(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、食品の苦味を改善するための酵素製剤を提供することを目的とする。また、食品の苦味を改善し、必要に応じて食品を軟化するための酵素製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、ホスホリパーゼで食品素材を処理することによって、食品の苦味を改善することができることを見出した。また、ホスホリパーゼおよびプロテアーゼで食品素材を処理することによって、食品の苦味を改善し、食品を軟化することができることを見出した。
【0006】
本発明は、ホスホリパーゼを含有する、食品の苦味改善用酵素製剤を提供する。
【0007】
1つの実施態様では、上記酵素製剤は、さらにプロテアーゼを含有する。
【0008】
1つの実施態様では、上記食品は食肉である。
【0009】
1つの実施態様では、上記苦味は、上記食品の素材にプロテアーゼを作用させて生じるペプチドに由来する。
【0010】
1つの実施態様では、上記ホスホリパーゼはホスホリパーゼDである。
【0011】
1つの実施態様では、上記プロテアーゼ100ユニット(U)に対し、上記ホスホリパーゼは60〜1500ユニット(U)である。
【0012】
本発明はまた、食品の苦味改善方法を提供し、該方法は、上記酵素製剤を含有する食品の苦味改善剤で該食品の素材を処理する工程を含む。
【0013】
本発明はさらに、食品加工製品の製造方法を提供し、該方法は、上記酵素製剤を含有する食品の苦味改善剤で該食品の素材を処理する工程を含む。
【0014】
本発明はまた、上記酵素製剤を含有する食品の苦味改善剤で処理された食品素材を含む、食品加工製品である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、食品の苦味を改善するための酵素製剤を提供することができる。本発明の食品の苦味改善用酵素製剤による処理を経た食品は、長期保存後に調理しても、苦味がない。また、食品の苦味を改善し、必要に応じて食品を軟化するための酵素製剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の食品の苦味改善用酵素製剤は、ホスホリパーゼを含有する。
【0017】
食品としては、特に限定されず、例えば、肉製品類、飯類、麺類、菓子類、野菜・果物由来の飲料類、水産加工食品類、畜産加工食品類(卵製品類、乳製品類など)、発酵食品類、エキス調味料類(肉エキス、野菜エキス、酵母エキスなど)が挙げられる。
【0018】
本発明の酵素製剤は、食品素材の処理に使用される。本発明でいう食品素材とは、上記食品の原材料であって、酵素が作用し得る性質を有するものをいう。例えば、加熱処理などが施されていない「生」の状態にある原材料である。ペプチドまたはタンパク質を豊富に含む原材料が好ましい。食品素材としては、特に限定されないが、例えば、食肉、穀物(小麦粉など)、野菜・果物、水産物、畜産物(卵、乳など)、サプリメントまたは栄養成分(ペプチド、アミノ酸)これらの混合物が挙げられる。
【0019】
食肉としては、特に限定されず、例えば、牛肉、豚肉、鶏肉、馬肉、羊肉、鹿肉、山羊肉、兎肉、鴨肉、ガチョウ肉、七面鳥肉、鶉肉が挙げられる。また、肉の部位としては、特に限定されず、例えば、もも、胸、肩、肩ロース、ロース、ばら、ヒレ、サーロイン、らんぷ、すね、各種内臓が挙げられる。肉の形態としては、特に限定されず、例えば、枝肉、部分肉、精肉(スライス、角切り、細切れ(切り落とし)、挽肉など)が挙げられる。冷蔵保存または冷凍保存された食肉あるいは冷凍保存後解凍された食肉であってもよい。
【0020】
本発明でいう食品の苦味改善とは、食品素材に酵素製剤を作用させることによって、調理後の食品の苦味を改善することをいう。
【0021】
