特許第6181210号(P6181210)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6181210熱放射反射コーティングを有する板ガラス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6181210
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】熱放射反射コーティングを有する板ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/34 20060101AFI20170807BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20170807BHJP
   B32B 17/06 20060101ALI20170807BHJP
   B32B 7/02 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   C03C17/34 Z
   B32B9/00 A
   B32B17/06
   B32B7/02 103
【請求項の数】33
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-557342(P2015-557342)
(86)(22)【出願日】2013年12月19日
(65)【公表番号】特表2016-513056(P2016-513056A)
(43)【公表日】2016年5月12日
(86)【国際出願番号】EP2013077351
(87)【国際公開番号】WO2014127867
(87)【国際公開日】20140828
【審査請求日】2015年9月25日
(31)【優先権主張番号】13155969.2
(32)【優先日】2013年2月20日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン−ゴバン グラス フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】メルヒャー,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ハーゲン,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】フィンセント,ユリア
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−195201(JP,A)
【文献】 特開2010−013345(JP,A)
【文献】 特表2008−516878(JP,A)
【文献】 特表2004−522677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00−23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材(1)および基材(1)のうちの少なくとも1方の表面上の少なくとも1つの熱放射反射コーティング(2)を含む、熱放射反射コーティングを有する板ガラスであって、コーティング(2)が、基材(1)の側から、少なくとも、
・1つの下部誘電体層(3)、
・少なくとも1種の透明導電性酸化物を含有する、1つの機能層(4)および
・1つの上部誘電体層(5)
を含み、少なくとも1つの黒化層(10)が、下部誘電体層(3)と機能層(4)との間、または機能層(4)と上部誘電体層(5)との間または下部誘電体層(3)と機能層(4)との間および機能層(4)と上部誘電体層(5)との間の両方に配置されており、
黒化層(10)が、融点1900℃超および比抵抗500μオーム*cm未満の少なくとも1種の金属、1種の金属窒化物および/または1種の金属炭化物を含有し、
黒化層(10)の厚さが2nmから50nmである、
板ガラス。
【請求項2】
外部環境から内部空間が隔離され、コーティング(2)が基材(1)の内側表面に配置されている、請求項1に記載の板ガラス。
【請求項3】
25%未満の可視スペクトル領域の透過率を有する、請求項1または2に記載の板ガラス。
【請求項4】
基材(1)が15%未満の可視スペクトル領域の透過率を有し、熱放射反射コーティング(2)を有する板ガラスが10%未満の透過率を有する、請求項1から3の一項に記載の板ガラス。
【請求項5】
黒化層(10)の厚さが5nmから40nmである、請求項1から4の一項に記載の板ガラス。
【請求項6】
黒化層(10)の金属、金属窒化物または金属炭化物が、周期表のIVB、VBおよびVIB族の群から選択される、請求項1から5の一項に記載の板ガラス。
【請求項7】
金属、金属窒化物および/または金属炭化物の融点が、2200℃超である、請求項1から6の一項に記載の板ガラス。
【請求項8】
機能層(4)が、少なくともフッ素ドープ酸化スズ、アンチモンドープ酸化スズおよび/または酸化インジウムスズを含有する、請求項1から7の一項に記載の板ガラス。
【請求項9】
上部誘電体層(5)が、1.7から2.3の屈折率の材料を含有する、請求項1から8の一項に記載の板ガラス。
【請求項10】
下部誘電体層(3)が、少なくとも1種の酸化物または窒化物を含有する、請求項1から9の一項に記載の板ガラス。
【請求項11】
反射防止層(6)が上部誘電体層(5)の上に配置されている、請求項1から10の一項に記載の板ガラス。
【請求項12】
コーティング(2)が、その最上層として少なくとも1種の酸化物を含有するカバー層(7)を含む、請求項1から11の一項に記載の板ガラス。
【請求項13】
基材(1)が、少なくとも1つの熱可塑性中間層(9)を介してカバー板ガラス(8)に結合して、複合板ガラスを形成し、コーティング(2)が、カバー板ガラス(8)から離れるほうに面する基材(1)の表面に配置されている、請求項1から12の一項に記載の板ガラス。
【請求項14】
少なくとも、
(a)1つの下部誘電体層(3)、
(b)少なくとも1種の透明導電性酸化物を含有する、1つの機能層(4)および
(c)1つの上部誘電体層(5)
が基材(1)に連続して適用され、プロセスのステップ(a)と(b)との間、またはプロセスのステップ(b)と(c)との間またはプロセスのステップ(a)と(b)との間およびプロセスのステップ(b)と(c)との間の両方に、融点1900℃超および比抵抗500μオーム*cm未満である少なくとも1種の金属、1種の金属窒化物および/または1種の金属炭化物を含有し、厚さが2nmから50nmである、少なくとも1つの黒化層(10)が適用される、熱放射反射コーティング(2)を有する板ガラスを製造する方法。
【請求項15】
コーティング(2)を有する基材(1)が、少なくとも200℃の温度に加熱される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1から13のいずれか一項に記載の板ガラスの、建物または陸上、空中もしくは水上の輸送手段における板ガラスまたは板ガラスの部品としての使用。
【請求項17】
25%未満、15%未満、10%未満、8%未満、または6%未満の可視スペクトル領域の透過率を有する、請求項3に記載の板ガラス。
【請求項18】
基材(1)が10%未満の可視スペクトル領域の透過率を有し、熱放射反射コーティング(2)を有する板ガラスが7%未満、または6%未満の透過率を有する、請求項4に記載の板ガラス。
【請求項19】
金属、金属窒化物および/または金属炭化物の融点が、2500℃超であり、金属、金属窒化物および/または金属炭化物の比抵抗が、200μオーム*cm未満である、請求項7に記載の板ガラス。
【請求項20】
機能層(4)が、40nmから200nm、または90nmから150nmの厚さを有する、請求項8に記載の板ガラス。
【請求項21】
上部誘電体層(5)が、少なくとも1種の酸化物および/または1種の窒化物を含有する、請求項9に記載の板ガラス。
【請求項22】
上部誘電体層(5)が、窒化ケイ素、アルミニウムドープ窒化ケイ素、ジルコニウムドープ窒化ケイ素またはホウ素ドープ窒化ケイ素を含有する、請求項9に記載の板ガラス。
【請求項23】
