(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6181184
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】航空機燃料タンク可燃性低減方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
B64D 37/32 20060101AFI20170807BHJP
F02M 37/00 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
B64D37/32
F02M37/00 301P
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-528489(P2015-528489)
(86)(22)【出願日】2013年7月25日
(65)【公表番号】特表2015-533701(P2015-533701A)
(43)【公表日】2015年11月26日
(86)【国際出願番号】US2013052133
(87)【国際公開番号】WO2014058515
(87)【国際公開日】20140417
【審査請求日】2016年6月2日
(31)【優先権主張番号】13/594,525
(32)【優先日】2012年8月24日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500520743
【氏名又は名称】ザ・ボーイング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(74)【代理人】
【識別番号】100163522
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 晋平
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【弁理士】
【氏名又は名称】崔 允辰
(72)【発明者】
【氏名】バーバラ・ジェイ・エヴォセヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】イヴァナ・ジョジク
【審査官】
前原 義明
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−096195(JP,A)
【文献】
特開2005−270817(JP,A)
【文献】
特開2005−138028(JP,A)
【文献】
特開2003−053167(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64D 37/32
B01D 53/22
F02M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素膜(13)を含む空気分離モジュール(12)へ加圧空気を供給するステップであって、供給空気(17)が55psig以下の通常圧力を示し、前記炭素膜(13)が少なくとも95重量パーセント炭素を含む、ステップと、
前記炭素膜(13)を前記供給空気(17)と接触させて、前記供給空気からの酸素を前記炭素膜(13)に透過させるとともに、前記供給空気(17)から酸素を除去する結果として前記空気分離モジュール(12)から窒素を多く含む空気を生成するステップと、
窒素を多く含む前記空気を熱交換器(22)内で実質的に冷却するステップと、
窒素を多く含む前記空気を航空機に搭載される燃料タンク(14)へ供給するステップと、
を備える航空機燃料タンク可燃性低減方法。
【請求項2】
前記炭素膜(13)は、炭素中空繊維、螺旋巻回された炭素繊維シート、カーボンナノチューブシート、または、これらの組み合わせのいずれかを備える請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記炭素膜が熱分解された高分子中空繊維を備える、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記供給空気(17)が少なくとも120℃(248°F)の温度を示す、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記供給空気(17)が120℃〜195℃(248°F〜383°F)の温度を示す、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記供給空気を熱交換器内で実質的に冷却することなく加圧空気供給源(16)から加圧空気を前記空気分離モジュール(12)へ供給するステップを更に備える請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
加圧空気供給源(16)と、
前記加圧空気供給源(16)から供給空気(17)を受けるように構成される空気分離モジュール12と、