ホスホリパーゼとしては、特に限定されず、ホスホリパーゼA、ホスホリパーゼB、ホスホリパーゼC、ホスホリパーゼDが挙げられる。好ましくはホスホリパーゼC、ホスホリパーゼDであり、より好ましくはホスホリパーゼDである。これらは単独であってもよいし、2種以上の混合物であってもよい。また、ホスホリパーゼとしては、市販のホスホリパーゼであってもよいし、ホスホリパーゼを産生する微生物から調製したものであってもよい。市販のホスホリパーゼAとしては、特に限定されず、例えば、ホスホリパーゼA(三菱化学フーズ株式会社製)、マキサパールA2(DSM社製)、リポモッド699L(協和発酵バイオ株式会社製)、PLA2ナガセ(ナガセケムテックス株式会社製)、レシターゼ(ノボエンザイム社製)が挙げられる。市販のホスホリパーゼBとしては、特に限定されず、例えば、ホスホリパーゼB(P8914)(シグマ社製)が挙げられる。市販のホスホリパーゼCとしては、特に限定されず、例えば、Purifine(Verenium社製)、ホスホリパーゼC(P6621)(シグマ社製)、ホスホリパーゼC(P7633)(シグマ社製)、ホスホリパーゼC(P4039)(シグマ社製)が挙げられる。市販のホスホリパーゼDとしては、特に限定されず、例えば、ホスホリパーゼD(名糖産業株式会社製、旭化成製)、ホスホリパーゼD(P8023)(シグマ社製)、ホスホリパーゼD(P4912)(シグマ社製)、ホスホリパーゼD(P7758)(シグマ社製)が挙げられる。ホスホリパーゼD産生微生物としては、特に限定されず、例えば、放線菌のアクチノマジューラ(Actinomadura)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、ストレプトベルチシリウム(Streptoverticillium)属、ミクロモノスポーラ(Micromonospora)属、ノカルディア(Nocardia)属、ノカルディオプシス(Nocardiopsis)属、アクチノマデューラ(Actinomadura)属などに属する微生物、より具体的には、ストレプトマイセス・アンチビオティカス(Streptomyces antibioticus)、ストレプトマイセス・アシドマイセティカス(Streptomyces acidomyceticus)、ストレプトマイセス・クロモフスカス(Streptomyces chromofuscus)、ストレプトマイセス・AA586種(Streptomyces sp.AA586)、ストレプトマイセス・PMF種(Streptomyces sp.PMF)、ストレプトベルチシリウム・シンナモネウム(Streptoverticillium cinnamoneum)、ストレプトマイセス・シンナモネウム(Streptomyces cinnamoneum IFO 12852)、ミクロモノスポラ・チヤルセア(Micromonospora chalcea ATCC12452)、ノカルディア・メディテラーネイ(Nocardia mediterranei IFO 13142)、ノカルディオプシス・ダソンビレイ(Nocardiopsis dassonvillei IFO 13908)、アクチノマデューラ・リバノチカ(Actinomadura libanotica IFO 14095)が挙げられる。ホスホリパーゼD産生動植物としては、特に限定されず、例えば、キャベツが挙げられる。ホスホリパーゼD産生微生物またはホスホリパーゼD産生動植物からホスホリパーゼDを調製する方法としては、特に限定されず、当業者が通常用いる方法が用いられる。
【0022】
本発明の食品の苦味改善用酵素製剤は、さらにプロテアーゼを含有し得る。本発明の酵素製剤で食品素材を処理することによって、プロテアーゼの作用により食品素材に生じる苦味をホスホリパーゼにより改善することができる。この苦味はプロテアーゼが食品素材に作用して生ずるペプチドに由来するものと考えられる。
【0023】
プロテアーゼとしては、特に限定されず、例えば、バチルス・サブチリス(Bacillus subtillis)由来プロテアーゼ(ナガセケムテックス株式会社製の各種ビオプラーゼなど)、パパイン、ブロメライン、アクチジニン、フィシン、アスペルギウス(Aspergillus)属由来プロテアーゼ(ナガセケムテックス株式会社製のデナチームなど)、アスペルギウス・オリゼ(Aspergillus oryzae)由来プロテアーゼ、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)由来プロテアーゼが挙げられる。