特許第6181209号(P6181209)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6181209
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】電気穿孔方法、及び、電気穿孔装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20170807BHJP
   C12M 1/42 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   C12M1/00 A
   C12M1/42
【請求項の数】8
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2015-557314(P2015-557314)
(86)(22)【出願日】2013年2月20日
(65)【公表番号】特表2016-506751(P2016-506751A)
(43)【公表日】2016年3月7日
(86)【国際出願番号】CN2013071696
(87)【国際公開番号】WO2014127510
(87)【国際公開日】20140828
【審査請求日】2016年2月16日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515219012
【氏名又は名称】チン,ジェン
(74)【代理人】
【識別番号】100142804
【弁理士】
【氏名又は名称】大上 寛
(72)【発明者】
【氏名】チン,ジェン
【審査官】 福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2005/0170510(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0282265(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0053813(US,A1)
【文献】 特開2007−089426(JP,A)
【文献】 特開2006−197872(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/10
C12Q 1/00−3/00
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物細胞の電気穿孔装置であって、
電気穿孔される生物細胞のサンプルを収容するためのサンプル容器を有し、
前記サンプル容器は、
前記生物細胞のサンプル一定数含む細胞浮遊液を収容するための容器の本体を形成する絶縁性チャンバであって、複数の側面を有する絶縁性チャンバと、
第一電極と、
前記第一電極と対向する第二電極を有し、
前記絶縁性チャンバと前記第一、第二電極は前記細胞浮遊液を収容するための密封箱を構成し、
前記絶縁性チャンバと前記第一、第二電極により、前記サンプル容器中の前記細胞浮遊液を封止可能となるように構成され、
前記第一電極と前記第二電極は、電気パルス発生器から電気パルスを受け、細胞を電気穿孔させるように構成され、
前記第一電極は、前記絶縁性チャンバの頂部の溝に取り外し可能なカバーに構成され、
前記第一電極と前記絶縁性チャンバは、前記カバーが前記絶縁性チャンバの頂部の溝に取り付けられた際に、前記サンプル容器中に前記生物細胞のサンプルを封止し、
前記カバーは、スナップクロージング機構、又は、ネジクロージング機構により、前記絶縁性チャンバの頂部の溝に対しタイトにフィットし、
前記第一電極と前記絶縁性チャンバによって、前記サンプル容器中に前記生物細胞のサンプルを封止することとする、電気穿孔装置。
【請求項2】
前記絶縁性チャンバの頂部の溝は、前記カバーを前記頂部の溝に取り付けることで前記細胞浮遊液が満たされて漏れ出す余剰の液体を受け入れるための漏液受溝を有する、
ことを特徴とする請求項に記載の電気穿孔装置。
【請求項3】
前記カバーと、前記絶縁性チャンバを接続するための弾性接続部材を有する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電気穿孔装置。
【請求項4】
電気パルスを発生させるための超高電圧パルス発生器であって、5000Vよりも高い超高電圧のパルスを生成可能に構成される超高電圧パルス発生器をさらに有する、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の電気穿孔装置。
【請求項5】
前記絶縁性チャンバは、
前記第一、第二電極のうちの一つと接触する第一の表面と、
前記第一、第二電極の間にインタフェースを形成する第二の表面と、
を有する第一導電性媒質層を形成するように構成され、
前記第一導電性媒質層は、少なくとも一つの細胞単層を前記インタフェース上に配置させるように構成され、前記細胞単層を前記第一、第二電極と分離させ、
前記第一導電性媒質層は、溶質イオンを含む溶液を含み、
前記インタフェースは導電性を有し、
前記電気パルスが、前記第一導電性媒質層の前記溶質イオンを通じて導電される、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項に記載の電気穿孔装置。
【請求項6】
前記第一導電性媒質層は、
溶質イオン、
媒質イオンに浸される多孔性固体マトリクス、
又は、半固体と固体の間の物理状態の溶質イオンを含む導電性層、
にて構成される、
ことを特徴とする請求項に記載の電気穿孔装置。
【請求項7】
電気穿孔される生物細胞のサンプルを収容するサンプル容器を用いる生物細胞の電気穿孔方法であって、
前記サンプル容器は、
前記生物細胞のサンプル一定数含む細胞浮遊液を収容するための容器の本体を形成する絶縁性チャンバであって、複数の側面を有する絶縁性チャンバと、
第一電極と、
前記第一電極と対向する第二電極を有し、
前記絶縁性チャンバと前記第一、第二電極は前記細胞浮遊液の細胞サンプルを収容するための密封箱を構成し、
前記絶縁性チャンバと前記第一、第二電極により、前記サンプル容器中の前記細胞浮遊液を封止可能となるように構成され、
前記第一電極と前記第二電極は、電気パルス発生器から電気パルスを受け、細胞を電気穿孔させるように構成され、
前記第一電極は、前記絶縁性チャンバの頂部の溝に取り外し可能なカバーに構成されており、
前記第一電極と前記絶縁性チャンバは、前記カバーが前記絶縁性チャンバの頂部の溝に取り付けられた際に、前記サンプル容器中に前記生物細胞のサンプルを封止するように構成されており、
前記カバーは、スナップクロージング機構、又は、ネジクロージング機構により、前記絶縁性チャンバの頂部の溝に対しタイトにフィットし、
前記カバーと前記絶縁性チャンバによって、前記サンプル容器中に前記生物細胞のサンプルを封止するものであり、
前記カバーを開いて絶縁性チャンバ内に前記細胞浮遊液を入れるステップ1と、
前記カバーを絶縁性チャンバの頂部の溝に対しタイトにフィットさせて密封箱を構成して封止するステップ2と、
前記第一電極と前記第二電極に通電し細胞を電気穿孔させるステップ3と、
を含む、
生物細胞の電気穿孔方法。
【請求項8】
前記絶縁性チャンバの頂部の溝は、前記カバーを前記頂部の溝に取り付けることで前記細胞浮遊液が満たされて漏れ出す余剰の液体を受け入れるための漏液受溝を有しており、
前記ステップ1において絶縁性チャンバ内に入れられる前記細胞浮遊液の量は、
前記ステップ2において前記カバーを閉じた際に、前記カバーの前記第一電極の表面が前記細胞浮遊液の液面に接触する量とし、
前記接触により押し出される前記細胞浮遊液を前記漏液受溝に流出させる、
ことを特徴とする請求項7に記載の生物細胞の電気穿孔方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に細胞を電気的刺激することに関し、特に細胞の電気穿孔方法及び装置に関連するものである。
【背景技術】
【0002】
電気穿孔は電気的刺激により、膜細孔を一時的に生成し、細胞膜の膜透過処理を行うことに広く用いられる方法である。
電気穿孔の応用として、様々な細胞、例えば哺乳類細胞、植物細胞、酵母、他の真核細胞、バクテリア、他の微生物細胞及びヒト患者からの細胞にDNA、RNA、siRNA、ペプチド、蛋白質、抗体、ドラッグ、又は他の物質を導入することがある。
さらに、電気的刺激はハイブリドーマ、或いは他の融合細胞の製造における細胞融合に用いられる。
電気的細胞融合は電気穿孔の特殊な形式と見なすことができる。
【0003】
一般的に細胞は、電気穿孔の過程で、細胞の生存に好ましいバッファ、又は、媒質に懸濁される。
【0004】
バクテリア細胞の電気穿孔に関して、水のような低導電性媒質は、一時的な高電流による熱発生を減少するのに使用されることが多い。さらに、細胞浮遊液は放電のために、二つの平坦な電極が埋め込まれる長方形のキュベットに置かれる。
例えば、Bio−Rad社(Hercules、CA)のGene Pulserシリーズでは、キュベット中の細胞が電気穿孔される構成としている。従来の電気穿孔では高電界強度が必要とされる。
【0005】
電気穿孔のプロセスは細胞に有害である。
まず第一に、電界強度が高すぎると、細胞膜は不可逆的にダメージを受ける可能性がある。
第二に、電気的に誘発される膜細孔は、対象物質が細胞に導入される際に、細孔からの細胞内含量の流出と、細胞の生存性に悪影響を与える他の意図しない物質の流入を許容する可能性がある。
第三に、電流により発生した熱は、細胞に害を及ぼす可能性がある。
最後に、電気化学的に生成された有害因子、例えば、電極の近くにある遊離基、ガス及び金属イオンは細胞に有害である。
【0006】
細胞の特性のバラつき、即ち、電気穿孔における細胞の不均一性は、電気穿孔の高効率性や、低有害の電気穿孔の実現において、いまだ大きな課題として残っている。
不均一性に影響する要因の一つとして知られるものは細胞のサイズである。より大きい細胞はより簡単に電気穿孔される。異なるサイズの細胞混合物では、大細胞はある電圧の下で効率的に電気穿孔される一方、その電圧は、小細胞を効率的に電気穿孔するには、十分ではない場合が多い。小細胞が効率的に電気穿孔される電界強度では、その電圧が大細胞の生存にとって高すぎるため、通常、大細胞は不可逆的なダメージを受ける。また、細胞膜の異なる組成、又は細胞の成熟状態といった他の要素は、細胞の不均一性に影響を与えてしまう。
【0007】