上部誘電体層(5)が、5nmから50nmの厚さを有する、請求項9に記載の板ガラス。
【請求項24】
下部誘電体層(3)が、少なくとも1種の酸化物または窒化物を有する、請求項10に記載の板ガラス。
【請求項25】
下部誘電体層(3)が、酸化ケイ素、窒化ケイ素、アルミニウムドープ二酸化ケイ素、ジルコニウムドープ二酸化ケイ素またはホウ素ドープ二酸化ケイ素を含有する、請求項10に記載の板ガラス。
【請求項26】
下部誘電体層(3)が、10nmから150nm、または15nmから50nmの厚さを有する、請求項10に記載の板ガラス。
【請求項27】
反射防止層が少なくとも1種の酸化物を含有する、請求項11に記載の板ガラス。
【請求項28】
反射防止層が屈折率1.8以下の少なくとも1種の酸化物を含有する、請求項11に記載の板ガラス。
【請求項29】
反射防止層が二酸化ケイ素、アルミニウムドープ二酸化ケイ素、ジルコニウムドープ二酸化ケイ素またはホウ素ドープ二酸化ケイ素を含有する、請求項11に記載の板ガラス。
【請求項30】
反射防止層が20nmから150nm、または40nmから100nmの厚さを有する、請求項11に記載の板ガラス。
【請求項31】
カバー層(7)が、少なくとも1種の酸化物を含有する、請求項12に記載の板ガラス。
【請求項32】
カバー層(7)が、TiO、ZrO、HfO、Nb、Ta、Cr、WOおよび/またはCeOを含有する、請求項12に記載の板ガラス。
【請求項33】
カバー層(7)が、2nmから50nmの厚さを有する、請求項12に記載の板ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱放射反射コーティングを有する板ガラス、それを製造する方法およびそのようなコーティングを有する板ガラスにおける黒化層の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の内部は、夏には、高い周囲温度および強力な直射日光により、大幅に昇温することがある。外の温度が車両内部の温度より低い場合(特に冬に発生する。)、冷たい板ガラスは放熱板として作用し、乗員に不快なものとして受け取られている。エアコンシステムに高い暖房性能も備えて、自動車の窓を通した内部の過剰な冷却を防がなければならない。
【0003】
熱放射反射コーティング(いわゆる「低Eコーティング」)は公知である。そのようなコーティングは、特に赤外領域のかなりの部分の日光を反射し、夏には車両内部の温度上昇を抑える。その上、車両内部に面した板ガラスの表面にコーティングが適用されている場合、昇温した板ガラスから車両内部への長波熱放射の放出がコーティングにより抑えられる。その上、冬に外の温度が低い事例では、そのようなコーティングは、内部から外周への熱の外方放出を抑える。
【0004】
審美的または熱的理由から、自動車の窓の板ガラスは、光線透過率を抑えることが望ましいことがある。これは、例えば、後部側窓、後部窓またはルーフパネルに多い事例である。そのような板ガラスは、透過率を低下させた熱放射反射コーティングの使用により製造できる。ニオブ、タンタル、ニッケル、クロム、ジルコニウムまたはそれらの合金でできている機能層を含有する、透過率を低下させた熱放射反射コーティングは、例えば、US7592068B2、US7923131B2およびWO2004076174A1で当業者に公知である。コーティングの光線透過率は低いため、層の傷、特に存在し得る製造に伴う傷は、望ましくない高いコントラストを有する。例えば、約100μmの大きさのきわめて小さい傷さえも、特に板ガラス越しに見る場合は、見る人にはひどく目立つことがある。そのような層の傷は、例えば、コーティングプロセスの前および/または最中に、粒子が、コーティングされる板ガラスの表面に混入し、コーティングした後の表面から放出される際に発生し得る。粒子は、板ガラスの表面を続いて熱処理している最中にも、表面から放出され得る。
【0005】
透過率を低下させたコーティングの欠点を避けるために、着色板ガラスに透明な熱放射反射コーティングを施すことができる。そのようなコーティングは、透明導電性酸化物、例えば酸化インジウムスズをベースとした機能層を含有することができ、例えば、EP2141135A1、WO2010115558A1およびWO2011105991A1で公知である。しかし、きわめて光線透過率が低い、例えば8%未満の板ガラスは、通例、光線透過率が10%未満のガラスが市販されていないので、この手段で容易に実現できない。
【0006】
コーティングの適用後、板ガラスは、熱処理および機械的な変形が施されることが多い。自動車分野の板ガラス、例えば、単一板ガラスによる安全ガラスの形態の側窓および後部窓ならびに複合安全ガラスの形態のルーフパネル、側窓および後部窓は、典型的には曲げられ、このプロセスで、プレストレッシングまたは部分的なプレストレッシングが行われることが多い。板ガラスのベンディングおよびプレストレッシングも、コーティングに特定の要求を課す。
【0007】
US2008/0070045A1から、低Eコーティングを有する別の板ガラスが公知であり、機能層は、透明導電性酸化物を含有する。コーティングは、熱放射を吸収するための層、例えば、窒化チタンでできている層を含有する。吸収層の厚さは指定されていない。
【0008】
US2005/0123772A1から、銀でできている機能層を有する低Eコーティングが公知である。コーティングは、窒化チタンでできている光吸収層を含有する。銀をベースとした低Eコーティングは、腐食の影響を受けやすく、結果として、環境と接触する板ガラス表面に使用できないことがある。それらの使用は、典型的には、中間層を向いた複合板ガラスの表面に限られる。板ガラスの内側表面への使用は、結果として不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第7592068号明細書
【特許文献2】米国特許第7923131号明細書
【特許文献3】国際公開第2004/076174号
【特許文献4】欧州特許出願公開第2141135号明細書
【特許文献5】国際公開第2010/115558号
【特許文献6】国際公開第2011/105991号
【特許文献7】米国特許出願公開第2008/0070045号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2005/0123772号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
(発明の要旨)
本発明の目的は、改善した熱放射反射コーティングを有する板ガラスであって、熱放射反射コーティングが、可視スペクトル領域の、板ガラスの透過率を抑える、板ガラスを提供することにある。コーティングは、耐腐食性とすべきでもあり、板ガラスのベンディングおよびプレストレッシング中に損傷を受けてはならない。さらに、板ガラスを製造する方法が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、請求項1に記載の熱放射反射コーティングを有する板ガラスにより、本発明に従って達成される。好ましい実施形態は、従属クレームに表わされる。
【0012】
本発明による熱放射反射コーティングを有する板ガラスは、基材および基材の少なくとも一方の表面上の少なくとも1つの熱放射反射コーティングを含み、コーティングが、基材の側から、少なくとも、
・1つの下部誘電体層、
・少なくとも1種の透明導電性酸化物を含有する、1つの機能層および
・1つの上部誘電体層
を含み、少なくとも1つの黒化層が、下部誘電体層の下、下部誘電体層と機能層との間、機能層と上部誘電体層との間および/または上部誘電体層の上に配置されており、
黒化層が、融点1900℃超および比抵抗500μオーム*cm未満の少なくとも1種の金属、1種の金属窒化物および/または1種の金属炭化物を含有する。
【0013】
本発明による熱放射反射コーティングは、積層体であり、少なくとも以下の個々の層:
・1つの下部誘電体層、
・下部誘電体層の上に、少なくとも1種の透明導電性酸化物(TCO)を含有する1つの機能層および
・機能層の上に、1つの上部誘電体層
