特許第6181072号(P6181072)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6181072粉末状の薬剤を吸入によって患者に投与するためのデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6181072
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】粉末状の薬剤を吸入によって患者に投与するためのデバイス
(51)【国際特許分類】
   A61M 15/00 20060101AFI20170807BHJP
【FI】
   A61M15/00 Z
【請求項の数】14
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-546515(P2014-546515)
(86)(22)【出願日】2012年12月13日
(65)【公表番号】特表2015-500109(P2015-500109A)
(43)【公表日】2015年1月5日
(86)【国際出願番号】EP2012075428
(87)【国際公開番号】WO2013087788
(87)【国際公開日】20130620
【審査請求日】2015年11月9日
(31)【優先権主張番号】11194087.0
(32)【優先日】2011年12月16日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511152979
【氏名又は名称】サノフィ・ソシエテ・アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン・マイヤー
【審査官】 落合 弘之
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−504387(JP,A)
【文献】 特表2009−537199(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 15/00
A61M 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状の薬剤を吸入によって患者に投与するためのデバイス(1)であって、
本体(2)と、
該本体(2)内の内部ハウジング(3)と、
吸入チャネル(4)と、
該吸入チャネル(4)がそれと連通するように提供されるマウスピース(5)と、
用量供給部材(6)と
を備え、該用量供給部材(6)は、粉末状の薬剤を収容するための少なくとも1つの空洞(7、7a、7b、7c)を備え、該用量供給部材(6)は、該空洞(7、7a、7b、7c)が該吸入チャネル(4)と一直線になっていない第1の位置、および該空洞(7、7a、7b、7c)が該吸入チャネル(4)と一直線になった第2の位置をとることがさらに可能であり、各空洞(7、7a、7b、7c)は、粉末状の薬剤の単一用量(8、8a、8b、8c)で充填済みであり、粉末状の薬剤は、各空洞(7、7a、7b、7c)に収納されるだけであり、該デバイス(1)には複数の用量を収納するための粉末リザーバがない、該デバイス(1)であって、
該ハウジング(3)の中に保護部材(9)が提供され、該保護部材(9)は、
該吸入チャネル(4)の断面が該保護部材(9)の壁によって覆われるように、該保護部材(9)の一部が該吸入チャネル(4)の中に位置する第1の位置、および
該吸入チャネル(4)の断面が該保護部材(9)の壁によって覆われないように、該保護部材(9)が該吸入チャネル(4)の中に位置しない第2の位置
をとることが可能であり、
該用量供給部材(6)および該保護部材(9)は、該用量供給部材(6)の第1の位置において、該保護部材(9)をその第1の位置からその第2の位置へ変位させるために必要な作動力が、該用量供給部材(6)の第2の位置より大きくなるように互いに相互作用することを特徴とする上記デバイス(1)。
【請求項2】
用量供給部材(6)の第1の位置において、吸入チャネル(4)が用量供給部材(6)の壁によって少なくとも部分的に覆われるように、該用量供給部材(6)の一部は該吸入チャネル(4)の中に位置することを特徴とする、請求項1に記載のデバイス(1)。
【請求項3】
用量供給部材(6)の第1の位置において、粉末状の薬剤が空洞(7、7a、7b、7c)およびハウジング(3)の内壁(13)によって囲まれるように、該空洞(7、7a、7b、7c)は、該ハウジング(3)の内壁(13)によって覆われることを特徴とする、請求項1または2に記載のデバイス(1)。
【請求項4】
空洞(7、7a、7b、7c)は用量供給部材(6)を通って延び、該用量供給部材(6)の第2の位置において、該空洞(7、7a、7b、7c)は吸入チャネル(4)の中で、該用量供給部材(6)の第1の位置と第2の位置の間の動きの方向に沿って得られる該空洞(7、7a、7b、7c)の断面が、該吸入チャネル(4)の断面と一直線になるように位置することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のデバイス(1)。
【請求項5】
保護部材(9)の第1の位置において、該保護部材(9)は、
用量供給部材(6)がその第1の位置にあるときには、該用量供給部材(6)の一部を、
該用量供給部材(6)がその第2の位置にあるときには、空洞(7、7a、7b、7c)を
囲むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のデバイス(1)。
【請求項6】
保護部材(9)のその第1の位置と第2の位置との間の動きの方向は、用量供給部材(6)のその第1の位置と第2の位置との間の動きの方向に対して傾いていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のデバイス(1)。
【請求項7】
保護部材(9)のその第1の位置と第2の位置との間の動きの方向は、用量供給部材(6)のその第1の位置と第2の位置との間の動きの方向に対して垂直であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のデバイス(1)。
