【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、請求項1に記載の熱放射反射コーティングを有する板ガラスにより、本発明に従って達成される。好ましい実施形態は、従属クレームに表わされる。
【0012】
本発明による熱放射反射コーティングを有する板ガラスは、基材および基材の少なくとも一方の表面上の少なくとも1つの熱放射反射コーティングを含み、コーティングが、基材の側から、少なくとも、
・1つの下部誘電体層、
・少なくとも1種の透明導電性酸化物を含有する、1つの機能層および
・1つの上部誘電体層
を含み、少なくとも1つの黒化層が、下部誘電体層の下、下部誘電体層と機能層との間、機能層と上部誘電体層との間および/または上部誘電体層の上に配置されており、
黒化層が、融点1900℃超および比抵抗500μオーム*cm未満の少なくとも1種の金属、1種の金属窒化物および/または1種の金属炭化物を含有する。
【0013】
本発明による熱放射反射コーティングは、積層体であり、少なくとも以下の個々の層:
・1つの下部誘電体層、
・下部誘電体層の上に、少なくとも1種の透明導電性酸化物(TCO)を含有する1つの機能層および
・機能層の上に、1つの上部誘電体層
を示されている順で基材の側から含む。その上、コーティングは、本発明による少なくとも1つの黒化層を含む。
【0014】
第1の層が第2の層の上に配置されている場合、これは、本発明の文脈において、第1の層が第2の層よりも基材から離れて配置されていることを意味する。第1の層が第2の層の下に配置されている場合、これは、本発明の文脈において、第2の層が第1の層よりも基材から離れて配置されていることを意味する。
【0015】
第1の層が第2の層の上または下に配置されている場合、これは、本発明の文脈において、第1および第2の層が、互いに直接接触する状態にあることを必ずしも意味しない。明白に除外されない限り、第1と第2の層との間に、1つまたは複数の追加層を配置することができる。
【0016】
コーティングの最上層は、本発明の文脈において、基材から最も距離が離れた層である。コーティングの最下層は、本発明の文脈において、基材から最も距離が短い層である。
【0017】
比抵抗に対して示される値は、温度20℃で測定される。屈折率に対して示される値は、波長550nmで測定される。
【0018】
当業者は、例えば、表またはデータシートにおいて融点および比抵抗に対して示される値を理解できる。典型的には、そこで示される値は、固体に対するものである。薄膜の事例では、融点および比抵抗は、そこから逸脱することがある。それでもなお、固体に対する表形式の値は、本発明による黒化層に対して適切な材料を選択するための適正な基準を当業者に示す。本文脈においては、融点および比抵抗に対して示される値を理解しなければならない。
【0019】
層または別の部材が少なくとも1つの材料を含有する場合、これは、本発明の文脈において、層がその材料でできている事例を含む。
【0020】
本発明による、黒化層の金属、金属窒化物および/または金属炭化物は、低い比抵抗を有するので、明らかな導電性である。そのような導電性の黒化層によって、熱放射反射コーティングの可視スペクトル領域の透過率は、特に吸収および/または反射により低下する。黒化層は、もちろん他のスペクトル領域、例えば、赤外領域の透過率も低下させることができる。透過率のレベルは、黒化層の数および厚さならびに材料により調整できる。したがって、特に、本発明によるコーティングが着色板ガラスに使用される場合、きわめて色が濃い板ガラスさえも実現できる。これは、本発明の重要な利点である。
【0021】
本発明による、黒化層の金属、金属窒化物および/または金属炭化物は、高い融点も有する。そのような黒化層は、有利なことに、耐腐食性および耐酸化性である。結果として、コーティングした板ガラスは、コーティングが損傷を受ける(例えば、黒化層におけるひび割れにより)ことなく、または光線透過率に関しても、黒化層の酸化により再度上昇することなく、温度処理、ベンディングプロセスおよび/またはプレストレッシングプロセスを施すことさえできる。これは、本発明の別の重要な利点である。
【0022】
例えば、本発明による板ガラスは、好ましくは、自動車または建物の入口に供給され、外部環境から内部を隔離する。本発明によるコーティングは、好ましくは、板ガラスが設置された位置において、内部を向くように意図された基材の表面に配置される。これは、内部の熱的快適性に関して特に有利である。板ガラスが設置された位置において、内部を向くように意図された表面は、本発明の文脈において、内側表面と呼ばれる。本発明によるコーティングは、外部温度が高く日光が強い事例では、板ガラス全体により内部方向に放射される熱放射を、特に効率的に、少なくとも部分的に反射することができる。外側の温度が低い事例では、本発明によるコーティングは、内部から放射される熱放射を効率的に反射するので、冷たい板ガラスの放熱板としての作用を抑えることができる。