市販のプロテアーゼであってもよいし、プロテアーゼ産生微生物、プロテアーゼ産生動植物から調製したものであってもよい。市販のプロテアーゼとしては、特に限定されず、例えば、ビオプラーゼOPなどの各種ビオプラーゼ(ナガセケムテックス株式会社製)、精製パパイン(ナガセケムテック株式会社製)、デナチーム(ナガセケムテックス株式会社製)が挙げられる。プロテアーゼ産生微生物としては、特に限定されず、例えば、バチルス・サブチリス、他のバチルス(Bacillus)属微生物、アスペルギウス・オリゼ、アスペルギウス・ニガー、他のアスペルギウス属微生物、ストレプトマイセス(Streptomyces)属微生物が挙げられる。プロテアーゼ産生動植物としては、特に限定されず、例えば、パパイヤ、パイナップル、キウイ、イチジクが挙げられる。プロテアーゼ産生微生物またはプロテアーゼ産生動植物からプロテアーゼを調製する方法としては、特に限定されず、当業者が通常用いる方法が用いられる。
【0024】
本発明の酵素製剤中のプロテアーゼに対するホスホリパーゼの割合としては、特に限定されないが、好ましくは、プロテアーゼ100ユニット(U)に対し、ホスホリパーゼは60〜1500ユニット(U)、より好ましくは80〜1500ユニット(U)、さらに好ましくは350〜1500ユニット(U)である。
【0025】
なお、プロテアーゼの活性(ユニット:U)は次のようにして定められる。0.6%ミルクカゼイン(pH7.5M/25リン酸緩衝液)5mLに1mLの酵素液を加え、30℃にて10分間反応させた時、1分間に1μgのチロジンに相当するフォリン発色をTCA可溶性成分として遊離する酵素量を1Uとする。
【0026】
ホスホリパーゼAおよびBの活性(ユニット:U)は次のようにして定められる。基質の大豆レシチンを加水分解したときに生じる遊離脂肪酸を市販の遊離脂肪酸定量試薬キット・デタミナーNEFA755(協和メデックス株式会社製)にて定量する。そして、1分間に1μmolの脂肪酸を遊離する酵素量を1Uとする。
【0027】
ホスホリパーゼCの活性(ユニット:U)は次のようにして定められる。基質の大豆レシチンを加水分解したときに生じるホスホリルコリンに市販のアルカリフォスファターゼ(タカラバイオ株式会社製)を加え、遊離したリン酸を市販のBIOMOL GREEN(BIOMOL Research Laboratories社製)を用いて定量する。そして、1分間に1μmolのホスホリルコリンを遊離する酵素量を1Uとする。
【0028】
ホスホリパーゼDの活性(ユニット:U)は次のようにして定められる。基質のホスファチジルコリンを加水分解したときに生成するコリンを、市販のコリンエステラーゼキット−NC(和光純薬工業株式会社製289−75181)にて定量する。ここで、生成したコリンはキット中のコリンオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ等により赤色キノン色素を生成する。そして、1分間に1μmolのコリンを遊離する酵素量を1Uとする。
【0029】
ホスホリパーゼおよびプロテアーゼはあらかじめ混合されていてもよいし、混合されていなくてもよい。すなわち、ホスホリパーゼとプロテアーゼとが別々にキット製剤として提供されてもよい。
【0030】
本発明の酵素製剤は、食品の苦味改善用途に用いることができる。また、本発明の他の酵素製剤は、食品の苦味改善用途および軟化用途に用いることができる。本発明の酵素製剤で食品素材を処理することによって、苦味が改善され、必要に応じて軟化された食品または食品加工製品を製造することができる。
【0031】
本発明の酵素製剤は、本発明の効果を阻害しない限り、ホスホリパーゼおよびプロテアーゼ以外にも任意の量の酵素を含有していてもよい。このような酵素としては、特に限定されず、例えば、アミラーゼ、グルカナーゼ、リパーゼが挙げられる。
【0032】
本発明の酵素製剤は、本発明の効果を阻害しない限り、賦形剤など酵素製剤が通常含有する任意の量の成分を含有していてもよい。賦形剤としては、特に限定されず、例えば、グルコース、乳糖、トレハロースなどの糖、マルチトール、ソルビトールなどの糖アルコール、デキストリン、デンプン、ペクチンなどの多糖類、ガム類、無機塩類(食塩など)が挙げられる。