【請求項8】
保護部材(9)は、使用者がマウスピースを介して加えることができる所定の圧力差によって、第1の位置から第2の位置へ移動させるように設計されることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載のデバイス(1)。
【請求項9】
保護部材(9)は案内部材(12)によって案内され、圧力差が所定の閾値を超えた場合のみ、該保護部材(9)の第1の位置から第2の位置への動きが許容されるように、該保護部材(9)と該案内部材(12)との間の接触領域に所定の摩擦が提供されることを特徴とする、請求項に記載のデバイス(1)。
【請求項10】
用量供給部材(6)は、使用者が操作可能な摺動部として設計されることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載のデバイス(1)。
【請求項11】
吸入チャネル(4)は、本体(2)内の空気入口(10a、10b)から、ハウジング(3)を通ってマウスピース(5)へ延び、患者による吸入の間、気流を、該吸入チャネル(4)の中で該空気入口(10a、10b)からマウスピース(5)へ案内することが可能であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載のデバイス(1)。
【請求項12】
吸入チャネル(4)の中の用量供給部材(6)とマウスピース(5)との間に凝集解離部材(11)が提供され、該凝集解離部材(11)は、気流の方向を変えるように設計されることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載のデバイス(1)。
【請求項13】
凝集解離部材(11)は、気流を複数の部分気流に分割するように設計されることを特徴とする、請求項12に記載のデバイス(1)。
【請求項14】
本体(2)の外面上の1つまたはそれ以上の開口部は、該本体(2)の内部を環境の影響に対して封止する封止部材(14)によって覆われ、該封止部材(14)は、開口部から取外し可能であることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか1項に記載のデバイス(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、粉末状の薬剤を吸入によって患者に投与するためのデバイスに関する。こうしたデバイスは、いわゆる乾燥粉末吸入器(dry powder inhaler、DPI)を含む。
【背景技術】
【0002】
周知のデバイスは、粉末状の薬剤を患者に投与することができるように、粉末状の薬剤を供給するための複雑な機構を必要とする。さらに、デバイスは、安全基準に従わなければならない。したがって、デバイスが粉末状の薬剤の意図しない投与および/または誤った投薬をしないように保証し、そうした投与および/または投薬から使用者を保護するために、デバイスには安全機構が実装されなければならない。さらに、周知のデバイスは通常、所望の機能性を提供するために大量の部材を必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本開示の一目的は、費用効果が高く使用が容易であり、患者に対する確実で苦痛のない粉末状の薬剤の投与を可能にする、これまでに言及した種類のデバイスについて記述することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
デバイスは、本体と、本体内の内部ハウジングと、吸入チャネルと、吸入チャネルがそれと連通するように提供されるマウスピースと、用量供給部材(dose provisioning member)とを備える。用量供給部材は、粉末状の薬剤を収容するための少なくとも1つの空洞を備え、用量供給部材はさらに、空洞が吸入チャネルと一直線になっていない第1の位置、および空洞が吸入チャネルと一直線になった第2の位置をとることができる。
【0005】
第1の実施形態によれば、これまでに示したデバイスは、用量供給部材の第1の位置において、吸入チャネルが用量供給部材の壁によって少なくとも部分的に覆われるように、用量供給部材の一部が吸入チャネルの中に位置することを特徴とする。用量供給部材は、吸入チャネルの断面が部分的にまたは完全に覆われるように配置することができる。
【0006】
用量供給部材は、少なくとも2つの機能性を満たすことができる。第1の機能性は、用量供給部材がその第2の位置にあるとき、すなわち、空洞が吸入チャネルと一直線になったときだけ、用量供給部材が患者への粉末状の薬剤の投与を可能にすることによって与えられる。用量供給部材の第1の位置では、空洞が吸入チャネルと一直線になっていないため、患者への粉末状の薬剤の供給、およびその後の患者による粉末状の薬剤の吸入が妨げられる。
【0007】
さらに、用量供給部材の第2の機能性は、用量供給部材が吸入チャネルの断面を部分的にまたは完全に覆うことによって与えられる。したがって、用量供給部材はその第1の位置にあるとき、吸入チャネルを塞ぐことができる。これは、用量供給部材の第1の位置では、粉末状の薬剤は言うまでもなく、空気も吸入チャネルを通ってデバイスのマウスピースに向かって流れることができないため、デバイスを使用する患者による吸入が行われることがないことを意味する。
【0008】
したがって、デバイスは、ただ1つの単一部品、すなわち用量供給部材によって実現することが可能な二重の安全機構を有する。用量供給部材の第1の位置では、患者への粉末状の薬剤の供給も、吸入チャネルを通したマウスピースの方向の吸入も妨げられる。意図しない粉末状の薬剤の投与、ならびに吸入のために粉末状の薬剤が準備されていない状態で患者が吸入することによるデバイスの起動が防止される。
【0009】
これまでに説明した用量供給部材の設計によって、デバイス内の部材の数を減らすこと、したがって、デバイスの総費用を削減することが可能になる。
【0010】