【0023】
本発明による板ガラスの内側放射率は、好ましくは、35%以下、特に好ましくは25%以下、特に最も好ましくは20%以下である。ここでは、「内側放射率」という用語は、例えば、建物または自動車の板ガラスが、設置された位置において内部空間へと発する熱放射の量を、理想的な熱放射体(黒体)と比較して示す測定値を指す。本発明の文脈において、「放射率」は、標準規格EN12898に従う283Kの通常の放出レベルを意味する。
【0024】
本発明による板ガラスは、有利な実施形態において、25%未満、好ましくは15%未満、特に好ましくは10%未満、特に最も好ましくは8%未満、特に6%未満の可視スペクトル領域の透過率を有する。本発明は、透過率10%未満の板ガラスに特に有利である。そのような板ガラスは、そのような濃厚に着色された基材が典型的には市販されていないため、着色した基材だけで実現することが困難である。そのような透過率の低い板ガラスは、特に自動車の側窓、後部窓、ルーフパネルとして、または建物にも望ましいものであり得る。
【0025】
日光からの全エネルギー入力に関する、本発明による板ガラスの透過率の値は、好ましくは50%未満、特に好ましくは40%未満、特に最も好ましくは30%未満である。この値もTTS値(「全透過日光」)として当業者に公知である。
【0026】
本発明によるコーティングのシート抵抗は、好ましくは10オーム/スクエアから50オーム/スクエア、特に好ましくは15オーム/スクエアから30オーム/スクエアである。
【0027】
熱放射反射コーティングは、本発明によれば、少なくとも1つの黒化層を含む。コーティングは、複数の黒化層、例えば2つ、3つまたは4つの黒化層も含むことができ、これは、光学的または機械的な理由で望ましいことがある。
【0028】
有利な実施形態において、コーティングは、本発明による1つまたは2つの黒化層を含有する。これは、コーティングの簡単な製造に関して特に有利である。
【0029】
黒化層または複数の黒化層は、例えば、下部誘電体層の下、下部誘電体層と機能層との間、機能層と上部誘電体層との間および/または上部誘電体層の上に配置できる。
【0030】
特に有利な実施形態において、黒化層は、下部誘電体層と機能層との間および/または機能層と上部誘電体層との間に配置される。好ましくは、この事例では、黒化層は機能層と直接接触する。驚くべきことに、そのような熱放射反射コーティングは、温度処理、ベンディングプロセスおよびプレストレッシングプロセスに耐えることに特に適しており、損傷を受けないことが示された。
【0031】
黒化層は、好ましくは、2nmから50nm、特に好ましくは5nmから40nm、特に最も好ましくは10nmから30nmの厚さを有する。これは、透過率を低下させる作用ならびに黒化層の耐腐食性および曲げ性に関して特に有利である。
【0032】
黒化層は、本発明によれば、少なくとも1種の金属、1種の金属窒化物および/または1種の金属炭化物を含有する。ここでは、本発明の文脈において、「金属」という用語は、2つ以上の金属の合金も含む。同様に、2種以上の金属の混合窒化物および混合炭化物、ならびにケイ素および/またはアルミニウムを有する金属の合金、混合窒化物または混合炭化物も含まれる。
【0033】
金属および金属炭化物は、製造に伴う少量の酸素を含有できる。酸素の含有量は、この事例では、好ましくは30重量%未満、特に好ましくは20重量%未満である。
【0034】
黒化層に含有される金属または黒化層に含有されるその酸化物もしくは窒化物は、好ましくは、遷移金属、特に好ましくは周期表のIVB、VBおよびVIB族から選択される。黒化層は、好ましくは、ハフニウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化ハフニウム、窒化バナジウム、窒化ニオブ、窒化タンタル、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウム、炭化ニオブ、炭化タンタル、炭化モリブデンおよび炭化タングステンまたはそれらの混合物もしくは合金からなる群からの少なくとも1種の金属、金属窒化物または金属炭化物を含有する。示されている材料の融点T
Sおよび比抵抗ρは、表1に要約されている(H.O.Pierson:Handbook of Refractory Carbides and Nitrides.Westwood:Noyes Publications、1996年も参照されたい。)。
【0035】