前記空気分離モジュール(12)内にある少なくとも95重量パーセント炭素を含む炭素膜(13)であって、前記炭素膜(13)が、前記供給空気(17)からの酸素を少なくとも120℃(248°F)の温度で前記炭素膜(13)に透過させるとともに、前記供給空気(17)から酸素を除去する結果として前記空気分離モジュール(12)から窒素を多く含む空気を生成するように構成される、炭素膜(13)と、
航空機に搭載されるとともに、窒素を多く含む前記空気を受けるように構成される燃料タンク(14)と、
窒素を多く含む前記空気を前記空気分離モジュール(12)から前記燃料タンク(14)へ供給する前に窒素を多く含む前記空気を実質的に冷却するように構成された熱交換器(22)と、
を備える航空機燃料タンク可燃性低減システム。
【請求項8】
前記炭素膜(13)は、熱分解された高分子中空繊維、螺旋巻回された炭素繊維シート、カーボンナノチューブシート、または、これらの組み合わせを備える、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記炭素膜(13)は、前記供給空気(17)からの酸素を120℃〜195℃(248°F〜383°F)の温度で前記炭素膜(13)に透過させるように構成される、請求項7または8に記載のシステム。
【請求項10】
前記炭素膜(13)は、前記供給空気(17)からの酸素を55psig以下の通常圧力で前記炭素膜(13)に透過させるように構成される、請求項7から9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
前記加圧空気供給源(16)の下流側において前記空気分離モジュール(12)の手前に冷却熱交換器を有さない請求項7から10のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項12】
前記炭素膜(13)は、160°Fの動作温度で測定されるときに、窒素透過性に対する酸素透過性の選択性比率が少なくとも9を示す、請求項7から11のいずれか一項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、航空機燃料タンクにおける可燃性を低減するための方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
航空機燃料タンクにおける可燃性を低減する目的で様々な既知のシステムが存在する。そのようなシステムは、機上不活性ガス生成システム(OBIGGS,On−Board Inert Gas Generation System)、窒素生成システム(NGS,Nitrogen Generation System)、可燃性低減システム(FRS,Flammability Reduction System)、燃料タンク不活性システム(FTIS,Fuel Tank Inerting System)などを含むがこれらに限定されない多くの表記によって知られる場合がある。しかしながら、これらのシステム間の共通点は、不活性ガスを燃料タンクへ供給することによって燃料タンク目減りの酸素含有量を減少させることを伴う。しばしば、システムは、不活性ガスのために窒素を多く含む空気(NEA,nitrogen−enriched air)を生成する。酸素のパーセンテージが低い空気は可燃性が低い。
【0003】
窒素を多く含む空気を生成するために使用される不活性システムは、酸素を除去するために、分離機構としての媒体からの圧力振れ吸収および脱離、または、他の分離機構としての高分子膜を通じた拡散に依存する場合がある。高分子中空繊維膜を伴うシステムでは、圧縮空気が高分子中空繊維の穴に入り、酸素が高分子中空繊維壁を透過する。透過した酸素は、収集されて機外へ排出される。残りの窒素を多く含むリテンテートは、穴を通じて流れて、航空機燃料タンクへの分配のための空気分離モジュール生成ガス出口で収集される。残念ながら、空気分離モジュールの耐用年数およびシステム動作条件は、ガス分離モジュールの構造で使用される高分子によって制限される場合がある。したがって、空気分離モジュールの信頼性を高めることが望ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】S.M.Saufi et al.,“Fabrication of Carbon Membranes for Gas Separation−−A Review”,42 Carbon 241‐259(2004)
【非特許文献2】De Q.Vu et al.,“Mixed matrix membranes using carbon molecular sieves,I. Preparation and experimental results”,211 J. Membrane Science 311−334(2003)