【0033】
本発明の酵素製剤の形状としては、特に限定されず、例えば、粉末、液体が挙げられる。液体の場合、溶媒または分散媒は、酵素が機能し、衛生上問題ない限り、特に限定されないが、好ましくは水である。溶媒または分散媒が水の場合、pHは、特に限定されないが、好ましくは5〜10、より好ましくは6〜9である。本発明の酵素製剤中のホスホリパーゼの量、およびプロテアーゼの量は適宜設定される。
【0034】
本発明の食品の苦味改善方法は、上記酵素製剤を含有する食品の苦味改善剤で食品素材を処理する工程を含む。
【0035】
食品の苦味改善剤は、上記酵素製剤以外にも、塩類、調味料、香辛料、食品添加物(多糖類、クエン酸三ナトリウム、重曹など)を含有していてもよい。
【0036】
食品の苦味改善剤の形状としては、特に限定されず、例えば、粉末、液体が挙げられる。液体の場合、溶媒または分散媒は、酵素が機能し、衛生上問題ない限り、特に限定されないが、好ましくは水である。溶媒または分散媒が水の場合、pHは、特に限定されないが、好ましくは5〜10、より好ましくは6〜9である。
【0037】
食品の苦味改善剤で食品素材を処理する形態としては、特に限定されず、例えば、食品の苦味改善剤を食品素材に混合、塗布、スプレーまたは注入(単針または多針の注射器の針先を食品素材に突き刺し、注射器シリンジ内の食品の苦味改善剤適量を食品素材内に供給するなど)する形態、食品の苦味改善剤を含有する液に食品素材を浸漬する形態が挙げられる。
【0038】
食品素材の処理に使用するプロテアーゼの量は、特に限定されないが、好ましくは食品素材100gに対して10〜2000ユニット(U)、より好ましくは30〜1000ユニット(U)である。
【0039】
食品素材の処理に使用するホスホリパーゼの量は、特に限定されないが、好ましくは食品素材100gに対して30〜5000ユニット(U)、より好ましくは100〜4000ユニット(U)である。
【0040】
食品素材を処理する温度は、特に限定されず、例えば、0〜25℃、好ましくは0〜15℃である。
【0041】
食品素材を処理する時間は、特に限定されず、食品素材の種類、食品素材の形態などに応じて適宜設定される。例えば、1時間〜30日間、好ましくは2時間〜16日間、より好ましくは2日間〜16日間である。
【0042】
ホスホリパーゼによる処理とプロテアーゼによる処理は同時処理であってもよいし、順次処理であってもよい。順次処理の場合、処理の順番は、特に限定されない。
【0043】
本発明の食品加工製品の製造方法は、上記酵素製剤を含有する食品の苦味改善剤で食品素材を処理する工程を含む。
【0044】
本発明でいう食品加工製品とは、食品を加工した製品であって、最終的に焼く、煮る、茹でる、炊く、燻製などの処理が施されたものをいう。食品加工製品としては、特に限定されず、例えば、ハンバーグ、から揚げ、ハム、ソーセージ、ミートボール、酵母エキス、肉エキス、野菜エキス、クッキー、ガム、野菜ジュース、おにぎり、カップラーメン、納豆、ヨーグルト、かまぼこ、ちくわ、およびサプリメントが挙げられる。
【0045】
上記食品の苦味改善剤による処理を経た食品は適宜調理される。調理としては、特に限定されず、例えば、焼く、煮る、茹でる、炊く、燻製などの加熱調理が挙げられる。調理前に冷凍(凍結)保存および解凍処理を行ってもよい。調理後の食品または食品加工製品は、苦味が改善され、好ましくは苦味がない。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0047】
(調製例)
以下の表1〜表3の配合で、プロテアーゼ(ビオプラーゼ:ナガセケムテックス株式会社製ビオプラーゼOP、またはパパイン:ナガセケムテックス株式会社製食品用精製パパイン)およびホスホリパーゼD(PLD:ナガセケムテックス株式会社製Streptomyces cinnamoneum由来PLD)を含む酵素製剤(粉末)を、賦形剤(赤穂海水株式会社製赤穂塩R)を使用して常法により調製し、各酵素製剤1.25gを水100gに溶解して試験酵素液とした。表3では、苦味マスキング物質として公知のトレハロースまたはシクロデキストリンを配合した。A1〜A3は水100g(対照区)である。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