第1の実施形態の代替実施形態になり得る、または第1の実施形態に加えて機能を提供することができる第2の実施形態によれば、デバイスは、粉末状の薬剤を収容するための少なくとも1つの空洞、すなわち1つまたはそれ以上の空洞を備え、各空洞は粉末状の薬剤の単一用量で充填済みであり、粉末状の薬剤は各空洞に収納されるだけであり、デバイスには複数の用量を収納するための粉末リザーバがないことを特徴とする。
【0011】
用語「充填済み」は、デバイスを最初に使用する前に、各空洞が既に粉末で充填されていることを意味する。各空洞は、粉末状の薬剤の単一用量を含む。これは、デバイスが、所定の量、用量または「ショット」の粉末状の薬剤で充填された1つまたはそれ以上の空洞を提供し、用量供給部材の吸入チャネルに対する動きによって、各空洞を吸入チャネルと一直線にすることが可能であり、したがって、空洞の中に含まれる粉末状の薬剤を患者による吸入ができる位置に動かすことが可能であることを意味する。こうして、患者がデバイスを使用する必要があり、かつ粉末状の薬剤を吸入する必要があるときに、ある特定の数の単一用量をそれまでに準備しておくことができる。
【0012】
デバイス内に、複数の用量を収納するための粉末リザーバは不要である。これは、デバイスが、粉末状の薬剤を収納するための追加の空間を伴わない、コンパクトな小型デバイスとして設計可能であることを意味する。さらに、粉末状の薬剤の所定の量、すなわち用量を集め、その所定の量を粉末リザーバ内の粉末から分離するための追加の機構は不要である。
【0013】
第2の実施形態によるデバイスは、少数の部材を有するように設計することも可能であり、粉末状の薬剤の単一用量が患者に提供されるように準備される。そうしたデバイスは、費用効果が高く使用が容易である。これまでに説明したように、用量供給部材のその第1の位置からその第2の位置への動きによって、吸入およびその後の患者への粉末状の薬剤の投与を簡単な方法で実施することができるように、粉末状の薬剤の単一用量で充填済みの空洞を吸入チャネルと一直線にすることが可能である。
【0014】
以下では、これまでに説明したデバイスの第1の実施形態および第2の実施形態に関連する実施形態、ならびに機能が示される。
【0015】
一実施形態では、デバイスはさらに、用量供給部材の第1の位置において、粉末状の薬剤が空洞およびハウジングの内壁によって囲まれるように、空洞がハウジングの内壁によって覆われることを特徴とする。これは、用量供給部材の第1の位置では、空洞内に充填済みの粉末状の薬剤が空洞から流出するのを防止することが可能であることを意味する。
【0016】
この文脈において、用語「空洞」は、粉末状の薬剤の収容を可能にする、用量供給部材内の任意の陥凹部または孔を意味することがある。これは、空洞が用量供給部材の中の壁によって形成され、それによって、粉末状の薬剤が空洞を出ることができるような少なくとも1つの開口部を提供することを意味する。
【0017】
第1の位置では、デバイス内のハウジングの内壁によって空洞を覆うことが可能であり、したがって、空洞の開口部は、ハウジングのこうした内壁によって閉じられる。これは、ハウジングの内壁が用量供給部材内の空洞の壁と共に、内部に粉末状の薬剤が含まれ封入された、閉じたチャンバを提供することが可能であることを意味する。こうして、粉末状の薬剤を環境の影響から保護することができる。さらに、デバイス内での粉末状の薬剤の意図しない分布を防止するように、粉末状の薬剤は空洞を出ないように保証される。
【0018】
一実施形態では、空洞は用量供給部材を通って延び、用量供給部材の第2の位置において、空洞は吸入チャネルの中で、用量供給部材の第1の位置と第2の位置との間の動きの方向に沿って得られる空洞の断面が、吸入チャネルの断面と一直線になるように位置する。空洞の設計は、用量供給部材の壁を通って延びる孔を提供することができる。こうして、空洞は、用量供給部材を通るある種のチャネルまたはトンネルを提供する。これは、用量供給部材が、空気が空洞に入るだけではなく空洞を通って流れ、粉末状の薬剤を空洞から伴出することができるように、外部に対する少なくとも2つの開口部を有することを意味する。
【0019】
空洞は吸入チャネルの中で、用量供給部材の第1の位置と第2の位置との間の動きの方向に沿って得られる空洞の断面が、吸入チャネルの断面と一直線になるように位置することができる。こうして、粉末状の薬剤は、吸入チャネルに入ることが可能になる。さらに、空洞が吸入チャネルの中に位置するとき、空気は、吸入チャネルおよび用量供給部材の空洞を通って流れることができる。したがって、吸入チャネルを通って流れる空気によって空気と粉末の混合物を作成し、粉末を空洞から伴出することができる。
【0020】
これまでに説明した空洞の設計は、1回の吸入サイクルの間に、粉末状の薬剤のすべてを患者に投与することができるように、適切かつ効果的に空洞を消耗させるまたは空にすることを可能にする。これは、患者に粉末状の薬剤のある特定の用量をより適切に投与するのを助けることができ、また粉末状の薬剤の正確な投薬を提供することができる。
【0021】
これまでに説明した、空洞が吸入チャネルの中に位置する用量供給部材の第2の位置では、薬剤の吸入が患者によって開始されるまで粉末状の薬剤が吸入チャネルに入るのを防ぐように、空洞を、用量供給部材に対して可動とすることができる可動壁によって部分的に囲むことができる。この場合、可動壁は解放位置で摺動することが可能であり、それによって空洞を解放し、粉末状の薬剤が吸入チャネルに流入できるようにする。
【0022】
一実施形態によれば、ハウジングの中に保護部材が提供され、保護部材は、吸入チャネルの断面が保護部材の壁によって覆われるように、保護部材の一部が吸入チャネルの中に位置する第1の位置をとること、および吸入チャネルの断面が保護部材の壁によって覆われないように、保護部材が吸入チャネルの中に位置しない第2の位置をとることが可能である。
【0023】
