(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1エア孔から出た前記微粒化エアが前記ベルカップの背面に到達するエア到達距離が26.7mmと等しいかこれよりも小さい、請求項1〜3のいずれか一項に記載の回転霧化型静電塗装機。
前記第1エア孔から出た前記微粒化エアが前記ベルカップの背面に到達するエア到達距離が30mm〜1mmである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の回転霧化型静電塗装機。
前記第1エア孔から出た前記微粒化エアが前記ベルカップの背面に到達するエア到達距離が15mm〜1mmである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の回転霧化型静電塗装機。
前記第1エア孔から出た前記微粒化エアが前記ベルカップの背面に到達するエア到達距離が10mm〜1mmである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の回転霧化型静電塗装機。
前記回転霧化型静電塗装機を側方から見たときに、前記第1エア孔が前記ベルカップに接近した位置に位置決めされ、前記第2エア孔が前記ベルカップから遠ざかる位置に位置決めされている、請求項1〜14のいずれか一項に記載の回転霧化型静電塗装機。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
ところで、静電塗装機が設置される塗装工程は自動車生産ラインの一部を構成する。すなわち、自動車生産ラインはプレス工程、溶接工程、塗装工程、組立工程を含む。
【0019】
自動車生産ラインに設置された静電塗装機は、今現在、例えば次のパラメータの下で運用されている。
【0020】
(i)ベルカップの回転数 20,000〜30,000rpm
(ii)塗料吐出量 200〜300cc/min
(iii)シェーピングエアの捻り角度 30〜45°
(iv)ベルカップの直径 77mm
(v)シェーピングエア吐出圧 0.10〜0.15MPa
(vi)シェーピングエア流量 500〜650Nl/min
(vii)塗装パターン幅 直径300〜350mm
(viii)塗着効率 約60〜70%
ここに、上記シェーピングエアの捻り角度は、ベルカップの背面又はベルカップの外周縁に差し向けられるシェーピングエアの捻り角度を意味する。
【0021】
メタリック塗料の場合、強いシェーピングエア(0.20MPa,650Nl/min)を使用するため塗着効率は、メタリック塗装ではない塗装つまりソリッド塗装との対比で、約10%低下している。塗装パターン幅は直径約320mmである。
【0022】
なお、ベルカップの直径は、塗装機メーカによって70mm、65mmがある。これらは、自動車ボディの外板の塗装に用いられる。バンパーや小物部品の塗装には、直径30mm、40mm、50mmのベルカップを備えた静電塗装機が使われている。また、ベルカップの回転数は30,000rpmよりも高速の場合もある。
【0023】
静電塗装機が吐出する塗料の量を増やした場合、塗装速度を高めて膜厚を一定に保つ必要がある。例えば塗料吐出量を従来の2倍にしたときには、従来と同じ膜厚を保つために塗装速度を2倍にすることで、塗装機の台数を減らすことができる。換言すれば、塗装機の台数が従来と同じであれば、塗装工程に要する時間を短縮できる。これにより、静電塗装機の塗料吐出量を例えば現在の200〜300cc/minから例えば500cc/minや1,000cc/minに増やすことができれば自動車生産ラインの生産能力の向上に大きく貢献できる。しかし、回転霧化型静電塗装機の塗料吐出量をただ単に増やせば良いという単純な話ではない。塗料吐出量を増やせば塗料粒子の直径が大きくなり塗装品質を維持するのが難しくなる。つまり、塗料吐出量と塗装品質とは二律背反の関係にある。
【0024】
この二律背反の問題に対して、塗料微粒化のための従来の手法を採用したときには、次の問題が発生する。従来の手法とは、前述した式1、式4の教示に基づいて、ベルカップの回転数を高くする及び/又はベルカップの直径を大きくすることである。
【0025】
(1)
ベルカップの回転数を高く設定する場合の問題点:
(1-1)塗着効率の低下:
回転するベルカップから飛び出す塗料粒子には遠心力が働く。回転数が高くなると遠心力は大きくなる。遠心力が大きくなるほど、この遠心力に打ち勝って塗料粒子をワークに向けて偏向するのにシェーピングエアの吐出圧力又は流量を高くする必要がある。しかし、シェーピングエアを強くすると、塗料粒子がワーク表面に当たる速度が高くなると同時に、ワークに当たったシェーピングエアが跳ね返ってしまう。シェーピングエアの跳ね返りによって、塗料粒子がワーク表面に付着する前に吹き飛ばされる。このことから、シェーピングエアを強くすることは塗着効率の低下を招くという問題がある。