(試験例)
(試験例1 豚挽肉ハンバーグ試験)
ハンバーグ配合割合
豚挽肉 500g
塩 5g
胡椒 2g
試験酵素液 20mL
上記原料を混合し、生ハンバーグを調製した。生ハンバーグを冷蔵庫(5℃)にて2日間保存後、加熱し、肉の硬さおよび苦味を評価した。一方、生ハンバーグを冷凍庫(−15℃)にて16日保存後、解凍(一晩常温)してから加熱し、肉の硬さおよび苦味を評価した。加熱法としては均一に加熱するため、生ハンバーグをラップに包み電子レンジ(600W)にて5分間加熱した。結果を以下の表4〜6に示す。評価方法は以下のとおりである。
【0052】
(評価方法)
9人が試食して評価した。
硬さに関しては、各人が以下の5段階で評価し、9人の平均を求めた。
苦味に関しては、各人が苦味なし(○)・あり(×)を評価し、過半数が苦味なしの場合を○、苦味ありの場合を×とした。
【0053】
(硬さの評価基準)
−:対照区の硬さ
+:対照区からわずかに柔らかくなっている
++:中程度の柔らかさ
+++:かなり柔らかい
++++:非常に柔らかい
【0054】
【表4】
【0055】
【表5】
【0056】
【表6】
【0057】
表4および5から明らかなように、プロテアーゼのみを配合したハンバーグでは肉質が柔らかくなった反面、苦味が生じたが、ホスホリパーゼDをさらに配合することによって、肉質が柔らかくかつ苦味のないハンバーグを提供することができた。
【0058】
表6から明らかなように、苦味マスキング物質として公知のトレハロースまたはシクロデキストリンをさらに配合しても、肉質が柔らかくかつ苦味のないハンバーグを提供することはできなかった。
【0059】
(試験例2 豚もも肉浸漬試験)
試験酵素液80mLを1%(w/v)重曹溶液920mLに混合し、試験液を調製した。豚もも肉400gを試験液に浸漬し、冷蔵庫(5℃)にて2日間保存後、加熱し、肉の硬さおよび苦味を評価した。一方、豚もも肉を試験液に浸漬し、冷蔵庫(5℃)にて2日間保存後、試験液を除去し、さらに冷凍庫(−15℃)にて16日保存後、解凍(一晩常温)してから加熱し、肉の硬さおよび苦味を評価した。加熱法としては均一に加熱するため、豚もも肉をラップに包み電子レンジ(600W)にて5分間加熱した。結果を以下の表7〜9に示す。試験例1と同様に評価した。
【0060】
【表7】
【0061】
【表8】
【0062】
【表9】
【0063】
表7および8から明らかなように、プロテアーゼのみを配合した豚もも肉では肉質が柔らかくなった反面、苦味が生じたが、ホスホリパーゼDをさらに配合することによって、肉質が柔らかくかつ苦味のない豚もも肉を提供することができた。
【0064】
表9から明らかなように、苦味マスキング物質として公知のトレハロースまたはシクロデキストリンをさらに配合しても、肉質が柔らかくかつ苦味のない豚もも肉を提供することはできなかった。
【0065】
(試験例3 牛もも肉注入試験)
試験酵素液80mLを1%(w/v)重曹および0.2%(w/v)キサンタンガム溶液920mLに混合し、試験液を調製した。牛もも肉400gに試験液を注射器で注入し、冷蔵庫(5℃)にて2日間保存後、加熱し、肉の硬さおよび苦味を評価した。一方、牛もも肉に試験液を注射器で注入し、冷蔵庫(5℃)にて2日間保存後、さらに冷凍庫(−15℃)にて16日保存後、解凍(一晩常温)してから加熱し、肉の硬さおよび苦味を評価した。加熱法としては均一に加熱するため、牛もも肉をラップに包み電子レンジ(600W)にて5分間加熱した。結果を以下の表10〜12に示す。試験例1と同様に評価した。
【0066】
【表10】
【0067】
【表11】
【0068】
【表12】
【0069】
表10および11から明らかなように、プロテアーゼのみを配合した牛もも肉では肉質が柔らかくなった反面、苦味が生じたが、ホスホリパーゼDをさらに配合することによって、肉質が柔らかくかつ苦味のない牛もも肉を提供することができた。
【0070】
表12から明らかなように、苦味マスキング物質として公知のトレハロースまたはシクロデキストリンをさらに配合しても、肉質が柔らかくかつ苦味のない牛もも肉を提供することはできなかった。