保護部材はさらに、意図しない吸入またはデバイスの作動を防止する、単純であるが効果的な安全機構である。保護部材が吸入チャネルの中に位置するとき、吸入チャネルは、患者が吸入を行うことができないように塞がれる。この機構は、用量供給部材の第1の位置では、吸入チャネルの断面が用量供給部材の壁によって覆われるように、用量供給部材の一部が吸入チャネルの中に位置する、これまでに説明した第1の実施形態と同様である。別々に見える用量供給部材と保護部材はどちらも、使用者が意図する場合のみデバイスを作動させることができるような安全機構を提供する。
【0024】
デバイスは、保護部材の第1の位置において、用量供給部材がその第1の位置にあるときには、保護部材が用量供給部材の一部を囲み、それによって、用量供給部材がその第2の位置にあるときには、保護部材が用量供給部材の空洞を囲むように設計することができる。この設計は、デバイスの二重の安全機構を示すものである。用量供給部材がその第1の位置にあるとき、空気が吸入チャネルを通って流れることができないように、吸入チャネルを用量供給部材の壁によって覆うことができる。さらに、吸入チャネルが保護部材によってさらに塞がれ覆われるように、保護部材は、吸入チャネル内で用量供給部材の一部を囲む。
【0025】
空洞が吸入チャネルと一直線になるように、用量供給部材を第1の位置から第2の位置へ移動させた場合、保護部材は依然として第1の位置にあり、したがって、粉末状の薬剤で充填され、吸入チャネルの中に位置する空洞は、保護部材によって覆われる。これは、空洞内の粉末状の薬剤が、用量供給部材の空洞の壁ならびに保護部材の壁によって囲まれたままであり、したがって、用量供給部材の第2の位置で、保護部材がその第1の位置にある状態では、吸入チャネルの中に閉じたチャンバが形成されたまま、粉末状の薬剤を封入することを意味する。したがって、保護部材は、これまでに説明した種類の可動壁として働くことができる。
【0026】
空洞および保護部材によって形成されたチャンバは、保護部材をその第1の位置から、保護部材が吸入チャネルの中に位置しないその第2の位置へ移動させるまで、閉じたままである。後者の場合、用量供給部材の空洞は吸入チャネルの中に位置し、したがって、粉末状の薬剤は空洞から吸入チャネルの中に入ることができる。
【0027】
結果として、最初に用量供給部材をその第1の初期位置からその第2の位置へ移動させ、それによって、粉末状の薬剤で充填された空洞が吸入チャネルと一直線になった場合、およびその後、保護部材をその第1の初期位置からその第2の位置へ移動させ、それによって、吸入チャネルを解放して空洞を露出させ、粉末状の薬剤が吸入チャネルに入ることができるようにした場合のみ、デバイスを作動させることが可能になる。こうして、デバイスをさらに安全かつ確実なものにする。
【0028】
一実施形態において、保護部材は、使用者がマウスピースを介して加えることができる所定の圧力差によって、第1の位置から第2の位置へ移動させるように設計される。これは、患者がデバイスを吸い、圧力差が作成されるような吸入によって低い圧力(under−pressure)を提供したときのみ、保護部材が作動されることを意味する。この圧力差が、保護部材をその第1の位置からその第2の位置へ移動させる。
【0029】
一実施形態において、保護部材は案内部材によって案内され、圧力差が所定の閾値を超えた場合のみ、保護部材の第1の位置から第2の位置への動きが許容されるように、保護部材と案内部材との間の接触領域に所定の摩擦が提供される。これは、使用者がデバイスを十分に吸っていないときには、保護部材がその第1の位置からその第2の位置へ移動されないことを意味する。この効果により、使用者が小さい吸入動作で吸気しているが、まだ粉末状の薬剤の用量を強く吸入したくない、またはそうした吸入の準備がまだできていないときには吸入が妨げられるため、意図しない吸入を防止することができる。
【0030】
さらに、その機構は、目標の場所、例えば患者の肺への適切かつ確実な粉末状の薬剤の輸送を可能にし、不十分な吸入動作のために、粉末状の薬剤が十分に輸送されず、例えば肺ではなく、口領域または口腔粘膜にしか入らないことを防止するのを助けることができる。さらに、強い吸入動作は、患者の肺の中の肺胞のより適切な開放をもたらす。これは、患者による吸入動作が強いほど、患者の肺の中の肺胞による粉末状の薬剤の吸収が良くなることを意味する。
【0031】
所定の圧力の閾値によって保護部材の作動を引き起こすことにより、肺の肺胞内での粉末状の薬剤の吸収レベルを制御することができる。結果として、保護部材および案内部材を2つの部材間の所定の摩擦を用いて設計することによって、患者の肺の中での粉末状の薬剤の吸収の制御がもたらされる。これにより、患者に対するより適切かつ効果的な粉末状の薬剤の投与が得られる。
【0032】
一実施形態では、用量供給部材および保護部材は、用量供給部材の第1の位置において、保護部材をその第1の位置からその第2の位置へ変位させるために必要な作動力が、用量供給部材の第2の位置より大きくなるように互いに相互作用する。
【0033】
用量供給部材の第1の位置における用量供給部材と保護部材の相互作用は、もう1つの安全機構を提供し、用量供給部材が、空洞が吸入チャネルの中に配置されるその第2の位置に配置された場合のみ、保護部材の作動が許容される。これは、患者に粉末を提供するように粉末が吸入チャネルの中に配置されていないときには、保護部材を作動させることができないことを意味する。さらに、この安全機構は、例えばデバイスの輸送中、保護部材の意図しない作動を防止する。
【0034】
一実施形態によれば、保護部材と用量供給部材との間の相互作用は、互いに相互作用するフック形の部材によって得ることができる。他の実施形態によれば、保護部材と用量供給部材との間の相互作用は、用量供給部材がその第1の位置にあるとき、用量供給部材の吸入チャネルの中に位置する部分における用量供給部材の広げられた断面によって得ることができ、用量供給部材のこの部分が保護部材と接触するようにする。こうして、用量供給部材の広げられた断面によって、吸入チャネル内の保護部材の壁に対して圧力による力をもたらすことが可能になり、したがって、この圧力による力に対する保護部材の動きが抑えられる。「抑えられる」は、動きは可能であるが、困難になることを意味する。