【0026】
(1-2)二重パターン:
シェーピングエアを強くすると塗装パターンが二重になり易い。二重パターンとは、塗料粒子の重さの相違によって、塗装パターンの中心部分に小さな塗料粒子(軽い粒子)が集まり、外周部分に大きな塗料粒子(重い粒子)が集まる状態をいう。そして、二重の塗装パターンが発生すると、相対的に中心部分の塗装膜の厚さが厚く、外周部分の塗装膜の厚さが薄くなる傾向がある。その結果、二重の塗装パターンでは塗装の膜厚が不均一になり易いという問題がある。
【0027】
(2)
直径の大きなベルカップの問題点:
(2-1)オーバースプレー:
直径の大きなベルカップを採用すると塗装パターン幅つまり塗装パターンの直径が大きくなる。塗装パターン幅が大きくなると、例えば塗装機の往復運動によって塗膜を形成する場合に均一な膜厚の塗装面を実現するために、円形の塗装パターンの半分をオーバースプレーする必要がある。このことは、オーバースプレーによって無駄になる塗料の量が増大することを意味する。
【0028】
(2-2)塗料粒子に作用する遠心力:
小さな半径のベルカップとの対比で、同じ回転数の場合において半径の大きいベルカップの方がその周速度が大きい。したがって大きな半径のベルカップを採用すると、ベルカップから飛び出す塗料粒子に大きな遠心力が作用する。大きな遠心力が塗料粒子に作用することに伴って発生する問題点は前述した通りである。
【0029】
本発明の主なる目的は、塗料吐出量の増加と塗装品質の維持との前述した二律背反の問題を解消できる回転霧化型静電塗装機及びそのシェーピングエアリングを提供することにある。
【0030】
本発明の更なる目的は、比較的簡単に取り替えることのできるベルカップ及びシェーピングエアリングを交換するだけで塗料吐出量と塗装品質との前述した二律背反の問題を解消できる回転霧化型静電塗装機及びそのシェーピングエアリングを提供することにある。
【0031】
本発明の更なる目的は、塗着効率を高めることのできる回転霧化型静電塗装機及びそのシェーピングエアリングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本件発明者らは、上記の技術的課題の下で、ベルカップ背面に当てるシェーピングエアの捻り角度に着目して、試作機を作ってデータを検証した。本件発明者らは、試作機から得られた検証に基づいて本発明を提案するものである。
【0033】
上記の技術的課題は、本発明によれば、基本的には、
塗料の最大吐出量が1000cc/min〜300cc/minである回転霧化型静電塗装機であって、
微粒化エアが当たる背面の角度が90°以下のベルカップと、
該ベルカップ背面に向けて差し向けられる前記微粒化エアを吐出する第1エア孔と
、
該第1エア孔よりも外周側に配置された第2エア孔であって、該第2エア孔から吐出されるパターンエアを前記ベルカップの外周縁より径方向外方を通過させる第2エア孔とを有し、
該第1エア孔が前記ベルカップの回転軸線を中心にした円周上に等間隔に配置され、
該第1エア孔が前記ベルカップの回転方向とは逆方向に指向され、
該第1エア孔から吐出される前記微粒化エアが前記ベルカップの回転方向とは逆方向に50°以上60°未満の角度に捻られていることを特徴とする回転霧化型静電塗装機を提供することにより達成される。
【0034】
図1〜
図3は、試作した回転霧化型静電塗装機の先端部を示す模式図である。図中、参照符号10はベルカップを示し、参照符号12はシェーピングエアリングを示す。
図1に図示のベルカップ10は、その背面の角度が60°である。ここに、ベルカップ10の背面角度とは、ベルカップ10の外周縁が占める平面を基準にしたベルカップ10の背面10aの角度をいう。
図2に図示のベルカップ10は、その背面の角度が75°である。
図3に図示のベルカップ10は、その背面の角度が90°である。ベルカップ10の直径は77mmである。
【0035】
図1〜
図3において、背面角度の異なる3種類のベルカップ10を識別するために、背面角度60°のベルカップに参照符号10(60)を付し(
図1)、背面角度75°のベルカップに参照符号10(75)を付し(
図2)、背面角度90°のベルカップに参照符号10(90)を付してある(
図3)。
【0036】
図1〜
図3に図示の三種類の回転霧化型静電塗装機から得られるデータを整合させるために、微粒化エアつまりシェーピングエアSA-INを吐出する第1エア孔は、直径0.7mm、孔の数は52個であった。また、塗装条件は次の通りであった。