を示されている順で基材の側から含む。その上、コーティングは、本発明による少なくとも1つの黒化層を含む。
【0014】
第1の層が第2の層の上に配置されている場合、これは、本発明の文脈において、第1の層が第2の層よりも基材から離れて配置されていることを意味する。第1の層が第2の層の下に配置されている場合、これは、本発明の文脈において、第2の層が第1の層よりも基材から離れて配置されていることを意味する。
【0015】
第1の層が第2の層の上または下に配置されている場合、これは、本発明の文脈において、第1および第2の層が、互いに直接接触する状態にあることを必ずしも意味しない。明白に除外されない限り、第1と第2の層との間に、1つまたは複数の追加層を配置することができる。
【0016】
コーティングの最上層は、本発明の文脈において、基材から最も距離が離れた層である。コーティングの最下層は、本発明の文脈において、基材から最も距離が短い層である。
【0017】
比抵抗に対して示される値は、温度20℃で測定される。屈折率に対して示される値は、波長550nmで測定される。
【0018】
当業者は、例えば、表またはデータシートにおいて融点および比抵抗に対して示される値を理解できる。典型的には、そこで示される値は、固体に対するものである。薄膜の事例では、融点および比抵抗は、そこから逸脱することがある。それでもなお、固体に対する表形式の値は、本発明による黒化層に対して適切な材料を選択するための適正な基準を当業者に示す。本文脈においては、融点および比抵抗に対して示される値を理解しなければならない。
【0019】
層または別の部材が少なくとも1つの材料を含有する場合、これは、本発明の文脈において、層がその材料でできている事例を含む。
【0020】
本発明による、黒化層の金属、金属窒化物および/または金属炭化物は、低い比抵抗を有するので、明らかな導電性である。そのような導電性の黒化層によって、熱放射反射コーティングの可視スペクトル領域の透過率は、特に吸収および/または反射により低下する。黒化層は、もちろん他のスペクトル領域、例えば、赤外領域の透過率も低下させることができる。透過率のレベルは、黒化層の数および厚さならびに材料により調整できる。したがって、特に、本発明によるコーティングが着色板ガラスに使用される場合、きわめて色が濃い板ガラスさえも実現できる。これは、本発明の重要な利点である。
【0021】
本発明による、黒化層の金属、金属窒化物および/または金属炭化物は、高い融点も有する。そのような黒化層は、有利なことに、耐腐食性および耐酸化性である。結果として、コーティングした板ガラスは、コーティングが損傷を受ける(例えば、黒化層におけるひび割れにより)ことなく、または光線透過率に関しても、黒化層の酸化により再度上昇することなく、温度処理、ベンディングプロセスおよび/またはプレストレッシングプロセスを施すことさえできる。これは、本発明の別の重要な利点である。
【0022】
例えば、本発明による板ガラスは、好ましくは、自動車または建物の入口に供給され、外部環境から内部を隔離する。本発明によるコーティングは、好ましくは、板ガラスが設置された位置において、内部を向くように意図された基材の表面に配置される。これは、内部の熱的快適性に関して特に有利である。板ガラスが設置された位置において、内部を向くように意図された表面は、本発明の文脈において、内側表面と呼ばれる。本発明によるコーティングは、外部温度が高く日光が強い事例では、板ガラス全体により内部方向に放射される熱放射を、特に効率的に、少なくとも部分的に反射することができる。外側の温度が低い事例では、本発明によるコーティングは、内部から放射される熱放射を効率的に反射するので、冷たい板ガラスの放熱板としての作用を抑えることができる。
【0023】
本発明による板ガラスの内側放射率は、好ましくは、35%以下、特に好ましくは25%以下、特に最も好ましくは20%以下である。ここでは、「内側放射率」という用語は、例えば、建物または自動車の板ガラスが、設置された位置において内部空間へと発する熱放射の量を、理想的な熱放射体(黒体)と比較して示す測定値を指す。本発明の文脈において、「放射率」は、標準規格EN12898に従う283Kの通常の放出レベルを意味する。
【0024】
本発明による板ガラスは、有利な実施形態において、25%未満、好ましくは15%未満、特に好ましくは10%未満、特に最も好ましくは8%未満、特に6%未満の可視スペクトル領域の透過率を有する。本発明は、透過率10%未満の板ガラスに特に有利である。そのような板ガラスは、そのような濃厚に着色された基材が典型的には市販されていないため、着色した基材だけで実現することが困難である。そのような透過率の低い板ガラスは、特に自動車の側窓、後部窓、ルーフパネルとして、または建物にも望ましいものであり得る。
【0025】
日光からの全エネルギー入力に関する、本発明による板ガラスの透過率の値は、好ましくは50%未満、特に好ましくは40%未満、特に最も好ましくは30%未満である。この値もTTS値(「全透過日光」)として当業者に公知である。
【0026】
本発明によるコーティングのシート抵抗は、好ましくは10オーム/スクエアから50オーム/スクエア、特に好ましくは15オーム/スクエアから30オーム/スクエアである。
【0027】
熱放射反射コーティングは、本発明によれば、少なくとも1つの黒化層を含む。コーティングは、複数の黒化層、例えば2つ、3つまたは4つの黒化層も含むことができ、これは、光学的または機械的な理由で望ましいことがある。
【0028】
有利な実施形態において、コーティングは、本発明による1つまたは2つの黒化層を含有する。これは、コーティングの簡単な製造に関して特に有利である。
【0029】
黒化層または複数の黒化層は、例えば、下部誘電体層の下、下部誘電体層と機能層との間、機能層と上部誘電体層との間および/または上部誘電体層の上に配置できる。
【0030】
特に有利な実施形態において、黒化層は、下部誘電体層と機能層との間および/または機能層と上部誘電体層との間に配置される。好ましくは、この事例では、黒化層は機能層と直接接触する。驚くべきことに、そのような熱放射反射コーティングは、温度処理、ベンディングプロセスおよびプレストレッシングプロセスに耐えることに特に適しており、損傷を受けないことが示された。
【0031】
黒化層は、好ましくは、2nmから50nm、特に好ましくは5nmから40nm、特に最も好ましくは10nmから30nmの厚さを有する。これは、透過率を低下させる作用ならびに黒化層の耐腐食性および曲げ性に関して特に有利である。
【0032】
黒化層は、本発明によれば、少なくとも1種の金属、1種の金属窒化物および/または1種の金属炭化物を含有する。ここでは、本発明の文脈において、「金属」という用語は、2つ以上の金属の合金も含む。同様に、2種以上の金属の混合窒化物および混合炭化物、ならびにケイ素および/またはアルミニウムを有する金属の合金、混合窒化物または混合炭化物も含まれる。
【0033】
金属および金属炭化物は、製造に伴う少量の酸素を含有できる。酸素の含有量は、この事例では、好ましくは30重量%未満、特に好ましくは20重量%未満である。
【0034】
黒化層に含有される金属または黒化層に含有されるその酸化物もしくは窒化物は、好ましくは、遷移金属、特に好ましくは周期表のIVB、VBおよびVIB族から選択される。黒化層は、好ましくは、ハフニウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化ハフニウム、窒化バナジウム、窒化ニオブ、窒化タンタル、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウム、炭化ニオブ、炭化タンタル、炭化モリブデンおよび炭化タングステンまたはそれらの混合物もしくは合金からなる群からの少なくとも1種の金属、金属窒化物または金属炭化物を含有する。示されている材料の融点Tおよび比抵抗ρは、表1に要約されている(H.O.Pierson:Handbook of Refractory Carbides and Nitrides.Westwood:Noyes Publications、1996年も参照されたい。)。
【0035】
