【0035】
本発明を、本発明の好ましい態様である以下の実施例によりさらに詳細に記載する。実施例において、言及する図は以下の通りである:
図1は、個々のピーナッツアレルゲンおよびスペイン品種の抽出物のrp−HPLCパターンを示す。パネルA (個々のピーナッツアレルゲン): ピーク 7.3ml: Arah2; ピーク 9〜9.5ml: Arah6; ピーク 11ml: Arah1。パネルB (スペイン品種の抽出物): ブランク (MQ水); ピーク 7.3ml: Arah2; ピーク9〜9.5ml: Arah6; ピーク11ml: Arah1;
図2は、修飾前後の個々のピーナッツアレルゲンのrp−HPLCパターンを示す。一番上のパネル: Arah1、矢印は修飾前(天然)および修飾後(RA)を示す。真ん中のパネル: Arah2、矢印は修飾前(天然)および修飾後(RA)を示す。一番下のパネル: Arah6、矢印は修飾前(天然)および修飾後(RA)を示す。;
図3は、修飾前後の個々のピーナッツアレルゲンの遠紫外線CDスペクトルを示す。一番上のパネル: Arah1、矢印は修飾前(天然)および修飾後(RA)を示す。真ん中のパネル:Arah2、矢印は修飾前(天然)および修飾後(RA)を示す。一番下のパネル: Arah6、矢印は修飾前(天然)および修飾後(RA)を示す;
図4は、負荷後のピーナッツアレルギーマウスの体温を示す。上のパネル: 天然ピーナッツ抽出物を用いた負荷(0.1、0.6および3 mg/マウス)。下のパネル: 修飾ピーナッツ抽出物を用いた負荷(0.1、0.6および3 mg/マウス);
図5は、実施例6(A)で用いた感作、脱感作および負荷手法のタイムラインおよび実施例7(B)で用いた感作、脱感作および負荷手法のタイムラインを示す;
図6は、91日目に負荷試験を行ったマウスの体温(A)および85日目の肥満細胞の活性(B; mMCP−1)を示す;
図7は、112日目に負荷試験を行ったマウスの体温を示す;
図8は、全ての試験群の99日目の血清中のmMCP−1レベルを示す;
図9は、全ての試験群の99日目の血清中のIgE (A)、IgG1 (B)およびIgG2a (C)のレベルを示す。
【実施例】
【0036】
実施例1 試料回収および抽出物の製造
4つの異なる品種(ランナー、スペイン、バレンシアおよびバージニア種)を含む12のピーナッツ試料を、Maleki博士(US Department of Agriculture, New Orleans, USA)よりご供与いただいた。これらの品種は、西欧および米国において通常消費されているものである。ピーナッツの一部を焙煎した(予め加熱した熱風循環炉内で、140℃にて15分間)。
【0037】
該ピーナッツを、手動により粉砕し、アセトンを用いて脱脂し(アセトン 50mLでピーナッツ5gを30分間脱脂した)、室温(RT)に置いて一晩乾燥させた。脱脂ピーナッツ粉末1gを50mM Tris HCl(pH8.0) (10% w/v) 10mLに懸濁し、1時間室温にて撹拌した。その後、試料を遠心分離し、上清を0.2μm セルロース膜フィルター(Whatman FP30/0,2 CA-S, Whatman GmbH, Dassel, Germany)に通して濾過し、さらなる試験に用いた。
【0038】
該抽出物を単回使用量で−20℃にて保存した。蛋白質濃度を、Bradford解析を用いて決定した。ウシ血清アルブミン (BSA 2mg/mL、Pierce, IL, USA) を用いて標準曲線を描き、50〜500μg/mLの範囲に希釈した。粗製ピーナッツ抽出物 (CPE)を、50mM Tris HCl (pH8.0)を用いて40倍希釈した。protein assay試薬(Bio-Rad, USA)を水で5倍に希釈した。標準および試料20μLを、5倍希釈した試薬1mLと混合し、各試料および標準250μLを、フラット付き平底プレート(Fタイプ)のウェルに入れた。50 mM Tris HCl (pH8.0)をブランクとして用いた。結果を表1にまとめる。
【表1】
【0039】
実施例2 ピーナッツカーネル中のArah1、Arah2およびArah6の存在量
X-Bridge BEH Phenyl 3.5 μm column (2.1 x 150 mm, Waters, Ireland)を備えたAgilent 1200 series HPLCを用いたrp−HPLC法によって、Arah1、Arah2およびArah6を定量化した。勾配溶出は、以下の移動相を用いて行った: (A) 0.1 % Milli Q (MQ) 水中TFAおよび(B) 0.085% メタノール中TFA。用いた勾配は、3% 溶出液B/分であり、溶出液B50%から始めて100%になるまで15分間続けた。クロマトグラムは、280nmおよび215nmにて記録した。215nmにおける記録を、ピーク面積の比較に用いた。