【0071】
(試験例4 鶏胸肉浸漬試験)
豚もも肉に代えて鶏胸肉を用いたこと以外は試験例2と同様に試験した。結果を以下の表13〜15に示す。
【0072】
【表13】
【0073】
【表14】
【0074】
【表15】
【0075】
表13および14から明らかなように、プロテアーゼのみを配合した鶏胸肉では肉質が柔らかくなった反面、苦味が生じたが、ホスホリパーゼDをさらに配合することによって、肉質が柔らかくかつ苦味のない鶏胸肉を提供することができた。
【0076】
表15から明らかなように、苦味マスキング物質として公知のトレハロースまたはシクロデキストリンをさらに配合しても、肉質が柔らかくかつ苦味のない鶏胸肉を提供することはできなかった。
【0077】
(試験例5 各種食用ペプチドに対する苦味マスキング効果)
ホスホリパーゼD(PLD:ナガセケムテックス株式会社製Streptomyces cinnamoneum由来PLD)粉末4.4mg(2500U)を1200mLの水道水に溶解して、3.7μg/mLのPLD濃度を有する試験酵素液(2)を得た。
【0078】
表16に示すペプチド製品(粉末)をそれぞれ2gずつ量り取り、40mLの上記試験酵素液(2)(PLD含有)または水道水(PLD無し)にそれぞれ溶解し、凍結乾燥させた。なお、酵素液(2)を使用した系については、ペプチド製品溶解後に酵素反応(25℃、3時間)させた後に、凍結乾燥させた。
【0079】
得られたPLD含有およびPLD無しの凍結乾燥体について、10人の評価者が各ペプチド製品毎に試食し、PLD含有の凍結乾燥体またはPLD無しの凍結乾燥体のうち、いずれについて苦味を感じたかについて判定を行った。なお、両方について区別なく苦味を感じたという評価者は、両方という判定を行った。結果を表16に示す。
【0080】
【表16】
【0081】
表16から明らかなように、ホスホリパーゼDと共存させて処理したペプチド製品は、当該処理を行わなかったペプチド製品と比較して、苦味を感じた評価者の人数が著しく少ないものであり、ホスホリパーゼDはペプチド製品の苦味を抑えるマスキング効果に優れていることがわかる。
【0082】
(試験例6 改質卵黄に対する苦味マスキング効果)
予めホスホリパーゼA2で処理した改質卵黄50gに砂糖5gを混合した卵黄液R2〜R5を調製し、このうち卵黄液R3〜R5については、ホスホリパーゼD(PLD:ナガセケムテックス株式会社製Streptomyces cinnamoneum由来PLD)粉末をそれぞれ表17に示される添加量(15000U、5000U、1500U)となるように添加し、R2についてはホスホリパーゼDの添加を行わなかった。さらに、コントロールとして改質自体を行わなかった未処理の卵黄50gに砂糖5gを添加したのみの卵黄液R1を用意した。これら卵黄液R1〜R5を40℃で5時間反応させた。
【0083】
得られた卵黄液R1〜R5をそれぞれ2gずつ量り取り、58mLの水道水に溶解させ、ホモミキサーで5000rpmにて5分間撹拌した。次いで、得られた各卵黄液に140mLのサラダ油を1分間かけて添加し、さらにホモミキサーで5000rpmにて5分間撹拌し、得られたサンプルを冷蔵庫で3日間保管した。
【0084】
得られたサンプルについて、9人の評価者が試食し、苦味を感じた評価者の人数と苦味を感じなかった評者者の人数をカウントした。カウントした結果について、過半数の評価者が苦味を感じた場合の判定を「×」、過半数の評価者が苦味を感じなかった場合の判定を「○」として表17に示す。
【0085】
【表17】
【0086】
表17から明らかなように、ホスホリパーゼDで処理した卵黄液(サンプル番号R3〜R5)は、当該処理を行わなかった改質卵黄液(サンプル番号R2)と比較して、苦味を感じなかった評価者の人数が過半数を超えており、未処理卵黄液(サンプル番号R1)と同等の結果が得られ、ホスホリパーゼDは改質卵黄の苦味を抑えるマスキング効果に優れていることがわかる。また、このようなマスキング効果は、サンプル番号R3のように必ずしも多量のホスホリパーゼDを必要とすることなく、より少量のホスホリパーゼDを用いたとしても充分達成され得、苦味のマスキングを効率良く達成し得ることがわかる。