【非特許文献3】A.F.Ismail et al.,“A Review on the Latest Development of Carbon Membranes for Gas Separation”,193 J. Membrane Science 1‐18(2001)
【非特許文献4】P.Jason Williams et al.,“Gas Separation by Carbon Membranes, in Advanced Membrane Technology and Applications”,599‐631(Norman N. Li et al. eds.,2008)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
航空機燃料タンク可燃性低減方法は、炭素膜を含む空気分離モジュールへ加圧空気を供給することを含み、供給空気は55psig以下の通常圧力を示し、炭素膜は少なくとも95重量パーセント炭素を含む。方法は、炭素膜を供給空気と接触させて、供給空気からの酸素を炭素膜に透過させるとともに、供給空気から酸素を除去する結果として空気分離モジュールから窒素を多く含む空気を生成することを含む。窒素を多く含む空気は、航空機に搭載される燃料タンクへ供給される。
【0006】
航空機燃料タンク可燃性低減方法は、熱分解された高分子中空繊維を含む空気分離モジュールへ加圧空気を供給することを含み、供給空気は120℃〜195℃(248°F〜383°F)の温度を示し、中空繊維は少なくとも95重量パーセント炭素を含み、また、中空繊維は、160°Fの動作温度で測定されるときに、窒素透過性に対する酸素透過性の選択性比率が少なくとも9を示すとともに、少なくとも80ガス透過単位の透過度を示す。方法は、炭素膜を供給空気と接触させて、供給空気からの酸素を炭素膜に透過させるとともに、供給空気から酸素を除去する結果として空気分離モジュールから窒素を多く含む空気を生成することを含む。空気分離モジュールからの窒素を多く含む空気は、熱交換器内で実質的に冷却される。冷却された窒素を多く含む空気は、航空機に搭載される燃料タンクへ供給される。
【0007】
航空機燃料タンク可燃性低減システムは、加圧空気のための供給源と、加圧空気供給源から供給空気を受けるように構成される空気分離モジュールと、空気分離モジュール内にある少なくとも95重量パーセント炭素を含む炭素膜とを含む。炭素膜は、供給空気からの酸素を少なくとも120℃(248°F)の温度で炭素膜に透過させるとともに、供給空気から酸素を除去する結果として空気分離モジュールから窒素を多く含む空気を生成するように構成される。システムは、航空機に搭載されるとともに、窒素を多く含む空気を受けるように構成される燃料タンクを含む。
【0008】
本開示の一態様によれば、炭素膜を含む空気分離モジュールへ加圧空気を供給するステップであって、供給空気が55psig以下の通常圧力を示し、炭素膜が少なくとも95重量パーセント炭素を含む、ステップと、炭素膜を供給空気と接触させて、供給空気からの酸素を炭素膜に透過させるとともに、供給空気から酸素を除去する結果として空気分離モジュールから窒素を多く含む空気を生成するステップと、窒素を多く含む空気を航空機に搭載される燃料タンクへ供給するステップとを備える航空機燃料タンク可燃性低減方法が提供される。
【0009】
好適には、炭素膜は、炭素中空繊維、螺旋巻回された炭素繊維シート、カーボンナノチューブシート、または、これらの組み合わせを備える。
【0010】
好適には、炭素膜が熱分解された高分子中空繊維を備える。
【0011】
好適には、供給空気が少なくとも120℃(248°F)の温度を示す。
【0012】
好適には、供給空気が120℃〜195℃(248°F〜383°F)の温度を示す。
【0013】
好適には、航空機燃料タンク可燃性低減方法は、供給空気を熱交換器内で実質的に冷却することなく加圧空気のための供給源から加圧空気を空気分離モジュールへ供給するステップを更に備える。
【0014】
好適には、航空機燃料タンク可燃性低減方法は、窒素を多く含む空気を空気分離モジュールから燃料タンクへ供給する前に窒素を多く含む空気を熱交換器内で実質的に冷却するステップを更に備える。
【0015】
本開示の更なる態様によれば、熱分解された高分子中空繊維を含む空気分離モジュールへ加圧空気を供給するステップであって、供給空気が120℃〜195℃(248°F〜383°F)の温度を示し、中空繊維が少なくとも95重量パーセント炭素を含み、中空繊維が、160°Fの動作温度で測定されるときに、窒素透過性に対する酸素透過性の選択性比率が少なくとも9を示すとともに、少なくとも80ガス透過単位の透過度を示すステップと、中空繊維を供給空気と接触させて、供給空気からの酸素を中空繊維に透過させるとともに、供給空気から酸素を除去する結果として空気分離モジュールから窒素を多く含む空気を生成するステップと、空気分離モジュールからの窒素を多く含む空気を熱交換器内で実質的に冷却するステップと、冷却された窒素を多く含む空気を航空機に搭載される燃料タンクへ供給するステップとを備える航空機燃料タンク可燃性低減方法が提供される。