【0037】
(1)高電圧:-80kV
(2)塗料吐出量:従来の約2倍の600cc/min
(3)ベルカップ回転数:25,000rpm
(4)塗装スピード(ガン速度):350mm/sec
(5)塗装距離(ガン距離):200mm
【0038】
以下の説明において、微粒化エアつまりシェーピングエアSA-INの捻り角度とはベルカップの回転方向とは逆方向の捻り角度を意味する。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
【表4】
【0043】
【表5】
【0044】
【表6】
【0045】
【表7】
【0046】
【表8】
【0047】
【表9】
【0048】
上記の表1〜9において、「d10」の値「11.75μm」(表1)とは全粒子の10%が11.75μm以下の粒径であることを意味している。「d50」の値「23.06μm」(表1)とは全粒子の50%が23.06μm以下の粒径であることを意味している。「d90」の値「61.20μm」(表1)とは全粒子の90%が61.20μm以下の粒径であることを意味している。同様に、ザウター平均粒子径の値が「21.07μm」(表1)とは、全粒子の総体積を総面積で除算した値であることを意味しており、ザウター平均粒子径は、粒径X
iの粒の数をn
iとして次の式5で導かれる。
【0050】
上記の表1〜9において、本件発明者らは、塗料吐出量が従来の約2倍である600cc/minであるにも関わらず、塗料粒子の直径が極めて良好な数値であることに注目し、捻り角度と微粒化との関係を考察した。
【0051】
図4、
図5は、ベルカップ10の背面10aと、この背面10aに差し向けられた微粒化エアつまりシェーピングエアSA-INの捻り角度との関係を説明するための図である。
図4は、シェーピングエアSA-INの捻り角度がゼロの例を示す。
図4(I)はベルカップの側面図である。
図4(II)はシェーピングエアSA-INに沿って切断したベルカップの断面図である。
図4(II)において、ベルカップ10の外周縁部の見かけ上の角度をAn(a)で示す。ベルカップ10の地点Pに差し向けられたシェーピングエアSA-INの入射角度をθ
0で示す。
【0052】
図5は、シェーピングエアSA-INの捻り角度がβの例を示す。
図5(I)はベルカップの側面図である。図中、矢印Rはベルカップ10の回転方向を示す。
図5(II)はシェーピングエアSA-INに沿って切断したベルカップの断面図である。
【0053】
図5(I)から分かるように、捻り角度βのシェーピングエアSA-INはベルカップ10の背面10aに対して傾斜した状態で入射する。ここに、「傾斜」とはベルカップ10の回転軸線Axに対して傾斜しているという意味である。
【0054】
図5(II)は、前述した
図4(II)と同様に、シェーピングエアSA-INに沿って切断した断面図である。換言すれば、
図5(II)は、ベルカップ10を斜めに切断した図である。シェーピングエアSA-INが捻り角度βを有する場合、捻り角度ゼロ(
図4(II))の場合に比べて、ベルカップ10の外周縁部の見かけ上の角度An(a)が小さくなる。このことから、シェーピングエアSA-INのベルカップ10に対する入射角度θ
1(
図5(II))が捻り角度ゼロ(
図4(II))の場合に比べて小さくなる(θ
1<θ
0)。
【0055】
捻り角度βを有するシェーピングエアSA-INのベルカップ10への入射角度θ
1は、捻り角度βが大きくなるほど小さくなる。捻り角度βと入射角度θ
1との関係を試算した数値は次のとおりである。
【0056】
(1)捻り角度β=55°・・・入射角度θ
1=18.49°;
(2)捻り角度β=56°・・・入射角度θ
1=18.07°;
(3)捻り角度β=57°・・・入射角度θ
1=17.64°;
(4)捻り角度β=58°・・・入射角度θ
1=17.21°;
(5)捻り角度β=59°・・・入射角度θ
1=16.77°;
(6)捻り角度β=60°・・・入射角度θ
1=16.32°。
【0057】
シェーピングエアの捻り角度βとシェーピングエアSA-INのベルカップ10への入射角度θ
1との関係は、塗料粒子の微粒化を検討する上で次のことを教えている。
【0058】
前述したように、シェーピングエアSA-INの捻り角度βが大きくなる程、このシェーピングエアSA-INの入射角度θ
1(
図5(II))が小さくなる。換言すれば、捻り角度βが大きくなる程、ベルカップ背面10aで反射するシェーピングエアSA-INの反射角度が小さくなる。
【0059】