金属、金属窒化物および/または金属炭化物の融点は、好ましくは2200℃超、特に好ましくは2500℃超である。これは、黒化層の耐腐食性および耐酸化性に関して特に有利である。
【0036】
金属、金属窒化物および/または金属炭化物の比抵抗は、好ましくは200μオーム*cm未満である。これは、黒化層の透過率を低下させる作用に関して特に有利である。
【0037】
黒化層は、好ましくは、ハフニウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化ハフニウム、窒化ニオブ、窒化タンタル、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウム、炭化ニオブ、炭化タンタル、炭化モリブデンおよび炭化タングステン、またはそれらの混合物もしくは合金、またはケイ素もしくはアルミニウムを有するそれらの合金、混合窒化物もしくは混合炭化物からなる群からの少なくとも1種の金属、金属窒化物または金属炭化物を含有する。これは、融点が2200℃超の高さであるため、黒化層の耐腐食性に特に有利である。
【0038】
黒化層は、特に最も好ましくは、タンタル、モリブデン、タングステン、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化ハフニウム、窒化タンタル、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウム、炭化ニオブ、炭化タンタル、炭化モリブデンおよび炭化タングステン、またはそれらの混合物もしくは合金、またはケイ素もしくはアルミニウムを有するそれらの合金、混合窒化物もしくは混合炭化物からなる群からの少なくとも1種の金属、金属窒化物または金属炭化物を含有する。これは、融点が2500℃超の高さであるため、黒化層の耐腐食性に特に最も有利である。
【0039】
原則的に、窒化物および炭化物は、黒化層用の金属または合金に好ましい。そのような黒化層は、特に耐腐食性および耐酸化性ならびに耐損傷性であることが示されている。
【0040】
金属窒化物および金属炭化物は、窒素に対してまたは炭素に対して化学量論的、準化学量論的または超準化学量論的であってよい。
【0041】
【表1】
【0042】
機能層は、熱放射、特に赤外線放射を反射する性質を有するが、可視スペクトル領域の大部分が透過する。本発明によれば、機能層は、少なくとも1種の透明導電性酸化物(TCO)を含有する。機能層の材料の屈折率は、好ましくは1.7から2.3である。機能層は、好ましくは、少なくとも酸化インジウムスズ(ITO)を含有する。したがって、本発明によるコーティングの放射率および曲げ性に関して特に良好な結果が得られる。
【0043】
TCO、特にITOをベースとした機能層は、腐食の影響を受けず、結果として、板ガラスの内側表面への使用に特に適している。
【0044】
酸化インジウムスズは、好ましくは、酸化インジウムスズでできたターゲットを用いて、磁場印加型陰極スパッタリングを使用して堆積される。ターゲットは、好ましくは、75重量%から95重量%の酸化インジウムおよび5重量%から25重量%の酸化スズならびに製造に伴う混和物を含有する。酸化インジウムスズの堆積は、好ましくは、保護ガス、例えばアルゴン雰囲気下で行われる。保護ガスに少量の酸素を加えて、例えば、機能層の均一性も改善できる。
【0045】
別法として、ターゲットは、好ましくは、少なくとも75重量%から95重量%のインジウムおよび5重量%から25重量%のスズを含有することもできる。次いで、酸化インジウムスズの堆積は、好ましくは、陰極スパッタリング中に反応ガスとして酸素を添加しながら行われる。
【0046】
本発明による板ガラスの放射率は、機能層の厚さにより影響を受けることがある。機能層の厚さは、好ましくは40nmから200nm、特に好ましくは90nmから150nm、特に最も好ましくは100nmから140nm、例えば、おおよそ120nmである。この機能層の厚さの範囲で、放射率に特に有利な値、および機能層が損傷を受けずに機械的な変形、例えばベンディングまたはプレストレッシングに耐える、特に有利な能力が得られる。
【0047】
しかし、機能層は、他の透明導電性酸化物、例えば、フッ素ドープ酸化スズ(SnO:F)、アンチモンドープ酸化スズ(SnO:Sb)、インジウム/亜鉛混合酸化物(IZO)、ガリウムドープもしくはアルミニウムドープ酸化亜鉛、ニオブドープ酸化チタン、スズ酸カドミウムおよび/またはスズ酸亜鉛も含むことができる。
【0048】
熱放射反射コーティングは積層体であり、本発明によればこれは、少なくとも2つの誘電体層、すなわち下部誘電体層および上部誘電体層を含む。下部誘電体層は、機能層の下に配置され;上部誘電体層は、機能層の上に配置される。しかし、本発明によるコーティングは、1つまたは複数の追加の誘電体層(機能層の下および/または上に配置できる。)も含むことができる。
【0049】
誘電体層は、例えば、酸化ケイ素(SiO)、窒化ケイ素(Si)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)、スズ亜鉛混合酸化物(SnZnO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化タンタル(Ta)、酸化タングステン(WO)、酸化ニオブ(Nb)または酸化チタン(TiO)を含有でき、例えば、5nmから200nmの厚さを有する。
【0050】
黒化層は、原則的に、積層体のいかなる位置にも配置できる。黒化層は、例えば、機能層と隣接した誘電体層(機能層の上および/または下)との間に配置できる。黒化層は、例えば、最下部の誘電体層の下に配置できる。黒化層は、例えば、最上部の誘電体層の上に配置できる。黒化層は2つの隣接した誘電体層の間にも配置できる。
【0051】
本発明の好ましい実施形態において、下部誘電体層は接着剤層である。接着剤層は、基材における接着剤層の上に堆積させた層を耐久的に安定して接着させる。接着剤層は、基材がガラスでできている場合、機能層との境界領域において基材から拡散するイオン、特にナトリウムイオンの蓄積をさらに防ぐ。そのようなイオンは、腐食および機能層の接着の低下を引き起こし得る。接着剤層は、結果として、機能層の安定性に関して特に有利である。
【0052】
接着剤層は、好ましくは、少なくとも1種の酸化物または窒化物を含有する。接着剤層は、特に好ましくは、酸化ケイ素(SiO)または窒化ケイ素(Si)を含有する。これは、基材における接着剤層の上に堆積される層の接着に関して特に有利である。酸化ケイ素は、ドーパント、例えば、フッ素、炭素、窒素、ホウ素、リンおよび/またはアルミニウムを有し得る。酸化ケイ素または窒化ケイ素は、特に最も好ましくは、アルミニウムを用いてドープされる(SiO:Al、Si:Al)、ホウ素を用いてドープされる(SiO:B、Si:B)またはジルコニウムを用いてドープされる(SiO:Zr、Si:Zr)。これは、コーティングの光学的性質ならびに例えば、陰極スパッタリングによる接着剤層の適用速度に関して特に有利である。
【0053】
酸化ケイ素または窒化ケイ素は、好ましくは、少なくともケイ素を含有するターゲットを用いて、磁場印加型陰極スパッタリングを使用して堆積される。アルミニウムドープ酸化ケイ素または窒化ケイ素を含有する、接着剤層の堆積のターゲットは、好ましくは、80重量%から95重量%のケイ素および5重量%から20重量%のアルミニウムならびに製造に伴う混和物を含有する。ホウ素ドープ酸化ケイ素または窒化ケイ素を含有する接着剤層を堆積させるためのターゲットは、好ましくは、99.9990重量%から99.9999重量%のケイ素および0.0001重量%から0.001重量%のホウ素ならびに製造に伴う混和物を含有する。ジルコニウムドープ酸化ケイ素または窒化ケイ素を含有する、接着剤層を堆積させるためのターゲットは、好ましくは、60重量%から90重量%のケイ素および10重量%から40重量%のジルコニウムならびに製造に伴う混和物を含有する。堆積は、好ましくは、陰極スパッタリング中に、酸化ケイ素の事例では反応ガスとして酸素を添加しながら;窒化ケイ素の事例では反応ガスとして窒素を添加しながら行われる。
