(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
球状内周面に複数のトラック溝が形成された外側継手部材と、球状外周面に前記外側継手部材のトラック溝と対をなす複数のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝との間に介在してトルクを伝達する複数のボールと、前記外側継手部材の球状内周面と内側継手部材の球状外周面との間に介在してボールを保持する保持器とを備え、前記外側継手部材と内側継手部材の各トラック溝が、継手中心に対して軸方向にオフセットのない曲率中心をもつ円弧状のボール軌道中心線を有し、このボール軌道中心線と前記継手中心を含む平面を継手の軸線に対して周方向に傾斜させ、この傾斜方向を、対になる前記外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝とで相反させた等速自在継手の外側継手部材の鍛造方法であって、
前記鍛造方法は、軸部とこの軸部の一端に形成された筒状部とを有する前記外側継手部材の前素材の前記筒状部の内周面に拡縮可能なパンチセットを嵌合させた状態で、前記筒状部をダイスの孔に圧入してしごき成形するもので、
前記パンチセットは、少なくとも複数のパンチと、このパンチを進退可能に案内するパンチベースを備え、
前記各パンチには、隣り合うトラック溝を成形する一対の成形面が形成されていることを特徴とする等速自在継手の外側継手部材の鍛造方法。
前記パンチセットは、前記パンチと前記パンチベースに加えて傘パンチを備えていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の等速自在継手の外側継手部材の鍛造方法。
前記パンチと前記パンチベースがパンチホルダに収容案内され、前記パンチの前進行程長さが、前記パンチベースの前進行程長さより長いことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の等速自在継手の外側継手部材の鍛造方法。
前記前素材の筒状部の内周面には、奥側の軸方向略半分に周方向に傾斜した円弧状の略仕上げ形状のトラック溝面と、開口側の軸方向略半分に周方向に傾斜しない直線状の予備形状のトラック溝面とが形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の等速自在継手の外側継手部材の鍛造方法。
前記前素材の筒状部の外周面に、部分的に突出する突状部が形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の等速自在継手の外側継手部材の鍛造方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態に係る鍛造方法に基づいて製造された外側継手部材が組み込まれた等速自在継手の一例およびその構成部材を
図1〜6に示し、本発明の実施の形態に係る外側継手部材の鍛造方法を
図7〜19に示す。まず、等速自在継手の一例およびその構成部材を
図1〜6に基づいて説明する。
【0024】
図1(a)は等速自在継手の部分縦断面図であり、
図1(b)は
図1(a)の右側面図である。等速自在継手1は、固定式等速自在継手であり、外側継手部材2、内側継手部材3、トルクを伝達するボール4および保持器5を主な構成とする。
図1(b)および
図2(a)〜
図3(c)に示すように、外側継手部材2および内側継手部材3のそれぞれ8本のトラック溝7、9は、継手の軸線N−Nに対して周方向に傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合うトラック溝7A、7Bおよび9A、9Bで互いに反対方向に形成されている。そして、外側継手部材2および内側継手部材3の対となるトラック溝7A、9Aおよび7B、9Bはそれぞれ互いに反対方向(相反)に傾斜し、その各交差部に8個のボール4が配置されている。トラック溝7、9の詳細は後述する。
【0025】
継手の縦断面を
図1(a)に示す。軸方向に延びるトラック溝の傾斜状態や湾曲状態などの形態、形状を的確に示すために、本明細書では、ボール軌道中心線という用語を用いて説明する。ここで、ボール軌道中心線とは、トラック溝に配置されたボールがトラック溝に沿って移動するときのボールの中心が描く軌跡を意味する。したがって、トラック溝の傾斜状態は、ボール軌道中心線の傾斜状態と同じであり、また、トラック溝の円弧状、あるいは直線状の状態は、ボール軌道中心線の円弧状、あるいは直線状の状態と同じである。
【0026】
図1(a)に示すように、外側継手部材2のトラック溝7はボール軌道中心線Xを有し、トラック溝7は、継手中心Oを曲率中心とする円弧状のボール軌道中心線Xaを有する第1のトラック溝部7aと、直線状のボール軌道中心線Xbを有する第2のトラック溝部7bとからなり、第1のトラック溝部7aのボール軌道中心線Xaに第2のトラック溝部7bのボール軌道中心線Xbが接線として滑らかに接続されている。一方、内側継手部材3のトラック溝9はボール軌道中心線Yを有し、トラック溝9は、継手中心Oを曲率中心とする円弧状のボール軌道中心線Yaを有する第1のトラック溝部9aと、直線状のボール軌道中心線Ybを有する第2のトラック溝部9bとからなり、第1のトラック溝部9aのボール軌道中心線Yaに第2のトラック溝部9bのボール軌道中心線Ybが接線として滑らかに接続されている。
【0027】
第1のトラック溝部7a、9aのボール軌道中心線Xa、Yaの各曲率中心を、継手中心O、すなわち継手の軸線N−N上に配置したことにより、トラック溝深さを均一にすることができ、かつ加工を容易にすることができる。トラック溝7、9の横断面形状は、楕円形状やゴシックアーチ形状に形成されており、トラック溝7、9とボール4は、接触角(30°〜45°程度)をもって接触する、所謂、アンギュラコンタクトとなっている。したがって、ボール4は、トラック溝7、9の溝底より少し離れたトラック溝7、9の側面側で接触している。