そして、シェーピングエアSA-INの反射角度が小さくなればなる程、ベルカップ背面10aで反射したシェーピングエアSA-INの到達点がベルカップ10の外周縁に近づくことを意味する。
【0060】
ベルカップ10の外周縁から塗料の液糸が延出する。そして、この液糸の先端から離れた塗料が塗料粒子を形作る。微粒化エアつまりシェーピングエアSA-INをベルカップ10の外周縁の近傍に差し向けることで、シェーピングエアSA-INは液糸を切断するのに貢献することができる。このことは、塗料粒子の一層の微粒化が可能であることを意味する。そして、このシェーピングエアSA-INがベルカップ10の回転方向とは逆方向の捻り角度βを有することで、シェーピングエアSA-INは、ベルカップ10の回転方向と同じ方向の捻り角度を有する場合に比べて、効果的に液糸を切断することができる。このことは微粒化の度合いが高くなることを意味している。
【0061】
塗料の微粒化のために従来から採用されていた2つの手法、つまり(1)ベルカップの回転数を高くする、(2)ベルカップの直径を大きくする手法に加えて、本発明によれば、シェーピングエアの捻り角度を大きくする手法を提案することができる。この捻り角度を大きくする手法は、ベルカップの回転数、ベルカップの直径から独立しており、これらとの相関関係は無い。したがって、捻り角度とベルカップの回転数との組み合わせなどを使って塗料粒子の一層の微粒化を図ることができる。
【0062】
表1〜9を再び参照して、塗料吐出量が従来の約2倍である600cc/minであるにも関わらず、塗料粒子の直径が極めて良好な数値である。このことは、
図5を参照して説明した液糸の切断効果の観点に立脚すれば良く理解できる。
【0063】
次に、発明者らは、表3、表6の試作機のデータを収集したときの現象に注目した。表3の試作機と表6の試作機は捻り角度βが60°である点で共通している。表3、表6の試作機では、塗料粒子が前方に向かうことなく、ベルカップ10側に逆流した。
【0064】
この現象は、捻り角度βが60°の微粒化エアつまりシェーピングエアSA-INは、周囲環境の下では、塗料粒子を前方に差し向ける力が実質的にゼロ又はマイナスであることを意味している。換言すれば、捻り角度60°のシェーピングエアSA-INは、上記液糸の切断効果が優れていたとしても、塗料粒子を逆流させてしまう。
【0065】
発明者らは、この点に注目した。捻り角度βを50°以上の値に設定した場合、この捻り角度βが塗料粒子の微粒化に貢献できるのは前述した通りである。しかし、捻り角度βが60°になると、塗料粒子を前方に差し向ける力がゼロになる。このことは、捻り角度60°の近傍且つこれよりも小さい捻り角度βは、塗料粒子を前方に差し向ける力が微弱であることを意味する。つまり、捻り角度60°の近傍且つこれよりも小さい捻り角度βに設定すれば、シェーピングエアSA-INの力を塗料粒子の微粒化のために最大限役立たせることができる、と言うことができる。
【0066】
塗料粒子を前方に差し向ける力がゼロになる捻り角度βは、シェーピングエアSA-INの吐出圧力や他のパラメータによって変化する。塗料粒子を前方に差し向ける力がゼロになる捻り角度βを実験により求めて、これをシェーピングエアSA-INの捻り角度に設定した静電塗装機を作製すれば、このシェーピングエアSA-INは、理論的に、シェーピングエアSA-INの力の全てを塗料粒子の微粒化に役立たせることができる。換言すれば、シェーピングエアSA-INによって塗料粒子を前方に差し向ける力はゼロになる。つまり、シェーピングエアSA-INの機能を塗料粒子の微粒化に特化することができる。
【0067】
シェーピングエアSA-INの捻り角度60°の近傍且つこれよりも小さい捻り角度βの最適値を探るために、捻り角度55°、56°、57°、58°、59°、60°の試作機を作製した。これらの試作機は、ベルカップ10の直径が77mm、背面角度は60°であった。また、シェーピングエアSA-INを吐出する孔は、直径0.7mm、孔の数は52個であった。また、塗装条件は次の通りであった。
【0068】
(1)高電圧:-80kV
(2)塗料吐出量(流量):600cc/min
(3)ベルカップ回転数:25,000rpm
(4)塗装スピード(ガン速度):350mm/sec
(5)塗装距離(ガン距離):200mm
【0075】
上記の試作機から得られたデータによれば、シェーピングエアSA-INの捻り角度βは56°〜59°が好ましく、より好ましくは56°〜58°であることが分かる。
【0076】
図6は、シェーピングエアSA-INの捻り角度βと塗料粒子の微粒化との関係を示す。収集したデータを整理して、シェーピングエアSA-INの捻り角度βと塗料粒子の微粒化との関係を検討するときに、この