【0054】
接着剤層のドープにより、接着剤層の上に適用される層の平滑度も改善できる。自動車分野で本発明による板ガラスを使用する事例では、層の平滑度が高いと、この手段により、板ガラスの表面が不快な粗い質感になることを避けられるので、特に有利である。本発明による板ガラスが側窓の板ガラスである場合、シールリップに低摩擦で動作できる。
【0055】
しかし、接着剤層は、他の材料、例えば他の酸化物、例としてTiO、Al、Ta、Y、ZrO、HfO、WO、Nb、ZnO、SnOおよび/もしくはZnSnOまたは窒化物、例としてAlNも含有できる。
【0056】
接着剤層は、好ましくは、10nmから150nm、特に好ましくは15nmから50nm、例えば、おおよそ30nmの厚さを有する。これは、本発明によるコーティングの接着および基材から機能層へのイオン拡散の予防に関して特に有利である。
【0057】
本発明の好ましい実施形態において、上部誘電体層は、板ガラスの温度処理中に酸素の拡散を調節するためのバリア層である。したがって、機能層の酸素含有量は、バリア層によって影響を受け、調整でき、機能層の性質に明確に関係する。過剰に少ない酸素含有量および過剰に多い酸素含有量のいずれも、過剰に高いシート抵抗を引き起こし、したがって、過剰に高い放射率を引き起こす。さらに、過剰に少ない酸素含有量は、限局した、望ましくない色の発現を引き起こすことが多い。機能層の過剰に多い酸素含有量は、ベンディング中に、機能層が損傷を受けることを引き起こし、具体的には機能層内のひび割れとして現われる。
【0058】
バリア層の厚さは、好ましくは、5nmから50nm、特に好ましくは7nmから40nm、特に最も好ましくは10nmから30nmである。したがって、シート抵抗および曲げ性に関して特に良好な結果が得られる。さらに、これらの厚さを有するバリア層は、有利なことに、湿潤雰囲気による腐食からコーティングを保護する。
【0059】
バリア層の材料の屈折率は、好ましくは、機能層の材料の屈折率以上である。バリア層の材料の屈折率は、特に好ましくは、1.7から2.3である。したがって、コーティングの有利な光学的性質が、光を反射中に特に審美的な色彩の印象で得られる。
【0060】
バリア層は、好ましくは、少なくとも1種の酸化物および/または1種の窒化物を含有する。酸化物および/または窒化物は、化学量論的または非化学量論的であってよい。バリア層は、特に好ましくは、少なくとも窒化ケイ素(Si)を含有する。これは、機能層の酸化および板ガラスの光学的性質に対するバリア層の影響に関して特に有利である。窒化ケイ素は、ドーパント、例えばチタン、ジルコニウム、ホウ素、ハフニウムおよび/またはアルミニウムを有することができる。窒化ケイ素は、特に最も好ましくは、アルミニウムを用いてドープされる(Si:Al)またはジルコニウムを用いてドープされる(Si:Zr)またはホウ素を用いてドープされる(Si:B)。これは、コーティングの光学的性質、曲げ性、平滑度および放射率ならびに例えば、陰極スパッタリングによるバリア層の適用速度に関して特に有利である。
【0061】
窒化ケイ素は、好ましくは、少なくともケイ素を含有するターゲットを用いて、磁場印加型陰極スパッタリングを使用して堆積される。アルミニウムドープ窒化ケイ素を含有するバリア層を堆積させるためのターゲットは、好ましくは、ケイ素を80重量%から95重量%、アルミニウムを5重量%から20重量%ならびに製造に伴う混和物を含有する。ホウ素ドープ窒化ケイ素を含有するバリア層を堆積させるためのターゲットは、好ましくは、ケイ素を99.9990重量%から99.9999重量%およびホウ素を0.0001重量%から0.001重量%ならびに製造に伴う混和物を含有する。ジルコニウムドープ窒化ケイ素を含有するバリア層を堆積させるためのターゲットは、好ましくは、ケイ素を60重量%から90重量%およびジルコニウムを10重量%から40重量%ならびに製造に伴う混和物を含有する。窒化ケイ素の堆積は、好ましくは陰極スパッタリング中に窒素を反応ガスとして添加しながら行われる。
【0062】
本発明によるコーティングを適用した後での温度処理中に、窒化ケイ素は、部分的に酸化され得る。次いで、Siとして堆積されるバリア層は、温度処理後に、酸素含有量が典型的には0原子%から35原子%のSiを含有する。
【0063】
しかし、バリア層は、別法として、例えば、少なくともWO、Nb、Bi、TiOおよび/またはAlNも含有できる。
【0064】
本発明の好ましい実施形態において、誘電体反射防止層は、上部誘電体層の上に配置される。反射防止層は、本発明による板ガラスにおける可視スペクトル領域の反射を抑え、反射され透過される光を中間色の印象にする。反射防止層も、機能層の耐腐食性を改善する。反射防止層の材料は、好ましくは、機能層の材料の屈折率より低い屈折率を有する。反射防止層の材料の屈折率は、好ましくは1.8以下である。
【0065】
反射防止層は、好ましくは、少なくとも1種の酸化物を含有する。反射防止層は、特に好ましくは、二酸化ケイ素(SiO)を含有する。これは、板ガラスの光学的性質および機能層の耐腐食性に関して特に有利である。二酸化ケイ素は、ドーパント、例えば、フッ素、炭素、窒素、ホウ素、リンおよび/またはアルミニウムを有し得る。酸化ケイ素は、特に最も好ましくは、アルミニウムを用いてドープされる(SiO:Al)、ホウ素を用いてドープされる(SiO:B)またはジルコニウムを用いてドープされる(SiO:Zr)。
【0066】
しかし、反射防止層は、他の材料、例えば、他の酸化物、例としてAlも含有することができる。
【0067】
反射防止層は、好ましくは20nmから150nm、特に好ましくは40nmから100nmの厚さを有する。これは、反射の少なさおよび可視光線透過率の高さ、ならびに板ガラスの選択される色の印象設定および機能層の耐腐食性に関して特に有利である。
【0068】
特に有利な実施形態において、基材における熱放射反射コーティングは、少なくとも、
・下部誘電体層として1つの接着剤層、
・接着剤層の上に、1つの機能層、
・機能層の上に、上部誘電体層として、酸素の拡散を調節するための、1つのバリア層および
・バリア層の上に、1つの反射防止層を含む。
【0069】
黒化層は、好ましくは接着剤層の下(すなわち、基材と接着剤層との間)、接着剤層と機能層との間、機能層とバリア層との間および/またはバリア層と反射防止層との間に配置される。
【0070】
上部誘電体層の上(および、場合によって、反射防止層の上)に、カバー層が配置され得る。カバー層は、好ましくは、本発明によるコーティングの最上層である。カバー層は、損傷、特にひっかきから本発明によるコーティングを保護する。カバー層は、好ましくは、少なくとも1種の酸化物、特に好ましくは、少なくとも酸化チタン(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化ニオブ(Nb)、酸化タンタル(Ta)、酸化クロム(Cr)、酸化タングステン(WO)および/または酸化セリウム(CeO)を含有する。カバー層の厚さは、好ましくは2nmから50nm、特に好ましくは5nmから20nmである。したがって、耐ひっかき性に対して特に良好な結果が得られる。黒化層は、上部誘電体層とカバー層との間または反射防止層とカバー層との間にも配置できる。
【0071】
下部誘電体層の下に、好ましくは厚さ2nmから15nmの、追加の誘電体の接着促進層も配置できる。例えば、接着剤層は、SiOを含有でき、追加の接着促進層は、少なくとも1種の酸化物、例えばTiO、Al、Ta、Y、ZnOおよび/もしくはZnSnOまたは窒化物、例えばSiもしくはAlNも含有し得る。有利なことに、本発明によるコーティングの接着は、接着促進層によりさらに改善できる。その上、接着促進層により、明度および透過率または反射の調整を改善することが可能である。
【0072】
基材は、好ましくはガラス、特に好ましくは板ガラス、フロートガラス、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラスを含有し、またはプラスチック、好ましくは硬質プラスチック、特にポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリ塩化ビニルおよび/もしくはそれらの混合物を含有する。