細胞の電気穿孔の効率を改善するための多くの試みがなされたが、細胞の不均一性の重要な課題は未解決のままである。電気穿孔方法における効率、細胞の生存の可能性、及び費用の有効性はさらなる改善が期待される。以下に開示される装置と方法は、上記の一つ、又はより多くの課題、及び他の課題を解決するのに用いられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、生物細胞の電気穿孔装置を提供する。
上記装置は、細胞を収容する絶縁性チャンバを有するサンプル容器を有する。サンプル容器は、電気穿孔用の電気的接続を提供する第一電極、及び第二電極を有する。絶縁性チャンバは、少なくとも一つの細胞単層を含むように構成される。当該装置はまた、細胞の電気穿孔に必要なパルスを生成するパルス発生器を有する。
【0009】
本発明は、他の生物細胞の電気穿孔装置も提供する。当該装置は電気穿孔用の生物細胞のサンプルを収容するサンプル容器を有する。サンプル容器は細胞を収容するための容器の本体を形成する絶縁性チャンバを有する。絶縁性チャンバには複数の側面を有する。また、当該サンプル容器は、電気パルス発生器から電気パルスを受け取り、細胞を電気穿孔するための第一電極と第二電極を有する。絶縁性チャンバと電極は、サンプル容器中の生物細胞のサンプルを封止することができる。
【0010】
本発明は、また、生物細胞の電気穿孔の方法を提供する。
その方法は以下のステップを含む。
サンプル容器の絶縁性チャンバに、少なくとも一つの細胞単層を形成するために、細胞を配置する。
サンプル容器には、電気穿孔用の電気的接続を提供する第一電極、及び第二電極がある。
パルス発生器により生成される所定の電気パルスで、細胞単層の細胞の電気穿孔をする。
【0011】
本発明の他の実施例は、本発明における明細書、請求項、図面に照らして、当該分野の技術者に明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1Aは、本発明の実施例に対応する例示的な生物細胞の電気穿孔装置を示す図である。
図1Bは、本発明の実施例に対応する例示的なサンプル容器中の細胞単層の形成を示す図である。
図1Cは、本発明の実施例に対応する例示的なサンプル容器中の細胞単層の形成を示す図である。
図2Aは、球状の絶縁体細胞による電流フローの遮断及び分流の効果を示す図である。
図2Bは、細胞における電気穿孔の有効表面を示す図である。
図3は、有効な電気穿孔の表面における細胞のサイズの効果を示す図である。
図4は、示された電流方向における三つの代表的な細胞の隣接している位置を示す図である。
図5は、細胞単層を通って流れる電流の分布を示す図である。
図6は、模擬細胞の人工の絶縁性粒子を使用し、総細胞数を増やすことを示す図である。
図7は、本発明の実施例に対応する例示的なサンプル容器を示す図である。
図8は、本発明の実施例に対応する例示的なサンプル容器を示す図である。
図9Aは、本発明の実施例に対応する例示的なサンプル容器を示す図である。
図9Bは、本発明の実施例に対応する例示的なサンプル容器を示す図である。
図10は、本発明の実施例に対応する電気穿孔、又は電気細胞融合に用いるため、例示的な遠心分離法を使用し、緻密な細胞単層、又は複数の細胞単層を造る、ことを示す図である。
図11Aは、本発明の実施例に対応する例示的なサンプル容器を示す図である。
図11Bは、本発明の実施例に対応する例示的なサンプル容器を示す図である。
図12Aは、本発明の実施例に対応する例示的なサンプル容器を示す図である。
図12Bは、本発明の実施例に対応する例示的なサンプル容器を示す図である。
図13は、本発明の実施例に対応する例示的な電気穿孔のプロセスを示す図である。
図14Aは、本発明の実施例に対応する例示的な装置を示す図である。
図14Bは、本発明の実施例に対応する電気穿孔のために、例示的な下側媒質層の使用を示す図である。
図15は、例示的な細管補助の電気穿孔を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
添付の図に示される本発明の実施例を参考にして詳細に説明する。同一又は類似する構成部分を表すため、できるだけ各図面に同一の参照番号を付される。
【0014】
図1Aは、本発明の実施例に対応する例示的な電気穿孔装置100を示す図である。上記装置100はサンプル容器10を有する。サンプル容器10は、絶縁性チャンバ14、第一電極15a、及び第二電極15bを有する。サンプル容器10の中において、下側媒質層12の表面、及び上側媒質層13の下面の間にインタフェースが形成される。電流場を横切る細胞単層11はインタフェース上に形成される。本開示に使用される細胞単層は、単一で、且つ緻密に詰まる細胞層を指す。従って、細胞単層は時に緻密な細胞単層、又は、緻密な単層とも称される。装置100は、パルス発生器18も有する。サンプル容器10は、パルス発生器18内に設置することができ、電気パルスは、第一電極15aと第二電極15bの間で輸送される。
図1Bは、絶縁性チャンバ14にある細胞単層11の断面図を示す。図1Bに示されるように、単層11は、絶縁性チャンバ14の断面エリアを占めている。
【0015】
装置100は、細胞の電気穿孔をモデリングするために、一定のコンセプトを使用して実施することができる。図2Aでは、電流上、或いは、もともと一定であった電流フロー、又は電界上における半径Rの球状細胞の効果が例示される。
細胞にDNA、RNA、又は蛋白質を導入するといった典型的な電気穿孔では、媒質、又は他の緩衝塩溶液の中で電撃が行われる。
細胞外の溶液や細胞内の細胞質と比較すると、脂質二重層ベースの細胞膜はかなり低い電導度を有し、電流の大部分が細胞の内部をバイパスする。従って、細胞は絶縁物体に似たものとなる。
【0016】
細胞膜の絶縁効果は電気穿孔する際に、強電場の短時間の照射から細胞内部を保護する。
図2Aに示されるように、絶縁体に似た球状細胞による電流の遮断と分流により、もともと均一な電場が細胞の周囲が隆起する電場に変えられる。
【0017】
半径角度θの細胞膜上の局所点は、一般的に電流の方向からの、その半径角度θによって指定することができる。導電性媒質中のDNA、RNA、蛋白質などの陰性荷電分子は、電流の方向と逆方向に移動する。
【0018】
もともと均一な電場に置かれる半径Rの単一細胞について、半径角度θにおける膜上の所定点の経膜電位は、次式によりおおよそモデル化される
θ=1.5・Eo・R・cosθ (I)
ここで、Eoはもともと均一な電場の電界強度である。
全体的な電界の方向に対する二つの局所点のθが0°、又は180°に等しい時に、cosθは1、又は−1に等しく、経膜電位値は最も高くなる。
電流の上流(θ=180°)ではなく、電流の下流(θ=0°)の局所点において、DNA、RNA、蛋白質などの陰性荷電分子は、最大電位下で細胞膜を通過する。反対に、θが90°に等しいときは、細胞膜点の外の電流は最も強いが、細胞膜の点における経膜電位はゼロとなる。
【0019】
θが0°の時は、経膜電位は最も大きく、θが90°の時には、経膜電位はゼロ電位まで低下する。細胞膜の局所点における経膜電位が大きければ大きいほどより大きな分子を輸送する力を作り出すことができる。
物質を導入するためには、最小量の経膜電位Vminが必要である。
θの最大値、又はθmaxは、0°と90°の間で到達でき、そこで、経膜電位がVminになる。
同時に、θがより小さい細胞膜上の経膜電位は、細胞に不可逆的なダメージをもたらす電位を超えることができない。θmaxは、最も効果の高い電気穿孔表面を定義する。
【0020】
図2Bは、球状細胞上の有効電気穿孔表面(影の部分で表示される)を例示する。
本発明において使用される有効電気穿孔表面、又は細胞の電気穿孔のための有効表面は、十分な経膜電位を有し、DNA、RNA、蛋白質などの外部の物質を細胞に導入する細胞表面の部分のことをいう。
DNA、RNA、蛋白質などの大分子を細胞に導入する電気穿孔において、細胞は特定の経膜電位よりも低い場合にのみ生存可能である。
【0021】
図2Bにおいて、Vmaxは細胞が耐えられる最大の経膜電位を表し、それを超えると、細胞は不可逆的なダメージを受ける。
minは有効な電気穿孔が可能となる最小の透過可能な経膜電位を表し、それを下回ると、外部の物質は細胞に導入されることができない。
maxとVminの値は細胞膜の特性により決定される。
maxは、導入する対象物質の種類を問わず同じである。一方、Vminはサイズや電荷など対象物質の分子の特性に関係する。
大分子を導入する時のVminは大きくなる。
maxとVminの間の範囲は、細胞を電気穿孔する経膜電位の有効範囲であり、特に大分子を導入する時には、その範囲は小さくなる。
【0022】
図2Bに示されるように、細胞の局所点のみが最高経膜電位、即ち、Vmaxに到達することができる。
影がつけられた有効電気穿孔表面の外縁部にVminの経膜電位が存在し、その半径角度はθmaxである。DNA、RNA、蛋白質などの陰性荷電分子については、有効電気穿孔表面は電流の下流側に配置される。
θ=0° 及び cosθ=1 である局所点において、
max=1.5・Eo・R
が付与される。
θmaxにおいては、経膜電位がVminまで減少し、
min=1.5・Eo・R・cosθmax=Vmax・cosθmax
となる。
従って、θmaxは以下の公式により確定できる。
cosθmax=Vmin/Vmax
【0023】
以上のモデルリングにより、細胞の局所点では、有効な分子導入が最高速度となる。ある点の分子導入の速度については、θの増加に伴って減少し、θmaxにおいてゼロになる。
【0024】
異なる半径の各細胞が均一な電場に置かれる際に、各細胞は異なる経膜電位プロファイルを有する。
minとVmaxの絶対値は状況に応じたある変化に従う。
例えば、指数関数的な減衰波や方形波などの異なる電気パルス形状が使用される場合、VminとVmaxの値は異なることになる。
しかし、Vmin/Vmaxの比率は、これらのタイプの変化と同じように敏感とはならない。
【0025】
図3は、細胞のサイズが有効電気穿孔表面にどのように影響するかを示す。
細胞膜は、本質的に膜蛋白が分布しており、いくつかのチャンネルを有する脂質二重層である。
細胞のサイズがある程度異なっても、同じタイプの細胞は、同様の膜構成を有する。
従って、同一の細胞の異なる位置、或いは、同じタイプの異なるサイズの細胞においては、その膜電気特性、例えば、VmaxやVminなどは、同じであると考えられる。細胞のタイプが異なるものでさえも、多くの哺乳動物細胞は、VmaxとVminを含む同様の膜電気特性を有するといえる。細胞膜は、本質的には、異なる蛋白質が同じように分布された脂質二重層であるからである。
【0026】
図3において、左の半径Rの大細胞と、中央の半径rの中細胞と、右の小細胞の三つの単独遊離細胞について分析する。
円形により物理細胞や経膜電位プロファイルを表すために、三つの細胞の中心は一直線上に配置される。
電界強度は、大細胞が局所点においてVmaxに達するように設定され、Vmaxである局所点とVminである外縁部の間における有効電気穿孔表面に影がつけられる。
大細胞が最適な電気穿孔を得られる際には、
max=1.5・Eo・R
となり、
Eo=Vmax/(1.5・R)
となる。
中細胞(半径r<R)での局所点における経膜電位はより低くなる。
局所点における経膜電位Vtopは以下のように示される。
top=1.5・Eo・r=Vmax・r/R
【0027】
経膜電位がVminより大きい中細胞の有効表面は、以下を満足する外縁の角度θにより決められ、
min=1.5・Eo・r・cosθ=Vtop・cosθ=(Vmax・r/R)・cosθ
これにより、以下のようになる。
cosθ=(Vmin/Vmax)・(R/r)
中細胞上の有効電気穿孔表面は大細胞の有効電気穿孔表面より小さく、Vtopである局所点とVminである外縁部の間に影がつけられる。
r/R=Vmin/Vmaxである時に、cosθは1になり、有効表面はゼロまで減少する。
従って、有効な電気穿孔を得るための最小半径は、以下となる。
min=(Vmin/Vmax)・R
【0028】
半径がrmin以下となる右側に示される小細胞は、Vminに達する点がなく、有効電気穿孔表面が存在しない。
【0029】
従って、細胞のサイズは電気穿孔の重要な要素である。
大細胞は局所点における経膜電位が高いだけではなく、有効表面も大きくなる。
小細胞の経膜電位をVmaxに到達させるために高い電流場が適用されると、大細胞は生存することができなくなる。
細胞のサイズが相違することは避けられず、電気穿孔中の細胞特性は不均一であると考えられる。例えば、細胞群の95%は、正規分布(ガウス分布)分布により約20%の半径偏差があり、Vmin/Vmax(即ち、rmin/R)が約90%であれば、半径偏差が約10%である範囲内の細胞だけが有効に電気穿孔される。ガウス分布に基づいて、中細胞が電気穿孔される時に、理論上の最も高い電気穿孔効率は約67.3%に達する。大細胞については、Vmin/Vmax(例えば、rmin/R)が約95%であり、理論上の最も高い電気穿孔効率は約37.6%になる。
【0030】
さらに、細胞のサイズの問題は異なる細胞のタイプにまで広がる。
多くのタイプの哺乳動物細胞には同様のVminとVmaxがあるため、小さなサイズの細胞がVminに到達するには、より高い電流場強度を必要とし、高電流になるにつれて有害物がもたらされる。例えば、熱、遊離基、ガス及び金属イオンは、細胞に対して有効的な電気穿孔がなされる前に、不可逆的にダメージを与えることがある。
細胞のサイズは容易に変えることができないため、細胞のサイズのバラつきに適応する電気穿孔の方法が望まれるが、現在では利用可能ではない。
【0031】
個々の理想的な細胞の経膜電位の上記の分析は、細胞の電気穿孔を理解するための基礎となる。
電気穿孔においては、10〜10のオーダーで多数の細胞を使用することが望ましい場合がしばしばある。
また、細胞が体積の小さい容器の中に置かれる二つの主な理由は以下である。
i)高濃度の対象物質の輸送を実現すること。
ii)より小さなサンプル体積はより少ないエネルギーを必要とするため、パルス発生器の製造が容易であること。
【0032】
0.2mlの媒質に懸濁される1000万個の細胞の典型的な電気穿孔において、各細胞は20,000立方ミクロン(μm)の平均媒質体積を占有する。
各細胞は、側面の長さが約27μmの立方体と等しいスペースを占有し、典型的な哺乳動物細胞の直径よりは大きくない。従って、典型的な電気穿孔においては、細胞間の平均距離はほとんどの哺乳動物細胞の細胞直径と同等である。即ち、細胞は互いに非常に接近している。
【0033】
単一の遊離細胞が均一な電場に置かれるときにだけ、計算式(I)は有効である。
計算式(I)は、少数の細胞が均一な電場に置かれ、細胞間の距離が細胞直径よりもはるかに大きい場合に適用できる。細胞が密集しているときの電気穿孔では、各細胞を取り囲む電場は、この細胞自体と接近する他の細胞により変化する。細胞膜内の固有の特性であるVminとVmaxが同じ場合でも、所定点における経膜電位を計算するためには、計算式(I)はもはや適用できないものとなる。このため、電場プロファイルは複雑となり、予測が困難となる。
細胞のサイズが完全に等しい場合でも、細胞がランダムに配置されると、細胞の電気穿孔効率が不均一な別の層を構成することになる。
【0034】
以上のことから、電場をより良く理解し、電気穿孔と電気細胞融合の改良方法の設計を促進するために、複雑な電場の分析を以下に提示する。
【0035】
図4は、等しいサイズの細胞の三つのタイプの代表的な配置(ボジショニング)を例示する。
一番目のタイプは、周囲の細胞の影響を受けない遊離細胞(F)である。二番目と三番目のタイプは、隣接する細胞の位置を決める二つの特別な方法を表す。
一番目の特別な配置では、一般的な電流流動の方向に沿って、二つ或いは多数の細胞が密接に縦方向に並ぶ。このボジショニングは細胞S1、S2及びS3により表される。
二番目の特別な配置では、細胞は密接に、一般的な電流流動の方向に対して、略垂直な断面において横に配置される。この配置は細胞E1、E2及びE3により表される。
これらの細胞上における経膜電位の正確な計算式を導出するのはより困難であるが、電気穿孔の改良方法を開発するためには、関連する定性的な分析がなされる。
【0036】
図4に示されるように、S1、S2およびS3は密接に一直線に並べられ、遊離細胞Fよりもさらに顕著に、電流フローを遮断せず、分流させない。従って、S1、およびS3だけが、局所表面における経膜電位プロファイルが遊離細胞Fの経膜電位プロファイルと同様となる。さらに、電流(図4の影の部分)下流のS1細胞の局所表面だけが、陰性荷電分子の電気穿孔に有効である。
もし電流の方向が逆の場合には、S3細胞もS1細胞のように、有効に陰性荷電分子の電気穿孔をすることができる。S1とS3の細胞のシールド効果により、S2細胞はより低い経膜電位を有することになる。
前側に配置される細胞による、後ろ側の細胞を電気穿孔の取得からシールドする効果は、縦方向のシールド効果と定義される。
細胞間の距離が大きくなる、又は、配列が厳密な縦方向から逸脱すると、縦方向のシールド効果は顕著ではなくなる。
縦方向の配列は、多数の細胞をシールドし、電気穿孔効率を低下させため、電気穿孔において望まれないバラつきのレベルに至ることになる。
【0037】
一方で、細胞E1、E2及びE3は電流フローを遮断、制限するように、全体としてかなり大きな効果を発揮する。
その結果、超大型の単一細胞を形成するかのように、E1、E2及びE3の経膜電位は細胞Fの経膜電位より高くなる。横に配置される細胞は経膜電位計算式(I)にもはや従うものではない。
細胞の平面の近くでは、電流の総量が少ないため、このような細胞の局所点付近の経膜電位は、遊離の単一細胞の経膜電位よりも減ることになる。
定性的には、有効表面の形状は若干不規則になるが、各E1、E2及びE3細胞は、F細胞と比較して、Vmax点とVmin点の間において電気穿孔の効果が強化されるため、より大きな有効電気穿孔表面を有することになる。
【0038】
三次元等高線マップにより、E1、E2及びE3の実際の有効電気穿孔表面がより正確に説明され、図4に使用される二次元の影の部分において増加した有効表面の領域が十分に表現される。
横に配置される細胞が互いの電気穿孔の実施容易性を高める効果は、横方向の増強効果と定義される。
細胞間の距離が増える、又は、細胞が断面位置から逸脱すると、横方向の増強効果は顕著ではなくなる。
まとめると、上述した電流方向において、これらの細胞の電気穿孔の実施容易性は、以下のように並べることができる。
E2,E1,E3>S1,F>S2,S3
【0039】
細胞浮遊液の中で行われる典型的な電気穿孔において、細胞と細胞の間の複雑な電気的な相互作用は3つの主なカテゴリにて特徴づけられる。
縦方向のシールド効果と、横方向の増強効果と、及び、縦方向のシールド効果と横方向の増強効果の組み合わせ相互作用である。
主に縦ではなく、また主に横ではない位置において隣接する細胞の間には、組み合わせ相互作用があり、これらの相互作用はより小さなシールド効果と増強効果を有する。
定性的な分析により、高効率な電気穿孔を実現するためには、縦方向のシールドは望まれないことが明らかになった。
しかし、細胞浮遊液中においては縦方向のシールド効果は回避し難い。
電流方向を変更することにより、縦配列の細胞の両側の局所表面における電気穿孔の効率を向上させることが可能となる。
横方向の増強効果は、電気穿孔に有益であり、特に、Vminに達する破壊的に高い電界強度を要求するタイプである小サイズの細胞型にとって有用である。
【0040】
これらの理解に基づけば、電気穿孔においては、望まれない縦方向のシールド効果を除去又は減少し、横方向の増強効果を最大化することが望ましいということになる。
【0041】
図1Aを再び参照すると、細胞が電流場を横切る緻密な単層11に存在する場合に、縦方向のシールド効果は幾何学的に排除され、細胞間において横方向の増強効果は増大する。
【0042】
図1Aに示されるように、サンプルが漏れないように、絶縁性チャンバ14、第一電極15a、及び第二電極15bにより、上側媒質層13、サンプル容器10の中の下側媒質層12を封止する。容器10は異なる形状であってもよい。例えば、容器10は円柱形、又は非円柱形とすることができる。
【0043】
サンプル容器10の中で使用される絶縁性チャンバ14は、プラスチック、ゴム、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリイミド、ポリジメチルシロキサン、環状オレフィン共重合体、可塑性ポリエステルエラストマ、ガラス、クォーツ及びシリコンなどの非導電性材料により作られる。絶縁性チャンバ14は、強固となり、また、電極とタイトにフィットし得るように、1種、又は1種以上の材料により作られる。
【0044】
第一電極15aと第二電極15bはアルミニウム、鉄、鉄鋼、ニッケル、チタニウム、亜鉛、銅、スズ、銀、グラファイト及び合金などの導電性材料により作ることができる。
また、ギルドメタル、表面改良合金、又は、導電性材料で被覆、混合されたゴム又はプラスチックなどの非導電性材料により作ることができる。
第一電極15aと第二電極15bは、インジウム‐すず酸化物、アルミニウム添加酸化亜鉛、及びアンチモン添加酸化錫などの材料を使用し、細胞の顕微鏡観察のために、透明に作られる。
第一電極と第二電極は、異なる材料や、異なる形状で作ることができる。
【0045】
電極15aは上部電極とし、電極15bは下部電極とする。
両電極15a,15bの間の距離は、液体の取り扱いを容易にするために、1mmより大きく、対象物質に過剰に消費されて導入されるのを避けるために、50mmより小さくすることが好ましい。1つの実施例において、両電極15a,15bの間の距離は、簡単な取り扱い及び反応剤の保存のために、1mm〜30mmの範囲とされる。電極板15a,15bの形状および寸法は、容器10の形状および寸法により決定され得る。電極15a,15bを製造するためには、通常、金又は白金のような貴金属を使用する必要がない。
しかし、電極15a,15bを製造するためには、コストが問題とならない時や、あるいは、容器が再使用の必要がある時に、金及び白金のような貴重な不活性の金属を使用することができる。
【0046】
パルス発生器18は、生物細胞の電気穿孔のために、電気パルスを生成する。
発生器18は、指数関数的な減衰波、方形波、又は矩形波、高周波、波形の結合などの一つ、又はいくつかの異なるパルスフォームを生成することができる。
電気穿孔のパルスフォームは細胞型、容器のタイプ、及び/又は他のデータに基づいて、予め決定されることができる。
その結果、パルス発生器18は、電気穿孔のために、所定のパルスフォームを供給するようにプログラムされることができる。本開示において、一つのパルス、又は一つのパルスフォームとは、単一のパルス、又は、多数のパルスやパルスフォームにより構成された結合パルスのことをいう。
【0047】
緻密な細胞単層11は、電極の表面上、又は両電極の間のいずれの位置にも形成され得る。電極の上に直接細胞単層11を形成しないために、両導電性媒質層12,13の間に、細胞を停滞させるインタフェースを作ることができる。インタフェースは導電性媒質層の表面といえる。適切な数の細胞を含む細胞浮遊液が、下側媒質層12の表面に置かれる。細胞浮遊液は、媒質やバッファ中の細胞を懸濁することで形成され、上側媒質層13、又は他の適切な媒質やバッファを形成するのに使用される。細胞は、自然な重力、又は人工の遠心力により下側媒質層12と上側媒質層13の間のインタフェースに沈降することができる。パルス発生器18は、第一電極15aと第二電極15bの間の細胞単層にあるフォームの電気パルスを供給するものであり、細胞単層が形成された後に、パルシングが行われる。
【0048】
電気穿孔が行われる際に、上側媒質層13と下側媒質層12の間に、安定したインタフェースが維持されることが必要である。
通常、上側媒質やバッファ層13は、細胞浮遊液、或いは他のあらゆる適切な媒質、又はバッファを作成するのに用いられる媒質、又はバッファにて構成される。
上側媒質層13に使用される媒質やバッファは、任意の適切な媒質やバッファであってもよく、例えば、MEM,DMEM,IMDM,RPMI,Hanks’,PBS及びリンガー液などである。
下側媒質やバッファ層12は、高濃度の溶液にて構成され、例えば、糖類、グリセリン、ポリエチレングリコール(PEG)、およびフィコールを含む溶液とすることができる。
下側媒質層12に使用される媒質やバッファは、上側媒質層13に使用される媒質やバッファと同じ、又は同じではない任意の適切な媒質やバッファであってもよく、例えば、MEM,DMEM,IMDM,RPMI,Hanks’,PBS及びリンガー液などである。
また、下側媒質層12は半固体ゲルにより形成されることができる。例えば、寒天、又はアガロースベースのゲル、シリコンゲル、ポリアクリルアミドゲル、コラーゲン又はゼラチンゲル、マトリゲル、ヒアルロン酸ゲル、アルギン酸ゲル、ポリエチレングリコールゲル、メチルセルロース、又は他の変性セルロースベースのゲル、アクリラートゲル、ポリグリコールゲル及びプロピレングリコールゲルである。
【0049】
さらに、下側媒質層12は、媒質やバッファに浸される多孔性固体マトリクスにより形成することができる。
固体マトリクスは多孔性であり、望ましくは親水性とし、下側媒質層12の導電性が維持される。
固体マトリクスは、シリコン、樹脂類、グラスファイバー、ポリメタクリレート、シリケイト、変性セルロース、ポリビニル、ポリリジン、ポリアクリル酸、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド及び共重合体などの材料により作ることができる。
下側媒質層12を形成するある材料は、液体と半固体の間、又は、半固体と固体の間、又は、液体と固体の間の物理状態となる。
このような下側媒質層12の物理状態は、安定的なインタフェースが上側媒質層13と下側媒質層12の間に形成され、維持される限り、電気穿孔に影響を及ぼさない。導入される対象分子は上側媒質層13、又は、下側媒質層12、或いは両方にあってもよい。
【0050】
半固体、又は、固体である下側媒質層12は、サンプル容器10の中で予め形成されることができる。例えば、RPMI媒質のような、適切な媒質中のアガロースゲルは、下側媒質層12を形成することができ、サンプル容器10の中において予め形成させることができる。下側媒質層を予め形成するために、凝固する又はゲルになることができる液体が使用される、或いは、下側媒質層が所定の寸法で作製され、サンプル容器に設置される。
【0051】
通常、二つの媒質層、上側媒質層13及び下側媒質層12は、電気穿孔のための細胞単層11を形成するのに十分である。
しかし、ある実施例において、細胞が存在するための少なくとも一つの媒質インタフェースがある限り、二つ以上の導電性媒質層を使用することができる。
異なる断面積のサンプル容器を用いて異なるサイズのインタフェースを形成することができ、これにより、異なる数の細胞に対応することができる。
【0052】
図1Cは、開示される実施例に対応する例示的なサンプル容器を示す図である。
図1Cに示されるように、細胞単層11は電極15b上に直接形成される。
単層11を形成するために、媒質やバッファの細胞の数が適切な細胞浮遊液が、サンプル容器中に放置される。
細胞は、単層11を形成するために、自然な重力、又は遠心分離法で電極15bに沈降する。このことは、必要とされる電界強度が低い時、及び/又は、細胞が有害物を許容できる場合には、適切なものとなる。
【0053】
ほとんどの真核細胞の電気穿孔に関し、通常、両媒質層12,13を形成する媒質、又はバッファは、適当な浸透圧を維持するために塩類を含有する。
また、媒質、又はバッファ中の塩類は、媒質層12,13を導電させる。
バクテリアなどの非常に小さな原核細胞の電気穿孔には、時に水が低導電性媒質として使用され、極めて高い電界強度を許容する。
このような場合、導入される荷電分子は、水をベースとする媒質について、液体ベースの細胞膜よりもさらに導電性を与えることができ、特に細胞膜と比較すると、水をベースとする媒質は大まかにいって導電性があると考えられる。
【0054】
単層11を形成するために使用される細胞数は、単層11が配置される表面の領域、及び平均サイズの細胞に占有される領域により決定される。使用される細胞濃度は、周知分野の別の透明容器中での顕微鏡を用いた単層11に対する観測や、電気抵抗測定、或いは異なる細胞数の場合の電気穿孔効率の試験により、経験的に決定される。バッファ中の細胞濃度は、血球計、画像ベース又は流量ベースの計算機などの計数装置により、決定されることができる。平均占有面積や、好ましい電界強度などの細胞によって異なる特性は、容易に参照できるようにデータベースに保存することができる。異なるインタフェース領域のサンプル容器は、異なる細胞数に対応するために作ることができる。
【0055】
2つ、又はそれ以上の細胞単層は、媒質インタフェース上で緻密に積み重ねることができ、得られた細胞ペレットはなおも電気穿孔することができる。この状況の電気穿孔では、細胞間分子輸送の変化が増加し、細胞が二重層である場合を除き、より不均一になる。二重の細胞単層において、交流パルシングスキームが使用される際には、各細胞単層は、依然として極めて均一な電気穿孔が可能である。本発明で使用されるペレットは、一つよりも多く、且つ緻密に詰め込まれた層を形成する細胞群を指す。ペレット中の細胞は、識別可能の層を形成してもよく、しなくてもよい。
【0056】
複数細胞単層、或いは、細胞ペレットとも称されるが、これは、極めて大量の細胞が必要とされ、且つ細胞間分子輸送の変化が大きな問題とならない場合に好適に用いられる。複数細胞単層の電気穿孔は、細胞単層の電気穿孔方法の特別な形式、又は拡張であるといえる。細胞浮遊液がある従来の電気穿孔と比べて、複数細胞単層の電気穿孔方法は、依然として効率、細胞の生存可能性、及びコスト性において有効である。細胞単層に対する電気穿孔の方法と装置は、複数細胞単層或いはペレットに対しすべて適用可能である。
【0057】
細胞単層の電気穿孔方法では、必要とする全体的な電界強度は実質的に減少する。図5は、細胞単層11を通って流れる電流の分布を示す。図5において、細胞単層周辺の電流の三次元分布は、簡易化された二次元表示により示される。
【0058】
細胞が絶縁体と同様であるため、緻密な細胞単層11を通過する大部分の電流は、細胞間の隙間を通過する。細胞間の隙間内の電流場強度だけは、従来の懸濁液中の電気穿孔に必要な電流場強度と同等である。その他の位置では、電流が拡散され非常に低いレベルになる。
【0059】
細胞単層11のすぐ外側では、電流密度又は電界強度が非常に低いレベルに分散され、その結果、細胞の局所表面の近くでは拡散された低電界(L−F)の領域が作り出される。(L−F)領域では、単層が緻密であり、且つ隙間が比較的小さければ、細胞のサイズや隙間サイズのバリエーションに関わらず、電位変化は非常に小さくなる。
影が付された部分は、特定の電流方向における陰性荷電分子の有効電気穿孔表面を表す。
【0060】
隙間のスペースが小さいと、細胞の生存に有利になり、また、より強い電流の小領域での効果が素早くに消散する。細胞間の隙間は、不規則な形状を有するため、隙間の幅や領域は一定でない。
隙間の幅はおよそ、有効電気穿孔表面の下の電流パスの平均幅として定義され得る。
【0061】
例えば、単層11中で細胞がスペースの80%を占有し、細胞間の総隙間スペースが約20%残る場合に、全電流は、同じ容器中におけるこれらの細胞の懸濁液に対し同様の経膜電位を生成するために必要な電流の約20%となる。
単層11の抵抗は、約5つの細胞の媒質深度(20%の逆数が5である)であり、それに、これは通常の電極間距離と比べて小さいので、電気抵抗の全体的な増加は少なくなる。
これは、従来の同様の容器での電気穿孔と比較すると、必要な電圧が約20%であり、また、必要なパワーは約4%(20%×20%)だけになることを意味する。
この簡易計算によれば、同様の電気穿孔を達成するためには、細胞単層が懸濁液中の細胞よりも、かなり低い電気エネルギーを必要とすることが示される。
【0062】
本開示に使用される用語「緻密」は、細胞が単層領域を占有する程度のことをいう。用語「緻密度」は、細胞単層領域において細胞が占有する割合のことをいう。
単層11について使用される合理的な最小の緻密度は、横方向の増強効果を利用するために約50%とすることができる。
層の緻密度が増加するのに従って、横方向の増強効果はより顕著になり、有利になる。
特定の重力や遠心力では、単層内にそれ以上の細胞を含ませることができなくなったときに、完全な緻密度に達することになる。
緻密度が完全となった状況は、細胞の間のトータルの空間は小さくなるが、完全になくなるわけではない。
細胞が緻密に配置される場合では、細胞は可塑性を有するため、円形や球状には見えない。
単層の完全な緻密度を簡易に検査する際には、細胞の小部分が互いの上部に重なり、多少の望まれない縦方向のシールド効果を発揮するため、電気穿孔の効率は僅かに低下することになる。
【0063】
懸濁液中の遊離の単一細胞と比べると、緻密な単層11中の各細胞は、より大きな有効表面を有することになる。
有効表面の経膜電位は、遊離の単一細胞のように、局所点から急に落下することがない。
従来の懸濁液中の電気穿孔では、細胞は、経膜電位及び有効な輸送表面積の両方が不均一であった。
しかし、多様なサイズの細胞は、緻密な単層では、同様の経膜電位を有することになる。
これは、単層の両側付近での全電流が小さく、電位が単層のすぐ外側における電位が実質的に等しいためである。
単層11中の小細胞は、より小さな有効な輸送表面のみを有することになるが、大細胞と比較すると、ほとんど等しい経膜電位を有することになる。
【0064】
細胞単層による電気穿孔を利用することで、各細胞に導入される対象分子の量のバラつきはより少なくなる。
例えば、細胞直径の10%のバラつきは、従来の電気穿孔では、物質の導入において10倍よりも大きなバラつきが生じることになる。
これに対し、緻密な細胞単層の電気穿孔では、物質の導入におけるバラつきは、約10%だけとなる。
【0065】
局所表面上では電位分布はよりフラットであるため、従来方法における同様のパルシングスキームと比べて、使用電圧範囲(百分率%)はより拡大する。
【0066】
単層電気穿孔ではより低電圧が使用されるため、電流や電極に関連する多くの細胞有害物が減少することになる。電極15bの上に直接に緻密な単層11を配置することは、比較的簡単であり、特定のバッファにおいて非常に小さな電界強度を必要とする細胞や、有害物を許容できる細胞にとっては好適である。
細胞を電極15a,15bから物理的に離れることは、電気化学的に有害な物質が細胞に導入されるのを避けるために非常に有効な方法であるため、導電性媒質層12,13の間にインタフェースを使用することは有効である。
導電性媒質やバッファは、溶質イオンで導電することができ、これは自由電子で導電する典型的な電極とはまったく異なる。
【0067】
また、単層電気穿孔では低電力が使用されるため、単層ベースの電気穿孔方法においてパルス発生器18を製造することは、従来の電気穿孔方法においてパルス発生器を作ること場合と比較してより簡単である。
出力電力がより低い時において、異なるパルスフォームを生成することはより簡単である。
あるタイプの基本パルスフォームは指数関数的な減衰波であり、通常、帯電したコンデンサをサンプルに対し放電することにより作られる。
指数関数的な減衰波は、インダクタとサンプルをリンクさせることでより緩慢に形成することができ、初期のピーク電流を減衰させることができる。基本パルスフォームの別のタイプは、方形波や矩形波である。
必要であれば、高周波などの他の波形も容易に生成することができる。
シーケンスにおいて、単一又は複数の波形をサンプルに適用することができる。
【0068】
特定のシーケンスにおいて複数の波形が使用される場合には、波形は同一方向(直流)、又は異なる方向(交流)とすることができる。
交流を用いることは、分子導入において細胞の一側の局所表面にのみ有効ではなく、細胞の両側の局所表面に対して有効となる。
特に、複数細胞単層(ペレット)に詰め込まれる細胞の電気穿孔には、交流パルシングスキームは、図4の説明で説明されるように、縦方向のシールド効果を軽減することができる。
パルス発生器はディジタルやアナログパネルにより制御することができる。
さらに、パルス発生器は、再充電可能バッテリ、又はコンデンサなどのエネルギー貯蔵装置を含むことができる。その結果、ユニットを電力線から取り外すことができ、必要であればコードレスにすることができる。
【0069】
単層方法は異なるサイズの細胞に有益である。
小サイズの細胞は、従来の電気穿孔では、高い電界強度を要求するため、より有利である。
単層方法は、造血細胞系、リンパ球細胞系、血液由来細胞などの懸濁液で通常成長する細胞への適用について便利である。
【0070】
通常、何らかの支持物質や構造の上で成長する付着性細胞は、電気穿孔を実施するために一時的に懸濁される。
付着性細胞は、機械的分散、又はトリプシン処理などの一般的な手段により、支持物質から取り除くことができる。
さらに、付着性細胞は、適切な媒質やバッファに懸濁されて、電気穿孔のための単層を形成することができる。
【0071】
また、付着性細胞は、サンプル容器10中の両媒質層12,13間のインタフェースで培養することができる。
サンプル容器10中で培養される付着性細胞は、電気穿孔を直接行うことができる。
しかしながら、いくつかの理由によりそのような電気穿孔の品質を制御することは、より困難なものとなる。
第一に、付着性細胞の細胞表面領域の変化は、懸濁細胞よりもかなり大きく、細胞の電気的性質のバラつきが大きいことがある。
第二に、付着性細胞が一律に単層11をカバーすることが困難ということがある。細胞はある空き領域は存在せず、ある密集領域では重なって存在することもある。空き領域に近い細胞には、電気的な有害性が増加しやすい。密集領域では、ある細胞が他の細胞の上に重なるため、電気穿孔効率が低下することになる。
第3に、電気穿孔は、細胞の成長過程ではなく、十分に成長した特定の時点においてにも電気穿孔は実行される、ということである。このため、電気穿孔を実行する時間は制限されている。
第4に、細胞の培養に必要な時間はサンプルのバラつきを増加させるため、結果の再現性の精度がより低下するということである。
【0072】
細胞数が少なければ、適切な直径の模擬細胞の人工の絶縁性粒子、或いは人工細胞を、総細胞数を増やすために使用することができる。
図6は、少数の細胞の電気穿孔における人工の絶縁性粒子の使用を示す。
絶縁性粒子16(影で示される)は、実際の細胞17(白丸)と任意に混合される。
混合される細胞単層11は、両導電性媒質層12,13のインタフェース上に形成される。
媒質と細胞は絶縁性チャンバ14内に入れられ、電極15a,15bの間に電気パルスが輸送される。
【0073】
絶縁性粒子16は、緻密な単層11を形成することを助け、実際の細胞17と同じように、電流フローを制限することができる。
使用される絶縁性粒子16の数が細胞17の数を大きく超える場合には、細胞17の正確な数は重要ではなくなり、同じ数の絶縁性粒子16を異なる数の細胞17を含むサンプルと一緒に使用することで、実験の操作を容易にすることができる。
【0074】
絶縁性粒子16のサイズは細胞17と同様であってもよい。絶縁性粒子16と細胞17の平均直径差は10倍以内であることが好ましい。
【0075】
絶縁性粒子16は、ある特定の生物特性の材料により作られ、又はコーティングされることができるため、電気穿孔後に細胞17と分離される。また、絶縁性粒子16は磁性材料により、作製することができ、磁気的方法で分離することもできる。絶縁性粒子16を細胞17から分離する他の方法としては、沈降の速度差、又は密度差を利用するものがある。ある実施例では、人工の絶縁性粒子16は他のタイプの実際の細胞とすることができ、例えば、電気穿孔後に簡単に分離できる細胞、或いは成長を停止させる照射又は薬品処理により生存が停止され、或いは、成長が停止した細胞などとすることができる。
【0076】
図1Aに示されるサンプル容器10は、本発明の実施例に対応する一つの容器の例である。他のタイプのサンプル容器も使用することができる。
【0077】
図7は、本発明の実施例に対応するサンプル容器20の例を示す図である。
サンプル容器20は、固定電極25、封止カバーとして機能する可動電極26、円柱形絶縁性チャンバ21、漏液受溝24を有する。
【0078】
チャンバ21の底端には、電極25を固定する開口溝があり、チャンバ壁の頂部には、可動電極26を受ける別の開口溝がある。
電極25の直径は、絶縁性チャンバ21の底端の溝の直径より少し大きく、絶縁性チャンバ21の底端に発生する張力により、電極25を密に取り付けることができる。
或いは、容器の底端を封止するために、接着剤又は他の適切な方法により、電極25を絶縁性チャンバ21に固定することができる。
【0079】
可動電極26は、弾性接続部材23を介して、メイン絶縁性チャンバ21に接続される開口絶縁性カバー22に埋め込まれる。
カバー22は、メイン絶縁性チャンバ21のチャンバ壁における頂部の溝にタイトに嵌合され、これにより、電極26はメイン絶縁性チャンバ21の内縁をカバーし、サンプルを封止する。細胞単層11を含む媒質層12,13を空気泡がない状態で確実に封止するために、添加される細胞浮遊液の量を密封容器20の許容量より少し多くすることにより、少量の余剰な液体を存在させ、完全な封止を実現させる。電極カバー26を閉鎖することで押し出される余剰な液体は、メイン絶縁性チャンバ21のチャンバ壁の頂部に蝕刻された漏液受溝24に流出させることができる。電気穿孔後、余剰の液体中の細胞は、電気穿孔されないため廃棄してもよい。
【0080】
空気泡なしで容器中のサンプルを封止することは優れた方法であるが、単層11又は複数細胞単層における細胞の電気穿孔において、実際には若干の小空気泡は許容できる。媒質中の全体的な電界強度が極めて低いため、電極26に近い空気泡による電界の妨害は、媒質のインタフェース上の細胞に近い電界にわずかな影響を与えることになる。従来の開口キュベットと比較すると、密封容器は、電極の近くで発生した空気泡が圧縮され、細胞サンプルに及ぼす害は少ないため、有利なものとなる。一般に、密封容器とは、開口側がなくサンプルが封入され、容器を異なる方向に回転しても中の液体サンプルが流れ出ない容器のことをいう。
【0081】
円柱形チャンバの製造は比較的容易であり、密封接着剤を使用しなくても円形の電極板を容易に確実に嵌合されることができる。円柱形容器20は変更や、更なる特徴を有することができる。容器20の内側スペースは円柱形であるため、容器内側の形状が維持される限り、容器の外部は他の形状であってもよい。円柱形容器20は異なる寸法で作ることができる。1つの実施例として、電極25,26の間の距離は、1mmから50mmの間とすることができる。別の実施例において、電極25,26の間の距離は、1mmから30mmの間とすることができる。メイン絶縁性チャンバ21の内径は、1mmと100mmの間とすることができる。
【0082】
円柱形容器は製造及び使用に便利であるが、媒質インタフェース、又は電極25の上に細胞が単層を形成することができる限り、単層電気穿孔のために、容器20は適切な形状を使用してもよい。例えば、矩形容器、又は他の形状の容器が適切であろう。矩形容器においてスナップクロージング機構や他のクロージング機構を使用することができる。
【0083】
図7に示されるように、電極26を含む封止カバーは絶縁性カバー22により被覆される。また、他のタイプの封止カバーを使用してもよい。例えば、封止カバーは、スナップ、又はネジクロージング機構を有する適切に形成された導電性電極26とすることができる。
【0084】
絶縁性カバー22は、サンプル容器20を閉じるためにスナップされることができる。ロック構造は、密な閉止を保証するために使用できる。他の手段、例えば、ネジタイプのクロージング機構を使用できる。例えば、ねじ山は密な閉止を実現するために、開口絶縁性カバー22、及びメイン絶縁性チャンバ21上に設け作ることができる。図7に示すように、カバー22はメインチャンバ21の内縁に堅固に固定され、又はメインチャンバ21の外縁に固定されることができる。このほか必要に応じ、弾性接続部材23を、カバー22を利用し易いように設けてもよい。
【0085】
例示的なサンプル容器20の各構成物品には、便利に取り扱うために、標識、又はハンドルが設けることができる。絶縁性チャンバ21は絶縁性チャンバ14と同様の材料で作ることができる。電極25,26は、電極15a,15bと、同様の材料で作ることができる。
【0086】
本発明は開放した形態のサンプル容器を用いることも想定される。
図8は、本発明の実施例に対応する例示的なサンプル容器30を示す図である。図8に示すように、サンプル容器30は絶縁性チャンバ34、下部電極35、整合金属コネクタ37付きのメッシュ型電極36、封止カバー39を有する。
【0087】
図8に示すように、下側媒質層12と上側媒質層13の間のインタフェースには、細胞は単層11、又は複数の単層を形成する。媒質と細胞は容器30の絶縁性チャンバ34に配置される。下部電極35は、絶縁性チャンバ34底端の溝に固定される。容器30は矩形などの、あらゆる適当な形状とすることができる。容器は複数のサンプルを処理するために、列をなすように配置することができる。
【0088】
整合金属コネクタ37付きのメッシュ型電極36は、絶縁性チャンバ34チャンバ壁の頂部の溝に挿入される。メッシュ電極36は細胞を自由に通過させ、細胞の電気穿孔のために上側媒質層13に浸漬される。メッシュ電極36は、細胞浮遊液の添加前に、あるいは添加後に挿入することができる。また、メッシュ電極36は、容器30に固定され、あるいは取外し可能な形で容器30に取り付ることができる。メッシュ電極36は、容器30に適するように容器30と同じ形状とされる。例えば、容器30が矩形である場合には、メッシュ電極36は矩形となる。
【0089】
必要であれば、開放した形態の容器30は、頂部の封止カバー39によりさらに保護されることができる。封止カバー39は、プラスチックで作ることができる。細胞は、メッシュ電極36を取り除いた後、或いはメッシュ電極36の存在下のいずれかにおいて容器から取り出すことができる。
【0090】
絶縁性チャンバ34は、絶縁性チャンバ11と同様の材料で作ることができる。電極35、36とコネクタ37は、電極15a,15bと、同様な材料で作ることができる。また、本発明は固定電極、及び、別の付加的なカバーがあるサンプル容器が想定される。図9Aは、本発明の実施例に対応する例示的なサンプル容器40を示す図である。図9Aに示されるように、容器40は絶縁性チャンバ44、第一固定電極45a、第二固定電極45b、及び容器40内の予め形成された半固体、又は、浸される固体の下側媒質層12を有する。
【0091】
絶縁性チャンバ44は絶縁性チャンバ14と同様の材料で作ることができる。電極45aと45bは、電極15a,15bと、同様な材料で作ることができる。
【0092】
図9Aに示すように、容器は垂直に置かれる、即ち、媒質インタフェースを垂直にするようにして、細胞浮遊液を下側媒質層12と第一電極45aの間の隙間を埋めるように注ぐ。次いで、容器40を直ちに水平に変化させると、媒質インタフェースが水平となり、細胞により、下側媒質層12と上側媒質層13の間のインタフェースに定着する単層11が形成される。細胞浮遊液は液体の自然な表面張力により開放された容器40中に閉じこめられ、細胞は強い遠心力によらず、重力によって沈降することができる。
【0093】
図9Bは、可動式の絶縁性カバーを有する容器40を示す。絶縁性カバー48は、容器40中の下側媒質層12と上側媒質層13の開口側を封止する。固定電極、及び可動式の絶縁性カバーを有する容器40は、遠心力が加えられる時に有用である。本発明において、可動式のカバーは、カバーとして機能する可動電極、或いはサンプル容器の絶縁性チャンバの可動部分のことをいう。
【0094】
細胞を緻密な単層とするために、望ましくは、適切な数の細胞を含む細胞浮遊液が下側媒質層12の頂部に置かれる。細胞は、自然な重力、又は人工の遠心力により、下側媒質層12と上側媒質層13の間のインタフェースに定着する。なお、高濃度の下側媒質を細胞浮遊液に加えてもよい。
下側媒質層12、上側媒質層13、及び細胞単層11は、自然な重力、又は人工の遠心力により、形成されることができる。
細胞を自然な重力によりインタフェースに沈殿させることは、簡単で、低コストである。
一方、人工の遠心力は重力より強いため、細胞単層、又は複数細胞単層ペレットをより早く、より緻密に形成することができる。
【0095】
図10は、緻密な細胞単層、又は細胞のペレットを作るための遠心分離法の使用について示す。両電極15a、15b及び絶縁性チャンバ14を有する例示的なサンプル容器10は、両媒質層12、13及び細胞単層11を保持するために使用することができる。
一つ、又は一つ以上のサンプル容器10は、適切なバランスで一つのローターに設置される。容器20、30、又は40などの他の例示的なサンプル容器も、同様に遠心分離法において使用され得る。
【0096】
本発明の実施例に対応する例示的な遠心分離機50が図10に示される。
遠心分離機50は、第一金属支持体55、第二金属片56、回転軸線58、電気ブラシ59a,59b、及び適切なローター内配線を有する。
図10に示される破線は、各実験で電気穿孔されるサンプルの数、及び配線の代替的な方法の選択を配慮し、実際の配線における柔軟性を反映するものである。
図10に示される複数のサンプル容器は、ローター中の複数のサンプル容器、或いは移動中のサンプル容器を表す。
電気パルス発生器54は、所定のパルスを生成し、パルスをサンプル容器に輸送する。パルス発生器54は、固定ユニット、又は、ローターとともに回転し、回転中にパルスを生成するローター内の回路で構成することができる。
【0097】
第一金属支持体55は、容器をローター内に保持しつつ、下部電極15bと電気的に接触される。
第二金属片56は、電気的中な接触を作るために、遠心力により上部電極15aに押し付けられる。
金属片55、56とサンプル容器10が接触するところの二つの接点は、回転軸線58上の電気ブラシ59a,59bを介して、グループとして又は、単一のものとして、回転軸線58に配線されることができる。
ローター内回路54が使用される際には、金属片55、56はローター内回路54に配線されることができる。その結果、二つの金属片55及び56は、導体として機能し、電気パルスをサンプル容器10に輸送する。
【0098】
遠心分離機50は、スイングバケット遠心分離機、又は固定ローター遠心分離機である。遠心分離がされる際に、媒質インタフェース、又は細胞単層10は、回転アーム、又は、矢印57で示される遠心力の方向に対し、実質的に垂直である。
電気穿孔容器中において媒質インタフェースを回転アームにほぼ垂直な配置させる自動調整スイングバケットローター、又は固定角ローター内において、適切な角度は容易に実現できる。
固定角ローターの回転軸線58は垂直、又は水平のいずれかである。回転軸線58が水平な場合には、媒質インタフェースは、回転アームに実質的に垂直である必要がある。
【0099】
遠心力は、回転半径及び角速度の二乗に比例する。
数センチメートルないしは数デシメートルの代表的な回転半径の場合、ほとんどの真核細胞が細胞単層を形成するために、数百rpm(回転/分)ないしは数千rpmの回転速度で十分である。また、他のrpm数も使用され得る。
バクテリアなどの小原核細胞では、数千rpmの回転速度が必要となる。。
遠心分離に必要な時間は数秒ないし数分である。また、他の時間も使用され得る。
細胞が容器中の媒質インタフェースにおいて側方へ移動しないように、回転の加速を緩やかにすることができる。
媒質インタフェースを垂直に配置する固定角ローターの場合では、懸濁液中の細胞が、細胞分布における不均一性の原因になる片側への沈積を消磁させないように、回転を速やかに開始させる必要がある。
【0100】
図10に示すように、遠心分離の際に、金属片55,56は回転軸線58に配線され、細胞単層11上の細胞を電気穿孔するために、電気パルスが提供される。
【0101】
細胞が単層11、又は複数細胞単層ペレットに移動した後に、電気パルスを輸送されることができる。
遠心分離機50が使用される場合では、遠心分離後又は遠心分離中に、電気パルスは輸送されることができる。
遠心分離後にパルスを輸送するために、ローター内電気配線がない普通の実験遠心分離機は、ローター内で電気穿孔容器を保持するに、適当なアダプターと共に使用されることができる。
ただし、サンプル容器10は、パルシング前に細胞単層10又はペレットが乱れるのを避けるために、遠心分離機50から非常に慎重に取り出される必要がある。
他方、遠心分離中に電気パルスを輸送する場合は、パルシング条件がより信頼できるという利点がある。
【0102】
電気パルスの輸送後に、細胞はサンプル容器10から取り出ことができる、或いは、電気穿孔の媒質が細胞を維持するのに適している場合には、容器10に残ることができる。遠心分離機とパルス発生器を1台のマシンに統合することができ、これにより、容易な持ち運びが可能となり、コントロールが便利になる。
【0103】
カーボンブラシ、又は電気ブラシ59a,59bは、固定パルス発生器54でパルス発生器から遠心分離ローターのサンプルまで、電気パルスを供給するために使用することができる。
別の法として、サンプルのための最終的な電気パルスは、電気ブラシ59a,59bからのあらゆる信号ノイズを避けるために、ローター内回路54にて生成することができる。
回転軸線58の近くのローター内回路54は、強い遠心力を受けないように構成することができる。
ローター内回路54が使用される場合、電気ブラシ59a,59bは、電気エネルギー及び制御命令を受けるのに使用されるが、これらは最終的なパルス輸送ループに存在しない。
コンタクトレスの電力輸送は、磁気エネルギーの転移を用いて実現でき、この方法は電気ブラシ59a,59bからの信号ノイズを避けるために利用できる。
ローター内回路54が使用される場合には、無線の電波信号は、ローター内のパルシングを制御するために使用することができる。
【0104】
図11Aは、本実施例に対応する例示的な容器60を示す。
図11Aに示されるように、下部電極65は、絶縁性チャンバ61に封入される。絶縁金属線67は下部電極65に接続される。開口カバー62により被覆される上部電極66は、メイン絶縁性チャンバ61の上を閉じ、両媒質層12、13及び細胞単層11を封止する。カバー62は接続部材63により、主絶縁性チャンバと連結される。
溝64がメイン絶縁性チャンバの中に形成されることができ、あらゆる余剰のサンプルを保持できる。電極66,67の間で電気パルスが輸送される。このような構成は、遠心分離の際にサンプル漏れを防止するのに有効である。
【0105】
図11Bは例示の容器60の他の構成を示す。
絶縁性チャンバ61は、開放底を有するように変更され、支持構造及び電気コネクタとして機能する拡大された下部電極65に設置される。
上部電極66は、絶縁性チャンバ61に取り付けられ、絶縁性チャンバ61により、電極65と電気的に絶縁される。
容器60のこのような代替形状も、遠心分離中のサンプル漏れを防止するのに有効である。
【0106】
理論上、ローター内の平坦な媒質インタフェースは、回転半径が異なるため、少し不均一な遠心力を生成する。
遠心分離の時間が長大でなければ、これは重要な影響をもたらすことがない。より長い回転アームを用いることや、側方への細胞移動を減少するための媒質インタフェースを用い遠心分離前に休止時間を設けることで、実質的に均一な細胞分布を実現できる。
曲線状電極を有するサンプル容器は作ることができる。
曲線状媒質インタフェースは、全てのポイントにおいて等しい回転半径がある容器中に形成され得る。
自らの軸を中心として回転するフルサークル円柱形媒質インタフェースがある容器は、全てのインタフェースポイントにおいて、理想的に等しい回転半径を提供し、また、側方への細胞移動の問題がなく、あらゆる加速設定を使用することができる。
【0107】
図12Aは、本発明に対応する例示的な容器70を示す。
容器70は、細胞サンプルの電気穿孔のために、内部空間を密封する一つの曲線状絶縁体本体と二つの曲線状電極を有するリング状の形を想定することができる。
両電極75,76の間の円柱形表面に、細胞単層11は配置され得る。
図12Aは、重心軸に垂直な容器70の断面図である。
容器70が自らの重心軸に沿って、遠心分離機で回転する際に、単層11の細胞は、等しく外側への遠心力を受けることができる。
遠心分離の過程において、単層11の細胞は、遠心分離機の加速が終了し、単層が形成された後に、支持表面において安定状態が維持される。
図12Bはリングを切断する断面における容器70の別の図である。絶縁性チャンバ71及び両電極75,76により容器70の本体が形成される。
【0108】
細胞単層11は、遠心力の下で、外部電極75の表面に直接に配置されることができる。
あるいは、導電性媒質層12は、細胞単層11が直接電極に接触することを防止するために使用できる。
遠心分離前に、細胞は媒質13でまず懸濁されることができる。
図10で説明される遠心分離機50のような適切なローター内配線を有する構造は、遠心分離の際に、電気穿孔を実行するために使用できる。
ローター内配線及び電気ブラシにより、電極75,76はパルス発生器に接続できる。
適切な収納絶縁性チャンバを備える容器70のリングセグメントも、使用することができる。
あるいは、曲線状電極、及び/又は、曲線状媒質表面は、容器10、20、30、40又は60などの容器のために使用され得る。
本発明において、電極の表面、又は、導電性媒質層は平坦であってもよく、平坦ではなくてもよい。
【0109】
さらに、本発明は電気細胞融合に使用することができる。
電気細胞融合が電気穿孔の目的である場合、およそ2つの細胞単層を有する二重単層構成は、例示的なサンプル容器10、20、30、40、60又は70などの、電気穿孔のために使用されるサンプル容器と同様のサンプル容器において使用することができる。
望ましくは、各層は一種の細胞を含む。ただし、二種の細胞を混合することも、融合の効率が低が許容され得る。
【0110】
二重単層は、沈降速度差を利用することにより、順次に又は同時に形成される。即ち、一種の細胞がまず沈降して、もう一種がその後に続く。
メッシュ型電極がある容器は、異なる細胞の二つの単層を作るのに便利である。
1番目の細胞浮遊液がメッシュ電極の表面にちょうど至るまで容器に加えられ、細胞は下側媒質インタフェースの表面に集まる。
そして、2番目の細胞浮遊液は、最初の細胞単層の上に均等に配置されるように、メッシュ電極の上に添加される。
2つの単層を順次形成する別方法は、インタフェースを形成できる二つの異なる媒質と、二つの細胞浮遊液を使用し、2番目の細胞浮遊液を一番目の細胞浮遊液が単層を形成した後に加える方法である。
【0111】
適当なバッファ中の二重単層は、細胞融合を促進するために、適切な電気パルスにより処理されることができる。
遠心分離の過程において、電気パルスが輸送される。電気細胞融合のでは細胞に導入される対象物質が存在しないため、反応剤を節約することは目的ではない。従って、細胞融合のためのサンプル容器は、異なる細胞の二つの単層を順次に作ることをより簡単にするために、両電極の間により大きい距離を有することができる。
さらに、二種の細胞単層は、遠心分離媒質を取り除く工程を繰り返すこと、及び、より多くの細胞浮遊液を加えることにより、電気細胞融合に三つ、又はそれ以上の細胞層がある細胞層が交互するサンドイッチを形成することができる。
【0112】
図13は、本発明の実施例に対応する例示的な単層電気穿孔のプロセス200を示す。
ます細胞が懸濁液に分散される(202)。
付着性細胞については、まず付着したものから離脱させ、懸濁液に分散させる。必要であれば、細胞は洗浄される。
また、細胞濃度は計数法により決定されることができる(204)。
次に、適切な数の細胞が単層、又は複数の単層を形成するために採取される。
次に、細胞浮遊液はサンプル容器に応じて、適切なボリュームに調整される(206)。
導入される対象物質は、サンプル容器に細胞浮遊液を入れる前に、細胞浮遊液に含ませることができる。
次いで、細胞浮遊液はサンプル容器中に入れられる(208)。
【0113】
細胞浮遊液をサンプル容器中に入れた後に、細胞単層は形成される(210)。
細胞単層を重力による自然な沈降により形成する場合には、サンプル容器はある程度の時間水平面に設置する必要がある。
単層を形成するための必要な時間は、経験的に決定され得る。
例えば、単層の生成は顕微鏡により観察することができる。
細胞単層を遠心分離法により形成する場合には、サンプル容器は遠心分離機に設置される。細胞単層の形成後に、細胞は電気パルスにより処理される(212)。
細胞単層の形成に遠心分離機が使用される場合には、電気パルス処理は、遠心分離後又は遠心分離中に実行され得る。
細胞の電気パルス処理後に、細胞はサンプル容器から取り出される(214)。
電気パルス処理が遠心分離中に行われる場合には、細胞の取り出し前に遠心分離機は停止される。
電気細胞融合については、二重の細胞単層を作る工程が追加され、バッファ及び電気パルスは、物質導入の目的に通常使用されるバッファ及び電気パルスと異なるものとしてもよい。
【0114】
また、本発明は細胞浮遊液中の電気穿孔にも適用可能である。
図14Aは、本発明の実施例に対応する例示的な細胞浮遊液の電気穿孔に使用できるサンプル容器80を示す。
図14Aに示すように、容器80は、円柱形絶縁性チャンバ81、固定電極85、封止カバーとしても機能する可動電極86、開口絶縁性カバー82、漏液受溝84を有する。
絶縁性チャンバ81は、底端に電極85を固定する開口溝があり、箱81のチャンバ壁の頂部に、可動電極86を受ける別の開口溝がある。
電極85の直径は、絶縁性チャンバ81の底端にある溝の直径より少し大きいため、絶縁性チャンバ81の底端に発生する多少の張力により、電極85が締め付けられる。
あるいは、容器底端を封止する目的で電極85を絶縁性チャンバ81に固定するために、接着剤又は他の適切な方法で封止してもよい。
【0115】
可動電極86は、弾性接続部材83を介して、メイン絶縁性チャンバ81に接続される開口絶縁性カバー82に嵌め込むことができる。
カバー82はメイン絶縁性チャンバ81のチャンバ壁における頂部の溝に堅固に嵌合することができ、それにより、電極86は、メイン絶縁性チャンバ81中の内縁をカバーし、サンプルを封止できる。
細胞浮遊液87を空気泡なしに確実に封止するため、完全な密封を確保するための少量の余剰な液体を生じさせるために、添加される細胞浮遊液の量は密封容器の許容量より少し多い。
電極カバー86を閉鎖することにより、押し出された余剰の液体は、メイン絶縁性チャンバ81のチャンバ壁の頂部に蝕刻される漏液受溝84に流出させることができる。電気穿孔後、余剰の液体中の細胞は、電気穿孔されないため廃棄してもよい。
【0116】
空気泡なしで容器80中の細胞浮遊液を封止することは優れた方法であるが、小さい空気泡が電極表面のとても小さな部分を占有する限りであれば、若干の小さな空気泡は実際には許容できる。
【0117】
また、縦方向のシールド効果と横方向の増強効果の理解は、懸濁液中の細胞の電気穿孔効率を改善するのに役立つ。
大型細胞については、有効な電気穿孔を実現するために低電界強度が必要とされ、隣接する細胞間の電気的な相互作用により引き起こされる細胞の不均一性は、電気穿孔効率に不利な影響をもたらす。
しかし、より一般的な小サイズの細胞では、有効な電気穿孔について高電界強度を必要とし、隣接する細胞間の電気的な相互作用により引き起こされる細胞の不均一性は、かえって細胞の電気穿孔に非常に有益なものとなる。
【0118】
小細胞について、懸濁液中の細胞濃度を高めることで、横方向の増強効果を高めることができる。同時に、縦方向のシールド効果も高められる。高められた縦方向のシールド効果は、高められた横方向の増強効果にとって、価値あるトレードオフとなり得る。縦方向のシールド効果は、交流パルシングスキームにより軽減できる。
【0119】
細胞浮遊液中の全細胞容積の好ましい割合は、異なるタイプの細胞間で変化し得る。約5%又は5%より大きい全細胞容積の割合は多くの細胞型に好ましい。
十分な細胞がない場合には、細胞単層において説明されたものと同様の人工の絶縁性粒子を使用できる。
【0120】
改善された細胞浮遊液の電気穿孔について、例示のサンプル容器80、或いは細胞単層において説明されたものと同様の他のサンプル容器を使用できる。
細胞浮遊液の電気穿孔のために提供される容器80は、電極85,86の間に一般により長い距離が確保されるため、電極のすぐ近くの細胞はより少なくなり、細胞への電気化学的な有害物を減少させる。電極85,86の間の距離は3mmから100mmまでが好ましく、5mmから50mmまでが更に好ましい。
【0121】
容器80は円筒の形状とすることができる。容器80の断面図直径は1mmより大きくする。ある実施例では、容器80の断面図直径を1〜20mmの範囲とすることができる。また、他の直径値も使用されることができる。容器80は円筒形以外の形状でもよい。
【0122】
容器80中の電極86などの可動電極は、絶縁性チャンバの両端で使用することができ、特に、容器の内径が小さく、又は電極間の距離が非常に長い場合に使用できる。このような容器80では、一つの可動電極のみ搭載するサンプル容器については不便である。
電極近くの細胞は重大な電気化学的な有害作用を受けるため、絶縁性チャンバ81上に、害された細胞が取り除かれるべきであるといった指標をいくつか表記してもよい。
また、容器80は、容器に細胞浮遊液のサンプルを連続して流入させて連続処理を可能にするサンプル注入システムに接続することもできる。
【0123】
容器80は電極85,86の間に比較的に長い距離がある場合に、比較可能な電界強度を維持するのに高電圧が必要となる。
パルス発生器がより高い電圧を輸送することを要求する外観上の不利は、それほど問題とはならない。
【0124】
例えば、ヒト細胞株の懸濁液を電気穿孔するために、コンデンサから約1000μF指数の放電がある4mm隙間キュベットにおける0.2mlのサンプルについては、200ボルトが必要とされる。
同じ0.2mlの細胞浮遊液が2cmの電極間隔がある長い容器に置かれる場合(キュベット隙間距離の5倍)、必要な電圧は1000ボルトとなるが、コンデンサからの電気エネルギーが以下の方程式に従うため、40μF(1000μFの1/25)のコンデンサだけで足りる。
E=0.5U
Eは電気エネルギーであり、Uは電圧であり、Cは容量である。
従って、高圧パルス発生器は、同様の量のエネルギーを蓄積するために、非常に小さなコンデンサで対応できるため、実際に容易に製造できる。
【0125】
同じく、高電圧の他の波形を作り出すことは困難ではない。
バクテリアなどの非常に小さい細胞は、水などの低導電性液体において、20,000V/cmなどの高電界強度で電気穿孔される必要がある。
従来では、1mm、又は2mmの短い電極間隔があるキュベットの中でバクテリアの電気穿孔は実行されるため、通常、3,000V未満の電圧が必要とされる。
容器80の中において、バクテリアなどの非常に小さい細胞を電気穿孔するためには、超高電圧を必要とする。
本発明で使用される超高電圧は、5,000Vより高く、非常に小さい細胞の電気穿孔に通常使用される10,000Vから30,000Vまでの範囲にある電圧のことをいう。
数万ボルトを輸送可能なパルス発生器は、超高電圧の下ではエネルギーを蓄積するのに極めて低い容量が必要とされるため、製造が困難ではない。
パルス発生器は再充電可能バッテリ、又はコンデンサなどのエネルギー貯蔵装置を備えることができ、またコードレスとなって移動がより簡単になる。
【0126】
より長い電極間隔がある密封容器80は、電気アークを効果的に防止できる。
従来のキュベットでは、不均一に分布されるイオン性溶質は、小さな電流の漏れ領域を形成し、二つの電極の付近で短絡を生じさせる。
より長い電極間隔を有する密封容器内では、小さな電流の漏れ領域が形成される場合でも、1つの電極と他の電極で短絡が発生しないように電極が離れている。
電極の近くで停滞する小空気泡がある場合でも、1つの電極から他の電極まで到達しないため、電気アークが引き起こされることがない。
従って、より長い密封容器80は、電気アークの生成を抑えるのに有利である。
【0127】
より長い容器80の別の利点は、高精度の容器80を製造することがより容易であることである。
1mmのキュベットの場合では50μmの距離の誤差が5%となるが、2cmの長容器では0.25%だけとなる。
【0128】
図14Bは、本発明の実施例に対応する細胞浮遊液の電気穿孔のための、容器80中の例示的な下側媒質層88aの使用について示すものである。
図14Bに示されるように、下側媒質層88aは電極85上に形成される。細胞浮遊液87は、下側媒質層88aの上に入れられる。細胞浮遊液87中の細胞はペレット89の中に導入され
【0129】
下側媒質層88aは、図1Aの下側媒質層12などの電気穿孔の単層方法に使用されたものと同様である。
下側媒質層88aは電極85から細胞を物理的に離れさせる。
特に容器が細胞浮遊液の電気穿孔を意図するものである場合に、他の媒質層88bも上部電極上で使用されるため、細胞浮遊液の両端は電極からの直接照射から保護される。
細胞浮遊液87は直接にこの容器中で電気穿孔されることができ、あるいは、細胞濃度を高めるために、懸濁液中の細胞はペレット89中に導入されることができる。
細胞浮遊液の電気穿孔のための容器80は、電極85,86の間により長い距離を有することになるが、細胞ペレット89の電気穿孔に用いられる容器80は、電極85,86の間の距離をより短くすることができる。
自然な重力、又は遠心分離法により、ペレット89を作ることができる。
遠心分離機が使用される場合、遠心分離後又は遠心分離中に、細胞ペレット89のパルシングを行うことができ、これは、遠心分離機50の単層及び複数単層電気穿孔に説明された方法と同様である。
ペレット89は高効率及び細胞に低有害で電気穿孔することができ、懸濁液中の同じ細胞の電気穿孔に必要な電圧よりも低い。
パルス発生器は、エネルギー貯蔵装置を備えることができ、コードレスの移動に便利である。
パルス発生器、又は単層ベースの電気穿孔において説明されたパルスフォームの変化は、懸濁液やペレット中の細胞の電気穿孔にも適用され得る。
また、人工の絶縁性粒子は、細胞ペレットを作るために実際の細胞と共に使用することができる。
【0130】
本発明の有害電気穿孔の装置、及び方法により、高効率と低有害の電気穿孔が実現できる。
本発明による装置と方法は、他の方法と装置より利点を有する。
例えば、本開示による装置と方法では、細管式電気穿孔と比較して一定の利点がある。
【0131】
図15は、例示的な細管補助の電気穿孔を示す。
図15に示されるように、20μmの内径がある細管の中で電気穿孔が実施される。
二つの細胞、細胞Aと細胞Bが、細管の中に配置される。
細胞Aは18μmの直径を有し、細胞Bは16μmの直径を有する。
図15に示されるように、細胞Aと細管壁の間の最小距離は1μmであり、細胞Bと細管壁の間の最小距離は2μmである。
細管壁は絶縁体であるため、電流は細胞と細管壁の隙間隙間に制限される。
その全電流は細胞Aと細胞Bの周りの隙間隙間を流れる。
【0132】
細胞Bの周りの隙間の断面領域は細胞Aの周りの隙間の断面領域の二倍であるので、細胞Bの周りの隙間の電界強度は細胞Aの周りの隙間の電界強度の半分となる。従って、Aの直径はBの直径より1/8(12.5%)だけ大きいものの、隙間領域を超える細胞Aの経膜電位は細胞Bの経膜電位の二倍(200%)となる。細管においては、細胞Aは、細管壁からの横方向の増強効果により有利になる。
しかし、Bについては、ほんのわずか小さいものの、Bを電気穿孔することは非常に困難である。
交流パルシングスキームによるとしても、細胞Bは細胞Aの経膜電位の約半分となる。その結果、細胞Bは依然として有効に電気穿孔できない。
仮に、Aの直径が19μmになり、且その隙間が0.5μmになると、Aの経膜電位はBの約400%になり、細管における電気穿孔効率において多大な細胞の不均一性をもたらすということが証明される。
【0133】
したがって、細管は細管壁からの横方向の増強効果を利用する場合に有効に用いられる。
小細管の場合には細胞の高い部分が細管壁のすぐ近くに位置付けられるため、内径がより小さい場合に細管はうまく機能する。
緻密な単層ベースの電気穿孔方法は、電気穿孔における細胞の不均一を減少させる。
これに対し、細管式の電気穿孔の方法は、電気穿孔における細胞の不均一性を強め、限界がある。
本発明で説明されるように、懸濁液やペレット中の濃縮細胞自身の横方向の増強効果を主として利用することは、電気穿孔効率及びコスト性の両方に有利である。
容器80の他の構成などのサンプル容器は、直径又は断面領域を制限しない点において、細管と異なる。
所望の直径が使用して、大容量の細胞サンプルを容器80にて処理することができる。
【0134】
様々な実施例、及び添付図面が開示され、説明されたが、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。

図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
図13
図14A
図14B
図15