金属、金属窒化物および/または金属炭化物の融点は、好ましくは2200℃超、特に好ましくは2500℃超である。これは、黒化層の耐腐食性および耐酸化性に関して特に有利である。
【0036】
金属、金属窒化物および/または金属炭化物の比抵抗は、好ましくは200μオーム*cm未満である。これは、黒化層の透過率を低下させる作用に関して特に有利である。
【0037】
黒化層は、好ましくは、ハフニウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化ハフニウム、窒化ニオブ、窒化タンタル、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウム、炭化ニオブ、炭化タンタル、炭化モリブデンおよび炭化タングステン、またはそれらの混合物もしくは合金、またはケイ素もしくはアルミニウムを有するそれらの合金、混合窒化物もしくは混合炭化物からなる群からの少なくとも1種の金属、金属窒化物または金属炭化物を含有する。これは、融点が2200℃超の高さであるため、黒化層の耐腐食性に特に有利である。
【0038】
黒化層は、特に最も好ましくは、タンタル、モリブデン、タングステン、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化ハフニウム、窒化タンタル、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウム、炭化ニオブ、炭化タンタル、炭化モリブデンおよび炭化タングステン、またはそれらの混合物もしくは合金、またはケイ素もしくはアルミニウムを有するそれらの合金、混合窒化物もしくは混合炭化物からなる群からの少なくとも1種の金属、金属窒化物または金属炭化物を含有する。これは、融点が2500℃超の高さであるため、黒化層の耐腐食性に特に最も有利である。
【0039】
原則的に、窒化物および炭化物は、黒化層用の金属または合金に好ましい。そのような黒化層は、特に耐腐食性および耐酸化性ならびに耐損傷性であることが示されている。
【0040】
金属窒化物および金属炭化物は、窒素に対してまたは炭素に対して化学量論的、準化学量論的または超準化学量論的であってよい。
【0041】
【表1】
【0042】
機能層は、熱放射、特に赤外線放射を反射する性質を有するが、可視スペクトル領域の大部分が透過する。本発明によれば、機能層は、少なくとも1種の透明導電性酸化物(TCO)を含有する。機能層の材料の屈折率は、好ましくは1.7から2.3である。機能層は、好ましくは、少なくとも酸化インジウムスズ(ITO)を含有する。したがって、本発明によるコーティングの放射率および曲げ性に関して特に良好な結果が得られる。
【0043】
TCO、特にITOをベースとした機能層は、腐食の影響を受けず、結果として、板ガラスの内側表面への使用に特に適している。
【0044】
酸化インジウムスズは、好ましくは、酸化インジウムスズでできたターゲットを用いて、磁場印加型陰極スパッタリングを使用して堆積される。ターゲットは、好ましくは、75重量%から95重量%の酸化インジウムおよび5重量%から25重量%の酸化スズならびに製造に伴う混和物を含有する。酸化インジウムスズの堆積は、好ましくは、保護ガス、例えばアルゴン雰囲気下で行われる。保護ガスに少量の酸素を加えて、例えば、機能層の均一性も改善できる。
【0045】
別法として、ターゲットは、好ましくは、少なくとも75重量%から95重量%のインジウムおよび5重量%から25重量%のスズを含有することもできる。次いで、酸化インジウムスズの堆積は、好ましくは、陰極スパッタリング中に反応ガスとして酸素を添加しながら行われる。
【0046】
本発明による板ガラスの放射率は、機能層の厚さにより影響を受けることがある。機能層の厚さは、好ましくは40nmから200nm、特に好ましくは90nmから150nm、特に最も好ましくは100nmから140nm、例えば、おおよそ120nmである。この機能層の厚さの範囲で、放射率に特に有利な値、および機能層が損傷を受けずに機械的な変形、例えばベンディングまたはプレストレッシングに耐える、特に有利な能力が得られる。
【0047】
しかし、機能層は、他の透明導電性酸化物、例えば、フッ素ドープ酸化スズ(SnO
2:F)、アンチモンドープ酸化スズ(SnO
2:Sb)、インジウム/亜鉛混合酸化物(IZO)、ガリウムドープもしくはアルミニウムドープ酸化亜鉛、ニオブドープ酸化チタン、スズ酸カドミウムおよび/またはスズ酸亜鉛も含むことができる。
【0048】
熱放射反射コーティングは積層体であり、本発明によればこれは、少なくとも2つの誘電体層、すなわち下部誘電体層および上部誘電体層を含む。下部誘電体層は、機能層の下に配置され;上部誘電体層は、機能層の上に配置される。しかし、本発明によるコーティングは、1つまたは複数の追加の誘電体層(機能層の下および/または上に配置できる。)も含むことができる。