【0035】
さらに、保護部材は、例えば用量供給部材の広げられた断面を収容するためのノッチまたは陥凹部として設計された保持部材を提供することができる。広げられた断面は、例えば用量供給部材上の突出部によって実現することができる。
【0036】
一実施形態では、デバイスの本体の外面上の1つまたはそれ以上の開口部、例えばデバイスのマウスピースによって形成される開口部が、封止部材によって覆われ、封止部材は、本体の内部を環境の影響に対して封止する。封止部材は、好ましくは開口部から取り外すことができる。封止部材は、デバイスを水分または湿気、ならびに開口部を通してデバイスの内部に入り込む可能性があるごみから保護するのを助ける。水分または湿気は、薬剤の乾燥した粉末が湿っぽくなるか、または湿る可能性があり、その結果、粉末の塊が生じ、薬剤の吸入中にデバイスの不調または不十分な空気と粉末の混合物をもたらす恐れがある限り危険である。したがって、粉末状の薬剤をデバイスの中で乾燥した状態に保つと有利である。封止部材によって保護物がもたらされる。すべての開口部に対するただ1つの封止部材、または開口部のそれぞれに対して1つである複数の封止部材を提供することが考えられる。
【0037】
封止部材の他の利点は、最初の使用の前に、デバイスがより長い期間にわたって収納可能になることによって与えられる。患者がデバイスを使用したいとき、患者は、マウスピースを通した吸入動作を行うことができるように、デバイスの(1つまたはそれ以上の)開口部、例えばデバイスのマウスピースから封止部材を取り外すことができる。
【0038】
さらに、デバイス内の封止部材の有無により、使用者に対してデバイスが既に使用されているか否かを示すことができる。この文脈では、封止部材が、封止された構成において、使用者に対してデバイスがまだ手がつけられていない状態であることを示す、ある特定の警告用の色、例えば赤色または緑色を有するようにすることが考えられる。
【0039】
さらなる実施形態、機能および利点は、従属請求項、図および以下の説明において開示される。
【0040】
以下では、いくつかの図面を用いて、これまでに説明したデバイスの有利な設計について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】第1の構成におけるデバイスの第1の断面図である。
図2A図1によるデバイスの第2の断面図である。
図2B】第2の構成における図2Aによるデバイスを示す図である。
図3】使用者による吸入中の図1によるデバイスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
図1は、粉末状の薬剤を吸入によって患者に投与するためのデバイス1を示している。
【0043】
デバイス1は、内部ハウジング3を含む本体2を備える。本体2および内部ハウジング3は、図1の実施形態では2つの別個の部材として設計されている。しかしながら、本体2および内部ハウジング3を、1つの単一の一体化して形成された部品として設計することも考えられる。
【0044】
本体2の上端には、マウスピース5が本体2に一体化して形成される。デバイス1の使用中、患者はデバイス1から粉末状の薬剤を吸入するために、マウスピース5を吸うことができる。図1によれば、マウスピースは、例えば取外し可能なカバーまたはホイルとすることができる封止部材14によって封止される。
【0045】
内部ハウジング3は、内部ハウジング3の壁および本体2の壁によって吸入チャネル4が形成されるように設計される。デバイス1の上側部分では、吸入チャネル4は、ハウジング3および本体2の壁、ならびにやはりデバイス1の内部に配置された凝集解離部材(deaggregating member)11の壁によって範囲を定められる回転チャンバ15として設計される。凝集解離部材11は回転チャンバ15と共に、吸入チャネル4内の気流の方向を変えるように設計される。さらに以下に説明するように、凝集解離部材11は、回転チャンバ15内の気流を複数の部分気流に分割するように設計される。最終的に、吸入チャネル4は、デバイス1のマウスピース5の中で終わる。
【0046】
本体2の左側には、複数の空気入口10aおよび10bが、外部の空気がデバイス1に入ることができるように設計される。特に空気は、空気入口10aに入ることができ、吸入チャネル4を通って上向きの方向に流れ、回転チャンバ15を通り、最終的にはマウスピース5を通ることができる。以下でも説明するように、別の空気入口10bは、外部の空気がデバイス1に入り、保護部材9を作動させることができるように設計される。
【0047】
図1によるデバイス1は、デバイス1の下側部分に配置された、いわゆる用量供給部材6も備える。用量供給部材6は、使用者が操作可能な摺動部として設計される。図1の断面図によれば、用量供給部材6は、デバイス1の図示される断面に垂直な方向に移動させることができる。これは、用量供給部材6を図1の投影面に垂直な方向に移動させることが可能であることを意味する。用量供給部材6は、粉末状の薬剤の用量8を収容するための空洞7を備えるように設計される。図1の実施形態による用量供給部材6の空洞7は、用量供給部材6の側壁を通って延びる陥凹部または孔として設計される。空洞7の全空間または全体積が、粉末状の薬剤の用量8で充填される。しかし、空洞7の一部のみを粉末状の薬剤8で充填することも考えられる。
【0048】
図2Aおよび2Bにおいてさらに良く理解されるように、用量供給部材6は、空洞7が吸入チャネル4と一直線になっていない第1の位置と、空洞が吸入チャネル4と一直線になった第2の位置との間で移動させることができる。図1のデバイス1の構成によれば、用量供給部材6はその第2の位置にあり、空洞は吸入チャネル4の中に位置する。したがって、用量供給部材6は、空洞7、とりわけ空洞7の断面が、吸入チャネル4の断面と一直線になるように位置する。
【0049】