【0016】
好適には、供給空気が55psig以下の通常圧力を示す。
【0017】
本発明の更なる他の態様によれば、加圧空気のための供給源と、
加圧空気供給源から供給空気を受けるように構成される空気分離モジュールと、
空気分離モジュール内にある少なくとも95重量パーセント炭素を含む炭素膜であって、炭素膜が、供給空気からの酸素を少なくとも120℃(248°F)の温度で炭素膜に透過させるとともに、供給空気から酸素を除去する結果として空気分離モジュールから窒素を多く含む空気を生成するように構成される、炭素膜と、航空機に搭載されるとともに、窒素を多く含む空気を受けるように構成される燃料タンクとを備える航空機燃料タンク可燃性低減システムが提供される。
【0018】
好適には、炭素膜は、炭素中空繊維、螺旋巻回された炭素繊維シート、カーボンナノチューブシート、または、これらの組み合わせを備える。
【0019】
好適には、炭素膜が熱分解された高分子中空繊維を備える。
【0020】
好適には、炭素膜は、供給空気からの酸素を120℃〜195℃(248°F〜383°F)の温度で炭素膜に透過させるように構成される。
【0021】
好適には、炭素膜は、供給空気からの酸素を55psig以下の通常圧力で炭素膜に透過させるように構成される。
【0022】
好適には、システムは、加圧空気供給源の下流側において空気分離モジュールの手前で冷却熱交換器を欠く。
【0023】
好適には、航空機燃料タンク可燃性低減システムは、空気分離モジュールからの窒素を多く含む空気を実質的に冷却するとともに冷却された窒素を多く含む空気を燃料タンクへ与えるように構成される熱交換器を更に備える。
【0024】
好適には、炭素膜は、160°Fの動作温度で測定されるときに、窒素透過性に対する酸素透過性の選択性比率が少なくとも9を示す。
【0025】
好適には、炭素膜は、160°Fの動作温度で測定されるときに、少なくとも80ガス透過単位の透過度を示す。
【0026】
好適には、炭素膜は、同じ条件下で作用するとともに窒素を多く含む空気の同じ出力を生成する高分子中空繊維膜の作用表面積よりも少なくとも50%小さい作用表面積を有する。
【0027】
好適には、炭素膜は、同じ条件下で作用するとともに窒素を多く含む空気の同じ出力を生成する高分子中空繊維膜の耐用年数の少なくとも1.5倍の耐用年数を有する。
【0028】
論じられてきた特徴、機能、および、利点は、様々な実施形態において独立に達成され得る、あるいは、更なる他の実施形態において組み合わされてもよく、その更なる詳細は、以下の説明および図面を参照すると分かる。
【0029】
以下、幾つかの実施形態を以下の添付図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】一実施形態に係る燃料タンク可燃性低減システムの図を示す。
【
図2】他の実施形態に係る燃料タンク可燃性低減システムの図を示す。
【
図3】更なる実施形態に係る燃料タンク可燃性低減システムの図を示す。
【
図4】更なる実施形態に係る燃料タンク可燃性低減システムの図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
所見は、高分子中空繊維膜を使用する空気分離モジュールおよび全システムの性能および耐用年数が、システム動作温度、動作圧力、繊維端間の圧力差および圧力比、動作温度でのチューブシート材料特性、繊維の自然弛緩、および、汚染物質に対する感度によって制限される場合があることを示唆する。
【0032】
更に詳しくは、繊維束を支持するチューブシートおよび高分子中空繊維膜のために使用される材料は、炭素、水素、酸素、および、場合により他の元素を含む重合有機化合物である。所定の高分子繊維において、動作温度の範囲は、繊維性能(所定のガス分離対における選択性および透過性)によって、および、分離モジュールを製造するために使用される材料(特に、チューブシート材料)によって制限される。選択性は、ガスの対の透過性の比率である。所定のガス分離対においては、透過性と選択性との間にトレードオフが存在する。すなわち、高分子膜は、ロベソン上限として当業者間に知られる上限を有する。高分子においては、透過性が温度に伴って増大する一方で、選択性が減少する。
【0033】
航空宇宙用途において知られる高分子膜においては、動作温度がしばしば96℃(205°F)を下回る。膜内の分離層を通過するガスフラックスは、分離層厚(製造依存)、高分子特性(透過性)、および、動作状態に依存する。透過性が高ければ高いほど、膜を横切るガスの所定の分圧差で所定のフラックスを生み出すために使用される膜面積が小さくなる。透過性は温度に伴って増大するため、所望の耐用年数を達成するための動作温度限界は、透過性に制限を効果的に課す。
【0034】