【0049】
誘電体層は、例えば、酸化ケイ素(SiO
2)、窒化ケイ素(Si
3N
4)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO
2)、スズ亜鉛混合酸化物(SnZnO
x)、酸化ジルコニウム(ZrO
2)、酸化ハフニウム(HfO
2)、酸化タンタル(Ta
2O
5)、酸化タングステン(WO
3)、酸化ニオブ(Nb
2O
5)または酸化チタン(TiO
2)を含有でき、例えば、5nmから200nmの厚さを有する。
【0050】
黒化層は、原則的に、積層体のいかなる位置にも配置できる。黒化層は、例えば、機能層と隣接した誘電体層(機能層の上および/または下)との間に配置できる。黒化層は、例えば、最下部の誘電体層の下に配置できる。黒化層は、例えば、最上部の誘電体層の上に配置できる。黒化層は2つの隣接した誘電体層の間にも配置できる。
【0051】
本発明の好ましい実施形態において、下部誘電体層は接着剤層である。接着剤層は、基材における接着剤層の上に堆積させた層を耐久的に安定して接着させる。接着剤層は、基材がガラスでできている場合、機能層との境界領域において基材から拡散するイオン、特にナトリウムイオンの蓄積をさらに防ぐ。そのようなイオンは、腐食および機能層の接着の低下を引き起こし得る。接着剤層は、結果として、機能層の安定性に関して特に有利である。
【0052】
接着剤層は、好ましくは、少なくとも1種の酸化物または窒化物を含有する。接着剤層は、特に好ましくは、酸化ケイ素(SiO
2)または窒化ケイ素(Si
3N
4)を含有する。これは、基材における接着剤層の上に堆積される層の接着に関して特に有利である。酸化ケイ素は、ドーパント、例えば、フッ素、炭素、窒素、ホウ素、リンおよび/またはアルミニウムを有し得る。酸化ケイ素または窒化ケイ素は、特に最も好ましくは、アルミニウムを用いてドープされる(SiO
2:Al、Si
3N
4:Al)、ホウ素を用いてドープされる(SiO
2:B、Si
3N
4:B)またはジルコニウムを用いてドープされる(SiO
2:Zr、Si
3N
4:Zr)。これは、コーティングの光学的性質ならびに例えば、陰極スパッタリングによる接着剤層の適用速度に関して特に有利である。
【0053】
酸化ケイ素または窒化ケイ素は、好ましくは、少なくともケイ素を含有するターゲットを用いて、磁場印加型陰極スパッタリングを使用して堆積される。アルミニウムドープ酸化ケイ素または窒化ケイ素を含有する、接着剤層の堆積のターゲットは、好ましくは、80重量%から95重量%のケイ素および5重量%から20重量%のアルミニウムならびに製造に伴う混和物を含有する。ホウ素ドープ酸化ケイ素または窒化ケイ素を含有する接着剤層を堆積させるためのターゲットは、好ましくは、99.9990重量%から99.9999重量%のケイ素および0.0001重量%から0.001重量%のホウ素ならびに製造に伴う混和物を含有する。ジルコニウムドープ酸化ケイ素または窒化ケイ素を含有する、接着剤層を堆積させるためのターゲットは、好ましくは、60重量%から90重量%のケイ素および10重量%から40重量%のジルコニウムならびに製造に伴う混和物を含有する。堆積は、好ましくは、陰極スパッタリング中に、酸化ケイ素の事例では反応ガスとして酸素を添加しながら;窒化ケイ素の事例では反応ガスとして窒素を添加しながら行われる。
【0054】
接着剤層のドープにより、接着剤層の上に適用される層の平滑度も改善できる。自動車分野で本発明による板ガラスを使用する事例では、層の平滑度が高いと、この手段により、板ガラスの表面が不快な粗い質感になることを避けられるので、特に有利である。本発明による板ガラスが側窓の板ガラスである場合、シールリップに低摩擦で動作できる。
【0055】
しかし、接着剤層は、他の材料、例えば他の酸化物、例としてTiO
2、Al
2O
3、Ta
2O
5、Y
2O
3、ZrO
2、HfO
2、WO
3、Nb
2O
5、ZnO、SnO
2および/もしくはZnSnO
xまたは窒化物、例としてAlNも含有できる。
【0056】
接着剤層は、好ましくは、10nmから150nm、特に好ましくは15nmから50nm、例えば、おおよそ30nmの厚さを有する。これは、本発明によるコーティングの接着および基材から機能層へのイオン拡散の予防に関して特に有利である。
【0057】
本発明の好ましい実施形態において、上部誘電体層は、板ガラスの温度処理中に酸素の拡散を調節するためのバリア層である。したがって、機能層の酸素含有量は、バリア層によって影響を受け、調整でき、機能層の性質に明確に関係する。過剰に少ない酸素含有量および過剰に多い酸素含有量のいずれも、過剰に高いシート抵抗を引き起こし、したがって、過剰に高い放射率を引き起こす。さらに、過剰に少ない酸素含有量は、限局した、望ましくない色の発現を引き起こすことが多い。機能層の過剰に多い酸素含有量は、ベンディング中に、機能層が損傷を受けることを引き起こし、具体的には機能層内のひび割れとして現われる。