【0073】
本発明の有利な実施形態において、基材は着色および/または色付けされる。本発明によるコーティングを有する着色または着色基材の組み合わせを経て、特に可視スペクトル領域の透過率が低下した熱放射反射板ガラスの改善が実現され得る。そのような板ガラスは、例えば、側窓、後部窓またはルーフパネルとして自動車分野に使用でき、審美的または熱的理由に望ましいことがある。透過率を低下させた熱放射反射コーティング(例えば、クロムベース)を有する透明な基材と比較して、存在するいかなる層の傷も、本発明による板ガラスでは、さほどひどくは目立たない。さらに、着色した基材を通した透過率は、本発明によるコーティングによってさらに低下するので、光線透過率がきわめて低い板ガラスが実現できる。基材は、好ましくは、40%未満、特に好ましくは20%未満、特に最も好ましくは15%未満、例えば、おおよそ10%の可視スペクトル領域の透過率を有する。しかし基材は、原則的に、例えば70%以上のより高い透過率を有することもできる。したがって、わずかな着色が、本発明によるコーティングによって達成される。
【0074】
特に有利な実施形態において、基材は、15%未満の可視スペクトル領域の透過率を有し、熱放射反射コーティングを有する板ガラスは、10%未満の透過率を有する。特に最も有利な実施形態において、基材は10%未満の可視スペクトル領域の透過率を有し、熱放射反射コーティングを有する板ガラスは7%未満、特に6%未満の透過率を有する。したがって、特に色が濃い板ガラスが実現できる。
【0075】
基材の厚さは幅広く変化させることができ、したがって、個々の事例の要件に理想的に適合できる。好ましくは、1.0mmから25mm、より好ましくは1.4mmから4.9mmの標準的な厚さを有する板ガラスが使用される。基材の大きさは幅広く変化させることができ、本発明による使用により決定される。基材は、例えば、自動車工学および建築学的分野において、200cm2から20m2まで幅広く慣例的な面積を有する。
【0076】
基材は、平坦であってもよく、または1つもしくは複数の空間方向に、わずかにもしくは大幅に曲がっていてもよい。平坦な板ガラスは、例えば、建築学的分野におけるグレイジング、またはバス、電車もしくはトラクターの広い面積に及ぶグレイジングにおいて見出される。曲がった板ガラスは、例えば、自動車分野におけるグレイジングでは、おおよそ10cmからおおよそ40mの範囲の典型的な曲率半径を有する。曲率半径は、板ガラス全体にわたって一定でなければならないことはない;大幅に曲がった、およびさほど大幅には曲がっていない領域が1つの板ガラスに存在してよい。本発明の詳細な利点は、平坦な基材が本発明によるコーティングを備えることができること、ならびに典型的には、例えば500℃から700℃の上昇温度で実行される下向きのベンディングプロセス中に、コーティングが損傷を受けないことである。原則的に、コーティングは、曲がった基材に適用することももちろんできる。基材の立体形状は、好ましくは、隠れた部分を有さないので、基材は、例えば陰極スパッタリングによりコーティングできる。
【0077】
本発明によるコーティングは、基材の表面に、その領域全体にわたって適用され得る。しかし、基材の表面は、コーティングがない領域を有することもできる。基材の表面は、例えば、周辺にコーティングがないエッジ領域および/またはデータ伝送窓もしくは情報伝送窓としての機能を果たすコーティングがない領域を有することができる。
【0078】
各事例において、基材は両面に、本発明による熱放射反射コーティングを適用することができる。
【0079】
本発明の有利な実施形態において、基材は、少なくとも1つの熱可塑性中間層を介してカバー板ガラスに結合させて、複合板ガラスを形成する。カバー板ガラスは、好ましくは、複合板ガラスの配置された位置における外側の環境に面し、一方基材は、内部に面するように意図される。本発明によるコーティングは、好ましくは、カバー板ガラスから離れるほうに面する基材の表面に配置されている。
【0080】
カバー板ガラスは、好ましくは、ガラス、特に好ましくは平板ガラス、フロートガラス、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラスを含有し、またはプラスチック、好ましくは硬質プラスチック、特にポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリ塩化ビニルおよび/またはそれらの混合物を含有する。カバー板ガラスは、好ましくは1.0mmから25mm、特に好ましくは1.4mmから4.9mmの厚さを有する。
【0081】
熱可塑性中間層は、好ましくは、熱可塑性プラスチック、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン酢酸ビニル(EVA)、ポリウレタン(PU)、ポリエチレンテレフタレート(PET)またはそれらの複数の層を含有し、好ましくは、厚さは0.3mmから0.9mmである。
【0082】
複合板ガラスは、有利な実施形態では、25%未満、好ましくは15%未満、特に好ましくは10%未満、特に最も好ましくは8%未満、特に6%未満の可視スペクトル領域の透過率を有する。基材、カバー板ガラスおよび/または熱可塑性中間層は、好ましくは着色および/または色付けされる。カバー板ガラスは、好ましくは40%未満の可視スペクトル領域の透過率を有する;熱可塑性中間層は、好ましくは20%から70%の透過率を有する。
【0083】
特に有利な実施形態において、本発明によるコーティングは、内部に面した基材の表面に適用され、基材は内部に面した複合板ガラスの板ガラスを構成する。太陽光保護コーティングは、カバー板ガラスに面する基材の表面、基材に面したカバー板ガラスの表面または熱可塑性中間層のキャリアフィルムにさらに適用される。太陽光保護コーティングは、そこで腐食および機械的損傷から有利に保護する。太陽光保護コーティングは、好ましくは、5nmから25nmの厚さを有する、銀または銀を含有する合金をベースとした少なくとも1つの金属層を含む。10nmから100nmの厚さを有する誘電体層により、互いに隔離された2つまたは3つの機能層を用いて、特に良好な結果が得られる。太陽光保護コーティングは、可視スペクトル領域、特に赤外スペクトル領域の外側である入射した日光の一部を反射する。太陽光保護コーティングによって、直射日光による内部の昇温が抑えられる。さらに、太陽光保護コーティングにより、太陽光保護コーティングの裏に配置されている複合板ガラスの部材の加熱、したがって、複合板ガラスにより放出される熱放射が抑えられる。太陽光保護コーティングと熱放射を反射するための本発明によるコーティングの組み合わせを経て、内部の熱的快適性は、さらに有利に改善される。
【0084】
基材は、例えば、スペーサを介して別の板ガラスに結合させて、断熱グレイジングユニットを形成することもできる。基材は、熱可塑性中間層および/またはスペーサを介して1つ超の他の板ガラスに結合させることもできる。
【0085】
本発明は、少なくとも、
(a)1つの下部誘電体層、
(b)少なくとも1種の透明導電性酸化物(TCO)を含有する、1つの機能層および
(c)1つの上部誘電体層
が基材に連続して適用され、その上、プロセスのステップ(a)の前、プロセスのステップ(a)と(b)との間、プロセスのステップ(b)と(c)との間および/またはプロセスのステップ(c)の後に、融点1900℃超および比抵抗500μオーム*cm未満の少なくとも1種の金属、1種の金属窒化物および/または1種の金属炭化物を含有する、少なくとも1つの黒化層が適用される、熱放射反射コーティングを有する板ガラスを製造する方法をさらに含む。
【0086】
好ましくは、反射防止層は、上部誘電体層の後で適用される。カバー層は、上部誘電体層および場合によって反射防止層の後で適用することができる。
【0087】
原則的に、黒化層は、各層の前および/または後で適用できる。1つまたは複数の黒化層さえも適用できる。
【0088】