図6を作成した。ベルカップ10の回転数は25,000rpmであった。また、塗料吐出量(流量)は600cc/minであった。当業者であれば、
図6に図示のデータから次のことが分かる。すなわち捻り角度βを大きくする程、塗料粒子は小さくなる傾向がある。
【0077】
図7は、シェーピングエアSA-INの捻り角度βと塗着効率との関係を示す。収集したデータを整理して、シェーピングエアSA-INの捻り角度βと塗着効率を検討するときに、この
図7を作成した。ベルカップ10の回転数は25,000rpmであった。また、塗料吐出量は600cc/minであった。当業者であれば、
図7に図示のデータから次のことが分かる。すなわち、シェーピングエアSA-INの捻り角度βを55°〜59°未満に設定すると、従来の塗着効率である約85%よりも遙かに効率が良くなる。
【0078】
図8は、ベルカップ10の回転数が従来よりも低回転の領域で高い塗着効率が実現できているかを検討するときに作成した図である。塗料粒子の平均粒径が同一(塗料の平均粒径20.5μm)という条件の下でデータを整理して、この
図8を作成した。塗料吐出量は600cc/minであった。シェーピングエアSA-INの捻り角度βは57°であった。
【0079】
図8は次のことを示している。
(1)シェーピングエアSA-INの吐出圧力0.03MPa、ベルカップ10の回転数25,000rpmのときの塗着効率は91.6%であった。
(2)シェーピングエアSA-INの吐出圧力0.06MPa、ベルカップ10の回転数22,500rpmのときの塗着効率は89.5%であった。
(3)シェーピングエアSA-INの吐出圧力0.09MPa、ベルカップ10の回転数20,000rpmのときの塗着効率は91.4%であった。
(4)シェーピングエアSA-INの吐出圧力0.12MPa、ベルカップ10の回転数17,500rpmのときの塗着効率は91.3%であった。
(5)シェーピングエアSA-INの吐出圧力0.15MPa、ベルカップ10の回転数15,000rpmのときの塗着効率は91.6%であった。
【0080】
図8を参照したときに、当業者であれば、ベルカップ10が従来に比べて低回転であり且つ塗料吐出量が大量であるにも関わらず高い塗着効率を実現できていることに驚くであろう。
【0081】
図9に図示の回転霧化型静電塗装機は比較例である。
図9に図示の静電塗装機1は、現在使用されている典型的な回転霧化型塗装機である。ベルカップ2の背面角度は40°である。シェーピングエアリング3とベルカップ2の外周縁との間の軸線方向距離は22.86mmである。シェーピングエアSA-INが当たる点Pとベルカップ外周縁との間の軸線方向距離は2.4mmである。
【0082】
一つの微粒化エアつまりシェーピングエアSA-INに注目したときに、このシェーピングエアSA-INがベルカップ2に当たるまでの距離L
0は26.7mmである。距離Lを「エア到達距離」と呼ぶ。
【0083】
エア到達距離Lの大小は、シェーピングエアSA-INが上記液糸を切断する、その効果に影響する。エア到達距離Lが大きいと、シェーピングエアSA-INがベルカップ背面に到達するときの、その運動量が小さくなる。弱いシェーピングエアSA-INは上記液糸を切断する力が弱くなる。このことは塗料粒子の微粒化に対してマイナスに作用する。
【0084】
図9に図示の回転霧化型静電塗装機1において、シェーピングエアSA-INの捻り角度βを50°以上60°未満に設定した場合を想定する。この場合、捻り角度βを50°以上60°未満に設定することで塗料粒子を微粒化できる。しかし、捻り角度βが大きくなると、エア到達距離Lが大きくなる。エア到達距離Lが大きくなるとシェーピングエアSA-INによる液糸切断力が弱くなる。
【0085】
この問題を解消するには、エア到達距離Lが従来のエア到達距離L
0(26.7mm)と等しくなるようにシェーピングエアリング3とベルカップ2の外周縁との間の軸線方向距離を設定するのが良い。エア到達距離Lを従来と同じに設定すれば、理論的には、周囲環境の従来と同じ抵抗がシェーピングエアSA-INに作用する。これにより、捻り角度βを50°以上60°未満に設定することによるメリット、つまり塗料粒子の微粒化を享受することができる。
【0086】
エア到達距離Lを従来のエア到達距離L
0(26.7mm)よりも小さな値となるようにシェーピングエアリング3とベルカップ2の外周縁との間の軸線方向距離を設定した場合には、周囲環境による抵抗を小さくすることができる。すなわち、運動量が十分に大きな状態のシェーピングエアSA-INを液糸に衝突させることができる。したがって、シェーピングエアSA-INの吐出圧力及び/又は流量を従来と同じに設定したときには、前記液糸を切断するときのシェーピングエアSA-INの切断力を大きくすることができる。これにより塗料粒子を一層微粒化できる。