【0058】
バリア層の厚さは、好ましくは、5nmから50nm、特に好ましくは7nmから40nm、特に最も好ましくは10nmから30nmである。したがって、シート抵抗および曲げ性に関して特に良好な結果が得られる。さらに、これらの厚さを有するバリア層は、有利なことに、湿潤雰囲気による腐食からコーティングを保護する。
【0059】
バリア層の材料の屈折率は、好ましくは、機能層の材料の屈折率以上である。バリア層の材料の屈折率は、特に好ましくは、1.7から2.3である。したがって、コーティングの有利な光学的性質が、光を反射中に特に審美的な色彩の印象で得られる。
【0060】
バリア層は、好ましくは、少なくとも1種の酸化物および/または1種の窒化物を含有する。酸化物および/または窒化物は、化学量論的または非化学量論的であってよい。バリア層は、特に好ましくは、少なくとも窒化ケイ素(Si
3N
4)を含有する。これは、機能層の酸化および板ガラスの光学的性質に対するバリア層の影響に関して特に有利である。窒化ケイ素は、ドーパント、例えばチタン、ジルコニウム、ホウ素、ハフニウムおよび/またはアルミニウムを有することができる。窒化ケイ素は、特に最も好ましくは、アルミニウムを用いてドープされる(Si
3N
4:Al)またはジルコニウムを用いてドープされる(Si
3N
4:Zr)またはホウ素を用いてドープされる(Si
3N
4:B)。これは、コーティングの光学的性質、曲げ性、平滑度および放射率ならびに例えば、陰極スパッタリングによるバリア層の適用速度に関して特に有利である。
【0061】
窒化ケイ素は、好ましくは、少なくともケイ素を含有するターゲットを用いて、磁場印加型陰極スパッタリングを使用して堆積される。アルミニウムドープ窒化ケイ素を含有するバリア層を堆積させるためのターゲットは、好ましくは、ケイ素を80重量%から95重量%、アルミニウムを5重量%から20重量%ならびに製造に伴う混和物を含有する。ホウ素ドープ窒化ケイ素を含有するバリア層を堆積させるためのターゲットは、好ましくは、ケイ素を99.9990重量%から99.9999重量%およびホウ素を0.0001重量%から0.001重量%ならびに製造に伴う混和物を含有する。ジルコニウムドープ窒化ケイ素を含有するバリア層を堆積させるためのターゲットは、好ましくは、ケイ素を60重量%から90重量%およびジルコニウムを10重量%から40重量%ならびに製造に伴う混和物を含有する。窒化ケイ素の堆積は、好ましくは陰極スパッタリング中に窒素を反応ガスとして添加しながら行われる。
【0062】
本発明によるコーティングを適用した後での温度処理中に、窒化ケイ素は、部分的に酸化され得る。次いで、Si
3N
4として堆積されるバリア層は、温度処理後に、酸素含有量が典型的には0原子%から35原子%のSi
xN
yO
zを含有する。
【0063】
しかし、バリア層は、別法として、例えば、少なくともWO
3、Nb
2O
5、Bi
2O
3、TiO
2および/またはAlNも含有できる。
【0064】
本発明の好ましい実施形態において、誘電体反射防止層は、上部誘電体層の上に配置される。反射防止層は、本発明による板ガラスにおける可視スペクトル領域の反射を抑え、反射され透過される光を中間色の印象にする。反射防止層も、機能層の耐腐食性を改善する。反射防止層の材料は、好ましくは、機能層の材料の屈折率より低い屈折率を有する。反射防止層の材料の屈折率は、好ましくは1.8以下である。
【0065】
反射防止層は、好ましくは、少なくとも1種の酸化物を含有する。反射防止層は、特に好ましくは、二酸化ケイ素(SiO
2)を含有する。これは、板ガラスの光学的性質および機能層の耐腐食性に関して特に有利である。二酸化ケイ素は、ドーパント、例えば、フッ素、炭素、窒素、ホウ素、リンおよび/またはアルミニウムを有し得る。酸化ケイ素は、特に最も好ましくは、アルミニウムを用いてドープされる(SiO
2:Al)、ホウ素を用いてドープされる(SiO
2:B)またはジルコニウムを用いてドープされる(SiO
2:Zr)。
【0066】
しかし、反射防止層は、他の材料、例えば、他の酸化物、例としてAl
2O
3も含有することができる。
【0067】
反射防止層は、好ましくは20nmから150nm、特に好ましくは40nmから100nmの厚さを有する。これは、反射の少なさおよび可視光線透過率の高さ、ならびに板ガラスの選択される色の印象設定および機能層の耐腐食性に関して特に有利である。
【0068】
特に有利な実施形態において、基材における熱放射反射コーティングは、少なくとも、