これまでに説明したように、デバイス1の内部に保護部材9が提供され、保護部材9は、第1の位置から第2の位置に可動である。保護部材9は、凝集解離部材11に対して一体化して形成された案内部材12によって案内される。
【0050】
図1によれば、保護部材9は、保護部材9の一部が吸入チャネル4の中に位置するように、その第1の位置に配置される。結果として、吸入チャネル4の断面が保護部材9の壁によって覆われ、したがって、吸入チャネル4は保護部材9によって塞がれる。さらに、保護部材9は、粉末状の薬剤の用量が空洞7の中に充填済みの状態で空洞7を囲む。したがって、図1によれば、デバイス1は、粉末状の薬剤の用量8が吸入チャネル4と一直線になり、吸入の準備ができている、いわゆる吸入準備完了位置にある。しかし、吸入チャネル4は依然として保護部材9によって閉じられ、したがって、粉末状の薬剤の用量8は吸入チャネル4に入ることができない。
【0051】
図2Aは、図1によるデバイス1を軸A−A'に沿った断面図として示している。図2Aは、デバイス1の下側部材における摺動部としての用量供給部材6の設計を示している。
【0052】
用量供給部材6は、3つの空洞7a、7b、7cを提供し、そのそれぞれが粉末状の薬剤の単一用量8a、8b、8cで充填される。空洞7a、7b、7cは、図1に関連してさらに詳しく示したように、用量供給部材6の壁を通って延びる陥凹部として設計される。図2Aによれば、空洞7a、7b、7cは、用量供給部材6の中に互いに所定の距離で配置される。したがって、粉末状の薬剤の単一用量8a、8b、8cは、用量供給部材6の壁によって分離される。用量供給部材6は、3回の単一の「ショット」として粉末状の薬剤の3用量8a、8b、8cを供給するように設計されている。
【0053】
用量供給部材6の空洞7a、7b、7cは、粉末状の薬剤8a、8b、8cで充填済みであり、大量の粉末状の薬剤8を収納するための追加の粉末リザーバは不要である。これは、粉末リザーバ内の粉末状の薬剤8を集め、粉末状の薬剤の所定量、すなわち用量8を粉末リザーバから分離するための機構が不要であることを意味する。用量供給部材6の設計によれば、用量供給部材6の充填済みの空洞7a、7b、7cの中に、3ショット分の粉末状の薬剤8a、8b、8cが既に準備されている。
【0054】
図2Aによれば、用量供給部材6の中央に配置された粉末状の薬剤の用量8bに関して、用量供給部材6は第2の位置に位置し、したがって、この粉末状の薬剤の用量8bは、図2Aの透視図法によれば、図2Aの投影面に垂直な方向に延びる吸入チャネル4(図1参照)と一直線になっている。図2Aでは、粉末状の薬剤の用量8bは、吸入チャネル4の中に位置付けられ、したがって、粉末状の薬剤の用量8bは使用者によって吸入される準備ができている。
【0055】
粉末状の薬剤の他の2用量8aおよび8cについては、これらの用量は、そのそれぞれの空洞7aおよび7c、ならびにハウジング3の内壁13によって囲まれている。これは、ハウジングの内壁13が、用量供給部材6の空洞7aおよび7cと共に、粉末状の薬剤のそれぞれの用量8aおよび8cを囲む閉じたチャンバを形成することを意味する。こうして、粉末状の薬剤の用量8aおよび8cは、環境の影響、ならびに空洞7aおよび7cからの流出がないように保護される。用量供給部材6を移動させることによって、用量供給部材6のデバイス1の内部ハウジング3に対する位置、とりわけ図1に示す吸入チャネル4に対する位置を変えることができる。
【0056】
図2Bに関しては、粉末状の薬剤の用量8bを左側に移動させるように、用量供給部材6を左の方向に移動させたことのみ異なる、図2Aによるデバイス1を示している。図2Bの構成において、用量8bと8cの間に位置する用量供給部材6の壁は、ここでは図1に示す吸入チャネル4と一直線になっている。これは、図2Bによれば、吸入チャネル4の断面が用量供給部材6の壁によって完全に覆われていることを意味する。したがって、用量供給部材6は2つの機能性を満たす。粉末状の薬剤8を収容することに加えて、用量供給部材6は、デバイス1を意図しない吸入から守るように、図2Bに示す位置で(および用量8aと8bの間の壁が吸入チャネル4の中に位置する別の位置でも)吸入チャネル4を塞ぐ。したがって、用量供給部材6によってデバイス1における安全機構が実現される。
【0057】
さらに、保護部材9は依然として、図1の文脈で説明したその第1の位置にあり、したがって、吸入チャネル4は、保護部材9によってさらに覆われ、塞がれている。さらに、図2Bの構成では、保護部材9は、用量供給部材6の壁を覆う吸入チャネル4の中に位置し、用量供給部材6も吸入チャネル4の中に位置する。
【0058】
図2Bのデバイス1の構成によれば、デバイス1の意図しない作動が、2つの方法で防止される。第1の方法では、意図しない作動は、これまでに説明したように、吸入チャネル4の中に位置する用量供給部材6の壁によって防止される。さらに、デバイス1の意図しない作動は、図1に示すその第1の位置で吸入チャネル4の中に位置する保護部材9によっても防止される。
【0059】
さらに、用量供給部材と保護部材が、図2Bによる用量供給部材の位置において、保護部材をその第1の位置からその第2の位置へ変位させるために必要な作動力が、図2Aに例示的に示す、空洞7a、7b、7cの1つが吸入チャネル4の中に位置する状態の用量供給部材の位置より大きくなるように、互いに相互作用するようにすることが考えられる。
【0060】
一実施形態によれば、保護部材と用量供給部材との間の相互作用は、互いに相互作用するフック形の部材によって得ることができる。他の実施形態によれば、保護部材と用量供給部材との間の相互作用は、用量供給部材がその第1の位置にあるとき、用量供給部材の吸入チャネルの中に位置する部分における用量供給部材の広げられた断面によって得ることが可能であり、用量供給部材のこの部分が保護部材と接触するようにする。こうして、用量供給部材の広げられた断面によって、吸入チャネルの中の保護部材の壁に対して圧力による力をもたらすことが可能であり、したがって、この圧力による力に対する保護部材の動きが抑えられる。「抑えられる」は、動きは可能であるが、困難になることを意味する。