また、膜フラックスも繊維分離層を横切る圧力差によって影響される。中空チューブにおける透過フラックス(J)は、以下の方程式によって表されてもよい。
J=f=2×π×L×P((p
1−p
2)/In(ID/OD))
ここで、Lはチューブ長さ、Pは透過性、p
1およびp
2は、チューブの内側および外側のそれぞれにおける分圧、および、IDおよびODはそれぞれ繊維の内径および外径である。これにより、フラックスは入口圧力を高くすることで、高くすることができる。しかしながら、システムにより使用される圧力が高ければ高いほど、航空機に対して突き付けられる電力要求および/または給気要求も大きくなり、それにより、燃料効率が低下する。
【0035】
エポキシなどの熱硬化性高分子は、しばしば、既知のガス分離モジュールのチューブシート材料のために使用される。チューブシート材料は、高分子中空繊維の束を固定するとともに、束をキャニスタ内へ詰め込んでシールすることができる。既知の高分子膜における最大動作温度は、チューブシート材料の製造(硬化など)温度によって制限される。より高温の材料が存在する場合であっても、中空繊維膜と共に製造され得るとともに航空宇宙用途において実用的な材料の選択は、それらの長期動作温度が96℃(205°F)未満に制限される。温度限界を超えるシステムは、チューブシート材料の劣化をもたらし、最終的に、ガス分離モジュールの耐用年数を短くする。より高温の熱硬化性物質が使用される場合には、製造中に繊維が破損される可能性がある。
【0036】
高分子中空繊維膜を使用する空気分離モジュールの動作寿命にわたって透過性損失が生じる場合もある。殆どの高分子と同様に、物理的な経年劣化(高分子鎖の自然弛緩)は、自由体積の減少と透過性の損失とをもたらし、そのため、フラックスの損失をもたらす。モジュールの耐用寿命中の性能のこの変化は、システム構成要素(熱交換器など)の寸法付けに影響を及ぼす。高い透過性を有する高分子は、より大きな自由体積を有するとともに、より大きな物理的経年劣化を呈する(ただし、それらの高分子が半結晶性形態を成す場合を除く)。より高い透過性は、必要とされる繊維面積が少ないことを意味する。したがって、透過性が高く且つ物理的経年劣化が少ない膜が望ましい。
【0037】
また、高分子中空繊維は汚染物質の影響を受け易い。液体および微粒子エアロゾルを除去するために濾過がしばしば使用される。特定のガス状汚染物質は、透過性、したがって性能を更に低下させる可能性があり、十分な濃度では、最終的に耐用年数に影響を及ぼす可能性がある。凝縮性ガスは、供給ストリーム中のそれらの分圧と動作温度におけるそれらの露点とに応じて、性能を低下させる場合もあり、また、耐用年数を減少させる場合もある。ガス状汚染物質の透過性は一般に温度にも依存し(高分子と化学的に反応するおよび/または高分子鎖を破壊する汚染物質を除く)、また、露点も同様であるため、より高い動作温度が望まれる。システム動作温度が高くなると、供給空気温度を低下させたいという欲求が小さくなり、そのため、システム構成要素の寸法付けに対してプラスの影響を与える(熱交換器を更に小さくする要求およびRAMエアを更に少なくする要求、それにより、重量および抗力が減少する)。しかしながら、より高い透過性は、しばしば、所望のリテンテート状態に達するために使用される供給フローを増大させる。それを相殺するために、より高い選択性を伴う膜が望まれる。したがって、より多くの窒素が、リテンテート(NEA)に保持されて、使用される供給フローを減少させる。
【0038】
空気分離モジュールにおいて膜として使用される高分子中空繊維の前述した制限の結果として、耐用年数を延ばすことにより、また、システム動作温度を高めるおよび/またはシステム動作圧力を減少させることにより、大きな利益を得ることができる。より高い透過性およびより高い選択性を有する膜も望まれる。より高い選択性に加えて、温度に対する選択性の感度が低いおよび/または汚染に対する選択性の感度が低いことが望まれる。本明細書中に記載されるように、実施形態は更なる大きな利益を与える。炭素膜を使用する空気分離モジュールがそれらの利益を与え得る。炭素膜は、炭素中空繊維、螺旋巻回された炭素繊維シート、カーボンナノチューブシート、または、これらの組み合わせを含んでもよい。
【0039】
炭素膜は、当業者に知られる方法にしたがって形成されてもよい。例えば、炭素中空繊維は、少なくとも95重量パーセント(wt%)の炭素を含んでもよく、また、高分子中空繊維を熱分解することによって得られてもよい。熱分解は、水素、酸素、および、他の元素の大部分を除去するとともに、非晶質の微細孔構造を形成し、この微細孔構造は、特定の熱分解条件が使用されれば、既知の空気分離モジュールを超える性能をもって、窒素と比べて酸素の空気からの分離を可能にする構造をもたらし得る。炭素中空繊維膜は、高分子中空繊維膜とは異なる構造および輸送機構を有する。ガス分離のための炭素膜を異なる形態で、例えば中空繊維膜として、炭素繊維の層(螺旋巻回された炭素繊維シート)として、あるいは、カーボンナノチューブの形態で形成することができる。
