域を形成するようにしてもよい。