【0028】
図2に基づき、外側継手部材2のトラック溝7が継手の軸線N−Nに対して周方向に傾斜している状態を詳細に説明する。
図2(a)は外側継手部材2の部分縦断面を示し、
図2(b)は外側継手部材2の右側面を示す。外側継手部材2のトラック溝7は、その傾斜方向の違いから、トラック溝7A、7Bの符号を付す。
図2(a)に示すように、トラック溝7Aのボール軌道中心線Xと継手中心Oを含む平面Mは、継手の軸線N−Nに対して周方向に角度γだけ傾斜している。そして、トラック溝7Aに周方向に隣り合うトラック溝7Bは、図示は省略するが、トラック溝7Bのボール軌道中心線Xと継手中心Oを含む平面Mが、継手の軸線N−Nに対して、トラック溝7Aの傾斜方向とは反対方向に角度γだけ傾斜している。この例では、トラック溝7Aのボール軌道中心線Xの全域、すなわち、第1のトラック溝部7aのボール軌道中心線Xaおよび第2のトラック溝部7bのボール軌道中心線Xbの両方が平面M上に形成されている。しかし、これに限られるものではなく、第1のトラック溝部7aのボール軌道中心線Xaのみが平面Mに含まれている形態も実施することができる。したがって、少なくとも第1のトラック溝部7aのボール軌道中心線Xaと継手中心Oを含む平面Mが継手の軸線N−Nに対して周方向に傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合う第1のトラック溝部7aで互いに反対方向に形成されていればよい。
【0029】
ここで、トラック溝の符号について補足する。外側継手部材2のトラック溝全体を指す場合は符号7を付し、その第1のトラック溝部に符号7a、第2のトラック溝部に符号7bを付す。さらに、傾斜方向の違うトラック溝を区別する場合には符号7A、7Bを付し、それぞれの第1のトラック溝部に符号7Aa、7Ba、第2のトラック溝部に符号7Ab、7Bbを付す。後述する内側継手部材3のトラック溝についても、同様の要領で符号を付している。
【0030】
次に、
図3に基づき、内側継手部材3のトラック溝9が継手の軸線N−Nに対して周方向に傾斜している状態を詳細に説明する。
図3(b)は内側継手部材3の外周面を示し、
図3(a)は内側継手部材3の左側面を、
図3(c)は右側面を示す。内側継手部材3のトラック溝9は、その傾斜方向の違いから、トラック溝9A、9Bの符号を付す。
図3(b)に示すように、トラック溝9Aのボール軌道中心線Yと継手中心Oを含む平面Qは、継手の軸線N−Nに対して周方向に角度γだけ傾斜している。そして、トラック溝9Aに周方向に隣り合うトラック溝9Bは、図示は省略するが、トラック溝9Bのボール軌道中心線Yと継手中心Oを含む平面Qが、継手の軸線N−Nに対して、トラック溝9Aの傾斜方向とは反対方向に角度γだけ傾斜している。傾斜角γは、等速自在継手1の作動性および内側継手部材3のトラック溝の最も接近した側の球面幅Fを考慮し、4°〜12°にすることが好ましい。また、前述した外側継手部材と同様、この例では、トラック溝9Aのボール軌道中心線Yの全域、すなわち、第1のトラック溝部9aのボール軌道中心線Yaおよび第2のトラック溝部9bのボール軌道中心線Ybの両方が平面Q上に形成されている。しかし、これに限られるものではなく、第1のトラック溝部9aのボール軌道中心線Yaのみが平面Qに含まれている形態も実施することができる。したがって、少なくとも第1のトラック溝部9aのボール軌道中心線Yaと継手中心Oを含む平面Qが継手の軸線N−Nに対して周方向に傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合う第1のトラック溝部9aで互いに反対方向に形成されていればよい。内側継手部材3のトラック溝9のボール軌道中心線Yは、作動角0°の状態で継手中心Oを含み、継手の軸線N−Nに対して垂直な平面Pを基準として、外側継手部材2の対となるトラック溝7のボール軌道中心線Xと鏡像対称に形成されている。
【0031】
図4に基づいて、外側継手部材2の縦断面より見たトラック溝の詳細を説明する。
図4の部分縦断面は、前述した
図2(a)のトラック溝7Aのボール軌道中心線Xと継手中心Oを含む平面Mで見た断面図である。したがって、厳密には、継手の軸線N−Nを含む平面における縦断面図ではなく、角度γだけ傾斜した断面を示している。
図4には、外側継手部材2のトラック溝7Aが示されているが、トラック溝7Bは、傾斜方向がトラック溝7Aとは反対方向であるだけで、その他の構成はトラック溝7Aと同じであるので、説明は省略する。外側継手部材2の球状内周面6にはトラック溝7Aが概ね軸方向に沿って形成されている。トラック溝7Aはボール軌道中心線Xを有し、トラック溝7Aは、継手中心Oを曲率中心(軸方向のオフセットがない)とする円弧状のボール軌道中心線Xaを有する第1のトラック溝部7Aaと、直線状のボール軌道中心線Xbを有する第2のトラック溝部7Abとからなる。そして、第1のトラック溝部7Aaのボール軌道中心線Xaの開口側の端部Aにおいて、第2のトラック溝部7Abの直線状のボール軌道中心線Xbが接線として滑らかに接続されている。すなわち、端部Aが第1のトラック溝部7Aaと第2のトラック溝7Abとの接続点である。端部Aは継手中心Oよりも開口側に位置するので、第1のトラック溝部7Aaのボール軌道中心線Xaの開口側の端部Aにおいて接線として接続される第2のトラック溝部7Abの直線状のボール軌道中心線Xbは、開口側に行くにつれて継手の軸線N−N(
図1(a)参照)に接近するように形成されている。これにより、最大作動角時の有効トラック長さを確保すると共にくさび角が過大になるのを抑制することができる。
【0032】
図4に示すように、端部Aと継手中心Oとを結ぶ直線をLとする。トラック溝7Aのボール軌道中心線Xと継手中心Oを含む平面M(