・下部誘電体層として1つの接着剤層、
・接着剤層の上に、1つの機能層、
・機能層の上に、上部誘電体層として、酸素の拡散を調節するための、1つのバリア層および
・バリア層の上に、1つの反射防止層を含む。
【0069】
黒化層は、好ましくは接着剤層の下(すなわち、基材と接着剤層との間)、接着剤層と機能層との間、機能層とバリア層との間および/またはバリア層と反射防止層との間に配置される。
【0070】
上部誘電体層の上(および、場合によって、反射防止層の上)に、カバー層が配置され得る。カバー層は、好ましくは、本発明によるコーティングの最上層である。カバー層は、損傷、特にひっかきから本発明によるコーティングを保護する。カバー層は、好ましくは、少なくとも1種の酸化物、特に好ましくは、少なくとも酸化チタン(TiO
2)、酸化ジルコニウム(ZrO
2)、酸化ハフニウム(HfO
2)、酸化ニオブ(Nb
2O
5)、酸化タンタル(Ta
2O
5)、酸化クロム(Cr
2O
3)、酸化タングステン(WO
3)および/または酸化セリウム(CeO
2)を含有する。カバー層の厚さは、好ましくは2nmから50nm、特に好ましくは5nmから20nmである。したがって、耐ひっかき性に対して特に良好な結果が得られる。黒化層は、上部誘電体層とカバー層との間または反射防止層とカバー層との間にも配置できる。
【0071】
下部誘電体層の下に、好ましくは厚さ2nmから15nmの、追加の誘電体の接着促進層も配置できる。例えば、接着剤層は、SiO
2を含有でき、追加の接着促進層は、少なくとも1種の酸化物、例えばTiO
2、Al
2O
3、Ta
2O
5、Y
2O
3、ZnOおよび/もしくはZnSnO
xまたは窒化物、例えばSi
3N
4もしくはAlNも含有し得る。有利なことに、本発明によるコーティングの接着は、接着促進層によりさらに改善できる。その上、接着促進層により、明度および透過率または反射の調整を改善することが可能である。
【0072】
基材は、好ましくはガラス、特に好ましくは板ガラス、フロートガラス、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラスを含有し、またはプラスチック、好ましくは硬質プラスチック、特にポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリ塩化ビニルおよび/もしくはそれらの混合物を含有する。
【0073】
本発明の有利な実施形態において、基材は着色および/または色付けされる。本発明によるコーティングを有する着色または着色基材の組み合わせを経て、特に可視スペクトル領域の透過率が低下した熱放射反射板ガラスの改善が実現され得る。そのような板ガラスは、例えば、側窓、後部窓またはルーフパネルとして自動車分野に使用でき、審美的または熱的理由に望ましいことがある。透過率を低下させた熱放射反射コーティング(例えば、クロムベース)を有する透明な基材と比較して、存在するいかなる層の傷も、本発明による板ガラスでは、さほどひどくは目立たない。さらに、着色した基材を通した透過率は、本発明によるコーティングによってさらに低下するので、光線透過率がきわめて低い板ガラスが実現できる。基材は、好ましくは、40%未満、特に好ましくは20%未満、特に最も好ましくは15%未満、例えば、おおよそ10%の可視スペクトル領域の透過率を有する。しかし基材は、原則的に、例えば70%以上のより高い透過率を有することもできる。したがって、わずかな着色が、本発明によるコーティングによって達成される。
【0074】
特に有利な実施形態において、基材は、15%未満の可視スペクトル領域の透過率を有し、熱放射反射コーティングを有する板ガラスは、10%未満の透過率を有する。特に最も有利な実施形態において、基材は10%未満の可視スペクトル領域の透過率を有し、熱放射反射コーティングを有する板ガラスは7%未満、特に6%未満の透過率を有する。したがって、特に色が濃い板ガラスが実現できる。
【0075】
基材の厚さは幅広く変化させることができ、したがって、個々の事例の要件に理想的に適合できる。好ましくは、1.0mmから25mm、より好ましくは1.4mmから4.9mmの標準的な厚さを有する板ガラスが使用される。基材の大きさは幅広く変化させることができ、本発明による使用により決定される。基材は、例えば、自動車工学および建築学的分野において、200cm2から20m2まで幅広く慣例的な面積を有する。
【0076】