【0061】
さらに、保護部材は、例えば用量供給部材の広げられた断面を収容するためのノッチまたは陥凹部として設計された保持部材を提供することができる。広げられた断面は、例えば用量供給部材上の突起によって実現することができる。
【0062】
用量供給部材6が図2Bによるその位置に位置するとき、粉末状の薬剤の用量8a、8b、8cで充填済みの空洞7a、7b、7cはすべて、内部ハウジング3の内壁13によって覆われる。したがって、用量供給部材6のすべての空洞7a、7b、7cの中の粉末状の薬剤8a、8b、8cが、空洞7a、7b、7cおよび内部ハウジング3の内壁13によって囲まれる。
【0063】
用量供給部材6は、使用者が用量供給部材6をデバイス1の内部ハウジング3に対して左または右の方向に摺動させることによって動作させることができる。こうして使用者は、例えば粉末状の薬剤の用量8a、8b、8cを、図1に示すように吸入チャネル4と一直線にすることができるように、用量供給部材6を図2Bに示す位置から図2Aに示す位置に移動させることによって、吸入のために単純かつ容易にデバイス1の準備をすることができる。示されていないが、用量供給部材6を複数の他の位置に動かし、それによって粉末状の薬剤のそれぞれの用量8a、8b、8cを有する他の空洞7a、7b、7cを吸入チャネル4と一直線にすることが考えられる。
【0064】
図3は、図1に示す構成から始まるデバイス1の作動を説明するものである。
【0065】
用量供給部材6は、図1に示す用量供給位置に位置し、したがって、粉末状の薬剤の用量8は吸入チャネル4の中に位置する。使用者がデバイス1を作動させたいとき、使用者は最初に、デバイス1からマウスピース5の上側部分の封止部材14を除かなければならない。封止部材14は、例えば水分、湿気またはごみのような環境の影響からデバイス1をその閉鎖位置で保護する、取外し可能なカバーまたはホイルとすることができる。やはり、空気入口10aおよび10bをそれぞれの封止部材によって環境の影響に対して封止するように、開口部10aおよび10bの上に封止部材を提供することも考えられる。
【0066】
図3に関しては、封止部材14は除かれ、マウスピース5が上側の方向に開放されている。ここで使用者は、使用者によって低い圧力が生成されるように、マウスピース5を吸うことができる。低い圧力は、保護部材9の、図1に示すその第1の位置から図3に示す第2の位置への動きをもたらす。さらに、空気が(図3に矢印で示すように)空気入口10bへ流入し、その結果、保護部材9は、流動する空気によってその上向きの動きで支持される。したがって、保護部材9は、空気入口10bに流入する空気によって提供される、ある種の空気クッションの助けによって上方へ移動される。
【0067】
保護部材9は、凝集解離部材11に対して一体化して形成された案内部材12、およびハウジング3の内壁によって案内される。保護部材9と案内部材12および/またはハウジング3の内壁との間の接触領域に、所定の摩擦を提供することできる。摩擦は、圧力差が所定の閾値を超えるまで保護部材を作動させない効果を有する。結果として、強い吸入動作が行われたときだけ、保護部材9が移動されるようになる。
【0068】
保護部材9は、上方位置での動きの後、その上方位置に留まることができる。このために、保護部材9と案内部材12またはハウジング3の内壁との間の接触領域に、それぞれ係合部材を提供することができる。デバイス1をリセットするために、例えばデバイスを吹く、またはデバイス1を振り動かすことによって、保護部材9をその上方位置から解放することができる。
【0069】
保護部材9が図3に示すその上方位置にあるとき、粉末状の薬剤の用量8が解放され、吸入チャネル4に入ることができるように、空気チャネル4は完全に覆いが除かれる。さらに、空気入口10aに入る空気は、吸入チャネル4を通して案内され、それによって、粉末状の薬剤の用量8を用量供給部材6の空洞7から伴出することができる。こうして、空気と粉末の混合物は、吸入チャネル4を通って上向きの方向に案内され、回転チャンバ15に入る。
【0070】
気流は、内部ハウジング3および本体2の壁と共に回転チャンバ15を形成する凝集解離部材11によって方向を変えられる。回転チャンバ15の内部では、気流が円形の経路を描く。図3には示されていないが、回転チャンバ15内の気流の回転効果を増大および強調するために、本体2内の回転チャンバ15の位置に接線方向のスリットを提供し、追加の空気が回転チャンバ15に流入できるようにすることが考えられる。これは、粉末状の薬剤のより大きい塊を解離させることができるように、気流の渦を作成するのを助けることができる。
【0071】
さらに、凝集解離部材11は、気流を複数の気流に分割するように設計される。回転チャンバ15における凝集解離部材11による気流の分割は、粉末の塊を解離させ、気流の中に均質でばらつきのない比率の粉末を作成する効果も有する。マウスピース5の方向における凝集解離部材11の下流では、分割された気流を合流させ、空気と粉末の混合物16の均質な噴霧物にする。空気と粉末の混合物16は、最終的に患者の口に入ることができ、また患者の肺の肺胞が粉末状の薬剤を吸収することができるように、患者の肺の中に輸送することが可能である。
【0072】
これまでに記述し説明したデバイス1は、単純で費用効果が高く、使用が容易であるにもかかわらず、粉末状の薬剤の単一用量を患者に投与することができるような、快適な取り扱いを可能にするデバイスである。デバイス1は、少数の部材と共に組み立てることができる。例えば、複数の部材の成形に応じて、わずか4つ、5つまたは6つの部品でデバイス1を組み立てることが考えられる。デバイス1は、これまでに説明した用量供給部材6の空洞7以外に、粉末状の薬剤を収納するための粉末リザーバを必要としないため、デバイス1を単純で費用効果の高い方法で製造することが可能である。
【0073】