図2(a)参照)上に投影された継手の軸線N’−N’は継手の軸線N−Nに対しγだけ傾斜し、軸線N’−N’の継手中心Oにおける垂線Kと直線Lとがなす角度をβ’とする。上記の垂線Kは作動角0°の状態の継手中心Oを含む平面P上にある。したがって、直線Lが作動角0°の状態の継手中心Oを含む平面Pに対してなす角度βは、sinβ=sinβ’×cosγの関係になる。
【0033】
同様に、
図5に基づいて、内側継手部材3の縦断面よりトラック溝の詳細を説明する。
図5の縦断面は、前述した
図3(b)のトラック溝9Aのボール軌道中心線Yと継手中心Oを含む平面Qで見た断面図である。したがって、
図4と同様に、厳密には、継手の軸線N−Nを含む平面における縦断面図ではなく、角度γだけ傾斜した断面を示している。
図5には、内側継手部材3のトラック溝9Aが示されているが、トラック溝9Bは、傾斜方向がトラック溝9Aとは反対方向であるだけで、その他の構成はトラック溝9Aと同じであるので、説明は省略する。内側継手部材3の球状外周面8にはトラック溝9Aが概ね軸方向に沿って形成されている。トラック溝9Aはボール軌道中心線Yを有し、トラック溝9Aは、継手中心Oを曲率中心(軸方向のオフセットがない)とする円弧状のボール軌道中心線Yaを有する第1のトラック溝部9Aaと、直線状のボール軌道中心線Ybを有する第2のトラック溝部9Abとからなる。そして、第1のトラック溝部9Aaのボール軌道中心線Yaの奥側の端部Bにおいて、第2のトラック溝部9Abのボール軌道中心線Ybが接線として滑らかに接続されている。すなわち、端部Bが第1のトラック溝部9Aaと第2のトラック溝9Abとの接続点である。端部Bは継手中心Oよりも奥側に位置するので、第1のトラック溝部9Aaのボール軌道中心線Yaの奥側の端部Bにおいて接線として接続される第2のトラック溝部9Abの直線状のボール軌道中心線Ybは、奥側に行くにつれて継手の軸線N−N(
図1(a)参照)に接近するように形成されている。これにより、最大作動角時の有効トラック長さを確保すると共にくさび角が過大になるのを抑制することができる。
【0034】
図5に示すように、端部Bと継手中心Oとを結ぶ直線をRとする。トラック溝9Aのボール軌道中心線Yと継手中心Oを含む平面Q(
図3(b)参照)上に投影された継手の軸線N’−N’は継手の軸線N−Nに対しγだけ傾斜し、軸線N’−N’の継手中心Oにおける垂線Kと直線Rとがなす角度をβ’とする。上記の垂線Kは作動角0°の状態の継手中心Oを含む平面P上にある。したがって、直線Rが作動角0°の状態の継手中心Oを含む平面Pに対してなす角度βは、sinβ=sinβ’×cosγの関係になる。
【0035】
次に、直線L、Rが作動角0°の状態の継手中心Oを含む平面Pに対してなす角度βについて説明する。作動角θを取ったとき、外側継手部材2および内側継手部材3の継手中心Oを含む平面Pに対して、ボール4がθ/2だけ移動する。使用頻度が多い作動角の1/2より角度βを決め、使用頻度が多い作動角の範囲においてボール4が接触するトラック溝の範囲を決める。ここで、使用頻度が多い作動角について定義する。まず、継手の常用角とは、水平で平坦な路面上で1名乗車時の自動車において、ステアリングを直進状態にした時にフロント用ドライブシャフトの固定式等速自在継手に生じる作動角をいう。常用角は、通常、2°〜15°の間で車種ごとの設計条件に応じて選択・決定される。そして、使用頻度の多い作動角とは、上記の自動車が、例えば、交差点の右折・左折時などに生じる高作動角ではなく、連続走行する曲線道路などで固定式等速自在継手に生じる作動角をいい、これも車種ごとの設計条件に応じて決定される。使用頻度の多い作動角は最大20°を目処とする。これにより、直線L、Rが作動角0°の状態の継手中心Oを含む平面Pに対してなす角度βを3°〜10°と設定する。ただし、角度βは3°〜10°に限定されるものではなく、車種の設計条件に応じて適宜設定することができる。角度βを3°〜10°に設定することで種々の車種に汎用することができる。
【0036】
上記の角度βにより、
図4において、第1のトラック溝部7Aaのボール軌道中心線Xaの端部Aは、使用頻度が多い作動角時に軸方向に沿って最も開口側に移動したときのボールの中心位置となる。同様に、内側継手部材3では、
図5において、第1のトラック溝部9Aaのボール軌道中心線Yaの端部Bは、使用頻度が多い作動角時に軸方向に沿って最も奥側に移動したときのボールの中心位置となる。このように設定されているので、使用頻度が多い作動角の範囲では、ボール4は、外側継手部材2および内側継手部材3の第1のトラック溝部7Aa、9Aaと、傾斜方向が反対の7Ba、9Ba〔
図2(a)、
図3(b)参照〕に位置するので、保持器5の周方向に隣り合うポケット部5aにボール4から相反する方向の力が作用し、保持器5は継手中心Oの位置で安定する〔
図1(a)参照〕。このため、保持器5の球状外周面12と外側継手部材2の球状内周面6との接触力、および保持器5の球状内周面13と内側継手部材3の球状外周面8との接触力が抑制され、高負荷時や高速回転時に継手が円滑に作動し、トルク損失や発熱が抑えられ、耐久性が向上する。
【0037】
等速自在継手1においては、保持器5のポケット部5aとボール4との嵌め合いをすきま設定にしてもよい。この場合、前記すきまは0〜40μm程度に設定することが好ましい。すきま設定にすることにより、保持器5のポケット部5aに保持されたボール4をスムーズに作動させることができ、更なるトルク損失の低減を図ることができる。
【0038】
等速自在継手1が最大作動角を取った状態を
図6に示す。外側継手部材2のトラック溝7Aは、直線状のボール軌道中心線Xbを有する第2のトラック溝部7Abが開口側に形成されている。コンパクト設計の中で、この第2のトラック溝部7Abの存在により、最大作動角時における有効トラック長さを確保すると共にくさび角が過大になるのを抑制することができる。そのため、図示のように、最大作動角θmaxを47°程度の高角にしても、必要十分な入口チャンファ10を設けた状態でボール4がトラック溝7Abと接触状態を確保することができ、かつ、くさび角が大きくならないように抑えることができる。
【0039】
尚、高作動角の範囲では、周方向に配置されたボール4が第1のトラック溝部7Aa、9Aa〔7Ba、9Ba、
図2(a)および
図3(b)参照〕と第2のトラック溝部7Ab、9Ab〔7Bb、9Bb、
図2(a)および
図3(b)参照〕に一時的に分かれて位置する。これに伴い、保持器5の各ポケット部5aにボール4から作用する力が釣り合わず、保持器5と外側継手部材2との球面接触部12、6および保持器5と内側継手部材3との球面接触部13、8の接触力が発生するが、高作動角の範囲は使用頻度が少ないため、この等速自在継手1は、総合的にみるとトルク損失や発熱を抑制できる。したがって、トルク損失および発熱が少なく高効率で、高作動角を取ることができ、高作動角時の強度や耐久性にも優れたコンパクトな固定式等速自在継手を実現することができる。
【0040】
前述した等速自在継手の一例では、第2のトラック溝部7b、9bのボール軌道中心線Xb、Ybが直線状に形成されたものを例示したが、これに限られず、第2のトラック溝部のボール軌道中心線を比較的大きな曲率半径を有する凹円弧状あるいは凸円弧状に形成したものでもよい。この場合でも、最大作動角時における有効トラック長さを確保すると共に、くさび角が過大になるのを抑制することができる。
【0041】
本発明の実施形態に係る鍛造方法に基づいて製造された外側継手部材が組み込まれた等速自在継手の一例およびその構成部材は、以上説明したとおりである。次に本発明の実施形態に係る外側継手部材の鍛造方法を
図7〜
図19に基づいて説明する。
【0042】
図7は、外側継手部材2の単体完成品を
図2(b)のS1−S1線で矢視した斜視図である。外側継手部材2の詳細は、前述したとおりである。外側継手部材2は、機械構造用炭素鋼(例えば、S53C)等からなり、表面には高周波焼入れによる硬化層が形成されている。外側継手部材2は、奥側に第1のトラック溝部7a(7Aa、7Ba)が形成され、開口側に第2のトラック溝部7b(7Ab、7Bb)が形成され、両トラック溝部が滑らかに接続されている。トラック溝7(7A、7B)間には球状外周面6が形成されている。後述する成形工程後の鍛造完了品に旋削加工、スプライン加工、熱処理、研削加工などを経て
図7に示す完成品となる。
【0043】
本実施形態は、前述した外側継手部材2の鍛造方法を特徴とするものである。本実施形態の鍛造方法における前素材を
図8〜
図11に基づいて説明する。
図8(a)は前素材の縦断面図で、
図8(b)は側面図である。
図9は、
図8(b)のS2−N−S2線で矢視した前素材の斜視図で、
図10は、
図9の前素材の内周面を示す展開図で、
図11は、
図9の前素材の外周面を示す斜視図である。
【0044】
本実施形態の鍛造方法における冷間しごき加工前の
図8(a)および
図8(b)に示す前素材は、亜熱間鍛造により成形され、表面潤滑処理(例えば、ボンデ処理)が施される。前素材W1は、筒状部W1bと軸部W1cを有し、筒状部W1bの内周面に、第1のトラック溝部7a(7Aa、7Ba)(
図7参照)に対応する略仕上げ形状の面7a’(7Aa’、7Ba’)〔以下、略仕上げ形状の第1のトラック溝面7a’(7Aa’、7Ba’)と略称する。〕が
図8(a)の継手中心Oから奥側略半分に形成されている。第1のトラック溝部7a(7Aa、7Ba)の残部と直線状の第2のトラック溝部7b(7Ab、7Bb)に対応する予備形状の面7b’(7Ab’、7Bb’)〔以下、予備形状の第2のトラック溝面7b’(7Ab’、7Bb’)と略称する。〕が
図8(a)の継手中心Oから開口側略半分に形成されている。略仕上げ形状の第1のトラック溝面7a’(7Aa’、7Ba’)は、周方向に傾斜し、かつ継手中心Oを曲率中心とする円弧状に形成されている。一方、予備形状の第2のトラック溝面7b’(7Ab’、7Bb’)は、周方向の傾斜のない直線状に形成されている。
【0045】
前素材W1の略仕上げ形状の第1のトラック溝面7a’(7Aa’、7Ba’)は、継手中心Oから奥側略半分に形成する形態にしたので、トラック溝面の傾斜角γが比較的に小さいことと、継手中心Oを曲率中心とする奥側略半分が円弧状であるので、亜熱間鍛造において一体型パンチによって、略仕上げ形状の第1のトラック溝面7a’(7Aa’、7Ba’)の肩部との間の干渉なく成形することができる。これにより、鍛造コストの抑制とトラック溝の精度向上を図ることができる。
【0046】
球状内周面6(
図7参照)に対応する略仕上げ形状の内周面6’a(以下、略仕上げ形状の球状内周面6’aと略称する。)が、
図8(a)の継手中心Oから奥側略半分に形成され、
図8(a)の継手中心Oから開口側略半分は略円筒状の予備形状の内周面6’b(以下、予備形状の略円筒状内周面6’bと略称する。)が形成されている。
【0047】
斜視図である
図9に、前素材WIの略仕上げ形状の第1のトラック溝面7a’(7Aa’、7Ba’)、予備形状の第2のトラック溝面7b’(7Ab’、7Bb’)、略仕上げ形状の球状内周面6’aおよび予備形状の略円筒状内周面6’bをより分かりやすく示す。予備形状の第2のトラック溝面7b’(7Ab’、7Bb’)および予備形状の略円筒状内周面6’bは、金型の抜け勾配として、開口側に向けて若干拡径するテーパ状に形成されている。
【0048】
また、展開図である
図10に、略仕上げ形状の第1のトラック溝面7a’(7Aa’、7Ba’)および予備形状の第2のトラック溝面7b’(7Ab’、7Bb’)の周方向の傾斜状態をより分かりやすく示す。略仕上げ形状の第1のトラック溝面7a’(7Aa’、7Ba’)のボール軌道中心線Xa’は継手の軸線N−Nに対してγだけ周方向に傾斜している〔
図2(a)参照〕。これに対して、予備形状の第2のトラック溝面7b’(7Ab’、7Bb’)のボール軌道中心線Xb’は周方向の傾斜のない直線状に形成されている。
【0049】
図11に示すように、前素材W1の外周面には、周方向の4箇所に部分的に外径を大きくして肉厚を増加させた突状部W1aが形成されている。突状部W1aは、
図9の予備形状の第2のトラック溝面7Ab’と7Bb’を周方向で反対方向に傾斜させる成形の際、材料が十分充足するように設けられている。換言すると、予備形状の第2のトラック溝面7Ab’と7Bb’の周方向の間隔を開口側で広げる成形の際、材料が十分充足するように設けられている。このため、突状部W1aは、
図8(b)、
図9および
図11に示すG1、G2の範囲で部分的に形成されている。突状部W1aの具体的な形状は、材料の充足状態を考慮して設定する。
【0050】
本実施形態の鍛造方法は、前素材W1を冷間しごき加工するものである。この鍛造方法に用いる金型を
図12〜
図17に基づいて説明する。
図12(a)はパンチを示す斜視図で、
図12(b)はパンチベースを示す斜視図である。
図13(a)はパンチの先端部を拡大した斜視図で、
図13(b)は、
図13(a)のパンチの外周面をさらに拡大した展開図である。
図12(a)および
図13(a)に示すように、パンチ20は4個に分割されている。各パンチ20の先端外周部には、第1のトラック溝部7Aa、7Ba(
図7参照)を成形する第1のトラック溝部成形面27Aa、27Baと、第2のトラック溝部7Ab、7Bb(
図7参照)を成形する第2のトラック溝部成形面27Ab、27Bbが形成されている。
図13(b)に示すように、第1のトラック溝部成形面27Aa、27Baと第2のトラック溝部成形面27Ab、27Bbは、継手の軸線N−N〔
図2(a)参照〕に対してγだけ周方向に傾斜しており、両トラック溝部成形面27Aa、27Abと27Ba、27Bbは、それぞれ、第1のトラック溝部7Aa、7Baの開口側端部A〔
図2(a)参照〕に対応する位置で接続している。
【0051】
第1のトラック溝部成形面27Aa、27Baの間に球状内周面6を成形する球状成形面28が継手中心O〔
図2(a)参照〕の軸方向位置からパンチ20の先端(継手の奥側)まで形成され、球状成形面28からパンチ20の軸方向中央側〔
図12(a)、
図13(b)の上側〕には円筒状成形面29が形成されている。
【0052】
第1のトラック溝部成形面27Aaと第2のトラック溝部成形面27Abを合わせてトラック溝成形面27Aと呼び、第1のトラック溝部成形面27Baと第2のトラック溝部成形面2Bbを合わせてトラック溝成形面27Bと呼ぶ。
【0053】
図12(a)に示すように、パンチ20の周方向の端面は、後述するパンチ20の拡径時にパンチベース21の鍔面36a〔
図12(b)参照〕に当接する当接面30と、この当接面30からテーパ状段部31を介して、パンチ20の縮径空間を形成する段差面32から形成されている。各パンチ20の当接面30には、面取り部33が形成され、成形時の材料の挟み込みを抑制している。
【0054】
パンチ20の半径方向内側には、パンチベース21に案内される内側当接面34が形成されている。4個のパンチ20が縮径して、周方向の当接面30同士を当接させた時、4個の内側当接面34で形成される横断面の輪郭は正方形となる。パンチ20の他端部〔
図12(a)の上側〕には、突出部35が形成され、その軸方向の面が位置決め用テーパ状段部44となっている。
【0055】
従来の成形方法1や成形方法2では、冷間加工する1本のトラック溝に1つのパンチを配置した構造であった。これに対して、本実施形態では、隣り合う一対のトラック溝成形面27A、27Bを1つのパンチ20に配置した構造となっている。すなわち、従来のパンチ配置とは異なり、隣り合う一対のトラック溝成形面27A、27Bのパンチ間の隙間をなくして、一対のトラック溝成形面27A、27Bが1つのパンチ20に一体に形成されている。そのため、従来のパンチの断面積に対して、本実施形態におけるパンチ20の断面積は約3〜4.5倍となる。トラック溝成形面1本当たりの断面積に換算すると、1.5〜2.25倍に増加し、曲げ剛性は4.2倍以上に向上する。すなわち、構造強度と剛性の向上により、高精度の成形が可能になる。また、パンチ肩部の肉厚の薄い領域をなくしたため、応力の集中が緩和され、金型の寿命を向上させることができる。
【0056】
次に、パンチ20を進退可能に案内するパンチベース21を
図12(b)および
図14に基づいて説明する。
図14は、パンチベース21の先端部を
図12(b)とは異なる方向から見た斜視図である。パンチベース21は、概ね4角柱形状をなし、パンチ20の内側当接面34を案内する4個の底面37と、4個の底面37の角部からパンチ20の周方向の当接面30を案内する鍔部36が形成されている。鍔部36の両側には、鍔面36aが形成されている。鍔部36の先端部〔
図12(b)の下側〕には、前述したパンチ20の面取り部33と輪郭が一致するテーパ状面38が形成されている。鍔部36の他端部〔
図12(b)の上側〕には、突出部39が形成され、その軸方向の面が位置決め用テーパ状段部42となっている。パンチベース21の中心には、傘パンチ22〔
図15(b)参照〕の軸部が進退可能に挿入される貫通孔40が形成されている。
【0057】
従来の成形方法1および成形方法2の冷間加工の場合に、パンチの先端側に接近するトラック溝の領域のパンチベースが薄く、パンチの縮径量が制限される。本実施形態では、隣り合う一対のトラック溝成形面27A、27Bが1つのパンチ20に配置されているため、従来のパンチベースより肉厚を増加させることが可能である。これにより、トラック溝数が多くかつ高作動角が取れる等速自在継手の外側継手部材の場合でも、必要なトラック長さを有するトラック溝交差タイプの外側継手部材を成形することが可能である。
【0058】
また、パンチ20を案内する底面37と鍔面36aからなる溝数を半減したパンチベース21では、溝の断面形状を鋭い角形(
図21のB部参照)から平らな底面37の形状にしたために、応力の集中が緩和され、パンチベース21の長寿命化を図ることができる。さらに、上記溝数の半減により、一体になったパンチベース21の剛性が向上し、鍛造品の高精度化に効果がある。
【0059】
次に、パンチ20とパンチベース21の拡縮作動と相対的な進退作動を
図15(a)、
図15(b)に基づいて説明する。
図15(a)はパンチ20の拡径状態を示す斜視図で、
図15(b)はパンチ20の縮径状態を示す斜視図である。ここで、本明細書および特許請求の範囲におけるパンチセットとは、
図15(a)および
図15(b)に示すパンチ20とパンチベース21のセット、さらに好ましくは、パンチ20、パンチベース21および傘パンチ22のセットを意味する。パンチセットに符号Tを付す。
図15(a)に示すように、各パンチ20の当接面30〔
図15(b)参照〕の間にパンチベース21の鍔部36が挿入され、当接面30と鍔面36aが当接すると共に各パンチ20の先端面およびパンチベース21の先端面が傘パンチ22の背面22aに当接して整列され、これにより、各パンチ20が継手中心O〔
図1(a)参照〕に拘束される。この状態が、パンチ20の拡径状態である。
【0060】
図15(a)の拡径状態から、各パンチ20がパンチベース21の底面37と鍔面36aに案内されて下方へ前進する。そして、パンチベース21の鍔面36の先端がパンチ20のテーパ状段部31を過ぎると、パンチ20の段差面32とパンチベース20の鍔面36aとの間に隙間が生じ、パンチ20の縮径空間ができる。これにより、
図15(b)に示すように、パンチ20は縮径状態になる。
【0061】
パンチ20とパンチベース21の拡縮作動と相対的な進退作動は以上のとおりであるが、
パンチ20とパンチベース21は、
図16に示すパンチホルダ24の内周孔41に収容案内され、前述した相対的な進退作動を行う。具体的には、パンチホルダ24の内周孔41に、パンチベース21の鍔部36の突出部39〔
図15(b)参照〕が摺動自在に嵌合する軸方向溝43が設けられ、この軸方向溝43の下方側端部にテーパ状ストッパ面43aが設けられている。このテーパ状ストッパ面43aにパンチベース21の鍔部36の突出部39の位置決め用テーパ状段部42が係止されてパンチベース21の下方側への前進行程が決められる。パンチベース21の鍔部36の外周面はパンチホルダ24の内周孔41に案内される。
【0062】
パンチホルダ24の内周孔41には、さらに、パンチ20の突出部35〔
図15(a)参照〕が摺動自在に嵌合する軸方向溝45が設けられ、この軸方向溝45の下方側端部にテーパ状ストッパ面45aが設けられている。このテーパ状ストッパ面45aにパンチ20の突出部35の位置決め用テーパ状段部44が係止されてパンチ20の下方側への前進行程が決められる。パンチ20の外周面20aはパンチホルダ24の内周孔41に案内される。
【0063】
パンチホルダ24に設けられたテーパ状ストッパ面43aおよびテーパ状ストッパ面45aにより、パンチベース21の前進行程長さが短く、パンチ20の前進行程長さが長くなる。これにより、パンチベース21が停止した後にも、パンチ20の当接面30とパンチベース21の鍔面36aとの案内によりパンチ20の前進が続き、パンチ20のテーパ状段部31がパンチベース21の鍔面36aの先端を過ぎると、パンチ20の段差面32とパンチベース20の鍔面36aとの間に隙間が生じ、パンチ20の縮径空間ができる。このように、簡素な機構でパンチ20の縮径動作が可能になる。
【0064】
図17の斜視図は、本実施形態の鍛造方法に用いる金型をセットにした状態を示す。パンチ20、パンチベース21がパンチホルダ24内に収容され、パンチベース21に傘パンチ22挿入されている。ダイス23はパンチホルダ24と合わせて後述するプレス装置のスライドに取付け固定される。
図17は、前素材W1の内周部に傘パンチ22、パンチ20およびパンチベース21が挿入され、ダイス23によって、前素材W1の外周部をしごき加工する成形開始時〔
図18(b)参照〕の金型の配置状態を示す。
【0065】
次に、具体的な成形工程を
図18、
図19に基づいて説明する。
図18(a)〜
図18(c)は、前素材の投入から成形完了までの行程を示し、
図19(a)〜
図19(c)は成形完了後、鍛造完成品の排出までの行程を示す。
【0066】
図18(a)を参照して、プレス装置に装着された金型や加圧装置の概要を説明する。プレス装置の例えば、油圧駆動源により昇降するスライド50に、パンチ20、パンチベース21、傘パンチ22等を収容したパンチホルダ24やダイス23からなる金型セット、加圧シリンダ51およびノックアウトシリンダ52が取付け固定されている。パンチホルダ24の内部には、パンチ20、パンチベース21、傘パンチ22および押圧部材53が摺動自在に収容されている。押圧部材53の中心に設けられた貫通孔53aに傘パンチ22の軸部22bが摺動自在に嵌合している。傘パンチ22の軸部22bは、ばね受け部材54を介してノックアウトシリンダ52のロッド52aに連結されている。押圧部材53の上面には、ばね受け部53aが設けられ、このばね受け部53bと、ばね受け部材54との間に圧縮コイルばね55が組み込まれている。この圧縮コイルばね55の付勢力により、パンチ20とパンチベース21が、傘パンチ22の背面22aと押圧部材53の下面53cとの間で拘束されて整列する。加圧シリンダ51は連結部材56を介して押圧部材53を押圧する。プレス装置の下方にプレート57が取付け固定され、このプレート57上に前素材W1がセットされる。
【0067】
成形工程を具体的に説明する。
図18(a)に示すように、ワーク投入状態は、スライド50が上死点に位置し、加圧シリンダ51には一定の圧力が負荷され、ノックアウトシリンダ52には圧力が負荷されていない。加圧シリンダ51およびノックアウトシリンダ52の圧力状態は成形完了まで維持される。この状態で、パンチ20の位相に合わせて、プレート57上に前素材W1がセットされる。
【0068】
ワーク投入後、
図18(b)に示すように、成形開始状態は、加圧シリンダ51が一定の圧力負荷状態でスライド50が下降し、傘パンチ22が前素材W1のカップ底面に定圧を保って当接すると共にダイス23のダイス孔23aに前素材W1の開口端部が臨む位置までスライド50が下降する。
【0069】
傘パンチ22が前素材W1のカップ底面に定圧を保って当接し、パンチ20のトラック溝成形面27A、27Bの軸方向位置を安定させた状態で、
図18(c)に示すように、ダイス23が下降し前素材W1の開口部側から外周面を押圧し、スライド50が下死点まで達し、前素材W1の内周部がパンチ20のトラック溝成形面27A、27Bおよび球状成形面28、円筒状成形面29に押し付けられて、軸方向全域のトラック溝面7a’、7b’および奥側の球状内周面6’aと開口側の円筒状内周面6’bの仕上げ成形が完了する。
【0070】
具体的には、前素材WIの奥側におけて、略仕上げ形状の第1のトラック溝面7a’(7Aa’、7Ba’)が仕上げ形状の第1のトラック溝面7a”(7Aa”、7Ba”)となり、略仕上げ形状の球状内周面6’aが仕上げ形状の球状内周面6”aとなる。また、前素材W1の開口側において、予備形状の第2のトラック溝面7b’(7Ab’、7Bb’)が仕上げ形状の第2のトラック溝面7b”(7Ab”、7Bb”)となり、予備形状の略円筒状内周面6’bが仕上げ形状の略円筒状内周面6”bとなる。ここで、本明細書において仕上げ形状とは、鍛造完了品に残る形状を意味する。
【0071】
上記成形において、前素材W1に突状部W1aを設けたことにより、予備形状の第2のトラック溝面7Ab’と7Bb’の周方向の間隔を開口側で広げる成形の際、材料が十分充足する。
【0072】
成形完了後のスプリンバック現象により、鍛造完了品W2はダイス23に挟持されて状態になる。上記のように、ダイス23が前素材W1の開口部側から外周面を押圧し、押し込むしごき成形であるので、前素材W1の内周部の材料充足性を向上させることができる。前述した一対のトラック溝成形面27A、27Bが1つのパンチ20に一体に形成されている構成と前素材W1の筒状部W1の開口部側から押し込むしごき成形が相俟って、高精度の成形や金型寿命の向上等を一層促進させることができる。
【0073】
成形完了後、鍛造完了品W2の排出工程となる。加圧シリンダ51の圧力を抜くことにより鍛造完了品W2のカップ底面への傘パンチ22の圧力が消失する。そして、
図19(a)に示すように、スライダ50が上昇し、ダイス23の中に挟持された鍛造完了品W2とパンチ20、パンチベース21、傘パンチ22が上昇し、鍛造完了品W2がプレート57から排出され、スライド50が上死点に達する。
【0074】
その後、
図19(b)に示すように、加圧シリンダ51に圧力が負荷され、パンチ20、パンチベース21を介して傘パンチ22が鍛造完了品W2のカップ底面を押圧し、鍛造完了品W2がダイス23から離脱する。この状態までパンチベース21が下降すると、パンチベース21のテーパ状段部42がパンチホルダ24のテーパ状ストッパ面43aに係止され、パンチベース21の下降動作は停止する。
【0075】
その後、
図19(c)に示すように、ノックアウトシリンダ52に圧力が負荷され、パンチベース21の行程長さより長い工程長さに設計されているパンチ20がさらに下降する。そして、パンチ20の位置決め用テーパ状段部44がパンチホルダ24のテーパ状ストッパ面45aに係止すると共に、パンチ20の段差面32がパンチベース21の鍔部36の先端部に達する。これにより、パンチ20の段差面32とパンチベース21の鍔面36aとの間に隙間が生じ、パンチ20が縮径し、鍛造完了品W2が排出される。鍛造完了品W2は、その後、旋削加工、スプライン加工、熱処理、研削加工などを経て
図7に示す完成品となる
【0076】
本実施形態の鍛造方法は、以上の
図18(a)〜
図18(c)および
図19(a)〜
図19(c)の行程を経て完了する。本実施形態の鍛造方法により、円弧状のトラック溝を有し、かつ、トラック溝が周方向に傾斜した等速自在継手の外側継手部材を、鍛造成形工具の低コスト化、長寿命化を図ると共に、高精度のトラック溝の成形を可能できる。
【0077】
本実施形態の鍛造方法に基づいて製造された外側継手部材が組み込まれた等速自在継手の一例では、第2のトラック溝部7b、9bのボール軌道中心線Xb、Ybが直線状に形成されたものを例示したが、これに限られず、第2のトラック溝部のボール軌道中心線を比較的大きな曲率半径を有する凹円弧状あるいは凸円弧状に形成したものでもよい。この場合には、第2のトラック溝部を成形する金型の成形面を、上記凹円弧状あるいは凸円弧状を考慮した形状に適宜修正すればよい。
【0078】
次に、パンチの変形例を
図20に基づいて説明する。前述した実施形態の鍛造方法に用いたパンチ20は、継手中心Oの軸方向位置から上側を円筒状成形面29にしたものを例示したが、本変形例のパンチは、円筒状成形面29を球状成形面に変更して、成形面の軸方向全域を球状成形面28’としたものである。
図20に示すように、パンチ20’では、成形面の軸方向全域に球状成形面28’が形成されている。成形荷重や金型寿命等を考慮して、本変形例のパンチ20’も適宜適用することができる。この場合は、球状内周面の後加工が削減できる。パンチ20’の成形面の軸方向全域を球状成形面28’とした点を除く金型の構成は、前述した実施形態と同様であるので、同じ機能を有する部位には同一の符号を付して、前述した実施形態における前素材や金型の構成、作用、具体的な成形工程等について説明した内容をすべて準用する。
【0079】
次に、本発明の実施形態に係る鍛造方法を適用する他の形式の等速自在継手を
図22(a)〜
図24に基づいて説明する。
図22(a)は、他の形式の等速自在継手の縦断面図で、
図22(b)は側面図である。この等速自在継手71もトラック溝交差タイプであり、外側継手部材72、内側継手部材73、トルクを伝達する複数のボール74および保持器75を主な構成とする。外側継手部材72には球状内周面76に複数(8本)のトラック溝77が形成されている。内側継手部材73には球状外周面78に外側継手部材72のトラック溝77と対をなす複数のトラック溝79が形成されている。対をなす外側継手部材72のトラック溝77と内側継手部材73のトラック溝79との間に複数のボール74が1個ずつ組み込まれている。保持器75の球状外周面82と球状内周面83は、外側継手部材72の球状内周面76と内側継手部材73の球状外周面78に、それぞれ嵌合し、保持器75のポケット75aにボール74を保持している。
【0080】
外側継手部材72のトラック溝77の曲率中心と、内側継手部材73のトラック溝79の曲率中心は、いずれも継手中心Oに一致させており、両トラック溝77、79の軸方向のオフセットを0としている。また、外側継手部材72の球状内周面76の曲率中心と、内側継手部材73の球状外周面78の曲率中心は、いずれも継手中心Oに一致させている。
【0081】
図23に基づいて、外側継手部材72のトラック溝77の周方向の傾斜状態を説明する。
図23は、
図22のS3−S3断面で矢視した外側継手部材72の内周部を示す。
図23に示すように、外側継手部材72のトラック溝77は、周方向に傾斜して形成され、周方向に隣り合うトラック溝77の傾斜方向を相反させている。すなわち、トラック溝77Aが、奥側から開口側に向かって反時計廻り方向に軸線Lに対して角度γだけ傾斜し、このトラック溝77Aに対して周方向に隣り合うトラック溝77Bは、奥側から開口側に向かって時計廻り方向に軸線Lに対してγだけ傾斜している。すなわち、周方向に隣り合うトラック溝77の傾斜方向を相反させている。
【0082】
図24に基づいて、内側継手部材73のトラック溝79の周方向の傾斜状態を説明する。
図24は、
図22のS3−S3断面に平行に離間した面で矢視した内側継手部材73の外周部を示す。
図24に示すように、内側継手部材73のトラック溝79は、周方向に傾斜して形成され、周方向に隣り合うトラック溝79の傾斜方向を相反させている。すなわち、トラック溝79Aが、奥側から開口側に向かって反時計廻り方向に軸線Lに対して角度γだけ傾斜し、このトラック溝79Aに対して周方向に隣り合うトラック溝79Bは、奥側から開口側に向かって時計廻り方向に軸線Lに対してγだけ傾斜している。すなわち、周方向に隣り合うトラック溝79の傾斜方向を相反させている。
【0083】
以上説明したように、この等速自在継手71では、外側継手部材72と内側継手部材73の周方向に傾斜したトラック溝77、79は、それぞれ、軸方向の全域にわたって円弧状に形成されている。そして、外側継手部材72と内側継手部材73の対になるトラック溝77、79は、軸線に対して反対方向に傾斜している。
【0084】
したがって、この等速自在継手71においても、外側継手部材72と内側継手部材73のトラック溝77、79は、その曲率中心が軸方向にオフセットされてなく、周方向に傾斜するトラック溝77A、79Aと、これと反対方向に傾斜するトラック溝77B、79Bとが周方向に交互に交差するので、保持器75の周方向に隣り合うポケット75aに相反する方向の力が作用することになり、保持器75が継手中心O位置で安定する。このため、保持器75の球状外周面82と外側継手部材72の球状内周面76との接触、保持器75の球状内周面83と内側継手部材73の球状外周面78との接触が抑制され、高負荷時や高速回転時にこの等速自在継手が円滑に作動し、発熱が抑えられ、耐久性が向上する。
【0085】
上述した等速自在継手71の外側継手部材72の鍛造方法においても、前述した前素材W1と同様のものを亜熱間鍛造で成形し、外側継手部材72のトラック溝77の形状に対応した金型のセットを用いて、前述した実施形態の鍛造方法と同様にしごき加工することにより成形することができる。前述した実施形態における金型の構成、作用、具体的な成形工程等について説明した内容をすべて準用する。
【0086】
本実施形態の鍛造方法に基づいて製造された外側継手部材が組み込まれた等速自在継手の例として、外側継手部材2、72および内側継手部材3、73のトラック溝7、77、9、79は、周方向に傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合うトラック溝7A、7B、77A、77Bおよび9A、9B、79B、79Bで互いに反対方向に形成されているものを例示したが、これに限られず、外側継手部材の全てのトラック溝が周方向の同方向に傾斜し、内側継手部材の全てのトラック溝が周方向の同方向に傾斜し、外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝の傾斜方向が反対方向に形成された等速自在継手にも適用できる。この場合も、外側継手部材と内側継手部材のトラック溝の各交差部にボールが配置される。
【0087】
本実施形態の鍛造方法に基づいて製造された外側継手部材が組み込まれた等速自在継手の例として、トルクを伝達するボールの数は8個を例示したが、これに限られず、6個あるいは10個以上としてもよい。
【0088】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々の形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【解決手段】外側継手部材の鍛造方法は、軸部と軸部の一端に形成された筒状部とを有する外側継手部材の前素材の筒状部の内周面に拡縮可能なパンチセットTを嵌合させた状態で、筒状部をダイスのダイス孔に圧入してしごき成形するもので、パンチセットTは、少なくとも複数のパンチ20と、パンチを進退可能に案内するパンチベース21を備え、各パンチには、隣り合うトラック溝を成形する一対の成形面27A、27Bが形成されている。