特許第6181267号(P6181267)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6181267
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】インクジェットヘッド
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20170807BHJP
   B41J 2/18 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   B41J2/01 301
   B41J2/01 307
   B41J2/18
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-206621(P2016-206621)
(22)【出願日】2016年10月21日
(62)【分割の表示】特願2014-25134(P2014-25134)の分割
【原出願日】2014年2月13日
(65)【公開番号】特開2017-19293(P2017-19293A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2016年10月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】000003562
【氏名又は名称】東芝テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000235
【氏名又は名称】特許業務法人 天城国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯島 知実
【審査官】 外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−131063(JP,A)
【文献】 特開2012−125936(JP,A)
【文献】 特開2000−343690(JP,A)
【文献】 特開平09−290546(JP,A)
【文献】 実開平03−070946(JP,U)
【文献】 特開2010−052256(JP,A)
【文献】 特開2007−203528(JP,A)
【文献】 特開2007−237486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル配列方向に配列された複数の吐出口およびインクの液室を有するヘッド本体と、
このヘッド本体の前記液室への前記インクの供給路およびその排出路を有するベース部と、
このベース部に設けられ前記ヘッド本体を吐出駆動する駆動回路と、
前記駆動回路による発熱が伝熱され、プレート長方向両端部でそれぞれプリンタ本体側の構造体に固定される基準プレートと、
記基準プレートに対して前記ヘッド本体を前記ノズル配列方向が主走査方向に平行に位置決めして前記ベース部を一体化する被固定体と、を備え
前記被固定体は、前記プレート長方向中央部で前記基準プレートに共締めされ、前記プレート長方向両端部でそれぞれ前記基準プレートに係止される
インクジェットヘッド。
【請求項2】
前記駆動回路の発熱を放熱するヒートシンクをさらに備える請求項1記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記基準プレートは、ステンレス綱および鉄鋼の何れかであり、前記被固定体は、プラスティックであることを特徴とする
請求項1または請求項2記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記被固定体および前記基準プレート間に、弾性を有するシート部材が設けられた請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記ヒートシンクは前記被固定体を挟んで一対設けられ、
前記被固定体およびこの一対のヒートシンク間に、弾性を有する熱遮断体が設けられた請求項2記載のインクジェットヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
一実施形態はインクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタ本体にはインクジェットヘッドが設けられており、インクジェットヘッドから用紙に向けてインクを吐出する。従来、複数のヘッド本体を紙幅(用紙長さ又は用紙幅)方向に並べて配置したインクジェット記録装置が知られており(例えば特許文献1参照)、ヘッド本体と別のヘッド本体との隣接する端部での吐出口の位置が調節される。それぞれ吐出口の列が主走査方向と平行になるようにして複数のヘッド本体がプリンタ本体に対して位置決めされ、画像記録領域が得られる。位置決め固定ではヘッド本体を支持するインクジェット構造体がプリンタ本体側の取付け板に基準プレートを介して取付けられており、この基準プレートの位置を基準に複数個のヘッド本体が並列配置される。基準プレートの熱膨張率は考慮されていないものの、吐出駆動ではドライバICの発熱によりヘッド本体及びインクジェット構造体が熱膨張する。複数のヘッドを長手方向に並べて配設したときに熱膨張によって隣り合うヘッドの間で相対的な位置ずれの発生や熱ひずみの発生によって低下する印写品質を防止するインクジェットプリンタが知られている(例えば特許文献2参照)。
【0003】
基準プレートの熱膨張率が取付け板の熱膨張率よりも大きい場合、基準プレートの長尺方向の伸び量が取付け板の伸び量よりも大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−329551号公報
【特許文献2】特開2006−142841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基準プレートの熱膨張率が取付け板の熱膨張率よりも大きい場合、基準プレートの長尺方向の伸び量が取付け板の伸び量よりも大きいため、基準プレートそのものが変形し、ノズルピッチに対して許容できない寸法の位置ずれが生じる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決するため、一実施形態によれば、ノズル配列方向に配列された複数の吐出口およびインクの液室を有するヘッド本体と、このヘッド本体の前記液室への前記インクの供給路およびその排出路を有するベース部と、このベース部に設けられ前記ヘッド本体を吐出駆動する駆動回路と、前記駆動回路による発熱が伝熱され、プレート長方向両端部でそれぞれプリンタ本体側の構造体に固定される基準プレートと、記基準プレートに対して前記ヘッド本体を前記ノズル配列方向が主走査方向に平行に位置決めして前記ベース部を一体化する被固定体と、を備え、前記被固定体は、前記プレート長方向中央部で前記基準プレートに共締めされ、前記プレート長方向両端部でそれぞれ前記基準プレートに係止されるインクジェットヘッドが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】一実施形態に係るインクジェットヘッドの斜視図である。
図2】一実施形態に係る一実施形態に係るインクジェットヘッドの部分的な分解斜視図である。
図3】一実施形態に係るインクジェットヘッドの締結前の分解斜視図である。
図4】一実施形態に係るインクジェットヘッドの基準プレートおよびプレート台の単体の斜視図である。
図5】一実施形態に係るインクジェットヘッドを複数設けたプリンタ本体の部分的な斜視図である。
図6】一実施形態に係るインクジェットヘッドの組立て後の斜視図である。
図7】一実施形態に係るインクジェットヘッドの縦断面図である。
図8】一実施形態に係るインクジェットヘッドに生じる変形の方向例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施の形態に係るインクジェットヘッドについて、図1乃至図8を参照しながら説明する。尚、各図において同一箇所については同一の符号を付すとともに、重複した説明は省略する。
【0009】
(一実施形態)
図1は一実施形態に係るインクジェットヘッドの斜視図である。本実施形態に係るインクジェットヘッドは、ノズル配列方向に配列された複数の吐出口51およびインクの液室を有するヘッド本体11と、このヘッド本体11の液室へのインクの供給路およびインクの排出路を有するベース部12と、このベース部12に設けられヘッド本体11を吐出駆動するドライバIC21を含む一対の駆動回路18とを備えている。更にインクジェットヘッドは一対の駆動回路18の発熱を放熱する一対のヒートシンク14、15と、これらのヒートシンク14、15および駆動回路18による発熱が伝熱され、プレート長方向両端部でそれぞれプリンタ本体側の取付け板40(図5)上に固定される基準プレート13と、基準プレート13の熱伝導率よりも低い熱伝導率を有し、この基準プレート13に対してヘッド本体11をノズル配列方向が主走査方向に平行に位置決めしてヒートシンク14、15およびベース部12を一体化するプレート台23(被固定体)とを備えている。
【0010】
ヘッド本体11はインクを吐出するインクジェットヘッド本体であり、2列の吐出口(ノズル穴)51を有するオリフィスプレート52と、このオリフィスプレート52を下方から支持する枠部材とを備えている。この枠部材の下部にはベース部12内のベースプレート54の上面が接着されている。枠部材、ベースプレート54及びオリフィスプレート52により空間が形成され、この空間にインク液室が形成されている。この空間には、複数の圧力室と、これらの圧力室で共通の共通液室と、圧力室ごとに室の容積を変化させる複数の圧電素子と、圧電素子ごとに圧力室及び吐出口51間に設けられたノズルとが設けられている。
【0011】
図2は一実施形態に係るインクジェットヘッドの部分的な分解斜視図であり、図1の例とは天地を反対にして表示している。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。ベース部12は、そのプレート面にインクを供給する為の溝が形成されたベースプレート54と、内部インク供給路および内部インク排出路を有するマニフォールド22とを備える。マニフォールド22は、インク流路の分岐部兼結合部であり、ベースプレート54の他面に貼付けられている。マニフォールド22上には部材24を介してそれぞれ内部インク供給路に連通する供給パイプ16と、内部インク排出路に連通する排出パイプ17とが接着されている。これらの供給パイプ16および排出パイプ17はチューブに接続される。
【0012】
各駆動回路18はベースプレート54を挟んで一対対称に設けられており、電気的にはプリンタ本体側との間で制御信号を送受信し複数の圧電素子を駆動する。片方の駆動回路18は、リジットプリント配線板(PCB)19と、耐熱性の2枚のフレキシブルプリント配線板(FPC)20と、複数個の駆動制御用のドライバIC(Dr.IC)21とを備えている。フレキシブルプリント配線板20は例えばポリイミド製のフィルム配線であり、その一端部がリジットプリント配線板19に接続され、他端部はベースプレート54内に配線された各圧力室への信号線パターンに接続されている。ドライバIC21はCOF(chip on film)によりフレキシブルプリント配線板20にパッケージ化されている。ドライバIC21は、共通液室内の複数の電極にそれぞれパルス電圧を印加可能にされている。他方の駆動回路18も一方の駆動回路18と同じ構成を有する。各駆動回路18はリジットプリント配線板19にプリンタ本体側のコントローラへのコネクタ32、受動部品33類を有する。
【0013】
図3は一実施形態に係るインクジェットヘッドの締結前の分解斜視図である。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。ヒートシンク14、15はプレート台23(DATUM−PLATE−BLOCK)のプリンタ本体への取付け面と異なる面に、取付けられており、ヒートシンク14はプレート台23の左側面に固定され、ヒートシンク15も同じプレート台23の右側面に固定されている。プレート台23およびヒートシンク14間と、プレート台23及びヒートシンク15間とには、それぞれ弾性を有する熱遮断体が設けられてもよい。これらのヒートシンク14、15はネジ54やボルト38、39等によって互いにカシメ合い、ヒートシンク板の内壁面側に、基準プレート13、プレート台23、インク供給用のチューブ47及びインク排出用のチューブ48を覆う。ヒートシンク14には例えばアルミニウム又はモールドの成型品が用いられる。ヒートシンク14には内壁面側に複数のフィンが形成されてもよい。ヒートシンク15もヒートシンク14と同様である。これらのヒートシンク14、15が互いに取付けられた状態で、フレキシブルプリント配線板20がその根元から上方へ折り曲げられるようになっている。チューブ47、48の各一端が供給パイプ16、排出パイプ17に接続され、チューブ47、48の各他端はパイプ34、35に連結される。
【0014】
図4は一実施形態に係るインクジェットヘッドの基準プレート13およびプレート台23の単体の斜視図である。図5は本実施形態に係るインクジェットヘッドを複数設けたプリンタ本体の部分的な斜視図である。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。基準プレート13は本実施形態に係るインクジェットヘッドをプリンタ本体側の取付け板40(図5)に固定し、プリンタ本体に対して位置決めをするためのプレートである。プリンタ本体にはそれぞれ主走査方向に配置された2又は3個のインクジェットヘッド1が副走査方向に配列されている。
【0015】
図4においてプレート台23はプレート長方向中央部で基準プレート13と共締めされている。プレート台23がプレート長方向両端部でそれぞれ基準プレート13に固定締め付けされずに係止され、基準プレート13がプレート台23に対して微小量ずれ動くことが許容されている。これらのプレート台23および基準プレート13間には、弾性シート101(弾性を有するシート部材)が設けられてもよい。プレート台23の左右両側面に他の弾性シート90、91を設けてもよい。
【0016】
基準プレート13にはその両端部が鉄製の取付け板40に保持されたときに撓みや屈曲など変形しない程度の強度が要求される。基準プレート13にはアルミニウムの熱膨張率よりも小さい熱膨張率を有する材質が用いられ、例えばステンレス綱や、鉄鋼などが用いられている。熱膨張率とは線膨張率を差し、この線膨張率は長さ1mの棒体が1℃の温度上昇により、何μm伸びるかで表される。基準プレート13は切断又は打ち抜き加工されたものである。
【0017】
プレート台23には、伝熱量をなるべく小さくするために、熱伝導率が低い材質が用いられ、例えば中空状のプラスティック成型品が用いられている。熱伝導率とは温度差がある2つの面間を運ばれる熱の速度であり、例えば温度差1K、断面積1m、厚さ1mmの物体を流れる熱量(W/m・K)で表される。熱伝導率が低いとは、鉄、ステンレス鋼のそれが83.5、16.7〜20.9であるのに対して樹脂材料の熱伝導率は0.1〜1.0程度のスケールであることを指す。
【0018】
基準プレート13及びプレート台23の構造については、基準プレート13はそれぞれプレート長方向両端部に設けられる締結部27、28と、これらの締結部27、28間に設けられた5つの貫通孔92、93、94、95及び98とを有する(締結部27、28の形状は適宜変えて表示してある)。締結部27、28はボルト孔へのボルト挿通によってそれぞれ取付け板40に締結される。
【0019】
5つのうちの中央の貫通孔98のネジ軸方向には、ネジ97、座金99、弾性シート101の開口104、プレート台23の厚み部106及びネジ受け孔105が位置する。ネジ97のネジ軸、ネジ受け孔105の内壁にはネジ溝が形成されてもよく、ネジ溝へのネジ97の螺合によって基準プレート13及びプレート台23は弾性シート101を挟み込んで締結し合ってもよい。貫通孔93、94はそれぞれパイプ34、35(コネクション)の挿通用であり、貫通孔93、94の内壁はパイプ34、35の筒部に接着される。またプレート台23上面においてプレート長方向両側にはスペーサを兼ねるスタッド109、110が設けられており、これらのスタッド109、110が基準プレート13の貫通孔92、95に挿通され、ネジ96、座金99によって係止されている。貫通孔92、95によって基準プレート13がプレート台23に抑え付けられず締め付けられないため、基準プレート13には発熱に対して逃げスペースが与えられている。基準プレート13の熱膨張の発生に対して、この基準プレート13の上部への抜け、反り防止、及び基準プレート13の回転が防止されるようになっている。弾性シート101の両端にはスタッド109、110に当接しないように開口部102、103が設けられてもよい。
【0020】
図6は本実施形態に係るインクジェットヘッドの組立て後の斜視図である。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。ヒートシンク14、15が起立して向かい合った状態では、ドライバIC21がそれぞれヒートシンク14、15の背面下部に密着し、各ドライバIC21からヒートシンク14、15へ伝熱されるようになっている。インクジェットヘッドはケーブル36、37によってプリンタ本体側のコントローラと信号を授受する。
【0021】
図7は本実施形態に係るインクジェットヘッドの図6のAA′に沿う縦断面図である。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。基準プレート13の左方の締結部28は、取付け板40側のボルト孔41に埋込まれ取付け板40上に起立するスペーサ兼用のスタッド42と、このスタッド42に螺合するボルト44と、このボルト44のボルト径よりも大きい孔径を有するボルト孔49とを備える。右方の締結部27は右方のボルト孔41に埋込まれたスペーサ兼用のスタッド43と、ボルト45と、ボルト孔46とを備える。また、プレート台23は、左右それぞれに設けられた肉盗み空間111、112と、これらの肉盗み空間111、112間の中央部に設けられたネジ受け部113と、このネジ受け部113、供給パイプ16、排出パイプ17及びチューブ47、48間で流路25、26を形成する接続部114、115とを有する。
【0022】
次に上述の構成の本実施形態に係るインクジェットヘッドの作用動作について述べると、吐出についてはプリンタ本体からの駆動信号を駆動回路18が受信し、何れかのドライバIC21がパルス電圧信号を生成して電界を発生させ、ヘッド本体11内の圧力室の側壁を変形させる。ヘッド本体11では圧力室の容積が拡張し縮小することにより、インクが加圧され、ヘッド本体11は液滴を吐出口51から吐出する。このインクジェットヘッドが吐出時にドライバIC21にて発生した熱はヒートシンク14、15に伝わり、ヒートシンク14、15及び基準プレート13は発熱し続ける。
【0023】
締結部27、28は強い締結力でボルト締めされており駆動回路18の駆動期間が短い場合、発熱によりボルト44、45の軸芯の位置が基準プレート13の長尺方向外方へ変位しても冷却により元に戻り、ヘッド本体11が印字品質に影響を及ぼす程度に変形することはない。基準プレート13は長尺方向と直交する印字送り方向にも伸びるが、この印字送り方向のプレート寸法が伸びても冷却によりこのプレート寸法は元に戻る。あるいは印字ずれに実質的に寄与しない程度のずれにとどまる。
【0024】
図8は本実施形態に係るインクジェットヘッドに生じる変形の方向例を示す図である。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。ドライバIC21が放熱すると、ヒートシンク材質はアルミニウム製であるため高い熱伝導率によって基準プレート13と取付け板40とがヒートシンク14、15からの伝熱によって同図左右(矢印参照)へと膨張する。締結部27、28が強い力でボルト締めされた状態では基準プレート13は長尺方向外方へ向かって取付け板40の延び変形よりも大きく膨張する。発熱対策を何らしないと、ヘッド本体11の吐出口51の位置が長尺方向外方にずれる可能性がある。発熱対策無しではインクジェットヘッドのプリンタ本体に対する位置ずれが発生する。ドライバIC21において発生した熱が、ヒートシンク14、15、基準プレート13、供給パイプ16及び排出パイプ17といった金属製の連結部分(コネクション)を通じて、これらのコネクション内を流れるインクの温度に影響を与え、インク粘度を変化させて印字品質に影響を及ぼす可能性がある。
【0025】
本実施形態に係るインクジェットヘッドは図4等に示すような構造により、取付け板40への取付け部分を基準プレート13とプレート台23とに分割し、熱膨張時における基準プレート13の長尺方向外方へのずれをなくし、及び、ドライバIC21の発熱によるインクへの影響を少なくした。インクジェットヘッドがそれぞれ中央部一か所において締結部材(ネジ97、座金99)で締結したため、熱膨張の影響を避けるようにした。
【0026】
分割された基準プレート13は発熱時、プレート長方向外方へ延びる。仮に両サイドの締結部27、28をきつく締め付けると、熱膨張によって基準プレート13の両端部が上方に湾曲してネジ抜けが発生し、基準プレート13に反りが発生し、あるいは、基準プレート13に異なる方向への力のモーメントが加わって回転力が作用するといった変形が起こる。このインクジェットヘッドでは両サイド2か所のネジ99(締結部材)が、上部への抜け、反り防止、回転防止の為に、抑えているだけで締め付けない構造としている。上部への抜け、反り防止、回転が吸収され、熱膨張の影響が左右方向に伝わらないようにできる。
【0027】
例えばステンレス鋼(SUS410)の線膨張率は10.4(×10−6[K])であり、ステンレス鋼(SUS304)の線膨張率は17.3(×10−6[K])、鉄鋼のそれは10〜11(×10−6[K])である。ステンレス鋼や鉄鋼の線膨張率はアルミニウムの線膨張率23(×10−6[K])よりも小さく、ステンレス鋼や鉄鋼の強度はアルミニウムの強度よりも大きい。基準プレート13はステンレス製や鉄鋼製のものを用いることによって、強度を発揮し、及び熱膨張をなるべく小さい値に抑えることが可能になる。
【0028】
また、仮に基準プレート13がアルミニウム製など線膨張率が大きいものを使ったとすると、ドライバIC21の発熱及び冷却の繰返しによって、基準プレート13の伸び量が取付け板40の伸び量を上回り、その場合、締結部27では基準プレート13のボルト孔46の中心線とボルト軸芯とがずれ、ボルト孔46の長尺方向の位置が基準位置よりも右、つまり外方にずれてしまう。締結部28は締結部28のずれ方向と反対方向に長尺方向にずれてしまう。基準プレート13がアルミニウム製であると、基準プレート13及びヒートシンク14、15が同じ材質であるため、締結部27、28間においては、基準プレート13及びヒートシンク14、15が熱膨張し、基準プレート13及び取付け板40の各伸び量の差による応力が基準プレート13内部に発生する。
【0029】
これに対して本実施形態に係るインクジェットヘッドでは、ステンレス鋼や鉄鋼からなる基準プレート13を用いており、アルミニウムを使ったときに生じる基準プレート13及び取付け板40の各伸び量の差による応力は発生しない。このインクジェットヘッドは更にボルト孔46にボルト径よりも大きい孔径を与えており、スタッド43による締結はボルト45をそのボルト軸心下半分において固定した締結である。ボルト孔49の例もボルト孔46と同様である。基準プレート13及び取付け板40の各伸び量の差は小さく、この差が発生したとしても、ボルト孔46の孔径が余裕を持つため、誤差を吸収できる。基準プレート13を取付け板40へミクロン単位の調整によってボルト固定することが精度良く行えるようになる。
【0030】
更に図4で分割されたプレート台23は中空状のプラスティック成型品である。室温付近では、例えば空気の熱伝導率(W/m・K)は0.0241であり、鉄83.5、ステンレス鋼16.7〜20.9であるのに対して高分子樹脂材料の熱伝導率は0.1〜1.0程度のスケールである。プレート台23には熱伝導率が低い部材で作られており、金属製の供給パイプ16及び排出パイプ17の筒部にプレート台23が接着固定されているため、熱の伝わりを小さくすることができるようになる。熱が伝わらないので冷却効果を高められる。
【0031】
また、図5のようにカラープリンタでは、取付け板40に、用紙Pに対して色ごとに例えば5個のインクジェットヘッド1が千鳥状に配列して設けられる。前列(又は後列)の2つのインクジェットヘッド1のヘッド中心線間の等分位置に、後列(又は前列)のインクジェットヘッド1のヘッド中心線が合致するように、各インクジェットヘッド1が配置されている。隣接する2つのヘッド本体11どうしでは、一方のヘッド本体11と別のヘッド本体11との隣接する各端部での吐出口51の位置が合うように調節されて取付け板40に取付けられる。本実施形態に係るインクジェットヘッドによれば、上記図4の構造によってプリンタ本体側に対する複数のヘッド本体11の位置ズレを高い精度で抑えることができ、印字に影響が出るほどの位置ズレを防止できる。
【0032】
以上のように本実施形態に係るインクジェットヘッドは図4に示すような構造により、取付け板40への取付部分を基準プレート13とプレート台23とに分割し、熱膨張時における基準プレート13の長尺方向外方へのずれをなくし、発熱によるインクへの影響を少なくした。基準プレート13が中央部一か所でプレート台23に係止締結により、基準プレート13の変形が生じず、熱膨張の影響が避けられる。
【0033】
プリンタ本体側の取付け部材はプレート(取付け板40)であったが、取付け部材としては、プリンタ本体側のフレーム、枠体、ホルダ、取付け具あるいは棒状や片状又はこれらの組合わせなどを用いても良い。インク供給、排出用のチューブ47、48の位置は互いに逆に設けられることもある。ヒートシンク14、15にはフィンを設けるほかに、表面積を拡大させるための表面処理を施しても良いことは言うまでも無い。これらの変更をして実施をしたに過ぎない実施品に対して実施形態に係るインクジェットヘッドの優位性は何ら損なわれるものではない。
【0034】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0035】
11…ヘッド本体、12…ベース部、13…基準プレート、14,15…ヒートシンク、18…駆動回路、21…ドライバIC、23…プレート台(被固定体)、40…プリンタ本体側の取付け板。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8