【0040】
試料をMQ水を用いて蛋白質濃度を1 mg/mL に希釈し、ブランクにMQ水を用いた。ピーナッツアレルゲン Arah1、Arah2およびArah6の精製物を、ピークの指定に用いた。主要ピーナッツアレルゲン(Arah1、Arah2およびArah6) の分離したピークを定量し、全蛋白質面積あたりの%として表した。
【0041】
図1aは、個々のArah1、Arah2およびArah6の精製形態を用いたこの解析の実施例を示す。これらのアレルゲンは、ベースラインが分離されており、該方法は抽出物中の定量化を考慮したものである。
図1bは、ピーナッツ抽出物の例を示し、矢印はArah1、Arah2およびArah6に相当するピークを示す。この抽出物において、Arah1が最も豊富なアレルゲンであることが示されている。
【0042】
全てのピーナッツ試料を、そのArah1、Arah2およびArah6の含有量について解析し、その結果を表2にまとめる。試験した全てのピーナッツ試料について、Arah1の含有量はArah2およびArah6よりも高い。
【表2-1】
【表2-2】
試験した全ての試料において、Arah1はArah2もしくはArah6より量が多い。
【0043】
実施例3 修飾はArah2およびArah6には影響を与えるが、Arah1には与えない。
精製したアレルゲンArah1、Arah2およびArah6を上に記載したように処理した。端的には、該アレルゲンをDTTとともに1時間60℃にてインキュベートし、IAAを添加し、該混合物を室温にて1.5時間インキュベートした。
【0044】
処理したアレルゲンを、rp−HPLCにより、移動度に影響があるかどうかについて試験した。
図2より、Arah2およびArah6が影響を受けているのに対し、Arah1がこの修飾による影響を受けていないことが明らかにわかる。この点をさらに調べるため、さらなる試験:精製蛋白質の二次構造要素の含量を評価しうる遠紫外線CD分光法を行った。スペクトルを蛋白質濃度について標準化した。
図3により、修飾はArah2およびArah6に影響を与えるが、Arah1
には影響を与えないことを示す。
【0045】
実施例4 還元し、アルキル化したピーナッツ抽出物は低IgE結合力価を示す。
ピーナッツアレルギーの患者20人から回収した血清を得、IgE ELISAを行った。ELISAプレートは、ピーナッツ抽出物でコートし、天然のピーナッツ抽出物のIgE結合力価を1とし、修飾ピーナッツ抽出物のIgE結合力価をその相対値とした。表3は、患者ごとの天然ピーナッツ抽出物に対して相対的な、修飾ピーナッツ抽出物の残存力価を示す。修飾ピーナッツ抽出物の残存力価の平均は、天然ピーナッツ抽出物の力価の7%である。
【表3】
【0046】
実施例5 修飾ピーナッツ抽出物の生体内安全性
以前に記載されている方法により、マウスをピーナッツ抽出物に対してアレルギー性にした。これらのマウス(群ごとに6個体)を、天然もしくは修飾ピーナッツ抽出物のいずれ化を用いて負荷試験を行った。その後、90分間体温を測定した。該体温をプロットしたものを
図4に示す。
【0047】
天然ピーナッツ抽出物での負荷が、体温の急速かつ深い低下を伴う重症なアレルギー応答を引き起こすことは明らかである。これは0.1mg/mlの用量ですでに見られる。対照的に、修飾ピーナッツ抽出物での負荷は、30倍高い用量(3mg/マウス)においてさえ該応答をひきおこさなかった。
【0048】
実施例6および7
導入
ピーナッツアレルギー免疫療法の生体内マウスモデルにおいて、試験製剤を、その有効性について解析した。これらの実験は、化学的に修飾したピーナッツ抽出物(水酸化アルミニウムに吸着させていても吸着させていなくてもよい)が、ピーナッツに感作させたマウスを処置するのに有効に使用できる可能性があることを示す。
【0049】
材料および方法
マウス
5週齢の、特定病原体不在のメスC3H/HeOuJマウスを、Charles River, Franceより購入した。全てのマウスを特定病原体不在条件下で動物飼育施設(ユトレヒト大学、オランダ)に収容した。実験は、ユトレヒト大学の動物実験委員会の承認を受けている。用いた食事には、植物蛋白質(ダイズを含む)が含まれていたが、ピーナッツ蛋白質は含まれていなかった。
【0050】
感作および負荷
マウス (群ごとのn=6) を、マウス一匹につき、PBS 400μl中のピーナッツ抽出物(PE) 6mgおよびコレラトキシン(CT、List Biological Laboratories, Inc.) 15μgを、0、1、2、7、14、21、28日目に胃内(i.g.)投与することにより感作させた。対照マウスには、マウス一匹につき、PBS400μl中にCT15μgを含むPBSを投与した。42日目より、様々な群のマウスに様々な試験製剤(修飾PE +/- 水酸化アルミニウム)またはそのそれぞれの対照200μlを用いて、首への皮下(s.c.)投与による脱感作を、1週間に3回を3週間(実施例5)または1週間に2回を6週間(実施例6)行った(
図5)。以降、非アレルギー性PBS感作マウスおよびアレルギー性PE感作マウス(免疫療法なし)を、それぞれ、PBS対照およびPE対照として示す。
【0051】
アナフィラキシーの評価
アナフィラキ
シーショックの客観的パラメーターとして、体温を、腹腔内(i.p.)負荷の後、10〜20分ごとに90分間直腸検温により測定した。該モデルの過程におけるいくつかのタイムポイントにおいて、血液を、抗体およびmMCP−1(mast cell protease 1)を測定するために採取した。91日目 (実施例5)または112日目 (実施例6)に、マウスにi.p.負荷を行った直後、体温を90分間経過観察した。
【0052】
実施例6
結果
91日目のi.p.負荷の後、修飾PE製剤は、負荷後の体温低下により測定されるアナフィラキー応答を効果的に低下させた (
図6A)。様々な濃度の修飾PEによる脱感作により、体温により測定されるアナフィラキーショック応答の改善について、0.03mgおよび0.1 mgを比較して、濃度依存的な効果が小さいことが示された(
図6A)。
最も濃度の高い2つである、0.1および1mg mPEを比較しても、体温に違いは観察されない (
図6A)。mPEによる免疫療法後における、体温低下の減少によって示されるアナフィラキーショック応答の改善は、同様に、85日目における
肥満細胞の活性化レベルによっても示される (mMCP−1;
図6B)。試験した中で高い2つのIT用量(それぞれ、0.1および1mg/マウス)では、
肥満細胞の活性が低下していたのに対し、最も低い用量 (0.03mg/マウス) では改善は見られなかった。
【0053】
実施例7
結果
112日目のi.p.負荷試験の後、免疫療法製剤(修飾PE単独およびアルミニウムに吸着させたもの)は、ともに、負荷後の体温低下により測定されるアナフィラキ
シー応答を効果的に低下させた(
図7)。
【0054】
アルミニウムに吸着させた抽出物は、吸着させない抽出物と比較して、有効性プロファイルがわずかに改善した(
図7A)。アルミニウムに吸着させた、様々な濃度の修飾PEによる脱感作は、温度により測定されるアナフィラキ
シーショック応答の改善に対する濃度依存的な効果を示した(
図7)。
【0055】
mMCP−1および抗体 (IgE、IgG1およびIgG2a)のレベルを、モデルの過程において、全ての群の血清において測定した。これらの免疫学的パラメーターに対する免疫療法の99日目における効果が示されている(
図8および9)。
【0056】
mMCP−1レベルは、陰性PBS対照と比較して、全ての群で上昇していた。修飾PEで脱感作した群は、免疫療法を受けていないマウス(PE対照)およびアルミニウムに吸着させた修飾PEで脱感作したマウスと比較して、mMCP−1が増加していた(
図8)。
【0057】
IgEレベルは、陰性PBS対照と比較して全ての群で、高くなっていた。臨床において一般的に見られるように、免疫療法は、IgEのレベルを上昇させる(
図9A)。これは、免疫療法により免疫系がブーストされていることを示す。該上昇は、注射の過程の間においてより高く、時間とともにわずかに低下する(データは示さない)。
【0058】
免疫療法を受けたマウスは、アルミニウムに吸着させた抽出物および吸着させていない抽出物を用いた場合に匹敵するレベルで、血清中のIgG1レベルの上昇を示した(
図9B)。IgG2aレベルの上昇(ヒトにおけるIgG4に匹敵する)は、アルミニウムに吸着させたピーナッツ製剤で処理した群が優位を占めた(
図9c)。
【0059】
結論
還元およびアルキル化により修飾したピーナッツ抽出物は、i.p.負荷後のマウスにおけるアナフィラキ
シー応答を改善することができる。様々な免疫療法モデル(皮下注射、1週間に3回を3週間または1週間に2回を6週間)により、匹敵する有効な結果が得られることが示された。有効性は、ピーナッツ抽出物を水酸化アルミニウムに吸着させた後ではわずかに上昇する。これは、これらのマウスにおいて、IgG2a(ヒトIgG4に匹敵)のレベルが上昇することによるものであり得る。