特許第6181325号(P6181325)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6181325磁気ディスク用基板の製造方法及び磁気ディスクの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6181325
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】磁気ディスク用基板の製造方法及び磁気ディスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/84 20060101AFI20170807BHJP
   B24B 37/11 20120101ALI20170807BHJP
   B24B 37/20 20120101ALI20170807BHJP
   B24B 53/00 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   G11B5/84 Z
   B24B37/11
   B24B37/20
   B24B53/00 Z
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-559110(P2016-559110)
(86)(22)【出願日】2015年11月12日
(86)【国際出願番号】JP2015081903
(87)【国際公開番号】WO2016076404
(87)【国際公開日】20160519
【審査請求日】2017年4月4日
(31)【優先権主張番号】特願2014-229717(P2014-229717)
(32)【優先日】2014年11月12日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503069159
【氏名又は名称】ホーヤ ガラスディスク タイランド リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】カムラー サヨムプー
【審査官】 川中 龍太
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−144564(JP,A)
【文献】 特開2012−109019(JP,A)
【文献】 特開2009−154232(JP,A)
【文献】 特開2012−033265(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/84 − 5/858
B24B 21/00 − 39/06
B24B 53/00 − 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ディスク用基板の製造方法であって、
一対の定盤に設けられた一対のスエードタイプの研磨パッドで基板を挟み、前記研磨パッドと前記基板の間に研磨砥粒を含むスラリーを供給して、前記研磨パッドと前記基板を相対的に摺動させることにより、前記基板の両主表面を研磨する研磨処理を含み、
前記基板の前記研磨処理前、前記研磨パッドは、前記定盤に設けられた前記研磨パッドの表面にクーラントを供給しながらドレッサと前記研磨パッドを相対的に摺動させることにより、前記研磨パッドの表面を除去するドレス処理が施され、
前記ドレス処理では、前記研磨パッドから前記クーラントが奪う熱量は、前記ドレス処理の開始時点よりも終了時点の方が大きくなるように前記クーラントの温度又は単位時間当たりの供給量を制御する、ことを特徴とする磁気ディスク用基板の製造方法。
【請求項2】
磁気ディスク用基板の製造方法であって、
一対の定盤に設けられた一対の研磨パッドで基板を挟み、前記研磨パッドと前記基板の間に研磨砥粒を含むスラリーを供給して、前記研磨パッドと前記基板を相対的に摺動させることにより、前記基板の両主表面を研磨する研磨処理を含み、
前記基板の前記研磨処理前、前記研磨パッドは、前記定盤に設けられた前記研磨パッドの表面にクーラントを供給しながらドレッサと前記研磨パッドを相対的に摺動させることにより、前記研磨パッドの表面を除去するドレス処理が施され、
前記ドレス処理では、前記研磨パッドに供給する前記クーラントの温度を前記ドレス処理の開始時点よりも終了時点の方が低くなるようにする、ことを特徴とする磁気ディスク用基板の製造方法。
【請求項3】
磁気ディスク用基板の製造方法であって、
一対の定盤に設けられた一対の研磨パッドで基板を挟み、前記研磨パッドと前記基板の間に研磨砥粒を含むスラリーを供給して、前記研磨パッドと前記基板を相対的に摺動させることにより、前記基板の両主表面を研磨する研磨処理を含み、
前記基板の前記研磨処理前、前記研磨パッドは、前記定盤に設けられた前記研磨パッドの表面にクーラントを供給しながらドレッサと前記研磨パッドを相対的に摺動させることにより、前記研磨パッドの表面を除去するドレス処理が施され、
前記ドレス処理では、前記研磨パッドに供給する前記クーラントの単位時間当たりの供給量を前記ドレス処理の開始時点よりも終了時点の方が大きくなるようにする、ことを特徴とする磁気ディスク用基板の製造方法。
【請求項4】
前記ドレス処理では、前記研磨パッドから前記クーラントが奪う熱量を、前記ドレス処理の経過時間とともに徐々に、あるいは段階的に大きくする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気ディスク用基板の製造方法。
【請求項5】
前記研磨パッドの研磨面は、円環形状であり、
前記研磨パッドの研磨面の内周領域、外周領域、及び前記内周領域と前記外周領域の間の中間領域の3つの領域における前記ドレス処理後の開口の平均開口径のうち、平均最大径と平均最小径の差分は、3μm以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気ディスク用基板の製造方法。
【請求項6】
前記ドレス処理は、前記研磨パッドの表面を5μm以下除去する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の磁気ディスク用基板の製造方法。
【請求項7】
前記研磨処理では、複数の基板を板状のキャリアの複数の基板用保持穴のそれぞれに保持して、前記定盤を回転させることにより、前記キャリアを前記定盤の回転中心の周りに公転させながら自転させて、前記研磨パッドに前記基板を摺動させ、
前記基板用保持穴は、前記キャリアの自転中心位置から距離の異なる複数の位置に設けられている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁気ディスク用基板の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の磁気ディスク用基板の製造方法によって製造された磁気ディスク用基板の主表面に少なくとも磁性層を形成することを特徴とする、磁気ディスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク用基板の製造方法及び磁気ディスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報記録媒体の1つとして用いられる磁気ディスクには、従来より、ガラス基板が好適に用いられている。今日、ハードディスクドライブ装置における記憶容量の増大の要請を受けて、磁気記録の高密度化が図られている。これに伴って、磁気ヘッドの磁気記録面からの浮上距離を極めて短くして磁気記録情報エリアを微細化することが行われている。このような磁気ディスク用ガラス基板においては、基板の表面凹凸、特に微小うねりに対する低減要求は、高記録密度ハードディスクドライブ装置に必須の磁気ヘッド低浮上量化を達成するために、ますます強まっている。
【0003】
これに対して、平行度に優れる磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法が知られている(特許文献1)。
当該製造方法に用いるガラス基板の両面研磨装置の上定盤及び下定盤は、内周端と外周端のある円盤形状を有するものであり、上定盤と下定盤のガラス基板と対向する面には研磨パッドが装着されており、研磨パッドは上定盤の研磨面と下定盤の研磨面をそれぞれ所定の形状とするため、ドレス治具を用いてドレス処理が施される。このとき、上記ガラス基板の製造方法では、ガラス基板を研磨するときの研磨液の温度Tsから、ドレス処理に用いるドレス水の温度Tdを引いたΔTsd(=Ts−Td)を−5℃〜+7℃とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5056961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近、磁気ヘッドの小型化、低浮上量化、磁気ディスクの高速回転化などに伴い、磁気ディスク用ガラス基板において低減すべき微小うねりの波長帯域が小さくなってきた。特に、ガラス基板の波長50〜200μmの微小うねりを十分に低減することが求められている。このような背景において、上述の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法では、平行度に優れるガラス基板を作製することはできるが、上記微小うねりを低減することはできなかった。
ガラス基板の微小うねりを低下するためには、研磨パッドの表面の状態が重要な要素である。このため、研磨パッドの表面の状態をより精度良く管理することが求められる。磁気ディスク用ガラス基板の品質要求を満足する主表面の表面粗さを達成させるための最終研磨処理では、研磨パッドとして、空隙(ポア)を多数有する発泡ポリウレタン製の研磨パッドが用いられる。このような研磨パッドとして、スエードタイプの研磨パッドを用いることができる。この研磨パッドは、表面に所望の大きさの空隙の開口が露出するように予めドレス処理をする。具体的には、研磨未使用の新品の研磨パッドには、その表面に開口が空いていないので、一定の厚さで表面を削るドレス処理が施されてその表面に開口が設けられる。また、研磨パッドを繰り返して研磨処理に使用すると、研磨パッドの表面の開口には、研磨砥粒や研磨処理によって生じたガラススラッジ等が残留物として付着し、研磨レートやガラス基板の表面粗さを低下させる。このため、研磨処理に繰り返し使用した研磨パッドは、一定の厚さで表面を削るドレス処理が施されて研磨パッドの表面に新たな開口が設けられる。
しかし、このようなドレス処理後の研磨パッドを用いて同時に最終研磨処理を行った複数のガラス基板の間では、ガラス基板の主表面の微小うねりにばらつきが生じるといった問題が生じた。このようなガラス基板における問題は、アルミニウム合金製基板においても同様の問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、複数の基板を同時に同じ研磨装置で研磨処理したとき、波長50〜200μmの微小うねりの基板間のばらつきを抑制することができる磁気ディスク用基板の製造方法、および磁気ディスクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、上記問題を解決すべく、研磨パッドに施すドレス処理について詳細な検討を行った。
上記微小うねりの低下及び微小うねりのガラス基板間のばらつきの抑制のために、研磨パッドのドレス処理と研磨処理後のガラス基板の表面粗さを調べたところ、研磨処理に用いる研磨パッドの表面の開口の大きさが小さく、しかも開口の大きさのばらつきが小さいほど微小うねりの低下に有効であること、さらには、研磨処理に繰り返し使用した研磨パッドにドレス処理を施した後の研磨パッドの表面において、開口の大きさが場所によって大きくばらついていないことが、微小うねりのガラス基板間のばらつきを抑えるのに有効であることを知見した。
一般的に、研磨パッドには空隙(ポア)を多数有する発泡ポリウレタンが用いられる。発泡ポリウレタンにおける空隙は、表面から内部に向かうほど空隙の断面が大きくなる形状を成している。このため、微小うねりを低くするために、研磨パッドの表面の開口の大きさを小さくする場合、研磨処理に未使用の新品の研磨パッドの表面のドレス量(ドレス処理により表面を削り取る量)を小さくすることが好ましく、繰り返し研磨処理に使用した研磨パッドにおいてもドレス量を小さくすることが好ましい。しかも、微小うねりのガラス基板間のばらつきを抑えるために、研磨パッドの表面から削り取るドレス量は場所に拠らず一定であることが好ましい。しかし、研磨パッドのドレス量は、場所に拠って異なる場合が多く、研磨パッドの開口の大きさは場所によって異なりばらつき易かった。ここで言う場所とは、例えば研磨パッドの半径方向の位置が異なる場所のことである。特に、微小うねりの低下のために、ドレス量を従来よりも小さくして、研磨パッドの開口の大きさを小さくする場合、開口の大きさが場所によってばらつき易くなるので、複数のガラス基板を同時に研磨する研磨処理において、微小うねりを低減し、かつ、微小うねりのガラス基板間のばらつきを抑える上で解決しなければならない問題である。
本願発明者は、研磨パッドのドレス量が場所によって変化し、その結果開口の大きさが場所によってばらつく理由を鋭意検討した結果、ドレス処理時に生じる研磨パッドの摩擦熱によって、ドレス処理に用いる装置の上定盤と下定盤の間の平行度がドレス処理中に微妙に変化すること、及び、ドレス処理時の研磨パッドの摩擦面が有する熱量のばらつきに起因して研磨パッドのドレス量がばらつくことを想到し、本願発明者は、以下の発明をした。
【0008】
(形態1)
磁気ディスク用基板の製造方法であって、
一対の定盤に設けられた一対のスエードタイプの研磨パッドで基板を挟み、前記研磨パッドと前記基板の間に研磨砥粒を含むスラリーを供給して、前記研磨パッドと前記基板を相対的に摺動させることにより、前記基板の両主表面を研磨する研磨処理を含み、
前記基板の前記研磨処理前、前記研磨パッドは、前記定盤に設けられた前記研磨パッドの表面にクーラントを供給しながらドレッサと前記研磨パッドを相対的に摺動させることにより、前記研磨パッドの表面を除去するドレス処理が施され、
前記ドレス処理では、前記研磨パッドから前記クーラントが奪う熱量は、前記ドレス処理の開始時点よりも終了時点の方が大きくなるように前記クーラントの温度又は単位時間当たりの供給量を制御する、ことを特徴とする磁気ディスク用基板の製造方法。
【0009】
(形態2)
磁気ディスク用基板の製造方法であって、
一対の定盤に設けられた一対の研磨パッドで基板を挟み、前記研磨パッドと前記基板の間に研磨砥粒を含むスラリーを供給して、前記研磨パッドと前記基板を相対的に摺動させることにより、前記基板の両主表面を研磨する研磨処理を含み、
前記基板の前記研磨処理前、前記研磨パッドは、前記定盤に設けられた前記研磨パッドの表面にクーラントを供給しながらドレッサと前記研磨パッドを相対的に摺動させることにより、前記研磨パッドの表面を除去するドレス処理が施され、
前記ドレス処理では、前記研磨パッドに供給する前記クーラントの温度を前記ドレス処理の開始時点よりも終了時点の方が低くなるようにする、ことを特徴とする磁気ディスク用基板の製造方法。
【0010】
(形態3)
磁気ディスク用基板の製造方法であって、
一対の定盤に設けられた一対の研磨パッドで基板を挟み、前記研磨パッドと前記基板の間に研磨砥粒を含むスラリーを供給して、前記研磨パッドと前記基板を相対的に摺動させることにより、前記基板の両主表面を研磨する研磨処理を含み、
前記基板の前記研磨処理前、前記研磨パッドは、前記定盤に設けられた前記研磨パッドの表面にクーラントを供給しながらドレッサと前記研磨パッドを相対的に摺動させることにより、前記研磨パッドの表面を除去するドレス処理が施され、
前記ドレス処理では、前記研磨パッドに供給する前記クーラントの単位時間当たりの供給量を前記ドレス処理の開始時点よりも終了時点の方が大きくなるようにする、ことを特徴とする磁気ディスク用基板の製造方法。
【0011】
(形態4)
前記ドレス処理では、前記研磨パッドから前記クーラントが奪う熱量を、前記ドレス処理の経過時間とともに徐々に、あるいは段階的に大きくする、形態1〜3のいずれか1つに記載の磁気ディスク用基板の製造方法。
【0012】
(形態5)
前記研磨パッドの研磨面は、円環形状であり、
前記研磨パッドの研磨面の内周領域、外周領域、及び前記内周領域と前記外周領域の間の中間領域の3つの領域における前記ドレス処理後の開口の平均開口径のうち、平均最大径と平均最小径の差分は、3μm以下である、形態1〜4のいずれか1つに記載の磁気ディスク用基板の製造方法。
【0013】
(形態6)
前記ドレス処理は、前記研磨パッドの表面を5μm以下除去する、形態1〜5のいずれか1つに記載の磁気ディスク用基板の製造方法。
【0014】
(形態7)
前記研磨処理では、複数の基板を板状のキャリアの複数の基板用保持穴のそれぞれに保持して、前記定盤を回転させることにより、前記キャリアを前記定盤の回転中心の周りに公転させながら自転させて、前記研磨パッドに前記基板を摺動させ、
前記基板用保持穴は、前記キャリアの自転中心位置から距離の異なる複数の位置に設けられている、形態1〜6のいずれか1つに記載の磁気ディスク用基板の製造方法。
【0015】
(形態8)
形態1〜7のいずれか1項に記載の磁気ディスク用基板の製造方法によって製造された磁気ディスク用基板の主表面に少なくとも磁性層を形成することを特徴とする、磁気ディスクの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
上述の磁気ディスク用基板の製造方法及び磁気ディスクの製造方法では、複数の基板を同時に同じ研磨装置で研磨処理したとき、波長50〜200μmの微小うねりの基板間のばらつきを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(a)、(b)は、本実施形態における第2研磨に用いる研磨装置の概略構成図である。
図2図1(a),(b)に示す研磨装置の研磨を説明する図である。
図3】ドレス処理を説明する図である。
図4】ドレス処理後の問題となる研磨パッドの厚さを説明する図である。
図5】研磨パッドの構造を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の磁気ディスク用基板の製造方法及び磁気ディスク用基板について詳細に説明する。なお、本発明の磁気ディスク用基板は、ガラス基板の他にアルミニウム合金製基板にも適用できるが、以降の説明では磁気ディスク用ガラス基板を本実施形態として用いて説明する。
【0019】
本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法では、一対の定盤(上定盤及び下定盤)に設けられた一対のスエードタイプの研磨パッドで基板を挟み、研磨パッドとガラス基板の間に研磨砥粒を含むスラリーを供給して、研磨パッドとガラス基板を相対的に摺動させることにより、ガラス基板の両主表面を研磨する研磨処理を含む。ガラス基板の研磨処理前、研磨パッドは、定盤に設けられた研磨パッドの表面にクーラントを供給しながらドレッサと研磨パッドを相対的に摺動させることにより、研磨パッドの表面を除去するドレス処理が施される。このとき、ドレス処理では、研磨パッドからクーラントが奪う熱量を、ドレス処理の開始時点よりも終了時点の方が大きくなるようにクーラントの温度又は単位時間当たりの供給量を制御する。例えば、ドレス処理では、研磨パッドに供給するクーラントの温度をドレス処理の開始時点よりも終了時点の方が低くなるようにする。あるいは、ドレス処理では、研磨パッドに供給するクーラントの単位時間当たりの供給量をドレス処理の開始時点よりも終了時点の方が多くなるようにする。この場合、ドレス処理では、研磨パッドからクーラントが奪う熱量を、ドレス処理の経過時間とともに徐々に、あるいは段階的に大きくするとよい。上記クーラントが奪う熱量を上記経過時間とともに徐々に大きくするとは、時間が経過するにつれて連続的に上記熱量を大きくする(例えば、一定の速度で上記熱量を大きくする)ことをいう。上記クーラントが奪う熱量を段階的に大きくするとは、ある期間では上記奪う熱量を一定とし、別の期間では上記奪う熱量を大きくして一定に保つことをいう。例えば、経過時間に対して奪う熱量をプロットしたときに、階段状のプロファイルとすればよい。上記奪う熱量を増大させた後の期間は、少なくともドレス処理時間全体の20%以上が好ましく、50%以上であるとより好ましい。また、ドレス処理では、ドレス処理の経過時間とともに上記熱量を、徐々に大きくしつつ、かつ、ある時間において段階的に大きくしてもよい。
スエードタイプの研磨パッドは、ポリウレタン樹脂等を用いた発泡樹脂材であり、発泡樹脂材の内部から表面に向かって断面が小さくなる液滴形状の空隙(気泡)を形成しているパッドである。
【0020】
ドレス処理は、研磨処理に未使用の新品の研磨パッドの表面を削って、所定の範囲の空隙の開口をドレッサを用いて露出させるドレス処理の他に、複数回研磨処理に用いて開口にガラススラッジや研磨砥粒が付着した研磨パッドの表面をドレッサを用いて削って、所定の範囲の空隙の開口を新たに設けるドレス処理を含む。研磨処理は、後述するように最終研磨処理であることが好ましい。
このようなドレス処理を行うとき、上述したように、クーラントにより研磨パッドから奪う熱量をドレス処理の開始時点よりも終了時点の方が大きくなるようにするのは、ドレス処理時に発する研磨パッドの摩擦熱が定盤に伝わることによって定盤に温度分布が生じ、この温度分布に起因して生じる定盤の微小変形を抑制するためである。定盤の微小変形により、例えば、定盤の面とドレッサの面との間の正確な平行度が崩れて、定盤が傾く。定盤の面には、研磨パッドが設けられているので、定盤がドレッサを押し付けて研磨パッドのドレス処理を行うとき、ドレッサから研磨パッドが受ける圧力は一様でなくなる。定盤が上述したように微小変形により傾き、一方の場所で圧力が高くなるとき、研磨パッドのドレス量は上記一方で多くなり、他方では小さくなる。この結果、ドレス処理によって設けられる研磨パッドの開口は、一方では大きく、他方では小さい。
また、クーラントにより研磨パッドから奪う熱量をドレス処理の開始時点よりも終了時点の方が大きくなるようにするのは以下の理由による。すなわち、研磨パッドの、ドレッサとの摩擦面が有する熱量はドレス処理の開始時点よりも終了時点の方が大きいと推察され、その結果、ドレス処理時に発する研磨パッドの摩擦熱にばらつきが生じる。クーラントにより研磨パッドから奪う熱量をドレス処理の開始時点よりも終了時点の方が大きくなるようにすることで、この摩擦熱のばらつきに起因したドレス量のばらつきを抑制できると推察される。また、研磨パッドの摩擦面が有する熱量の上昇を抑制することにより、摩擦熱のばらつきを抑制することができ、ドレス量のばらつきを抑制することができると推察される。研磨パッドのドレス量のばらつきが抑制されない場合、例えば、半径方向の一方の側でドレス量は多くなり、他方の側では小さくなる。この場合、ドレス処理によって設けられる研磨パッドの開口径は、半径方向の一方の側では大きく、他方の側では小さい。なお、ドレッサと接する研磨パッドの摩擦面が有する熱量は、研磨パッドの計測可能な温度として現われ難く、計測が困難な量である。また、ドレス処理中の研磨パッド表面の温度を直接測定することはできない。
ここで、摩擦熱のばらつきや、ドレス量のばらつきとは、それぞれにおける経時的又は場所的な変動のことである。
一方、ドレス処理された研磨パッドを用いた研磨処理では、後述するように、キャリア上の複数の半径方向の位置に複数のガラス基板を保持させて同時に研磨するので、ガラス基板が接触する研磨パッドの場所はそれぞれ異なり易い。このため、研磨パッドの場所に拠って開口の大きさが異なる研磨パッドを用いてガラス基板が研磨処理されると、研磨処理されたガラス基板の微小うねりも、キャリアに保持されるガラス基板の半径方向の位置によって異なり易い。このようなガラス基板間の微小うねりのばらつきを抑制するために、すなわち、ドレス処理時のドレス量のばらつきを抑制するために、ドレス処理を行うときクーラントが研磨パッドから奪う熱量をドレス処理の開始時点よりも終了時点の方が大きくなるようにする。これにより、複数のガラス基板を同時に同じ研磨装置で研磨処理したとき、波長50〜200μmの微小うねりの基板間のばらつきを低下することができる。
【0021】
このようなドレス処理と研磨処理を有する本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法の一例を以下説明する。
先ず、一対の主表面を有する板状の磁気ディスク用ガラス基板の素材となるガラスブランクを成形する。次に、このガラスブランクを適宜加工して、中心部分に孔のあいた、エッジ部が面取り加工されたリング形状(円環状)のガラス基板を作製する。これにより、ガラス基板が生成される。この後、主表面について研磨処理を行うことによって、波長50μm〜200μmの微小うねりを低減することができる。研磨処理は、必要に応じて、複数の処理に分けて行ってもよい。また、必要に応じて、主表面の研削や、端面(面取り部含む)の研磨や、化学強化を行ってもよい。このとき各処理の順序は適宜決定してよい。
以下、各処理について、説明する。
【0022】
(a)ガラスブランク成形処理
ガラスブランクの成形では、例えばフロート法が用いられる。ガラスブランクの成形処理では先ず、錫などの溶融金属の満たされた浴槽内に、溶融ガラスを連続的に流し入れることで板状ガラスを得る。溶融ガラスは厳密な温度操作が施された浴槽内で進行方向に沿って流れ、最終的に所望の厚さ、幅に調整された板状ガラスが形成される。この板状ガラスから、磁気ディスク用ガラス基板の元となる所定形状(例えば平面視四角形状)の板状のガラスブランクが切り出される。
また、板状のガラスブランクの成形は、フロート法の他に、例えばプレス成形法を用いることもできる。さらに、ダウンドロー法、リドロー法、フュージョン法などの公知の製造方法を用いて板状のガラスブランクを成形することができる。これらの公知の製造方法で作られた板状のガラスブランクに対し、適宜形状加工を行うことによって磁気ディスク用ガラス基板の元となる円板状のガラスブランクが切り出される。
【0023】
(b)形状加工処理
次に、形状加工処理では、ガラスブランク成形処理後、公知の加工方法を用いて円孔を形成することにより円形状の貫通孔があいたディスク状のガラス基板を作る。その後、さらに面取りを実施してもよい。また、板厚調整や平坦度低減などの目的で、主表面の研削を実施してもよい。
【0024】
(c)第1研磨処理
次に、ガラス基板の主表面に第1研磨処理が施される。第1研磨処理は、主表面の鏡面研磨を目的とする。具体的には、ガラス基板を、両面研磨装置に装着される保持部材(キャリア)に設けられた保持孔内に保持しながらガラス基板の両側の主表面の研磨が行われる。第1研磨による取り代は、例えば数μm〜100μm程度である。第1研磨処理は、例えば主表面に残留したキズや歪みの除去、あるいは微小な表面凹凸の調整を目的とする。なお、表面凹凸をさらに低減したり、より精密な調整を行うために、第1研磨処理を複数の研磨処理に分けて実施してもよい。
【0025】
第1研磨処理では、上定盤、下定盤、インターナルギヤ、キャリア、太陽ギヤを備え、遊星歯車機構を有する公知の両面研磨装置を用いて、研磨スラリーを与えながらガラス基板が研磨される。第1研磨処理では、研磨砥粒(遊離砥粒)を含んだ研磨スラリーが用いられる。第1研磨に用いる遊離砥粒として、例えば、酸化セリウムやジルコニア、コロイダルシリカの砥粒等(粒子サイズ:直径0.3〜3μm程度)が用いられる。両面研磨装置では、上下一対の定盤の間にガラス基板が狭持される。下定盤の上面及び上定盤の底面には、全体として円環形状の平板の研磨パッドが取り付けられている。そして、上定盤または下定盤のいずれか一方、または、双方を移動操作させることで、ガラス基板と各定盤とを相対的に移動させることができる。これにより、ガラス基板の両主表面を研磨する。
【0026】
(d)化学強化処理
ガラス基板は適宜化学強化することができる。化学強化液として、例えば硝酸カリウムや硝酸ナトリウム、またはそれらの混合物を300℃〜500℃に加熱して得られる溶融液を用いることができる。そして、ガラス基板を化学強化液中に例えば1時間〜10時間浸漬する。
化学強化処理を行うタイミングは、適宜決定することができるが、化学強化処理の後に研磨処理を行うようにすると、表面の平滑化とともに化学強化処理によってガラス基板の表面に固着した異物を取り除くことができるので特に好ましい。化学強化処理は、必ずしも行う必要はない。
【0027】
(e)第2研磨(最終研磨)処理
次に、化学強化処理後のガラス基板に第2研磨処理が施される。第2研磨処理は、主表面の鏡面研磨を目的とする。第2研磨においても、第1研磨に用いる両面研磨装置と同様の構成を有する両面研磨装置が用いられる。第2研磨による取り代は、例えば0.5μmから10μm程度である。
第2研磨処理では、遊離砥粒を含むスラリーを用いて研磨が行われる。遊離砥粒としてコロイダルシリカが好適に用いられる。コロイダルシリカの平均粒径は、5nm以上50nm以下であることが、ガラス基板Gの主表面における波長50〜200μmの微小うねりを低減する点で、好ましい。平均粒径が50nmより大きいと、波長50〜200μmの微小うねりを十分に低減できない虞がある。また、表面粗さを十分に低減できない虞がある。一方、平均粒径が5nm未満だと、研磨レートが極端に下がり生産性が低下する虞がある。波長50〜200μmの微小うねりの値は、磁気ヘッドの浮上安定性の観点から、0.8nm以下が好ましく、より好ましくは0.6nm以下である。
なお、本実施形態において、上記平均粒径とは、光散乱法により測定された粒度分布における粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが50%となる点の粒径(累積平均粒子径(50%径)や、D50とも呼ぶ)を言う。
図1(a)、(b)は、第2研磨に用いる研磨装置10の概略構成図である。第1研磨処理にも同様の装置を用いることができる。
【0028】
研磨装置10は、図1(a)、(b)に示すように、下定盤12と、上定盤14と、インターナルギヤ16と、キャリア18と、研磨パッド20と、太陽ギヤ22と、温度調整ユニット30と、を備える。
研磨装置10は、上下方向から、下定盤12と上定盤14との間にインターナルギヤ16を挟む。インターナルギヤ16内には、研磨時に複数のキャリア18が保持される。図1(b)には、5つのキャリア18が示されている。下定盤12及び上定盤14には、研磨パッド20が平面的に接着されている。下定盤12及び上定盤14は、下定盤12及び上定盤14の備える回転軸中心の周りに回転(自転)するように構成されている。
研磨装置10は、研磨処理に用いるとともに、後述する研磨パッド20のドレス処理をするためのドレス処理装置としても用いられる。ドレス処理として用いる場合、研磨砥粒を含んだスラリーに代えて、クーラントが用いられる。スラリーやクーラントは、研磨処理やドレス処理において循環しながら繰り返し用いられてもよい。
温度調整ユニット30は、スラリーやクーラントの温度を調整する。スラリーやクーラントの温度調整は、熱交換器、ペルチェ素子等の冷却手段やヒータ等の加熱手段を含む。温度調整ユニット30は、オペレータの指示により、温度を調整してもよいが、スラリーやクーラントの温度が設定目標温度になるように現在の温度を計測して温度をフィードバック制御することが好ましい。
【0029】
図2に示されるように、下定盤12上の研磨パッド20にガラス基板Gの下側の主表面が当接し、上定盤14上の研磨パッド20にガラス基板Gの上側の主表面が当接するように、円板状のキャリア18が配置される。このような状態で研磨を行うことにより、円環状に加工されたガラス基板Gの両側の主表面を研磨することができる。
【0030】
図1(b)に示されるように、各キャリア18に設けられた円形状の孔(ガラス基板用保持穴)に、円環状のガラス基板Gが保持される。すなわち、ガラス基板Gは、下定盤12の上で、外周にギヤ19を有するキャリア18に保持される。
キャリア18には、キャリア18の円板中心位置を中心とする、半径が異なる2つの同心円上の複数の位置に、ガラス基板用保持穴が設けられている。すなわち、ガラス基板用保持穴は、キャリア18の自転中心位置(円板中心位置)から距離の異なる複数の位置に設けられている。図1(b)に示すキャリア18では、外側のガラス基板用保持穴群と、内側のガラス基板用保持穴群が設けられている。キャリア18は、下定盤12に設けられた太陽ギヤ22及びインターナルギヤ16と噛合する。太陽ギヤ22を図1(b)に示される矢印方向に回転することにより、各キャリア18はそれぞれの矢印方向に遊星歯車として自転しながら公転する。これにより、ガラス基板Gは、研磨パッド20を用いて研磨される。研磨時、ガラス基板Gは、例えば0.002〜0.02MPaで押圧されて研磨される。研磨に用いるスラリーは、図1(a)に示すように上定盤14に供給され、下定盤12に流れて外部容器に回収される。
【0031】
なお、第2研磨で用いる遊離砥粒の種類、粒径、粒径のばらつきや、研磨パッド20に用いる樹脂の硬度、後述するような研磨パッド20の表面の開口の大きさなどは、第1研磨から適宜変更される。本実施形態では、少なくとも最終の研磨処理において、研磨後のガラス基板の波長50〜200μmの微小うねりを低減するために、研磨パッド20の表面は、後述するドレス処理により管理される。
第2研磨の後、ガラス基板Gは洗浄され、磁気ディスク用ガラス基板が得られる。
この後、磁気ディスク用ガラス基板の主表面に、磁性層が設けられ磁気ディスクが作製される。磁気ディスクの表面には、例えば、付着層、軟磁性層、非磁性下地層、垂直磁気記録層、保護層および潤滑層等の各層が設けられる。
【0032】
(ドレス処理)
ドレス処理は、図1(a),(b)及び図2に示す研磨装置10において、研磨パッド20を下定盤12及び上定盤14に貼り付けた状態で、図3に示すように、キャリア18の代わりに、ダイヤモンド砥粒等を表面に分散させ固定した、キャリア18と同じサイズの円板状のドレッサ32を用いて行なわれる。ドレッサとしては、例えば、ダイヤモンド砥粒を含有するペレットをステンレス等の基材の表面の一部に貼り付けたものを用いることができる。図3は、ドレス処理を説明する図である。すなわち、ドレス処理は、ドレッサを下定盤12と上定盤14の間に挟んで所定の圧力をかけてドレッサと研磨パッド20を相対的に摺動させることにより、研磨パッドの表面を削る処理である。
【0033】
しかし、このようなドレス処理では、研磨パッド20とドレッサ32が摺動するため、クーラントを供給しても研磨パッド20に生じる摩擦熱により研磨パッド20が高温になり易い。研磨パッド20の熱は、下定盤12及び上定盤14に伝わり、下定盤12及び上定盤14に温度分布をつくる。この温度分布による熱膨張の差によって下定盤12及び上定盤14が微小に変形し、下定盤12、上定盤14、及びドレッサ32の平行度が崩れる。図3に示す例では、上定盤14の面が下定盤12の面及びドレッサ32の面に対して傾斜している状態を示している(図3の紙面で、上定盤14は右下に傾いている)。例えば、上定盤14において、1m当たり数10μm程度の勾配で傾斜する。このように傾斜した定盤でドレス処理をすると、この傾斜によって研磨パッド20のドレス量は場所に拠って異なり、研磨パッド20の厚さも図4に示すように場所によって異なる。図4は、ドレス処理後の問題となる研磨パッドの厚さを説明する図である。このドレス処理のドレス量が場所によって異なることにより、ドレス処理された研磨パッド20の開口の大きさも場所によって異なる。
また、研磨パッド20とドレッサ32が摺動するため、研磨パッド20に生じる摩擦熱により研磨パッド20の摩擦面の温度は高くなり易い。この結果、摩擦面が有する熱量が場所によってばらつき易くなる。この摩擦面における経時的又は場所的な熱量のばらつきによって研磨パッド20を削るドレス量もばらつき易くなる。例えば、研磨パッド20の厚さは図4に示すように場所によって異なる。このドレス処理のドレス量が場所によって異なることにより、ドレス処理された研磨パッド20の開口の大きさも場所によって異なる。
【0034】
図5は、研磨パッドの構造を説明する図である。研磨パッド20は、スエードタイプであり、発泡ポリウレタンが用いられる。研磨処理に未使用の新品の研磨パッド20は、図5に示すように、表面には開口が空いておらず、内部に空隙を含んでいる。空隙はいずれも、液滴形状を成し、研磨パッド20の表面に向かって先細り形状を成している。このため、新品の研磨パッド20の表面を除去して、空隙の先端部分が開口となるようにドレス処理が行われる。しかし、ドレス量が場所によって異なると、例えば傾斜した線Xに沿うようにドレス処理されると、開口の大きさは、場所によって大きく異なる。また、ガラス基板の微小うねりを小さくするために、ドレス量は従来のドレス量(図5中の線Yに沿ったドレス量)よりも小さく設定される。このため、わずかなドレス量の場所に拠る変化によって、小さな開口径の場所に拠るばらつきも大きくなる。このため、ガラス基板の微小うねりを低減するためにドレス量を小さくする場合、ドレス量の場所に拠るばらつきは、小さな開口径の場所に拠るばらつきに影響を与えるため、いっそう大きな問題となる。このため、本実施形態では、ドレス量の場所に拠るばらつきを小さくし、これにより、開口径(開口の大きさ)が場所によってばらつかないように、ドレス処理では、クーラントが研磨パッド20から奪う熱量をドレス処理の開始時点よりも終了時点を大きくする。本実施形態のドレス処理では、具体的には、ドレス処理時間の経過とともに、徐々にあるいは段階的に、研磨パッド20の摩擦面が有する熱量は大きくなる。このため、研磨パッド20の摩擦面が有する上記熱量を多く奪うように、上述した温度調整ユニット30が、クーラントの温度を調整する。
【0035】
このようなドレス処理中、クーラントの温度差は、ドレス処理開始時点とドレス処理終了時点の間で、0.5〜10℃であることが好ましく、より好ましくは、1〜5℃、さらに好ましくは2〜4℃である。この範囲内とすることで、ドレス量を場所に拠らず一定にすることができる。上記クーラントの温度差が0.5℃未満の場合は温度制御にコストがかかる場合があり、10℃より大きい場合は研磨装置に結露が生じて不具合が生じる可能性がある。
また、クーラントのドレス処理開始時点における温度は15〜25℃であることが好ましく、より好ましくは18〜24℃である。また、クーラントの研磨パッド20への供給量は、研磨パッド20の研磨面1m当たり3〜30リットル/分であることが好ましく、より好ましくは、5〜15リットル/分である。
また、クーラントの温度を一定にして、クーラントの研磨パッド20への供給量を大きくする場合、ドレス処理開始時の供給量に対する終了時の供給量の比は、1.1〜5.0倍であることが好ましく、より好ましくは1.2〜4.0倍であり、さらに好ましくは1.5〜3.0倍であることが、ドレス量を場所に拠らず一定にする点から好ましい。上記供給量の比が1.1倍未満の場合はドレス量のばらつきを抑制できない場合があり、5倍より大きい場合はクーラントのコストがかかりすぎる場合がある。この場合、ドレス処理開始時におけるクーラントの研磨パッド20への供給量は、研磨パッド20の研磨面1m当たり3〜15リットル/分であることが好ましく、より好ましくは3〜10リットル/分である。また、クーラントの温度は上記と同じ範囲であることが好ましい。
また、本実施形態では、クーラントが研磨パッド20から奪う熱量をドレス処理の時間の経過とともに、徐々にあるいは段階的に上昇させるために、クーラントの温度を調整する手段を用いるが、この温度の調整の他に、研磨パッド20に供給するクーラントの供給量をドレス処理の時間の経過とともに、徐々にあるいは段階的に変化させることにより、クーラントが研磨パッド20から奪う熱量をドレス処理の時間の経過とともに、徐々にあるいは段階的に上昇させることもできる。
【0036】
また、研磨パッド20の研磨面は、円環形状であり、研磨パッド20の研磨面の内周領域、外周領域、及び内周領域と外周領域の間の中間領域の3つの領域におけるドレス処理後の開口の平均開口径のうち、平均最大径と平均最小径の差分は、3μm以下であることが、ガラス基板の微小うねり及び微小うねりのばらつきを抑制する点から好ましい。開口の平均開口径は、内周領域、外周領域、及び中間領域のそれぞれにおいて、顕微鏡を用いて研磨パッド20の表面を観察し、観察した20個以上の開口の開口径から求めた、各領域の平均開口径である。これら3つの平均開口径のうち、最大値を「平均最大径」、最小値を「平均最小径」と呼ぶ。これら3つの平均開口径のうち、最大と最小の差分を、上記平均最大径と平均最小径の差分とする。ここで、研磨パッド20の中心から半径方向に延びる直線を仮定し、この直線上の、研磨パッド20の内周側の端から外周側の端までの長さを100%としたとき、内周側の端から5〜15%の範囲の領域、45〜55%の範囲の領域、及び85〜95%の範囲の領域を、それぞれ内周領域、中間領域、及び外周領域という。
また、ドレス処理は、研磨パッドの表面を5μm以下除去することが、ガラス基板の微小うねりを小さくする点から好ましい。研磨パッド20の表面の除去量を3μm以下とするとより好ましく、2μm以下除去すると特に好ましい。こうして形成される研磨パッド20の開口の直径(開口径)の平均値は、3〜20μmであると好ましく、5〜15μmであるとより好ましい。
【0037】
また、ガラス基板の研磨処理では、図1(b)に示すように、複数のガラス基板を板状のキャリア18の複数のガラス基板用保持穴のそれぞれに保持して、下定盤12及び上定盤14を回転させることにより、キャリア18を下定盤12及び上定盤14の回転中心の周りに公転させながら自転させて、研磨パッド20にガラス基板を摺動させる。このとき、ガラス基板用保持穴は、キャリア18の自転中心位置(円板状のキャリア18の中心位置)から距離の異なる複数の位置に設けられている。このような場合、自転中心位置から遠いキャリア18の外側のガラス基板用保持穴に保持されるガラス基板と、自転中心位置に近いキャリア18の内側のガラス基板用保持穴に保持されるガラス基板との間では、研磨パッド20の接触する領域が異なる。このため、研磨パッド20の開口の大きさが場所によってばらついている場合、内側のガラス基板用保持穴に保持されるガラス基板と、外周側のガラス基板用保持穴に保持されるガラス基板との間で、微小うねりの差が大きくなり易い。しかし、本実施形態では、ドレス量のばらつきを抑制することにより、研磨パッド20の開口の大きさの場所によるばらつきを小さくすることができ、この結果、ガラス基板間の微小うねりのばらつきを抑えることができる。
【0038】
(実験例)
本実施形態の効果を確認するために、複数のガラス基板に、種々の条件でドレス処理をした研磨パッドを用いて上述の第2(最終)研磨処理を行うことにより、磁気ディスク用ガラス基板を作製した。第2研磨処理では、5つのキャリア18のそれぞれに10枚のガラスを、内周領域と外周領域に配置して、50枚のガラス基板を研磨装置10で同時に研磨した。実験に使用したガラス基板は、上述の実施形態に記した方法で第1研磨処理まで行った後、洗浄処理を施したものである。化学強化処理は行わなかった。ガラス基板の外径は、公称2.5インチサイズであり、板厚は約0.635mmである。第2研磨処理は、外周側の保持穴と、内周側の保持穴とがそれぞれ複数設けられているキャリアを使用して、1回の研磨処理で50枚のガラス基板を同時に処理した。
研磨パッド20は、発泡ポリウレタンを用い、研磨パッド20の研磨面の面積は1.0mとし、研磨パッド20のドレス処理の条件を種々変えた。ドレス処理は、ドレス処理時間10分とした。研磨パッド20の開口径の平均は3〜20μmである。
従来例1、2では、クーラントを研磨パッドに供給するときのクーラントの温度をドレス処理開始時からドレス処理終了時まで一定に保持したままドレス処理を行った(温度の低下調整無し)。従来例1、2では、クーラントの温度を異ならせることにより行った。ドレス処理前の上定盤14の温度とドレス処理直後の上定盤14の温度の差(上定盤14の温度の時間変化)を公知の方法により赤外線温度センサで計測した。ドレス処理前後の温度の計測は基本的に上下定盤が離間した状態で行うこととし、ドレス処理直後の計測は、上定盤14の回転を止めてドレッサから上定盤14を離間させてすぐに行った。
実施例1〜5では、クーラントの供給量を一定にして、ドレス処理の時間の経過とともに、クーラントの温度を徐々に下げた(温度の低下調整有り)。ドレス処理開始時のクーラントの温度は22℃とした。クーラントの供給量は、7リットル/分とした。実施例1〜6では、ドレス処理開始時とドレス処理終了時のクーラントの温度差を、表2に示す設定値になるように行なった。実施例1〜6では、クーラントの温度を一定速度で低下させた。
一方、実施例6〜9では、表3に示すように、クーラントの供給量を一定にして、クーラントの温度を等間隔に、2段階または3段階で段階的に変化させた。2段階、3段階の温度変化では、いずれも温度の維持時間を揃えた。すなわち、3段階では、温度が4種類あるので、10分のドレス時間を4等分した時間を、上記維持時間とした。
実施例10〜14では、クーラントの温度を20℃に固定し、ドレス処理の時間の経過とともに、クーラントの供給量を徐々に増やした(クーラントの供給量の増加調整有り)。実施例10〜14では、ドレス処理開始時のクーラントの供給量(5リットル/分)に対するドレス処理終了時のクーラントの供給量の比を、表4に示す設定値になるように行なった。
従来例1、2及び実施例1〜14における研磨パッド20の開口径のばらつきは、光学顕微鏡を用いて開口径を50個計測し、その最大径と最小径の差を求めた。開口径については、上述した内周領域、中間領域、及び外周領域のそれぞれにおいて、顕微鏡を用いて研磨パッド20の表面を観察することにより30個の開口径を求め平均開口径を求めた。この平均開口径から開口の最大径及び最小径を求めた。
【0039】
微小うねりのばらつきは、第2(最終)研磨処理において、図1(b)に示すキャリア18の内側ガラス基板用保持穴に配置したガラス基板と外側ガラス基板用保持穴に配置したガラス基板の微小うねりから求めた。微小うねりは、ガラス基板の主表面を光学式表面形状測定機を用いて測定し、50〜200μmの波長帯域のうねりの二乗平均平方根粗さRqとして算出した。このRqの算出は50枚のガラス基板の表裏それぞれにおいて行い、得られた100個のRqを用いてRqの平均値を求めた。なお、Rqの値は、いずれの例でも0.8nm以下であった。
さらに、このRqの平均値は、内側ガラス基板用保持穴に配置したガラス基板と外側ガラス基板用保持穴に配置したガラス基板のそれぞれについても求めた。微小うねりのガラス基板間のばらつきは、内側ガラス基板用保持穴に配置したガラス基板と外側ガラス基板用保持穴に配置したガラス基板との間のRqの平均値の差分によって、A〜Dの4段階で評価をした。評価Aは微小うねりのばらつきが極めて小さいレベル(0.05nm未満)、評価Bは微小うねりのばらつきが小さいレベル(0.05nm以上0.10nm未満)、評価Cは微小うねりのばらつきが許容ぎりぎりのレベル(0.10nm以上0.15nm未満)、評価Dは微小うねりのばらつきが許容できない程度に大きいレベル(0.15nm以上)、を意味する。
【0040】
下記表1〜4には、各研磨パッドのドレス処理の条件とその評価結果を示している。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
【表3】
【0044】
【表4】
【0045】
上記表1によると、上定盤14の温度の時間変化(℃)の調整をしても、クーラントの温度低下の調整をせず、クーラントの供給量の増加調整をしない場合、微小うねりのばらつきの改善がみられない。一方、上記表2〜4から、クーラントの温度低下の調整をすることにより、また、クーラントの供給量の増加調整をすることにより、微小うねりのばらつきが少なくとも許容レベルになることがわかった。また、ドレス処理時の、クーラントの温度低下は、2〜4℃であることが好ましいことがわかった。ドレス処理時の、クーラントの供給量の比は、1.5〜3.0倍であることが好ましいことがわかった。
また、開口径のばらつき(開口径の平均最大径と平均最小径の差分)は、微小うねりのばらつきを抑える点で3μm以下とすることが好ましく、2μm以下とするとより好ましく、1.5μm以下とするとさらに好ましいことがわかった。
これより、本実施形態の効果は明らかである。
【0046】
以上、本発明の磁気ディスク用基板の製造方法及び磁気ディスクの製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0047】
10 研磨装置
12 下定盤
14 上定盤
16 インターナルギヤ
18 キャリア
19 ギヤ
20 研磨パッド
22 太陽ギヤ
図1
図2
図3
図4
図5