基材は、平坦であってもよく、または1つもしくは複数の空間方向に、わずかにもしくは大幅に曲がっていてもよい。平坦な板ガラスは、例えば、建築学的分野におけるグレイジング、またはバス、電車もしくはトラクターの広い面積に及ぶグレイジングにおいて見出される。曲がった板ガラスは、例えば、自動車分野におけるグレイジングでは、おおよそ10cmからおおよそ40mの範囲の典型的な曲率半径を有する。曲率半径は、板ガラス全体にわたって一定でなければならないことはない;大幅に曲がった、およびさほど大幅には曲がっていない領域が1つの板ガラスに存在してよい。本発明の詳細な利点は、平坦な基材が本発明によるコーティングを備えることができること、ならびに典型的には、例えば500℃から700℃の上昇温度で実行される下向きのベンディングプロセス中に、コーティングが損傷を受けないことである。原則的に、コーティングは、曲がった基材に適用することももちろんできる。基材の立体形状は、好ましくは、隠れた部分を有さないので、基材は、例えば陰極スパッタリングによりコーティングできる。
【0077】
本発明によるコーティングは、基材の表面に、その領域全体にわたって適用され得る。しかし、基材の表面は、コーティングがない領域を有することもできる。基材の表面は、例えば、周辺にコーティングがないエッジ領域および/またはデータ伝送窓もしくは情報伝送窓としての機能を果たすコーティングがない領域を有することができる。
【0078】
各事例において、基材は両面に、本発明による熱放射反射コーティングを適用することができる。
【0079】
本発明の有利な実施形態において、基材は、少なくとも1つの熱可塑性中間層を介してカバー板ガラスに結合させて、複合板ガラスを形成する。カバー板ガラスは、好ましくは、複合板ガラスの配置された位置における外側の環境に面し、一方基材は、内部に面するように意図される。本発明によるコーティングは、好ましくは、カバー板ガラスから離れるほうに面する基材の表面に配置されている。
【0080】
カバー板ガラスは、好ましくは、ガラス、特に好ましくは平板ガラス、フロートガラス、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラスを含有し、またはプラスチック、好ましくは硬質プラスチック、特にポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリ塩化ビニルおよび/またはそれらの混合物を含有する。カバー板ガラスは、好ましくは1.0mmから25mm、特に好ましくは1.4mmから4.9mmの厚さを有する。
【0081】
熱可塑性中間層は、好ましくは、熱可塑性プラスチック、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン酢酸ビニル(EVA)、ポリウレタン(PU)、ポリエチレンテレフタレート(PET)またはそれらの複数の層を含有し、好ましくは、厚さは0.3mmから0.9mmである。
【0082】
複合板ガラスは、有利な実施形態では、25%未満、好ましくは15%未満、特に好ましくは10%未満、特に最も好ましくは8%未満、特に6%未満の可視スペクトル領域の透過率を有する。基材、カバー板ガラスおよび/または熱可塑性中間層は、好ましくは着色および/または色付けされる。カバー板ガラスは、好ましくは40%未満の可視スペクトル領域の透過率を有する;熱可塑性中間層は、好ましくは20%から70%の透過率を有する。
【0083】
特に有利な実施形態において、本発明によるコーティングは、内部に面した基材の表面に適用され、基材は内部に面した複合板ガラスの板ガラスを構成する。太陽光保護コーティングは、カバー板ガラスに面する基材の表面、基材に面したカバー板ガラスの表面または熱可塑性中間層のキャリアフィルムにさらに適用される。太陽光保護コーティングは、そこで腐食および機械的損傷から有利に保護する。太陽光保護コーティングは、好ましくは、5nmから25nmの厚さを有する、銀または銀を含有する合金をベースとした少なくとも1つの金属層を含む。10nmから100nmの厚さを有する誘電体層により、互いに隔離された2つまたは3つの機能層を用いて、特に良好な結果が得られる。太陽光保護コーティングは、可視スペクトル領域、特に赤外スペクトル領域の外側である入射した日光の一部を反射する。太陽光保護コーティングによって、直射日光による内部の昇温が抑えられる。さらに、太陽光保護コーティングにより、太陽光保護コーティングの裏に配置されている複合板ガラスの部材の加熱、したがって、複合板ガラスにより放出される熱放射が抑えられる。太陽光保護コーティングと熱放射を反射するための本発明によるコーティングの組み合わせを経て、内部の熱的快適性は、さらに有利に改善される。
【0084】
基材は、例えば、スペーサを介して別の板ガラスに結合させて、断熱グレイジングユニットを形成することもできる。基材は、熱可塑性中間層および/またはスペーサを介して1つ超の他の板ガラスに結合させることもできる。
【0085】
本発明は、少なくとも、
(a)1つの下部誘電体層、
(b)少なくとも1種の透明導電性酸化物(TCO)を含有する、1つの機能層および