個々の層は、公知の方法それ自体、好ましくは、磁場印加型陰極スパッタリングによりにより堆積される。これは、簡単、素早い、経済的および均一な基材のコーティングに関して特に有利である。陰極スパッタリングは、保護ガス、例えばアルゴン雰囲気中で、または例えば、酸素、炭化水素(例えばメタン)もしくは窒素の添加による反応性ガス雰囲気中で行われる。
【0089】
しかし、個々の層は、当業者に公知の他の方法、例えば、蒸着または化学蒸着(CVD)、原子層堆積(ALD)、プラズマ促進化学蒸着(PECVD)または湿式化学方法によっても適用できる。
【0090】
好ましくは熱放射反射コーティングの適用後、板ガラスに温度処理を施す。本発明によるコーティングを有する基材を、少なくとも200℃、特に好ましくは少なくとも300℃の温度に加熱した。機能層の結晶化度は、特に、温度処理により改善される。したがって、特に、熱放射に対する反射性質ならびに板ガラスの光学的性質は、著しく改善される。本発明による黒化層は、温度処理中に損傷を受けない。特に、黒化層は、温度処理中に、光線透過率の上昇を生じる程度までは酸化されない。
【0091】
本発明による方法の有利な実施形態において、温度処理は、ベンディングプロセス内で行われる。本発明によるコーティングを有する基材は、加熱した状態で、1つまたは複数の空間方向に曲げられる。基材が加熱される温度は、好ましくは500℃から700℃である。本発明による熱放射を反射するためのコーティングの詳細な利点は、損傷を与えることなく、コーティングにそのようなベンディングプロセスを施せるということである。本発明による黒化層は、ベンディングプロセス中に例えばひび割れによる損傷を受けない。
【0092】
もちろん、ベンディングプロセスの前後で、他の温度処理のステップを行うこともある。温度処理は、別法として、レーザー照射を使用して行うこともできる。
【0093】
有利な実施形態において、温度処理後、場合によって、ベンディングの後で、基材は、プレストレッシングまたは部分的なプレストレッシングを実施できる。このため、基材は、それ自体が公知の手段で適切に冷却される。プレストレッシングした基材は、典型的には、少なくとも69MPaの表面圧縮応力を有する。部分的にプレストレッシングした基材は、典型的には、24MPaから52MPaの表面圧縮応力を有する。プレストレッシングした基材は、例えば、自動車の側窓または後部窓の単一板ガラスによる安全ガラスとして適切である。
【0094】
本発明の有利な実施形態において、温度処理後ならびに場合によってベンディングプロセスおよび/またはプレストレッシングプロセス後、少なくとも1つの熱可塑性中間層を介して、基材をカバー板ガラスに結合させて、複合板ガラスを形成する。基材は、好ましくは複合材料中に、本発明によるコーティングを備えた表面が、熱可塑性中間層およびカバー板ガラスから外向きになるように配置される。
【0095】
本発明は、板ガラスまたは板ガラスの部品として、特に断熱グレイジングユニットまたは複合板ガラスの部品として、建物、特に入口もしくは窓部分の防火扉として、家具および装置、特に、例えば、オーブンのドアもしくは冷蔵庫のドアとして冷却または加熱機能を有する電子装置に組込み部品として、または陸上、空中もしくは水上の輸送手段、特に列車、船舶および自動車において、例えば、後部窓、側窓および/もしくはルーフパネルとして熱放射反射コーティングを有する本発明による板ガラスの使用をさらに含む。
【0096】
その上、本発明は、熱放射反射コーティングにおける、または本発明による熱放射反射コーティングを有する板ガラスにおける、可視スペクトル領域の透過率を低下させるための、本発明による黒化層の使用を含む。
【0097】
本発明は、図および例示的な実施形態を参照して、以下で詳細に説明される。図は、概略的な表現であり、縮尺通りではない。図は本発明を一切制約しない。
【0098】
これらは以下を図示する:
【図面の簡単な説明】
【0099】
図1】熱放射反射コーティングを有する、本発明による板ガラスの実施形態の断面を示す図である。
図2】熱放射反射コーティングを有する、本発明による板ガラスの別の実施形態の断面を示す図である。
図3】熱放射反射コーティングを有する、本発明による板ガラスの別の実施形態の断面を示す図である。
図4】熱放射反射コーティングを有する、本発明による板ガラスの別の実施形態の断面を示す図である。
図5】本発明による板ガラスを含む複合板ガラスの断面を示す図である。
図6】本発明による方法の実施形態の詳細なフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0100】
図1は、基材1および熱放射反射コーティング2(低Eコーティングとも呼ばれる。)を有する、本発明による板ガラスの実施形態の断面を描写する。基材1は、ソーダ石灰ガラスを含有し、2.9mmの厚さを有する。コーティング2は、下部誘電体層3、機能層4、黒化層10および上部機能層5を含む。層は、示されている順で基材1から距離をおいて配置されている。
【0101】
機能層4は酸化インジウムスズ(ITO)でできており、おおよそ100nmの厚さを有する。下部誘電体層3および上部誘電体層5は、当業者にそれ自体が公知の手段で構成でき、例えば、酸化ケイ素(SiO)または窒化ケイ素(Si)でできており、おおよそ100nmの厚さを有することがある。
【0102】
黒化層10は窒化チタン(TiN)でできており、おおよそ20nmの厚さを有する。黒化層10は、コーティング2の可視スペクトル領域の透過率を低下させる。
【0103】
黒化層10は、別法として、下部誘電体層3と機能層4との間または基材1と下部誘電体層3との間に配置することもできる。コーティング2は、別法として、複数の黒化層10を有することもできる。
【0104】
黒化層10によって、コーティング2の光線透過率は低下する。基材1が着色されている場合、コーティング2を通した光線透過率はさらに低下する。結果として、例えば、可視スペクトル領域の透過率10%未満のきわめて色が濃い板ガラスを実現することができる。そのような透過率の低い板ガラスは、そのように濃厚に着色されたガラスが典型的には市販されていないため、着色した基材だけで製造することが困難である。透明な基材における機能層(例えば、ニッケル、クロム、ジルコニウム、タンタルまたはニオブをベースとする。)を有する透過率を低下させたコーティングと対照的に、着色基材1に対する、本発明によるコーティング2の製造に伴う層の傷は、より低いコントラストを有する。結果として、層の傷は、見る人にはさほどひどくは目立たない。これらは本発明の重要な利点である。
【0105】
図2は、基材1および熱放射反射コーティング2を有する、本発明による板ガラスの別の実施形態の断面を描写する。基材1は、図1のように構成される。コーティング2は、下部誘電体層3、黒化層10、機能層4、上部の機能層5および反射防止層6を含む。層は示されている順番で基材1から距離をおいて配置されている。
【0106】
下部誘電体層3は、アルミニウムドープ二酸化ケイ素(SiO:Al)でできている接着剤層であり、おおよそ30nmの厚さを有する。機能層4は、酸化インジウムスズ(ITO)でできており、おおよそ120nmの厚さを有する。上部誘電体層5は、板ガラスの温度処理中に、酸素拡散を調節するためのバリア層である。バリア層5は、アルミニウムドープ窒化ケイ素(Si:Al)でできており、おおよそ10nmの厚さを有する。反射防止層6は、アルミニウムドープ二酸化ケイ素(SiO:Al)でできており、おおよそ40nmの厚さを有する。
【0107】
下部誘電体層3と機能層4との間の黒化層10は、窒化チタン(TiN)でできており、おおよそ20nmの厚さを有する。黒化層10は、コーティング2の可視スペクトル領域の透過率を低下させる。
【0108】
黒化層10は、別法として、異なる位置、例えば、機能層4と上部誘電体層5との間、上部誘電体層5と反射防止層6との間または基材1と下部誘電体層3との間に適用できる。コーティング2は、別法として、複数の黒化層10も有することができる。
【0109】
図3は、基材1および熱放射反射コーティング2を有する、本発明による板ガラスの別の実施形態の断面を描写する。コーティング2は、図2のように、下部誘電体層3(接着剤層)、機能層4、上部誘電体層5(バリア層)および反射防止層6を含む。層3、4、5および6は、図2のように構成される。その上コーティング2は、反射防止層6の上にカバー層7を含む。カバー層7は、例えば、TaまたはTiOを含有し、10nmの厚さを有する。カバー層は、機械的な損傷、特にひっかきからコーティング2を有利に保護する。
【0110】
コーティング2は、3つの黒化層10をさらに含む。第1の黒化層10は、基材1と下部誘電体層3との間に配置されている。第2の黒化層10は下部誘電体層3と機能層4との間に配置されている。第3の黒化層10は機能層4と上部誘電体層5との間に配置されている。黒化層10はTiNでできており、10nmと15nmとの間の厚さを有する。本発明10による3つの黒化層10によって、光線透過率は、過剰に厚い黒化層10によって有利な光学的性質が失われることなく、単一の黒化層10より大幅に低下する。
【0111】
図4は、熱放射反射コーティング2を有する、本発明による板ガラスの断面を描写する。板ガラスは、自動車の側窓として意図されている。基材1は、3.15mmの厚さを有する。基材1は着色したソーダ石灰ガラスでできており、おおよそ14%の可視スペクトル領域の透過率を有する。板ガラスは、自動車分野における側窓の慣例のように、熱的にプレストレッシングを受け、曲げられている。
【0112】
コーティング2は、基材1の内側表面に適用される。そこでは、車両内部の熱的快適性に関するコーティング2の有利な効果は特に顕著である。コーティング2は、板ガラスを介した、特に赤外領域の日光入射の一部を反射する。その上、温かい板ガラスから車両内部の方向へと放出される熱放射は、コーティング2の放射率が低いため、少なくとも部分的に抑制される。したがって、内部は夏でもさほど激しく加熱されない。冬には、内部から生じる熱放射は反射される。結果として、冷たい板ガラスは、不快な放熱板としてさほど激しく作用しない。さらに、エアコンシステムに必要な暖房性能を抑えることができ、著しい省エネルギーにつながる。
【0113】
コーティング2は、好ましくは、基材1のベンディング前に平坦な基材1に適用される。平坦基材へのコーティングは、曲がった基材へのコーティングよりも技術的に著しく簡単である。次いで基材1は、典型的には温度500℃から700℃、例えば、640℃へと加熱される。一方で、温度処理は、基材1を曲げるために必要である。他方、コーティング2の放射率は、普通は温度処理により改善される。バリア層として組み入れられた上部誘電体層5は、温度処理中に、機能層4の酸化度に影響を与える。機能層4の酸素含有量は、コーティング2にベンディングプロセスを施すことができる温度処理後に、十分に低い。酸素含有量が過剰に高いと、ベンディング中に機能層4に損傷が生じ得るであろう。一方、放射率が低いための温度処理後に、機能層4の酸素含有量は、十分に高い。
【0114】
コーティング2は、図2のように構成される。板ガラスを通る光線透過率は、黒化層10によりさらに低下する。したがって、コーティング2を有する板ガラスは、10%未満の可視スペクトル領域の透過率を有する。そのような色が濃い(後部)側窓は、熱的および/または審美的理由から望ましいことがある。本発明による黒化層10は、損傷を受けずに温度処理およびベンディングプロセスに耐えるその耐腐食性および耐酸化性のため、適切である。
【0115】
図5は、複合板ガラスの一部として熱放射反射コーティング2を有する本発明による板ガラスの断面を描写する。基材1は、熱可塑性中間層9を介してカバー板ガラス8に結合させる。複合板ガラスは、自動車用のルーフパネルとして意図される。複合板ガラスは、自動車分野の板ガラスの慣例通りに曲げられる。複合板ガラスの配置された位置において、カバー板ガラス8は、外側環境に面し、基材1は車両内部に面する。カバー板ガラス8および熱可塑性中間層9から離れるほうに面する基材1の内側表面は、本発明によるコーティング2を備える。基材1およびカバー板ガラス8は、ソーダ石灰ガラスでできており、各事例で2.1mmの厚さを有する。熱可塑性中間層9は、ポリビニルブチラール(PVB)を含有し、0.76mmの厚さを有する。
【0116】
基材1、カバー板ガラス8および熱可塑性中間層9は着色される。コーティング2によって、光線透過率はさらに低下する。したがって、きわめて色が濃い複合板ガラスが実現できる。
【0117】
図6は、熱放射反射コーティング2を有する板ガラスを製造するための、本発明による方法の模範的な実施形態のフローチャートを描写する。
【実施例】
【0118】
熱放射反射コーティング2を有する板ガラスを、本発明により製造した。使用される材料を伴う正確な層配列および実施例1から8の層の厚さは表2および表3で提示されている。基材1は、着色したソーダ石灰ガラスでできており、25%の可視スペクトル領域の透過率を有していた。黒化層10は窒化チタンを含有していた。窒化チタンは(固体ベースで)2950℃の融点および20μオーム*cmの比抵抗を有していた。この実施例は、黒化層10の数および厚さならびに位置で異なる。
【0119】
すべての例において、基材1は、最初は平坦であり、陰極スパッタリングによって本発明によるコーティング2を施した。次いで、コーティング2を有する基材1に、10分間にわたり640℃で温度処理を施し、プロセス中で曲げ、おおよそ30cmの曲率半径とした。
【0120】
【表2】
【0121】
【表3】
【0122】
試験用板ガラスの観察は表6に要約されている。Rスクエアは、コーティング2のシート抵抗である。Tは、可視光線に対する板ガラスの透過率を示す。Rは、可視光線に対する板ガラスの反射率を示す。Aは、可視光線に対する板ガラスの吸収を示す。コーティングの光学的条件は、特に、くもり(「かすみ」)ならびにひび割れによって影響を受ける。
【0123】
黒化層10を有する、本発明によるコーティング2によって、板ガラスの透過率は、さらに低下する。板ガラスのベンディング中における温度処理は、シート抵抗の低下を生じさせ、したがって、放射率を低下させる。黒化層10は酸化されず、透過率Tを著しく上昇させるであろう。ベンディングプロセスもコーティングを損傷しないので、すべての事例において層の光学的条件は良好である。
【0124】
比較例
比較例は、本発明による実施例とは熱放射反射コーティング2で異なる。コーティングは、実施例のように、下部誘電体層3、機能層4、上部誘電体層5および反射防止層6を含んでいた。しかし、コーティングは、本発明による黒化層10を含んでいなかった。その代わりに、各コーティングは、本発明に従った黒化層の要件を満たしていない材料でできている2つの層を有していた(対応する融点Tおよび特定の導電性ρが要約されている表5を参照されたい。)。
【0125】
使用される材料を有する正確な層配列ならびに比較例1から3の層の厚さは表4に提示されている。試験用板ガラスの観察は表6に要約されている。
【0126】
【表4】
【0127】
【表5】
【0128】
【表6】
【0129】
NiCr、TiまたはNiCrNでできている、本発明によるものではない黒化層は、ベンディングプロセスを伴う温度処理により損傷を受けるので、コーティングの光学的条件は、すべての事例において、自動車分野の利用者には許容できないものであった。さらに、特にTiでできている吸収層は十分に酸化耐性ではないので、吸収層は温度処理後に透過率Tが著しく上昇した。
【0130】
表6から、黒化層10の厚さにより、透過率が特に影響を受けることがさらに認められる。これにより、黒化層10の厚さに関して好ましい範囲が得られる。
【0131】
本発明による黒化層10によって、熱放射反射コーティングの透過率の低下が達成される。黒化層10は、十分に耐腐食性および耐酸化性であり、損傷を受けずに温度処理およびベンディングプロセスに耐える。この結果は、当業者には想定外であり驚くべきものであった。
【符号の説明】
【0132】
参照符号リスト:
(1)基材
(2)熱放射反射コーティング
(3)下部誘電体層
(4)機能層
(5)上部誘電体層
(6)反射防止層
(7)カバー層
(8)カバー板ガラス
(9)熱可塑性中間層
(10)黒化層
図1
図2
図3
図4
図5
図6