【0040】
非特許文献1は、本明細書中の実施形態で用いるのに適する場合がある炭素中空繊維および他の炭素膜を形成する際に考慮すべき事項について記載する。非特許文献2は、ガス分離のための炭素分子ふるい膜の生成について記載する。非特許文献3は、炭素中空繊維を含む炭素膜を通じた輸送機構について記載する。非特許文献4は、炭素中空繊維を形成する際に考慮すべき事項および炭素膜を通じた輸送機構について更に記載する。挙げられた更なる引用文献から当業者が分かるように、炭素膜は、窒素を多く含む空気を生成する本明細書中の実施形態で用いるために適合されてもよい。
【0041】
一実施形態において、航空機燃料タンク可燃性低減方法は、炭素膜を含む空気分離モジュールへと加圧空気を供給することを含む。供給空気は、1平方インチゲージ当たり(psig)55ポンド以下の通常圧力を示し、また、炭素膜は少なくとも95wt%炭素を含む。方法は、炭素膜を供給空気と接触させて、供給空気からの酸素を炭素膜に透過させるとともに、供給空気から酸素を除去する結果として空気分離モジュールから窒素を多く含む空気を生成することを含む。窒素を多く含む空気は、航空機に搭載される燃料タンクへと供給される。
【0042】
55psig以下の通常圧力を示す供給空気は、高分子中空繊維膜を使用するとともに繊維壁を通じた十分な酸素透過をもたらすためにより高い圧力で作用する既知の空気分離方法から本方法を区別する。低圧が有益となり得るが、本明細書中の他の実施形態は、供給空気がより高い圧力を示すときに、例えばより高い圧力の供給空気を既に与えるレトロフィットシステムにおいて使用されてもよい。そのような方法は、同じ入口圧力のために少ない活性繊維面積を使用できるという点において既知の方法から区別される。すなわち、より高い圧力は、フラックスの増大を可能にし、したがって、使用されるASMの数を減らすことができる場合がある。
【0043】
「通常圧力」とは、巡航中の圧力のことであり、上昇中の圧力がやや高いかもしれない。本明細書中のこの実施形態および他の実施形態において、供給空気は、代わりに、更なる利点として41psig以下の圧力を示してもよい。
【0044】
他の実施形態において、航空機燃料タンク可燃性低減方法は、炭素膜を含む空気分離モジュールへ加圧空気を供給することを含む。供給空気は少なくとも120℃(248°F)の温度を示し、また、炭素膜は少なくとも95wt%炭素を含む。方法は、炭素膜を供給空気と接触させて、供給空気からの酸素を炭素膜に透過させるとともに、供給空気から酸素を除去する結果として空気分離モジュールから窒素を多く含む空気を生成することを含む。窒素を多く含む空気は、航空機に搭載される燃料タンクへと供給される。少なくとも120℃(248°F)の温度を示す供給空気は、膜の高分子材料および/またはチューブシート材料への熱損傷を減らすためにより低い温度で作用する高分子中空繊維膜を使用する既知の空気分離方法から本方法を区別する。
【0045】
一例として、供給空気は、120℃〜195℃(248°F〜383°F)の温度を示す場合がある。炭素膜の透過性は、そのようなより高い温度では、3以上の選択性を依然として保ちつつ、更に高くなり得る。また、炭素膜の熱安定性は、空気分離モジュールの動作温度を制限しない異なるチューブシート材料の使用も可能にする。
【0046】
方法は、供給空気を熱交換器内で実質的に冷却することなく、加圧空気のための供給源から加圧空気を空気分離モジュールへ供給することを更に含んでもよい。実体のない冷却は、もしあれば、供給源から空気分離モジュールへの加圧空気の単なる伝送中に熱損失から偶発的に生じ得る程度のものである。熱損失は、供給源と空気分離モジュールとの中間にあるフィルタなどの装置で生じる場合があるが、それは、供給空気を実質的に冷却するようになっている熱交換器で生じる場合よりも少ない。既知のシステムでは、加圧空気のための供給源が一般に高温で空気供給を行ない、また、供給空気は、高分子中空繊維および/またはチューブシート材料への熱損傷を減らすために、熱交換器内で通常動作温度の96℃(205°F)まで冷却される。既知のシャットダウン機構により許容される「通常動作温度」下では、より高い温度への一時的な逸脱が生じる場合がある。
【0047】
本明細書中の方法において、熱交換器は、幾らかの冷却が保証されれば、冷却能力が減少され(したがって、サイズが減少され)てもよい。あるいは、供給空気温度が所定の炭素膜のための熱安定性の許容範囲内であれば、熱交換器が排除されてもよい。冷却の減少または排除は、酸素の熱エネルギーの増大に起因して透過性を増大させることができ有益である。
【0048】
最大で195℃(383°F)の温度を示す供給空気には利点が存在し得るが、窒素を多く含む空気を冷却することが望ましい場合がある。したがって、方法は、燃料タンク構造・輸送要素基準に準拠するために窒素を多く含む空気を空気分離モジュールから燃料タンクへ供給する前に窒素を多く含む空気を熱交換器内で冷却することを更に含んでもよい。
【0049】
一実施形態において、航空機燃料タンク可燃性低減システムは、加圧空気のための供給源と、加圧空気供給源から供給空気を受けるように構成される空気分離モジュールとを含む。少なくとも95wt%炭素を含む炭素膜が空気分離モジュール内にある。炭素膜は、供給空気からの酸素を少なくとも120℃(248°F)の温度で炭素膜に透過させるとともに、供給空気から酸素を除去する結果として空気分離モジュールから窒素を多く含む空気を生成するように構成される。システムは、航空機に搭載されるとともに窒素を多く含む空気を受けるように構成される燃料タンクを含む。
【0050】
他の実施形態において、航空機燃料タンク可燃性低減システムは、加圧空気のための供給源と、加圧空気供給源から供給空気を受けるように構成される空気分離モジュールとを含む。少なくとも95wt%炭素を含む炭素膜が空気分離モジュール内にある。炭素膜は、供給空気からの酸素を55psig以下の通常圧力で炭素膜に透過させるとともに、供給空気から酸素を除去する結果として空気分離モジュールから窒素を多く含む空気を生成するように構成される。システムは、航空機に搭載されるとともに窒素を多く含む空気を受けるように構成される燃料タンクを含む。
【0051】
一例として、炭素膜は、供給空気からの酸素を120℃〜195℃(248°F〜383°F)の温度で炭素膜に透過させるように構成されてもよい。システムは、加圧空気供給源の下流側において空気分離モジュールの手前で冷却熱交換器を欠いてもよい。システムは、空気分離モジュールからの窒素を多く含む空気を実質的に冷却するとともに冷却された窒素を多く含む空気を燃料タンクへ供給するように構成される熱交換器を更に含んでもよい。供給空気および/または窒素を多く含む空気の温度制御は、前述した利点を与えることができる。
【0052】
炭素膜は、160°Fの動作温度で測定されるときに、窒素透過性に対する酸素透過性の選択性比率が少なくとも9を示し得る。また、炭素膜は、160°Fの動作温度で測定されるときに、少なくとも80ガス透過単位(GPU,gas permeation unit)の透過度を示し得る。本明細書中の実施形態の一部が160°Fよりも高い温度で動作する場合であっても、そのような温度は、透過性および選択性比率の温度依存パラメータを比較するための便利な試験温度を与える。また、炭素膜は、同じ条件下で作用するとともに窒素を多く含む空気の同じ出力を生成する高分子中空繊維膜の作用表面積よりも少なくとも50%小さい作用表面積を有してもよい。更にまた、炭素膜は、同じ条件下で作用するとともに窒素を多く含む空気の同じ出力を生成する高分子中空繊維膜の耐用年数の少なくとも1.5倍の耐用年数を有してもよい。炭素中空繊維膜などの炭素膜の使用は、前述した特徴を与えることができ有益である。前述した特徴を与える炭素膜のみの特性の代わりに、それらの特性は、先の説明を踏まえて、高分子中空繊維膜の制限された動作温度と比べて高い炭素膜により許容される温度で動作することによってもたらされてもよい。
【0053】
したがって、更なる実施形態において、航空機燃料タンク可燃性低減方法は、熱分解された高分子中空繊維を含む空気分離モジュールへと加圧空気を供給することを含む。供給空気は120℃〜195℃(248°F〜383°F)の温度を示す。中空繊維は少なくとも95wt%炭素を含む。中空繊維は、160°Fの動作温度で測定されるときに、少なくとも9の窒素透過性に対する酸素透過性の選択性比率と、少なくとも80ガス透過単位の透過度とを示す。方法は、炭素膜を供給空気と接触させて、供給空気からの酸素を炭素膜に透過させるとともに、供給空気から酸素を除去する結果として空気分離モジュールから窒素を多く含む空気を生成することを含む。空気分離モジュールからの窒素を多く含む空気は、熱交換器内で実質的に冷却される。冷却された窒素を多く含む空気は、航空機に搭載される燃料タンクへと供給される。一例として、供給空気は、55psig以下の通常圧力を示してもよい。
【0054】
図1は、一実施形態に係る航空機燃料タンク可燃性低減システム10の一部の図を示す。システム10は、加圧空気供給源16から供給空気17を受ける炭素膜を含む空気分離モジュール12を含む。モジュール12は、主に酸素を含む透過ガス18とリテンテートガス(窒素を多く含む空気19)とを生成する。燃料タンク14は、可燃性低減をもたらすために窒素を多く含む空気19を含む。
【0055】
図2は、他の実施形態に係る航空機燃料タンク可燃性低減システム20の一部の図を示す。システム20は、
図1に示されるシステム10の構成要素を含むとともに、冷却された窒素を多く含む空気24を供給する熱交換器22を更に含む。システム20は、空気分離モジュール12の上流側で供給空気17の実質的な冷却が保証されない状況で使用されてもよいが、冷却された窒素を多く含む空気24によって燃料タンク14の加熱を減らしたいという要望が存在する。
【0056】
図3は、更なる実施形態に係る航空機燃料タンク可燃性低減システム30の一部の図を示す。システム30は、
図1に示されるシステム10の構成要素を含むとともに、冷却された供給空気34を与える熱交換器32を更に含む。システム30は、空気分離モジュール12の上流側で供給空気17の幾らかの冷却が保証される状況で使用されてもよい。前述したように、熱交換器32は、モジュール12の炭素膜13の代わりに高分子中空繊維膜を使用する空気分離モジュールへ冷却された供給空気を与える既知の熱交換器のために使用される冷却能力よりも低い冷却能力を有してもよい。
【0057】
図4は、更なる実施形態に係る航空機燃料タンク可燃性低減システム40の一部の図を示す。システム40は、
図1に示されるシステム10の構成要素を含むとともに、
図2の熱交換器22と
図3の熱交換器32とを更に含む。したがって、システム40は、モジュール12にとって望ましい温度まで供給空気17を冷却するとともに燃料タンク14のための窒素を多く含む空気19を冷却するために使用されてもよい。システム40は、濾過された供給空気44を与えるフィルタ42も含む。モジュール12が高分子中空繊維膜と比べて汚染物質の影響を受けにくい炭素膜13を含む場合であっても、フィルタ42は、モジュール12にとって潜在的に有害な汚染物質を除去するために熱交換器32の下流側(図示のように)または上流側のいずれかに設けられてもよい。
【0058】
図1〜
図4は本明細書中に記載されるシステムの様々な想定し得る実施形態を示すが、
図1〜
図4の特徴と本明細書中に記載される他の特徴との更なる組み合わせが考えられることが分かる。
【0059】
より低い入口圧力で動作することにより、更なる加圧を伴うことなくエンジンブリード空気を使用できる。より低い入口圧力は、空気分離モジュールの上流側のターボコンプレッサまたは電気駆動コンプレッサの既知の使用を排除するあるいは減少させることができる。あるいは、低圧源および電気駆動コンプレッサからの供給空気を交互に使用する選択肢が存在する。炭素膜の特性は、低圧源および/または低圧力比コンプレッサ(例えば、小型サイズおよび/または低電力)の使用を可能にし得る。
【0060】
空気からの酸素の分離効率の向上により、窒素を多く含む同じ量の空気を得るための供給空気が少なくなる。少ない供給空気は、航空機燃料効率の向上をもたらす。また、より効率的な分離は、空気分離モジュールのサイズを更に小さくできるようにするとともに、空気分離モジュールの重量を更に軽くできるようにする。
【0061】
炭素中空繊維および既知の高分子中空繊維の両方の透過性は、温度が高くなるにつれて高まる。炭素繊維は、製造中、より高い動作温度に耐えることができ、それにより、ガス分離産業で使用される既知のチューブシート材料よりも高い熱安定性を伴って、より高い温度のチューブシート材料を使用できる。より高い動作温度は、2つの意味により、すなわち、(1)より高い性能が活性繊維のより少ない表面積(空気分離モジュールの更なる小型化、または、航空機1機当たりのモジュールの数の減少)を可能にすること、および、(2)低い入口熱交換器能力(より小型の入口熱交換器の使用または入口熱交換器を使用しない)により、より軽量なシステムの構造を可能にする。高分子中空繊維膜システムと比べた重量の減少は30%程度になり得る。
【0062】
また、有益な機械的特性を有する熱安定性が高い材料を空気分離モジュール構造で使用することができ、また、ユニットの寿命を既知のモジュールを超えて延ばすことができ、それにより、信頼性が高まるとともに、システムのメンテナンスコストが低減される。
【0063】
炭素中空繊維膜は、所定のモジュール入口−出口圧力比で、高分子中空繊維膜を超える高い性能を与える(この場合、出口は、膜壁を透過する酸素のための透過出口であり、透過した酸素は一般に航空機の用途では機外へ排出される)。これにより、更に一層の軽量化、より高い燃料節約、および、より高い信頼性がもたらされることが予期される。
【0064】
法律に準拠して、実施形態は、構造的特徴および方法的特徴に関して多かれ少なかれ特有の言語で説明されてきた。しかしながら、実施形態が図示して説明した特定の特徴に限定されないことは言うまでもない。したがって、実施形態は、均等論にしたがって適切に解釈される添付の特許請求項の適切な範囲内のそれらの任意の形態または改変で請求される。
【符号の説明】
【0065】
10 システム
12 空気分離モジュール
13 炭素膜
14 燃料タンク
16 加圧空気供給源
17 供給空気
18 透過ガス
19 窒素を多く含む空気
20 システム
22 熱交換器
24 冷却された窒素を多く含む空気
30 システム
32 熱交換器
34 冷却された供給空気
40 システム
42 フィルタ
44 濾過された供給空気