【0087】
塗料粒子の粒径は従来と同じであってもよい、という要請であれば、シェーピングエアSA-INの吐出圧力及び/又は流量を従来よりも小さな値に設定できる。これにより、シェーピングエアSA-INによって塗料粒子を前方に差し向ける力を弱めることができる。また、ベルカップの回転数を従来よりも低い値に設定することができる。また、小さな直径のベルカップを採用することができる。これにより、塗料粒子に作用する遠心力を小さくすることができる。塗料粒子に作用する遠心力が小さければ、塗料粒子を前方に差し向けるための力は小さくてもよい。このことは、塗装パターンの幅(塗装パターンの直径)の制御が容易になることを意味する。
【0088】
塗装パターン幅を制御するのに、上記シェーピングエアSA-INの外周に追加のシェーピングエアSA-OUTを採用してもよい。この追加のシェーピングエアSA-OUTをON―OFF又は吐出圧力及び/又は吐出流量を制御することで塗装パターン幅を制御すればよい。すなわち、追加のシェーピングエアSA-OUTは塗装パターン幅を制御すると同時に微粒化された塗料粒子を被塗物に差し向ける機能を有する。この機能を奏するのに、追加のシェーピングエアSA-OUTは最小限のエアでよい。変形例として、塗装パターン幅を制御するときに、上記のシェーピングエアSA-INの吐出圧力及び/又は吐出流量の制御を加えてもよい。
【0089】
上記エア到達距離Lはベルカップ10の直径によって最適値が異なるが、ベルカップ10の直径が約70mm〜77mmの場合、エア到達距離Lは30mm〜1mm、好ましくは15mm〜1mm、最も好ましくは10mm〜1mmである。
【0090】
図10は、エア到達距離Lとして8.63mmを設定した試作機を示す(L=8.63mm)。
図10に図示の試作機において、ベルカップ10の直径は77mmである。また、ベルカップ10の外周縁とシェーピングエアリング12との間の軸線方向距離は12.4mmであり、シェーピングエアSA-INがベルカップ10に当たる点とベルカップの外周縁との間の軸線方向距離は7.7mmである。シェーピングエアSA-INの捻り角度は57°である。
図10に図示の試作機のデータを次の表16に示す。表16から分かるように良好な結果が得られた。
【0091】
なお、塗装条件は次の通りであった。
(1)高電圧:-80kV
(2)塗料吐出量(流量):600cc/min
(3)ベルカップ回転数:25,000rpm
(4)塗装スピード(ガン速度):350mm/sec
(5)塗装距離(ガン距離):200mm
【0093】
当業者であれば、上記表16のシェーピングエアSA-INの数値との関係で平均塗料粒子径の数値に驚くであろう。すなわち、シェーピングエアSA-INの吐出圧力が低いにも関わらず塗料粒子が十分に微粒化していることが分かる。これは、静電塗装機の微粒化性能が格段に向上していることを意味する。そして、このことは塗料吐出量が従来に比べて大量であっても言える。
【0094】
本発明に従う回転霧化型静電塗装機は、強いシェーピングエアを使わなくても塗料粒子の微粒化が可能である。メタリック塗装は、前述したように、その品質を高めるのに自動車ボディの面に対する塗料粒子の衝突速度を速くすれば良いということが知られており、この考えに基づいて従来の回転霧化型静電塗装機では強いシェーピングエアが使われている。本発明の塗装機によれば、強いシェーピングエアを使うことなく、塗料粒子を微粒化することでメタリック塗装の品質を高めることができる。したがって、従来のメタリック塗装との対比で相対的に弱いシェーピングエアを使うことで、本発明の回転霧化型静電塗装機を使ったメタリック塗料の塗着効率を高めることができる。このことは塗料吐出量が従来に比べて大量であっても言える。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0096】
以下に、添付の図面に基づいて本発明の好ましい実施例を説明する。
【0097】
実施例の回転霧化型静電塗装機(図11〜図17):
図11は実施例の回転霧化型静電塗装機の先端部分の側面図である。
図11に図示の静電塗装機20は、ベルカップ22とシェーピングエアリング24とを有している。ベルカップ22の直径は77mmである。ベルカップの背面22aの背面角度は60°である。
【0098】
シェーピングエアリング24は、従来に比べて前方に位置決めされている。
図12は、シェーピングエアリング24の正面図である。シェーピングエアリング24は、ベルカップ22の回転軸線Axを中心とした第1の円周(半径35.95mm)上に位置する第1のエア吐出孔群26と、その外周側の第2の円周(半径46.1mm)上に位置する第2のエア吐出孔群28とを有している。
【0099】
第1のエア吐出孔群26は、等間隔に配置された複数の第1のエア吐出孔30で構成されている。この第1のエア吐出孔30から吐出されるエアが、先に説明したシェーピングエアSA-INである。第1のエア吐出孔30を「微粒化エア孔」と呼ぶ。微粒化エア孔30の直径は0.5mmである。微粒化エア孔30の数は「90」である。
【0100】
第2のエア吐出孔群28は、等間隔に配置された複数の第2のエア吐出孔32で構成されている。この第2のエア吐出孔32を「パターンエア孔」と呼ぶ。パターンエア孔32の直径は、微粒化エア孔30よりも大きい0.8mmである。パターンエア孔32の数は、微粒化エア孔30の半分よりも少ない「40」である。
【0101】
微粒化エア孔30とパターンエア孔32には独立した経路からエアが供給される。したがって、微粒化エア孔30から吐出される第1シェーピングエアSA-INの吐出圧力及び流量と、パターンエア孔32から吐出される第2シェーピングエアSA-OUTの吐出圧力及び流量とは、個々独立して制御することができる。
【0102】
第1シェーピングエアSA-IN及び第2シェーピングエアSA-OUTは、共に、ベルカップ22の回転方向とは逆方向に捻り角度を有する。すなわち、微粒化エア孔30及びパターンエア孔32は、共に、ベルカップ22の回転方向とは逆方向に傾斜した孔で構成されている。
【0103】
微粒化エア孔30から吐出される第1シェーピングエアSA-INを「微粒化エア」と呼ぶ。微粒化エアSA-INはベルカップ22の背面22aに向けて指向されている。微粒化エア孔30の吐出端と、微粒化エアSA-INがベルカップ背面22aに当たる衝突点P
1との間の軸線方向距離は3.1mmである。この衝突点P
1とベルカップの外周縁との間の軸線方向距離は5mmである。各微粒化エア孔30から吐出される微粒化エアSA-INの衝突点P
1は、ベルカップの背面22a上の同一円周上に等間隔に設定されている。微粒化エア(シェーピングエアSA-IN)の捻り角度βは57°である。
【0104】
パターンエア孔32から吐出される第2シェーピングエアSA-OUTを「パターンエア」と呼ぶ。パターンエアSA-OUTはベルカップ22の外周縁から7.5mm離れた地点P
2に向けて指向されている。すなわち、パターンエアSA-OUTは、ベルカップ22の外周縁を含む平面において、ベルカップ22の外周縁から7.5mmの地点P
2に差し向けられる。
【0105】
パターンエア孔32の吐出端と、ベルカップ22の外周縁を含む平面上のパターンエアが到達する地点P
2との間の軸線方向距離は12.4mmである。パターンエア孔32から吐出されるパターンエアが到達する上記地点P
2は、ベルカップ22の外周縁を含む平面上の同一円周上に等間隔に設定されている。パターンエアSA-OUTの捻り角度は15°である。
【0106】
微粒化エア孔30のエア吐出端と、ベルカップ22の外周縁を含む平面との間の軸線方向距離は8.1mmである。パターンエア孔32のエア吐出端と、ベルカップ22の外周縁を含む平面との間の軸線方向距離は12.4mmである。シェーピングエアリング24の前面は段付き面で構成されている。すなわち、シェーピングエアリング24の前面は、その内周側が前方に突出した形状を有する。前方に突出した内周部に微粒化エア孔30が開口している。この前方に突出した内周部と、ベルカップ22の外周縁を含む平面との間の軸線方向距離は8.1mmである。他方、相対的に後方に位置する外周部にパターンエア孔32が開口している。この外周部と、ベルカップ22の外周縁を含む平面との間の軸線方向距離は12.4mmである。
【0107】
図11に図示のベルカップ22とシェーピングエアリング24を備えた回転霧化型静電塗装機のデータを次の表17に示す。
【0108】
なお、塗装条件は次の通りであった。
(1)高電圧:-80kV
(2)塗料吐出量:600cc/min
(3)ベルカップ回転数:20,000rpm
(4)塗装スピード(ガン速度):350mm/sec
(5)塗装距離(ガン距離):200mm
【0109】
【表17】
【0110】
実施例の回転霧化型静電塗装機20の性能を確認するために次の試験を行った。
【0111】
塗料吐出量が大量(600cc/min)であるときに、塗装パターン幅(パターンの直径)の制御の能力を試験したところ、下記の表18及び
図13に示すとおり良好な結果を得ることができた。
【0112】
なお、塗装条件は次の通りであった。
(1)高電圧:-80kV
(2)塗料吐出量:600cc/min
(3)ベルカップ回転数:20,000rpm
(4)塗装スピード(ガン速度):350mm/sec
(5)塗装距離(ガン距離):200mm
【0113】
【表18】
【0114】
次に、塗料の最大吐出量を750cc/min〜300cc/minに設定したときに、塗装パターン幅を一定に保ったまま塗料吐出量を制御する能力を試験した結果を次の表19に示す。
【0115】
【表19】
【0116】
次に、塗料吐出量が相対的に少量(200cc/min)であるときに、塗装パターン幅(パターンの直径)の制御の能力を試験したところ、下記の表20に示すとおり良好な結果を得ることができた。
【0117】
【表20】
【0118】
図14は、塗料吐出量(流量)を200cc/minに設定したときに、微粒化エア孔30のエア吐出圧力(MPa)だけを変化させたときの塗装パターン幅の制御性を確認したときの図である。
図14の(1)は微粒化エア孔30のエア吐出圧力が0.01MPaのときの噴霧状態を示す。
図14の(2)は微粒化エア孔30のエア吐出圧力が0.03MPaのときの噴霧状態を示す。
図14の(3)は微粒化エア孔30のエア吐出圧力が0.05MPaのときの噴霧状態を示す。
図14の(4)は微粒化エア孔30のエア吐出圧力が0.07MPaのときの噴霧状態を示す。
【0119】
図15は、塗料吐出量(流量)を200cc/minに設定したときに、パターンエア孔32のエア吐出圧力だけを変化させたときの塗装パターン幅の制御性を確認したときの図である。
図15の(1)はパターンエア孔32のエア吐出圧力が0(ゼロ)MPaのときの噴霧状態を示す。
図15の(2)はパターンエア孔32のエア吐出圧力が0.10MPaのときの噴霧状態を示す。
図15の(3)はパターンエア孔32のエア吐出圧力が0.15MPaのときの噴霧状態を示す。
【0120】
図14と
図15とを対比すると良く理解できるように、微粒化エア孔30から吐出される微粒化エアSA-INは塗装パターン幅の制御に対する役割が希薄である。この塗装パターン幅の制御には、パターンエア孔32から吐出されるパターンエアSA-OUTが大きく貢献している。
【0121】
次に、塗料の小吐出量(小流量)(150cc/min〜250cc/min)において、塗装パターン幅を一定に保ったまま塗料吐出量を制御する能力を試験した結果を次の表21に示す。
【0122】
【表21】
【0123】
図16は、塗料吐出量(流量)を600cc/minと200cc/minとに大きく変化させると共に塗装パターン幅を変化させたときの図である。
図16(1)の塗装条件は次の通りであった。
(i)塗料吐出量(流量):600cc/min;
(ii)ベルカップ22の回転数:20,000rpm;
(iii)微粒化エア孔30の吐出圧:0.12MPa(流量375NL/min);
(iv)パターンエア孔32の吐出圧:0.01MPa(流量150NL/min)。
【0124】
図16(1)の塗料吐出量600cc/minのときの塗装パターン幅(パターン直径)は470mmであった。また、塗料粒子の平均粒径は19.9μmであった。
【0125】
図16(2)の塗装条件は次の通りであった。
(i)塗料吐出量(流量):200cc/min;
(ii)ベルカップ22の回転数:20,000rpm;
(iii)微粒化エア孔30の吐出圧:0.05MPa(流量225NL/min);
(iv)パターンエア孔32の吐出圧:0.15MPa(流量575NL/min)。
【0126】
図16(2)の塗料吐出量200cc/minのときの塗装パターン幅(パターン直径)は220mmであった。また、塗料粒子の平均粒径は16.6μmであった。
【0127】
図17は、実施例の塗装機20を使って塗装したときの塗膜の膜厚分布を示す(最大膜厚40μm)。塗装条件は、次の通りである。
【0128】
(i)塗料の吐出量(流量):200cc/min;
(ii)ベルカップ22の回転数:20,000rpm;
(iii)微粒化エア孔30の吐出圧:0.01MPa(流量110NL/min);
(iv)パターンエア孔32の吐出圧:0.15MPa(流量575NL/min);
(v)ベルカップ22に対する印加電圧:-80kV。
【0129】
図17を参照して、膜厚20μm以上の範囲(d)は直径200mmである。膜厚10μm以上の範囲(d’)は直径330mmであった。裾野拡大率(d’/d)=330/200=1.6である。この数値「1.6」は従来との対比で極めて良好な数値である。ちなみに、従来の塗装機であれば、一般的に、裾野拡大率(d’/d)=3.2である。