(c)1つの上部誘電体層
が基材に連続して適用され、その上、プロセスのステップ(a)の前、プロセスのステップ(a)と(b)との間、プロセスのステップ(b)と(c)との間および/またはプロセスのステップ(c)の後に、融点1900℃超および比抵抗500μオーム*cm未満の少なくとも1種の金属、1種の金属窒化物および/または1種の金属炭化物を含有する、少なくとも1つの黒化層が適用される、熱放射反射コーティングを有する板ガラスを製造する方法をさらに含む。
【0086】
好ましくは、反射防止層は、上部誘電体層の後で適用される。カバー層は、上部誘電体層および場合によって反射防止層の後で適用することができる。
【0087】
原則的に、黒化層は、各層の前および/または後で適用できる。1つまたは複数の黒化層さえも適用できる。
【0088】
個々の層は、公知の方法それ自体、好ましくは、磁場印加型陰極スパッタリングによりにより堆積される。これは、簡単、素早い、経済的および均一な基材のコーティングに関して特に有利である。陰極スパッタリングは、保護ガス、例えばアルゴン雰囲気中で、または例えば、酸素、炭化水素(例えばメタン)もしくは窒素の添加による反応性ガス雰囲気中で行われる。
【0089】
しかし、個々の層は、当業者に公知の他の方法、例えば、蒸着または化学蒸着(CVD)、原子層堆積(ALD)、プラズマ促進化学蒸着(PECVD)または湿式化学方法によっても適用できる。
【0090】
好ましくは熱放射反射コーティングの適用後、板ガラスに温度処理を施す。本発明によるコーティングを有する基材を、少なくとも200℃、特に好ましくは少なくとも300℃の温度に加熱した。機能層の結晶化度は、特に、温度処理により改善される。したがって、特に、熱放射に対する反射性質ならびに板ガラスの光学的性質は、著しく改善される。本発明による黒化層は、温度処理中に損傷を受けない。特に、黒化層は、温度処理中に、光線透過率の上昇を生じる程度までは酸化されない。
【0091】
本発明による方法の有利な実施形態において、温度処理は、ベンディングプロセス内で行われる。本発明によるコーティングを有する基材は、加熱した状態で、1つまたは複数の空間方向に曲げられる。基材が加熱される温度は、好ましくは500℃から700℃である。本発明による熱放射を反射するためのコーティングの詳細な利点は、損傷を与えることなく、コーティングにそのようなベンディングプロセスを施せるということである。本発明による黒化層は、ベンディングプロセス中に例えばひび割れによる損傷を受けない。
【0092】
もちろん、ベンディングプロセスの前後で、他の温度処理のステップを行うこともある。温度処理は、別法として、レーザー照射を使用して行うこともできる。
【0093】
有利な実施形態において、温度処理後、場合によって、ベンディングの後で、基材は、プレストレッシングまたは部分的なプレストレッシングを実施できる。このため、基材は、それ自体が公知の手段で適切に冷却される。プレストレッシングした基材は、典型的には、少なくとも69MPaの表面圧縮応力を有する。部分的にプレストレッシングした基材は、典型的には、24MPaから52MPaの表面圧縮応力を有する。プレストレッシングした基材は、例えば、自動車の側窓または後部窓の単一板ガラスによる安全ガラスとして適切である。
【0094】
本発明の有利な実施形態において、温度処理後ならびに場合によってベンディングプロセスおよび/またはプレストレッシングプロセス後、少なくとも1つの熱可塑性中間層を介して、基材をカバー板ガラスに結合させて、複合板ガラスを形成する。基材は、好ましくは複合材料中に、本発明によるコーティングを備えた表面が、熱可塑性中間層およびカバー板ガラスから外向きになるように配置される。
【0095】
本発明は、板ガラスまたは板ガラスの部品として、特に断熱グレイジングユニットまたは複合板ガラスの部品として、建物、特に入口もしくは窓部分の防火扉として、家具および装置、特に、例えば、オーブンのドアもしくは冷蔵庫のドアとして冷却または加熱機能を有する電子装置に組込み部品として、または陸上、空中もしくは水上の輸送手段、特に列車、船舶および自動車において、例えば、後部窓、側窓および/もしくはルーフパネルとして熱放射反射コーティングを有する本発明による板ガラスの使用をさらに含む。
【0096】
その上、本発明は、熱放射反射コーティングにおける、または本発明による熱放射反射コーティングを有する板ガラスにおける、可視スペクトル領域の透過率を低下させるための、本発明による黒化層の使用を含む。
【0097】
本発明は、図および例示的な実施形態を参照して、以下で詳細に説明される。図は、概略的な表現であり、縮尺通りではない。図は本発明を一切制約しない。
【0098】
これらは以下を図示する: