(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記左右の各サイドフレームと前記左右の各スライダとの連結支持部が、前記各サイドフレームの前後方向の略中央部から後縁部までの間に設けられていると共に、左右の連結支持部同士が軸部材により連結されており、
前記トラス状支持部が、
前記軸部材と、
前記複数のビームのうち、前記各サイドフレームの前後方向の略中央部から後縁部までの間に配設された2本のビームと、
前記2本のビームの各端部付近間、前記軸部材の各端部付近と前記2本のビームの各端部付近間をそれぞれ接続する節点間接続部と
により形成されている請求項1又は2記載の乗物用シート。
前記トラス状支持部を構成する前記各節点間接続部は、前記一方のサイドフレームを構成する複数の板状フレームの素材状態と比較して、前後方向の剛性が高くなるように形成されている請求項1〜3のいずれか1に記載の乗物用シート。
前記左右のスライダの後方寄りに配置された前記軸部材に一端が軸支された後部リンクを有すると共に、前記軸部材よりも前方寄りに配置された軸部材に一端が軸支された左右の前部リンクを有し、
前記左右の前部リンクの各他端が、前記各ビームのうち、前記クッションフレームユニットの前記左右のサイドフレーム間の前方寄りに掛け渡された前部ビームに軸支され、
前記左右の後部リンクの各他端が、前記2本のビームのうち、より後方側に配置される後部ビームに軸支され、
少なくとも一方のサイドフレーム側に、前記後部リンクの一端が軸支されている前記軸部材に一端が軸支され、他端が、前記2本のビームのうち、前記後部ビームよりも前方に位置する他のビームに軸支されたサブリンクが設けられ、
前記後部リンク及び前記サブリンクが、前記軸部材の各端部付近と前記2本のビームの各端部付近間をそれぞれ接続する節点間接続部になり、それにより前記トラス状支持部が形成されている請求項3記載の乗物用シート。
前記2本のビームのうち、左右いずれかのサイドフレーム側において、より後方側に配置される後部ビームの端部に、シートベルトのベルトアンカー部が支持されている請求項3記載の乗物用シート。
前記バックフレームユニットが前記クッションフレームユニットの左右の各サイドフレームを構成する前記複数の板状フレームに、リクライニング機構部を介して連結されている請求項1〜8のいずれか1に記載の乗物用シート。
前記バックフレームユニットが前記クッションフレームユニットの各サイドフレームを構成する複数の板状フレームのうちの一方に、前記リクライニング機構部を介して連結されており、
前記シートクッション部及び前記シートバック部に付加される力が、前記バックフレームユニットから前記リクライニング機構部を介して前記クッションフレームユニットの各サイドフレームを構成する複数の板状フレームのうちの一方を経て前記シートスライド装置に至る伝達経路と、前記クッションフレームユニットの各サイドフレームを構成する複数の板状フレームのうちの他方を経て前記シートスライド装置に至る伝達経路とに分散される構造である請求項9記載の乗物用シート。
前記リクライニング機構部を保持すると共に、前記クッションフレームユニットの各サイドフレームを構成する板状フレームに連結されるクッション用ブラケットと、前記バックフレームユニットの各サイドフレームに連結されるバック用ブラケットを備えたリクライニングユニットを有する請求項9又は10記載の乗物用シート。
前記クッションフレームユニットの各サイドフレームを構成する板状フレームと前記クッション用ブラケット、並びに、前記バックフレームユニットの各サイドフレームと前記バック用ブラケットが、それぞれ、一部を重ね合わせてボルト接合により連結されている請求項11記載の乗物用シート。
前記クッションフレームユニットの各サイドフレーム、前記バックフレームユニットの各サイドフレーム、前記リクライニングユニットの前記クッション用ブラケット、及び前記リクライニングユニットの前記バック用ブラケットのうち、少なくとも一部の部位が、閉断面形状で形成されている請求項11〜13のいずれか1に記載の乗物用シート。
前記バックフレームユニットの前記サイドフレームの上部間に位置する上部フレーム構造部に、上下方向に貫通するガイド孔が形成されていると共に、前記ガイド孔に挿通されるヘッドレストのヘッドレストポールの高さ調整を行うために調整機構が設けられており、
前記調整機構が、前記ガイド孔の内面のうちの後面に、前方に突出するように設けられ、前記ヘッドレストポールに長手方向に所定間隔をおいて複数形成された係合溝に係合するロック用板状プレートと、
前記ヘッドレストポールを前記ロック用板状プレートに係合する方向に付勢する弾性部材と
を有し、
前記ガイド孔は、前記ヘッドレストポールの直径よりも大きな内径で形成され、
前記弾性部材により前記ロック用板状プレート方向に付勢され、前記係合溝が前記ロック用板状プレートに係合しているロック状態から、前記ヘッドレストポールを前方に変位させると、前記弾性部材の弾性力に抗して前記ロック用板状プレートと前記係合溝との係合が解除され、高さ調整を実施可能な構成である請求項11〜14のいずれか1に記載の乗物用シート。
前記バックフレームユニットの前記サイドフレームの上部間に位置する上部フレーム構造部が、上部パイプ材と、前記上部パイプ材に嵌合される上部嵌合フレームとを備えてなり、
前記バックフレームユニットには、前記上部嵌合フレームに連結され、前記一対のサイドフレーム間に位置する背部支持部材を有し、
所定以上の圧力により、前記シートバック部用のクッション部材が押圧されることによって、前記背部支持部材が後方に押圧されると、前記上部嵌合フレームが前記上部パイプ材を中心に前方に回動し、前記上部フレーム構造部に支持されるヘッドレストが前方に変位する構造を有する請求項11〜15のいずれか1に記載の乗物用シート。
前記シートスライド装置を構成する前記各スライダは、ロアレールと、前記ロアレールに対して摺動し、前記クッションフレームユニットが連結されるアッパーレールと、前記各アッパーレールを前記各ロアレールに対して適宜のスライド位置でロックするロック機構とを有して構成され、
前記各ロック機構は、前記各アッパーレールに支持され、前記各ロアレールに形成された被係合部に係合するロック爪を有する弾性部材から形成された弾性ロック部材を備えてなり、前記弾性ロック部材が弾性支点となって前記各ロアレール及び前記各アッパーレールに前記弾性ロック部材の弾性が作用する構成である請求項1〜17のいずれか1に記載の乗物用シート。
前記シートスライド装置を構成する前記各スライダは、ロアレールと、前記ロアレールに対して摺動し、前記クッションフレームユニットが連結されるアッパーレールと、前記各アッパーレールを前記各ロアレールに対して適宜のスライド位置でロックするロック機構とを有して構成され、
前記各ロアレール及び前記各アッパーレールが、長手方向に直交する断面形状で中心に対して左右略対称に形成されており、
前記ロック機構が、前記各アッパーレールの両側に設けられ、そのそれぞれが前記各ロアレールに係合してロック可能な構成である請求項1〜18のいずれか1に記載の乗物用シート。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面に示した実施形態に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。
図1〜
図5は、本発明の一の実施形態に係る乗物用シート1の外観を示した図であり、
図6はその分解斜視図である。
図7〜
図44は、クッションフレームユニット10、リクライニングユニット20、バックフレームユニット30、シートスライド装置40等の詳細構造を示した図である。
【0029】
本実施形態の乗物用シート1は、
図1〜
図6に示したように、シートクッション部1Aを形成するクッションフレームユニット10と、シートバック部1Bを形成するバックフレームユニット30を有し、それらが、リクライニングユニット20により連結されている。
【0030】
クッションフレームユニット10は、
図7〜
図17に示したように、シートスライド装置40の左右に配置されたアッパーフレーム42,42にそれぞれ支持される2つのサイドフレーム11,11を有して構成される。各サイドフレーム11,11は、外側板状フレーム111,111及び内側板状フレーム112,112の内外2枚の板状フレームを有して構成されている。外側板状フレーム111,111は、所定の長さ及び幅を有する板状部材を用いて形成され、その長さ方向が前後方向に沿い、幅方向が上下方向に沿うように配置される。内側板状フレーム112,112は、外側板状フレーム111,111よりも長さ及び幅共に短い板状部材から形成され、全体として、外側板状フレーム111,111の前縁寄りに配置されている。
【0031】
外側板状フレーム111,111及び内側板状フレーム112,112が側面から見て重なり合っている範囲には、複数本のビーム121〜124が掛け渡される。すなわち、内側板状フレーム112,112の前部寄りであってかつその上部寄りに第1ビーム121が、内側板状フレーム112,112の前後方向略中央付近であってかつ上下方向略中央よりも若干上部寄りに第2ビーム122が、内側板状フレーム112,112の前後方向後部付近であってかつ上下方向で下部寄りに第3ビーム123が、内側板状フレーム112,112の前後方向略中央付近であって第2ビーム122よりも下部寄りに第4ビーム124がそれぞれ掛け渡し配設されている。
【0032】
これらのビーム121〜124は、長手方向各端部付近が、それぞれ内側板状フレーム112,112を貫通してさらに外側板状フレーム111,111を厚み方向に貫通して固定されている。従って、左右それぞれに配置される内側板状フレーム112,112及び外側板状フレーム111,111の組(サイドフレーム11,11)は、いずれも、各ビーム121〜124のうち、内側板状フレーム112,112及び外側板状フレーム111,111を貫通している部分間で、両持ちで支持された構造となっている。これにより、衝撃や振動によって付加された力が、左右の各内側板状フレーム112,112及び外側板状フレーム111,111にバランスよく分散して伝わる。
【0033】
外側板状フレーム111,111及び内側板状フレーム112,112が、このように両持ち支持構造となっていることにより、側面から見て両者が重なり合っている範囲は、外側板状フレーム111,111又は内側板状フレーム112,112の素材状態と比較して、前後方向の剛性の高い部位となり、強度も高くなる。また、両持ち支持している各ビーム121〜124の端部付近も、それらの中央部に比べて相対的に剛性の高い高剛性部となる。なお、このように相互に重なり合っている範囲における外側板状フレーム111,111及び内側板状フレーム112,112の部位の剛性を高く維持するために、この範囲では、前後に所定間隔をおいたバランスのとれた位置に少なくとも2本のビームを配設することが好ましく、本実施形態のように4本のビーム121〜124を配設することがより好ましい。
【0034】
外側板状フレーム111,111の後部は、内側板状フレーム112,112と側面から見て重なり合っていないが、この外側板状フレーム111,111の対向する後部間にも、第5ビーム125が掛け渡されている。第5ビーム125は、後述する後部リンク152,152を貫通した後、外側板状フレーム111,111の後部を貫通して固定されている。従って、第5ビーム125も各端部付近は、後部リンク152,152と外側板状フレーム111,111とを支持する両持ち支持構造となっており、この部分も相対的に剛性の高い高剛性部となっている。
【0035】
ここで、第5ビーム125の外側板状フレーム111,111の外面に露出している端部は、シートベルトのベルトアンカー部を支持するアンカー取り付け部125aとすることが好ましい。シートスライド装置40にシートベルトのアンカー取り付け部を設けた場合、リフタ機構部15によってクッションフレームユニット10が上下動した際に、シートベルトの締め付け具合が変化する。しかし、本実施形態のように、シートベルトのアンカー取り付け部125aを第5ビーム125の端部にすると、クッションフレームユニット10の上下動に拘わらずシートベルトの締め付け具合が一定となる。なお、シートベルトのアンカー取り付け部125aは、クッションフレームユニット10の後部付近において剛性の高い部位であればよく、第5ビーム125の端部に限られるものではないが、本実施形態の構成では第5ビーム125を利用することが望ましい。
【0036】
クッションフレームユニット10は、フロアに所定間隔をおいて左右に取り付けられるシートスライド装置40のアッパーレール42,42に連結されて配設される。具体的には、左右のサイドフレーム11,11に対応して、左右それぞれに前部及び後部リンク151,151,152,152を有すると共に、一方のサイドフレーム11側に後述する駆動リンク153を有し、他方のサイドフレーム11側に、後述するサブリンク154を有する。前部リンク151,151の他端(回転自由端)は、上記の第4ビーム124における、内側板状フレーム112,112と各連結位置よりも内側に軸支されている。
【0037】
左右の後部リンク152,152は、一端(下端)がシートスライド装置40のアッパーレール42,42の後寄りに掛け渡された軸部材152aの各端部にそれぞれ軸支されている。後部リンク152,152の他端(回転自由端)は、上記したように、第5ビーム125における、内側板状フレーム112,112と各連結位置よりも内側に軸支されている。
【0038】
左右のいずれか一方(本実施形態では右側)に配置される後部リンク152は、第5ビーム125との連結位置よりもさらに上方に延在する延長部152bを有しており、この延長部152bに駆動リンク153が軸支されている。
【0039】
ここで、一方のサイドフレーム11(本実施形態では右側)において、その前後方向中央部よりもやや前寄りの位置に、リフタ機構部のクラッチ部160が設けられている。具体的には、内側板状フレーム112にクラッチ部160の基部に外方に突出させたフランジからなる取付部160aを固定し、本体部160bを隣接する外側板状フレーム111に形成した貫通孔111aから外方に突出させて配置している(
図16及び
図17参照)。貫通孔111aから外方に突出している本体部160bには、操作部161が接続されており(
図2及び
図3参照)、操作部161が操作されると、外側板状フレーム111及び内側板状フレーム112の間に位置するクラッチ部160の出力ギヤ160cが回転する。外側板状フレーム111及び内側板状フレーム112の間には、出力ギヤ160cに噛合するようにセクタギヤ160dが配置されている。セクタギヤ160dには、駆動リンク153の先端部(回転自由端)が軸支されており、セクタギヤ160の回転に応じて、駆動リンク153が変位し、この駆動力が後部リンク152,152に伝達され、前部リンク151,51と共に変位し、クッションフレームユニット10全体を上下に変位させる。また、符号160fは渦巻きスプリングであり、その内端がセクタギヤ160dの回転軸160eに係合され、外端がセクタギヤ160dの端部に立設されたピン160hに係合されている。渦巻きスプリング160fは、クッションフレームユニット10を上昇させる方向にセクタギヤ160dを付勢している。なお、この付勢力は、クッションフレームユニット10を下降させる際には、その動作を緩衝するように機能する。
【0040】
また、
図14、
図16〜
図18に示したように、後部リンク152,152の一端は、アッパーレール42,42の後寄りであって、アッパーレール42,42の内側において軸部材152aに軸支されているが、軸部材152aのうち、左側のアッパーレール41の外側に突出している部位に、サブリンク154を構成するサブリンク用スライダ側部材1541が軸支されている。このサブリンク用スライダ側部材1541は、軸部材152aとの軸支位置を中心として略V字状になっており、その下側辺部1541aがアッパーレール41の外側に突出させたストッパ156に当接すると、上昇位置が規制されるようになっている(
図18(a))。サブリンク用スライダ側部材1541の上側辺部1541bには、サブリンク用スライダ側部材1541と共にサブリンク154を構成するサブリンク用クッション側部材1542の一端が軸支され、サブリンク用クッション側部材1542の他端(回転自由端)は第3ビーム123の端部に係合されている。従って、操作部161が操作され、クラッチ部160の駆動によって、前部リンク151,151及び後部リンク152,152が起立していくと、
図18(c)、
図18(b)及び
図18(a)の順で、サイドフレーム11,11が上昇していくが、その際、サブリンク用クッション側部材1542が徐々に起立していくため、サブリンク用スライダ側部材1541が軸部材152aとの軸支位置を中心として回動し、下側辺部1541aがストッパ156に当接し、それ以上の上昇動作がストップされる。
【0041】
クッションフレームユニット10のサイドフレーム11,11を構成する外側板状フレーム111,111及び内側板状フレーム112,112は、軽量化のため、薄い板状部材、例えば、板厚1.8mm以下のもの、好ましくは0.6〜1.6mmの範囲のもの、より好ましくは0.6〜1.2mmの範囲のもの、さらに好ましくは0.6〜1.0mmの範囲のものを使用することができる。また、引張強度400〜590MPaの範囲のものを用いることがコスト的、加工性向上のために好ましい。
【0042】
以上のことから、本実施形態のクッションフレームユニット10は、サイドフレーム11,11のうちの一方側、すなわち、左側のサイドフレーム11は、左側のスライダ40Aのアッパーレール42との連結支持部である、後部リンク152の一端及びサブリンク154のサブリンク用スライダ側部材1541が軸支されている軸部材152aと、後部リンク152の他端が軸支されている第5ビーム125と、サブリンク154を構成するサブリンク用クッション側部材1542の他端が軸支されている第3ビーム123とがそれぞれ節点となり、これらの節点と、各節点間を接続している節点間接続部とによりトラス状支持部が形成されることになる。この場合の各節点接続部とは、軸部材152aと第5ビーム125との間の節点間接続部が、左側の後部リンク152であり、軸部材152aと第3ビーム123との間の節点間接続部が、左側に配置されたサブリンク用スライダ側部材1541及びサブリンク用クッション側部材1542とにより構成されるサブリンク154であり、第3ビーム123と第5ビーム125との間の節点間接続部が両者間に位置する左側のサイドフレーム11(外側板状フレーム111及び内側板状フレーム112)の部位である。
【0043】
節点間接続部を構成する後部リンク152及びサブリンク154は、いずれも所定厚さ(例えば、厚さ2.0mm〜3.0mm)の金属板から構成され、薄肉の素材から構成される外側板状フレーム111及び内側板状フレーム11よりも肉厚で、高い剛性を有している。また、第3ビーム123と第5ビーム125との間の節点間接続部は、サイドフレーム11自体がその機能を果たすのであるが、第3ビーム123及び第5ビーム125間の間隔が、サイドフレーム11の前後方向長さの約半分前後かそれ以下であるため、両者間に位置する部位の剛性は、他の部位よりも前後方向に高くなる。但し、第3ビーム123及び第5ビーム125間の節点間接続部の前後方向の剛性をさらに高くするため、
図19及び
図20に示したように、第3ビーム123と第5ビーム125との間に補強リンク155を掛け渡し、これを、例えば図面に示したように、外側板状フレーム111の外面に積層するように配置することが好ましい。なお、補強リンク155は、外側板状フレーム111の内面側に配置することも可能である。また、サイドフレーム11、特に、外側板状フレーム111における第3ビーム123と第5ビーム125との間の節点間接続部を、熱処理により高剛性化することも可能である。また、熱処理を行った上で、さらに補強リンク155を積層することも可能である。
【0044】
一方、本実施形態では右側のサイドフレーム11は、上記した前部リンク151及び後部リンク152、並びに、前部リンク151及び後部リンク152の各一端が軸支される右側のスライダ40Aのアッパーフレーム42、前部リンク151及び後部リンク152の回転自由端である他端が軸支される右側のサイドフレーム11の組み合わせによる四節回転連鎖機構を介して支持されている。なお、後部リンク151の他端は、駆動リンク153に軸支されている。駆動リンク153は、前部リンク151及び後部リンク152と同程度の厚さで形成されている共に、リフタ機構部のクラッチ部160に連結されているため、剛性が高い。すなわち、右側のサイドフレーム11も前後方向の剛性が高くなっている。
【0045】
乗物用シートには、大きく分けると、シートベルトのベルトアンカー部を介して入力される前後方向の力と、道路の凹凸などに伴う垂直方向の力が入力される。従来、シートベルトのベルトアンカー部は、シートスライド装置に連結支持されているため、アッパーレールのロアレールへの固定を高い強度で固定できるロック機構を設け、このロック機構で前後方向の力を主に受けている。しかし、本実施形態では、ベルトアンカー部の連結支持部を上記したようにクッションフレームユニット10の第5ビーム125に設けている。従って、本実施形態の場合、クッションフレームユニット10で前後方向の力を受けなければならない。
【0046】
かかる場合、上記したように、左側のサイドフレーム11は、軸部材152a、第5ビーム125、第3ビーム123の各節点と、これらの節点間接続部である後部リンク152、サブリンク154、第3ビーム123及び第5ビーム125間の節点間接続部(特に、補強リンク155)とにより形成されるトラス状支持部で支持している。後部リンク152及びサブリンク154は、斜めに配置されていたり、あるいは、サブリンク用クッション側部材1542はほぼ前後方向に配置されている。また、補強リンク155は前後方向に沿って配置されている。従って、このトラス状支持部は、特に、前後方向の剛性を高める機能を担っている。一方、右側のサイドフレーム11は、上記したように、前部リンク151、後部リンク152、スライダ40Aのアッパーフレーム42、右側のサイドフレーム11自体、及び駆動リンク153により形成される四節回転連鎖機構により支持されている。この場合も、これらの構成部材が右側のサイドフレーム11の前後方向の剛性を高める機能を担っている。すなわち、本実施形態では、サイドフレーム11,11等を薄肉の素材で形成しているにも拘わらず、このトラス状支持部と四節回転連鎖機構によって前後方向の力に十分耐えることのできる剛性、強度を備えさせたことを特徴とする。また、垂直方向に入力される力は、後述のように、シートスライド装置40のアッパーフレーム42及びロアレール41の縦方向の断面で受け、さらに、ロアレール41に変形容易部を設定し、その変形容易部で力を吸収するようにしている。
【0047】
また、シートバック部1Bに入力される力は、後述のように、リクライニング機構部23,23よりも上方部での変形や、ヘッドレスト50の前後の動きによって吸収できるようにしている。
【0048】
また、左右の前部リンク151,151は、一端(下端)がシートスライド装置40の各スライダ40A,40Aのアッパーレール42,42の前寄りに掛け渡された軸部材151aの各端部にそれぞれ軸支されている。また、クッションフレームユニット10は、前部リンク151,151及び後部リンク152,152を介して、シートスライド装置40のアッパーレール42,42に力が伝達される構成であり、かつ、クッションフレームユニット10は幅方向中心を基準として左右ほぼ対称に形成されており、さらにシートスライド装置40を構成するロアレール41,41及びアッパーレール42,42は、後述のように断面方向で左右対称の形状となっている。そのため、クッションフレームユニット10にかかる力は、左右に均等に分散し、さらに、アッパーレール42,42に伝達される力はアッパーレール42,42にほぼ左右均等に作用する。つまり、アッパーレール42,42にかかる曲げモーメントは小さくなってせん断力で力を受ける構造となる。また、前部及び後部リンク151,152と他のリンク(駆動リンク153、サブリンク154、補強リンク155)を介して支持されており、それらが複数の軸を介して連結されている。従って、クッションフレームユニット10にかかる力は、複数のリンクで分散されて受けられると共に、複数の軸における回転摩擦力でエネルギー吸収がなされる。これらのことから、クッションフレームユニット10は、所定の剛性が保持された構造体となり、シートクッション部1Aにかかる力を各板状フレーム等の構成素材が薄くても十分に受けられるようになっている。
【0049】
なお、
図19及び
図20では、サブリンク154を左のサイドフレーム11側に配設しているのみであるが、
図21及び
図22に示したように右のサイドフレーム11側においても、一端を軸部材152aに軸支し、他端を第3ビーム123に軸支して、サブリンク154を設ける構成としてもよい。また、右側のサイドフレーム11を構成する外側板状フレーム111の外面に上記と同様に補強リンク155を積層した構成としてもよい。これにより、左側だけでなく右側もトラス状支持部が形成され、クッションフレームユニット10に印加される前後方向の力を薄肉の素材で構成したものでありながら、より確実に受け止め、より高い強度とすることができる。
【0050】
また、例えば、サイドフレーム11,11を構成する外側板状フレーム111,111及び内側板状フレーム112,112の適宜部位を熱処理し、例えば周縁部を熱処理したり、面に沿ってトラス形状に熱処理するなどして、必要箇所の強度をさらに高めることもできる。また、外側板状フレーム111,111及び内側板状フレーム112,112の周縁部は内方にフランジを突出させているが、そのフランジ部の端縁をヘミング加工することで薄肉素材の強度をさらに上げることもできる。
【0051】
リクライニングユニット20は、
図23〜
図25に示したように、左右にそれぞれ対向して配置される一対のクッション用ブラケット21,21と一対のバック用ブラケット22,22を有して構成される。これらは、いずれも上記のクッションフレームユニット10の外側板状フレーム111や内側板状フレーム112と同様の薄い板状部材から構成される。クッション用ブラケット21,21は、側面から見て、前方及び上方に突出する略L字状に形成され、互いに対向する角部21a,21a間に、第6ビーム211が掛け渡され、左右のクッション用ブラケット21,21がユニット化されている。角部21a,21aよりも前方部21b,21bは、クッションフレームユニット10におけるサイドフレーム11,11の外側板状フレーム111,111の後方部の内側に重ね合わせられ、前方部21b,21b内で前後に一定間隔をおいた2箇所においてボルト挿通孔21c,21cが形成され、それぞれボルト212によって外側板状フレーム111,111の後方部の上部寄りに対応して形成されたボルト挿通孔111c,111cに締結される(
図11〜
図13、
図16参照)。
【0052】
前方部21b,21bが外側板状フレーム111,111に重なり合った範囲は、2枚重ねになっているため、相対的に剛性が高くなり、力の伝達経路として機能する。また、ボルト接合することは、一般に、接合部が重なる分、部材コストが上がり、重量アップにつながると言われている。しかし、本実施形態では、上記のように、薄肉素材を使用しており、ボルト接合部での重なり程度ではコストの上昇や大幅な重量増加にはならない。むしろ、必要な部位で重なりを設けることで薄肉素材の剛性を高めることに寄与し、さらに、締結時におけるボルト212とボルト挿通孔21c,111cとの相対的な位置調整等により、部品寸法の多少のばらつきを吸収でき、部品を作りやすくすることで製造コスト全体の低減化に寄与するという利点がある。さらに、衝撃吸収時においては、ボルト212がボルト挿通孔21c,111cを変形させることによりエネルギー吸収作用も機能する。
【0053】
バック用ブラケット22,22は、所定の幅と長さを有し、長さ方向略中央部よりも下方の下方部22a,22aが、クッション用ブラケット21,21において上方に突出する上方部21d,21dと重なり合って、バック用ブラケット22,22の長さ方向略中央部よりも上方の上方部22b,22bが後述のバックフレームユニット30の各サイドフレーム31,31に重なり合うように配設される。
【0054】
クッション用ブラケット21,21及びバック用ブラケット22,22間には、リクライニング機構部23,23が取り付けられる。リクライニング機構部23,23は、
図25に示したように、バック側取付部材231,231、クッション側取付部材232,232を有し、それらの間に配置され、ギヤやカム等を内蔵するリクライニング本体部233,233を有している。バック側取付部材231,231がバック用ブラケット22,22の下方部22a,22aに形成された取付孔22c,22cを介して取り付けられ、クッション側取付部材232,232がクッション用ブラケット21,21の上方部21d,21dに形成された取付孔21e,21eを介して取り付けられる。バック用ブラケット22,22をクッション用ブラケット21,21に対して相対的に回転動作させようとする場合には、リクライニング用の操作部236(
図2及び
図3参照)を操作して、リクライニング本体部233,233に内蔵されたギヤやカム等の係合状態を解除する。これにより、シートバック部を前後に動かすことが可能となり、バック側取付部材231,231に支持されたものとクッション側取付部材232,232に支持されたものとが相対的に回転方向に動作する。操作部236がもとに復帰すると、所望の位置でのギヤの噛み合い動作等が生じ、傾動角度が固定される。
【0055】
バック用ブラケット22,22は、それぞれ、周縁部が内方に折り曲げられてフランジが形成されており、その内側に、リクライニング機構部23,23の復帰スプリング234,234が配置されている。復帰スプリング234,234は渦巻きスプリングから構成され、その外周側端部は、上記した第6ビーム211に取り付けられる係合用ブラケット211a,211aに係合され、内周側端部が取付孔22c,22cを介して、バック側取付部材231,231に係合される。これにより、バック側取付部材231,231が取り付けられたバック用ブラケット22,22は常に前方起立方向に付勢される。
【0056】
通常、復帰スプリング234,234は、クッション用ブラケット21,21の外側に取り付けられるため、外観デザインへの影響が出ていたが、本実施形態では、復帰スプリング234,234をバック用ブラケット22,22の内側に配置するようにしたため、復帰スプリング234,234による外観デザインへの影響はなくなる。
【0057】
バック用ブラケット22,22の内面側には、バック用ブラケット22,22の長さ方向(上下方向)略中央部付近から下部寄りの範囲において、周縁を外方に折り曲げたフランジを有する、上記と同様の薄肉の板状部材からなる補強ブラケット24,24が、フランジ側をバック用ブラケット22,22の各内面に対面させて配置されている。これにより、バック用ブラケット22,22の長さ方向略中央部付近から下部寄りの範囲は、補強ブラケット24,24とにより、閉断面形状を形成することになる。従って、この閉断面形状が形成された範囲の剛性が高くなる。なお、上記の復帰スプリング234,234は、バック用ブラケット22,22と補強ブラケット24,24に取り囲まれて閉断面形状となった空間に配設されるが、この空間は、リクライニングの駆動を電動化する際には、そのパワーユニット等を配設するために用いることもできる。
【0058】
左右のリクライニング機構部23,23同士は、連結軸235によって連結されている。より詳しくは、連結軸235は、左右の補強用ブラケット24,24の内面側から、復帰スプリング234,234の中央空間、さらに、バック用ブラケット22,22、バック側取付部材231,231、リクライニング本体部233,233、クッション側取付部材232,232、クッション側ブラケット21,21を通過して各端部は外方に突出している。そのうち、一方の端部には上記した操作部236が連結されている。左右のリクライニング機構部23,23は、連結軸235により連結されていることにより、ロック解除操作、復帰動作が同期して行われる。
【0059】
バック用ブラケット22,22及び補強用ブラケット24,24のうち、リクライニング機構部23,23が設けられている部位よりも若干上方の部位間には、第7ビーム25が掛け渡されており、上記した第6ビーム211,211と共に、リクライニングユニット20の剛性を高めている。
【0060】
バックフレームユニット30は、
図26〜
図28に示したように、所定間隔をおいて配置される一対のサイドフレーム31,31と、該サイドフレーム31,31の上部間に位置する上部フレーム構造部32と、該サイドフレーム31,31の下部間に配置される下部フレーム33とを備えてなる。
【0061】
本実施形態では、各サイドフレーム31,31及び上部フレーム構造部32を構成する連結フレーム部321が一体に形成されている。すなわち、所定の長さ及び幅を備えた薄肉の板状部材を略U字状に折り曲げ、3辺のうち一対の対向辺に相当する部位を上記一対のサイドフレーム31,31とし、このサイドフレーム31,31間の連結辺に相当する部位を連結フレーム部321としている。薄肉の板状部材としては、上記クッションフレームユニット10の外側板状フレーム111や内側板状フレーム112と同様の素材を用いることができる。また、長さ方向に沿った周縁部は内方に突出するように折り曲げられたフランジを有している。下部フレーム33は、同じく薄肉の板状部材からなり、サイドフレーム31,31の下部の後縁部間に溶接により取り付けられている。
【0062】
サイドフレーム31,31の長さ方向略中央部付近よりも下方寄りの部位31a,31aは、上記したリクライニングユニット20の各バック用ブラケット22,22の上方部22b,22bの外面に重ね合わせられて配設される。そしてこの重ね合わされた部分で、本実施形態では上部2箇所、下部1箇所の計3箇所において略V字状にボルト挿通孔31cが開設されている。また、バック用ブラケット22,22の上方部22b,22bにも、対応する位置においてボルト挿通孔22dが開設されており、各ボルト挿通孔31c,22dにボルト222(
図11及び
図12参照)が挿通されて締結される。ボルト222によって接合されることにより、当該部位における剛性が高くなる。また、ボルト接合構造とすることにより、部品寸法のばらつきを吸収できると共に、衝撃が加わった際にはボルト222が挿通されているボルト挿通孔31c,22dの変形によって衝撃力を吸収できる作用を果たすことは、上記したクッションフレームユニット10とリクライニングユニット20とを連結するボルト212の場合と同様である。
【0063】
バックフレームユニット30は、このような構成とすることにより、サイドフレーム31,31において、リクライニングユニット20のバック用ブラケット22,22とボルト222により接合されている下方寄りの部位31a,31aと、それよりも上方寄りの部位31b,31bとの間で剛性差が生じ、上方寄りの部位31b,31bが相対的に変形しやすい変形容易部となる。従って、衝撃力が加わった場合には、下方寄りの部位31a,31aとの境界付近から上方寄りの部位31b,31bが変形して吸収し、人体への損傷の低減に寄与する。また、より詳細には、リクライニングユニット20のリクライニング機構部23,23が設けられている位置よりも上方寄りの部位は、リクライニング機構部23,23の配設位置よりも変形しやすい。従って、衝撃力が加わった際には、このリクライニング機構部23,23が設けられている位置の上部付近で変形し、さらに、上記したサイドフレーム31,31の上方寄りの部位31b,31bが変形し、それにより衝撃力が吸収される。
【0064】
また、上記した構成により、シートバック部1Bに位置するバックフレームユニット30にかかる人の背部の荷重による力は、主に、サイドフレーム31,31からリクライニングユニット20のバック用ブラケット22,22及びクッション用ブラケット21,21に伝達される。クッション用ブラケット21,21は、クッションフレームユニット10のサイドフレーム11,11のうち、外側板状フレーム111,111のみにボルト接合されている。従って、クッション用ブラケット21,21からは、外側板状フレーム111,111に腰部から背部の荷重による力が伝達され、さらにその力は、外側板状フレーム111,111の対向する後部間に連結されている第5ビーム125を通じ、さらに、リフタ機構部15の後部リンク152,152、軸部材152aを介して、アッパーレール42,42に伝達され、シートスライド装置40によって受けられる。なお、クラッチ部160には、その基部が内側板状フレーム112,112に固定され、外側板状フレーム111,111は貫通しているだけであるため、腰部から背部を通じての力は付与されない。
【0065】
一方、シートクッション部1Aに位置するクッションフレーム20にかかる人の臀部から大腿部にかけての荷重は、主に、第1〜第4ビーム121〜124及び内側板状フレーム112,112に付加され、前部リンク151,151、軸部材151aを介するなどして、上記したトラス状支持部及び四節回転連鎖機構によって、アッパーレール42,42に伝達され、シートスライド装置40によって受けられる。
【0066】
このように、本実施形態によれば、腰部から背部を通じてバックフレームユニット30に入力される力と、臀部から大腿部を通じてクッションフレームユニット10に入力される力は、共に、最終的にシートスライド装置40に伝達されるが、その伝達経路が区別されている。また、前後方向に入力される力は、クッションフレームユニット10のサイドフレーム11,11自体、並びに、上記したトラス状支持部及び四節回転連鎖機構が主として受け持つと共に、それらのよって前後方向に分散され、さらに、左右にバランスよく配置された、各ビーム121〜124や外側板状フレーム111,111及び内側板状フレーム112,112によって左右にも分散される。また、上下方向に入力される力は、同様に前後左右にバランスよく分散されながら、シートスライド装置40のアッパーレール42及びロアレール41の各縦方向断面で主として受け持つ。これにより、リフタ機構部を構成するクラッチ部160が受け持つ支持荷重は相対的に小さくなり、本実施形態のように、片側だけに設ければよく、その点も、軽量化、低コスト化への貢献度が大きい。
【0067】
この点は、リクライニングユニット20においても同様であり、前後方向及び上下方向に入力される荷重が分散されやすい構造であるため、リクライニングユニット20の受け持つ支持荷重は従来よりも小さくなり、リクライニングユニット20を構成する各部材をより薄肉のものから構成し、軽量化を図ることができる。
【0068】
バックフレームユニット30の上部フレーム構造部32を構成する連結フレーム部321、並びに、該連結フレーム部321に隣接する、一対のサイドフレーム31,31と連結フレーム部321との境界部における、幅方向に隔てて内方に突出する一対のフランジ間には、補強用の樹脂部材322が装填され、連結フレーム部321付近の剛性を高めている。なお、本実施形態では、連結フレーム部321と補強用の樹脂部材322とを合わせて上部フレーム構造部32が形成されている。
【0069】
連結フレーム部321には、一対の貫通孔321a,321aが形成されているが(
図30参照)、この貫通孔321a,321aに対応する位置の樹脂部材322には、ヘッドレスト50の一対のヘッドレストポール51,51が挿通される一対のガイド孔322a,322aが上下方向に貫通形成されている。
【0070】
ガイド孔322a,322aには、ヘッドレストポール51,51の高さ調整を行うために調整機構が設けられている。調整機構は、
図28〜
図30に示したように、ロック用板状プレート36と弾性部材37とを有して構成される。ロック用板状プレート36は、ガイド孔322a,322aの内面のうちの後面であって、ガイド孔322a,322aの上部に、前方に突出するように設けられる。弾性部材37は、
図28〜
図30に示したように、バネ用の線材を、正面から見て略コ字状となるように形成されていると共に、一対の対向辺371,371は側面から見て上方ほどやや拡開する略U字状に形成されている。すなわち、対向辺371,371は、前方辺部371a,371aと後方辺部371b,371bを有する形状となっており、後方辺部371b,371bの上端間が連結辺372により連結された形状である。連結辺372は、その中央が前方に膨出する形状となっている。
【0071】
弾性部材37は、前方辺部371a,371aが、ガイド孔322a,322aの内面のうちの前面に当接可能に、かつ、連結辺372がガイド孔322a,322aの上方から外部に臨むように配設される。前方辺部371a,371aと後方辺部371b,371bは、上記のように上方ほどやや拡開するように形成されているため、ガイド孔322a,322a内に配置すると、連結辺372を後方に付勢することになる(
図30の実線位置)。連結辺372は、中央部が前方に膨出する形状となっているため、ヘッドレストポール51,51の前面側に連結辺372が当接するようにしてガイド孔322a,322aに挿通する。これにより、連結辺372が常に後方に付勢され、ヘッドレストポール51,51はそれに押圧され、常に後方に付勢されることになる。なお、ロック用板状プレート36と弾性部材37とを有してなる調整機構は、本実施形態のように、ヘッドレストポール51,51の両方に設けられていることが好ましい。片側のみにロックがある場合と比較して、衝突時におけるエネルギー吸収性能が高くなる。
【0072】
ここで、ガイド孔322a,322aは、ヘッドレストポール51,51の直径よりも若干大きな内径で形成されていると共に、上部ほどより内径が大きくなるように形成されている。また、ガイド孔322a,322aの内面のうちの前面側の下部には、突起351a,351aが設けられている。一方、ヘッドレストポール51,51の後面側には、長手方向に所定間隔をおいて複数の係合溝511,511が形成されている。
【0073】
従って、ヘッドレストポール51,51は、弾性部材37の連結辺372によって後方に付勢されているため、係合溝511,511がロック用板状プレート36に係合していると、その状態が保持される(
図30の実線位置)。高さ調整する際には、ヘッドレストポール51,51を前方に若干倒す力を加える。すると、ガイド孔322a,322aは上記のようにヘッドレストポール51,51の直径よりも内径が大きく、しかも上方ほど大きいため、ヘッドレストポール51,51は、突起351a,351aを支点として前方に若干倒れ、
図30の二点鎖線の姿勢となり、係合溝511,511とロック用板状プレート36,36との係合状態が解除される。この状態で、ヘッドレストポール51,51を上下動させ、ロック用板状プレート36,36に係合させる係合溝511,511の位置を調整し、前方に倒す力を除去すると、弾性部材37の連結辺372によって再び後方に付勢され、当該係合溝511,511とロック用板状プレート36,36とが係合し、
図30の実線の姿勢となりロックされる。このように、本実施形態によれば、ヘッドレストポール51,51を若干前方に倒す動作を行って、そのまま上下動させるだけで高さ調整を行うことができる。従来、ヘッドレストポールのロック解除のための操作部を設けるのが通常であるが、このヘッドレストの高さ調整機構ではそのような部材は不要であり、構造が簡易で低コスト化、軽量化を目的とする本実施形態の乗物用シートに特に適している。また、このように高さ調整を極めて簡単に行うことができるため、ヘッドレスト50の上部や側部などの適宜部位に開口部を有する取っ手や、布材の両端部を縫製して取り付けた取っ手などを設けることにより、片手で高さ調整を行うこともできる。
【0074】
シートスライド装置40は、
図31〜
図38に示したように、乗物のフロアに互いに幅方向に所定間隔をおいて取り付けられる一対のロアレール41,41と、各ロアレール41,41にスライド可能に設けられる一対のアッパーレール42,42とを有する一対のスライダ40A,40Aを有して構成される。
【0075】
ロアレール41,41は、底壁部411と、底壁部411両側から立ち上がる互いに対向する一対の側壁部412,412と、各側壁部412,412の上縁から互いに内方に曲げられていると共に、対向縁同士が所定間隔離間している一対の上壁部413,413とを有する断面略C字状の左右略対称に形成される。
【0076】
アッパーレール42,42は、長手方向に直交する方向の断面形状で、略L字状の部材42a,42aをそれぞれ背中合わせにして一体化し、一体化した状態の断面形状で略逆T字状となるようにして、中心に対して左右略対称にしている(
図37参照)。アッパーレール42,42の前方寄り及び後方寄りに取付孔421a,421bがそれぞれ貫通形成されており、前方寄りの取付孔421a,421a間に、上記した左右の前部リンク151,151の一端(下端)を支持する軸部材151aの各端部が取り付けられて支持される(
図7、
図8等参照)。後方寄りの取付孔421b,421b間に、上記した左右の後部リンク152,152の一端(下端)を支持する軸部材152aの各端部が取り付けられて支持される(
図5、
図7等参照)。
【0077】
ロアレール41,41及びアッパーレール42,42は、それぞれの部材の長手方向中心線(長手方向に直交する断面形状での中心を通過する線)を挟んで左右略対称に形成される。これにより、前部リンク151,151及び軸部材151aを介して伝達される力、並びに、後部リンク152,152及び軸部材152aを介して伝達される力は、いずれも、各部材に対して左右略均等に作用する。つまり、これらの力は主として上下方向の力であるが、この上下方向の力をいずれかに偏って受けるのではなく、左右略均等に分散して受けることができる構造である。この結果、ロアレール41,41及びアッパーレール42,42を構成する素材として、従来よりも薄肉のもの、例えば、板厚1.8mm以下のもの、好ましくは0.6〜1.6mmの範囲のもの、より好ましくは0.6〜1.2mmの範囲のもの、さらには0.6〜1.0mmの範囲のものを使用することができる。なお、これらを構成する素材としては、引張強度400〜590MPaの範囲のものを用いることが好ましい。これは加工に必要とするエネルギー量が少なくて済み、比較的小型のプレス機械で成形できるため、省エネルギーの要請に貢献でき、製造コストの低減に資するからである。また、入手の容易な一般的な材料であるため、世界の多くの国で材料調達が可能であり、生産国や生産拠点の拡大に寄与でき、結果的に本発明のシートスライド装置並びにこれを用いた乗物用シートの全体コストの低減に資するという利点もある。また、ロアレール41,41は、長手方向中央部を境として長手方向前後にも略対称に形成される。アッパーレール42,42も、前方寄りの取付孔421a,421aと後方寄りの取付孔421b,421bが、ともに上方に膨出したような形状とし、長手方向前後ができるだけ略対称になるように形成される。これにより、長手方向に係る荷重も長手方向全体に分散させやすくなり、薄肉材の適用に適している。
【0078】
ロアレール41,41及びアッパーレール42,42を薄肉のもので構成する場合、上下方向の衝撃力による変形は左右略均等の変形により近くなるようにし、かつ、アッパーレール42,42がロアレール41,41から所定の範囲の衝撃力で離脱しないような工夫が必要となる。
【0079】
そこで、本実施形態では、ロアレール41,41に対するアッパーレール42,42の相対的な位置を固定するロック機構43を、
図31及び
図32に示したように、各アッパーレール42,42の縦壁部421,421の両側に設けている。これにより、各アッパーレール42,42の縦壁部421,421を挟んで対称位置にあるロック機構43,43のロック爪433が、ロアレール41,41の上壁部413,413の被係合部にそれぞれ係合することになる。つまり、ロック時におけるロック爪433が係合している状態の姿勢及び係合力の作用方向も、左右略対称となるため、ロック時において偏荷重が生じにくくなっている。
【0080】
具体的には、
図37及び
図38に示したように、ロック機構43は、ロック機構43は、弾性ロック部材430とロック解除部材434を有して構成される。弾性ロック部材430は、弾性部材、典型的にはバネ鋼(板バネ)から形成され、アッパーレール42,42に固定される取付板部431と、取付板部431に支持され、アッパーレール42,42の各縦壁部421,421から離間する方向に常時付勢される弾性力を有すると共に、各縦壁部421,421から離間する方向に突出し、各ロアレール41,41における対向部位に長手方向に沿って複数形成された被係合部に係合するロック爪433を備えた作用板部432を有して構成される。ロック解除部材434は、作用板部432の弾性力に抗して、この作用板部432をアッパーレール42,42の縦板部421,421方向に変位させ、ロック爪433と各ロアレール41,41の被係合部との係合状態を解除する。ここで、弾性ロック部材は、厚さ0.6〜1.2mmの範囲の薄肉材を用いてなることが好ましい。より好ましくは、厚さ0.6〜1.2mm、さらに好ましくは厚さ0.6〜1.0mmの範囲である。
【0081】
弾性ロック部材430の取付板部431は、アッパーレール42,42の縦壁部421,421に沿う形状を有しており、リベットなどにより固定される。作用板部432は、
図38に示したように、取付板部431と一体であり、取付板部431の上縁から、各アッパーレール42,42の縦壁部421,421とは反対方向側にかつ下方に曲げられてなる。また、中途部に各アッパーレール42,42の縦壁部421,421から離間する方向に膨出する膨出部432aを有している。ロック爪433は、膨出部432aより下方の作用板部432の下縁付近を、縦壁部421,421から離間する方向に突出するように折り曲げられることにより櫛歯状に形成されている。なお、弾性ロック部材430を構成する取付板部431は、アッパーレール42,42の長手方向略中央部に設けることが好ましい。後述のように、弾性ロック部材430の弾性がアッパーレール42,42及びロアレール41,41に作用し、ロアレール41,41及びアッパーレール42,42を実質的に弾性変形可能として、振動や衝撃力によるエネルギーの吸収機能等を付与するが、その機能をより効率よく発揮させるためである。
【0082】
ロック解除部材434は、一端部を中心として他端側が上下に回動するように設けられ、作用板部432の外面に沿って回動しようとして膨出部432aに接すると、該膨出部432aを縦板部421,421方向に変位させることになる。これにより、ロック爪433は、縦板部421,421方向に変位するため、係合状態が解除される。各ロック解除部材434、すなわち、合計4つのロック解除部材434の各一端部は、左右のアッパーレール42,42間に掛け渡される連結軸435によって連結されている。従って、連結軸435のいずれか一端に連結した操作部435a(
図2及び
図3参照)を操作することにより、4つのロック解除部材が同期して動作し、ロックが解除される。
【0083】
ここで、各ロアレール41,41の各上壁部413,413は、各対向縁から、各側壁部412,412方向に向かって斜め下方に曲げられた下向き傾斜壁部414,414が延在する形状であり、上記した各ロアレール41,41の被係合部414a,414aは、この各下向き傾斜壁部414,414に、長手方向に沿って、櫛歯状のロック爪433の隣接する爪同士の間隔に合わせて複数形成された孔又は溝から構成される(
図31、
図32、
図38、
図39参照)。
孔又は溝からなる被係合部414a,414aは、長手方向に沿って数mmから十数mmの長さで形成され、かつ、長手方向に隣接するもの同士の間隔が数mmから十数mmとなるように形成される。従って、櫛歯状のロック爪433もこれに合わせた長さ及び間隔で形成される(
図38(d)参照)。
ここで、ロック爪433が対応する被係合部414a内に侵入しきらずに、中途半端に引っかかった状態を擬似ロック(あるいはハーフロック)状態というが、本実施形態では、ロック爪433の厚さが上記のように極めて薄い。そのため、ロック爪433が隣接する被係合部414a,414a間の部位に留まろうとしても、ロック爪433の先端面の接触面積が極めて小さいため摩擦抵抗が小さく、また、ロック爪433の有する弾性によりたわみ易いことから、被係合部414a,414a間の部位で留まることはむしろ極めて不安定な状態であり、着座者の僅かな体動やフロアからの僅かな振動等によって、被係合部433aに侵入する方向に誘導されやすい。また、上記の薄肉材からなるロアレール41,41及びアッパーレール42,42の弾性、さらには、後述するロアレール41,41の各端部付近に設けられる摺動用のローラ416,416bの転がり特性を含む諸特性も作用することから、これらの相乗作用によって、本実施形態のシートスライド装置1は、擬似ロック状態を生じにくいという特徴を有している。なお、この特徴については、さらに後述する。
【0084】
また、各アッパーレール42,42は、
図39(c)に示したように、略T字状の横壁部422,422の各外側縁部から縦壁部421に向かってそれぞれ斜めに立ち上がる上向き傾斜壁部423,423を有し、この上向き傾斜壁部423,423が、各ロアレール41,41の下向き傾斜壁部414,414の外側に位置するように設けられる。また、ロック爪433の形成位置に対応する各アッパーレール42,42の各上向き傾斜壁部423,423に、孔又は溝からなる補助被係合部423a,423aが形成されている(
図37及び
図39(e)参照)。この補助被係合部423a,423aは、ロック時において、ロック爪433が各ロアレール41,41の被係合部414a,414aを貫通した後に係合することで、ロック爪433を安定して係合状態で保持する。従って、この構成によっても、ロック時における左右略対称の安定した形態を維持する機能が果たされる。
【0085】
ロアレール41,41及びアッパーレール42,42を薄肉のもので構成するに当たって、アッパーレール42,42がロアレール41,41から所定の範囲の衝撃力で離脱しない工夫としては、本実施形態では、所定部位を他の部位よりも剛性の高い高剛性部となるようにしている。
【0086】
すなわち、各ロアレール41,41の各上壁部413,413における少なくとも各対向縁の所定幅の範囲(
図39(d)の符号Aで示した範囲(開断面部))を高剛性部としている。これにより、各アッパーレール42,42を各ロアレール41,41から離脱させる方向に所定以上の力が作用した際の、対向縁間の隙間の拡開を抑制できる。各上壁部413,413に高剛性部が形成される結果、各ロアレール41,41における底壁部411と各側壁部412,412との各境界付近から各側壁部412,412の上部を除いた範囲が、上壁部413,413の高剛性部よりも相対的に剛性の低い部位となる。従って、各アッパーレール42,42を各ロアレール41,41から離脱させる方向に所定以上の力が作用した際には、剛性の高い部位では圧力を分散し、相対的に剛性の低い部位が変形容易部となり、アッパーレール42,42がロアレール41,41から離脱さずに、該変形容易部が上下方向に伸びるように変形していく。これにより、高い衝撃力の吸収特性を発揮することができる。上記した高剛性部を形成する手段としては、熱処理によることが好ましい。シートスライド装置40の重量を増すことなく剛性を高くできる。
【0087】
また、高剛性部は、各上壁部413,413における各対向縁の所定幅の範囲(
図39(d)の符号Aで示した範囲)に加え、断面方向でこの所定幅の範囲を超えて各側壁部412,412の上部に至るまでの範囲(
図39(d)の符号B,Cで示した範囲)に形成される構成とすることが好ましい。但し、この場合、各上壁部413,413と各側壁部412,412との境界部付近(
図39(d)の符号Bで示した範囲)は、その内面側において、アッパーレール42,42との間にボールXが配設され、このボールXが該境界部内面を相対的に摺動する。このボールXが円滑に摺動するためには、境界部付近は多少の可撓性があることが望ましい。従って、各上壁部413,413と各側壁部412,412との境界部付近(
図39(d)の符号Bで示した範囲)は熱処理を施さないようにするか、あるいは、この境界部付近の厚み方向の外面側だけを熱処理し、内面側まで熱が伝わらないようにすることが好ましい。
【0088】
また、剛性を高めるために、アッパーレール42,42の縦壁部421,421の上縁(
図39(c)の符号Dで示した部位)、上向き傾斜壁部423,423の外側端縁(
図39(c)の符号Eで示した部位)等、適宜の端縁をヘミング加工することが好ましい。
【0089】
また、アッパーレール42,42の縦壁部421,421と、横壁部422,422における縦壁部421,421の両側に位置する部位との間に、傾斜表面を有する抜け止め部材424,424を設ける構成とすることが好ましい(
図39(e)参照)。これにより、アッパーレール42,42を各ロアレール41,41から離脱させる方向への力が作用した際に、抜け止め部材424,424の傾斜表面が各ロアレール41,41の下向き傾斜壁部414,414に当接するため、アッパーレール42,42の横壁部422,422の変形が抑制され、結果的に抜け止め抑制となる。
【0090】
ロアレール41,41の長手方向の各端部付近は、フロアにボルトなどを介して固定されるが、いずれか少なくとも一方の端部付近において、対向する一対の側壁部412,412と上壁部413,413のうちの少なくとも一方に、所定厚さの補強用板状部材415,415を積層することが好ましい(
図31〜
図34、
図37、
図39参照)。長手方向の各端部は、それよりも中央寄りの部位と比較して、上壁部413,413の対向縁間が開き易いが、補強用板状部材415,415を積層することにより断面係数が高くなって、対向縁間を開きにくくできる。また、補強用板状部材415,415は、長手方向のいずれの端部にも設けることが好ましい。これにより、ロアレール41,41は長手方向略中央部を境として、前後にも略対称となり、ロアレール41,41にかかる荷重をより効率よく分散できる。但し、いずれか一方に設ける場合には、後端部側に設けることが望ましい。シートベルトのアンカー取り付け部は、後端側に設けられる。従って、衝撃時に乗員が前方に飛び出す方向に大きく変位すると、シートベルトによって後端側が前方に引っ張られる力が加わる。そのため、後端側における対向縁間の拡開を特に抑制することが必要である。また、上記した熱処理による高剛性部は、両端の補強用板状部材415,415が配設されてない部位に設定することが好ましく、これにより、ロアレール41,41の上壁部413,413及び側壁部412,412の上部付近(開断面部)の長手方向全体が剛性の高い部位となり、荷重をロアレール41,41全体で受けて分散することが可能となる。また、それにより、各側壁部412,412の上部付近(開断面部)を除いた変形容易部の変形も、長手方向全体で生じ、衝撃力や振動によるエネルギーの吸収が効率よく行われる。換言すれば、ロアレール41及びアッパーレール42は、衝撃力の入力に伴い上下方向の入力荷重を利用して縦方向の断面係数を上げ、それにより、強度及び剛性を向上させる構成である。これにより、衝撃を受けて人が再びシートに衝突したときには高い剛性で人の体重を受けること、つまり、人を高い縦方向の断面係数を有する構造部材で確実に受け止めることができ、シートによる人の保護性能が向上する。
【0091】
ロアレール41,41の各端部付近には、摺動用のローラ416,416が支持される。このローラ416,416は、ロアレール41,41の底壁部411,411上にリテーナ417,417を介して配置される。ここで、底壁部411,411が薄肉の素材から形成されているため、底壁部411,411が平坦面の場合には面圧不足により比較的早くへたりが部分的に生じるおそれがある。そこで、
図15に示したように、底壁部411,411を、断面形状において、幅方向両端角部付近が断面R形状となって、一部が上方に突出する段差部411a,411aを有する構造とすることが好ましい。これにより、
図41に示したように、この段差部411a,411a上に、ローラ416,416が支持されることになる。段差部411a,411aの断面で見た場合に斜め上下方向に傾斜している部位によって支えられることになるため、へたりが生じにくくなる。なお、このような部分的なへたりは上記のようにローラ416,416によって生じるものであるが、本実施形態では、ロック機構43が弾性ロック部材430を備えており、それによって、ロアレール41,41及びアッパーレール42,42に弾性が付与されている。従って、仮に、上記のような部分的なへたりが生じた場合でも、ロアレール41,41及びアッパーレール42,42が弾性変形によってしなるため、着座者には、この部分的なへたりによるガタつきが感じにくい。
【0092】
シートクッション部1Aに配設されるクッション部材60は、
図42〜
図44に示したように、外側クッション部材61と内側クッション部材62とを有してなる。外側クッション部材61は、一対のサイドサポート部611,611と後部サポート部612とを有し、平面からみて略コ字状に形成されている。そして、一対のサイドサポート部611,611が、クッションフレームユニット10の各サイドフレーム11,11の内面と上縁に接するように支持され、後部サポート部612は、外側板状フレーム111,111の対向する後部間に連結されている第5ビーム125、及び、リクライニングユニット20の角部21a,21a間に掛け渡した第6ビーム211を被覆するように配置される(
図5及び
図6参照)。
【0093】
内側クッション部材62は、第1から第3ビーム121〜123上を被覆するように配置される。これにより、内側クッション部材62上の臀部乃至大腿部からの力は第1ビーム121〜第3ビーム123を通じて、内側板状フレーム112,112に伝達される。なお、
図5に示したように、第1ビーム121と第3ビーム123との間に二次元又は三次元の布帛部材63を掛け渡し、その上に内側クッション部材62を配置することが好ましい。
【0094】
外側クッション部材61及び内側クッション部材62の表面には、表皮材64が被覆され、表皮材64の周縁のうち側縁641は、サイドフレーム11,11の下縁に引き込まれて固定されると共に(
図1参照)、前縁642は、外側クッション部材61及び内側クッション部材62の前縁を通過して下側に引き込まれ、第2ビーム122に係合されて固定される(
図5参照)。後縁643は、リクライニングユニット20の連結軸235に掛け回されて適宜位置に固定される。表皮材64はこのようにして配設されるが、本実施形態では、外側クッション部材61と内側クッション部材62との2つのクッション部材から構成しているため、予め、それらの境界位置において、表皮材64と布帛部材63とを縫製や面ファスナーを用いて連結した上で、連結面に隣接して外側クッション部材61及び内側クッション部材62を装填する構成とすることが好ましい。これにより、外側クッション部材61と内側クッション部材62との間隙では表皮材64が相対的につり込まれ、つり込まれた部位が布帛部材63に連結されていることになり、シートクッション部のつり込みラインの形状をオームクリップなど金具を使用することなく設けることができる。また、表皮材64と布帛部材63とを縫製や面ファスナーを用いて連結して、予め、外側クッション部材61を挿入するための閉断面空間と内側クッション部材62を挿入するための閉断面空間を形成しておき、この形成された閉断面空間に各クッション部材61,62を挿入することが好ましい。挿入されるクッション部材61,62によって張力が付与されるため、非着座時において表皮材表面にしわが生じにくい。
【0095】
このように本実施形態のクッション部材60は、外側クッション部材61と内側クッション部材62とに分かれた状態で表皮材64で被覆されているため、両者が相対的に動きやすい。それにより、特に前後振動を吸収しやすくなる。クッション部材60はウレタン材から構成することが好ましいが、内側クッション部材62の方が外側クッション部材61よりも高密度の発泡ウレタンを用いることが好ましい。これにより、外側クッション部材61を変形させて内側クッション部材62が動きやすくなり、振動吸収特性が向上する。また、人が着座すると、表皮材64はたるむ。表皮材64がたるむと外側クッション材部61及び内側クッション部材62の特性が実質的に人の体表面との接触に影響する。すなわち、発泡ウレタン等からなる外側クッション部材61及び内側クッション部材62と人に体表面との接触面積(表皮材64を介しての接触面積)が増すことになるため、高い体圧分散性を発揮することができる。
【0096】
図5及び
図6に示したように、シートバック部1Bのクッション部材70は、バックフレームユニット30に取り付けられ、表皮材71により被覆されて配置される。なお、
図6の符号72は、体幹側部付近を安定して支持するために装着される体幹側部支持部材である。バックフレームユニット30の腰部付近では、
図5に示したように、必要に応じてランバーサポート80を設けたりすることができることはもちろん可能である。
【0097】
本実施形態によれば、クッションフレームユニット10のサイドフレーム11,11が外側板状フレーム111,111と内側板状フレーム112,112とを備え、さらに、左側のサイドフレーム11は、軸部材152a、第5ビーム125、第3ビーム123の各節点と、これらの節点間接続部である後部リンク152、サブリンク154、第3ビーム123及び第5ビーム125間の節点間接続部(特に、補強リンク155)とにより形成されるトラス状支持部で支持され、右側のサイドフレーム11は、前部リンク151、後部リンク152、スライダ40Aのアッパーフレーム42、右側のサイドフレーム11自体、及び駆動リンク153により形成される四節回転連鎖機構により支持されている。従って、このトラス状支持部と四節回転連鎖機構によって前後方向の力に十分耐えることのできる剛性、強度を発揮できる。従って、シートスライド装置40に至るまでの間で力を前後左右に分散して伝達することができる構成であり、従来よりも、薄肉の素材を使用して、クッションフレームユニット10、リクライニングユニット20、バックフレームユニット30、シートスライド装置40等を構成することが可能となり、軽量化、低コスト化に適している。その一方、各ユニットをボルト接合する構成とすることで、薄肉の素材同士を重ね合わせ、必要な部位の強度を高め、薄肉素材の欠点を解消した構成であり、さらに、各部材を前後左右略均等の形状として、最も剛性の高いシートスライド装置40まで均等に力が伝達されるようにした。その上で、シートスライド装置40に変形容易部を設定しているため、衝撃力の吸収機能の点で優れている。
【0098】
また、シートスライド装置40のロック機構43が弾性ロック部材430を備え、弾性ロック部材430の取付板部431がアッパーレール42,42に支持されている。そして、弾性ロック部材430の作用板部432に形成されたロック爪433がアッパーレール42,42の被係合部に係合している。従って、弾性ロック部材430の弾性が、アッパーレール42,42及びロアレール41,41に作用する。すなわち、高い降伏応力の弾性ロック部材430が弾性支点となってロアレール41,41及びアッパーレール42,42にその弾性が作用するため、ロアレール41,41及びアッパーレール42,42が実質的に弾性変形可能となり、特に上下方向から入力される振動や衝撃力によるエネルギーを吸収することができる。また、本実施形態では、アッパーレール42,42及びロアレール41,41を所定厚さ以下の薄肉材で形成されており、上記したように所定の部位に高剛性部を設定している。さらに、ロアレール41,41の両端部には補強用板状部材415,415が積層されている。従って、両端の補強用板状部415,415や高剛性部がいわば支持部となり、その支持部に対して相対的に変形容易となっている変形容易部を含む他の部位に特に弾性ロック部材430の弾性が作用する。それにより、アッパーレール42,42及びロアレール41,41は全体が弾性部材のように機能することになり、弾性ロック部材430、アッパーレール42.42及びロアレール41,41にかかる偏荷重を弾性変形しながら吸収する効果が高い。また、振動入力に応じてこれらの部材が弾性変形するため、アッパーレール42,42及びロアレール41,41が振動吸収部材としての機能を果たすことになり、シートスライド装置40を含む乗物用シート1全体の振動吸収特性の向上に貢献できる。
【0099】
また、アッパーレール42,42及びロアレール41,41は全体が弾性部材のように機能することにより、両者の製造誤差があっても、あるいは、ロアレール41,41に上記のような部分的なへたりが生じていたとしても、弾性変形によってそれらを吸収し、ガタつきやフリクションを低減し、スムースな動きを実現できる。なお、弾性ロック部材430は、上記したアッパーレール42,42及びロアレール41,41に効率よく弾性を作用させる弾性支点となるように、アッパーレール42,42の長手方向略中央部に設けることが好ましい。すなわち、アッパーレール42,42の長手方向略中央部が弾性変形の中心となるため、偏荷重の吸収、フリクションの低減、振動吸収、衝撃力の吸収等の作用が偏りなく円滑に行われる。
【0100】
さらに、バックフレームユニット30において、リクライニングユニット20のリクライニング機構部23,23の配設位置よりも上部を変形しやすくしているため、この変形によって、バックフレームユニット30に特に前後方向に作用する力によって人体が損傷を被ることを低減することができる。
【0101】
なお、上記各実施形態において用いたロアレール41,41は、弾性ロック部材43の弾性が作用することによって弾性変形可能となっているが、ロアレール41,41自体をバネ鋼から形成することも可能である。この場合も、上記と同様の振動吸収、衝撃力の吸収作用等を機能させることができるが、ロアレール41,41自体をバネ鋼から形成することにより、弾性変形の支点となる高剛性部や補強用板状部の設定を不要とすることができ、構造がより簡易となる。この場合のバネ鋼としては、板厚1.0mm以下、好ましくは0.6〜1.0mmの範囲の薄肉材を使用することが軽量化のために好ましい。また、ロアレール41,41として、780MPa以上の高張力鋼を用いることもできる。この場合、板厚1.0mm以下、好ましくは0.6〜1.0mmの範囲の薄肉材とすることで上記した弾性ロック部材の弾性を作用させることができる。また、このような高張力鋼を用いることで、上記した開断面部等における熱処理工程を省くことも可能となる。
【0102】
図45〜
図49は、本発明の他の実施形態にかかる乗物用シート800を示した分解斜視図である。この乗物用シート800は、クッションフレームユニット810の構成は上記実施形態と同様であるが、独立したリクライニングユニットを有しておらず、バックフレームユニット830に、リクライニング部820を設けている。
【0103】
リクライニング部820は、上記実施形態と同様のクッション用ブラケット821,821を有し、該クッション用ブラケット821,821はボルト8211によりクッションフレームユニット810のサイドフレーム811,811における外側板状フレーム811a,811aに接合されている。
【0104】
クッション用ブラケット821,821の内側には、上記実施形態と同様のギヤ、復帰スプリング等を備えたリクライニング機構部(
図25の符号23で示したリクライニング機構部と同じ構造)が配設されており、左右のリクライニング機構部は連結軸825により連結されている。リクライニング機構部のクッション側取付部材8232(
図25の符号232で示したクッション側取付部材と同じ構造)がクッション用ブラケット821,821に連結される。上記実施形態のようにバック用ブラケットを有していないため、リクライニング機構部823,823のバック側取付部材(
図25の符号231で示したバック側取付部材と同じ構造)がバックフレームユニット830のサイドフレーム831,831に直接連結される。
【0105】
バックフレームユニット830は、上記実施形態と同様の薄肉の板状部材から形成され、内方に突出するフランジを周縁に備えるサイドフレーム831,831と、サイドフレーム831,831の上部間に掛け渡し配設される上部フレーム構造部832を備えている。但し、上記実施形態のように薄肉の鋼板からサイドフレーム31,31及び連結フレーム部321を一体に略コ字状に折り曲げた構造ではない。サイドフレーム831,831、上部フレーム構造部832を別部材から形成している。
【0106】
サイドフレーム831,831は、その下部が上記したようにリクライニング機構部823,823のバック側取付部材に連結される。また、サイドフレーム831,831の長さ方向(上下方向)略中央部付近から下部寄りの範囲において、周縁を外方に向かって折り曲げたフランジを有する、上記と同様の薄肉の鋼等の板状部材からなる補強サイドフレーム834,834が、フランジ側をサイドフレーム831,831の各内面に対面させて配置されている。これにより、サイドフレーム831,831の長さ方向略中央部付近から下部寄りの範囲は、閉断面形状を形成することになり、この範囲の剛性が高くなる。従って、所定の衝撃力が加わった際には、サイドフレーム831,831のうち、補強サイドフレーム834,834との境界よりも上部の範囲が変形しやすくなって衝撃力に伴うエネルギーを吸収する機能を果たす。
【0107】
上部フレーム構造部832は、上記と同様の薄肉の素材からなり、サイドフレーム831,831の上部間に掛け渡される上部パイプ材8321と、この上部パイプ材8321に嵌め合わされる嵌合部8322aを下部に有する合成樹脂製の上部嵌合フレーム8322とを備えてなる。
【0108】
上部嵌合フレーム8322には、上下方向に貫通する一対のガイド孔8322b,8322bが形成されており、このガイド孔8322b,8322bに、ヘッドレスト850の一対のヘッドレストポール851,851が挿通される。なお、ヘッドレストポール851,851の高さ調整機構の構成は
図28〜
図30で示した上記実施形態の構成と同様である。
【0109】
また、バックフレームユニット830には、ランバーサポート880を設けている。このランバーサポート880はサイドフレーム831,831間に掛け渡したS字状のバネ部材881とこのバネ部材881の中央を境に左右対称に設けられる支持板状フレーム882,882とを有している。なお、ランバーサポート880の構造はこれに限定されるものではなく、種々のタイプのものを用いることができる。また、本実施形態では、略コ字状に形成され、対向辺部891,891の開口側の両端部891a,891aが上部嵌合フレーム8322における上部パイプ材8321との嵌合位置よりも手前に係合され、連結辺892がランバーサポート880を越えて、バックフレームユニット830の下部に位置するように配設されたバック用クッション部材70を支持する背部支持部材としてのワイヤ状バネ部材890がサイドフレーム831,831間に位置するように設けられている。
【0110】
本実施形態においても、独立したリクライニングユニットは備えていないものの、バックフレームユニット830に設けられたリクライニング部820のクッション用ブラケット821,821がボルト8211によりクッションフレームユニット810のサイドフレーム811,811における外側板状フレーム811a,811aに連結される構成である。また、トラス状支持部及び四節回転連鎖機構の組み合わせによってクッションフレームユニット810が支持されていることも同様である。従って、バックフレームユニット830に付与される背部の荷重は、主に、クッション用ブラケット821,821を介して外側板状フレーム811a,811aを通じて、シートスライド装置840の各アッパーレール842,842及び各ロアレール841,841に伝達され、シートクッション部のクッション部材860の内側クッション部材862を通じたて付与される臀部から大腿部の荷重は、主に、第1ビーム812a〜第3ビーム812c、内側板状フレーム811b,811b及び外側板状フレーム811a,811aを介してシートスライド装置840の各アッパーレール842,842及び各ロアレール841,841に伝達される。すなわち、付加される力を前後左右に分散できる構造であるため、薄肉の素材から構成することができる。その他の作用、効果も上記実施形態と同様である。
【0111】
なお、本実施形態では、上部嵌合フレーム8322における上部パイプ材8321との嵌合位置の手前側に、ワイヤ状バネ部材890の各端部891a,891aが係合されている。従って、衝撃力により着座者の背がシートバック部1Bに押しつけられた場合、バック用クッション部材70が該ワイヤ状バネ部材890の対向辺部891,891を後方に湾曲させるように押し込む。それにより、着座者の頭部、上体に生じる加速度が低減され、衝撃が緩和される。また、対向辺部891,891の湾曲により、各端部891a,891aが相対的に前方にせり出すため、上部嵌合フレーム8322は上部パイプ材8321を中心として、その上端縁が前方に回動し、下端縁が後方に回動する。それに伴って、上部嵌合フレーム8322に支持されたヘッドレストポール851,851が上部ほど先方にせり出すことになり、着座者の頭部の変位に追随でき、頭部への衝撃を緩和できる(
図53参照)。
【0112】
また、本実施形態では、上部フレーム構造部832を上部パイプ材8321に上部嵌合フレーム8322を嵌め合わせて配置するだけの構成であるため、連結フレーム部321、並びに、該連結フレーム部321に隣接する、一対のサイドフレーム31,31と連結フレーム部321との境界部における、幅方向に隔てて内方に突出する一対のフランジ間に補強用の樹脂部材322を装填する上記実施形態の上部フレーム構造部32と比較し、組み付け工程を簡素化でき、製造コストを低減できるという利点がある。
【0113】
図50〜
図53は、本発明のさらに他の実施形態を示した図である。この実施形態は、
図45〜
図49に示した実施形態とほぼ同様の構造であるが、背部支持部材としてのワイヤ状バネ材890に代えて、上部嵌合フレーム8322における上部パイプ材8321との嵌合位置の手前側と、ランバーサポート880の各支持板状フレーム881,881との間(
図52(b)及び
図53参照)に、上下方向に背部支持部材としてS字状のバネ部材(以下、「上下方向Sバネ」)890A,890Aを設けた点で相違する。
【0114】
上下方向Sバネ890A,890Aを有することにより、ワイヤ状バネ部材890を使用した場合よりも、バック用クッション部材70との接触面積が大きくなり、さらに、弾性作用面積が大きくなるため、着座者の頭部、上体の加速度低減、衝撃エネルギーの低減効果が高い。また、
図53に示したように、衝撃によって着座者の背が押し込まれると、ランバーサポート880と共に上下方向Sバネ890A,890Aが後方に変位し、上下方向Sバネ890A,890Aの上端が手前側に係合されている上部嵌合フレーム8322を、前方かつ下方に回転させる方向に、上部パイプ材8321を中心として変位させる。これにより、上部嵌合フレーム8322に支持されているヘッドレストポール851及びヘッドレスト850は、上部ほど前方に、すなわち、着座者の頭部に近づく方向に変位するため、衝撃時における頭部への衝撃を緩和できる。この点は、ワイヤ状バネ部材890を使用した場合も同様であるが、上下方向Sバネ890A,890Aを使用した方が、弾性作用面積が大きいため、より顕著にかかる機能を発揮する。
【0115】
図54〜
図58は、本発明のさらに他の実施形態を示した図である。この実施形態は、
図50〜
図53に示した実施形態とほぼ同様の構造であるが、上部フレーム構造部832の構造が異なる。すなわち、バックフレームユニット830のサイドフレーム831,831間の上部に、上下に2本の第1上部パイプ材8323及び第2上部パイプ材8324が掛け渡され、該第1上部パイプ材8323及び第2上部パイプ材8324の正面側から合成樹脂製の上部嵌合フレーム8325が装着されている。上部嵌合フレーム8325は、後面開口に形成され、上部に第1上部パイプ材8323が嵌合する嵌合部8325aを有し、下部に第2上部パイプ材8324が挿通される挿通部8325bを有している。実際の組立の際には、例えば、サイドフレーム831,831間に第1上部パイプ材8323を予め掛け渡しておき、次に、上部嵌合フレーム8325を、その嵌合部8325aに第1上部パイプ材8323が嵌め合わせて配置し、次に、第2上部パイプ材8324を一方のサイドフレーム831側から挿通部8325bに挿通して組み立てる。その後、第1上部パイプ材8323を抱え込むことができる環状部8326aを有する形状に形成された第1板バネ8326を後ろ側から前方側へと差し込み、環状部8326aで第1上部パイプ材8323を抱持し、環状部8326aの先端に突出形成され、互いに開く方向に付勢された突出片8326b,8326bを上部嵌合フレーム8325に係合させる(
図57(a),(b)参照)。
【0116】
また、上部嵌合フレーム8325と第2上部パイプ材8324との間に跨るように、第2板バネ8327が配設される(
図57(a),(d)参照)。第2板バネ8327は、
図58に示したように、第1上部パイプ材8323を中心として上部嵌合フレーム8325の上端縁が前方に、下端縁が後方に回動すると変形し、該上部嵌合フレーム8325を元の状態に復帰させる回転力を付与する復帰バネである。
【0117】
上部嵌合フレーム8325には、ヘッドレストポール851,851が挿通されるガイド孔8328b,8328bを有する上部側のガイド部8328,8328を一体に備えている(
図56、
図57(c)参照)。
【0118】
また、
図50〜
図53の実施形態と同様に、本実施形態では背部支持部材であるバネ材として上下方向Sバネ890A,890Aが配設されている。但し、上下方向Sバネ890A,890Aの上部890A1,890A1は、後方に折り曲げられており、この折り曲げられた上部890A1,890A1が、ヘッドレストポール851,851用の上部側のガイド部8328,8328の下方に形成され、上部側のガイド部8328のガイド孔8328b,8328bに連通するガイド孔を備えた下部側のガイド部8329,8329の外周に係合される。下部側のガイド部8329は、ヘッドレストポール851,851の下部側が挿通されていると共に、外周部に前方爪部8329aと後方爪部8329bを有しており、上下方向Sバネ890Aの上部890A1は、折り曲げられた前方側の部位890A1aが前方爪部8329aに係合し、後方側の部位890A1bが後方爪部8329bに係合するように配設される(
図55(b)、
図56、
図57(c)参照)。
【0119】
本実施形態によれば、人の背部がシートバック部に押し込まれる方向の力が付与されると、上下方向Sバネ890A,890Aが押し込まれる。これにより、上下方向Sバネ890A,890Aが、上部嵌合フレーム8325の下端縁を後方に変位させるため、上端縁は相対的に前方に変位しようとし、第1上部パイプ材8323を中心にして回動し、ヘッドレスト850が人の頭部に接近する方向に変位する(
図58の実線の状態から、二点鎖線の状態へと変位する)。この結果、ヘッドレスト850が頭部に近づくため、衝撃力を受けた際における人が被る傷害を低減することができる。この点は上記実施形態と同様であるが、本実施形態の場合には、上下方向Sバネ890Aの上部890A1がヘッドレストポール851,851の下部側において前方側から後方側へと回り込むようにして配設されているため、ヘッドレスト850が前方に変位する際の動きは、ヘッドレストポール851,851の下部側がヘッドレストポール851,851の後方側に位置する該上部890A1,890A1の後方側の部位890A1bによって下部側のガイド部8329,8329の変形が規制され、上部890A1の弾性によって緩衝されることになり、衝撃力の緩和効果が高い。また、ヘッドレスト850を後方から前方に直接押圧する力が加わった場合も、同様に、後方側まで回り込んでいる上下方向Sバネ890A,890Aの上部890A1,890A1の弾性によって衝撃が緩和される。さらに、ヘッドレストポール851,851及びヘッドレスト850を前方に変位させる力が除荷された際には、上記したように、第2板バネ8327の弾性によって、上部嵌合フレーム8325は元位置に復帰する方向に回動する。
【0120】
ここで、ヘッドレストポール851,851が挿通される上部側のガイド部8328,8328及び下部側のガイド部8329,8329は、上部嵌合フレーム8325の一部として合成樹脂により一体成形される。また、
図55(b)に示したように、ヘッドレストポール851,851には、上記実施形態と同様に、係合溝8511,8511が刻設されており、高さ調整機構のロック用板状プレート8336が係合して所定の高さに設定される。なお、図示しないが、
図26の符号37で示したものと同様の弾性部材が配置され、係合溝8511がロック用板状プレート8336に係合する方向に付勢している。一方、下部側のガイド部8329の後方爪部8329bには、上記したように、上下方向Sバネ890Aの上部890A1における後方側の部位890A1bが係合されている。この状態で、上下方向Sバネ890A1bが後方に押し込まれることによりヘッドレスト850が相対的に前方に変位するか、あるいは、ヘッドレスト850が直接後方から前方に押圧された場合に、上下方向Sバネ890Aの上部890A1における後方側の部位890A1bの弾性が、合成樹脂製の下部側のガイド部8329を介してヘッドレストポール851,851に作用し、ヘッドレスト850の前方への動き(ヘッドレストポール851,851の下部側の後方への動き)を緩衝する。この点は上記した通りであるが、いずれかの原因によるヘッドレスト850の前方への動きがより大きく生じた場合には、ヘッドレストポール851,851の下部側がより大きく第1上部パイプ材8323を中心にして後方に回動する。このとき、ヘッドレストポール851,851及び上下方向Sバネ890Aが共に金属製である一方、両者間に位置する下部側のガイド部8329が合成樹脂製であるため、上下方向Sバネ890Aの後方側の部位890A1bが、該下部側のガイド部8329を突き破り、ヘッドレストポール851,851に刻設されたいずれかの係合溝8511に係合する。従って、ヘッドレスト850を前方に変位させる力(ヘッドレストポール851,851の下部側を後方に回動させる力)が所定以上で、下部側のガイド部8329が破壊されるほどであっても、本実施形態によれば、ヘッドレストポール851,851の下部側には上下方向Sバネ890Aの上部890A1の弾性が作用し、その動きを緩衝することができる。
なお、本実施形態では、上下方向Sバネ890Aの上部890A1をヘッドレストポール851,851の前方側から後方側に掛け回しているが、ヘッドレストポール851,851を挟んだ前方側と後方側に上下方向Sバネ890Aの一部が位置すればよく、その配設の仕方は全く限定されるものではないことはもちろんである。
【0121】
また、本実施形態では、第2上部パイプ材8324を配設しているため、上記実施形態のパイプ材が1本の場合よりも、バックフレームユニット830の全体の剛性、強度が高くなり、より高い衝撃力に耐えることができる。
【0122】
その他の構成は、上記実施形態と同様であるが、
図54に示したように、クッションフレームユニット810の一方側のサイドフレーム811を支持するトラス状支持部を構成する補強リンク8155の配設例として、後部リンク8152の他端が掛け渡される第5ビーム8125と、外側板状フレーム8111aと内側板状フレーム811bとの間に位置する第3ビーム8123との間に掛け渡した態様を示している。この補強リンク8155が、
図19等で示した外側板状フレーム111の外面に積層される補強リンク155と同様に、2つのビーム間の節点間接続部として機能する。
【0123】
なお、
図56に二点鎖線で示したように、上部嵌合フレーム8325の開口された後面は、組み付けた後に、該後面をカバーするカバー部8325cを一体に成形しておくことが好ましい。
【0124】
図59〜
図61は、本発明のさらに他の実施形態を示した図である。この実施形態に係る乗物用シート900は、クッションフレームユニット910、リクライニングユニット920、バックフレームユニット930、シートスライド装置940等を有することは上記
図1〜
図44で示した実施形態と同様であるが、クッションフレームユニット910がリフタ機構部を備えていない点で上記実施形態と異なる。運転席、助手席のいずれでも使用可能であるが、リフタ機構部を備えていないため、通常は助手席に使用される。
【0125】
クッションフレームユニット910は、各サイドフレーム911,911が上記と同様の素材、すなわち薄肉の金属製の板状部材である外側板状フレーム9111及び内側板状フレーム9112から構成され、この薄肉の金属製の板状部材から構成される外側板状フレーム9111及び内側板状フレーム9112をストリンガーとして、これらに高い剛性を付与するため、外側板状フレーム9111及び内側板状フレーム9112が側面から見て重なり合っている範囲に、複数のビーム9121〜9125を、左右いずれの側においても、2枚の板状フレーム9111,9112を貫通して両者を両持ち支持する形態で配設している。この点も上記実施形態と同様である。
【0126】
但し、外側板状フレーム9111及び内側板状フレーム9112は、リフタ機構部を有していないため、上記実施形態と異なり、前縁付近から後縁付近に至るまで広範囲で重ね合わせており、第1から第4ビーム9121〜9124だけでなく、後縁側において第5ビーム9125も内側板状フレーム9112を貫通し、外側板状フレーム9111にまで掛け渡されている。これにより、クッションフレームユニット910の剛性が高くなる。
【0127】
クッションフレームユニット910は、シートスライド装置940の各アッパーレール942,942の前縁側では、連結板990,990を該各アッパーレール942,942の前縁付近と各内側板状フレーム9112,9112のすぐ内側に位置する第4ビーム9124の剛性の高い部位との間に掛け渡し、ボルト991,991により両者を固定している。各アッパーレール942,942の後縁側には、内側板状フレーム9112,9112の後縁側の下部を、ボルト992,992を介して固定している。このボルト991,991,992,992がアッパーレール942との連結支持部となる。従って、後部側では、ボルト992、第3ビーム9123及び第5ビーム9125によるトラス状支持部が、両側のサイドフレーム911,911に形成され、前部側では、ボルト911、第1ビーム9121及び第2ビーム9122によるトラス状支持部が、同じく両側のサイドフレーム911,911に形成されることになる。すなわち、本実施形態では、左右共に形成される複数のトラス状支持部にクッションフレームユニット910が支持されることになる。
【0128】
リクライニングユニット920は、リクライニング機構部923,923を介して前方側に延在するクッション用ブラケット921,921と上方側ないしは後方側に延在するバック用ブラケット922を有している。該クッション用ブラケット921,921がボルト9211によりクッションフレームユニット910のサイドフレーム911,911に連結される。但し、本実施形態では、後縁付近まで、外側板状フレーム9111と内側板状フレーム9112とが重なり合っており、クッション用ブラケット921,921は、外側板状フレーム9111と内側板状フレーム9112との間に挿入され、ボルト9211は、3枚の薄肉の金属製の板状部材を貫通するように配置され連結されている。従って、リクライニングユニット920はクッションフレームユニットに強固に一体化される。
【0129】
また、バック用ブラケット922、922は、
図9〜
図25等に示した実施形態と同様に、ボルト9222により、バック用フレームユニット930の各サイドフレーム931,931に連結される。なお、リクライニングユニット920のリクライニング機構部923の構造等は、上記した各実施形態と同様である。また、独立したリクライニングユニット920に代えて
図45〜
図53の実施形態のようなリクライニング部をバックフレームユニット930に設けた構成とすることも可能である。
【0130】
バックフレームユニット930は、上記実施形態と同様の薄肉の金属製の板状部材から形成され、内方に突出するフランジを周縁に備えるサイドフレーム931,931と、サイドフレーム931,931の上部間に掛け渡し配設される上部フレーム構造部932を備えていることは上記実施形態と同様である。なお、
図59〜
図61では、
図26〜
図28に示した実施形態のように薄肉の鋼板からサイドフレーム931,931及び連結フレーム部9321を一体に略コ字状に折り曲げた構造としているが、
図45〜
図53に示した実施形態のように、サイドフレーム931,931、上部フレーム構造部932を別部材から形成することができることはもちろんである。
【0131】
本実施形態の乗物用シート900は、リフタ機構部を有していないが、クッションフレームユニット910のサイドフレーム911,911が外側板状フレーム9111及び内側板状フレーム9112の2枚から構成されており、各板状フレーム9111,9112を貫き、左右それぞれの端部で両持ち支持するビーム9121〜9125が複数本配設されている。従って、上記各実施形態と同様に、薄肉の金属製の板状部材を用いた場合でも、クッションフレームユニット910の剛性を高くすることができ、軽量化に適している。
【0132】
また、バックフレームユニット930にかかる荷重は、リクライニングユニット920のバック用ブラケット921,921が外側板状フレーム9111及び内側板状フレーム9112の双方にボルトにより連結されており、双方に荷重が伝達されるが、このバックフレームユニット930にかかる荷重及びクッションフレームユニット910にかかる荷重が、いずれも、各ビーム9121〜9125を介して、外側板状フレーム9111及び内側板状フレーム9112に分散して伝達されて、シートスライド装置940で支持されることになる点は上記実施形態と同様である。すなわち、前後方向に入力される力や上下方向に入力される力が、上記した複数のトラス状支持部によって前後、左右に分散される構造であるため、バックフレームユニット910、リクライニングユニット920、及びバックフレームユニット930として薄肉の素材を用いることができ、軽量化に適している。
【0133】
なお、その他の作用、例えば、バックフレームユニット930に変形や上部フレーム構造部932の動きにより、頭部や上体への衝撃荷重を減少できること、あるいは、シートスライド装置940のロアフレーム941の変形により衝撃力を吸収できること等は、上記各実施形態と同様である。
【0134】
なお、上記した構造のうち、特に、ヘッドレストポールを若干前方に倒す動作を行って、そのまま上下動させるだけで高さ調整を行うことができる構成、上部フレーム構造部が前方に回動し、ヘッドレストを前方に変位させて衝撃力を吸収する構成は、いずれも、簡易な構成でありながら高さ調整等の必要な機能を備え、さらに衝撃力の緩和にも役立つため、軽量化を目的とする本発明の乗物用シートに採用すると好適であることはもちろんであるが、他の乗物用シートのヘッドレストや上部フレーム構造部として採用することも可能である。また、シートクッション部用のクッション部材として、外側及び内側に分割したクッション部材を用い、布帛部材上にそれらを配置して表皮材によって分割して被覆することで両者が相対的に動きやすくなるようにし、それにより振動を吸収しやすくする構成も、本発明の軽量化を目的とする乗物用シートに好適であることはもちろんであるが、他の乗物用シートに採用することも可能である。
【0135】
また、ロアレール41,41は、上記したように、底壁部411,411を平坦面ではなく、幅方向両端角部付近に断面R形状の部位を形成し、幅方向両側に上方に突出する段差部411a,411aを有する構造とすることが、薄肉材から形成しても、ローラ416,416を介して荷重がかかった際に、段差部411a,411aの斜め上下方向に傾斜している部位(断面縦長部)によって支えられることになるため、へたりが生じにくくなるため好ましい。また、ローラ416,416は、各段差部411a,411a間隔に相当する幅(ローラ416自身の軸心に沿った方向の長さ)と略同じかそれよりも若干幅広に形成されていることが好ましい。その一方で、この段差部411a,411a及び幅方向両端角部付近の断面R形状の部位411b,411bに加え、
図62(a)に示したように、ロアレール41,41の底壁部411,411の幅方向略中央部411c,411cが上方に膨出する形状となる張力が働く形状にプレス成形することがさらに好ましい。
【0136】
これにより、乗員の体重によって下方向に負荷がかかると、
図62(b)に示したように、アッパーレール42,42及びローラ416,416を介して略中央部411c,411cの位置が下降して底壁部411,411が平坦になる方向に変形する。この変形が生じると、断面略R形状の部位411b,411b及び段差部411a,411aの剛性が相対的に高いため、ロアレール41,41の上壁部413,413が閉じる方向に側壁部412,412が変形する。アッパーレール42,42の位置が若干下がるため、ボールXは、
図62(a)の状態よりも、
図62(b)の状態では、アッパーレール42,42の上向き傾斜壁部423,423のより上部寄りの部位に接することになる。それにより、上向き傾斜壁部423,423は内側に傾斜しているため、ボールXへの押圧力が若干弱くなり、ボールXは転動しやすくなって、摩擦が小さくなり、アッパーレール42,42の摺動はより円滑になる。従って、この構成によれば、乗員が乗った状態で前後にスライドさせる際には、ロアレール41,41の断面形状の弾性変形に伴って、ボールXとの間の摩擦が転がり摩擦となるためスライド方向に動きやすくなり、さらに上下方向に力が入力されたときにはロアレール41,41の断面形状は呼吸をするように動き、一点への集中荷重が多点への分散荷重となり、面圧が分散されてへたりにくい構造となる。すなわち、通常であれば負荷質量の増加に伴ってクーロン力が増加するが、この構成によれば、荷重が入ることによって上記のように転がり摩擦となるため、負荷質量の増加でクーロン力が小さくなるという特徴を備える。なお、この構造により、ボールXに代えて、合成樹脂製の摺動子を用いても、摺動時の摩擦を小さくできるという利点がある。
【0137】
その一方、アッパーレール42,42にかかる荷重が小さくなると、ロアレール41,41の底壁部411,411は略中央部411c,411cが膨出する形状に復元しようとする。従って、ロアレール41,41の底壁部411,411にこのような張力を付与した構造とすることにより、大荷重及び繰り返し荷重の入力に対してその復元力が作用してガタつきやへたりを防止でき、薄肉材であっても高い耐久性を発揮させることができる。
【0138】
従って、この構成によれば、上記のように、乗員が乗った状態で前後にスライドさせる際には、ロアレール41,41の断面形状の弾性変形により、ロアレール41,41とアッパーレール42,42との間のクリアランスの変化が生じ、それにより、ボールXとの間の摩擦が転がり摩擦となるため動きやすくなり、スライド方向への抵抗を非常に低く抑えることができる構造となっている。
図63は、2本のスライダにクッションフレームユニットを支持させた状態であって、スライダのロアレール41及びアッパーレール42の関係が
図62(a)の状態(ロアレール41の底壁部411の幅方向略中央部411cが上方に膨出している状態)となっている場合と、クッションフレームユニット上に60kgの錘を載せ、スライダのロアレール41及びアッパーレール42の関係が
図62(b)の状態(ロアレール41の底壁部411が平坦な状態)となっている場合について、前後にスライドさせ、その際のスライド力を調べた。なお、ここで使用したロアレール41及びアッパーレール42は、いずれも、厚さ約1.0mm、引張強度590MPaの鋼材である。また、ロック機構43の弾性ロック部材430は厚さ0.8mmのバネ鋼を用いている。
図63において、横軸のスライド位置は、ロアレール41に対するアッパーレール42のスライド可能長さの中間位置(0mm)から前後にスライドさせた離間距離を示し、スライド力は、アッパーレールをロアレールに対して一定速度でスライドさせるために付加した各測定位置における力である。60kgの錘を載せていない場合のスライド力は約16〜19Nの間であったが、60kgの錘を載せた場合にはスライド力が約6〜12Nになっておりスライド時の摩擦抵抗が大幅に低下していた。従って、上記したように、乗員が乗っている場合にはスムースにスライドする一方で、荷重が小さくなれば、幅方攻略中央部411cが膨出方向に復元するため、ガタつきやへたりを防止できることがわかる。
スライド力の低下(スライド時の摺動抵抗の低下)をさらに
図64のように測定した。
図64(a)に示したように、アッパーレール42をバイスに固定し、ロアレール41を上側にして該ロアレール41の裏面上に錘を載せ、ロアレール41をアッパーレール42に相対移動させ、スライダ1本のときのスライド力を測定した。ロアレール41上に錘を載せていない状態(0kg)、10kgの錘を載せた状態、20kgの錘を載せた状態及び30kgの錘を載せた状態について、それぞれ所定の測定位置でのスライド力を測定した。結果を
図23(b)に示す。図において、「実施形態」は
図63の試験で用いたシートスライド装置の片側のスライダのデータである。「比較例1」及び「比較例2」は市販車で採用されているシートスライド装置の片側のスライダのデータである。なお、比較例1のシートスライド装置は、ロアレール及びアッパーレールを、引張強度980MPa、板厚約1.4mmの高張力鋼から形成し、ロック機構のロック部材として、引張強度590MPa、板厚約2.3mmの普通鋼からなるものを使用し、比較例2のシートスライド装置は、ロアレール、アッパーレールを、引張強度590MPa、板厚約1.8mmの普通鋼から形成し、ロック機構のロック部材として、引張強度590MPa、板厚約2.3mmの普通鋼からなるものを使用している。また、比較例1,比較例2のいずれも、本実施形態のように、ロアレール41の底壁部411の両側に断面R形状の部位411bを有さず、断面略中央部411cが上方に膨出していない形状である。また、比較例1は断面W型形状で、ロアレールの側面に摺動用のボールが配設されており、比較例2は断面W型形状で、ロアレールの底面に摺動用のボールが配設された構造である。
図64(b)に示したように、本実施形態で用いたスライダは、10kg、20kg、30kgと、錘が重くなるほどスライド力が低下しているのに対し、比較例2は、錘が重くなるほどスライド力が上昇している。まず、比較例2の場合、ロアレール及びアッパーレールの板厚が厚いため、材料の降伏点が低く、両者間に位置するボールとのクリアランスによりスライド方向の抵抗力が変化する。また、いずれも摺動用のボールはロアレール又はアッパーレールの長手方向に形成された溝内に位置するように設けられており、ロアレール及びアッパーレールの相対移動によって、断面方向の位置が変化することのない構造である。すなわち、本実施形態では、上記したように荷重変化に伴ってボールXの断面方向の位置が変化し(
図62参照)、スライド方向の抵抗が軽減するが、比較例2ではそのようなことがない。このため、荷重の増加に伴って摩擦抵抗が増し、スライド方向の抵抗力が高くなる。一方、比較例1は、ロアレール及びアッパーレールとして高張力鋼を用いている。摺動用のボールの位置が荷重によって変化しない点では比較例2と同様であるが、高張力鋼を用いているため、荷重変動をアッパーレールの縦壁部及びロアレールの側壁部の弾性によって吸収しようとする。そのため、比較例1のスライド力は、比較例2のような荷重依存性はなく錘の重量が増してもほぼ一定である。しかし、本実施形態のようにロアレール41の断面形状が変化する(上記のように底壁部411が膨出形状から平坦な形状に変化する)構造ではないため、荷重増加に伴ってスライド方向の抵抗力が低下するという現象は生じない。従って、本実施形態は、比較例と比べて、乗員が、着座状態のまま、軽い力でスライド操作できることがわかる。
【0139】
(実験例)
図54〜
図58に示した実施形態に係るクッションフレームユニット810及びバックフレームユニット830を組付けてなるシートフレームに、クッション部材を配置して表皮材で被覆した乗物用シートについて、前面衝突及び後面衝突を模擬した実験を行った。
【0140】
なお、自動車用シートは運転席で一般に18kg前後で、そのうちシートフレームの占める重量は約14kgであるが、本実験例で用いたシートフレームは約11kgで、約3kg軽量化されていた。また、スライダは片側当たりの重量で従来品は約1.3kgであるが、本実験例で用いたものは0.9kgであった。
【0141】
前面衝突時の人体の挙動は
図65(a)の右図に示すとおりであり、前面衝突を模擬した実験はこの挙動を再現すべく、
図65(a)の左図のように、シートベルトのショルダストラップとラップストラップに、それぞれ前方に約15kNの荷重を同時にかけると共に、シート質量の約20倍の荷重をシートクッション部の重心位置に前方斜め下方となるようにかけることにより行った。
【0142】
後面衝突時の人体の挙動は
図65(b)の右図に示すとおりであり、後面衝突を模擬した実験はこの挙動を再現すべく、
図65(b)の左図のように、シーティングリファレンスポイント(R点)回りに約500N・m以上のモーメントをバックパンを用いて負荷することにより行った。
【0143】
前面衝突を模擬した実験の結果が
図66であり、左図がシートをスライダ最前端位置に設定したときの実験結果で、右図がスライダ最後端位置に設定したときの実験結果である。図中、「従来」は、従来一般に用いられている運転席用のシート(シートフレーム重量約14kg)のデータであり、「AD
2」が本発明のシート(シートフレーム重量約11kg)のデータである。通常、「従来」で示したシートのように、スライダ最後端位置の耐荷重値が最前端位置よりも小さくなるが、「AD
2」では両者がほぼ同じ耐荷重値を示した。これは、本発明の構造が力をバランスよく受け止めることができることを示すものである。
【0144】
後面衝突を模擬した実験の結果が
図67である。この図に示したように、本発明の「AD2」の方が、軽量であるにも拘わらず、「従来」シートよりも後方モーメント強度が高くなっている。これも、本発明の構造が力をバランスよく受け止めることができることを示している。
【0145】
図68は、前面衝突を模擬した実験を行った際のスライダの断面形状を示したものである。実験前と比較して、
図31〜
図40に示した符号を参照すると、上記のように弾性が付与されたロアレール41は、底壁部411と側壁部412の角部、及び、側壁部412と上壁部413の角部が縦方向に延びるように変形し、より平坦に近くなっている。一方、アッパーレール42は、横壁部422が横向きからやや縦向きとなる方向に変形しているが、ロアレール41から抜けることなく、とどまっている。すなわち、ロアレール41及びアッパーレール42のこのような変形により、薄板で軽量であるにも拘わらず、衝撃力によるエネルギーを吸収することができる。
【0146】
以上のことから、本発明の構造によれば、力の伝達経路が明確となり、その経路に力をいなすリンク構造を有し、かつ、力をバランスよく受け止めるビーム・ストリンガー構造を備えて、スライダ等の個々の部材もシンメトリー構造、両持ち構造を基本としてせん断力で力を受けるようにしているため、薄板材を用いた軽量構造であるにも拘わらず、高い耐荷重性能を発揮できる。
【0147】
なお、上記したように、本発明で用いたシートスライド装置は、ロアレール41が薄肉の素材から形成され、また、ロアレール41の底壁部411の両側に断面R形状の部位411bを有し、好ましくは、それらの間の断面略中央部411cが上方に膨出している形状であると共に、アッパーレール42とロアレール41との間に配設されるボールXに加えて、ロアレール41の底壁部411にローラ416を配置している。このため、上記のように、スライド力が一般のシートスライド装置と比較して大幅に低いという特徴を有しているが、これに加え、次のような特徴も有しているので補足する。
【0148】
すなわち、ロック機構43が薄肉のバネ鋼からなる弾性ロック部材430を備えている。この弾性ロック部材430は、上記のように、アッパーレール42への取付板部431に作用板部432及びロック爪433が一体に形成されており、このロック爪433がロアレール41に形成された孔又は溝からなる被係合部414aに係合する。すなわち、作用板部432は取付板部431に対して離間する方向に付勢され、ロック爪433が常に被係合部414aに係合する方向に付勢されているが、ロック爪433のこの付勢力は、作用板部432に、一体に形成された取付板部431から離間する方向に弾性が作用するためである。仮に、ロック爪433を備えた作用板部432が取付板部431と一体に形成されていないとすると、作用板部432及びロック爪433を付勢するために、例えば、作用板部432の基端部に軸部材を設け、さらにこの軸部材を回転させて付勢するためのバネ部材が別途必要となる。その結果、作用板部432及びロック爪433を付勢するための機構部における抵抗によって構造減衰が生じる。しかし、取付板部432に作用板部432及びロック爪433が一体に形成された本実施形態の場合には、そのような構造減衰を生じることがないため、作用板部432の復元力によるロック爪433の係合動作がロスなく速やかに行われる。そのため、ロック爪433が、対応する被係合部414aの位置に至ると速やかに係合方向に付勢され、中途半端に引っかかった擬似ロック(あるいはハーフロック)状態となることが極めて少ない。
また、弾性ロック部材430は薄いため、作用板部432及びロック爪433はその前後方向にも弾性が作用すると共に、ロック爪433がたわみやすい。これにより、ロックの際には、ロック爪433は被係合部414aにたわみを伴いながら容易に侵入することができ、この作用も、擬似ロックの抑制に役立つ。
【0149】
また、ロック解除部材434は、弾性ロック部材430の作用板部432が開こうとするため、それによって一端部を中心として上方に回動する方向に付勢されており(
図39及び
図40参照)、ロック解除時は、下方に回動させて膨出部432aを押圧するが、ロック時においては操作している手を離すと、上方向に回動して原位置に復帰する。このとき、ロック解除部材434としても薄肉のものを用いることにより、慣性モーメントが小さくなり、回動速度も速くなり、上記した擬似ロック状態の中途半端な位置で回転動作が止まってしまうことを防ぐのに役立つ。従って、ロック解除部材434を構成する部材も、板厚1.8mm以下のもの、好ましくは0.6〜1.6mmの範囲のもの、より好ましくは0.6〜1.2mmの範囲のもの、さらには0.6〜1.0mmの範囲のものを使用することが好ましい。
【0150】
上記したスライド力(スライド時の摩擦抵抗)が小さいこと、ロック機構43がバネ鋼からなる弾性ロック部材430を備え、ロック爪433の被係合部414aの係合が速やかに行われること、さらに、薄肉の作用板部432及びロック爪433によって前後方向のズレを吸収できること等から、上記実施形態で採用したシートスライド装置(ロアレール41の断面形状が
図62と同様のもの)は、基本的に、ロック爪433が被係合部414aに侵入しきらずに、中途半端に引っかかった擬似ロック(あるいはハーフロック)状態となることが少ない構造であるとともに、仮に、そのような擬似ロック状態になっていたとしても、フロアからの振動や乗員の僅かな前後移動等により、速やかに擬似ロック状態が解消されるという特性を有する。この点を明らかにするため、ロック爪433が、ロアレール41の孔又は溝からなる被係合部414aに係合させない状態、すなわち、ロック爪433が隣接する被係合部414a,414aの間に位置している状態にしておき、その状態で加振した場合、人が着座した場合に、ロック爪433が被係合部414aに係合してロックするか否かについての試験を行った。
【0151】
試験は、
図69(a)に示したように、シートスライド装置1に自動車用のシートを支持し、加振機の定盤上にセットして行った。その結果が
図69(b)〜(e)であり、このうち
図69(b)〜(d)は、
図63及び
図64の試験で用いたものと同様の構成の3台のシートスライド装置の試験結果であり、
図24(e)は
図64の比較例1の試験結果である。「上下加振」は、3〜17Hzで上下方向に振動を入力した際のデータである。「スライド角」は、ロアレール41の傾き角度(0°、3°、6°に設定)である。「G」は入力加速度(0.1、0.3、0.5に設定)を示し、加重はシートクッション上に載置した錘の重さ(20kg、40kg、60kg)である。「普通着座」はシートクッション上に人着座した際の試験結果であり、「尻下=50」は、臀部から座面までの距離50mmの位置から静かに着座した場合、「尻下=100」は、臀部から座面までの距離100mmの位置から静かに着座した場合、「尻下=150」は、臀部から座面までの距離150mmの位置から静かに着座した場合の結果を示す。また、
図70は、上下加振の試験において、擬似ロック状態が解消して正常なロック状態になった場合と、擬似ロック状態が解消せず正常なロック状態にならなかった場合についてまとめて示したものである。
【0152】
まず、「上下加振」の結果では、本実施形態の場合、
図69(b)〜(d)及び
図70に示したように、G=0.3、G=0.5では、いずれのスライド角においても、20〜60kgの加重を付加した場合、全てのケースでロック爪433が被係合部414aに正常にロックし、擬似ロックは解消していた。また、
図69(b)〜(d)に示したように、G=0.1の場合でもスライド角3°以上ではほぼ擬似ロックが解消していた。また、擬似ロック解消時の周波数は、共振周波数f0=1/(2π√(m/k)により算出したところ、全て共振点未満の値であった。
比較例1の場合、
図69(e)及び
図70に示したように、擬似ロックが解消したのは、ウェイト40kg及び60kgの場合であって、加速度G=0.3及びG=0.5で、スライド角6°の条件下の4例のみであった。
図69(e)において、G=0.1、加重40kg及び60kg、スライド角3°及び6°の条件下で記載されている周波数、G=0.3、加重40kg及び60kg、スライド角3°の条件下で記載されている周波数、G=0.5、加重40kg、スライド角3°の条件下で記載されている周波数、G=0.5、加重60kg、スライド角0°及び3°の条件下で記載されている周波数は、いずれも共振周波数以上の値であった。すなわち、
図69(e)は、これらの条件下においても所定の周波数で擬似ロックが解消されたということであるが、解消時の周波数はいずれも共振周波数以上であり、共振によって錘が大きく上下に変位したため、つまりフロアから入力される振動以外の外力が付与されたために擬似ロックが解消されたものである。そのため、
図70では、これらの条件は擬似ロックが解消されない場合として表示した。
【0153】
「普通着座」の試験では、
図69(b)〜(d)の上記実施形態で採用したシートスライド装置は、全ての条件でロック状態になったが、
図69(e)の比較例2では、臀部から座面までの距離50mm(尻下=50)、100mm(尻下=100)で、スライド角0°では、ロックしない場合があった。
【0154】
これらのことから、上記実施形態で採用したシートスライド装置は、フロアからの僅かな振動入力、あるいは、着座時等における僅かな力の変化があれば速やかにロックされ、擬似ロック状態になりにくい特性を有することがわかった。すなわち、ロック爪433が、ロアレール41の孔又は溝からなる隣接する被係合部414a,414aの間に位置している状態であっても、ロック爪433が従来と比較して極めて薄いため、両者の接触面積が小さく、両者間の摩擦抵抗が小さいと共に、バネ鋼からなる取付板部431に作用板部432及びロック爪433が一体に形成されているため、ロック爪433を被係合部414aに係合させる方向への弾性が構造減衰によるロスがなく作用して、僅かな力の変化があれば、この擬似ロック状態を速やかに解消する方向にアッパーレール42が変位し、正常なロック状態となる。