さらに、用量供給部材6が二重の機能性(粉末状の薬剤8の準備、ならびに意図しない吸入に対する安全確保機構)を満たすため、複数の安全機構を費用効果の高い方法で実現することができる。デバイス1は、使用者が容易に扱うことができるものであり、また吸入のためにデバイスを固定するまたは粉末状の薬剤の用量を準備するために、用量供給部材6を複数の位置の間で移動させるだけでよい。
【0074】
示される実施形態は、例示的なものにすぎない。したがって、デバイス1を、粉末状の薬剤の用量8で充填されたただ1つの空洞7を有するように、またはそのそれぞれが粉末状の薬剤の用量8で充填された2つの空洞7を有するように設計することが考えられる。
【0075】
本明細書において使用される用語「薬剤」は、例えば、喘息もしくは慢性閉塞性肺疾患(COPD)のような閉塞性気道または肺疾患、局所的な気道浮腫、炎症、ウイルス性、細菌性、真菌性または他の感染症、アレルギー、真性糖尿病の処置のための、少なくとも1つの薬学的に活性な化合物を含む医薬製剤を意味することがある。
【0076】
活性な医薬化合物は、好ましくは、吸入に適した活性な医薬化合物、好ましくは抗アレルギー薬、抗ヒスタミン薬、抗炎症薬、鎮咳薬、気管支拡張薬、抗コリン作用薬、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0077】
活性な医薬化合物は、例えば以下から選択することができる:
ヒトインスリンのようなインスリン、例えば組換えヒトインスリン、もしくはヒトインスリンの類似体もしくは誘導体、グリカゴン様ペプチド(GLP−1)もしくはその類似体もしくは誘導体、もしくはエキセンジン−3もしくはエキセンジン−4、もしくはエキセンジン−3もしくはエキセンジン−4の類似体もしくは誘導体;
短時間作用型β2アゴニスト(例えばサルブタモール、アルブテロール、レボサルブタモール、フェノテロール、テルブタリン、ピルブテロール、プロカテロール、ビトルテロール、リミテロール、カルブテロール、ツロブテロール、レプロテロール)、長時間作用型β2アゴニスト(LABA、例えばアルホルモテロール、バンブテロール、クレンブテロール、ホルモテロール、サルメテロール)、ウルトラLABA(例えばインダカテロール)のようなアドレナリン作動薬、もしくは別のアドレナリン作動薬(例えばエピネフリン、ヘキソプレナリン、イソプレナリン(イソプロテレノール)、オルシプレナリン(メタプロテレノール));
グルココルチコイド(例えばベクロメタゾン、ブデソニド、シクレソニド、フルチカゾン、モメタゾン、フルニソリド、ベタメタゾン、トリアムシノロン);
抗コリン作用薬もしくはムスカリンアンタゴニスト(例えば臭化イプラトロピウム、臭化オキシトロピウム、臭化チオトロピウム);
肥満細胞安定化薬(例えばクロモグリケート、ネドクロミル);
キサンチン誘導体(例えばドキソフィリン、エンプロフィリン、テオブロミン、テオフィリン、アミノフィリン、コリンテオフィリネート);
ロイコトリエンアンタゴニスト(例えばモンテルカスト、プランルカスト、ザフィルルカスト)のようなエイコサノイド阻害剤、リポキシゲナーゼ阻害剤(例えばジロイトン)、もしくはトロンボキサン受容体アンタゴニスト(例えばラマトロバン、セラトロダスト);
ホスホジエステラーゼタイプ4阻害剤(例えばロフルミラスト);
抗ヒスタミン薬(例えばロラタジン、デスロラタジン、セチリジン、レボセチリジン、フェキソフェナジン);
アレルゲン免疫療法(allergen immunotherapy)(例えばオマリズマブ);
粘液溶解薬(mucolytic)(例えばカルボシステイン、エルドステイン、メシステイン);
抗生物質もしくは抗真菌物質;
またはこれまでに言及した化合物種もしくは化合物のいずれか2つ、3つもしくはそれ以上の組み合わせ(例えばブデソニド/ホルモテロール、フルチカゾン/サルメテロール、臭化イプラトロピウム/サルブタモール、モメタゾン/ホルモテロール);
またはこれまでに挙げた化合物のいずれかの薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物もしくはエステル。
【0078】
薬学的に許容される塩は、例えば酸付加塩および塩基性塩である。酸付加塩は、例えば塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸、炭酸、硫酸、メチル硫酸、リン酸、酢酸、安息香酸、ベンゼンスルホン酸、フマル酸、マロン酸、酒石酸、コハク酸、クエン酸、乳酸、グルコン酸、グルタミン酸、エデト酸、メシル酸、パモ酸、パントテン酸またはヒドロキシナフトエ酸の塩である。塩基性塩は、例えばアルカリもしくはアルカリ土類から選択されるカチオン、例えばNa+もしくはK+もしくはCa2+、またはアンモニウムイオンN+(R1)(R2)(R3)(R4)を有する塩であり、R1〜R4は互いに独立に:水素、場合により置換されたC1〜C6アルキル基、場合により置換されたC2〜C6アルケニル基、場合により置換されたC6〜C10アリール基、または場合により置換されたC6〜C10ヘテロアリール基を意味する。薬学的に許容される塩の他の例は、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」17版、Alfonso R.Gennaro(編)、Mark Publishing Company、Easton、Pa.、U.S.A.、1985およびEncyclopedia of Pharmaceutical Technologyに記載されている。薬学的に許容されるエステルは、例えば酢酸エステル、プロピオン酸エステル、リン酸エステル、コハク酸エステルまたはエタボン酸エステルとすることができる。
【0079】
薬学的に許容される溶媒和物は、例えば水和物である。
【符号の説明】
【0080】
1 デバイス
2 本体
3 内部ハウジング
4 吸入チャネル
5 マウスピース
6 用量供給部材
7、7a、7b、7c 空洞
8、8a、8b、8c 粉末状の薬剤の用量
9 保護部材
10a、10b 空気入口
11 凝集解離部材
12 案内部材
13 ハウジングの内壁
14 封止部材
15 回転チャンバ
図1
図2A
図2B
図3